(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-10
(45)【発行日】2024-05-20
(54)【発明の名称】ポンプ脈動低減器
(51)【国際特許分類】
F16L 55/04 20060101AFI20240513BHJP
F15B 1/00 20060101ALI20240513BHJP
【FI】
F16L55/04
F15B1/00 D
(21)【出願番号】P 2024004934
(22)【出願日】2024-01-17
【審査請求日】2024-01-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517224322
【氏名又は名称】株式会社タテヤマ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100094617
【氏名又は名称】神崎 正浩
(72)【発明者】
【氏名】大島 誠
【審査官】杉山 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-196876(JP,A)
【文献】特開平08-338588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 55/04
F15B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプの吐出流路に配置され、前記ポンプから吐出された液体を導入し、前記液体の脈動を低減して導出するポンプ脈動低減器であって、
一端面に前記液体の導入口が開口され、前記一端面と反対側の他端面に前記導入口から導入された前記液体を排出する排出口が開口され、前記導入口から前記排出口にわたる貫通流路が形成されている本体部と、前記本体部の前記他端面に装着されて前記排出口の周辺を密封するキャップ部と、を備え、
前記キャップ部は、前記本体部から排出される前記液体を受け入れる円筒状の横向き凹部から成る第1区画室を前記貫通流路の中心軸と同軸状に有しており、
前記本体部は、
前記貫通流路の内部に全長にわたって挿入され、前記導入口にて前記中心軸と同軸状に密封保持されているパイプ部材を備え、
前記パイプ部材は、そのパイプ後端が前記ポンプの吐出流路に接続されていると共に、そのパイプ先端が前記第1区画室の突当り端面に対して前記液体を噴出衝突可能な間隔位置まで前記排出口から前記第1区画室の内部へ突出されており、
前記貫通流路は、
前記パイプ先端から噴出され前記第1区画室から跳ね返された前記流体の逆流を前記パイプ部材の外周面との間で受け入れる円筒状の第2区画室と、
前記貫通流路の途中に形成され、前記第2区画室の後端で縮径して連通し、前記第2区画室からの前記逆流を縮流として受け入れる円筒状の中間絞り流路と、
前記中間絞り流路の後端で拡径して連通し、前記中間絞り流路からの縮流を拡散させると共にその後端部に前記導入口が形成されている円筒状の第3区画室とが、同軸状に前記パイプ部材を挿通可能に形成されており、
前記第3区画室に連通し、前記貫通流路から分岐して前記本体部の外周面に前記液体の導出口を開口する導出流路を更に備えていることを特徴とするポンプ脈動低減器。
【請求項2】
前記本体部は、前記排出口に嵌め込まれて前記
第1区画室からの前記逆流を前記第2区画室へ送る絞り部材を更に備え、
前記絞り部材は、前記第2区画室の前方に縮径して連通し、前記パイプ部材が挿通される前方絞り流路を形成していることを特徴とする請求項1に記載のポンプ脈動低減器。
【請求項3】
前記絞り部材は、前記排出口にその外周部で嵌合固定される基部と、前記基部から前方に延在し、前記第1区画室の内部に突出してその中空部が前記前方絞り流路となる管状部と、を有し、
前記基部には、前記前方絞り流路の後端領域で連続的に拡径し、前記前方絞り流路からの前記逆流を前記第2区画室へ放射状に拡散するテーパ状部が形成されていることを特徴とする請求項2に記載のポンプ脈動低減器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、半導体、医薬品を含む各種研究開発分野における比較的小流量、低圧領域での送液に用いられる小型ポンプに対して、その吐出回路に配置されて吐出液体の脈動を低減するためのポンプ脈動低減器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
様々な製品の製造工程では、多くの場合、各種液体の供給がポンプに依っており、またポンプには、様々なスケール及び型式のものがある。なかでも、プランジャーポンプやダイヤフラムポンプでは、その原理及び構造上、ポンプからの吐出液体が脈動することは避けられない。そこで、液体の定量安定的な送液のためにポンプ脈動を低減する方法が従来から考えられている。
【0003】
例えば、多くの場合、特許文献1、2に開示されているようなアキュムレータや類似の蓄圧器をポンプの吐出流路に配置している。これらアキュムレータや蓄圧器の高圧時に作動液を蓄えると共に低圧時に放出する作用を利用して脈動を減衰させている。
【0004】
一般的なアキュムレータは、容器内部に弾性膜によって形成された区画室(ブラダ)内にガスを蓄圧しておき、ポンプ回路内の圧力が蓄圧ガスの封入圧力より高い場合、プラダを介して蓄圧ガスを圧縮して容器内に作動液が蓄積され、回路内の圧力が低下すると、蓄圧ガスが膨張して作動液を放出するものである。ただし、脈動の大小や、吐出圧/流量等が異なればアキュムレータガス圧等を微調整する必要があるため、準備に煩雑な手間と時間がかかる。
【0005】
また他に、特許文献3に開示されている流通経路中に配置された弁体がバネを介して移動することによって流通経路の断面積を変位させて圧力変動を抑制する脈動低減装置のように、弁可動に依るものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2022-111116号公報
【文献】特許第6575487号公報
【文献】特開2015-108295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような従来のアキュムレータ式や弁可動式の脈動低減方法は、粘性の高い作動油を供給する油圧ポンプや内燃機関における燃料供給ポンプなど、比較的大型のポンプによる高吐出圧を対象としており、特に100ml/min以下の小流量域においては、殆ど機能していないのが現実である。
【0008】
一方、比較的小型のポンプによる数~数十Mpa程度の低圧で上記のような小流量の液体を定量的に供給することが望まれる場合も多くある。例えば、医薬品や化粧品、その他各種研究開発における合成物の製造試験では、合成反応時に少量の水や溶媒・薬液等の粘性の低い液体を反応器へ連続的に供給する場合に卓上使用可能な小型ポンプが用いられるが、脈動を抑えた安定的な一定流量での送液が求められている。また、半導体製造工程でも、例えば枚葉式洗浄装置では、各種洗浄薬液をノズルによってウエハ表面に吹き付けており(スプレー式)、ノズルへの脈動が抑えられた連続的な薬液供給が望まれる。
【0009】
このような低粘性液体を少量、低圧で移送する際のポンプ脈動を抑えるための機構としては、アキュムレータガスを必要とせず、可動部のないスタティックな構成が望まれているが、適切なものは未だに実現されていない。
【0010】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、アキュムレータガス及び可動部を必要とせず、使用が簡便でありながら、小型ポンプからの比較的低圧、小流量領域における吐出液体の脈動を低減して送液できるポンプ脈動低減器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明に係るポンプ脈動低減器は、例えば、
図1・
図4・
図5・
図6・
図7に示すように、ポンプの吐出流路に配置され、前記ポンプから吐出された液体を導入し、前記液体の脈動を低減して導出するポンプ脈動低減器であって、
一端面に前記液体の導入口が開口され、前記一端面と反対側の他端面に前記導入口から導入された前記液体を排出する排出口が開口され、前記導入口から前記排出口にわたる貫通流路が形成されている本体部と、前記本体部の前記他端面に装着されて前記排出口の周辺を密封するキャップ部と、を備え、
前記キャップ部は、前記本体部から排出される前記液体を受け入れる円筒状の横向き凹部から成る第1区画室を前記貫通流路の中心軸と同軸状に有しており、
前記本体部は、
前記貫通流路の内部に全長にわたって挿入され、前記導入口にて前記中心軸と同軸状に密封保持されているパイプ部材を備え、
前記パイプ部材は、そのパイプ後端が前記ポンプの吐出流路に接続されていると共に、そのパイプ先端が前記第1区画室の突当り端面に対して前記液体を噴出衝突可能な間隔位置まで前記排出口から前記第1区画室の内部へ突出されており、
前記貫通流路は、
前記パイプ先端から噴出され前記第1区画室から跳ね返された前記流体の逆流を前記パイプ部材の外周面との間で受け入れる円筒状の第2区画室と、
前記貫通流路の途中に形成され、前記第2区画室の後端で縮径して連通し、前記第2区画室からの前記逆流を縮流として受け入れる円筒状の中間絞り流路と、
前記中間絞り流路の後端で拡径して連通し、前記中間絞り流路からの縮流を拡散させると共にその後端部に前記導入口が形成されている円筒状の第3区画室とが、同軸状に前記パイプ部材を挿通可能に形成されており、
前記第3区画室に連通し、前記貫通流路から分岐して前記本体部の外周面に前記液体の導出口を開口する導出流路を更に備えていることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る請求項1に記載のポンプ脈動低減器によれば、本体部の貫通流路に同軸状に挿入されたパイプ部材に導入されたポンプからの吐出液体が、本体部の一端面の排出口から突出するパイプ部材の先端から噴出され、キャップ部の第1区画室の内壁面に衝突し、跳ね返って逆流となり、貫通流路内でパイプ部材の外周領域を流れていく。ここで、本発明におけるポンプ脈動低減器では、パイプ部材の内部を流れる液体の進行方向(順流)を前方とし、逆流方向を後方とする。
【0013】
本発明においては、まず第1区画室での跳ね返りによる流れの逆転によって、液体流れのエネルギーが低減される。第1区画室で跳ね返された逆流はまた、流速が急激に低下される。この逆流は、排出口から本体部側へ戻り、第2区画室内へ導入され、パイプ部材外周領域をパイプ部材内部とは逆向きに進んでいく。このとき、第2区画室の内壁面に衝突してエネルギーが低減されながら進み、その後端部壁面で中間絞り流路の開口周辺に衝突してから中間絞り流路内に縮流として導入される。
【0014】
中間絞り流路内に導入された逆流は、パイプ部材外周領域にてその内壁面やパイプ部材外周面に衝突しながら進み、エネルギーが低減される。そしてこの中間絞り流路を通過した逆流は、第3区画室内へ導入される。第3区画室内へ導入された逆流は、この時点でかなり脈動が抑えられており、ここで安定化されて脈動が大きく低減された状態で導出流路から出力される。
【0015】
従って、本発明のポンプ脈動低減器によれば、アキュムレータガスを利用することも可動部を設けること無く、スタティックな構成でありながら、その内部流路構成によって、対象ポンプから吐出された液体の流れを反転させて逆流にし、その逆流に衝突を繰り返えさせると共にオリフィス効果を与えることによって流体のエネルギーを低減することで脈動を大きく低減させた状態で導出流路から送液することができる。しかも、本発明のポンプ脈動低減器は、ポンプの吐出流路に配置させるだけで簡便に使用できる。
【0016】
このような本発明における衝突とオリフィス効果を利用する脈動低減効果は、水や有機溶媒等を含む低粘性液体の比較的小流量を低圧で吐出するポンプにおいて特に良好に発揮される。例えば、定格圧力10~40MPa、定格流量100mL/min~5L/min程度の小型ポンプにおいて、1mL/min~20mL/minという非常に小流量での本発明による脈動低減効果が後述する実施例において確認できている。
【0017】
本発明のポンプ脈動低減器の本体部において、パイプ部材を貫通流路内に同軸状に保持する機構としては、本体部の導入口に螺合する食い込み継手を利用すれば簡便に済む。この食い込み継手として、ナット・ダブル(フロント/バック)フェルールタイプを用いることによって高い水密性も同時に確保できる。
【0018】
本発明における本体部に対するキャップ部の装着時に排出口の周辺を密封する手段としては、Oリングを用いる構成が簡便である。具体的には、本体部の排出口周りに所定幅の溝を形成し、当該溝内にOリングを嵌め込んでおけば、装着時にキャップ部の端面が溝上のOリングに密接し、排出口の外周領域が水密となる。
【0019】
また、本体部とキャップ部との装着固定は、両者を貫通して締結されるボルト部材が簡便である。この場合、排出口周りの溝・Oリングより外周領域で、貫通流路の中心軸と同心円上に互いに所定の角度間隔をもった位置にそれぞれキャップ部と本体部とにわたって貫通する雌ねじ穴を設ければ良い。
【0020】
尚、本発明によるポンプ脈動低減器の構成部材の素材としては、一般的な噴射ノズル等に使用されている機械的強度や耐食性が十分な素材であれば採用可能であり、例えばステンレス鋼(SUS)や真ちゅう等の金属、あるいはセラミックや樹脂モールドセラミック等が挙げられる。更に、耐食性に優れた特殊合金であるハステロイや、タンタル、チタン等も採用可能であり、特に限定されるものではない。
【0021】
尚、本体部に中間絞り流路が一体的に形成されるものであるため、機械的強度と同時に加工性も求められることから、延性と靭性にも優れたオーステナイト系ステンレス鋼を素材とするのがより好ましい。その代表的なものとしてSUS303,SUS304,SUS316が挙げられるが、なかでも、本発明によるポンプ脈動低減器では各種溶媒の使用が考えられることから、より耐食性にも優れたSUS316又はSUS316L(ローカーボン)が最適な素材である。
【0022】
請求項2に記載の発明に係るポンプ脈動低減器は、例えば、
図1・
図5・
図6に示すように、前記本体部は、前記排出口に嵌め込まれて前記1区画室からの前記逆流を前記第2区画室へ送る絞り部材を更に備え
前記絞り部材は、前記第2区画室の前方に縮径して連通し、前記パイプ部材が挿通される前方絞り流路を形成していることを特徴とする。
【0023】
本発明に係る請求項2に記載のポンプ脈動低減器によれば、本体部の排出口に嵌め込まれた絞り部材によって、第2区画室の前方に縮径された前方絞り流路が追加される。このため、第1区画室からの逆流は、まずこの前方絞り流路に導入され、ここで前方絞り流路の内壁面とパイプ部材の外周面との間で衝突を繰り返すと共に互いに衝突し合うことによって第2区画室へ送り出される前にもエネルギーが低減される。従って、追加された前方絞り流路によるオリフィス効果によってさらなる脈動低減効果が発揮される。
【0024】
請求項3に記載の発明に係るポンプ脈動低減器は、例えば、
図1・
図5・
図6に示すように、前記絞り部材は、前記排出口にその外周部で嵌合固定される基部と、前記基部から前方に延在し、前記第1区画室の内部に突出してその中空部が前記前方絞り流路となる管状部と、を有し、
前記基部には、前記前方絞り流路の後端領域で連続的に拡径し、前記前方絞り流路からの前記逆流を前記第2区画室へ放射状に拡散するテーパ状部が形成されていることを特徴とする。
【0025】
本発明に係る請求項3に記載のポンプ脈動低減器によれば、前方絞り流路が絞り部材の第1区画室内に突出している管状部の中空部からなるため、この管状部が戻り導管となって逆流を受け入れるものである。そして、この管状部の外周領域においても、第1区画室の内壁面との間で流体の衝突が繰り返され、エネルギー低減効果が発揮されて脈動の低減に寄与する。
【0026】
このように前方絞り流路内でも衝突を繰り返しながら進んだ逆流は、基部のテーパ状部に沿って第2区画室内へ放射状に拡散される。これによって、第2区画室内へ導入された逆流はその流速が増加すると共に第2区画室の内壁に対しても良好に衝突されるため、更にエネルギーが低減される。
【0027】
尚、パイプ部材のパイプ先端とこれに対向する第1区画室の突当り端面との間隔Dは、小さくなりすぎるとここでの圧力損失が大きくなり、ポンプ脈動低減器での全体的な総動圧損も大きくなりすぎてしまう。また、間隔Dが大きくなりすぎると、液体の流れを逆転させるのに十分なノズル効果が得られなくなる。
【0028】
従って、間隔Dは、実際に供給対象となる液体の粘度を考慮した上で、適切な衝突・跳ね返りによる適度な速度の逆流が得られるようなパイプ部材の内径Iに対する比率となるように決定されれば良い。例えば、パイプ部材の内径Iの80%程度を中心として噴射衝突テストを行い、その結果を踏まえて、適切な間隔Dが最終的に決定することができる。
【0029】
また、本発明のポンプ脈動低減器において、中間絞り流路や前方絞り流路については、各絞り流路の内径Fを小さくしてパイプ部材の外周領域の流路面積を狭めるほど逆流の流速を上昇させることができるが、極端に狭めると圧力損失が大きくなりすぎて適切な逆流が得られなくなる。一方、内径Fが大きすぎても良好なオリフィス効果が得られず、適切な流速が確保されなくなる。
【0030】
そこで、これら絞り流路の内径Fは、実際に組み込まれるパイプ部材の設計寸法を基準とし、パイプ部材の外周領域の流路面積が、早い流速を維持しながらも圧力損失を抑えることができるものとなるように設定すれば良い。例えば、各絞り流路の内径Fを、パイプ部材の外周領域の内断面の面積がパイプ部材の内断面面積と一致する場合の寸法を中心として、実際の供給液体の粘度によって変化する永久圧損を考慮した上で好適なものに適宜決定する。
【0031】
また、前方絞り流路や中間絞り流路の長さは、構成部材の機械的強度と加工技術からの要求により適宜決定される。一方、パイプ部材は、導入される流量範囲に適した管サイズのものが選択される。
【0032】
この他、第1と第2と第3と区画室の内容積は、これらが本発明によるポンプ脈動低減器の総内容積の殆どを占めるものであるため、流量範囲によって決定される。実際的には、本ポンプ脈動低減器の総内容積は、水ベースにおける対象ポンプの定格流量の1/10~1/15を目安として、更に小さく抑えることができるスレショールドポイントをテストを経て確認し、決定することが望ましい。また、各区画室の内径及び長さ寸法は、構成部材の機械的強度と加工技術にコストも考慮して最終的に決定される。
【発明の効果】
【0033】
本発明によるポンプ脈動低減器によれば、以上に説明した通り、アキュムレータガス及び可動部を必要としないスタティックな構成でありながら、流路の跳ね返り反転とオリフィス効果とを利用することによって、従来は困難であった小型ポンプからの比較的低圧で小流量の吐出液体の脈動を良好に低減できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明に係るポンプ脈動低減器の全体構成を側面視にて使用状態で示す中心軸方向に沿った縦切断端面図である。
【
図2】
図1のポンプ脈動低減器を構成する部材のうちの本体部を示す説明図であり、(a)は正面図、(b)は(a)中のA-A断面図である。
【
図3】
図1のポンプ脈動低減器を構成する部材のうちのキャップ部を示す説明図であり、(a)は正面図、(b)は(a)中のB-B断面図、(c)は背面図である。
【
図4】ポンプから吐出され導入された液体がノズルの先端から噴出されて衝突・反射される第1区画室内の状態を模式的に示すキャップ部の部分拡大断面図である。
【
図5】第1区画室内で反転された逆流を受け入れる前方絞り流路内の状態を模式的に示す絞り部材周辺の部分拡大断面図である。
【
図6】前方絞り流路からの逆流が第2区画室内に放射拡散され、更に中間絞り流路へ導入される状態を模式的に示す本体部の部分拡大断面図である。
【
図7】中間絞り流路からの逆流が第3区画室内に導入され、導出流路から導出される状態を模式的に示す本体部の部分拡大断面図である。
【
図8】
図1に示したポンプ脈動低減器の有無での出力流量の振幅の相違によって脈動低減効果を評価する試験1として、ポンプに対する設定流量0mL/minである際の、横軸を経過時間(1目盛り2秒)として、縦軸に、設定流量(1目盛り1mL/min)に対するコリオリ流量計による計測値に基づく変位量%を現した基本振幅のグラフ図であり、(a)はポンプ吐出側流路にポンプ脈動低減器を配さない対照流体回路における出力側での流量計測結果、(b)はポンプの吐出路にポンプ脈動低減器を配した脈動低減器付き流体回路における出力側での流量計測結果、(c)は脈動低減器付き流体回路をベースとしてポンプに対して流量フィードバック制御を行った場合の出力側での流量計測結果、をそれぞれ示すものである。
【
図9】
図1に示したポンプ脈動低減器の有無での出力流量の振幅の相違によって脈動低減効果を評価する試験2として、ポンプに対する設定流量1mL/minとした際の、横軸を経過時間(1目盛り2秒)として、縦軸に、設定流量(1目盛り1mL/min)に対するコリオリ流量計による測定値に基づく変位量%の振幅を現したグラフ図であり、(a)はポンプ吐出側流路にポンプ脈動低減器を配さない対照流体回路における出力側での流量計測結果に基づく振幅を示す折れ線グラフ、(b)はポンプの吐出路にポンプ脈動低減器を配した脈動低減器付き流体回路における出力側での流量計測結果に基づく振幅を示す折れ線グラフであり、(c)は脈動低減器付き流体回路をベースとしてポンプに対して流量フィードバック制御を行った場合を、設定流量2mL/minとして出力側で流量計測した結果に基づく振幅を示す折れ線グラフである。
【
図10】
図1に示したポンプ脈動低減器の有無での出力流量の振幅の相違によって脈動低減効果を評価する試験3として、ポンプに対する設定流量5mL/minとした際の、横軸を経過時間(1目盛り2秒)として、縦軸に、設定流量(1目盛り1mL/min)に対するコリオリ流量計による測定値に基づく変位量%の振幅を現したグラフ図であり、(a)はポンプ吐出側流路にポンプ脈動低減器を配さない対照流体回路における出力側での流量計測結果に基づく振幅を示す折れ線グラフ、(b)はポンプの吐出路にポンプ脈動低減器を配した脈動低減器付き流体回路における出力側での流量計測結果に基づく振幅を示す折れ線グラフ、(c)は脈動低減器付き流体回路をベースとしてポンプに対して流量フィードバック制御を行った場合の出力側での流量計測結果に基づく振幅を示す折れ線グラフである。
【
図11】
図1に示したポンプ脈動低減器の有無での出力流量の振幅の相違によって脈動低減効果を評価する試験3として、ポンプに対する設定流量10mL/minとした際の、横軸を経過時間(1目盛り2秒)として、縦軸に、設定流量(1目盛り1mL/min)に対するコリオリ流量計による測定値に基づく変位量%の振幅を現したグラフ図であり、(a)はポンプ吐出側流路にポンプ脈動低減器を配さない対照流体回路における出力側での流量計測結果に基づく振幅を示す折れ線グラフ、(b)はポンプの吐出路にポンプ脈動低減器を配した脈動低減器付き流体回路における出力側での流量計測結果に基づく振幅を示す折れ線グラフ、(c)は脈動低減器付き流体回路をベースとしてポンプに対して流量フィードバック制御を行った場合の出力側での流量計測結果に基づく振幅を示す折れ線グラフである。
【
図12】
図1に示したポンプ脈動低減器の有無での出力流量の振幅の相違によって脈動低減効果を評価する試験4として、ポンプに対する設定流量20mL/minとした際の、横軸を経過時間(1目盛り2秒)として、縦軸に、設定流量(1目盛り1mL/min)に対するコリオリ流量計による測定値に基づく変位量%の振幅を現したグラフ図であり、(a)はポンプ吐出側流路にポンプ脈動低減器を配さない対照流体回路における出力側での流量計測結果に基づく振幅を示す折れ線グラフ、(b)はポンプの吐出路にポンプ脈動低減器を配した脈動低減器付き流体回路における出力側での流量計測結果に基づく振幅を示す折れ線グラフ、(c)は脈動低減器付き流体回路をベースとしてポンプに対して流量フィードバック制御を行った場合の出力側での流量計測結果に基づく振幅を示す折れ線グラフである。
【
図13】
図8~12に示した試験1~5の結果を横軸の経過時間(1目盛り10秒)を連続させてまとめて示したグラフ図であり、(a)はポンプ吐出側流路にポンプ脈動低減器を配さない対照流体回路における出力側での流量計測結果に基づく振幅を示す折れ線グラフ、(b)はポンプの吐出路にポンプ脈動低減器を配した脈動低減器付き流体回路における出力側での流量計測結果に基づく振幅を示す折れ線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に、図面を参照して、本発明の一実施の形態について説明する。
【0036】
<実施の形態>
図1乃至
図3は、本発明に係るポンプ脈動低減器の一実施の形態を示している。本実施形態におけるポンプ脈動低減器1は、
図1に示すように、一端面に対象ポンプからの吐出液体を導入するための導入口14が開口され、反対側の他端面に前記液体を排出するための排出口15が開口され、導入口14から排出口15にわたる貫通流路20が形成されている本体部10と、該本体部10の前記他端面に装着されて排出口15の周辺を密封するキャップ部12と、を備えたものである。
【0037】
キャップ部12は、排出口15から排出された液体を受け入れる円筒状の横向き凹部から成る第1区画室22を有している。更に、本体部10には、貫通流路20から分岐し、貫通流路20の中心軸Xと直交方向に延びて本体部10の外周面に液体の導出口19を開口する導出流路21が形成されている。
【0038】
本体部10には、対象ポンプの吐出流路に接続されて流体が導入されるパイプ部材2が、貫通流路20の内部にその両端が突出する状態で挿通されており、このパイプ部材2は、パイプ後端で導入口14に形成されている雌ねじ部に螺合固定される食い込み継手3によって、貫通流路20と同軸状に密封保持されている。本実施形態では、食い込み継手3として、ナット・ダブル(フロント/バック)フェルールタイプを用いることによって高い水密性を確保した。またパイプ部材2は、そのパイプ先端が第1区画室22の内部へ突出するように位置付けられている。
【0039】
貫通流路20は、パイプ先端から噴出されて第1区画室22から跳ね返された前記液体の逆流をパイプ部材2の外周面との間で受け入れる円筒状の第2区画室25と、貫通流路20の途中に形成され、第2区画室25の後端で縮径して連通し、第2区画室25からの前記逆流を縮流として受け入れる円筒状の中間絞り流路26と、中間絞り流路26の後端で拡径して連通し、中間絞り流路26からの縮流を拡散させると共にその後端部に導入口14が形成されている円筒状の第3区画室27とが、同軸状にパイプ部材2を挿通可能に形成されている。導出流路21は、第3区画室27に連通して設けられている。
【0040】
また、本実施形態においては、本体部10の排出口15に、貫通流路20の前方に連通して第1区画室22からの逆流を第2区画室25へ送る流路を備えた絞り部材30が嵌め込まれている。従って、キャップ部12は、排出口15に絞り部材30が嵌め込まれた状態の本体部10に対して一体的に装着されている。ここで、本体部10とこれに一体的に装着されたキャップ部12とで一つの外形状を形成するものとした。
【0041】
本実施形態では、本体部10は、貫通流路20の中心軸Xと同軸状の略円柱状で取り扱い易い外形となっている。また、本実施形態では、本体部10の円柱状外形の下方が切欠きの底面11となっており、キャップ部12にも、本体部10への装着時に底面11と面一となる円柱状外形の切欠きの底面13が形成されている。これら底面(11,13)がポンプ脈動低減器1の設置面となる。もちろん、ポンプ脈動低減器1は、このような円柱状の外形に限定されるものではなく、例えば、四角柱、多角柱等、様々な外形状であり得る。
【0042】
本実施形態においては、本体部10の一端面に、排出口15の外周側同心円上に溝16が形成されており、この溝16内にOリング6が嵌め込まれている。これによって、本体部10への装着時にキャップ部12の端面が溝16上のOリング6に密接し、排出口15がその外周領域で密封される。
【0043】
本体部10とキャップ部12との一体的な装着は、ネジ締結によるものとした。従って、キャップ部12と本体部10とに、両者をネジ締結するボルト部材5が螺合する雌ねじ穴(17,18)が両者にわたって貫通するように設けられている。本実施形態では、
図2及び
図3に示すように、正面視で本体部10の溝16・Oリング6の外周領域と、キャップ部12の第1区画室22の外周領域と、の中止軸X周りの同一同心円上で互いに合致する左右上下の4カ所をネジ締結部とした。ここで、上下のネジ締結部が60°の角度間隔を持つものとしている。
【0044】
絞り部材30は、その基部31の外周部で本体部10の排出口15に嵌合されており、基部31から管状部32が前方へ延在している。キャップ部12の本体部10への装着状態において、この管状部32が第1区画室22の内部に突出しており、その中空部が、第2区画室25の前方で縮径して連通する前方絞り流路24を形成している。
【0045】
従ってパイプ部材2は、第2区画室25と中間絞り流路26と第3区画室27とを含む貫通流路20全域わたって同軸状に挿通されると共に、更に絞り部材30の前方絞り流路24にも挿通された上で、そのパイプ先端が第1区画室22の突当り端面23に対して導入されてくる液体を噴出衝突可能な間隔Dをもって位置付けされた状態で保持されている。よって、前方絞り流路24及び貫通流路20のパイプ部材2の外周領域がポンプ吐出液体の逆流が流れる実質的な戻り流路となる。
【0046】
また、本実施形態では、絞り部材30は、基部31に、前方絞り流路24の後端から拡径するテーパ状部33を備えている。従って、第1区画室22から前方絞り流路24へ導入された逆流は、テーパ状部33によって第2区画室25内へ放射状に拡散される。
【0047】
第3区画室27に連通して液体を導出する導出流路21は、貫通流路20の中心軸Xと直交方向に分岐して延びて本体部10の外周面に導出口19を開口している。本実施兄弟では、導出口19には雌ねじ部が形成されており、この雌ねじ部に食い込み継手4が螺合固定されている。この食い込み継手4を介して、導出流路16が脈動低減済みの液体の移送先に連通する配管等に接続される。
【0048】
尚、本実施形態では、本体部10及びキャップ部12、絞り部材30、ボルト部材5及びパイプ部材2は、全て同じ材質としてSUS316又はSUS316Lを用いて製造されたものである。
【0049】
本実施形態によるポンプ脈動低減器は、定格圧力10~40MPaで、定格流量100~500mL/min程度の小型ポンプを対象として設計されたものであり、特に従来は対応できなかった流量100mL/min以下という極小流量においての脈動低減を可能としたものである。また、各部設計を適宜調整することによって、最大5L/minの定格容量のポンプに対しても適応可能にできる。
【0050】
パイプ部材2は、導入される流量範囲に適した管サイズのものが選択される。例えば、最大500mL/minの流量範囲(水ベース)であれば、管タイプ(1)1/8”OD(外径1/8インチ)で厚みt=0.8mmのSUS316製のものが好適である。またこれより大きい流量範囲として最大2L/minの流量範囲(水ベース)であれば、管タイプ(2)1/4”OD(外径1/4インチ)で厚みt=1.00mmのSUS316製のものが好適である。更に、異なる流量範囲においては、それに応じて適した別の管サイズのものが選択され得る。
【0051】
従って、ポンプ脈動低減器1の製造時において、前方絞り流路24及び中間絞り流路26が形成される際には、予め組み込まれるパイプ部材2の管サイズによって、そのパイプ径より適切に大きな寸法の内径Fを設定して加工される。
【0052】
また、第1区画室22と第2区画室25と第3区画室27との内容積は、これらがポンプ脈動低減器1の総内容積の殆どを占めるものであるため、実際に送液が行われる流量範囲によって決定される。本実施形態においては、ポンプ脈動低減器1の総内容積として、水ベースにおける対象ポンプによる定格流量の1/10~1/15を目安とし、更にできるだけ小さくできるようにスレショールドポイントを確認して決定した。
【0053】
実際の検証においては、定格流量100mL/min(水ベース)の場合は総内容積8~10mLが適切であることがわかった。第1区画室22と第2区画室25と第3区画室27の各内径と長さ寸法は、設定された適切な総内容積に基づいて、機械的強度と加工技術にコスト面を考慮して決定されている。
【0054】
上記構成を備えた本実施形態によるポンプ脈動低減器1では、以下のような流れに沿ってポンプ脈動が低減されていく。まず、ポンプ脈動低減器1の本体部10の貫通流路20に挿通保持されているパイプ部材2の後端に、対象ポンプ(不図示)から吐出されてくる液体Eが順流として導入されると、該液体Eはパイプ部材2内を前進し、
図4に示すようにパイプ先端から前方へ噴出される。
【0055】
そしてパイプ先端から噴出された液体Eは、キャップ部12の第1区画室22の突当り端面23に衝突し、跳ね返って流路が反転される。跳ね返った液体は、更に第1区画室22内で突当り端面23の周囲の内壁面にも衝突し、液体流れのエネルギーが低減されると共に急激に流速が低減された逆流E’として、戻り導管である絞り部材30の管状部32からなる前方絞り流路24内に流入される。
【0056】
前方絞り流路24内に流入された逆流E’は、
図5に示すように、パイプ部材2の外周領域をパイプ部材2の内部とは逆向きで後方へ進んでいきながら、前方絞り流路24の内壁面とパイプ部材2の外周面との間で衝突を繰り返すと共に互いに衝突し合うことによってさらなるエネルギーの低減が成される。
【0057】
前方絞り流路24を通過した逆流E’は、
図6に示すように、テーパ状部33に沿って第2区画室25内へ放射状に拡散され、その流速が更に増加すると共にエネルギーがより低減される。そして第2区画室25内へ導入された逆流E’は、ここでもパイプ部材2の外周領域にて第2区画室25の内壁面に衝突してエネルギーが低減されながら進み、その後端部壁面25bで中間絞り流路26の開口周辺に衝突してから中間絞り流路26内に縮流として導入される。
【0058】
中間絞り流路26内に導入された逆流E’は、パイプ部材2の外周領域にてその内壁面とパイプ部材2の外周面との間で衝突しながら進み、前方絞り流路24でのエネルギー低減とは異なる波長でエネルギーが低減される。そしてこの中間絞り流路26を通過した逆流E’は、
図7に示すように、第3区画室27内へ導入される。第3区画室27内へ導入された逆流E’は、この時点でかなり脈動が低減されており、ここで安定化されて導出流路21から出力される。出力液体E”は、当初の脈動が殆ど除去された状態で目的の位置まで安定的に移送される。
【実施例】
【0059】
本発明の実施例として、
図1のポンプ脈動低減器1による脈動低減効果の評価試験を行った。具体的には、ポンプ流体回路において、水を送液した出力流量を計測して脈動に相当する流量振幅のデータを取得するが、ポンプ脈動低減器の有無でその振幅の相違を比較するものである。異なる各ポンプ設定流量についてデータ取得した結果を
図8~12のグラフ図に示した。
【0060】
尚、本実施例では、ポンプ脈動低減器1として、管タイプ(1)であるSUS316製の1/8”OD(外径1/8インチ),厚みt=0.8mmのパイプ部材2を組み込んだものであり、総内容積を8~10mLとして設計されたもので評価試験を以下の通り行った。
【0061】
本実施例は、試験1として、ポンプの設定流量を0mL/minとして基本振幅のデータを取得してその結果を
図8に示し、更にポンプの設定流量を1mL/min,5mL/min,10mL/min,20mL/minとした場合をそれぞれ試験2,3,4,5として各結果を
図9,10,11,12に示すものである。
【0062】
試験条件は、ポンプとして、日本精密科学株式会社製のダブルプランジャ-ポンプNP-KX(FS:フリースケール20mL/min)を用いて流体回路を構成し、該流体回路の出力側にブロンコスト・ジャパン株式会社製のコリオリ流量計M13(FS100mL/min,精度±0.2%読値)を接続して経時的に流量計測を行った。
【0063】
本試験では、流量計測において電気的ノイズフィルターを外している。データ取得周期を50msとし、出力流量の計測値に基づいて設定流量に対する変位量%をデータとして取得していった。各試験の結果を示すグラフ図は、横軸を経過時間(1目盛り2秒)として、縦軸に、コリオリ流量計による計測値に基づいた設定流量(1目盛り1mL/min)に対する変位量の割合(1目盛り1%)のデータを脈動に相当する振幅として折れ線グラフに表記したものである。
【0064】
試験1~5の各ポンプ設定流量において、ポンプ吐出側流路にポンプ脈動低減器1を配さない場合を対照流体回路として、該対照流体回路の出力側でコリオリ流量計により流量計測を行うと共に、ポンプ吐出側流路にポンプ脈動低減器1を配した場合を脈動低減器付き流体回路として、該脈動低減器付き流体回路の出力側(ポンプ脈動低減器1より下流側)でコリオリ流量計により流量計測を行った。
【0065】
そして、それぞれの計測値に基づいて設定流量に対する変位量%をデータとして取得し、横軸の経過時間(s)に対して縦軸に取得データを表記することで振幅の折れ線グラフ図が得られる。これらの折れ線グラフを比較することで、ポンプ脈動低減器1の脈動低減効果を評価した。
【0066】
尚、各試験1~5においては、脈動低減器付き流体回路をベースとして、コリオリ流量計からの計測値に基づいてポンプに対する流量フィーバック制御を行った場合のデータも取得し、その振幅による折れ線グラフ図も得た。このフィードバック制御においては、ポンプ用ドライバからなる制御回路(24V電源,V/Aコンバータ搭載)によってポンプモータの駆動を制御し流量調整を行うものである。対象ポンプの各設定流量における評価結果は以下の通りである。
【0067】
<試験1>
まず、試験1として、設定流量を0mL/minで基本振幅のデータを取得した結果を
図8に示す。ここでは、対照流体回路の場合(グラフ
図8(a))及び脈動低減器付き流体回路の場合(グラフ
図8(b))とでほぼ変化なく、いずれも±0.4%の振幅としてのノイズ状況が見られた。また、脈動低減器付き流体回路をベースとしてポンプに対して流量フィードバック制御を行った場合(グラフ
図8(c))は±0.5%の振幅が見られた。これは、搭載電子機器が増えた分、ノイズ振幅が若干大きくなってしまったためと推察される。
【0068】
この試験1において見られた振幅は、電気的ノイズに加え、液体の移送出あるため完全静止はできないことから発生するノイズである。またこのノイズには、流量計誤差±0.2%RDに起因するものも更に含まれている。
【0069】
<試験2>
次に設定流量を1mL/minとした試験2についてデータを取得した結果を
図9に示す。ポンプ脈動低減器1のない対照流体回路の場合のグラフ
図9(a)では、+側により大きいピークが現れ、最大0.8%程度のピークを示す振幅が見られた。これに対して、脈動低減器付き流体回路の場合のグラフ
図9(b)では、その振幅が試験1における基本振幅程度まで小さくなっており、脈動が抑えられていることが示された。
【0070】
尚、脈動低減器付き流体回路をベースとしてポンプに対する流量フィードバック制御を行った場合をグラフ
図9(c)に示すが、ここでは、制御可能なレンジが1:10であったため、設定流量を2mL/minとしてデータを取得した。またグラフ上方にフィードバック信号Sを示す。この場合、グラフ
図9(b)に比べて少し振幅が大きくなっているが、これは0点での振幅をフィードバックしてしまっているためと考えられる。いずれにしても、1~2mL/minの極小流量において、ポンプ脈動低減器1によって振幅が抑えられ、脈動がほぼ除去されていることが示された。
【0071】
<試験3>
次に、設定流量を5mL/minとした試験3についてデータを取得した結果を
図10に示す。ポンプ脈動低減器1のない対照流体回路の場合では、
図10(a)に示すように、+側により大きいピークが現れており、最大2.8%程度のピークがある振幅、即ち脈動が見られた。これに対して、脈動低減器付き流体回路の場合のグラフ
図10(b)では、その振幅が試験1における基本振幅程度まで小さくなっており、脈動が抑えられていることが示された。ただし、全体的に設定流量から+側へ少し外れていた。
【0072】
これに対し、更にポンプの流量フィードバック制御を行った場合のグラフ
図10(c)では、振幅の大きさが同様に基本振幅程度に抑えられているだけでなく、その振幅は設定流量5mL/minを中心としたものであった。即ち、設定流量5mL/minという非常に小流量である場合において、ポンプ脈動低減器1によって振幅が小さく抑えられており、流量フィードバック制御が行われるポンプであってもポンプ脈動低減器1による脈動低減効果が十分に発揮されることが確認された。
【0073】
<試験4>
次に、設定流量を10mL/minとした試験4についてデータを取得した結果を
図11に示す。ポンプ脈動低減器1のない対照流体回路の場合では、
図11(a)に示すように、
図10(a)の場合より更に大きく頻繁にピークが現れる振幅がみられた。ここでも、+側により大きいピークが現れており、最大4%程度のピークがある振幅として、比較的大きな脈動が見られた。これに対して、脈動低減器付き流体回路の場合のグラフ
図11(b)では、その振幅が試験1における基本振幅程度まで小さくなっており、脈動が良好に抑えられていることが示された。しかし、やはり全体的に設定流量から+側へ少し外れていた。
【0074】
しかしながら、更にポンプの流量フィードバック制御を行った場合のグラフ
図11(c)では、振幅の大きさを同様に基本振幅程度に抑えながら、その振幅は設定流量10mL/minを中心としたものであった。即ち、設定流量10mL/minという小流量において、ポンプ脈動低減器1によって振幅が小さく抑えられており、流量フィードバック制御が行われるポンプであってもポンプ脈動低減器1による脈動低減効果が十分に発揮されることが確認された。
【0075】
<試験5>
次に、設定流量を20mL/minとした試験5についてデータを取得した結果を
図12に示す。ポンプ脈動低減器1のない対照流体回路の場合では、
図12(a)に示すように、
図11(a)の場合よりも更に狭い間隔でより大きいピークが現れる振幅が見られた。ここでも、+側により大きいピークが現れており、最大4.3%程度のピークがある激しい振幅として、激しい脈動が見られた。これに対して、脈動低減器付き流体回路の場合のグラフ
図12(b)では、その大きく激しい振幅が試験1における基本振幅程度まで小さくなっており、脈動が良好に抑えられていることが示された。しかし、全体的に設定流量から+側へ少し外れていた。
【0076】
しかし、更にポンプの流量フィードバック制御を行った場合のグラフ
図12(c)では、振幅の大きさを同様に基本振幅程度に抑えながら、その振幅は設定流量20mL/minを中心としたものであった。即ち、設定流量20mL/minという流量において、非常に激しい脈動が、ポンプ脈動低減器1によって小さく抑えられており、流量フィードバック制御が行われるポンプであってもポンプ脈動低減器1による脈動低減効果が十分に発揮されることが確認された。
【0077】
<試験全体>
以上の試験1~5における試験結果の全体として、
図8~12に示した試験1~5の取得データを横軸の経過時間(1目盛り10秒)を連続させてまとめて
図13に示した。
図13(a)は、はポンプ吐出側流路にポンプ脈動低減器を配さない対照流体回路における脈動に相当する振幅を示す折れ線グラフ、
図13(b)はポンプの吐出路にポンプ脈動低減器1を配した脈動低減器付き流体回路における脈動に相当する振幅を示す折れ線グラフである。
【0078】
図13の(a)と(b)とから明らかなように、本実施例において、1~20mL/minという非常に小さい流量範囲において、ポンプ脈動低減器1による十分な脈動低減効果が確認された。
【0079】
上記の実施例において、本発明のポンプ脈動低減器によれば、水ベースでの定格容量100mL/minの小型ポンプに対して、1~20mL/minという非常に少量の流量範囲において、優れた脈動低減効果が発揮されることが確認されたため、より大きい定格容量、例えば、2L/min、更には5L/minのポンプで、上記よりも大きい流量範囲においても、ポンプ脈動低減器組み込まれるパイプ部材の管サイズを始め、各部の設計寸法を適宜調整することによって、良好な脈動低減効果が期待できる。
【0080】
尚、以上の実施例においては、本体部貫通流路の中央絞り流路に加えて絞り部材により前方絞り流路がさらぬ配置されて2つのオリフィス効果により非常に優れた脈動低減効果が発揮された例を示したが、本発明においては、これに限られるものではない。即ち、絞り部材を用いず中央絞り流路による1つのオリフィス効果のみのより簡単な流路設計としても、流体の跳ね返り反転と衝突効果との組合せにより、ある程度の脈動低減効果が得られるため、対象とするポンプの流量範囲と脈動の程度によっては充分な場合もある。従って、対象ポンプ条件に応じた脈動低減効果に相当する流量設計を適宜選択することが可能である。
【符号の説明】
【0081】
1:ポンプ脈動低減器
2:パイプ部材
I:パイプ部材の内径
3:食い込み継手
4:食い込み継手
5:ボルト部材
6:Oリング
10:本体部
11:底面
12:キャップ部
13:底面
14:導入口
15:排出口
16:溝
17:雌ねじ穴
18:雌ねじ穴
19:導出口
20:貫通流路
X:中心軸
21:導出流路
22:第1区画室
23:突当り端面
D:間隔(パイプ先端から突当り端面)
24:前方絞り流路
25:第2区画室
25b:後端部壁面
26:中間絞り流路
27:第3区画室
F:前方絞り流路及び中間2絞り流路の内径
30:絞り部材
31:基部
32:管状部
33:テーパ状部
E:液体(順流)
E’:逆流
E”:出力液体
【要約】
【課題】可動部がなく使用が簡便な構成でありながら、小型ポンプからの比較的低圧、小流量領域における吐出液体の脈動を低減して送液できるポンプ脈動低減器の提供。
【解決手段】貫通流路(20)が形成されている本体部(10)とその排出口(15)周辺を密封して装着されるキャップ部(12)と貫通流路に挿入されてポンプからの吐出液体が導入されるパイプ部材(2)とを備えたポンプ脈動低減器(1)であって、キャップ部にパイプ部材の先端から噴出された液体(E)が跳ね返されて逆流となる第1区画室(22)を有し、本体部の貫通流路は、逆流(E')が導入される第2区画室(25)と中央絞り流路(26)と第3区画室(27)及び第3区画室から出力液体(E")を導出する導出流路(21)を有する。
【選択図】
図1