(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】2軸配向ポリアミドフィルム及びポリアミドフィルムミルロール
(51)【国際特許分類】
B32B 27/34 20060101AFI20240514BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
B32B27/34
C08J5/18 CFG
(21)【出願番号】P 2020519451
(86)(22)【出願日】2019-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2019051145
(87)【国際公開番号】W WO2020158281
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2019012396
(32)【優先日】2019-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019012397
(32)【優先日】2019-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】濱 貢介
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/060618(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/064616(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/054431(WO,A1)
【文献】特開2008-105362(JP,A)
【文献】特開平08-197619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
C08J 5/18
B29C 55/00-55/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリメタキシリレンアジパミドを60質量%以上含むポリアミド樹脂からなる層を少なくとも1層有する2軸配向ポリアミドフィルムであって、
ポリメタキシリレンアジパミドを60質量%以上含むポリアミド樹脂からなる層の少なくとも片面にポリアミド6を60質量%以上含むポリアミド樹脂からなる層が積層されており、フィルムの分子配向角が20°以上であり、吸湿歪みが1.3%以下であり、インパクト強度が0.7J/15μm以上であり、かつ、160℃で10分間加熱後の熱収縮率がMD方向及びTD方向ともに0.6~3.0%であることを特徴とする2軸配向ポリアミドフィルム。
【請求項2】
ポリメタキシリレンアジパミドを60質量%以上含むポリアミド樹脂からなる層を少なくとも1層有する2軸配向ポリアミドフィルムであって、
ポリメタキシリレンアジパミドを60質量%以上含むポリアミド樹脂からなる層の両方の面にポリアミド6を60質量%以上含むポリアミド樹脂からなる層が積層されており、フィルムの分子配向角が20°以上であり、吸湿歪みが1.3%以下であり、インパクト強度が0.7J/15μm以上であり、かつ、160℃で10分間加熱後の熱収縮率がMD方向及びTD方向ともに0.6~3.0%であることを特徴とする2軸配向ポリアミドフィルム。
【請求項3】
2軸配向ポリアミドフィルムの酸素透過率が60~140ml/m
2・day・MPaであることを特徴とする請求項1
又は2に記載の2軸配向ポリアミドフィルム。
【請求項4】
160℃で10分間加熱後のフィルムの熱収縮歪みが、2.0%以下であることを特徴とする請求項1
~3いずれかに記載の2軸配向ポリアミドフィルム。
【請求項5】
ポリメタキシリレンアジパミドを60質量%以上含むポリアミド樹脂からなる層を少なくとも1層有する2軸配向ポリアミドフィルムのミルロールであって、
2軸配向ポリアミドフィルムがポリメタキシリレンアジパミドを60質量%以上含むポリアミド樹脂からなる層の少なくとも片面にポリアミド6を60質量%以上含むポリアミド樹脂からなる層が積層されており、フィルムミルロールの幅方向に対して右端および左端から300mm内側の位置のフィルムの分子配向角が20°以上であり、インパクト強度が0.7J/15μm以上であり、吸湿歪みが1.3%以下であり、160℃で10分間加熱後の熱収縮率がMD方向及びTD方向ともに0.6~3.0%であることを特徴とするポリアミドフィルムミルロール。
【請求項6】
ポリメタキシリレンアジパミドを60質量%以上含むポリアミド樹脂からなる層を少なくとも1層有する2軸配向ポリアミドフィルムのミルロールであって、
2軸配向ポリアミドフィルムがポリメタキシリレンアジパミドを60質量%以上含むポリアミド樹脂からなる層の両方の面にポリアミド6を60質量%以上含むポリアミド樹脂からなる層が積層されており、フィルムミルロールの幅方向に対して右端および左端から300mm内側の位置のフィルムの分子配向角が20°以上であり、インパクト強度が0.7J/15μm以上であり、吸湿歪みが1.3%以下であり、160℃で10分間加熱後の熱収縮率がMD方向及びTD方向ともに0.6~3.0%であることを特徴とするポリアミドフィルムミルロール。
【請求項7】
2軸配向ポリアミドフィルムの酸素透過率が60~140ml/m
2・day・MPaであることを特徴とする請求
項5又は6に記載のポリアミドフィルムミルロール。
【請求項8】
ポリアミドフィルムミルロールの幅方向に対して右端および左端から300mm内側の位置のフィルムの160℃で10分間加熱後の熱収縮歪みが2.0%以下であることを特徴とする請求項
5~7いずれかに記載のポリアミドフィルムミルロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品等の包装に用いる耐衝撃性、耐ピンホール性に優れ、かつガスバリア性の優れた2軸配向ポリアミドフィルムに関するものである。特に、ミルロールの幅方向で端に近いフィルムを食品包装用の袋に加工した場合に、吸湿によって起こるS字カール現象が少ないガスバリア性2軸配向ポリアミドフィルム及びポリアミドフィルムミルロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリメタキシリレンアジパミド(以下ポリアミドMXD6と略記する)を主成分とする2軸配向ポリアミドフィルムは、酸素などの透過率が小さくガスバリア性に優れていることから、各種の食品等の包装用材料に広く用いられている。しかし、従来の2軸配向ポリアミドMXD6フィルムには、高湿度環境下で吸湿により伸びが発生するため、袋に加工した場合に吸湿によって袋がS字状にカールして、袋を箱詰めするのが難しくなる問題や、袋に内容物を充填する装置の搬送部で不具合が発生する問題があった。
こうした問題は、ミルロールの端に近いスリットロールのフィルムから袋を作製する場合に発生しやすい。ここでミルロールとは、フィルム製造工程で両端耳部をトリミングした後に巻き取った製膜装置の全幅のフィルムロールを指し、スリットロールとは、印刷加工やラミネート加工など行うためにミルロールをスリットし幅を狭くしたフィルムロールのことである。
【0003】
食品包装用途に用いられる上記ポリアミドフィルムは、通常その表面に印刷を施してから、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂フィルムをラミネートし、ポリアミドフィルムを外側にして流れ方向に平行に2つに折りたたみ、3辺を熱融着して切り出すことにより、1辺が開封状態の3方シール袋とする。そして、この袋に内容物を充填して密封し、市場に供される。
【0004】
こうした食品包装用途に用いられるポリアミドフィルムは、主に2軸延伸法によって製造される。しかし、2軸延伸法によって製造された2軸配向ポリアミドフィルムは、フィルム幅方向に物性のバラツキが生じ易い。この幅方向の物性のバラツキは、ボーイング現象が一つの原因と考えられている。ボーイング現象とは、熱固定処理工程で高温になり縦方向の収縮応力が生じる時に、フィルムの両端部はクリップに把持されて拘束されているのに対し、フィルムの中央部は拘束力が弱く収縮するため、配向の主軸が幅方向で弓状に傾く現象と考えられている。
【0005】
ボーイング現象により、熱収縮率、吸湿による寸法変化率、屈折率等の物性値の主軸(最も大きい値を示す角度)がフィルムの幅方向で異なってくる。それによって斜め方向の熱収縮率や吸湿による寸法変化率の物性値差が大きくなる。
従って、従来法によって得られる食品包装用の2軸配向ポリアミドフィルムで袋を作製すると、ボーイング現象によって、2つ折りにした袋の表裏で配向の主軸方向が異なるため、寸法変化も表裏で差が生じて、袋の隅で反り返りが起こってしまう。即ち、袋の2辺がS字状にカールする現象(以下単にS字カールともいう)が発生し、袋を箱詰めする時に箱に入れにくくなったり、袋に内容物を充填する装置の搬送部で不具合が発生する場合があった。
【0006】
ボーイング現象に対する対策としては、横延伸した後に冷却してから熱固定することで得られる特定の沸騰水収縮歪みと分子配向角度差の関係を満足するポリアミドフィルムによって吸湿によるズレを低減する方法が提案されている(特許文献1参照)。
しかし、ミルロールの端に近いフィルムのスリットロールから作製した袋では、吸湿によるS字カールが発生する場合があった。
【0007】
また、縦方向に2段に分けて延伸することを特徴としたα型結晶の配向主軸の方向がフィルムの縦方向もしくは横方向に対して14度以下の2軸配向ポリアミド系樹脂フィルムによって沸騰水処理後のS字カールを低減させる方法が提案されている(特許文献2参照)。
しかし、この方法でも、ミルロールの端に近いフィルムのスリットロールから作製した袋では吸湿によるS字カールが発生する場合があった。
特許文献2の対策は、袋を沸騰水で処理した後に発生するS字カール現象に対する対策であり、吸湿によるS字カール現象に対する対策ではないためと考えられる。
【0008】
吸湿によるS字カール現象の問題に対して、包装袋の表裏の2軸延伸ポリアミドフィルム層の主配向軸方向が成す鋭角が30°以下の包装袋が提案されている(特許文献3参照)。しかし、この方法では、ミルロールの中央付近からスリットしたロールのフィルムで作製した袋は、表裏のポリアミドフィルム層の主配向軸方向が成す角が小さいので吸湿によるS字カールが少ないが、ミルロールの端に近い袋は表裏のポリアミドフィルムの主配向軸方向が成す角が大きいので、吸湿によるS字カールの発生は低減できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第2623939号公報
【文献】特許第3726304号公報
【文献】特開2012-254804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記課題を背景になされたもので、ミルロールの端に近いフィルム製品を使用して作製した包装袋であっても、吸湿によるS字カールの少ない2軸配向ポリアミドフィルム及びポリアミドフィルムミルロールを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、遂に本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、以下の構成よりなる。
1.ポリメタキシリレンアジパミドを60質量%以上含むポリアミド樹脂からなる層を少なくとも1層有する2軸配向ポリアミドフィルムであって、フィルムの分子配向角が20°以上であり、吸湿歪みが1.3%以下であり、インパクト強度が0.7J/15μm以上であり、かつ、160℃で10分間加熱後の熱収縮率がMD方向及びTD方向ともに0.6~3.0%であることを特徴とする2軸配向ポリアミドフィルム。
2.2軸配向ポリアミドフィルムの酸素透過率が60~140ml/m2・day・MPaであることを特徴とする1.に記載の2軸配向ポリアミドフィルム。
3.160℃で10分間加熱後のフィルムの熱収縮歪みが、2.0%以下であることを特徴とする1.又は2.に記載の2軸配向ポリアミドフィルム。
4.ポリメタキシリレンアジパミドを60質量%以上含むポリアミド樹脂からなる層の少なくとも片面にポリアミド6を60質量%以上含むポリアミド樹脂からなる層が積層されていることを特徴とする1.~3.いずれかに記載の2軸配向ポリアミドフィルム。
5.ポリメタキシリレンアジパミドを60質量%以上含むポリアミド樹脂からなる層の両方の面にポリアミド6を60質量%以上含むポリアミド樹脂からなる層が積層されていることを特徴とする1.~3.いずれかに記載の2軸配向ポリアミドフィルム。
6.ポリメタキシリレンアジパミドを60質量%以上含むポリアミド樹脂からなる層を少なくとも1層有する2軸配向ポリアミドフィルムのミルロールであって、フィルムミルロールの幅方向に対して右端および左端から300mm内側の位置のフィルムの分子配向角が20°以上であり、インパクト強度が0.7J/15μm以上であり、吸湿歪みが1.3%以下であり、160℃で10分間加熱後の熱収縮率がMD方向及びTD方向ともに0.6~3.0%であることを特徴とするポリアミドフィルムミルロール。
7.2軸配向ポリアミドフィルムの酸素透過率が60~140ml/m2・day・MPaであることを特徴とする6.に記載のポリアミドフィルムミルロール。
8.ポリアミドフィルムミルロールの幅方向に対して右端および左端から300mm内側の位置のフィルムの160℃で10分間加熱後の熱収縮歪みが2.0%以下であることを特徴とする6.又は7.に記載のポリアミドフィルムミルロール。
9.2軸配向ポリアミドフィルムがポリメタキシリレンアジパミドを60質量%以上含むポリアミド樹脂からなる層の少なくとも片面にポリアミド6を60質量%以上含むポリアミド樹脂からなる層が積層されていることを特徴とする6.~8.いずれかに記載のポリアミドフィルムミルロール。
10.2軸配向ポリアミドフィルムがポリメタキシリレンアジパミドを60質量%以上含むポリアミド樹脂からなる層の両方の面にポリアミド6を60質量%以上含むポリアミド樹脂からなる層が積層されていることを特徴とする6.~8.いずれかに記載のポリアミドフィルムミルロール。
【発明の効果】
【0013】
本発明の2軸配向ポリアミドフィルム及びポリアミドフィルムミルロールは、ガスバリア性に優れるとともにミルロールの端部に近い部分のフィルムであっても、高湿度下での伸びの異方性が少なく、吸湿前後で寸法の歪みが少ないので、加工した袋のS字カールを低減することができる。そのため、内容物を袋に充填する時に袋の搬送などで不具合が起きにくく作業性が良好である。更に高温での収縮の歪みも小さいので、袋をヒートシールにした後の収縮変形も小さい。そのため、各種の包装用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】S字カール評価に供するスリットロールの概略図
【符号の説明】
【0015】
1:ポリアミドフィルムのミルロール
2:左端のスリットロール
3:左端のスリットロールのフィルムにシーラントをラミネートしたラミネートロール
4:左端の3方シール袋
5:3方シール袋のヒートシール部
6:反りを測定するための重り
7:S字カールの度合いを示す反りの高さ
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
(2軸配向ポリアミドフィルム)
本発明の2軸配向ポリアミドフィルムは、ポリメタキシリレンアジパミドを60質量%以上含むポリアミド樹脂からなる層を少なくとも1層有する2軸配向ポリアミドフィルムである。優れたガスバリア性を持たせるために、ポリメタキシリレンアジパミドを80質量%以上含むポリアミド樹脂からなる層であるとより好ましい。90質量%以上が更に好ましい。
【0018】
本発明におけるポリアミドMXD6は、通常、メタキシリレンジアミンとアジピン酸を重縮合するによって製造される。
本発明におけるポリアミドMXD6は、三菱瓦斯化学株式会社などで市販されているものを用いてもよい。
【0019】
本発明におけるポリアミドMXD6の相対粘度は、1.8~4.5であることが好ましく、より好ましくは、2.6~3.6である。相対粘度が1.8より小さい場合は、フィルムの耐衝撃強度が不足する。4.5より大きい場合は、押出機の負荷が大きくなり延伸前のシートを得るのが困難になる。
【0020】
本発明の2軸配向ポリアミドフィルムは、主成分であるポリアミドMXD6以外に延伸性、耐ピンホール性、易カット性などを改良する目的で、他の熱可塑性樹脂を含んでも良い。また、少量の耐ブロッキング剤、潤滑剤、帯電防止剤、熱安定剤、耐光剤などの添加剤を含んでも良い。
【0021】
本発明で使用されるポリアミドMXD6以外の他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニル系樹脂、ウレタン系樹脂などの単独重合体あるいは共重合体が挙げられる。特にポリアミド系樹脂が好ましく、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリアミド12などが挙げられる。
耐ピンホール性向上のため、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリオレフィンエラストマーなどを含んでも良い。
【0022】
本発明で使用される耐ブロッキング剤としては、シリカ、カオリン、ゼオライト等の無機微粒子、アクリル、ポリスチレン等の架橋高分子微粒子が挙げられる。なお、透明性、滑り性の面から、シリカ微粒子を好適に用いることができる。
本発明で使用される潤滑剤としては、表面エネルギーを下げる効果のあるエチレンビスステアリン酸アミド(EBS)等の有機潤滑剤が挙げられる。接着性や濡れ性に問題が生じない範囲で含んでも良い。
耐ブロッキング剤と潤滑剤とを併用すると、フィルムに優れた滑り性と透明性を同時に付与できるので好ましい。
【0023】
本発明の2軸配向ポリアミドフィルムは、単層フィルムであっても積層フィルムであってもよい。
ポリアミドMXD6を主成分とする2軸配向フィルムは、ポリアミド6を主成分とする2軸配向フィルムに比べてガスバリア性に優れているが、耐衝撃性や耐ピンホール性は劣る傾向がある。そこで、ポリアミドMXD6を主成分とする層にポリアミド6を主成分にする層を積層したフィルムが、ガスバリア性、耐衝撃性、及び耐ピンホール性が良好であるので好ましい。
【0024】
上記の積層フィルムの構成としては、2種2層(A/B)、2種3層(A/B/A)、3種3層(A/B/C)、超多層(A/B/A/B・・・A/B)などの層構成が考えられる。しかし、ガスバリア性を高くするためにはポリアミドMXD6を60質量%以上、より好ましくは80質量%以上含むポリアミド樹脂からなる層を少なくとも1層有する必要がある。
【0025】
好ましい層構成としては、ポリアミドMXD6を60質量%以上含むポリアミド樹脂からなる層をA層、それ以外の層をB層、C層とすると、B/A/B、B/C/A/C/B、A/B、B/A/Cなどが挙げられる。このうち、A層をコアの層に配したB/A/B、B/C/A/C/B、B/A/Cが特に好ましい。
【0026】
ポリアミドMXD6を60質量%以上含むポリアミド樹脂からなる層以外の層としては、ポリアミド系樹脂からなる層であることが好ましい。前述のとおり、特にポリアミド6を60質量%以上含む層が、ポリアミドMXD6を主成分とする層との接着性や機械的強度が優れているので好適である。
【0027】
本発明に使用するポリアミド6は、通常、ε-カプロラクタムの開環重合によって製造される。開環重合で得られたポリアミド6は、通常、熱水でε-カプロラクタムモノマーを除去した後、乾燥して使用される。
ポリアミド6の相対粘度は、1.8~4.5であることが好ましく、より好ましくは、2.6~3.2である。相対粘度が1.8より小さい場合は、フィルムの耐衝撃強度が不足する。4.5より大きい場合は、押出機の負荷が大きくなり延伸前のシートを得るのが困難になる。
上記ポリアミド系樹脂としては、ポリアミド6の他には、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリアミド12などが挙げられる。
【0028】
(2軸配向ポリアミドフィルムの物性)
本発明の2軸配向ポリアミドフィルムは、分子配向角が20°以上であり、かつ吸湿歪みが1.3%以下である。吸湿歪みは、1.1%以下がより好ましい。吸湿歪みが1.3%より大きいと、作製した袋の吸湿によるS字カールが大きくなり問題が発生する。
本発明の2軸配向ポリアミドフィルムは、ミルロールの幅方向に対して端に近いフィルムであるため、分子配向角が20°以上である。分子配向角は分子鎖配向軸方向の角度を王子計測機器株式会社製の分子配向角測定装置MOA-6004で測定する。分子配向角は、フィルムの長手方向の角度を0度とし、上記分子配向軸の方向が、長手方向を基準として45度より小さい時は0度からの差、45度より大きい時は90度からの差を求めた値である。この値が大きいほどボーイング現象が大きいことを示し、ミルロールの中央から端部に近くなると値は大きくなる。したがって、本発明においては、分子配向角が大きくても吸湿歪みが小さいフィルムを得ることが重要である。
本発明のポリアミドフィルムミルロールの幅方向に対して右端および左端から300mm内側の位置の2軸配向ポリアミドフィルムは、分子配向角が20°以上であり、インパクト強度が0.7J/15μm以上であり、吸湿歪みが1.3%以下であり、160℃で10分間加熱後の熱収縮率がMD方向及びTD方向ともに0.6~3.0%である。吸湿歪みは、1.1%以下がより好ましい。吸湿歪みが1.3%より大きいと、作製した袋の吸湿によるS字カールが大きくなり問題が発生する。
本発明のポリアミドフィルムミルロールの幅方向に対して右端および左端から300mm内側の位置のフィルムの分子配向角は、20°以上である。分子配向角は分子鎖配向軸方向の角度を王子計測機器株式会社製の分子配向角測定装置MOA-6004で測定する。分子配向角は、フィルムの長手方向の角度を0度とし、上記分子配向軸の方向が、長手方向を基準として45度より小さい時は0度からの差、45度より大きい時は90度からの差を求めた値である。この値が大きいほどボーイング現象が大きいことを示し、ミルロールの中央から端部に近くなると値は大きくなる。したがって、本発明においては、分子配向角が大きいミルロールの端部のフィルムを使用しても吸湿歪みが小さいことが重要である。
【0029】
本発明の2軸配向ポリアミドフィルムのインパクト強度は、0.7J/15μm以上である。好ましくは1.0J/15μm以上である。インパクト強度が0.7J/15μmより小さいと包装用に使用した時に包装袋が運送時の衝撃で破れてしまう場合がある。
インパクト強度は、大きい方が包装袋が破れにくいので好ましい。インパクト強度は、通常の用途では2.0J/15μmあれば十分である。
【0030】
また、本発明の2軸配向ポリアミドフィルムの160℃で10分間加熱後の熱収縮率は、MD方向(縦方向)及びTD方向(幅方向)ともに0.6~3.0%の範囲である。好ましくは、0.6~2.0%である。熱収縮率が3.0%より大きい場合、印刷加工時やラミネート加工時、製袋加工時にフィルムが収縮し見栄えが悪くなり好ましくない。熱収縮率が0.6より小さい場合、吸湿歪みが大きくなる場合がある。
【0031】
また、本発明の2軸配向ポリアミドフィルムは、分子配向角が20°以上であり、かつ熱収縮歪みが2.0%以下が好ましい。より好ましくは1.8%以下である。熱収縮歪みが2.0%より大きいと、袋をヒートシールした時にヒートシール部に収縮変形が発生し、見栄えが悪くなる場合がある。また、十分なS字カール抑制効果が得られない場合がある。
【0032】
また、本発明の2軸配向ポリアミドフィルムの酸素透過率は、食品包装などに使用する際に内容物の劣化を抑制するために、60~140ml/m2・day・MPaであることが好ましい。酸素透過率が140ml/m2・day・MPaより大きいと、包装袋にした時のガスバリア効果が期待できない。酸素透過率は小さい方が、包装袋にした時のガスバリア効果が期待できるが、60ml/m2・day・MPaより小さくするには、本発明のフィルムに更にポリ塩化ビニリデンなどのガスバリア層やシリカやアルミナの無機薄膜のガスバリア層を積層する必要がある。
【0033】
(フィルムの製膜工程)
本発明の2軸配向ポリアミドフィルム及びポリアミドフィルムミルロールは、例えば、未延伸のポリアミドフィルムをまず縦方向に低倍率で予備縦延伸し、次いで縦方向に2段階以上に分けて合計の縦延伸倍率が3倍以上になるように主縦延伸し、次いで横延伸と熱固定処理、熱緩和処理した後、クリップ把持部をトリミングしてミルロールとして巻き取った後、加工するための幅にスリットされることで得られる。
本発明の2軸配向ポリアミドフィルムのミルロールの幅は、特に限定されないが、通常、3000~8000mmである。ポリアミドフィルムミルロールの巻長は、特に限定されないが、通常、5000~70000mである。
加工するためにスリットされたロールの幅は、400~3000mmであり、巻長さは3000~10000mである。
近年、アルミ真空蒸着機などのフィルム大型化に伴い、スリットロールも大型になっている。したがって、前記より幅と巻長さの大きいスリットロールであっても構わない。
【0034】
本発明の2軸配向ポリアミドフィルムは、ミルロールの端部に近いフィルムであるため、分子配向角が20°以上である。
また、ポリアミドフィルムミルロールの幅方向に対して右端および左端から300mm内側の位置のフィルムの分子配向角が20°以上である。
本発明の2軸配向ポリアミドフィルムは、ミルロールの端部に近いほど分子配向角が大きく、吸湿歪みと熱収縮歪みも大きい傾向がある。
スリットしたフィルムロールの右端又は左端のフィルムの分子配向角が20°以上であり、かつ吸湿歪みが1.3%以下である2軸配向ポリアミドフィルムであれば、加工して得られる袋の吸湿によるS字カールの発生を抑えることができる。
また、ポリアミドフィルムミルロールの幅方向に対して右端および左端から300mm内側の位置のフィルムの分子配向角が20°以上であっても、吸湿歪みが1.3%以下であれば、スリットしたフィルムロールを加工して得られる袋の吸湿によるS字カールの発生を抑えることができる。
【0035】
更に詳しく本発明の2軸配向ポリアミドフィルムを得るための好ましい方法について説明する。
本発明の2軸配向ポリアミドフィルムは、例えば、未延伸ポリアミドフィルムを縦方向に低倍率で予備縦延伸した後、縦方向に2段以上で高倍率で主縦延伸し、続いて横延伸し、更に熱固定処理と熱弛緩処理を行うことによって製膜した2軸配向ポリアミドフィルムを巻いてミルロールを得ることが好ましい。
上記の予備縦延伸は、1段であっても2段以上であっても良い。だだし、予備縦延伸の各延伸倍率を乗じた合計の延伸倍率は、1.005~1.15倍が好ましい。
予備縦延伸の後に行う主縦延伸は、縦方向に2段階以上に分けて延伸することが好ましい。第1段目の主縦延伸の倍率は、1.1~2.9倍が好ましい。第2段目以降の主縦延伸の倍率は、予備縦延伸倍率も含めた各延伸倍率を乗じた合計の縦延伸倍率が2.8~5.0倍になるように設定することが好ましい。3.0~3.5倍がより好ましい。
【0036】
更に詳しく本発明の2軸配向ポリアミドフィルムを得る方法の一例について説明する。
まず、上記のポリアミドMXD6、ポリアミド6を主成分とする原料を乾燥したのち、押出機により溶融押出し、Tダイより回転ドラム上にキャストして急冷固化し未延伸のポリアミドフィルムを得る。
この未延伸フィルムを〔ガラス転移温度(以下Tgと略す)+20〕℃以上、〔低温結晶化温度(以下Tcと略す)+20〕℃以下の温度で、1.005~1.15倍の予備縦延伸を行なう。
ここでTg及びTcは、実施例で記載の方法で測定して得られる値である。
予備縦延伸を(Tg+20)℃未満の温度で行なうと、ネッキングを生じ厚み斑が増大しやすくなる。一方、(Tc+20)℃を越える温度で延伸を行なうと、熱結晶化が進行し、横延伸で破断しやすくなり好ましくない。より好ましい延伸温度は、(Tg+30)℃~(Tc+10)℃である。この予備縦延伸での延伸倍率が低すぎると吸湿歪みの改善効果が得られにくい。逆に高すぎると配向結晶化が進行しすぎて、後述する主縦延伸での延伸応力が高くなりすぎ主縦延伸あるいは横延伸する時に破断し易くなる。この観点から、予備延伸の延伸倍率は1.005~1.15倍が好ましい。より好ましい延伸倍率は、1.01~1.1倍である。予備縦延伸は1段でも多段で行っても良いが、合計の予備縦延伸倍率を上記範囲にすることが好ましい。
縦予備延伸は、熱ロール延伸、赤外線輻射延伸など公知の縦延伸方法を用いることができる。
【0037】
縦方向に予備延伸した後、引続いて縦方向の主延伸(主縦延伸と略す)を多段階に行なうことが好ましい。主縦延伸の第1段目の縦延伸倍率は、1.1~2.9倍となるように行なうことが好ましい。より好ましい延伸倍率は、1.5~2.5倍である。この主縦延伸第1段目の延伸倍率が低すぎると延伸効果が得られない。逆に高すぎると配向結晶化が進行しすぎて、主縦延伸の第2段目の延伸での延伸応力が高くなりすぎて縦延伸あるいは横延伸での破断が発生し易くなる。
主縦延伸第1段目での延伸温度は、(Tg+20)℃~(Tc+20)℃が好ましい。
該延伸温度が(Tg+20)℃未満では延伸応力が高くなり横延伸で破断しやすくなり、(Tc+20)℃を越えると厚み斑が大きくなる。より好ましくは、(Tg+30)℃~(Tc+10)℃である。主縦延伸第1段目は、熱ロール延伸、赤外線輻射延伸など公知の縦延伸方法を用いることができる。
【0038】
主縦延伸第1段目後、引続いて主縦延伸第2段目を行なう。主縦延伸第2段目は、熱ロール延伸法が好ましい。主縦延伸第2段目では、表面粗さRaが0.2μm以下のセラミックロールを用いることが好ましい。Raが0.2μmより大きいロールを用いると、ロール上をフィルムが滑った状態で延伸が行われるため、フィルム表面に擦傷が生じ好ましくない。またロール上での延伸開始点が幅方向で不均一になったり、延伸開始点が変動するので、厚み斑が生じ好ましくない。すなわち、主縦延伸第2段目では、主縦延伸第1段目を行なったフィルムの幅方向の厚みプロファイルにかかわらず、ロール上で幅方向に直線的に密着させられた状態で延伸され、幅方向に均一な加熱延伸になることが好ましい。ここでRaとは、中心線平均粗さのことで平均的な凹凸の高さ(単位=μm)であり、JISB0601で規定される値である。
主縦延伸第2段目の延伸倍率は、各予備縦延伸倍率と主縦延伸倍率を乗じた合計の縦延伸倍率が2.8倍以上となるように行なう。2.8倍未満であると2軸配向フィルムの幅方向の物性のバラツキは小さくなるものの、縦方向の強度が小さくなる。合計の縦延伸倍率が大きくなりすぎると、2軸配向フィルムの幅方向の物性のバラツキを低減させる効果が発現しない場合もでてくる。これを考慮すると、好ましい合計の縦延伸倍率は、3.0~3.8倍であり、より好ましくは、3.0~3.5倍である。第2段目縦延伸での延伸温度も、(Tg+20)℃~(Tc+20)℃である。該延伸温度が(Tg+20)℃未満では延伸応力が高くなり横延伸で破断しやすくなり、(Tc+20)℃を越えると厚み斑が大きくなる。より好ましくは、(Tg+30)℃~(Tc+10)℃である。
【0039】
このようにして得られた縦方向1軸配向フィルムは、テンターを用いて横方向に延伸される。
横延伸温度は低すぎると、横延伸性が悪化(破断発生)する場合がある。一方、高すぎると厚み斑が大きくなる傾向がある。このような点から、横延伸温度は100~200℃が好ましく、120~160℃がより好ましい。また、横方向の強度を確保する点から、延伸倍率は3.0~5.0倍が好ましく、3.5~4.5倍がさらに好ましい。
このようにして延伸された2軸配向ポリアミドフィルムは、熱固定処理と熱弛緩処理し、クリップ把持部を切り取ったあとミルロールとして巻取る。
熱固定温度は、190℃~230℃の範囲であることが好ましい。更に好ましくは200~220℃である。
熱弛緩処理温度は、190℃~230℃の範囲であることが好ましい。更に好ましくは200~220℃である。熱弛緩率は0~10%が好ましく、更に好ましくは2~7%である。
【0040】
上記したように、本発明の2軸配向ポリアミドフィルムは、例えば、縦延伸を予備縦延伸と主縦延伸に分けて行い、かつ主縦延伸を2段以上に分け、主縦延伸第2段目の延伸ロールとして表面粗さRaが0.2μm以下のセラミックロールを用いて行い、続いて横方向に延伸し、熱固定処理と熱弛緩処理し、クリップ把持部を切り取ってミルロールとして巻取ることによって得られる。
【0041】
本発明の2軸配向ポリアミドフィルムは、寸法安定性を一層向上させるために、さらなる熱固定処理、熱弛緩処理、調湿処理などを施すこともできる。また、接着性や濡れ性を一層向上させるために、コロナ処理、コーティング処理、火炎処理などを施すこともできる。
上記の熱固定処理、熱弛緩処理、調湿処理、コロナ処理、コーティング処理、火炎処理などは、2軸配向ポリアミドフィルムの製造工程中で処理することもできる。また、ミルロール又はスリットされたロールを巻き出して処理することもできる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は下記実施例によって制限を受けるものではない。本発明の趣旨に適合する範囲で変更を加えて実施することができる。なお、使用原料、フィルムの物性、特性の評価方法は、以下の通りである。特に記載しない場合は、測定は23℃、相対湿度65%の環境の測定室で行った。
【0043】
<2軸配向ポリアミドフィルムの原料>
[ポリアミドMXD6]
RV=2.2、融点(Tm):238℃のポリアミドMXD6を用いた。
[ポリアミド6]
RV=2.9、融点(Tm):220℃のポリアミド6を用いた。
[シリカ微粒子とエチレンビスステアリン酸アミドのマスターバッチ]
上記ポリアミド6を93.5質量%、多孔質シリカ微粒子(重量平均粒子径=4μm、細孔容積=1.6ml/g)を5質量%、及びエチレンビスステアリン酸アミド(共栄社化学社製ライトアマイドWE-183)を1.5質量%配合し、2軸押し出し機で溶融混練押出しし、ペレット状にカットし、マスターバッチを得た。
【0044】
<測定方法、評価方法>
【0045】
[相対粘度]
0.25gの上記原料ポリアミドを25mlのメスフラスコ中で1.0g/dlの濃度になるように96%硫酸で溶解したポリアミド溶液を20℃にて相対粘度を測定した。
【0046】
[Tg、Tc及びTm]
JISK7121に準じて、島津製作所社製、DSC-60型示差走査熱量測定器を用いて、未延伸ポリアミドフィルム10mgを入れたパーンを窒素雰囲気中で昇温速度10℃/分で30℃から280℃まで昇温する過程で融点として融解ピーク温度Tmを測定し、280℃に到達してから試料の入ったパーンを液体窒素に浸けて急冷した後、そのパーンを昇温速度20℃/分で-10℃から280℃まで昇温して、昇温過程で補外したガラス転移開始温度Tgと冷結晶化ピーク温度Tcを測定した。
【0047】
[分子配向角]
ミルロールをスリットしてミルロールの左側の端部から150mmを耳として、その内側に幅940mmのスリットロールを作製した。スリットロールの幅方向に対して右端および左端から150mm内側を正方形の中心として一辺100mmの正方形状にフィルム試料を採取し、分子配向角(分子配向軸方向の角度)を王子計測機器株式会社製の分子配向角測定装置(MOA-6004)で測定した。分子配向角は、フィルムの長手方向の角度を0度とし、上記分子配向軸の方向が、長手方向を基準として45度より小さい時は0度からの差、45度より大きい時は90度からの差を求め、大きい方の値を分子配向角として表1及び表3に示した。実施例および比較例においては、全てミルロールの端に近い左端の値が大きかった。
【0048】
[フィルム厚み]
フィルムの幅方向に10等分して(幅が狭いフィルムについては厚みを測定できる幅が確保できる幅になるよう当分する)、縦方向に100mmのフィルムを10枚重ねで切り出し、温度23℃、相対湿度65%の環境下で2時間以上コンディショニングする。テスター産業製厚み測定器で、それぞれのサンプルの中央の厚み測定し、その平均値を厚みとした。
【0049】
[インパクト強度]
ミルロールをスリットしてミルロールの左側の端部から150mmを耳として、その内側に幅940mmのスリットロールを作製した。スリットロールの幅方向に対して右端および左端から150mm内側の位置を中心として測定試料を切り出し、テスター産業製厚み測定器で厚みを測定した後、東洋精機社製フィルムインパクトテスターを使用し、直径1/2インチの半球状衝撃頭を用いてフィルムのインパクト強度を測定した。得られた値は下記式により、15μm換算のインパクト強度とした。表1及び表3には分子配向角が大きかった左端側の値を示した。
インパクト強度(J/15μm)=観察されたインパクト強度(J)×15μm/厚み(μm)
ミルロールの幅方向に対して右端および左端から300mm内側の位置を中心としてフィルム試料を採取し、上記と同様に、テスター産業製厚み測定器で厚み測定した後、東洋精機社製フィルムインパクトテスターを使用し、直径1/2インチの半球状衝撃頭を用いてフィルムのインパクト強度を測定した。得られた値は上記式により、右端及び左端の15μm換算のインパクト強度とした。表2及び表4には、右端および左端の差が5%以下であったので、平均値を示した。
【0050】
[吸湿歪み]
ミルロールをスリットしてミルロールの左側の端部から150mmを耳として、その内側に幅940mmのスリットロールを作製した。スリットロールの幅方向に対して右端および左端から150mm内側を正方形の中心として一辺210mmの正方形状に測定試料を採取し、その試料の中央を中心とする直径200mmの円を描き、MD方向を0°として、45°方向及び135°方向に円の中心を通る直線を引く。次いで、その試料を30℃×80%RHの雰囲気中で2時間以上放置した後、各方向の直径を測定して高湿時の長さとする。その後20℃×40%RHの部屋で2時間以上放置した後、各直径方向に引かれた直線の長さを再度測定して低湿時の長さとし、下記式によって吸湿伸び率を算出した。しかる後に、45°方向および135°方向の吸湿伸び率の差の絶対値(%)を吸湿歪みとして算出し、絶対値の大きい方の値を吸湿歪みとして表1及び表3に示した。実施例および比較例においては、分子配向角と同様、左端の値が大きかった。
吸湿伸び率=[(高湿時の長さ-低湿時の長さ)/低湿時の長さ]×100(%)
ミルロールの幅方向に対して右端および左端から300mm内側の位置を正方形の中心として一辺210mmの正方形状にフィルム試料を採取し、上記と同様に、その試料の中央を中心とする直径200mmの円を描き、MD方向を0°として、45°方向及び135°方向に円の中心を通る直線を引く。次いで、その試料を30℃×80%RHの雰囲気中で2時間以上放置した後、各方向の直径を測定して高湿時の長さとする。その後20℃×40%RHの部屋で2時間以上放置した後、各直径方向に引かれた直線の長さを再度測定して低湿時の長さとし、上記式によって吸湿伸び率を算出した。しかる後に、45°方向および135°方向の吸湿伸び率の差の絶対値(%)を右端及び左端の吸湿歪みとして算出し、表2及び表4に示した。
【0051】
[熱収縮率]
ミルロールをスリットしてミルロールの左側の端部から150mmを耳として、その内側に幅940mmのスリットロールを作製した。スリットロールの幅方向に対して右端および左端から150mm内側を中心として測定試料を切り出し、試験温度160℃、加熱時間10分間とした以外は、JISC2318に記載の寸法変化試験法に準じて下記式によって熱収縮率を測定した。表1及び表3には分子配向角が大きかった左端側の値を示した。
熱収縮率=[(処理前の長さ-処理後の長さ)/処理前の長さ]×100(%)
ミルロールの幅方向に対して右端および左端から300mm内側の位置でフィルムを切り出し、上記と同様に、試験温度160℃、加熱時間10分間とした以外は、JISC2318に記載の寸法変化試験法に準じて上記式によって右端及び左端の熱収縮率を測定し、表2及び表4に示した。
【0052】
[熱収縮歪み]
ミルロールをスリットしてミルロールの左側の端部から150mmを耳として、その内側に幅940mmのスリットロールを作製した。スリットロールの幅方向に対して右端および左端から150mm内側を正方形の中心として一辺210mmの正方形状に測定試料を採取し、各フィルムを23℃、65%RHの雰囲気で2時間以上放置した。そして、その試料の中央を中心とする直径200mmの円を描き、MD方向(縦方向)を0°として、45°方向及び135°方向に円の中心を通る直線を引き、各方向の直径を測定して処理前の長さとする。次いで、その試料を試験温度160℃で10分間加熱処理した後、取り出して23℃、65%RHの雰囲気中で2時間以上放置し各直径方向に引かれた直線の長さを再度測定して処理後の長さとし、下記式によって熱収縮率を算出した。しかる後に、45°方向および135°方向の熱収縮率の差の絶対値(%)を熱収縮歪みとして算出し、絶対値の大きい方の値を熱収縮歪みとして表1及び表3に示した。実施例および比較例においては、分子配向角と同様、左端の値が大きかった。
熱収縮率=[(処理前の長さ-処理後の長さ)/処理前の長さ]×100(%)
ミルロールの幅方向に対して右端および左端から300mm内側の位置を正方形の中心として一辺210mmの正方形状にフィルム試料を採取し、各フィルムを23℃、65%RHの雰囲気で2時間以上放置した。そして、上記と同様に、その試料の中央を中心とする直径200mmの円を描き、MD方向(縦方向)を0°として、45°方向及び135°方向に円の中心を通る直線を引き、各方向の直径を測定して処理前の長さとする。次いで、その試料を試験温度160℃で10分間加熱処理した後、取り出して23℃、65%RHの雰囲気中で2時間以上放置し各直径方向に引かれた直線の長さを再度測定して処理後の長さとし、上記式によって熱収縮率を算出した。しかる後に、45°方向および135°方向の熱収縮率の差の絶対値(%)を右端及び左端の熱収縮歪みとして算出し、表2及び表4に示した。
【0053】
[S字カール]
ミルロールをスリットしてミルロールの左側の端部から150mmを耳として、その内側に幅940mmのスリットロールを作製した。スリットロールのポリアミドフィルムのコロナ処理した面にポリエステル系接着剤〔東洋モートン株式会社製のTM-569(製品名)およびCAT-10L(製品名)を重量比で7.2/1に混合したもの(固形分濃度23%)〕を乾燥後の樹脂固形分が3.2g/m2となるように塗布した後、線状低密度ポリエチレンフィルム(L-LDPEフィルム:東洋紡株式会社製、リックス(登録商標)L4102)40μmをドライラミネートし、40℃の環境下で2日間エージングを行い、積層フィルムを得た。
上記の如く積層フィルムロールとして巻き取られた積層フィルムを、西部機械社製の3方シール製袋機を用いて巻き長さ方向に平行に中央で2つ折りにしてから切断しポリアミドフィルムが外側になるように重ね合わせ、縦方向に両端を10mm幅、中央部を20mm幅、155℃で熱シールし、それに垂直方向に20mm幅、170mm間隔、180℃で断続的に熱シールした。これを巻き長さ方向に、中央シール部の中央と袋の幅が220mmになるように両縁部を裁断した後、これと垂直方向のシール部中央で切断し、3方シール袋(シール幅:10mm)を作製した。それら作製された3方シール袋の左端側の袋を10サンプル準備した。そして、10枚の3方シール袋を30℃、60%RHで24時間処理した後、20℃、20%RHの雰囲気で24時間保持し、4方の角の開口部2ヶ所とシール部の1ヶ所の3点を押さえ残る1ヶ所の角の反り返り(S字カール)の度合いを以下のようにして評価した。
10点:40mm未満
5点:40~50mm未満
1点:50mm以上
10点評価した点数の平均が、7点以上を◎、3~7点を○、3点未満を×とした。
3点未満の×の評価の袋については、袋の箱詰めや充填機の搬送ミスの問題が発生するので問題である。3点以上であれば、問題は許容できる範囲である。
【0054】
[耐水ラミネート強度(水付着条件下でのラミネート強度)]
S字カールの評価のために作製した積層フィルムを幅15mm×長さ200mmの短冊状に切断し、積層フィルムの一端を二軸延伸ポリアミドフィルムと線状低密度ポリエチレンフィルムとの界面で剥離し、株式会社島津製作所製、オートグラフを用い、温度23℃、相対湿度50%、引張り速度200mm/分、剥離角度90°の条件下で、上記短冊状積層フィルムの剥離界面に水をスポイトで垂らしながらラミネート強度を3回測定し、その平均値で評価した。
【0055】
[実施例1]
2種3層の共押出しTダイ設備を使用し、260℃の温度で溶融フィルムとして押出しし、30℃に冷却させた金属ロール上に、直流高電圧の印荷により静電気的に密着させて冷却固化し、次のような構成の未延伸シートを得た。
B層/A層/B層の構成で、未延伸シートのトータル厚みは200μmであり、トータル厚みに対するA層の厚み比率は20%であった。
A層を構成する組成物:
ポリアミドMXD6「三菱瓦斯化学株式会社製、商品名MXナイロンS6007」を90質量%、ナイロン6を10質量%、含むように原料を配合した。
B層を構成する組成物:
ポリアミド6を85質量%、ポリアミドMXD6を3質量%、シリカ微粒子とエチレンビスステアリン酸アミドのマスターバッチ(ポリアミド6がマトリックス)を12質量%、含むように原料を配合した。この未延伸フィルムのTgは41℃、Tcは69℃であった。
【0056】
この未延伸フィルムをロール延伸機を用い、延伸温度80℃で1.03倍に第一段目の予備縦延伸し、次いで延伸温度80℃で1.03倍に第二段目の予備縦延伸し、次いで85℃で2.1倍に第一段目の主縦延伸し、更に延伸温度70℃で1.5倍に第二段目の主縦延伸を行った。
次いで、縦延伸フィルムを連続的にテンターに導き、130℃で4.0倍に横延伸した後、210℃で熱固定処理し、さらに210℃で横方向に5.0%の緩和処理を行った。引続き100℃で冷却し、フィルムの片面をコロナ処理した後、両端のテンタークリップ把持部を幅150mmトリミングし、厚さ15μm、幅6000mmの2軸配向ポリアミドフィルムのミルロールを得た。フィルム及びミルロールの特性評価結果を表1及び表2に示した。
【0057】
[実施例2]
表1及び表2に示したように予備縦延伸の温度及び倍率と主縦延伸の倍率を変えた以外は実施例1と同様に2軸配向ポリアミドフィルムのミルロールを得た。フィルム及びミルロールの特性評価結果を表1及び表2に示した。
【0058】
[実施例3]
表1及び表2に示したように予備縦延伸を1段にして表1及び表2の倍率に設定し、主縦延伸の2段目の倍率、未延伸フィルムの厚さを180μmに変えた以外は実施例2と同様に2軸配向ポリアミドフィルムのミルロールを得た。フィルム及びミルロールの特性評価結果を表1及び表2に示した。
【0059】
[実施例4]
ミルロール幅が4000mmの製膜装置に変えた以外は実施例3と同様に2軸配向ポリアミドフィルムのミルロールを得た。フィルム及びミルロールの特性評価結果を表1及び表2に示した。
【0060】
[比較例1]~[比較例6]
表1及び表2に示したように予備縦延伸を行わず、主縦延伸を表1及び表2に示した温度及び倍率で2段延伸を行った以外は、実施例と同様に2軸配向ポリアミドフィルムのミルロールを得た。フィルム及びミルロールの特性評価結果を表1及び表2に示した。
【0061】
[比較例7]
表1及び表2に示したように予備縦延伸を行わず、主縦延伸を表1及び表2に示した温度及び倍率で1段延伸を行った以外は、実施例と同様に2軸配向ポリアミドフィルムのミルロールを得た。フィルム及びミルロールの特性評価結果を表1及び表2に示した。
【0062】
【0063】
【0064】
表1で示したとおり、実施例1~4の本願発明の2軸配向ポリアミドフィルムは、ミルロールの端のスリットロールであるにかかわらず、袋にした場合にS字カール発生は許容できる範囲であった。
一方、比較例3及び比較例6以外の比較例で得られた2軸配向ポリアミドフィルムでは、分子配向角は20°より大きく、吸湿歪みが1.3%より大きいため、袋にした場合に許容できない量のS字カールが発生した。
比較例3で得られた2軸配向ポリアミドフィルムでは、分子配向角は20°で、吸湿歪みは1.3%以下であったが、160℃で10分間加熱後の熱収縮率が大きいため、袋にした場合に許容できない量のS字カールが発生するとともにヒートシール部が収縮変形した。
比較例3で得られたポリアミドフィルムミルロールでは、フィルムの幅方向に対して右端および左端から300mm内側の位置の吸湿歪みは1.3%以下であったが、160℃で10分間加熱後の熱収縮率が大きいため、袋にした場合に許容できない量のS字カールが発生するとともにヒートシール部が収縮変形した。
比較例6で得られた2軸配向ポリアミドフィルムでは、吸湿歪みは1.3%以下であり、S字カールも許容できる範囲であったが、インパクト強度が小さいため、耐衝撃性が求められるポリアミドフィルムとしての特性を満足していなかった。
比較例6で得られたポリアミドフィルムミルロールでは、フィルムの幅方向に対して右端および左端から300mm内側の位置の吸湿歪みは1.3%以下であり、S字カールも許容できる範囲であったが、インパクト強度が小さいため、耐衝撃性が求められるポリアミドフィルムとしての特性を満足していなかった。
【0065】
[実施例5]
2種3層の共押出しTダイ設備を使用し、260℃の温度で溶融フィルムとして押出しし、30℃に冷却させた金属ロール上に、直流高電圧の印荷により静電気的に密着させて冷却固化し、次のような構成の未延伸シートを得た。
B層/A層/B層の構成で、未延伸シートのトータル厚みは200μmであり、トータル厚みに対するA層の厚み比率は20%であった。
A層を構成する組成物:
ポリアミドMXD6「三菱瓦斯化学株式会社製、商品名MXナイロンS6007」100質量%を原料とした。
B層を構成する組成物:
ポリアミド6を53質量%、ポリアミドMXD6を35質量%、シリカ微粒子とエチレンビスステアリン酸アミドのマスターバッチ(ポリアミド6がマトリックス)を12質量%、含むように原料を配合した。
【0066】
この未延伸フィルムをロール延伸機を用い、延伸温度80℃で1.03倍に第一段目の予備縦延伸し、次いで延伸温度80℃で1.03倍に第二段目の予備縦延伸し、次いで85℃で2.1倍に第一段目の主縦延伸し、更に延伸温度70℃で1.5倍に第二段目の主縦延伸を行った。
次いで、縦延伸フィルムを連続的にテンターに導き、130℃で4.0倍に横延伸した後、210℃で熱固定処理し、さらに210℃で横方向に5.0%の緩和処理を行った。引続き100℃で冷却し、フィルムの片面をコロナ処理した後、両端のテンタークリップ把持部を幅150mmトリミングし、厚さ15μm、幅6000mmの2軸配向ポリアミドフィルムのミルロールを得た。フィルム及びミルロールの特性評価結果を表3及び表4に示した。
【0067】
[実施例6]
表3及び表4に示したように予備縦延伸の温度及び倍率と主縦延伸の倍率を変えた以外は実施例1と同様にポリアミドフィルムのミルロールを得た。フィルム及びミルロールの特性評価結果を表3及び表4に示した。
【0068】
[実施例7]
表2に示したように予備縦延伸を1段にして表3及び表4の倍率に設定し、主縦延伸の2段目の倍率、未延伸フィルムの厚さを180μmに変えた以外は実施例2と同様に2軸配向ポリアミドフィルムを得た。フィルム及びミルロールの特性評価結果を表3及び表4に示した。
【0069】
[実施例8]
ミルロール幅が4000mmの製膜装置に変えた以外は実施例7と同様に2軸配向ポリアミドフィルムを得た。フィルム及びミルロールの特性評価結果を表3及び表4に示した。
【0070】
[比較例8]~[比較例14]
表2に示したように予備縦延伸を行わず、主縦延伸を表3及び表4に示した温度及び倍率で2段延伸を行った以外は、実施例と同様に2軸配向ポリアミドフィルムを得た。フィルム及びミルロールの特性評価結果を表3及び表4に示した。
【0071】
【0072】
【0073】
表3及び表4で示したとおり、実施例5~8の本願発明の2軸配向ポリアミドフィルムは、ミルロールの端のスリットロールであるにもかかわらず、袋にした場合にS字カール発生は許容できる範囲であった。
【0074】
一方、比較例10及び比較例13以外の比較例で得られた2軸配向ポリアミドフィルムでは、分子配向角は20°より大きく、吸湿歪みが1.3%より大きいため、袋にした場合に許容できない量のS字カールが発生した。また、ポリアミドフィルムミルロールでは、フィルムの幅方向に対して右端および左端から300mm内側の位置の吸湿歪みが1.3%より大きいため、袋にした場合に許容できない量のS字カールが発生した。
比較例10で得られた2軸配向ポリアミドフィルムでは、分子配向角は20°で、吸湿歪みは1.3%以下であったが、160℃で10分間加熱後の熱収縮率が大きいため、袋にした場合に許容できない量のS字カールが発生するとともにヒートシール部が収縮変形した。また、ポリアミドフィルムミルロールでは、フィルムの幅方向に対して右端および左端から300mm内側の位置の吸湿歪みは1.3%以下であったが、160℃で10分間加熱後の熱収縮率が大きいため、袋にした場合に許容できない量のS字カールが発生するとともにヒートシール部が収縮変形した。
【0075】
比較例13で得られた2軸配向ポリアミドフィルムでは、吸湿歪みは1.3%以下であり、S字カールも許容できる範囲であったが、インパクト強度が小さいため、耐衝撃性が求められるポリアミドフィルムとしての特性を満足していなかった。また、ポリアミドフィルムミルロールでは、フィルムの幅方向に対して右端および左端から300mm内側の位置の吸湿歪みは1.3%以下であり、S字カールも許容できる範囲であったが、インパクト強度が小さいため、耐衝撃性が求められるポリアミドフィルムとしての特性を満足していなかった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の2軸配向ポリアミドフィルム及びポリアミドフィルムミルロールは、ミルロールの端に近い製品であっても、機械的特性や熱的特性が良好であり、かつ製袋後の吸湿によるS字カールが少ないので、内容物を袋に充填する時に袋の搬送などで不具合が起きにくく作業性が良好である。更に高温での収縮の歪みも小さいので、袋をヒートシールにした後の収縮変形も小さい。また、ラミネート強度が強いので袋が破れにくい。また、優れたガスバリア性を有しているので、各種のガスバリア包装用途に好適に用いることができる。