(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】フロア構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20240514BHJP
B60K 1/04 20190101ALI20240514BHJP
【FI】
B62D25/20 D
B62D25/20 G
B60K1/04 Z
(21)【出願番号】P 2021077801
(22)【出願日】2021-04-30
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 雅之
(72)【発明者】
【氏名】一之瀬 健一
(72)【発明者】
【氏名】西村 宏行
(72)【発明者】
【氏名】安西 道生
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-011535(JP,A)
【文献】特開2020-104578(JP,A)
【文献】特開2020-100372(JP,A)
【文献】特開2020-055392(JP,A)
【文献】特開2006-240515(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0100414(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0003659(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/20
B60K 1/04
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロアの下側に電池パックを搭載する
とともに、前記電池パックの前端部に高電圧配線が接続されるコネクタ部が設けられ、コネクタ部が、乗員の足下位置の下方となるフロアパネル及びフロアトンネルの下方に配置されている車両のフロア構造であって、
前記フロアを構成するフロアパネルと、
前記フロアパネルの中央部分において、車両前後方向に伸びるフロアトンネルと、
前記フロアパネルおよび前記フロアトンネルの前方に位置するダッシュロアパネルと、
上面視において、前記フロアパネル、前記フロアトンネル、および前記ダッシュロアパネルの3つが
重畳されてスポット溶接される隅部の溶接部分を覆い、かつ前記隅部の溶接部分よりも車両左右方向に位置し、前記フロアパネルおよび前記ダッシュロアパネルの2つが重畳されてスポット溶接される複数の溶接部分においては、前記隅部の溶接部分の隣に位置する溶接部分と、さらに隣に位置する溶接部分の2点のみを覆う電磁波遮蔽パネルと、
を含む、
フロア構造。
【請求項2】
請求項
1に記載のフロア構造であって、
前記電磁波遮蔽パネルは、車両の前方および上方に伸び、ダッシュロアパネルの前方であって、上方から伸びるインストルメントパネルで覆われている部分まで伸びる、
フロア構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロアの下側に電池パックを搭載する車両のフロア構造、特に電磁波遮蔽の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド車では、駆動用のモータに電力を供給するために比較的大きな電池パックを搭載する。一方、車両は車室などの容積をできるだけ大きくしたいという要求があり、電池パックが車室フロア下(床下)に搭載される場合が多い(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、地面から電池パックの下面までの距離を固定すると、そこから電池パックの厚み(収容される電池セル群の高さ)、フロア位置、乗員の位置と下から順番に配置が決まる。車両としては、乗員位置が低くできれば、デザインの自由度が広がり、いわゆる共通プラットフォームで様々なバリエーションが可能となる。電池パック内の電池セルを接続する配線から電池パックの外に電力を送る高電圧配線は、インバータもしくは高電圧分岐BOXに接続し、駆動源であるモータに電流を送電する役割を担っている。高額な高電圧配線の長さを最小限にするには電池パックの前端部にコネクタを設けて最短距離でインバータへつなぐ必要がある。
【0005】
この配置では、コネクタ部がちょうど前席乗員の足元の位置の下方、すなわち足元位置からフロアパネルを隔てた下側近傍に位置する。このため、高電圧配線から電流ノイズが発生する場合、その電磁波の遮蔽をするために足元位置の下方を覆う鋼板を設定したり、コネクタ部や高電圧配線の遮蔽構造を設けたりする必要があるが、場合によっては、試作台数の増加や試験回数の増大、質量の増加、コストに負担がかかる対策となる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るフロア構造は、フロアの下側に電池パックを搭載するとともに、前記電池パックの前端部に高電圧配線が接続されるコネクタ部が設けられ、コネクタ部が、乗員の足下位置の下方となるフロアパネル及びフロアトンネルの下方に配置されている車両のフロア構造であって、前記フロアを構成するフロアパネルと、前記フロアパネルの中央部分において、車両前後方向に伸びるフロアトンネルと、前記フロアパネルおよび前記フロアトンネルの前方に位置するダッシュロアパネルと、上面視において、前記フロアパネル、前記フロアトンネル、および前記ダッシュロアパネルの3つが重畳されてスポット溶接される隅部の溶接部分を覆い、かつ前記隅部の溶接部分よりも車両左右方向に位置し、前記フロアパネルおよび前記ダッシュロアパネルの2つが重畳されてスポット溶接される複数の溶接部分においては、前記隅部の溶接部分の隣に位置する溶接部分と、さらに隣に位置する溶接部分の2点のみを覆う電磁波遮蔽パネルと、を含む。
【0010】
前記電磁波遮蔽パネルは、車両前方および上方に伸び、ダッシュロアパネルの前方であって、上方から伸びるインストルメントパネルで覆われている部分まで伸びるとよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、比較的簡単な構成で、乗員の足元の電磁波を効果的に遮蔽することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】車室内のフロアの構成を模式的に示す斜視図である。
【
図3】車室の前下部についての側方から見た断面を模式的に示した図である。
【
図4A】車室の前方下部(左半分)の電流を示す図(平面視)であり、電磁波遮蔽パネル40を設けない場合を示す図である。
【
図4B】車室の前方下部(左半分)の電流を示す図(平面視)であり、電磁波遮蔽パネル40を設ける場合を示す図である。
【
図5】床材料の違いによる磁界強度の差を示す図である。
【
図6】電磁波遮蔽パネル40の大きさを変更した例を示す図である。
【
図7】
図6に示した電磁波遮蔽パネル40-1、40-2、40-3の足元付近の磁界強度の変化の度合いを示す図である。
【
図8】ダッシュロアパネル34、フロアパネル20の両方と締結している溶接点数が3点の電磁波遮蔽パネル40-2について、電気抵抗率を変化させた場合の磁界遮蔽効果を示す図である。
【
図9】鉄鋼材の電気抵抗率と、シリコン(Si)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)の成分比の関係を示す図である。
【
図10】電磁波遮蔽パネル40の他の構成例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。なお、本発明は、ここに記載される実施形態に限定されるものではない。
【0014】
「全体構成」
図1は、車両の全体構成を模式的に示す図である。この例において、車両10は、4つの車輪12を有し、前方にコンパートメントルーム14、後方にラゲッジルーム16、中間部分に車室18を有する。車室18の床にはフロアパネル20が配置され、フロアパネル20の下側に電池パック22が配置される。
【0015】
電池パック22の前方には電池パック22内の電池セルを接続する配線と外部に接続するためのコネクタ部24が設けられる。
【0016】
コンパートメントルーム14内には、インバータや高電圧分岐部などが収容される機器ボックス26が配置され、この機器ボックス26とコネクタ部24とが高電圧ケーブル28によって接続される。
【0017】
また、機器ボックス26には、駆動モータ30が接続されており、電池パック22からの電力は、機器ボックス26内のインバータを介し駆動モータ30に供給される。駆動モータ30には車輪12が機械的に接続されており、アクセル操作量などに応じてインバータを制御することで、駆動モータ30の出力が制御され、駆動モータ30の駆動力によって車両が走行する。
【0018】
また、乗員の足元の前方には、ダッシュパネル36が配置されて、車室18と、前方のコンパートメントルーム14を仕切っており、ダッシュパネル36の上方のウインドシールドガラスとの間には、計器等を搭載するインストルメントパネル38が配置されている。
【0019】
「電磁波遮蔽パネル」
図2は、車室内のフロアの構成を模式的に示す斜視図であり、ここでは、車室内の前席側の床部分が示されている。フロアパネル20は、右席側の右フロアパネル20-2と左席側の左フロアパネル20-1に分割されており、車室内の左右前席の下方に位置する。フロアパネル20の前方には、やや上方に向けて傾斜するダッシュロアパネル34が配置される。そして、ダッシュロアパネル34も右席側と左席側に分割されており、フロアパネル20、ダッシュロアパネル34の右席側と左席側の間(中央部分)には車両前後方向に伸びるフロアトンネル32が配置されている。フロアトンネル32は、左右のフロアパネル20、ダッシュロアパネル34より上方側に凸でその内部は下方が開口する断面四角形状の空間になっている。従って、フロアトンネル32の内部空間にケーブル等が収容される。フロアパネル20、ダッシュロアパネル34、フロアトンネル32の前端には上方に伸びるダッシュパネル36が配置され、前方のコンパートメントルーム14と車室18とを仕切っている(
図1参照)。また、ダッシュパネル36の上部には、インストルメントパネル38の下部が至っており、ダッシュパネル36の上部をインストルメントパネル38の下部が覆っている。
【0020】
そして、フロアパネル20、ダッシュロアパネル34、フロアトンネル32の3つが接続される隅部に金属製の電磁波遮蔽パネル40が配置されている。なお、この例では、下からフロアパネル20、ダッシュロアパネル34、フロアトンネル32の順で上面視において重畳されており、その上に電磁波遮蔽パネル40が配置されて、スポット溶接される。
【0021】
ここで、図においては、左席側の電磁波遮蔽パネル40のみを示したが、右席側についても同様の隅部に電磁波遮蔽パネル40を設けるとよい。また、高電圧ケーブル28は、フロアトンネル32内の一方側に偏って配置される場合もあり、その場合には高電圧ケーブル28に近い側の隅部のみに電磁波遮蔽パネル40を設けることもできる。さらに、運転者なしで走行することは通常ないので、運転席側のみに電磁波遮蔽パネル40を設けることもできる。
【0022】
図3は、車室の前下部についての側方から見た断面を模式的に示した図である。フロアパネル20の下側には、電池パック22が配置され、電池パック22の前方に配置されたコネクタ部24と、機器ボックス26が高電圧ケーブル28で接続される。この高電圧ケーブル28の中間部分は、二点鎖線で示したフロアトンネル32内を通る。なお、図において、高電圧ケーブル28は、黒太線で示してある。
【0023】
図4A、
図4Bは、車室の前方下部(左半分)の電流を示す図(平面視)であり、
図4Aは電磁波遮蔽パネル40を設けない場合、
図4Bは電磁波遮蔽パネル40を設ける場合を示す。
図4Aに示すように、高電圧ケーブル28に流れる電流(高周波ノイズ)に応じて、磁界が発生し、これにより誘起される電流がダッシュロアパネル34の下端に沿って流れ、これがスポット溶接部分(溶接点)を介しフロアパネル20の前端エッジに分岐して流れてこの電流による電磁波が室内に放射される。このフロアパネル20の前端エッジは、図示のように乗員の足元位置に対応しており、電磁波の放射を抑制することが好ましい。
【0024】
本実施形態では、
図4Bに示すように、金属製の電磁波遮蔽パネル40をフロアパネル20、ダッシュロアパネル34、フロアトンネル32の3つが接続される隅部に配置してある。従って、高電圧ケーブル28の高周波ノイズにより誘起される電流の一部が電磁波遮蔽パネル40のフロアトンネル32に沿った端部に分岐して流れ、これによって足元位置側に流れる電流を減少して、電磁波の放射を抑制することができる。
【0025】
すなわち、フロアパネル20、フロアトンネル32などの下にあるコネクタ部24や高電圧ケーブル28から発する電磁波は、金属製(この例では鋼板)で構成されるフロアパネル20、ダッシュロアパネル34、フロアトンネル32などの遮蔽効果によりその磁界を妨げる方向に渦電流が生じる。この渦電流によって室内に磁界が生じるが、フロアパネル20の前端部ではそのエッジ方向に電流の向きが揃うことになるので、そこに比較的高い磁界を生じる傾向があり、特にフロアパネル20の前端、およびダッシュロアパネル34の下端のエッジに沿って車両左右方向(車両幅方向)に流れる傾向がある。本実施形態では、電磁波遮蔽パネル40によって、エッジに流れる電流を減少し、車室内への電磁波の放射を抑制する。
【0026】
「材質について」
ここで、軽量化により高張力鋼が開発され、同時に成形性を高める成分(Siなど)が含まれると、鋼板としての電気抵抗が高まる。ダッシュロアパネル34に高張力鋼を採用すると、スポット打点を介しフロアパネル20へ流れる分流成分が強まり、フロアパネル20のエッジでの電流が強くなる。そこで、フロアパネル20に生じる渦電流の源流部(コネクタ部24の近傍であり、ダッシュロアパネル34、フロアトンネル32との接続部)に電磁波遮蔽パネル40を設置し、フロアパネル20の前端エッジに流れ込む電流の一部について電磁波遮蔽パネル40を介し、後方への分流成分を増やすことで、フロアパネル20の前端エッジへの成分を分散させる。なお、後方への分流成分が増加すること場合、前方への分流成分も増加する。
【0027】
本実施形態では、コネクタ部24上方で左右方向(車両幅方向)に伸びるダッシュロアパネル34と車両前後方向に伸びるフロアトンネル32が車両平面視でTの字に接合される。そして、フロアトンネル32の左右両側であって、ダッシュロアパネル34の後方側に、フロアトンネル32と左フロアパネル20-1、フロアトンネル32と右フロアパネル20-2がその中央側および前方側のエッジに形成された略L字フランジ部において接合される。
【0028】
特に、フロアパネル20(20-1)のL字フランジ角部(前方中央側)においては、電磁波遮蔽パネル40をダッシュロアパネル34、フロアトンネル32、フロアパネル20(20-1)の3部品と一緒にスポット打点で結合される。そして、ダッシュロアパネル34の上方にはダッシュパネル36が配置される。
【0029】
ここで、高電圧ケーブル28の電流に起因して、フロアパネル20の前端に流れる電流により乗員の足元付近に発生する磁界は、床等を構成する部材の材料の電気抵抗率(導電率の逆数)に依存する。
【0030】
ダッシュパネル36、ダッシュロアパネル34、フロアパネル20、フロアトンネル32などの材質によって、足元に発生する磁界が影響を受ける。
【0031】
<実験例1:電磁波遮蔽パネルなし>
例えば、材料の鋼材として、A:SPC270(冷間圧延鋼材の材料名)相当の低電気抵抗材料(電気抵抗率:14.3μΩ・cm)と、B:高張力鋼相当の高電気抵抗材料(電気抵抗率:25.0μΩ・cm)を選択し、下記条件1,2で足元付近の磁界を測定してみた。
条件1:
ダッシュパネル36:A、ダッシュロアパネル34:B、フロアパネル20:A、フロアトンネル32:B、
条件2:
ダッシュパネル36:A、ダッシュロアパネル34:A、フロアパネル20:A、フロアトンネル32:A、
【0032】
この結果を
図5に示す。このように、条件1の方が、条件2に比べ磁界強度が大きく、その差は約8dBであった。これより、ダッシュロアパネル34、フロアトンネル32に高張力鋼を採用すると、ダッシュロアパネル34,フロアトンネル32からスポット打点を介しフロアパネル20へ流れる分流成分が強まり、フロアパネル20のエッジでの電流が強くなることが確認された。
【0033】
なお、本実施形態では、条件1を採用している。
【0034】
「電磁波遮蔽パネル溶接点数」
図6には、電磁波遮蔽パネル40の大きさを変更した例を示す。この例では、3つの形状の電磁波遮蔽パネル40-1、40-2、40-3を用いた。
図6では、3つの電磁波遮蔽パネル40-1、40-2、40-3を重畳して表示しているが、3つは独立してそれぞれ設置して実験を行った。
【0035】
3つの電磁波遮蔽パネル40-1、40-2、40-3は、その中央側がフロアトンネル32に突き当たって上方に折れ曲がり、上端部において前後方向の3点(3つの溶接部分40a,40b,40c)でフロアトンネル32に溶接されている。また、折れ曲がる手前において、フロアトンネル32の左端部(フランジ)と、フロアパネル20の右端の両方と2点(2つの溶接部分40d、40c)で溶接されている。そして、フロアトンネル32の左端部(フランジ)と、フロアパネル20の右前角と、ダッシュロアパネル34の後右角とが重畳する部分(3つの部材が重畳している角部)の1点(1つの溶接部分40f)でこれらと溶接されている。
【0036】
そして、3つの電磁波遮蔽パネル40-1、40-2、40-3はその車両左右方向(車両幅方向)の長さが異なり、フロアパネル20の前端と、ダッシュロアパネル34の後端とが重畳する部分をカバーする大きさが異なっている。
【0037】
電磁波遮蔽パネル40-1はフロアパネル20の前端、およびダッシュロアパネル34の後端と1点(溶接部分40g)、電磁波遮蔽パネル40-2は2点(溶接部分40g、40h)、電磁波遮蔽パネル40-3は3点(溶接部分40g,40h,40i)でスポット溶接されている。
【0038】
そして、上述したように、3つの電磁波遮蔽パネル40-1、40-2、40-3は、フロアトンネル32、フロアパネル20、ダッシュロアパネル34が重畳する部分の1点で溶接されているので、3つの電磁波遮蔽パネル40-1、40-2、40-3のフロアパネル20およびダッシュロアパネル34と溶接されている点数は、それぞれ2点,3点,4点となる。
【0039】
図7には、電磁波遮蔽パネル40-1、40-2、40-3の足元付近の磁界強度の変化の度合いを示してある。これより、溶接が奇数点の場合、磁界強度が小さくなり、低減効果があり、偶数点では効果が得られないことが分かった。
【0040】
「電磁波遮蔽パネル40の電気抵抗率σ」
図8は、電気抵抗率25.0μΩ・cmの高張力鋼のダッシュロアパネル34、電気抵抗率14.3μΩ・cmのSPC270のフロアパネル20の両方と締結している溶接点数が3点の電磁波遮蔽パネル40-2について、電磁波遮蔽パネル40の電気抵抗率を変化させた場合の磁界遮蔽効果を示す図である。
【0041】
図中A点は、SPC270材相当の電気抵抗率14.3μΩ・cmの場合であり、B点は、高張力鋼相当の電気抵抗率25.0μΩ・cmの場合である。これより、電磁波遮蔽パネル40の電気抵抗率がダッシュロアパネル34と同じ高張力鋼相当(B)の場合、効果が大きく、フロアパネル20と同じSPC270相当の(A)の場合、効果が小さくなる。
【0042】
このように、電磁波遮蔽パネル40の電気抵抗率を、ダッシュロアパネル34の電気抵抗率と比較的近いものとすることで、乗員足元の磁界を低減できる。
【0043】
高張力鋼相当とSPC270材相当との差異(Δσ=B-A)に対し、高張力鋼よりも電気抵抗率が小さい範囲では、高張力鋼から0.25倍の範囲まで、大きい範囲内では0.5倍の範囲までが、より効果が得られる範囲となる。
【0044】
ここで、電気抵抗率は鉄鋼材に含まれるシリコン(Si)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)に依存することがわかっている(住友金属技報vol.33 no4 1981年「高張力薄板鋼のスポット溶接性」参照)。
図9に、鉄鋼材の電気抵抗率σと、シリコン(Si)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)の成分比の関係を示す。
σ=13.5556・X+14.088
【0045】
ここで、X=Si(%)+0.25(Mn(%)+Cr(%))、σ:電気抵抗率(μΩ・cm)である。
【0046】
そこで、
図8に示すように、磁界低減効果がある電磁波遮蔽パネル40の成分比を決定することが可能となる。すなわち、電磁波遮蔽パネル40について、上述した電気抵抗率を満足する鉄鋼材について、その組成(Si,Mn,Crの成分比%)により決定することができる。
【0047】
なお、上述の例の場合、効果がある電気抵抗率σは、22.3~30.4μΩ・cm、Xの範囲は0.6~1.2であった。
【0048】
「他の実施形態」
図10には、電磁波遮蔽パネル40の他の構成例を示す。この例では、電磁波遮蔽パネル40の前方が、インストルメントパネル38の下部にまで延長されている。また、電磁波遮蔽パネル40の前方端は、図において点線で示されているように、インストルメントパネル38の下方においてさらに前方まで伸びてもよいし、またインストルメントパネル38の表面上を伸びてもよい。
【0049】
インストルメントパネル38は、上方から降りてくるパネルであり、乗員はこの上に足を置くことは通常ない。従って、電磁波遮蔽パネル40をここまで延長することで、乗員の足元の磁界を十分低減することができる。
【符号の説明】
【0050】
10 車両、12 車輪、14 コンパートメントルーム、16 ラゲッジルーム、18 車室、20 フロアパネル、22 電池パック、24 コネクタ部、26 機器ボックス、28 高電圧ケーブル、30 駆動モータ、32 フロアトンネル、34 ダッシュロアパネル、36 ダッシュパネル、40 電磁波遮蔽パネル。