(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】ガラス母材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 8/04 20060101AFI20240514BHJP
C03B 20/00 20060101ALI20240514BHJP
C03B 37/014 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C03B8/04 R
C03B8/04 L
C03B20/00 E
C03B37/014 Z
(21)【出願番号】P 2021512126
(86)(22)【出願日】2020-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2020014629
(87)【国際公開番号】W WO2020203985
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2019071333
(32)【優先日】2019-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 正敏
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 真澄
(72)【発明者】
【氏名】小西 達也
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-193279(JP,A)
【文献】特開2018-203576(JP,A)
【文献】国際公開第2019/225637(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B8/04
C03B20/00
C03B37/014-37/018
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面におけるガラス微粒子のpHが5.5以上8.5未満であるガラス微粒子堆積体を加熱して透明なガラス母材を製造する透明化工程を有する、ガラス母材の製造方法であって、
前記堆積体の表面を分光測色計でSCI方式により測定し、白色校正板を基準とした色差ΔE*abが5以上であるか否かを判断する判定工程を有し、前記色差ΔE*abが5以上である場合は、前記堆積体を酸素含有量が10体積%以上の酸素含有雰囲気下で前記透明化工程よりも低い温度で加熱した後、前記透明化工程を行い、
前記色差ΔE*abが5未満である場合は、前記酸素含有雰囲気下で加熱を行わず、前記透明化工程を行う、
ガラス母材の製造方法。
【請求項2】
前記酸素含有雰囲気下での加熱温度が500℃以上1100℃以下の範囲である請求項
1に記載のガラス母材の製造方法。
【請求項3】
前記酸素含有雰囲気下での加熱時間が1時間以上8時間以下の範囲である請求項
1又は請求項
2に記載のガラス母材の製造方法。
【請求項4】
前記酸素含有雰囲気下の酸素含有量が20体積%以上100体積%以下の範囲である請求項
1から請求項
3のいずれか1項に記載のガラス母材の製造方法。
【請求項5】
前記酸素含有雰囲気が空気雰囲気である請求項
4に記載のガラス母材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガラス微粒子堆積体及びガラス母材の製造方法に関する。
本出願は、2019年4月3日出願の日本国特許出願第2019-71333号に基づく優先権を主張し、当該出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ガラス合成用原料としてシロキサンを用いてガラス微粒子堆積体を製造し、当該製造したガラス微粒子堆積体を加熱して透明なガラス母材を製造する透明化工程を有するガラス母材の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示のガラス母材の製造方法は、
表面におけるガラス微粒子のpHが5.5以上8.5未満であるガラス微粒子堆積体を加熱して透明なガラス母材を製造する透明化工程を有する、ガラス母材の製造方法であって、
前記堆積体の表面を分光測色計でSCI方式により測定し、白色校正板を基準とした色差ΔE*abが5以上であるか否かを判断する判定工程を有し、前記色差ΔE*abが5以上である場合は、前記堆積体を酸素含有量が10体積%以上の雰囲気下で前記透明化工程よりも低い温度で加熱(以下、「酸化加熱工程」とも称する)した後、前記透明化工程を行い、
前記色差ΔE*abが5未満である場合は、前記の酸素含有雰囲気下で加熱を行わず、前記透明化工程を行う。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、本開示の一態様に係るガラス微粒子堆積体を製造する装置の一形態を示す構成図である。
【
図2】
図2は、本開示の一態様に係るガラス母材の製造方法の酸化加熱工程及び透明化工程を実施する装置の一形態を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
特許文献1に記載のような方法で、ガラス合成用原料としてシロキサンを用いてガラス微粒子堆積体を製造した場合、堆積したガラス微粒子の一部が黒色化して見えることがあった。この黒色化して見えるガラス微粒子(以下、「黒色ガラス微粒子」とも称する)を含むガラス微粒子堆積体を加熱・焼結して、透明なガラス母材を製造しようとした場合、得られたガラス母材に気泡が生じることがあった。光ファイバ用に製造したガラス母材に気泡があると、その後の線引き工程で断線したり、光ファイバ内に空洞が出来たりする。そのため、気泡が生じていた部分は廃却することになり、歩留まりが低下する。
【0007】
ガラス微粒子の主成分である二酸化ケイ素(SiO2)は白色であるため、100%の純度のSiO2であれば、ガラス微粒子も白色になる。一方、一酸化ケイ素(SiO)は褐色や黒色である。このことから、ガラス原料としてシロキサンを用いた場合、生成されるガラス微粒子が黒色化して見えるのは、副生された酸化不足の酸化ケイ素(SiOx,X<2)が含まれていることによるものと推測される。なお、黒色化して見えるガラス微粒子堆積体は、特定のガラス微粒子のみが黒色化して見え、それが白色のガラス微粒子と混在しているわけではなく、酸化不足の酸化ケイ素が含まれていることで、色の濃淡はあるものの、全てのガラス微粒子が黒色化して見えているものと考えられる。このように、黒色ガラス微粒子を含む堆積体を加熱・焼結して得られるガラス母材に気泡が生じるのは、この酸化不足の酸化ケイ素が含まれているためと考えられる。
【0008】
なお、ガラス原料としてシロキサンを用いて作製されるガラス微粒子堆積体に含まれるガラス微粒子が必ずしも全て黒色化するわけではなく、中には、全く黒色化しないものや、黒色化しても非常に僅かな程度のものもある。そのようなガラス微粒子を含む堆積体は、そのまま後段の透明化工程を行っても、得られるガラス母材中にほとんど気泡が生じなかった。
【0009】
本開示は、ガラス合成用原料としてシロキサンを用いた場合において、後の透明化工程を行っても得られるガラス母材に気泡が生じる恐れが少ないガラス微粒子堆積体を提供する。
さらに、本開示は、ガラス合成用原料としてシロキサンを用いてガラス微粒子堆積体を製造した場合でも、後の工程で得られるガラス母材に気泡が生じる恐れが少ない、ガラス母材の製造方法を提供する。
【0010】
[本開示の効果]
本開示によれば、ガラス合成用原料としてシロキサンを用いてガラス微粒子堆積体を製造した場合でも、気泡が少ないガラス母材を製造することができる。
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
【0012】
本開示の一態様に係るガラス母材の製造方法は、
(1)表面におけるガラス微粒子のpHが5.5以上8.5未満であるガラス微粒子堆積体を加熱して透明なガラス母材を製造する透明化工程を有する、ガラス母材の製造方法であって、
前記堆積体の表面を分光測色計でSCI方式により測定し、白色校正板を基準とした色差ΔE*abが5以上であるか否かを判断する判定工程を有し、前記色差ΔE*abが5以上である場合は、前記堆積体を酸素含有量が10体積%以上の雰囲気下で前記透明化工程よりも低い温度で加熱した後、前記透明化工程を行い、
前記色差ΔE*abが5未満である場合は、前記の酸素含有雰囲気下で加熱を行わず、前記透明化工程を行う。
この構成によれば、色差ΔE*abが5以上である場合に酸素含有雰囲気下で加熱を行うことで、酸化不足の酸化ケイ素を酸化させて二酸化ケイ素にすることができるので、気泡が少ないガラス母材を効率良く製造することができる。
【0013】
(2)前記酸素含有雰囲気下での加熱温度が500℃以上1100℃以下の範囲であることが好ましい。
この構成によれば、色差ΔE*abが5以上であるガラス微粒子を、適切な時間内で、色差ΔE*abが5未満のものとし、気泡が少ないガラス母材をより効率良く製造することができる。
(3)前記酸素含有雰囲気下での加熱時間が1時間以上8時間以下の範囲であることが好ましい。
この構成によれば、色差ΔE*abが5以上であるガラス微粒子を、適切な加熱量で、色差ΔE*abが5未満のものとし、気泡が少ないガラス母材をより効率良く製造することができる。
(4)前記酸素含有雰囲気下の酸素含有量が20体積%以上100体積%以下の範囲であることが好ましい。
この構成によれば、色差ΔE*abが5以上であるガラス微粒子を、適切な時間内、適切な加熱量で、色差ΔE*abが5未満のものとし、気泡が少ないガラス母材をより効率良く製造することができる。
(5)前記酸素含有雰囲気が空気雰囲気であることが好ましい。
この構成によれば、酸素濃度調整設備、重厚な防火・防爆設備等が不要な、簡易な設備での実施が可能となる。
【0014】
[本開示の実施形態の詳細]
(使用装置の概要等)
以下、本開示の実施形態に係るガラス微粒子堆積体及びガラス母材の製造方法の実施形態の例を添付図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は、本実施形態のガラス微粒子堆積体を製造する装置(以下、「ガラス微粒子堆積体製造装置」または「堆積体製造装置」とも称する)1の構成図である。堆積体製造装置1は、反応容器2と、昇降回転装置3と、原料供給装置21と、ガラス微粒子生成用のバーナ22と、各部の動作を制御する制御部5と、を備えている。
【0016】
反応容器2は、ガラス微粒子堆積体Mが形成される容器である。反応容器2は、容器の側面に取り付けられた排気管12を備えている。
【0017】
昇降回転装置3は、支持棒10および出発ロッド11を介してガラス微粒子堆積体Mを昇降動作、および回転動作させる装置である。昇降回転装置3は、制御部5から送信されてくる制御信号に基づいてガラス微粒子堆積体Mを昇降及び回転させる。
【0018】
支持棒10は、反応容器2の上壁に形成された貫通穴を挿通して配置されている。支持棒10の反応容器2内に配置される一方の端部(
図1において下端部)には、出発ロッド11が取り付けられている。支持棒10の他方の端部(
図1において上端部)は、昇降回転装置3により把持されている。
【0019】
出発ロッド11は、ガラス微粒子が堆積されるロッドである。出発ロッド11は、支持棒10に取り付けられている。
【0020】
排気管12は、出発ロッド11およびガラス微粒子堆積体Mに付着しなかったガラス微粒子を反応容器2の外部に排出する管である。
【0021】
バーナ22には、原料供給装置21内で気化させた原料ガス23が供給される。なお、
図1において、火炎形成用ガスを供給するガス供給装置は省略されている。
原料供給装置21は、液体原料23Aを気化する気化容器24と、原料ガス23のガス流量を制御するMFC(Mass Flow Controller)25と、原料ガス23をバーナ22へ導く供給配管26と、気化容器24とMFC25と供給配管26の一部を温度制御する温調ブース27と、を備えている。液体原料23Aはシロキサンである。
【0022】
MFC25は、バーナ22から出射される原料ガス23を供給配管26を介してバーナ22へ供給する装置である。MFC25は、制御部5から送信されてくる制御信号に基づいてバーナ22へ供給する原料ガス23の供給量の制御を行なっている。
【0023】
供給配管26は、原料ガス23をバーナ22へ導く配管である。供給配管26の温度を高温に保持するために、供給配管26の外周およびバーナ22の外周の一部には、発熱体であるテープヒータ28が巻き付けられることが好ましい。このテープヒータ28が通電されることで供給配管26やバーナ22が加熱され、バーナ22から出射される原料ガス23の温度を、気化した原料ガスが凝縮しない温度に上昇させることができる。例えば液体原料23Aがオクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)であれば、OMCTSの標準沸点175℃より高い、175℃以上200℃以下の温度に上昇させればよい。
【0024】
バーナ22は、原料ガス23を火炎中において酸化反応させることでガラス微粒子30を生成し、生成されたガラス微粒子30を出発ロッド11に噴きつけて堆積させる。ガラス原料や火炎形成ガスを噴出するためのバーナ22として、例えば、円筒形のマルチノズル構造のものやあるいは線状のマルチノズル構造のものが用いられる。
【0025】
制御部5は、昇降回転装置3、原料供給装置21等の各動作を制御している。制御部5は、昇降回転装置3に対して、ガラス微粒子堆積体Mの昇降速度および回転速度を制御する制御信号を送信している。また、制御部5は、原料供給装置21のMFC25に対して、バーナ22から出射する原料ガス23の流量を制御する制御信号を送信している。
【0026】
図2は、本実施形態のガラス母材の製造方法における、堆積工程で作製されたガラス微粒子堆積体Mを、酸素含有雰囲気下で加熱する工程(酸化加熱工程)と透明化工程とを実施する装置(以下、「加熱・焼結装置」とも称する)100の構成図である。
【0027】
加熱・焼結装置100は、上蓋102を有する炉心管104と、炉心管104の周囲に配置された加熱ヒータ106と、を備えている。
また、加熱・焼結装置100は、ガラス微粒子堆積体Mを下端に把持し炉心管104内に挿入するための支持棒108と、支持棒108とともにガラス微粒子堆積体Mを回転させながら降下させる昇降回転装置110と、を備えている。
また、加熱・焼結装置100は、炉心管104の下端に酸素含有ガスやHeガスを供給するガス導入管112を備え、炉心管104の上方に排気管114を備えている。
【0028】
次に、本実施形態のガラス微粒子堆積体を製造する方法、製造されたガラス微粒子堆積体とその白色度の判定、及び前記ガラス微粒子堆積体を用いたガラス母材の製造方法の手順について説明する。
(堆積工程)
OVD法(外付け法)によってガラス微粒子の堆積を行い、ガラス微粒子堆積体Mを製造する。先ず、
図1に示すように、昇降回転装置3に支持棒10を取り付け、さらに支持棒10の下端部に出発ロッド11を取り付けた状態で、出発ロッド11および支持棒10の一部を反応容器2内に納める。
【0029】
続いて、MFC25は、制御部5から送信されてくる制御信号に基づき、供給量を制御しながら、シロキサンを気化させた原料ガス23をバーナ22に供給する。
【0030】
バーナ22に、原料ガス23、および酸水素ガス(火炎形成ガス)を供給し、原料ガス23を酸水素火炎内で酸化反応させることでガラス微粒子30を生成する。
【0031】
そして、バーナ22は、火炎内で生成したガラス微粒子30を回転および昇降する出発ロッド11に継続的に堆積させていく。
【0032】
昇降回転装置3は、制御部5からの制御信号に基づいて、出発ロッド11および出発ロッド11に堆積されたガラス微粒子堆積体Mを昇降及び回転させる。
【0033】
本実施形態において使用するガラス原料としては、シロキサンであれば特に限定されないが、シロキサンの中でも、工業的に容易に入手でき、保管や取扱いも容易である点で、環状のものが好ましく、そのなかでもOMCTSがより好ましい。
なお、ガラス原料としてシロキサンではなく、四塩化ケイ素(SiCl4)を用いた場合には、黒色ガラス微粒子の生成がなく、そのため、後述の酸化加熱工程は不要となる。
また、ガラス原料としてシロキサンではなくSiCl4を用いた場合、堆積されたガラス微粒子堆積体Mには、生成の過程で塩酸が含まれることになるため、酸性(pH=3程度)となる。これに対して、本実施形態のガラス微粒子堆積体は、製造におけるガラス原料としてSiCl4ではなくシロキサンを用いているため、生成の過程で塩酸は発生せず、ほぼ中性(pH=7)になる。
なお、コア部のガラス微粒子の堆積では、GeCl4やSiCl4を用いることもあり、この場合は、ガラス微粒子堆積層内部に塩酸が含まれることになるが、コア部外側のジャケット部にガラス微粒子を堆積させる際に、SiCl4を用いずにシロキサンを用いれば、ガラス微粒子堆積体の表面においては、塩酸が含まれず、ほぼ中性になる。
【0034】
なお、上記に示す堆積工程としては、OVD(Outside Vapor Deposition)法を例に説明したが、本開示はOVD法に限定されるものではない。OVD法と同様にガラス原料から火炎熱分解反応を利用してガラスを堆積させる方法、例えば、VAD法(Vapor-phase Axial Deposition)、MMD(Multiburner Multilayer Deposition)法等に本開示を適用することも可能である。
また、上記に示す堆積工程としては、液体のガラス原料をガス化してバーナ22に供給する態様について具体的に示したが、液体原料をガス化しないでバーナ22に供給し、バーナ22から液体噴霧状態で噴出させる態様を採っても良い。
【0035】
(判定工程)
次に判定工程について説明する。
前記の堆積工程で作製されたガラス微粒子堆積体Mは、大部分が、黒色ガラス微粒子を含んでいたが、中には、黒色ガラス微粒子を含まない白色度の高いものもあった。
前述の通り、黒色ガラス微粒子を含むガラス微粒子堆積体Mをそのまま透明化工程に供すると、得られたガラス母材に気泡が生じ、それに伴い不都合な事象をもたらしていた。しかし、白色度の高いガラス微粒子堆積体Mは、そのまま、後述の、透明化工程に供することができる。また、黒色ガラス微粒子を含むガラス微粒子堆積体Mも後述の酸化加熱工程により、白色度の高いものとすることができ、その後に、後述の透明化工程に供することができる。
【0036】
しかし、ガラス微粒子堆積体Mの白色度がどの程度であれば、後述の透明化工程に供することを許容できるのか、明確な基準がなかった。
そこで、本発明者らは鋭意検討の結果、ガラス微粒子堆積体Mの表面を分光測色計でSCI方式により測定した時の白色校正板を基準とした色差ΔE*abが0.5以上5未満である場合に、後述の透明化工程に供しても、得られたガラス母材に気泡が生じにくいことを見出し、判定工程における、判定基準とした。
すなわち、判定工程においては、白色校正板を基準とした色差ΔE*abが5以上であるか否かを判断し、色差ΔE*abが5以上である場合は、後述するように、酸素含有の雰囲気下で透明化工程よりも低い温度で加熱した後、透明化工程を行い、色差ΔE*abが5未満である場合は、酸素含有雰囲気下で加熱を行わず、透明化工程を行う。
なお、判定工程の基準値として用いる前記色差ΔE*abは3以下としても良い。3以下とすれば、より気泡を生じ難くすることができる。
【0037】
(酸化加熱工程)
前記の堆積工程で作製したガラス微粒子堆積体Mの前記色差ΔE*abが5以上の場合は、酸素含有雰囲気下で加熱する。
図2に示すように、ガラス微粒子堆積体Mは、出発ロッド11の上端部を、支持棒108の下部に固定して、昇降回転装置110により上下方向に移動可能に吊り下げ支持され、加熱・焼結装置100に入れられる。
本酸化加熱工程においては、炉心管104内の酸素含有量が適切になるように装置100のガス導入管112から酸素含有ガスを適切な流量で供給する。
この時、前記酸素含有雰囲気としては、酸素含有量が10体積%以上の雰囲気であればよく、好ましくは、酸素含有量が20体積%以上100体積%以下の雰囲気である。酸素含有量が10体積%以上の雰囲気の、具体的かつ好ましい例としては、空気雰囲気である。空気は、酸素を必要以上に多量に含まないため、加熱、引火による爆発的燃焼が生じることなく、取り扱いが容易で、コスト面でも有利である。
【0038】
本酸化加熱工程を実施する装置は、後述の透明化工程を実施する装置と同じものを用いてもよく、また、本酸化加熱工程と、後述の透明化工程とで、別々の装置を用いてもよい。
但し、本酸化加熱工程を実施する装置100は、炉心管104の材質が、石英、セラミックなどのカーボン以外のものを使用しなければならない。炉心管104の材質がカーボンであると、炉心管104自体が燃焼して損傷を受けることになる。
【0039】
また、酸素含有雰囲気を空気雰囲気とする場合には、装置100においてガス導入管112及び排気管114を備えることなく、炉心管104の一部を開放状態にした構造のものを用いることもできる。但し、この場合は、該装置100を、後述の透明化工程に使用することはできない。
【0040】
本酸化加熱工程においては、ガラス微粒子堆積体Mの酸素含有雰囲気下での加熱温度は、後述の透明化工程よりも低い温度で、かつ、黒色ガラス微粒子の酸化が達成される温度であれば特に限定されない。該温度は、具体的には、500℃以上1100℃以下の範囲が好ましく、より好ましくは600℃以上1100℃以下の範囲であり、さらに好ましくは700℃以上1100℃以下の範囲である。
該温度が1100℃以下であればガラス微粒子堆積体Mがガラス化することがなく、該温度が500℃以上であれば黒色ガラス微粒子が十分に酸化されるという点で好ましい。
【0041】
また、加熱時間は、黒色ガラス微粒子の酸化が達成される条件であれば、特に限定されない。加熱時間は、上記加熱温度や、ガラス微粒子堆積体M及び炉心管104のサイズによって適宜設定されるべきである。
一般的に加熱温度が高くなれば、加熱時間を短くすることができ、加熱温度が低くなれば、加熱時間を長くする必要がある。また、ガラス微粒子堆積体M及び炉心管104のサイズが大きければ、温度を高く、または、時間を長くする必要があり、該サイズが小さければ、温度を低く、または、時間を短くすることができる。
該加熱時間は、温度が上記の範囲であれば、具体的には、1時間以上8時間以下の範囲が好ましく、より好ましくは2時間以上7時間以下の範囲であり、さらに好ましくは3時間以上6時間以下の範囲である。
該加熱時間が8時間以下であれば製造時間が掛かりすぎることはなく、生産性が低下しないという点で好ましい。また、該加熱時間が1時間以上であれば黒色ガラス微粒子が十分に酸化されるという点で好ましい。
【0042】
上記の工程により、前記色差ΔE*abが5以上のガラス微粒子堆積体Mを、前記色差ΔE*abが5未満のものとすることができる。
【0043】
(透明化工程)
前記の堆積工程で作製され、前記色差ΔE*abが5未満であったガラス微粒子堆積体M、及び前記の酸化加熱工程で前記色差ΔE*abを5未満にしたガラス微粒子堆積体Mを、前記の酸化加熱工程よりもさらに高い温度で加熱することにより、脱水、焼結して堆積体を透明化する。
前記の酸化加熱工程と同様、
図2に示すように、ガラス微粒子堆積体Mは、出発ロッド11の上端部を、支持棒108の下部に固定して、昇降回転装置110により上下方向に移動可能に吊り下げ支持され、装置100に入れられる。
本透明化工程を実施する装置として、前述の酸化加熱工程を実施する装置と同じものを用いる場合は、そのまま、酸化加熱工程終了後、本透明化工程に移行する。
【0044】
装置100において、ガス導入管112からは、例えば塩素ガス(Cl2)とヘリウムガス(He)との混合ガスが炉心管104内に導入される。炉心管104内の温度を、例えば1000℃以上1350℃以下(好ましくは、1100℃以上1250℃以下)の温度範囲に保持させ、ガラス微粒子堆積体Mを所定の速度で下方に移動させる。ガラス微粒子堆積体Mが最終の下端位置に到達した時点で、脱水処理が終了する。
【0045】
次いで、ガラス微粒子堆積体Mを上方に引き上げ、スタート位置に戻す。炉心管内温度を、例えば1400℃以上1600℃以下に昇温させると同時に、例えば特定比率の塩素ガス(Cl2)とヘリウムガス(He)、または、ヘリウムガス(He)のみをガス導入管112から導入する。ガラス微粒子堆積体Mを、再度、所定の速度で下方に移動させ、最終の下端位置に到達した時点で、ガラスの透明化が終了し、ガラス母材が得られる。
【0046】
(作用効果)
以上説明した実施形態のガラス微粒子堆積体Mは、特定の白色度を有するため、黒色ガラス微粒子量が極めて少ないものと推測される。そして、後の透明化工程で得られるガラス母材に、前記黒色ガラス微粒子に由来すると推測される気泡を生じにくくすることができる。
また、以上説明した実施形態の方法では、堆積工程により作製したガラス微粒子堆積体Mを判定する工程を設けることで、そのまま透明化工程に供しても問題ないかを簡易に判別することができる。そして、そのまま後の透明化工程に供することが許容できないと判断された場合でも、酸化加熱工程によりガラス微粒子堆積体Mを白色化することができる。これは、酸化加熱工程により黒色ガラス微粒子が酸化されるためと推測される。
【実施例】
【0047】
以下、本開示に係る実施例及び比較例を用いた評価試験の結果を示し、本開示をさらに詳細に説明する。なお、本開示はこれら実施例に限定されるものではない。
【0048】
(ガラス微粒子堆積体の白色度の許容性)
図1に示す製造装置1を使用してOVD法によってガラス微粒子の堆積、すなわちガラス微粒子堆積体Mの製造を行った(堆積工程)。
出発ロッド11として純石英ガラスを用いた。
反応容器2内に出発ロッド11とガラス微粒子生成用バーナ22を配置し、バーナ22にガラス原料としてOMCTSをガス状で導入した。バーナ22が形成する火炎内でOMCTSを酸化反応させてガラス微粒子を生成し、生成したガラス微粒子30を出発ロッド11に堆積させてガラス微粒子堆積体Mを作製した。
【0049】
この時、OMCTSガス及び火炎形成用ガスのバーナ22への供給量等を適宜調整することにより、複数のガラス微粒子堆積体Mを作製した。
作製した上記の複数のガラス微粒子堆積体Mについて、それぞれ、表面を分光測色計(コニカミノルタ株式会社製、CM-700d)でSCI方式により測定し、白色校正板を基準とした色差ΔE*abを観て、ΔE*abが、3.0、4.0、4.8、5.2、6.0、7.0 のものを選択した。
また、表面のガラス微粒子を1g秤量し、10mlの水で1時間攪拌した後にろ過をし、本ろ液のpHをガラス電極法により測定した(装置名:堀場製作所製 pHメーター F-52)。なお、pHの測定は、ISO-787-9に則り、4%分散液(重量%)に対して測定した。その結果、pHは5.8であった。なお、この場合、pH=7(中性)にはなっていないが、これは、CO2などが溶け込んで、若干酸性に振れたものと考えられる。
【0050】
次いで、
図2に示す装置100を使用して、上記の選択された堆積体Mを加熱して透明ガラス化を行った(透明化工程)。
選択されたガラス微粒子堆積体Mを加熱し、装置100のガス導入管112からHeガスと塩素ガスを導入し、1100℃に加熱した後、装置100のガス導入管112からHeガスを供給しながら、加熱ヒータ106で炉心管104内が1550℃になるように加熱し、透明化した。
上記の操作により、製造されたガラス母材について、気泡の有無等の評価を行ったところ、下記表1に示す通りであった。
【0051】
なお、気泡の評価では、ガラス母材の側面からハロゲンランプ光を照射し、目視にてガラス母材内部を観察し、大きさ1mm以上の気泡の数を計測し、線引きした際の換算長100kmあたりのガラス母材に含まれる気泡の数で評価した。
なお、下記表1中、No.1~3が実施例で、No.4~6が比較例である。
【0052】
【0053】
上記表1のNo.1~3より、ΔE*ab値が5未満のものは、そのまま透明化工程を行っても、得られるガラス母材の気泡発生量は少なかった。ΔE*ab値が3以下のものは、得られるガラス母材の気泡発生量はさらに少ないものであった。これに対して、No.4~6のΔE*ab値が5以上のものは、そのまま透明化工程を行った場合、得られるガラス母材の気泡発生量が多くなり、ΔE*ab値が大きくなるほど、気泡発生量が多くなっていた。
【0054】
(ΔE*ab値が5以上の堆積体Mの酸化加熱工程)
ΔE*ab値が5以上の堆積体Mを、
図2に示す装置100を使用して、酸素含有雰囲気(空気雰囲気)下で前記透明化工程よりも低い温度で加熱した(酸化加熱工程)。
具体的には、ΔE*ab値が6.0の堆積体Mを、装置100に取付け、ガス導入管112から空気を10slm(0℃、1atmにおける1分間当たりの流量)の流速で供給しながら、加熱ヒータ106で炉心管104内が所定の温度になるように加熱し、該加熱を1時間継続した。
なお、ΔE*ab値が6のガラス微粒子堆積体Mは、同じ条件で6検体作成し、その1つずつをそれぞれ1つの装置100に取付け、各装置100において、前記炉心管104内の温度が、それぞれ500℃、600℃、700℃、800℃、900℃になるように加熱した。なお、6検体のうちの1つは酸化加熱を行わないものとした。各温度で酸化加熱した後のガラス微粒子堆積体MのΔE*abを観た。結果を下記表2に示す。
【0055】
さらに同装置で、前述と同様の透明化工程を行った。
製造されたガラス母材について、気泡の有無等の評価を前述と同様に行ったところ、下記表2に示す通りであった。
なお、下記表2中、No.11~15が実施例で、No.16が比較例である。
【0056】
【0057】
上記表1のNo.11~15より、酸化加熱工程における加熱温度が高いほど、酸化加熱工程後の堆積体Mの表面のΔE*ab値は小さくなり、得られるガラス母材の気泡発生量も少なくなった。これに対して、No.16の酸化加熱工程を行わなかったものは、堆積体Mの表面のΔE*ab値は大きく、ガラス母材に気泡が発生していた。
【0058】
以上、本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。また、上記説明した構成部材の数、位置、形状等は上記実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好適な数、位置、形状等に変更することができる。
【符号の説明】
【0059】
1:堆積体製造装置
2:反応容器
3:昇降回転装置
5:制御部
10:支持棒
11:出発ロッド
12:排気管
21:原料供給装置
22:バーナ
23:原料ガス
23A:液体原料
24:気化容器
25:MFC
26:供給配管
27:温調ブース
28:テープヒータ
30:ガラス微粒子
100:加熱・焼結装置
102:上蓋
104:炉心管
106:加熱ヒータ
108:支持棒
110:昇降回転装置
112:ガス導入管
114:排気管
M:ガラス微粒子堆積体