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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】車両用エンジンのシリンダブロック
(51)【国際特許分類】
   F02F 7/00 20060101AFI20240514BHJP
   B60K 17/04 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
F02F7/00 301B
F02F7/00 301Z
B60K17/04 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021193410
(22)【出願日】2021-11-29
(65)【公開番号】P2023079778
(43)【公開日】2023-06-08
【審査請求日】2023-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】塚原 猛
(72)【発明者】
【氏名】山口 洋介
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-3906(JP,A)
【文献】特開平10-205389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 7/00
B60K 17/00-17/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連結するエンジンのクランクシャフトと同軸の入力軸の回転軸線方向を車両の全長方向に合わせて配置するトランスミッション、または、連結するエンジンのクランクシャフトと同軸の入力軸の回転軸線方向を車両の全幅方向に合わせて配置するトランスアクスルが組み付けられる接合フランジを備え、鉛直方向における下端に、オイルパン、もしくは、ラダーフレームおよびオイルパンを取り付ける車両用エンジンのシリンダブロックにおいて、
前記接合フランジは、
前記接合フランジの外縁における前記下端を含む一部分に形成されるとともに、連結するエンジンに対向する前記トランスミッションの合わせ面に当接する第1接合面が形成された第1フランジと、
前記外縁における前記接合フランジと前記第1フランジとの境界を規定する分岐部と、
前記外縁における前記分岐部よりも前記接合フランジ側で前記外縁から分岐して、前記接合フランジの前記第1フランジよりも内側に延びるとともに、連結するエンジンに対向する前記トランスアクスルの合わせ面に当接する第2接合面が形成された第2フランジと、を有している
ことを特徴とする車両用エンジンのシリンダブロック。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用エンジンのシリンダブロックにおいて、
前記接合フランジは、
前記第1フランジおよび前記第1接合面と一体に形成されるとともに、前記トランスミッションの合わせ面に当接する前記オイルパンの合わせ面、または、前記トランスミッションの合わせ面に当接する前記ラダーフレームの合わせ面の少なくともいずれかに形成された縦置き用リブに連なる第1リブと、
前記第2フランジおよび前記第2接合面と一体に形成されるとともに、前記トランスアクスルの合わせ面に当接する前記オイルパンの合わせ面、または、前記トランスアクスルの合わせ面に当接する前記ラダーフレームの合わせ面の少なくともいずれかに形成された横置き用リブに連なる第2リブと、を有している
ことを特徴とする車両用エンジンのシリンダブロック。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用エンジンのシリンダブロックにおいて、
前記接合フランジは、
前記接合フランジに前記トランスミッションまたは前記トランスアクスルを組み付けるためのボルト穴またはねじ穴を形成するボルト締結用ボスを有し、
前記ボルト締結用ボスは、
前記外縁における前記分岐部よりも前記接合フランジ側の位置で、かつ、前記トランスミッションの合わせ面に当接する前記オイルパンの合わせ面、または、前記トランスミッションの合わせ面に当接する前記ラダーフレームの合わせ面の少なくともいずれかの前記縦置き用リブと一体に形成されてボルト締結用のボルト穴またはねじ穴を形成する縦置き用ボスと、前記外縁および前記第1リブならびに前記縦置き用リブを介してつながる位置で、なおかつ、前記トランスアクスルの合わせ面に当接する前記オイルパンの合わせ面、または、前記トランスアクスルの合わせ面に当接する前記ラダーフレームの合わせ面の少なくともいずれかの前記横置き用リブと一体に形成されてボルト締結用のボルト穴またはねじ穴を形成する横置き用ボスと、前記外縁および前記第2リブならびに前記横置き用リブを介してつながる位置に、形成されている
ことを特徴とする車両用エンジンのシリンダブロック。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の車両用エンジンのシリンダブロックにおいて、
前記第2フランジを残して、前記外縁における前記分岐部よりも前記下端側の前記第1フランジを切除した状態で、前記トランスアクスルを組み付ける
ことを特徴とする車両用エンジンのシリンダブロック。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載の車両用エンジンのシリンダブロックにおいて、
前記第1フランジおよび前記第2フランジを共に残したままの状態で、前記トランスミッションを組み付ける
ことを特徴とする車両用エンジンのシリンダブロック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駆動力源として車両に搭載されるエンジンのシリンダブロックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両の全長方向(縦方向)にクランクシャフトの回転軸線方向を合わせて配置するいわゆる縦置きのFR(Front-engine Rear-wheel drive)車両用エンジンと、車両の全幅方向(横方向)にクランクシャフトの回転軸線方向を合わせて配置するいわゆる横置きのFF(Front-engine Front-wheel drive)車両用エンジンとで、シリンダブロックを共用することを目的とした車両用エンジンのシリンダブロックが記載されている。この特許文献1に記載された車両用エンジンのシリンダブロックは、シリンダブロックの後端にフランジ部が一体に形成されている。そのシリンダブロックのフランジ部からオイルパンのフランジ部に亘って、トランスミッションもしくはトランスアクスルが組み付けられる。FR車両の場合は、トランスミッションとともに車両に縦置きに搭載される。FF車両の場合は、トランスアクスルとともに車両に横置きに搭載される。そして、シリンダブロックのエンジンフランジ部の下縁には、切り欠き形状の凹部が形成されている。FR車両用の構成では、その凹部の位置に、スタータモータが配置される。FF車両用の構成では、その凹部の位置を、ドライブシャフトが通過し、スタータモータは、ドライブシャフトと反対側または上部に配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-3906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、特許文献1に記載されたシリンダブロックは、FR車両用のエンジンと、FF車両用のエンジンとで、シリンダブロックの一端に形成されるフランジ部の外縁形状が同一となるように構成されている。そして、フランジ部の一部を切り欠いた凹部を設けることにより、他部品との干渉を回避し、フランジ部にFR車両用のトランスミッションが組み付けられた状態で車両に縦置きに搭載される使用態様と、フランジ部にFF車両用のトランスアクスルが組み付けられた状態で車両に横置きに搭載される使用態様とを可能にしている。すなわち、FR車両とFF車両とで同一型式のエンジンを使用する場合に、FR車両に搭載するエンジンと、FF車両に搭載するエンジンとで、シリンダブロックを共用することができる。しかしながら、FR車両用のエンジンとFF車両用のエンジンとでシリンダブロックを共用するためには、上記のようなシリンダブロックのフランジ部の位置や形状に合わせて、シリンダブロックに取り付けられるトランスミッションケースあるいはトランスアクスルケース、ならびに、スタータモータやドライブシャフト等の他部品の形状や配置を、専用に、あるいは、特別に設計する必要がある。そのため、上記のようにシリンダブロックを共用することによって一定のコストダウンを達成できたとしても、結局、車両全体としては、十分なコストダウンの効果を得られない場合があった。
【0005】
この発明は上記のような技術的課題に着目して考え出されたものであり、例えばFR車両用の縦置きのエンジンと、例えばFF車両用の横置きのエンジンとで、コストアップを招くことなく、シリンダブロックの粗材を共用することができ、トータルで十分なコストダウンの効果を得ることが可能な車両用エンジンのシリンダブロックを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、この発明は、連結するエンジンのクランクシャフトと同軸の入力軸の回転軸線方向を車両の全長方向に合わせて配置するトランスミッション、または、連結するエンジンのクランクシャフトと同軸の入力軸の回転軸線方向を車両の全幅方向に合わせて配置するトランスアクスルが組み付けられる接合フランジを備え、鉛直方向における下端に、オイルパン、もしくは、ラダーフレームおよびオイルパンを取り付ける車両用エンジンのシリンダブロックにおいて、前記接合フランジは、前記接合フランジの外縁における前記下端を含む一部分に形成されるとともに、連結するエンジンに対向する前記トランスミッションの合わせ面に当接する第1接合面が形成された第1フランジと、前記外縁における前記第1フランジの起点、すなわち、前記外縁における前記接合フランジと前記第1フランジとの境界を規定する分岐部と、前記外縁における前記分岐部よりも前記接合フランジ側、すなわち、前記外縁の前記第1フランジを含まない部分で前記外縁から分岐して、前記接合フランジの前記第1フランジよりも内側(または、中心側)に延びるように形成されるとともに、連結するエンジンに対向する前記トランスアクスルの合わせ面に当接する第2接合面が形成された第2フランジと、を有していることを特徴とするものである。
【0007】
また、この発明における前記接合フランジは、前記第1フランジおよび前記第1接合面と一体に形成されるとともに、前記トランスミッションの合わせ面に当接する前記オイルパンの合わせ面、または、前記トランスミッションの合わせ面に当接する前記ラダーフレームの合わせ面の少なくともいずれかに形成された縦置き用リブに連なる第1リブと、前記第2フランジおよび前記第2接合面と一体に形成されるとともに、前記トランスアクスルの合わせ面に当接する前記オイルパンの合わせ面、または、前記トランスアクスルの合わせ面に当接する前記ラダーフレームの合わせ面に形成された横置き用リブに連なる第2リブと、を有していてもよい。
【0008】
また、この発明における前記接合フランジは、前記接合フランジに前記トランスミッションまたは前記トランスアクスルを組み付けて接合するためのボルト穴またはねじ穴を形成するボルト締結用ボスを有していてもよく、この発明における前記ボルト締結用ボスは、前記外縁における前記分岐部よりも前記接合フランジ側の位置で、かつ、前記トランスミッションの合わせ面に当接する前記オイルパンの合わせ面、または、前記トランスミッションの合わせ面に当接する前記ラダーフレームの合わせ面の少なくともいずれかの前記縦置き用リブと一体に形成されてボルト締結用のボルト穴またはねじ穴を形成する縦置き用ボスと、前記外縁および前記第1リブならびに前記縦置き用リブを介してつながる位置で、なおかつ、前記トランスアクスルの合わせ面に当接する前記オイルパンの合わせ面、または、前記トランスアクスルの合わせ面に当接する前記ラダーフレームの合わせ面の前記横置き用リブと一体に形成されてボルト締結用のボルト穴またはねじ穴を形成する横置き用ボスと、前記外縁および前記第2リブならびに前記横置き用リブを介してつながる位置に、形成してもよい。
【0009】
また、この発明は、前記第2フランジを残して、前記外縁における前記分岐部よりも前記下端側の前記第1フランジを切除した状態(すなわち、前記第1フランジ、および、前記第1フランジに形成される前記第1接合面を切除した状態、もしくは、前記第1フランジ、ならびに、前記第1フランジに形成される前記第1接合面および前記第1リブを切除した状態)で、前記トランスアクスルを組み付けて接合するように構成してもよい。
【0010】
そして、この発明は、前記第1フランジおよび前記第2フランジを共に残したままの状態で、前記トランスミッションを組み付けて接合するように構成してもよい。
【0011】
なお、一般に、“トランスアクスル”は、変速機(トランスミッション)とデファレンシャルギヤおよびドライブシャフトとを一体に組み込んだ構成の動力伝達装置である。そのような“トランスアクスル”としては、エンジンと共に、“エンジンのクランクシャフトと同軸の入力軸の回転軸線方向を車両の全長方向(すなわち、車両の縦方向)に合わせて配置する、いわゆる縦置きのトランスアクスル”も実在する。但し、この発明における“トランスアクスル”は、エンジンと共に、“エンジンのクランクシャフトと同軸の入力軸の回転軸線方向を車両の全幅方向(すなわち、車両の横方向)に合わせて配置する、いわゆる横置きのトランスアクスル”に限定する。それとともに、この発明における“トランスミッション”は、エンジンと共に、“エンジンのクランクシャフトと同軸の入力軸の回転軸線方向を車両の全長方向に合わせて配置する、いわゆる縦置きのトランスミッション”に限定する。
【発明の効果】
【0012】
この発明の車両用エンジンのシリンダブロックは、下部にオイルパンを取り付けて、車両用エンジンを構成する。または、下部にラダーフレームおよびオイルパンを取り付けて、車両用エンジンを構成する。この発明の車両用エンジンは、いわゆる縦置きでトランスミッションを組み付け、FR車両に搭載する場合と、いわゆる横置きでトランスアクスルを組み付け、FF車両(または、FF車両をベースにした四輪駆動車両)に搭載する場合とで、シリンダブロックの粗材を共用する。そのために、この発明の車両用エンジンのシリンダブロックは、FR車両用のトランスミッション、または、FF車両用のトランスアクスルを組み付けて接合するための接合フランジに、第1フランジ、および、第2フランジの、位置や形状が異なる二つのフランジを設けている。第1フランジは、接合フランジの外縁の下端を含む一部分に形成され、FR車両用のトランスミッションの合わせ面に当接する第1接合面を有している。この第1フランジを用いて、この発明の車両用エンジンのシリンダブロックに、FR車両用のトランスミッションを組み付けて接合する(例えば、ボルト締結する)ことができる。すなわち、FR車両用のトランスミッションを組み付ける車両用エンジンのシリンダブロックを形成することができる。一方、第2フランジは、接合フランジの外縁から分岐して、接合フランジの外縁に形成された第1フランジよりも内側(すなわち、中心の回転軸側)の異なる位置に形成され、FF車両用のトランスアクスルの合わせ面に当接する第2接合面を有している。この第2フランジを用いて、この発明の車両用エンジンのシリンダブロックに、FF車両用のトランストランスを組み付けて接合する(例えば、ボルト締結する)ことができる。この場合は、接合フランジの内側に位置する第2フランジを残して、接合フランジの外縁における分岐部よりも下端側の第1フランジを切除することにより、接合フランジの外縁に第2フランジおよび第2接合面を有する、FF車両用のトランスアクスルを組み付ける車両用エンジンのシリンダブロックを形成することができる。
【0013】
このように、FF車両用のトランスアクスルを組み付ける横置きの車両用エンジンのシリンダブロックは、FR車両用のトランスミッションを組み付ける縦置きの車両用エンジンのシリンダブロックの第1フランジの部分を切除することによって形成される。そのため、例えば、アルミニウム合金や鋳鉄を材料にして鋳造されるシリンダブロックの粗材を機械加工することにより、横置きの車両用エンジンのシリンダブロックと、縦置きの車両用エンジンのシリンダブロックとの両方を製造することができる。すなわち、縦置きの車両用エンジンと、横置きの車両用エンジンとで、シリンダブロックの粗材を共用できる。そして、上記のように、縦置きの車両用エンジンと、横置きの車両用エンジンとの両方に適応可能なシリンダブロックを構成することにより、FR車両用(縦置き)とFF車両用(横置き)とで車両用エンジンを共用するために他部品や他部材を専用設計する必要性が少なくなる。したがって、この発明の車両用エンジンのシリンダブロックを用いることにより、他部品や他部材の専用設計に要するコストを増やすことなく、縦置きの車両用エンジンと、横置きの車両用エンジンとで、シリンダブロックの粗材を共用できる。そのため、共通の金型および共通の鋳造設備を用いて、上記のような縦置きの車両用エンジンおよび横置きの車両用エンジンの両方に適用可能なシリンダブロックの粗材を製造することができる。その結果、それぞれの場合で専用の金型や製造設備を設ける場合と比較して、大幅なコストダウンを実現できる。
【0014】
また、この発明の車両用エンジンのシリンダブロックは、接合フランジに、上記の第1フランジおよび第1接合面と共に、第1リブが形成されている。また、接合フランジに、上記の第2フランジおよび第2接合面と共に、第2リブが形成されている。第1リブは、シリンダブロックの下部に取り付けられるオイルパンの合わせ面、または、ラダーフレームの合わせ面の縦置き用リブと連続するように形成されている。同様に、第2リブは、オイルパンの合わせ面、または、ラダーフレームの合わせ面の横置き用リブと連続するように形成されている。そのため、この発明のシリンダブロックに、オイルパン、もしくは、ラダーフレームおよびオイルパンを取り付けて、車両用エンジンを構成する場合に、接合フランジには、第1リブと縦置き用リブ、および、第2リブと横置き用リブの、それぞれ、連続する二つのリブが形成される。それらの二つのリブは、それぞれ、この発明のシリンダブロックを用いた車両用エンジンに、FR車両用のトランスミッションを組み付ける場合、および、FF車両用のトランスアクスルを組み付ける場合に、接合フランジの補強リブあるいは補剛リブとして機能する。したがって、この発明のシリンダブロックを用いた車両用エンジンの強度や剛性を、適切に、確保することができる。
【0015】
更に、この発明の車両用エンジンのシリンダブロックは、接合フランジに、ボルト締結用ボスが形成されている。ボルト締結用ボスは、接合フランジの外縁および第1リブならびに縦置き用リブを介して、縦置き用ボスにつながる位置で、かつ、接合フランジの外縁および第2リブならびに横置き用リブを介して、横置き用ボスにつながる位置に形成されている。言い換えると、ボルト締結用ボスと縦置き用ボスとが、上記の第1リブおよび縦置き用リブによってつながれ、ボルト締結用ボスと横置き用ボスとが、上記の第2リブおよび横置き用リブによってつながれている。そのため、この発明の車両用エンジンと、FR車両用のトランスミッションまたはFF車両用のトランスアクスルとをボルト締結して接合する際に、それぞれの接合面における強度や剛性を、適切に、確保することができる。
【0016】
したがって、この発明の車両用エンジンのシリンダブロックによれば、縦置きのFR車両用のエンジンと、横置きのFF車両用のエンジンとで、容易に、シリンダブロックの粗材を共用することができる。そのため、この発明の車両用エンジンのシリンダブロックを用いたエンジンを搭載する車両に対して、トータルで、大きなコストダウンを図ることができる。また、上記のようなシリンダブロックの粗材を共用することによるコストダウンと、そのシリンダブロックを用いた車両用エンジンの強度および剛性を確保することとを、適切に、両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】この発明の車両用エンジンのシリンダブロックを適用する縦置きのエンジンに、FR車両用のトランスミッションを組み付けた状態を模式的に示す図である。
図2】この発明の車両用エンジンのシリンダブロックを適用する横置きのエンジンに、FF車両用のトランスアクスルを組み付けた状態を模式的に示す図である。
図3】この発明の車両用エンジンのシリンダブロックを適用する縦置きのエンジンに組み付けられるトランスミッションを説明するための図であって、連結する縦置きのエンジンとトランスミッションとの間に配置されるフライホイール、および、縦置きのエンジン(シリンダブロック)に対向するトランスミッションの合わせ面等を示す図である。
図4】この発明の車両用エンジンのシリンダブロックを適用する横置きのエンジンに組み付けられるトランスアクスルを説明するための図であって、四輪駆動車両用のトランスファを組み込んだトランスアクスル、および、連結する横置きのエンジン(シリンダブロック)に対向するトランスアクスルの合わせ面等を示す図である。
図5】この発明の車両用エンジンのシリンダブロックの課題を説明するための図であって、FR車両用のトランスミッションを組み付ける縦置きのエンジンと、FF車両用のトランスアクスルを組み付ける横置きのエンジンとで、シリンダブロックを共用する場合に、トランスミッションを組み付けるために必要なフランジを配置することが可能な範囲、および、トランスアクスルを組み付けるために必要なフランジを配置することが可能な範囲を示す図である。
図6】この発明の車両用エンジンのシリンダブロックの構成を説明するための図であって、FR車両用のトランスミッション、または、FF車両用のトランスアクスルが組み付けられるシリンダブロックの接合フランジおよび接合面等を示す図である。
図7】この発明の車両用エンジンのシリンダブロックの構成を説明するための図であって、FR車両用のトランスミッションを組み付けるシリンダブロックに、ラダーフレームおよびオイルパンを取り付けた状態を示す図である。
図8】この発明の車両用エンジンのシリンダブロックの構成を説明するための図であって、FF車両用のトランスアクスルを組み付けるために第1フランジを切除した状態のシリンダブロックを示す図である。
図9】この発明の車両用エンジンのシリンダブロックの構成を説明するための図であって、FF車両用のトランスアクスルを組み付けるために第1フランジを切除した状態のシリンダブロックに、ラダーフレームおよびオイルパンを取り付けた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明の実施形態を、図を参照して説明する。なお、以下に示す実施形態は、この発明を具体化した場合の一例に過ぎず、この発明を限定するものではない。
【0019】
この発明の実施形態における車両用エンジンのシリンダブロックは、駆動力源として車両に搭載される車両用エンジンの主要部分を構成する。この発明の実施形態では、例えば、図1に示すように、車両の全長方向(縦方向)にクランクシャフト(図示せず)の回転軸線AL方向を合わせて配置する、いわゆる“縦置き”の車両用エンジンEG(以下、エンジンEG)を対象にしている。図1では、縦置きのエンジンEGに、エンジンEGのクランクシャフトと同軸の入力軸(図示せず)の回転軸線(すなわち、回転軸線AL)方向を車両の全長方向に合わせて配置するFR車両用のトランスミッションTMを組み付けた状態を示してある。それとともに、この発明の実施形態では、例えば、図2に示すように、車両の全幅方向(横方向)にクランクシャフト(図示せず)の回転軸線AL方向を合わせて配置する、いわゆる“横置き”の車両用エンジンEG(以下、エンジンEG)も対象にしている。図2では、横置きのエンジンEGに、エンジンEGのクランクシャフトと同軸の入力軸(図示せず)の回転軸線(すなわち、回転軸線AL)方向を車両の全幅方向に合わせて配置するFF車両用、または、FF車両をベースにした四輪駆動車両用のトランスアクスルTAを組み付けた状態を示してある。すなわち、この発明の実施形態では、FR車両とFF車両とで共用される同一型式のエンジンEGを対象にしている。
【0020】
上記のように、FR車両に縦置きで搭載される場合と、FF車両に横置きで搭載される場合とで、エンジンEGを共用する際には、連結するトランスミッションTMまたはトランスアクスルTAの組み付け用のフランジとの位置関係や、周辺に配置される他部品との干渉などの理由による種々の制約を受ける。例えば、図3に示すように、エンジンEGのシリンダブロックには、トランスミッションTMの組み付け用のフランジ101の形状に合致するとともに、エンジンEGとトランスミッションTMとの間に配置するフライホイール102の外径よりも大きな内径の空間を有する“接合フランジ”を設ける必要がある。それとともに、図4に示すように、エンジンEGのシリンダブロックには、トランスアクスルTAの組み付け用のフランジ201の形状に合致するとともに、エンジンEGとトランスアクスルTAとの間に配置するフライホイール202の外径よりも大きな内径の空間を有する“接合フランジ”を設ける必要がある。また、トランスアクスルTAから延び出る左右のドライブシャフト203(図4では一方のドライブシャフト203のみを図示してある)との干渉を避けることが可能な形状の“接合フランジ”を設ける必要がある。更に、この図4に示すように、トランスアクスルTAが、FF車両をベースにした四輪駆動車両用のトランスファ204を備えている場合には、トランスファ204、および、トランスファ204から延び出るプロペラシャフト205を配置するスペースを確保することが可能な形状の“接合フランジ”を設ける必要がある。その他にも、例えば、スタータモータ(図示せず)の取り付け位置等に配慮する必要がある。
【0021】
上記のような各種の制約を考慮すると、例えば、図5に示すように、エンジンEGにトランスミッションTMを連結する場合は、エンジンEGのシリンダブロック301には、範囲Aの外側に“接合フランジ”を設ける必要がある。一方、エンジンEGにトランスアクスルTAを連結する場合は、範囲Bの外側に“接合フランジ”を設ける必要がある。この図5から分かるように、従来形状のシリンダブロック301の接合フランジ302は、その外縁303が範囲Aの外側に位置するように形成されている。そのため、このシリンダブロック301を用いて構成した縦置きのエンジンEGには、支障なく、トランスミッションTMを連結することができる。しかしながら、このシリンダブロック301の接合フランジ302は、その外縁302が範囲Bの内側に位置している。そのため、このシリンダブロック301を用いて構成した横置きのエンジンEGに、トランスアクスルTAを連結することはできない。したがって、この図5に示すような従来形状のシリンダブロック301用いて構成したエンジンEGでは、FR車両用のトランスミッションTM、および、FF車両用のトランスアクスルTAのそれぞれに適応し、それらを適切に連結することは困難である。すなわち、トランスミッションTMと共に、FR車両に縦置きで搭載するエンジンEGと、トランスアクスルTAと共に、FF車両(または、FF車両をベースにした四輪駆動車両)に横置きで搭載するエンジンEGとで、従来形状のシリンダブロック301を共用することは困難である。
【0022】
そこで、この発明の実施形態における車両用エンジンのシリンダブロックでは、上記のように、FR車両とFF車両とで同一型式のエンジンEGを使用する場合に、FR車両に縦置きで搭載するエンジンEGと、FF車両に搭載するエンジンEGとで、“シリンダブロックの粗材”を共用することが可能なように構成されている。それにより、エンジンEGとして、あるいは、エンジンEGを搭載する車両全体として、トータルで大きなコストダウンを図っている。
【0023】
図6図7に、この発明の実施形態における車両用エンジンのシリンダブロックの一例を示してある。この発明の実施形態におけるエンジンEGは、ピストン(図示せず)の往復運動をクランクシャフト(図示せず)の回転運動に変換してトルクを出力するように構成された、いわゆるレシプロ式の内燃機関である。そして、この発明の実施形態におけるシリンダブロック1は、エンジンEGの主要な構成要素であって、鉛直方向(図6図7の上下方向)における上端1aに、シリンダヘッド(図示せず)やバルブ機構(図示せず)等が取り付けられる。また、鉛直方向におけるシリンダブロック1の下端1bに、オイルパン(図示せず)が取り付けられる。もしくは、図7に示すように、シリンダブロック1の下端1bに、ラダーフレーム2およびオイルパン3が取り付けられる。それら、図示しないシリンダヘッド、ならびに、図示しないオイルパン、もしくは、ラダーフレーム2およびオイルパン3などと共に、シリンダブロック1は、上記のようなエンジンEGを構成する。
【0024】
前述したように、エンジンEGは、FR車両とFF車両との両方に搭載することを想定したものであり、そのために、この発明の実施形態におけるシリンダブロック1は、FR車両用のトランスミッションTM、または、FF車両用のトランスアクスルTAを組み付けるための接合フランジ10を備えている。
【0025】
接合フランジ10は、シリンダブロック1の本体におけるエンジンEGの出力軸(図示せず)側の端部に、シリンダブロック1の本体と一体に形成されている。接合フランジ10は、FR車両用のトランスミッションTM、または、FF車両用のトランスアクスルTAを組み付けて接合するためのフランジであり、図3で示したトランスミッションTMのフランジ101と組み合わされて、ボルト締結によって接合される。もしくは、接合フランジ10は、図4で示したトランスアクスルTAのフランジ201と組み合わされて、ボルト締結によって接合される。
【0026】
具体的には、接合フランジ10は、第1フランジ11、および、第2フランジ12を有している。また、接合フランジ10は、第1フランジ11に形成された第1接合面11a、および、第1リブ11b、ならびに、第2フランジ12に形成された第2接合面12a、および、第2リブ12bを有している。そして、接合フランジ10は、分岐部13を有している。更に、接合フランジ10は、ボルト締結用ボス14を有している。
【0027】
第1フランジ11は、接合フランジ10の外縁10aの一部分に形成されている。図6図7に示す例では、第1フランジ11は、外縁10aの右側部分からシリンダブロック1の下端1bに亘る部分に形成されている。言い換えると、第1フランジ11は、接合フランジ10の右側部分からシリンダブロック1の下端1bにかけて、接合フランジ10の外縁10aの一部分を形成している。具体的には、第1フランジ11は、接合フランジ10の外縁10aにおける、後述する分岐部13から下端1bにかけて、接合フランジ10の外縁10aの一部分を形成している。この第1フランジ11に、第1接合面11a、および、第1リブ11bが形成されている。
【0028】
第1接合面11aは、エンジンEGにトランスミッションTMを連結する際に、図3に示すような、トランスミッションTMのフランジ101の合わせ面101aに当接する。第1リブ11bは、第1フランジ11および第1接合面11aと一体に形成されている。すなわち、この第1リブ11bにおけるトランスミッションTMの合わせ面101aに対向する端面が、上記の第1接合面11aになっている。そして、図7に示すように、第1リブ11bは、トランスミッションTMの合わせ面101aに当接するラダーフレーム2の合わせ面2aに形成された縦置き用リブ2bに連なるように形成されている。また、図7に示す例では、第1リブ11bは、第1接合面11a上で、すなわち、接合フランジ10の接合面(合わせ面)10b上で、ラダーフレーム2の縦置き用リブ2bに連続するとともに、その縦置き用リブ2bを介して、トランスミッションTMの合わせ面101aに当接するオイルパン3の合わせ面3aに形成された縦置き用リブ3bと連続するように形成されている。
【0029】
なお、エンジンEGが、図7に示すようなラダーフレーム2を用いない構成である場合、すなわち、エンジンEGが、シリンダブロック1、および、シリンダブロック1の下端1bに取り付けられるオイルパン(図示せず)によって構成される場合は、第1リブ11bは、トランスミッションTMの合わせ面101aに当接する図示しないオイルパンの合わせ面に形成された縦置き用リブ(図示せず)に連なるように形成される。
【0030】
第2フランジ12は、接合フランジ10における第1フランジ11よりも内側(図6図7の左側)に形成されている。具体的には、第2フランジ12は、後述する分岐部13を起点または分岐点にして、第1フランジ11から、第1フランジ11よりも接合フランジ10の内側(図6図7の左側)に分岐し、シリンダブロック1の下端1bに向かって延びるように形成されている。言い換えると、第2フランジ12は、接合フランジ10の外縁10aにおける分岐部13よりも接合フランジ10側の部分(すなわち、第1フランジ11を含まない部分)で外縁10aから分岐して、接合フランジ10の第1フランジ11よりも内側に延びるように形成されている。この第2フランジ12に、第2接合面12a、および、第2リブ12bが形成されている。
【0031】
第2接合面12aは、エンジンEGにトランスアクスルTAを連結する際に、図4に示すような、トランスアクスルTAのフランジ201の合わせ面201aに当接する。第2リブ12bは、第2フランジ12および第2接合面12aと一体に形成されている。すなわち、この第2リブ12bにおけるトランスアクスルTAの合わせ面201aに対向する端面が、上記の第2接合面12aになっている。そして、図7に示すように、第2リブ12bは、トランスアクスルTAの合わせ面201aに当接するラダーフレーム2の合わせ面2aに形成された横置き用リブ2cに連なるように形成されている。また、図7に示す例では、第2リブ12bは、第2接合面12a上で、すなわち、接合フランジ10の接合面(合わせ面)10b上で、ラダーフレーム2の横置き用リブ2cに連続するとともに、その横置き用リブ2cを介して、トランスアクスルTAの合わせ面201aに当接するオイルパン3の合わせ面3aに形成された横置き用リブ3cと連続するように形成されている。
【0032】
なお、エンジンEGが、図7に示すようなラダーフレーム2を用いない構成である場合、すなわち、エンジンEGが、シリンダブロック1、および、シリンダブロック1の下端1bに取り付けられるオイルパン(図示せず)によって構成される場合は、第2リブ12bは、トランスアクスルTAの合わせ面201aに当接する図示しないオイルパンの合わせ面に形成された横置き用リブ(図示せず)に連なるように形成される。
【0033】
分岐部13は、接合フランジ10の外縁10aの一部分に形成される第1フランジ11に対して、外縁10aにおける第1フランジ11の起点を規定する。言い換えると、分岐部13は、接合フランジ10の外縁10aにおける接合フランジ10と第1フランジ11との境界を規定する部分である。例えば、後述する切断面CPで切断される外縁10aの切断面(図示せず)を、この分岐部13と見なすことができる。
【0034】
ボルト締結用ボス14は、接合フランジ10にトランスミッションTMまたはトランスアクスルTAを組み付けて接合するためのボルト穴またはねじ穴を形成する部分であり、接合フランジ10の外縁10aにおける分岐部13よりも接合フランジ10側の位置(すなわち、第1フランジ11を含まない部分)に形成されている。図7に示す例では、ボルト締結用ボス14には、ボルト締結用のボルト穴14aが形成されている。また、ボルト締結用ボス14は、外縁10aおよび第1リブ11bならびに“縦置き用リブ”を介して、ラダーフレーム2またはオイルパン3に形成された“縦置き用ボス”とつながる位置で、かつ、外縁10aおよび第2リブ12bならびに“横置き用リブ”を介して、ラダーフレーム2またはオイルパン3に形成された“横置き用ボス”とつながる位置に形成されている。図7に示す例では、ボルト締結用ボス14は、上記のように外縁10aの第1フランジ11を含まない部分であって、外縁10aおよび第1リブ11bならびに縦置き用リブ2bを介して、オイルパン3に形成された縦置き用ボス3dとつながる位置で、かつ、外縁10aおよび第2リブ12bならびに横置き用リブ2c,3cを介して、オイルパン3に形成された横置き用ボス3eとつながる位置に形成されている。
【0035】
縦置き用ボス3dは、トランスミッションTMの合わせ面101aに当接するオイルパン3の合わせ面3aに、オイルパン3の縦置き用リブ3bと一体に形成されている。図7に示す例では、縦置き用ボス3dには、ボルト締結用のボルト穴3fが形成されている。また、図7に示す例では、ラダーフレーム2に、縦置き用ボス2dが形成されている。縦置き用ボス2dは、トランスミッションTMの合わせ面101aに当接するラダーフレーム2の合わせ面2aに、ラダーフレーム2の縦置き用リブ2bと一体に形成されている。図7に示す例では、縦置き用ボス2dには、ボルト締結用のボルト穴2eが形成されている。なお、図7では図示していないが、ラダーフレーム2の合わせ面2aに、横置き用リブ2cと一体の“横置き用ボス”が形成されていてもよい。
【0036】
横置き用ボス3eは、トランスアクスルTAの合わせ面201aに当接するオイルパン3の合わせ面3aに、オイルパン3の横置き用リブ3cと一体に形成されている。図7に示す例では、横置き用ボス3eには、ボルト締結用のボルト穴3gが形成されている。また、図7に示す例では、横置き用ボス3eには、上記の横置き用リブ3cと共に、縦置き用リブ3bが一体に形成されている。すなわち、オイルパン3の合わせ面3aでは、縦置き用ボス3dと横置き用ボス3eとが、縦置き用リブ3bによってつながれている。
【0037】
上記のようにして構成されるシリンダブロック1は、通常、アルミニウム合金または鋳鉄などを材料にして鋳造される。すなわち、図6に示すようなシリンダブロック1は、先ず、シリンダブロック1の粗材が鋳造され、そのシリンダブロック1の粗材を機械加工で仕上げることによって製造される。図6に示す形状のシリンダブロック1は、FR車両用の縦置きのエンジンEGを構成するシリンダブロック1であり、この場合は、上端1aおよび下端1b、ならびに、接合フランジ10の接合面10bや各ボルト穴2e,3f,3gなどが、従来と同様の鋳造後の粗材に、従来と同様の機械加工を施すことによって形成される。すなわち、トランスミッションTMを連結する縦置きのエンジンEGのシリンダブロック1は、従来通りの製造方法で、第1フランジ11および第2フランジ12を共に残したままの状態で形成される。
【0038】
そして、この発明の実施形態におけるシリンダブロック1は、上記のような従来の機械加工に加えて、第1フランジ11を切除する機械加工を施すことにより、トランスアクスルTAを連結する横置きのエンジンEGのシリンダブロック1を形成できる。具体的には、図6に示す切断面CPで、第1フランジ11を切り落とすことにより、図8図9に示すような、横置きのエンジンEGを構成するシリンダブロック1を形成することができる。切断面CPは、前述した分岐部13を含む平面であり、この切断面CPを境界にして、接合フランジ10の外縁10aにおける接合フランジ10の本体部分と、第1フランジ11の部分とが区分される。したがって、この図8図9に示す横置きのエンジンEGのシリンダブロック1は、上記の図6で示した縦置きのエンジンEGのシリンダブロック1と同じ粗材から形成することができる。なお、図6図8では、便宜上、切断面CPを二点鎖線で示してある。実際には、切断面CPは、第1フランジ11の第1接合面11aから回転軸線AL方向(図6図8の奥行き方向)に広がる平面である。また、図8図9において、上記の図6図7で示したシリンダブロック1、および、エンジンEGと構成や形状あるいは機能が同じ部材もしくは部品等については、図6図7で用いた参照符号と同じ参照符号を付けてある。
【0039】
図8図9に示す横置きのエンジンEGのシリンダブロック1では、上記のように、トランスミッションTMとの連結用の第1フランジ11を切除してあるので、この図8図9に示す横置きのエンジンEGのシリンダブロック1に、支障なく、トランスアクスルTAを連結することができる。すなわち、図6図7で示した形状のシリンダブロック1から、第2フランジ12を残して、第1フランジ11だけを切除することにより、トランスアクスルTAを連結する横置きのエンジンEGのシリンダブロック1を、容易に製造することができる。
【0040】
なお、図9では、縦置き用リブ2bおよび縦置き用ボス2dを有していない形状のラダーフレーム2、ならびに、縦置き用リブ3bおよび縦置き用ボス3dを有していない形状のオイルパン3を示してある。図9に示すラダーフレーム2は、上記の図7で示した形状のラダーフレーム2から、横置き用リブ2cを残して、縦置き用リブ2bおよび縦置き用ボス2dが形成されている部分を切除することによって製造することができる。また、図9に示すオイルパン3は、上記の図7で示した形状のオイルパン3から、横置き用リブ3cを残して、縦置き用リブ3bおよび縦置き用ボス3dが形成されている部分を切除することによって製造することができる。すなわち、図9に示すラダーフレーム2およびオイルパン3は、それぞれ、上述したような、この発明の実施形態におけるシリンダブロック1と同様の方法で、容易に製造することができる。したがって、前述の図7で示したような縦置きのエンジンEGと、この図9に示すような横置きのエンジンEGとで、ラダーフレーム2の粗材、および、オイルパン3の粗材を、それぞれ共用できる。あるいは、この図9に示すラダーフレーム2およびオイルパン3は、それぞれ、従来通り、横置きのエンジンEG専用の構成部材として製造してもよい。
【0041】
このように、この発明の実施形態におけるシリンダブロック1では、例えば、アルミニウム合金や鋳鉄を材料にして鋳造されるシリンダブロック1の粗材を機械加工することにより、横置きのエンジンEGのシリンダブロック1と、縦置きのエンジンEGのシリンダブロック1との両方を製造することができる。すなわち、縦置きのエンジンEGと、横置きのエンジンEGとで、シリンダブロック1の粗材を共用できる。そのような、縦置きのエンジンEGと、横置きのエンジンEGとの両方に適応可能なシリンダブロック1を構成することにより、FR車両用(縦置き)とFF車両用(横置き)とでエンジンEGを共用するために他部品や他部材を専用設計する必要性が少なくなる。したがって、この発明の実施形態におけるシリンダブロック1を用いることにより、他部品や他部材の専用設計に要するコストを増やすことなく、縦置きのエンジンEGと、横置きのエンジンEGとで、シリンダブロック1の粗材を共用できる。そのため、共通の金型および共通の鋳造設備を用いて、上記のような縦置きのエンジンEGおよび横置きのエンジンEGの両方に適用可能なシリンダブロック1の粗材を製造することができる。その結果、上記のような第1フランジ11を切除するための機械加工に要するコストを差し引いても、トータルで、大きなコストダウンの効果を得ることができる。
【0042】
また、この発明の実施形態におけるシリンダブロック1では、第1フランジ11の第1リブ11bが、図示しないオイルパンの合わせ面、または、図7に示すラダーフレーム2の合わせ面2aにおける縦置き用リブ2bと連続するように形成される。同様に、第2フランジ12の第2リブ12bが、図示しないオイルパンの合わせ面、または、図9に示すラダーフレーム2の合わせ面2aにおける横置き用リブ2cと連続するように形成される。そのため、この発明の実施形態におけるシリンダブロック1を適用してエンジンEGを構成する場合に、接合フランジ10には、第1リブ11bと縦置き用リブ2b、および、第2リブ12bと横置き用リブ2cの、それぞれ、連続する二つのリブが形成される。それらの二つのリブは、それぞれ、この発明の実施形態におけるシリンダブロック1を適用したエンジンEGに、トランスミッションTMを組み付ける場合、および、トランスアクスルTAを組み付ける場合に、接合フランジ10の補強リブあるいは補剛リブとして機能する。したがって、この発明の実施形態におけるシリンダブロック1を適用したエンジンEGの強度や剛性を、適切に、確保することができる。
【0043】
更に、この発明の実施形態におけるシリンダブロック1は、ボルト締結用ボス14と、オイルパン3の縦置き用ボス3dとが、上記の第1リブ11bおよび縦置き用リブ2bによってつながれ、ボルト締結用ボス14と横置き用ボス3eとが、上記の第2リブ12bおよび横置き用リブ2cによってつながれている。そのため、エンジンEGと、トランスミッションTMまたはトランスアクスルTAとをボルト締結して接合する際に、それぞれの接合面における強度や剛性を、適切に、確保することができる。
【0044】
したがって、この発明の実施形態における車両用エンジンのシリンダブロックによれば、縦置きのFR車両用のエンジンEGと、横置きのFF車両用のエンジンEGとで、容易に、シリンダブロック1の粗材を共用することができる。そのため、この発明の実施形態におけるシリンダブロック1を用いたエンジンEGを搭載する車両に対して、トータルで、大きなコストダウンを図ることができる。また、上記のようなシリンダブロック1の粗材を共用することによるコストダウンと、そのシリンダブロック1を用いたエンジンEGの強度および剛性を確保することとを、適切に、両立させることができる。
【符号の説明】
【0045】
1 シリンダブロック
1a (シリンダブロックの)上端
1b (シリンダブロックの)下端
2 ラダーフレーム
2a (ラダーフレームの)合わせ面
2b (ラダーフレームに形成された)縦置き用リブ
2c (ラダーフレームに形成された)横置き用リブ
2d (ラダーフレームに形成された)縦置き用ボス
2e (ラダーフレームの縦置き用ボスに形成された)ボルト穴
3 オイルパン
3a (オイルパンの)合わせ面
3b (オイルパンに形成された)縦置き用リブ
3c (オイルパンに形成された)横置き用リブ
3d (オイルパンに形成された)縦置き用ボス
3e (オイルパンに形成された)横置き用ボス
3f (オイルパンの縦置き用ボスに形成された)ボルト穴
3g (オイルパンの横置き用ボスに形成された)ボルト穴
10 接合フランジ
10a (接合フランジの)外縁
10b (接合フランジの)接合面(合わせ面)
11 第1フランジ
11a (第1フランジに形成された)第1接合面
11b (第1フランジに形成された)第1リブ
12 第2フランジ
12a (第2フランジに形成された)第2接合面
12b (第2フランジに形成された)第2リブ
13 分岐部
14 ボルト締結用ボス
14a (ボルト締結用ボスに形成された)ボルト穴
101 (トランスミッションの組み付け用の)フランジ
101a (トランスミッションのフランジの)合わせ面
102 フライホイール
201 (トランスアクスルの組み付け用の)フランジ
201a (トランスアクスルのフランジの)合わせ面
202 フライホイール
203 ドライブシャフト
204 (四輪駆動車両用の)トランスファ
205 (四輪駆動車両用の)プロペラシャフト
301 (従来形状の)シリンダブロック
302 (従来形状のシリンダブロックの)接合フランジ
303 (従来形状のシリンダブロックにおける接合フランジの)外縁
AL (トランスミッションの入力軸またはトランスアクスルの入力軸の)回転軸線
CP (第1フランジを切除する場合の)切断面
EG 車両用エンジン(エンジン)
TM (車両用エンジンに連結する)トランスミッション
TA (車両用エンジンに連結する)トランスアクスル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9