(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】ボールねじ
(51)【国際特許分類】
F16H 25/22 20060101AFI20240514BHJP
F16H 25/24 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
F16H25/22 C
F16H25/24 B
(21)【出願番号】P 2021062356
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢部 孝之
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-164152(JP,A)
【文献】特開2015-105710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/22
F16H 25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸と、
内周面に螺旋状のねじ溝が形成され、外周面に切欠き部が設けられたナットと、
前記ねじ軸のねじ溝と前記ナットのねじ溝との間を転動するボールと、
前記ねじ軸と前記ナットの両ねじ溝間を転動する前記ボールを循環させるボール循環路を形成し、前記切欠き部に取り付けられる循環部と、
を備えるボールねじであって、
前記ナットには、前記切欠き部内に、径方向に貫通し、長手方向がリード角に沿って形成され、互いに平行な長手方向両側面の一部が前記ボールを案内する長孔が形成され、
前記循環部は、
前記切欠き部の底壁面に当接するように、前記切欠き部内に配置され、前記長孔内に収容されるタング部を有する第1の循環部品と、
前記第1の循環部品に覆い被さるように、前記切欠き部内に配置され、前記長孔内に収容され、前記タング部と対向する壁部を有する第2の循環部品と、
前記第1の循環部品と前記第2の循環部品とが当接する当接面内に配置され、前記ボール循環路の一部を構成する、前記第1及び第2の循環部品の材質よりも高強度なパイプと、
を有する、ボールねじ。
【請求項2】
前記ボール循環路の掬い上げ部は、前記第1の循環部品の前記タング部、前記第2の循環部品の壁部、及び、前記長孔の長手方向両側面によって構成され、
前記ボール循環路の方向転換部は、前記パイプによって構成される、請求項1に記載のボールねじ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のボールねじ装置としては、例えば
図7に示すものが知られている。
このボールねじ装置110は、外周面に螺旋状のねじ溝111を有して軸方向に延びるねじ軸112に、内周面に該ねじ溝11に対応する螺旋状のねじ溝113を有するナット114が螺合されている。ねじ軸112のねじ溝111とナット114のねじ溝113とは互いに対向して両者の間に負荷軌道を形成しており、該負荷軌道には転動体としての多数のボール115が転動可能に装填されている。
【0003】
ナット114の壁部には軸方向に貫通するボール戻し通路116が形成されており、また、ナット114の両端部にはボール戻し通路116の端部が開口する切欠き117がそれぞれ形成されている(
図7参照)。該切欠き117には、ボール戻し通路116と両ねじ溝111,113間の負荷軌道とを連通するための循環こま(循環部)118が嵌合固定されている。
【0004】
循環こま118は、
図8に示すように、ボール戻し通路116と両ねじ溝111,113間の負荷軌道との間を連通する湾曲状のボール循環溝120が形成されており、該ボール循環溝120の先端には両ねじ溝111,113間の負荷軌道を転動するボール115をすくい上げるタング部119が設けられている。ボール循環溝120と、切欠き117の径方向内面に設けられたボール径より幅広のボール走行面117aとによってボール115の循環通路121を形成しており、該ボール循環通路121と、両ねじ溝111,113間の負荷軌道およびボール戻し通路116とによってボール115の無限循環通路を形成している。そして、ねじ軸112(又はナット114)の回転により、ナット114(又はねじ軸112)がボール115の転動を介して軸方向に移動するようになっている。
【0005】
また、特許文献1に記載のボールねじでは、循環こま130のボール循環溝120の部分を合成樹脂成形体の強度より高強度の金属製のボール循環溝形成部材(高強度材)131で形成している。このボール循環溝形成部材131は、例えば、板金等のプレス成形により形成されて循環こま130と一体に成形される。また、特許文献1では、切欠き117の径方向内面をより深く形成し、超硬合金プレート等の剥離防止用プレートを装着して、このプレート面を切欠き117のボール走行面とする。これにより、方向転換箇所の内表面には循環するボールが衝突した際に、剥離が生じてボールの循環不良により作動性に悪影響を及ぼすことを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載の循環部品はインサート成型で作るものであるため、2つの部品が物理的に繋がる構造が必要であり、設計が複雑になる。更に、特許文献1に記載の循環部品の形状はその形から小リードの溝幅が小さいものには適用できないという問題があった。
【0008】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ボール循環部の強度向上により安定した作動を確保でき、且つ、ボールピッチが小さい、小リードや多条仕様の大リードに適用できるボールねじを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 外周面に螺旋状のねじ溝が形成されたねじ軸と、
内周面に螺旋状のねじ溝が形成され、外周面に切欠き部が設けられたナットと、
前記ねじ軸のねじ溝と前記ナットのねじ溝との間を転動するボールと、
前記ねじ軸と前記ナットの両ねじ溝間を転動する前記ボールを循環させるボール循環路を形成し、前記切欠き部に取り付けられる循環部と、
を備えるボールねじであって、
前記ナットには、前記切欠き部内に、径方向に貫通し、長手方向がリード角に沿って形成され、互いに平行な長手方向両側面の一部が前記ボールを案内する長孔が形成され、
前記循環部は、
前記切欠き部の底壁面に当接するように、前記切欠き部内に配置され、前記長孔内に収容されるタング部を有する第1の循環部品と、
前記第1の循環部品に覆い被さるように、前記切欠き部内に配置され、前記長孔内に収容され、前記タング部と対向する壁部を有する第2の循環部品と、
前記第1の循環部品と前記第2の循環部品とが当接する当接面内に配置され、前記ボール循環路の一部を構成する、前記第1及び第2の循環部品の材質よりも高強度なパイプと、
を有する、ボールねじ。
(2) 前記ボール循環路の掬い上げ部は、前記第1の循環部品の前記タング部、前記第2の循環部品の壁部、及び、前記長孔の長手方向両側面によって構成され、
前記ボール循環路の方向転換部は、前記パイプによって構成される、(1)に記載のボールねじ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によるボールねじにおいては、ボール循環部の強度向上により安定した作動を確保でき、且つ、ボールピッチが小さい、小リードや多条仕様の大リードに適用できるボールねじを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】(a)は、本発明の一実施形態に係るボールねじのナットを示す側面図であり、(b)は、循環部品が取り外されたナットの切欠き部を示す部分側面図である。
【
図2】(a)は、
図1(a)のII-II線に沿った断面図であり、(b)は、
図1(a)のII´-II´線に沿った断面図である。
【
図3】(a)は第1の循環部品の正面図、(b)はその側面図、(c)はその背面図である。
【
図4】(a)は第2の循環部品の正面図、(b)はその側面図、(c)はその背面図である。
【
図5】(a)はパイプの正面図、(b)はその側面図である。
【
図6】(a)は変形例のパイプの正面図、(b)はその側面図である。
【
図8】
図7のボールねじに用いる循環こまの一例を示す全体斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係るボールねじについて図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明のボールねじは、ナット及び循環部を特徴とするものであり、構成要件であるねじ軸及びボールについては、
図7に示す従来のねじ軸112及びボール115を参照する。
【0013】
図1に示すように、金属製のナット1は、円筒状に形成され、その内周面には1条の螺旋状のねじ溝11が形成されている。
また、ナット1の外周面には、径方向外側から切り欠かれた切欠き部12が2箇所に形成される。また、各切欠き部12内には、径方向に貫通し、内周面に形成されたねじ溝11に対応して開口する長孔7が形成される。
【0014】
そして、切欠き部12には、ねじ軸111とナット1の両ねじ溝112、11間を転動するボール115を循環させるボール循環路を形成する、循環部としての第1及び第2の循環部品2,3とパイプ5が取り付けられる。
【0015】
図1(b)に示すように、切欠き部12には、ナット1の中心軸線にそれぞれ平行で、且つ、互いに平行な2つの底壁面12a,12bが段差状に形成されており、2つの底壁面12a,12bの軸方向両側に内壁面12c,12d,12eが径方向に沿って形成されている。なお、底壁面12aは、底壁面12bよりも軸方向片側で長く形成されている。また、長孔7の長手方向に隣接する底壁面12aの一部には、座ぐり部12fが形成されている。
【0016】
長孔7は、長手方向がねじ溝11のリード角θに沿って形成され、ねじ溝11の幅と同じ幅に形成されている。長孔7は、循環部が切欠き部12内に取り付けられ、長孔7内でボール115を掬い上げる掬い上げ部を構成する際に、互いに平行な長手方向両側面7aの一部がボール115を案内するように利用される。
【0017】
循環部は、ボール循環路内に、上述した掬い上げ部に加え、リード角θに沿った掬い上げ部の方向から他の循環部へ向かう軸方向に向かうように、救い上げたボール6の移動方向を転換する方向転換部を構成する。
【0018】
具体的に、第1の循環部品2は、
図3に示すように、パイプ5の一部分(半部)を収容する半円柱状のパイプ収容溝8aを形成する本体部8と、長孔7内に収容されるタング部4と、有する。
【0019】
また、第2の循環部品3は、
図4に示すように、第1の循環部品2の表面と当接する裏面にパイプ5の残りの部分(半部)を収容する半円柱状のパイプ収容溝9aを形成する本体部9と、本体部9の表面から連続して形成され、裏面に掬い上げ部を構成する壁部10aを有する延在部10と、を有する。本体部9は、第1の環状部品2の本体部8と当接する当接面を、該本体部の表面と略同じ大きさとしており、また、壁部10a以外の延在部10の裏面が切欠き部12の底壁面12bと当接する。
【0020】
さらに、パイプ5は、
図5に示すように、ボール循環路の方向転換路を形成する湾曲した円筒部材であり、第1の循環部品2と第2の循環部品3とが当接する当接面の両パイプ収容溝8a,9a内に配置される。このパイプ5は、第1及び第2の循環部品2,3の材質(本実施形態では、樹脂)よりも高強度な材料である、例えば金属から構成される。
【0021】
なお、パイプ5は、単一の曲率を有する円弧形状に形成されているが、少なくとも一方の端部にストレート部が設けられてもよく、循環部の両端面にパイプ5を露出するようにしてもよい。
【0022】
なお、パイプ5は、
図6に示すような、2分割されたパイプ片5aを一対組み合わせて形成されてもよい。このようなパイプ片5aは、プレス加工などで製作してもよい。
【0023】
第1の循環部品2は、切欠き部12の底壁面12aに当接するように、切欠き部12内に配置され、タング部4は、長孔7内に配置される。また、第2の循環部品3は、第1の循環部品2に覆い被さるように、切欠き部12内に配置される。その際、第2の循環部品3の壁部10aは、長孔7内に収容され、タング部4と対向する。
【0024】
したがって、ボール循環路の掬い上げ部は、第1の循環部品2のタング部4と、第2の循環部品3の壁部10a、及び、長孔7の長手方向両側面7aによって構成される。
【0025】
なお、第1の循環部品2、パイプ5、及び第2の循環部品3は、順に切欠き部12内に組付けられてもよいし、これらを組み立てた状態で、切欠き部12内に組付けてもよい。
【0026】
したがって、本実施形態のボールねじは、方向転換部にパイプ5を用いることで、ボール循環部の強度向上により安定した作動を確保でき、且つ、掬い上げ部にナット1に形成された長孔7の長手方向両側面7aを利用することで、ボールピッチが小さい、小リードや多条仕様の大リードにも適用できる。
【0027】
なお、本発明は、前述した実施形態及び各変形例に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
本実施形態では、ボール循環路は、2つの切欠き部12の一部を連通させ、各切欠き部12に取り付けられた2つの循環部を直接連結することによって構成されているが、例えば、ナット1の軸方向長さに応じて、
図7と同様に、2つの循環部の間に軸方向に延びるボール戻し通路がナット1に形成されてもよい。
【0028】
また、本発明のボールねじは、例えば、高精度な加工、測定を行う装置の位置決め用途や半導体製造等に使用されるXYステージに用いられる。また、ボールねじは、例えば、工作機械(マシニングセンター、旋盤、研削機等)、測定機械(3次元測定器)、半導体製造装置(露光装置、検査プローブ等のテーブル)等に用いられる。
【符号の説明】
【0029】
1 ナット
2 第1の循環部品
3 第2の循環部品
4 タング部
5 パイプ
6 壁部
7 長孔
8、9 本体部
11 ねじ溝
12 切欠き部
111 ねじ溝
112 ねじ軸
115 ボール