(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】組み換えベクター及び形質転換体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/63 20060101AFI20240514BHJP
C12N 15/53 20060101ALI20240514BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240514BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240514BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240514BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C12N15/63 Z ZNA
C12N15/53
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
(21)【出願番号】P 2023075268
(22)【出願日】2023-04-28
(62)【分割の表示】P 2019568969の分割
【原出願日】2019-01-11
【審査請求日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2018014185
(32)【優先日】2018-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤井 政郎
【審査官】松村 真里
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-003920(JP,A)
【文献】国際公開第2012/111810(WO,A1)
【文献】特開2007-159417(JP,A)
【文献】PNAS,2008年09月30日,Vol.105, No.39,p.15094-15099
【文献】Journal of Bacteriology,1993年10月,Vol.175, No.19,p.6276-6286
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1の塩基配列又は前記配列番号1の塩基配列と95%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNA断片
であって、形質転換した場合に、窒素固定の表現型を示すDNA断片を含む組み換えベクター。
【請求項2】
前記配列番号1の塩基配列と95%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNA断片を含み、窒素固定酵素をコードする、請求項1記載の組み換えベクター。
【請求項3】
請求項1に記載の組み換えベクターにより形質転換された形質転換体。
【請求項4】
前記配列番号1の塩基配列からなるDNA断片を含む、請求項1記載の組み換えベクター。
【請求項5】
請求項4に記載の組み換えベクターにより形質転換された形質転換体。
【請求項6】
前記配列番号1の塩基配列と98%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNA断片を含み、窒素固定酵素をコードする、請求項1記載の組み換えベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素固定酵素をコードする組み換えベクター及び当該組み換えベクターにより形質転換した形質転換体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、大腸菌は、窒素源(塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム等)なしの培地では生育が阻害されるため、その増殖には窒素源を培地に添加することが必要とされている。
【0003】
窒素固定の方法としては、従来のハーバーボッシュ法のほかに、ニトロゲナーゼを用いた酵素法がある。この方法によれば、常温常圧の環境下で大気中の窒素をアンモニアとして固定化することができるため、ニトロゲナーゼ存在下においては、上記窒素源の添加を不要とすることができる。
【0004】
一方、上記ニトロゲナーゼは、V又はMoを含む金属酵素である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-136972号公報(段落〔0006、0007〕)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、二トロゲナーゼを導入した大腸菌を用いて窒素固定を行なう場合には活性中心としてのVやMoの金属元素が不足するので、二トロゲナーゼを導入した大腸菌が窒素源を含まない培地で増殖するには、VやMoの金属元素の添加が必須となる。
【0007】
本発明の目的は、大腸菌の増殖に必要とされている窒素源の培地への添加を不要とすることができる窒素固定酵素をコードする組み換えベクター及び当該組み換えベクターにより形質転換した形質転換体を提供することである。
【0008】
また、本発明の別の目的は、VやMoといった金属元素を培地に添加することなく大腸菌の増殖を可能とする窒素固定酵素をコードする組み換えベクター及び当該組み換えベクターにより形質転換した形質転換体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施の形態により、下記[1]~[8]の組み換えベクター及び形質転換体が提供される。
【0010】
[1]配列番号1の塩基配列又は前記配列番号1の塩基配列と95%以上の同一性を有する塩基配列を備えた組み換えベクター。
[2]配列番号2~10,14,17,18,25,又は26の塩基配列のいずれか1つを備え、窒素固定酵素をコードする組み換えベクター。
[3]前記配列番号1の塩基配列と95%以上の同一性を有する塩基配列を備え、窒素固定酵素をコードする、[1]の組み換えベクター。
[4][1]の組み換えベクターにより形質転換された形質転換体。
[5]前記配列番号1の塩基配列を備えた、[1]の組み換えベクター。
[6][5]の組み換えベクターにより形質転換された形質転換体。
[7]前記配列番号1の塩基配列と98%以上の同一性を有する塩基配列を備え、窒素固定酵素をコードする、[1]の組み換えベクター。
[8][2]の組み換えベクターにより形質転換された形質転換体。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施の形態によると、大腸菌の増殖に必要とされている窒素源の培地への添加を不要とすることができる窒素固定酵素をコードする組み換えベクター及び当該組み換えベクターにより形質転換した形質転換体を提供することができる。
【0012】
また、本発明の一実施の形態によると、VやMoといった金属元素を培地に添加することなく大腸菌の増殖を可能とする窒素固定酵素をコードする組み換えベクター及び当該組み換えベクターにより形質転換した形質転換体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係るDNA断片のゲノムDNAにおける位置とDNA断片に含まれる32個のオープンリーディングフレームを示す説明図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態に係るDNA断片のフォスミドベクターへの組み込み位置を示す説明図である。
【
図3】
図3は、実施例における窒素固定能力の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔DNA断片〕
図1は、本発明の実施の形態に係るDNA断片のゲノムDNAにおける位置とDNA断片に含まれる32個のオープンリーディングフレームを示す説明図である。
【0015】
本発明の実施の形態に係るDNA断片2は、窒素固定酵素をコードする、配列番号1の塩基配列又は配列番号1と50%以上の同一性を有する塩基配列を備える。なお、本発明の実施の形態において、窒素固定酵素とは、大腸菌の増殖に必要とされている窒素源の培地への添加を不要とすることができる窒素固定酵素、又はVやMoといったニトロゲナーゼに必要とされる金属元素を培地に添加することなく大腸菌の増殖を可能とする窒素固定酵素を意味する。より望ましい本発明の実施形態においては、藻類や植物といった酸素を発生する光合成生物内で機能することができる窒素固定酵素を意味する。
【0016】
配列番号1の塩基配列を備えたDNA断片(
図1の符号2)は、例えば、シアノバクテリア(藍藻ともいう。)のゲノムDNA(
図1の符号1)由来である(2982634番目から3013880番目までの31247個の塩基配列)。シアノバクテリアとしては、例えば、Cyanothece sp. ATCC 51142が挙げられる。Cyanothece sp. ATCC 51142は、例えば、The American Type Culture Collection (ATCC)から入手できる。
【0017】
窒素固定酵素をコードする塩基配列は、配列番号1と50%以上の同一性を有する塩基配列であってもよい。好ましくは配列番号1と60%以上の同一性を有する塩基配列であり、より好ましくは配列番号1と70%以上の同一性を有する塩基配列であり、更に好ましくは配列番号1と80%以上の同一性を有する塩基配列であり、更に好ましくは配列番号1と90%以上の同一性を有する塩基配列であり、更に好ましくは配列番号1と95%以上の同一性を有する塩基配列であり、更に好ましくは配列番号1と98%以上の同一性を有する塩基配列である。
【0018】
なお、配列番号1の塩基配列又は配列番号1と50%以上の同一性を有する塩基配列を備えるDNA断片は、遺伝子工学的手法により人工的に合成したものであってもよい。
【0019】
本発明の実施の形態に係るDNA断片は、窒素固定酵素をコードする、配列番号2~33の塩基配列のいずれか1つ以上を備える。配列番号2~33の塩基配列は、それぞれ
図1に示すオープンリーディングフレーム(遺伝子ID:cce_2943~cce_2974)に相当する。なお、遺伝子IDとは、例えば、CyanoBase([genome.microbedb.jp/cyanobase/])、又はKEGG, Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes([http://www.genome.jp/kegg/])で定義されている。
【0020】
本発明の実施の形態に係るDNA断片は、配列番号2~33の塩基配列のうちの5個以上を備えることが好ましく、10個以上を備えることがより好ましく、15個以上を備えることが更に好ましく、20個以上を備えることが更に好ましく、25個以上を備えることが更に好ましく、28個以上を備えることが更に好ましく、30個以上を備えることが更に好ましい。配列番号2~33の塩基配列の順序は、入れ替えても構わないが、変更しないことが好ましい。
【0021】
図1に示す本発明の実施の形態に係るDNA断片2は、配列番号1の塩基配列を備え、かつ配列番号2~33の塩基配列のすべてを備える。本発明の実施の形態に係るDNA断片2は、配列番号2~33の塩基配列のほかの塩基配列を含んでいても良く、例えば、tRNAである塩基配列(遺伝子ID:cce_RNA037)を含んでいても良い。
【0022】
配列番号2~33の塩基配列のいずれか1つ以上を備えるDNA断片は、例えば、シアノバクテリアのゲノムDNA由来である。シアノバクテリアとしては、例えば、Cyanothece sp. ATCC 51142が挙げられる。
【0023】
DNA断片2のシアノバクテリア・ゲノムDNAからの単離は、一般的に行われている以下の操作手順1~5に沿って行なうことができる。より詳細には、例えば、後述する実施例にしたがって行なうことができる。各操作の手法は特に限定されるものではなく、公知の種々の手法を採用可能である。
1.シアノバクテリアの大量培養
2.シアノバクテリアのゲノムDNAの抽出及び断片化:断片化後、DNAの純度を上げるステップとして多糖の除去を行なっても良い。
3.クローニング
(1)DNA断片の末端を修飾する。
(2)電気泳動(例えば、高分子分離用低融点アガロースで18V,24時間)によりサイズ分けする。
(3)約25~40kbのDNA断片を回収する。
(4)回収した各DNA断片をそれぞれベクター(例えばフォスミドベクター)に挿入し、様々なDNA断片を持つベクター(組み換えベクター)を作製する。
4.形質転換体の作製
(1)様々なDNA断片を持つベクターをバクテリオファージに導入(パッケージング)する。
(2)上記(1)のバクテリオファージを大腸菌等の宿主に感染させ、ベクターを導入し、様々なDNA断片を持つベクターを持つ大腸菌(形質転換体)を得る。
(3)形質転換体を寒天培地で生育し、コロニーとして取得する。
5.スクリーニング
(1)窒素源(塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム等の窒素化合物)を含まない培地で生育できる大腸菌を選抜する。
(2)大腸菌からベクターを抽出する。
(3)ベクターに挿入したDNA断片の遺伝子情報を解読する。
【0024】
なお、配列番号2~33の塩基配列のいずれか1つ以上を備えるDNA断片は、遺伝子工学的手法により人工的に合成したものであってもよい。
【0025】
〔組み換えベクター〕
図2は、本発明の実施の形態に係るDNA断片のフォスミドベクターへの組み込み位置を示す説明図である。
【0026】
本発明の実施の形態に係る組み換えベクター3は、本発明の実施の形態に係る上記DNA断片を含む。組み換えベクター3は、好ましくは当該DNA断片がフォスミドベクターに組み込まれた(挿入された)ものであるが、これに限られない。例えば、プラスミドベクター、コスミドベクター、ウイルスベクター等に組み込まれたものであっても良い。
【0027】
本発明の実施の形態に係る組み換えベクター3は、例えば、前述したDNA断片2のシアノバクテリア・ゲノムDNAからの単離操作手順にしたがって取得できる。
【0028】
〔形質転換体〕
本発明の実施の形態に係る形質転換体は、本発明の実施の形態に係る上記組み換えベクターにより大腸菌等の宿主を形質転換したものである。
【0029】
本発明の実施の形態に係る形質転換体は、例えば、前述したDNA断片2のシアノバクテリア・ゲノムDNAからの単離操作手順にしたがって取得できる。
【0030】
〔窒素固定酵素〕
本発明の実施の形態に係る窒素固定酵素は、本発明の実施の形態に係る上記形質転換体により発現されたものである。本発明の実施の形態に係る窒素固定酵素は、配列番号2~33の塩基配列にそれぞれ対応する配列番号34~65のアミノ配列(下記表1参照。配列番号2が配列番号34に対応し、・・・・、配列番号33が配列番号65に対応する)をこの順番(配列番号34が左端側、配列番号65が右端側)で備えるものであることが好ましい。なお、配列番号34~65のいずれか1以上のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸の挿入、置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有して上記窒素固定酵素と機能的に同等な窒素固定酵素をコードするものであってもよい(以下、本発明の別の実施の形態に係る窒素固定酵素においても同様)。こうした窒素固定酵素は、例えば、1~30個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個、最も好ましくは1~2個のアミノ酸の挿入、置換、欠失及び/又は付加を備えることができる(以下、本発明の別の実施の形態に係る窒素固定酵素においても同様)。
【0031】
【0032】
また、本発明の実施の形態に係る窒素固定酵素は、配列番号34~65のアミノ配列のいずれか1つ以上を備えたものであってもよい。
【0033】
本発明の実施の形態に係る窒素固定酵素は、配列番号34~65のアミノ配列のうちの5個以上を備えることが好ましく、10個以上を備えることがより好ましく、15個以上を備えることが更に好ましく、20個以上を備えることが更に好ましく、25個以上を備えることが更に好ましく、28個以上を備えることが更に好ましく、30個以上を備えることが更に好ましい。配列番号34~65のアミノ配列の順序は、入れ替えても構わないが、変更しないことが好ましい。
【0034】
また、本発明の別の実施の形態に係る窒素固定酵素は、本発明の実施の形態に係る上記形質転換体により発現されたものに限られず、本発明の実施の形態に係る上記窒素固定酵素と同一のアミノ酸配列を備えた窒素固定酵素であればよい。例えば、市販のタンパク質合成装置で合成されたものであってもよい。
【0035】
上記窒素固定酵素は、本発明の実施の形態に係る上記窒素固定酵素と同一のアミノ酸配列のものに限られず、当該アミノ酸配列と40%以上の同一性を有するアミノ酸配列を備えた窒素固定酵素であってもよい。好ましくは当該アミノ酸配列と50%以上の同一性を有するアミノ酸配列を備えた窒素固定酵素であり、より好ましくは当該アミノ酸配列と60%以上の同一性を有するアミノ酸配列を備えた窒素固定酵素であり、更に好ましくは当該アミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を備えた窒素固定酵素であり、更に好ましくは当該アミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を備えた窒素固定酵素であり、更に好ましくは当該アミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を備えた窒素固定酵素であり、更に好ましくは当該アミノ酸配列と95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を備えた窒素固定酵素であり、更に好ましくは当該アミノ酸配列と98%以上の同一性を有するアミノ酸配列を備えた窒素固定酵素である。
【0036】
なお、上記窒素固定酵素と40%以上の同一性を有するアミノ酸配列を備える窒素固定酵素は、市販のタンパク質合成装置で人工的に合成したものであってもよい。
【0037】
なお、本明細書において、塩基配列又はアミノ酸配列の「同一性」とは、比較される配列間において、各々の配列を構成する塩基又はアミノ酸残基の一致の程度の意味で用いられる。このとき、アミノ酸配列については、ギャップの存在及びアミノ酸の性質が考慮される(Wilbur, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 80:726-730 (1983))。同一性の計算には、市販のソフトであるBLAST(Altschul: J. Mol. Biol. 215:403-410 (1990))、FASTA(Peasron: Methods in Enzymology 183:63-69 (1990))等を用いることができる。「同一性」の数値はいずれも、当業者に公知の相同性検索プログラムを用いて算出される数値であればよく、例えば、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムBLAST(Basiclocal alignment search tool)http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/においてデフォルト(初期設定)のパラメーターを用いることにより、算出することができる。
【0038】
〔本発明の実施の形態の効果〕
本発明の実施の形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)大腸菌の増殖に必要とされている窒素源の培地への添加を不要とすることができる窒素固定酵素をコードするDNA断片、当該DNA断片を含む組み換えベクター、当該組み換えベクターにより形質転換した形質転換体及び当該窒素固定酵素を提供できる。
(2)VやMoといった希少な金属元素を培地に添加することなく大腸菌の増殖を可能とする窒素固定酵素をコードするDNA断片、当該DNA断片を含む組み換えベクター、当該組み換えベクターにより形質転換した形質転換体及び当該窒素固定酵素を提供できる。
(3)酸素を発生する光合成生物であるシアノバクテリア由来の遺伝子を用いて発現させた窒素固定酵素(ニトロゲナーゼとは異なる窒素固定酵素)であるため、藻類や植物といった酸素を発生する光合成生物内で窒素固定を行うことができる。
(4)高温高圧下の環境で大量のエネルギーを必要とするハーバーボッシュ法に比べて、常温常圧下で機能する省エネルギー型の窒素固定反応であるため、エネルギーコストを大幅に削減できる。
(5)本発明の実施の形態に係るDNA断片を産業上有用な細菌、藻類、植物に導入することにより、窒素肥料(アンモニア、塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム等)を必要とせず生育可能な品種を得ることができる。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
〔本発明に係る窒素固定酵素をコードするDNA断片の単離〕
シアノバクテリアCyanothece sp. ATCC 51142(ATCC番号(受託番号):51142)より抽出したゲノムDNAを物理剪断、具体的には抽出したゲノムDNA溶液を先の細いピペットチップ(QSP社)にて5回出し入れし、End-Repair Enzyme Mix (Epicentre製)により平滑末端化した。なお、物理剪断は、ボルテックスや超音波処理等により行なってもよい。平滑末端化したDNA断片は、電気泳動にてサイズ分けし、平均鎖長25-40kbのDNA断片を抽出した。次いで、DNA断片をクロラムフェニコール耐性遺伝子を有するCopyControl
TM pCC2FOS
TMフォスミドベクター(Epicentre製)(Eco72 Iサイト(382番目のCと383番目のGの間)で切断して直鎖化し、脱リン酸化したもの)にそれぞれライゲーションした(
図2参照)。フォスミドベクターへのライゲーションにはT4DNAリガーゼ(TaKaRa製)を使用した。このフォスミドベクターへライゲーションしたものを、MaxPlax
TMLambda Packaging Extracts(Epicentre製)を用いてin vitroパッケージングした。宿主微生物として大腸菌E. coli EPI-300T1R(Epicentre製) (以下、EPI300という)を使用した。そして、12.5 mg/mLのクロラムフェニコールを含むLB培地(LB/Cm)寒天プレートで、形質転換された大腸菌(形質転換体)を得た。
【0041】
形質転換された大腸菌のコロニーをとり、12.5 mg/mLのクロラムフェニコールを含むLB培地(LB/Cm) 4 mL中で、空気中、37℃で18時間、180 rpmで培養した。次いで、培養した大腸菌を回収して、窒素源(塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム等の窒素化合物)を含まないM9-N培地(0.6% Na2HPO4、0.3% KH2PO4、0.05% NaCl、0.2% グルコース、0.00147% CaCl2×2H2O、0.05% MgSO4×7H2O、0.01% L-ロイシン)で3回洗浄した後、再度M9-N培地に懸濁した。調製した大腸菌懸濁液を、12.5 mg/mLのクロラムフェニコールを含むM9-N培地(M9-N/Cm)寒天プレートにプレーティングし、37℃で72時間培養した。得られたコロニーを再度M9-N培地(M9-N/Cm)寒天プレートに植え継ぎ、生育の見られた株について、窒素固定の表現型を与えるクローンとして単離した。クローン名を形質転換体1とした。
【0042】
次に、窒素固定の表現型を示すクローンが保持するフォスミドベクターに挿入されている塩基配列を解析した結果、前述した配列番号1の塩基配列が形質転換体1に挿入されていることが判明した。この塩基配列中には、前述した配列番号2~33の塩基配列を有する32個のオープンリーディングフレームが含まれており、それぞれ前述した配列番号34~65のアミノ配列をコードしていることが判明した。これらのタンパク質のアミノ酸配列は既知の窒素固定タンパク質(ニトロゲナーゼ)と相同性が無く、今回得られた窒素固定酵素及びこれをコードするDNA断片が新規なものであると判断された。なお、フォスミドベクターに挿入されている塩基配列の解析はプライマーpCC2 forward-bとpCC2 reverse-bを用いて行なった。使用したプライマーの塩基配列は以下のとおりである。
pCC2 forward-b; CCAGTCACGACGTTGTAAAACG
pCC2 reverse-b; CGCCAAGCTATTTAGGTGAGAC
【0043】
〔形質転換体の窒素固定能力の評価〕
形質転換体1の窒素固定能力を評価するため、窒素源を含まないM9-N培地で増殖試験を行った。形質転換体1(実施例1)及び前述のDNA断片挿入を行なっていないpCC2FOS
TMフォスミドベクター(Epicentre製)を保持するEPI300(比較例1)をそれぞれ窒素源として0.1%の塩化アンモニウムをM9-N培地に含ませたM9+N培地(M9+N/Cm)で24時間培養し、菌体を回収してM9-N培地で3回洗浄した後、5 mLのM9-N培地(M9-N/Cm)に、波長660nmでの光学濃度(optical density)(以下、OD660と記載)が0.02となるように植菌した。小型振盪培養装置[バイオフォトレコーダー(登録商標)TVS062CA、東洋製作所製]を用いて37℃、45 rpmで振とう培養を行ない、培養液のOD660を1時間ごとに測定した。増殖試験の結果を
図3に示す。
【0044】
窒素源を含まないM9-N培地(M9-N/Cm)では、大腸菌EPI300(比較例1)は、増殖が著しく阻害されるのに対し、形質転換体1(実施例1)は、速い増殖を示した。この結果から、今回得られた窒素固定酵素をコードするDNA断片を大腸菌に導入することで、窒素固定能力を付与することができることが明らかとなった。
【0045】
なお、本発明は、上記実施の形態及び実施例に限定されず種々に変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 ゲノムDNA
2 DNA断片
3 フォスミドベクター(組み換えベクター)
【配列表】