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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】カラーシフトデバイス
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/18 20060101AFI20240514BHJP
   B42D 25/328 20140101ALI20240514BHJP
【FI】
G02B5/18
B42D25/328
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020017971
(22)【出願日】2020-02-05
(65)【公開番号】P2021124602
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】澤村 力
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-506989(JP,A)
【文献】特開2008-256855(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0355394(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
G02B 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個のレリーフ構造体からなるカラーシフトデバイスであって、
前記複数個のレリーフ構造体は、いずれも前記カラーシフトデバイスの表示面に対して平行な第1方向へ延び、且つ前記第1方向に対して垂直な第2方向へ配列した凹凸構造を有し、
前記凹凸構造は、第1傾斜面及び第2傾斜面からなる波型の反射面を有し、
前記第1傾斜面及び前記第2傾斜面は、前記第2方向へ交互に配列し、
前記第1傾斜面は、前記表示面に対して垂直で且つ前記第1方向に対して平行な基準面に対して正の角度に傾き、
前記第2傾斜面は前記基準面に対して負の角度に傾き、
前記複数個のレリーフ構造体は、
前記第1傾斜面の配列間隔である第1格子定数d1が700nm以上1100nm以下であり、前記第2傾斜面の配列間隔である第2格子定数d2が800nm以上1200nm以下かつ前記第1格子定数d1よりも大きいことにより、レリーフ構造体内において隣接する前記第1傾斜面及び前記第2傾斜面の組により形成される凸構造の前記第2方向における最大寸法が、前記第2方向の一方に進むにつれて徐々に増加しているレリーフ構造体を2以上含み、
そのうち2つは、前記第1格子定数d1および前記第2格子定数d2の少なくとも一方の値が同一でない
ことを特徴とするカラーシフトデバイス。
【請求項2】
前記複数個のレリーフ構造体は、前記第1格子定数d1と前記第2格子定数d2とが同一であるレリーフ構造体を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載のカラーシフトデバイス。
【請求項3】
前記複数個のレリーフ構造体は、前記第1格子定数d1と前記第2格子定数d2とが、
等式:d1×(n+1)=d2×n
に示す関係を満たすレリーフ構造体を含み、nは2以上の整数である、
ことを特徴とする請求項1、または2に記載のカラーシフトデバイス。
【請求項4】
前記第1格子定数d1と前記第2格子定数d2との比d1/d2は、0.833以上0.917以下の範囲内にある、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のカラーシフトデバイス。
【請求項5】
前記第1傾斜面及び前記第2傾斜面の、前記第1方向に対して垂直な断面は、いずれも湾曲している、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のカラーシフトデバイス。
【請求項6】
前記波型の反射面のうち前記表示面に対して平行な領域の面積S1と、前記波型の反射面の前記表示面への正射影の面積S0との比S1/S0は0.5以下である、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のカラーシフトデバイス。
【請求項7】
前記複数個のレリーフ構造体はフィルム又はシート状である、
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のカラーシフトデバイス。
【請求項8】
前記反射面を有する反射層と、前記反射層を支持し前記反射層と接する面に前記反射面に対応した形状のレリーフ構造が設けられたレリーフ構造形成層と、を具備する、
ことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のカラーシフトデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学可変デバイスの一種であるカラーシフトデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
物品等の意匠性を高めて優れた装飾効果を与えるだけでなく、偽造防止にも効果のある光学可変デバイス(OVD:Optical Variable Device)が、近年、多くの物品等に利用されてきている。OVDとは、見る角度によって、色が変化したり画像が変化したりする特殊な光学効果を呈するデバイスの総称である。
【0003】
OVDには、微細な凹凸パターンを有するレリーフ型の回折格子、屈折率の異なる縞状パターンなどの回折構造、光学特性の異なる薄膜を重ねた多層膜などが用いられ、これによる光の回折と干渉によって、見る角度に応じて固有の画像や色の変化(カラーシフト)を生じる。
【0004】
レリーフ型の回折格子には、溝の長さ方向に垂直な断面が、矩形波状のもの(特許文献1及び非特許文献1参照)や、正弦波状のもの、鋸歯状のものがある。
【0005】
矩形波状の断面を有している一般的な回折格子は、法線方向から白色光で照明し、この回折格子を法線の周りで180°回転させて、これを斜め方向から同じ角度で観察すると、回転前後で画像は反転するものの、同じ色の画像を表示する。
【0006】
正弦波状の断面を有している回折格子も、上記の条件のもとで観察した場合、矩形波状の断面を有している回折格子と同様に、回転前後で画像は反転するものの、同じ色の画像を表示する。
【0007】
他方、鋸歯状の断面を有している回折格子、即ちブレーズド回折格子は、法線方向から白色光で照明し、この回折格子を法線の周りで180°回転させて、これを斜め方向から観察すると、回転前後で反転し明度が異なる画像を表示し得る。しかしながら、それらの画像の彩度や色相は変化しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許出願公開第2004/0021945号明細書
【非特許文献】
【0009】
【文献】Michael W.Farn(1992)“Binary gratings with increased efficiency”,Appl.Opt., Vol.31,No.22,pp.4453-4458
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、特殊な光学効果を奏するカラーシフトデバイス、より具体的には、法線の周りで180°回転(以下、単に反転と記す場合がある)させた場合に、色変化のみならず、色数、図形を変化させることができるカラーシフトデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決する手段として、本発明の第一態様は、複数個のレリーフ構造体からなるカラーシフトデバイスであって、
前記複数個のレリーフ構造体は、いずれも前記カラーシフトデバイスの表示面に対して平行な第1方向へ延び、且つ前記第1方向に対して垂直な第2方向へ配列した凹凸構造を有し、
前記凹凸構造は、第1傾斜面及び第2傾斜面からなる波型の反射面を有し、
前記第1傾斜面及び前記第2傾斜面は、前記第2方向へ交互に配列し、
前記第1傾斜面は、前記表示面に対して垂直で且つ前記第1方向に対して平行な基準面に対して正の角度に傾き、
前記第2傾斜面は前記基準面に対して負の角度に傾き、
前記複数個のレリーフ構造体は、前記第1傾斜面の配列間隔である第1格子定数d1が700nm以上1100nm以下であり、前記第2傾斜面の配列間隔である第2格子定数d2が800nm以上1200nm以下かつ前記第1格子定数d1よりも大きいことにより、レリーフ構造体内において隣接する前記第1傾斜面及び前記第2傾斜面の組により形成される凸構造の前記第2方向における最大寸法が、前記第2方向の一方に進むにつれて徐々に増加しているレリーフ構造体を2以上含み、そのうち2つは、前記第1格子定数d1および前記第2格子定数d2の少なくとも一方の値が同一でない、カラーシフトデバイスである。
【0012】
前記複数個のレリーフ構造体は、前記第1格子定数d1と前記第2格子定数d2とが同一であるレリーフ構造体を含んでもよい。
【0013】
前記複数個のレリーフ構造体は、前記第1格子定数d1と前記第2格子定数d2とが、
等式:d1×(n+1)=d2×n
に示す関係を満たすレリーフ構造体を含み、nは2以上の整数である、
ことを特徴とする。
【0014】
また、前記第1格子定数d1と前記第2格子定数d2との比d1/d2は、0.833以上0.917以下の範囲内にある、ことを特徴とする。
【0015】
また、前記第1傾斜面及び前記第2傾斜面の、前記第1方向に対して垂直な断面は、いずれも湾曲している、ことを特徴とする。
【0016】
また、前記波型の反射面のうち前記表示面に対して平行な領域の面積S1と、前記波型の反射面の前記表示面への正射影の面積S0との比S1/S0は0.5以下である、ことを特徴とする。
【0017】
また、前記複数個のレリーフ構造体はフィルム又はシート状である、ことを特徴とする。
【0018】
また、前記反射面を有する反射層と、前記反射層を支持し前記反射層と接する面に前記反射面に対応した形状のレリーフ構造が設けられたレリーフ構造形成層と、を具備する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、法線の周りで180°回転(反転)させた場合に、色変化のみならず、色数、図形を変化させることができ、瞬時に画像の変化を捉えることができるカラーシフトデバイスが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明のカラーシフトデバイスの構成要素であるレリーフ構造体の一部を例示する模式断面図。
図2図1に示すレリーフ構造体が含んでいる反射面の模式斜視図。
図3図1に示すレリーフ構造体が含んでいる反射面の形状を説明するための模式断面図。
図4図1に示すレリーフ構造体の凹凸構造面を、その法線方向から白色光で照明し、第1観察位置(OP1)方向(正方向)、及び第2観察位置(OP2)方向(逆方向)から視認する様態を示す模式断面図。
図5】(a)本発明のカラーシフトデバイスを構成するレリーフ構造体の一部を例示する模式平面図、(b)(a)に示すレリーフ構造体の凹凸構造面を、その法線方向から白色光で照明し、正方向から観察する様態を示す模式断面図、(c)(a)に示すレリーフ構造体の凹凸構造面を、その法線方向から白色光で照明し、逆方向から観察する様態を示す模式断面図。
図6】本発明のカラーシフトデバイスの一実施形態を構成するレリーフ構造体(1)~(3)の一部を例示する模式平面図(上段)、正方向及び逆方向から観察する場合の色の見え方を説明するための模式断面図(下段)。
図7】本発明のカラーシフトデバイスの一実施形態を構成するレリーフ構造体(4)、(5)の一部を例示する模式平面図(上段)、正方向及び逆方向から観察する場合の色の見え方を説明するための模式断面図(下段)。
図8】本発明のカラーシフトデバイスの適用例1に係り、図6図7のレリーフ構造体(1)~(5)を用いてカラーシフトデバイスを構成したときの色の見え方を示す平面図。
図9】本発明のカラーシフトデバイスの適用例2を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、同様又は類似した機能を有する要素については、同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0022】
図1は、本発明のカラーシフトデバイスの構成要素であるレリーフ構造体の一部を例示する模式断面図である。図2は、図1に示すレリーフ構造体が含んでいる反射面の模式斜視図である。図3は、図1に示すレリーフ構造体が含んでいる反射面の形状を説明するための模式断面図である。
【0023】
尚、図中、X方向は、レリーフ構造体1の表示面に対して平行な方向である。ここで、「表示面」とは、レリーフ構造体1の厚さ方向に垂直な面である。Y方向は、レリーフ構造体1の表示面に対して平行であり且つX方向に対して垂直な方向である。Z方向は、X方向及びY方向に対して垂直な方向である。
【0024】
図1に示すレリーフ構造体1は、フィルム又はシート状である。レリーフ構造体1は、図1に示すように、レリーフ構造形成層11と、レリーフ構造形成層11の表面に形成された凹凸構造の面に反射層12とを有している。反射層の上に、図示しないが、さらに保護層、中間層、あるいは接着層などが設けられていても良い。
【0025】
レリーフ構造体1は、反射層12側が観察者と向き合う前面であり、レリーフ構造形成層11側が背面であってもよい。あるいは、レリーフ構造形成層11側が観察者と向き合う前面であり、反射層12側が背面であってもよい。ここでは、一例として、レリーフ構造体1は、レリーフ構造形成層11側が観察者と向き合う前面であり、反射層12側が背面であるとする。
【0026】
レリーフ構造形成層11は、可視光透過性を有している層である。一例によれば、レリ
ーフ構造形成層11は、無色透明なフィルム又はシートである。レリーフ構造形成層11は、図示しない基材上に設けられていてもよいが、基材は必ずしも設けられている必要はなく、レリーフ構造形成層と反射層のみから構成されていても良い。
【0027】
レリーフ構造形成層11と反射層12と界面及び反射層12の表面は、図1に示すように、波型の反射面RSaとなっている。
【0028】
波型の反射面RSaは、図1図3に示すように、複数の第1傾斜面IS1と複数の第2傾斜面IS2とを含んでいる。第1傾斜面IS1及び第2傾斜面IS2の各々は、表示面に対して平行な第1方向へ延伸した形状を有している。ここで、第1方向はX方向である。
【0029】
第1傾斜面IS1は、表示面に対して垂直であり且つ第1方向に対して平行な基準面に対して正の角度(時計回り方向の角度)に傾いている。また、第2傾斜面IS2は、前記基準面に対して負の角度(反時計回り方向の角度)に傾いている。第1傾斜面IS1及び第2傾斜面IS2は、表示面に対して平行であり且つ第1方向に対して垂直な第2方向(=Y方向)へ交互に配列している。
【0030】
第1傾斜面IS1は、図3に示すように、周期T1で規則的に配列している。第1傾斜面IS1の配列は、その周期に相当する第1格子定数d1(=T1)を有する第1回折格子を構成している。第1格子定数d1は、700nm以上1100nm以下の範囲内にある。
【0031】
他方、第2傾斜面IS2は、周期T1よりも長い周期T2で規則的に配列している。第2傾斜面IS2の配列は、第1格子定数d1よりも大きな第2格子定数d2(=T2)を有する第2回折格子を構成している。第2格子定数d2は、800nm以上1200nm以下の範囲内にある。
【0032】
尚、図1を含め、以下の説明では、第2傾斜面IS2が配列する周期T2を決める第2格子定数d2の方が、第1傾斜面IS1が配列する周期T1を決める第1格子定数d1よりも大きい場合を例として説明することが多いが、本発明のカラーシフトデバイスでは、2以上のレリーフ構造体で、第1傾斜面の配列、または第2傾斜面の配列が、第1格子定数d1を有する第1回折格子、または第1格子定数d1よりも大きい第2格子定数d2を有する第2回折格子の一方ずつから構成され、2以上のレリーフ構造体の少なくとも2個のレリーフ構造体の、第1格子定数d1若しくは第2格子定数d2の少なくとも一方が異なっていればよい。第1格子定数d1若しくは第2格子定数d2の少なくとも一方が異なる、ということは、2以上のレリーフ構造体を比べると、正方向視、または逆方向視で視認する色が異なることを意味する。
【0033】
本発明のカラーシフトデバイスの構成要素であるレリーフ構造体では、第1格子定数d1と第2格子定数d2とが等しいレリーフ構造体を含んでいてもよい。第1格子定数d1と第2格子定数d2とが等しい、ということは、正方向視、または逆方向視で視認する色が同じであることを意味する。
【0034】
第1格子定数d1と第2格子定数d2とは、以下の等式に示す関係を満足していることが好ましい。
【0035】
T12=d1×(n+1)=d2×n
ここで、T12は、周期T1の配列と周期T2の配列とを合成してなる配列の周期であり、nは2以上の整数である。nは、5以上の整数であることが好ましい。また、nは、12以下の整数であることが好ましく、9以下であることがより好ましい。nを小さくすると、周期T12が短くなる。
【0036】
T12が波長レベルまで短くなると、T12周期の回折光が全体を支配することになりブレーズ化が進むため、周期T12の配列が、周期T1の配列と周期T2の配列とがもたらすカラーシフト効果へ及ぼす影響が大きくなる。逆にnを過剰に大きくした場合も後述するカラーシフト効果を知覚し難くなる。
【0037】
より具体的には、T12は可視光の波長より大幅に大きくし(≧4000nm)、T1周期とT2周期を可視光の波長レベルに設定する。T1周期とT2周期を可視光の波長レベルのサイズにすることで、T1周期の回折光と、T2周期の回折光のそれぞれの回折角に応じた観察色を目視確認でき、T1周期の観察色とT2周期の観察色の違いを確認できる。T1とT2の周期サイズが大き過ぎたり小さ過ぎたりするとカラーシフト効果が薄れるので好適化を図る必要がある。
【0038】
第1格子定数d1と前記第2格子定数d2との比d1/d2は、0.833以上0.917以下の範囲内にあることが好ましく、0.875以上0.9以下の範囲内にあることがより好ましい。比d1/d2を1に近づけると、後述するカラーシフト効果を知覚し難くなる。逆に、比d1/d2を過剰に大きくすると、周期T1の配列が射出する回折光及び周期T2の配列が射出する回折光の一方の波長が可視光域から外れる可能性がある。
【0039】
また、凹凸構造の凸部や凹部が細すぎると再現性が難しくなるため、T1とT2の差が極端に小さくならないようにT1とT2の違いによるカラーシフト効果に差し支えない範囲で、第3の周期成分を混在しても構わない。
【0040】
第1傾斜面IS1及び第2傾斜面IS2の各々の第1方向に対して垂直な断面、ここでは、X方向に対して垂直な断面は湾曲している。これらの断面は湾曲していなくてもよいが、湾曲させた場合、湾曲させない場合と比較して、後述するように、カラーシフト効果をより知覚し易くなる。
【0041】
波型の反射面RSaのうち表示面に対して平行な領域(=波型の頂上部の平坦な領域)の面積S1と、波型の反射面RSa全体の表示面への正射影の面積S0との比S1/S0は、0.5以下であることが好ましく、0.15以下であることがより好ましい。比S1/S0を小さくすると、凹凸構造はより鋭角的になり、後述するように、カラーシフト効果を知覚し易くなる。比S1/S0は、ゼロ又はそれに近い値を含むことが好ましい。
【0042】
図1に示す反射層12は、レリーフ構造形成層11のレリーフ構造が設けられた面を被覆している。反射層12は、可視光反射性を有している。
【0043】
反射層12としては、例えば、アルミニウム、銀、金、及びそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。或いは、反射層12として、レリーフ構造形成層11とは屈折率が異なる誘電体層を使用してもよい。或いは、反射層12として、隣り合うもの同士の屈折率が異なる誘電体層の積層体、すなわち、誘電体多層膜を使用してもよい。この場合、誘電体多層膜が含む誘電体層のうち、レリーフ構造形成層11と接触しているものの屈折率は、レリーフ構造形成層11の屈折率とは異なっていることが望ましい。
【0044】
図4は、図1に示すレリーフ構造体1の凹凸構造面を、その法線方向から白色光で照明し、第1観察位置(OP1)方向(正方向)、及び第2観察位置(OP2)方向(逆方向)から視認する様態を示す模式断面図である。
【0045】
図4において、参照符号LSは、白色光を射出する光源である。また、参照符号OP1は第1観察位置を表し、参照符号OP2は第2観察位置を表している。第1観察位置OP1と第2観察位置OP2とは、レリーフ構造体1の中心を通り且つY方向に垂直な面に対して対称である。本願では、レリーフ構造体1を第1観察位置OP1から見る場合を「正方向視」、第2観察位置OP2から見る場合を「逆方向視」と呼ぶことにする。
【0046】
尚、当然ながら、逆方向視時は、正方向視時と図柄や字柄の上下左右がともに反転する。
【0047】
図5(a)は、本発明のカラーシフトデバイスを構成するレリーフ構造体1の一部を例示する模式平面図である。図5(b)は、図5(a)に示すレリーフ構造体の凹凸構造面を、その法線方向から白色光で照明し、正方向から観察する(正方向視)様態を示す模式断面図、図5(c)は、同じく逆方向から観察する(逆方向視)様態を示す模式断面図である。
【0048】
既述のように、矩形波状または正弦波状の断面を有している一般的な回折格子は、法線方向から白色光で照明し、これらの回折格子を反転させて、斜め方向から同じ角度で観察する(すなわち、正方向視と逆方向視を同じ角度θで行う)と、回転前後で画像は反転するものの、正方向と逆方向で回折光の法線方向に対する角度(回折角)θが同じであるため、同じ色の画像を表示する。
【0049】
同じ条件で、鋸歯状の断面を有している回折格子、即ちブレーズド回折格子の場合は、正方向視と逆方向視で反転し、明度が異なる画像を表示し得る。しかしながら、前記と同様に回折角が同じであれば、それらの画像の彩度や色相は変化しない。
【0050】
これに対し、本発明のカラーシフトデバイスを構成するレリーフ構造体1では、図1図3に示すように、凹凸構造の向かい合う側面の片方は第1傾斜面IS1であり、もう一方は第2傾斜面IS2である。且つ、第1傾斜面IS1の周期T1と、第2傾斜面IS2の周期T2は異なっている(本例ではT1<T2)。
【0051】
従って、本発明のカラーシフトデバイスを構成するレリーフ構造体を、正方向視する場合(図5(b))と、逆方向視する場合(図5(c))とを比較すると、前者の方が、より短い周期T1に依存する分だけ回折角が大きくなる。それ故、正方向視と逆方向視を同じ角度θから行うと、前者の場合は例えば緑色に見え、後者の場合は例えば赤色に視認される。
【0052】
また、第1傾斜面IS1は、上記の基準面に対して正の角度に傾いている。それ故、第1傾斜面IS1が形成している第1回折格子は、法線方向から白色光で照明した場合、負の角度範囲内に反射し、正の角度範囲内と比較してより強い回折光を射出する。
【0053】
他方、第2傾斜面IS2は、上記の基準面に対して負の角度に傾いている。それ故、第2傾斜面IS2が形成している第2回折格子は、法線方向から白色光で照明した場合、正の角度範囲内に反射し、負の角度範囲内と比較してより強い回折光を射出する。
【0054】
(レリーフ構造体及びカラーシフトデバイスの作製方法)
レリーフ構造体の凹凸構造データに基づいて、レリーフ構造体を構成要素とする本発明のカラーシフトデバイスの作製方法の一例を説明する。
【0055】
まず、凹凸構造を形成するための型版として、フォトリソグラフィを用いて以下のように金属製のスタンパを作製する。
【0056】
最初に、平滑な基板(ガラス基板が一般的に用いられる)に感光性レジスト材料を塗布し、均一な膜厚のレジスト材料層を形成する。感光性レジスト材料としては、公知のポジ型材料またはネガ型材料を用いることができる。次いで、荷電粒子ビームにより、表示デバイス用凹凸構造データに基づく所望のパターンをレジスト材料層に描画する。
【0057】
その後、このレジスト材料層を現像処理することにより、所望の凹凸構造を有するレジスト構造体を得る。
【0058】
なお、感光性レジスト材料として低感度の材料を使用した場合、或る領域と他の領域とで荷電粒子線の強度や照射回数を異ならしめると、それらの領域間で、可溶化又は不溶化の程度を異ならしめることができる。従って、これを利用すると、例えば、凸部及び凹部の表面が、図1図3に示す反射面RSaのように湾曲したレジストパターンを得ることができる。
【0059】
次に、このレジスト構造体を原版として用いて、この原版から、電鋳等の方法により金属製のスタンパを作製する。なお、電鋳とは、電鋳の対象物を所定の水溶液中に浸し、通電することで電子の還元力により、この対象物上に金属膜を形成する表面処理技術の一種である。
【0060】
上記のような方法を用いることで、原版の表面に設けられた微細な凹凸構造を精度良く複製することができる。なお、電鋳の対象物の表面は、通電可能である必要があるが、一般に感光性レジストは電気を通さないので、電鋳を行なう前に、上記レジスト構造体の表面にスパッタリング、真空蒸着等の気相堆積法などにより、金属薄膜が予め設けておく。
【0061】
次に、上記のスタンパを用いて、レリーフ構造形成層の表面に、凹凸構造を複製する。まず、例えばポリカーボネートまたはポリエステルなどからなる光透過性の基材上に熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂または放射線硬化性樹脂などを塗布する。次に、この塗膜にスタンパを密着させ、この状態で熱圧の付与や、光や電子線などの照射を実施した後に、スタンパを樹脂層から剥がすことで、凹凸構造を備えるレリーフ構造形成層を得る。
【0062】
上記において、原版の作製方法として、フォトリソグラフィを用いたが、その他の方法として、切削加工やエッチング加工等により金属等の表面を加工する手法などを採用することができる。このような方法を用いると、直接金属板の表面を加工することが可能であり、この場合、電鋳等の方法により金属製スタンパを作製することなく、直接金属製スタンパを作製することができる。
【0063】
次に、作製したレリーフ構造形成層上に、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法などの気相堆積法等によりアルミニウム等の金属または誘電体などを単層あるいは多層に堆積させ、反射層を形成する。なお、レリーフ構造形成層の一部のみを反射層で被覆する場合には、例えば、気相堆積法などにより連続膜として反射層を形成した後、薬品などによりその一部を除去するなどの方法によって得ることができる。
【0064】
上記のような方法により、レリーフ構造体(図1の符号1)を作製することができる。レリーフ構造体には、適宜、中間層、印刷層、保護層、接着層あるいは粘着層などの各種公知機能層が設けられていても良い。
【0065】
レリーフ構造体は単独でカラーシフトデバイスとして用いられても良いし、複数のレリーフ構造体を組み合わせてカラーシフトデバイスとして用いられても良い。
【0066】
カラーシフトデバイスの使用形態は、何らかの物品に粘着剤などを介して粘着し、ラベ
ル化した表示体として使用しても良いし、転写箔の構成としてカラーシフトデバイスを作製し、物品に転写される方法が採られても良い。
【0067】
(適用例1)
図6図7では、本発明のカラーシフトデバイスの一実施形態を構成するレリーフ構造体(1)~(5)の一部を例示する模式平面図をそれぞれ上段に示し、正方向及び逆方向から観察する場合の色の見え方をそれぞれ下段に示している。尚、観察する角度は、正方向及び逆方向ともに、表示面に対して同じ大きさの角度から観察することとする。
【0068】
図6図7のレリーフ構造体(1)~(5)のうち、レリーフ構造体(1)、(5)は凹凸構造のY方向の並びが同じであり、レリーフ構造体(3)は凹凸構造のY方向の並びが、レリーフ構造体(1)~(5)とは反転している。従って、これまでのレリーフ構造体とは異なり、第1傾斜面IS1が配列する周期T1(Yと図示)を決める格子定数は第2格子定数d2であり、第2傾斜面IS2が配列する周期T2(Bと図示)を決める格子定数は第1格子定数d1である。
【0069】
図6(1)のレリーフ構造体は、第1傾斜面IS1(図1図3参照)が主となる正方向視で黄色(Y)に見えるような周期T(Y)を持ち、第2傾斜面IS2が主となる逆方向視では赤色(R)に見えるような周期T(R)を持つように作製されている。ここでT(R)はT(Y)よりも大きい。
【0070】
図6(2)のレリーフ構造体は一定の大きさの凹凸がY方向に配列している。このため、正方向視、逆方向視のいずれにおいても黄色(Y)に見えるような周期T(Y)を持つように作製されている。
【0071】
図6(3)のレリーフ構造体は、凹凸構造のY方向の並びが、レリーフ構造体(1)とは反転している。従って、図6(1)のレリーフ構造体は、第1傾斜面IS1が主となる正方向視で黄色(Y)に見えるような周期T(Y)を持ち、第2傾斜面IS2が主となる逆方向視では青色(B)に見えるような周期T(B)を持つように作製されている。ここでT(Y)はT(B)よりも大きい。
【0072】
図7(4)のレリーフ構造体は一定の大きさの凹凸がY方向に配列している。このため、正方向視、逆方向視のいずれにおいても青(B)に見えるような周期T(B)を持つように作製されている。
【0073】
図7(5)のレリーフ構造体は、凹凸構造のY方向の並びが図6(1)のレリーフ構造体と同じであるが、正方向視で紫色(V)に見えるような周期T(V)を持ち、逆方向視では青色(B)に見えるような周期T(B)を持つように作製されている。ここでT(B)はT(V)よりも大きい。
【0074】
尚、図6図7において凹凸構造の凹凸の数は、いずれも8個または9個であるように描いているが、これは便宜上のものであり、周期の長さで順に並べれば、
T(V)<T(B)<T(Y)<T(R)
である。
【0075】
図8(a)~(d)は、図6図7のレリーフ構造体(1)~(5)を用いて、本発明のカラーシフトデバイスの一実施形態を構成したときの色の見え方を示す平面図である。
【0076】
図8(a)~(d)のいずれにおいても、図6または図7のレリーフ構造体(1)~(5)のいずれかを3行3列配置している。具体的には、中央に図6(3)のレリーフ構造体を配置し、周囲に配置した8個のレリーフ構造体は、図8(a)では図6(2)のレリーフ構造体、図8(b)では図7(4)のレリーフ構造体、図8(c)では図6(1)のレリーフ構造体、図8(d)では図7(5)のレリーフ構造体となっている。
【0077】
図6図7で説明した色の見え方から、図8(a)、(c)では逆方向視のみ中央の四角形が周囲の四角形と色が異なり明確に青色に視認され、正方向視では全面同じ黄色に視認される。また、図8(b)、(d)では正方向視のみ中央の四角形が周囲の四角形と色が異なり明確に青色に視認され、逆方向視では全面同じ色((b)、(d)とも青色)に視認される。
【0078】
(適用例2)
図9(a)~(d)は、本発明のカラーシフトデバイスの適用例2を示す平面図である。
【0079】
図9(a)では、正方向視では全面同じ色に見えるが、a2部は背景のa1部とは異なるレリーフ構造体となっている。すなわち、a1部のレリーフ構造体は正方向視、逆方向視ともに同じ色に見えるが、a2部のレリーフ構造体は逆方向視では正方向視とは異なる色となる。その結果、逆方向視においてa2部が出現した印象を与えるカラーシフト効果を有する。
【0080】
図9(b)でも、正方向視では全面同じ色に見えるが、輪郭線を描いているb2部は、背景のb1部とは異なるレリーフ構造体となっている。すなわち、b2部のレリーフ構造体は正方向視、逆方向視ともに同じ色に見えるが、b1部のレリーフ構造体は逆方向視では正方向視とは異なる色となる。その結果、逆方向視においては、図形は変化しないが、b1部の背景色が変化し色数が変化した印象を与えるカラーシフト効果を有する。
【0081】
図9(c)は、c1部と、図柄のc2部、c3部に分かれるが、c1部は発色機能を有する構造がない部分であり、c2、c3部は異なるレリーフ構造体となっている。すなわち、正方向視においてはc2部とc3部とは同じ色であるが、逆方向視にしたときc2部は色の変化はないが、c3部は異なる色となるよう作製されている。従って、図形が部分的に色分けされ、色数が変化するカラーシフト効果を有する。
【0082】
図9(d)は、正方向視ではd1部を背景として「8」の文字が見えるが、実際は字柄もd2部、d3部に分かれており、これらはいずれも異なるレリーフ構造体となっている。すなわち、逆方向視にしたとき、d2部は色の変化はないが、d1部、d3部は、それぞれd3部は正方向視でのd1部と同じ色となり、d1部はd2と同じ色となるように作製されている。従って、正方向視から逆方向視に切り替えると、「8」の文字は「5」の文字に変化し、図形と背景の色が入れ替わるという機能と、図形が変形するという機能を併せもつカラーシフト効果を有する。
【0083】
既述のように、本発明のカラーシフトデバイスでは、色変化のみならず、色数、図形を変化させることができるので、観察条件がずれても画像の変化を捉えやすくなる。
【符号の説明】
【0084】
1・・・・レリーフ構造体
11・・・レリーフ構造形成層
12・・・反射層
IS1・・・第1傾斜面
IS2・・・第2傾斜面
RSa・・・反射面
T1、T2、T12・・・周期
LS・・・・光源
OP1・・・第1観察位置
OP2・・・第2観察位置
a1、b1、b2、c1、c2、c3、d1、d2、d3・・・正方向視による視認部
a1’、b1’、b2’、c1’、c2’、c3’、d1’、d2’、d3’
・・・逆方向視による視認部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9