(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】車両用ルーフ構造およびその組み立て方法
(51)【国際特許分類】
B62D 25/06 20060101AFI20240514BHJP
B62D 65/00 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
B62D25/06 A
B62D65/00 Q
(21)【出願番号】P 2020202155
(22)【出願日】2020-12-04
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朝井 雅剛
(72)【発明者】
【氏名】新田 正喜
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 稿治
(72)【発明者】
【氏名】羽室 友策
(72)【発明者】
【氏名】盛田 和宏
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-061854(JP,A)
【文献】特開2006-240420(JP,A)
【文献】特開2009-126345(JP,A)
【文献】特開2019-064520(JP,A)
【文献】特開2012-245898(JP,A)
【文献】特開2015-189355(JP,A)
【文献】中国実用新案第212473663(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/06
B62D 65/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前方側に位置するフロントヘッダと、車両後方側に位置するリアヘッダと、前記フロントヘッダの車幅方向の両端部と前記リアヘッダの車幅方向の両端部を、それぞれ連結する一対のサイドレールと、前記一対のサイドレールを車幅方向に連結するクロスメンバーと、を有した上部構造体と、
前記クロスメンバーの上方から、前記フロントヘッダ、前記リアヘッダ、および前記一対のサイドレールで囲まれた空間を閉じるように、前記上部構造体に固定されるルーフパネルと、を備える車両用ルーフ構造の組み立て方法であって、
前記組み立て方法は、前記クロスメンバーに、マスチック接着剤が塗布された複数の塗布部を、車幅方向に間隔を空けて形成する工程と、
前記クロスメンバーの上方から、前記フロントヘッダ、前記リアヘッダ、および前記一対のサイドレールで囲まれた空間を閉じるように、前記複数の塗布部を介して前記上部構造体に前記ルーフパネルを配置する工程と、
前記ルーフパネルを、前記フロントヘッダ、前記リアヘッダ、および前記一対のサイドレールに機械的に固定する工程と、
前記上部構造体および前記ルーフパネルとともに、前記複数の塗布部を加熱することにより、前記マスチック接着剤を硬化させる工程と、を含み、
前記塗布部を形成する工程において、前記複数の塗布部のうち、前記クロスメンバーの前記車幅方向の中央に配置される中央塗布部の長さが、前記中央よりも前記車幅方向の両側に配置される端側塗布部の長さよりも短くなるように、
前記中央塗布部を点状に形成し、前記端側塗布部を線状に形成することを特徴とする車両用ルーフ構造の組み立て方法。
【請求項2】
前記複数の塗布部を、前記クロスメンバーに対して、車両前後方向に2列で形成し、
前記車両前方側の1列の複数の前方塗布部と、前記車両後方側の1列の複数の後方塗布部とを、それぞれ、前記車幅方向に、間隔を空けて配列し、
前記車両前後方向から見て、隣り合う前記前方塗布部同士の間に、前記後方塗布部が配置されるように、前記複数の塗布部を形成することを特徴とする請求項
1に記載の車両用ルーフ構造の組み立て方法。
【請求項3】
車両前方側に位置するフロントヘッダと、車両後方側に位置するリアヘッダと、前記フロントヘッダの車幅方向の両端部と前記リアヘッダの車幅方向の両端部を、それぞれ連結する一対のサイドレールと、前記一対のサイドレールを車幅方向に連結するクロスメンバーと、を有した上部構造体と、
前記クロスメンバーの上方から、前記フロントヘッダ、前記リアヘッダ、および前記一対のサイドレールで囲まれた空間を閉じるように、前記上部構造体に固定されるルーフパネルと、
を備える車両用ルーフ構造であって、
前記ルーフパネルは、前記フロントヘッダ、前記リアヘッダ、および前記一対のサイドレールに機械的に固定されているとともに、マスチック接着剤が塗布された複数の塗布部を介して、前記クロスメンバーに固定されており、
前記複数の塗布部は、前記車幅方向に沿って間隔を空けて、前記クロスメンバーに形成されており、
前記複数の塗布部のうち、前記クロスメンバーの前記車幅方向の中央に配置された中央塗布部の長さが、前記中央よりも前記車幅方向の両側に配置された端側塗布部の長さよりも短
く、
前記中央塗布部は点状であり、前記端側塗布部は線状であることを特徴とする車両用ルーフ構造。
【請求項4】
前記複数の塗布部は、前記クロスメンバーに対して、車両前後方向に2列で形成されており、
前記車両前方側の1列に配列された複数の前方塗布部と、前記車両後方側の1列に配列された複数の後方塗布部とは、それぞれ、前記車幅方向に、間隔を空けて形成されており、前記車両前後方向から見て、隣り合う前記前方塗布部同士の間に、前記後方塗布部が配置されていることを特徴とする請求項
3に記載の車両用ルーフ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ルーフ構造およびその組み立て方法に係り、特に、マスチック接着剤で固定されるルーフパネルを有する車両用ルーフ構造およびその組み立て方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の車両用ルーフ構造としては、特許文献1に記載の自動車ルーフパネルが提案されている。この、車両用ルーフ構造は、フロントヘッダ、リアヘッダ、および一対のサイドレールで囲まれた空間を閉じるようにルーフパネルが取り付けられた構造である。ルーフパネルは、フロントヘッダ、リアヘッダ、および一対のサイドレールを備えた上部構造体に、スポット溶接や、ボルトにより機械的な固定がなされている。さらに、車両用ルーフ構造は、上部構造体として、一対サイドレールを車幅方向に連結するクロスメンバーを備えており、ルーフパネルは、マスチック接着剤等で、クロスメンバーに接着されている。マスチック接着剤はクロスメンバーに線状に塗布されており、線状に塗布されたマスチック接着剤により接着強度が確保されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の車両用ルーフ構造を組み立てる際には、クロスメンバーに、マスチック接着剤が塗布された線状の塗布部を形成してから、上部構造体にルーフパネルを機械的に固定する。その後、ルーフパネルの塗装後の焼付、乾燥等を利用して、上部構造体およびルーフパネルとともに、塗布部を加熱することにより、塗布部のマスチック接着剤を硬化させることがある。この加熱の際に、クロスメンバーよりも、ルーフパネルが先に昇温されるため、上部構造体に周囲を拘束されたルーフパネルが、膨らむように変形する。その後、クロスメンバーもルーフパネルの温度プロフィールに追従するように昇温されるため、膨らむような変形したルーフパネルが元の形状に戻ろうとする。しかしながら、ルーフパネルが膨らむような変形したタイミングで、マスチック接着剤の硬化が開始するので、その後、ルーフパネルが元の形状に戻ろうとしても、マスチック接着剤の塗布部により、その変形が阻害されることがあり、ルーフパネルの表面にゆがみが発生することがある。
【0005】
さらに、車両用ルーフ構造では、ルーフパネルは、外部からの熱により、熱膨張および熱収縮をすることがある。この際、車幅方向におけるルーフパネルの中央部は、その両側の部分よりも上下方向に変位し易い。しかしながら、クロスメンバーの中央部に塗布されたマスチック接着剤により、ルーフパネルの中央の拘束力が大きいと、熱膨張および熱収縮により、ルーフパネルがゆがむおそれがある。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、本発明として、ルーフパネルのゆがみの発生を抑えることができる車両用ルーフ構造およびその組み立て方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を鑑みて、本発明に係る車両用ルーフ構造の組み立て方法は、車両前方側に位置するフロントヘッダと、車両後方側に位置するリアヘッダと、前記フロントヘッダの車幅方向の両端部と前記リアヘッダの車幅方向の両端部を、それぞれ連結する一対のサイドレールと、前記一対のサイドレールを車幅方向に連結するクロスメンバーと、を有した上部構造体と、前記クロスメンバーの上方から、前記フロントヘッダ、前記リアヘッダ、および前記一対のサイドレールで囲まれた空間を閉じるように、前記上部構造体に固定されるルーフパネルと、を備える車両用ルーフ構造の組み立て方法である。
【0008】
前記組み立て方法は、前記クロスメンバーに、マスチック接着剤が塗布された複数の塗布部を、車幅方向に間隔を空けて形成する工程と、前記クロスメンバーの上方から、前記フロントヘッダ、前記リアヘッダ、および前記一対のサイドレールで囲まれた空間を閉じるように、前記複数の塗布部を介して前記上部構造体に前記ルーフパネルを配置する工程と、前記ルーフパネルを、前記フロントヘッダ、前記リアヘッダ、および前記一対のサイドレールに機械的に固定する工程と、前記上部構造体および前記ルーフパネルとともに、前記複数の塗布部を加熱することにより、前記マスチック接着剤を硬化させる工程と、を含む。前記塗布部を形成する工程において、前記複数の塗布部のうち、前記クロスメンバーの前記車幅方向の中央に配置される中央塗布部の長さが、前記中央よりも前記車幅方向の両側に配置される端側塗布部の長さよりも短くなるように、前記複数の塗布部を形成することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、クロスメンバーに、マスチック接着剤が塗布された塗布部を形成してから、ルーフパネルを、フロントヘッダ、リアヘッダ、および一対のサイドレールに機械的に固定する。その後、ルーフパネルの表面の塗装後の焼付け、乾燥等を利用して、上部構造体およびルーフパネルとともに、塗布部を加熱することにより、塗布部のマスチック接着剤を硬化させる。この加熱の際に、クロスメンバーよりも、ルーフパネルが先に昇温されるため、上部構造体に周囲を拘束されたルーフパネルが、膨らむように変形する。その後、クロスメンバーもルーフパネルの温度プロフィールに追従するように昇温されるため、膨らむような変形したルーフパネルが元の形状に戻ろうとする。
【0010】
この際に、中央塗布部の長さが、端側塗布部の長さよりも短くなるように、複数の塗布部が形成されているので、ルーフパネルの車幅方向の中央において、中央塗布部による拘束力が抑えられる。この結果、中央塗布部のマスチック接着剤が硬化し始めたとしても、一旦膨らむように変形したルーフパネルが、元の形状に戻ろうとする現象を阻害し難く、ルーフパネルのゆがみを抑えることができる。これにより、変形し易いルーフパネルの中央のゆがみを抑えつつ、その両側の端側塗布部を介して、クロスメンバーにルーフパネルをより強固に接着することができる。この結果、ルーフパネルの固定を確保しつつ、ゆがみに起因したルーフパネルの表面の不自然な反射を防止することができる。
【0011】
より好ましい態様としては、前記中央塗布部を点状に形成し、前記端側塗布部を線状に形成する。この構成によれば、中央塗布部は点状となり、マスチック接着剤の塗布量が他の箇所に比べて少ないため、ルーフパネルの拘束を抑えることができる。この結果、ルーフパネルのゆがみを抑えることができ、ルーフパネルの表面の不自然な反射を防止できる。そして、端側塗布部は線状となり、中央塗布部よりも車幅方向に沿った長さが長いため、ルーフパネルとクロスメンバーとの接着強度を高めることができる。
【0012】
さらに好ましい態様としては、前記複数の塗布部を、前記クロスメンバーに対して、車両前後方向に2列で形成し、前記車両前方側の1列の複数の前方塗布部と、前記車両後方側の1列の複数の後方塗布部とを、それぞれ、前記車幅方向に、間隔を空けて配列し、前記車両前後方向から見て、隣り合う前記前方塗布部同士の間に、前記後方塗布部が配置されるように、前記複数の塗布部を形成する。
【0013】
この態様によれば、クロスメンバーにルーフパネルをマスチック接着剤で接着するとき、ルーフパネルは車両前後方向の2列の前方塗布部と後方塗布部で、互いに車幅方向にずれた状態で固定されることになる。したがって、複数の前方塗布部と複数の後方塗布部のうち、これらの中央塗布部は、車両前後方向に分散して配置されることになるため、ルーフパネルの接着状態を安定させつつ、ルーフパネルの過剰な拘束を低減することができる。また、前方塗布部と後方塗布部との2列の塗布部が、ずれた状態で(すなわち、千鳥状に)配置されるため、マスチック接着剤の塗布量を抑えつつ、より広い範囲で、ルーフパネルをクロスメンバーに安定して接着することができる。
【0014】
本明細書では、本発明として、車両用ルーフ構造も開示する。本発明に係る車両用ルーフ構造は、車両前方側に位置するフロントヘッダと、車両後方側に位置するリアヘッダと、前記フロントヘッダの車幅方向の両端部と前記リアヘッダの車幅方向の両端部を、それぞれ連結する一対のサイドレールと、前記一対のサイドレールを車幅方向に連結するクロスメンバーと、を有した上部構造体と、前記クロスメンバーの上方から、前記フロントヘッダ、前記リアヘッダ、および前記一対のサイドレールで囲まれた空間を閉じるように、前記上部構造体に固定されるルーフパネルと、を備える車両用ルーフ構造である。
【0015】
前記ルーフパネルは、前記フロントヘッダ、前記リアヘッダ、および前記一対のサイドレールに機械的に固定されているとともに、マスチック接着剤が塗布された複数の塗布部を介して、前記クロスメンバーに固定されており、前記複数の塗布部は、前記車幅方向に沿って間隔を空けて、前記クロスメンバーに形成されており、前記複数の塗布部のうち、前記クロスメンバーの前記車幅方向の中央に配置された中央塗布部の長さが、前記中央よりも前記車幅方向の両側に配置された端側塗布部の長さよりも短いことを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、ルーフパネルは、上部構造体の一部を構成するフロントヘッダ、リアヘッダ、および一対のサイドレールに機械的に固定されている。さらに、フロントヘッダ、リアヘッダ、および一対のサイドレールで囲まれた空間内には、一対のサイドレールを渡すようにクロスメンバーが連結され、ルーフパネルは、マスチック接着剤からなる複数の塗布部を介して、クロスメンバーに固定されている。このような固定により、フロントヘッダ、リアヘッダ、および一対のサイドレールで囲まれた空間を、ルーフパネルで閉じることができる。
【0017】
本発明によれば、複数の塗布部は、車幅方向に沿って間隔を空けて、クロスメンバーに形成されることで、クロスメンバーにルーフパネルを固定することができる。ここで、複数の塗布部のうち、中央塗布部の長さが、端側塗布部の長さよりも短い。これにより、ルーフパネルの車幅方向の中央は、その両側に比べて、マスチック塗布剤により拘束され難い。したがって、中央塗布部は、ルーフパネルの熱膨張および熱収縮に対して、ルーフパネルを拘束しつつも、ルーフパネルの中央の変形を促すことができるため、ルーフパネルの車幅方向の中央のゆがみを抑えることができる。
【0018】
より好ましい態様としては、前記中央塗布部は点状であり、前記端側塗布部は線状である。この態様によれば、中央塗布部は点状であり、マスチック塗布剤の塗布量が他の箇所に比べて少ないため、ルーフパネルの拘束が制限される。この結果、ルーフパネルのゆがみをより抑えることができ、ルーフパネルの表面の不自然な反射を防止できる。一方、端側塗布部は線状であり、中央塗布部よりも車幅方向に沿った長さが長いため、ルーフパネルとクロスメンバーとの接着強度を高めることができる。
【0019】
より好ましい態様としては、前記複数の塗布部は、前記クロスメンバーに対して、車両前後方向に2列で形成されており、前記車両前方側の1列に配列された複数の前方塗布部と、前記車両後方側の1列に配列された複数の後方塗布部とは、それぞれ、前記車幅方向に、間隔を空けて形成されており、前記車両前後方向から見て、隣り合う前記前方塗布部同士の間に、前記後方塗布部が配置されている。
【0020】
この態様によれば、ルーフパネルは、車両前後方向の2列の前方塗布部と後方塗布部で、互いに車幅方向にずれた状態で、クロスメンバーに固定されている。したがって、複数の前方塗布部と複数の後方塗布部のうち、これらの中央塗布部は、車両前後方向に分散して配置されることになるため、ルーフパネルの接着状態を安定させつつ、その拘束を低減することができる。また、前方塗布部と後方塗布部との2列の塗布部により、車両前後方向において、ルーフパネルを接着するので、マスチック接着剤の塗布量を抑えつつ、より広い範囲で、ルーフパネルを安定して接着することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ルーフパネルのゆがみの発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1A】本実施形態に係る車両用ルーフ構造の要部斜視図である。
【
図2】本実施形態の車両用ルーフ構造のクロスメンバーに配置される中央塗布部と端側塗布部の模式的平面図である。
【
図3】本実施形態に係る車両用ルーフ構造の組み立て方法を説明するためのフロー図である。
【
図4A】
図3に示す塗布部の成形工程を説明するための模式的斜視図である。
【
図4B】
図3に示すルーフパネルの配置工程を説明するための模式的斜視図である。
【
図4C】
図3に示すルーフパネルの固定工程を説明するための模式的断面図である。
【
図4D】
図3に示すマスチック接着剤の硬化工程を説明するための車両用ルーフ構造の模式的断面図である。
【
図5】本発明に係る車両用ルーフ構造の他の実施形態を示し、ルーフパネルを外した状態の要部平面図である。
【
図6】本発明に係る車両用ルーフ構造の一実施形態において、ルーフパネルの歪み量を検証するための試験体を示す要部分解斜視図である。
【
図7】参考例1~4に係る試験体を説明するための表図である。
【
図8】参考例1~4に係る試験体の鋼板のゆがみ量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
1.車両用ルーフ構造1について
以下、本発明に係る車両用ルーフ構造の一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
図1Aは、本実施形態に係る車両用ルーフ構造の要部斜視図である。
図1Bは、
図1Aに示す車両のルーフ構造の要部平面図である。
図2は、本実施形態の車両用ルーフ構造のクロスメンバーに配置される中央塗布部と端側塗布部の模式的平面図である。本実施形態の車両用ルーフ構造1は、例えば車両として4ドアセダンの例を示している。
【0024】
図1A、Bにおいて、車両用ルーフ構造1は、上部構造体10と、上部構造体10に取付けられたルーフパネル15とを備えている。上部構造体10は、フロントヘッダ(ウィンドシールドヘッダパネル)11と、リアヘッダ(バックウィンドフレームアッパ)12と、一対のサイドレール13、13と、複数のクロスメンバー16、16とを備えており、これらの部材は、溶接により接合されている。
【0025】
フロントヘッダ11は、車両の前方側に位置し、フロントガラスの上部を支持しており、リアヘッダ12は、車両後方に位置しており、リアガラスの上部を支持している。フロントヘッダ11とリアヘッダ12の車幅方向の両側には、一対のサイドレール13、13が位置している。
【0026】
各サイドレール13は、フロントヘッダ11およびリアヘッダ12の車幅方向Yの端部と連結されている。したがって、一対のサイドレール13、13は、フロントヘッダ11の車幅方向Yの両端部とリアヘッダ12の車幅方向Yの両端部を、それぞれ連結している。これにより、フロントヘッダ11、リアヘッダ12および一対のサイドレール13、13で囲まれた上方に開口する空間Sが形成される。
【0027】
各クロスメンバー16は、一対のサイドレール13、13を車幅方向Yに連結する補強部材である。各クロスメンバー16は、空間S内において、車幅方向Yに沿って配置されている。具体的には、クロスメンバー16、16は、車両の前後方向Xにおいて、フロントヘッダ11とリアヘッダ12との間に並設されている。
【0028】
このようにして、本実施形態では、車両用ルーフ構造1は、一対のクロスメンバー16、16で補強されるとともに、一対のクロスメンバー16、16はルーフパネル15の車室側に位置することで、ルーフパネル15の変形を防止して補強する構造となっている。2本のクロスメンバー16、16はリーンフォース部材として機能している。
【0029】
ここで、一対のサイドレール13、13は、車両前方側はフロントピラー13a、13aとなっており、フロントピラー13a、13aの下端部を車幅方向Yに連結するフロント連結部材(図示せず)とともに、フロントウィンド(図示せず)を支持するものである。一対のサイドレール13、13は、車両後方側はリアピラー13b、13bとなっており、リアピラー13b、13bの下端部を車幅方向Yに連結するリア連結部材(図示せず)とともに、リアウィンド(図示せず)を支持するものである。一対のサイドレール13、13は、車両の前後方向Xの中央部から下方に延出するセンターピラー18、18を設けるようにしてもよい。
【0030】
フロントヘッダ11、リアヘッダ12、一対のサイドレール13、13、およびクロスメンバー16、16は、所定の車両強度を有するように、たとえば高張力鋼板等の金属板をプレス成型したものであり、これらは溶接等で接合されている。ルーフパネル15は鋼板等をプレス成型して上方に向けて湾曲する形状に形成されている。
【0031】
ルーフパネル15は、クロスメンバー16、16の上方から、フロントヘッダ11、リアヘッダ12、および一対のサイドレール13、13で囲まれた空間Sを閉じるように、上部構造体10に固定されている。具体的には、ルーフパネル15は、フロントヘッダ11、リアヘッダ12および一対のサイドレール13、13に、その外周部分が機械的に固定されている。本実施形態では、フロントヘッダ11、リアヘッダ12、一対のサイドレール13、13の各部材にスポット溶接で固定されている。なお、機械的な固定としては、ビス止め等の他の固定手段を用いて固定してもよい。
【0032】
ルーフパネル15は、その外周部分が機械的に固定されているとともに、マスチック接着剤からなる複数の塗布部20、20、…を介して、クロスメンバー16、16に固定されている。
【0033】
ここでは、マスチック接着剤は、2本のクロスメンバー16、16にルーフパネル15を固定するものである。マスチック接着剤は、熱硬化性樹脂または熱硬化性ゴム等の熱硬化性材料を主剤としており、熱硬化により弾性を有するものである。
【0034】
マスチック接着剤には、有機発泡剤または無機発泡剤などの発泡剤がさらに含まれていてもよく、これにより、熱硬化時にマスチック接着剤は発泡し、弾性変形自在となる。なお、マスチック接着剤の熱硬化は、ルーフパネル15の表面に塗装(たとえば、電着塗装)を行った後、塗装の焼付けの加熱時に発現してもよい。
【0035】
図1Aおよび
図1Bに示す状態では、マスチック接着剤は、すでに熱硬化しているため、塗布部20、20、…は、弾性変形自在である。マスチック接着剤が、発泡剤により発泡している場合には、塗布部20、20、…は多孔質体となっており、これにより、さらに圧縮弾性変形し易くなる。さらに、マスチック接着剤は、必要に応じて、充填剤、架橋剤、軟化剤等を含有してもよい。このようなマスチック接着剤としては、特に制限されず、公知のマスチック接着剤が挙げられる。
【0036】
マスチック接着剤が塗布された複数の塗布部20、20、…は、クロスメンバー16、16の長手方向(すなわち、車幅方向Y)に沿って間隔を空けて、各クロスメンバー16に形成されている。本実施形態では、
図2に示すように、複数の塗布部20、20、…のうち、クロスメンバー16、16の車幅方向Yの中央に配置された中央塗布部21の長さL1が、中央よりも車幅方向Yの両側に配置された端側塗布部22、22の長さL2よりも短い。具体的には、本実施形態では、中央塗布部21は点状であり、端側塗布部22、22は線状である。
【0037】
中央塗布部21および端側塗布部22において、車両の前後方向Xの長さ(本実施形態では、マスチック接着剤をノズルから吐出した径)を幅Wとし、車幅方向Yに沿った長さを、それぞれ長さL1、L2としたときに、以下の関係を満たすことがより好ましい。
【0038】
具体的には、中央塗布部21の長さL1は、中央塗布部21の幅Wに対して2.0倍以下であることが好ましく、より好ましくは、1.5倍以下である。さらに、中央塗布部21の長さL1は、中央塗布部21の幅Wに対して、0.5倍以上であることが好ましく、より好ましくは、1.0倍以上である。特に、中央塗布部21の長さL1は、中央塗布部21の幅W以下であることが好ましい。
【0039】
端側塗布部22の長さL2は、端側塗布部22の幅Wに対して3.0倍以上であることが好ましく、より好ましくは、5.0倍以上である。端側塗布部22の長さL2は、端側塗布部22の幅Wに対して10.0倍以下であることが好ましく、より好ましくは、7.0倍以下である。さらに、各端側塗布部22の長さL2は、中央塗布部21の長さL1の3倍以上であることが好ましく、より好ましくは、4倍以上であることが好ましい。
【0040】
本実施形態では、ルーフパネル15は、上部構造体10の一部を構成するフロントヘッダ11、リアヘッダ12、および一対のサイドレール13、13に機械的に固定されている。さらに、ルーフパネル15は、マスチック接着剤が塗布された複数の塗布部20、20、…を介して、クロスメンバー16、16に接着剤により固定されている。このような固定により、フロントヘッダ11、リアヘッダ12、および一対のサイドレール13、13で囲まれた空間Sを、ルーフパネル15で閉じることができる。
【0041】
特に、本実施形態では、複数の塗布部20、20、…は、車幅方向Yに沿って間隔を空けて、クロスメンバー16に形成され、複数の塗布部20、20、…のうち、中央塗布部21の長さL1が、端側塗布部22の長さL2よりも短い。これにより、ルーフパネル15の車幅方向の中央は、その両側に比べて、マスチック接着剤により拘束され難い。したがって、中央塗布部21は、ルーフパネル15の熱膨張および熱収縮に対して、ルーフパネル15を拘束しつつも、ルーフパネル15の中央の変形を促すことができるため、ルーフパネル15の車幅方向Yの中央のゆがみを抑えることができる。
【0042】
特に、本実施形態では、中央塗布部21は、点状であり、マスチック接着剤の塗布量が他の箇所に比べて少ないため、ルーフパネル15の拘束が制限される。この結果、ルーフパネル15のゆがみをより抑えることができ、ルーフパネル15の表面の不自然な反射を防止できる。一方、端側塗布部22は線状であり、中央塗布部21よりも車幅方向Yに沿った長さL2が長いため、ルーフパネル15とクロスメンバー16との接着強度を高めることができる。特に、中央塗布部21と端側塗布部22の幅Wに対する長さL1、L2を上述した範囲とすることにより、このような効果をより一層期待することができる。
【0043】
2.車両用ルーフ構造1の組み立て方法に関して
以上のように構成された本実施形態の車両用ルーフ構造1の組み立て方法を、
図3および、
図4A~
図4Dを参照しながら説明する。
図3は、本実施形態に係る車両用ルーフ構造1の組み立て方法を説明するためのフロー図であり、
図4A~
図4Dは、
図3に示す各工程を説明するための模式図である。以下に示す組み立て方法は、上部構造体10の空間Sを、ルーフパネル15で閉じ、上部構造体10にルーフパネル15を固定する方法である。
【0044】
2-1.塗布部の形成工程S1について
まず、上述した上部構造体10に対して、
図3に示す塗布部の形成工程S1を行う。具体的には、
図4Aに示すように、クロスメンバー16、16に、マスチック接着剤からなる複数の塗布部20、20、…を、車幅方向Yに間隔を空けて配置する。この状態では、塗布部20、20、…のマスチック接着剤は、未硬化の状態(ゲル状またはスラリー状)であり、発泡剤を含む場合には、発泡剤は未発泡の状態であり、例えば、一般的に知られた接着剤の塗布装置による塗布により、複数の塗布部20、20、…を形成することができる。
【0045】
本実施形態では、塗布部の形成工程S1において、複数の塗布部20、20、…のうち、クロスメンバー16、16の車幅方向Yの中央に配置される中央塗布部21の長さL1が、中央よりも車幅方向Yの両側に配置される端側塗布部22の長さL2よりも短くなるように、複数の塗布部20、20、…を形成する。より、具体的には、
図2に示すように、中央塗布部21を点状に形成し、端側塗布部22を線状に形成する。
【0046】
本実施形態では、具体的には、上述した如く、中央塗布部21の長さL1は、中央塗布部21の幅Wに対して2.0倍以下であることが好ましく、より好ましくは、1.5倍以下である。さらに、中央塗布部21の長さL1は、中央塗布部21の幅Wに対して、0.5倍以上であることが好ましく、より好ましくは、1.0倍以上である。特に、中央塗布部21の長さL1は、中央塗布部21の幅W以下であることが好ましい。
【0047】
端側塗布部22の長さL2は、端側塗布部22の幅Wに対して3.0倍以上であることが好ましく、より好ましくは、5.0倍以上である。さらに、各端側塗布部22は、中央塗布部21の長さの3倍以上であることが好ましく、より好ましくは、4倍以上である。
【0048】
2-2.ルーフパネルの配置工程S2について
図3に示すように、ルーフパネルの配置工程S2を行う。具体的には、
図4Bに示すように、クロスメンバー16、16の上方から、フロントヘッダ11、リアヘッダ12、および一対のサイドレール13、13で囲まれた空間Sを閉じるように、複数の塗布部20、20、…を介して上部構造体10にルーフパネル15を配置する。この際、ルーフパネル15は、クロスメンバー16、16に配置された塗布部20、20、…に接触する。
【0049】
2-3.ルーフパネルの固定工程S3について
図3に示すように、ルーフパネルの固定工程S3を行う。具体的には、
図4Cに示すように、ルーフパネル15を、フロントヘッダ11、リアヘッダ12、および一対のサイドレール13、13に機械的に固定する。本実施形態では、ルーフパネル15の外周部分をフロントヘッダ11、リアヘッダ12および一対のサイドレール13、13にスポット溶接等で固定する。これにより、溶接部23を介して、ルーフパネル15は、上部構造体10に固定される。なお、このルーフパネル15の固定は、ビス止め、かしめ等で行ってもよい。
【0050】
2-4.マスチック接着剤の硬化工程S4について
図3に示すように、マスチック接着剤の硬化工程S4を行う。具体的には、
図4Dに示すように、上部構造体10およびルーフパネル15とともに、複数の塗布部20、20、…を加熱することにより、マスチック接着剤を硬化させる。本実施形態では、
図3に示す、ルーフパネルの固定工程S3とマスチック接着剤の硬化工程S4との間に、塗装工程(
図3には図示せず)があり、この塗装工程では、電着塗装により、ルーフパネル15の表面に塗膜を形成する。その後、車両(車体)を炉内に投入し、塗装工程より形成された塗膜を焼付ける(加熱する)ことにより、ルーフパネル15の表面に安定した塗膜を形成する。本実施形態では、塗膜の焼付け時の加熱を利用して、複数の塗布部20、20、…を加熱し、複数の塗布部20、20、…のマスチック接着剤を硬化させる。
【0051】
ここで、
図4Dに示すように、この加熱の際に、炉内では、クロスメンバー16、16よりも、ルーフパネル15が先に昇温されるため、上部構造体10に周囲を拘束されたルーフパネル15が、膨らむように変形する。その後、クロスメンバー16、16もルーフパネル15の温度プロフィールに追従するように昇温されるため、膨らむように変形したルーフパネル15が元の形状に戻ろうとする。
【0052】
この際に、中央塗布部21の長さL1が、端側塗布部22の長さL2よりも短くなるように、複数の塗布部20、20が配置されているので、ルーフパネル15の車幅方向Yの中央において、中央塗布部21による拘束力が制限される。この結果、中央塗布部21のマスチック接着剤が硬化し始めたとしても、一旦膨らむように変形したルーフパネル15が、元の形状に戻ろうとする現象を阻害し難く、加熱によるルーフパネル15の一時的なゆがみを抑えることができる。これにより、変形し易いルーフパネル15の中央のゆがみを抑えつつ、その両側の端側塗布部22を介して、クロスメンバー16にルーフパネル15をより強固に接着することができる。この結果、ルーフパネル15の固定を確保しつつ、ゆがみに起因したルーフパネル15の表面の不自然な反射を防止することができる。
【0053】
特に、中央塗布部21は点状であり、マスチック接着剤の塗布量が他の箇所に比べて少ないため、ルーフパネル15の拘束を制限することができる。この結果、ルーフパネル15のゆがみを抑えることができ、ルーフパネル15の表面の不自然な反射を防止できる。一方、端側塗布部22は線状であり、中央塗布部21よりも車幅方向Yに沿った長さが長いため、ルーフパネル15とクロスメンバー16との接着強度を高めることができる。
【0054】
つぎに、本発明の他の実施形態について、
図5を参照して説明する。
図5は、本発明に係る車両用ルーフ構造の他の実施形態を示し、ルーフパネルを外した状態の要部平面図である。なお、
図1Bに示す車両用ルーフ構造1とは、マスチック接着剤が塗布された塗布部の形態が異なるため、この点を以下に説明し、他の構成については、その詳細な説明を省略する。
【0055】
図5に示すように、本実施形態では、
図2に示す実施形態と同様に、複数の塗布部のうち、クロスメンバー16の車幅方向Yの中央に配置された中央塗布部21の長さが、中央よりも車幅方向Yの両側に配置された端側塗布部22の長さよりも短い。
【0056】
さらに、本実施形態では、複数の塗布部…は、クロスメンバー16に対して、車両の前後方向Xに2列で形成されている。車両前方側の1列に配列された複数の前方塗布部20A、20A、…と、車両後方側の1列に配列された複数の後方塗布部20B、20B、…とは、それぞれ、車幅方向Yに、間隔を空けて形成されている。前方塗布部20A、20A、…と、後方塗布部20B、20B、…とは、千鳥状に配置されている。具体的には、車両の前後方向Xから見て、隣り合う前方塗布部20A、20A同士の間に、後方塗布部20Bが配置されている。
【0057】
ここで、複数の塗布部の形成は、
図3に示す、塗布部形成工程S1において行えばよい。具体的には、塗布部形成工程S1において、
図5に示すように、複数の塗布部を、クロスメンバー16に対して、車両の前後方向Xに2列で形成する。この際、車両前方側の1列の複数の前方塗布部20A、20A、…と、車両後方側の1列の複数の後方塗布部20B、20B、…とを、それぞれ、車幅方向Yに、間隔を空けて配列する。この際に、車両の前後方向Xから見て、隣り合う前方塗布部20A、20A同士の間に、後方塗布部20Bが配置されるように、複数の塗布部を形成すればよい。
【0058】
本実施形態によれば、複数の前方塗布部20A、20A、…と複数の後方塗布部20B、20B、…のうち、中央塗布部21、21、…は、車両の前後方向Xに分散して配置されることになるため、ルーフパネル15の接着状態を安定させつつ、ルーフパネル15の過剰な拘束を低減することができる。また、複数の前方塗布部20A、20A、…と後方塗布部20B、20B、…との2列の塗布部が、車幅方向Yに沿って、ずれた状態で配置されるため、マスチック接着剤の塗布量を抑えつつ、より広い範囲で、ルーフパネル15をクロスメンバー16に安定して接着することができる。このような結果、ルーフパネル15を上部構造体10に安定的に固定することができるとともに、ルーフパネル15のゆがみを抑えることができる。
【0059】
ここで、本実施形態の車両用ルーフ構造1において、
図6を参照してルーフパネル15の歪み量を検証する試験体30について説明する。試験体30は、上部構造体10のクロスメンバー16、16に相当するベース31と、ルーフパネル15に相当するパネル(鋼板)34と、を備えている。ベース31は、金属製の厚板材(たとえば厚み:1.6mm以上)を、断面コ字状に折り曲げて剛性を高めた形状であり、パネル34は、ベース31よりも薄い板厚(たとえば、厚さ:0.6mm)の板材である。
【0060】
ベース31とパネル34の両側には、それぞれ、貫通孔31a、34aが形成されている。まず、ベース31の貫通孔31a、31aの間に、マスチック接着剤を塗布した塗布部36を形成する。
図6は後述する参考例1の試験体30の塗布部36を示している。次に、ベース31とパネル34との間に、スペーサ(ワッシャ)33、33を挟み込んだ状態で、ボルト32を、貫通孔31a、スペーサ33、および貫通孔34aの順に通し、ボルト32、32に、ナット35、35を締め込む。これにより、ベース31の両側で、パネル34が機械的に固定され、ボルト32、32の間に、マスチック接着剤からなる塗布部36が配置された試験体を得ることができる。この試験体30を、実際の加熱炉内での加熱条件で加熱すれば、実車におけるルーフパネルのゆがみの傾向を確認することができる。
【0061】
以下の参考例1~4では、
図7に示す条件で試験体30を作製し、これをそれぞれ加熱した。参考例1は、ベース31の長手方向の中央に、長さ15mmの点状の塗布部を1つ設けた。参考例2では、ベース31の長手方向の中央に、長さ15mmの点状の塗布部を2つ設け、これらの間の隙間を20mmにした。参考例3では、ベース31の長手方向の中央に、長さ15mmの点状の塗布部を2つ設け、これらの間の隙間を50mmにした。参考例4では、ベース31の長手方向の中央に、長さ50mmの線状の塗布部を設けた。参考例1~4に係る試験体30を、同じ条件で加熱し、マスチック接着剤を硬化させた。その後、パネル34の長手方向に沿って、レーザ変位計からレーザ光を走査し、パネル34の変形量を測定した。この結果を
図8に示す。
【0062】
図8から明らかなように、参考例4は、参考例1~3に比べて、パネル34の変形量が大きく、参考例2、3は、参考例1に比べて、パネル34の変形量が大きいことがわかった。パネル34は、長手方向の両側で、ボルト32とナット35により機械的に固定(拘束)されており、パネル34の中央が変形しやすい。ここで、参考例4に示すように、線状の塗布部36を配置した場合には、マスチック接着剤の硬化後、参考例1~3のものに比べて、パネル34の変形を拘束し易い。参考例4の場合には、加熱時にパネル34が膨らむように変形し、元の形状に戻ろうとしたときに、塗布部36のマスチック接着剤が硬化し、パネル34が元の形状に戻り難くなる。このような結果、参考例1~3に比べて、参考例4のパネル34の変形量が大きくなったと考えられる。同様に理由により、1つの点状の塗布部36を配置した参考例1に比べて、2つの点状の塗布部36、36を配置した参考例2、3の方が、パネル34の変形量が大きくなったと考えられる。
【0063】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【0064】
たとえば、本実施形態では、中央塗布部の幅と、端側塗布部の幅を同じ幅としたが、異なる幅で形成してもよい。また、クロスメンバーを2本設ける例を示したが、1本でもよく、3本以上でもよい。
【符号の説明】
【0065】
1:車両用ルーフ構造、10:上部構造体、11:フロントヘッダ、12:リアヘッダ、13:サイドレール、15:ルーフパネル、16:クロスメンバー、20:塗布部、21中央塗布部、22:端側塗布部、20A:前方塗布部、20B:後方塗布部