(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】びびり予測システム
(51)【国際特許分類】
G01H 17/00 20060101AFI20240514BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
G01H17/00 D
G05B23/02 R
(21)【出願番号】P 2020045531
(22)【出願日】2020-03-16
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 祐生
(72)【発明者】
【氏名】河原 徹
(72)【発明者】
【氏名】村上 慎二
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 明
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-010535(JP,A)
【文献】特開2020-023039(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0061768(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00-17/00
B23Q 17/00-23/00
G05B 23/00-23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御装置の制御による複数の研削工程を経て砥石が工作物に研削加工を行う研削装置と、
前記研削装置による前記研削加工において観測可能な前記砥石の作動状態に関する状態データ
であって、周波数特性を有する前記状態データを検出し、検出した前記状態データを出力する第一検出器と、
前記研削装置による前記研削加工において発生するびびり振動の大きさに関するびびり関連データを検出し、検出した前記びびり関連データを出力する第二検出器と、
前記状態データを周波数解析することにより複数の周波数成分に分割し、複数の周波数成分のうち、前記研削装置の前記砥石の回転数に対応する砥石回転周波数である特定周波数の振幅を前記状態データの特徴量として抽出する特徴量抽出部と、
前記
特徴量抽出部にて抽出された前記状態データの
前記特徴量を説明変数とし、前記第二検出器から取得した前記びびり関連データを目的変数とし、前記説明変数及び前記目的変数を含む訓練データセットを用いて機械学習を行うことにより生成された学習済みモデルを記憶する学習済みモデル記憶部と、
前記学習済みモデルと前記状態データとを用いて前記研削装置による前記研削加工において発生する前記びびり振動を評価するための評価値を予測して出力する評価値予測部と、
を備える、びびり予測システム。
【請求項2】
前記状態データは、前記研削装置において前記研削加工に伴って生じる駆動負荷に対応する駆動電流データ、及び、前記研削装置において前記研削加工に伴って生じる振動の大きさを表す振動データのうちの少なくとも一つを含む、請求項
1に記載のびびり予測システム。
【請求項3】
前記びびり関連データは、前記研削加工が施された前記工作物の表面粗さに対応して発生する前記びびり振動の加速度データ又は変位データである、請求項1
又は2に記載のびびり予測システム。
【請求項4】
前記びびり関連データは、前記工作物の複数個所における前記加速度データ又は前記変位データについて統計演算することによって算出された、前記びびり振動の大きさを表すびびり評価値であり、
前記評価値予測部は、前記学習済みモデルと前記状態データとを用いて予測した推定びびり評価値を出力する、請求項
3に記載のびびり予測システム。
【請求項5】
前記工作物が軸線回りの周面を有する場合、
前記びびり評価値は、前記工作物の軸方向にて複数個所における周方向の前記加速度データ又は前記変位データについて統計演算することによって算出される、請求項
4に記載のびびり予測システム。
【請求項6】
前記びびり関連データと前記学習済みモデルを用いて予測された前記評価値とを比較することにより、前記学習済みモデルの更新が必要であるか否かを判定する更新判定部を備え、
前記学習済みモデル記憶部は、前記更新判定部の判定に基づいて前記学習済みモデルが更新された場合、更新された前記学習済みモデルを記憶する、請求項1-
5のうちの何れか一項に記載のびびり予測システム。
【請求項7】
前記第二検出器は、前記研削装置に一体に、又は、別体に設けられる、請求項1-
6のうちの何れか一項に記載のびびり予測システム。
【請求項8】
前記特徴量抽出部は、前記研削工程毎に前記状態データを周波数解析することにより複数の周波数成分に分割し、前記研削工程毎において複数の周波数成分のうち前記特定周波数の振幅を、前記研削工程毎の前記特徴量として抽出し、
前記学習済みモデル記憶部は、前記研削工程毎に
抽出された前記状態データの前記特徴量と、前記びびり関連データと、を用いて機械学習を行うことにより生成された前記学習済みモデルを記憶する、請求項1-
7のうちの何れか一項に記載のびびり予測システム。
【請求項9】
前記研削工程は、少なくとも、粗研削工程、精研削工程、微研削工程及びスパークアウト工程を含む、請求項
8に記載のびびり予測システム。
【請求項10】
前記第一検出器が前記制御装置を介して前記状態データを出力する場合、前記状態データは前記制御装置によって前記研削工程を識別する工程情報が付加されており、
前記工程情報に基づいて、前記状態データを前記研削工程毎に分割する状態データ分割部を備え
、
前記特徴量抽出部は、前記状態データ分割部により前記研削工程毎に分割された前記状態データを周波数解析することにより複数の周波数成分に分割し、前記研削工程毎において複数の周波数成分のうち前記特定周波数の振幅を、前記研削工程毎の前記特徴量として抽出する、請求項
8又は9に記載のびびり予測システム。
【請求項11】
前記
特徴量抽出部にて抽出された前記状態データの前記特徴量を前記説明変数とし、前記第二検出器から取得した前記びびり関連データを前記目的変数とし、前記説明変数及び前記目的変数を含む訓練データセットを用いて機械学習を行うことにより前記学習済みモデルを生成する学習済みモデル生成部を備える、請求項1-
10のうちの何れか一項に記載のびびり予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、びびり予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、工作物に研削加工を施す場合、研削盤の作動に伴う振動や砥石の摩耗等に起因した振動が発生するため、びびり振動(以下、単に「びびり」とも称呼する。)が生じる場合がある。研削加工においてびびりが発生した場合、工作物の表面性状の悪化を引き起こす虞があり、びびりが発生しているか否かを把握することは極めて重要である。このため、従来から特許文献1に開示された技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、研削加工中の研削盤の振動について、一定周波数帯域の振動の大きさと一定時間内における振動の変化の度合とを判別基準値と比較することにより、びびり振動の発生の有無を判定する技術が開示されている。これにより、特に、発生初期のびびり振動を検出するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された技術では、研削加工中に検出された振動データの解析結果と予め設定された判別基準値に基づいて、びびり振動の大きさを判定する。砥石が工作物を研削加工する際に発生するびびり振動の大きさは、砥石が接触する工作物の研削加工面の状態に応じて変化する。換言すれば、工作物の研削加工面の状態が砥石の作動状態に影響を及ぼすことにより、びびり振動の大きさが変化する。このため、びびり振動の大きさを精度よく予測するためには、砥石が工作物に研削加工を行う際の砥石の作動状態を加味して予測することが必要である。
【0006】
本発明は、研削加工におけるびびり振動を精度よく予測することができるびびり予測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
びびり予測システムは、制御装置の制御による複数の研削工程を経て砥石が工作物に研削加工を行う研削装置と、研削装置による研削加工において観測可能な砥石の作動状態に関する状態データであって、周波数特性を有する状態データを検出し、検出した状態データを出力する第一検出器と、研削装置による研削加工において発生するびびり振動の大きさに関するびびり関連データを検出し、検出したびびり関連データを出力する第二検出器と、状態データを周波数解析することにより複数の周波数成分に分割し、複数の周波数成分のうち、研削装置の砥石の回転数に対応する砥石回転周波数である特定周波数の振幅を状態データの特徴量として抽出する特徴量抽出部と、特徴量抽出部にて抽出された状態データの特徴量を説明変数とし、第二検出器から取得したびびり関連データを目的変数とし、説明変数及び目的変数を含む訓練データセットを用いて機械学習を行うことにより生成された学習済みモデルを記憶する学習済みモデル記憶部と、学習済みモデルと状態データとを用いて研削装置による研削加工において発生するびびり振動を評価するための評価値を予測して出力する評価値予測部と、を備える。
【0008】
これによれば、研削加工における砥石の作動状態に関する状態データの特徴量と、びびり振動の大きさに関するびびり関連データとの相関関係を表す学習済みモデルを用いて、びびり振動を評価するための評価値を予測して出力することができる。従って、予測された評価値に基づくことにより、研削加工において発生するびびり振動を精度よく予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】第二検出器の一例の機能ブロック構成を示す図である。
【
図4】びびり予測システムの機能ブロック構成を示す図である。
【
図6】
図5の状態データから抽出される特徴量を説明するための図である。
【
図7】第一別例のびびり予測システムの機能ブロック構成を示す図である。
【
図8】
図7のモデル更新部の機能ブロック構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1.びびり予測システムの適用対象の研削装置)
びびり予測システムは、複数の研削工程を経て工作物の研削加工を行う研削装置におけるびびりの発生状態を評価する。研削装置としては、円筒研削盤、カム研削盤、平面研削盤等、種々の構成の研削装置を適用できる。研削装置による研削工程には、粗研削工程、精研削工程、微研削工程、スパークアウト工程等が含まれる。
【0011】
(2.びびり予測システム1の構成の概要)
びびり予測システム1の構成の概要について、
図1を参照して説明する。びびり予測システム1は、少なくとも1台の研削装置10と、1つの演算装置(20,30)とを備える。研削装置10は、1台を対象としても良いし、
図1に示すように、複数台を対象としても良い。本例では、びびり予測システム1は、複数台の研削装置10を備える場合を例に挙げる。
【0012】
研削装置10は、少なくとも、工作物Wの研削加工中において観測可能な状態データを検出する第一検出器13を備える。演算装置(20,30)は、第一検出器13により検出された状態データを用いて、機械学習を適用することにより、研削装置10による研削加工におけるびびりの発生状態、即ち、びびり評価を予測する。
【0013】
図1においては、演算装置(20,30)は、学習処理装置20と予測演算装置30とにより構成され、学習処理装置20と予測演算装置30とは、独立した構成として示すが、1つの装置とすることもできる。又、演算装置(20,30)の一部又は全部は、研削装置10への組込みシステムとすることもできる。
【0014】
本例では、学習処理装置20と予測演算装置30とは、独立した構成である場合を例に挙げる。又、学習処理装置20は、所謂、サーバ機能を有しており、複数台の研削装置10と通信可能に接続されている。一方、予測演算装置30は、各研削装置10に一対一で設けられ、各研削装置10に通信可能に接続されている。即ち、複数台の予測演算装置30は、所謂、エッジコンピュータとして機能しており、高速演算処理を実現可能としている。
【0015】
(3.びびり予測システム1の構成の詳細)
びびり予測システム1の構成について、
図1を参照して、より詳細に説明する。びびり予測システム1は、複数台の研削装置10、演算装置の一部として機能する1台の学習処理装置20、演算装置の他の一部として機能する複数台の予測演算装置30を備える。
【0016】
それぞれの研削装置10は、砥石Tを用いて工作物Wの研削加工を行う研削盤11と、研削盤11を制御する制御装置12と、第一検出器13と、第二検出器14と、インターフェース15とを主に備える。制御装置12は、CNC装置及びPLC装置等を含み、研削盤11における駆動装置等を制御する。インターフェース15は、研削盤11、制御装置12、第一検出器13及び第二検出器14と、外部と通信可能とする機器である。尚、外部には、学習処理装置20、及び、研削装置10によって研削加工された工作物Wを検査する検査装置2が含まれる。
【0017】
第一検出器13は、工作物Wの研削加工中に研削盤11における観測可能な研削盤11の作動状態(加工負荷や駆動装置の駆動負荷等)に関連する状態データを検出する。第一検出器13は、例えば、砥石Tと工作物Wとの相対的な位置(又は距離)データを検出する変位センサ、駆動装置としてのモータの駆動電流データを検出する電流センサ、加工中の砥石T及び工作物Wの温度データを検出する温度センサ、研削盤11の構成部材の振動データを検出する振動センサ(加速度センサ)、加工中の音データを検出するマイクロフォン等である。即ち、第一検出器13が検出する状態データは、例えば、位置データ、駆動電流データ、温度データ、振動データ(加速度データ)、音データ等である。
【0018】
第二検出器14は、工作物Wの加工中又は加工後に研削盤11における観測可能なびびり振動の大きさに関連するびびり関連データを検出する。第二検出器14は、例えば、工作物Wの加工面における表面粗さを検出する粗さ計、表面粗さに起因する加速度データ又は変位データを検出する加速度センサ又は変位センサ等である。即ち、第二検出器14が検出するびびり関連データは、びびり振動の大きさに関連する、例えば、表面粗さ(粗さデータ)、加速度データ(振動データ)、変位データ等である。尚、本例においては、第二検出器14は、研削装置10に一体に設けられるが、研削装置10と別体に設けることもできる。
【0019】
そして、第二検出器14は、評価値として、特に、統計演算したびびり量(以下、「びびり評価値」と称呼する。)を算出して出力する。ここで、第二検出器14は、第一検出器13によって検出されたそれぞれの状態データ(駆動電流データや振動データ等)、或いは、別途設けられた加速度センサや変位センサによる検出データを用いて、びびり関連データとして、発生したびびり振動の大きさを表すびびり量を出力することもできる。
【0020】
尚、検査装置2は、第二検出器14が検出するびびり関連データと同様のデータを検出して出力することができる。即ち、検査装置2は、研削加工において発生したびびり振動の大きさを表すびびり量を検出して出力するができる。
【0021】
学習処理装置20は、プロセッサ21、記憶装置22、インターフェース23等を備えて構成される。又、学習処理装置20は、サーバ機能を有しており、複数台の研削装置10(例えば、離間した他の工場に設置された研削装置10を含む。)と通信可能に接続されている。
【0022】
学習処理装置20は、第一検出器13により検出された状態データ、第二検出器14又は/及び検査装置2から出力されたびびり関連データに基づいて、機械学習を行う。そして、学習処理装置20は、研削加工におけるびびり評価値を予測するための学習済みモデルを生成する。
【0023】
特に、学習処理装置20は、第一検出器13から時系列的に出力される状態データのうち、駆動電流データ及び振動データをFFT(高速フーリエ変換)することにより抽出される砥石回転周波数の振幅を特徴量とする。そして、学習処理装置20は、抽出された特徴量と、びびり関連データ(具体的には、びびり評価値)とを用いて学習済みモデルを生成する。
【0024】
又、学習処理装置20は、時系列的に出力される状態データを研削工程毎に分割して特徴量を抽出し、学習済みモデルを生成する。例えば、学習処理装置20は、研削工程毎の複数の特徴量を抽出し、研削工程毎の複数の特徴量を用いて1つの学習済みモデルを生成する。
【0025】
それぞれの予測演算装置30は、プロセッサ31、記憶装置32、インターフェース33等を備えて構成される。又、予測演算装置30は、サーバとしての学習処理装置20、及び、対応する研削装置10と通信可能に接続されている。
【0026】
予測演算装置30は、それぞれの研削装置10に近接した位置に配置されており、所謂、エッジコンピュータとして機能する。予測演算装置30は、学習処理装置20により生成された学習済みモデルを用いて、工作物Wの加工中に第一検出器13によって検出された状態データから抽出された特徴量に基づいて、研削加工におけるびびり評価値を予測する。
【0027】
びびり予測システム1は、更に、共通表示装置40、複数の個別表示装置50を備える。但し、びびり予測システム1は、共通表示装置40を備えない構成としても良いし、個別表示装置50を備えない構成としても良い。共通表示装置40は、学習処理装置20に対応して配置される。又、個別表示装置50は、研削装置10のそれぞれに対応して配置される。
【0028】
(4.研削盤11の例)
本例の研削盤11として、
図2に示すように、砥石台トラバース型の円筒研削盤60を例に挙げる。尚、研削盤11は、テーブルトラバース型を用いることもできる。尚、円筒研削盤60によって研削加工される工作物Wは、軸線回りの周面を有する。
【0029】
円筒研削盤60は、工作物Wを研削するための機械である。円筒研削盤60は、主として、ベッド61、主軸台62、心押台63、トラバースベース64、砥石台65、砥石車66(砥石T)、定寸装置67、砥石車修正装置68、及び、クーラント装置69を備える。
【0030】
ベッド61は、設置面上に固定されている。主軸台62は、ベッド61の上面において、X軸方向の手前側(
図2の下側)且つZ軸方向の一端側(
図2の左側)に設けられている。主軸台62は、工作物WをZ軸回りに回転可能に支持する。工作物Wは、主軸台62に設けられたモータ62aの駆動により回転される。心押台63は、ベッド61の上面において、主軸台62に対してZ軸方向に対向する位置、即ち、X軸方向の手前側(
図2の下側)且つZ軸方向の他端側(
図2の右側)に設けられている。これにより、工作物Wは、主軸台62及び心押台63によって回転可能に両端支持される。
【0031】
トラバースベース64は、ベッド61の上面において、Z軸方向に移動可能に設けられている。トラバースベース64は、ベッド61に設けられたモータ64aの駆動により移動する。砥石台65は、トラバースベース64の上面において、X軸方向に移動可能に設けられている。砥石台65は、トラバースベース64に設けられたモータ65aの駆動により移動する。砥石車66は、砥石台65に回転可能に支持されている。砥石車66は、砥石台65に設けられたモータ66aの駆動により回転する。砥石車66は、複数の砥粒をボンド材により固定されて構成されている。
【0032】
定寸装置67は、工作物Wの寸法(径)を測定する。定寸装置67は、ベッド61の上面において、Z軸方向に移動可能に設けられている。定寸装置67は、ベッド61に設けられた送り機構67aによりZ軸方向の位置が制御される。定寸装置67は、工作物Wの研削加工面に接触する接触部である測定子67bを備える。又、定寸装置67には、測定子67bを支持するアームに加速度センサ67cが設けられる。
【0033】
加速度センサ67cは、回転する工作物Wの研削加工面に測定子67bが接触した状態で検出される加速度を表す加速度データを出力する。尚、加速度センサ67cを用いることに代えて、回転する工作物Wの研削加工面に測定子67bが接触した状態で検出される変位(表面粗さに相当)を表す変位データを出力する変位センサを用いることも可能である。
【0034】
砥石車修正装置68は、砥石車66の形状を修正する。砥石車修正装置68は、砥石車66のツルーイングを行う装置である。砥石車修正装置68は、ツルーイングに加えて又は代えて、砥石車66のドレッシングを行う装置としても良い。ここで、ツルーイングは、形直し作業であり、研削によって砥石車66が摩耗した場合に工作物Wの形状に合わせて砥石車66を成形する作業、偏摩耗による砥石車66の振れを取り除く作業等である。
【0035】
ドレッシングは、目直し(目立て)作業であり、砥粒の突き出し量を調整したり、砥粒の切れ刃を創成したりする作業である。ドレッシングは、目つぶれ、目詰まり、目こぼれ等を修正する作業であって、通常ツルーイング後に行われる。
【0036】
クーラント装置69は、砥石車66による工作物Wの研削点にクーラントを供給する。クーラント装置69は、回収したクーラントを、所定温度に冷却して、再度研削点に供給する。
【0037】
円筒研削盤60に設けられる制御装置12は、工作物Wの形状、加工条件、砥石車66の形状、クーラントの供給タイミング情報等の作動指令データに基づいて生成されたNCプログラムに基づいて、各駆動装置を制御する。即ち、制御装置12は、動作指令データを入力し、動作指令データに基づいてNCプログラムを生成する。
【0038】
そして、制御装置12は、NCプログラムに基づいて各モータ62a,64a,65a,66a及びクーラント装置69等を制御することにより工作物Wの研削加工を行う。特に、制御装置12は、定寸装置67により測定される工作物Wの径に基づいて、工作物Wが仕上げ形状となるまで研削加工を行う。又、制御装置12は、砥石車66を修正するタイミングにおいて、各モータ64a,65a,66a、及び、砥石車修正装置68等を制御することにより、砥石車66の修正(ツルーイング及びドレッシング)を行う。
【0039】
ここで、制御装置12は、第一検出器13から時系列的に(連続的に)出力される状態データを学習処理装置20に出力する。又、制御装置12は、動作指令データに従って生成されたNCプログラムに基づいて時系列的に出力される現在の研削工程、即ち、粗研削工程、精研削工程、微研削工程、及び、スパークアウト工程を識別する工程情報を状態データに紐付けする。
【0040】
(5.第二検出器14の例)
本例においては、第二検出器14がびびり評価値を出力するびびり評価装置70を例に挙げる。尚、第二検出器14が、変位センサや加速度センサを用いて構成されて、変位データや加速度データ(振動データ)を出力することもできる。
【0041】
びびり評価装置70は、
図3に示すように、実データ取得部71、変位変換部72、びびり評価値算出部73、出力部74を主に備える。実データ取得部71は、定寸装置67に設けられた加速度センサ67cによって検出された加速度データを時系列的に取得する。ここで、実データ取得部71は、工作物Wの軸方向について、複数の異なる軸方向位置にて検出された加速度データを取得する。
【0042】
この場合、定寸装置67は、測定子67bと工作物Wとの接触位置を軸方向に固定した状態で、即ち、接触位置が工作物Wの外周を円状に移動するように外周1周分の加速度データを取得する。工作物Wの外周1周分の加速度データを取得した後、定寸装置67は軸方向にて次の軸方向位置に移動し、この軸方向位置即ち次の接触位置が再び工作物Wの外周を円状に移動して加速度データを取得する。定寸装置67がこの動作を繰り返すことにより、実データ取得部71は、複数の軸方向位置(複数の接触位置)の各々において検出された外周1周分の加速度データを順次取得する。
【0043】
変位変換部72は、加速度センサ67cから時系列的に取得した加速度データをFFT(高速フーリエ変換)し、砥石車66の回転数に対応する回転周波数成分(特定周波数成分)を有する加速度に関するデータを抽出する。そして、変位変換部72は、抽出した特定周波数成分を有する加速度に関するデータを逆FFTする。これにより、変位変換部72は、特定周波数成分を有する定寸装置67の測定子67bの変位、即ち、工作物Wの研削加工面における凹凸(表面粗さ)に関する変位データ(粗さデータ)に変換する。尚、特定周波数成分は、砥石車66の回転数及び回転数の整数倍の周波数成分である。
【0044】
ここで、円筒研削盤60は、砥石車66を回転させながら工作物Wを研削加工する。このため、砥石車66の表面形状は、砥石車66が回転周期、即ち、回転数毎に転写されて工作物Wの研削加工面に現れる。具体的に、砥石車66の表面に大きく突き出した砥粒が存在する場合、工作物Wの研削加工面においては、砥粒と当接する箇所が大きく削り取られた凹部が形成される。この場合、工作物Wに形成された凹部は回転方向に等間隔で形成され、工作物Wの周方向における凹部の間隔は砥石車66の回転周期(回転数毎)に一致する。従って、特定周波数成分を有する加速度に関するデータを抽出することにより、砥石車66の表面状態や砥石車66のアンバランス状態に起因して発生するびびり振動を抽出することができる。
【0045】
びびり評価値算出部73は、工作物Wの各々の軸方向位置における周方向の粗さデータに基づいて、工作物Wのびびり評価値を算出する。工作物Wの各々の軸方向位置における周方向のびびり量を算出する。ここで、周方向のびびり量の評価方法としては、例えば、粗さデータの最大値と最小値との差を算出することにより、定量的に数値化することができる。
【0046】
そして、びびり評価値算出部73は、例えば、統計演算により、工作物Wの各々の軸方向位置における周方向のびびり量の平均値やバラつき等を算出する。これにより、出力部74は、びびり評価値算出部73がびびり量に関して算出した平均値やバラつき、即ち、基本統計量を工作物W全体の周方向のびびり評価値として算出する。ここで、びびり評価値算出部73は、スパークアウト後の最終加工面(研削加工面)のびびり評価値を算出する。尚、びびり評価装置70は、制御装置12が状態データに工程情報を紐付けするのと同様に、びびり評価値算出部73が算出したびびり評価値に工程情報(粗研削工程、精研削工程、微研削工程及びスパークアウト工程等)を紐付けすることも可能である。
【0047】
出力部74は、びびり評価値算出部73によって算出されたびびり評価値を出力する。ここで、出力部74は、びびり評価値を出力することに加え、びびり評価値算出部73によって付加された付加情報を出力することができる。付加情報としては、工作物Wの廃棄判定や工作物Wの出来栄えの選別を行うための情報が含まれる。例えば、びびり評価値算出部73は、周方向のびびり量の平均値やバラつきが大きくびびり評価値が予め設定された閾値よりも大きい場合には、付加情報を付加することができる。
【0048】
又、付加情報としては、砥石車66のツルーイングの要否判定を行うための情報を含むことができる。研削加工によって砥石車66の表面が劣化すると、工作物Wの軸方向の全領域において周方向のびびり量が増大する。
【0049】
このため、びびり評価値算出部73は、例えば、工作物Wの各々の軸方向位置における周方向のびびり量の平均値が増大した場合や周方向のびびり量のバラつきが増大した場合、ツルーイングの要否判定を行うための付加情報を付加する。尚、びびり量のバラつきの大きさについては、例えば、工作物Wの各々の軸方向位置における周方向のびびり量の最大値と最小値との差分や、標準偏差に基づいて、大小を判断することができる。
【0050】
(6.びびり予測システム1の機能ブロック構成)
びびり予測システム1の機能ブロックについて、
図4を参照して説明する。びびり予測システム1は、制御装置12、第一検出器13、第二検出器14(びびり評価装置70)、学習処理装置20、予測演算装置30、表示装置40,50を備える。
【0051】
第一検出器13は、上述したように、工作物Wの加工中に円筒研削盤60における観測可能な状態データを検出する。状態データ(駆動電流データ及び振動データ)は、研削工程毎、即ち、粗研削工程、精研削工程、微研削工程及びスパークアウト毎について、1個の工作物Wにおける加工開始から加工終了までに検出されて出力される。状態データは、例えば、砥石車66を回転駆動するモータ66aにおける駆動負荷データを含む。駆動負荷データは、モータ66aの駆動電流データに相当する。尚、状態データは、位置データ、温度データ、振動データ、加工音データ等のうち、好ましくは、振動データを含むようにしても良い。
【0052】
第二検出器14即ちびびり評価装置70は、上述したように、工作物Wの加工中に円筒研削盤60における観測可能なびびり関連データであるびびり評価値を検出(出力)する。びびり評価値は、1つの工作物Wの軸方向における複数の位置におけるそれぞれの周方向のびびり量を統計演算することにより算出されるデータである。びびり評価値は、研削工程毎に検出可能であるが、スパークアウト後の最終加工面において算出する(評価する)ことが望ましい。
【0053】
又、円筒研削盤60の制御装置12には、カウンタが含まれている。カウンタは、円筒研削盤60が研削加工した工作物Wの加工数をカウントする。本例において、カウンタは、砥石車修正装置68が砥石車66をツルーイング又はドレッシングしたときからの工作物Wの加工数をカウントする。尚、カウンタは、制御装置12の他に、第一検出器13自身が備えるようにしたり、検査装置2が備えるようにしたりすることもできる。
【0054】
学習処理装置20は、第一検出器13により検出された状態データ及びびびり評価装置70(第二検出器14)から出力されたびびり評価値に基づいて、びびり振動の予測を行うための学習済みモデルを生成する。学習処理装置20は、訓練データセット取得部81、訓練データセット記憶部82、モデル生成部83を備える。
【0055】
訓練データセット取得部81は、機械学習を行うための訓練データセットを取得する。訓練データセット取得部81は、状態データ取得部81a、状態データ分割部81b、特徴量抽出部81c、びびり関連データ取得部81dを備える。
【0056】
状態データ取得部81aは、工作物Wの加工中において、第一検出器13により検出された状態データ、特に、駆動負荷データである駆動電流データを、制御装置12を介して時系列的に取得する。尚、状態データ取得部81aは、複数の円筒研削盤60に設けられた各々の第一検出器13によって検出された状態データ(駆動電流データ)を時系列的に取得する。
【0057】
状態データ分割部81bは、状態データ取得部81aが制御装置12から時系列的に(連続的に)取得している状態データを研削工程毎に分割する。即ち、状態データ分割部81bは、状態データに紐付けされた工程情報に基づき、状態データ取得部81aが連続的に取得している状態データを、例えば、粗研削工程、精研削工程、微研削工程及びスパークアウト工程毎に分割する。
【0058】
特徴量抽出部81cは、状態データ分割部81bによって分割された研削工程毎(粗研削工程、精研削工程、微研削工程及びスパークアウト工程等)の状態データについて、円筒研削盤60の作動状態を反映する特徴量を抽出する。本例において、特徴量抽出部81cは、周波数特性を有する状態データである駆動電流データについて、周波数解析(具体的には、FFT(高速フーリエ変換))を行う。これにより、特徴量抽出部81cは、駆動電流データの複数の周波数成分のうち、上述した砥石車66の回転数に対応する砥石回転周波数即ち特定周波数の振幅を特徴量として抽出する。
【0059】
この場合、砥石回転周波数の振幅(特徴量)は、振幅が大きいほど研削加工に要する駆動電流が大きくなり、例えば、円筒研削盤60の砥石車66の摩耗が進んで工作物Wの表面性状が悪化する作動状態を反映することができる。一方、砥石回転周波数の振幅(特徴量)は、振幅が小さいほど研削加工に要する駆動電流が小さくなり、例えば、円筒研削盤60の砥石車66が工作物Wの表面が適切に研削している作動状態を反映することができる。
【0060】
具体的に、特徴量抽出部81cは、
図5に示すように、状態データ分割部81bによって分割された駆動電流データについて、周波数解析としてのFFT(高速フーリエ変換)を行う。これにより、
図6に示すように、駆動電流データに含まれる複数の周波数成分の各々の振幅を得ることができる。そして、特徴量抽出部81cは、
図6に示す複数の周波数成分の振幅のうち、特定周波数である砥石回転周波数Fの振幅Aを特徴量として抽出する。
【0061】
びびり関連データ取得部81dは、第二検出器14即ちびびり評価装置70のびびり評価値算出部73によって算出されて出力されたびびり評価値を取得する。びびり関連データ取得部81dは、最終加工面(スパークアウト後)のびびり評価値を取得する。尚、必要に応じて、びびり関連データ取得部81dは、研削工程毎のびびり評価値も取得することができる。
【0062】
訓練データセット記憶部82は、訓練データセット取得部81によって取得した訓練データセットを記憶する。具体的には、訓練データセット記憶部82は、特徴量抽出部81cによって抽出された状態データの特徴量、即ち、砥石回転周波数F(特定回転周波数)の振幅Aと、びびり関連データ取得部81dによって取得されたびびり評価値とを関連付けて記憶する。
【0063】
モデル生成部83は、訓練データセット記憶部82に記憶された訓練データセットを用いて機械学習を行う。具体的には、モデル生成部83は、特徴量抽出部81cによって抽出された研削工程毎の特徴量である砥石回転周波数F(特定回転周波数)の振幅Aを説明変数とし、びびり評価値を目的変数とした機械学習を行う。そして、モデル生成部83は、研削加工におけるびびり振動を予測するための学習済みモデルを生成する。
【0064】
予測演算装置30は、対応する円筒研削盤60において加工中の状態データに基づいて、研削加工におけるびびり振動を評価するための評価値としてびびり評価値を予測する。予測演算装置30は、モデル記憶部91、予測用データ取得部92、評価値予測部93、出力部94を備える。
【0065】
モデル記憶部91は、モデル生成部83が生成した学習済みモデルを記憶する。予測用データ取得部92は、予測対象の研削工程における加工中において、予測用データを取得する。予測用データ取得部92は、状態データ取得部92a、状態データ分割部92b、特徴量抽出部92cを備える。
【0066】
状態データ取得部92aは、予測対象の研削工程における加工中において、第一検出器13によって検出されて制御装置12を介して出力された状態データ、特に、駆動負荷データであって駆動電流データを取得する。具体的には、状態データ取得部92aは、予測対象の粗研削工程、精研削工程、微研削工程及びスパークアウト工程毎に、工程情報と紐付けされた状態データ(駆動電流データ)を取得する。
【0067】
状態データ分割部92bは、状態データ取得部92aによって取得された状態データを研削工程毎に分割する。具体的には、状態データ分割部92bは、状態データに紐付けされた工程情報に基づき、状態データを研削工程毎に分割する。
【0068】
特徴量抽出部92cは、状態データ分割部92bによって研削工程毎に分割された状態データ(駆動電流データ)の特徴量である砥石回転周波数F(特定回転周波数)の振幅Aを抽出する。ここで、本例においては、抽出される特徴量は、状態データである駆動電流データについてFFT(高速フーリエ変換)を行い、砥石回転周波数Fにおける波形の振幅Aである。従って、特徴量抽出部92cによって抽出される特徴量は、訓練データセット取得部81の特徴量抽出部81cによって抽出される特徴量と同種である。
【0069】
ここで、状態データ取得部92a、状態データ分割部92b及び特徴量抽出部92cは、訓練データセット取得部81の状態データ取得部81a、状態データ分割部81b及び特徴量抽出部81cと同様の処理を行う。尚、本例においては、状態データ取得部92a、状態データ分割部92b及び特徴量抽出部92cは、訓練データセット取得部81の状態データ取得部81a、状態データ分割部81b及び特徴量抽出部81cとは別要素として説明する。
【0070】
但し、訓練データセット取得部81の各要素81a,81b,81cを、予測用データ取得部92の各要素92a,92b,92cと兼用とすることも可能である。即ち、学習処理装置20における要素81a,81b,81cの機能が、予測演算装置30の一部の機能と兼用される。
【0071】
評価値予測部93は、モデル記憶部91に記憶された学習済みモデルを取得する。又、評価値予測部93は、予測用データ取得部92によって取得された予測対象の研削工程における特徴量、即ち、特定回転周波数であって砥石回転周波数Fの振幅Aを取得する。これにより、評価値予測部93は、学習済みモデルと特徴量(砥石回転周波数Fの振幅A)とに基づいて、推定びびり評価値を予測する(推定する)。
【0072】
出力部94は、評価値予測部93が予測した推定びびり評価値を表示装置40,50に出力する。ここで、出力部94は、例えば、第二検出器14(びびり評価装置70)から出力された付加情報、即ち、工作物Wの品質(研削表面における表面粗さ等)や、砥石車66(砥石T)の摩耗状態も合わせて出力することができる。ここで、砥石車66(砥石T)の摩耗状態は、推定びびり評価値が大きくなるほど、摩耗状態が進んでいる(悪化している)と判断することができる。又、出力部94は、例えば、特徴量抽出部92cによって抽出された特徴量、即ち、砥石回転周波数Fの振幅Aを表示したり、第一検出器13によって検出された状態データ、即ち、円筒研削盤60(研削盤11)の作動に関する各種情報を出力したりすることができる。
【0073】
表示装置40,50は、予測演算装置30の出力部94から出力された情報を表示する。具体的に、表示装置40,50は、予測演算装置30から出力された推定びびり評価値を表示する。これにより、作業者或いは円筒研削盤60(研削盤11)の制御装置12は、研削工程を経て加工される工作物Wの品質を確認することができる。
【0074】
又、表示装置40,50は、推定びびり評価値と共に、円筒研削盤60(研削盤11)の作動に関する各種情報や砥石車66の摩耗状態等も表示することができる。これにより、作業者或いは制御装置12は、研削加工を行っている円筒研削盤60(研削盤11)に異常が発生しているか否かを判断することもできる。
【0075】
尚、作業者或いは制御装置12は、例えば、砥石車66の摩耗状態が進んで推定びびり評価値が予め設定された基準値よりも大きい場合には、砥石車修正装置68を作動させることができる。これにより、作業者或いは制御装置12は、砥石車66のツルーイングを実施したり、砥石車66の交換を実施したりすることができる。
【0076】
更に、表示装置40,50は、作業者が改善点を把握するために、例えば、研削工程毎に特徴量も表示することができる。これにより、作業者は、研削工程毎の特徴量、即ち、砥石回転周波数(特定回転周波数)の振幅の大きさのうち、改善に有益な特徴量を容易に見つけることができる。
【0077】
(6.第一別例)
上述した本例においては、学習処理装置20のモデル生成部83が生成した学習済みモデルは、予測演算装置30のモデル記憶部91に記憶されるようにした。ところで、学習済みモデルは、訓練データセット記憶部82に記憶された訓練データセットを用いた機械学習を行うことにより生成される。従って、訓練データセットの数が増える、換言すれば、機械学習による学習が進むほど、精度の高い学習済みモデルを生成することができるため、学習済みモデルを逐次更新することが好ましい。
【0078】
そこで、第一別例においては、
図7に示すように、学習処理装置20が更新判定部としてのモデル更新部84を備えるように構成することができる。モデル更新部84は、
図8に詳細に示すように、びびり評価値取得指令部84a、びびり評価値取得部84b、モデル更新判定部84c、及び、モデル更新指令部84dを備える。
【0079】
びびり評価値取得指令部84aは、所定の頻度、例えば、工作物Wの加工数Nが基準加工数N1以上になる度に、第二検出器14(びびり評価装置70)からびびり評価値の取得を指令する取得指令情報をびびり評価値取得部84bに出力する。びびり評価値取得部84bは、取得指令情報を取得すると、第二検出器14(びびり評価装置70)からびびり評価値を取得する。そして、びびり評価値取得部84bは、取得したびびり評価値をモデル更新判定部84cに出力する。尚、びびり評価装置70からびびり評価値を取得する場合、びびり評価値取得指令部84aがびびり評価装置70に対して、びびり評価値取得部84bにびびり評価値を出力するように出力指令情報を出力することも可能である。
【0080】
モデル更新判定部84cは、びびり評価値取得部84bから出力されたびびり評価値を取得すると共に、評価値予測部93によって予測された推定びびり評価値を取得する。モデル更新判定部84cは、定寸装置67において実測された加速度データに基づいて出力されるびびり評価値と、評価値予測部93においてモデル記憶部91に記憶されている学習済みモデルを用いて予測される推定びびり評価値とを比較して差分を算出する。そして、モデル更新判定部84cは、算出した差分の大きさが予め設定された判定値を超えている、即ち、びびり評価値と推定びびり評価値との乖離が大きいか否かを判定する。
【0081】
モデル更新判定部84cは、判定において差分が判定値を超えている(乖離が大きい)場合には、モデル更新指令部84dに対して、学習済みモデルの更新を要求する更新要求情報を出力する。尚、モデル更新判定部84cは、判定において差分が判定値以下(乖離が小さい)場合には、モデル更新指令部84dに更新要求情報を出力しない。
【0082】
モデル更新指令部84dは、モデル更新判定部84cから更新要求情報を取得すると、モデル生成部83に対し、再び学習済みモデルを生成することを要求する。モデル生成部83は、モデル更新指令部84dから更新要求情報を取得すると、上述した機械学習と同様に、訓練データセット記憶部82に記憶された訓練データセットを用いて機械学習を行うことにより、新たな学習済みモデルを生成する。そして、モデル記憶部91は、新たに生成された学習済みモデルに更新して記憶する。
【0083】
このように、学習済みモデルを更新することにより、学習済みモデルの精度を高めることができ、ひいては、推定びびり評価値を精度よく予測することができる。
【0084】
(7.第二別例)
上述した本例の学習処理装置20においては、特徴量抽出部81cが第一検出器13から状態データとして取得した駆動電流データについてFFTを行い、特徴量として特定回転周波数(砥石回転周波数F)における駆動電流の振幅Aを抽出するようにした。これに加えて、特徴量抽出部81cが第一検出器13から研削工程毎の振動データ(加速度データ)を状態データとして取得することも可能である。この場合、振動データ(加速度データ)も周波数特性を有しており、特徴量抽出部81cは、取得した振動データ(加速度データ)について周波数解析(FFT)を行い、特徴量として特定回転周波数(砥石回転周波数)における振動(加速度)の振幅を抽出する。
【0085】
そして、訓練データセット記憶部82は、特徴量抽出部81cによって抽出された砥石回転周波数F(特定回転周波数)における駆動電流の振幅A、及び、砥石回転周波数(特定回転周波数)における振動(加速度)の振幅と、びびり関連データ(例えば、びびり評価値)とを訓練データセットとして記憶する。これにより、モデル生成部83は、駆動電流の振幅A及び振動(加速度)の振幅を説明変数とし、びびり関連データ(びびり評価値)を目的変数とする機械学習を行い、学習済みモデルを生成することができる。
【0086】
即ち、この場合には、上述した本例の場合に比べて、説明変数の数を増やして機械学習を行うことができる。このため、モデル生成部83は、生成精度を高めることができ、その結果、より精度の高い学習済みモデルを生成することができる。
【0087】
(8.第三別例)
上述した本例、第一別例及び第二別例においては、第二検出器14としてびびり評価装置70を用い、びびり評価装置70が工作物Wの研削加工中、或いは、加工直後の、所謂、インプロセスによりびびり関連データとしてのびびり評価値を出力するようにした。即ち、上述した本例、第一別例及び第二別例においては、びびり評価装置70を各々の円筒研削盤60に設ける、即ち、びびり評価装置70を研削装置10の機内に設けるようにした。これにより、機内に第二検出器14として設けられた各々のびびり評価装置70は、加工直後のびびり評価値を出力する。尚、びびり評価装置70は、粗研削工程、精研削工程、微研削工程及びスパークアウト工程の各々についてのびびり評価値を出力することもできる。
【0088】
これに代えて、
図1に示すように、研削装置10の機外であってインラインに設けられた検査装置2として、例えば、びびり評価装置70を用いることも可能である。この場合、加工後のびびり評価値を機外で評価することができる。
【0089】
具体的に、第三別例においては、
図4及び
図7において破線により示すように、訓練データセット取得部81のびびり関連データ取得部81dは、インラインに設けられたびびり評価装置70からびびり評価値を取得する。従って、この第三別例においても、びびり予測システム1は、上述した本例、第一別例及び第二別例と同様に作動して同様の効果が得られる。
【0090】
(9.その他)
上述した本例、第一別例、第二別例及び第三別例においては、訓練データセット取得部81のびびり関連データ取得部81dは、第二検出器14又は検査装置2として用いられたびびり評価装置70からびびり評価値をびびり関連データとして取得するようにした。しかしながら、第二検出器14又は検査装置2から出力されるびびり関連データは、びびり評価値に限られるものではなく、例えば、工作物Wの研削加工面の表面粗さを直接的に検出した粗さデータや、研削加工面の表面粗さに起因して発生する加速度を直接的に検出した加速度データ、或いは、加速度データから間接的に検出される振動を表す振動データであっても良い。
【0091】
これらの粗さデータや、加速度データ、振動データについては、例えば、工作物Wの研削加工面全体について検出された後、統計演算することによって得られる平均値、最大値、最小値、分散値、標準偏差等が評価値として出力される。そして、びびり関連データ取得部81dは、出力された評価値をびびり関連データとして取得して訓練データセット記憶部82に出力する。これにより、訓練データセット記憶部82は、評価値が目的変数となる訓練データセットを記憶し、モデル生成部83は、訓練データセットを用いた機械学習を行うことによって学習済みモデルを生成することができる。
【0092】
又、上述した本例、及び、第一別例から第三別例においては、学習処理装置20及び予測演算装置30が研削工程毎、即ち、粗研削工程、精研削工程、微研削工程、スパークアウト工程等に応じた状態データと加工直後のびびり関連データを取得するようにした。そして、予測演算装置30は、びびり量(例えば、推定びびり評価値)を予測するようにした。
【0093】
しかしながら、状態データについては、必ずしも研削工程毎に分割する必要はない。この場合、学習処理装置20は、例えば、連続的に(時系列的に)状態データを取得し、任意の時点において取得した複数の工作物Wについての状態データと加工直後のびびり関連データを訓練データセットとして学習済みモデルを生成することも可能である。又、予測演算装置30は、連続的に(時系列的に)状態データを取得し、任意の時点において取得した状態データと学習済みモデルとを用いて、びびり量(例えば、推定びびり評価値)を予測して出力することも可能である。
【0094】
この場合には、研削工程毎の区別がなくなるため、例えば、学習処理装置20の訓練データセット取得部81における状態データ分割部81b及び予測演算装置30の予測用データ取得部92における状態データ分割部92bを省略することが可能である。これにより、学習処理装置20及び予測演算装置30の構成を簡略化することができる。一方で、研削工程毎の区別がなくなるため、上述した本例等の場合に比べて、学習済みモデルの生成精度及びびびり量(推定びびり評価値)の予測精度が研削工程に応じて若干悪化する虞がある。
【0095】
更に、上述した本例、及び、第一別例から第三別例においては、状態データ分割部81b及び状態データ分割部92bは、状態データ取得部81a及び状態データ取得部92aが取得した状態データを逐次分割するようにした。これに代えて、状態データ分割部81b及び状態データ分割部92bは、状態データ取得部81a及び状態データ取得部92aが全ての研削工程の経過に伴って状態データを取得した後に、工程情報に基づいて状態データを研削工程毎に分割することも可能である。
【符号の説明】
【0096】
1…びびり予測システム、2…検査装置、10…研削装置、11…研削盤、12…制御装置、13…第一検出器、14…第二検出器、15…インターフェース、20…学習処理装置、21…プロセッサ、22…記憶装置、23…インターフェース、30…予測演算装置、31…プロセッサ、32…記憶装置、33…インターフェース、40…共通表示装置、50…個別表示装置、60…円筒研削盤、61…ベッド、62…主軸台、62a…モータ、63…心押台、64…トラバースベース、64a…モータ、65…砥石台、65a…モータ、66…砥石車、66a…モータ、67…定寸装置、67a…送り機構、67b…測定子、67c…加速度センサ、68…砥石車修正装置、69…クーラント装置、70…びびり評価装置、71…実データ取得部、72…変位変換部、73…評価値算出部、74…出力部、81…訓練データセット取得部、81a…状態データ取得部、81b…状態データ分割部、81c…特徴量抽出部、81d…びびり関連データ取得部、82…訓練データセット記憶部、83…モデル生成部、84…モデル更新部、84a…びびり評価値取得指令部、84b…びびり評価値取得部、84c…モデル更新判定部、84d…モデル更新指令部、91…モデル記憶部、92…予測用データ取得部、92a…状態データ取得部、92b…状態データ分割部、92c…特徴量抽出部、93…評価値予測部、94…出力部、A…振幅(特徴量)、F…砥石回転周波数(特定回転周波数)、N…加工数、N1…基準加工数、T…砥石、W…工作物