(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】支援装置、方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/00 20060101AFI20240514BHJP
【FI】
G08G1/00 D
(21)【出願番号】P 2020210541
(22)【出願日】2020-12-18
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正俊
(72)【発明者】
【氏名】木村 陽介
(72)【発明者】
【氏名】永冶 健太朗
【審査官】佐藤 吉信
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-100298(JP,A)
【文献】特開2015-095237(JP,A)
【文献】特開2018-049477(JP,A)
【文献】特開2020-095596(JP,A)
【文献】特開2015-185112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G01C 21/00-21/36
G01C 23/00-25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の場所を通行した車両のうち前記第1の場所で所定の運転操作を行った複数の第1車両を特定する特定部と、
前記特定部によって特定された前記複数の第1車両の各々の走行履歴から、前記第1の場所に至るまでの期間における前記複数の第1車両に共通する運転操作を抽出する抽出部と、
を含
み、
前記特定部は、前記第1の場所を通行した車両の走行履歴情報から、前記第1の場所で前記複数の第1車両の何れかとすれ違った複数の第2車両も特定し、
前記抽出部は、前記特定部によって特定された前記複数の第2車両の各々の走行履歴情報から、前記第1の場所に至るまでの期間で前記複数の第2車両に共通する運転操作も抽出する支援装置。
【請求項2】
前記特定部は、前記所定の運転操作の回数または頻度が閾値を超える車両を、前記複数の第1車両から除外する請求項1記載の支援装置。
【請求項3】
前記所定の運転操作は、急ブレーキ、急ハンドル、急加速、クラクションの何れかを含む請求項1または請求項2記載の支援装置。
【請求項4】
前記共通する運転操作から推定された、前記第1の場所で前記所定の運転操作が行われた要因に基づいて、前記第1の場所における安全対策の候補を出力する出力部を更に含む請求項1~請求項3の何れか1項記載の支援装置。
【請求項5】
所定の安全対策が施された第2の場所を、前記所定の安全対策が施される以前に円滑に通行した第3車両を特定すると共に、前記第2の場所を前記所定の安全対策が施された以後に円滑に通行した第4車両を特定し、前記第3車両の走行履歴と前記第4車両の走行履歴を比較する比較部を更に含む請求項1~請求項4の何れか1項記載の支援装置。
【請求項6】
第1の場所を通行した車両のうち前記第1の場所で所定の運転操作を行った複数の第1車両を特定し、
特定した前記複数の第1車両の各々の走行履歴から、前記第1の場所に至るまでの期間における前記複数の第1車両に共通する運転操作を抽出する
ことを含む処理をコンピュータによって実行させる支援方法であって、
前記第1の場所を通行した車両の走行履歴情報から、前記第1の場所で前記複数の第1車両の何れかとすれ違った複数の第2車両も特定し、
特定した前記複数の第2車両の各々の走行履歴情報から、前記第1の場所に至るまでの期間で前記複数の第2車両に共通する運転操作も抽出する支援方法。
【請求項7】
コンピュータに、
第1の場所を通行した車両のうち前記第1の場所で所定の運転操作を行った複数の第1車両を特定し、
特定した前記複数の第1車両の各々の走行履歴から、前記第1の場所に至るまでの期間における前記複数の第1車両に共通する運転操作を抽出する
ことを含む処理を実行させるための支援プログラムであって、
前記第1の場所を通行した車両の走行履歴情報から、前記第1の場所で前記複数の第1車両の何れかとすれ違った複数の第2車両も特定し、
特定した前記複数の第2車両の各々の走行履歴情報から、前記第1の場所に至るまでの期間で前記複数の第2車両に共通する運転操作も抽出する支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は支援装置、支援方法および支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、急ブレーキをかける等の危険回避行動が発生した回数および事故発生回数から道路上の任意の地点についてリスク情報が与えられた際に、当該リスク情報に加えて、天候、曜日、時間帯、路面状態および交通量の各要因に応じたリスク度合いを設定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
道路上の或る地点で急ブレーキなどの所定の運転操作が行われた場合、前記地点で所定の運転操作が行われた要因を推定することができれば、推定した要因に応じて前記地点に安全対策を施すことで、所定の運転操作が行われる頻度を低減させることが可能となる。しかしながら、特許文献1に記載の技術は、所定の運転操作の発生回数やそのときの状況(天候、曜日、時間帯、路面状態および交通量)などに基づいてリスク度合いを評価することに留まっており、所定の運転操作が行われた要因を推定することは困難である。
【0005】
本開示は上記事実を考慮して成されたもので、所定の運転操作が行われた要因を推定することが可能な情報を提供できる支援装置、支援方法および支援プログラムを得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様に係る支援装置は、第1の場所を通行した車両のうち前記第1の場所で所定の運転操作を行った複数の第1車両を特定する特定部と、前記特定部によって特定された前記複数の第1車両の各々の走行履歴から、前記第1の場所に至るまでの期間における前記複数の第1車両に共通する運転操作を抽出する抽出部と、を含んでいる。
【0007】
第1の態様において、特定部は、第1の場所を通行した車両のうち第1の場所で所定の運転操作を行った複数の第1車両を特定する。ここで、複数の第1車両は、第1の場所で所定の運転操作を各々行っている車両であるので、第1の場所に至るまでの期間における複数の第1車両の走行履歴には、所定の運転操作が行われた要因に関連する特有の運転操作が各々含まれている可能性がある。
【0008】
これに基づき第1の態様では、抽出部が、特定部によって特定された複数の第1車両の各々の走行履歴から、第1の場所に至るまでの期間における複数の第1車両に共通する運転操作を抽出する。これにより、複数の第1車両に共通する運転操作の情報、すなわち所定の運転操作が行われた要因を推定可能な情報を提供することができる。また、提供された情報から第1の場所で所定の運転操作が行われた要因を推定可能となることにより、推定した要因に応じて道路に安全対策を施すことで、第1の場所で所定の運転操作が行われる頻度を低減させることが可能となる。
【0009】
第2の態様は、第1の態様において、前記特定部は、前記所定の運転操作の回数または頻度が閾値を超える車両を、前記複数の第1車両から除外する。
【0010】
第1の場所で所定の運転操作を行った複数の第1車両の中には、普段から所定の運転操作を頻発している運転者(例えば運転の荒い運転者)が運転する車両が混在している可能性がある。そして、複数の第1車両の中にこのような車両が混在している場合、複数の第1車両に共通する運転操作の情報の精度が低下する(抽出された複数の第1車両に共通する運転操作と、所定の運転操作が行われた要因と、の関連性が低下する)。これに対して第2の態様では、所定の運転操作の回数または頻度が閾値を超える車両を複数の第1車両から除外するので、複数の第1車両に共通する運転操作の情報の精度を向上させることができ、所定の運転操作が行われた要因の推定精度を向上させることができる。
【0011】
第3の態様は、第1の態様又は第2の態様において、前記所定の運転操作は、急ブレーキ、急ハンドル、急加速、クラクションの何れかを含む。
【0012】
第3の態様によれば、急ブレーキ、急ハンドル、急加速、クラクションの何れかが行われた場所について、急ブレーキ、急ハンドル、急加速、クラクションの何れかが行われた要因を推定することが可能な情報を提供することができる。
【0013】
第4の態様は、第1の態様~第3の態様の何れかにおいて、前記特定部は、前記第1の場所を通行した車両の走行履歴情報から、前記第1の場所で前記複数の第1車両の何れかとすれ違った複数の第2車両も特定し、前記抽出部は、前記特定部によって特定された前記複数の第2車両の各々の走行履歴情報から、前記第1の場所に至るまでの期間で前記複数の第2車両に共通する運転操作も抽出する。
【0014】
第4の態様において、複数の第2車両は、第1の場所で複数の第1車両の何れかとすれ違った車両であるので、第1の場所に至るまでの期間における複数の第2車両の走行履歴にも、第1車両で所定の運転操作が行われた要因に関連する特有の運転操作が各々含まれている可能性がある。例えば、第2車両が第1の場所で車線をはみ出したことで、すれ違った第1車両が急ブレーキをかけたなどの場合が該当する。
【0015】
これを考慮し、第4の態様は、第1の場所を通行した車両の走行履歴情報から、第1の場所で複数の第1車両の何れかとすれ違った複数の第2車両も特定し、特定した複数の第2車両の各々の走行履歴情報から、第1の場所に至るまでの期間で複数の第2車両に共通する運転操作も抽出する。これにより、複数の第2車両に共通する運転操作の情報、すなわち第1車両で所定の運転操作が行われた要因を推定することが可能な情報を提供することができる。
【0016】
第5の態様は、第1の態様~第4の態様の何れかにおいて、前記共通する運転操作から推定された、前記第1の場所で前記所定の運転操作が行われた要因に基づいて、前記第1の場所における安全対策の候補を出力する出力部を更に含んでいる。
【0017】
第5の態様では、第1の場所で所定の運転操作が行われた要因に基づいて、第1の場所における安全対策の候補が出力されるので、第1の場所に施す安全対策を検討するにあたり、安全対策の候補を挙げる手間が省け、第1の場所に施す安全対策を検討する作業を省力化することができる。
【0018】
第6の態様は、第1の態様~第5の態様の何れかにおいて、所定の安全対策が施された第2の場所を、前記所定の安全対策が施される以前に円滑に通行した第3車両を特定すると共に、前記第2の場所を前記所定の安全対策が施された以後に円滑に通行した第4車両を特定し、前記第3車両の走行履歴と前記第4車両の走行履歴を比較する比較部を更に含んでいる。
【0019】
第6の態様によれば、第2の場所に施された所定の安全対策の効果を評価する作業を省力化することができる。また、第3車両および第4車両として、第2の場所を円滑に通行した車両を特定するので、例えば渋滞などの周囲状況の影響を受けて第2の場所を円滑に通行できなかった車両が除外されることで、所定の安全対策の効果をより正確に評価することができる。
【0020】
第7の態様に係る支援方法は、第1の場所を通行した車両のうち前記第1の場所で所定の運転操作を行った複数の第1車両を特定し、特定した前記複数の第1車両の各々の走行履歴から、前記第1の場所に至るまでの期間における前記複数の第1車両に共通する運転操作を抽出することを含む処理をコンピュータによって実行させる。
【0021】
第7の態様によれば、第1の態様と同様に、所定の運転操作が行われた要因を推定することが可能な情報を提供することができる。
【0022】
第8の態様に係る支援プログラムは、コンピュータに、第1の場所を通行した車両のうち前記第1の場所で所定の運転操作を行った複数の第1車両を特定し、特定した前記複数の第1車両の各々の走行履歴から、前記第1の場所に至るまでの期間における前記複数の第1車両に共通する運転操作を抽出することを含む処理を実行させる。
【0023】
第8の態様によれば、第1の態様と同様に、所定の運転操作が行われた要因を推定することが可能な情報を提供することができる。
【発明の効果】
【0024】
本開示は、所定の運転操作が行われた要因を推定することが可能な情報を提供できる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施形態に係る安全対策支援システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図3】安全対策支援処理を示すフローチャートである。
【
図5】クラスタリングにより極端に急ブレーキの多い車両を抽出する処理を説明するための説明図である。
【
図6】急ブレーキの発生場所の分布の出力例を示すイメージ図である。
【
図8】交差点で急ブレーキをかけた第1車両と急ブレーキをかけなかった他車両との走行データを比較した結果を示すイメージ図である。
【
図9】急ブレーキの発生場所毎のリスク値の出力例を示すイメージ図である。
【
図10】急ブレーキをかけた第1車両に共通する運転操作の出力例を示すイメージ図である。
【
図11】急ブレーキをかけた第1車両とすれ違った第2車両に共通する運転操作の出力例を示すイメージ図である。
【
図15】支援処理4において、所定値以上の減速をした車両のデータを除外する処理を説明するためのイメージ図である。
【
図16】支援処理4において、安全対策前のデータと安全対策後のデータを比較する処理の一例を説明するためのイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本開示の実施形態の一例を詳細に説明する。
図1に示すように、実施形態に係る安全対策支援システム10は、車両に搭載された車載システム12と、データセンタ・サーバ46(以下、単にサーバ46という)と、を含んでいる。車載システム12およびサーバ46はネットワーク68を介して通信可能とされている。なお、
図1では車載システム12を1つのみ示しているが、車載システム12は複数の車両に各々搭載されている。
【0027】
車載システム12は、ECU(Electronic Control Unit)14を備えている。ECU14には、車載センサ群16、カメラ32、ナビゲーションシステム34、任意の情報を表示可能な表示部36、および、サーバ46などとの通信を司る通信部42が接続されている。
【0028】
車載センサ群16は、GNSS(Global Navigation Satellite System)衛星から測位信号を受信してGNSS測位情報を取得するGNSSセンサ18と、車両の加速度を検出する加速度センサ20と、車両の速度を検出する車速センサ22と、を含んでいる。また車載センサ群16は、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルセンサ26と、ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダルセンサ28と、車両の操舵角を検出する操舵角センサ30と、を含んでいる。
【0029】
車載センサ群16の各センサは、車両のイグニッションスイッチがオンの間、各種の物理量を所定時間毎に検出する。そして、車載センサ群16の各センサによって検出されたセンサデータ(CAN(Controller Area Network)データともいう)は、随時、または所定量のデータが蓄積される度に、サーバ46へ送信される。
【0030】
カメラ32は、車両のイグニッションスイッチがオンの間、車両の前方を撮影する。カメラ32によって撮影された画像データについても、随時、または所定量の画像データが蓄積される度に、サーバ46へ送信される。
【0031】
ナビゲーションシステム34は、地図情報を記憶する記憶部(図示省略)を含んでおり、GNSSセンサ18から出力されるGNSS測位情報と記憶部に記憶された地図情報とに基づいて、表示部36に表示した地図上に自車両の位置を表示したり、目的地迄の経路を案内する処理を行う。
【0032】
表示部36は、メータディスプレイ38とHUD(Head-Up Display)40とを含んでいる。本実施形態に係るHUD40は、ウインドシールドガラスへの反射などにより自車両の乗員の前方視野の一部を表示範囲とする(前景内下方に像を結ぶ)小型のHUDである。また、メータディスプレイ38は自車両のインストルメントパネルに設けられたディスプレイである。
【0033】
サーバ46は、CPU(Central Processing Unit)48、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)を含むメモリ50、および、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)などの不揮発性の記憶部52を含んでいる。またサーバ46は、車載システム12などとの通信を司る通信部54、キーボードなどの入力部56、および、ディスプレイなどの表示部58を含んでいる。CPU48、メモリ50、記憶部52、通信部54、入力部56および表示部58は内部バス66を介して互いに通信可能に接続されている。
【0034】
記憶部52には、安全対策支援プログラム62が記憶されており、データ記憶領域64が設けられている。データ記憶領域64には、各車両から取得した、車両の運転履歴に関するデータを含む、車両の走行に関する時系列の走行データ(車載センサ群16のセンサデータおよびカメラ32の撮影画像データ)が蓄積記憶される。
【0035】
サーバ46は、安全対策支援プログラム62が記憶部52から読み出されてメモリ50に展開され、メモリ50に展開された安全対策支援プログラム62がCPU48によって実行されることで、
図2に示す特定部70、抽出部72、出力部74および比較部76として機能し、後述する安全対策支援処理を行う。なお、サーバ46は支援装置の一例である。
【0036】
特定部70は、第1の場所を通行した車両のうち第1の場所で所定の運転操作を行った複数の第1車両を特定する。なお、所定の運転操作の一例は急ブレーキである。また特定部70は、所定の運転操作の回数または頻度が閾値を超える車両を、複数の第1車両から除外する。また特定部70は、第1の場所を通行した車両の走行履歴情報から、第1の場所で複数の第1車両の何れかとすれ違った複数の第2車両も特定する。
【0037】
抽出部72は、特定部70によって特定された複数の第1車両の各々の走行履歴から、第1の場所に至るまでの期間における複数の第1車両に共通する運転操作を抽出する。また抽出部72は、特定部70によって特定された複数の第2車両の各々の走行履歴情報から、第1の場所に至るまでの期間で複数の第2車両に共通する運転操作も抽出する。
【0038】
出力部74は、共通する運転操作から推定された、第1の場所で所定の運転操作が行われた要因に基づいて、第1の場所における安全対策の候補を出力する。そして比較部76は、所定の安全対策が施された第2の場所を、所定の安全対策が施される以前に円滑に通行した第3車両を特定すると共に、第2の場所を所定の安全対策が施された以後に円滑に通行した第4車両を特定し、第3車両の走行履歴と第4車両の走行履歴を比較する。
【0039】
次に本実施形態の作用として、まず
図3を参照し、本実施形態に係る安全対策支援処理について説明する。安全対策支援処理のステップ100において、サーバ46は、急ブレーキの発生場所を同定する支援処理1を行う。この支援処理1の詳細について、
図4を参照して説明する。
【0040】
支援処理1のステップ120において、サーバ46は、予め設定された処理対象の期間(一例としては6ヶ月)に、予め設定された処理対象の地域を通行した全ての車両の走行データをデータ記憶領域64から取得する。ステップ122において、サーバ46は、ステップ120で取得した走行データに基づいて、車両毎に、処理対象の地域内における急ブレーキの発生回数と発生位置を取得する。なお、急ブレーキの一例は、-0.4G以上の減速度で減速した場合とすることができる。
【0041】
ステップ124において、サーバ46は、ステップ120で取得した走行データに基づいて、クラスタリングにより極端に急ブレーキの多い車両を抽出する。具体的には、例えば
図5に示すように、車両毎の累積走行時間を横軸にとり、車両毎の急ブレーキの回数を縦軸にとった散布図を作成し、「走行時間」「ブレーキ数」「時間当たりのブレーキ数」を説明変数としてk-means法などによってクラスタリングを行う。このクラスタリングにより、明らかに急ブレーキの多い車両の集団と、走行時間が短い割に急ブレーキをかけている車両の集団と、を全体から分離・抽出することができる。そしてステップ124では、抽出した極端に急ブレーキの多い車両の走行データを、ステップ120で取得した走行データから除外する。これにより、運転者の運転が荒いと推定される車両の走行データが後段の処理に悪影響を及ぼすことを抑制することができる。
【0042】
ステップ126において、サーバ46は、極端に急ブレーキの多い車両の走行データを除外した後の走行データに基づいて、処理対象の地域内における急ブレーキの発生場所の座標を急ブレーキの分布として出力する。例として
図6には、急ブレーキの発生場所の分布の出力例を示す。
図6は、急ブレーキの発生場所をドットで示している。
【0043】
ステップ128において、サーバ46は、急ブレーキの発生場所毎に急ブレーキ数と走行数をカウントする。ステップ130において、サーバ46は、急ブレーキ数が1の場所を急ブレーキの発生場所から除外する。これにより、例えば動物の飛び出しを要因として急ブレーキが発生した場所などのように、偶発的に急ブレーキが発生した場所が急ブレーキの発生場所から除外される。
【0044】
ステップ132において、サーバ46は、走行数が規定値未満の場所を急ブレーキの発生場所から除外する。これにより、車両の通行量が少ないために安全対策を行う上での優先順位が低い場所が急ブレーキの発生場所から除外される。
【0045】
ステップ134において、サーバ46は、急ブレーキ数と走行数の比から個々の急ブレーキの発生場所毎のリスク値を算出する。
リスク値=急ブレーキ数/走行数
上述のようにして急ブレーキの発生場所が同定されると、支援処理1を終了して安全対策支援処理のステップ102へ移行する。
【0046】
安全対策支援処理のステップ102において、サーバ46は、急ブレーキをかけた第1車両および第1車両とすれ違った第2車両について、共通する運転操作を抽出する支援処理2を行う。この支援処理2の詳細について、
図7を参照して説明する。
【0047】
ステップ140において、サーバ46は、支援処理1で同定された急ブレーキの発生場所の中から、処理対象の急ブレーキ発生場所を選択する。処理対象の急ブレーキ発生場所は第1の場所の一例であり、以下、「第1の場所」と称する。ステップ142において、特定部70は、データ記憶領域64に蓄積記憶されている走行データに基づき、第1の場所で急ブレーキをかけた複数の第1車両を特定する。また、ステップ144において、特定部70は、前述したステップ124と同様のクラスタリングを行うことで、ステップ142で抽出した複数の第1車両から、極端に急ブレーキの多い車両を除外する。
【0048】
ステップ146において、抽出部72は、第1の場所に至るまでの期間における第1車両の走行データ(例えば前後方向加速度および車速)を、第1の場所で急ブレーキをかけていない他車両の走行データと比較する。そしてステップ148において、抽出部72は、ステップ146における走行データの比較結果に基づいて、処理対象の場所に至るまでの期間における複数の第1車両に共通する運転操作(第1の運転操作)を抽出する。
【0049】
一例として
図8は、急ブレーキの多い交差点に北東方向から進入し、交差点を右折する走行ルートを走行した車両のうち、交差点の直前で急ブレーキをかけた第1車両の走行データを、急ブレーキをかけずに通過した他車両の走行データと比較した結果を示す。
図8に示す第1車両の走行データには、急ブレーキが行われた要因に関連する特有の運転操作として、交差点に速度超過で進入している、という共通する運転操作が現れている。このような事象が多発している場所では、複数の第1車両に共通する第1の運転操作として、「速度超過での交差点進入」が抽出される。
【0050】
なお、複数の第1車両に共通する第1の運転操作は、全ての第1車両で行われた運転操作に限られるものではなく、所定割合(例えば80%)以上の第1車両で行われた運転操作も含んでいる。
【0051】
ステップ150において、抽出部72は、第1の場所で急ブレーキをかけた第1車両の走行データを、データ記憶領域64に蓄積記憶されている走行データと比較することで、第1の場所で急ブレーキをかけた第1車両と第1の場所ですれ違った複数の第2車両を特定する。
【0052】
ステップ152において、抽出部72は、第1の場所に至るまでの期間における第2車両の走行データを、第1の場所で急ブレーキをかけた車両とすれ違っていない他車両の走行データと比較する。そしてステップ154において、抽出部72は、ステップ152における走行データの比較結果に基づいて、処理対象の場所に至るまでの期間における複数の第2車両に共通する運転操作(第2の運転操作)を抽出する。
【0053】
第1車両が急ブレーキをかけた要因としては、第1車両が速度超過で交差点に進入したなどのように、第1車両の運転操作自体が要因となっている場合も有るが、第1車両以外の他車両の運転操作が要因となっている場合もある。一例としては、第2車両が交差点を左折して第1車両とすれ違った際に大きく膨らんで走行したために、対向する第1車両が急ブレーキをかけた場合などが該当する。このような事象が多発している場所では、複数の第2車両に共通する第2の運転操作として「左折時に大きく膨らむ」が抽出される。
【0054】
なお、複数の第2車両に共通する第2の運転操作は、全ての第2車両で行われた運転操作に限られるものではなく、所定割合(例えば80%)以上の第2車両で行われた運転操作も含んでいる。
【0055】
次のステップ156において、サーバ46は、支援処理1で同定された全ての急ブレーキの発生場所に対してステップ140以降の処理を行ったか否か判定する。ステップ156の判定が否定された場合はステップ140に戻り、ステップ156の判定が肯定される迄、ステップ140~ステップ156を繰り返す。支援処理1で同定された全ての急ブレーキの発生場所に対してステップ140以降の処理を行うと、ステップ156の判定が肯定されてステップ158へ移行する。
【0056】
ステップ158において、サーバ46は、個々の急ブレーキ発生場所毎のリスク値、第1の運転操作および第2の運転操作を、例として
図9に示すようなリスクマップ90として表示部58へ出力し、支援処理2を終了する。なお、個々の急ブレーキ発生場所はリスクマップ90上でドットとして示されており、個々の急ブレーキ発生場所におけるリスク値に応じてドットの種類(例えば表示色)が相違されている。また、第1の運転操作および第2の運転操作は、
図10および
図11に示すように、何れかのドットにカーソル92を合わせると、対応する情報94がポップアップ表示されるようになっている。
【0057】
なお、急ブレーキ発生場所毎のリスク値、第1の運転操作および第2の運転操作の出力形態は、
図9~
図11に示す形態に限定されるものではない。例えば、急ブレーキ発生場所毎のリスク値を示すリスクマップに代えて、処理対象の地域を単位面積の複数のメッシュ(例えば50m四方のメッシュ)に区切ったときの各メッシュ毎のリスク値を示すマップを出力するようにしてもよい。
【0058】
支援処理2が修了すると、
図3に示す安全対策支援処理のステップ104へ移行する。ステップ104において、作業者は、出力されたリスクマップ90を参照し、リスクマップ90にドットとして示されている急ブレーキ発生場所の中から、安全対策が必要な急ブレーキ発生場所を選択する。また作業者は、選択した安全対策が必要な急ブレーキ発生場所に対応するドットにカーソル92を合わせ、ポップアップ表示された第1の運転操作および第2の運転操作から、安全対策が必要な急ブレーキ発生場所における急ブレーキの発生要因を特定する。
【0059】
例えば、
図10に示す情報がポップアップ表示された場合、作業者は、急ブレーキの発生要因は、急ブレーキをかけた第1車両が速度超過で交差点に進入したためであると特定する。また、
図11に示す情報がポップアップ表示された場合、作業者は、急ブレーキの発生要因は、急ブレーキをかけた第1車両とすれ違った第2車両が左折時に大きく膨らんだためであると特定する。
【0060】
作業者によって急ブレーキの発生要因が特定されると、次のステップ106において、サーバ46は、急ブレーキの発生要因に応じた安全対策の候補を出力する支援処理3を行う。この支援処理3の詳細について、
図12を参照して説明する。
【0061】
ステップ160において、出力部74は、作業者によって特定された、安全対策が必要な急ブレーキ発生場所における急ブレーキの発生要因を取得する。本実施形態では、一例として
図13に示すように、急ブレーキの発生要因毎に、考え得る安全対策の候補が対応付けて登録された安全対策情報が記憶部52に予め記憶されている。次のステップ162において、出力部74は、ステップ160で取得した急ブレーキの発生要因をキーにして安全対策情報を検索する。
【0062】
ステップ164において、出力部74は、ステップ162の検索で抽出した安全対策の候補を表示部58へ出力する。例えば、急ブレーキの発生要因が「速度超過での交差点進入」である場合、安全対策の候補としては「交差点手前に減速ゼブラ配置」、「カラー舗装による交差点の強調」および「「交差点注意」の標示」が各々出力される。また例えば、急ブレーキの発生要因が「左折時に大きく膨らむ」である場合、安全対策の候補としては「外側線による走行ライン誘導」および「ソフトコーンによる走行ライン誘導」が各々出力される。
【0063】
上述した支援処理3が修了すると、
図3に示す安全対策支援処理のステップ108へ移行する。ステップ108において、作業者は、出力された安全対策の候補を参照し、出力された安全対策の候補の中から、安全対策が必要な急ブレーキ発生場所で実施する安全対策を選択する。そして作業者は、選択した安全対策を、安全対策が必要な急ブレーキ発生場所で実施するよう手配する。なお、安全対策が施された急ブレーキ発生場所は第2の場所の一例であり、以下、「第2の場所」と称する。
【0064】
また、第2の場所に安全対策が施されてから所定期間(例えば数ヶ月)以上が経過したタイミングで、
図3に示す安全対策支援処理のステップ110において、サーバ46は、安全対策の実施前後の交通流を比較する支援処理4を行う。この支援処理4の詳細について、
図14を参照して説明する。
【0065】
ステップ170において、比較部76は、安全対策が施されてから所定期間以上が経過した処理対象の第2の場所を選択する。ステップ172において、比較部76は、データ記憶領域64に蓄積記憶されている走行データに基づき、安全対策が施される前に処理対象の第2の場所を通行した第3車両を特定し、特定した第3車両が処理対象の第2の場所を通行しているときの走行データを取得する。
【0066】
ステップ174において、比較部76は、ステップ172で特定した第3車両のうち、処理対象の第2の場所の通行に際して所定値以上の減速(例えば-0.1G以上)をした車両を第3車両から除外する(
図15も参照)。これにより、例えば渋滞や自転車などの周囲状況の影響を受けて処理対象の第2の場所を円滑に通行できなかった車両が第3車両から除外されることになる。
【0067】
ステップ176において、比較部76は、データ記憶領域64に蓄積記憶されている走行データに基づき、安全対策が施された以後に処理対象の第2の場所を通行した第4車両を特定し、特定した第4車両が処理対象の第2の場所を通行しているときの走行データを取得する。
【0068】
ステップ178において、比較部76は、ステップ176で特定した第4車両のうち、所定値以上の減速(例えば-0.1G以上)をした車両を第4車両から除外する(
図15も参照)。これにより、例えば渋滞や自転車などの周囲状況の影響を受けて処理対象の第2の場所を円滑に通行できなかった車両が第4車両からも除外されることになる。
【0069】
ステップ180において、比較部76は、第3車両の走行データと第4車両の走行データの例えば平均車速などを比較する。例として
図16には、全長220mの区間に亘って外側線(白線)を引き直すと共に、店舗の駐車場の出入り口付近にソフトコーンを設置する安全対策を施した第2の場所について、対策前に通行した第3車両の走行データと、対策後に通行した第4車両の走行データを比較した例を示す。
図16に示す例では、第4車両の車速が第3車両の車速と比較して平均で2~3km/h低下している。
【0070】
ステップ182において、比較部76は、第3車両の走行データと第4車両の走行データを比較した結果を表示部58へ出力し、支援処理4を修了する。支援処理4が修了すると、
図3に示す安全対策支援処理のステップ112へ移行する。
【0071】
ステップ112において、作業者は、支援処理4によって出力された第3車両と第4車両の走行データの比較結果に基づいて、処理対象の第2の場所に施した安全対策の効果を評価する。例えば、
図16に示す例については、外側線の引き直しとソフトコーンの設置に伴って平均車速が低下していることから、作業者により、安全対策として効果があったと評価される。
【0072】
以上説明したように、本実施形態において、特定部70は、第1の場所を通行した車両のうち第1の場所で所定の運転操作を行った複数の第1車両を特定する。また抽出部72は、特定部70によって特定された複数の第1車両の各々の走行履歴から、第1の場所に至るまでの期間における複数の第1車両に共通する運転操作を抽出する。これにより、複数の第1車両に共通する運転操作の情報、すなわち所定の運転操作が行われた要因を推定可能な情報を提供することができる。
【0073】
また、本実施形態において、特定部70は、所定の運転操作の回数または頻度が閾値を超える車両を、複数の第1車両から除外する。これにより、所定の運転操作が行われた要因の推定精度を向上させることができる。
【0074】
また、本実施形態において、所定の運転操作は、急ブレーキを含んでいる。これにより、急ブレーキが行われた場所について、急ブレーキが行われた要因を推定することが可能な情報を提供することができる。
【0075】
また、本実施形態において、特定部70は、第1の場所を通行した車両の走行履歴情報から、第1の場所で複数の第1車両の何れかとすれ違った複数の第2車両も特定する。また抽出部72は、特定部70によって特定された複数の第2車両の各々の走行履歴情報から、第1の場所に至るまでの期間で複数の第2車両に共通する運転操作も抽出する。これにより、複数の第2車両に共通する運転操作の情報、すなわち第1車両で所定の運転操作が行われた要因を推定することが可能な情報を提供することができる。
【0076】
また、本実施形態において、出力部74は、前記共通する運転操作から推定された、第1の場所で所定の運転操作が行われた要因に基づいて、第1の場所における安全対策の候補を出力する。これにより、第1の場所に施す安全対策を検討するにあたり、安全対策の候補を挙げる手間が省け、第1の場所に施す安全対策を検討する作業を省力化することができる。
【0077】
また、本実施形態において、比較部76は、所定の安全対策が施された第2の場所を、所定の安全対策が施される以前に円滑に通行した第3車両を特定すると共に、前記第2の場所を所定の安全対策が施された以後に円滑に通行した第4車両を特定し、第3車両の走行履歴と第4車両の走行履歴を比較する。これにより、第2の場所に施された所定の安全対策の効果を評価する作業を省力化することができると共に、所定の安全対策の効果をより正確に評価することができる。
【0078】
なお、上記では、所定の運転操作として急ブレーキを適用した態様を説明したが、本開示はこれに限定されるものではなく、例えば急ハンドル、急加速、クラクションなどの他の運転操作であってもよい。
【0079】
また、上記では、支援処理4において、第3車両の特定と第4車両の特定を別々に行う態様を説明したが、本開示はこれに限定されるものではない。例えば、特定した第3車両のリスト(リスト1)と特定した第4車両のリスト(リスト2)に各々含まれる車両のリスト(リスト3)を作成し、リスト3に含まれる車両の安全対策前の走行データと、リスト3に含まれる車両の安全対策後の走行データと、を比較するようにしてもよい。
【0080】
また、上記では本開示に係る支援プログラムの一例である安全対策支援プログラム62が記憶部52に予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、本開示に係る支援プログラムは、HDD、SSD、DVD等の非一時的記録媒体に記録されている形態で提供することも可能である。
【符号の説明】
【0081】
10 安全対策支援システム
12 車載システム
16 車載センサ群
32 カメラ
34 ナビゲーションシステム
46 データセンタ・サーバ
48 CPU
50 メモリ
52 記憶部
62 安全対策支援プログラム
64 データ記憶領域
70 特定部
72 抽出部
74 出力部
76 比較部