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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】免疫測定用デバイス
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20240514BHJP
【FI】
G01N33/543 521
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020066622
(22)【出願日】2020-04-02
(65)【公開番号】P2021162524
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 俊人
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-148048(JP,A)
【文献】国際公開第2004/097415(WO,A1)
【文献】特開昭62-194458(JP,A)
【文献】特表平09-504864(JP,A)
【文献】特開2010-078346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
G01N 1/00- 1/44
B01L 1/00- 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を有する複数の筒状部を有する枠体と、
一方の面に複数の微細孔が非貫通状態で設けられ、前記枠体に接合された底部フィルムと、
を備え、
前記底部フィルムは、前記筒状部の一方の開口を塞いでおり、
前記複数の微細孔の少なくとも一部が前記筒状部内に位置している、
免疫測定用デバイス。
【請求項2】
前記枠体は、前記開口の周囲にフランジを有し、
前記底部フィルムが前記フランジに接合されている、
請求項1に記載の免疫測定用デバイス。
【請求項3】
前記微細孔は、側面及び底面を有し、
前記微細孔の径方向寸法は、底面に向かって徐々に減少しており、
前記側面と前記底面とは、前記微細孔の断面形状において角部を形成するように接続しており、
前記側面と前記底部フィルムの前記一方の面とは、角部を有さない曲線状に接続している、
請求項1に記載の免疫測定用デバイス。
【請求項4】
前記枠体は、嵌合部と、前記嵌合部と嵌合可能な被嵌合部とを有し、複数連結可能に構成されている、
請求項1に記載の免疫測定用デバイス。
【請求項5】
前記底部フィルムがシクロオレフィンポリマーを主成分として形成されている、
請求項1に記載の免疫測定用デバイス。
【請求項6】
前記枠体は遮光性を有し、
前記底部フィルムは透明性を有する、
請求項1に記載の免疫測定用デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の抗原抗体反応を利用して各種生体分子やガン細胞などの検査を行う免疫系の分析等において使用される免疫測定用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
抗原は、病原性のウイルスや細菌、花粉、卵及び小麦などの生体に免疫応答を引き起こす物質である。抗体は、体内に入った抗原を体外へ排除するために作られる免疫グロブリンというタンパク質の総称である。例えば、ワクチンは、無毒化した病原性細菌やウイルスを投与することで、体内で病原体に対する抗体の産生を促し、感染症に対する免疫を獲得する。
【0003】
病原菌やガン細胞の検出、DNAの遺伝子解析又は環境有害物質等の測定などの、いわゆる生体計測の分野において、免疫反応を用いて測定すべき生体物質(例えば抗原)と、これと選択的に結合する検査用物質(例えば抗体)との結合を測定することで、前記抗原等の種類と量との計測がなされている。
【0004】
公知の免疫系の検査法としては、測定すべき検体が含む抗原を捕捉する抗体を直接又は間接的に蛍光色素、アイソトープその他の標識化物質(以下、マーカーと記す)で標識化し、捕捉後(抗原抗体反応後)のマーカーからの蛍光量や放射線量を計測し、診断に供する方法が一般的に採用されている。
【0005】
抗原等の測定に用いるマーカーとしては、厳密な管理を要求されるラジオアイソトープよりも、使い勝手の良い蛍光マーカー等が一般的に使用されている。蛍光マーカー等を用いる光学的手法では、蛍光マーカーが付加された抗体を抗原に結合させて、そのマーカーからの発光を測定することで抗原の測定及び分析を行なう。その代表的な方法として、エンザイムイムノアッセイ(例えば、Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay,ELISA)法では、抗原と結合した抗体に付加した蛍光マーカーが試薬中の酵素と反応することで生じる蛍光を利用する。
【0006】
生体分子の観察を容易にし、測定対象の生体分子を識別するために、個々の生体分子には蛍光マーカーとともに、金コロイド又は微小粒子等が付加される。微小粒子としては、例えばポリスチレンビーズが使用される。生体分子に蛍光マーカーや微粒子を付加することで、光学顕微鏡の分解能では見ることが難しい大きさの分子を可視化することができる。以下、蛍光マーカーと微粒子を合わせて蛍光ビーズ又は単にビーズと記す。
【0007】
上記のような、免疫測定に抗原抗体反応を利用する分析では、測定すべき検体を含む血液などの液体(以下、血液で代表する)、蛍光標識となる蛍光ビーズ、発光(発色)反応を促進する試薬などを入れるために、試験管タイプの容器が用いられている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0008】
図17は、前記免疫測定用カップ50に複数の蛍光ビーズ62を滴下する様態を示す模式断面図である。
【0009】
従来の免疫測定用カップ50を用いても、ガン細胞など細胞のレベルでの検出や大型のタンパク質など分子量の大きいもの(例えば分子量が60kDa以上)は検出できる。一方で、図17から推測できるように、滴下用治具先端部61から従来の免疫測定用カップ50に複数の蛍光ビーズ62を滴下すると、蛍光ビーズ62の配列が不均一となる。そのため、蛍光ビーズ62が血液と試薬の混ざった液体中で分散するため蛍光が散乱して減光してしまう。よって、小さい分子量のタンパク質、例えば5~60kDa程度であるサイトカインなどを正確に測定し分析することは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第4095176号公報
【文献】特許第4522434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、従来の免疫測定用カップには改善の余地がある。上述した内容以外にも、使用者の観点からは、効率よく測定を行いたいという要望があり、製造者の観点からは、効率よく製造したいという要望が存在している。
これらの要望に応えた免疫測定用デバイスの登場が望まれている。
【0012】
上記事情に鑑み、本発明は、サイトカインなど小さな分子量のタンパク質などをばらつきがなく高い精度で測定し分析することができ、測定効率や製造効率に優れた免疫測定用デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、内部空間を有する複数の筒状部を有する枠体と、一方の面に複数の微細孔が非貫通状態で設けられ、枠体に接合された底部フィルムとを備える免疫測定用デバイスである。
底部フィルムは、筒状部の一方の開口を塞いでおり、複数の微細孔の少なくとも一部が筒状部内に位置している。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、サイトカインなど小さな分子量のタンパク質などをばらつきがなく高い精度で測定し分析することができ、測定効率や製造効率に優れた免疫測定用デバイスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る免疫測定用デバイスの正面図である。
図2】同免疫測定用デバイスの平面図である。
図3図2のI-I線における断面図である。
図4】同免疫測定用デバイスに係る底部フィルムの拡大断面図である。
図5】同免疫測定用デバイスに係るマスターの製造における一過程を示す図である。
図6】同マスターの製造における一過程を示す図である。
図7】同マスターの製造における一過程を示す図である。
図8】製造されたマスターの走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
図9】同底部フィルムの製造における一過程を示す図である。
図10】同底部フィルムの製造における一過程を示す図である。
図11】同底部フィルムの製造における一過程を示す図である。
図12】同底部フィルムの製造における一過程を示す図である。
図13】製造された底部フィルム上面のSEM写真である。
図14】製造された底部フィルム断面のSEM写真である。
図15】本発明の変形例に係る枠体を下方から見た斜視図である。
図16】同枠体が連結された状態を示す図である。
図17】従来の免疫測定用カップに複数の蛍光ビーズを滴下する様態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について、図1から図14を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る免疫測定用デバイス1の正面図である。図2は、免疫測定用デバイス1の平面図である。
免疫測定用デバイス1は、枠体10と、枠体10に接合された底部フィルム30とを備えている。
【0017】
枠体10は、柱状の内部空間を有する複数の筒状部11が径方向に複数並んで一体となった形状を有する。本実施形態では、一般的な96穴マイクロプレート用の観察環境に対応させやすくする観点で、8つの筒状部11が一体となった8穴の形状としているが、筒状部11の数は、適宜設定できる。
【0018】
図3は、図2のI-I線における断面図である。本実施形態において、筒状部11の内部空間は略円柱状である。内部空間の径は、下部から上部に向かってわずかに拡大するテーパー状となっている。さらに、図3では寸法の関係で明確に示されていないが、筒状部11の内周面11aと枠体10の上面10aとは、滑らかな曲面状に接続されており、明確な稜線を有さない。これらにより、枠体10は、筒状部11の上部開口から検体やビーズ等を投入しやすい形状となっている。内部空間の形状は円柱状に限られず、多角柱状であってもよい。
【0019】
枠体10の外側面13(図1参照)は、円筒状の筒状部11の外周面に倣った凹凸を有しており、把持しやすくなっている。側面の凹凸形状は、必ずしも筒状部11の外周面に倣った形状でなくてもよく、把持しやすさ等を考慮して適宜設定されてよい。
外側面13の下端部には、枠体10の平面視における全周に突出するフランジ12が形成されている。これにより、枠体10幅方向および長手方向の寸法は、いずれもフランジ12が設けられた下端部において最大となっている。
【0020】
枠体10は、後述する検体の蛍光観察時に外光を遮断できるよう、遮光性を有する。このような遮光性材料は、ベースとなる合成樹脂(ベース樹脂)に有色顔料を混合することにより得られる。合成樹脂としては、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン(PS)等を例示でき、コストと成形性の観点からは、PSが好適である。有色顔料としては、カーボンブラック等を例示できる。枠体10は、例えばベース樹脂に有色顔料を含むマスターバッチ剤を3~5%程度混合し、均一に混ざった状態で射出成型することにより形成できる。
【0021】
以下に、枠体10の各部の寸法の一例を示すが、本実施形態に係る枠体は、記載された寸法には限定されない。
枠体10の高さh1:9.0mm~13.0mm。
フランジ12の幅寸法w1:8.0mm~9.5mmが好ましく、8.8mmが最も好ましい。
フランジ12の長手寸法l1:75.0mm~76.0mmが好ましく、75.4mmが最も好ましい。
フランジ12の厚み:0.8mm~1.2mm。
筒状部11の内部空間の径方向最大寸法D1:6.0mm~7.0mmが好ましく、6.3mmが最も好ましい。テーパー状に縮径する最下端部における径方向最大寸法は、上部より0.05mm程度小さいことが好ましい。
筒状部11の内部空間の平面視における面積:上部における最大値は、20~40mm。下端部における最小値は、10~30mm
【0022】
底部フィルム30は、合成樹脂で形成されており、一方の面(上面)30aに多数の微細孔からなる微細孔パターンが形成されている。底部フィルム30を形成する合成樹脂は、後述する観察を好適に行えるよう、透明な樹脂であり、後述する製造方法に応じて、シクロオレフィンポリマー(COP)や電子線硬化型樹脂等を使用できる。
【0023】
図4は、底部フィルム30における微細孔31の模式断面図である。微細孔31の平面視形状は、円形でも多角形でもよいが、その径方向(平面視において中心を通る任意の方向)における最小寸法(平面視形状が円形の場合は直径)は使用されるビーズの最大径の1.1倍~1.9倍であることが好ましく、1.2~1.8倍であることがより好ましく、1.3~1.7倍であることがさらに好ましい。微細孔31の径方向最小寸法がビーズの最大径の1.1倍~1.9倍であると、1つの微細孔31にビーズが1個しか入らず、2個入ることはない。
例えば、ビーズの最大径が3μmである場合、微細孔31の径方向最小寸法は、3.3μm~5.7μmであることが好ましく、3.6μm~5.4μmであることがより好ましく、3.9μm~5.1μmであることが更に好ましい。
【0024】
微細孔31は、開口部の径方向寸法R1より底面の径方向寸法R2の方が小さいテーパー形状を有する。寸法R1はビーズの最大径の1.1倍~1.5倍であることが好ましく、1.2~1.4倍であることがより好ましい。寸法R2は、ビーズの最大径の1.6倍~1.9倍であることが好ましく、1.7~1.8倍であることがより好ましい。
微細孔31の深さD1は、ビーズの最大径の1.1倍~1.5倍であることが好ましく、1.1倍~1.3倍であることがより好ましい。これにより、1つの微細孔31にビーズが1つだけ収まりやすい。
【0025】
微細孔31の底面31aと側面31bとは、断面形状において、角部32を形成している。すなわち、側面31bは、底面31aに対して角部32を形成するように立ち上がっている。一方、側面31bと底部フィルム30の上面30aとは、明確な角部を形成しないように、滑らかな曲線状に接続されている。側面31bと上面30aとの接続態様は、公知のスプライン曲線に基づいて設定されてもよい。
上記のように形成された微細孔31は、ビーズが進入しやすく、かつ進入したビーズが外に出にくい構造となっている。
【0026】
底部フィルム30の平面視における微細孔31の配列パターンに特に制限はないが、規則的な配列とすると、製造および微細項数の設定を簡便に行える。規則的配列として、隣り合う微細孔31の中心同士を結ぶ三角形を正三角形とする最密充填配置を例示できる。
筒状部11一つあたりの微細孔31の数は、例えば18万個~27万個であり、20万個~25万個であることがより好ましい。
【0027】
底部フィルム30の製造手順について説明する。底部フィルム30は、微細孔に対応するパターン(マスターパターン)が形成されたマスター(原版)を使用して製造できる。
まず、図5に示すように、シリコンウェハ100上にレジスト層101を形成する。次に、レジスト層101に対しEB(電子線)描画を行い、図6に示すように、レジスト層101にフォトリソグラフィによりマスターパターンMpを形成する。
【0028】
さらに、レジスト層101を覆うように導電層(シード層)102を形成した後、図7に示すように、ニッケル103を用いた電鋳を行う。電鋳後にニッケル103を剥離すると、ニッケルからなるマスター104が完成する。
図8に、ニッケル製のマスター104の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。微細孔31を形成するための微小凸部104aが規則的に配列されて形成されていることがわかる。
ニッケル製のマスターの硬度はHV(ビッカース硬さ)400~500程度であり、底部フィルム30の製造においても高寿命を実現できる。マスターの表面に窒化チタン(TiN)等の表面処理を行うと、さらに寿命を延ばしたり、底部フィルムの製造時における剥離を容易にしたりできる。
【0029】
マスターの製造においては、図6に示す状態からドライエッチングを行うことにより、シリコンウェハ100にマスターパターンMpを形成して電鋳を行ってもよい。このようにすると、形成される微細孔の形状および寸法の精度を高めることができる。
大型のマスターを作製する等の場合、シリコンウェハ100に代えて、クロム膜が形成された石英ガラス基板が用いられてもよい。
【0030】
次に、製造されたマスターを用いて底部フィルム30を作製する。底部フィルム30は、マスターを用いたインプリント技術により作製できる。
【0031】
まず、図9に示すように、底部フィルムとなる合成樹脂製の基材110を準備する。次に、図10に示すようにマスター104のマスターパターンMpが形成された側の面を基材110に接触させ、熱および圧力をかけると、マスターパターンMpの形状が基材110に転写される。
これにより、ホットエンボス法により底部フィルム30を製造できる。ホットエンボス法における基材110としては、上述したCOPや、自家蛍光の少ない汎用ポリスチレン(GP-PS)などが好適である。
【0032】
底部フィルム30は、他の方法によっても製造できる。図11に示す基材111は、合成樹脂製のシート111a上に、未硬化の紫外線硬化樹脂からなる転写層111bを有する。
シート111aとしては、各種樹脂製のものが使用できるが、透明性が高く、自家蛍光が少ないものが好ましい。転写層111bを形成する樹脂は、例えばPMMA等のアクリル系樹脂が好ましい。
【0033】
図12に示すように、基材111の転写層111bにマスター104のマスターパターンMpが形成された側の面を接触させた状態で、転写層111bに対応する波長の紫外線UVを照射する。これにより、転写層111bは、マスターパターンMpの形状が転写された状態で硬化する。紫外線UVの照射は、原則として基材111側から行うが、マスター104が材質等により透明である場合は、マスター104側から行ってもよい。
転写層111bの硬化後に基材111をマスター104から剥離すると、基材111を用いたUVインプリントにより底部フィルム30が完成する。
【0034】
図13および図14に、図7に示したマスターを使用してホットエンボス法により作製した底部フィルム30の上面及び断面のSEM写真を示す。基材110として、厚さ188μmのCOPフィルム(日本ゼオン社製 ZF14-188)を使用した。底部フィルム30の上面30aに、微細孔31が精度良く形成されていることがわかる。この作製例において、微細孔の寸法は、R1:5.4μm、R2:5.04μm、D1:3.56μmである。
【0035】
底部フィルム30の上面30aを、フランジ12を含む枠体10の下面に接触させて枠体10と底部フィルム30とを接合すると、免疫測定用デバイス1を形成できる。接合方法に特に制限はなく、枠体10および底部フィルム30の材質等に応じて、接着剤による接合、熱融着、超音波溶着等を適宜選択できる。
底部フィルム30が枠体10に接合されると、筒状部11の下側の開口が底部フィルム30によって塞がれ、上面30aに形成された微細孔31の一部が筒状部11内に配置される。これにより、免疫測定用デバイス1は、筒状部11内に検査対象の液体を貯留し、ビーズおよび液体を微細孔31内に配置できる容器となる。
【0036】
完成した免疫測定用デバイス1は、ビーズを用いた蛍光観察に好適に使用できる。このような蛍光観察の手順は公知であるが、以下に簡潔に説明する。
ビーズは、測定すべき検体を付着させるための微粒子である。具体的なビーズとして、金コロイド及びポリスチレンビーズ等を例示できる。ビーズはその表面に、測定すべき検体に含まれる測定対象物質(つまり検出対象物質)を補足するための抗体(補足抗体)を吸着することができる。
【0037】
測定すべき検体として、がん細胞などの細胞又は血液等が挙げられる。測定すべき検体に含まれる測定対象物質として、分子量が60kDa以上の分子量の大きいタンパク質及び分子量が5~60kDa程度の分子量の小さいタンパク質(つまりサイトカイン)等が挙げられる。免疫測定用デバイス1を用いると、特に5~60kDa程度の分子量の小さいタンパク質であっても高感度に検出が可能である。
【0038】
試薬は、一般的に免疫測定法で用いられる試薬であり、例えばELISAの場合、測定対象物質と特異的に結合する抗体(一次抗体)、一次抗体と特異的に反応する酵素標識済み抗体(二次抗体)及び前記酵素の基質等を例示できる。一次抗体に酵素が標識されている場合は、二次抗体を必要としない場合がある。本実施形態では、酵素の基質は、蛍光試薬であることが好ましい。
【0039】
蛍光観察を行う際は、まず、ビーズを免疫測定用デバイス1の筒状部11内に投入してビーズを微細孔31内に配置する。ビーズは、予め補足抗体を吸着させておいてもよいし、ビーズを微細孔31に配置した後、補足抗体を吸着させてもよい。その後所望の検体及び試薬を筒状部11に注入する。
【0040】
検体及び試薬の注入後に、微細孔31に入らず、余分となったビーズを、余分の検体及び試薬とともに除去する。除去方法としては、封止剤を流し込み、免疫測定用デバイス1を傾けて行う方法が好ましい。すなわち、免疫測定用デバイス1に封止剤を流入し傾けると、上述した形状の微細孔31内のビーズは容易に微細孔31から脱出しないが、微細孔31外に位置するビーズは、免疫測定用デバイス1を傾けることによって余分の検体及び試薬は除去される。
封止剤としては、フッ素系オイルとシリコーン系オイルとのいずれか一方、又はその混合物等が好ましい。
【0041】
この処理が終わると、微細孔31内のビーズ、検体、及び試薬は、封止剤により微細孔31内に閉じ込められ、各微細孔31内が独立した反応空間となる。このため、免疫測定用デバイス1では、従来の免疫測定用カップを用いる場合と比較して、検体及び試薬の量が少なくて済む。つまり、免疫測定用デバイス1を用いると、検体及び試料の量は少ないにもかかわらず、検体と試薬が反応することにより生じる蛍光の強度は強い。
さらに、各微細孔31内で検体と試薬が反応することにより生じる蛍光は、他の微細孔内のビーズの干渉を受けない。また、微細孔31内に2以上のビーズが存在することはほぼないため、微細孔31ごとの蛍光強度が均一となり、ばらつきが生じにくい。
【0042】
微細孔31から出射する蛍光を、免疫測定用デバイス1の下方から、測定システムを用いて測定することができる。測定システムとしては、例えば倒立型の光学顕微鏡や蛍光顕微鏡を備えた公知のシステムを用いることができる。
免疫測定用デバイス1を用いると、検体と試薬が反応することにより生じる蛍光の強度に基づいて、観察の目的となる生体分子の数を特定することもできる。通常、光学顕微鏡の分解能は数百nmという可視光の波長程度である。免疫測定用デバイス1を用いた免疫測定方法においては、測定対象物である生体分子は蛍光色素を使って標識されており、免疫測定用デバイス1を用いることで、蛍光検出感度を向上することが可能である。そのため、測定対象物がサイトカインのような低分子の物質であっても観察可能となる。
【0043】
測定システムは、デジタル顕微鏡やデジタルカメラ等のデジタル観察装置と、演算装置とを備えた通信機器を用いて蛍光を測定及び分析するシステムでもよい。
蛍光の光路には、必要に応じて波長選択用のフィルタを挿入してもよい。
これらにより、生体分子の機能や活性状態に係る情報を得ることも可能である。
【0044】
以上説明したように、本実施形態に係る免疫測定用デバイス1は、ビーズを用いた免疫測定に好適に用いることができる。
免疫測定用デバイス1は、別途作製した枠体10と底部フィルム30とを一体に接合して形成されるため、底部フィルム30のみをあらかじめ大量に製造し、ロール状に巻き取って保管しておくこと等も可能である。したがって、枠体と微細孔を有する底部とを射出成型等で一体的に作製するのに比べて製造効率を著しく向上させることができる。
【0045】
また、枠体10の形状のみ変更したり、形状や寸法、配列等の微細孔31の態様のみ変更したりすることも容易である。その結果、形状の細かい変更や、仕様の異なるラインナップの充実等も、金型を過度に増やさずに極めて容易に行える。
【0046】
さらに、枠体10はフランジ12を有するため、フランジにより底部フィルム30との接合面積が増加され、底部フィルム30と確実かつ簡便に接合することができる。フランジ12は、枠体10を成型した後の冷却に伴って生じる残留歪みによるゆがみ等を緩和する効果も有しており、製造後の形状不良等を減少させることができる。
【0047】
本実施形態において、底部フィルム30上の微細孔パターンは、上面30a全面に設けられてもよいし、接合される筒状部11の内部空間に合わせて部分的に設けられてもよい。ただし、全面に形成すると、底部フィルム30と枠体10とを接合する際に位置合わせ等が必要なく、単に両者を接合するだけで所望の数の微細孔を確実に筒状部11の内部空間の底面に形成することができる。その結果、製造効率の向上に寄与できる。
【0048】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせなども含まれる。以下にいくつか変更を例示するが、これらはすべてではなく、それ以外の変更も可能である。これらの変更が2以上適宜組み合わされてもよい。
【0049】
・本発明の免疫測定用デバイスにおいて、フランジ12は上述の利点を有するものの、必須ではない。
・フランジ12に加えて、他のフランジ(第二フランジ)が枠体に設けられてもよい。これにより、枠体のゆがみや変形をさらに抑制できる。さらに、第二フランジの位置や形状、寸法等を適切に設定することにより、ロボット等の自動ハンドリング装置を用いた場合の取り扱い性を向上させたり、測定システムにおけるアダプタに収容する際のストッパーとさせたりできる。ストッパーにより、測定箇所である微細孔31と測定システムにおける測定装置との距離を最適化することができる。
【0050】
図15に示すよう変形例の枠体10Aのように、枠体に嵌合部41及び被嵌合部42を設けてもよい。これにより、図16に示すように、枠体10Aを用いた免疫測定用デバイスを複数連結することができるため、汎用の96穴プレートと同様に扱うことも可能となる。
嵌合部および被嵌合部の形状は、図15に示されたものに限られず、適宜設定できる。例えば、嵌合部41を下方に縮径する円錐台状または円錐状とし、被嵌合部42を嵌合部41の形状に合わせたテーパー状の穴等にすると、嵌合部41が進入した被嵌合部42を有する枠体10A(図16における下側)のみを把持して持ち上げるだけで、連結された複数の枠体や免疫測定用デバイスを持ち上げることができる。
枠体において嵌合部及び被嵌合部を設ける位置は、図15に示したフランジ12に限られず、外側面13等の他の箇所でもよい。また、図15および図16では、複数の枠体10Aが幅方向に並んだ状態で連結されているが、長手方向に連結できるように構成してもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 免疫測定用デバイス
10、10A 枠体
11 筒状部
12 フランジ
30 底部フィルム
30a 上面(一方の面)
31 微細孔
31a 底面
31b 側面
32 角部
図1
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