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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】回転電機の冷却構造
(51)【国際特許分類】
   H02K 9/19 20060101AFI20240514BHJP
   H02K 1/20 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
H02K9/19 A
H02K1/20 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020185417
(22)【出願日】2020-11-05
(65)【公開番号】P2022074958
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋上 聡
【審査官】稲葉 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-039012(JP,A)
【文献】特開2012-186880(JP,A)
【文献】特開2021-182840(JP,A)
【文献】特開2011-167045(JP,A)
【文献】特開2016-149900(JP,A)
【文献】特開2020-099178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 9/19
H02K 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その軸方向が鉛直方向と交差する姿勢で配置される回転電機の冷却構造であって、
ステータコアの外周面からスロットまで貫通する複数の冷却孔と、
前記複数の冷却孔のうち、径方向外側端が径方向内側端より重力方向上側に位置する供給用冷却孔に液体冷媒を供給する冷媒供給機構と、
ロータとステータとの間に介在し、前記供給用冷却孔の前記径方向内側端から前記スロットを通って落下する前記液体冷媒をキャッチして、下方の前記スロットに導く冷媒ガイドと、
を備え、前記冷媒ガイドは、
前記ロータの外周面に沿って延びる内周壁と、
前記内周壁の軸方向両端から径方向外側に立脚する一対の側壁と、
前記一対の側壁それぞれの径方向外側端から他方の側壁に向かって軸方向に延びる一対の外周壁であって、他方の外周壁との間に前記液体冷媒が通過可能な通過開口を形成する一対の外周壁と、
を備える、ことを特徴とする回転電機の冷却構造。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機の冷却構造であって、
前記冷媒ガイドは、前記ステータおよび前記ロータと同心に配された環状である、ことを特徴とする回転電機の冷却構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載の回転電機の冷却構造であって、
前記外周壁、および、前記外周壁と前記側壁の角部、の少なくとも一方には、前記液体冷媒を通過させる複数の通過孔が形成されている、ことを特徴とする回転電機の冷却構造。
【請求項4】
請求項に記載の回転電機の冷却構造であって、
前記ロータの回転中心を通る水平線である中心水平線より下側の範囲では、前記通過孔の数および面積の少なくとも一方は、重力方向下側に近づくにつれて、小さくなる、ことを特徴とする回転電機の冷却構造。
【請求項5】
請求項3または4に記載の回転電機の冷却構造であって、
前記内周壁および前記外周壁は、それぞれ、互いに角度を成し、前記軸方向に並ぶ2以上の面で構成され、
前記外周壁のうち、二つの前記面、または、前記面と側壁とが交わるV字部に前記通過孔が形成されている、
ことを特徴とする回転電機の冷却構造。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の回転電機の冷却構造であって、
ステータコイルは、複数のセグメントコイルと、前記スロット内において二つの前記セグメントコイルの末端同士を連結する連結部材と、を備え、
前記冷媒ガイドは、前記連結部材に対して固定されている、
ことを特徴とする回転電機の冷却構造。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の回転電機の冷却構造であって、
ティースの径方向内側端かつ軸方向中央には、前記冷媒ガイドの少なくとも一部を収容する切り欠きが形成されている、ことを特徴とする回転電機の冷却構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、その軸方向が鉛直方向と交差する姿勢で配置される回転電機を冷却する冷却構造を開示する。
【背景技術】
【0002】
近年、回転電機の更なる小型化および高出力化が求められている。回転電機を小型化かつ高出力化した場合、回転電機の熱容量が低下する一方で発熱量が増加するため、回転電機の温度上昇が大きな問題となる。特に、スロット内のステータコイルは、発熱量が多い一方で放熱しにくいため、当該ステータコイルを効率的に冷却する必要がある。
【0003】
そこで、従来から、ステータコイルに液体冷媒を直接供給して、当該ステータコイルを冷却する冷却構造が多数、提案されている。例えば、特許文献1には、ロータコアに、径方向に貫通する連通路を設け、この連通路の径方向内側端から液体冷媒を供給する回転電機が開示されている。この場合、ロータが高速で回転することにより、液体冷媒は、遠心力により、連通路の径方向外側端から噴出し、ステータコイルに当たる。そして、このように、ステータコイルに液体冷媒を直接供給することで、ステータコイルを効果的に冷却できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-027778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように、遠心力を利用して、ロータコアから液体冷媒を噴出させる構成の場合、ロータが静止、あるいは、低速回転している際には、遠心力が不足し、液体冷媒が、適切に噴出されない。その結果、液体冷媒がロータコアの外周面に多量に留まる場合があった。ロータコアの外周面に液体冷媒が留まった場合、液体冷媒に起因するロータの回転摩擦、いわゆる引き摺り損失が悪化する。
【0006】
そこで、本明細書では、引き摺り損失の悪化を抑制しつつ、ステータコイルを効果的に冷却できる回転電機の冷却構造を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書で開示する回転電機の冷却構造は、その軸方向が鉛直方向と交差する姿勢で配置される回転電機の冷却構造であって、ステータコアの外周面からスロットまで貫通する複数の冷却孔と、前記複数の冷却孔のうち、径方向外側端が径方向内側端より重力方向上側に位置する供給用冷却孔に液体冷媒を供給する冷媒供給機構と、ロータとステータとの間に介在し、供給用冷却孔の径方向内側端から前記スロットを通って落下する前記液体冷媒をキャッチして、下方のスロットに導く冷媒ガイドと、を備えることを特徴とする。
【0008】
冷却孔を介して液体冷媒がスロット内のステータコイルに供給されるため、ステータコイルを効果的に冷却できる。その一方で、スロットから落下する液体冷媒は、ステータとロータとの間に介在する冷媒ガイドによりキャッチされるため、ロータへの液体冷媒の付着が防止される。そして、これにより、引き摺り損失の悪化を抑制できる。
【0009】
この場合、前記冷媒ガイドは、前記ステータおよび前記ロータと同心に配された環状でもよい。
【0010】
かかる構成とすることで、ロータへの液体冷媒の付着、ひいては、引き摺り損失の悪化を、より確実に防止できる。
【0011】
また、前記冷媒ガイドは、前記ロータの外周面に沿って延びる内周壁と、前記内周壁の軸方向両端から径方向外側に立脚する一対の側壁と、前記一対の側壁それぞれの径方向外側端から他方の側壁に向かって軸方向に延びる一対の外周壁であって、他方の外周壁との間に前記液体冷媒が通過可能な通過開口を形成する一対の外周壁と、を備えてもよい。
【0012】
側壁や外周壁を設けることで、内周壁に着地した液体冷媒が、ロータ側に漏れることをより確実に防止でき、引き摺り損失の悪化をより確実に防止できる。
【0013】
この場合、前記外周壁、および、前記外周壁と前記側壁の角部、の少なくとも一方には、前記液体冷媒を通過させる複数の通過孔が形成されていてもよい。
【0014】
かかる通過孔は、回転中心を通る水平線である中心水平線より上側範囲において、落下してきた液体冷媒を冷媒ガイド内に導く通路として機能する。また、中心水平線より下側範囲においては、通過孔は、冷媒ガイド内の液体冷媒をスロットに導く通路として機能するため、当該通過孔の形状等を調整することで、冷媒ガイドからスロット側に落下する液体冷媒の量をコントロールできる。
【0015】
また、前記ロータの回転中心を通る水平線である中心水平線より下側の範囲では、前記通過孔の数および面積の少なくとも一方は、重力方向下側に近づくにつれて、小さくしてもよい。
【0016】
通過孔を全て同じ大きさとした場合、中心水平線より下側の範囲では、重力方向下側に近づくにつれて、液体冷媒が通過孔を通過しやすくなり、液体冷媒のスロットへの供給量に偏りが生じる。しかし、上記の構成とすることで、液体冷媒のスロットへの供給量が、周方向で均等に分散される。
【0017】
この場合、前記内周壁および前記外周壁は、それぞれ、互いに角度を成し、前記軸方向に並ぶ2以上の面で構成され、前記外周壁のうち、二つの前記面、または、前記面と側壁とが交わるV字部に前記通過孔が形成されていてもよい。
【0018】
かかる構成とすることで、液体冷媒は、V字部の谷部分に凝縮されやすくなり、重力の作用による落下が生じやすくなる。また、かかるV字部に通過孔を形成することで、液体冷媒を、冷媒ガイドの内外に効率的に移動させることができる。
【0019】
また、前記冷媒ガイドは、非磁性特性および高伝熱性を有した材料で構成されてもよい。
【0020】
冷媒ガイドを、非磁性特性を有した材料で構成することで、冷媒ガイドが、回転電機の磁性特性に影響を与えない。また、冷媒ガイドを、高伝熱性特性を有した材料で構成することで、熱が効率的に分散されるため、熱の局所集中を防止できる。
【0021】
また、前記ステータコイルは、複数のセグメントコイルと、前記スロット内において二つの前記セグメントコイルの末端同士を連結する連結部材と、を備え、前記冷媒ガイドは、前記連結部材に対して固定されていてもよい。
【0022】
かかる構成とすることで、冷媒ガイドを、ステータに対して固定することができる。
【0023】
また、ティースの径方向内側端かつ軸方向中央には、前記冷媒ガイドの少なくとも一部を収容する切り欠きが形成されていてもよい。
【0024】
かかる構成とすることで、ステータとロータとの間のギャップを広げることなく、冷媒ガイドをロータから離間させることができる。
【発明の効果】
【0025】
本明細書で開示した回転電機の冷却構造によれば、引き摺り損失の悪化を抑制しつつ、ステータコイルを効果的に冷却できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】回転電機の横断面図である。
図2図1のA部拡大図である。
図3図2のB-B断面図である。
図4】ステータコアの一部斜視図である。
図5】セグメントコイルを説明する図であり、ステータを内周側から見た分解模式図である。
図6図1の0時の位置における冷媒ガイドの径方向断面図である。
図7図1の6時の位置における冷媒ガイドの径方向断面図である。
図8】他の例の冷媒ガイドの0時の位置における径方向断面図である。
図9】他の例の冷媒ガイドの6時の位置における径方向断面図である。
図10】他の例の冷却構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して回転電機10の冷却構造について説明する。図1は、回転電機10の横断面図であり、図2は、図1のA部拡大図である。また、図3は、図2のB-B断面図であり、図4は、ステータコア18の一部斜視図である。なお、以下の説明において、「軸方向」、「周方向」、「径方向」は、それぞれ、回転電機10の軸方向、回転電機10の周方向、回転電機10の径方向を意味する。
【0028】
この回転電機10は、ロータコアの内部に永久磁石(図示せず)が埋め込まれた永久磁石同期型回転電機であり、例えば、電動車両に搭載される。電動車両において、当該回転電機10は、車両を走行させるための動力を発生する走行用モータとして用いられてもよいし、回生制動力やエンジンの余剰動力により発電するジェネレータとして用いられてもよい。電動車両において、回転電機10は、その回転軸16が、重力方向と交差する姿勢、より具体的には、回転軸16がほぼ水平となる姿勢で載置されている。図1図3では、紙面上下方向が重力方向となる。なお、回転電機10は、回転軸16が重力方向と交差しているのであれば、回転軸が水平方向に対して傾斜した姿勢で設置されていてもよい。
【0029】
回転電機10は、回転軸16と、当該回転軸16に固着されたロータ12と、ロータ12の外周囲に配されたステータ14と、を備えており、これらが、外装ケース(図示せず)に収容されている。回転軸16は、軸受(図示せず)を介して外装ケースに支持されており、自転可能となっている。ロータ12は、積層鋼板等からなるロータコアと、当該ロータコア内に埋め込まれる複数の永久磁石と、を備えた略環状部材である。ロータ12は、回転軸16に固着されており、回転軸16は、当該ロータ12と一体となって回転する。
【0030】
ステータ14は、ステータコア18と、ステータコイル30と、を備えている。ステータコア18は、積層鋼板等からなる略環状部材で、環状のヨーク22と、当該ヨーク22の内周面から径方向内側に突出する複数のティース20と、を備えている。各ティース20には、ステータコイル30を構成する巻線が巻回されている。この巻線の巻回方法は、巻線を一つのティース20に巻回する集中巻でもよいし、巻線を複数のティースに跨って巻回する分布巻でもよい。
【0031】
ステータコイル30は、三相のコイル、すなわち、U相コイル、V相コイル、W相コイルを結線して構成される。コイルの結線態様は、特に限定されないが、本実施形態では、三相のコイルそれぞれの末端を、中性点で一括して接続したスター結線としている。回転電機10を、電動機として使用する場合は、このステータコイル30に三相交流電流を印加する。これにより、回転磁界が形成され、ロータ12が回転する。また、回転電機10を発電機として使用する場合には、車両の回生制動力やエンジンの余剰動力により、回転軸16およびロータ12が回転する。これにより、ステータコイル30に電流が誘導される。
【0032】
本例において、ステータコイル30は、複数のセグメントコイル32を連結して構成される。図5は、このセグメントコイル32を説明する図であり、ステータ14を内周側から見た分解模式図である。セグメントコイル32は、導電性材料(例えば銅等)からなる導線32aを、絶縁性材料(例えば樹脂等)からなる絶縁被膜32b(墨ハッチングで図示)で被覆して構成される。導線32aは、断面形状略矩形の角線である。
【0033】
また、セグメントコイル32は、ステータ完成時と同じ形状、すなわち、最終形状に屈曲、成形されている。具体的には、セグメントコイル32は、スロット24内に収容される一対の直線部36と、この一対の直線部36を接続する渡り部34と、を有した略U字形状となっている。直線部36の末端では、絶縁被膜32bが剥離されており、導線32aが外部に露出している。
【0034】
各セグメントコイル32は、その直線部36がスロット24内に進入するように、ステータコア18の外側からステータコア18に挿し込まれる。その結果、スロット24内には、ステータコア18の軸方向一端側からスロット24に挿入される直線部36と、軸方向他端側からスロット24に挿入される直線部36と、が存在することになる。この二つの直線部36それぞれの末端は、スロット24内において、連結部材38により、電気的かつ機械的に連結される。連結部材38は、導電性材料からなる筒状体である。この連結部材38の両端に、二つの直線部36それぞれの末端が圧入される。そして、これにより、二つの直線部36が、スロット24内において、電気的かつ機械的に接続される。したがって、本例の場合、スロット24内に、連結部材38が位置することになる。なお、連結部材38は、二つのセグメントコイル32を連結できるのであれば、筒体に限らず、他の形状でもよい。例えば、連結部材は、その両端面に、セグメントコイル32の先端が嵌合可能な凹部が形成された棒材でもよい。
【0035】
ところで、こうした回転電機10は、その駆動に伴い、発熱し、温度上昇する。特に、ステータコイル30は、その通電に伴い、多量の熱が発生する。その一方で、ステータコイル30の大部分は、スロット24という半閉鎖空間に密集しているため、放熱しにくい。その結果、ステータコイル30、特に、スロット24内に位置する直線部36の温度が過度に上昇しやすいという問題がある。
【0036】
そこで、従来から、回転電機10、特に、ステータコイル30を効率的に冷却するために、ステータコイル30に液体冷媒を直接かけて、ステータコイル30を冷却する冷却構造が提案されている。ステータコイル30に液体冷媒をかけるために、従来では、ロータ12の回転に伴い発生する遠心力を利用することが多かった。すなわち、ロータコアに、径方向に貫通する流路を形成し、当該流路の径方向内側端から液体冷媒を供給する構成が知られている。かかる構成の場合、ロータ12の回転に伴い発生する遠心力により、液体冷媒が、流路の径方向外側端から径方向外側に噴射する。そして、これにより、液体冷媒が、ステータ14の内周面およびステータコイル30に当たり、これらの冷却が図られる。
【0037】
しかし、こうした遠心力を利用した冷却構造では、ロータ12が静止、あるいは、回転速度が低い場合、十分な遠心力が得られない。その結果、液体冷媒が、勢いよく噴射せず、ロータ12の外周面に、多量に留まることがあった。こうした、ロータ12の外周面に留まる液体冷媒は、ロータ12の引き摺り損失悪化の原因となる。
【0038】
そこで、本例では、液体冷媒を、ステータコア18の径方向外側から供給するとともに、当該液体冷媒をロータ12に付着させることなく、必要な位置に導く冷媒ガイド50を設けている。以下、これについて、詳説する。
【0039】
本例では、ステータコア18の径方向外側から液体冷媒を供給するために、図1図3に示すように、ステータコア18に、複数の冷却孔40a,40bを設けている。各冷却孔40a,40bは、ステータコア18の外周面からスロット24まで貫通する孔である。冷却孔40a,40bは、一つのスロット24に一つずつ設けられており、それぞれ、径方向に延びている。この複数の冷却孔のうち、径方向外側端が径方向内側端より重力方向上側に位置する冷却孔が、液体冷媒の供給を受け付ける供給用冷却孔40aとして機能する。また、複数の冷却孔のうち、径方向外側端が径方向内側端より重力方向下側に位置する冷却孔は、液体冷媒をステータ14の外側に排出するための排出用冷却孔40bとして機能する。したがって、図1の例では、回転中心を通る中心水平線Lhより上側に位置する冷却孔が、供給用冷却孔40aとして機能し、中心水平線Lhより下側に位置する冷却孔が、排出用冷却孔40bとして機能する。以下では、供給用冷却孔40aと排出用冷却孔40bとを区別しない場合は、単に「冷却孔40」と呼ぶ。
【0040】
回転電機10には、さらに、供給用冷却孔40aに液体冷媒を供給する冷媒供給機構が設けられている。冷媒供給機構は、種々の構成が考えられるが、本例では、冷媒供給機構は、ステータコア18の外側から液体冷媒を吐出する供給パイプ48と、ステータコア18の外周面に形成されたガイド溝46(図3図4参照)と、を有している。供給パイプ48は、ステータコア18の上側に配置されており、吐出口から液体冷媒を吐出する。この吐出口は、後述するガイド溝46の真上に位置している。なお、図1図3では、吐出口を一つだけとしているが、吐出口は、周方向に間隔を開けて、複数、設けられてもよい。いずれの場合でも、吐出口は、吐出された液体冷媒がガイド溝46に落下するような位置関係で設定されている。
【0041】
ガイド溝46は、ステータコア18の外周面において、周方向に延びる溝である。このガイド溝46は、全ての供給用冷却孔40aを通る配置となっている。ガイド溝46に供給された液体冷媒は、当該ガイド溝46に沿って下方に流れていく途中で、重力により、供給用冷却孔40a内にも導かれる。すなわち、供給パイプ48とガイド溝46を設けることで、複数の供給用冷却孔40aに液体冷媒を供給できる。
【0042】
供給用冷却孔40aに供給された液体冷媒は、重力により、落下していく。したがって、液体冷媒は、供給用冷却孔40aの径方向内側端からスロット24を通って、さらに、重力方向下側に落下していく。冷媒ガイド50は、この落下する液体冷媒をキャッチして下方のスロット24に導く。
【0043】
具体的に説明すると、冷媒ガイド50は、図1に示すように、ステータコア18とロータ12との間に介在する略環状部材である。冷媒ガイド50は、非磁性材料であれば、その材質は、特に、限定されない。したがって、冷媒ガイド50は、例えば、樹脂で構成されてもよい。また、冷媒ガイド50は、非磁性特性および高伝熱性を有した材料、例えば、黄銅やアルミナ等で構成されてもよい。冷媒ガイド50を、高伝熱性を有した材料で構成することで、液体冷媒の持つ熱を均等に分散することができ、熱の局所集中を効果的に防止できる。
【0044】
こうした冷媒ガイド50は、スロット24からロータ12に向かって落下する液体冷媒を受け止めることができるのであれば、その形状は、特に限定されない。本例では、冷媒ガイド50は、図3に示すように、ロータ12の外周面に沿って延びる内周壁52と、内周壁52の軸方向両端から径方向外側に立脚する一対の側壁56と、一対の側壁56それぞれの径方向外側端から他方の側壁56に向かって軸方向に延びる一対の外周壁54と、を有している。
【0045】
こうした冷媒ガイド50は、接続体64を介して、ステータコイル30の連結部材38に接続される。接続体64は、その一端が内周壁52に、他端が連結部材38に、それぞれ固着される部材である。かかる接続体64は、一つだけでもよいし、周方向に間隔を開けて、複数、設けられてもよい。いずれにしても、かかる接続体64を設けることで、冷媒ガイド50を、所定の位置に保つことができる。なお、接続体64の材質は、特に限定されないが、冷媒ガイド50が導電体で構成される場合、接続体64の少なくとも一部は、冷媒ガイド50と連結部材38とを絶縁する絶縁体で構成されてもよい。
【0046】
また、図3図4に示すように、ティース20の径方向内側端かつ軸方向中央部分には、略矩形の切り欠き部44が形成されている。冷媒ガイド50は、この切り欠き部44内を通るように配置されている。換言すれば、各切り欠き部44には、冷媒ガイド50の一部が収容されている。そして、かかる構成とすることで、ステータ14とロータ12との間のギャップを増加させることなく、冷媒ガイド50とロータ12との間に十分な間隙を確保することができる。
【0047】
次に、冷媒ガイド50の形状について具体的に説明する。図6は、図1の0時の位置における冷媒ガイド50の径方向断面図である。同様に、図7は、図1の6時の位置における冷媒ガイド50の径方向断面図である。
【0048】
冷媒ガイド50は、上述した通り、内周壁52と、一対の側壁56と、一対の外周壁54と、を有している。内周壁52は、互いに角度を成すとともに軸方向に並ぶ複数の面で構成されている。したがって、内周壁52には、二つの面が交わる、または、内周壁52と側壁56とが交わる、V字部60a,60bが複数存在する。以下では、径方向内側に凸のV字部を「内側V字部60a」と呼び、径方向外側に凸のV字部を「外側V字部60b」と呼び、両者を区別しない場合は、単に、「V字部60」と呼ぶ。このように複数のV字部60を設けることで、冷媒ガイド50内に導かれた液体冷媒は、重力の影響を受けて、V字部60に凝集しやすくなる。そして、液体冷媒は、凝集することで、下方への流れや落下が生じやすくなる。換言すれば、内周壁52に複数のV字部60を設けることで、液体冷媒をより円滑に流すことができる。
【0049】
ここで、内周壁52は、ロータ12の外周面と対向する壁である。この内周壁52は、外周壁54と異なり、孔や開口が形成されていない。そのため、冷媒ガイド50に進入した液体冷媒は、この内周壁52を超えてロータ12に到達することはできない仕組みとなっている。
【0050】
外周壁54は、一対の側壁56それぞれから延びている。一つの側壁56から延びる外周壁54は、他方の側壁56から延びる外周壁54の末端に届いておらず、二つの外周壁54の間には、通過開口58が形成されている。この通過開口58は、周方向に連続して存在している。また、外周壁54も、内周壁52と同様に、互いに角度を成すとともに軸方向に並ぶ複数の面で構成されており、複数のV字部61a,61bを有している。このV字部61も、V字部60と同様に、必要に応じて、「内側V字部61a」、「外側V字部61b」、「V字部61」の呼称を使い分ける。
【0051】
外周壁54に複数のV字部61を設けることで、液体冷媒は、当該V字部61の谷部分に凝集しやすくなる。本例では、この液体冷媒が凝集しやすい谷部分に、液体冷媒を通過させる通過孔62を形成している。したがって、液体冷媒は、上述した通過開口58および通過孔62を介して、冷媒ガイド50の内外に移動する。本例では、液体冷媒を分散して供給できるように、この通過孔62の位置、数、および、大きさを、当該通過孔が設けられる周方向位置に応じて変えている。
【0052】
例えば、0時の位置において、冷媒ガイド50は、供給用冷却孔40aと径方向に対向している。この場合、液体冷媒は、図6に示すように、冷媒ガイド50の真上から落下してくる。落下した冷媒ガイド50は、通過開口58を通るか、外周壁54の上に着地する。外周壁54に着地した液体冷媒は、重力により、内側V字部61aに凝集する。この凝集した液体冷媒を、冷媒ガイド50内に導くために、0時の位置では、内側V字部61aに通過孔62が形成される。これにより、外周壁54に落下した液体冷媒を効率的に冷媒ガイド50内に導ける。冷媒ガイド50内の液体冷媒は、内周壁52に沿って重力方向下方に流れていく。
【0053】
一方、6時の位置において、冷媒ガイド50は、排出用冷却孔40bと径方向に対向する。そのため、6時の位置では、図7に示すように、冷媒ガイド50内の液体冷媒を、対向するスロット24側に落下させる必要がある。6時の位置では、内周壁52が外周壁54よりも重力方向上側に位置する。そのため、内周壁52に付着している液体冷媒は、重力の作用に、そのまま落下、あるいは、外側V字部60bに凝集した後に落下する。落下した液体冷媒の一部は、通過開口58を通って、そのままスロット24側へと進む。一方、外周壁54に落下した液体冷媒は、重力により外側V字部61bに凝集する。この凝集した液体冷媒を、スロット24側に落下させるために、6時の位置では、外側V字部61bに、通過孔62を設けている。
【0054】
このように、中心水平線Lhより下側において、通過孔62は、外周壁54のうち外側V字部61bに形成される。ここで、中心水平線Lhより下側において、通過孔62の大きさおよび数は、スロット24への冷媒供給量に影響を与える。したがって、中心水平線Lhより下側において、通過孔62の数および大きさは、各スロットへの冷媒供給量が均等に近づくように調整される。
【0055】
例えば、6時の位置では、外周壁54は、重力方向にほぼ直交しているため、外周壁54に付着した液体冷媒は、比較的容易に、通過孔62を通過できる。一方、6時から3時または9時の方向に近づくにつれて、外周壁54の重力方向に対する傾斜角度が小さくなる。そして、外周壁54の重力方向に対する傾斜角度が小さいほど、液体冷媒は、通過孔62を通過することなく、外周壁54に沿って下方に落下しやくなる。つまり、中心水平線Lhより下側では、重力方向上側に近づくにつれて、液体冷媒は、通過孔62を通過しにくくなる。かかる場合において、通過孔62の数および大きさを、周方向位置に関わらず同一にした場合、重力方向上側に近づくにつれて、スロット24への冷媒供給量が少なくなり、ステータコイル30を均等に冷却できない。そこで、本例では、中心水平線Lhより下側では、重力方向下側に近づくにつれて、通過孔62の数および面積の少なくとも一方を小さくしている。これにより、中心水平線Lhより下側において、冷媒を、より均等に近づくように分散して供給できる。
【0056】
次に、こうした冷却構造の作用について説明する。回転電機10を冷却する際には、上述した通り、ステータコア18の外部から供給用冷却孔40aに液体冷媒が供給される。液体冷媒は、重力により供給用冷却孔40aの径方向外側端から径方向内側端へと流れ、スロット24に放出される。この液体冷媒は、スロット24内のステータコイル30と熱交換したうえで、スロット24から下方に落下する。スロット24とロータ12との間には、冷媒ガイド50が介在しているため、スロット24から落下した液体冷媒は、ロータ12に到達することなく、冷媒ガイド50にキャッチされる。具体的には、液体冷媒は、通過開口58および通過孔62を通って、内周壁52に着地する。内周壁52に着地した液体冷媒は、重力の作用により、内周壁52に沿って、下方へと流れていく。
【0057】
中心水平線Lhより下方では、内周壁52が外周壁54より重力方向上側に位置する。したがって、中心水平線Lhより下方では、液体冷媒は、重力の作用により、内周壁52側から外周壁54側に落下し、さらに、通過開口58または通過孔62を介して、径方向に対向するスロット24側に落下していく。スロット24に落下した液体冷媒は、当該スロット24内のステータコイル30と熱交換しながら、さらに、下方に落下していく。そして、最終的に、液体冷媒が、スロット24の径方向外側壁(ヨーク22の内周面)にまで到達すれば、当該液体冷媒は、排出用冷却孔40bを介してステータ14の外部に排出される。排出された液体冷媒は、収容ケースの底部に貯留される。この貯留された液体冷媒は、ポンプで汲み上げられた後、供給パイプ48に再供給される。
【0058】
以上の説明から明らかなとおり、本例によれば、液体冷媒を、分散してステータコイル30に直接供給できる。その結果、回転電機10、特に、発熱量の多いステータコイル30を効果的に冷却できる。その一方で、本例では、ロータ12とステータ14との間に介在し、落下する液体冷媒をキャッチする冷媒ガイド50を設けている。これにより、ロータ12への液体冷媒への付着を効果的に防止でき、ロータ12の引き摺り損失の悪化を効果的に抑制できる。
【0059】
なお、ここまで説明した構成は、一例であり、ステータコア18の外周面からスロット24まで貫通する複数の冷却孔40と、供給用冷却孔40aに液体冷媒を供給する冷媒供給機構と、ロータ12とステータ14との間に介在して、落下してきた液体冷媒をキャッチして下方のスロット24に導く冷媒ガイド50と、を備えるのであれば、その他の構成は、変更されてもよい。
【0060】
例えば、冷媒ガイド50の形状は、適宜、変更されてもよい。したがって、図8図9に示すように、内周壁52は、互いに角度を成す面を二つだけ有し、外周壁54は、他方の外周壁54に対して傾いた面を一つだけ有するような形状としてもよい。この場合、中心水平線より上側範囲では、図8に示すように、外周壁54に通過孔62を設けなくてもよい。また、中心水平線より下側範囲では、図9に示すように、外周壁54と側壁56とで構成される外側V字部61bに通過孔62を設ければよい。
【0061】
さらに、別の形態として、内周壁52および外周壁54は、いずれも、軸方向に対してほぼ平行な一面で構成されてもよい。また、冷媒ガイド50は、ステータ14とロータ12との間に介在する内周壁52を有するのであれば、側壁56および外周壁54は、省略されてもよい。なお、側壁56を省略した場合、キャッチした液体冷媒が、内周壁52両端からロータ12側に落下することを防止するために、内周壁52の軸方向寸法を、ロータ12の軸方向寸法以上としてもよい。
【0062】
また、冷媒ガイド50は、液体冷媒のロータ12への付着を防止できるのであれば、環状に限らず、他の形状でもよい。例えば、図10に示すように、冷媒ガイド50は、中心水平線Lhより上側の範囲をカバーできる円弧形状、例えば、半円形状でもよい。この場合でも、冷媒ガイド50は、供給用冷却孔40aから落下してきた液体冷媒を、ロータ12に到達させることなく、キャッチできる。その結果、ロータ12の引き摺り損失の悪化を抑制できる。
【0063】
また、冷却孔40は、中心水平線Lhより上側に少なくとも一つ、中心水平線Lhより下側に少なくとも一つ、それぞれ設けられるのであれば、その個数は、限定されない。したがって、図10に示すように、供給用冷却孔40aを、スロット24の一つ置きに設ける構成としてもよい。同様に、排出用冷却孔40bも、スロット24の一つ置きに設けてもよい。
【0064】
また、冷却孔40は、径方向に限らず、他の方向に延びるのでもよい。また、図1図2の例では、冷却孔40は、スロット24の周方向中心に接続している。しかし、冷却孔40は、スロット24の隅部に接続されてもよい。特に、中心水平線Lhより下側範囲では、スロット24に供給された液体冷媒は、重力方向下側の隅部に溜まる。かかる液体冷媒を、迅速に排出するために、図10に示すように、排出用冷却孔40bは、スロット24の重力方向下側の隅部に接続されてもよい。
【0065】
さらに、冷媒供給機構は、供給用冷却孔40aに液体冷媒を供給できるのであれば、その構成は、適宜、変更されてもよい。例えば、供給パイプ48およびガイド溝46に替えて、図10に示すように、ステータコア18の外周面との間に、狭い流路空間66を形成するカバー65を設け、この流路空間66を介して液体冷媒を供給してもよい。
【0066】
また、液体冷媒は、重力以外の力も利用して供給してもよい。例えば、中心水平線Lhとほぼ同じ高さ位置のスロット24、すなわち、図10における3時および9時に位置するスロット24の場合、重力を利用するだけでは、液体冷媒を十分に供給することは難しい。そこで、3時および9時の位置のスロット24に対しては、ステータ14の外部から液体冷媒を圧送するようにしてもよい。例えば、図10に示すように、3時および9時の位置の冷却孔40に、流路68を接続し、この流路68を介して液体冷媒を冷却孔40に圧送してもよい。十分な圧力を付与することで、液体冷媒が水平方向に、勢いよく流れる。そして、これにより、3時および9時の位置のスロット24内のステータコイル30も冷却できる。
【符号の説明】
【0067】
10 回転電機、12 ロータ、14 ステータ、16 回転軸、18 ステータコア、20 ティース、22 ヨーク、24 スロット、30 ステータコイル、32 セグメントコイル、34 渡り部、36 直線部、38 連結部材、40a 供給用冷却孔、40b 排出用冷却孔、44 切り欠き部、46 ガイド溝、48 供給パイプ、50 冷媒ガイド、52 内周壁、54 外周壁、56 側壁、58 通過開口、60,61 V字部、62 通過孔、64 接続体、65 カバー、66 流路空間、68 流路、Lh 中心水平線。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10