(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】内燃機関用のスパークプラグ及び内燃機関
(51)【国際特許分類】
H01T 13/54 20060101AFI20240514BHJP
H01T 13/20 20060101ALI20240514BHJP
H01T 13/32 20060101ALI20240514BHJP
F02P 13/00 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
H01T13/54
H01T13/20 B
H01T13/32
F02P13/00 301J
F02P13/00 302A
F02P13/00 303A
(21)【出願番号】P 2020125084
(22)【出願日】2020-07-22
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 明光
【審査官】内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-173524(JP,A)
【文献】特開2017-101647(JP,A)
【文献】特表2006-503215(JP,A)
【文献】特開2020-021600(JP,A)
【文献】特開2021-170478(JP,A)
【文献】特表2014-502692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 7/00 - 23/00
F02P 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の絶縁碍子(3)と、
該絶縁碍子の内周側に保持されると共に該絶縁碍子から先端側に突出した中心電極(4)と、
上記絶縁碍子を内周側に保持する筒状のハウジング(2)と、
上記中心電極との間に放電ギャップ(G)を形成する接地電極(6)と、
上記放電ギャップが配される副燃焼室(50)を覆うよう上記ハウジングの先端部に設けられたプラグカバー(5)と、を有し、
上記プラグカバーには、上記副燃焼室と外部とを連通させる噴孔(51)が形成されており、
プラグ軸方向から見て、上記噴孔の中心軸は、プラグ径方向に対して傾斜しており、
少なくとも一つの上記噴孔は、当該噴孔の中心軸の延長線(51L)が上記放電ギャップを通過するギャップ対向噴孔(510)であ
り、
上記ギャップ対向噴孔の中心軸の延長線が、上記ギャップ対向噴孔とは異なる位置において上記副燃焼室の内面と交差する点を、点A1とし、上記ギャップ対向噴孔から上記点A1までの距離をL1としたとき、上記ギャップ対向噴孔から上記放電ギャップまでの距離(L2)は、距離L1の半分未満である、内燃機関用のスパークプラグ(1)。
【請求項2】
上記接地電極は、上記ハウジング又は上記プラグカバーに設けられており、上記中心電極は、プラグ径方向の外側へ突出した側方突出部(42)を有し、該側方突出部の突出端は、上記接地電極に、上記放電ギャップを介してプラグ径方向に対向している、請求項1に記載の内燃機関用のスパークプラグ。
【請求項3】
上記放電ギャップは、上記ハウジングの先端よりも先端側に形成されている、請求項1
又は2に記載の内燃機関用のスパークプラグ。
【請求項4】
請求項
1~3のいずれか一項に記載の内燃機関用のスパークプラグを備えた内燃機関(10)であって、
主燃焼室(11)と、
上記プラグカバーの外表面(52)が上記主燃焼室に面するように配置された上記スパークプラグと、
上記主燃焼室に直接燃料を噴射するインジェクタ(71)と、を有し、
上記スパークプラグは、上記内燃機関の圧縮行程において該インジェクタから噴射された上記燃料を含む噴射流(F)が、上記ギャップ対向噴孔の外側開口部(511)に向かうように、配置されている、内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用のスパークプラグ及び内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
副燃焼室を備えたスパークプラグにおいて、副燃焼室にスワール流が形成されるよう構成されたものが、例えば、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】独国特許出願公開第102018211009号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、副燃焼室を形成するプラグカバーに設けられた噴孔の位置及び向きと、放電ギャップの位置との関係によっては、着火性において不利となる場合がある。すなわち、主燃焼室から噴孔を介して副燃焼室へ、燃料を含む混合気が流入する際、噴孔の向き等によっては、放電ギャップを通過する気流の強さが不充分となること、或いは、放電ギャップに供給される混合気の燃料密度が不充分となることが懸念される。また、放電ギャップにおいて形成された放電又は初期火炎が、噴孔から主燃焼室へ噴出されにくくなることも懸念される。特許文献1に記載のスパークプラグは、かかる観点につき、考慮されておらず、着火性向上の余地があるといえる。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、着火性に優れた内燃機関用のスパークプラグ及び内燃機関を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、筒状の絶縁碍子(3)と、
該絶縁碍子の内周側に保持されると共に該絶縁碍子から先端側に突出した中心電極(4)と、
上記絶縁碍子を内周側に保持する筒状のハウジング(2)と、
上記中心電極との間に放電ギャップ(G)を形成する接地電極(6)と、
上記放電ギャップが配される副燃焼室(50)を覆うよう上記ハウジングの先端部に設けられたプラグカバー(5)と、を有し、
上記プラグカバーには、上記副燃焼室と外部とを連通させる噴孔(51)が形成されており、
プラグ軸方向から見て、上記噴孔の中心軸は、プラグ径方向に対して傾斜しており、
少なくとも一つの上記噴孔は、当該噴孔の中心軸の延長線(51L)が上記放電ギャップを通過するギャップ対向噴孔(510)であり、
上記ギャップ対向噴孔の中心軸の延長線が、上記ギャップ対向噴孔とは異なる位置において上記副燃焼室の内面と交差する点を、点A1とし、上記ギャップ対向噴孔から上記点A1までの距離をL1としたとき、上記ギャップ対向噴孔から上記放電ギャップまでの距離(L2)は、距離L1の半分未満である、内燃機関用のスパークプラグ(1)にある。
【0007】
本発明の他の態様は、上記内燃機関用のスパークプラグを備えた内燃機関(10)であって、
主燃焼室(11)と、
上記プラグカバーの外表面(52)が上記主燃焼室に面するように配置された上記スパークプラグと、
上記主燃焼室に直接燃料を噴射するインジェクタ(71)と、を有し、
上記スパークプラグは、上記内燃機関の圧縮行程において該インジェクタから噴射された上記燃料を含む噴射流(F)が、上記ギャップ対向噴孔の外側開口部(511)に向かうように、配置されている、内燃機関にある。
【発明の効果】
【0008】
上記内燃機関用のスパークプラグにおいて、プラグ軸方向から見て、上記噴孔の中心軸は、プラグ径方向に対して傾斜している。これにより、噴孔を介して副燃焼室に導入される気流、或いは、噴孔を介して副燃焼室から流出する気流によって、副燃焼室内にスワール流を形成することができる。
【0009】
そして、少なくとも一つの噴孔は、上述のギャップ対向噴孔である。ギャップ対向噴孔から、燃料を含んだ混合気が副燃焼室に導入される際、該混合気流が放電ギャップに向かうことによって放電が伸長しやすい。また、燃料密度の高い混合気が、放電ギャップに到達しやすい。それゆえ、副燃焼室内における着火性を向上させ、ひいては、主燃焼室の着火性を向上させることができる。
【0010】
また、膨張行程においては放電を生じさせる場合、副燃焼室から主燃焼室に向かう気流によって放電ギャップにて生じた放電がギャップ対向噴孔に向かって伸長し易く、副燃焼室内での着火性を向上できる。また、着火位置をギャップ対向噴孔に近付けやすいため、冷損も抑制され、主燃焼室への火炎ジェットを強化することができる。さらに、放電ギャップにて生じた放電、又は初期火炎が、ギャップ対向噴孔から噴出しやすいため、主燃焼室での着火性向上を図ることができる。
【0011】
上記内燃機関において、上記スパークプラグは、圧縮行程においてインジェクタから噴射された燃料を含む噴射流が、ギャップ対向噴孔の外側開口部に向かうように、配置されている。これにより、ギャップ対向噴孔から燃料密度の高い混合気が、ギャップ対向噴孔から副燃焼室内へ導入されやすくなる。その結果、燃料密度の高い混合気が、放電ギャップに到達しやすくなり、着火性を向上させることができる。
【0012】
以上のごとく、上記態様によれば、着火性に優れた内燃機関用のスパークプラグ及び内燃機関を提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態1における、スパークプラグの先端部付近の、軸方向に沿った断面図であって、
図2のI-I線矢視断面相当図。
【
図4】実施形態1における、内燃機関の断面説明図。
【
図5】実施形態1における、スパークプラグに対する噴射流の向きを説明する、プラグ軸方向から見た説明図。
【
図6】実施形態2における、スパークプラグの先端部付近の、軸方向に沿った断面図。
【
図7】実施形態3における、スパークプラグの先端部付近の、軸方向に沿った断面図。
【
図8】実施形態4における、スパークプラグの先端部付近の、軸方向に沿った断面図。
【
図9】実施形態5における、スパークプラグの先端部付近の、軸方向に沿った断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態1)
内燃機関用のスパークプラグ及び内燃機関に係る実施形態について、
図1~
図5を参照して説明する。
本形態のスパークプラグは、
図1~
図3に示すごとく、筒状の絶縁碍子3と、中心電極4と、筒状のハウジング2と、接地電極6と、プラグカバー5と、を有する。
【0015】
中心電極4は、絶縁碍子3の内周側に保持されると共に絶縁碍子3から先端側に突出している。ハウジング2は、絶縁碍子3を内周側に保持している。接地電極6は、中心電極4との間に放電ギャップGを形成している。プラグカバー5は、副燃焼室50を覆うようハウジング2の先端部に設けられている。副燃焼室50内に放電ギャップGが配されている。
【0016】
プラグカバー5には、副燃焼室50と外部とを連通させる噴孔51が形成されている。
図2に示すごとく、プラグ軸方向Zから見て、噴孔51の中心軸は、プラグ径方向に対して傾斜している。少なくとも一つの噴孔51は、下記のギャップ対向噴孔510である。ギャップ対向噴孔510は、
図1、
図2に示すごとく、当該噴孔の中心軸の延長線51Lが放電ギャップGを通過するような、噴孔51である。
【0017】
つまり、
図1のようにプラグ径方向から見ても、
図2のようにプラグ軸方向Zから見ても、ギャップ対向噴孔510の中心軸の延長線51L(以下において、適宜「噴孔軸51L」ともいう。)は、放電ギャップGを通過する。
【0018】
本形態のスパークプラグ1は、例えば、自動車、コージェネレーション等の内燃機関における着火手段として用いることができる。
図4に示すごとく、ハウジング2の外周面に形成した取付ネジ部24を、プラグホール711の雌ネジ部に螺合して、スパークプラグ1が内燃機関10に取り付けられる。そして、スパークプラグ1の軸方向Zの一端を、内燃機関10の主燃焼室11に配置する。スパークプラグ1の軸方向Zにおいて、主燃焼室11に露出する側を先端側、その反対側を基端側というものとする。また、スパークプラグ1の軸方向Zを、適宜、プラグ軸方向Z、或いは単に、軸方向Zともいう。
【0019】
図1に示すごとく、プラグカバー5は、ハウジング2の先端部に溶接等によって接合されている。スパークプラグ1が内燃機関に取り付けられた状態において、プラグカバー5は、副燃焼室50を主燃焼室11と区画している。本形態において、プラグカバー5には、複数の噴孔51が形成されている。各噴孔51は、先端側へ向かうほど外周側へ向かうように傾斜している。
【0020】
内燃機関の圧縮行程等においては、噴孔51を通じて主燃焼室11から副燃焼室50へ、気流が導入される。ここで、噴孔51を通じて副燃焼室50に導入される気流によって、副燃焼室50にスワール流(
図5の破線矢印A参照)が生じるように、噴孔51が形成されている。具体的には、
図2に示すごとく、スパークプラグ1を軸方向Zから見たとき、噴孔軸51Lが、プラグ中心軸PCを通らない状態にて、噴孔51が形成されている。本形態において、噴孔軸51Lは、中心電極4を通らない。プラグ中心軸PCは、スパークプラグ1の中心軸であり、本形態において、中心電極4の中心軸でもある。
【0021】
軸方向Zから見たとき、噴孔51とプラグ中心軸PCとを通過するプラグ径方向に延びる仮想直線VLに対して、噴孔軸51Lは鋭角の角度αをもって傾斜している。複数の噴孔51は、各噴孔51における仮想直線VLに対する噴孔軸51Lの傾斜方向が、プラグ周方向における同じ側となっている。本形態において、複数の噴孔51は、上記角度αが互いに同等である。なお、プラグ周方向は、プラグ中心軸PCを中心とする円周に沿った方向である。プラグ径方向は、プラグ中心軸PCに直交する方向である。
【0022】
このような噴孔51の形成態様により、噴孔51から副燃焼室50に導入された気流によって、副燃焼室50にスワール流が形成される。本形態の場合、スワール流は、プラグ中心軸PCの周りに、
図5における反時計回りの螺旋状に生じる。
【0023】
図1~
図3に示すごとく、接地電極6は、ハウジング2又はプラグカバー5に設けられている。中心電極4は、プラグ径方向の外側へ突出した側方突出部42を有する。側方突出部42の突出端は、接地電極6に、放電ギャップGを介してプラグ径方向に対向している。
【0024】
本形態において、中心電極4に、直方体形状の電極部材420を接合してある。この電極部材420の一端が、中心電極4の外周端よりも、接地電極6側に突出している。この突出部分が、側方突出部42となっている。
接地電極6と側方突出部42とは、互いの対向面がいずれも平面状に形成されている。そして、接地電極6と側方突出部42との対向面、すなわち放電面は、互いに略平行に配置されている。
【0025】
本形態において、接地電極6は、ハウジング2の先端とプラグカバー5の基端との間の部位に接合されている。接地電極6は、ハウジング2の先端面に接合された構成とすることもできるし、プラグカバー5に接合された構成とすることもできる。そして、ハウジング2の先端とプラグカバー5の基端との間から、接地電極6はプラグ径方向に、プラグ中心軸PC側へ突出している。そして、放電ギャップGは、ハウジング2の先端よりも先端側に配置されている。
【0026】
また、
図1、
図2に示すように、ギャップ対向噴孔510の噴孔軸51Lが、ギャップ対向噴孔510とは異なる位置において副燃焼室50の内面と交差する点を、点A1とし、ギャップ対向噴孔510から点A1までの距離をL1とする。このとき、ギャップ対向噴孔510から放電ギャップGまでの距離L2は、距離L1の半分未満である。すなわち、
図1、
図2に示す、点A3と点A2との間の直線距離L2が、点A3と点A1との間の直線距離L1の半分未満である。また、距離L2は、例えば、ハウジング2の内径よりも短くすることができる。また、距離L2は、例えば、ハウジング2の内径の1/2以下とすることができる。
【0027】
上記スパークプラグ1を備えた内燃機関10を、
図4に示す。
内燃機関10は、主燃焼室11と、スパークプラグ1と、インジェクタ71と、を有する。スパークプラグ1は、プラグカバー5の外表面52が主燃焼室11に面するように配置されている。インジェクタ71は、主燃焼室11に直接燃料を噴射する。
【0028】
スパークプラグ1は、
図4、
図5に示すごとく、内燃機関10の圧縮行程においてインジェクタ71から噴射された燃料を含む噴射流Fが、ギャップ対向噴孔510の外側開口部511に向かうように、配置されている。なお、
図4、
図5に示す矢印Fは、燃料噴射直後の噴射流の向きを示すものであり、これは、必ずしも、圧縮行程又は膨張行程における主燃焼室11内の気流と一致するものではない。また、噴射流Fがギャップ対向噴孔510の外側開口部511に向かうような状態は、
図5に示すプラグカバー5近傍の噴射流Fの方向からギャップ対向噴孔510の外側開口部511が見えるような状態である。
【0029】
図4に示すごとく、内燃機関10は、吸気ポート721を開閉する吸気弁72と、排気ポート731を開閉する排気弁73とを備えている。スパークプラグ1は、エンジンヘッドにおける、吸気ポート721と排気ポート731とに囲まれた位置に配設されている。
【0030】
吸気ポート721及び排気ポート731は、その開口方向が主燃焼室11の中心軸側に向かうように、ピストン14の進退方向に対して傾斜している。また、主燃焼室11の基端面は、スパークプラグ1から遠ざかるにつれて先端側へ向かうように傾斜している。
【0031】
そして、吸気ポート721に隣接する位置に、インジェクタ71が設けてある。インジェクタ71は、主燃焼室11の中心軸側に向かって燃料を噴射するような姿勢にて、取り付けられている。また、主燃焼室11を構成するシリンダ70内に、ピストン74が摺動可能に配置されている。
【0032】
内燃機関10においては、ピストン74の往復運動に伴って、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程が順次繰り返される。吸気行程において、吸気ポート721からガス(主として空気)が主燃焼室11内に導入され、排気行程において、排気ポート731から主燃焼室11内のガスが排出される。吸気行程における気流の導入のされ方等に起因して、主燃焼室11に所定の気流が形成され、圧縮行程においても、その気流は残る。
【0033】
圧縮行程においては、主燃焼室11内の雰囲気が圧縮され、噴孔51を介して、副燃焼室50へ気流が流入する。これにより、副燃焼室50内にスワール流が形成されると共に、副燃焼室50内の圧力も上昇する。そして、例えば、圧縮行程において、インジェクタ71が燃料を直接、主燃焼室11へ噴射する。
【0034】
そして、主燃焼室11へ噴射された燃料は、
図4に示すごとく、主燃焼室11内の空気と共に噴射流Fを形成して、ピストン74の基端面に当たる。本形態において、ピストン74の基端面は、凹状面を有する。ピストン74の基端面に当たった噴射流Fは、軌道を変えて、基端側、すなわちスパークプラグ1側へ向かう。このとき、噴射流Fは、スパークプラグ1におけるギャップ対向噴孔510の外側開口部511付近に到達する。
【0035】
噴射流Fは、燃料割合の比較的大きい混合気となっている。それゆえ、噴射流Fが到達したギャップ対向噴孔510の外側開口部511付近は、燃料を多く含む混合気となる。そして、この混合気は、
図5に示すようなスワール流Aが形成されている副燃焼室50に、ギャップ対向噴孔510を介して引き込まれることとなる。ギャップ対向噴孔510から引き込まれた、燃料密度の高い混合気が、放電ギャップGに向かうこととなる。
【0036】
そして、圧縮上死点付近において、スパークプラグ1の放電ギャップGに放電を生じさせる。これにより、混合気への着火が効率的に行われる。なお、上述の燃料噴射タイミング、スパークプラグ1の放電点火タイミングは、後述するように、状況や目的等によって、種々変更しうる。
【0037】
次に、本形態の作用効果を説明する。
上記内燃機関用のスパークプラグ1において、プラグ軸方向Zら見て、噴孔51の中心軸は、プラグ径方向に対して傾斜している。これにより、噴孔51を介して副燃焼室50に導入される気流、或いは、噴孔51を介して副燃焼室50から流出する気流によって、副燃焼室50内にスワール流を形成することができる。
【0038】
そして、少なくとも一つの噴孔51は、上述のギャップ対向噴孔510である。ギャップ対向噴孔510から、燃料を含んだ混合気が副燃焼室50に導入される際、該混合気流が放電ギャップGに向かうことによって放電が伸長しやすい。また、燃料密度の高い混合気が、放電ギャップGに到達しやすい。それゆえ、副燃焼室50内における着火性を向上させ、ひいては、主燃焼室11の着火性を向上させることができる。
放電ギャップGにて形成された初期火炎は、スワール流によって副燃焼室50の基端側に運ばれるため、燃焼が副燃焼室50の基端側或いは中央から成長することで、火炎が噴孔51に到達する時点での副燃焼室50内の圧力が高くなり、主燃焼室11への火炎ジェットを強化することができる。
【0039】
例えば、内燃機関の高負荷運転において、プレイグイッションの抑制を目的として、リタード噴射、リタード点火を行う場合がある。リタード噴射、リタード点火は、一般的な燃料噴射及び点火のタイミングよりも遅いタイミングで、燃料噴射及び点火を行う。つまり、インジェクタ71からの燃料噴射タイミングを、例えば、圧縮行程における、ピストン74が上死点に達する直前のタイミングとする。具体的には、例えば、BTDC30°のタイミングにて、燃料を噴射する。BTDCは、Before Top Dead Center の略であり、圧縮上死点に対してどの程度前のクランク角のタイミングかを示す。そして、スパークプラグ1の点火を、実質的に圧縮上死点のタイミングとする。
【0040】
このようなタイミングにて、燃料噴射及び点火を行うことで、所望のタイミングよりも早いタイミングでの着火、すなわち早期着火を抑制し、プレイグイッションを抑制することができる。その一方で、リタード噴射を行う場合、燃料が主燃焼室11に供給される際には、すでに副燃焼室50内にある程度空気が充填されていると共に、主燃焼室11内の気流も弱まった状態となる。そうすると、噴孔51から副燃焼室50に導入される燃料が、比較的少なくなりやすい状況となる。
【0041】
しかし、本形態のスパークプラグ1は、上述のギャップ対向噴孔510を有する。それゆえ、ギャップ対向噴孔510から、燃料を含んだ混合気が副燃焼室50に導入される際、燃料密度の高い混合気が、放電ギャップGに到達しやすい。それゆえ、仮に副燃焼室50に導入される燃料が全体として少なくなったとしても、放電ギャップGに供給される燃料の割合を多くすることができる。その結果、上述のように、副燃焼室50内における着火性を向上させ、ひいては、主燃焼室11の着火性を向上させることができる。
【0042】
また、内燃機関10において、スパークプラグ1は、噴射流Fがギャップ対向噴孔510の外側開口部511に向かうように、配置されている。これにより、燃料密度の高い混合気が、ギャップ対向噴孔510から副燃焼室50内へ導入されやすくなる。その結果、燃料密度の高い混合気が、放電ギャップGに到達しやすくなり、着火性を向上させることができる。
【0043】
また、例えば、内燃機関が触媒暖機運転等を行う場合等、膨張行程にスパークプラグ1を点火する場合もある。膨張行程においては、噴孔51を介して、副燃焼室50から主燃焼室11へ向かう気流が生じる。そうすると、本形態のスパークプラグ1においては、放電ギャップGにて生じた放電、又は初期火炎が、この気流に乗って、ギャップ対向噴孔510へ向かいやすくなる。それゆえ、ギャップ対向噴孔510付近において着火しやすくなり、また、冷損も抑制することができる。その結果、主燃焼室11への火炎ジェットを強化することができる。さらに、放電ギャップGにて生じた放電或いは放電プラズマ、又は初期火炎が、近接しているギャップ対向噴孔510から主燃焼室11に噴出しやすい。かかる観点においても、着火性の向上を図ることができる。
【0044】
また、中心電極4は側方突出部42を有する。そして、側方突出部42の突出端は、接地電極6に、放電ギャップGを介してプラグ径方向に対向している。それゆえ、放電ギャップGは、プラグ中心軸PCから充分にオフセットした位置に存在することとなる。そのため、強いスワール流が放電ギャップGを通過しやすい。これにより、放電が引き伸ばされやすくなり、着火性がより向上する。
【0045】
また、
図1、
図2に示すように、ギャップ対向噴孔510から放電ギャップGまでの距離L2は、ギャップ対向噴孔510から点A1までの距離L1の半分未満である。これにより、ギャップ対向噴孔510と放電ギャップGとを近づけることができる。その結果、圧縮行程においても膨張行程においても、着火性をより向上させることができる。
【0046】
また、放電ギャップGは、ハウジング2の先端よりも先端側に配置されている。これによっても、ギャップ対向噴孔510と放電ギャップGとを近づけることができる。その結果、圧縮行程においても膨張行程においても、着火性をより向上させることができる。
【0047】
なお、燃料噴射タイミングが吸気行程である場合にも、少なくとも、放電ギャップGにおける放電を伸ばしやすくなるという点では、上記と同様に本形態の作用効果を発揮しうる。すなわち、例えば、EGR燃焼(すなわち排気再循環燃焼)を利用する場合には、吸気行程において燃料を噴射し、圧縮行程において点火する。この場合にも、本形態のスパークプラグ1においては、放電が引き伸ばされやすく、着火性を向上させることができる。
【0048】
以上のごとく、本形態によれば、着火性に優れた内燃機関用のスパークプラグ及び内燃機関を提供することができる。
【0049】
(実施形態2)
本形態は、
図6に示すごとく、接地電極6を、プラグカバー5から基端側に立設させた形態である。
すなわち、接地電極6の一端を、副燃焼室50の先端側におけるプラグカバー5の一部に接合している。そして、接地電極6の他端の側面を、中心電極4の先端突出部41に、プラグ径方向から対向させている。これにより、接地電極6の側面と先端突出部41の側面との間に、放電ギャップGを形成している。この放電ギャップGを、ギャップ対向噴孔510の噴孔軸51Lが通過する。
【0050】
その他は、実施形態1と同様である。
本形態の場合にも、実施形態1と同様の作用効果を有する。
なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0051】
(実施形態3)
本形態は、
図7に示すごとく、ハウジング2の一部を接地電極6とした形態である。
すなわち、ハウジング2にもプラグカバー5にも、接地電極6を構成するための電極部材を特に接合していない。そして、ハウジングの2の一部に中心電極4の側方突出部42を対向させている。この側方突出部42とハウジング2の一部との間に、放電ギャップGが形成されている。これにより、放電ギャップGを挟んで側方突出部42と対向するハウジング2の一部が、接地電極6となる。
【0052】
そして、ギャップ対向噴孔510は、その噴孔軸51Lが、側方突出部42とハウジング2の一部との間の放電ギャップGを通過するように、形成されている。
その他は、実施形態1と同様である。本形態の場合にも、実施形態1と同様の作用効果を有する。
なお、上記と略同様の構成によって、プラグカバー5の一部を、接地電極6とすることもできる。
【0053】
(実施形態4)
本形態は、
図8に示すごとく、中心電極4が側方突出部42を有していない形態である。
本形態においては、ハウジング2又はプラグカバー5に接合した接地電極6の一端を、中心電極4の側面に対向させている。中心電極4の側面と接地電極6の一端との間に、放電ギャップGが形成されている。この放電ギャップGを、ギャップ対向噴孔510の噴孔軸51Lが通過する。
その他は、実施形態1と同様である。本形態の場合にも、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0054】
(実施形態5)
本形態は、
図9に示すごとく、中心電極4と接地電極6とを軸方向Zに対向させて、放電ギャップGを形成した形態である。
本形態においては、側方突出部42を設けた中心電極4の先端側に、接地電極6を対向配置させている。これにより、中心電極4の先端側に、放電ギャップGを設けている。そして、放電ギャップGは、プラグ中心軸PCからずれた位置に形成されている。この放電ギャップGを、ギャップ対向噴孔510の噴孔軸51Lが通過する。
その他は、実施形態1と同様である。本形態の場合にも、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0055】
上述した各実施形態において、例えば、中心電極4と接地電極6との少なくとも一方に、貴金属チップを接合した形態とすることもできる。また、プラグカバー5とハウジング2とは一体部品にて構成することもできる。また、上述した複数の実施形態を、適宜組み合わせた形態とすることもできる。
【0056】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
1…スパークプラグ、2…ハウジング、3…絶縁碍子、4…中心電極、5…プラグカバー、50…副燃焼室、51…噴孔、51L…ギャップ対向噴孔の中心軸の延長線、510…ギャップ対向噴孔、6…接地電極、G…放電ギャップ、Z…プラグ軸方向