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特許7487417到達時間ベースの測距のハイブリッド方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】到達時間ベースの測距のハイブリッド方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 11/02 20100101AFI20240513BHJP
   G01S 5/14 20060101ALI20240513BHJP
   H04W 64/00 20090101ALI20240513BHJP
   H04W 72/0446 20230101ALI20240513BHJP
   H04W 72/0453 20230101ALI20240513BHJP
   H04L 27/26 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
G01S11/02
G01S5/14
H04W64/00 140
H04W72/0446
H04W72/0453
H04L27/26 114
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2023524880
(86)(22)【出願日】2021-10-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-22
(86)【国際出願番号】 US2021056704
(87)【国際公開番号】W WO2022093858
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-06-19
(31)【優先権主張番号】63/105,822
(32)【優先日】2020-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518200503
【氏名又は名称】ザイナー, インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Zainar, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】チョードリー,マイナク
(72)【発明者】
【氏名】クラッツ,フィリップ,アダム
(72)【発明者】
【氏名】ル,ジョナサン,シャオ-エン
(72)【発明者】
【氏名】ミオシノビッチ,スルジャン
(72)【発明者】
【氏名】ユーセフィ,シアマック
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-536340(JP,A)
【文献】特表2016-503492(JP,A)
【文献】特開2015-057601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00- 5/14
G01S 11/02-11/10
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
H04L 27/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
・送信機から送信されて受信機により受信された測距信号にアクセスするステップであって、前記測距信号が、多重化サブ信号のセットを含み、各多重化サブ信号が、周波数のセット内の周波数によって特徴付けられる、ステップと、
・前記測距信号を示す一連の時間領域サンプルをキャプチャするステップと、
・前記一連の時間領域サンプルに基づいて、時間ベースの到達時間推定値を算出するステップと、
・前記受信機のサンプリング周波数に基づいて、前記時間ベースの到達時間推定値の時間ベースの不確実性を算出するステップと、
・前記多重化サブ信号のセットの多重化サブ信号のサブセット内の各サブ信号ペアについて、サブ信号ペアの位相差を抽出するステップと、
・前記多重化サブ信号のサブセット内の各サブ信号ペアの位相差に基づいて、位相ベースの到達時間推定値を算出するステップと、
・前記多重化サブ信号のサブセット内の各サブ信号ペアの位相差に基づくばらつき度合いに基づいて、前記位相ベースの到達時間推定値の位相ベースの不確実性を算出するステップと、
・前記時間ベースの不確実性および前記位相ベースの不確実性に基づいて、前記時間ベースの到達時間推定値と前記位相ベースの到達時間推定値の重み付けされた組合せとして、ハイブリッド到達時間推定値を算出するステップとを備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記送信機から測距信号を受信することが、前記多重化サブ信号のセットを含む周波数ホッピングスペクトラム拡散信号を受信することを含み、各多重化サブ信号が、前記周波数のセット内の周波数によって特徴付けられることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、
前記送信機から測距信号を受信することが、前記多重化サブ信号のセットを含む直交周波数分割多重化信号を受信することを含み、各多重化サブ信号が、前記周波数のセット内の周波数によって特徴付けられることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、
前記一連の時間領域サンプルに基づいて時間ベースの到着時間推定値を算出することが、
・前記測距信号に対応するテンプレート信号にアクセスするステップと、
・前記テンプレート信号を前記一連の時間領域サンプルと相関させ、相関ピークを特定するステップと、
・前記相関ピークに基づいて、前記時間ベースの到達時間推定値を算出するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、
前記位相ベースの到着時間推定値を算出することが、
・前記多重化サブ信号のサブセット内の各サブ信号ペアについて、前記サブ信号ペアの位相差に基づいてサブ信号ペア到着時間推定値を算出するステップと、
・前記多重化信号のサブセット内の各サブ信号ペアについて、前記サブ信号ペア到着時間推定値の代表値に基づいて、位相ベースの到着時間推定値を算出するステップと、
・前記位相ベースの不確実性を算出することが、前記多重化サブ信号のサブセット内の各サブ信号ペアについて、前記サブ信号ペア到着時間推定値のばらつき度合いに基づいて前記位相ベースの不確実性を算出することを含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、
・前記時間ベースの到達時間推定値に基づいて、前記測距信号の時間ベースの飛行時間推定値を推定するステップと、
・前記多重化サブ信号のセットにおいて前記多重化サブ信号のサブセットを特定するステップであって、前記多重化サブ信号のサブセットが、前記周波数のセット内の周波数のサブセットによって特徴付けられ、前記周波数のサブセット内の各周波数が、前記時間ベースの飛行時間推定値の期間において2πラジアン未満の総位相累積を規定する、ステップとをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、
前記位相ベースの到着時間推定値を算出することが、
・前記周波数のサブセットと、前記多重化サブ信号のサブセット内の各サブ信号ペアの位相差とに基づいて、周波数対位相差プロットを生成するステップと、
・前記周波数対位相差プロットの線形回帰に基づいて、前記位相ベースの到着時間推定値を算出するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法において、
・さらに、
o多重信号分類アルゴリズムを実行して、前記測距信号のマルチパス成分のセットを検出するステップと、
o前記測距信号のマルチパス成分のセットに基づいて、位相振幅ベースの到着時間推定値を算出するステップと、
o前記マルチパス成分のセットにおける他のすべての成分に対する最も早い到着成分の電力比に基づいてKファクタを算出するステップとを含み、
・前記ハイブリッド到着時間推定値を算出することが、前記時間ベースの不確実性、前記位相ベースの不確実性および前記Kファクタに基づいて、前記時間ベースの到着時間推定値、前記位相ベースの到着時間推定値および前記位相振幅ベースの到着時間推定値の重み付けされた組合せとして、前記ハイブリッド到着時間推定値を算出することを含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法において、
・前記送信機からの前記測距信号の出発時刻にアクセスするステップと、
・前記送信機と前記受信機との間の相対時間バイアスにアクセスするステップと、
・前記ハイブリッド到達時間推定値、前記測距信号の出発時刻、および前記送信機と前記受信機との間の相対時間バイアスに基づいて、前記送信機と前記受信機との間の距離のハイブリッド測距推定値を算出するステップとをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
・送信機から送信されて受信機により受信された測距信号にアクセスするステップであって、前記測距信号が、多重化サブ信号のセットを含み、各多重化サブ信号が、周波数のセット内の周波数によって特徴付けられる、ステップと、
・前記測距信号を示す一連の時間領域サンプルをキャプチャするステップと、
・前記一連の時間領域サンプルに基づいて、時間ベースの到達時間推定値を算出するステップと、
・前記受信機のサンプリング周波数に基づいて、時間ベースの不確実性を算出するステップと、
・多重信号分類アルゴリズムを実行して前記測距信号のマルチパス成分のセットを検出するステップと、
・前記測距信号のマルチパス成分のセットに基づいて、位相振幅ベースの到達時間推定値を算出するステップと、
・前記マルチパス成分のセットにおける他のすべての成分に対する最も早い到着成分の電力比に基づいてKファクタを算出するステップと、
・前記時間ベースの不確実性および前記Kファクタに基づいて、前記時間ベースの到着時間推定値および前記位相振幅ベースの到着時間推定値の重み付けされた組合せとして、ハイブリッド到着時間推定値を算出するステップとを備えることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法において、
・さらに、
o前記多重化サブ信号のセットの多重化サブ信号のサブセット内の各サブ信号ペアについて、サブ信号ペアの位相差を抽出するステップと、
o前記多重化サブ信号のサブセット内の各サブ信号ペアの位相差に基づいて、位相ベースの到達時間推定値を算出するステップと、
o前記多重化サブ信号のサブセット内の各サブ信号ペアの位相差に基づくばらつき度合いに基づいて、前記位相ベースの到達時間推定値の位相ベースの不確実性を算出するステップと含み、
・前記ハイブリッド到着時間推定値を算出することが、前記時間ベースの不確実性、前記位相ベースの不確実性および前記Kファクタに基づいて、前記時間ベースの到着時間推定値、前記位相ベースの到着時間推定値および前記位相振幅ベースの到着時間推定値の重み付けされた組合せとして、前記ハイブリッド到着時間推定値を算出することを含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項10に記載の方法において、
前記多重信号分類アルゴリズムを実行して前記測距信号のマルチパス成分のセットを検出することが、
・前記サブ信号のセット内の各サブ信号を示す一連のデジタルサンプルに基づいて、受信測距信号ベクトルを生成するステップと、
・前記受信測距信号ベクトルの自己相関行列を算出するステップと、
・前記周波数のセット内の各周波数について、前記自己相関行列の固有ベクトルと、前記自己相関行列の対応する固有値とを算出するステップと、
・前記周波数のセット内の各周波数の対応する固有値に基づいて、前記周波数のセット内の各周波数の固有ベクトルをソートして、固有ベクトルのノイズ部分空間と固有ベクトルの信号部分空間を特定するステップと、
・前記固有ベクトルのノイズ部分空間およびステアリングベクトルに基づいて、可能性のある到達時間の範囲にわたって推定関数を評価するステップと、
・前記測距信号のマルチパス成分のセットとして前記推定関数のピークを特定するステップであって、前記マルチパス成分のセット内の各マルチパス成分がマルチパス到達時間に対応する、ステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、
前記測距信号のマルチパス成分のセットに基づいて位相振幅ベースの到着時間推定値を算出することが、各マルチパス成分のマルチパス到着時間に基づいて前記マルチパス成分のセット内の最も早いマルチパス成分を選択することを含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
・送信機から送信されて受信機により受信された測距信号にアクセスするステップであって、前記測距信号が、多重化サブ信号のセットを含み、各多重化サブ信号が、周波数のセット内の周波数によって特徴付けられる、ステップと、
・前記多重化サブ信号のセットの多重化サブ信号のサブセット内の各サブ信号ペアについて、サブ信号ペアの位相差を抽出するステップと、
・前記多重化サブ信号のサブセット内の各サブ信号ペアの位相差に基づいて、位相ベースの到達時間推定値を算出するステップと、
・前記多重化サブ信号のサブセット内の各サブ信号ペアの位相差に基づくばらつき度合いに基づいて、前記位相ベースの到達時間推定値の位相ベースの不確実性を算出するステップと、
・多重信号分類アルゴリズムを実行して、前記測距信号のマルチパス成分のセットを検出するステップと、
・前記測距信号のマルチパス成分のセットに基づいて、位相振幅ベースの到達時間推定値を算出するステップと、
・前記マルチパス成分のセットにおける他のすべての成分に対する最も早い到着成分の電力比に基づいてKファクタを算出するステップと、
・前記位相ベースの不確実性および前記Kファクタに基づいて、前記位相ベースの到達時間推定値および前記位相振幅ベースの到達時間推定値の重み付けされた組合せとして、ハイブリッド到着時間推定値を算出するステップとを備えることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法において、
・さらに、
o前記測距信号を示す一連の時間領域サンプルをキャプチャするステップと、
o前記一連の時間領域サンプルに基づいて、時間ベースの到達時間推定値を算出するステップと、
o前記受信機のサンプリング周波数に基づいて、時間ベースの不確実性を算出するステップとを含み、
・前記ハイブリッド到着時間推定値を算出することが、前記時間ベースの不確実性、前記位相ベースの不確実性および前記Kファクタに基づいて、前記時間ベースの到着時間推定値、前記位相ベースの到着時間推定値および前記位相振幅ベースの到着時間推定値の重み付けされた組合せとして、前記ハイブリッド到着時間推定値を算出することを含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項14に記載の方法において、
・前記測距信号の飛行時間推定値を推定するステップと、
・前記多重化サブ信号のセットにおいて前記多重化サブ信号のサブセットを特定するステップであって、前記多重化サブ信号のサブセットが、前記周波数のセット内の周波数のサブセットによって特徴付けられ、前記周波数のサブセット内の各周波数が、前記飛行時間推定値の期間において2πラジアン未満の総位相累積を規定する、ステップとをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法において、
前記位相ベースの到着時間推定値を算出することが、
・前記周波数のサブセットと、前記多重化サブ信号のサブセット内の各サブ信号ペアの位相差とに基づいて、周波数対位相差プロットを生成するステップと、
・前記周波数対位相差プロットの線形回帰に基づいて、前記位相ベースの到着時間推定値を算出するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項14に記載の方法において、
前記受信機と通信するリモート計算デバイスによって実行されることを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項14に記載の方法において、
前記受信機によって実行されることを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項14に記載の方法において、
・前記測距信号にアクセスすることが、前記受信機において、前記送信機により送信されて前記受信機により受信された測距信号を受信することを含み、
・前記多重化サブ信号のサブセット内の各サブ信号ペアの位相差を抽出することが、前記受信機において、前記多重化サブ信号のセットにおける前記多重化サブ信号のサブセット内の各サブ信号ペアについて、サブ信号ペアの位相差を抽出することを含み、
・前記位相ベースの到着時間推定値を算出することが、前記受信機において、前記多重化サブ信号のサブセット内の各サブ信号ペアの位相差に基づいて、前記位相ベースの到着時間推定値を算出することを含み、
・前記位相ベースの到達時間の位相ベースの不確実性を算出することが、前記受信機において、前記多重化サブ信号のサブセット内の各サブ信号ペアの位相差に基づくばらつき度合いに基づいて、前記位相ベースの到達時間推定値の位相ベースの不確実性を算出することを含み、
・前記多重信号分類アルゴリズムを実行することが、リモート計算デバイスにおいて、前記多重信号分類アルゴリズムを実行して、前記測距信号のマルチパス成分のセットを検出することを含み、
・前記位相振幅ベースの到着時間推定値を算出することが、前記リモート計算デバイスにおいて、前記測距信号のマルチパス成分のセットに基づいて前記位相振幅ベースの到着時間推定値を算出することを含み、
・前記Kファクタを算出することが、前記リモート計算デバイスにおいて、前記マルチパス成分のセット内の他のすべての成分に対する最も早い到着成分の電力比に基づいてKファクタを算出することを含み、
・前記ハイブリッド到着時間推定値を算出することが、前記リモート計算デバイスにおいて、前記位相ベースの不確実性および前記Kファクタに基づいて、前記位相ベースの到着時間推定値および前記位相振幅ベースの到着時間推定値の重み付けされた組合せとして前記ハイブリッド到着時間推定値を算出することを含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、到着時間ベースの測距の分野に関し、より具体的には、到着時間ベースの測距の分野におけるハイブリッド測距のための新規かつ有用な方法に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年10月26日に出願された米国仮出願第63/105,822号の利益を主張するものであり、当該出願はこの引用によりその全体が援用されるものとする。
【0003】
本出願は、2021年7月19日に出願された米国特許出願第17/379,885号、2021年7月19日に出願された米国特許出願第17/379,873号、2020年11月25日に出願された米国特許出願第17/105,458号および2020年4月10日に出願された米国特許出願第16/846,030号に関連するものであり、これら出願の各々はこの引用によりそれらの全体が援用されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1図1は、本方法のフローチャートである。
図2図2は、本方法の一態様のフローチャートである。
図3図3Aは、本方法の一態様のフローチャートである。図3Bは、本方法の一態様のフローチャートである。図3Cは、本方法の一態様のフローチャートである。
図4図4は、本方法の一態様のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0005】
以下の本発明の実施形態の説明は、本発明をそれらの実施形態に限定することを意図したものではなく、当業者が本発明を製造および使用できるようにすることを意図したものである。本明細書に記載の態様、構成、実施態様、実施形態および実施例は任意選択的なものであり、それらが説明する態様、構成、実施態様、実施形態および実施例のみに限定されるものではない。本明細書に記載の発明は、それらの態様、構成、実施態様、実施形態および実施例のうちの何れかおよびすべての置換を含むことができる。
【0006】
1.方法
図1に示すように、送信機から受信機に送信される測距信号の到着時間を推定するための方法は、ブロックS110において、多重化されたサブ信号(多重化サブ信号)のセットを含む測距信号にアクセスするステップであって、各多重化サブ信号が、周波数のセット内の周波数によって特徴付けられる、ステップと、ブロックS112において、測距信号を示す一連の時間領域サンプルをキャプチャするステップと、ブロックS120において、一連の時間領域サンプルに基づいて、時間ベースの到達時間推定値を算出するステップと、ブロックS122において、受信機のサンプリング周波数に基づいて、時間ベースの不確実性を算出するステップと、ブロックS130において、時間ベースの到着時間推定中に2πラジアン未満の総位相累積(total phase accumulation)によって特徴付けられる周波数のセットにおける最大周波数差を算出するステップとを含む。また、この方法は、ブロックS132において、最大周波数差よりも小さい周波数差によって特徴付けられるサブ信号ペアのセット内の各サブ信号ペアについて、サブ信号ペアの位相差を抽出するステップと、ブロックS134において、サブ信号ペアの位相差に基づいてサブ信号到着時間推定値のセット内のサブ信号ペア到着時間推定値を算出するステップも含む。さらに、本方法は、ブロックS136において、サブ信号ペア到着時間推定値のセットの代表値に基づいて位相ベースの到着時間推定値を算出するステップと、ブロックS138において、サブ信号ペア到着時間推定値のセットのばらつき度合い(variability measure)に基づいて位相ベースの不確実性を算出するステップと、ブロックS140において、多重信号分類アルゴリズムを実行して測距信号のマルチパス成分のセットを検出するステップと、ブロックS142において、測距信号のマルチパス成分のセットに基づいて位相振幅ベースの到着時間推定値を算出するステップと、ブロックS144において、マルチパス成分のセット内の他のすべての成分に対する最も早い到着成分の電力比に基づいてKファクタを算出するステップと、ブロックS150において、時間ベースの不確実性、位相ベースの不確実性およびKファクタに基づいて、時間ベースの到着時間推定値、位相ベースの到着時間推定値および位相振幅ベースの到着時間推定値の重み付けされた組合せとして、ハイブリッド到着時間推定値を算出するステップとを含む。
【0007】
方法S100の一態様は、ブロックS110において、受信機で、送信機から測距信号を受信するステップであって、測距信号が、多重化サブ信号のセットを含み、各多重化サブ信号が、周波数のセット内の周波数によって特徴付けられる、ステップと、ブロックS112において、測距信号を示す一連の時間領域サンプルをキャプチャするステップと、ブロックS120において、一連の時間領域サンプルに基づいて、時間ベースの到達時間推定値を算出するステップと、ブロックS122において、受信機のサンプリング周波数に基づいて、時間ベースの到達時間推定値の時間ベースの不確実性を算出するステップと、ブロックS132において、多重化サブ信号のセットの多重化サブ信号のサブセット内の各サブ信号ペアについて、サブ信号ペアの位相差を抽出するステップと、ブロックS136において、多重化サブ信号のサブセット内の各サブ信号ペアの位相差に基づいて、位相ベースの到達時間推定値を算出するステップと、ブロックS138において、多重化サブ信号のサブセット内の各サブ信号ペアの位相差に基づくばらつき度合いに基づいて、位相ベースの到達時間推定値の位相ベースの不確実性を算出するステップと、ブロックS150において、時間ベースの不確実性および位相ベースの不確実性に基づいて、時間ベースの到達時間推定値と位相ベースの到達時間推定値の重み付けされた組合せとして、ハイブリッド到達時間推定値を算出するステップとを含む。
【0008】
方法S100の別の態様は、ブロックS110において、受信機で、送信機から測距信号を受信するステップであって、測距信号が、多重化サブ信号のセットを含み、各多重化サブ信号が、周波数のセット内の周波数によって特徴付けられる、ステップと、ブロックS112において、測距信号を示す一連の時間領域サンプルをキャプチャするステップと、ブロックS120において、一連の時間領域サンプルに基づいて、時間ベースの到達時間推定値を算出するステップと、ブロックS122において、受信機のサンプリング周波数に基づいて、時間ベースの不確実性を算出するステップと、ブロックS140において、多重信号分類アルゴリズムを実行して、測距信号のマルチパス成分のセットを検出するステップと、ブロックS142において、測距信号のマルチパス成分のセットに基づいて、位相振幅ベースの到達時間推定値を算出するステップと、ブロックS144において、マルチパス成分のセット内の他のすべての成分に対する最も早い到着成分の電力比に基づいてKファクタを算出するステップと、ブロックS150において、時間ベースの不確実性とKファクタに基づいて、時間ベースの到着時間推定値と位相振幅ベースの到着時間推定値の重み付けされた組合せとして、ハイブリッド到着時間推定値を算出するステップとを含む。
【0009】
方法S100のさらに別の態様は、ブロックS110において、送信機から送信されて、受信機により受信される測距信号にアクセスするステップであって、測距信号が、多重化サブ信号のセットを含み、各多重化サブ信号が、周波数のセット内の周波数によって特徴付けられる、ステップと、ブロックS132において、多重化サブ信号のセットの多重化サブ信号のサブセット内の各サブ信号ペアについて、サブ信号ペアの位相差を抽出するステップと、ブロックS136において、多重化サブ信号のサブセット内の各サブ信号ペアの位相差に基づいて、位相ベースの到達時間推定値を算出するステップと、ブロックS138において、多重化サブ信号のサブセット内の各サブ信号ペアの位相差に基づくばらつき度合いに基づいて、位相ベースの到達時間推定値の位相ベースの不確実性を算出するステップと、ブロックS140において、多重信号分類アルゴリズムを実行して、測距信号のマルチパス成分のセットを検出するステップと、ブロックS142において、測距信号のマルチパス成分のセットに基づいて、位相振幅ベースの到達時間推定値を算出するステップと、ブロックS144において、マルチパス成分のセットにおける他のすべての成分に対する最も早い到着成分の電力比に基づいてKファクタを算出するステップと、ブロックS150において、位相ベースの不確実性およびKファクタに基づいて、位相ベースの到達時間推定値および位相振幅ベースの到達時間推定値の重み付けされた組合せとして、ハイブリッド到着時間推定値を算出するステップとを含む。
【0010】
2.用途
図1に示すように、方法S100は、正確な測距および位置特定を目的として、送信機(または送信デバイス)により送信される測距信号の到着時間(以下「TOA」)を推定するために、受信機(またはトランシーバ)および/またはリモートサーバを含むシステムによって実行される。より具体的には、本システムは、固有の周波数(例えば、サブキャリア周波数またはキャリア周波数)によってそれぞれ特徴付けられる多重化サブ信号のセットを含む測距信号を受信し、何れも測距信号に基づいて、時間ベースのTOA推定プロセス、位相ベースのTOA推定プロセスおよび位相振幅ベースのTOA推定プロセスを実行し、受信機と送信機との間の伝播チャネルを特徴付けるそれらプロセスから得られるパラメータに基づいてそれらプロセスの結果を組み合わせることができる。このため、本システムは、それらプロセスの何れか1つに固有の不正確さを軽減し、受信機または送信機におけるローカルマルチパスチャネル、ハードウェアの異常(例えば、周波数依存振幅)またはソフトウェアの異常とは無関係に、正確なTOA推定値を一貫して計算することができる。
【0011】
送信機から測距信号を受信すると、本システムは、測距信号を示す一連の時間領域サンプルをキャプチャ(すなわち、測定および/または記録)することができ、マッチドフィルタなどを介して、それらサンプルに基づいて測距信号の時間ベースのTOA推定値を算出することができる。しかしながら、時間ベースのTOA推定値は、システムのサンプリング周波数および測距信号に対するマルチパスフェージングの影響によって、精度が制限される。このため、本システムは、時間ベースの推定を改善し、より高い精度を有するハイブリッドTOA推定値に到達するために、測距信号の他の特性に基づく追加の推定値で時間ベースの推定値を補足することができる。
【0012】
測距信号を示す一連の時間領域サンプルのキャプチャに加えて、本システムは、測距信号を構成するサブ信号のセット内の各サブ信号の位相(例えば、受信機における到着位相)をさらに抽出することができる。その後、本システムは、測距信号の各サブ信号の抽出した位相に基づいて、位相ベースのTOA推定値を算出することができる。本システムは、ハードウェア依存の振幅変動に対してロバストな位相ベースのTOA推定値を算出することができるが、位相ベースのTOAは、依然として強いマルチパスの影響を受ける可能性があり、それが、サブ信号の位相のセットにおける予測できない周波数依存の位相遅延として現れる可能性がある。このため、本システムは、時間ベースのTOA推定値と位相ベースのTOA推定値との相互参照として第3のTOA推定値を使用することができる。
【0013】
各サブ信号の位相を抽出することに加えて、本システムは、位相振幅ベースのTOA推定値を計算するために、各サブ信号の位相と各サブ信号の振幅の両方を利用することができる。例えば、本システムは、多重信号分類アルゴリズム(以下、「MUSICアルゴリズム」)を実行することができ、それにより、本システムは、測距信号の自己相関行列の固有ベクトルを計算することによって、測距信号の各マルチパス成分に関連するTOAと、各マルチパス成分に関連する電力とを特定することができる。そして、本システムは、最も早く特定されたTOAを見通し(以下、「LOS」)TOAとして選択することにより、位相振幅TOAを算出することができる。本システムは、強力なマルチパス環境において正確さを維持し得る位相振幅TOA推定値を算出することができるが、位相振幅TOA推定値は、MUSICアルゴリズムの仮定に背く送受信チェーンにおける非線形性または未較正の非反復性、および/または測距信号の低ピーク対平均電力比を含む、ハードウェア不完全性に敏感である場合がある。しかしながら、測距信号のTOAに関する第3の推定値を抽出することに加えて、本システムは、MUSICアルゴリズムおよび/または他の位相振幅ベースのTOA推定法(例えば、通常のビーム形成アルゴリズム、Caponのビーム形成アルゴリズム、回転不変性技術またはESPRITによる信号パラメータの推定)を利用して、(例えば、測距信号の特定したマルチパス成分に基づいて測距信号のマルチパス指標を計算することによって)測距信号のマルチパス環境を特性評価することができる。
【0014】
次いで、システムは、マルチパス環境の特性評価、並びに、時間ベースのTOA推定値および位相ベースのTOA推定値それぞれの時間ベースの不確実性および位相ベースの不確実性に基づいて、時間ベースのTOA推定値、位相ベースのTOA推定値および位相振幅ベースのTOA推定値を組み合わせることができる。このため、本システムは、受信機のサンプリングレートや測距信号の帯域幅を増加させる必要なく、マルチパスやハードウェアの非線形性に直面しても精度を向上させるハイブリッドTOA推定値を算出することができる。
【0015】
3.ネットワーク
概して、方法S100は、有線または無線通信ネットワーク(例えば、米国特許出願第17/105,458号に記載のメッシュネットワークなど)のコンテキストで実行される。メッシュネットワークは、メッシュネットワークに参加する他のトランシーバまたは送信機(例えば、パッシブまたはアクティブタグ、5Gまたは4G-LTEユーザ機器)から測距信号を受信し、かつ/または方法S100のブロックを実行するように構成されたトランシーバのセット(例えば、カスタム無線タグリーダ、5GのgNodeB、4G-LTEのeNodeB)を含むことができる。測距信号を受信すると、トランシーバは、図3Aに示すように、方法S100のブロックをローカルに実行することができ、または代わりに、図3Bに示すように、方法S100のブロックに従ってさらに処理するために、生波形データまたは方法S100の何らかの中間出力をリモートサーバまたは主要なトランシーバに送信することができる。このため、本システムは、メッシュネットワーク内のトランシーバにおいて、またはメッシュネットワークを特徴付ける他のパラメータ(例えば、メッシュネットワーク内の各トランシーバの相対位置および時間バイアス)を追跡することができる中央計算デバイス(すなわち、リモートサーバまたは主要なトランシーバ)において、方法S100のブロックを実行することができる。
【0016】
一態様では、メッシュネットワーク内のトランシーバが、メッシュネットワーク内のトランシーバからトランシーバに送信される測距信号に関して方法S100のブロックを実行することによって、自己の位置を特定する。より具体的には、方法S100を実行して、トランシーバ間の正確な飛行時間測定値をペアごとに取得することにより、本システムは、トランシーバペアのペアごとの測距のために距離を計算し、メッシュネットワーク内のトランシーバ間の十分な接続性を仮定して、メッシュネットワーク内の各トランシーバの相対位置を推定することができる。追加的または代替的には、本システムは、アップリンク位置特定プロトコルの一部として、送信機(例えば、パッシブまたはアクティブタグ、5Gまたは4G-LTE、ユーザ機器)からトランシーバに送信される測距信号に関して、方法S100のブロックを実行することができる。このため、送信機から送信されて複数のトランシーバにより受信される測距信号に対して、方法S100の複数のインスタンスを実行することにより、本システムは、メッシュネットワーク内の各トランシーバにおける測距信号の正確なTOFを算出することができ、送信機の位置を推定するためにTOAまたはTDOAマルチラテレーションを実行することができる。
【0017】
図3Cに示す別の態様では、方法S100のブロックが、ダウンリンク位置特定プロトコルで複数の測距信号の受信機によって実行される。この態様では、単一の受信機(例えば、5Gまたは4G-LTE)が、受信機により受信された各測距信号に対して、方法S100のインスタンスを実行する。その後、受信した各測距信号の送信機の位置が与えられると、受信機は、その位置を推定することができる。
【0018】
全体として、送信機により送信されてトランシーバにより受信される測距信号に関して、方法S100を以下に説明する。しかしながら、以下に述べる受信機および送信機は、上述したコンテキストの何れにおいても展開することができる。さらに、方法S100のブロックは、測距信号の受信機、リモート計算デバイス、またはそれら両方の組合せによって実行することができる。
【0019】
3.1 受信機
概して、本システムは、送信機から送信された測距信号を受信するように構成された受信機を含むことができる。より具体的には、受信機は、スーパーヘテロダイン、ヘテロダインまたはホモダインアーキテクチャで配置された、アンテナ、増幅器、ミキサ、フィルタ、アナログ/デジタル変換器(以下「ADC」)および/またはデジタル信号プロセッサ(以下「DSP」)などのRF受信コンポーネントを含むことができる。一態様では、本システムは、ネットワーク(例えば、4Gまたは5Gネットワーク)内の無線基地局または無線ノードなどの受信機を含むことができる。この態様では、システムは、複数の受信機の範囲内にある送信機の位置特定を改善するために、ネットワーク内の他の受信機と受信機を時間同期させることができる。
【0020】
ダウンリンク位置特定プロトコルのコンテキスト、またはペアワイズ位置特定プロトコルのコンテキストなどの一態様では、受信機が、方法S100のブロックを実行して、ハイブリッドTOA推定値をローカルに生成するように構成される。代替的には、受信機が、測距信号を受信して、測距信号を示す波形データを、方法S100を実行するリモート計算デバイスに送信するように構成される。
【0021】
3.2 送信機
概して、本システムは、測距信号の飛行時間(以下「TOF」)、ひいては送信機と受信機との間の距離を計算するために、送信機から受信機に送信される測距信号のTOAを推定することができる。より具体的には、トランシーバは、測距信号を送信することができる任意のデバイス(ネットワーク内の別の受信機を含む)であってもよい。一態様では、送信機が、スマートフォン、スマートウォッチ、タブレットコンピュータ、ラップトップコンピュータ、または任意の他のネットワーク対応コンピューティングデバイスなどのネットワーク内のユーザデバイスであってもよい。
【0022】
3.3 リモート計算デバイス
一態様では、受信機と通信するリモート計算デバイスが、方法S100のブロックを実行して、ハイブリッドTOA推定値を生成するように構成される。この態様では、リモート計算デバイスが、送信機から測距信号を受信するように構成された1または複数の受信機に接続されたクラウドサーバであってもよい。この態様では、リモート計算デバイスが、受信機により実行されない方法S100のブロックの任意のサブセットを実行することができる。
【0023】
4.測距信号
概して、本システムは、受信機による測距信号の受信時に、方法S100のブロックを実行して、測距信号のTOAを推定する。システムが測距信号のTOAを推定するために、本システムは、ブロックS110において、多重化サブ信号のセットを含む測距信号を受信することができ、各サブ信号が、キャリア周波数のセット内の固有のキャリア周波数によって特徴付けられる。このため、複数の周波数成分を有する多重化信号を受信することによって、本システムは、位相のみのプロセスおよび位相振幅プロセスを実行して、測距信号のTOAを推定することができる。
【0024】
さらに、時間ベースのTOA推定値を計算するために、本システムは、ブロックS112において、測距信号を示す一連の時間領域デジタルサンプルをキャプチャすることができる。測距信号を示す一連のサンプルをキャプチャすることによって、本システムは、信号の長さおよび複雑さが増すほど効果的なマッチドフィルタ技術または他の超分解能技術を実行することによって、より正確な時間ベースのTOA推定値を算出することができる。
【0025】
4.1 キャリア周波数ホッピング方式
一態様では、本システムが、固有のキャリア周波数によってそれぞれ特徴付けられる時分割多重化サブ信号のセットを含む測距信号を受信することができる(すなわち、キャリア周波数ホッピング方式)。より具体的には、この態様では、本システムが、多重化サブ信号のセットを含む周波数ホッピングスペクトラム拡散信号を受信することができ、各多重化サブ信号が、周波数のセット内の周波数によって特徴付けられる。
【0026】
この態様では、送信機は、複数の周波数にわたって位相情報を提供するために、時分割多重化サブ信号を時分割多重化方式の連続するスロットで送信することができる。本システムは、対応するスロット中に連続する各サブ信号を受信し、その信号からタイミングおよび位相情報を抽出することができる。送信機は、サブ信号のセットを特徴付ける周波数がチャネル内の利用可能な帯域幅に跨るように、連続する各サブ信号のキャリア周波数を変化させることができる。本システムは、各サブ信号のTOAおよび各サブ信号の位相を算出することができる。次いで、本システムは、それらTOAおよび測距信号から抽出されるそれら位相に基づいて、送信機と受信機との間の正確なTOFを計算することができる。
【0027】
本システムが時分割多重化信号から正確な位相およびTOAを抽出することができる方法は、米国特許出願第16/846,030号にさらに記載されている。
【0028】
4.2 サブキャリア信号方式
別の態様では、本システムは、周波数分割多重化(例えば、直交周波数分割多重化)されたサブ信号のセットを含む測距信号を受信することができ、各々が、固有のサブキャリア周波数によって特徴付けられる。より具体的には、本システムは、多重化サブ信号のセットを含む直交周波数分割多重化信号を受信することができ、各多重化サブ信号が、周波数のセット内の周波数によって特徴付けられる。
【0029】
この態様では、本システムは、複数のサブキャリア信号を含む単一の信号を受信し、サブキャリア信号の各サブキャリア周波数に対応する固有の位相を抽出することができる。次いで、本システムは、米国仮出願第63/053,509号に記載の方法に従って各サブキャリアから位相情報を抽出し、測距信号の単一の到達時間を計算することができる。
【0030】
5.時間ベースの到達時間推定
通常、送信機から測距信号を受信すると、本システムは、ブロックS120において、時間ベースのTOA推定値τ、ブロックS122において、受信機のサンプリング周波数に基づいて、時間ベースの不確実性δを算出することができる。より具体的には、本システムは、受信機でキャプチャされた時間領域サンプルに基づいて、TOA推定値を直接計算することができる。時間ベースのTOA推定値を算出したら、本システムは、測距信号のTOF、ひいては受信機と送信機との間の距離を推定するために、受信機と送信機との間の正確な時間同期(または時間バイアスの正確な特性評価)を活用することができる。
【0031】
本システムは、測距信号の到着時間(または時分割多重化信号の場合の到着時間)を検出するために、時間領域サンプリング、オーバーサンプリングおよび/またはマッチドフィルタ技術を利用することができる。
【0032】
一態様では、本システムが、マッチドフィルタを利用して、離散時間領域サンプルのセットに基づいてTOAを特定することができる。より具体的には、本システムは、測距信号に対応するテンプレート信号にアクセスし、テンプレート信号を一連の時間領域サンプルと相関させて相関ピークを識別し、相関ピークに基づいて時間ベースの到達時間推定値を計算することができる。
【0033】
代替的には、本システムは、米国特許出願第16/846,030号に記載されているような超分解能法を実行して、測距信号の算出されたTOAの精度および/または正確さを高めることができる。測距信号のTOAを算出すると、本システムは、(送信機と受信機との間の十分なクロック同期、例えば、ナノ秒レベルのクロック同期を仮定して)測距信号のTOFまたはTOFのセットを計算するために、測距信号(または測距信号の各時間分割サブ信号)の送信時間にアクセスすることができる。例えば、測距信号が周波数分割多重化信号であるアプリケーションでは、本システムは、測距信号の算出したTOAから測距信号の送信時間を減算して、測距信号のTOF推定値を算出することができる。代替的には、測距信号が時分割多重化信号であるアプリケーションでは、本システムが、対応する送信時間と測距信号を構成するサブ信号のセットのTOAとの間の差を平均することができる。
【0034】
5.1 不確実性の推定
時間ベースのTOA推定値を算出することに加えて、本システムは、TOA推定値の時間ベースの不確実性(または信頼区間)も算出することができる。より具体的には、本システムは、ブロックS122において、受信機のサンプリング周波数に基づいて時間ベースの不確実性を計算することができる。このため、時間ベースの不確実性を算出することによって、本システムは、時間ベースのTOA推定値を、位相ベースのTOA推定値および位相振幅ベースのTOA推定値に対して適切に重み付けすることができる。
【0035】
一態様では、本システムが、測距信号に対するマッチドフィルタ出力のピーク幅に基づいて、時間ベースの不確実性を算出することができる。より具体的には、本システムは、測距信号の時間領域サンプルのセットに対してマッチドフィルタを実行して、マッチドフィルタ出力を算出し、マッチドフィルタ出力のピーク幅を算出し、マッチドフィルタ出力のピーク幅に基づいて、時間ベースのTOA推定値の不確実性を算出することができる。
【0036】
別の態様において、システムが超分解能技術を実行しないアプリケーションでは、本システムが、時間ベースの不確実性を受信機のサンプリング周期と等しくなるように設定することができる。
【0037】
6.位相差の抽出
概して、本システムは、サブ信号のセット内の各サブ信号の位相差に基づいて、受信機における測距信号の位相ベースのTOA推定値を算出することができる。より具体的には、単一の位相測定を介して(例えば、方程式τφ=φ/2πfを介して)、受信デバイスmにおける受信マルチキャリアについて、TOA、τφを計算する代わりに、本システムは、サブ信号のセットNにおけるサブキャリア周波数に対応するサブ信号の任意のペアnおよびnからの任意の2つの位相差に基づいて、次のようにτφを算出することができる。
【0038】
このように、本システムは、測距信号に含まれるサブ信号のセット内のサブ信号の数に基づいて、τφの複数の推定値を算出することができ、それら推定値を、後述するように、単一の位相ベースのTOA推定値に集約することができる。
【0039】
7.ペア勾配到達時間推定値
概して本システムは、測距信号のサブ信号ペアのセット内の各サブ信号ペアの位相差Δφおよび周波数差Δfを抽出すると、ブロックS130、S132、S134、S136において位相ベースのTOA推定値を算出することができる。より具体的には、本システムは、ブロックS130において、位相ベースのTOA推定値を算出するためのサブ信号ペアのサブセットを求めるために、最大周波数差Δfmaxを算出し、サブ信号ペアのこのサブセット内の各サブ信号ペアについて、ブロックS132において、各サブ信号ペアの位相差Δφを算出し、ブロックS134において、各サブ信号ペアに対応する位相差に基づいてサブ信号TOA推定値のセット内のサブ信号TOA推定値を算出し、ブロックS138において、サブ信号TOA推定値のセットの代表値に基づいて位相ベースのTOA推定値を算出することができる。本システムは、位相ベースのTOA推定値を特定するために、サブ信号周波数の対応するセットに対する各サブ信号の位相への線形フィットの勾配を計算する。本システムは、2πラジアンより大きい位相差の累積をもたらす周波数差によって特徴付けられるサブ信号のペアを考慮しないため、本システムは、TOA推定値の算出において位相差の使用を妨げる可能性がある2πラップアラウンド効果を回避することができる。
【0040】
一態様では、本システムは、送信機と受信機との間の推定範囲に基づいて、Δfを有するサブ信号のセットについて周波数のセットを選択することができる。例えば、受信機と送信機との間のより大きい範囲を推定することに応じて、本システムは、位相ラップアラウンドの影響を低減するために、周波数のセットについてΔfを減少させることができる。代替的には、受信機と送信機との間のより短い範囲を推定することに応じて、本システムは、TOAの測定分解能を高めるために、周波数のセットについてΔfを増加させることができる。このように、本システムは、(周波数において)間隔の狭いサブ信号ペアと間隔の広いサブ信号ペアの両方を評価することによって、正確な位相ベースのTOA推定値を算出することができる。
【0041】
測距信号の送信中に2πラジアン未満の総位相差の累積によって特徴付けられるサブ信号ペアのサブセットに対する最大周波数差を計算するために、一態様では、本システムは、以下の式を解くことができる。
ここで、τmaxは、送信機と受信機との間の考えられる最大伝播時間である。具体的に、本システムは、測距信号の飛行時間推定値を推定して、多重化されたサブ信号のセット内の多重化サブ信号のサブセットを識別することができ、ここで、多重化サブ信号のサブセットが、周波数のセット内の周波数のサブセットによって特徴付けられ、周波数のサブセット内の各周波数が、ブロックS130の飛行時間推定値の持続時間における2πラジアン未満の総位相累積を規定する。このため、最大周波数差未満の周波数差によって特徴付けられる任意のサブ信号ペアについて、本システムは、測距信号のTOFの間に発生する1サイクル未満を予測する。追加的または代替的には、本システムは、送信機と受信機との間の過去の測距計算、基地局のサーチエリアの制約および/または信号強度測定値に基づいて、凡そのTOFを計算することができる。別の態様では、本システムは、ラップアラウンド周波数差のためのマージンを提供するために、バッファ周波数を超える分だけΔfmaxよりも小さい周波数によって特徴付けられるサブ信号ペアを選択することができる。
【0042】
本システムは、最大周波数差よりも小さい周波数差によって特徴付けられるサブ信号ペアのサブセットを分離すると、サブ信号ペアのサブセット内の各サブ信号ペアの周波数差Δfおよび位相差Δφを示すデータペアを生成することができる。理想的なRFチャネル(ノイズ、ハードウェア障害または伝播関連のマルチパスフェージングのないRFチャネル)では、(システムが、2πよりも大きい位相シフトを示すサブ信号を正常に除去したと仮定した場合に)各データペアの位相差が、伝播遅延および/または送信機と受信機との間の物理的距離または電気長に直接対応し、よって、本システムは、任意のデータペア(Δf、Δφ)について以下の式を評価することによって、位相ベースのTOA推定値τφを算出することができる。
しかしながら、非理想的なRFチャネルでは、各データペアが、τφについて異なる値を生成する。より具体的には、本システムは、多重化サブ信号のサブセット内の各サブ信号ペアについて、ブロックS134において、サブ信号ペアの位相差に基づいてサブ信号ペア到着時間推定値を算出し、多重化信号のサブセット内の各サブ信号ペアについてサブ信号ペア到着時間推定値の代表値に基づいて位相ベースの到着時間推定値を算出することができる。例えば、本システムは、データペアのセット内の各データペアについてτφの値を計算し、データペア全体のτφの平均値または中央値を計算し、それにより、位相ベースのTOA推定値を計算することができる。
【0043】
代替的には、τφの値の平均値または中央値を計算する代わりに、本システムは、τφの値に対する位相遅延バイアスの影響を軽減するために、より大きなΔfの値によって特徴付けられるデータペアから得られるτφを重み付けする加重平均を計算することができる。
【0044】
7.1 不確実性の推定
概して本システムは、ハイブリッドTOA推定値の計算を通知するために、位相ベースのTOA推定値τφについて、位相ベースの不確実性δφを算出することもできる。より具体的には、本システムは、ブロックS138において、サブ信号ペアTOA推定値のセットのばらつき度合いに基づいて、位相ベースの不確実性を計算することができる。このため、本システムは、ハイブリッドTOA推定値を算出するときに、サブ信号ペアTOA推定値の再現性に基づいて、位相ベースのTOA推定値に重みを適用することができる。
【0045】
一態様では、本システムは、データペアのセット全体のτの値の標準偏差または二乗平均平方根偏差(すなわち、各データペアの残差の関数)を計算することによって、位相ベースの不確実性を算出することができる。このため、本システムは、位相ベースのTOA推定値に対するτの値の分布に基づいて、位相ベースの不確実性を計算することができる。
【0046】
8.MUSIC到達時間推定
概して本システムは、位相振幅TOA推定値δφ,Aを算出し、測距信号のマルチパス成分のセットを識別することができる。より具体的には、本システムは、ブロックS140において、多重信号分類アルゴリズムを実行して測距信号のマルチパス成分のセットを検出し、ブロックS142において、測距信号のマルチパス成分のセットに基づいて位相振幅ベースのTOA推定値を求めることができる。特に、本システムは、第3のTOA推定値を算出することができ、それにより、ハイブリッドTOA推定値をさらに改善し、測距信号のRFチャネルのマルチパス環境を特性評価することができる。
【0047】
特に、本システムは、サブ信号のセット内の各サブ信号を示す一連のデジタルサンプルに基づいて受信した測距信号ベクトルを生成し、受信した測距信号ベクトルの自己相関行列を計算し、周波数のセット内の各周波数について、自己相関行列の固有ベクトルおよび自己相関行列の対応する固有値を計算し、周波数のセット内の各周波数の対応する固有値に基づいて周波数のセット内の各周波数の固有ベクトルをソートし、それにより固有ベクトルのノイズ部分空間と固有ベクトルの信号部分空間を識別し、固有ベクトルのノイズ部分空間およびステアリングベクトルに基づいて、可能性のある到着時間の範囲にわたって推定関数を評価し、かつ測距信号のマルチパス成分のセットとして推定関数のピークを識別することができ、マルチパス成分のセット内の各マルチパス成分がマルチパス到着時間に対応する。このプロセスは、以下でさらに詳細に説明する。
【0048】
本システムは、図2に示す受信機および信号モデルに従って、TOA計算およびマルチパス特性評価にMUSICアルゴリズム(到着角検出のためにしばしば使用される)を適用する。図2において、信号の各マルチパス成分は、i∈{1,...,D}について受信TOAτによりS(k)=α(k)ej2πfτiと表され、ここで、Dはマルチパス成分の数を示し、kは測距信号のデジタルサンプルを示し、受信した測距信号ベクトルx(k)は、異なる周波数を持つM個のサブ信号についてキャプチャされ、以下のように表される。
さらに、本システムは、サブキャリア信号の成分に関してTOAτで各マルチパス成分を記述した以下のステアリング行列Aに基づいて、MUSICアルゴリズムを実行する。
また、Δfは、連続する2つの周波数間の差である。上述した受信機および信号モデルによれば、
【0049】
次に、本システムは、以下の自己相関行列を計算する。
【0050】
本システムは、Rxxを計算したら、i∈{1,...,M}について、固有ベクトル
を計算するとともに、Rxxの対応する固有値を計算し、対応する固有値の降順で固有ベクトルをソートする。その後、マルチパス信号の数の推定値に基づいて、本システムは、Rxxの固有空間を信号部分空間Q=[ν,ν,...,ν]とノイズ部分空間Q=[νD+1,νD+2,...,ν]とに分離する。真のマルチパス遅延でのステアリングベクトルa(τ)は、信号部分空間に跨るため、ノイズ部分空間の固有ベクトルと直交する。すなわち、i∈{D+1,...,M}について、a(τ)ν=0となる。このため、τの離散値の範囲にわたってMUSIC推定関数PMU(τ)を評価することにより、本システムは疑似スペクトルを生成し、このスペクトルのピークを信号の各マルチパス成分のTOAとして以下のように識別することができる。
【0051】
本システムは、MUSIC疑似スペクトルを生成すると、各マルチパス成分のマルチパス到着時間に基づいて、マルチパス成分のセット内の最も早いマルチパス成分を選択することができる。より具体的には、その後、本システムは、擬似スペクトルのピークで表される最小TOAをLOS TOAとして選択して、位相振幅ベースのTOA推定値δφ,Aを算出することができる。
【0052】
複数の受信機による測距信号の受信に基づく時間差到着位置特定(以下、「TDOA」位置特定)を実行するアプリケーションでは、本システムは、TOA値の代わりにTDOA値に基づいてMUSIC推定関数PMU(Δτ)を算出することができる。この態様では、本システムは、受信機のペアで受信されたマルチパス成分の様々な組合せに起因して生成されたPMU(Δτ)における多くのピークをフィルタリングし、位相ベースのTOA推定値τφに最も近いそれらピークを選択することができる。代替的には、本システムは、後述するように、トランシーバのメッシュネットワークの既知の幾何学的形状に最も適合するTDOA推定値を特定するために、MUSICアルゴリズムの実行を介して生成されたマルチパス成分に基づいて幾何学的条件のセットを適用することができる。このため、本システムは、異なる受信機で測定されたマルチパス成分間のΔτを却下することができる。
【0053】
8.1 マルチパスの重要度の推定
概して本システムは、ハイブリッドTOA推定値を算出するときにTOA推定値の組合せを知らせるために、RFチャネル内のマルチパスの重要度を示すパラメータを計算することができる。より具体的には、本システムは、ブロックS144において、マルチパス成分のセットにおける見通し成分の電力と見通し外成分の電力との比較などにより、測距信号チャネル内のマルチパスの重要度を特性評価するマルチパス指標(例えば、ライスKファクタ、遅延スプレッドおよび/または角度スプレッド)を算出することができる。このため、本システムは、測距信号のハイブリッドTOA推定値を算出するときに、位相振幅ベースのTOA推定値に対する位相ベースのTOA推定値の寄与を重み付けすることができる。
【0054】
一態様では、本システムは、Rxx行列の固有空間に基づいてライスKファクタを計算する。このため、本システムは、LOSマルチパス成分の相対電力を本システムの他のマルチパス成分の電力と比較するパラメータを計算することができ、それによって測距信号のRFチャネル内のマルチパスの重要度を特性評価することができる。
【0055】
9.重み付けされた到達時間の推定
概して、本システムは、ブロックS150において、時間ベースの不確実性、位相ベースの不確実性およびマルチパス指標に基づいて、時間ベースのTOA推定値、位相ベースのTOA推定値および/または位相振幅ベースのTOA推定値の重み付けされた組合せとして、ハイブリッドTOA推定値を算出することができる。より具体的には、本システムは、位相ベースのTOA推定値および位相振幅ベースのTOA推定値の重み付けされた組合せを計算し(ここで、本システムは、マルチパス指標に基づいて位相ベースのTOA推定値および位相振幅ベースのTOA推定値の重みを計算し)、この重み付けされた組合せを時間ベースのTOA推定値および時間ベースの不確実性と比較し、重み付けされた組合せが時間ベースの不確実性区間内に入るのを検出することに応じて、重み付けされた組合せを、ハイブリッドTOA推定値として選択することができる。代替的には、重み付けされた組合せが時間ベースの不確実性区間外に入るのを検出することに応答して、本システムは、時間ベースのTOA推定値をTOA推定値として選択することができる。このように、本システムは、マルチパス環境のシステムの特性評価に基づいて、位相ベースのTOA推定値と位相振幅ベースのTOA推定値の組合せを重み付けする。
【0056】
概して、本システムは、位相ベースのTOA推定値と位相振幅ベースのTOA推定値の加重平均として重み付けされた組合せを計算し、本システムは、測距信号の強いマルチパス成分の検出に応じて(すなわち、ライスKファクタのマルチパス指標の値が低い場合には)、位相振幅ベースのTOA推定値に対して位相ベースのTOA推定値の比重を減少させ、一方、測距信号の弱いマルチパス成分の検出に応じて(すなわち、マルチパス指標の値が高い場合には)、位相振幅ベースのTOA推定値に対する位相ベースのTOA推定値の比重を増加させる。このため、強いマルチパス環境に鑑みて、本システムは、マルチパスフェージングに対してよりロバストな位相振幅ベースのTOA推定値の値を優先するとともに、弱いマルチパス環境に鑑みて、本システムは、ハードウェアの不完全性(例えば、非反復性および非線形性)を較正する際に固有のモデリングエラーに対してよりロバストな位相ベースのTOA推定値の値を優先する。
【0057】
代替的には、本システムは、ライスのKファクタの値に基づいて、ハイブリッドTOA推定値に対する全体的な測定の不確実性を計算することができる。例えば、ライスのKファクタの低い値は、強いマルチパス環境を示している可能性があり、これは、時間ベースおよび位相ベースのTOA推定値の精度も低下している可能性がある。よって、システムは、ライスのKファクタによって特徴付けられるマルチパス環境に基づいてハイブリッドTOA推定値の不確実性を増大させることができる。
【0058】
一態様では、本システムは、マルチパス指標の閾値(例えば、ライスのKファクタの場合、10dB)に基づいて2分決定木を実行して、位相ベースのTOA推定値および位相振幅ベースのTOA推定値の重みを決定することができる。一例では、マルチパス指標が閾値を超えるのを検出することに応答して、本システムは、位相ベースのTOA推定値に対する重みを1に、位相振幅ベースのTOA推定値をゼロに設定し、それによりハイブリッドTOA推定値を位相ベースのTOA推定値に等しく設定することができる。この例では、ライスKファクタのマルチパス指標が閾値を超えないのを検出することに応答して、本システムは、位相ベースのTOA推定値に対する重みをゼロに、位相振幅ベースのTOA推定値を1に設定することができる。
【0059】
別の態様では、本システムは、重みがマルチパス指標にそれぞれ比例または反比例するように、位相ベースのTOA推定値および位相振幅ベースのTOA推定値の重みを計算し、過去に計算された重みに基づいて位相ベースのTOA推定値および位相振幅ベースのTOA推定値の加重平均を計算する。このため、本システムは、ハイブリッドTOA推定値を計算する際に、位相ベースのTOA推定値および位相振幅ベースのTOA推定値の両方からの情報を含むことができる。
【0060】
しかしながら、位相ベースのTOA推定値および位相振幅ベースのTOA推定値の両方が不正確であるアプリケーションでは、本システムは、時間ベースのTOA推定値との比較に基づいて、それらの不正確さを検出することができる。一態様では、本システムは、時間ベースのTOA推定値から時間ベースの不確実性をそれぞれ加算および減算することによって、時間ベースの不確実性区間の上限および時間ベースの不確実性区間の下限を算出することができる。その後、本システムは、上述した位相ベースのTOA推定値および位相振幅ベースのTOA推定値の重み付けされた組合せが、計算した時間ベースの不確実性区間内に入るか否かを検出することができる。そうである場合、本システムは、重み付けされた組合せをハイブリッドTOA推定値として選択することができる。
【0061】
さらに別の態様では、本システムは、時間ベースのTOA推定値、位相ベースのTOA推定値および位相振幅ベースのTOA推定値の加重平均を計算することができる。この態様では、本システムは、時間ベースの不確実性、位相ベースの不確実性およびマルチパス指標にそれぞれ基づいて、各TOA推定値に対する重みを計算する。このように、本システムは、ハイブリッドTOA推定値の精度をさらに向上させるために、3つの異なるTOA推定値を利用することができる。
【0062】
さらに別の態様では、本システムは、位相ベースの不確実性に基づいて閾値区間を計算し、位相振幅ベースのTOA推定値が位相ベースのTOA推定値の閾値区間内にあるか否かを検出し、位相振幅ベースのTOA推定値と位相ベースのTOA推定値との間の一致を検出することに応答して、位相振幅ベースのTOA推定値と等しいハイブリッドTOA推定値を算出することができる。本システムが、位相振幅ベースのTOA推定値が位相ベースのTOA推定値の閾値区間の外側にあることを検出した場合、本システムは、代わりに、時間ベースのTOA推定値、位相ベースのTOA推定値および/または位相振幅ベースのTOA推定値の加重平均を計算することができる。
【0063】
10.測距およびマルチラテレーション
一態様では、ハイブリッドTOA推定値を計算すると、本システムは、送信機が測距信号を送信した範囲(例えば、送信機と受信機との間の距離)を計算することができる。より具体的には、本システムは、送信機からの測距信号の出発時刻にアクセスし、送信機と受信機との間の相対時間バイアスにアクセスし、ハイブリッド到達時間推定値、測距信号の出発時刻、および送信機と受信機との間の相対時間バイアスに基づいて、送信機と受信機との間の距離についてハイブリッド範囲推定値を算出することができる。
【0064】
一態様では、本システムは、測距信号のTOF、ひいては送信機と受信機との間の距離を計算することができ、そのために、受信機と送信機との間の正確なクロック同期を達成し、アプリケーション固有の信号処理回路によってもたらされるレイテンシを補償し、ハイブリッドTOA推定値を送信機における既知の送信時間と比較する。その後、本システムは、測距信号のTOFに測距信号の速度(例えば、関連する媒体に対応する光、音または電気伝播の速度)を乗じることができる。このため、同じ測距信号に基づいて方法S100を実行するノードのネットワーク内の複数の受信ノードはそれぞれ、受信機と送信機との間の距離を計算することができる。その後、本システムは、それらの距離と各受信機の既知の位置とをマルチラテレーションアルゴリズムに入力して、高精度(例えば、10メートル以内、10センチメートル以内)で送信機の位置を特定することができる。
【0065】
一態様では、本システムは、代わりに、既知の位置を有する複数の送信機から複数の測距信号を受信する単一の受信機を含むことができる。この態様では、受信機は、上述した方法S100を実行して、各測距信号についてハイブリッドTOA推定値を計算し、各送信機と受信機との間の距離を計算し、それら距離をマルチラテレーションアルゴリズムに入力して、既知の位置を有する送信機に対する受信機の位置を特定することができる。
【0066】
11.TDOAおよびPDOA測距のバリエーション
代替的には、送信機と受信機との間の正確なクロック同期を達成することができないアプリケーション、または較正されていない周波数依存遅延が測距信号に存在するアプリケーションでは、本システムは、到達時間差(以下「TDOA」)ローカライゼーションおよび/または到着位相差(以下「PDOA」)を実行して送信機の位置をより正確に特定することができる。
【0067】
図4に示す一バリエーションでは、本システムは、相互相関測距信号に基づく時間ベースのTDOA推定値、および/または2つの受信機の相関ピークにおける受信複素信号の複素共役乗算に基づく位相振幅ベースのTDOA推定値を生成し、位相ベースのTDOA推定値に最も近い複合マルチパス成分を位相振幅ベースのTDOA推定値として選択する。
【0068】
別のバリエーションでは、上述したように測距信号に対してMUSICアルゴリズムを実行すると、本システムは、受信機のメッシュネットワーク内の各受信機に対してMUSIC疑似スペクトルを生成する。その後、本システムは、メッシュネットワーク内の各受信機について方法S100のブロックを実行することにより、ハイブリッドTOA推定値を計算することができる。その後、本システムは、複数の受信機からそれらのハイブリッドTOA推定値にアクセスし、受信機の各ペアのハイブリッドTOA推定値を減算することによって受信機の各ペアのハイブリッドTDOAを計算することができる。トランシーバの各ペアのTDOAのセットを生成し、メッシュネットワーク内の各受信機の位置が与えられると、本システムは、送信機の位置を計算するためにTDOAマルチラテレーションアルゴリズムを実行することができる。
【0069】
PDOAバリエーションでは、各受信機でTOA推定値を計算する代わりに、本システムは、受信機のメッシュネットワーク内の受信機のペアの各受信機における測距信号のPOA(受信機のペアの相対位相オフセットを含むことができる)にアクセスし、受信機のペアの相対位相オフセットを減算することにより、受信機のペアからのPOAに基づいて、PDOAを計算し、計算したPDOAに基づいて上述したMUSICアルゴリズムを介してTDOAを推定することができる。しかしながら、このバリエーションでは、MUSIC擬似スペクトルの最も早いピークが、受信機のペアの何れかまたは両方の受信機の測距信号のLOS成分に対応しない場合がある。このため、本システムは、以下にさらに詳細に説明する他の手段を介して、MUSIC擬似スペクトルからLOS TDOAを識別する。
【0070】
PDOAバリエーションの一例では、本システムが、最大振幅を有するMUSIC疑似スペクトルのピークをLOS TDOAとして選択することができる。別の例では、受信機のペアにおける測距信号の複素位相および振幅を使用して、本システムは、各ピークがTDOA推定値に対応するように、メッシュネットワーク内の受信機の各ペアについて複数のピークを含むMUSIC疑似スペクトルを生成することができる。その後、本システムは、MUSIC疑似スペクトルのピークの組合せに基づいて(例えば、第1の受信機のMUSIC疑似スペクトルからのピークと第2の受信機のMUSIC疑似スペクトルからのピークの組合せを選択することによって)、3つの受信機のセットにおける測距信号のTDOAのセット(すなわち、3つのTDOAセット)にアクセスすることができる。3つの受信機の任意のセットについて、送信機と受信機との間の理想的なチャネル環境(例えば、ノイズのない場合の正確なTDOA)を仮定すると、受信機の閉じたグラフのTDOAの合計は、ゼロに等しくなる場合がある。このため、本システムは、TDOAの合計を計算し、合計がゼロに最も近いTDOAのマルチパス成分の組合せをLOS TDOA推定値として選択することができる。したがって、このバリエーションでは、本システムは、複数の受信機からの情報を利用して、メッシュネットワーク内の受信機の各ペアについてLOS TDOAを特定することができる。本システムは、測距信号を受信する3つの受信機の各グラフについてこのプロセスを繰り返すことができる。3つの受信機のグラフを反復してメッシュネットワーク内の受信機の各ペアのLOS TDOAを計算すると、本システムは、TDOAマルチラテレーションアルゴリズムを実行して、受信機のメッシュネットワークに対する送信機の位置を推定することができる。
【0071】
別の態様では、本システムは、MUSICアルゴリズムによって特定されたマルチパス成分の各組合せについて、受信機の位置に対する送信機の位置の幾何学的分析を実行することができる。例えば、本システムは、受信機のペア内の各受信機で受信された測距信号の相互相関に基づいて測距信号の受信機のペアのTDOA MUSIC疑似スペクトルを計算し、受信機のペア内の受信機の既知の位置または受信機のペア内の受信機間の距離にアクセスし、TDOA MUSIC疑似スペクトルのピークからTDOA候補を選択し、TDOA候補に基づいて測距信号の送信機の2D位置推定値を算出することができる。送信機の2D位置推定値を計算すると、本システムは、幾何学的分析を実行して、送信機の位置が送信機の以前の既知の位置および/または送信機と受信機を包含する領域の既知の形状または特性と一致するか否かを特定することができる。システムがTDOA候補に基づいて2D位置推定値を決定することができない場合(例えば、TDOA候補が受信機間の既知の距離より大きい受信機間の距離を示唆する場合)、または2D位置推定値が領域の既知の形状および/または送信機または受信機の過去の既知の位置と一致しない場合に、本システムは、測距信号の妥当なTDOAセットのなかから、そのTDOA候補を除外することができる。TDOA候補を表すTDOA MUSIC疑似スペクトルの各ピークについて上記ステップを繰り返すことにより、本システムはTDOA候補の数を減らし、かつ/または可能性のあるTDOA値の範囲を狭めることができる。
【0072】
受信機間で送信される測距信号にマルチパス成分が存在する場合(例えば、メッシュネットワーク展開において)、本システムは、受信機間の候補範囲を反復するとともに、受信機のペア内の各受信機で受信した測距信号のTDOA候補を反復することもできる。受信機のペアについてTDOA候補と測距候補の可能性のある各組合せを評価することにより、本システムは、送信機と受信機のペアとの間の既知の幾何学的関係と一致しない組合せを除外することができる。
【0073】
本明細書に記載のシステムおよび方法は、コンピュータ可読命令を格納するコンピュータ可読媒体を受け入れるように構成されたマシンとして少なくとも部分的に具現化および/または実施することができる。それら命令は、アプリケーション、アプレット、ホスト、サーバ、ネットワーク、ウェブサイト、通信サービス、通信インターフェース、ユーザコンピュータまたはモバイルデバイス、リストバンド、スマートフォンのハードウェア/ファームウェア/ソフトウェア要素、またはそれらの任意の適切な組合せと統合されたコンピュータ実行可能コンポーネントによって実行されることができる。実施形態の他のシステムおよび方法は、コンピュータ可読命令を格納するコンピュータ可読媒体を受け入れるように構成されたマシンとして少なくとも部分的に具現化および/または実施することができる。それら命令は、上述したタイプの装置およびネットワークと統合されたコンピュータ実行可能なコンポーネントによって実行されることができる。コンピュータ可読媒体は、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EEPROM、光学デバイス(CDまたはDVD)、ハードドライブ、フロッピードライブ、または任意の適切なデバイスなどの任意の適切なコンピュータ可読媒体に格納されることができる。コンピュータ実行可能なコンポーネントはプロセッサであり得るが、任意の適切な専用ハードウェアデバイスが(代替的または追加的に)それら命令を実行することができる。
【0074】
当業者であれば、上述した詳細な説明および図面および特許請求の範囲から認識されるように、以下の特許請求の範囲で規定される本発明の範囲から逸脱することなく、本発明の実施形態に修正および変更を加えることができる。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図4