(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】粉末材料、積層造形物、および粉末材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20240514BHJP
C22C 19/05 20060101ALI20240514BHJP
B22F 3/105 20060101ALI20240514BHJP
B22F 3/16 20060101ALI20240514BHJP
B22F 9/08 20060101ALI20240514BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20240514BHJP
【FI】
B22F1/00 M
C22C19/05 Z
B22F3/105
B22F3/16
B22F9/08 A
B33Y80/00
(21)【出願番号】P 2019170114
(22)【出願日】2019-09-19
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】臼田 輝貴
(72)【発明者】
【氏名】山田 慎之介
(72)【発明者】
【氏名】大▲崎▼ 元嗣
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/049594(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/175563(WO,A1)
【文献】特表2016-505415(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106735273(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109986086(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108941589(CN,A)
【文献】滝川博,ArガスアトマイズされたNi基超合金粉末の特性,粉体および粉末冶金,日本,1986年07月,第33巻第5号,246-250,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspm1947/33/5/33_5_246/_pdf/-char/ja
【文献】H. Helmer et. al.,Grain structure evolution in Inconel 718 during selective electron beam melting,Materials Science & Engineering A,ELSEVIER,2016年05月14日,668,180-187,DOI:10.1016/J.MSEA.2016.05.046
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00 - 8/00
B22F 9/00 - 9/30
B22F 10/00 - 12/90
C22C 1/04 - 1/059
C22C 19/05
C22C 33/02
B33Y 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
介在物を含有するNi基合金のアトマイズ粉末よりなり、
含有される前記介在物の粒子数が、前記アトマイズ粉末の粒子10000個中に、100個以下であり、
前記Ni基合金は、質量%で、
50%≦Ni≦60%、
15%≦Cr≦25%、
0%<Mo≦5%、
0.1%≦Ti≦1.5%、
0.1%≦Al≦1.5%、
0%<Nb≦6%、
0.005%≦N≦0.05%
、
0%<Mn≦5%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物よりなり、
C≦0.08%、
O≦0.02%、
S≦0.03%であることを特徴とする粉末材料。
【請求項2】
前記介在物は、Al,Ti,Nbより選択される少なくとも1種の添加元素の酸化物または炭窒化物の少なくとも一方を含有することを特徴とする請求項1に記載の粉末材料。
【請求項3】
前記添加元素の炭窒化物を含有する前記介在物の方が、前記添加元素の酸化物を含有する前記介在物よりも数が少ないことを特徴とする請求項2に記載の粉末材料。
【請求項4】
前記添加元素の炭窒化物を含有する前記介在物の粒子数が、前記アトマイズ粉末の粒子10000個中に、10個以下であることを特徴とする請求項2または3に記載の粉末材料。
【請求項5】
前記介在物の粒径が30μm以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の粉末材料。
【請求項6】
前記アトマイズ粉末の粒子の円形度が、平均粒径において、0.90以上であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の粉末材料。
【請求項7】
さらに、質量%で、
0%<Si≦0.5%
、
0.5%≦Hf≦3%、
0.5%≦Zr≦3%、
0%<Co≦2%、
0%<Ta≦6%から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の粉末材料。
【請求項8】
前記介在物のうち、Al酸化物を含有する介在物の個数が、Ti酸化物を含有する介在物の個数の2.0倍以上である、請求項1から7のいずれか1項に記載の粉末材料。
【請求項9】
Nの含有量が、質量%で、0.011%≦N≦0.05%である、請求項1から8のいずれか1項に記載の粉末材料。
【請求項10】
介在物を含有するNi基合金よりなり、
断面において含有される前記介在物の数が、100個/mm
2以下であり、
前記Ni基合金は、質量%で、
50%≦Ni≦60%、
15%≦Cr≦25%、
0%<Mo≦5%、
0.1%≦Ti≦1.5%、
0.1%≦Al≦1.5%、
0%<Nb≦6%、
0.005%≦N≦0.05%
、
0%<Mn≦5%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物よりなり、
C≦0.08%、
O≦0.02%、
S≦0.03%であることを特徴とする積層造形物。
【請求項11】
前記介在物は、Al,Ti,Nbより選択される少なくとも1種の添加元素の酸化物または炭窒化物の少なくとも一方を含有することを特徴とする請求項
10に記載の積層造形物。
【請求項12】
前記添加元素の炭窒化物を含有する前記介在物の方が、前記添加元素の酸化物を含有する前記介在物よりも数が少ないことを特徴とする請求項
11に記載の積層造形物。
【請求項13】
前記添加元素の炭窒化物を含有する介在物の数が、10個/mm
2以下であることを特徴とする請求項
11または
12に記載の積層造形物。
【請求項14】
前記断面における前記介在物の粒径は、30μm以下であることを特徴とする請求項
10から
13のいずれか1項に記載の積層造形物。
【請求項15】
さらに、質量%で、
0%<Si≦0.5%
、
0.5%≦Hf≦3%、
0.5%≦Zr≦3%、
0%<Co≦2%、
0%<Ta≦6%から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項
10から
14のいずれか1項に記載の積層造形物。
【請求項16】
Nの含有量が、質量%で、0.01%≦N≦0.05%である、請求項10から15のいずれか1項に記載の積層造形物。
【請求項17】
不活性ガスを用いたガスアトマイズ法により、請求項1から
9のいずれか1項に記載の粉末材料を製造することを特徴とする粉末材料の製造方法。
【請求項18】
前記不活性ガスは、希ガスであることを特徴とする請求項
17に記載の粉末材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末材料、積層造形物、および粉末材料の製造方法に関し、さらに詳しくは、積層造形の原料として用いることができるNi基合金よりなる粉末材料、およびそのような粉末材料を用いて製造される積層造形物、またそのような粉末材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元造形物を製造する新しい技術として、付加製造技術(Additive Manufacturing;AM)の発展が近年著しい。付加製造技術の一種として、粉末材料のエネルギー線照射による固化を利用した積層造形法がある。金属粉末材料を用いた積層造形法としては、粉末積層溶融法と、粉末堆積法の2種が代表的である。
【0003】
粉末積層溶融法の具体例として、選択的レーザー溶融法(Selective Laser Melting;SLM)、電子線溶融法(Electron Beam Melting;EBM)等の方法を挙げることができる。これらの方法においては、金属よりなる粉末材料を、ベースとなる基材上に供給して粉末床を形成し、三次元設計データをもとに、粉末床の所定の位置に、レーザービーム、電子線等のエネルギー線を照射する。すると、照射を受けた部位の粉末材料が、溶融と再凝固によって固化し、造形物が形成される。粉末床への粉末材料の供給とエネルギー線照射による造形を繰り返し、造形物を層状に順次積層して形成していくことで、三次元造形物が得られる。一方、粉末堆積法の具体例としては、レーザー金属堆積法(Laser Metal Deposition;LMD)を挙げることができる。この方法においては、三次元造形物を形成したい位置に、ノズルを用いて金属粉末を噴射しながら、同時に、レーザービームの照射を行い、所望の形状を有する三次元造形物を形成する。特に、SLMは、設計自由度の高さ等から、精密かつ複雑な形状を有する部材の製造に好適に用いることができ、様々な分野への応用が期待されている。
【0004】
SLM法等の積層造形法は、種々の組成を有する粉末材料を原料として用いて、実施することができる。中でも、耐熱性や耐食性に優れたNi基合金の粉末を原料とした積層造形が、ロケットエンジンやタービン翼といった過酷な環境下で稼働する機器の製造に、用いられ始めている。積層造形用のNi基合金粉末は、例えば、下記の特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Ni基合金より構成される部材においては、金属酸化物や金属炭窒化物等の介在物が含有されると、その介在物が疲労亀裂の起点となり、疲労強度に影響を及ぼす可能性がある。Ni基合金よりなる部材を、積層造形法によって製造する場合にも、疲労強度の低下を抑制する観点から、製造される造形物において、介在物の含有量を低減することが望ましい。しかし、積層造形法においては、金属粉末をごく短時間で溶融させ、さらに凝固させるため、製造される造形物において、どのように介在物が生成し、また成長するのか、詳細が明らかになっていない。よって、積層造形物において、介在物の含有量を抑制する方法も、確立されていない。特許文献1においても、造形物に含有される介在物については、言及されていない。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、Ni基合金よりなる粉末材料を用いて積層造形を行う場合に、得られる積層造形物において、介在物の含有量を少なく抑えることができる粉末材料、およびそのように介在物の含有量が少なく抑えられた積層造形物、またそのような粉末材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明にかかる粉末材料は、介在物を含有するNi基合金のアトマイズ粉末よりなり、含有される前記介在物の粒子数が、前記アトマイズ粉末の粒子10000個中に、100個以下である。
【0009】
ここで、前記Ni基合金は、Al,Ti,Nbより選択される少なくとも1種の添加元素を含有し、前記介在物は、前記添加元素の酸化物または炭窒化物の少なくとも一方を含有するとよい。この場合に、前記添加元素の炭窒化物を含有する前記介在物の方が、前記添加元素の酸化物を含有する前記介在物よりも数が少ないとよい。また、前記添加元素の炭窒化物を含有する前記介在物の粒子数が、前記アトマイズ粉末の粒子10000個中に、10個以下であるとよい。
【0010】
前記介在物の粒径が30μm以下であるとよい。また、アトマイズ粉末の粒子の円形度が、平均粒径において、0.90以上であるとよい。
【0011】
前記Ni基合金は、質量%で、50%≦Ni≦60%、15%≦Cr≦25%、0%<Mo≦5%、0.1%≦Ti≦1.5%、0.1%≦Al≦1.5%、0%<Nb≦6%、0.005%≦N≦0.05%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなり、C≦0.08%、O≦0.02%、S≦0.03%であるとよい。この場合、さらに、質量%で、0%<Si≦0.5%、0%<Mn≦5%、0.5%≦Hf≦3%、0.5%≦Zr≦3%、0%<Co≦2%、0%<Ta≦6%から選択される少なくとも1種を含有するとよい。
【0012】
本発明にかかる積層造形物は、介在物を含有するNi基合金よりなり、断面において含有される前記介在物の数が、100個/mm2以下である。
【0013】
ここで、前記Ni基合金は、Al,Ti,Nbより選択される少なくとも1種の添加元素を含有し、前記介在物は、前記添加元素の酸化物または炭窒化物の少なくとも一方を含有するとよい。この場合に、前記添加元素の炭窒化物を含有する前記介在物の方が、前記添加元素の酸化物を含有する前記介在物よりも数が少ないとよい。また、前記添加元素の炭窒化物を含有する介在物の数が、10個/mm2以下であるとよい。前記断面における前記介在物の粒径は、30μm以下であるとよい。
【0014】
前記Ni基合金は、質量%で、50%≦Ni≦60%、15%≦Cr≦25%、0%<Mo≦5%、0.1%≦Ti≦1.5%、0.1%≦Al≦1.5%、0%<Nb≦6%、0.005%≦N≦0.05%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなり、C≦0.08%、O≦0.02%、S≦0.03%であるとよい。この場合、さらに、質量%で、0%<Si≦0.5%、0%<Mn≦5%、0.5%≦Hf≦3%、0.5%≦Zr≦3%、0%<Co≦2%、0%<Ta≦6%から選択される少なくとも1種を含有するとよい。
【0015】
本発明にかかる粉末材料の製造方法は、不活性ガスを用いたガスアトマイズ法により、前記粉末材料を製造するものである。
【0016】
ここで、前記不活性ガスは、希ガスであるとよい。
【発明の効果】
【0017】
上記発明にかかる粉末材料は、Ni基合金のアトマイズ粉末よりなっており、SLM等の積層造形の原料として、好適に用いることができる。また、介在物の含有量が、アトマイズ粉末の粒子10000個中に100個以下に抑えられていることにより、製造される積層造形物において、介在物の含有量を少なく抑えることができる。その結果、積層造形物において、介在物の存在に起因する疲労強度の低下を、抑制することができる。発明者らの研究により、Ni基合金粉末を原料とする積層造形の工程においては、介在物の生成や成長が実質的に起こらず、原料粉末に含有される介在物の量により、得られる積層造形物中の介在物の量がほぼ決まることが明らかになった。よって、原料となる粉末材料中の介在物の含有量を上記の水準に抑えておくことで、製造される積層造形物において、介在物の含有量を、十分に少なく抑えることができる。
【0018】
ここで、Ni基合金が、Al,Ti,Nbより選択される少なくとも1種の添加元素を含有し、介在物が、添加元素の酸化物または炭窒化物の少なくとも一方を含有する場合には、それらの添加元素がNi基合金に含有されることで、製造される積層造形物において、材料強度を高めることができる。一方で、それらの添加元素は、酸化物や炭窒化物を形成しやすいが、上記発明にかかる粉末材料においては、介在物の含有量が制限されることにより、それらの添加元素の酸化物や炭窒化物を含有する介在物が、積層造形物において、疲労強度の低下等に寄与することが、十分に抑制される。
【0019】
この場合に、上記添加元素の炭窒化物を含有する介在物の方が、添加元素の酸化物を含有する介在物よりも数が少なければ、介在物全体の含有量を、効果的に低減することができる。金属酸化物を含有する介在物は、アトマイズ法によってNi基合金よりなる粉末材料を製造する際に、ある程度不可避的に生成してしまうが、金属炭窒化物を含有する介在物の含有量は、粉末材料の製造条件や成分組成によって、比較的低減しやすいからである。
【0020】
また、上記添加元素の炭窒化物を含有する介在物の粒子数が、アトマイズ粉末の粒子10000個中に、10個以下であれば、粉末材料における金属炭窒化物を含有する介在物の含有量が、十分少量に抑えられ、ひいては介在物全体の含有量が、少なく抑えられる。
【0021】
介在物の粒径が30μm以下である場合には、製造される積層造形物において、介在物の影響を、特に効果的に抑制することができる。
【0022】
また、アトマイズ粉末の粒子の円形度が、平均粒径において、0.90以上である場合には、円形度が高くなっていることにより、粉末材料において、高い流動性や充填性が得られる。よって、粉末材料を積層造形の原料として好適に用い、緻密な組織を有する高品質の積層造形物を製造することができる。
【0023】
Ni基合金が、上記成分組成を有する場合には、金属酸化物や炭窒化物を含有する介在物の含有量を少なく抑えやすい。加えて、材料強度の高さ等により、粉末材料を積層造形の原料として好適に用い、高品質の積層造形物を得ることができる。
【0024】
上記発明にかかる積層造形物は、Ni基合金よりなっており、介在物の含有量が、断面において、100個/mm2以下に抑えられている。よって、耐熱性や耐食性に優れ、かつ介在物の存在による疲労強度の低下が抑えられた積層造形物となる。発明者らが明らかにしたように、Ni基合金よりなる積層造形物を製造する際には、積層造形の工程において、介在物の生成や成長は、ほぼ起こらない。よって、上記発明にかかる粉末材料のように、介在物の含有量が少なく抑えられたNi基合金粉末を原料として積層造形物を行うことで、積層造形工程において、特殊な処理等を行わなくても、積層造形物における介在物の含有量を、100個/mm2以下のように、少なく抑えることができる。
【0025】
上記発明にかかる粉末材料の製造方法においては、不活性ガスを用いたアトマイズ法により、Ni基合金よりなる粉末材料を製造する。よって、清浄度や円形度に優れた、積層造形の原料として好適に用いうる粉末材料を、製造することができる。特に、金属酸化物や炭窒化物をはじめとする介在物の含有量を効果的に抑制し、粉末材料の清浄度を高めることができる。
【0026】
この場合に、不活性ガスとして希ガスを用いると、介在物の含有量を、特に少なく抑えることができる。中でも、不活性ガスとして窒素ガスを用いる場合と比較して、金属炭窒化物を含有する介在物の含有量を、顕著に少なく抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】(a)粉末材料Aおよび(b)粉末材料BのSEM像である。
【
図3】(a)造形物Aおよび(b)造形物Bの断面の光学顕微鏡像である。
【
図4】各試料について、狭い視野でのSEM-EDX観察結果に基づいて、介在物のSEM像、個数、最大寸法および種類をまとめたものである。
【
図5】バルク材および造形物A,Bについて、広い視野でのSEM-EDX観察結果に基づいて、断面積1mm
2あたりの介在物の個数を示している。
【
図6】(a)造形物Aおよび(b)造形物Bについて、広い視野でのSEM-EDX観察結果に基づいて、介在物の個数分布を、寸法ごとに分類して示している。
【
図7】各試料について、抽出残渣法によって介在物として検出された、AlおよびTiの含有量を示している。
【
図8】各試料について、抽出残渣法によって検出された介在物のうち、最大寸法を有するものについて、SEM像と寸法を示している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明の実施形態にかかる粉末材料、積層造形物、および粉末材料の製造方法について、詳細に説明する。本発明の実施形態にかかる粉末材料は、積層造形の原料に好適に用いることができる。また、本発明の実施形態にかかる積層造形物は、そのような粉末材料を用いて、好適に製造することができる。
【0029】
[粉末材料]
最初に、本発明の一実施形態にかかる粉末材料について説明する。本実施形態にかかる粉末材料は、Ni基合金よりなる粒子の集合体よりなっており、アトマイズ粉末、つまりアトマイズ法によって製造された粉末材料として構成されている。本実施形態にかかる粉末材料は、積層造形、特にSLMの原料として用いることが想定されている。
【0030】
本実施形態にかかる粉末材料を構成するNi基合金の具体的な合金組成は、介在物の含有量を、次に説明する上限以下に抑えることができるものであれば、特に限定されるものではない。合金組成の一例を後に詳しく説明するが、Ni基合金は、Al,Ti,Nbより選択される少なくとも1種の添加元素(以降、特定添加元素と称する場合がある)を含有することが好ましい。これら特定添加元素は、得られる積層造形物において、材料強度を高める効果を有する。特定添加元素は、2種以上、さらには3種全てが含有されると、より好ましい。
【0031】
本実施形態にかかる粉末材料は、不可避的に、介在物を含有している。介在物は、金属酸化物や金属炭窒化物(炭化物および窒化物を含む;以下においても同様)等、金属の化合物の粒状体よりなっており、Ni基合金の粒子の内部に包含される形で、粉末材料に含有されている。しかし、本実施形態にかかる粉末材料においては、介在物の含有量が、アトマイズ粉末の粒子10000個あたり、100個以下に抑えられている。さらに好ましくは、その含有量は、70個以下、50個以下に抑えられているとよい。
【0032】
粉末材料において、介在物の含有量が少なく抑えられることにより、その粉末材料を用いて製造される積層造形物において、介在物の含有量を、少なく抑えることができる。特に、後の実施例において示すように、Ni基合金よりなる粉末材料を用いて、SLMをはじめとする積層造形を実施する場合には、レーザービーム等のエネルギー線の照射によって粉末材料を高速で溶融させ、再凝固させる工程において、介在物の生成や成長が、実質的に起こらない。よって、原料である粉末材料に含有されていた介在物が、ほぼそのままの量および形態で、製造される積層造形物に含有されることになる。つまり、粉末材料における介在物の含有量を少なく抑えておくことで、製造される積層造形物において、介在物の含有量を少なく抑えることができる。粉末材料における介在物の含有量を、アトマイズ粉末の粒子10000個あたり、100個以下に抑えておけば、例えば、製造される積層造形物において、断面における介在物の含有量を、100個/mm2以下に抑えることが可能となる。
【0033】
粉末材料に含有される介在物の含有量が、上記の上限以下に抑えられていれば、各介在物の粒子は、どのような大きさであってもよい。しかし、介在物の粒径は、典型的にはミクロンオーダーである。介在物の粒径(面積円相当径;以下においても同じ)が、30μm以下に抑えられていれば、粉末材料を用いて製造される積層造形物において、介在物の影響を、特に効果的に抑制することができる。介在物の粒径は、10μm以下であると、さらに好ましい。
【0034】
粉末材料に含有される介在物の総量が、上記の上限以下に抑えられていれば、介在物の種類や含有量の内訳は、特に限定されるものではない。しかし、Ni基合金が上記特定添加元素を含む場合に、それら特定添加元素は、酸化物や炭窒化物を形成しやすく、粉末材料中に、介在物として、それら特定添加元素の酸化物および/または炭窒化物が含有されやすい。その場合に、特定添加元素の炭窒化物を含有する介在物の個数が、特定添加元素の酸化物を含有する介在物の個数よりも、少ないことが好ましい。特定添加元素の酸化物は、粉末材料の成分組成や製造方法等によらず、ある程度の量で粉末材料に含有されうるものであるのに対し、特定添加元素の炭窒化物の含有量は、粉末材料の成分組成や製造方法等によって、大きく変動する可能性がある。そこで、炭窒化物の含有量を少なく抑えることにより、介在物全体の含有量を、効果的に低減し、製造される積層造形物において、疲労特性の向上を図ることができる。なお、後の実施例に示すように、特定添加元素の酸化物を含有する介在物は、ほぼ特定添加元素の酸化物のみよりなっており、特定添加元素の炭窒化物を含有する介在物は、ほぼ特定添加元素の炭窒化物のみよりなっている。成分ごとの介在物の個数の比較は、例えば、アトマイズ粉末の粒子10000個あたりに含有される介在物のように、統計的に十分な個数の介在物を対象として、行うことが好ましい。
【0035】
さらに好ましくは、特定添加元素の炭窒化物を含有する介在物の個数が、特定添加元素の酸化物を含有する介在物の個数の50%以下、さらには20%以下、10%以下であるとよい。また、炭窒化物を含有する介在物の個数は、アトマイズ粉末の粒子10000個あたりの個数で、20個以下、さらには10個以下、5個以下であることが好ましい。特定添加元素の炭窒化物を含有する介在物の含有量をこれらの水準以下に抑えておけば、酸化物よりなる介在物も合わせた、介在物全体としての含有量も、効果的に低減することができる。
【0036】
特定添加元素のうち、AlおよびTi、特にAlが酸化物を形成しやすい。一方、特定添加元素のうち、TiおよびNbが、炭窒化物、特に窒化物を構成しやすい。特定添加元素の酸化物および炭窒化物において、それぞれを構成する化合物の内訳は、特に限定されるものではないが、酸化物において、Al2O3等、Al酸化物を含有する介在物の個数が、TiO2等、Ti酸化物を含有する介在物の個数よりも、多いことが好ましい。さらに好ましくは、両者の個数比が、[Al酸化物]/[Ti酸化物]の比率で、2.0以上であるとよい。この個数比が2.0以上である場合には、AlやTiが、介在物の形成よりも、γ’相の析出硬化に寄与しやすくなる。
【0037】
粉末材料に含有される介在物の個数や形状は、走査電子顕微鏡(SEM)によって、評価することができる。例えば、粉末材料を樹脂に包埋して切断することで、断面試料を作成し、その断面試料における介在物を観察すればよい。介在物の組成の解析は、断面試料に対して、SEMを用いたエネルギー分散型X線分析(SEM-EDX)によって行うことができる。
【0038】
なお、介在物とは、上記でも説明したように、粉末材料の内部に含有された粒状の酸化物や炭窒化物等の金属化合物を指し、粉末材料を構成するアトマイズ粒子の表面を、厚さ10nmオーダーの薄い膜の状態で被覆する、酸化膜等の化合物膜は、介在物の数や状態の評価において、介在物として考慮されるものとはならない。積層造形工程において、粉末材料の高速での溶融および凝固を経た際に、ミクロンオーダーの粒状体よりなる介在物は、製造される積層造形物に、ほぼそのまま含有されるのに対し、粒子表面の薄い化合物膜は、粉末材料の溶融時に、ガス化して、製造される積層造形物にはほとんど残らず、積層造形物の特性に、ほぼ影響を与えないからである。
【0039】
本実施形態にかかる粉末材料は、アトマイズ粉末として構成されているが、アトマイズ粉末の特徴として、次に述べるように、不活性ガスを用いたガスアトマイズ法の利用等により、清浄度を高めやすいことに加え、円形度を高めやすいことを挙げることができる。本実施形態にかかる粉末材料においては、粒子の円形度が、平均粒径(D50)において、0.88以上、さらには0.90以上であることが好ましい。円形度の高い粉末材料を用いて積層造形を行えば、粉末材料の流動性や充填性の高さにより、製造される積層造形物において、相対密度を高め、緻密な組織を得ることができる。
【0040】
本実施形態にかかる粉末材料の粒径は、特に限定されるものではないが、積層造形の原料として好適に用いる観点から、D90径で、150μm以下であることが好ましい。さらに詳しくは、積層造形の中でも、SLMに用いる場合には、その粒径(D90径)は、40~80μmであることが好ましく、EBMに用いる場合には、80~100μmであることが好ましく、LMDに用いる場合には、90~140μmであることが好ましい。
【0041】
[粉末材料の製造方法]
上記実施形態にかかる粉末材料は、アトマイズ粉末として構成されており、所定の成分組成を有する合金溶湯を原料として、アトマイズ法を実施することで、製造することができる。アトマイズ法としては、ガスアトマイズ法、ディスクアトマイズ法、水アトマイズ法等、任意の方法を用いることができる。しかし、介在物の含有量の少なさに代表されるように、清浄度が高く、さらに円形度が高い、ミクロンオーダーの粒径を有する粉末材料を好適に製造する観点から、不活性ガスを用いたガスアトマイズ法を用いることが好ましい。
【0042】
ガスアトマイズ法において用いる不活性ガスとしては、窒素ガス、または希ガスを例示することができる。いずれの不活性ガスを用いる場合にも、粉末材料における介在物の生成、特に金属酸化物を含有する介在物の生成を、少なく抑えることができる。しかし、アルゴンガスに代表される希ガスを用いることで、介在物の生成を、特に効果的に抑制することができる。中でも、窒素ガスを用いる場合と比較して、金属炭窒化物を含有する介在物の生成量を、少なく抑えやすい。その結果として、介在物全体の含有量が少なく抑えられた、清浄度の高い粉末材料を、好適に製造することができる。
【0043】
アトマイズ法によって製造した粉末材料に対しては、適宜、分級を行って、粒径を選別してもよい。また、アトマイズ法によって製造した粉末材料に、適宜、化学処理を施してもよい。
【0044】
[積層造形物]
次に、本発明の一実施形態にかかる積層造形物について説明する。積層造形物は、粉末材料を原料とし、SLM、EBM、LBM等の積層造形法によって、エネルギー線の照射による粉末材料の溶融と再凝固を経て、所定の形状に成形されたものである。本実施形態にかかる積層造形物は、上記で詳細に説明した本発明の実施形態にかかる粉末材料を原料として、好適に製造することができる。
【0045】
本実施形態にかかる積層造形物は、Ni基合金よりなっている。Ni基合金の具体的な合金組成は、介在物の含有量を、次に説明する上限以下に抑えることができるものであれば、特に限定されるものではない。合金組成の一例を後に詳しく説明するが、Ni基合金は、特定添加元素、つまりAl,Ti,Nbより選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。これら特定添加元素を含有することで、積層造形物の材料強度が高められる。特定添加元素は、2種以上、さらには3種全てが含有されると、より好ましい。積層造形物における合金組成は、おおむね、原料として用いる粉末材料の合金組成と同じとなる。
【0046】
本実施形態にかかる積層造形物は、不可避的に、介在物を含有している。介在物は、Ni基合金の組織中に分散されて、積層造形物に含有されている。しかし、本実施形態にかかる積層造形物においては、介在物の含有量(密度)が、積層造形物の断面において、100個/mm2以下に抑えられている。さらに好ましくは、その含有量は、70個以下/mm2、50個/mm2以下に抑えられているとよい。積層造形物において、介在物の数を評価する断面は、任意の位置、任意の方向に、設定すればよい。
【0047】
Ni基合金よりなる積層造形物は、高い耐食性や耐熱性を有するため、ロケットエンジンやタービン翼等、過酷な環境に晒される部材として、好適に用いることができる。しかし、Ni基合金よりなる積層造形物に、金属酸化物や金属炭窒化物等を含む介在物が含有されると、介在物が疲労亀裂の起点となる可能性があり、積層造形物の疲労特性を低下させる可能性がある。特に、タービン翼等において、低サイクル疲労が問題となりやすい。そこで、Ni基合金よりなる積層造形物において、介在物の含有量を少なく抑えることにより、疲労強度の低下を、抑制することができる。上記のように、積層造形物の断面における介在物の数を、100個/mm2以下に抑えておくことで、積層造形物の疲労強度の低下を、効果的に抑制することができる。
【0048】
積層造形物に含有される介在物の含有量が、上記の上限以下に抑えられていれば、各介在物は、どのような大きさであってもよい。しかし、介在物の粒径は、典型的にはミクロンオーダーである。介在物の粒径が、30μm以下に抑えられていれば、積層造形物において、介在物の影響を、特に効果的に抑制することができる。介在物の粒径は、10μm以下であると、さらに好ましい。
【0049】
積層造形物に含有される介在物の総量が、上記の上限以下に抑えられていれば、介在物の種類や含有量の内訳は、特に限定されるものではない。しかし、Ni基合金が上記特定添加元素を含む場合に、それら特定添加元素は、酸化物や炭窒化物を形成しやすく、積層造形物中に、介在物として、それら特定添加元素の酸化物および/または炭窒化物が含有されやすい。その場合に、特定添加元素の炭窒化物を含有する介在物の個数が、特定添加元素の酸化物を含有する介在物の個数よりも、少ないことが好ましい。後の実施例において明確に示されるように、Ni基合金粉末を原料として積層造形を実施する場合には、積層造形工程において、介在物の生成や成長は実質的に起こらず、原料たる粉末材料に含有される介在物が、ほぼそのままの含有量および形態で、積層造形物に引き継がれるが、上記で本発明の実施形態にかかる粉末材料について説明したように、粉末材料において、炭窒化物を含有する介在物の含有量を少なく抑えることにより、介在物全体の含有量を、効果的に低減することができる。なお、積層造形物においても、特定添加元素の酸化物を含有する介在物は、ほぼ特定添加元素の酸化物のみよりなっており、特定添加元素の炭窒化物を含有する介在物は、ほぼ特定添加元素の炭窒化物のみよりなっている。積層造形物において、成分ごとの介在物の個数の比較は、例えば、積層造形物の断面の1mm2あたりに含有される介在物の個数ように、統計的に十分な個数の介在物を対象として、行うことが好ましい。
【0050】
さらに好ましくは、特定添加元素の炭窒化物を含有する介在物の個数が、特定添加元素の酸化物を含有する介在物の個数の50%以下、さらには20%以下、10%以下であるとよい。また、炭窒化物を含有する介在物の個数は、50個/mm2以下、さらには20個/mm2以下、10個/mm2以下であることが好ましい。特定添加元素の炭窒化物を含有する介在物の含有量をこれらの水準以下に抑えておけば、介在物全体の含有量も、効果的に低減することができる。
【0051】
なお、以下に説明するように、積層造形の原料として用いる粉末材料中において、アトマイズ粉末の粒子10000個に含まれる介在物の個数と、積層造形物の断面において1mm2の領域に含まれる介在物の個数を、ほぼ同等のものとして対応づけることができる。粉末材料における粉末粒子の粒径は、小さいもので5μm以下、大きいもので90~150μm程度であるが、平均粒径は、10~20μm程度である。この粒子を、縦100個×横100個で合計10000個配列すると、粒子の集合体が占める領域の面積は、1mm×1mm=1mm2となる。つまり、粉末材料の粒子10000個と、積層造形物の断面積1mm2を、ほぼ同等の領域を占めるとみなすことができる。よって、上記で説明した本発明の実施形態にかかる、アトマイズ粉末の粒子10000個あたりの介在物の個数が100個以下に抑えられた粉末材料を用いることで、断面における介在物の個数が100個/mm2以下となった積層造形物を、好適に製造することができる。
【0052】
積層造形物に含有される介在物の個数や形状は、SEMによって、評価することができる。例えば、積層造形物を任意の位置および方向において切断することで、断面試料を作成し、その断面試料における介在物を観察すればよい。介在物の組成の解析は、断面試料に対して、SEM-EDXによって行うことができる。SEM-EDXを用いた評価は、任意の観察視野において行っても、自動測定により、断面の広い領域に対して、連続的に行ってもよい。
【0053】
本実施形態にかかる積層造形物は、相対密度が、98%以上となっていることが好ましい。積層造形物の相対密度が高いほど、組織が緻密になり、積層造形物の強度が高くなる。特に、本実施形態においては、積層造形物において、上記のように、介在物の含有量が少なく抑えられ、高い清浄度を有することに加え、高い相対密度を有することで、機械的強度に優れた高品質の積層造形物とすることができる。積層造形物の相対密度は、例えば、原料の粉末材料として、円形度の高いものを用いることにより、効果的に高めることができる。
【0054】
さらに、積層造形物の材料強度を高める観点から、積層造形物の硬さは、250HV以上であることが好ましい。硬さは、280HV以上、さらには300HV以上であると、さらに好ましい。
【0055】
積層造形法によって製造された積層造形物は、積層造形物の断面に形成された微細組織により、鋳造等を経て製造されたバルク材と、区別することができる。例えば、SLM法によって製造された積層造形物は、微細組織として、レーザースキャン時に形成される溶融プールに由来して、レーザースキャン方向に沿って波状に形成される溶融ビードと、その溶融ビードをまたぐようにエピタキシャル成長した結晶組織によって、特徴づけられる。一方、Ni基合金のバルク材は、比較的粒径が揃った等方性の高い微結晶の集合体によって特徴づけられる。
【0056】
そして、Ni基合金よりなる積層造形物においては、同じ材料よりなるバルク材に比べて、介在物の含有量が少なく抑えられる。特に、金属炭窒化物を含む介在物の含有量が、少なく抑えられる。バルク材における介在物の含有量は、断面において、おおむね、250~400個/mm2程度である。
【0057】
[粉末材料および積層造形物の合金組成]
本発明の実施形態にかかる粉末材料および積層造形物は、Ni基合金よりなっており、それぞれ、介在物の含有量が、上記の上限以下に抑えられる限りにおいて、具体的な成分組成は特に限定されるものではないが、介在物の含有量を効果的に抑制することができ、かつ材料強度等の諸特性に優れるNi基合金の成分組成の一例を、成分組成Aとして、以下に示す。
【0058】
積層造形の工程においては、エネルギー線の照射により、粉末材料が瞬時に溶融した後、高速で再凝固する。この工程で、金属成分の組成には、実質的に変化は起こらない。また、後の実施例によって実証されるように、Ni基合金粉末を原料として積層造形を実施する場合には、積層造形工程において、介在物の含有量および状態に実施的な変化が起こらず、OやN、C等、非金属元素の含有量も、実質的に変化しない。よって、Ni基合金の成分組成は、粉末材料と、その粉末材料を用いて製造される積層造形物において、実質的に同じとなる。以下に例示する成分組成Aも、粉末材料と積層造形物の両方について、好適な成分組成となる。
【0059】
成分組成AにかかるNi基合金は、Ni,Cr,Mo,Ti,Al,Nb,Nを下記の所定量含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる。また、C,O,Sの含有量が、下記所定の上限以下に制限されている。
【0060】
以下、成分組成Aにおける各成分元素の含有量とその規定理由を説明する。各成分元素の含有量の単位は、質量%とする。また、各成分元素の含有量は、介在物も含めて、粉末材料および積層造形物全体として規定されるものである。
【0061】
(1)50%≦Ni≦60%
Niは、本合金の主成分となるものである。Ni基合金は、高い耐熱性および耐食性を示す。Niの含有量は、55%以下であると、より好ましい。
【0062】
(2)15%≦Cr≦25%
Crは、合金の固溶強化と耐酸化性の向上に寄与する元素である。それらの効果を十分に得る観点から、Crの含有量は、15%以上とされ、17%以上であると、より好ましい。一方、Crを多量に添加しすぎると、δ相が生成し、Ni基合金の高温強度および靭性が低下する。そこで、Crの含有量は、25%以下とされ、21%以下であると、より好ましい。
【0063】
(3)0%<Mo≦5%
Moは、合金の固溶強化に寄与し、合金の強度を高めるのに有効な元素である。Moは少量でも大きな添加効果を発揮するため、Moの含有量には、特に下限は設けられないが、0.1%以上であると、好ましい。一方、Moを多量に含有させすぎると、Ni基合金において、μ相やσ相の生成を助長し、脆化の一因となる。よって、Moの含有量は、5%以下とされ、3.5%以下であると、より好ましい。
【0064】
(4)0.1%≦Ti≦1.5%
Tiは、Ni基合金において、γ’相を形成し、クリープ破断強さと耐酸化性を上げる元素である。それらの効果を十分に得る観点から、Tiの含有量は、0.1%以上とされる。一方、Tiを多量に含有させすぎると、高温割れが発生しやすくなり、積層造形時の割れの一因となる。それを避ける観点から、Tiの含有量は、1.5%以下とされる。また、Tiは、合金中に、Nとともに含有されると、TiN等の介在物を生成する。さらに、Oとともに含有されると、TiO2等の介在物を形成する。それらのような介在物の生成を抑える観点からも、Tiの含有量は、1.5%以下とされる。
【0065】
(5)0.1%≦Al≦1.5%
Alも、Tiと同様に、γ’相を形成し、クリープ破断強さと耐酸化性を上げる元素である。それらの効果を十分に得る観点から、Alの含有量は、0.1%以上とされる。一方、Alも、多量に含有させすぎると、高温割れが発生しやすくなり、積層造形時の割れの一因となる。それを避ける観点から、Alの含有量は、1.5%以下とされる。また、Alは、合金中に、Oとともに含有されると、Al2O3等の介在物を形成する。そのような介在物の生成を抑える観点からも、Alの含有量は、1.5%以下とされる。
【0066】
(6)0%<Nb≦6%
Nbは、Ni基合金において、炭窒化物を形成するとともに、γ’相を形成し、合金の強度を向上させる役割を果たす。Nbは少量添加するだけでも高い効果を示すので、Nbの含有量には、下限は特に設けられないが、4.0%以上であると、好ましい。一方、Nbを多量に含有させすぎても、ラーベス層を生成し、かえって強度を低下させる。よって、Nbの含有量は、6%以下とされ、5.5%以下であると、より好ましい。
【0067】
(7)0.005%≦N≦0.05%
Nは、Niの固溶強化に寄与することにより、積層造形物の硬さを向上させる効果を有する。その効果を十分に得る観点から、Nの含有量は0.005%以上とされる。一方、Nを多量に含有させすぎると、Ni基合金の延性が低下して、割れを助長する。また、金属窒化物等、介在物の生成も助長する。それらの現象を抑制する観点から、Nの含有量は、0.05%以下とされる。
【0068】
成分組成AにかかるNi基合金は、上記所定量のNi,Cr,Mo,Ti,Al,Nb,Nを含有し、残部は、Feと不可避的不純物よりなる。ここで、不可避的不純物としては、以下のような元素および上限量が想定される。
【0069】
(8)C≦0.08%
Cは、Ni基合金において、金属炭化物等の介在物を形成する。介在物の生成量を十分に少なく抑える観点から、Cの含有量は、0.08%以下に抑えられる。
【0070】
(9)O≦0.02%
Oは、Fe,Ti,Al等と酸化物を形成し、強度や靱性の低下を引き起こす可能性がある。酸化物の形成を抑制する観点から、Oの含有量は、0.02%以下とされる。
【0071】
(10)S≦0.03%
Sは、MnS等の介在物を形成する。それら介在物の生成を抑える観点から、Sの含有量は、0.03%以下とされる。
【0072】
成分組成AにかかるNi基合金は、上述した各元素に加えて、さらに、以下の元素から選択される少なくとも1種の元素を任意に含有していても良い。
【0073】
(11)0%<Si≦0.5%
(12)0%<Mn≦5%
SiおよびMnは、粉末材料を製造する際の溶解時に、脱酸剤として働くとともに、高温での耐酸化性を付与する元素である。SiおよびMnは少量添加するのみでも、それらの効果を高く発揮するので、含有量に下限は特に設けられない。一方、SiやMnを多量に含有させすぎると、高温での耐酸化性がかえって低下するため、それぞれの含有量は、0.5%以下とされる。
【0074】
(13)0.5%≦Hf≦3%
Hfは、Ni基合金の耐酸化性を向上させる効果を有する。その効果を十分に得る観点から、Hfの含有量は、0.5%以上とされる。一方、Hfを多量に含有させすぎると、脆化相を形成し、強度および靱性を低下させる。それらの事態を避ける観点から、Hfの含有量は、3%以下とされる。
【0075】
(14)0.5%≦Zr≦3%
Zrは、Ni基合金において、粒界に偏析して、クリープ強度を高めるのに効果を有する。その効果を十分に得る観点から、Zrの含有量は、0.5%以上とされる。一方、Zrを多量に含有させすぎると、靱性が低下するので、Zrの含有量は、3%以下とされる。
【0076】
(15)0%<Co≦2%
Coは、γ’相のNi固溶体に対する溶解度を上昇させ、高温延性と高温強度を高める効果を有する。Coは、少量を添加するのみでも、それらの効果を発揮するため、Coの含有量に、下限は特に設けられない。一方、Coを多量に含有させすぎると、Ni基合金の脆化が起こるため、Coの含有量は、2%以下とされる。
【0077】
(16)0%<Ta≦6%
Taは、γ’相を強化し、Ni基合金の強度を向上させる効果を有する。Taは、少量を添加するのみでも、それらの効果を発揮するため、Taの含有量に、下限は特に設けられない。一方、Taを多量に含有させすぎると、ラーベス相が生成して強度をかえって低下させるため、Taの含有量は、6%以下とされる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。
【0079】
[1]粉末材料および積層造形物における介在物の量および状態
ここでは、Ni基合金よりなる粉末材料と、それを用いて製造される積層造形物において、介在物の含有量について、また、それら介在物の状態、つまり成分組成や形状について、調査した。
【0080】
[試験方法]
(試料の作製)
ほぼ同じ成分組成を有するNi基合金の溶湯を原料として用いて、ガスアトマイズ法により、粉末材料Aおよび粉末材料Bを作製した。ここで、粉末材料Aは、雰囲気誘導溶解炉(IGIF)にて、アルゴンガス噴射により、作製した。一方、粉末材料Bは、高周波誘導炉(HFIF)にて、窒素(N2)ガス噴射により、作製した。両粉末材料とも、分級処理を行うことにより、粉末粒度を、公称粒度で-45μmとした。
【0081】
上記で作製した粉末材料A,Bをそれぞれ用いて、SLM法により、積層造形物を作製し、それぞれ造形物A,Bとした。積層造形物としては、12mm角×20mm高さのブロック状のものを作製した。ブロックの下方には、杭状のサポートも一体に形成した。
【0082】
(試料の同定)
上記で作製した粉末材料A,B、およびそれらを用いて製造された造形物A,Bについて、それぞれ、蛍光X線分析、およびガス分析によって、成分組成を評価した。
【0083】
さらに、粉末材料A,Bについて、粉末外観を、SEM観察により、評価した。また、湿式粒子画像測定法により、粒度分布、および平均粒径(D50)における円形度を評価した。さらに、液相置換法により、各粉末材料の真密度を評価した。
【0084】
造形物A,Bについて、相対密度を、アルキメデス法による密度の測定結果と、上記で評価される粉末材料の真密度に基づいて、見積もった。また、造形物A,Bの硬さを、JIS Z2244:2009に準拠したビッカース硬度試験によって、測定した。さらに、各造形物の断面における微細組織を、光学顕微鏡観察によって評価した。
【0085】
(介在物の量および状態の評価)
粉末材料A,Bおよび造形物A,Bのそれぞれについて、介在物の量および状態を、SEM-EDXを用いて評価した。
【0086】
粉末材料については、粒子を樹脂に包埋し、切断を行って、断面試料を作製した。粉末材料の粒子10000個に対して、そのように作製した断面試料を用いて、SEM-EDX観察を行った。一方、造形物については、高さ方向中央部を、高さ方向に垂直に切断し、断面試料を作製した。得られた断面試料に対して、任意に選択した観察面積0.15mm2の視野で、SEM-EDX観察を行った。粉末材料、造形物とも、断面試料のSEM-EDX観察により、含有される介在物について、個数、成分組成、寸法、形状等を評価した。介在物の粒径は、面積円相当径として評価した。
【0087】
さらに、造形物A,Bについては、上記断面試料に対して、全自動測定によるSEM-EDX観察を行った。それにより、上記よりも広い観察面積25mm2の領域において、介在物の個数、成分組成、寸法等を評価した。この広い視野での観察は、参照試料として、バルク材の断面に対しても行った。バルク材は、真空誘導炉(VIF)により、粉末材料A,Bと同じ合金溶湯を原料として、鋳造によって製造されたものである。
【0088】
最後に、粉末材料A,Bおよび造形物A,Bのそれぞれについて、抽出残渣法によって、介在物の量や組成、寸法に関する分析を行った。つまり、各試料をそれぞれ2.0g採取し、臭素メタノール溶液を用いて、介在物を溶出させた。この溶液に、金属成分は溶解するが、介在物は溶解せずに、残渣として残る。得られた溶出液を、0.2μmメッシュのフィルターで濾過した。そして、フィルターによって捕捉された介在物を、SEM-EDXによって観察し、介在物の量や組成、寸法を評価した。
【0089】
[試験結果]
(試料の同定)
下の表1に、蛍光X線分析およびガス分析によって得られた、粉末材料A,Bおよび造形物A,Bの成分組成の分析結果を示す。また、粉末材料A,Bについて、
図1に、SEM観察像を、
図2に、粒度分布測定結果を示すとともに、表2に、粒径等、粉末材料の状態に関する評価結果をまとめる。さらに、造形物A,Bについて、
図3に、光学顕微鏡像を示すとともに、表3に、相対密度等、物理特性に関する評価結果をまとめる。
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
表1によると、粉末材料Aと粉末材料Bは、N,Al,Tiを除いて、各成分元素の含有量が、ほぼ同じになっている。しかし、N,Al,Tiの含有量は、いずれも、粉末材料Aよりも粉末材料Bの方が、多くなっている。特に、Nについては、粉末材料Bの含有量が、粉末材料Aの5倍となっている。このことは、粉末材料Bは、製造時に窒素ガスを用いており、粉末材料中に比較的多量のNが取り込まれたのに対し、粉末材料Aは、製造時にアルゴンガスを用いており、粉末材料中へのNの取り込みが、少なく抑えられたことによると解釈できる。Tiは、窒化物を形成しやすい元素であり、Nが多く含有される粉末材料Bにおいては、Tiも、窒化物の形で、多く含有されるものと考えられる。
【0094】
さらに、表1によると、粉末材料A,Bとも、積層造形工程を経て、造形物A,Bとなった際に、各成分元素の含有量が、ほぼ変化していない。つまり、積層造形工程における粉末材料の溶解と再凝固を経ても、C、N,Oを含め、材料の成分組成が変化していない。この結果は、次に説明するSEM-EDX等を用いた介在物の分析結果とも、合致するものである。
【0095】
図1によると、粉末材料A,Bとも、円形から逸脱した粒子や、サテライト粉末(小径の粒子)が付着した粒子が一部にみられるが、それらを除いては、円形に近い粒子が多数観測されており、表2に示すように、いずれも約0.90の高い円形度が得られている。さらに、
図2によると、粒度分布は、粉末材料A,Bで、よく重なっており、表2に示す粒径値も、両者でほぼ同じとなっている。両者の真密度も、ほぼ同じである。このように、粉末材料Aと粉末材料Bで、形状および大きさ、密度は、ほぼ同じになっており、製造時の条件には依存しないことが分かる。
【0096】
図3によると、造形物A,Bとも、レーザーのスキャン方向(図の横方向)に沿って、波状に、溶融ビードが生成している。また、それら溶融ビードをまたいで、積層方向(図の上下方向)に筋状に走る、エピタキシャル成長した結晶による微構造が見られる。表3によると、造形物Aと造形物Bで、密度および相対密度は、ほぼ同じになっているが、硬さは、造形物Bの方が、約30HV高くなっている。この硬さの差は、介在物の析出による析出強化に対応づけることができる。
【0097】
(介在物の量および状態)
(1)粉末材料の製造方法と介在物生成の関係
まず、粉末材料の製造方法が異なる場合について、介在物の種類や量がどのように異なるか、検討する。
【0098】
図4に、粉末材料A,Bおよび造形物A,Bについて、任意の視野で観察したSEM-EDXによって得られた介在物の形状、個数、最大寸法および成分組成を示す。なお、ここで用いた造形物A,Bについての観察結果は、観察面積0.15mm
2の狭い視野で観察したものである。
図4において、SEM像は、任意に選択された介在物のものである。また、介在物の個数としては、粉末材料については材料粉末の粒子10000個中に含有される個数、造形物については断面の面積1mm
2中の個数に換算した値を表示している。
図4および以降において、(Al,Ti)O
2とは、AlおよびTiの酸化物を示し、(Nb,Ti)(C,N)は、NbおよびTiの炭窒化物を示している。
【0099】
図4によると、粉末材料Aおよび造形物Aにおいては、介在物として、酸化物(Al,Ti)O
2のみが観察されており、炭窒化物(Nb,Ti)(C,N)は観察されていない。一方、粉末材料Bおよび造形物Bにおいては、介在物として、酸化物(Al,Ti)O
2と、炭窒化物(Nb,Ti)(C,N)の両方が観察されている。
【0100】
このことより、粉末材料の作製に窒素ガスを用いており、上記成分組成の分析において示されているように、Nの含有量が比較的多くなっている粉末材料B、およびそのような粉末材料Bを用いて製造される造形物Bにおいては、N原子が、金属炭窒化物の状態で含有されていると考えられる。一方、粉末材料の作製にアルゴンガスを用いていており、粉末材料中のNの含有量が少なく抑えられている粉末材料A、およびそのような粉末材料Aを用いて製造される造形物Aにおいては、そのNの含有量の少なさと対応して、介在物として、金属炭窒化物が、SEM-EDXで検出可能な量では、含有されていないと解釈される。
【0101】
また、介在物の個数は、粉末材料Aおよび造形物Aにおいて、それぞれ、粉末材料Bおよび造形物Bよりも、顕著に少なく抑えられている。この介在物の個数の低減には、粉末材料Aおよび造形物Aにおいて炭窒化物の含有が顕著に抑えられていることの効果が大きいと考えられる。さらに、介在物全体としての最大粒径は、粉末材料Aおよび造形物Aと、粉末材料Bおよび造形物Bで、ほぼ同じとなっているが、酸化物のみに着目すると、粉末材料Bおよび造形物Bの方が、小さくなっている。これは、粉末材料Bおよび造形物Bにおいて、酸化物生成元素であるTiが、炭窒化物の形成に寄与していることと関係していると考えられる。
【0102】
このように、任意に選択した狭い視野でのSEM-EDX観察の結果から、アルゴンガスを用いたアトマイズ法によって粉末材料を製造し、積層造形に用いることによって、窒素ガスを用いた場合と比較して、炭窒化物の生成が抑えられ、さらに介在物の個数も少なく抑えられることが分かった。さらに、造形物の断面に対して、観察面積25mm
2の広い視野で全自動SEM-EDXによって連続観察を行った結果から、それらの傾向を、統計的に確認することができる。
図5に、造形物A,Bおよびバルク材の断面に対する連続観察によって得られた、1mm
2あたりの介在物の数を、介在物の種類ごとに示す。
【0103】
図5によると、造形物Bにおいては、介在物として、酸化物、つまりAl酸化物およびTi酸化物に加えて、Ti炭窒化物が観察されているのに対し、造形物Aにおいては、Ti炭窒化物が生成しておらず、2種の酸化物のみが観察されている。さらに、造形物Aにおいては、酸化物の含有量も少なくなっている。それらの結果として、介在物全体の個数が、造形物Aにおいて、造形物Bよりも少なくなっている。これらの結果は、上記で説明した任意の狭い視野でのSEM-EDX観察で得られた、
図4の結果とも合致している。
【0104】
また、造形物Bにおいて、酸化物の含有量の方が、炭窒化物の含有量よりも多くなっている。Al酸化物とTi酸化物の含有量の比較としては、造形物Bでは、Ti酸化物の方が多いのに対し、造形物Aでは、Al酸化物の方が多くなっている。
【0105】
造形物Bは、造形物Aと比較すると、介在物の含有量が多くなってしまっているが、造形物A,Bを、バルク材と比較すると、造形物A,Bのいずれにおいても、介在物の含有量が、顕著に低減されていることが分かる。特に、バルク材には、多量の炭窒化物よりなる介在物が含有されているが、造形物Bにおいては、炭窒化物の含有量が10%程度に低減されており、さらに、造形物Aにおいては、上記のように、炭窒化物が生成しなくなっている。このことから、アトマイズ法によって製造した粉末材料を用いた積層造形物においては、粉末製造に用いるアトマイズガスがアルゴンガスである場合でも、窒素ガスである場合でも、バルク材と比較して、介在物、特に炭窒化物よりなる介在物の含有量を、著しく低減できることが分かる。さらにアトマイズガスとしてアルゴンガスを用いることで、介在物の含有量を一層低減できる。
【0106】
ここで、表4に、造形物A,Bの断面に対する上記の連続観察によって得られた介在物の成分組成を示す。表4では、介在物の種類ごとに、介在物の成分組成を、元素含有量比(単位:mol%)で示している。
【0107】
【0108】
表4によると、酸化物は、ほぼ、AlおよびTiとOのみからなっており、NbとCをごく少量のみ含んでいる。Nは含有されない。炭窒化物は、TiおよびNbとC,Nのみからなっており、AlおよびOは含有されない。このことから、介在物として造形物に含有される酸化物と炭窒化物は、完全に異なる組成を有しており、独立した相として形成されていることが確認される。造形物Aと造形物Bで、酸化物の組成は、ほぼ同じになっている。
【0109】
さらに、
図6に、造形物A,Bのそれぞれについて、観察された介在物の個数(25mm
2あたり)を、寸法ごとに分類して示す。造形物A,Bのいずれについても、また酸化物と炭窒化物のいずれについても、10μm以下の微細な介在物が多数生成している。造形物Bで、酸化物と炭窒化物の分布を比較すると、炭窒化物の方が、寸法が小さい領域に分布しており、最大の寸法を有する介在物は、酸化物となっている。なお、造形物A,Bとも、
図4に示したものよりも、介在物の最大寸法が大きくなっているが、これは、観察視野が広くなっており、多数の介在物を観察できていることによる。
【0110】
以上のように、広い観察視野のSEM-EDX観察により、狭い観察視野の観察結果と合致する結果が、統計的にさらに高い信頼性で得られた。つまり、アルゴンガスを用いたアトマイズ法によって製造された粉末材料を原料とする造形物Aにおいて、窒素ガスを用いたアトマイズ法によって製造された粉末材料を原料とする造形物Bの場合と比較して、炭窒化物よりなる介在物の生成を著しく抑制できること、さらに、介在物全体の個数としても少なく抑えられることが、確認された。また、アトマイズ粉末を原料とした積層造形を利用することで、いずれのアトマイズガスを用いた場合にも、バルク材に比較して、介在物の含有量が顕著に低減されることが確認された。介在物の成分組成や寸法分布についても、明らかになった。
【0111】
(2)積層造形工程による介在物の変化
積層造形工程を経ることで、介在物の種類や量に変化が生じるか否かを検討するために、再度、粉末材料と造形物の両方についてSEM-EDX観察を行った
図4の結果を参照する。
【0112】
図4において、粉末材料と、その粉末材料より製造された造形物とで、介在物の種類および最大粒径を比較する。粉末材料A,Bとも、積層造形工程を経て、造形物A,Bとなった際に、観察される介在物の種類(酸化物か炭窒化物か)は、変化していない。そして、介在物の最大粒径については、粉末材料Aと造形物Aとではほぼ同じになっている。粉末材料Bと造形物Bとでは、酸化物に関しては、造形物Bの方で粒径が大きくなっているものの、炭窒化物に関しては、両者でほぼ変化していない。これらより、粉末材料の状態から、積層造形工程を経ても、新たな種類の介在物が生成することはなく、さらに、少なくとも炭窒化物については、粒子の成長も起こらないと言える。
【0113】
さらに、粉末材料と造形物とで、介在物の含有量を定量的に比較するために、抽出残渣法による介在物の観察の結果について検討する。
図7に、抽出残渣の成分組成の解析結果を示す。
図7では、各試料について、介在物を構成するものとして検出されたAlおよびTiの含有量を示している。含有量の単位は、粉末材料または造形物全体の質量を基準とした質量%である。含有量は、粉末材料と造形物とで、直接比較することができる。
【0114】
図7によると、粉末材料Aおよび造形物Aにおいては、少量のAl系およびTi系の介在物が検出されている。これは、AlおよびTiの酸化物に対応付けることができる。一方、粉末材料Bおよび造形物Bにおいては、少量のAl系介在物と、多量のTi系介在物が検出されている。これは、AlおよびTiの酸化物に加えて、Tiを含む炭窒化物が生成している状態に対応付けることができる。このように、抽出残渣の分析結果は、上記SEM-EDXの観察結果と、よく対応している。
【0115】
さらに、
図7によると、粉末材料Aと造形物Aとの間で、また、粉末材料Bと造形物Bとの間で、AlおよびTiの検出量が、大きくは変化していない。このことから、積層造形工程を経て、粉末材料から造形物を製造した際に、介在物の量および種類が、ほぼ変化していないことが分かる。
【0116】
図8に、各試料について、抽出残渣中の各介在物のうち、寸法が最大のものについて、SEM像を示す。粉末材料Aと造形物Aの観察結果を比較すると、酸化物の最大寸法および粒子形状は、実質的に変化していない。同様に、粉末材料Bと造形物Bの観察結果を比較すると、酸化物、炭窒化物とも、介在物の寸法および粒子形状は、ほぼ変化していない。このことから、いずれの試料についても、また、酸化物および窒化物のいずれについても、積層造形工程を経て、粉末材料から造形物を製造した際に、介在物の粒子は成長を起こさないことが分かる。なお、酸化物は、球状に近い粒子形状をとっているのに対し、炭窒化物は、デンドライト形状をとっている。
【0117】
以上のSEM-EDX観察および抽出残渣法による実験結果から、積層造形工程を経て、粉末材料から造形物を製造した際に、介在物の生成および成長は、ほぼ起こらないことが示された。つまり、介在物は、アトマイズ法による粉末材料の製造時に、アトマイズガスの種類等の製造条件、また次に示すような成分組成等に起因して、粉末材料中に生成するが、積層造形工程を経て、粉末材料から造形物を製造する間には、介在物の新たな生成や、粒成長、変性等の変化は、実質的に起こらない。積層造形工程においては、粉末材料が、急速に溶融されたあと、急冷凝固されるが、それらの過程が高速で進行することにより、介在物は、溶融金属中への固溶や溶融、また成長を起こすことなく、粉末材料中に存在した状態を維持するものと考えられる。
【0118】
[2]Ni基合金の成分組成と介在物
次に、粉末材料および積層造形物を構成するNi基合金の成分組成と、介在物の含有量の関係について調べた。
【0119】
[試験方法]
(試料の作製)
成分組成を変化させながら、粉末材料を製造し、さらに各粉末材料を用いて、積層造形物を作成した。粉末材料の製造は、上記試験[1]の試料Aと同様に、IGIFにて、アルゴンガス噴射によって行った。分級処理も同様に行った。粉末材料からの積層造形物の製造も、上記試験[1]と同様に、SLM法によって行った。
【0120】
(試料の同定)
上記で作製した各粉末材料、およびそれらを用いて製造された造形物について、それぞれ、蛍光X線分析、およびガス分析によって、成分組成を評価した。
【0121】
(介在物の量および種類の評価)
各粉末材料および造形物に対して、上記試験[1]の観察面積0.15mm2の視野でのSEM-EDX観察と同様にして、SEM-EDX観察を行い、介在物の個数を、種類ごとに評価した。
【0122】
[試験結果]
下の表5に、試料1~16のそれぞれについて、粉末および積層造形物の成分組成を示す。Feは、その他の表示した成分元素の残部として合金を構成するものであるが、表中では、他の成分の含有量から計算されるFeの含有量を、括弧書きで表示している。表5にはさらに、各試料について検出された介在物の個数を示している。介在物の個数は、Al酸化物およびTi酸化物、Ti炭窒化物のそれぞれについて示している。加えて、Al酸化物とTi酸化物の個数比(Al酸化物/Ti酸化物)についても、示している。介在物の個数は、粉末材料については、粉末粒子10000個あたりの個数として、また、造形物については断面の1mm2あたりの個数として、表示している。
【0123】
【0124】
表5によると、いずれの試料においても、成分組成は、粉末材料と造形物でほぼ同じになっている。これは、上記試験[1]で確認された結果と同じである。
【0125】
表5で、試料1~7においては、介在物の総数が、粉末材料で100個/10000粒子以下、また造形物で100個/1mm2以下に抑えられているのに対し、試料8~16では、介在物の総数が、いずれもそれらの上限を上回っている。また、試料1~16で、Al酸化物の含有量は、ほぼ変わらないのに対し、Ti酸化物およびTi炭窒化物の含有量が、試料1~7で、試料8~16よりも少なくなっている。特に、Ti炭窒化物の含有量の少なさが、顕著である。
【0126】
ここで、合金の成分組成に着目すると、試料1~7では、Nの含有量が、0.05%以下に抑えられているのに対し、試料8~16では、Nの含有量が0.05%を上回っている。このことから、試料1~7のように、Nの含有量を少なく抑えることで、炭窒化物よりなる介在物の含有量を少なく抑えることができ、ひいては、酸化物も合わせた介在物の総数も、少なく抑えられると解釈される。さらに、試料8~16の中でも、Tiの含有量が1.5%を超えて多くなっている試料11,12,16では、特に炭窒化物の個数および介在物の総数が多くなっており、Nに加え、Tiの含有量を少なく抑えることも、介在物の低減に有効であると言える。
【0127】
以上、本発明の実施形態および実施例について説明した。本発明は、これらの実施形態および実施例に特に限定されることなく、種々の改変を行うことが可能である。