(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】分光測定装置
(51)【国際特許分類】
G01J 3/18 20060101AFI20240514BHJP
G01J 3/32 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
G01J3/18
G01J3/32
(21)【出願番号】P 2020139157
(22)【出願日】2020-08-20
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097548
【氏名又は名称】保立 浩一
(72)【発明者】
【氏名】山田 剛
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-7669(JP,A)
【文献】国際公開第2007/083755(WO,A1)
【文献】特開2002-156614(JP,A)
【文献】特開2002-62550(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0016769(US,A1)
【文献】特開2020-60537(JP,A)
【文献】特開2016-161845(JP,A)
【文献】国際公開第2017/175747(WO,A1)
【文献】特開2004-170118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/00-G01J 4/04
G01J 7/00-G01J 9/04
G01N 21/00-G01N 21/01
G01N 21/17-G01N 21/61
G02B 6/12-G02B 6/14
G02F 1/00-G02F 1/125
G02F 1/21-G02F 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択され得る複数の異なる波長を含む帯域の光を出射する光源と、
光源から出射された光を波長分割する導波路型の波長分割素子と、
波長分割素子で分割された各波長の光のうち特定の波長の光が選択的に対象物に照射されるように光を変調する変調素子と、
変調素子を制御する変調制御部と、
変調素子で変調された光が照射された対象物からの光を受光する受光器と、
変調素子により選択的に照射された光の波長に
おける対象物の光学特性を受光器からの出力を処理することで得るデータ処理ユニットと
を備えており、
変調制御部は、波長分割素子で分割された各波長の光のうち任意の一つの波長のみが選択されるように変調素子を制御することが可能であるとともに任意の複数の波長が選択されるように変調素子を制御することが可能であり、波長の選択を所定の順序で変化させるシーケンス制御プログラムが実装されていることを特徴とする分光測定装置。
【請求項2】
前記導波路型の波長分割素子は、アレイ導波路回折格子であることを特徴とする請求項1記載の分光測定装置。
【請求項3】
前記変調素子は、電気光学変調器、熱光学型変調器、音響光学変調器又は機械式ファイバースイッチであることを特徴とする請求項1又は2記載の分光測定装置。
【請求項4】
前記光源は、ファイバー光源であることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の分光測定装置。
【請求項5】
前記ファイバー光源は、スーパーコンティニウム光源であることを特徴とする請求項4記載の分光測定装置。
【請求項6】
前記導波路型の波長分割素子における各波長の出射端と前記変調素子とは中継ファイバーで接続されていることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の分光測定装置。
【請求項7】
前記変調制御部は、アダマールマスクの入れ替えに相当するように前記変調素子を制御する
ことが可能となっており、
前記データ処理ユニットは、前記受光器からの出力を処理してアダマール分光を行うユニットであることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の分光測定装置。
【請求項8】
前記受光器は、対象物からの光を二次元で受光する二次元アレイ受光器であることを特徴とする請求項1乃至7いずれかに記載の分光測定装置。
【請求項9】
前記変調素子で変調された光が照射された対象物からの光をさらに分光する分光光学系が設けられており、前記受光器は、分光光学系が分光した光を受光する受光器であること特徴とする請求項1乃至7いずれかに記載の分光測定装置。
【請求項10】
前記光源はパルス光源であり、
前記光源が出射させるパルス光に同期した同期信号を発生させる同期信号発生部が設けられており、
前記受光器は、前記変調素子により変調されたパルス光が照射された対象物において発生した蛍光を受光する蛍光用受光器であり、
前記データ処理ユニットは、同期信号発生部が発生させた同期信号と蛍光用受光器の出力とに従って時間相関単一光子計数法を行うモジュールを含んでいることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の分光測定装置。
【請求項11】
前記変調制御部は、前記波長分割素子で分割されて出射する全ての波長の光を同時に対象物に照射する変調を行うことができるものであることを特徴とする請求項1乃至10いずれかに記載の分光測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、特定の波長について対象物の光特性を測定する分光測定の技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
対象物に光照射し、その対象物からの透過光や反射光等を分光器で分光してスペクトルを測定する分光測定の技術は、材料分析の手法として代表的なものの一つである。典型的な分光測定の手法は、回折格子を用いる手法である。入射スリットから入射する被測定光を凹面鏡によって平行光にして回折格子に照射し、回折格子からの分散光を同様に凹面鏡で集光し、集光位置に受光器を配置して検出する。回折格子の姿勢を変化(スキャン)させることで、受光器には順次異なった波長の光が入射し、受光器の出力が分光スペクトルとなる。
【0003】
このような分光測定の技術分野において、特定の波長の光のみを選択的に受光器で受光する装置が知られている。特許文献1や特許文献2は、この種の装置を開示するものである。
特定の波長の光のみを選択的に受光する場合、バンドパスフィルタのようなフィルタを介して受光するか、レーザーのような特定の波長の光のみを出射する光源を使用して対象物に光照射してその対象物からの光を受光する構成が考えられる。しかしながら、このような手法であると、選択する波長を変更することが難しい。フィルタを数多く用意して交換することが考えられるが、高コストで構造的にも複雑になる。波長の異なる光源を多数用意して交換しながら光照射することも、コストや構造の点で非現実的である。このようなことから、特許文献1や特許文献2の装置が提案されている。
【0004】
これら特許文献で提案された装置は、ある程度広い波長帯域(選択する可能性のある波長が含まれる帯域)の光を出射する光源からの光を回折格子等の分散素子で空間的に分散させ、デジタルミラーデバイス(DMD)のような空間光変調器で特定の波長の光のみを選択的に取り出して利用する構成となっている。選択する波長を変更する場合には、空間光変調器を制御することで行う。
上記特許文献の他、分散素子としてプリズムを使用したもの(非特許文献1)や、LCOS(Liquid Crystal on Silicon)型の空間光変調器を使用したもの(非特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許8406859号公報
【文献】特開2004-361201号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Applied Optics, Vol. 56, No. 8 / March 10 2017 / 2359-2367
【文献】NATURE PHOTONICS | VOL 10 | AUGUST 2016 534-541
【文献】J. Plasma Fusion Res. Vol.92, No.12 (2016)917‐921
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した各特許文献や各非特許文献に開示された装置では、回折格子やプリズムのような空間分散素子を使用し、自由空間で光を波長分割して選択している。このため、温度等の環境条件や振動のような外乱の影響を受け易く、信頼性の高い測定を安定して行うことができないという課題がある。
【0008】
例えば、回折格子やプリズムといった分散素子は、温度によって屈折率が変化し、分散させた各波長の光が進む位置が僅かに変化する。このため、DMDのような空間光変調器に光が達する際の位置も僅かに変化してしまい、選択される波長も、予定されていたものからずれてしまう。空間光変調器についても、温度依存性を持つ場合があり、温度変化により波長選択の再現性が低下する場合がある。選択波長の再現性低下は、振動のような機構的外乱によっても生じる。分散素子による各波長の分散位置は振動によって空間的に変位するし、DMDのようなメカニカルな空間光変調器の場合には機構的外乱の影響を受け易い。特に、上述した各特許文献や各非特許文献に開示された装置では、分散素子と空間光変調器とが自由空間を経て接続されているため、温度変化や機構的外乱によって分散素子と空間光変調器の相対的な変位が生じ、選択波長が変化し易い。
本願の発明は、任意波長選択型の分光測定の技術における上記課題を解決するために為されたものであり、環境条件の変化や機構的外乱の影響を受けにくくして高信頼性の任意波長選択型分光測定を安定して行えるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本願発明の分光測定装置は、選択され得る複数の異なる波長を含む帯域の光を出射する光源と、光源から出射された光を波長分割する導波路型の波長分割素子と、波長分割素子で分割された各波長の光のうち特定の波長の光が選択的に対象物に照射されるように光を変調する変調素子と、変調素子を制御する変調素子制御部と、変調素子で変調された光が照射された対象物からの光を受光する受光器と、変調素子により選択的に照射された光の波長における対象物の光学特性を受光器からの出力を処理することで得るデータ処理ユニットとを備えており、変調素子制御部は、波長分割素子で分割された各波長の光のうち任意の一つの波長のみが選択されるように変調素子を制御することが可能であるとともに任意の複数の波長が選択されるように変調素子を制御することが可能であり、波長の選択を所定の順序で変化させるシーケンス制御プログラムが実装されている。
また、上記課題を解決するため、この分光測定装置において、導波路型の波長分割素子は、アレイ導波路回折格子であり得る。
また、上記課題を解決するため、この分光測定装置において、変調素子は、電気光学変調器、熱光学型変調器、音響光学変調器又は機械式ファイバースイッチであり得る。
また、上記課題を解決するため、この分光測定装置において、光源は、ファイバー光源であり得る。
また、上記課題を解決するため、この分光測定装置において、光源は、スーパーコンティニウム光源であり得る。
また、上記課題を解決するため、この分光測定装置は、導波路型の波長分割素子における各波長の出射端と変調素子とが中継ファイバーで接続されているという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、この分光測定装置は、変調制御部は、アダマールマスクの入れ替えに相当するように変調素子を制御することが可能であり、データ処理ユニットは、受光器からの出力を処理してアダマール分光を行うユニットであるという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、この分光測定装置において、受光器は、対象物からの光を二次元で受光する二次元アレイ受光器であり得る。
また、上記課題を解決するため、この分光測定装置は、変調素子で変調された光が照射された対象物からの光をさらに分光する分光光学系が設けられており、受光器は、分光光学系が分光した光を受光する受光器であるというという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、この分光測定装置は、光源はパルス光源であり、変調素子で変調された光を分割してその一方の対象物に照射する分割素子が設けられており、受光器は、分割された一方の光が照射された対象物において発生した蛍光を受光する蛍光用受光器であり、分割素子で分割された他方の光が対象物を経ることなく入射する位置に配置された同期用受光器が設けられており、データ処理ユニットは、同期用受光器の出力及び蛍光用受光器の出力に従って時間相関単一光子計数法を行うモジュールを含んでいるという構成を持ち得る。
また、上記課題を解決するため、この分光測定装置において、変調制御部は、波長分割素子で分割されて出射する全ての波長の光を同時に対象物に照射する変調を行うことができるものであり得る。
【発明の効果】
【0010】
以下に説明する通り、本願発明の分光測定装置によれば、任意波長選択型の分光測定装置において、波長分割素子として導波路型であるアレイ導波路回折格子を使用し、分割された各波長の光を変調素子で変調しており、自由空間での波長分割及び波長選択の構成ではないので、使用環境や外乱の影響を受けにくい。このため、波長選択の精度が高く、任意波長選択の分光測定を精度良く安定して行うことができる。
また、波長分割素子がアレイ導波路回折格子である構成では、分割数を多くするのが容易であるので、この点で好適となる。
また、光源がファイバー光源である構成では、波長分割素子との接続についても自由空間を経ないで行うことができるので、この点でより好適となる。
また、光源がスーパーコンティニウム光源である構成では、上記効果を得つつ選択可能波長帯域を広くできるので、この点でより好適となる。
また、波長分割素子における各波長の出射端と変調素子とが中継ファイバーで接続されている構成では、既存の波長分割素子を用いることができるので、この点で実用的となる。
また、アダマールマスクの入れ替えに相当するように変調素子を制御する変調制御部が設けられており、データ処理ユニットが受光器からの出力を処理してアダマール分光を行うユニットであると、極めて簡便な構成にてアダマール分光を行うことができ、また使用環境や外乱の影響を受けにくい。そして、対象物に対して瞬時的に与えられる光エネルギーが小さいので、耐熱性や耐光性の低い対象物についても好適にアダマール分光による分析をすることができる。
また、受光器が対象物からの光を二次元で受光する二次元アレイ受光器である構成では、任意波長選択照射型の分光測定を二次元で行うことができ、特にハイパースペクトル画像を容易に得ることができる。
また、変調素子で変調された光が照射された対象物からの光をさらに分光する分光光学系が設けられており、受光器が分光光学系が分光した光を受光する受光器であると、対象物からの光をさらに分光した結果を測定結果として得ることができ、特に蛍光観察の用途において有益な装置となる。
また、光源がパルス光源であって、分割素子で分割された一方の光が入射した対象物において発生した蛍光を蛍光用受光器が捉え、他方の光が入射する位置に同期用受光器が設けられており、蛍光用受光器及び同期用受光器からの入力に従って時間相関単一光子計数法が行われる構成であると、励起光の波長と蛍光寿命との関係を極めて短時間に調べることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第一の実施形態に係る分光測定装置の概略図である。
【
図2】波長分割素子として使用されたアレイ導波路回折格子の平面概略図である。
【
図3】第二の実施形態の分光測定装置の概略図である。
【
図4】時間相関単一光子計数法を行う第三の実施形態の分光測定装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この出願の発明を実施するための形態(実施形態)について説明する。
図1は、第一の実施形態に係る分光測定装置の概略図である。この分光測定装置は、複数の異なる波長のうちから一つ又は複数の波長を任意に選択して当該波長の光を対象物Sに照射し、光照射された対象物Sからの光を受光器7で受光する装置である。
ここでの波長は、厳密な意味で考えると波長帯である。即ち、例えば1100nmの波長の光とはいっても、厳密には1095nm~1104nmの波長の光を意味するといった具合に、厳密に表現すれば「波長帯」ということになる。このように厳密には波長帯であるが、煩雑となるので、以下の説明では単に「波長」と表現する。したがって、ある波長を含む帯域とは、その波長の厳密な意味での帯域よりも広い帯域ということになる。
【0013】
図1に示すように、実施形態の分光測定装置は、光源1と、波長分割素子2と、変調素子3とを備えている。
光源1は、対象物Sに照射して光特性を知る必要がある波長を含む帯域(以下、測定可能波長帯域という。)の光を出射する光源である。したがって、対象物Sの種類や知るべき光特性に応じて選定される。この実施形態では、光源1には、ファイバー光源が使用されており、特にスーパーコンティニウム光(以下、SC光と記す。)を出射するスーパーコンティニウム光源が使用されている。この明細書では、出射部がファイバーである光源を広くファイバー光源と呼んでいる。ファイバーレーザーが典型的なファイバー光源であるが、測定可能波長帯域という広い波長帯域の光を出射させる必要があるため、この実施形態では光源1としてSC光源が使用されている。
【0014】
具体的には、光源1は、超短パルスレーザ源11と、非線形素子12とを備えている。超短パルスレーザ源11としては、ゲインスイッチレーザ、マイクロチップレーザ、ファイバーレーザ等を用いることができる。非線形素子12としては、ファイバーが使用されている。例えば、フォトニッククリスタルファイバーやその他の非線形ファイバーが非線形素子12として使用できる。ファイバーのモードとしてはシングルモードの場合が多いが、マルチモードであっても十分な非線形性を示すものであれば、非線形素子12として使用できる。
【0015】
SC光は、超短パルスレーザ源からの光をファイバーのような非線形素子に通し、自己位相変調や誘導ラマン散乱のような非線形光学効果により波長を広帯域化させることで得られる光である。超短パルスレーザ源や非線形素子として適宜のものを選択すると、任意の波長帯域に広がった光を得ることができる。この実施形態では、近赤外域での分光分析を想定しているため、例えば1100~1200nm程度の波長帯域に亘って連続したスペクトルのSC光を出射するものが使用されている。但し、1000~1300nm程度というようにさらに広い帯域のSC光を出射する光源を光源1として使用されることもある。
【0016】
波長分割素子2は、この実施形態の装置を大きく特徴づけている。この実施形態では、従来とは異なり、導波路型の波長分割素子2が使用されている。導波路型の波長分割素子とは、自由空間ではなく、固体材料で形成された光路(導波路)を通して光を伝搬させる際に光を波長分割する素子を指している。具体的には、この実施形態では、アレイ導波路回折格子(AWG)が波長分割素子2として使用されている。
【0017】
図2は、波長分割素子2として使用されたアレイ導波路回折格子の平面概略図である。
アレイ導波路回折格子は、光通信用として開発された素子であり、光測定用としての利用は知られていない。
図2に示すようにアレイ導波路回折格子は、基板21上に各機能導波路22~26を形成することで構成されている。各機能導波路は、光路長が僅かずつ異なる多数のグレーティング導波路22と、グレーティング導波路22の両端(入射側と出射側)に接続されたスラブ導波路23,24と、入射側スラブ導波路23に光を入射させる入射側導波路25と、出射側スラブ導波路24から各波長の光を取り出す各出射側導波路26となっている。
【0018】
入射側導波路25を通って入射した光は、入射側スラブ導波路23において広がり、各グレーティング導波路22に入射する。各グレーティング導波路22は、僅かずつ長さが異なっているので、各グレーティング導波路22の終端に達した光は、この差分だけ位相がそれぞれずれる(シフトする)。各グレーティング導波路22からは光が回折して出射するが、回折光は互いに干渉しながら出射側スラブ導波路24を通り、出射側導波路26の入射端に達する。この際、位相シフトのため、干渉光は波長に応じた位置で最も強度が高くなる。つまり、各出射端導波路26には波長が順次異なる光が入射するようになり、光が空間的に波長分割される。厳密には、そのように分割される位置に各入射端が位置するよう各出射側導波路26が形成される。
【0019】
図2に示すようなアレイ導波路回折格子は、光通信の分野で波長分割多重通信 (WDM)用に開発されたものであるが、発明者は、用途及び波長域は大きく異なるものの、実施形態の分光測定装置において任意波長選択のための波長分割素子2として使用できることを見出したものである。
このようなアレイ導波路回折格子は、例えばシリコン製の基板21を表面処理することで作製することができる。具体的には、シリコン製の基板21の表面に火炎堆積法によりクラッド層(SiO
2層)を形成し、コア用のSiO
2-GeO
2層を同様に火炎堆積法により形成した後、フォトリソグラフィによりSiO
2-GeO
2層をパターン化して各導波路22~26を形成し、更にオーバークラッド層(SiO
2層)を形成することにより作製される。各グレーティング導波路22の線幅は、例えば5~6μm程度である。
形成するグレーティング導波路22の数は、波長分割数にもよるが、例えば1000~1300nm程度の波長帯域幅に亘って10~100個程度の波長帯域に分割する場合、グレーティング導波路の数は30~300本程度であり、光は3~30nmずつ違う波長に分割されて出射される。
【0020】
変調素子3も、この実施形態の分光測定装置を大きく特徴づけている。変調素子3としては、この実施形態では、電気光学変調器(EOM)が使用されている。電気光学変調器は、電気光学結晶に電圧を印加すると屈折率が変化することを利用した素子で、電気光学結晶としては例えばニオブ酸リチウムが使用される。
変調素子3が行う変調は振幅変調であり、オンオフ(透過、遮断)である。
図1に示すように、波長分割素子2と各変調素子3は、中継ファイバー4で接続されている。
図2に示すように、各中継ファイバー4の入射端は、波長分割素子2としてのアレイ導波路回折格子の各出射側導波路26に接続されている。各中継ファイバー4の出射端に、各変調素子3が取り付けられている。
【0021】
図1に示すように、装置は、変調素子3を制御する変調制御部30を備えている。変調制御部30は、各変調素子3に制御信号を送信する制御部である。具体的には、変調制御部30は、各変調素子3を選択的に動作させ、選択された変調素子3については光を透過させ、選択されなかった変調素子3については光を遮断させる制御部である。
図1に示すように、各変調素子3の出射側には、出射ファイバー5が接続されている。出射ファイバー5は終端は一つに束ねられており、そこに出射端素子51が設けられている。出射端素子51としては、例えばアレイ導波路回折格子が使用される。即ち、アレイ導波路回折格子を波長分割素子として使用する場合とは逆向きに光を入射することにより、各出射ファイバー5からの光を1本の導波路に合波することができる。また出射端素子51として、バンドルファイバーやファンイン/ファンアウトデバイスが使用される場合もあり得る。
尚、変調素子は光のオンオフを行うと説明したが、オフの状態は、変調素子3の構成によっては異なる態様を取り得る。光がそこで減衰して強度が実質的にゼロになる場合もあるし、通常とは異なる方向に反射することで出射ファイバー5に入射しなくなる(伝送されなくなる)場合もあり得る。
【0022】
この実施形態では、出射端素子51から出射される光を対象物Sに照射するための照射光学系50が設けられている。照射光学系50は、コリメートレンズ52を含んでいる。コリメートレンズ52は、対象物Sのサイズに応じてビームをコリメートして照射するための素子である。
この例では、対象物Sは受け板6に載置されるようになっており、照射光学系50は受け板6上の対象物Sに照射するための光学系である。この例ではミラーを使用しているが、導光用ファイバーを使用する場合もある。導光用ファイバーを使用する場合、出射端素子51に導光用ファイバーを接続し、その終端にコリメートレンズ52を取り付ける構成が採用され得る。
【0023】
実施形態の装置は、対象物Sの透過特性を分析する装置となっており、従って対象物Sの透過光を受光する位置に受光器7が配置されている。受光器7は、測定可能波長帯域の全域に亘って感度を有するものであり、例えばSiやInGaAsといった半導体受光セルを使用したものが使用される。二つの異なる受光器が交換されながら使用されることもある。
【0024】
図1に示すように、実施形態の分光測定装置は、測定データを処理するデータ処理ユニット8を備えている。データ処理ユニット8は、この例ではPCのような汎用コンピュータで構成されている。
データ処理ユニット8は、プロセッサ81や記憶部(ハードディスク、メモリ等)82を備えている。記憶部82には、受光器7からのデータを処理して測定結果を得るデータ処理プログラム83やその他の必要なプログラムがインストールされている。尚、受光器7とデータ処理ユニット8との間にはADコンバータ80が設けられており、受光器7の出力はデジタル化されてデータ処理ユニット8に入力されるようになっている。
【0025】
この例では、データ処理ユニット8は、装置全体を制御する制御ユニット及びデータ入力ユニットにも兼用されている。即ち、データ処理ユニット8には、各部を所定のシーケンスで制御する測定シーケンス制御プログラム84や、任意波長選択のための入力をさせる波長選択入力プログラム85等が実装されている。
図1に示すように、データ処理ユニット8は、表示部801や入力部802を備えている。波長選択入力プログラム85は、任意波長を選択する画面を表示部801に表示し、入力部802で入力させるプログラムである。入力により選択された波長の情報(選択波長情報)は、記憶部82に一時的に記憶され、データ処理プログラム83が実行される際に引数として渡されるようになっている。
【0026】
尚、波長選択入力プログラム85による波長の選択は、波長分割素子2における波長分割を単位として行われる。波長分割素子2が、λ1~λnまでのn個の波長を選択する構成である場合、変調素子3もn個設けられて、それぞれ中継ファイバー4により接続される。この場合、波長選択プログラムにおいて、n個の波長のうちの特定の一つを選択することも可能とされ、λ1~λ5のように連続した複数の波長を選ぶことも可能とされる。さらに、連続していない(とびとびの)複数の波長を選ぶことも可能とされ、全波長を選ぶことも可能とされる。
【0027】
このような実施形態の分光測定装置の動作について、以下に説明する。
測定者は、受け板6に対象物Sを載置するとともに入力部802において測定波長の入力をする。そして、入力部802から測定開始の指令を入力すると、データ処理ユニット8にインストールされた測定シーケンス制御プログラム84が実行される。
測定シーケンス制御プログラム84は、光源1を動作させ、SC光を出射させる。出射されたSC光は、波長分割素子2で波長分割され、変調素子3で変調されて出射する。そして、コリメートレンズ52でビームがコリメートされて対象物Sに照射される。この際、測定シーケンス制御プログラム84は、変調制御部30に制御信号を送る。この制御信号は、選択された波長に対応する変調素子3を動作させ、それ以外の変調素子3は動作しないようにする信号である。変調制御部30は、この制御信号に従って各変調制御部30を制御し、選択された波長の変調素子3のみをオンにする。
【0028】
この結果、対象物Sには、選択された波長の光のみが照射される。対象物Sに入射して透過した光は、受光器7に達し、その強度が検出されてそのデータがADコンバータ80を介してデータ処理ユニット8に入力される。
データ処理ユニット8で実行されるデータ処理プログラム83は、必要なデータ処理を行ってその結果を表示部801に表示する。必要なデータ処理とは、吸収率の測定の場合、対象物Sを受け板6に配置しない状態で測定した参照値のうち当該波長(選択された波長)の参照値と比較して吸収率を算出する処理である。
尚、全波長が順次選択された場合、全波長が対象物Sに照射されてその透過光が受光器7で受光され、それが各参照値と比較されるので、測定結果は測定可能波長帯域の全域についての吸収スペクトルということになる。
【0029】
実施形態の分光測定装置によれば、任意波長選択型の分光測定装置において、波長分割素子2として導波路型であるアレイ導波路回折格子を使用し、分割された各波長の光を変調素子3でオンオフしており、自由空間での波長分割及び波長選択の構成ではないので、使用環境や外乱の影響を受けにくい。このため、波長選択の精度が高く、任意波長選択の分光測定を精度良く安定して行うことができる。
【0030】
また、この実施形態では、波長分割素子2と変調素子3とを中継ファイバー4で接続しているので、より実用的な構成となっている。中継ファイバー4を使用しない場合、波長分割素子2の各出射端(分割された各波長の光が出射される各端部)に各変調素子3を直接設ける構成が考えられる。しかしながら、波長分割素子2として採用されたアレイ導波路回折格子の場合、このようなことが可能なものは市販されていないので、自作する必要がある。そのような面倒がない点で、中継ファイバー4を使用する構成は実用的である。
尚、分割素子2としてのアレイ導波路回折格子の出力はシングルモードであり、変調素子3もシングルモード動作の場合が多いので、中継ファイバー4はシングルモードファイバーであることが望ましい。
【0031】
このような実施形態の分光測定装置は、いわゆるアダマール分光(アダマール変換分光)を行う装置として構成することも可能である。以下、この点について説明する。
特許文献2や非特許文献3に記載されているように、アダマール分光を行う場合、アダマール行列に基づいてアダマールマスクを作成して使用する。例えば非特許文献3に記載されているように、n次のアダマール行列(H行列)からn-1次のS行列を作成し、このS行例に対応するアダマールマスクを作成する。そして各アダマールマスクを順次入れ替えて測定を行う。特許文献2では、プログラマブルミラーによってアダマールマスクの入れ替えに相当する光の制御を行っている。
【0032】
一方、実施形態の分光測定装置を使用してアダマール分光を行う場合、各変調素子3を制御するシーケンスをアダマールマスクの入れ替えに相当するものとする。即ち、n-1次のS行列に対応した形で光のオンオフがされるようにする。この場合、nは2mの整数であるから、例えば、15個の変調素子3を使用して15次のアダマールマスクの入れ替えに相当するシーケンスで変調素子3は制御され得る。つまり、1回目は1番目(S行列における1行目)のアダマールマスクが再現されるよう各変調素子3をオンオフする。2回目は、2番目(2行目)のアダマールマスクが再現されるよう各変調素子3をオンオフする。これを繰り返し、15回目は、15番目(15行目)のアダマールマスクが再現されるよう各変調素子3をオンオフする。
【0033】
データ処理プログラム83は、上記のように各変調素子3がシーケンス制御されて得られた各測定値からスペクトルを得るようプログラミングされる。上記の15次のアダマールマスクを例にすると、15回の測定における各測定値についてS行列の逆行列を掛け合わせ、スペクトルの算出結果とする。
実施形態の分光測定装置を用いてアダマール分光を行う場合(アダマール分光測定装置の場合)、上記のように変調制御部30とデータ処理プログラム83の構成が変更されるが、この構成によれば、アダマールマスクの入れ替えが各変調素子3の制御シーケンスで実現されるので、極めて簡便となる。また、引用文献2のようにプログラマブルミラーを使用する必要もないので、使用環境や外乱の影響を受けにくい。
【0034】
さらに、上記手法では、対象物Sに光照射してそこからの光に対してアダマールマスクを適用するのではなく、アダマールマスクに相当するシーケンスで波長を選択して対象物Sに光照射するので、対象物Sに対して瞬時的に与えられる光エネルギーは小さい。このため、耐熱性や耐光性の低い対象物Sについても好適にアダマール分光による分析をすることができる。
【0035】
次に、第二の実施形態の分光測定装置について説明する。
図3は、第二の実施形態の分光測定装置の概略図である。
第二の実施形態の分光測定装置は、第一の実施形態と同様、対象物Sに対して任意に選択された波長の光を照射する装置となっている。そして、第二の実施形態では、第一の実施形態と異なり、光照射された対象物Sからの反射光を測定する装置となっている。
【0036】
第二の実施形態においても、光源1からの光を波長分割素子2で分割し、変調素子3でオンオフして対象物Sに照射する構成が採用されている。
図3に示すように、第二の実施形態では、照射光学系50は導光用ファイバー53を含んでいる。導光用ファイバー53は出射端素子51に接続されており、その終端にコリメートレンズ52が設けられている。
コリメートレンズ52は、受け板6に載置された対象物Sに対して斜め上から光照射する姿勢で取り付けられており、その反射光を受光する位置にレンズ71を介して受光器7が設けられている。受光器7は、同様にADコンバータ80を介してデータ処理ユニット8に接続されている。
【0037】
この実施形態では、受光器7は、受光セルを二次元に配置した二次元アレイ受光器となっている。二次元アレイ受光器7は、エリアイメージセンサのような撮像素子(カメラ)であり得る。この場合、レンズ71は、対象物Sの表面の像を受光面に結像させるものであり得る。
データ処理ユニット8に実装されたデータ処理プログラム83は、受光器7からの二次元データを処理するプログラムとなっている。データ処理プログラム83は、二次元データ処理の結果を、選択された波長についての対象物Sの表面の二次元の分光測定の結果とする。この場合、選択された波長が単一の波長であれば、当該波長の反射率が対象物Sの表面においてどのように分布しているかの測定結果となる。複数波長が順次選択されている場合、測定結果はいわゆるハイパースペクトル画像となる。全波長を順次選択すると、測定可能波長帯域全域でのハイパースペクトル画像が測定結果として得られる。
尚、反射率の算出に際しては参照値が必要であるので、予め標準反射板を使用して取得しておく。標準反射板は、各波長の反射率が既知である反射板である。標準反射板を使用した際の測定値に対する比率に基づいて対象物Sの表面の反射率が算出される。
【0038】
第二の実施形態の分光測定装置によれば、受光器7が二次元アレイ受光器であるので、対象物Sの分光特性を二次元データとして得ることができ、面内での分光特性の分布等を知る必要がある場合、特に好適なものとなる。そして、複数波長を選択することでハイパースペクトル画像を得ることも可能であり、対象物Sの二次元光特性をより詳細に分析する必要がある場合、特に好適となる。
【0039】
ハイパースペクトル画像を得る従来の方式として、ラインスキャン方式やスナップショット方式が知られている。ラインスキャン方式では、スリットを通過した光を回折格子等で分光し、それをスキャンしながら行うので、構造的に複雑で測定に時間を要する欠点がある。また、測定環境の変化や外乱の影響も受け易い。スナップショット方式では、受光器の入射側に液晶素子等を用いる分光フィルタを組み込んで構成したり、画素ごとに異なる分光フィルタを組み込んだイメージセンサを受光器として使用したりする構成が知られているが、カメラの構造が大型になったり高コストになったりする問題がある。さらに、フィルタ組み込み型イメージセンサを使用する方式では、厳密に同一点の分光データではないため空間分解能が低下し易いという問題がある。実施形態の装置によりハイパースペクトル画像を得る場合、これらの問題はない。
【0040】
尚、従来のハイパースペクトル画像を得る方式は、対象物Sに全波長の光を照射しておいて、照射された対象物Sからの光を二次元で受光しておいて、その際に分光する方式である。一方、この実施形態の装置は、一波長ずつ光を対象物Sに照射しておいて、受光器7からのデータ処理において統合して二次元の分光スペクトルとする方式であり、基本的な考え方が異なっている。実施形態の装置によれば、対象物Sに対して瞬時的に照射される光のエネルギーが小さくなるので、耐熱性の低い対象物や耐光性の低い対象物の場合に特に好適である。
【0041】
第二の実施形態では、反射光を二次元アレイ受光器7で受光して二次元のデータ(反射率データ)を得たが、透過光を二次元アレイ受光器7で受光して二次元の透過率データを得ても良い。但し、どちらかというと、透過光を受光する位置に受光器7を設けた場合、受光器7に入射する光に含まれる散乱光の量が多くなる傾向があるので、反射光について二次元データを取得する構成の方が好ましい。
【0042】
第二の実施形態のように二次元アレイ受光器7を使用する構成において、前述したアダマール分光を行うようにすることも可能である。即ち、前述したようにアダマールマスクの入れ替えに相当するシーケンスで各変調素子3を制御しながら二次元アレイ受光器7で受光し、各受光セル(画素)における出力列(各回の出力データ)について逆行列を掛け合わせて各点の分光スペクトル(上記の例では分光反射率分布)とする。
【0043】
この構成によれば、アダマールマスクの入れ替えが各変調素子3の制御シーケンスで実現されるので、極めて簡便となる。また、引用文献2のようにプログラマブルミラーを使用する必要もないので、使用環境や外乱の影響を受けにくい。
さらに、上記手法では、対象物Sに光照射してそこからの光に対してアダマールマスクを適用するのではなく、アダマールマスクに相当するシーケンスで波長を選択して対象物Sに光照射するので、対象物Sに対して瞬時的に与えられる光エネルギーは小さい。このため、耐熱性や耐光性の低い対象物Sについても好適にアダマール分光による分析をすることができる。
【0044】
上述した各実施形態において、波長分割素子2としてWDMカプラを使用することもできる。選択できる波長は二つ又は三つ程度となるが、その程度の選択で十分なのであれば、WDMカプラをすることで装置コストを下げることができる。但し、アレイ導波路回折格子を波長分割素子2として使用すると、分割数を多くして選択可能な波長数を多くするのが容易であるので、この点で好適となる。
【0045】
また、変調素子3としては、電気光学変調器の他、熱光学型変調器を使用することもできる。例えば、マッハツェンダ干渉計型PLC光スイッチは、分岐部と合波部の途中に設けた一方の導波路を薄膜ヒータで加熱して位相を遅らせることで合波部で光をオフにする構造を有する。このような熱光学型変調器を変調素子3として使用することができる。
また、変調素子3として、音響光学型変調器を使用することもできる。音響光学型変調器は、音響光学結晶の一面に圧電変換器が取り付けられており、高周波信号を圧電変換器に印加することによって結晶内に音響進行波を発生させ、光弾性効果によって特定の波長に対する変調器として動作するよう設計された素子である。このような音響光学型変調器を変調素子3として使用することができる。
【0046】
さらに、各実施形態における変調素子3は、光のオンオフを目的とするので光スイッチということもできるが、機械式光ファイバースイッチを使用することができる。特に、実用化されている機械式光ファイバースイッチの中では、MEMS型光ファイバースイッチを好適に使用することができる。MEMS型光ファイバースイッチは、微細加工により製作したマイクロミラーを駆動して光のオンオフを行う素子である。各実施形態における変調素子3として用いる場合、全ての変調素子3を各スイッチとして微細加工により一つの素子の中に作り込むことも可能であり、装置全体のコンパクト化に貢献できる。この他、機械式ファイバースイッチとしては、プリズムミラーを変位させることでスイッチ動作する素子や、ファイバー自体を変位させることでスイッチ動作する素子なども使用することができる。
変調素子3は、導波路型の波長分割素子2の後段に設けられる素子であるので、上記各変調器も含め、PLC(Planar Lightwave Circuit)型やファイバー型の変調器が一般論として親和性が高く、好適に用いることができる。
【0047】
上記各実施形態では、変調素子3は光のオンオフを行うものであったが、完全に遮断するのではなく、ある程度弱める(振幅を小さくする)変調を行う変調素子が採用されることがあり得る。例えば、波長分割素子2から出射された際の強度の10%以下又は5%以下になるように遮断するものが変調素子3として使用される場合もあり得る。分光測定の用途や目的によっては、非選択の波長の光の強度を弱めるだけで足りる場合もあり、選択された波長の強度に対して非選択の波長の強度が無視できる程度に小さくできる場合、このような変調素子が使用される場合もある。一例として、MEMS型光ファイバースイッチを強度変調素子として利用したVOAアレイ(Variable Optical Attenuator Array、可変光アッテネータアレイ)を用いることができる。
【0048】
また、上記各実施形態において、参照値の取得をリアルタイムに行う構成が採用されることもあり得る。例えば、第一の実施形態の場合、コリメートレンズ52の出射側にビームスプリッタを設けて光を分割し、一方を対象物Sに光照射する照射光学系とし、他方を参照用光学系とする。参照用光学系では、対象物Sが配置されていない受け板6を通して参照用受光器7で光を受光し、その出力を参照値とする。第二の実施形態の場合、参照用光学系は標準反射板に光を照射してその反射光を参照用受光器で受光する構成とされる。いずれの場合も、リアルタイムの参照値の取得になるので、測定結果の信頼性がより高められる。
【0049】
また、光源1として用いたSC光源は、ファイバー光源の一例であるが、ファイバー光源を用いることも、導波路型の波長選択素子2との親和性を考慮したものである。ファイバー光源は、出射部がファイバーであるので、導波路型の波長選択素子2に対して自由空間を経ることなく接続することができる。このため、同様に使用環境や外乱の影響を受けにくい。
光源1としては、この他、ASE(Amplified Spontaneous Emission)光源、SLD(Superluminescent diode)光源等を使用することもできる。さらに、レーザー系の光源である必要はなく、LEDその他のインコヒーレント光源が使用されることもあり得る。これらの光源についても、出射部にファイバーを設けたファイバー光源とすると、同様に使用環境や外乱の影響を受けにくいという効果が得られる。
【0050】
対象物Sとしては、光特性を知る必要があるものであれば、特に制限はない。固体に限らず、液体や気体が対象物Sになる場合もある。例えば、透光性のセル中に対象物Sとして液体又は気体を封入し、透過スペクトルを測定する場合があり得る。
さらに、対象物Sからの光は、透過光や反射光に限らず、散乱光や蛍光の場合もあり得る。尚、いずれの場合も、対象物Sからの光をさらに分光する分光光学系が設けられる場合があり得る。具体的には、対象物Sからの光をレンズで集光し、集光位置にスリットを設ける。そして、スリットを通過した光をコリメーターレンズで平行光にした後に回折格子で分散させ、一次元のアレイ型受光器で受光する(ポリクロメーター)。このような構成は、蛍光の観察において特に効果的である。即ち、対象物Sに照射する光を各変調素子3の制御でスキャンしながら(順次変えながら)発生蛍光を分光分析することで、励起光の波長と発生蛍光のスペクトルとの関係を極めて短時間に調べることができる。
【0051】
また、対象物Sからの蛍光寿命を測定する場合もあり得る。この場合、時間相関単一光子計数法(Time-Correlated Single Photon Counting, TCSPC)を行うこともできる。TCSPCを行う実施形態を、以下、第三の実施形態として説明する。
図4は、TCSPCを行う第三の実施形態の分光測定装置の概略図である。
図4に示すように、TCSPCを行う場合、データ処理ユニット8は、TCSPCモジュール86を含んだ構成とされ、光源1から出射されるパルスに同期した同期信号発生部が設けられる。同期信号発生部については幾つかの構成が考えられるが、ここでは、光の一部を分割して受光器で受光してその出力を同期信号とする構成が採用されている。即ち、
図4に示すように、照射光学系50は、コリメートレンズ52の出射側にビームスプリッタのような分割素子54を備えている。そして、分割された一方の光が入射する位置に高速フォトダイオード等の同期用受光器70が配置され、他方の光が入射する位置にレンズ61を介して対象物Sが配置される。
【0052】
対象物Sで発生する蛍光を捉える蛍光用受光器700として、アバランシェフォトダイオード等がレンズ701を介して配置される。同期用受光器70及び蛍光用受光器700の各出力は、TCSPCモジュール86を含むデータ処理ユニット8に入力される。尚、各光路上には、NDフィルタ55が適宜配置される。TCSPCモジュール86としては、例えばBecker & Hickl社製のものを使用することができる。TCSPCモジュール86は、二つの受光器70,700からの入力パルスの遅延時間を時間波高変換器(Time to Amplitude Convertor, TAC)により求め、各遅延時間における蛍光光子数のヒストグラムデータを得る。
【0053】
このような第三の実施形態の分光測定装置によれば、TCSPCを分光しながら行うことができる。即ち、対象物Sに照射するパルス光を各変調素子3の制御でスキャンしながら(順次変えながら)蛍光寿命を測定することで、励起光の波長と蛍光寿命との関係を極めて短時間に調べることができる。
尚、分割素子54を設ける位置は他の位置でも良く、波長分割素子2の入射側や光源1の内部でも良い。さらに、超短パルスレーザ源11内において光を分割して同期用に受光して同期信号を発生させても良く、また超短パルスレーザ源11における駆動用の信号(例えば励起用レーザの駆動信号)を取り出して同期信号としても良い。
【符号の説明】
【0054】
1 光源
2 波長分割素子
3 変調素子
30 変調制御部
4 中継ファイバー
5 出射ファイバー
51 出射端素子
52 ビームエキスパンダ
53 導光用ファイバー
6 受け板
7 受光器
700 蛍光用受光器
8 データ処理ユニット
80 ADコンバータ
86 TCSPCモジュール
S 対象物