(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】アシスト装置
(51)【国際特許分類】
B25J 11/00 20060101AFI20240514BHJP
A61F 2/70 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
B25J11/00 Z
A61F2/70
(21)【出願番号】P 2020134085
(22)【出願日】2020-08-06
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉見 孔孝
(72)【発明者】
【氏名】粂野 俊貴
【審査官】樋口 幸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-206044(JP,A)
【文献】特開2010-094147(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0009405(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 11/00
A61F 2/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者の上半身に装着される第一装着具と、
前記利用者の左右の脚に装着される左右の第二装着具と、
前記第一装着具と前記第二装着具とを通じて利用者にアシスト力を与えるためのアクチュエータと、
前記利用者の上半身の傾斜角度を検出するための検出部と、
前記アクチュエータに所望のアシスト力を発生させるためのアシストパラメータを求めると共に、当該アシストパラメータに応じた出力で当該アクチュエータを動作させる制御を実行する制御部と、
を備え、
前記制御部は、利用者が前傾動作を行う際に、当該利用者に対して直立姿勢となる方向のアシスト力を付与するための前記アシストパラメータを、前記傾斜角度と、当該傾斜角度の時間変化と、に基づいて求め、
前記制御部は、更に、前記傾斜角度の時間変化が大きくなると前記アシスト力を小さくするためのアシスト抑制処理を実行可能であり
、
前記制御部は、
前記傾斜角度が大きくなると前記アシスト力を大きくするために第一処理を行うと共に、
前記アシスト抑制処理として、前記傾斜角度の時間変化が大きくなると前記アシスト力を小さくするために第二処理を行い、
前記第二処理として、前記利用者の前傾動作の加減速を求め、加速の場合に、減速の場合よりも、前記アシスト力を小さくする割合を高める処理を行い、
前記第一処理の結果と前記第二処理の結果とにより前記アシストパラメータを求める、
アシスト装置。
【請求項2】
前記アクチュエータは、前記利用者の腰部の左右両側に位置するように前記第一装着具に取り付けられた駆動ユニットと、前記利用者の脚の大腿部に装着された前記第二装着具に先端部が取り付けられ基端部が前記駆動ユニットに取り付けられ当該基端部側を中心として前後に揺動するアームと、を有し、
前記利用者が上半身を前傾方向に姿勢変化させる場合に、前記アームに前記基端部側を中心としたトルクを発生させて、当該前傾方向と反対となる方向のアシスト力を利用者に与える、請求項
1に記載のアシスト装置。
【請求項3】
前記アクチュエータは、ドラム及び当該ドラムを回転させるモータを含み前記第一装着具に取り付けられている巻き取りユニットと、一端側が前記ドラムに巻きつけられ他端側が前記第二装着具に取り付けられているベルト体と、を有し、前記ドラムが前記ベルト体の一部を巻き取る方向のトルクを前記モータにより発生させる構成であり、
前記利用者が上半身を前傾方向に姿勢を変化させる場合に、前記ベルト体を前記ドラムに巻き取る方向のトルクを発生させながら、前記ベルト体は前記ドラムから繰り出される、請求項1
又は請求項2に記載のアシスト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アシスト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
利用者(人)の身体に装着され、その利用者の作業を補助するアシスト装置が様々提案されている。アシスト装置によれば、利用者は、例えば重量物を持ち上げたり、持ち下げたりする場合であっても、小さな力(小さな負担)で作業を行うことが可能となる。このようなアシスト装置として、利用者の上半身に装着される第一装着具と、その利用者の左右の脚に装着される左右の第二装着具と、第一装着具と第二装着具とを通じて利用者にアシスト力を与えるためのアクチュエータとを備える装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
利用者は、荷物を持ち上げる場合、前傾姿勢から直立姿勢となる。この際、特許文献1に開示のアシスト装置は、前傾姿勢にある上半身を直立姿勢とする方向のアシスト力(アシストトルク)を発生させる。
利用者は、荷物を持ち下げる場合、つまり、手に持っている荷物を床等に置く場合、直立姿勢から前傾姿勢となる。この場合であっても、前記アシスト装置は、前傾姿勢にある上半身を直立姿勢とする方向のアシスト力(アシストトルク)を発生させる。つまり、荷物の持ち下げのために、利用者の上半身が前傾となっていく動作に対して制動する(ブレーキを効かせる)ようなアシスト力をアシスト装置は発生させる。
【0005】
アシスト装置が発生させるアシスト力は、例えば上半身の傾斜角度に応じて変化させるのが好ましい。例えば、利用者が荷物を持って上半身を大きく前傾させている場合、腰部への負担が大きい。そこで、上半身の前傾角度(傾斜角度)が大きい場合、小さい場合と比較して、アシスト装置は大きなアシスト力を発生させるのが好ましい。これにより、利用者の腰部への負担をより一層効果的に軽減することが可能となる。
【0006】
そのために、特許文献1に開示のアシスト装置は、アクチュエータに所望のアシスト力を発生させるためのアシストパラメータとして、アシストトルクの指令値を求め、その指令値に応じた出力でアクチュエータを動作させる制御を実行する。利用者が上半身を大きく前傾させると、アシスト装置は、指令値を大きい値として設定する。
【0007】
前記のとおり、利用者が前傾姿勢となる場合、アシスト装置は、前傾姿勢にある上半身を直立姿勢とする方向のアシストトルクを発生させる。このため、利用者が上半身を大きく前傾させ、その動作を一旦停止し、その後、上半身を更に前傾させる場合、アシストトルクの指令値が大きく設定されていることから、更に前傾姿勢になり難い。
そこで、上半身の傾斜角度が大きい場合であっても、アシストトルクが小さくなるように設定されれば、利用者は、前傾動作を一旦停止した後であっても、更に前傾姿勢になり易い。しかし、この場合、アシスト力が充分でない場合があり、例えば、腰部への負担軽減の効果が弱まってしまうことが考えられる。
【0008】
そこで、本開示は、利用者が上半身を前傾とする動作を行う際に、上半身の傾斜角度が大きくなるとアシスト力を大きくすること、及び、その状態から更に前傾動作を行う場合に、動き易くすることを、両立できるアシスト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のアシスト装置は、利用者の上半身に装着される第一装着具と、前記利用者の左右の脚に装着される左右の第二装着具と、前記第一装着具と前記第二装着具とを通じて利用者にアシスト力を与えるためのアクチュエータと、前記利用者の上半身の傾斜角度を検出するための検出部と、前記アクチュエータに所望のアシスト力を発生させるためのアシストパラメータを求めると共に、当該アシストパラメータに応じた出力で当該アクチュエータを動作させる制御を実行する制御部と、を備え、前記制御部は、利用者が前傾動作を行う際に、当該利用者に対して直立姿勢となる方向のアシスト力を付与するための前記アシストパラメータを、前記傾斜角度と、当該傾斜角度の時間変化と、に基づいて求め、前記制御部は、更に、前記傾斜角度の時間変化が大きくなると前記アシスト力を小さくするためのアシスト抑制処理を実行可能である。
【0010】
前記アシスト装置によれば、利用者の上半身の傾斜角度を用いてアシストパラメータが求められる。このため、上半身が大きく前傾していて傾斜角度が大きい場合、傾斜角度が小さい場合と比較して、アシスト装置は大きなアシスト力を発生させることが可能となる。これにより、例えば、利用者の腰部の負担をより一層効果的に軽減することが可能となる。更に、アシストパラメータが、利用者の上半身の傾斜角度のみではなく、その傾斜角度の時間変化も用いられて求められる。特に、傾斜角度の時間変化が大きくなるとアシスト力を小さくするための処理が実行される。このため、利用者が上半身を比較的大きく前傾させ、その動作を一旦停止し、その後、上半身を更に前傾させる場合に、その上半身が動き出すと、傾斜角度の時間変化に応じてアシスト力を小さくすることが可能となり、利用者は、更に前傾姿勢になり易い。
【0011】
また、好ましくは、前記制御部は、前記傾斜角度が大きくなると前記アシスト力を大きくするために第一処理を行うと共に、前記アシスト抑制処理として、前記傾斜角度の時間変化が大きくなると前記アシスト力を小さくするために第二処理を行い、前記第一処理の結果と前記第二処理の結果とにより前記アシストパラメータを求めるように構成されている。
【0012】
この構成により、利用者が例えば荷物を持ち下げる動作を行う際、上半身の傾斜角度が大きくなるとアシスト力が大きくなる。所定の傾斜角度の前傾姿勢で利用者が停止すると、傾斜角度の時間変化はゼロとなり、比較的大きなアシスト力によりその前傾姿勢が維持され、利用者の負担が軽減される。そして、利用者が、更に前傾動作を開始して、傾斜角度の時間変化が大きくなると、アシスト力を小さくする方向にアシストパラメータが求められる。このため、利用者は前傾姿勢になり易い。
【0013】
また、好ましくは、前記制御部は、前記第二処理として、更に、前記利用者の前傾動作の加減速を求め、加速の場合に、減速の場合よりも、前記アシスト力を小さくする割合を高める処理を行うように構成されている。
【0014】
この構成により、利用者が前傾動作する際に、傾斜角度の時間変化が同じであっても、その前傾動作が加速を伴う場合と、減速を伴う場合とで、求められるアシストパラメータが異なる。つまり、利用者が比較的軽い荷物を迅速に持ち下げる等のように、前傾動作が加速を伴う場合、直立姿勢となる方向のアシスト力を小さくする割合が高くなり、より一層、利用者は前傾動作を行い易くなる。これに対して、利用者が重い荷物をゆっくりと持ち下げる等のように、前傾動作が減速を伴う場合、直立姿勢となる方向のアシスト力を小さくする割合が低くなり、適切なアシスト力をその利用者に付与することが可能となる。
【0015】
前記アシスト装置の一つの構成として、前記アクチュエータは、前記利用者の腰部の左右両側に位置するように前記第一装着具に取り付けられた駆動ユニットと、前記利用者の脚の大腿部に装着された前記第二装着具に先端部が取り付けられ基端部が前記駆動ユニットに取り付けられ当該基端部側を中心として前後に揺動するアームと、を有し、
前記利用者が上半身を前傾方向に姿勢変化させる場合に、前記アームに前記基端部側を中心としたトルクを発生させて、当該前傾方向と反対となる方向のアシスト力を利用者に与えるように構成されている。
【0016】
利用者が、例えば荷物を持ち下げる場合、つまり、手に持っている荷物を床等に置く場合、直立姿勢から前傾姿勢となるが、前記構成によれば、アシスト装置は、前傾姿勢にある上半身を直立姿勢とする方向にアシスト力を発生させることができる。つまり、アシスト装置は、利用者の上半身が前傾となっていく動作に対して制動するようなアシスト力を発生させることができる。
【0017】
または、前記アシスト装置の他の構成として、前記アクチュエータは、ドラム及び当該ドラムを回転させるモータを含み前記第一装着具に取り付けられている巻き取りユニットと、一端側が前記ドラムに巻きつけられ他端側が前記第二装着具に取り付けられているベルト体と、を有し、前記ドラムが前記ベルト体の一部を巻き取る方向のトルクを前記モータにより発生させる構成であり、前記利用者が上半身を前傾方向に姿勢を変化させる場合に、前記ベルト体を前記ドラムに巻き取る方向のトルクを発生させながら、前記ベルト体は前記ドラムから繰り出されるように構成されている。
【0018】
利用者が、例えば荷物を持ち下げる場合、つまり、手に持っている荷物を床等に置く場合、直立姿勢から前傾姿勢となるが、前記構成によれば、アシスト装置は、前傾姿勢にある上半身を直立姿勢とする方向にアシスト力を発生させることができる。つまり、アシスト装置は、利用者の上半身が前傾となっていく動作に対して制動するようなアシスト力を発生させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本開示のアシスト装置によれば、利用者が上半身を前傾とする動作を行う際に、上半身の傾斜角度が大きくなるとアシスト力を大きくすること、及び、その状態から更に前傾動作を行う場合に動き易くすることを、両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】アシスト装置の一例の全体構成を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示すアシスト装置の分解斜視図である。
【
図3】
図1に示すアシスト装置が装着された利用者を示す側面図である。
【
図4】
図1に示すアシスト装置が装着された利用者を示す側面図である。
【
図7】アシスト装置が備える制御装置等を示すブロック図である。
【
図8】持ち下げ動作処理の一部を示すブロック図である。
【
図9】持ち下げ動作処理の一例を示すフロー図である。
【
図10】仮想ばね定数及びダンパ定数の一例を示す説明図である。
【
図11】アシストトルクの指令値のイメージを説明するグラフである。
【
図13】第二の形態のアシスト装置を示す斜視図である。
【
図14】
図8に示す処理の変形例を示すブロック図である。
【
図15】第三の形態のアシスト装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔アシスト装置の全体構造〕
図1は、アシスト装置の一例の全体構成を示す斜視図である。
図2は、
図1に示すアシスト装置の分解斜視図である。
図3及び
図4は、
図1に示すアシスト装置が装着された利用者を示す側面図である。
図3は、利用者が直立姿勢にあり、
図4は、利用者が前傾姿勢にある。
図3に示す直立姿勢は、利用者の脚BLから頭部BHまでの身体の長手方向が鉛直線Vに沿った姿勢である。
図4に示す前傾姿勢は、利用者の上半身の長手方向が鉛直線Vに対して前方に傾斜した姿勢である。上半身は、腰部BWから頭部BH側の部分である。
図4に示す前傾姿勢は、利用者が脚BLのうち膝を曲げた状態の姿勢である。
図4では、鉛直線Vに対する利用者の上半身の前傾姿勢の角度がθhで示されている。前記角度θhは、鉛直線Vを基準とした場合の利用者の上半身の「傾斜角度θh」となる。
【0022】
アシスト装置10は、利用者が例えば荷物を持ち上げる際及び荷物を持ち下げる際に、その利用者の腰部BWに対する脚BL(大腿部BF)の回動を支援したり、対象者が歩行する際に、その利用者の腰部BWに対する脚BL(大腿部BF)の回動を支援したりする装置である。利用者の身体に対してアシスト装置10が支援する動作を「アシスト動作」と称する。
【0023】
各図中のX軸、Y軸、Z軸は、互いに直交しており、アシスト装置10を装着し直立姿勢にある利用者にとって、X軸方向は前方向、Y軸方向は左方向、Z軸方向は上方向にそれぞれ対応する。アシスト動作に関して、前記のような、腰部BWに対する脚BL(大腿部BF)の回動の支援は、脚BL(大腿部BF)に対する腰部BWの回動の支援と同じである。本実施形態のアシスト動作は、利用者の腰部BW周囲を通る利用者の左右方向の仮想線Liを中心としたトルクを、その利用者に与える支援動作である。このトルクを「アシストトルク」とも称する。
【0024】
図1に示すアシスト装置10は、第一装着具11、左右の第二装着具12L,12R、及び、利用者の腰部BWと大腿部BFとの間の動作を支援するアシストトルクを発生させるアクチュエータ9を備える。前記「利用者の腰部BWと大腿部BFとの間の動作」は、腰部BWに対する大腿部BFの動作、又は、大腿部BFに対する腰部BWの動作に該当する。
図1に示す形態では、左右の駆動ユニット13L,13Rと、駆動ユニット13L,13Rそれぞれに取り付けられているアーム37とにより、アクチュエータ9が構成される。
【0025】
第一装着具11は、腰サポート部21及びジャケット部22を有していて、利用者の少なくとも腰部BWを含む上半身に装着される。左右の第二装着具12L,12Rは、利用者の左右の脚BLのうち、大腿部BFに装着される。左右の駆動ユニット13L,13Rは、第一装着具11と第二装着具12L,12Rとの間に介在し、アシスト動作を行うために駆動する駆動部となる。
【0026】
アシスト装置10は、操作ユニット14及び制御装置15を更に備える。操作ユニット14は、いわゆるコントローラであり、利用者がアシスト動作の仕様等を入力するための装置である。アシスト動作の仕様として、アシスト動作の動作モード、アシスト動作の強弱、アシスト動作の速度等が含まれる。動作モードとして、例えば「持ち下げ動作」及び「持ち上げ動作」が含まれている。動作モードに、「歩行」が更に含まれていてもよい。アシスト動作の強弱は複数段について設定されていて、例えば「レベル1(弱)」「レベル2(中)」「レベル3(強)」が設定されている。操作ユニット14には、アシスト動作の仕様を利用者が選択する選択ボタンが設けられている。操作ユニット14と制御装置15とは有線又は無線で繋がっていて通信可能である。制御装置15は、操作ユニット14に入力された情報に応じて、駆動ユニット13L,13Rの動作を制御する。
【0027】
第一装着具11は、腰サポート部21、ジャケット部22、フレーム23、及び、バックパック部24を有する。腰サポート部21は、利用者の腰部BW周囲に装着される。腰サポート部21は、ベルト25を有する。ベルト25は、腰サポート部21の腰部BW周りの周長を変更可能としていて、腰サポート部21を腰部BWに固定するために用いられる。腰サポート部21は、樹脂等の硬質の芯材及び革製又は布製の部材により構成されている。腰サポート部21の左右両側に、駆動ユニット13L,13Rのケース36が取り付けられている。腰サポート部21とケース36とは、左右方向の仮想線Liを中心として、一方向及び他方向に回動自在となって取り付けられている。ジャケット部22は、利用者の肩部BS及び胸BBの周りに装着される。ジャケット部22は、樹脂等の硬質の芯材及び革製又は布製の部材により構成されている。ジャケット部22はフレーム23及び腰サポート部21と連結される。
【0028】
フレーム23は、アルミ合金等の金属製の部材により構成されている。フレーム23は、メインフレーム28と、左サブフレーム29Lと、右サブフレーム29Rとを有する。メインフレーム28は、利用者の背中に当てる当て部材30を有する。左サブフレーム29L及び右サブフレーム29Rは、メインフレーム28と左右の駆動ユニット13L,13Rの一部とを繋ぐ柱状の部材である。以上の構成により、左右の駆動ユニット13L,13Rと、第一装着具11のフレーム23とは一体化されていて、左右の駆動ユニット13L,13Rとフレーム23(第一装着具11)とは相対的な変位が不能となる。
【0029】
バックパック部24は、メインフレーム28の後部に取り付けられている。バックパック部24は、コントロールボックスとも呼ばれ、箱状であり、その内部に、制御装置15、電源(バッテリ)20、加速度センサ33等が設けられている。電源20は、制御装置15、左右の駆動ユニット13L,13R等の各機器に必要な電力を供給する。
【0030】
左右の第二装着具12L,12Rは、利用者の左右の大腿部BFの周りに装着される。左の大腿部BF用の第二装着具12Lと、右の大腿部BF用の第二装着具12Rとは、左右反対形状であるが、同じ構成を有する。第二装着具12L(12R)は、金属又は樹脂等の硬質の芯材により構成されるパッド状の本体部31と、革製又は布製の部材により構成されるベルト32とを有する。本体部31に、駆動ユニット13Lが有するアーム37の一部が連結されている。本体部31は、大腿部BFの前面に接触する。ベルト32は、第二装着具12R(12L)の大腿部BF周りの周長を変更可能としていて、本体部31を大腿部BFに固定するために用いられる。
【0031】
左右の駆動ユニット13L,13Rは、利用者の腰部BWの左右両側に位置するように第一装着具11に取り付けられている。具体的には、駆動ユニット13L,13Rは、腰サポート部21の左右に取り付けられている。左の駆動ユニット13Lと、右の駆動ユニット13Rとは、左右反対形状であるが、同じ構成を有し、同じ機能を有する。ただし、左の駆動ユニット13Lと右の駆動ユニット13Rとは、相互が独立して動作可能であり、同期して同じ動作を行う他に、異なる動作を行うことが可能である。
【0032】
左右の駆動ユニット13L,13Rそれぞれは、利用者にアシスト力を与えるアシスト動作を行うための構成を備える。前記アシスト力は、仮想線Liを中心としたトルクに基づく力であり、そのトルクが「アシストトルク」である。左右の駆動ユニット13L,13Rが出力するアシストトルクによって、アシスト装置10は、利用者の腰部BWに対する大腿部BFの回動を支援する。
【0033】
図5は、右の駆動ユニット13Rの分解図である。
図6は、右の駆動ユニット13Rの断面図である。左の駆動ユニット13Lと右の駆動ユニット13Rとは構成が同じであることから、ここでは右の駆動ユニット13Rの構成を説明し、左の駆動ユニット13Lの説明を省略する。駆動ユニット13Rは、駆動機構部35、及び、駆動機構部35を収容するケース36を有する。駆動機構部35から出力されるトルクがアーム37に伝達される。
図5及び
図6では、アーム37の一部(第一アーム部37a)のみが示されている。
【0034】
アーム37(第一アーム部37a)の上端にアシスト軸38が固定されていて、アーム37とアシスト軸38とは一体回転する。アシスト軸38は、仮想線Liを中心とするようにして駆動ユニット13Rに設けられている。
図1に示すように、アーム37(第三アーム部37c)の先端部が第二装着具12Rと連結されている。
【0035】
駆動機構部35は次のように構成されている。すなわち、駆動機構部35は、アーム37を仮想線Liを中心として揺動(回動)させることで、前記アシストトルクを利用者に与える。また、利用者が主体的に姿勢を変化させると(
図3及び
図4参照)アーム37はケース36に対して仮想線Liを中心として揺動(回動)する。
【0036】
駆動機構部35の具体的構成を説明する。
図5及び
図6に示すように、駆動機構部35は、ケース36に固定されているサブフレーム41、モータ42、減速機43、フランジ部44aを有する第一プーリ44、伝達ベルト45、第二プーリ46、渦巻ばね47、軸受48、第一検出器51、及び、第二検出器52を有する。
モータ42、減速機43、第二検出器52がサブフレーム41に取り付けられている。モータ42の出力軸42aに軸受48を介して第一プーリ44が取り付けられていて、第一プーリ44は出力軸42aと相対回転が自在である。出力軸42aの先部に渦巻ばね47の内周端部が取り付けられている。第一プーリ44のフランジ部44aに渦巻ばね47の外周端部が取り付けられている。減速機43の減速軸43bにアシスト軸38が固定されている。減速機43の増速軸43aに第二プーリ46が取り付けられている。第一プーリ44と第二プーリ46との間に伝達ベルト45が掛けられている。アシスト軸38、減速機43、及び第二プーリ46の各中心線は、仮想線Liと一致する。
【0037】
ケース36は、分割構造を有する。ケース36は、外側ケース54と中央ケース55と内側ケース56とを有する。内側ケース56が腰サポート部21に仮想線Li回りに回動自在となって取り付けられている。外側ケース54に設けられている孔54aを、アシスト軸38が貫通して配置されている。
【0038】
第一検出器51は、モータ42の出力軸42aの回転角度を検出する。第二検出器52は、第二プーリ46の回転角度を直接的に検出しているが、減速機43の減速比は一定であることから、アシスト軸38の回動角度を検出することができる。アシスト軸38の回動角度とアーム37の揺動角度(回動角度)とは同じであることから、第二検出器52は、アーム37の揺動角度を検出することが可能である。
【0039】
図3に示す直立姿勢では、利用者の上半身の長手方向の直線LBと、利用者の大腿部BFの長手方向の直線LFとが、共通する鉛直線Vに沿った状態にある。
図4に示すように、利用者が前傾となり膝が曲がった姿勢では、鉛直線Vに対して前記直線LBが傾き、この傾きの角度が前記「傾斜角度θh」である。そして、利用者の上半身の長手方向の直線LBと、利用者の大腿部BFの長手方向の直線LFとが、角度θLで交差する。利用者の大腿部BFに沿ってアーム37は設けられるため、利用者の上半身と大腿部BFとの成す角度が、アーム37の揺動角度と同じとなる。つまり、角度θLは、大腿部BFを基準とした場合の上半身の傾斜角度となる。
【0040】
以上より、第二検出器52は、利用者の大腿部BLを基準とした場合の利用者の上半身の傾斜角度(θL)を検出するための検出部として機能することができる。
以下、利用者の上半身の傾斜角度として、鉛直線Vを基準とした場合の上半身の角度(θh)が採用されてもよく、大腿部BLを基準とした場合の上半身の角度(θL)が採用されてもよい。また、傾斜角度(θh,θL)は、アシスト装置10がアシスト動作を開始した時点での状態を基準とするのが好ましい。
【0041】
図5に示す駆動ユニット13Rが有する第二検出器52は、利用者の上半身の長手方向の直線LBを基準とした、アーム37の揺動角度θLに関する揺動角情報を求めることができる。第二検出器52は、アーム37の揺動角度θLに関する揺動角情報を求める揺動角検出部として機能する。アーム37の揺動角度θLは、骨盤に対する大腿骨の回転角度(揺動角度)と一致することから、アーム37の揺動角度θLを、利用者の上半身の傾斜角度と呼ぶ以外にも、利用者の股関節の回転角度と呼ぶこともできる。
【0042】
第一検出器51及び第二検出器52はエンコーダ、角度センサ等により構成される。第一検出器51及び第二検出器52は、駆動ユニット13L,13Rそれぞれに設けられていて、左脚の大腿部BF用及び右脚の大腿部BF用として機能する。第一検出器51及び第二検出器52の検出結果は、制御装置15に出力される。第一検出器51の検出結果は、出力軸42の回転角度に関する回転角情報であればよく、本実施形態では、回転角度そのものの情報である。第二検出器52の検出結果は、アーム37の揺動角度に関する揺動角情報であればよく、本実施形態では、揺動角度θLそのものの情報である。
【0043】
前記のとおり(
図1参照)、第一装着具11のフレーム23と左右の駆動ユニット13L,13Rとは、一体的であって、相対的な変位が不能である。利用者が姿勢を変化させると(
図3及び
図4参照)、左右の駆動ユニット13L,13Rのケース36に対して左右のアーム37,37が仮想線Liを中心として回動する。つまり、利用者が姿勢を変化させると、アーム37,37にトルクが付与される。そのトルクは、アーム37からアシスト軸38及び減速機43を介して第二プーリ46に伝達される。第二プーリ46に伝達された前記トルクは伝達ベルト45及び第一プーリ44を通じて渦巻ばね47に伝達される。利用者の姿勢変化により、アーム37からアシスト軸38を介して伝わるトルクは渦巻ばね47に蓄積される。
【0044】
モータ42が回転すると、そのモータ42のトルク(モータトルク)は渦巻ばね47に蓄えられる。このように、渦巻ばね47には、モータ42のトルクが蓄積されると共に、利用者の動作によって伝達された利用者トルクが蓄積される。アシストトルクと利用者トルクとを合成した合成トルクが渦巻ばね47に蓄積される。渦巻ばね47に蓄積された合成トルクは、第一プーリ44、伝達ベルト45、第二プーリ46、減速機43を通じて、アシスト軸38に出力され、アーム37を揺動させる。モータ42のトルクを用いて駆動ユニット13L,13Rが出力するトルクが、アシスト装置10による「アシストトルク」である。後に説明するが、駆動ユニット13L,13Rが出力するアシストトルクの指令値が、制御装置15によって求められ、そのアシストトルクの指令値に応じた出力でアクチュエータ9が動作する。
【0045】
前記合成トルクは、渦巻ばね47の無負荷状態からの角度変化量と、渦巻ばね47のばね定数とに基づいて求められる。前記角度変化量は、モータ42の出力軸42aの回転角度の変化量と、アシスト軸38の回転角度の変化量との合計と相関がある。このため、前記合成トルクは、第一検出器51の検出結果と、第二検出器52の検出結果と、渦巻ばね47のばね定数とに基づいて求められる。第一検出器51及び第二検出器52の検出結果は、制御装置15が備える処理部16に与えられることから、処理部16は前記合成トルクを求めることが可能である。
【0046】
図1及び
図2に示すように、アーム37は、複数のアーム部と、これらアーム部を連結する関節部とを有する。本開示では、アーム37は、第一アーム部37a、第二アーム部37b、第三アーム部37c、第一関節部39a、及び第二関節部39bを有する。アーム37は、関節部39a,39bを有するが、仮想線Li回りのトルクを第二装着具12R(12L)に伝達することができる。また、利用者が姿勢を変化させると(
図3及び
図4参照)第二装着具12R(12L)が大腿部WFに押されて、アーム37は仮想線Liを中心として揺動する。つまり、アーム37は、利用者の動作(姿勢の変化)により第二装着具12R(12L)に作用する力を仮想線Li回りのトルクとしてアシスト軸38に伝達することができる。なお、アーム37は図示する形態以外であってもよい。
【0047】
アシスト装置10は、利用者の腰部BWから上の上半身の傾斜角度を検出するための検出部を更に備える。本実施形態の検出部は、3軸の加速度センサ33である。加速度センサ33は、例えばバックパック部24に設けられている。加速度センサ33によって検出される利用者の上半身の傾斜角度は、鉛直線Vを基準とした場合に、利用者の上半身が前方に傾斜した際のその上半身の傾斜角度であり、本開示では(
図4参照)前記のとおりその傾斜角度を「θh」としている。検出部は、3軸の加速度センサ33のように、利用者の上半身の姿勢(傾斜角度)に応じた信号を出力する構成を有していればよく、その他の形式であってもよい。
【0048】
なお、前記のとおり、大腿部BLを基準とした場合の上半身の傾斜角度が、第二検出器52により検出される。上半身の傾斜角度を検出するための検出部は、第二検出器52であってもよいが、本実施形態では、3軸の加速度センサ33である場合について説明する。
【0049】
図7は、アシスト装置10が備える制御装置15等を示すブロック図である。制御装置15は、発生させるアシスト力(アシストトルク)を決めるアシストパラメータとして、アシストトルクの指令値を求め、その指令値に基づく出力でアクチュエータ9を動作させる制御を行う。なお、アシストパラメータは、発生させるアシストトルクを決めるパラメータであればよく、例えばアシスト力などトルク以外のパラメータであってもよい。
【0050】
アシストトルクの指令値を求め、アクチュエータ9の制御を行うために、制御装置15は、演算処理ユニット(CPU)を含む処理部(処理装置)16と、各種プログラム及びデータベース等の情報を記憶する不揮発性メモリ等からなる記憶装置17と、モータドライバ18と、通信インターフェース19とを有する。
【0051】
処理部16は、記憶装置17に記憶されているコンピュータプログラムを実行することで、各種の機能を有することができる。処理部16は、アシストパラメータとしてアシストトルクの指令値を求める機能、及び、駆動ユニット13L,13Rを用いてアシスト動作を実行するための指令を行う機能を有する。具体的に説明すると、処理部16は、記憶装置17に記憶されているコンピュータプログラムに従って動作する機能部として、アシストトルクの指令値を求める演算部16aと、利用者の動作(動作モード)を判定する動作判定部16bとを有する。動作判定部16bは、3軸の加速度センサ33及び第二検出器52の一方又は双方の検出結果に基づいて利用者の動作を自動的に判定する。
【0052】
駆動ユニット13L,13Rを用いてアシスト動作を実行するための指令を行う機能について説明する。例えば、操作ユニット14(
図7参照)の選択ボタンが利用者によって選択されると、処理部16は、その選択ボタンに対応する動作用のプログラムにしたがってアシスト動作を実行する。処理部16は、「持ち下げ動作」及び「持ち上げ動作」等のためのアシスト動作を、記憶装置17に記憶されているプログラムにしたがって実行する機能を有する。処理部16は、動作モードとして「歩行」を検出すると、「歩行」のためのアシスト動作を、記憶装置17に記憶されているプログラムにしたがって実行する機能を有する。前記プログラムとして、歩行用のプログラム、持ち上げ用のプログラム、持ち下げ用のプログラムが、記憶装置17に記憶されている。例えば、操作ユニット14において例えば「持ち下げ動作」に対応するボタンが利用者の操作によって選択されると、処理部16は、持ち下げ用のプログラムにしたがって持ち下げ動作のためのアシスト動作を実行する。
【0053】
アシスト装置10が「歩行」「持ち上げ動作」「持ち下げ動作」それぞれの動作に対して補助する場合、処理部16は、必要となるアシストトルクの指令値を求め、その指令値に対応するアシストトルクを駆動ユニット13L,13Rに出力させるための指令信号を生成する。その指令信号がモータドライバ18へ与えられる。モータドライバ18は、例えば電子回路を含んで構成されていて、処理部16からの指令信号に基づいて、モータ42を駆動する駆動電流を出力する。モータドライバ18は、前記指令信号に基づいて駆動ユニット13L,13Rを動作させる。モータドライバ18は、アシストトルクの指令値に応じた信号(指令信号)に基づいて、駆動ユニット13L,13Rを動作させる動作制御部として機能する。
【0054】
通信インターフェース19は、操作ユニット14、第一検出器51、第二検出器52、加速度センサ33それぞれからの信号を入力し、処理部16へ与える。操作ユニット14に入力された前記アシスト動作の仕様等の情報は、通信インターフェース19を通じて処理部16に入力され、処理部16は入力された情報を用いた処理を行う。
【0055】
〔アシスト動作の概要〕
アシスト装置10は、前記のとおり、左右の駆動ユニット13L,13Rを動作させることでアーム37を用いてアシスト動作を行う。そのアシスト動作は、利用者の腰部BW周囲を通る左右方向の仮想線Liを中心としたアシストトルクを第一装着具11と第二装着具12L,12Rとを通じて利用者に与える動作である。
【0056】
利用者の動作として、例えば、利用者が、荷物を持ち上げるために、上半身を前傾姿勢から直立姿勢に姿勢変化させる持ち上げ動作(「直立動作」とも称する。)と、利用者が、荷物を持ち下げるために、上半身を直立姿勢から前傾姿勢に姿勢変化させる持ち下げ動作(「前傾動作」とも称する。)と、利用者が歩行する動作とが存在する。
【0057】
利用者が、持ち上げ動作を行う場合であっても、持ち下げ動作を行う場合であっても、アシスト装置10が発生させるアシストトルクは、利用者を前傾姿勢から直立姿勢へと変化させる方向のトルクである。つまり、左右の駆動ユニット13L,13Rが、仮想線Li(
図4参照)を中心としてアーム37を回動(揺動)させようとする方向は、矢印R1方向であり、また、左右の駆動ユニット13L,13Rが、仮想線Liを中心として第一装着具11(フレーム23)を回動させようとする方向は、矢印R2方向である。
【0058】
持ち上げ動作及び持ち下げ動作それぞれの際、前記矢印R1方向のアシストトルクにより、左右の第二装着具12L,12Rが有するパッド状の本体部31は、左右の大腿部BFを後方へ押す。前記矢印R2方向のアシストトルクにより、第一装着具11が有するフレーム23は利用者の上半身を背面側(後方側)に引く。
持ち上げ動作の場合、利用者は、前記のようなアシストトルクの作用する方向に倣って姿勢を直立姿勢へと変化させる。
持ち下げ動作の場合、利用者は、前記のようなアシストトルクの作用する方向と反対方向に姿勢を前傾姿勢へと変化させる。つまり、持ち下げのために、利用者の上半身が前傾となっていく動作に対して制動する(ブレーキを効かせる)ようなアシスト力として、アシストトルクをアシスト装置10は発生させる。
また、利用者が前傾姿勢を停止させても、発生させているアシストトルクにより、その姿勢が維持され、身体の負担が軽減される。
【0059】
アシスト装置10が、利用者に対して歩行のためのアシスト動作を行う場合、そのアシスト動作は、腰部BWに対する大腿部BFの回動の支援動作となり、左右の駆動ユニット13L,13Rは、前記回動の支援動作を交互に実行する。つまり、左右のアーム37を交互に所定のアシストトルクで揺動させる。
【0060】
〔制御装置15が行う処理について〕
前記構成を備えるアシスト装置10がアシスト動作を行うため、駆動ユニット13L,13Rが出力するアシストトルクの指令値は、処理部16の演算部16aによって決定される。アクチュエータ9が利用者に与えるアシストトルクは、モータ42の出力トルクに基づく。利用者に与えるアシストトルクを大きくするためには、モータ42の出力トルクを大きくすればよく、利用者に与えるアシストトルクを小さくするためには、モータ42の出力トルクを小さくすればよい。アシストトルクの指令値は、加速度センサ33等の利用者の上半身の傾斜角度を検出するための検出部から得られる様々な情報に基づいて、求められる。
【0061】
以下、持ち下げ動作のためのアシストトルクの指令値を求める処理の具体例について説明する。
図8は、処理部16が行う持ち下げ動作処理の一部を示すブロック図であり、
図9は、その処理の一例を示すフロー図である。
図8は、アシストトルクの指令値τaを求める処理を示す。
操作ユニット14において「持ち下げ動作」が選択されることで(
図9のステップSt50)、持ち下げ動作処理が実行される。なお、持ち下げ動作処理が実行される場合の利用者の動作には、利用者が荷物を手で持ってその荷物を下へ降ろすために上半身を前傾とする動作の他に、利用者が荷物を手で持たない状態で上半身を前傾とする動作(お辞儀動作)も含まれる。
【0062】
持ち下げ動作用処理は、アシスト装置10を装着した利用者が持ち下げ動作を行う際に、その利用者に対してアシストトルクを付与するための処理である。利用者が、持ち下げ動作を行う場合であっても、アシスト装置10が発生させるアシストトルクは、前記のとおり、利用者を前傾姿勢から直立姿勢へと変化させる方向のトルク、つまり、持ち上げ方向のトルクである。利用者が持ち下げ動作を行う場合、アシスト装置10は、利用者の上半身が前傾となっていく動作に対して制動するようなアシスト力として、アシストトルクを発生させる。アシストトルクの正負符号に関して、
図4に示すように、持ち上げ方向がマイナス(負)であり、持ち下げ方向がプラス(正)であると定義する。
【0063】
持ち下げ動作処理の全体について説明する(
図9参照)。3軸の加速度センサ33による傾斜角度θhを求める処理(ステップSt60)が行われる。傾斜角度θhの情報に基づいて各種演算を含む処理が演算部16aにより行われ(ステップSt70)、その処理の結果に基づいてアシストトルクの指令値τaが求められる(ステップSt80)。その指令値τaに対応するアシストトルクを駆動ユニット13L,13Rに出力させるための指令信号がモータドライバ18へ与えられる(ステップSt90)。モータドライバ18は、その指令信号に基づいて、駆動ユニット13L,13Rを動作させる(ステップSt100)。これにより利用者にアシストトルクが付与される。このような
図9に示すサイクル、つまり、
図9に示す一連の処理は、持ち下げ動作が完了するまで、所定周期で(例えば、0.001秒毎に)繰り返し実行される(ステップSt110)。なお、右の駆動ユニット13Rのための持ち下げ動作用処理と、左の駆動ユニット13Lのための持ち下げ動作用処理とは、同じ処理であり、それぞれ並行して行われる。
【0064】
図8により、指令値τaを求める処理の具体例を説明する。3軸の加速度センサ33の検出信号に基づいて、演算部16aは利用者の傾斜角度θhを取得する(
図8のブロックB50、
図9のステップSt60)。傾斜角度θhは、記憶装置17に記憶される。
【0065】
演算部16aは、取得した傾斜角度θhを用いて、傾斜角度θhの時間変化(時間変化率)θvを求める(
図8のブロックB60、
図9のステップSt70)。前記のとおり、持ち下げ動作用処理は、所定周期で繰り返し実行されることから、前回(一つ前)の持ち下げ動作用処理で取得された傾斜角度θh(t-1)と、今回の持ち下げ動作用処理で取得された傾斜角度θh(t)と、所定周期の値tとにより、次の式により、演算部16aは、傾斜角度θhの時間変化θvを求めることができる。
θv=(θh(t)-θh(t-1))/t
【0066】
傾斜角度θhの時間変化θvは、記憶装置17に記憶される。傾斜角度θhの時間変化θvは、上半身の動作速度であり、上半身が傾斜する際の角速度であると言える。以下、この傾斜角度θhの時間変化θvを「角速度θv」と称する場合がある。
【0067】
制御装置15には、剛性項ゲインとしての仮想ばね定数K、及び、粘性項ゲインとしてのダンパ定数dが設定されている。仮想ばね定数K及びダンパ定数dの各値の情報は、記憶装置17に記憶されている。仮想ばね定数K及びダンパ定数dそれぞれの値は、予め設定されている値であり、例えば、
図10に示すように、持ち下げの場合のアシスト動作の強弱のレベル(レベル1,2,3)毎に異なる値として設定されている。
【0068】
なお、ダンパ定数dは、後の説明により理解されるとおり、持ち下げ動作の場合に、アシストトルクの指令値τaを小さくさせるための定数、つまり、利用者の上半身が前傾となっていく動作に対して制動する作用を弱めるための定数である。このため、ダンパ定数dは、アシスト抑制定数(アシスト抑制項)とも言える。
【0069】
アシスト動作の強弱の設定(レベル1,2,3)に応じて、仮想ばね定数Kの値及びダンパ定数dの値がそれぞれ択一的に選択される。アシスト動作の強弱の設定は、動作開始の際、操作ユニット14(選択ボタン)を通じて利用者により行われる。アシスト動作の強弱の設定において「強(レベル3)」が選択される場合、「弱(レベル1,2)」が選択される場合と比較して、仮想ばね定数Kの値として、アシストトルクの指令値τaをより大きくするための値が選ばれる。なお、アシスト動作の強弱の設定として、レベル1,2,3を例示しているが、更に多くのレベル(例えば、レベル0,1,2,3,4・・・)が含まれていてもよい。
【0070】
演算部16aは、求めた傾斜角度θhに仮想ばね定数Kを乗算する(
図8のブロックB51、
図9のステップSt70)。この乗算を行う処理が第一処理である。本実施形態の場合、レベル2,3では、仮想ばね定数Kはマイナスの符号を有する。前記のとおり、アシストトルクに関して、持ち上げ方向がマイナスと定義される。このため、第一処理では、傾斜角度θhが大きくなるにしたがって、マイナス方向のアシストトルクの指令値を大きくさせる。つまり、傾斜角度θhが大きくなるにしたがって、アシスト力を大きくするための第一処理が行われる。
【0071】
前記第一処理とは別の処理として、演算部16aは、求めた上半身の角速度θvにダンパ定数dを乗算する(
図8のブロックB61、
図9のステップSt70)。この乗算を行う処理が第二処理である。本実施形態の場合、レベル2,3では、ダンパ定数dはプラスの符号を有する。前記のとおり、アシストトルクに関して、持ち上げ方向がマイナスと定義される。このため、第二処理では、傾斜角度θhが大きくなるにしたがって、マイナス方向のアシストトルクの指令値が小さくさせる。つまり、上半身の角速度θvが大きくなるにしたがって、アシスト力を小さくするための第二処理が行われる。この第二処理は、アシスト力を小さくするためのアシスト抑制処理と言える。
【0072】
演算部16aは、前記第一処理の結果と前記第二処理の結果とにより、持ち下げ動作のためのアシストパラメータとして、アシストトルクの指令値を求める。具体的に説明すると、演算部16aは、傾斜角度θhと仮想ばね定数Kとを乗算した値と、角速度θvとダンパ定数dとを乗算した値との和を求め(
図8のブロックB70、
図9のステップSt70)、その和の値を、持ち下げ動作のためのアシストトルクの指令値τaとする(
図9のステップSt80)。
【0073】
図11は、処理部16(演算部16a)が求めるアシストトルクの指令値τaのイメージを説明するグラフである。
図11に示すグラフにおいて、縦軸が持ち下げ動作の場合のアシストトルクであり、横軸が上半身の角速度θvである。
図11には、傾斜角度θhが30度である場合が破線で示されていて、傾斜角度θhが60度である場合が実線で示されている。アシストトルクの正負符号に関して、持ち上げ方向がマイナス(負)であり、持ち下げ方向がプラス(正)である。
図11に示すように、傾斜角度θhに関わらず、上半身の角速度θvが大きくなるにしたがって、アシストトルクの指令値τaはゼロに近づく。つまり、角速度θvが大きくなるにしたがって、利用者の上半身が前傾となっていく動作に対して制動する作用が弱くなる。
【0074】
以上のように、制御装置15が有する処理部16は、利用者が上半身を前傾とする動作を行う際に、その利用者に対して直立姿勢となる方向のアシスト力を付与するためのアシストトルクの指令値を、利用者の上半身の傾斜角度θhと、その上半身の角速度θvとに基づいて求める。処理部16は、更に、前記角速度θvが大きくなるにしたがってアシスト力(指令値τa)を小さくするためのアシスト抑制処理(前記第二処理)を実行可能である。本実施形態では、処理部16は、前記角速度θvが大きくなるにしたがってアシスト力(指令値τa)を小さくするためのアシスト抑制処理(前記第二処理)を実行可能である。
【0075】
前記構成を有するアシスト装置10によれば、利用者の上半身の傾斜角度θhを用いてアシストトルクの指令値τaが求められる。このため、上半身が大きく前傾していて傾斜角度θhが大きい場合、傾斜角度θhが小さい場合と比較して、アシスト装置10は大きなアシスト力を発生させることが可能となる。これにより、例えば、利用者の腰部BWの負担をより一層効果的に軽減することが可能となる。
更に、アシストトルクの指令値τaが、利用者の上半身の傾斜角度θhのみではなく、その傾斜角度の時間変化である角速度θvも用いられて求められる。特に、角速度θvが大きくなるとアシスト力を小さくするための処理が実行される。このため、利用者が上半身を比較的大きく前傾させ、その動作を一旦停止し、その後、上半身を更に前傾させる場合に、その上半身が動き出すと、角速度θvに応じてアシスト力を小さくすることが可能となり、利用者は、更に前傾姿勢になり易い。
【0076】
図12は、前記第二処理の変形例を説明する図である。
図12に示すグラフの縦軸は、「角速度θvにダンパ定数dを乗算した値」であり、その横軸は、角速度θvである。処理部16は、前記所定周期毎に角速度θvを求めることから、現時点(今回の処理)において、角速度θvが、増加傾向にあるのか、減少傾向にあるのかの判定が可能である。つまり、利用者が上半身を前傾とする動作を行うが、処理部16は、その動作が、加速を伴う動作であるのか、減速を伴う動作であるのかの判別が可能である。
【0077】
そこで、ダンパ定数dは、角速度θvが同じであるとしても、加速の場合と、減速の場合とで、異なる値に設定される。処理部16は、
図12に示す矢印J1,J2のように、利用者の前傾動作が加速を伴う場合、アシスト力を小さくする割合を高める。これに対して、
図12に示す矢印J3,J4のように、利用者の前傾動作が減速を伴う場合、アシスト力を小さくする割合を低くする。このために、ダンパ定数dは可変の値であり、加速の場合と減速の場合とで異なる値が用いられる。
このように、処理部16は、前記第二処理として、利用者の前傾動作の加減速を求め、加速の場合に、減速の場合よりも、アシスト力を小さくする割合を高める処理を行う。
【0078】
この変形例の場合、利用者が比較的軽い荷物を迅速に持ち下げる等のように、前傾動作が加速を伴う場合、直立姿勢となる方向のアシスト力を小さくする割合が高くなり、より一層、利用者は前傾動作を行い易くなる。これに対して、利用者が重い荷物をゆっくりと持ち下げる等のように、前傾動作が減速を伴う場合、直立姿勢となる方向のアシスト力を小さくする割合が低くなり、適切なアシスト力をその利用者に付与することが可能となる。
また、利用者が比較的重い荷物を降ろし始めるように加速を伴う動作を行う場合、直立姿勢となる方向のアシスト力を小さくする割合が高くなり、より一層、利用者は前傾動作を行い易くなる。さらに、荷降ろし動作を行い、目的となる位置に近づいたため、利用者が荷降ろし動作を停止しようとする場合(すなわち前傾動作が減速される場合)、直立姿勢となる方向のアシスト力を小さくする割合が低くなり、適切なアシスト力をその利用者に付与することが可能となる。
【0079】
〔第二の形態のアシスト装置10〕
図13は、第二の形態のアシスト装置10を示す斜視図である。このアシスト装置10は、利用者の上半身に装着される第一装着具11と、その利用者の左右の脚の大腿部に装着される左右の第二装着具12L,12Rと、アクチュエータ9とを備える。
図1に示すアシスト装置10(第一の形態)と
図13に示すアシスト装置10とで、同じ機能を有する構成には、同じ符号が付されている。
【0080】
第二の形態では、アクチュエータ9は、第一の形態のバックパック部24に相当する動力ユニット79Bと、利用者の腰部の左側及び右側に位置するように設けられる左側の駆動ユニット13L及び右側の駆動ユニット13Rとを備える。動力ユニット79Bと左右の駆動ユニット13L,13Rそれぞれとは、金属製等のフレーム23により連結されている。動力ユニット79B及び左右の駆動ユニット13L,13Rに、第一装着具11が取り付けられている。
【0081】
動力ユニット79Bは、ケース84内に、モータ83、及び、モータ83により回転駆動する左右の駆動プーリ81L,81Rを備える。利用者の上半身の傾斜角度を検出するための検出部として、3軸の加速度センサ33が、動力ユニット79B内に設けられている。左側の駆動ユニット13Lのケース36内に、従動プーリ80Lが設けられている。右側の駆動ユニット13Rのケース36内に、従動プーリ80Rが設けられている。左右の従動プーリ80L,80Rそれぞれは、利用者の腰部周囲を通る利用者の左右方向の仮想線Liを中心として、一方向及び他方向に回動することができるように、ケース36に設けられている。左側において、駆動プーリ81Lと従動プーリ80Lとにワイヤ82Lが掛けられていて、右側において、駆動プーリ81Rと従動プーリ80Rとにワイヤ82Rが掛けられている。ワイヤ82L,82Rそれぞれは、動力ユニット79Bと左右のケース36それぞれとの間に設けられているガイド管77に収容された状態にある。
【0082】
モータ83により左右の駆動プーリ81L,81Rが一方向に回動すると、ワイヤ82L,82Rが動力伝達部材として機能し、左右の従動プーリ80L,80Rが一方向に回動する。モータ83により駆動プーリ81L,81Rが他方向に回動すると、ワイヤ82L,82Rが動力伝達部材として機能し、従動プーリ80L,80Rが他方向に回動する。従動プーリ80L,80Rそれぞれにアーム37,37が取り付けられていて、従動プーリ80L,80Rそれぞれとアーム37,37とは一体となって動作する。アーム37,37それぞれの下部に第二装着具12L,12Rが取り付けられている。
【0083】
従動プーリ80L,80Rの回動によって、左右のアーム37,37が仮想線Liを中心として揺動するトルクが、アシストトルクとなって利用者に与えられる。左の駆動ユニット13Lと右の駆動ユニット13Rとは、相互が独立して動作可能であり、同期して同じ動作を行う他に、異なる動作を行うことが可能である。
以上の構成により、アクチュエータ9は、第一装着具11と第二装着具12L,12Rとを通じて利用者にアシスト力を与えるアシスト動作を行うことができる。
【0084】
第二の形態においても、利用者の上半身と大腿部との成す角度となるアーム37の揺動角度を求めるセンサ53を有する。センサ53は、アーム37と一体動作する従動プーリ80L,80Rの回転角を検出する機能を有し、例えば、エンコーダ、角度センサである。センサ53は、第一の形態の第二検出器52と同じ機能を有する。なお、従動プーリ80L(80R)の回転角と駆動プーリ81L(81R)の回転角とは相関があることから、アーム37の揺動角度を求める検出器として、駆動プーリ81L(81R)の回転角に基づいてアーム37の揺動角度を検出するセンサであってもよい。
【0085】
第二の形態においても、第一の形態と同様、持ち下げ動作処理を行う制御装置15を備える。その制御装置15は(
図7参照)、演算処理ユニット(CPU)を含む処理部(処理装置)16、各種プログラム及びデータベース等の情報を記憶する不揮発性メモリ等からなる記憶装置17、及び、モータ83を制御するためのモータドライバ18等を有する。処理部16は、第一の形態と同様、
図8に示すように、利用者の上半身の傾斜角度θhを検出すると共に、検出した傾斜角度θhから、利用者の上半身の傾斜角度θhの時間変化(角速度)θvを演算により求める。
【0086】
処理部16は、第一の形態と同様(
図8参照)、利用者の上半身の傾斜角度θhが大きくなるにしたがってアシスト力を大きくするために第一処理を行う。更に、処理部16は、傾斜角度θhの時間変化(角速度)θvが大きくなるにしたがってアシスト力を小さくするために第二処理を行う。処理部16は、前記第一処理の結果と前記第二処理の結果とにより、アシストパラメータとしてアシストトルクの指令値τaを求める。その指令値τaに応じた出力でモータ83は動作する。各処理の具体例については、
図8~
図12に示す処理と同様であり、ここでは、その説明を省略する。
【0087】
第二の形態のアシスト装置10は、第一の形態のアシスト装置10と同様、左右の駆動ユニット13L,13Rを動作させることでアーム37を用いてアシスト動作を行う。そのアシスト動作は、利用者の腰部BW周囲を通る左右方向の仮想線Liを中心としたアシストトルクを第一装着具11と第二装着具12L,12Rとを通じて利用者に与える動作である。この点も、第二の形態と第一の形態とは同じである。
【0088】
処理部16が求めるアシストトルクの指令値τaは、仮想線Liを中心としてアーム37を揺動させるトルクの値である。このトルクは、アクチュエータ9が有するモータ83により発生する。つまり、モータ83のトルクによって駆動ユニット13L,13Rが出力するトルクが、アシスト装置10による「アシストトルク」である。
【0089】
第二の形態においても、処理部16は、前記第二処理として、利用者の前傾動作の加減速を求め、
図12により説明したように、加速の場合に、減速の場合よりも、アシスト力を小さくする割合を高める処理を行うように構成されていてもよい。
【0090】
以上のように、
図1に示すアシスト装置10(第一の形態)及び
図13に示すアシスト装置10(第二の形態)それぞれが備えるアクチュエータ9は、次のように構成されている。
つまり、アクチュエータ9は、利用者の腰部BWの左右両側に位置するように第一装着具11に取り付けられた左右の駆動ユニット13L,13Rと、左右のアーム37,37とを有する。左右のアーム37,37それぞれは、利用者の脚の大腿部BFに装着された第二装着具12L,12Rに先端部が取り付けられていて、基端部が駆動ユニット13L,13Rに取り付けられている。左右のアーム37,37それぞれは、その基端部側を中心として前後に揺動する。
【0091】
そして、利用者が上半身を前傾方向に姿勢変化させる場合に、アクチュエータ9は、左右のアーム37,37それぞれに基端部側を中心としたトルクを発生させて、前傾方向と反対となる方向のアシスト力(アシストトルク)を利用者に与えるように構成されている。
この構成により、利用者が、例えば荷物を持ち下げる場合、つまり、手に持っている荷物を床等に置く場合、直立姿勢から前傾姿勢となるが、アシスト装置10は、前傾姿勢にある上半身を直立姿勢とする方向にアシスト力を発生させることができる。つまり、アシスト装置は、利用者の上半身が前傾となっていく動作に対して制動するようなアシスト力を発生させることができる。
【0092】
〔第一処理及び第二処理の変形例〕
第二の形態(第一の形態)では、前記のとおり、上半身の傾斜角度を検出する手段として、動力ユニット79B(バックパック部24)に設けられている3軸の加速度センサ33の他に、駆動ユニット13L,13Rに設けられているセンサ53(第二検出器52)を有する。加速度センサ33は、鉛直線V(
図4参照)を基準とした傾斜角度θhを検出する。センサ53(第二検出器52)は、利用者の大腿部BFを基準とした場合の上半身の傾斜角度θLを検出する。傾斜角度θh(θL)が刻々と検出されることで、処理部16は、利用者の上半身の傾斜角度θh(θL)の時間変化(角速度)θvを、その傾斜角度θh(θL)に基づいて求めることができる。
【0093】
そこで、
図14に示すように、第一処理で用いられる傾斜角度θhは、3軸の加速度センサ33により求められる値であり、第二処理で用いられる角速度θvは、センサ53(第二検出器52)により求められる値であってもよい。
図14は、
図8に示す処理の変形例を示すブロック図である。
このように、処理部16は、利用者が前傾動作する際、その利用者に対して直立姿勢となる方向のアシスト力を付与するためのアシストトルクの指令値τaを、3軸の加速度センサ33により求められる傾斜角度θhと、センサ53(第二検出器52)により求められる角速度θvとに基づいて求めてもよい。
【0094】
〔第三の形態のアシスト装置10〕
図15は、第三の形態のアシスト装置10(利用者に装着した状態)を示す斜視図である。このアシスト装置10は、利用者の上半身に装着される第一装着具11と、その利用者の左右の脚に装着される左右の第二装着具12L,12Rと、第一装着具11と第二装着具12L,12Rとを通じて利用者にアシスト力を与えるためのアクチュエータ9と、利用者の上半身の傾斜角度を検出するための検出部として3軸の加速度センサ33とを備える。この点について、第一の形態に係るアシスト装置10と同じである。
図15に示す第三の形態では、第二装着具12L,12Rは、脚のうち膝部に装着される。
【0095】
第一装着具11は、柔軟性を有する布地等によって構成されている。第一装着具11は、利用者の背中に装着される背本体部61と、背本体部61と繋がる肩ベルト62及び腰部ベルト63とを有する。背本体部61が利用者に背負われた状態となる。肩ベルト62及び腰部ベルト63はその長さが調整可能であり、その調整により背本体部61が利用者の背中に密着した状態となる。第一装着具11は利用者の上半身に対して前後、左右、及び上下方向に移動不能となって装着される。
【0096】
左右の第二装着具12L,12Rは、左右反対形状であるが、同じ構成を有する。左右の第二装着具12L,12Rそれぞれは、柔軟性を有する布地等によって構成されている。第二装着具12L,12Rそれぞれは、利用者の膝部BNの後面側に装着される膝本体部64と、膝本体部64から延びて設けられている膝ベルト65とを有する。膝ベルト65は、膝部BNを周回し、面ファスナ等により膝本体部64に固定される。膝ベルト65の固定位置が調整されることにより、第二装着具12L,12Rそれぞれは膝部BNに密着した状態となる。第二装着具12L,12Rそれぞれは膝部BNに対して前後、左右、及び上下方向に移動不能となって装着される。
【0097】
アクチュエータ9は、第一装着具11と第二装着具12L,12Rそれぞれとを結ぶようにして利用者の背面側に沿って設けられるベルト体70と、そのベルト体70の一部の巻き取り及び送り出しを可能とする巻き取りユニット71とを備える。ベルト体70は、利用者の上半身側に対応する第一ベルト部70aと、利用者の下半身側に対応する第二ベルト部70bと、第一ベルト部70aと第二ベルト部70bとを連結している連結部材72とを有する。第一ベルト部70a及び第二ベルト部70bそれぞれは、長尺であり、可撓性を有する。
【0098】
巻き取りユニット71は、第一装着具11(背本体部61)に取り付けられているバックパック部24内に設けられている。
図16は、巻き取りユニット71の説明図である。巻き取りユニット71は、モータ73、そのモータ73により回転可能でありベルト体70を巻き取るドラム74を有する。巻き取りユニット71がベルト体70を巻き取ることで、ベルト体70に張力が作用する。その張力により利用者の作業を補助するアシスト力が生まれ、利用者の身体の負担が軽減される。例えば、利用者が、荷重を手で支えながら(荷物を手で持って)前傾姿勢から直立姿勢になる際、巻き取りユニット71がベルト体70を巻き取ることで、そのベルト体70に張力が作用する。その張力により利用者が前傾姿勢から直立姿勢になりやすく、利用者の身体の負担が軽減される。
【0099】
また、利用者が、直立姿勢から前傾姿勢になる際、つまり、持ち下げ動作を行う際、ベルト体70をドラム74に巻き取る方向のトルクを発生させながら、ベルト体70をドラム74から繰り出すように、巻き取りユニット71は動作する。利用者が持ち下げ動作を行う際、その利用者の上半身が前傾となっていく動作に対して制動するようなアシスト力を巻き取りユニット71は発生させる。このアシスト力は、ドラム74が巻き取ろうとするベルト体70の張力に基づき、このアシスト力により、持ち下げ動作の際に、利用者の身体の負担が軽減される。また、利用者が前傾姿勢を停止させても、ベルト体70の張力により、その姿勢が維持され、身体の負担が軽減される。
以上のようなベルト体70及び巻き取りユニット71を有するアクチュエータ9は、第一装着具11と第二装着具12L,12Rとを通じて利用者にアシスト力を与えるアシスト動作を行うことができる。
【0100】
第三の形態に係るアシスト装置10においても、第一の形態と同様、持ち下げ動作処理を行う制御装置15を備える。その制御装置15は(
図7参照)、演算処理ユニット(CPU)を含む処理部(処理装置)16、各種プログラム及びデータベース等の情報を記憶する不揮発性メモリ等からなる記憶装置17、及び、モータ73を制御するためのモータドライバ18等を有する。処理部16は、第一の形態と同様、
図8に示すように、利用者の上半身の傾斜角度θhを検出すると共に、検出した傾斜角度θhから、利用者の上半身の傾斜角度θhの時間変化(角速度)θvを演算により求める。
【0101】
処理部16は、第一の形態と同様(
図8参照)、利用者の上半身の傾斜角度θhが大きくなるにしたがってアシスト力を大きくするために第一処理を行う。更に、処理部16は、傾斜角度θhの時間変化(角速度)θvが大きくなるにしたがってアシスト力を小さくするために第二処理を行う。処理部16は、前記第一処理の結果と前記第二処理の結果とにより、アシストパラメータとしてアシストトルクの指令値τaを求める。その指令値τaに応じた出力でモータ73は動作する。各処理の具体例については、
図8~
図12に示す処理と同様であり、ここでは、その説明を省略する。
【0102】
第三の形態のアシスト装置10は、利用者が持ち上げ動作を行う場合であっても、持ち下げ動作を行う場合であっても、巻き取りユニット71がベルト体70を巻き取ることでアシスト動作を行う。そのアシスト動作は、巻き取りユニット71がベルト体70を巻き取ることで、そのベルト体70に作用する張力を第一装着具11と第二装着具12L,12Rとを通じて利用者に与える動作である。
【0103】
処理部16が求めるアシストトルクの指令値τaは、巻き取りユニット71(ドラム74)がベルト体70を巻き取るトルクの値である。このトルクは、巻き取りユニット71が有するモータ73により発生する。つまり、モータ73のトルクによって巻き取りユニット71が出力するトルクが、アシスト装置10による「アシストトルク」である。
【0104】
第三の形態においても、処理部16は、前記第二処理として、利用者の前傾動作の加減速を求め、
図12により説明したように、加速の場合に、減速の場合よりも、アシスト力を小さくする割合を高める処理を行うように構成されていてもよい。
【0105】
以上のように、
図15及び
図16に示すアシスト装置10(第三の形態)が備えるアクチュエータ9は、次のように構成されている。
つまり、アクチュエータ9は、ドラム74及びそのドラム74を回転させるモータ73を含み第一装着具11に取り付けられている巻き取りユニット71と、ベルト体70とを有する。ベルト体70は、その一端側がドラム74に巻きつけられていて、その他端側が第二装着具12L,12Rに取り付けられている。ドラム74がベルト体70の一部を巻き取る方向のトルクを、モータ73が発生させる。
【0106】
この構成により、利用者が、例えば荷物を持ち下げる場合、つまり、手に持っている荷物を床等に置く場合、直立姿勢から前傾姿勢となるが、アシスト装置10は、前傾姿勢にある上半身を直立姿勢とする方向にアシスト力を発生させることができる。つまり、アシスト装置は、利用者の上半身が前傾となっていく動作に対して制動するようなアシスト力を発生させることができる。
【0107】
〔各形態のアシスト装置10について〕
前記の第一、第二及び第三の各形態のアシスト装置10では、制御装置15が、アクチュエータ9に所望のアシスト力を発生させるためのアシストトルクの指令値τaを求めると共に、その指令値τaに応じた出力でアクチュエータ9を動作させる制御を実行する。制御装置15は、利用者が上半身を前傾とする動作を行う際に、その利用者に対して直立姿勢となる方向のアシスト力を付与するための前記指令値τaを、利用者の上半身の傾斜角度θhと、その傾斜角度θ)の時間変化θvとに基づいて求める。制御装置15は、更に、前記時間変化θvが大きくなると前記アシスト力を小さくするためのアシスト抑制処理を実行可能である。
【0108】
このような各形態のアシスト装置10によれば、利用者の上半身の傾斜角度θhを用いてアシストトルクの指令値τaが求められる。上半身が大きく前傾していて傾斜角度θhが大きい場合、アシスト装置10は大きなアシスト力を発生させる。これにより、例えば、利用者の腰部への負担をより一層効果的に軽減することが可能となる。更に、アシストトルクの指令値τaが、利用者の上半身の傾斜角度θhのみではなく、その傾斜角度θhの時間変化(角速度)θvも用いられて求められる。特に、傾斜角度θhの時間変化θvが大きくなるとアシスト力を小さくするための処理が実行される。このため、利用者が上半身を比較的大きく前傾させ、その動作を一旦停止し、その後、上半身を更に前傾させる場合に、その上半身が動き出すと、傾斜角度θhの時間変化θvに応じてアシスト力を小さくすることが可能となり、利用者は、更に前傾姿勢になり易い。
【0109】
前記の第一、第二及び第三の各形態のアシスト装置10によれば、利用者が例えば荷物を持ち下げる動作を行う際、上半身の傾斜角度θhが大きくなるにしたがってアシスト力が大きくなる。所定の傾斜角度θhの前傾姿勢で利用者が停止すると、傾斜角度θhの時間変化θvはゼロとなり、比較的大きなアシスト力によりその前傾姿勢θhが維持され、その結果、利用者の負担が軽減される。そして、利用者が、更に前傾動作を開始して、傾斜角度θhの時間変化θvが大きくなると、アシスト力を小さくする方向にアシストトルクの指令値τaが求められる。このため、利用者は前傾姿勢になり易い。
【0110】
以上、前記各形態のアシスト装置10によれば、利用者が上半身を前傾とする動作を行う際に、上半身の傾斜角度θhが大きくなるとアシスト力を大きくすること、及び、その状態から更に前傾動作を行う場合に、動き易くすることを、両立できる。
また、利用者が前傾となる動作を比較的速く行うことで、その傾斜角度θhの時間変化θvが大きくなると、制御装置15は、アシスト力を小さくする方向にアシストトルクの指令値τaを求める。このため、利用者は前傾姿勢になり易い。
【0111】
〔その他〕
前記各形態のアシスト装置10が備える各部の機構は、図示した構成以外であってもよい。例えば、第一装着具11は、利用者の上半身に装着される構成であればよく、図示した形態以外であってもよい。第二装着具12L,12Rは、利用者の左右の脚に装着される構成であればよく、図示した形態以外であってもよい。
図1及び
図13に示す形態において、アクチュエータ9は、前後に揺動することでアシストトルクを利用者に付与するアーム37を有していれば、そのアクチュエータ9の構成についても、他であってもよい。
図15に示す形態において、アクチュエータ9は、ベルト体70を巻き取る構成であればよく、そのアクチュエータ9の構成について、他であってもよい。
【0112】
前記各形態では、上半身の傾斜角度(θh)を検出するための検出部は、3軸の加速度センサ33である場合について説明したが、その他であってもよく、利用者の上半身の姿勢に応じて出力が変化するセンサであればよい。
前記の各形態では、処理部16は、アシスト動作のためのアシストパラメータをトルク値(アシストトルク)として求めているが、アシストパラメータは、トルク値以外の別のパラメータであってもよく、荷重(力)であってもよい。
【0113】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0114】
9:アクチュエータ 10:アシスト装置
11:第一装着具 12L,12R:第二装着具
13L,13R:駆動ユニット 15:制御装置(制御部)
33:加速度センサ(検出部) 37:アーム
52:第二検出器(検出部) 53:センサ(検出部)
70:ベルト体 71:巻き取りユニット
73:モータ 74:ドラム