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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】船舶推進装置用動力源の冷却装置
(51)【国際特許分類】
   B63H 20/28 20060101AFI20240514BHJP
   B63B 13/00 20060101ALI20240514BHJP
   B63H 21/38 20060101ALI20240514BHJP
   F01P 3/20 20060101ALI20240514BHJP
   F01P 11/06 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
B63H20/28 100
B63B13/00 A
B63H21/38 A
F01P3/20 Z
F01P11/06 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020093933
(22)【出願日】2020-05-29
(65)【公開番号】P2021187279
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100132067
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 喜雅
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 潤
(72)【発明者】
【氏名】松本 心吾
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-096107(JP,A)
【文献】特開平08-210133(JP,A)
【文献】特開昭61-222516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 20/28
B63B 13/00
B63H 21/38
F01P 3/20
F01P 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中から汲み上げた水を冷却水路に供給して動力源を冷却し、冷却後の冷却水を前記冷却水路から外部に排出する冷却水経路を備え、
前記冷却水経路を流れる冷却水は、前記冷却水経路を目詰まりさせる大きさの異物が除去されている船舶推進装置用動力源の冷却装置であって、
前記冷却水経路中に、冷却水中に残留している異物を濾過する濾過装置を備え、
前記濾過装置を、メイン水路に配置した濾過用のフィルタと、バイパス水路を開閉させる弁部材とを内蔵し、前記フィルタに目詰まりが発生した場合に前記弁部材が開いて前記バイパス水路を経由して冷却水を流すカートリッジ式とし
前記濾過装置が、船舶の外部の水中に存在する環境汚染物質を捕集するように構成されていることを特徴とする船舶推進装置用動力源の冷却装置。
【請求項2】
水中から汲み上げた水を冷却水路に供給して動力源を冷却し、冷却後の冷却水を前記冷却水路から外部に排出する冷却水経路を備え、
前記冷却水経路を流れる冷却水は、前記冷却水経路を目詰まりさせる大きさの異物が除去されている船舶推進装置用動力源の冷却装置であって、
前記冷却水経路中に、冷却水中に残留している異物を濾過する濾過装置を備え、
前記濾過装置を、メイン水路に配置した濾過用のフィルタと、バイパス水路を開閉させる弁部材とを内蔵し、前記フィルタに目詰まりが発生した場合に前記弁部材が開いて前記バイパス水路を経由して冷却水を流すカートリッジ式とし、
前記メイン水路と前記バイパス水路の両方の上流側に亘って位置している流入空間を備え、
前記メイン水路と前記流入空間は常時連通しており、
前記弁部材は、前記流入空間と前記バイパス水路との間を仕切り、前記流入空間側に所定以上の圧力が加わると開いて前記流入空間から前記バイパス水路へ冷却水の進行を可能にするプレッシャーバルブであることを特徴とする船舶推進装置用動力源の冷却装置。
【請求項3】
前記濾過装置を冷却水の流れる方向に延びる柱状とし、前記メイン水路及び前記バイパス水路を有するボディ部と、前記ボディ部に着脱可能な蓋部と、を備えた分割構造としたことを特徴とする請求項1又は2に記載の船舶推進装置用動力源の冷却装置。
【請求項4】
前記弁部材を前記ボディ部の前記バイパス水路の上流側端部に配置し、前記蓋部により押さえて前記弁部材が固定されることを特徴とする請求項に記載の船舶推進装置用動力源の冷却装置。
【請求項5】
前記ボディ部と前記蓋部は、弾性体からなる締結部材又はボルトによって固定されることを特徴とする請求項又はに記載の船舶推進装置用動力源の冷却装置。
【請求項6】
船舶推進装置を船外機とし、前記濾過装置は、前記船外機の平面視状態で、後方側の幅が狭く前方側の幅が広い略三角形状であることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の船舶推進装置用動力源の冷却装置。
【請求項7】
船舶推進装置を、前記動力源が内燃機関である船外機とし、前記内燃機関の排気管路に触媒を備え、
前記触媒と前記濾過装置を前後方向に並べて配置したことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の船舶推進装置用動力源の冷却装置。
【請求項8】
前記フィルタに目詰まりが発生した場合に、報知手段で表示又は音による報知を行うことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の船舶推進装置用動力源の冷却装置。
【請求項9】
前記濾過装置は、目視可能な最小の大きさの残留異物を前記フィルタによって捕捉可能な濾過機能を有することを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の船舶推進装置用動力源の冷却装置。
【請求項10】
前記濾過装置は、前記冷却水経路のうち、前記冷却水路から排水口までの排水側水路の途中に設けられることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の船舶推進装置用動力源の冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶推進装置用動力源の冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、海、湖、河川等の水域でゴミによる汚染が重大な環境問題になっており、ゴミの回収対策が求められている。一般的に、ゴミは大きさが小さいほど回収が難しい。特に、微小な(例えば、大きさが5mm以下の)マイクロプラスチック等は、捕捉し難く水棲生物への影響や環境への負荷が大きいため、積極的に回収することが望まれている。
【0003】
船舶推進装置の動力源であるエンジンや電動モータを冷却する水冷式の冷却装置では、水中から汲み上げた水を冷却水路に取り込んで冷却水として利用し、動力源の発熱部分を冷却した後の冷却水を外部に排水している。しかしながら、既存の冷却装置は、一度汲み上げた冷却水をそのまま外部に戻すだけであり、汲み上げた後の冷却水に対する浄化の観点(環境対策)が見落とされていた。
【0004】
船舶推進装置用動力源の冷却装置では、外部から冷却水を取り入れる取入口又はその付近に、ゴミ除去手段として多孔状のストレーナ等が設けられており(例えば、特許文献1)、ペットボトルの蓋のような大きなゴミは、ストレーナによって冷却水路への進入が遮られる。しかしながら、ストレーナのメッシュの大きさを下回る微細な異物(例えば、1mm~2mm程度のもの)は、ストレーナによっては除去されずに冷却水路内にそのまま吸い込まれる可能性が高くなる。従って、回収が難しいマイクロプラスチック等を捕捉することなく、浄化の機会を逸していた。
【0005】
また、特許文献2のように、冷却水路中にフィルタを設けた例があるが、このフィルタは、小石や藻等の比較的大きな異物の除去を目的としており、機能としては特許文献1のストレーナと同様のものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭61-184198号公報
【文献】特開2003-63497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、従来の船舶推進装置用動力源の冷却装置は、外部から取り入れた冷却水に対して積極的に環境対策を行うという着眼が無かった。例えば、特許文献1のように取入口にストレーナを設ける構成では、ストレーナのメッシュを細かくして微細な物体の通過を規制するとしても、ストレーナを通過した微細な物体は、回収されずに再び水中に戻ってしまう。
【0008】
また、仮に外部から取り入れた冷却水中の環境汚染物質を捕捉して取り除くとしても、船舶推進襲置の動力性能が犠牲になったり、高価で複雑な装置を付加したりすることは、船舶推進装置の商品価値の低下につながり、現実的な対策とは言えない。
【0009】
例えば、特許文献2のような冷却装置で冷却水路中に内装したフィルタが目詰まりすると、冷却水の流れが滞って冷却性能が悪化し、動力源の出力低下やオーバーヒートが発生してしまう。また、冷却水路中に単にフィルタを組み込むだけでは、フィルタが目詰まりした際に、冷却装置の大掛かりな分解整備が必要になるおそれがある。
【0010】
船舶推進装置が船外機である場合、冷却水から環境汚染物質を回収するための装置を付加して船外機が大型化すると、複数の船外機を並列配置する多数機掛けが制約されるという問題もある。
【0011】
本発明は係る点に鑑みてなされたものであり、動力性能を犠牲にせずに簡単な構成で、水中に存在するマイクロプラスチック等の環境汚染物質を回収して効率的に除去することができる船舶推進装置用動力源の冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、水中から汲み上げた水を冷却水路に供給して動力源を冷却し、冷却後の冷却水を前記冷却水路から外部に排出する冷却水経路を備え、前記冷却水経路を流れる冷却水は、前記冷却水経路を目詰まりさせる大きさの異物が除去されている船舶推進装置用動力源の冷却装置であって、前記冷却水経路中に、冷却水中に残留している異物を濾過する濾過装置を備え、前記濾過装置を、メイン水路に配置した濾過用のフィルタと、バイパス水路を開閉させる弁部材とを内蔵し、前記フィルタに目詰まりが発生した場合に前記弁部材が開いて前記バイパス水路を経由して冷却水を流すカートリッジ式としている
本発明の一態様は、前記濾過装置が、船舶の外部の水中に存在する環境汚染物質を捕集するように構成されている。
本発明の異なる態様は、前記メイン水路と前記バイパス水路の両方の上流側に亘って位置している流入空間を備え、前記メイン水路と前記流入空間は常時連通しており、前記弁部材は、前記流入空間と前記バイパス水路との間を仕切り、前記流入空間側に所定以上の圧力が加わると開いて前記流入空間から前記バイパス水路へ冷却水の進行を可能にするプレッシャーバルブである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の船舶推進装置用動力源の冷却装置によれば、動力性能を犠牲にせずに簡単な構成で、水中に存在するマイクロプラスチック等の環境汚染物質を回収して効率的に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施の形態に係る船外機用のエンジン及び冷却装置の斜視図である。
図2】船外機用のエンジン及び冷却装置の側面図である。
図3図2のIII-III線に沿う断面図である。
図4図3のIV-IV線に沿う断面図である。
図5】濾過装置の斜視図である。
図6】蓋部を外した状態の濾過装置の斜視図である。
図7】第1の変形例の濾過装置の断面図である。
図8】第2の変形例の濾過装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。本実施の形態は、船舶推進装置の一例として船外機に適用したものである。以下の説明における前後、左右、上下は、船外機が取り付けられる船舶の船体における各方向を意味する。左右方向は、船外機における横幅方向である。なお、船外機は、操舵軸を中心とする揺動やチルト軸を中心とする揺動によって船体に対する向きが変化するが、以下では、船外機が船体に対して一定の位置(操舵やチルトによる揺動を行っていない初期状態の位置)にあるものとして各方向を説明する。
【0016】
図1及び図2は、船外機の動力源であるエンジン10を示している。エンジン10は、船外機の外装を構成するエンジンケース11(図3に一部を示す)内のエンジンルームに取り付けられている。船外機におけるエンジン10以外の動力系については図示を省略しているが、エンジン10が発生する力によって回転駆動されるドライブシャフトが上下方向に延び、ドライブシャフトから回転が伝達されるプロペラシャフトが前後方向に延び、プロペラシャフトに取り付けたプロペラの回転によって推進力が発生する。
【0017】
船外機は、大きく分けて、エンジン10を含む上部ユニット、プロペラやプロペラシャフトを含む下部ユニット、上部ユニットと下部ユニットの間にある中間ユニットを有する。下部ユニットは、通常の航走状態で水面下に位置している。ドライブシャフトは、中間ユニット内を通されて、上部ユニット側のクランク軸(図示略)と下部ユニット側のプロペラシャフト(図示略)を接続する。下部ユニットには、ドライブシャフトからプロペラシャフトに動力を伝達するギヤが設けられ、ギヤを囲むギヤケース(図示略)が、下部ユニットの外装を構成する。
【0018】
図1から図4に示すように、エンジン10は、シリンダブロック12と、シリンダヘッド13と、ヘッドカバー14を有している。シリンダブロック12の後方にシリンダヘッド13が配され、シリンダヘッド13の後方にヘッドカバー14が配されている。シリンダブロック12とシリンダヘッド13の境界である合わせ面S1と、シリンダヘッド13とヘッドカバー14の境界である合わせ面S2の位置を、図3に示した。図3には表れていないが、シリンダブロック12の前方にはクランクケースが配されている。クランクケース内には、上下方向に延びるクランク軸(図示略)が設けられている。
【0019】
図3に示すように、シリンダブロック12の内部には筒状のシリンダ15が形成されている。シリンダ15は、上下方向に位置を異ならせて複数設けられている。つまり、エンジン10は、上下方向にシリンダ15が並列する多気筒エンジンであり、以下に説明する吸排気用のポート類やバルブ類も、シリンダ15の数に対応して複数設けられている。
【0020】
各シリンダ15内には、ピストン16が前後方向に摺動自在に挿入されている。ピストン16は、コンロッド17を介して、クランクケース内のクランク軸に連結されている。ピストン16が前後方向に進退移動すると、クランク軸が回転する。クランク軸の回転はドライブシャフトに伝わり、上述のようにドライブシャフトとプロペラシャフトを介してプロペラが回転駆動される。
【0021】
シリンダヘッド13には、各シリンダ15に連通する燃焼室18と、燃焼室18に連通する吸気ポート19及び排気ポート20とが設けられている。吸気ポート19は、燃焼室18に対して概ね左方に延びており、排気ポート20は、燃焼室18に対して概ね右方に延びている。吸気ポート19には吸気管路21が接続している。排気ポート20は、燃焼室18から右斜め後方に延びて途中で右斜め前方へ向きを変える湾曲した形状であり、排気ポート20の先端部(燃焼室18に連通する側とは反対側の端部)が排気管路22に接続している。排気管路22は、シリンダ15の右側に位置して上下方向に延びており、複数のシリンダ15に対応する複数の排気ポート20が共通の排気管路22に接続している。排気管路22内には触媒23が配されている(図2及び図3参照)。触媒23は、排気管路22に沿って長手方向を上下に向けた形状である。
【0022】
シリンダヘッド13とヘッドカバー14との間に形成される左右の動弁室24内には、上下方向に延びる軸を中心として回転可能な吸気用カムシャフト25と排気用カムシャフト26が支持されている。吸気用カムシャフト25は吸気ポート19の後方に位置し、排気用カムシャフト26は排気ポート20の後方に位置する。吸気ポート19が燃焼室18に連通する部分は、吸気バルブ27により開閉される。吸気バルブ27の開閉は、吸気用カムシャフト25に設けられたカムにより制御される。排気ポート20が燃焼室18に連通する部分は、排気バルブ28により開閉される。排気バルブ28の開閉は、排気用カムシャフト26に設けられたカムにより制御される。
【0023】
船外機の外部から取り込まれた空気は、サイレンサー(図示略)を通過した後、吸気管路21を通じて吸気ポート19に流入する。フューエルインジェクタ(図示略)によって吸気ポート19内に燃料が噴射され、流入した空気と噴射された燃料により混合気が生成される。吸気バルブ27の開弁によって混合気が燃焼室18に流入する。なお、フューエルインジェクタから燃焼室18内に燃料を噴射して混合気を生成するタイプのエンジンであってもよい。
【0024】
点火プラグ(図示略)によって、燃焼室18内の混合気に所定のタイミングで点火すると、混合気の燃焼によってピストン16が前方に押圧移動されて、コンロッド17を介してクランク軸を回転させる力が伝達される。燃焼後の排気ガスは、排気バルブ28の開弁によって燃焼室18から排気ポート20に流出して排気管路22に進む。排気管路22は、エンジンルームから下方に延びる下部排気管(図示略)に接続している。排気管路22内の触媒23によって浄化された排気ガスは、下部排気管を通って、排気口(図示略)から船外機の外部に排出される。排気口は、プロペラシャフトの後端部等の船外機の下部ユニットに設けられており、排気ガスは水中に排出される。
【0025】
エンジン10は水冷式の冷却装置を有している。冷却装置は、航走する水域の水を汲み上げて冷却水として利用してエンジン10を冷却するものである。図3に示すように、エンジン10で高温となる発熱部分の周囲に、冷却水を通す冷却水路30が形成されている。冷却水路30は、シリンダブロック12やシリンダヘッド13の一部からなるウォータージャケット31や、ウォータージャケット31に対して取り付けられるウォータージャケットカバー32によって、水密構造の水路として構成されている。
【0026】
船外機の外部(水中)から冷却水を取り入れて冷却水路30に供給するための取入側水路(図示略)と、エンジン10を冷却した後の冷却水を冷却水路30から外部に排水するための排水側水路35が設けられている。これらの取入側水路、冷却水路30及び排水側水路35によって、冷却装置における冷却水経路が構成されている。ドライブシャフトの回転によって駆動されるウォーターポンプ(図示略)を用いて、外部から取入側水路を経由する冷却水の汲み上げと、冷却水路30での冷却水の流通と、排水側水路35を経由する冷却水の排水を行わせる。
【0027】
取入側水路は、船外機の外面側に開口する取水口(図示略)を最上流としている。取水口は、船外機の下部ユニットの外面(ギヤケースの外面)に形成されている。取水口にはストレーナ(図示略)が設けられており、冷却水経路を目詰まりさせるレベルの大きさの小石や藻等の異物は、ストレーナによって冷却水経路内への進入が防がれる。取入側水路は、取水口からエンジンルーム内まで延びて冷却水路30に接続している。取水口から取入側水路に取り込まれた冷却水は、ウォーターポンプの駆動によって吸い上げられて冷却水路30内に送られる。
【0028】
冷却水路30は、シリンダ15及び燃焼室18の周囲に形成されたシリンダ周囲水路33と、排気ポート20及び排気管路22の周囲に形成された排気周囲水路34と、を含んでいる。シリンダ周囲水路33及び排気周囲水路34に供給された冷却水は、燃焼室18での混合気の燃焼や燃焼後の排気ガスの通過によって高温になった部位から熱を奪って冷却させる。
【0029】
図1及び図2に示すように、排水側水路35は排水ホース36と下部排水管路37を有している。排水ホース36の一端である上流側端部36aは、シリンダブロック12の上面側で冷却水路30に接続している。排水ホース36の他端である下流側端部36bは、シリンダヘッド13及びヘッドカバー14の下方で下部排水管路37に接続している。下部排水管路37は、エンジンルームから下方に延びている。
【0030】
排水ホース36は、上流側端部36aから右斜め後方に延びる上側管部36cと、上側管部36cから屈曲して下方に延びる上下方向管部36dと、上下方向管部36dの下端から左方へ屈曲して下流側端部36bまで延びる下側管部36eと、を有する。上下方向管部36dは、シリンダヘッド13及びヘッドカバー14の右側方を通っている。
【0031】
より詳しくは、図3に示すように、エンジン10における前後方向の範囲のうち、シリンダ15、燃焼室18、吸気ポート19及び排気ポート20等が設けられている前部領域E1は、左右に延びる吸気ポート19及び排気ポート20の形状や、シリンダ15側方(右方)における排気管路22の設置や、冷却水路30のためのスペース等によって、左右方向に占める幅が大きくなっている。これに対し、エンジン10における前後方向の範囲のうち、動弁室24を含む後部領域E2は、左右方向に占める幅が小さい。排水ホース36の上下方向管部36dは、後部領域E2に配置されて、排気管路22や冷却水路30(特に排気周囲水路34)の後方、動弁室24の右方を通っている。
【0032】
排水側水路35の最下流には、船外機の外面側に開口する排水口(図示略)が形成されている。排水口は、下部ユニット(プロペラシャフトの後端部付近等)に設けられており、下部排水管路37の端部が排水口に接続している。
【0033】
冷却水路30と排水側水路35(排水ホース36)の間には、冷却水の水温変化に応じて開閉する制御弁(図示略)が設けられている。冷却水路30内の冷却水温が低い状態では、制御弁が閉じて排水側水路35側に排水させずに冷却水路30内で冷却水を循環させる。冷却水路30内の冷却水温が高くなると、制御弁が開いて排水側水路35側に排水し、取入側水路から低温の冷却水を取り入れる。排水側水路35に送られた冷却水は、排水ホース36及び下部排水管路37を通って、排水口から外部(水中)に排出される。排水側水路35を通る冷却水の一部は、下部排水管路37の途中(水面よりも上方)に設けた検出孔38から放出され、その放出状態を見ることによって、冷却水経路での冷却水の流通状況を確認することができる。
【0034】
上述したように、小石や藻等の比較的大きな異物は、取入側水路の取水口に設けたストレーナによって遮られるので、冷却水経路を流れる冷却水は、当該冷却水経路を目詰まりさせる大きさの異物が除去されたものとなっている。本実施形態の冷却装置では、このような冷却性能(冷却水のスムーズな流通)の確保とは別に、環境対策として、冷却水に残留しているより微細な異物(特に環境汚染物質)を濾過して回収するための濾過装置40を、冷却水経路中に備えている。濾過装置40は、図5に示すカートリッジ式のユニットであり、排水ホース36における上下方向管部36dの途中に着脱可能である。濾過装置40は、ストレーナよりも細かいメッシュや不織布等のフィルタ45を内蔵しており、冷却水が外部に排出される前に、冷却水中に残留している微細な異物を捕捉することができる。
【0035】
主に図3から図6を参照して、濾過装置40の具体的な構成を説明する。濾過装置40は、上下方向に長い柱状(角筒状)であり、ボディ部41と蓋部42からなる2分割構造になっている。蓋部42は、ボディ部41の上部に取り付けられる。ボディ部41と蓋部42はそれぞれ金属や合成樹脂等で形成されており、海水に対する耐腐食性を有している。
【0036】
排水ホース36の上下方向管部36dは、上流側に位置する上半部分と、下流側に位置する下半部分に分割されている。蓋部42の上壁42aから上方に突出する入口筒部42bに対して、上下方向管部36dの上半部分の端部が接続する。ボディ部41の底壁41aから下方に突出する出口筒部41bに対して、上下方向管部36dの下半部分の端部が接続する。これらの接続部分は凹凸形状の嵌合形状を有し、嵌合によって、入口筒部42bと出口筒部41bが排水ホース36から脱落しないようになっている(図4参照)。図4に示すように、入口筒部42bと出口筒部41bは上下方向に並ぶ(つまり、前後方向や左右方向で互いの位置が概ね同じ)関係になっている。
【0037】
ボディ部41は、底壁41aから上方に延びる側壁として、前側壁41c、左側壁41d、右側壁41e、後側壁41fを有している。前側壁41cは、平面視(図3のような断面視)で左右方向に延びる平面状の壁部であり、左側壁41dは、平面視で前後方向に延びる平面状の壁部であり、前側壁41cと左側壁41dは略垂直な関係にある。右側壁41eは、前方(前側壁41c)から後方(後側壁41f)へ進むにつれて、左側壁41dとの間隔(左右方向の距離)を小さくする平面状の壁部である。後側壁41fは、左側壁41dと右側壁41eの互いの後端部を接続しており、後方に向けて凸となる湾曲した壁部である。前側壁41cと右側壁41eの間の角部は、滑らかな形状の湾曲壁41gになっている。以下の説明では、前側壁41c、左側壁41d、右側壁41e、後側壁41f、湾曲壁41gを、ボディ部41における「側壁」と総称する。
【0038】
平面視で、ボディ部41は、前側壁41cと左側壁41dと右側壁41eを三辺とした、略三角(楔状)の形状を有している(図3参照)。別言すれば、ボディ部41は、前方(前側壁41c)側が左右方向に幅広で、後方(後側壁41f)側が左右方向に幅狭な略三角形状である。
【0039】
また、ボディ部41は、左右方向の最大幅(前側壁41cの箇所の幅)よりも、前後方向の長さ(前側壁41cから後側壁41fまでの距離)の方が大きく、前後に細長の形状である。ボディ部41の上下方向の長さは、前後方向の長さよりも長い。つまり、ボディ部41の左右方向の最大幅をX、前後方向の長さをY、上下方向の長さをZとした場合、X<Y<Zの関係である。
【0040】
ボディ部41の上端からやや下方には、側壁の外面から側方へ突出する鍔部41hが形成されている。鍔部41hの前縁と後縁には、前後一対の支持突起41iが設けられている。図4に示すように、各支持突起41iは、先端付近が下方に屈曲する鈎状の形状を有している。
【0041】
ボディ部41の側壁のうち湾曲壁41g付近から前方に向けて、上下一対の締結部41jが突出している。各締結部41jに形成した貫通孔41kに挿入したボルト43を、シリンダヘッド13の右側部に設けた一対の締結部13aのネジ孔に螺合させて締め付けることで、ボディ部41がシリンダヘッド13(エンジン10の本体部分)に対して固定される。
【0042】
ボディ部41の上端側は開放されており、この開放部分を覆うようにシール部材44が取り付けられる(図6参照)。シール部材44は、非通水性と可撓性を有するゴム等の材質からなっている。シール部材44の外周部分の形状は、ボディ部41の側壁の外面形状に対応している。シール部材44は、上下方向に貫通する第1開口44aと第2開口44bを有している。第1開口44aと第2開口44bのそれぞれの周縁には、上方に向けて開放された有底の段差部が環状に形成されている。第1開口44aが前側、第2開口44bが後側に設けられており、第1開口44aと第2開口44bの間には、下方に向けて突出する隔壁44c(図4参照)が設けられている。
【0043】
図3及び図4に示すように、シール部材44をボディ部41に取り付けた状態で、ボディ部41の内部は、隔壁44cによって前後に仕切られている。隔壁44cの前側の空間(前側壁41cと左側壁41dと右側壁41eと隔壁44cで囲まれる空間)として、メイン水路P1が形成される。隔壁44cの後側の空間(後側壁41fと左側壁41dと右側壁41eと隔壁44cで囲まれる空間)として、バイパス水路P2が形成される。隔壁44cの下端は底壁41aに接続しておらず、隔壁44cと底壁41aの間に、メイン水路P1とバイパス水路P2の下端部分を連通する連通路P3が形成されている(図4参照)。
【0044】
排水ホース36の上下方向管部36dと同様に、濾過装置40では、上方から下方に向けて冷却水が流れる。図3及び図4に示すように、この冷却水の流れに対して垂直な方向で、メイン水路P1の方がバイパス水路P2よりも大きい断面積を有している。具体的には、左側壁41dと右側壁41eの左右方向の間隔が大きい前側部分にメイン水路P1が設けられていることと、隔壁44cがボディ部41の前後方向中心よりも後方寄りに位置することによって、メイン水路P1の方が大きい断面積になっている。
【0045】
第1開口44aは、メイン水路P1の上端に位置しており、メイン水路P1の内面(ボディ部41の側壁と隔壁44c)に沿った四角形状の開口である。第2開口44bは、バイパス水路P2の上端に位置しており、略円形の開口である。
【0046】
ボディ部41のメイン水路P1内に濾過用のフィルタ45が取り付けられる。図4及び図6に示すように、フィルタ45の上端には側方へ突出する鍔部45aが設けられている。鍔部45aは、第1開口44a周縁の段差部に収まる(載せられる)形状である。鍔部45aの下部には、袋状(有底の筒状)の捕集部45bが設けられている。
【0047】
捕集部45bは、取入側水路の取水口に設けたストレーナよりも細かい孔が多数形成されたメッシュ材や不織布等からなる。捕集部45bは、上下方向に延びる側壁45cと、側壁45cの下端を塞ぐ底壁45dとにより構成されている。捕集部45bは、鍔部45aに接続する上端側から、底壁45dに接続する下端側へ進むにつれて、側壁45cに囲まれる内側面積を徐々に小さくする四角錐台状の形状を有している。
【0048】
フィルタ45は、底壁45dを先頭にして、第1開口44aを通してメイン水路P1内に挿入される。鍔部45aが第1開口44aの段差部に載る状態(図4)になると、それ以上のフィルタ45の挿入が制限されて、ボディ部41に対するフィルタ45の位置が定まる。この状態で、隔壁44cの下端と底壁45dが、上下方向で概ね同じ位置になる(図4参照)。よって、連通路P3が形成されているボディ部41の下端側にはフィルタ45が届いておらず、バイパス水路P2から連通路P3を経て出口筒部41bに向かう流路が確保されている。
【0049】
シール部材44の第2開口44bには、プレッシャーバルブ46が取り付けられる。プレッシャーバルブ46は、通常は閉じており、所定以上の圧力がかかると開いて流体(冷却水)を通過させる常閉式の弁体を備えた弁部材である。プレッシャーバルブ46の筐体外面には、側方へ突出する鍔部46aが設けられている。
【0050】
プレッシャーバルブ46は、上方から第2開口44bに挿入される。鍔部46aが第2開口44b周縁の段差部に載る状態(図4)になると、それ以上のプレッシャーバルブ46の挿入が制限されて、ボディ部41に対するプレッシャーバルブ46の位置が定まる。
【0051】
シール部材44とフィルタ45とプレッシャーバルブ46を組み付けた状態のボディ部41に対して、蓋部42を取り付ける。蓋部42は、上壁42aの周縁から下方に延びる側壁42cを有している。側壁42cは、ボディ部41の側壁に対応する形状である。側壁42cの下端が鍔部41hに当接することにより、ボディ部41に対する蓋部42の上下方向の位置が定まる。また、側壁42cの内面が、ボディ部41の側壁(鍔部41hよりも上方の部分)の外面に接することにより、ボディ部41に対する蓋部42の前後方向及び左右方向の位置が定まる。
【0052】
図4に示すように、側壁42cの内側には、下方に向く有底の段差部42dが形成されている。ボディ部41に蓋部42を取り付けると、段差部42dがシール部材44に当接して、シール部材44を押圧変形させる。また、ボディ部41側の第1開口44a及び第2開口44bの各段差部と蓋部42側の段差部42dとの間に、鍔部45a及び鍔部46aが挟まれる(図4参照)。
【0053】
側壁42cの前縁と後縁には、前後一対の支持突起42eが設けられている。図4に示すように、各支持突起42eは、先端付近が上方に屈曲する鈎状の形状を有している。ボディ部41に蓋部42を取り付けると、前側と後側のそれぞれで、支持突起41iと支持突起42eが上下に所定の間隔を空けて並ぶ関係になる。
【0054】
前側の支持突起41i及び支持突起42eと、後側の支持突起41i及び支持突起42eとを、それぞれ締結部材47を介して締結させる。締結部材47は、ゴム等の弾性体からなり、上下方向の異なる位置に嵌合孔47aと嵌合孔47bを有している。締結部材47には、上側の嵌合孔47bの形成箇所から上方に延びるタブ47cが設けられている。
【0055】
締結部材47の初期状態(外力による変形が生じていない自由状態)では、嵌合孔47aと嵌合孔47bの間隔は、支持突起41i(先端の屈曲部分を除く基端側部分)と支持突起42e(先端の屈曲部分を除く基端側部分)の間隔よりも小さく設定されている。
【0056】
嵌合孔47aに支持突起41iを挿入し、タブ47cを把持して締結部材47を上方に向けて引っ張ると、締結部材47が弾性変形して嵌合孔47aと嵌合孔47bの間隔が増大する。これにより、嵌合孔47bへの支持突起42eの挿入が可能になり、図4に示すように、支持突起41iと支持突起42eのそれぞれの基端側部分が、嵌合孔47a及び嵌合孔47bに嵌合する状態にさせることができる。この嵌合状態で締結部材47への引っ張りを解除すると、弾性変形から復元しようする締結部材47によって、支持突起42eを支持突起41iに引き付ける付勢力が働く。そして、ボディ部41から上方への蓋部42の離間が締結部材47により規制されて、蓋部42がボディ部41に固定される。支持突起41iと支持突起42eのそれぞれの先端側の屈曲部分に引っ掛かることで、嵌合状態にある締結部材47は、ボディ部41や蓋部42の側方に脱落しない。つまり、締結部材47を用いてボディ部41と蓋部42を一旦結合させれば、意図的に締結部材47を取り外さない限り、ボディ部41と蓋部42の結合が維持される。
【0057】
締結部材47により固定したボディ部41と蓋部42の間は、段差部42dで挟まれたシール部材44によって水密性が確保される。また、ボディ部41に対して蓋部42が固定されることにより、段差部42dによる鍔部45a及び鍔部46aの挟み込みが維持される。つまり、蓋部42の固定に伴って、フィルタ45及びプレッシャーバルブ46も濾過装置40内の所定位置に固定される。フィルタ45は、捕集部45bをメイン水路P1に挿入した位置で固定され、プレッシャーバルブ46は、バイパス水路P2の上流側端部に固定される。
【0058】
濾過装置40は、左右方向の幅よりも前後方向の長さが大きい。そのため、距離の離れた前縁側と後縁側の2箇所で、締結部材47を介したボディ部41と蓋部42の締結を行うことにより、固定の強度と安定性を向上させることができる。
【0059】
図4に示すように、ボディ部41に蓋部42を取り付けると、蓋部42の内面とシール部材44とによって囲まれる流入空間P4が形成される。流入空間P4は、メイン水路P1とバイパス水路P2の両方の上側に亘って位置している。フィルタ45の捕集部45bは、第1開口44aを塞がずに下方に突出した形状であるため、メイン水路P1と流入空間P4は常時連通しており、流入空間P4からメイン水路P1への冷却水の進行は妨げられない。バイパス水路P2と流入空間P4の間はプレッシャーバルブ46によって仕切られており、プレッシャーバルブ46が閉じた状態では、流入空間P4からバイパス水路P2への冷却水の進行が規制される。流入空間P4側に所定以上の圧力(水圧)が加わってプレッシャーバルブ46が開いた場合にのみ、流入空間P4からバイパス水路P2への冷却水の進行が可能になる。バイパス水路P2に流れた冷却水は、連通路P3を通ってフィルタ45の下方から出口筒部41bに進んで濾過装置40から排出される。
【0060】
以上のようにして各部品を組み合わせて構成した濾過装置40を、冷却水経路の途中に取り付ける。上述したように、上下方向管部36dの上半部分の端部に入口筒部42bを挿入し、上下方向管部36dの下半部分の端部に出口筒部41bを挿入して、排水ホース36に対して濾過装置40を接続させる。これらの接続箇所は、所定のシール構造によって水密にされる。また、上下一対の締結部41jを、シリンダヘッド13の締結部13aに対してボルト43を用いて締結させる。この締結固定により、濾過装置40の位置が安定して精度が高くなり、出口筒部41bや入口筒部42bが排水ホース36に接続する部分において、過剰な負荷が加わったり、水密性が損なわれたりすることを防止できる。
【0061】
上流側の入口筒部42bから濾過装置40に流入した冷却水は、流入空間P4からメイン水路P1に進み、フィルタ45の捕集部45bを通過して下流側の出口筒部41bに抜ける。濾過装置40に流入した冷却水に含まれる異物のうち、捕集部45bのメッシュやや不織布等を通過できないものは、下流側への進行が遮られて捕集部45b内に貯留される。
【0062】
濾過装置40が回収対象とする冷却水中の残留異物として、特にマイクロプラスチックが挙げられる。一般的に、5mm以下の大きさのプラスチック片等がマイクロプラスチックと呼ばれる。本実施形態の濾過装置40におけるフィルタ45は、さらに微細な、肉眼で目視可能な最小レベルの大きさ(一般的には0.1mm~0.2mm程度)の残留異物を捕捉して回収可能な濾過機能を有しており、マイクロプラスチックを確実に回収することができる。
【0063】
例えば、冷却水経路の内部で目詰まりを生じさせないという条件を満たすべく、取水口のストレーナでは、1mm~2mm程度以上の大きさの異物の通過を規制できるようにメッシュの大きさを設定したとする。これよりも小さい異物は、ストレーナのメッシュを通り抜けて冷却水経路に入り込む可能性があるが、当該異物が冷却水経路内で詰まるおそれは低いため、冷却性能を確保するという観点では支障がない。しかしながら、冷却水に含まれる微細な異物を回収せずにそのまま外部に放出してしまうと、ストレーナでは捕捉できない微細な環境汚染物質を回収する機会を逸することになる。
【0064】
このような環境対策の機会を活かすべく、ストレーナで捕捉されずに冷却水経路内に進入した微細な異物を捕捉可能な濾過装置40を、冷却装置の冷却水経路中に備えている。これにより、エンジン10を駆動した状態で、外部から取り込まれた冷却水に含まれるマイクロプラスチック等の微細な環境汚染物質を取り除き、環境汚染物質が除去された冷却水を外部に戻すことができる。一般的に、水中に拡散した微細な環境汚染物質は回収が難しいが、外部(航走水域)から冷却水を取り込んで排出することを繰り返すという船舶推進装置用動力源の冷却装置の特性に着目して、外部から取り込んだ冷却水の流れを利用しながら微細な環境汚染物質を捕集するように濾過装置40を構成している。これにより、エンジン10を動力源とする船舶での航走中に、冷却水の通常の循環以外の特別な動作や制御を要さずに、効率的且つ積極的に環境対策を実施することができる。
【0065】
特に、排水量が大きく出力が高い船外機では、高度な冷却性能を持たせるべく、冷却水経路に取り込む冷却水の流量が大きくなる。一例として、排気量4000cc強で出力300psレベルの船外機の場合、毎分100リットル(1時間あたり6000リットル)程度の冷却水を流す性能を有する。従って、冷却水経路中に濾過装置40を備えることで、一回の航海ごとに大量の冷却水から環境汚染物質の除去処理を行うことができる。
【0066】
濾過装置40は、冷却水経路のうち、排水側水路35の途中に配置されている。冷却水経路では、外部から取入側水路に汲み上げられて冷却水路30に達するまでの冷却水の水温よりも、冷却水路30でエンジン10から熱を奪った後に排水側水路35を流れる冷却水の水温の方が高くなる。温水は冷水よりも粘性が低下するので、温水が流れる排水側水路35の途中に濾過装置40を設けることで、フィルタ45があっても冷却水を抵抗無く流しやすくなる。これにより、マイクロプラスチック等の異物を効率良く捕集可能になる。
【0067】
また、排水側水路35を通る冷却水には、船外機外部の水中に元々含まれていた異物の他に、エンジン10の内部に滞留したゴミ等が混入する可能性もある。このような冷却水経路の途中で混入した異物についても、濾過装置40のフィルタ45による捕集が可能である。従って、エンジン10内に滞留した異物の回収という観点からも、下流側の排水側水路35に濾過装置40を設けることが好ましい。
【0068】
但し、冷却水経路のうち、取水口から冷却水路30に至るまでの取入側水路の途中に、濾過装置40のような濾過装置を設けることも可能である。
【0069】
濾過装置40は、マイクロプラスチック以外の水中物質を回収することも可能である。例えば、生け簀を使用する養殖業者が、エンジン10を動力源とする船舶によって生け簀の周りを周回することで、養殖の際に水中に撒かれた餌の残り等を、濾過装置40によって効率的に捕集して、海洋汚染防止に貢献できる。
【0070】
濾過装置40において、メイン水路P1側で円滑に冷却水が流れている状態では、流入空間P4内の圧力(水圧)が高くならず、常閉タイプのプレッシャーバルブ46は閉じた状態を維持する。従って、バイパス水路P2を通る冷却水の流れが生じず、冷却水の全量がフィルタ45を通るので、フィルタ45による異物の回収漏れが生じない。
【0071】
フィルタ45により捕集した異物の量が増大して目詰まりが発生すると、メイン水路P1での冷却水の流れが滞り、流入空間P4内の圧力(水圧)が高くなる。流入空間P4内の圧力が所定以上になった場合には、プレッシャーバルブ46が開いて、バイパス水路P2に冷却水が流れるようになる。そして、冷却水はバイパス水路P2と連通路P3を通じて、濾過装置40から下方に流れる。これにより、濾過装置40全体としては、フィルタ45で捕集した異物の量に関わりなく、状況に応じてメイン水路P1とバイパス水路P2を自動的に選択して冷却水を上流側から下流側に支障なく流すことができ、冷却水の循環不良によるエンジン10の冷却性能の低下を防止できる。
【0072】
図4に示すように、出口筒部41bと入口筒部42bはそれぞれ、メイン水路P1の上下に位置している。つまり、メイン水路P1が上下方向管部36dの中心線上(上下方向に向く直線的な流路上)に位置している。これに対し、バイパス水路P2は上下方向管部36dの中心線から後方にオフセットした位置にある。従って、濾過装置40に入る冷却水は、流入空間P4からメイン水路P1に支配的に流れ、メイン水路P1内でフィルタ45が目詰まりしていない状態では、濾過装置40において直線的な経路によって効率的に冷却水を通過させることができる。
【0073】
フィルタ45の捕集部45bは、下方に進むほど、側壁45cに囲まれる内側面積を小さくするように絞られた形状である。そのため、捕集した異物が捕集部45b内で下端(底壁45d)側から順次溜まった場合に、その上方ではメイン水路P1の内面と捕集部45bとの間に冷却水を流す隙間が確保されており、メイン水路P1内でのフィルタ45の目詰まりが生じにくい。言い換えれば、捕集部45bの大部分が異物で埋まる状態になるまで、メイン水路P1での冷却水の進行を妨げにくく、フィルタ45の交換頻度を低くして効率良く異物を捕集できる。
【0074】
フィルタ45の目詰まりの発生は、例えば、排水側水路35において濾過装置40よりも上流側に設置した圧力センサ51(図2に模式的に示す)によって検出される。圧力センサ51からの信号は、船外機又は船舶に搭載した制御部50(図2に模式的に示す)に送信される。フィルタ45の目詰まりが生じると、濾過装置40よりも上流側で排水側水路35の水圧が上昇する。
【0075】
基本的に、フィルタ45が目詰まりした状態でも、濾過装置40においてバイパス水路P2を経由する冷却水の流れが確保されるので冷却性能は損なわれないが、プレッシャーバルブ46が開弁するまでの間、流入空間P4内の水圧が一時的に上昇する。この水圧上昇の影響を圧力センサ51によって検出することができる。
【0076】
圧力センサ51の検出値が所定以上になった場合、制御部50は、フィルタ45の目詰まりが発生したと判定して、乗員(操船者)への警告の報知を実行させる。報知する手段として、船舶の操船用計器や船外機外面の表示灯等の表示手段52への表示(視認)や、スピーカー53から発する警報音や音声を用いる。また、これ以外の報知手段を用いてもよい。例えば、乗員が携帯する携帯情報端末に報知用の信号を送信してもよい。
【0077】
なお、エンジン10のオーバーヒートをより確実に防止するべく、冷却水の水温を測定する水温センサの検出値に基づくエンジン温度警告を、圧力センサ51の検出値に基づく目詰まり警告と併せて報知してもよい。
【0078】
フィルタ45の目詰まりが報知されたり、所定のメンテナンスサイクルが経過したりした場合、作業者が濾過装置40における回収物の除去作業を行う。エンジン10から濾過装置40を取り外し、締結部材47による締結を解除してボディ部41から蓋部42を取り外すと、図6のようにフィルタ45が露出して抜き取り可能になる。そして、フィルタ45の交換を行い、再び濾過装置40を組み立ててから排水ホース36の上下方向管部36dに取り付ける。フィルタ45の交換は、回収物を取り除いたフィルタ45を再装着するものでもよいし、新たなフィルタ45に換装するものでもよい。あるいは、濾過装置40全体を新たなものに交換することも可能である。
【0079】
濾過装置40は、フィルタ45及びプレッシャーバルブ46を内蔵し、メイン水路P1での残留異物の回収機能とバイパス水路P2での流路確保機能とを備えた自己完結型のカートリッジ式である。そのため、既存の冷却装置に対する大掛かりな変更を行わずに、濾過装置40を搭載することができる。また、冷却装置の大掛かりな分解を要さずに、濾過装置40の部分のみを着脱して、フィルタ交換等のメンテナンス作業を容易に行うことができる。
【0080】
ユニットとしての濾過装置40については、ボルト43による固定を解除し、排水ホース36の上下方向管部36dから出口筒部41b及び入口筒部42bを引き抜くことで、エンジン10から容易に取り外しが可能である。
【0081】
濾過装置40の分解については、タブ47cを把持して上方に引きながらボディ部41の側方(前後方向)に傾けることで、締結部材47が弾性変形して支持突起42eから嵌合孔47bが引き抜かれ、蓋部42の固定が解除される。蓋部42を取り外した状態では、フィルタ45はボディ部41(第1開口44a)から上方へ簡単に引き抜くことができる。フィルタ45と同様に、必要に応じてプレッシャーバルブ46も、ボディ部41(第2開口44b)から上方へ引き抜いて簡単に取り外すことができる。従って、特殊な工具や技能等を要さずに、作業者が容易にフィルタ45やプレッシャーバルブ46の取り外しや交換を行うことが可能である。特に、エンジン10から取り外した後の濾過装置40は、フィルタ45やプレッシャーバルブ46の取り外しまでを手作業によって行うことができる。
【0082】
濾過装置40の組み立て時には、締結部材47を用いて蓋部42をボディ部41に固定させることで、間に挟まれるシール部材44によってボディ部41と蓋部42の間の水密性が得られる。また、シール部材44(第1開口44aや第2開口44bの周囲の段差部)と蓋部42の段差部42dとの間に鍔部45a及び鍔部46aを挟んで、フィルタ45とプレッシャーバルブ46が固定される。従って、ボディ部41に蓋部42を取り付けるだけで、濾過装置40を水密構造にできると共に、フィルタ45及びプレッシャーバルブ46の固定も完了し、手間をかけずにカートリッジ式の濾過装置40を組むことができる。
【0083】
濾過装置40では、ボディ部41と蓋部42の間をシールするシール部材44の一部である隔壁44cを用いて、ボディ部41内にメイン水路P1とバイパス水路P2を区画させている。そのため、ボディ部41の構造をシンプルにすることができ、製造コストや製造の手間を低減させることができる。
【0084】
以上のように、冷却水経路中に濾過装置40を備えることで、エンジン10の通常運転中に環境対策活動を同時に行うことができる。濾過装置40にはバイパス水路P2が設けられているので、フィルタ45が目詰まりする状況でも冷却水の流れが阻害されず、エンジン10の動力性能が犠牲になることがない。また、複雑な装置を付加することなく、簡単な構成でメンテナンス容易なカートリッジ式の濾過装置40を設けるだけであるため、冷却装置をコンパクトに保ちながら、低コストに環境対策活動を実現できる。
【0085】
上述したように、エンジン10は、シリンダ15、燃焼室18、吸気ポート19及び排気ポート20が形成されている前部領域E1において左右方向の幅が大きい(図3参照)。特に、排気管路22は触媒23を内蔵することから大きな容積を必要とし、且つ排気管路22の周囲を冷却水路30の排気周囲水路34で囲んでいるため、前部領域E1の右側で必要なスペースが大きくなりがちである。排気管路22及び触媒23を上下方向に延びる細長い形状とすることにより、右側へのエンジン10の張り出し量をできるだけ抑えているが、排気管路22付近がエンジン10の左右方向幅が最大になる部分である(図1及び図3参照)。一方、その後方の後部領域E2は、左右の動弁室24を備えるのみであるため、前部領域E1に比して、エンジン10が左右方向に占める幅が小さい(図3参照)。
【0086】
排水側水路35における上下方向管部36dは、前部領域E1に含まれる排気管路22や排気周囲水路34の後方に位置し、且つ後部領域E2に含まれる動弁室24の側方(右側)に配置されて上下方向に延びている。これに伴い、上下方向管部36dの途中に取り付けられる濾過装置40は、上下方向に細長い柱状(角筒状)に構成されて、前部領域E1と後部領域E2の間の段差形状のスペースに収まっている。特に、それぞれが上下方向に細長い触媒23と濾過装置40を前後方向に並べて配置することで、スペースに無駄の無い高密度な部品配置を実現している。従って、濾過装置40は、排気系を含めたエンジン10周りの構造を利用してスペース効率良く配置されており、船外機の大型化を防ぎながら、異物回収用の内部容積を確保できる。
【0087】
船外機特有の課題として、複数の船外機を並列して取り付ける多数機掛けを行う場合を想定して、船外機の横幅をできるだけ小さくしたいという要求がある。特に、船外機ではエンジン部分の幅が最も大きくなるのが一般的であり、エンジン周りの横幅をできるだけコンパクトにすることが重要である。図3に示すように、前部領域E1よりも後部領域E2での左右方向の幅が小さいエンジン10に対応させて、エンジンケース11は、船外機の前後方向の中央付近から後方に進むにつれて、徐々に左右方向の幅を狭くする形状に設定されている。これにより、エンジン10だけでなくエンジンケース11を含めた全体として、エンジン周りの横幅を最小限に抑えている。
【0088】
図3に示すように、濾過装置40は、メイン水路P1とバイパス水路P2を前後に並列させた構成である。これにより、濾過装置40の左右方向の幅を抑えている。さらに濾過装置40は、平面視で、前方(前側壁41c)側が左右方向に広く後方(後側壁41f)側が左右方向に狭い略三角形状(楔形状)である。より詳しくは、濾過装置40のうち船外機の外側を向く右側の側壁(右側壁41e)を、前方から後方に進むにつれて、船外機の左右方向中央に近づくように傾斜する形状としている。これにより、後方側で左右方向の幅が小さくなるように絞り込まれたエンジンケース11の形状(船外機の外面形状)に影響を及ぼさず、つまり船外機を左右方向で大型化させることなく、エンジン10の右後方のスペースに濾過装置40を収めることを実現している。濾過装置40のうち、左右方向の幅が大きい前側のメイン水路P1にフィルタ45を配置しているので、フィルタ45の容量を確保して異物の回収量を大きくし、フィルタ45の交換頻度を低減させることができる。
【0089】
以上のように、カートリッジ式の濾過装置40は、船舶推進装置用の動力源の機種ごとに、濾過性能、スペース効率、他部品との配置関係等を最適化した専用設計とすることができる。また、カートリッジ式の濾過装置40は、冷却水経路中に容易に着脱可能であり、装着した状態では、異物の回収からフィルタ目詰まり時の流路確保までを自動で行う自己完結性を有するので、冷却装置全体のレイアウトや機能性に及ぼす影響が少ない。例えば、内部に濾過機能を備えていない既存の冷却装置に対して、後付けで濾過装置40を搭載させることも容易である。
【0090】
図7は、第1の変形例である濾過装置40Aを示している。濾過装置40Aにおいて、上記の濾過装置40と共通する箇所については、同じ符号で示して説明を省略する。
【0091】
濾過装置40Aは、ボディ部41に蓋部42を固定する手段が異なっており、ボルト60による締結で固定させている。ボディ部41の上端付近と蓋部42の下端付近にはそれぞれ、側方へ突出する締結部61と締結部62が設けられている。ボディ部41の締結部61には、上下方向へ貫通するネジ孔61aが形成されている。蓋部42の締結部62には、上下方向へ貫通する貫通孔62aが形成されている。ボルト60は、雄ネジを外面に有する軸部60aと、軸部60aの端部に位置する大径の頭部60bとを有する。
【0092】
ボディ部41に蓋部42を被せると、ネジ孔61aと貫通孔62aが上下方向に並ぶ関係になる。ボルト60の軸部60aを、貫通孔62aに対して上方から挿入してネジ孔61aに螺合させる。頭部60bが締結部62の上面に当接した状態で所定の締め付けトルクをかけると、蓋部42がボディ部41に固定される。
【0093】
ボルト60を用いた固定は、ボディ部41に対して蓋部42をより強固に固定させることができる。そのため、濾過装置40A内に高い水圧がかかる場合に有効である。
【0094】
なお、図7の断面位置では、ボルト60による固定を1箇所のみ示しているが、濾過装置40Aでの高度な水密性を確保するべく、ボルト60による固定は複数箇所で行う。好ましくは、3箇所以上で固定するとよい。例えば、濾過装置40Aの左右方向幅が最小である後側壁41f側の固定は、図7に示すように1箇所のボルト60で行う。残り2箇所のボルト60による固定は、左右方向幅が大きい前側壁41cの左右両端付近で行う。つまり、平面視で略三角形状をなす濾過装置40Aの3つの角付近で、ボルト60による固定を行う構造である。このように3つの固定箇所を設定すると、負荷の偏りがなく、ボディ部41に対する蓋部42の固定の安定性と水密性の確保において効果的である。
【0095】
また、濾過装置40Aでは、メイン水路P1とバイパス水路P2の間を、ボディ部41と蓋部42とシール部材44のいずれとも別の部材である隔壁板63によって区画している。ボディ部41の内面には、隔壁板63の下端側の左右方向縁部が挿入される溝部64が形成されている。シール部材44には、隔壁板63の上端側が挿入される溝部65が形成されている。溝部64に隔壁板63を挿入した状態で、シール部材44をボディ部41に取り付けると、隔壁板63の上端が溝部65に嵌合して、隔壁板63が固定される。
【0096】
ボディ部41の内部に形成するのが溝部64であるため、隔壁板63のような仕切り構造をボディ部41内に一体的に形成する場合に比べて、ボディ部41の内部構造がシンプルであり、低コスト且つ高精度にボディ部41を形成することができる。また、溝部64に隔壁板63を挿入してから蓋部42を取り付けるだけであるから、簡単な作業でメイン水路P1とバイパス水路P2を区画させることができる。
【0097】
濾過装置40Aにおける弁部材であるプレッシャーバルブ66は、上述した濾過装置40のプレッシャーバルブ46とは形状が異なるが、機能は同様のものである。鍔部66aが蓋部42の段差部42dで挟まれてプレッシャーバルブ66が固定されるという点でも共通している。
【0098】
プレッシャーバルブ66は、鍔部66aに対して上下に移動可能な弁体66bを備え、圧縮バネ66cによって弁体66bが閉じ方向(図7の上方)に付勢されている。図7は、プレッシャーバルブ66が閉じた状態を示している。流入空間P4の圧力(水圧)が所定値以上になると、圧縮バネ66cの付勢力に抗して弁体66bが押し下げられ、バイパス水路P2へ冷却水が流れる。
【0099】
図8は、第2の変形例である濾過装置40Bを示している。濾過装置40Bにおいて、上記の濾過装置40や濾過装置40Aと共通する箇所については、同じ符号で示して説明を省略する。
【0100】
濾過装置40Bでは、ボディ部41への第1蓋部70の固定にボルト60を用いる点で、濾過装置40Aと共通している、ボルト60による固定箇所の数や、好適な固定箇所の配置についても、濾過装置40Aと同様である。プレッシャーバルブ66は、濾過装置40Aのものと同じであり、図8は、プレッシャーバルブ66が開いた状態を示している。
【0101】
濾過装置40Bでは、第1蓋部70とは別に、第1蓋部70に対して着脱可能な第2蓋部71を備える。フィルタ72の着脱は、第1蓋部70から第2蓋部71を外すことで行い、ボディ部41から第1蓋部70を取り外すことを要さない。
【0102】
より詳しくは、第1蓋部70は、メイン水路P1の上方に位置して上下方向に延びる円筒状の支持筒部70aを有する。支持筒部70aの上端付近の外面にはネジ70bが形成されている。
【0103】
第2蓋部71は、円板状の上壁71aと、上壁71aの周縁から下方に延びる円筒状の側壁71bとを有し、側壁71bの内面に、ネジ70bに螺合する雌ネジが形成されている。
【0104】
第2蓋部71の上壁71aから上方に入口筒部73が突出している。入口筒部73に対して、排水ホース36の上下方向管部36dの上半部分の端部が接続する。入口筒部73は上壁71aを貫通しており、入口筒部73の下端には、第2蓋部71の内側に位置して上壁71aに対して下方から当接する鍔部73aが形成されている。
【0105】
フィルタ72は、多孔状のメッシュ材からなる有底の円筒状の捕集部72aを下部に備え、捕集部72aから上方に向けて被支持筒部72bが突出している。なお、捕集部72aは、骨組みに対して不織布等を貼り付けた構成にすることも可能である。捕集部72aは、上記のフィルタ45における捕集部45bに対応し、形状は異なるが機能は捕集部45bと同じである。被支持筒部72bの上端には、側方へ突出する鍔部72cが設けられている。また、被支持筒部72bには、側方へ貫通する側方開口72dが形成されている。
【0106】
濾過装置40Bを組み立てる際には、第1蓋部70の支持筒部70aから第2蓋部71を取り外した状態で、捕集部72aを先頭にしてフィルタ72をボディ部41及び第1蓋部70の内部に挿入する。鍔部72cが支持筒部70aの上端に当接すると、フィルタ72のそれ以上の挿入が規制される。この段階で、被支持筒部72bの外面が支持筒部70aの内面に接して、前後方向や左右方向へのフィルタ72の移動が規制される。また、捕集部72aがメイン水路P1内に位置する。
【0107】
第1蓋部70内には、バイパス水路P2の上側に流入空間P5が形成される。フィルタ72は、側方開口72dが流入空間P5に連通するように、支持筒部70aの軸を中心とする回転方向の位置が定められる。なお、図8に示す特定の回転方向の位置でのみ支持筒部70aへフィルタ72を挿入可能なように、第1蓋部70とフィルタ72の間に、回転方向位置を予め定める構造を備えていてもよい。一例として、支持筒部70aの内面と被支持筒部72bの外面の一方と他方に、上下方向に延びるキー溝と、キー溝に挿入されるキー突起を設けることで、取り付け時のフィルタ72の回転方向位置を定めることができる。
【0108】
フィルタ72を取り付けた状態で、支持筒部70aに対して第2蓋部71を取り付ける。第2蓋部71の取り付けに伴い、入口筒部73の鍔部73aが、フィルタ72の鍔部72cに対して上方から当接する。この状態で、第2蓋部71を回転させてネジ70bへの螺合量を増大させる(ネジを締め付ける)と、支持筒部70aの上端と入口筒部73の鍔部73aとの間に鍔部72cが挟まれて、フィルタ72が固定される。第2蓋部71の締め付けは、手作業で行うことができる。
【0109】
以上のように組み立てた濾過装置40Bにおいて、フィルタ72が目詰まりしていない状態では、上流側の入口筒部73から流入した冷却水は、フィルタ72の捕集部72aを通ってメイン水路P1に進む流れが支配的になり、冷却水に含まれる異物が捕集部72aで効率的に回収される。フィルタ72が目詰まりすると、側方開口72dから流入空間P5に冷却水が流れて、プレッシャーバルブ66の弁体66bが圧力により開き、冷却水がバイパス水路P2を経由して濾過装置40Bから下流側へ排水される。
【0110】
目詰まりしたフィルタ72を交換する際は、ネジ70bへの螺合を解除して第2蓋部71を支持筒部70aから取り外す。これにより、鍔部72cに対する押さえが解除されるので、フィルタ72を上方へ引き抜くことが可能になる。
【0111】
以上のように、濾過装置40Bでは、ボディ部41にボルト60で固定された第1蓋部70と、第1蓋部70に対する回転操作で着脱可能な第2蓋部71と、からなる2段の蓋構造にして、フィルタ72の固定は第2蓋部71で行っている。従って、ボルト60で強固に固定された第1蓋部70を取り外さずに、フィルタ72の交換を簡単に行うことができ、フィルタ72の交換を比較的高い頻度で行う場合でも作業の煩雑さがない。
【0112】
一方、シール部材44やプレッシャーバルブ66の周囲については、ボルト60で強固に固定された第1蓋部70によって高度な水密性能が確保されている。プレッシャーバルブ66やシール部材44の交換、その他のメンテナンスについては、第1蓋部70を取り外すことで可能になる。これらの作業は、フィルタ72の交換に比べて頻度が低いと想定されるため、第1蓋部70を頻繁に取り外す必要が無い。
【0113】
以上、実施の形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態や変形例に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状等については、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0114】
例えば、上記実施の形態は、船舶推進装置の一例として船外機に適用しているが、本発明の適用対象は船外機に限定されるものではなく、船体内部に配置されるタイプを含む船舶推進装置全般に適用が可能である。
【0115】
また、上記実施の形態は、船舶推進装置(船外機)の動力源として内燃機関であるエンジンを用いているが、電動モータ等の別種の動力源を備えた船舶推進装置にも適用が可能である。すなわち、水冷式の冷却装置により動力源の冷却を行う船舶推進装置であれば適用が可能である。
【0116】
上記実施の形態では、冷却水経路の取水口に設けたストレーナによって、冷却水経路を目詰まりさせるレベルの異物を除去しているが、ストレーナを設ける代わりに、取水口自体を小型の孔が集積した多孔性の構造にすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の船舶推進装置用動力源の冷却装置は、動力性能を犠牲にせずに簡単な構成で、水中に存在するマイクロプラスチック等の環境汚染物質を回収して効率的に除去することが可能であり、特に、冷却装置で汲み上げる冷却水の量が多い高出力の船舶推進装置に有用である。
【符号の説明】
【0118】
10 :エンジン(動力源)
11 :エンジンケース
12 :シリンダブロック
13 :シリンダヘッド
14 :ヘッドカバー
15 :シリンダ
16 :ピストン
18 :燃焼室
19 :吸気ポート
20 :排気ポート
22 :排気管路
23 :触媒
24 :動弁室
25 :吸気用カムシャフト
26 :排気用カムシャフト
27 :吸気バルブ
28 :排気バルブ
30 :冷却水路
33 :シリンダ周囲水路
34 :排気周囲水路
35 :排水側水路
36 :排水ホース
36d :上下方向管部
37 :下部排水管路
40 :濾過装置
40A :濾過装置
40B :濾過装置
41 :ボディ部
42 :蓋部
44 :シール部材
44c :隔壁
45 :フィルタ
45b :捕集部
46 :プレッシャーバルブ(弁部材)
47 :締結部材
52 :表示手段(報知手段)
53 :スピーカー(報知手段)
60 :ボルト
63 :隔壁板
66 :プレッシャーバルブ(弁部材)
70 :第1蓋部
71 :第2蓋部
72 :フィルタ
72a :捕集部
P1 :メイン水路
P2 :バイパス水路
P3 :連通路
P4 :流入空間
P5 :流入空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8