(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】流量測定装置
(51)【国際特許分類】
G01F 1/696 20060101AFI20240514BHJP
【FI】
G01F1/696 Z
(21)【出願番号】P 2020044572
(22)【出願日】2020-03-13
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中尾 秀之
(72)【発明者】
【氏名】山本 克行
【審査官】櫻井 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-186306(JP,A)
【文献】特開2009-109284(JP,A)
【文献】特開2007-309924(JP,A)
【文献】特開2003-247876(JP,A)
【文献】特開2002-277483(JP,A)
【文献】特開昭57-010414(JP,A)
【文献】特開2019-144085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/56 - 1/90
G01F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路に配置され、流路を流れる流体を加熱する加熱部と、
流体が流れる方向に前記加熱部を跨いて並んで配置され、前記加熱部の上流側の配置場所近傍の流体の温度に関する第1情報と、前記加熱部の下流側の配置場所近傍の流体の温度に関する第2情報と、を出力する温度出力部と、
測定対象の流体の流量が所定の閾値以上である場合には、前記第1情報に基づき流体の流量を測定する第1測定方式で前記測定対象の流体の流量を測定し、前記測定対象の流体の流量が前記所定の閾値未満である場合には、前記第1情報と前記第2情報との差分出力に基づき流体の流量を測定する第2測定方式で前記測定対象の流体の流量を測定するように、前記測定対象の流体の流量を測定する測定方式を切り替える流量測定部と、を備える、
流量測定装置。
【請求項2】
前記流量測定部は、
前記第1情報と前記第2情報との差分出力及び前記第1情報のいずれかを前記温度出力部から取得可能であり、
前記流量測定部は、前記温度出力部から取得した前記差分出力が前記所定の閾値以下の
流量に対応する第2の所定の閾値未満である場合に、
前記温度出力部から前記第1情報を取得せずに前記第2測定方式で前記測定対象の流体の流量を測定し、
前記温度出力部から取得した前記差分出力が前記第2の所定の閾値以上である場合に、
前記温度出力部から前記第1情報も取得し、前記第1測定方式又は前記第2測定方式で前記測定対象の流体の流量を測定する、
請求項1に記載の流量測定装置。
【請求項3】
前記流路は、主流路から分岐した分流路であり、
前記分流路は、
自身からさらに分岐された流路であって、前記加熱部及び前記温度出力部が配置され、高流量の流体の流量を測定する高流量用流路と、
自身からさらに分岐された流路であって、前記加熱部及び前記温度出力部が配置され、低流量の流体の流量を測定する低流量用流路と、を有し、
前記低流量用流路の流路断面積は、前記高流量用流路の流路断面積よりも大きく、
前記加熱部及び前記温度出力部は、前記低流量用流路及び前記高流量用流路の夫々に配置され、
前記流量測定部は、測定対象の流体の流量が所定の閾値以上である場合には、前記高流量用流路に配置された前記温度出力部からの出力により前記第1測定方式で流量を測定し、
前記流量測定部は、前記測定対象の流体の流量が前記所定の閾値未満である場合には、前記低流量用流路に配置された前記温度出力部からの出力により前記第2測定方式で流量を測定する、
請求項1又は2に記載の流量測定装置。
【請求項4】
前記分流路は、自身からさらに分岐された流路であって、流体の特性を検出する特性検出用流路を更に有し、
前記特性検出用流路に配置される第2加熱部と、
前記特性検出用流路の流体が流れる方向と直交方向に前記第2加熱部を跨いて並んで配置され、前記直交方向に前記第2加熱部から拡散する熱の分布に関する第3情報を出力する第2温度出力部と、を更に備える、
請求項3に記載の流量測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流体の流量を熱式のフローセンサによって測定する技術が開示されている(例えば特許文献1)。より詳細には、特許文献1では、フローセンサが、ヒータとヒータを跨いで流体の流れる方向に並んで設けられる2つのサーモパイルを有することが開示されている。そして、2つのサーモパイルの出力の差分から流体の流量を求めることにより、フローセンサの感度を向上させる技術が開示されている。その理由としてサーモパイルからの出力には、流路中を伝わるノイズ成分が含まれるが、特許文献1に記載されるように、2つのサーモパイルの出力の差分をとることで、ノイズ成分が相殺されること挙げられる。このように、出力の差分から流体の流量を求めることで、流量測定の精度を高めることができる。また、広範囲にわたって流体の流量の測定精度を向上させる様々な技術が開示されている(例えば特許文献2-3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3658321号公報
【文献】特開2003-247876号公報
【文献】特開2002-277483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
流体の流量が高流量である場合、上流側のサーモパイルからの出力は理論通りに流量に対して線形に減少するが、下流側のサーモパイルからの出力は理論と異なって流量に対して線形に増加しない傾向が見られる。これは、高流量の場合、ヒータの熱分布と下流側のサーモパイルの位置関係が最適な状態から外れることによると考えられる。このような場合、2つのサーモパイルの出力の差分から流量を求めても、実際の流量値に対して誤差を含むことが考えられる。したがって、流体の流量測定の精度は低下すると考えられる。
【0005】
そこで、流体が流通する主流路の流路断面積を広げ、流路を通過する流体の流量を低下させて流量を測定することが考えられる。しかしながら、このような場合、測定装置が大型化することが考えられる。つまり、高流量領域において流量測定精度の低下を抑制するために、構造的な変更で対応することは困難であると考えられる。
【0006】
本発明は、一側面では、このような実情を鑑みてなされたものであり、その目的は、流体の流量を広範囲にわたって高精度に測定し、かつ装置を小型化することのできる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するために、以下の構成を採用する。
【0008】
すなわち本発明の一側面に係る流量測定装置は、流路に配置され、流路を流れる流体を加熱する加熱部と、流体が流れる方向に前記加熱部を跨いて並んで配置され、前記加熱部の上流側の配置場所近傍の流体の温度に関する第1情報と、前記加熱部の下流側の配置場所近傍の流体の温度に関する第2情報と、を出力する温度出力部と、測定対象の流体の流量が所定の閾値以上である場合には、前記第1情報に基づき流体の流量を測定する第1測
定方式で前記測定対象の流体の流量を測定し、前記測定対象の流体の流量が前記所定の閾値未満である場合には、前記第1情報と前記第2情報との差分出力に基づき流体の流量を測定する第2測定方式で前記測定対象の流体の流量を測定するように、前記測定対象の流体の流量を測定する測定方式を切り替える流量測定部と、を備える。
【0009】
当該構成によれば、測定対象流体の流量が低流量の場合には第2測定方式により第1情報と第2情報との差分出力に基づき流量を測定する。よって、流路中を伝わるノイズ成分が相殺された流量が出力される。よって、流量測定精度が向上する。一方、測定対象流体の流量が高流量の場合には第1測定方式により第1情報に基づき流量を測定する。よって、差分出力により流量を測定する場合と比較して測定精度は向上する。このような構成は、流体の流量を広範囲にわたって高精度に測定することができる。また、流路断面積を広げずに済む。よって、出力装置を大型化せずに流体の流量を広範囲にわたって高精度に測定することができる。
【0010】
上記一側面に係る流量測定装置において、前記温度出力部は、前記測定方式が切り替わる前記所定の閾値の近傍において、前記第1情報と前記第2情報との差分、及び前記第2情報を両方出力してもよい。
【0011】
当該構成によれば、測定方式が切り替わった場合に、切り替え後の測定方式で使用する情報が温度出力部から出力されていないといったことは抑制される。よって、測定方式が切り替わる所定の閾値の近傍において、流量測定の継続性が確保される。
【0012】
上記一側面に係る出力装置において、前記流路は、主流路から分岐した分流路であり、前記分流路は、自身からさらに分岐された流路であって、前記加熱部及び前記温度出力部が配置され、高流量の流体の流量を測定する高流量用流路と、自身からさらに分岐された流路であって、前記加熱部及び前記温度出力部が配置され、低流量の流体の流量を測定する低流量用流路と、を有し、前記低流量用流路の流路断面積は、前記高流量用流路の流路断面積よりも大きく、前記加熱部及び前記温度出力部は、前記低流量用流路及び前記高流量用流路の夫々に配置され、前記流量測定部は、前記高流量用流路に配置された前記温度出力部からの出力により前記第1測定方式で流量を測定し、前記流量測定部は、前記低流量用流路に配置された前記温度出力部からの出力により前記第2測定方式で流量を測定してもよい。
【0013】
当該構成によれば、高流量用流路では流路幅が比較的小さく設けられている。よって、高流量用流路を流れる流体の流量が制限される。よって、高流量用流路に配置される温度出力部による出力可能範囲を超えた流量の流体が高流量用流路に流入することは抑制される。よって、高流量の場合の流量測定精度の低下は抑制される。
【0014】
また、当該構成によれば、低流量用流路では流路幅が比較的大きく設けられている。よって、低流量用流路の流路壁から流体が受ける圧力損失の影響は低減される。よって、低流量の場合の流量測定精度の低下は抑制される。よって、流体の流量を広範囲にわたって測定精度の低下は抑制される。また、低流量を第2測定方式で、高流量を第1測定方式で出力するので流量測定の精度は高まる。
【0015】
上記一側面に係る出力装置において、前記分流路は、自身からさらに分岐された流路であって、流体の特性を検出する特性検出用流路を更に有し、前記特性検出用流路に配置される第2加熱部と、前記特性検出用流路の流体が流れる方向と直交方向に前記第2加熱部を跨いて並んで配置され、前記直交方向に前記第2加熱部から拡散する熱の分布に関する第3情報を出力する第2温度出力部と、を更に備えてもよい。
【0016】
流体が流れる方向と直交方向に拡散される熱の分布は、流体の特性に依存する。よって、当該構成によれば、流体の流量に加えて流体の特性を測定することができる。よって、測定された流体の特性に基づき測定流量を補正することができる。よって、流量の測定精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、流体の流量を広範囲にわたって高精度に測定し、かつ装置を小型化することのできる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施形態に係る流量測定装置の一例を模式的に例示する。
【
図2】
図2は、副流路に配置された検出素子の詳細図の一例である。
【
図3】
図3は、流速に応じたサーモパイルの出力変化の一例を示している。
【
図4】
図4は、流量測定装置の回路構成の一例を示している。
【
図5】
図5は、流量測定装置のMCUが実行する流量測定のフローチャートの一例を示している。
【
図6】
図6は、変形例に係る流量測定装置が配置される副流路の上面図を例示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。ただし、以下で説明する本実施形態は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。つまり、本発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。
【0020】
§1 適用例
図1を用いて、本発明が適用される場面の一例について説明する。
図1は、本実施形態に係る流量測定装置100の一例を模式的に例示する。
図1に示されるように、流量測定装置100は、主流路4から分岐した副流路5に配置される検出素子1を備える。検出素子1は、いわゆる熱式のフローセンサであり、マイクロヒータと、ガスの流通方向にマイクロヒータを跨ぐように設けられる2つのサーモパイルを備える。そして、流量測定装置100は、副流路5を流れるガスが高流量である場合、上流側のサーモパイルの出力に基づいて流量を測定する。一方、流量測定装置100は、副流路5を流れるガスが低流量である場合、上流側のサーモパイルの出力と下流側のサーモパイルの出力との差分出力に基づいて流量を測定する。すなわち、流量測定装置100は、ガスが高流量である場合と低流量である場合とで測定方式を切り替える。
【0021】
上記のような流量測定装置100によれば、ガスの流量が低流量の場合には流路中を伝わるノイズ成分が相殺された流量が出力される。よって、流量測定精度が向上する。一方、ガスの流量が高流量の場合には高流量であってもガスの流量変化と相関の強い上流側のサーモパイルの出力に基づき流量が測定される。よって、流量測定精度は向上する。よって、このような流量測定装置100によれば、ガスの流量を広範囲にわたって高精度に測定することができる。また、副流路5の断面積を広げずに済む。よって、装置を大型化せずにガスの流量を広範囲にわたって高精度に測定することができる。
【0022】
§2 構成例
[ハードウェア構成]
次に、本実施形態に係る流量測定装置の一例について説明する。本実施形態に係る流量測定装置100は、
図1に示されるように、検出素子1と、MCU(Micro Con
troller Unit)2と、検出素子1及びMCU2が実装される基板3と、ADC(A/Dコンバータ)30と、備える。そして、このような流量測定装置100の検出素子1は、主流路4から分流した副流路5に配置される。なお、主流路4には、
図1の矢印に示されるようにガスが流通する。そして、主流路4を通過するガスのうちの一部が分流して副流路5に流入する。
【0023】
図2は、副流路5に配置された検出素子1の詳細図の一例である。
図2(A)は、副流路5にガスが流れていない状態を例示している。一方、
図2(B)は、副流路5にガスが流れている状態を例示している。
【0024】
検出素子1は、マイクロヒータ6(本発明の「加熱部」の一例)と、マイクロヒータ6を跨ぐように設けられる2つのサーモパイル7A、7B(本発明の「温度出力部」の一例)を備える。そして、サーモパイル7Aが副流路5においてマイクロヒータ6に対して上流側に、サーモパイル7Bが副流路5においてマイクロヒータ6に対して下流側になるように検出素子1は副流路5に配置される。また、検出素子1は、絶縁薄膜8を備える。そして、マイクロヒータ6及びサーモパイル7A、7Bは絶縁薄膜8に形成される。また、マイクロヒータ6及びサーモパイル7A、7Bが配置される基板3の中央部分には、キャビティ9が設けられる。
【0025】
[流量検出原理]
次に、検出素子1を用いた流量検出の原理を説明する。
図2(A)に示されるように副流路5にガスが流れていない場合、マイクロヒータ6からの熱は、マイクロヒータ6を中心として対称に拡散する。よって、サーモパイル7A、7Bからの出力に差は生じない。一方、
図2(B)に示されるように副流路5にガスが流れている場合、マイクロヒータ6からの熱は、ガスの流れの影響を受けて副流路5において下流のサーモパイル7B側へ拡散していく。また、マイクロヒータ6からの熱は、ガスの流れの影響を受けて絶縁薄膜8においても下流のサーモパイル7B側へ拡散していく。よって、マイクロヒータ6からの熱は、マイクロヒータ6を中心として対称に広がらず、下流のサーモパイル7B側へより拡散していく。また、マイクロヒータ6からの熱が下流へ拡散する度合いは、ガスの流量に応じることになる。よって、サーモパイル7Aあるいはサーモパイル7Bからの出力は、ガスの流量に対して理論上は線形に減少あるいは増加することになる。このような現象を利用して、サーモパイル7Aあるいはサーモパイル7Bの出力から副流路5を流れるガスの流量を測定することができる。
【0026】
ところで、副流路5においては、例えば埃や塵などが通過していることが考えられる。よって、サーモパイル7Aまたはサーモパイル7Bからの出力には、ノイズ成分が含まれることが考えられる。よって、測定されたガスの流量にはノイズ成分に起因した誤差が含まれると考えられる。そこで、流量測定の精度を向上させるために、サーモパイル7Aの出力とサーモパイル7Bの出力との差分出力を利用してガスの流量を測定することが考えられる(本発明の「第2測定方式」の一例)。このような測定方式によれば、サーモパイル7Aの出力及びサーモパイル7Bの出力に含まれるノイズは、両サーモパイル7A、7Bからの出力の差分をとることで相殺される。よって、ガスの流量測定精度は向上することになる。
【0027】
しかしながら、副流路5を流れるガスの流量が高流量である場合、上流側に配置されるサーモパイル7A近傍では、流速に対して単調に熱の分布が変化するが、下流側に配置されるサーモパイル7B近傍では、流速に対して単調に熱の分布が変化しないことが考えられる。
図3は、流速に応じたサーモパイル7Aまたはサーモパイル7Bからの出力変化の一例を示している。
図3(A)は、サーモパイル7Aの出力の一例である。
図3(B)は、サーモパイル7Bの出力の一例である。また、
図3(C)は、サーモパイル7Aの出力
と、サーモパイル7Bの出力との差分の一例である。
図3(A)に示されるように、高流量領域においてサーモパイル7Aからの出力は、理論通りに流速に対して線形に減少している。つまり、高流量領域において流量とサーモパイル7Aの出力との間には強い相関関係が認められる。これは、上流側のサーモパイル7Aについては、高流量の場合でも、マイクロヒータ6の熱分布の変化の影響は少なく、流体の流れに応じて熱が奪われることから、流量変化との相関は高いまま維持されると考えられる。一方、
図3(B)に示されるように、高流量領域においてサーモパイル7Bからの出力は、理論とは異なって流速に対して線形に増加せず、出力の傾きが減少していることが認められる。よって、
図3(C)に示されるように、サーモパイル7Aの出力と、サーモパイル7Bの出力との差分は、高流量領域において流速に対して線形に増加せず、差分出力の傾きが減少することになる。つまり、高流量領域において、サーモパイル7Aの出力とサーモパイル7Bの出力との差分を利用して求めた流量は、副流路5を通過している実際の流量に対して誤差を含んでいると考えられる。
【0028】
そこで、本実施形態では、低流量領域においてはサーモパイル7Aの出力とサーモパイル7Bの出力との差分を利用してガスの流量を測定し、高流量領域においては上流側のサーモパイル7Aの出力を利用してガスの流量を測定(本発明の「第1測定方式」の一例)することとした。このような測定方式により、広範囲の流量領域において流量測定の精度は向上する。
【0029】
図4は、流量測定装置100の回路構成の一例を示している。
図4に示されるように、流量測定装置100では、サーモパイル7Aの出力とサーモパイル7Bの出力との差分出力がアナログ情報としてADC30に入力される。また、サーモパイル7A単体の出力が同様にアナログ情報としてADC30に出力される。また、そしてADC30では、入力されたアナログ情報がデジタル情報に変換される。そして、変換されたデジタル情報がMCU2へ入力される。
【0030】
図5は、流量測定装置100のMCU2が実行する流量測定のフローチャートの一例を示している。
図5に示されるフローチャートでは、副流路5を流れるガスの流量が高流量であるかあるいは定流量であるかの判定、及び測定方式の切り替えが例示される。なお、副流路5には、例えば0.216~200L/min程度の流量のガスが通過するものとする。
【0031】
(S101)
ステップS101では、マイクロヒータ6に対して上流側に配置されているサーモパイル7Aの出力と、マイクロヒータ6に対して下流側に配置されているサーモパイル7Bの出力との差分出力が計測される。そして、計測された差分出力は、MCU2に入力される。ちなみに、サーモパイル7Aから出力される電圧と、サーモパイル7Bから出力される電圧との差分出力ΔVは、例えば下記の式(1)のように表される。
【数1】
ここで、T
hはマイクロヒータ6の温度、T
aは検出素子1の周囲の温度を表す。また、v
fはガスの流速、A及びbは定数である。
【0032】
(S102)
ステップS102では、マイクロヒータ6に対して上流側に配置されているサーモパイル7Aの出力が計測される。
【0033】
(S103)
ステップS103では、ステップS101において計測された、サーモパイル7Aの出力とサーモパイル7Bの出力との差分出力が、所定の閾値(本発明の「所定の閾値」の一例)以上であるか否の判定処理が実行される。
【0034】
(S104)
ステップS104では、ステップS103においてサーモパイル7Aの出力とサーモパイル7Bの出力との差分出力が、所定の閾値以上であると判定された場合、ステップS102において計測された、サーモパイル7Aの出力からガスの流量が算出される。
【0035】
(S105)
ステップS105では、ステップS103においてサーモパイル7Aの出力とサーモパイル7Bの出力との差分出力が、所定の閾値未満であると判定された場合、ステップS101において計測された、サーモパイル7Aの出力とサーモパイル7Bの出力との差分出力からガスの流量が算出される。
【0036】
なお、
図5に示されるフローチャートでは、ステップS102においてマイクロヒータ6に対して上流側に配置されているサーモパイル7Aの出力が常に計測されているが、ステップS101において計測されたサーモパイル7Aの出力とサーモパイル7Bの出力との差分出力が所定の閾値(ステップS103)以下の第2の所定の閾値以上である場合に、ステップS102が実行されてもよい。このような流量測定装置100によれば、第2の所定の閾値未満の低流量の場合にステップS102におけるサーモパイル7Aの出力計測を省略できるため、測定フローが簡略化できる。
【0037】
[作用・効果]
上記のような流量測定装置100によれば、ガスの流量が低流量の場合にはサーモパイル7Aの出力とサーモパイル7Bの出力との差分出力に基づき流量を測定している。よって、副流路5中を伝わるノイズ成分が相殺された流量が出力される。よって、流量測定精度が向上する。一方、ガスの流量が高流量の場合には、高流量であっても流量と強い相関関係が認められる(
図3(A))上流側のサーモパイル7Aの出力に基づき流量を測定している。よって、差分出力により流量を測定する場合と比較して測定精度は向上する。このような流量測定装置100によれば、ガスの流量を広範囲にわたって高精度に測定することができる。また、副流路5の断面積を広げずに済む。よって、装置を大型化せずにガスの流量を広範囲にわたって高精度に測定することができる。
【0038】
また、上記のような流量測定装置100によれば、ステップS101及びステップS102において、サーモパイル7Aの出力とサーモパイル7Bの出力との差分出力、及びサーモパイル7A単体の出力が計測されている。よって、例えばステップS103において高流量と判定されていた流量が低流量であると判定され、ステップS104のサーモパイル7Aの出力で流量値を算出する方式からステップS105の差分出力で流量値を算出する方式に測定方式が切り替わった場合に、差分出力が計測されておらず、流量値の算出が困難となることは抑制される。よって、測定方式が切り替わるステップS103の閾値の近傍において、流量測定の継続性が確保される。
【0039】
§3 変形例
以上、本発明の実施の形態を詳細に説明してきたが、前述までの説明はあらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。例えば、以下のような変更が可能である。なお、以下では、上記実施形態と同様の構成要素に関しては同様の符号を用い、上記実施形態と同
様の点については、適宜説明を省略した。以下の変形例は適宜組み合わせ可能である。
【0040】
<3.1>
図6は、変形例に係る流量測定装置100Aが配置される副流路5A(本発明の「分流路」の一例)の上面図を例示している。
図6に示されるように、副流路5Aは、2つの流路71、81が並んで設けられている。そして、副流路5Aには、主流路4からガスが流入する流入孔34Aが設けられ、流入孔34Aと流路71、81の夫々は連通している。このような構造により、主流路4から流入孔34Aを介してガスが流路71、81の夫々に流入可能となる。また、副流路5Aには、主流路4へガスを流出させる流出孔35Aが設けられ、流出孔35Aと流路71、81の夫々は連通している。このような構造により、流路71、81の夫々を通過したガスは流出孔35Aを介して主流路4へ流出する。ここで、流路81は、検出素子1B(後述する)が配置される場所よりも上流側の流路断面積が、流路71の流路断面積であって検出素子1A(後述する)が配置される場所よりも上流側の流路断面積と比較して大きくなるように設けられる。
【0041】
また、流路71、81の夫々には、検出素子1A、1Bが設けられる。検出素子1A、1Bは検出素子1と同じタイプの素子である。そして、検出素子1A、1Bは、検出素子1と同様に、二つのサーモパイルがガスの流通方向に対して平行に並ぶように設けられる。よって、検出素子1A、1Bに備わるサーモパイルの出力を利用して夫々の流路71、81を流れるガスの流量を測定することができる。
【0042】
ここで、主流路4を流れるガスの流量が低流量である場合、流路断面積が比較的小さい流路71を流れるガスには、流路壁面から及ぼされる摩擦の影響を大きく受ける。よって、流路71を流れるガスが流路71の壁面から受ける圧力損失は増大するものと考えられる。よって、流路71に配置された検出素子1Aによる流量測定値は、流路を流れる実際の流量に対して誤差を多く含むことが考えられる。そこで、ガスの流量が低流量である場合、流路断面積が比較的大きい流路81に配置された検出素子1Bで測定されるガスの流量を、主流路4を流れるガスの流量として流量測定装置100Aは出力する。このような構成とすることで、流路断面積の大きい流路81を流れる低流量のガスが流路壁面から受ける圧力損失は比較的小さく済むため、精度高く流量測定することができる。
【0043】
一方、主流路4を流れるガスの流量が高流量である場合、流路断面積が比較的大きい流路81には、流路81に配置される検出素子1Bの測定レンジを超えた流量のガスが流入する。よって、流路81に配置された検出素子1Bは、正確に流量を測定することが困難となる。そこで、ガスの流量が高流量である場合、流路断面積が比較的小さい流路71に配置された検出素子1Aで測定されるガスの流量を、主流路4を流れるガスの流量として流量測定装置100Aは出力する。このような構成とすることで、流量測定精度の低下は抑制される。
【0044】
さらに、流量測定装置100Aでは、高流量である場合に検出素子1Aでの測定値をガスの流量測定値として出力するため、検出素子1Aの上流側のサーモパイルの出力から流量値を算出する。一方で、流量測定装置100Aは、低流量である場合に検出素子1Bでの測定値をガスの流量測定値として出力するため、検出素子1Bの上流側のサーモパイルの出力と下流側のサーモパイルの出力との差分出力から流量値を算出する。このような測定方法とすることで、夫々の検出素子1A、1Bの流量測定精度はさらに向上する。
【0045】
また、流量が高流量であるか低流量であるかの判定、及び判定結果に基づく上記の流量測定方法の切り替えは、
図5に示されるフローチャートと同様に実行される。すなわち、まず検出素子1Bにおいて、上流側のサーモパイルの出力と下流側のサーモパイルの出力との差分出力が計測される。次に、検出素子1Aにおいて上流側のサーモパイルの出力が
計測される。そして、検出素子1Bにより計測された差分出力が閾値以上である場合、流量が高流量と判定され、検出素子1Aの上流側のサーモパイルの出力から算出した流量値が測定流量として流量測定装置100Aから出力される。一方、検出素子1Bにより計測された差分出力が閾値未満である場合、流量が低流量と判定され、検出素子1Aの上流側のサーモパイルの出力と下流側のサーモパイルの出力との差分出力から算出した流量値が測定流量として流量測定装置100Aから出力される。
【0046】
また、流量測定装置100Aの副流路5Aには、
図6に示されるように流路91(本発明の「特性検出用流路」の一例)が流路71及び流路81と連通するように設けられる。そして、流路91には、検出素子1Cが配置される。検出素子1Cは、検出素子1と同じタイプの素子である。しかし、検出素子1Cは、ガスの流通方向に対して直交方向に二つのサーモパイルが並ぶように配置される(本発明の「第2温度出力部」の一例)。このように検出素子1Cが配置されると、検出素子1Cのマイクロヒータ(本発明の「第2加熱部」の一例)を中心としてガスの流通方向に対して直交方向に拡散する熱分布を二つのサーモパイルの出力から検出することができる。ここで、このような熱分布は、ガスの温度や濃度といった特性に応じて変化する。よって、検出素子1Cの二つのサーモパイルの出力からガスの特性に関する情報を求めることができる。
【0047】
[作用・効果]
上記のような流量測定装置100Aによれば、流路71では流路断面積が比較的小さく設けられている。よって、流路71を流れるガスの流量が制限される。よって、流路71に配置される検出素子1Aによる出力可能範囲を超えた流量のガスが流路71に流入することは抑制される。よって、高流量の場合の流量測定精度の低下は抑制される。
【0048】
また、上記のような流量測定装置100Aによれば、流路81では流路断面積が比較的大きく設けられている。よって、流路81の流路壁からガスが受ける圧力損失の影響は低減される。よって、検出素子1Bによって測定される低流量の場合の流量測定精度の低下は抑制される。よって、ガスの流量を広範囲にわたって測定精度の低下は抑制される。また、検出素子1Aの上流側のサーモパイルの出力によりガスが高流量である場合の流量が測定され、検出素子1Bの上流側のサーモパイルの出力と下流側のサーモパイルの出力との差分出力により、ガスが低流量である場合の流量が測定されている。このような点からも、流量測定の精度は向上する。
【0049】
また、上記のような流量測定装置100Aによれば、ガスの流量に加えてガスの特性を検出素子1Cにより測定することができる。よって、ガスの特性から測定流量を補正することができる。よって、流量測定の精度はさらに向上する。
【0050】
以上で開示した実施形態や変形例はそれぞれ組み合わせる事ができる。
【0051】
なお、以下には本発明の構成要件と実施例の構成とを対比可能とするために、本発明の構成要件を図面の符号付きで記載しておく。
<付記1>
流路(5、5A)に配置され、流路(5、5A)を流れる流体を加熱する加熱部(6)と、
流体が流れる方向に前記加熱部(6)を跨いて並んで配置され、前記加熱部(6)の上流側の配置場所近傍の流体の温度に関する第1情報と、前記加熱部(6)の下流側の配置場所近傍の流体の温度に関する第2情報と、を出力する温度出力部(7A、7B)と、
測定対象の流体の流量が所定の閾値以上である場合には、前記第1情報に基づき流体の流量を測定する第1測定方式で前記測定対象の流体の流量を測定し、前記測定対象の流体の流量が前記所定の閾値未満である場合には、前記第1情報と前記第2情報との差分出力
に基づき流体の流量を測定する第2測定方式で前記測定対象の流体の流量を測定するように、前記測定対象の流体の流量を測定する測定方式を切り替える流量測定部と、を備える、
流量測定装置(100、100A)。
<付記2>
前記温度出力部(7A、7B)は、前記測定方式が切り替わる前記所定の閾値の近傍において、前記第1情報と前記第2情報との差分、及び前記第2情報を両方出力する、
付記1に記載の流量測定装置(100、100A)。
<付記3>
前記流路(5、5A)は、主流路(4)から分岐した分流路(5A)であり、
前記分流路(5A)は、
自身からさらに分岐された流路(71)であって、前記加熱部(6)及び前記温度出力部(7A、7B)が配置され、高流量の流体の流量を測定する高流量用流路(71)と、
自身からさらに分岐された流路(81)であって、前記加熱部(6)及び前記温度出力部(7A、7B)が配置され、低流量の流体の流量を測定する低流量用流路(81)と、を有し、
前記低流量用流路(81)の流路断面積は、前記高流量用流路(71)の流路断面積よりも大きく、
前記加熱部(6)及び前記温度出力部(7A、7B)は、前記低流量用流路(81)及び前記高流量用流路(71)の夫々に配置され、
前記流量測定部は、前記高流量用流路(71)に配置された前記温度出力部(7A、7B)からの出力により前記第1測定方式で流量を測定し、
前記流量測定部は、前記低流量用流路(81)に配置された前記温度出力部(7A、7B)からの出力により前記第2測定方式で流量を測定する、
付記1又は2に記載の流量測定装置(100A)。
<付記4>
前記分流路(5A)は、自身からさらに分岐された流路(91)であって、流体の特性を検出する特性検出用流路(91)を更に有し、
前記特性検出用流路(91)に配置される第2加熱部(6)と、
前記特性検出用流路(91)の流体が流れる方向と直交方向に前記第2加熱部(6)を跨いて並んで配置され、前記直交方向に前記第2加熱部(6)から拡散する熱の分布に関する第3情報を出力する第2温度出力部(7A、7B)と、を更に備える、
付記3に記載の流量測定装置(100A)。
【符号の説明】
【0052】
1、1A、1B、1C :検出素子
3 :基板
4 :主流路
5、5A :副流路
6 :マイクロヒータ
7A、7B :サーモパイル
8 :絶縁薄膜
9 :キャビティ
34A :流入孔
35A :流出孔
71 :流路
81 :流路
91 :流路
100、100A :流量測定装置