(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】電界効果トランジスタ
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20240514BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20240514BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
H01L29/78 652H
H01L29/78 652T
H01L29/78 653A
H01L29/78 652F
H01L29/06 301V
H01L29/06 301D
H01L29/78 652E
H01L29/78 652C
H01L29/78 652J
H01L29/78 652K
(21)【出願番号】P 2021039305
(22)【出願日】2021-03-11
【審査請求日】2023-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高谷 秀史
【審査官】恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-169386(JP,A)
【文献】特開2014-017469(JP,A)
【文献】特開2012-169384(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/12
H01L 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電界効果トランジスタ(10)であって、
上面にトレンチ(14)が設けられた半導体基板(12)と、
前記トレンチの内面を覆うゲート絶縁膜(16)と、
前記トレンチ内に配置されており、前記ゲート絶縁膜によって前記半導体基板から絶縁されているゲート電極(18)、
を有し、
前記半導体基板が、
前記トレンチの側面で前記ゲート絶縁膜に接するn型のソース層(30)と、
前記ソース層の下側に位置する前記トレンチの前記側面で前記ゲート絶縁膜に接するp型のボディ層(34)と、
前記ボディ層から下側に突出しており、上側から前記半導体基板を見たときに前記トレンチに対して交差するように伸びており、前記ボディ層から前記トレンチの底面よりも下側まで伸びており、前記ボディ層の下側に位置する前記トレンチの前記側面及び前記トレンチの前記底面で前記ゲート絶縁膜に接する複数のp型ディープ層(36)と、
前記複数のp型ディープ層の間の間隔領域(39)と前記複数のp型ディープ層の下側の領域に跨って分布しており、前記複数のp型ディープ層の下面に接しているn型のドリフト層(38)、
を有し、
前記間隔領域内の前記ドリフト層が、前記ボディ層の下面及び前記複数のp型ディープ層の側面に接しており、前記ボディ層の下側に位置する前記トレンチの前記側面及び前記トレンチの前記底面で前記ゲート絶縁膜に接しており、
前記各p型ディープ層が、低濃度領域(36a)と、前記低濃度領域及び前記ボディ層よりもp型不純物濃度が高い高濃度領域(36b)を有しており、
前記各低濃度領域が、前記ボディ層に対して下側から接しており、前記ボディ層の下側に位置する前記トレンチの前記側面で前記ゲート絶縁膜に接しており、
前記各高濃度領域が、対応する前記低濃度領域に対して下側から接して
おり、
前記各低濃度領域が前記トレンチの前記底面で前記ゲート絶縁膜に接しており、
前記トレンチの下側の前記各低濃度領域の厚みが200nm以上である、
電界効果トランジスタ。
【請求項2】
電界効果トランジスタ(10)であって、
上面にトレンチ(14)が設けられた半導体基板(12)と、
前記トレンチの内面を覆うゲート絶縁膜(16)と、
前記トレンチ内に配置されており、前記ゲート絶縁膜によって前記半導体基板から絶縁されているゲート電極(18)、
を有し、
前記半導体基板が、
前記トレンチの側面で前記ゲート絶縁膜に接するn型のソース層(30)と、
前記ソース層の下側に位置する前記トレンチの前記側面で前記ゲート絶縁膜に接するp型のボディ層(34)と、
前記ボディ層から下側に突出しており、上側から前記半導体基板を見たときに前記トレンチに対して交差するように伸びており、前記ボディ層から前記トレンチの底面よりも下側まで伸びており、前記ボディ層の下側に位置する前記トレンチの前記側面及び前記トレンチの前記底面で前記ゲート絶縁膜に接する複数のp型ディープ層(36)と、
前記複数のp型ディープ層の間の間隔領域(39)と前記複数のp型ディープ層の下側の領域に跨って分布しており、前記複数のp型ディープ層の下面に接しているn型のドリフト層(38)、
を有し、
前記間隔領域内の前記ドリフト層が、前記ボディ層の下面及び前記複数のp型ディープ層の側面に接しており、前記ボディ層の下側に位置する前記トレンチの前記側面及び前記トレンチの前記底面で前記ゲート絶縁膜に接しており、
前記各p型ディープ層が、低濃度領域(36a)と、前記低濃度領域及び前記ボディ層よりもp型不純物濃度が高い高濃度領域(36b)を有しており、
前記各低濃度領域が、前記ボディ層に対して下側から接しており、前記ボディ層の下側に位置する前記トレンチの前記側面で前記ゲート絶縁膜に接しており、
前記各高濃度領域が、対応する前記低濃度領域に対して下側から接しており、
オフ状態の前記電界効果トランジスタに最大定格の電圧が印加されたときに、前記各低濃度領域に非空乏化領域(52)が残存し、前記非空乏化領域によって前記各高濃度領域と前記ボディ層が接続されてい
る、
電界効果トランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、電界効果トランジスタに関する。
【0002】
特許文献1には、トレンチゲート型の電界効果トランジスタが開示されている。この電界効果トランジスタは、ボディ層から下側に突出する複数のp型ディープ層を有している。各p型ディープ層は、上側から半導体基板を見たときにトレンチに対して交差するように伸びている。各p型ディープ層は、ボディ層からトレンチの底面よりも下側まで伸びている。特許文献1に開示の電界効果トランジスタの一例では、各p型ディープ層は、ボディ層の下側に位置するトレンチの側面及びトレンチの底面でゲート絶縁膜に接している。各p型ディープ層は、ボディ層よりも高いp型不純物濃度を有している。また、電界効果トランジスタは、ボディ層及び各p型ディープ層に接するn型のドリフト層を有している。この電界効果トランジスタがオフすると、ボディ層からドリフト層内に空乏層が広がる。ドリフト層内に広がる空乏層によって、ソース-ドレイン間の電圧が保持される。また、この電界効果トランジスタがオフすると、各ディープp層からもドリフト層内に空乏層が広がる。各ディープp層がトレンチの底面でゲート絶縁膜に接しているので、各ディープp層から広がる空乏層によってトレンチの底面の周辺のドリフト層が空乏化される。このように、各ディープp層からトレンチの底面の周辺に広がる空乏層によって、トレンチの底面の周辺のゲート絶縁膜及びドリフト層で電界集中が生じることが抑制される。したがって、この電界効果トランジスタは、高い耐圧を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の電界効果トランジスタにおいて、ゲート電極に閾値以上の電位を印加すると、ゲート絶縁膜近傍のボディ層にチャネルが形成され、チャネルによってソース層とドリフト層が接続される。したがって、ソース層からチャネルを介してドリフト層へ電子が流れる。ボディ層の下側にディープ層が設けられている範囲では、ディープ層がゲート絶縁膜に接している。ディープ層がボディ層よりも高いp型不純物濃度を有するので、ディープ層にはチャネルが形成されない。したがって、ボディ領域に形成されたチャネル内を流れる電子は、ディープ層を避けてドリフト層へ向かって流れる。このように、特許文献1の電界効果トランジスタでは、チャネルが形成される範囲が狭く、チャネル抵抗が高いという問題を有している。本明細書では、p型ディープ層を有する電界効果トランジスタにおいて、チャネル抵抗を低減する技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する電界効果トランジスタは、上面にトレンチが設けられた半導体基板と、前記トレンチの内面を覆うゲート絶縁膜と、前記トレンチ内に配置されているとともに前記ゲート絶縁膜によって前記半導体基板から絶縁されているゲート電極、を有する。前記半導体基板が、前記トレンチの側面で前記ゲート絶縁膜に接するn型のソース層と、前記ソース層の下側に位置する前記トレンチの前記側面で前記ゲート絶縁膜に接するp型のボディ層と、複数のp型ディープ層と、ドリフト層を有する。前記複数のp型ディープ層のそれぞれは、前記ボディ層から下側に突出しており、上側から前記半導体基板を見たときに前記トレンチに対して交差するように伸びており、前記ボディ層から前記トレンチの底面よりも下側まで伸びており、前記ボディ層の下側に位置する前記トレンチの前記側面及び前記トレンチの前記底面で前記ゲート絶縁膜に接している。前記ドリフト層は、前記複数のp型ディープ層の間の間隔領域と前記複数のp型ディープ層の下側の領域に跨って分布しており、前記複数のp型ディープ層の下面に接しているn型層である。前記間隔領域内の前記ドリフト層が、前記ボディ層の下面及び前記複数のp型ディープ層の側面に接しており、前記ボディ層の下側に位置する前記トレンチの前記側面及び前記トレンチの前記底面で前記ゲート絶縁膜に接している。前記各p型ディープ層が、低濃度領域と、前記低濃度領域及び前記ボディ層よりもp型不純物濃度が高い高濃度領域を有している。前記各低濃度領域が、前記ボディ層に対して下側から接しており、前記ボディ層の下側に位置する前記トレンチの前記側面で前記ゲート絶縁膜に接している。前記各高濃度領域が、対応する前記低濃度領域に対して下側から接している。
【0006】
この電界効果トランジスタの各p型ディープ層は、低濃度領域と高濃度領域を有している。高濃度領域は低濃度領域よりも下側(すなわち、ドリフト層に近い側)に配置されている。このため、この電界効果トランジスタがオフすると、高濃度領域からドリフト層に空乏層が広がる。高濃度領域から広がる空乏層によってトレンチの底面の周辺が空乏化される。これによって、トレンチの底面の周辺のゲート絶縁膜及びドリフト層で電界集中が生じることが抑制される。したがって、この電界効果トランジスタでは、高い耐圧が得られる。また、低濃度領域は、ボディ層の下側でゲート絶縁膜に接している。したがって、電界効果トランジスタがオンするときには、ボディ層だけでなく、p型不純物濃度が低い低濃度領域(すなわち、p型ディープ層の一部)にもチャネルが形成される。このように、低濃度領域にチャネルが形成されることで、チャネルが広くなる。したがって、この電界効果トランジスタでは、低いチャネル抵抗が得られる。以上に説明したように、この電界効果トランジスタの構造によれば、p型ディープ層によって高い耐圧を実現しながら、低濃度領域によって低いチャネル抵抗を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】MOSFET10の断面斜視図(p型ディープ層36を含まないxz断面を示す図)。
【
図2】ソース電極22と層間絶縁膜20を省略したMOSFET10の断面斜視図。
【
図3】半導体基板12を上から見たときのトレンチ14とp型ディープ層36の配置を示す平面図。
【
図4】MOSFET10の断面斜視図(p型ディープ層36を含むxz断面を示す図)。
【
図5】最大定格電圧を印加したときにおけるp型ディープ層36内の空乏層の分布を示す断面図。
【
図6】トレンチ14とp型ディープ層36との交差部の断面斜視図。
【
図7】変形例のMOSFETの断面斜視図(p型ディープ層36を含むxz断面を示す図)。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書が開示する一例の電界効果トランジスタでは、前記各低濃度領域が前記トレンチの前記底面で前記ゲート絶縁膜に接していてもよい。
【0009】
この構成によれば、トレンチの底面にもチャネルが形成されるので、チャネル抵抗をより低減できる。
【0010】
本明細書が開示する一例の電界効果トランジスタでは、前記トレンチの下側の前記各低濃度領域の厚みが200nm以上であってもよい。
【0011】
この構成によれば、トレンチ及び低濃度領域を形成するときに誤差が生じても、トレンチの下側に低濃度領域を確実に形成することができる。
【0012】
本明細書が開示する一例の電界効果トランジスタでは、前記各低濃度領域のp型不純物濃度が前記ボディ層のp型不純物濃度よりも低くてもよい。
【0013】
ボディ層のp型不純物濃度はゲート閾値に影響する一方で、各低濃度領域のp型不純物濃度はゲート閾値にほとんど影響しない。したがって、各低濃度領域のp型不純物濃度を、ボディ層のp型不純物濃度よりも低くしても問題は生じない。また、各低濃度領域のp型不純物濃度を、ボディ層のp型不純物濃度よりも低くすることで、各低濃度領域に形成されるチャネルの抵抗を低減することができる。
【0014】
本明細書が開示する一例の電界効果トランジスタでは、オフ状態の前記電界効果トランジスタに最大定格の電圧が印加されたときに、前記各低濃度領域に非空乏化領域が残存し、前記非空乏化領域によって前記各高濃度領域と前記ボディ層が接続されていてもよい。
【0015】
この構成によれば、オフ状態において各高濃度領域がフローティングしない。したがって、電界効果トランジスタがオフ状態からオン状態に切り換わるときに、各高濃度領域からドリフト層へ伸びている空乏層が素早く縮小する。したがって、電界効果トランジスタが素早くターンオンすることができる。
【0016】
図1、2に示す実施形態のMOSFET10(metal-oxide-semiconductor field effect transistor)は、半導体基板12を有している。以下では、半導体基板12の厚み方向をz方向といい、半導体基板12の上面12aに平行な一方向(z方向に直交する一方向)をx方向といい、x方向及びz方向に直交する方向をy方向という。半導体基板12は、炭化シリコン(すなわち、SiC)により構成されている。なお、半導体基板12がシリコン、窒化ガリウム等の他の半導体材料により構成されていてもよい。半導体基板12の上面12aには、複数のトレンチ14が設けられている。
図2に示すように、複数のトレンチ14は、上面12aにおいて、y方向に沿って長く伸びている。複数のトレンチ14は、x方向に間隔を開けて配置されている。
【0017】
図1、2に示すように、各トレンチ14の内面(すなわち、側面と底面)は、ゲート絶縁膜16によって覆われている。各トレンチ14内に、ゲート電極18が配置されている。各ゲート電極18は、ゲート絶縁膜16によって半導体基板12から絶縁されている。
図1に示すように、各ゲート電極18の上面は、層間絶縁膜20によって覆われている。半導体基板12の上部に、ソース電極22が設けられている。ソース電極22は、各層間絶縁膜20を覆っている。ソース電極22は、層間絶縁膜20によってゲート電極18から絶縁されている。ソース電極22は、層間絶縁膜20が存在しない位置で、半導体基板12の上面12aに接している。半導体基板12の下部には、ドレイン電極24が配置されている。ドレイン電極24は、半導体基板12の下面12bの全域に接している。
【0018】
図1、2に示すように、半導体基板12は、複数のソース層30、複数のコンタクト層32、ボディ層34、複数のp型ディープ層36、ドリフト層38、及び、ドレイン層40を有している。
【0019】
各ソース層30は、高いn型不純物濃度を有するn型層である。各ソース層30は、半導体基板12の上面12aを部分的に含む範囲に配置されている。各ソース層30は、ソース電極22にオーミック接触している。各ソース層30は、トレンチ14の側面の最上部において、ゲート絶縁膜16に接している。各ソース層30は、ゲート絶縁膜16を介してゲート電極18に対向している。各ソース層30はトレンチ14の側面に沿ってy方向に長く伸びている。
【0020】
各コンタクト層32は、高いp型不純物濃度を有するp型層である。各コンタクト層32は、半導体基板12の上面12aを部分的に含む範囲に配置されている。各コンタクト層32は、対応する2つのソース層30の間に配置されている。各コンタクト層32は、ソース電極22にオーミック接触している。各コンタクト層32は、y方向に長く伸びている。
【0021】
ボディ層34は、コンタクト層32よりも低いp型不純物濃度を有するp型層である。ボディ層34は、複数のソース層30及び複数のコンタクト層32の下側に配置されている。ボディ層34は、複数のソース層30及び複数のコンタクト層32に対して下側から接している。ボディ層34は、ソース層30の下側に位置するトレンチ14の側面で、ゲート絶縁膜16に接している。ボディ層34は、ゲート絶縁膜16を介してゲート電極18に対向している。
【0022】
各p型ディープ層36は、ボディ層34の下面から下側に突出しているp型層である。
図3に示すように半導体基板12を上側から見たときに、各p型ディープ層36は、x方向に長く伸びており、トレンチ14に対して直交している。複数のp型ディープ層36は、y方向に間隔を開けて配置されている。
図4に示すように、各p型ディープ層36は、ボディ層34の下面から各トレンチ14の底面よりも下側の深さまで伸びている。各p型ディープ層36は、ボディ層34の下側に位置するトレンチ14の側面でゲート絶縁膜16に接している。また、各p型ディープ層36は、トレンチ14の底面でゲート絶縁膜16に接している。各p型ディープ層36は、ゲート絶縁膜16を介してゲート電極18に対向している。
【0023】
各p型ディープ層36は、低濃度領域36aと高濃度領域36bを有している。各低濃度領域36aのp型不純物濃度は、ボディ層34のp型不純物濃度よりも低い。各高濃度領域36bのp型不純物濃度は、ボディ層34のp型不純物濃度よりも高い。例えば、各高濃度領域36bのp型不純物濃度は、各低濃度領域36aのp型不純物濃度の2倍以上であってもよい。
【0024】
各低濃度領域36aは、ボディ層34に対して下側から接している。各低濃度領域36aは、ボディ層34の下面から各トレンチ14の底面よりも下側の深さまで伸びている。各低濃度領域36aは、ボディ層34の下側に位置するトレンチ14の側面でゲート絶縁膜16に接している。また、各低濃度領域36aは、トレンチ14の底面でゲート絶縁膜16に接している。各低濃度領域36aは、ゲート絶縁膜16を介してゲート電極18に対向している。各トレンチ14の下部における各低濃度領域36aの厚みは、200nm以上である。
【0025】
各高濃度領域36bは、対応する低濃度領域36aに対して下側から接している。すなわち、各高濃度領域36bとボディ層34の間が対応する低濃度領域36aによって接続されている。各高濃度領域36bは、ゲート絶縁膜16に接していない。
【0026】
ドリフト層38は、ソース層30よりも低いn型不純物濃度を有するn型層である。ドリフト層38は、ボディ層34及びp型ディープ層36の下側に配置されている。
図1、2に示すように、ドリフト層38は、複数のp型ディープ層36の間の間隔領域39から複数のp型ディープ層36の下側の領域に跨って分布している。ドリフト層38は、各間隔領域39内において、ボディ層34の下面に接している。ドリフト層38は、各間隔領域39内において、各p型ディープ層36の側面(すなわち、低濃度領域36aの側面と高濃度領域36bの側面)に接している。ドリフト層38は、各間隔領域39内において、ゲート絶縁膜16に接している。すなわち、各間隔領域39内のドリフト層38は、ボディ層34の下側に位置するトレンチ14の側面とトレンチ14の底面でゲート絶縁膜16に接している。ドリフト層38は、各p型ディープ層36の下面(すなわち、高濃度領域36bの下面)に接している。
【0027】
ドレイン層40は、ドリフト層38よりも高いn型不純物濃度を有するn型層である。ドレイン層40は、ドリフト層38に対して下側から接している。ドレイン層40は、半導体基板12の下面12bを含む範囲に配置されている。ドレイン層40は、ドレイン電極24にオーミック接触している。
【0028】
MOSFET10は、ドレイン電極24にソース電極22よりも高い電位が印加された状態で使用される。各ゲート電極18にゲート閾値以上の電位が印加されると、ゲート絶縁膜16の近傍のボディ層34にチャネルが形成される。チャネルによって、ソース層30とドリフト層38が接続される。このため、ソース層30からチャネルとドリフト層38を経由してドレイン層40へ電子が流れる。すなわち、MOSFET10がオンする。各ゲート電極18の電位をゲート閾値以上の値からゲート閾値未満の値へ引き下げると、チャネルが消失し、電子の流れが停止する。すなわち、MOSFET10がオフする。
【0029】
次に、MOSFET10をオフするときの動作について、より詳細に説明する。チャネルが消失すると、ボディ層34とドリフト層38の界面のpn接合に逆電圧が印加される。したがって、ボディ層34からドリフト層38へ空乏層が広がる。また、各p型ディープ層36は、ボディ層34と繋がっており、ボディ層34と略同じ電位を有する。したがって、チャネルが消失すると、各p型ディープ層36とドリフト層38の界面のpn接合にも逆電圧が印加される。したがって、各p型ディープ層36からドリフト層38へ空乏層が広がる。特に、各p型ディープ層36の下部を構成する高濃度領域36bが高いp型不純物濃度を有するので、各高濃度領域36bからドリフト層38へ空乏層が素早く広範囲に広がる。各p型ディープ層36とトレンチ14の交差部では、
図4に示すように、トレンチ14の下側にp型ディープ層36(特に、高濃度領域36b)が存在している。したがって、トレンチ14の下側の各高濃度領域36bからトレンチ14の底面の周辺のドリフト層38(すなわち、間隔領域39内のドリフト層38)に空乏層が素早く広がる。これによって、トレンチ14の底面近傍において電界集中が抑制される。また、ボディ層34と各p型ディープ層36からドリフト層38へ広がった空乏層によって、ドリフト層38のほぼ全体が空乏化される。空乏化されたドリフト層38によって、ドレイン電極24とソース電極22の間に印加される高電圧が保持される。
【0030】
また、MOSFET10がオフするときに、各p型ディープ層36とドリフト層38の各界面から各p型ディープ層36内へ空乏層が広がる。
図5は、MOSFET10がオフしているときのp型ディープ層36内の空乏層の分布を示している。
図5において、斜線でハッチングされた領域は空乏層50であり、ハッチングされていない領域は空乏化されていない領域(以下、非空乏化領域52という)である。
図5に示すように、空乏層50は、p型不純物濃度が高い高濃度領域36b内にはそれほど伸びず、p型不純物濃度が低い低濃度領域36a内に広く伸びる。オフ状態のMOSFET10に最大定格の電圧がドレイン電極24とソース電極22の間に印加された場合であっても、
図5に示すように、低濃度領域36a内に非空乏化領域52が残存し、低濃度領域36a内の非空乏化領域52によってボディ層34と高濃度領域36bが接続されている状態が維持される。したがって、MOSFET10のオフ状態において、高濃度領域36bがフローティングすることは無く、高濃度領域36bの電位が安定している。
【0031】
次に、MOSFET10をオンするときの動作について、より詳細に説明する。上述したように、ゲート電極18の電位をゲート閾値以上の値まで上昇させると、ボディ層34に形成されたチャネルによってソース層30とドリフト層38が接続される。すると、ボディ層34とドリフト層38の間の電位差が小さくなる。すると、コンタクト層32からボディ層34にホールが流入するとともにコンタクト層32からボディ層34を介して高濃度領域36bにホールが流入する。ボディ層34にホールが流入することで、ボディ層34からドリフト層38に伸びている空乏層が縮小する。高濃度領域36bにホールが流入することで、高濃度領域36bからドリフト層38に伸びている空乏層が縮小する。このように、ドリフト層38に伸びている空乏層が縮小することで、ドリフト層38の抵抗が低下する。このため、ソース層30からチャネルとドリフト層38を介してドレイン層40へ電子が流れるようになる。すなわち、MOSFET10がオンする。ここで、
図5を用いて上述したように、MOSFET10がオフしている状態では、低濃度領域36a内の非空乏化領域52によって高濃度領域36bとボディ層34が接続されている。すなわち、MOSFET10がオフしている状態では、高濃度領域36bがフローティングしていない。したがって、MOSFET10がオンするときには、ボディ層34から低濃度領域36a内の非空乏化領域52を介して高濃度領域36bへホールが流入し易い。このため、高濃度領域36bからドリフト層38に伸びている空乏層が短時間で縮小し、ドリフト層38内に短時間で電子の流通経路が形成される。このため、MOSFET10のターンオン速度は速い。
【0032】
また、上述したように、ゲート電極18の電位をゲート閾値以上の値まで上昇させると、ボディ層34にチャネルが形成される。実施形態のMOSFET10では、低濃度領域36aが低いp型不純物濃度を有している。また、低濃度領域36aは、ゲート絶縁膜16に接している。したがって、低濃度領域36aのゲート絶縁膜16に接している範囲にも、チャネルが形成される。このように、ボディ層34だけでなく低濃度領域36aにもチャネルが形成されるので、チャネルが広い。このため、MOSFET10のチャネル抵抗は低い。特に、低濃度領域36aは、トレンチ14の側面だけでなく、トレンチ14の底面でもゲート絶縁膜16に接している。したがって、低濃度領域36a内には、トレンチ14の側面に沿う範囲だけでなく、トレンチ14の底面に沿う範囲にもチャネルが形成される。このように低濃度領域36a内にチャネルが形成されると、トレンチ14とp型ディープ層36の交差部において、
図6に示すように電子が流れる。すなわち、ボディ層34内では、矢印100に示すように、トレンチ14の側面に形成されるチャネルに沿って下方向に電子が流れる。低濃度領域36aに流入した電子は、矢印102に示すように、トレンチ14の側面に形成されるチャネルに沿って低濃度領域36a内を下方向に流れる。低濃度領域36a内でトレンチ14の下端まで達した電子は、矢印104に示すように、トレンチ14の底面に形成されるチャネルに沿ってy方向に流れ、間隔領域39内のドリフト層38へ流れる。このように、MOSFET10の構造によれば、トレンチ14の底面に沿ってチャネルが形成されるので、電子が流れる経路が拡大され、チャネル抵抗を効果的に低下させることができる。
【0033】
また、MOSFET10では、低濃度領域36aのp型不純物濃度がボディ層34のp型不純物濃度よりも低い。ボディ層34のp型不純物濃度は、MOSFET10のゲート閾値と相関を有する。このため、ボディ層34のp型不純物濃度を所定値以上に低くすることは困難である。他方、低濃度領域36aのp型不純物濃度がMOSFET10のゲート閾値に与える影響はほとんど無いので、低濃度領域36aのp型不純物濃度をボディ層34のp型不純物濃度よりも低くしても問題は生じない。また、低濃度領域36aのp型不純物濃度をボディ層34のp型不純物濃度よりも低くすると、低濃度領域36aに形成されるチャネルの抵抗がボディ層34に形成されるチャネルの抵抗よりも低くなる。したがって、MOSFET10全体のチャネル抵抗をより低減することができる。
【0034】
以上に説明したように、実施形態のMOSFET10の構造によれば、高い耐圧を実現できるとともに、低いチャネル抵抗を実現できる。実施形態のMOSFET10と比較例のMOSFETとを試作してその特性を測定した結果について説明する。なお、比較例のMOSFETは、p型ディープ層36全体が高濃度領域36bと同程度のp型不純物濃度を有している。実施形態のMOSFET10と比較例のMOSFETのいずれでも、ドレイン-ソース間耐圧は約1100Vであった。また、実施形態のMOSFET10ではオン抵抗が約1.00mΩcm2であったのに対し、比較例のMOSFETではオン抵抗が約1.10mΩcm2であった。この結果から計算すると、実施形態のMOSFET10では、比較例のMOSFETに対してチャネル抵抗を約50%低減できたことが分かった。このように、実施形態のMOSFET10の構造によれば、比較例のMOSFETと同等の高い耐圧を維持しながら、比較例のMOSFETよりもチャネル抵抗を低減できる。
【0035】
また、上述したように、実施形態のMOSFET10では、トレンチ14の下側の低濃度領域36aの厚みが200nm以上であった。低濃度領域36aを形成するときの誤差とトレンチ14を形成するときの誤差によって、トレンチ14の下側の低濃度領域36aの厚みには-200nm~+200nm程度のばらつきが生じる。したがって、トレンチ14の下側の低濃度領域36aの厚みを200nm以上とすることで、製造誤差が生じた場合でも、トレンチ14の下側に低濃度領域36aを確実に形成することができる。
【0036】
なお、上述した実施形態では、低濃度領域36aのp型不純物濃度がボディ層34のp型不純物濃度よりも低かった。しかしながら、低濃度領域36aのp型不純物濃度は、高濃度領域36bのp型不純物濃度よりも低ければ、ボディ層34のp型不純物濃度より高くてもよい。低濃度領域36aのp型不純物濃度がボディ層34のp型不純物濃度より高くても、低濃度領域36aにチャネルが形成されれば、チャネル抵抗を低減することができる。
【0037】
また、上述した実施形態では、低濃度領域36aがボディ層34の下面からトレンチ14の底面よりも下側まで伸びていた。しかしながら、
図7に示すように、低濃度領域36aの下端がトレンチ14の底面よりも上側に位置していてもよい。この構成では、トレンチ14の底面に高濃度領域36bが接しているので、トレンチ14の底面にはチャネルが形成されない。しかしながら、この構成でも、低濃度領域36aのトレンチ14の側面に隣接する範囲にはチャネルが形成される。したがって、従来のMOSFET(例えば、上述した比較例のMOSFET)よりもチャネルを拡大することができ、チャネル抵抗を低減することができる。
【0038】
また、上述した実施形態では、各p型ディープ層36が各トレンチ14に対して直交していたが、各p型ディープ層36が各トレンチ14に対して斜めに交差していてもよい。
【0039】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0040】
10:MOSFET、12:半導体基板、14:トレンチ、16:ゲート絶縁膜、18:ゲート電極、20:層間絶縁膜、22:ソース電極、24:ドレイン電極、30:ソース層、32:コンタクト層、34:ボディ層、36:p型ディープ層、36a:低濃度領域、36b:高濃度領域、38:ドリフト層、39:間隔領域、40:ドレイン層