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特許7487524耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 75/04 20060101AFI20240514BHJP
   C08L 33/04 20060101ALI20240514BHJP
   C08G 18/00 20060101ALI20240514BHJP
   C08G 18/08 20060101ALI20240514BHJP
   C08G 18/75 20060101ALI20240514BHJP
   C08G 18/65 20060101ALI20240514BHJP
   C08G 18/44 20060101ALI20240514BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20240514BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20240514BHJP
   C09D 133/04 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C08L75/04
C08L33/04
C08G18/00 C
C08G18/08 019
C08G18/75
C08G18/65 041
C08G18/44
C09D5/02
C09D175/04
C09D133/04
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020061163
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021161153
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】森上 敦史
(72)【発明者】
【氏名】今嶋 啓晶
(72)【発明者】
【氏名】上野 真司
(72)【発明者】
【氏名】金子 暁良
(72)【発明者】
【氏名】山田 健史
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-277636(JP,A)
【文献】特開2003-119350(JP,A)
【文献】特開平02-099537(JP,A)
【文献】特開2001-019927(JP,A)
【文献】特開2016-049780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 75/00-75/16
C08G 18/00-18/87
C08L 33/00-33/26
C09D 175/04
C09D 133/04
C09D 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性ポリウレタン樹脂分散体(A)及びオキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B)を含む耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物であって、
水性ポリウレタン樹脂分散体(A)は、ポリオール化合物(Aa)、ポリイソシアネート化合物(Ab)、酸性基含有ポリオール(Ac)、中和剤(Ad)及び鎖延長剤(Ae)由来の構成単位を有し、
前記水性ポリウレタン樹脂分散体(A)のポリオール化合物(Aa)が、数平均分子量400~5000のポリカーボネートポリオールを含み、
前記水性ポリウレタン樹脂分散体(A)が脂環構造を含有し、脂環構造の含有割合が水性ポリウレタン樹脂分散体(A)の固形分基準で10~60重量%であり、
オキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B)は、主鎖にアクリル骨格を有し、オキサゾリン基と反応する官能基を側鎖に有する重合体(Ba)と、主鎖にアクリル骨格を有し、オキサゾリン基を有する水溶性又は水分散性の高分子(Bb)と、水系媒体(Bc)とを有するアクリルエマルジョンである、水性アクリル・ウレタン組成物。
【請求項2】
オキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B)中に含まれるオキサゾリン基が、2-オキサゾリン基、3-オキサゾリン基及び4-オキサゾリン基からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1記載の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物。
【請求項3】
オキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B)の重量平均分子量が100,000以上2,000,000以下である、請求項1又は2に記載の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物。
【請求項4】
オキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B)中のアクリル骨格が、炭素数1~20の炭化水素基を有するアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1成分をその構成単位に有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物。
【請求項5】
前記オキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B)の含有量が、組成物全量に対して固形分基準で2~80質量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物。
【請求項6】
オキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B)中に含まれるオキサゾリン基の量が、エマルジョン全量に対して固形分基準で0.0002~0.4ミリモル/gである、請求項1~5のいずれか一項に記載の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物。
【請求項7】
前記ポリカーボネートポリオールのガラス転移温度が、-60℃~0℃である、請求項1~6のいずれか一項に記載の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物。
【請求項8】
前記ポリカーボネートポリオールを構成するポリオールが1,6-ヘキサンジオール及び/又は1,4-シクロヘキサンジメタノールから選ばれる、請求項1~のいずれか一項に記載の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物。
【請求項9】
前記水性ポリウレタン樹脂分散体(A)のポリイソシアネート化合物(Ab)が、脂環式ポリイソシアネートである、請求項1~のいずれか一項に記載の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物。
【請求項10】
前記水性ポリウレタン樹脂分散体(A)の酸価が12~40mgKOH/gである、請求項1~のいずれか一項に記載の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物。
【請求項11】
前記水性ポリウレタン樹脂分散体(A)中のハードセグメントの含有量が固形分基準で20~65質量%である、請求項1~1のいずれか一項に記載の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物。
【請求項12】
請求項1~1に記載の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物に任意成分として、その他の樹脂及び/又は添加剤を有する耐破壊材料特性用コーティング材料組成物。
【請求項13】
プラスチック材料のコート、金属の外装用プライマー又はベースコート用の、請求項1~1のいずれか一項に記載の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物。
【請求項14】
請求項1~1のいずれか一項に記載の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物を乾燥させて得られる、塗膜。
【請求項15】
請求項1~1のいずれか一項に記載の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物を20℃~100℃で乾燥させる工程を含む、塗膜の製造方法。
【請求項16】
請求項1に記載の方法により得られる塗膜のフロアコート、プラスチック又はゴムへのコート、鋼板処理剤、金属の外装用プライマー又はベースコートとしての使用。
【請求項17】
(I)ポリオール化合物(Aa)、ポリイソシアネート化合物(Ab)、酸性基含有ポリオール(Ac)を、有機溶の存在下、又は非存在下で反応させてポリウレタンプレポリマーを得る工程、
(II)前記ポリウレタンプレポリマーの酸基を中和剤(Ad)で中和する工程、
(III)前記ポリウレタンプレポリマーを水系媒体に分散させる工程、
(IV)前記ポリウレタンプレポリマーを鎖延長剤(Ae)で高分子量化して水性ポリウレタン樹脂分散体を得る工程、
(V)主鎖にアクリル骨格を有し、オキサゾリン基と反応する官能基を側鎖に有する重合体(Ba)と、主鎖にアクリル骨格を有し、オキサゾリン基を有する水溶性又は水分散性の高分子(Bb)と、水系媒体(Bc)とを混合して得られたオキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B)を、前記工程(IV)で得られた水性ポリウレタン樹脂分散体と混合する工程、及び場合により、
(VI)前記工程(IV)又は(V)に続いて、有機溶媒を除去する工程
を含む、耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物を製造する方法であって、
前記ポリオール化合物(Aa)が、数平均分子量400~5000のポリカーボネートポリオールを含み、
前記水性ポリウレタン樹脂分散体が脂環構造を含有し、脂環構造の含有割合が水性ポリウレタン樹脂分散体の固形分基準で10~60重量%である、方法
【請求項18】
ポリオール化合物(Aa)、ポリイソシアネート化合物(Ab)、酸性基含有ポリオール(Ac)、中和剤(Ad)及び鎖延長剤(Ae)由来の構成単位を有する水性ポリウレタン樹脂分散体(A);並びに主鎖にアクリル骨格を有し、オキサゾリン基と反応する官能基を側鎖に有する重合体(Ba)と、主鎖にアクリル骨格を有し、オキサゾリン基を有する水溶性又は水分散性の高分子(Bb)と、水系媒体(Bc)とを有するオキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B);とを含む組成物であって、
前記水性ポリウレタン樹脂分散体(A)のポリオール化合物(Aa)が、数平均分子量400~5000のポリカーボネートポリオールを含み、
前記水性ポリウレタン樹脂分散体(A)が脂環構造を含有し、脂環構造の含有割合が水性ポリウレタン樹脂分散体(A)の固形分基準で10~60重量%であり、
20℃~100℃の低温で塗膜を形成し、JIS K 7311に準拠した方法により測定した測定温度23℃、湿度50%、引張速度100mm/分における引張特性を用いて算出した、破断エネルギーが80MPa以上であり、ABS樹脂基材へのコーティング膜の碁盤目剥離試験において、4回で剥離が見られない、水性アクリル・ウレタン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系媒体中にポリウレタン樹脂を分散させた水性ポリウレタン樹脂分散体及びアクリルエマルジョンを混合した水性アクリル・ウレタン組成物に関する。また、本発明は、前記水性アクリル・ウレタン組成物を含有するコーティング材料組成物及び前記水性アクリル・ウレタン組成物を加熱乾燥させて得られるアクリル・ウレタン樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
水性ポリウレタン樹脂分散体は、接着性、耐摩耗性、ゴム的性質を有する塗膜を得ることができ、従来の溶剤系ポリウレタンと比較して揮発性有機物を減少できることから環境対応材料として溶剤系ポリウレタンからの置き換えが進んでいる材料である。
ポリカーボネートポリオールは、イソシアネート化合物との反応により、硬質フォーム、軟質フォーム、塗料、接着剤、合成皮革、インキバインダーなどに用いられる耐久性のあるポリウレタン樹脂を製造するための原料となる有用な化合物である。ポリカーボネートポリオールを用いたポリウレタンの特徴は、カーボネート基の高い凝集力によって発現し、耐水性、耐熱性、耐油性、弾性回復性、耐摩耗性、耐候性に優れることが述べられている(非特許文献1参照)。また、ポリカーボネートポリオールを原料とした水性ウレタン樹脂分散体を塗布して得られる塗膜においても、耐光性、耐熱性、耐加水分解性、耐油性に優れることが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
上述のようにポリカーボネートポリオールを用いた水性ポリウレタン樹脂分散体は良好な特性を発現するが、溶剤系ポリウレタンに比較して十分とはいえない。特に塗膜の耐溶剤性及び耐水性は不十分である。そのような特性を改良するために、ポリウレタン樹脂に架橋構造を導入したり、エポキシ樹脂や多官能イソシアネート等の架橋材を導入した組成物として硬化時に架橋したりすることが行なわれる。中でも、ブロック化されたイソシアナト基を有する水性ポリウレタン樹脂分散体は常温で安定であることから貯蔵安定性の高い一液型の架橋反応性分散体として利用価値が高い(例えば、特許文献2及び特許文献3参照)。
【0004】
さらに、本発明者らにより、ウレタン結合、ウレア結合、カーボネート結合を有し、かつブロック化されたイソシアナト基を特定量で有する水性ポリウレタン樹脂分散体により、塗布後の製膜速度を制御し、塗膜の水への再分散を可能にすることができ、これを塗布・加熱処理して得られる塗膜は、耐水性及び耐溶剤性に優れ、電着塗膜への密着性にも優れ、引張における破断エネルギーが高いため、耐衝撃性にも優れるということを見出されている(例えば、特許文献5参照)。
【0005】
重合性不飽和結合を有するポリウレタン樹脂と、重合性不飽和結合を有する化合物と、カルボジイミド化合物及び/又はオキサゾリン化合物とを水系媒体に分散させてなる水性樹脂分散体組成物により、活性エネルギー線照射による硬化後の塗膜が、密着性に優れ、かつ高い硬度を実現できることも見いだされている(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-120757号公報
【文献】特開2002-128851号公報
【文献】特開2000-104015号公報
【文献】特開2005-220255号公報
【文献】国際公開第2010/098316号パンフレット
【文献】特開2014-065886号公報
【0007】
【文献】「最新ポリウレタン材料と応用技術」 シーエムシー出版社発行 第2章 第43ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
地球温暖化ガス排出、並びに複数基材の一括塗装による耐熱温度の観点で、乾燥温度を従来の140℃以上から100℃以下に下げて塗膜を作成する必要があるが、高温への加熱を要するブロックイソシアネートの使用は難しくなっている。
したがって、架橋反応を使わないで耐衝撃性(破断エネルギー)と密着性の両方を満足させることが求められていた。

水性ポリウレタン樹脂分散体は、フィルム、塗料又はコーティング材料として用いる際には、バーコーター、ロールコーター、エアスプレー等の塗布装置を用いて基材等への塗布が行われる。塗布された水性ポリウレタン樹脂分散体を加熱乾燥することで基材上に塗膜が形成される。しかしながら、従来の水性ポリウレタン樹脂分散体では、基材への充分な密着性及び引張における大きな破断エネルギーを得るには、140℃以上の乾燥工程が必要であった。100℃以下、例えば80℃での乾燥工程では塗膜が基材に密着しないといった問題を抱えていた。
また、前記特許文献6においては、紫外線照射が必要であり、オキサゾリン構造を2つ以上有する重合体としては、オキサゾリン基含有エチレン性不飽和単量体を公知の重合方法を用いて単独重合させたもの、あるいは、オキサゾリン基含有エチレン性不飽和モノマーと他のビニル系モノマーとを共重合させたものしか挙げられていなかった。
【0009】
本発明の課題は、100℃以下での低温乾燥において、基材への密着性を持ちつつ、破断エネルギーの高い塗膜を形成する、耐破壊特性材料用の水性ポリウレタン樹脂分散体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、水性ポリウレタン樹脂分散体及びオキサゾリン架橋系アクリルエマルジョンを含む水性アクリル・ウレタン組成物により、100℃以下の低温乾燥において形成される塗膜が基材への密着性と破断エネルギーを共に高くすることができることを見出し、本発明に至った。
【0011】
本発明は、具体的には以下のとおりである。
(1)第1の発明は、水性ポリウレタン樹脂分散体(A)及びオキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B)を含む耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物であって、水性ポリウレタン樹脂分散体(A)は、ポリオール化合物(Aa)、ポリイソシアネート化合物(Ab)、酸性基含有ポリオール(Ac)、中和剤(Ad)及び鎖延長剤(Ae)由来の構成単位を有し、オキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B)は、主鎖にアクリル骨格を有し、オキサゾリン基と反応する官能基を側鎖に有する重合体(Ba)と、主鎖にアクリル骨格を有し、オキサゾリン基を有する水溶性又は水分散性の高分子(Bb)と、水系媒体(Bc)とを有するアクリルエマルジョンである、水性アクリル・ウレタン組成物である。
(2)第2の発明は、オキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B)中に含まれるオキサゾリン基が、2-オキサゾリン基、3-オキサゾリン基及び4-オキサゾリン基からなる群から選ばれる少なくとも1種である、前記(1)記載の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物である。
(3)第3の発明は、オキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B)の重量平均分子量が100,000以上である、前記(1)又は(2)記載の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物である。
(4)第4の発明は、オキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B)中のアクリル骨格が、炭素数1~20の炭化水素基を有するアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1成分をその構成単位に有する、前記(1)~(3)のいずれか記載の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物である。
(5)第5の発明は、前記オキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B)の含有量が、組成物全量に対して固形分基準で2~80質量%である、前記(1)~(4)のいずれか記載の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物である。
(6)第6の発明は、オキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B)中に含まれるオキサゾリン基の量が、エマルジョン全量に対して固形分基準で0.0002~0.4ミリモル/gである、前記(1)~(5)のいずれか記載の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物である。
(7)第7の発明は、前記水性ポリウレタン樹脂分散体のポリオール化合物(Aa)が、数平均分子量400~5000のポリカーボネートポリオールを含む、前記(1)~(6)のいずれか記載の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物である。
(8)第8の発明は、前記ポリカーボネートポリオールのガラス転移温度が、-60℃~0℃である、前記(7)記載の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物である。
(9)第9の発明は、前記ポリカーボネートポリオールを構成するポリオールが1,6-ヘキサンジオール及び/又は1,4-シクロヘキサンジメタノールから選ばれる、前記(7)又は(8)記載の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物である。
(10)第10の発明は、前記水性ポリウレタン樹脂分散体(A)が脂環構造を含有し、脂環構造の含有割合が水性ポリウレタン樹脂分散体(A)の固形分基準で10~60重量%である、前記(7)~(9)のいずれか記載の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物である。
(11)第11の発明は、前記水性ポリウレタン樹脂分散体(A)のポリイソシアネート化合物(Ab)が、脂環式ポリイソシアネートである、前記(1)~(10)のいずれか記載の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物である。
(12)第12の発明は、前記水性ポリウレタン樹脂分散体(A)の酸価が12~40mgKOH/gである、前記(1)~(11)のいずれか記載の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物である。
(13)第13の発明は、前記水性ポリウレタン樹脂分散体(A)中のハードセグメントの含有量が固形分基準で20~65質量%である、前記(1)~(12)のいずれか記載の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物である。
(14)第14の発明は、前記(1)~(13)に記載の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物に任意成分として、その他の樹脂及び/又は添加剤を有する耐破壊材料特性用コーティング材料組成物である。
(15)第15の発明は、プラスチック材料のコート、金属の外装用プライマー又はベースコート用の、前記(1)~(13)のいずれか一項に記載の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物である。
(16)第16の発明は、前記(1)~(13)のいずれかに記載の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物を乾燥させて得られる、塗膜である。
(17)第17の発明は、前記(1)~(13)のいずれかに記載の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物を20℃~100℃で乾燥させる工程を含む、塗膜の製造方法である。
(18)第18の発明は、前記(17)記載の方法により得られる塗膜のフロアコート、プラスチック又はゴムへのコート、鋼板処理剤、金属の外装用プライマー又はベースコートとしての使用である。
(19)第19の発明は、(I)ポリオール化合物(Aa)、ポリイソシアネート化合物(Ab)、酸性基含有ポリオール(Ac)を、有機溶剤の存在下、又は非存在下で反応させてポリウレタンプレポリマーを得る工程、
(II)前記ポリウレタンプレポリマーの酸基を中和剤(Ad)で中和する工程、
(III)前記ポリウレタンプレポリマーを水系媒体に分散させる工程、
(IV)前記ポリウレタンプレポリマーを鎖延長剤(Ae)で高分子量化して水性ポリウレタン樹脂分散体を得る工程、
(V)主鎖にアクリル骨格を有し、オキサゾリン基と反応する官能基を側鎖に有する重合体(Ba)と、主鎖にアクリル骨格を有し、オキサゾリン基を有する水溶性又は水分散性の高分子(Bb)と、水系媒体(Bc)とを混合して得られたオキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B)を、前記工程(IV)で得られた水性ポリウレタン樹脂分散体と混合する工程、及び場合により、
(VI)前記工程(IV)又は(V)に続いて、有機溶媒を除去する工程
を含む、耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物を製造する方法である。
(20)第20の発明は、ポリオール化合物(Aa)、ポリイソシアネート化合物(Ab)、酸性基含有ポリオール(Ac)、中和剤(Ad)及び鎖延長剤(Ae)由来の構成単位を有する水性ポリウレタン樹脂分散体(A);並びに主鎖にアクリル骨格を有し、オキサゾリン基と反応する官能基を側鎖に有する重合体(Ba)と、主鎖にアクリル骨格を有し、オキサゾリン基を有する水溶性又は水分散性の高分子(Bb)と、水系媒体(Bc)とを有するオキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B);とを含む組成物であって、20℃~100℃の低温で塗膜を形成し、JIS K 7311に準拠した方法に水性アクリル・ウレタンより測定した測定温度23℃、湿度50%、引張速度100mm/分における引張特性を用いて算出した、破断エネルギーが80MPa以上であり、ABS樹脂基材へのコーティング膜の前記碁盤目剥離試験において、4回で剥離が見られない、水性アクリル・ウレタン組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、室温(20℃)~100℃、例えば80℃の乾燥でできる塗膜がプラスチック基材、電着塗膜などの基材と良好な密着性を有し、高い破断エネルギーを有する、耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物を提供することができる。このため、従来の高温加熱乾燥と比較して地球温暖化ガス排出量の抑制、並びに複数基材の一体塗装による工程数削減に貢献できる。本発明は、フロアコーティング、プラスチック基材又はゴムへのコート、鋼板処理剤、自動車、トラック、電車などの車両の外装用プライマー(ベースコート材料)などに利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物は、水性ポリウレタン樹脂分散体及びオキサゾリン架橋系アクリルエマルジョンを含む耐破壊特性材料用組成物であって、
水性ポリウレタン樹脂分散体は、ポリオール化合物(Aa)、ポリイソシアネート化合物(Ab)、酸性基含有ポリオール(Ac)、中和剤(Ad)及び鎖延長剤(Ae)由来の構成単位を有し、
オキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B)は、主鎖にアクリル骨格を有し、オキサゾリン基と反応する官能基を側鎖に有する重合体(Ba)と、主鎖にアクリル骨格を有し、オキサゾリン基を有する水溶性又は水分散性の高分子(Bb)と、水系媒体(Bc)とを有するアクリルエマルジョンである、水性アクリル・ウレタン組成物である。
【0014】
<オキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B)>
オキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B)は、主鎖にアクリル骨格を有し、オキサゾリン基と反応する官能基を側鎖に有する重合体(Ba)と、主鎖にアクリル骨格を有し、オキサゾリン基を有する水溶性又は水分散性の高分子(Bb)と、水系媒体(Bc)とを有する、アクリルエマルジョンである。該アクリルエマルジョンは、塗膜の乾燥時に水が除去される過程で架橋構造を形成する。
【0015】
オキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B)の重量平均分子量は、100,000以上であることが好ましい。重量平均分子量の上限は、調製可能で水に分散可能な範囲であれば特に制限されないが、重量平均分子量の範囲は、100,000~2,000,000であることが好ましく、150,000~1,000,000であることがより好ましい。
【0016】
オキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B)の含有量は、耐破壊特性材料用組成物の全量に対して、固形分基準で2~80質量%であることが好ましく、5~70質量%であることがより好ましく、10~60質量%であることがさらに好ましい。オキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B)の含有量を前記範囲にすることで、基材との密着性をより向上することができ、塗膜の破断エネルギーをより高めることができるため、好ましい。
【0017】
オキサゾリン化合物の使用量は、アクリルエマルジョンの固形分全体に対しオキサゾリン化合物の量が10重量%以下になるように用いられることが好ましく、0.01~3重量%、さらには0.03~2.2重量%の範囲で用いられることが好ましい。10重量%以下の量とすることで、加熱により発生する、有害なホルムアルデヒドを少なくすることができ、塗膜の製造において乾燥工程を含む本発明の組成物がホルムアルデヒドなどの有害物質を実質的に含有又は発生しないものとなるので、環境対応材料としてより好ましい。
オキサゾリン化合物の使用量は上記範囲であれば好ましいが、オキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B)に含まれるオキサゾリン基の量が、アクリルエマルジョン全量に対して固形分基準で0.0002~0.4ミリモル/gとなるように、使用量を調整することがより好ましい。オキサゾリン基の量は、0.0005~0.3ミリモル/gの範囲であるとさらに好ましい。アクリルエマルジョンに含まれるオキサゾリン基の量は、NMR測定等、当業者に公知の手段を用いて同定することができる。
【0018】
<主鎖にアクリル骨格を有し、オキサゾリン基と反応する官能基を側鎖に有する重合体(Ba)>
本発明において用いられる、主鎖にアクリル骨格を有し、オキサゾリン基と反応する官能基を側鎖に有する重合体(Ba)(以下、単に「重合体(Ba)」と表記することがある)は、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを主成分とするものであれば特に制限されることはない。本明細書において「主鎖にアクリル骨格を有する」重合体は、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを主成分とする重合体又は共重合体を示すために用いられる。重合体において「主成分とする」とは、重合体の構成要素として当該成分を50重量%以上の割合で含むことを意味する。重合体(Ba)は、炭素数1~20、より好ましくは炭素数1~10の炭化水素基を有するアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1成分をその構成単位に有することが好ましい。アクリル酸エステルの具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、i-プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、i-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、n-オクチルアクリレート、i-オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ノニルアクリレート、i-ノニルアクリレート、トリデシルアクリレート、ステアリルアクリレート、オレイルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート等を挙げることができる。メタクリル酸エステルの具体例としては、上記アクリレートのアクリル基部分がメタクリル基に置き換わったものを挙げることができる。アクリル系重合体の好ましい具体例としては、エチルアクリレートを含むものであり、より好ましい具体例としては、必須の単量体成分として、エチルアクリレート及び炭素数3~5のα,β-不飽和モノ-又はジ-カルボン酸を含み、これらを乳化共重合することにより構成されるものである。
また、オキサゾリン基と反応する官能基とは、例えば、エポキシ基、アミド基もしくは置換アミド基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基もしくは置換アミノ基等を挙げることができる。
【0019】
本発明に用いられる主鎖にアクリル骨格を有する重合体(以下、アクリル系重合体と称することもある)は、粒子内で架橋されていてもよい。ここでいう粒子内架橋とは、アクリル系重合体の微粒子が乳化共重合により形成される際に、該微粒子内のアクリル系共重合体の少なくとも一部が架橋されて、水や溶媒などに不溶性又は難溶性となっている状態をいう。このような粒子内架橋は、例えば、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリル基などの不飽和結合を複数有する不飽和単量体によるものであってもよいが、メチロールアミド基又は置換メチロールアミド基、カルボニル基、アミド基もしくは置換アミド基(メチロールアミド基又は置換メチロールアミド基を除く)、アミノ基もしくは置換アミノ基、ヒドロキシル基、低級アルコキシル基、エポキシ基、メルカプト基又は珪素含有基等を有する単量体によるものであることが好ましく、前記オキサゾリン基によるものであることが好ましい。
【0020】
<主鎖にアクリル骨格を有し、オキサゾリン基を有する水溶性又は水分散性の高分子(Bb)>
主鎖にアクリル骨格を有し、オキサゾリン基を有する水溶性又は水分散性の高分子(Bb)(以下、単に「高分子(Bb)」と表記することがある)は、オキサゾリン基を有する単量体と、場合によりこれと共重合可能な他の単量体の少なくとも1種とを(共)重合してなる高分子化合物であって、単量体の少なくとも1種がアクリル骨格を構成しうるものである、高分子化合物である。前記重合体(Ba)の水性分散液と配合しやすくなるため、水溶性又は水分散性の高分子化合物であることが好ましい。
オキサゾリン基は、2-オキサゾリン基、3-オキサゾリン基及び4-オキサゾリン基からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、2-オキサゾリン基であることが好ましい。また、オキサゾリン基は、オキサゾリン環にハロゲン、低級アルキル基、シクロアルキル基、アリール基など他の置換基が1つ以上結合していてもよい。
【0021】
オキサゾリン基を有する水溶性又は水分散性の高分子では、オキサゾリン基が、水性ポリウレタン樹脂分散体(A)及びオキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B)に含まれているカルボキシル基や水酸基等の官能基等と比較的低温で反応することがある。そのため、オキサゾリン基を有する水溶性又は水分散性の高分子を用いることで、オキサゾリン基がそれらの官能基などと反応し、強固な密着性をもたらすことができる。
【0022】
高分子(Bb)は、主鎖にアクリル骨格を有するものであるが、炭素数1~20の炭化水素基を有するアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1成分をその構成単位に有することが好ましい。炭素数1~20の炭化水素基としては、例えば、炭素数1~10のアルキル基の側鎖に炭素数1~10の芳香環や脂環構造を有する置換基等が挙げられる。アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルの具体例は上述のとおりである。また、アクリル骨格だけでなく、他のモノマーに由来する骨格、例えばビニル骨格、アクリルアミド骨格やスチレン骨格を有する高分子であってもよい。したがって、高分子(Bb)を構成する要素となる単量体は、アクリル骨格を構成する要素となるもの、すなわちアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルが含まれている限り、単量体の種類及びその数は特に制限されない。単量体としてのアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルがオキサゾリン基を有していてもよく、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステル以外のモノマーがオキサゾリン基を有する単量体であってもよい。
【0023】
高分子(Bb)は、オキサゾリン基以外に、ポリオキシアルキレン基、ビニル基、アリル基、アルケニル基、(メタ)アクリロイル基、アルケニルオキシ基など、他の官能基を有していてもよい。これらの骨格は、高分子(Bb)を構成するどのモノマーに由来するものであってもよい。
【0024】
高分子(Bb)は、その数平均分子量が5,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましく、通常、1,000,000以下が好ましい。数平均分子量が5,000より低いと、密着性を向上できない場合がある。数平均分子量が1,000,000より高いと、作業性に劣る場合がある。また、高分子(Bb)は、そのオキサゾリン価が、例えば、1,500g solid/eq.以下であることが好ましく、1,200g solid/eq.以下であることがより好ましい。オキサゾリン価が1,500g solid/eq.より大きいと、分子中に含まれるオキサゾリン基の量が少なくなり、密着性を向上できない場合がある。
【0025】
オキサゾリン基を有する水溶性又は水分散性の高分子(Bb)としては、具体的には、(株)日本触媒製のエポクロスWS-300、エポクロスWS-500、エポクロスWS-700などのオキサゾリン基含有アクリル系ポリマー、例えば、(株)日本触媒製のエポクロスK-1000シリーズ、エポクロスK-2000シリーズなどのオキサゾリン基含有アクリル/スチレン系ポリマーなどが挙げられ、1種単独で、又は、2種以上を併用して用いることができる。
<水系媒体(Bc)>
水系媒体としては、例えば、上水、イオン交換水、蒸留水、超純水などの水や、水と親水性有機溶媒との混合媒体などが挙げられる。
親水性有機溶媒としては、例えば、アセトン、エチルメチルケトンなどのケトン類;N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドンなどのピロリドン類;ジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのアルコール類;KJケミカル社製「KJCMPA(R)-100」に代表されるβ-アルコキシプロピオンアミドなどのアミド類;2-(ジメチルアミノ)-2-メチル-1-プロパノール(DMAP)などの水酸基含有三級アミンが挙げられる。オキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B)に用いる水系媒体(Bc)としては、水を主成分とするものを用いるのが好ましく、該水系媒体中に占める親水性有機溶媒の含有量は、通常は20質量%以下であり、好ましくは10質量%以下である。
【0026】
<水性ポリウレタン樹脂分散体(A)>
本発明の組成物に用いられる水性ポリウレタン樹脂分散体は、ポリオール化合物(Aa)、ポリイソシアネート化合物(Ab)、酸性基含有ポリオール(Ac)、中和剤(Ad)及び鎖延長剤(Ae)由来の構成単位を有するものである。
【0027】
<ポリオール化合物(Aa)>
本発明で使用するポリオール化合物(Aa)としては、ポリウレタン樹脂の製造に用いることができるポリオール化合物であれば特に制限なく用いることができる。ポリオール化合物としては、基材への密着性の観点から、ポリカーボネートポリオール(Aa1)を含むことが好ましい。特に100℃以下の低温乾燥下での基材への密着性の観点から、ポリオール化合物(Aa)のガラス転移温度が-60℃~0℃であるか、又は数平均分子量400~5000のポリカーボネートポリオール化合物(Aa1)を含むことが好ましい。また任意成分として、その他のポリオール化合物(Aa2)を含んでいてもよい。
【0028】
ポリオール化合物(Aa)は、ガラス転移温度が-60℃~0℃であるか、又は数平均分子量が400~5000のポリカーボネートポリオール(Aa1)をポリオール化合物(Aa)の全量に対して好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、特に好ましくは60質量%以上含む。ポリカーボネートポリオール化合物(Aa1)の含有量の上限は特に制限されず、ポリオール化合物(Aa)の全量即ち100質量%を占めていてもよい。
【0029】
<ポリカーボネートポリオール化合物(Aa1)>
上記ポリカーボネートポリオール化合物(Aa1)は基材への密着性と破断エネルギーの観点から、ガラス転移温度が-60℃~0℃であることが好ましく、-57~-10℃であることがより好ましく、-55~-15℃であることがさらに好ましい。ガラス転移温度は示差走査熱量計により測定することができる。具体的な測定方法は後述の通りである。
【0030】
ポリカーボネートポリオール化合物(Aa1)は、1種以上のポリオール成分と、炭酸エステルやホスゲンとを反応させることにより得られる。安全性や試薬の取扱等の観点から製造が容易であること、末端塩素化物の副生成がない点から、1種以上のポリオールモノマーと、炭酸エステルとを反応させて得られるポリカーボネートポリオールが好ましい。
【0031】
ポリカーボネートポリオール化合物(Aa1)のポリオール成分としては、公知のものを使用することができる。例えば、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール等の直鎖状脂肪族ジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール等の分岐鎖状脂肪族ジオールといった脂肪族ポリオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の3官能以上の多価アルコール;1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロペンタンジオール、1,4-シクロヘプタンジオール、2,5‐ビス(ヒドロキシメチル)-1,4-ジオキサン、2,7-ノルボルナンジオール、テトラヒドロフランジメタノール、1,4‐ビス(ヒドロキシエトキシ)シクロヘキサン等の主鎖に脂環式構造を有するジオール;1,4-ベンゼンジメタノール、1,3-ベンゼンジメタノール、1,2-ベンゼンジメタノール、4,4’-ナフタレンジメタノール、3,4’-ナフタレンジメタノール等の芳香族ジオール;6-ヒドロキシカプロン酸とヘキサンジオールとのポリエステルポリオール等のヒドロキシカルボン酸とジオールとのポリエステルポリオール;アジピン酸とヘキサンジオールとのポリエステルポリオール等のジカルボン酸とジオールとのポリエステルポリオール;ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールやポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオールが挙げられ、脂環式ポリオール及び/又は脂肪族ポリオールが好ましく、脂環構造を含有するポリオール(例えば、脂環式ポリオール又は脂環式ポリオールと脂肪族ポリオールの組み合わせ)、及び/又は炭素数6以下のジオールで構成されるポリオールがより好ましく、シクロヘキサン環を有するポリオール及び/又は1,6-ヘキサンジオールがさらに好ましい。特に好ましいポリオールは、1,4-シクロヘキサンジメタノール及び/又は1,6-ヘキサンジオールである。
【0032】
ポリカーボネートポリオール化合物(Aa1)のポリオール成分は、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。組成物に求められる物性に応じて、ポリオール成分の種類は適宜調整することができる。
【0033】
炭酸エステルとしては、特に制限されないが、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の脂肪族炭酸エステル;ジフェニルカーボネート等の芳香族炭酸エステル;エチレンカーボネート等の環状炭酸エステル等が挙げられる。その他に、ポリカーボネートポリオールを生成することができるホスゲン等も使用できる。中でも、ポリカーボネートポリオール(Aa1)の製造のしやすさから、脂肪族炭酸エステルが好ましく、ジメチルカーボネートが特に好ましい。
【0034】
ポリカーボネートポリオール化合物(Aa1)は、その分子中に、ポリカーボネートポリオールの特性を損なわない範囲で、1分子中の平均のカーボネート結合の数未満の数のエーテル結合やエステル結合を含有していてもよい。
【0035】
ポリカーボネートポリオール化合物(Aa1)は、数平均分子量(Mn)が400~5,000であることが好ましい。Mnが400以上であると、ソフトセグメントとしての性能が良好で、塗膜を形成した場合に割れが発生し難い。Mnが5,000以下であると、ポリカーボネートポリオール化合物(Aa1)とポリイソシアネート化合物(Ab)との反応性が低下することなく、ウレタンプレポリマーの製造工程に時間がかかったり、反応が充分に進行しないという問題や、ポリカーボネートポリオールの粘度が高くなり、取り扱いが困難になるという問題が生じない。ポリカーボネートポリオール化合物(Aa1)のより好ましいMnは、500~3,500であり、特に好ましくは600~2,500である。なお、本発明において、Mnは、水酸基価及びH-NMR若しくはアルカリ加水分解後のガスクロマトグラフィーによる組成物の定量値から算出した値である。
【0036】
ポリカーボネートポリオール化合物(Aa1)の水酸基価は基材密着性及び破断エネルギーの観点から、20~300mgKOH/gであることが好ましく、30~230mgKOH/gであることがより好ましく、45~200mgKOH/gであることがさらに好ましい。水酸基価は、JIS K 1557のB法に準拠して測定される。
【0037】
ポリオール成分及び炭酸エステルからポリカーボネートポリオール化合物(Aa1)を製造する方法としては、例えば、反応器中に炭酸エステルと、この炭酸エステルのモル数に対して過剰のモル数のポリオールとを加え、温度160~200℃、圧力50mmHg程度で5~6時間反応させた後、更に数mmHg以下の圧力において200~220℃で数時間反応させる方法が挙げられる。上記反応においては副生するアルコールを系外に抜き出しながら反応させることが好ましい。その際、炭酸エステルが副生するアルコールと共沸することにより系外へ抜け出る場合には、過剰量の炭酸エステルを加えてもよい。また、上記反応において、チタニウムテトラブトキシド等の触媒を使用してもよい。
【0038】
<その他のポリオール(Aa2)>
ポリオール化合物(Aa)はポリカーボネートポリオール化合物(Aa1)及び後述する酸性基含有ポリオール(Ac)以外のその他のポリオール(Aa2)を含有していてもよい。このような、その他のポリオール(Aa2)は、ポリオール化合物(Aa)の全量に対し、70質量%未満の量で含まれていることが好ましく、60質量%未満の量で含まれていることがより好ましく、50質量%未満の量で含まれていることがさらに好ましく、40質量%未満の量で含まれていることが特に好ましい。水性ポリウレタン樹脂に求める物性に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、その他のポリオール(Aa2)の種類、量はともに当業者であれば適宜調整することができるが、その他のポリオール(Aa2)は、ポリオール化合物(Aa)中に含まれていなくてもよい。
【0039】
その他のポリオール(Aa2)としては、公知のものを使用することができる。例えば、ポリエステルポリオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシド、エチレンオキシドとブチレンオキシドとのランダム共重合体やブロック共重合体等のポリエーテルポリオール;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール等の短鎖脂肪族ジオール;1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、ハイドロキノン、ビスヒドロキシエトキシベンゼン及びそれらのアルキレンオキシド付加体等のジオール等が挙げられる。
【0040】
上記のようなその他のポリオール(Aa2)は、市販のものを用いてもよいし、個別に調製したものを用いてもよい。例えば、適切な原料を選択し、(Aa1)に関して説明した方法により、ガラス転移温度が-60℃未満又は0℃を超えるポリカーボネートポリオールを調製することもできる。
【0041】
ポリオール化合物(Aa)は、水性ポリウレタン樹脂分散体を塗膜としたときの硬度の観点から、シクロヘキサン環のような脂環構造を有していることが好ましい。特に、ポリカーボネートポリオール化合物(Aa1)が脂環構造を含有していることが好ましい。脂環構造は、脂肪族の環構造であればその環員数に制限はない。原料としての入手が容易であることから、6員環(シクロヘキシレン基)が含まれるように設計することが好ましい。ポリオール化合物(Aa)に含まれる脂環構造の割合は、ポリオール化合物(Aa)全体の固形分基準で10~60重量%であることが好ましく、12~50重量%であることがより好ましい。
【0042】
<ポリイソシアネート化合物(Ab)>
ポリイソシアネート化合物(Ab)としては、公知のものを使用することができる。例えば、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4’,4’’-トリフェニルメタントリイソシアネート、m-イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネート、p-イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート化合物;エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート(PDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデカメチレンジイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6-ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2-イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2-イソシアナトエチル)カーボネート、2-イソシアナトエチル-2,6-ジイソシアナトヘキサノエート等の脂肪族ポリイソシアネート化合物;イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート(水素添加TDI)、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-ジクロヘキセン-1,2-ジカルボキシレート、2,5-ノルボルナンジイソシアネート、2,6-ノルボルナンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネート化合物が挙げられる。ポリイソシアネート化合物(Ab)は、その構造の一部又は全部がイソシアヌレート化、カルボジイミド化、又はビウレット化など誘導化されていてもよい。
【0043】
上記のポリイソシアネート化合物(Ab)の中でも、基材密着性の観点から、脂環式ポリイソシアネート化合物が好ましく、硬度と破断エネルギーの観点から、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI)及び/又はイソホロンジイソシアネート(IPDI)がより好ましい。
【0044】
ポリイソシアネート化合物(Ab)は、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0045】
ポリイソシアネート化合物(Ab)の使用量は、ポリイソシアネート化合物(Ab)のイソシアナト基と全ポリオール(ポリオール化合物(Aa)と、酸性基含有ポリオール(Ac)の合計)の水酸基との比(イソシアナト基/水酸基(モル比))が、1.3~2.5であることが好ましく、1.4~2.3であることが特に好ましい。
【0046】
<酸性基含有ポリオール(Ac)>
酸性基含有ポリオール(Ac)とは、一分子中に2個以上の水酸基と、1個以上の酸性基を含有するものである。酸性基含有ポリオール(Ac)は、一種類を単独で用いてもよいし、複数種類を併用してもよい。
【0047】
酸性基含有ポリオール(Ac)としては、公知のものを使用することができる。例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸等のジメチロールアルカン酸;N,N-ビスヒドロキシエチルグリシン、N,N-ビスヒドロキシエチルアラニン、3,4-ジヒドロキシブタンスルホン酸、3,6-ジヒドロキシ-2-トルエンスルホン酸等が挙げられる。中でも入手の容易さの観点から、2個のメチロール基を含む炭素数4~12のジメチルロールアルカン酸が好ましく、ジメチロールアルカン酸の中でも、2,2-ジメチロールプロピオン酸がより好ましい。
【0048】
水性ポリウレタン樹脂分散体において、ポリオール化合物(Aa)と、酸性基含有ポリオール(Ac)の合計の水酸基当量数は、50~4000であることが好ましい。水酸基当量数がこの範囲であれば、得られたポリウレタン樹脂を含む水性ポリウレタン樹脂分散体の製造が容易である。得られる水性ポリウレタン樹脂分散体から得られる塗膜の破断エネルギーの観点から、水酸基当量数は、好ましくは100~2500、より好ましくは120~1500、特に好ましくは150~1000である。
【0049】
水酸基当量数は、以下の式(1)及び(2)で算出することができる。
各ポリオール成分の水酸基当量数=各ポリオール成分の分子量/各ポリオール成分の水酸基の数・・・(1)
ポリオール成分の合計の水酸基当量数=M/ポリオール成分の合計モル数・・・(2)
式(2)において、Mは、[〔ポリカーボネートポリオール成分の水酸基当量数×ポリカーボネートポリオール成分のモル数〕+〔酸性基含有ポリオールの水酸基当量数×酸性基含有ポリオールのモル数〕+〔その他のポリオールの水酸基当量数×その他のポリオールのモル数〕]を示す。
【0050】
<中和剤(Ad)>
中和剤(Ad)は、一種類を単独で用いてもよいし、複数種類を併用してもよい。
【0051】
中和剤(Ad)としては、公知のものを使用することができる。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の不揮発性塩基;トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の三級アミン化合物;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン等の二級アミン化合物;エチレンジアミン、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン等の一級アミン化合物;アンモニア等を用いることができる。
【0052】
上記中和剤(Ad)としては、コーティング材料組成物中の水系媒体を乾燥する際の温度(通常は50~180℃)で揮発してポリウレタン皮膜から消失し、より一層優れた接着強度が得られる点から、その沸点が200℃以下であることが好ましく、-50~180℃の範囲であることがより好ましい。本発明の水性アクリル・ウレタン組成物は100℃以下の低温乾燥で効果を発揮することができるため、100℃以下、例えば80℃以下で揮発する中和剤が好ましく、100℃以下の低温下で数秒間~1時間の短時間に乾燥塗膜を得る際には、その沸点は130℃以下が好ましく、110℃以下がより好ましく、100℃以下がさらに好ましい。
【0053】
上記中和剤(Ad)を用いる場合の使用量としては、上記水性ポリウレタン樹脂分散体に含まれる上記酸性基のモル数に対して0.8~1.2倍の範囲であることが好ましい。前記中和剤(Ad)の使用量が上記水性ポリウレタン樹脂分散体に含まれる上記酸性基のモル数に対して0.8倍以上であると、得られる分散体の安定性が高く、1.2倍以下であると、100℃以下の低温乾燥下で数秒間~1時間の短時間で基材密着性と破断エネルギーが共に高い塗膜を得ることができる。
【0054】
<鎖延長剤(Ae)>
鎖延長剤(Ae)は、ポリウレタンプレポリマーのイソシアナト基と反応性を有する化合物である。鎖延長剤(Ae)は、一種類を単独で用いてもよいし、複数種類を併用してもよい。
【0055】
鎖延長剤(Ae)としては、公知のものを使用することができる。例えば、エチレンジアミン、1,4-テトラメチレンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,4-ヘキサメチレンジアミン、3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、キシリレンジアミン、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のアミン化合物;水等が挙げられ、アミン化合物が好ましい。
鎖延長剤(Ae)としては、1分子中にアミノ基及び/又はイミノ基を合計で3つ以上有するポリアミン化合物(Ae1)、例えば、ジエチレントリアミン、ビス(2-アミノプロピル)アミン、ビス(3-アミノプロピル)アミン等のトリアミン化合物を使用することができる。
【0056】
本発明における鎖延長剤(Ae)は、1分子中にアミノ基及び/又はイミノ基を合計で3つ以上有するポリアミン化合物(Ae1)を少なくとも1種含んでいてもよい。任意成分として、前記鎖延長剤(Ae)は、その他の鎖延長剤(Ae2)を含んでもよい。その他の鎖延長剤(Ae2)としては、前述のジアミン等が挙げられる。また、ポリウレタン樹脂とした場合に、架橋点密度が0~1.0ミリモル/gの範囲に入ることが好ましい。架橋点密度が1.0ミリモル/gを超える場合、塗膜の破断エネルギーが低くなり、製膜の速度が遅くなるため、100℃以下の低温乾燥に適さなくなる。
【0057】
前記鎖延長剤中(Ae)の1分子中にアミノ基及び/又はイミノ基を合計で3つ以上有するポリアミン化合物(Ae1)の割合は、0~90モル%であることが好ましく、0~70モル%であることがより好ましく、0~60モル%であることがさらに好ましい。
【0058】
前記鎖延長剤(Ae)の添加量は、ポリオール化合物(Aa)、ポリイソシアネート化合物(Ab)、酸性基含有ポリオール(Ac)、中和剤(Ad)で構成されるウレタンプレポリマー中の鎖延長起点となる残存イソシアナト基の当量以下であることが好ましく、より好ましくは残存イソシアナト基の0.7~0.99当量である。残存イソシアナト基の当量を超えて鎖延長剤を添加すると、鎖延長されたウレタンポリマーの分子量が低下して凝集力が低下してしまう場合があり、得られた水性ポリウレタン樹脂分散体を使用して形成した塗膜の破断エネルギーが低くなり、強度が低下する場合がある。
【0059】
本発明においては、前記鎖延長剤(Ae)として、エーテル結合及びエステル結合を含有しないものを使用することがより好ましい。得られる水性ポリウレタン樹脂分散体にポリウレタン樹脂がエーテル結合及びエステル結合を含有しないようにすることで、水性ポリウレタン分散体を使用して形成した塗膜(乾燥完了前:基材と塗膜の積層体を垂直に立てた場合に塗膜が垂れない状態であり、例えば、塗膜の固形分濃度約60~95質量%)について、良好な耐水性を得ることができる。
【0060】
上記鎖延長剤(Ae)のうち、数平均分子量(Mn)が300以下のポリアミンが好ましい。Mnが300以下であることは、ポリウレタン樹脂の凝集力を高くするために必要であり、1分子内の官能基数が2以上のポリアミンを使用することはポリウレタン樹脂のMnを高くし、耐久性を向上させるために必要である。破断エネルギーの観点から、ジアミンがさらに好ましい。
【0061】
<ポリウレタン樹脂>
本発明におけるポリウレタン樹脂は、ポリオール化合物(Aa)、ポリイソシアネート化合物(Ab)、酸性基含有ポリオール(Ac)、中和剤(Ad)及び鎖延長剤(Ae)由来の構成単位を有する。本発明のポリウレタン樹脂は、好ましくは、以下のような特徴を有するものである。
【0062】
<N(C=O)NH基濃度>
本発明の水性ポリウレタン樹脂分散体に含まれるN(C=O)NH基濃度は、固形分基準で3質量%以上13質量%以下であることが好ましい。N(C=O)NH基は、ポリウレタンの調製過程で鎖延長剤とイソシアナト基との反応により生じる。N(C=O)NH基の濃度が上記範囲であると、水性アクリル・ウレタン組成物を低温で硬化させた場合でも基材への密着性に優れる被膜が得られる。
【0063】
水性ポリウレタン樹脂分散体に含まれるN(C=O)NH基濃度は、ポリオール化合物(Aa)及び酸性基含有ポリオール(Ac)の有する水酸基濃度、ポリイソシアネート化合物(Ab)の有するイソシアナト基濃度及び鎖延長剤(Ae)の有する水酸基濃度及び/又はアミノ基濃度によって算出され、基材への密着性の観点から、3~13質量%であることが好ましく、3~10質量%であることがより好ましく、3~8質量%であることがさらに好ましい。N(C=O)NH基濃度の計算方法は、実施例において説明するとおりである。
【0064】
<ハードセグメント>
一般にポリウレタンの分子には、ハードセグメントと呼ばれる部分とソフトセグメントと呼ばれる部分が存在する。ハードセグメント同士は凝集してポリウレタン樹脂の硬さの向上に影響し、ソフトセグメントは変形に対する自由度が高いことから、柔軟性や密着性の向上に影響する。
ポリウレタンにおけるソフトセグメントとは、主に高分子量ポリオールに由来する部分であり、ハードセグメントとは、水素結合による凝集を起こし得る結晶性の部分である。具体的にはハードセグメントは、ウレタン基、ウレア基、並びにウレタン基又はウレア基同士若しくはウレタン基とウレア基とを連結する分子量250未満の構造からなる。当該「分子量250未満の構造」は、ポリイソシアネート化合物(Ab)、酸性基含有ポリオール(Ac)、及び鎖延長剤(Ae)から選ばれる少なくとも一種に由来することが好ましい。「分子量250未満の構造」は、例えば、ポリイソシアネートをOCN-R-NCOと表したときのR部分に相当する。この部分の分子量が250未満であれば、当該部分の分子としての長さが十分に短く、ハードセグメントが凝集した島と言われる部分が十分に形成される。ウレタン基又はウレア基同士若しくはウレタン基とウレア基とを連結する分子量250未満の構造とは、具体的には、ウレタン基及び/又はウレア基の間の分子量250未満で構成されるポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、酸性基含有ポリオール及びポリアミン化合物の中から選ばれる少なくとも一つの化合物由来の構造からイソシアナト基、水酸基、アミノ基、イミノ基を除いた構造である。
【0065】
水性ポリウレタン樹脂分散体中のハードセグメントの含有量は、固形分基準で20~65質量%であることが好ましく、25~65質量%であることがより好ましく、25~60質量%であることがさらに好ましい。ハードセグメントの含有量の計算方法は、実施例において説明するとおりである。
【0066】
<脂環構造>
水性ポリウレタン樹脂分散体に含まれるポリウレタン樹脂には、水性アクリル・ウレタン組成物を被膜としたときの硬さの観点から、脂環構造が含まれていることが好ましい。脂環構造は、脂肪族の環構造であればその環員数に制限はない。原料としての入手が容易であることから、6員環(シクロヘキシレン基)が含まれるように設計することが好ましい。脂環構造は、ポリウレタンの原料の何れに由来していてもよいが、ポリオール化合物(Aa)及び/又はポリイソシアネート化合物(Ab)に由来しているものであることが好ましい。脂環構造を有する構成単位の例としては、ポリオール化合物(Aa)として、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の主鎖に脂環式構造を有するジオール又はこれから得られるポリカーボネートポリオール、ポリイソシアネート化合物(Ab)として水素添加MDI等が挙げられる。脂環構造の含有割合は、これら各構成単位に含まれる脂環構造全体に基づいて算出される。
【0067】
水性ポリウレタン樹脂分散体中に含まれる脂環構造の含有割合は、固形分基準で10~60質量%であることが好ましく、12~50質量%であることがより好ましい。脂環構造の含有割合が10質量%未満であると、基材密着性が低くなり、脂環構造の含有割合が60質量%を超えると、破断エネルギーが低くなる傾向がある。脂環構造の含有割合の計算方法は、実施例において説明するとおりである。
【0068】
<水性ポリウレタン樹脂分散体>
水性ポリウレタン樹脂分散体は、ポリウレタン樹脂及び水系媒体を含み、ポリウレタン樹脂が水系媒体中に分散している。水系媒体としては、オキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B)について説明したものを用いることができる。
水性ポリウレタン樹脂分散体における、水系媒体中の親水性有機溶媒の量は、0~20質量%であることが好ましく、0~15質量%であることがより好ましく、0~10質量%であることがさらに好ましい。
このように水性ポリウレタン樹脂分散体を含む組成物において使用される親水性有機溶媒の量を低減することができるため、本発明の組成物は、環境対応材料である。
【0069】
水性ポリウレタン樹脂分散体のpHは、5.0~10.0であることが好ましく、6.0~9.5であることがより好ましく、6.5~9.0であることがさらに好ましい。
【0070】
水性ポリウレタン樹脂分散体の重量平均分子量(Mw)は、低温乾燥塗膜の破断エネルギーの観点から、40,000以上であることが好ましく、100,000以上であることがより好ましい。この範囲とすることで、組成物を100℃以下の温度で乾燥して得られる塗膜がより優れた破断エネルギーを示す。
【0071】
水性分散体中におけるポリウレタン樹脂の割合は、好ましくは5~60質量%、より好ましくは20~50質量%である。
【0072】
前記水性ポリウレタン樹脂分散体の酸価は、特に制限されないが、固形分基準で12~40mgKOH/gであることが好ましく、14~35mgKOH/gであることがより好ましい。前記水性ポリウレタン樹脂分散体の酸価が固形分基準で40mgKOH/gより大きくなると、水系媒体中への分散性が悪くなる傾向がある。酸価が固形分基準で12mgKOH/gより小さくなると、基材密着性が低下する傾向にある。酸価は、JIS K 1557の指示薬滴定法に準拠して測定することができる。測定においては、酸性基を中和するために使用した中和剤を取り除いて測定することとする。例えば、有機アミン類を中和剤として用いた場合には、水性ポリウレタン樹脂分散体をガラス板上に塗布し、温度60℃、20mmHgの減圧下で24時間乾燥して得られた塗膜をN-メチルピロリドン(NMP)に溶解させて、JIS K 1557の指示薬滴定法に準拠して酸価を測定することができる。
【0073】
<水性ポリウレタン樹脂分散体の製造方法>
国際公開第2016/039396号公報等に記載の公知の方法により、水性ポリウレタン樹脂分散体を製造することができる。例えば、以下のような製造方法が挙げられる。
第1の製造方法は、原料を全て混合し、反応させて、水系媒体中に分散させることにより水性ポリウレタン樹脂分散体を得る方法である。
第2の製造方法は、全ポリオール成分とポリイソシアネートとを反応させて、プレポリマーを製造し、前記プレポリマーの酸性基を中和した後、水系媒体中に分散させ、鎖延長剤を反応させることにより水性ポリウレタン樹脂分散体を得る方法である。
水性ポリウレタン樹脂分散体の製造方法としては、分子量の制御が行いやすいため、上記の第2の製造方法が好ましい。
【0074】
また、ブロックイソシアネート構造を有する場合は例えば、以下のような製造方法により導入することができる。
第1の製造方法は、ウレタン化触媒存在下又は不存在下で、ブロック化剤(Bg)以外の原料を全て混合し、反応させて、ウレタン化反応を行い、最後にブロック化触媒存在下又は不存在下でブロック化剤(Bg)を反応させてブロック化反応を行い、末端イソシアナト基の少なくとも一部がブロック化されたポリウレタンプレポリマーを合成する方法である。
第2の製造方法は、ブロック化触媒存在下又は不存在下で、イソシアネート化合物(Bb’)と、ブロック化剤(Bg)とを反応させてブロック化反応を行い、イソシアナト基の一部をブロック化したポリイソシアネート化合物を合成し、ウレタン化触媒存在下又は不存在下で、得られたブロック化したポリイソシアネート化合物と、(Bb’)及び(Bg)以外の原料とを反応させてウレタン化反応を行って、ポリウレタンプレポリマーを合成する方法である。
これらの製造方法における水性ポリウレタン樹脂分散体の製造方法は、上述の通りである。
ブロック化剤としては、フェノール、クレゾール等のフェノール系、メタノール、エタノール等の脂肪族アルコール系、マロン酸ジメチル、アセチルアセトン等の活性メチレン系、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等のメルカプタン系、アセトアニリド、酢酸アミド等の酸アミド系、ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム等のラクタム系、コハク酸イミド、マレイン酸イミド等の酸イミド系、アセトアルドオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトオキシム等のオキシム系、ジフェニルアニリン、アニリン、エチレンイミン等のアミン系、ピラゾール、3-メチルピラゾール、3,5-ジメチルピラゾール等のピラゾール系等のブロック化剤が挙げられる。
【0075】
<アクリル・ウレタン組成物の製造>
本発明のアクリル・ウレタン組成物は、前記水性ポリウレタン樹脂分散体(A)及びオキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B)を必須成分として含有するが、必要に応じてその他の樹脂及び/又はその他の添加剤を含有してコーティング材料組成物としてもよい。コーティング材料組成物は、電着塗面、鋼板、木材、プラスチック基材にスプレー、ハケ、アプリケーター、バーコーターなどで塗布して塗膜を形成する材料と定義される。本明細書において単に「コーティング材料組成物」というときは、その他の樹脂、添加剤等を含有させた組成物のみならず、前記水性ポリウレタン樹脂分散体(A)及びオキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B)からなる組成物も包含する。
【0076】
前記その他の樹脂としては、オレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、ナイロン樹脂、オキサゾリン架橋系以外のアクリルエマルジョンが挙げられる。中でも、オキサゾリン架橋系以外のアクリルエマルジョン、ポリオレフィンエマルジョン、ポリエステルエマルジョンが好ましく、任意成分として、これらの中から選ばれる少なくとも1種を混合して得られる耐破壊特性材料用コーティング材料組成物が好ましい形態である。
【0077】
前記その他の添加剤としては、例えば、硬化剤、架橋剤、表面調整剤、乳化剤、増粘剤、ウレタン化触媒、充填剤、発泡剤、顔料、染料、撥油剤、中空発泡体、難燃剤、消泡剤、レベリング剤、ブロッキング防止剤等を用いることができる。これらの添加剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0078】
表面調整剤としては、一般に高分子量化に伴う粘性の変化、表面張力の変化、泡の発生に起因して生じる塗膜の欠陥を解消し得る性能を有する、表面調整剤、レベリング剤、濡れ剤、消泡剤等と称されるものであれば、特に制限なく使用することができ、例えば、アクリル系、ビニル系、シリコーン系、フッ素系、セルロース系、天然ワックス系、水溶性有機溶媒等の各種表面調整剤、レベリング剤、濡れ剤、消泡剤等の他、界面活性剤も好ましく挙げられ、中でも濡れ剤が好ましい。
【0079】
本発明のコーティング材料組成物の製造方法は、特に制限されないが、公知の製造方法を用いることができる。例えば、前記水性ポリウレタン樹脂分散体、任意成分として、上述したその他樹脂及び各種添加剤を攪拌混合することにより製造される。
【0080】
特に、本発明においては、以下の工程を含む方法により耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物を製造することができる。
(I)ポリオール化合物(Aa)、ポリイソシアネート化合物(Ab)、酸性基含有ポリオール(Ac)を、有機溶剤の存在下、又は非存在下で反応させてポリウレタンプレポリマーを得る工程、
(II)前記ポリウレタンプレポリマーの酸基を中和剤(Ad)で中和する工程、
(III)前記ポリウレタンプレポリマーを水系媒体に分散させる工程、
(IV)前記ポリウレタンプレポリマーを鎖延長剤(Ae)で高分子量化して水性ポリウレタン樹脂分散体を得る工程、
(V)主鎖にアクリル骨格を有し、オキサゾリン基と反応する官能基を側鎖に有する重合体(Ba)と、主鎖にアクリル骨格を有し、オキサゾリン基を有する水溶性又は水分散性の高分子(Bb)と、水系媒体(Bc)とを混合して得られたオキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B)を、前記工程(IV)で得られた水性ポリウレタン樹脂分散体と混合する工程、及び場合により、
(VI)前記工程(IV)又は(V)に続いて、有機溶媒を除去する工程。
【0081】
本発明のコーティング材料組成物において、前記水性ポリウレタン樹脂分散体(A)及びオキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B)の合計の重量とその他樹脂との混合割合は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に制限されないが、その他樹脂を含有させる場合、基材密着性及び破断エネルギーの観点から、98/2~10/90(固形分質量比)が好ましく、95/5~15/85がより好ましく、90/10~20/80が更に好ましく、80/20~30/70が特に好ましい。
【0082】
<硬化方法>
本発明の耐破壊特性材料用コーティング材料組成物は、室温(20℃)以上、かつ好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下の温度に加熱することにより、硬化させることができる。
具体的には、前述の耐破壊特性材料用コーティング材料組成物を電着塗面、鋼板、木材、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂などの各種プラスチック基材に、スプレー、ハケ、アプリケーター、バーコーター等を用いて塗布し、100℃以下、好ましくは80℃以下のオーブン、加熱槽等に1~120分間、好ましくは、1~60分間、より好ましくは1~45分間保持する方法により硬化させることができる。塗膜の乾燥膜厚は、0.5~200μmに調整することが好ましく、1~100μmに調整することがより好ましく、5~50μmに調整することがさらに好ましく、10~40μmに調整することが特に好ましい。複層塗膜の中のプライマー、ベースコート等として用いる場合には、前述の各種基材に塗布後、例えば、室温~80℃で1~30分間、好ましくは、1~10分間、より好ましくは、2~6分間保持して、任意成分として、さらにもう1種のベースコートを塗布して、同様の乾燥温度、乾燥時間で乾燥させた後に、トップコート(用途によっては、クリアコートという)を塗布して、100℃以下、好ましくは、80℃以下で10~120分間、好ましくは、20~90分間、より好ましくは、30~60分間加熱硬化させることができる。
本発明の一つの態様は、前記耐破壊特性材料用コーティング材料組成物を20℃~100℃で乾燥させて得られる塗膜である。
【0083】
<塗膜の物性>
本発明のコーティング材料組成物から得られる塗膜の、実施例記載の方法で測定した破断エネルギーは80MPa以上が好ましく、90MPa以上がより好ましく、100MPa以上がさらに好ましい。
本発明のコーティング材料組成物から得られる塗膜の、実施例記載の方法で測定したABS樹脂基材との密着性は100/100(1)以上が好ましく、100/100(4)がより好ましい。ここで、本発明において塗膜の密着性の評価は「n/100(m)」のように記載する。nは下記試験条件で少なくとも1のマス目が剥離したときに残っていたマス目の数、mは剥離が生じたときの試験回数を意味する。ただしmの最大値は4とし、4回繰り返し試験を行っても剥離が生じなかった場合は100/100(4)と表記する。密着性試験の条件は、実施例の項で詳細に説明している。
したがって本発明の一つの態様は、前記ポリオール化合物(Aa)、前記ポリイソシアネート化合物(Ab)、前記酸性基含有ポリオール(Ac)、前記中和剤(Ad)及び前記鎖延長剤(Ae)由来の構成単位を有するポリウレタン樹脂が水中に分散されている、水性ポリウレタン樹脂分散体(A);並びに主鎖にアクリル骨格を有し、オキサゾリン基と反応する官能基を側鎖に有する重合体(Ba)と、主鎖にアクリル骨格を有し、オキサゾリン基を有する水溶性又は水分散性の高分子(Bb)と、水系媒体(Bc)とを有するオキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン(B);とを含む組成物であって、20℃~100℃の低温で塗膜を形成し、JIS K 7311に準拠した方法により測定した測定温度23℃、湿度50%、引張速度100mm/分における引張特性を用いて算出した、破断エネルギーが80MPa以上であり、ABS樹脂基材へのコーティング膜の前記碁盤目剥離試験において、4回で剥離が見られない(即ち結果が100/100(4)で表記される)、組成物である。
【0084】
<耐破壊特性材料の用途>
本発明において耐破壊特性材料とは、基材の保護剤として用いられ、かつそれ自身も衝突、石跳ね、落下などの物理的衝撃に対して破壊されにくい特性を有する材料である。このため、耐破壊特性材料は、塗膜としたときの基材への密着性及び破断エネルギーが共に高い材料が好ましい。本発明の耐破壊特性材料の用途として具体的には、プライマー材料、ベースコート材料等が挙げられる。
本発明の破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物は、フロアコーティング、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂などの各種プラスチック基材又はゴムへのコート、鋼板処理剤、自動車、トラック、電車などの車両のような、金属の外装用プライマー、ベースコート材料などに広範囲に用いることができ有用である。
【実施例
【0085】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、物性測定は以下の通り行った。
【0086】
(1)ポリカーボネートポリオールのガラス転移温度(Tg):示差走査熱量計(DSC)にて、10℃/分で-100℃まで降温させた後で、10℃/分で昇温させ、転移が始まった温度を測定した。
(2)N(C=O)NH濃度(%):
(i)水に分散する前のポリウレタンプレポリマーの残存イソシアナト基のモル数が、鎖延長剤ポリアミンのアミノ基及び/又はイミノ基のモル数より多い場合:
「N(C=O)NH濃度(%)=〔(ポリアミンのアミノ基及び/又はイミノ基のモル数)+[(ポリイソシアネート化合物のイソシアナト基のモル数)-(ポリオール化合物及び酸性基含有ポリオールの全水酸基のモル数)-(ポリアミンのアミノ基及び/又はイミノ基のモル数)]/2〕×57.03×100」として、算出した。イソシアナト基が加水分解してできるN(C=O)NH濃度を加算している。
(ii)水に分散する前のポリウレタンプレポリマーの残存イソシアナト基のモル数が、鎖延長剤ポリアミンのアミノ基及び/又はイミノ基のモル数より少ない場合:
「N(C=O)NH濃度(%)=[(ポリイソシアネート化合物のイソシアナト基のモル数)-(ポリオール化合物及び酸性基含有ポリオールの全水酸基のモル数)]×57.03×100」として、算出した。全量イソシアナト基がアミノ基及び/又はイミノ基と反応してN(C=O)NH基を生成するとして算出した。
(3)ハードセグメント含量:水性ポリウレタン樹脂分散体に含まれる分子量300未満のポリオール、ポリイソシアネート、ポリアミン、酸性基含有ポリオールの合計質量を固形分質量で割ったときの割合(%)を記した。
(4)脂環構造の含有割合:水性ポリウレタン樹脂分散体の各原料の仕込み割合から算出した脂環構造の質量分率を表記した。質量分率は水性ポリウレタン樹脂分散体の固形分を基準とする。
(5)水性ポリウレタン樹脂分散体中のポリウレタン樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したものであり、予め作成した標準ポリスチレンの検量線から求めた換算値を記した。
(6)酸価:JIS K 1557の指示薬滴定法に準拠して測定した。
【0087】
(7)ABS樹脂への密着性は、次のようにして評価した。水性アクリル・ウレタン組成物(比較例では、ポリウレタン樹脂分散体又はアクリルエマルジョン)に造膜助剤としてDPnBを全体の2質量%になるように添加して混合し、ABS樹脂基材上にバーコーター#18で塗布し、80℃で45分間加熱乾燥し、得られた塗膜を用いて碁盤目剥離試験を行った。塗膜に10mm×10mmの面積に縦横1mm間隔で切り目を入れ、粘着テープを貼った後、剥がしたときにABS樹脂基材表面に残っているマスの数を目視で数えて評価した。これを4回繰り返した。1回目の剥離試験で100個中15個が残っていた場合を15/100(1)と記載し、2回目まで全く剥離せず、3回目で100個中85個残っていた場合を85/100(3)と記載した。全く剥離しなかった場合は100/100(4)と表記した。
(8)アクリル・ウレタン樹脂フィルム(比較例では、ポリウレタン樹脂フィルム又はアクリルフィルム)の引張特性は、以下のようにして評価した。水性アクリル・ウレタン組成物(比較例では、水性ポリウレタン樹脂分散体又はアクリルエマルジョン)に造膜助剤としてDPnBを全体の2質量%になるように添加して混合し、PETフィルム状に乾燥膜厚が50μmとなるように塗布し、80℃で2時間乾燥させてアクリル・ウレタン樹脂フィルム(比較例では、ポリウレタン樹脂フィルム又はアクリル樹脂フィルム)を作成した。アクリル・ウレタン樹脂フィルム(比較例では、ポリウレタン樹脂フィルム又はアクリル樹脂フィルム)の弾性率、引張強度、破断点伸度は、JIS K 7311に準拠する方法で測定した。なお、測定条件は、測定温度23℃、湿度50%、引張速度100mm/分で行った。
(9)破断エネルギーは、伸度-応力曲線の伸度ゼロから破断点伸度までの応力を積分して求めた。
【0088】
[合成例1]
<水性ポリウレタン樹脂分散体(A)の製造>
ETERNACOLL(登録商標) UH-200(宇部興産製;数平均分子量1958;水酸基価57.3mgKOH/g;1,6-ヘキサンジオールと炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、1850g)と、2,2-ジメチロールプロピオン酸(129g)と、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(841g)とを、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMM、932g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.9g)存在下、窒素雰囲気下で、80~95℃で5時間加熱した。次いで、3,5-ジメチルピラゾール(DMPZ、55.8g)を加えて1.5時間同温度で加熱を続けた。反応混合物を80℃まで冷却し、これにトリエチルアミン(97.4g)を添加・混合したもののうち、3500gを、強撹拌のもと水(4950g)の中に加えた。ついで、35質量%の2-メチル-1,5-ペンタンジアミン水溶液(270g)を加えて、水性ポリウレタン樹脂分散体(A)を得た。
【0089】
[合成例2]
<水性ポリウレタン樹脂分散体(B)の製造>
ETERNACOLL(登録商標) UM90(1/3)(宇部興産製;数平均分子量873;水酸基価128.5mgKOH/g;1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,6-ヘキサンジオール(モル比で1:3)と炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、350g)と、2,2-ジメチロールプロピオン酸(52.2g)と、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(341g)とを、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMM、262g)中、窒素雰囲気下で、80~95℃で5時間加熱した。反応混合物を80℃まで冷却し、これにトリエチルアミン(39.3g)を添加・混合したもののうち、416gを、強撹拌のもと水(578g)の中に加えた。ついで、35質量%の2-メチル-1,5-ペンタンジアミン水溶液(34.3g)と35質量%のジエチレントリアミン水溶液(16.7g)を加えて、水性ポリウレタン樹脂分散体(B)を得た。
【0090】
[合成例3]
<水性ポリウレタン樹脂分散体(C)の製造>
ETERNACOLL(登録商標) UM90(3/1)(宇部興産製;数平均分子量869;水酸基価129.1mgKOH/g;1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,6-ヘキサンジオール(モル比で3:1)と炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、180g)と、2,2-ジメチロールプロピオン酸(26.9g)と、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(178g)とを、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMM、131g)中、窒素雰囲気下で、80~95℃で5時間加熱した。反応混合物を80℃まで冷却し、これにトリエチルアミン(20.2g)を添加・混合したもののうち、398gを、強撹拌のもと水(562g)の中に加えた。ついで、35質量%の2-メチル-1,5-ペンタンジアミン水溶液(61.1g)を加えて、水性ポリウレタン樹脂分散体(C)を得た。
【0091】
[合成例4]
<水性ポリウレタン樹脂分散体(D)の製造>
ETERNACOLL(登録商標) UM90(1/3)(宇部興産製;数平均分子量873;水酸基価128.5mgKOH/g;1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,6-ヘキサンジオール(モル比で1:3)と炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、180g)と、2,2-ジメチロールプロピオン酸(26.8g)と、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(177g)とを、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMM、136g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80~95℃で5時間加熱した。反応混合物を80℃まで冷却し、これにトリエチルアミン(20.2g)を添加・混合したもののうち、429gを、強撹拌のもと水(596g)の中に加えた。ついで、35質量%の2-メチル-1,5-ペンタンジアミン水溶液(65.8g)を加えて、水性ポリウレタン樹脂分散体(D)を得た。
【0092】
[合成例5]
<水性ポリウレタン樹脂分散体(E)の製造>
ETERNACOLL(登録商標) UH-200(宇部興産製;数平均分子量2011;水酸基価55.8mgKOH/g;1,6-ヘキサンジオールと炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、301g)と、2,2-ジメチロールプロピオン酸(16.5g)と、イソホロンジイソシアネート(92.0g)とを、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMM、135g)中、窒素雰囲気下で、80~95℃で5時間加熱した。反応混合物を80℃まで冷却し、これにトリエチルアミン(12.4g)を添加・混合したもののうち、495gを、強撹拌のもと水(745g)の中に加えた。ついで、35質量%の2-メチル-1,5-ペンタンジアミン水溶液(29.4g)を加えて、水性ポリウレタン樹脂分散体(E)を得た。合成例1~5の水性ポリウレタン樹脂分散体(A)~(E)の各種物性を、表1に示す。
【0093】
[実施例1]
<耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物(1)の製造>
水性ポリウレタン樹脂分散体(A)(200g)に水(68g)を加えて混合した後、ニカゾール(登録商標)FX-2018(日本カーバイド工業製;オキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン;以下アクリルエマルジョン(X)と記す、132g)を室温下で混合して、耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物(1)を得た。得られた組成物について、前記物性値の測定を行った。結果を表2に示す。
【0094】
[実施例2]
<耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物(2)の製造>
水性ポリウレタン樹脂分散体(B)(200g)に水(68g)を加えて混合した後、アクリルエマルジョン(X)(132g)を室温下で混合して、耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物(2)を得た。得られた組成物について、前記物性値の測定を行った。結果を表2に示す。
【0095】
[実施例3]
<耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物(3)の製造>
水性ポリウレタン樹脂分散体(A)(200g)に、ニカゾール(登録商標)RX-7022E(日本カーバイド工業製;オキサゾリン架橋系アクリルエマルジョン;以下アクリルエマルジョン(Y)と記す、300g)を室温下で混合して、耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物(3)を得た。得られた組成物について、前記物性値の測定を行った。結果を表2に示す。
【0096】
[実施例4]
<耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物(4)の製造>
水性ポリウレタン樹脂分散体(C)(200g)に、アクリルエマルジョン(Y)(300g)を室温下で混合して、耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物(4)を得た。得られた組成物について、前記物性値の測定を行った。結果を表2に示す。
【0097】
[実施例5]
<耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物(5)の製造>
水性ポリウレタン樹脂分散体(D)(200g)に、アクリルエマルジョン(Y)(300g)を室温下で混合して、耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物(5)を得た。得られた組成物について、前記物性値の測定を行った。結果を表2に示す。
【0098】
[実施例6]
<耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物(6)の製造>
水性ポリウレタン樹脂分散体(E)(200g)に、アクリルエマルジョン(Y)(300g)を室温下で混合して、耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物(6)を得た。得られた組成物について、前記物性値の測定を行った。結果を表2に示す。
【0099】
[比較例1~7]
合成例1~5で得られた水性ポリウレタン樹脂分散体(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)について、前記物性値の測定を行った。また、アクリルエマルジョン(X)及び(Y)について前記物性値の測定を行った。結果を表2に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
表2の実施例1~6に示されるように、本発明の耐破壊特性材料用組成物を、塗布・加熱処理して得られる塗膜は、ABS基材への高い密着性を有すると共に、高い破断エネルギーを有する。また、水性ポリウレタン樹脂分散体とオキサゾリン架橋型アクリルエマルジョンの組み合わせによって、弾性率の制御が可能である。
一方、本発明者らにより以前に開示した、ウレタン結合、ウレア結合、カーボネート結合を有し、かつブロック化されたイソシアナト基を特定量で有する水性ポリウレタン樹脂分散体は、80℃の乾燥でできる塗膜の基材への密着性が低い(比較例1参照;特許文献5に該当)。
脂環構造を多く含む水性ポリウレタン樹脂分散体は、80℃の乾燥において、塗膜に亀裂が生じやすく、破断エネルギーの高い塗膜を作成することが困難である(比較例3及び比較例4)。
水性ポリウレタン樹脂分散体、オキサゾリン架橋型アクリルエマルジョンをそれぞれ単独で用いると、基材への密着性が低いが、両者を混合することで、基材への高い密着性を発現できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の耐破壊特性材料用の水性アクリル・ウレタン組成物は、100℃以下の低温で乾燥した塗膜の基材への密着性が優れており、破断エネルギーの高い塗膜が得られることから、フロアコート、プラスチック基材又はゴムへのコート、鋼板処理剤、車両のプライマー層などの低温乾燥化による地球温暖化ガス排出抑制への貢献に期待される。