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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】包装用の積層体及び包装袋
(51)【国際特許分類】
   B65D 65/40 20060101AFI20240514BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
B65D65/40 D
B32B27/32 E
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023565430
(86)(22)【出願日】2023-06-05
(86)【国際出願番号】 JP2023020833
(87)【国際公開番号】W WO2023238825
(87)【国際公開日】2023-12-14
【審査請求日】2023-10-24
(31)【優先権主張番号】P 2022093635
(32)【優先日】2022-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023021078
(32)【優先日】2023-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100211018
【弁理士】
【氏名又は名称】財部 俊正
(72)【発明者】
【氏名】小野 靖方
(72)【発明者】
【氏名】荻原 悠
【審査官】米村 耕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-020391(JP,A)
【文献】特開2021-178974(JP,A)
【文献】特開2018-089567(JP,A)
【文献】特開平09-290477(JP,A)
【文献】国際公開第19/065306(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 65/40
B65D 30/02
B32B 7/028
B32B 9/00
B32B 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全量の90質量%以上がポリプロピレンである、包装用の積層体であって、
第一のポリプロピレンフィルムを含む基材層と、
第二のポリプロピレンフィルムを含むシーラント層と、を少なくとも備え、
前記第一のポリプロピレンフィルムが延伸ポリプロピレンフィルムであり、
前記第一のポリプロピレンフィルムと前記第二のポリプロピレンフィルムとは、それらのMD方向が略一致するように配置されており、
斜入射X線回折法により測定される前記第一のポリプロピレンフィルムの結晶化度は、MD方向及びTD方向の両方において80%以上であり、
MD方向の前記結晶化度とTD方向の前記結晶化度の差は、10%以下であり、
フィルムの所定方向における熱収縮率を下記式(1)で定義したとき、
前記第一のポリプロピレンフィルムのMD方向の熱収縮率RMD1が10.0%以下であり、
前記第一のポリプロピレンフィルムのTD方向の熱収縮率RTD1が12.0%以下であり、
前記第二のポリプロピレンフィルムのTD方向の熱収縮率RTD2が、前記熱収縮率RTD1より小さく、0.5%以上である、積層体。
所定方向における熱収縮率(%)=([加熱前の所定方向の長さ]-[150℃で15分間加熱した後の所定方向の長さ])/[加熱前の所定方向の長さ]×100 …(1)
【請求項2】
斜入射X線回折法により測定される前記第一のポリプロピレンフィルムの結晶化度が、MD方向及びTD方向の一方で86%以上であり、他方で80%以上である、請求項に記載の積層体。
【請求項3】
前記第一のポリプロピレンフィルムについて、下記(i)の条件で熱処理を行った後に下記(ii)の条件で示差走査熱量測定を行った場合に、163℃未満に少なくとも1つの融解ピークが観測される、請求項1に記載の積層体。
(i)25℃から230℃まで昇温速度10℃/分で昇温し、230℃で2分間保持した後、230℃から25℃まで降温速度10℃/分で降温し、25℃で5分間保持。
(ii)25℃から230℃まで昇温速度10℃/分で昇温し、230℃で5分間保持。
【請求項4】
前記第一のポリプロピレンフィルムについて、下記(iii)の条件で示差走査熱量測定を行った場合に、167℃以上に少なくとも1つの融解ピークが観測される、請求項1に記載の積層体。
(iii)25℃から230℃まで昇温速度10℃/分で昇温し、230℃で2分間保持。
【請求項5】
前記第一のポリプロピレンフィルムの前記熱収縮率RMD1及び前記熱収縮率RTD1が、いずれも7.0%以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項6】
前記基材層と前記シーラント層との間に、第三のポリプロピレンフィルムを含む中間層を備え、
前記第一のポリプロピレンフィルムと前記第二のポリプロピレンフィルムと前記第三のポリプロピレンフィルムとは、それらのMD方向が略一致するように配置されており、
フィルムの所定方向における熱収縮率を前記式(1)で定義したとき、
前記第三のポリプロピレンフィルムのTD方向の熱収縮率RTD3が、前記熱収縮率RTD2より大きく、12.0%以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項7】
前記基材層及び前記中間層の少なくとも一方が、無機酸化物層と該無機酸化物層を被覆するガスバリア性被覆層とを含む、請求項に記載の積層体。
【請求項8】
前記第一のポリプロピレンフィルム及び前記第三のポリプロピレンフィルムの厚さが、それぞれ18~30μmであり、
前記第二のポリプロピレンフィルムの厚さが50~100μmである、請求項に記載の積層体。
【請求項9】
前記基材層と前記中間層とが、厚さ0.5~4μmの接着剤層によって貼合されている、請求項に記載の積層体。
【請求項10】
前記中間層と前記シーラント層とが、厚さ0.5~4μmの接着剤層によって貼合されている、請求項に記載の積層体。
【請求項11】
前記第一のポリプロピレンフィルムが二軸延伸ポリプロピレンフィルムである、請求項1に記載の積層体。
【請求項12】
前記第二のポリプロピレンフィルムが無延伸ポリプロピレンフィルムである、請求項1に記載の積層体。
【請求項13】
レトルトパウチ用である、請求項1~12のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか一項に記載の積層体を製袋してなる包装袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、包装用の積層体及び包装袋に関する。
【背景技術】
【0002】
世界でプラスチックごみ問題が注目される中、循環型社会の実現にむけて環境配慮型包装材の需要がますます高まっている。包装材に関し、グローバル企業の多くがより優れたプラスチック資源循環に向けた目標を設定し、さまざまな施策を打ち出している。また、米国では、ポリエチレンの回収から再利用までのリサイクルルートが整備され始めている。このように、世界的にモノマテリアル(単一素材)を前提とするリサイクルへの取り組みが加速しつつあり、従来、様々な異種材料を組み合わせることで高性能化を図ってきた包装用の積層体においても、モノマテリアル化が求められるようになってきている。
【0003】
レトルトパウチ用の包装材を、従来のマルチマテリアル(複合素材)の包装材から実質的に単一の素材からなるモノマテリアルの包装材に変更する場合、シーラント特性の観点から、ポリプロピレンを主構成とする積層体(PPモノマテリアル積層体)を用いることが考えられる。例えば、下記特許文献1には、ポリプロピレンを使用したモノマテリアルの包装材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-040257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
モノマテリアル包装材としてPPモノマテリアル積層体を用いる場合、製袋時(ヒートシール時)にシールバーに直接接する又は近接する部分となる基材層には、シールバーと熱融着しない耐熱性を持たせるために延伸ポリプロピレンフィルムが使用される。しかしながら、基材層に延伸ポリプロピレンフィルムを使用した場合、熱によって積層体が変形し、カール、波打ち等の外観不良が発生することがある。このような変形(歪み)は、後続の内容物充填工程における袋の掴み損ねや開封不良等の原因となり、搬送性低下の原因となり得る。
【0006】
また、モノマテリアル包装材に対しても、通常のレトルト処理よりも高い温度でレトルト処理を行う、いわゆるハイレトルト処理用途の需要があるが、本発明者らの検討の結果、PPモノマテリアル積層体(例えば特許文献1の積層体)は、125℃以上のハイレトルト処理においてカールを発生する。
【0007】
そこで、本開示の一側面は、ポリプロピレンを主構成としながら、製袋時の熱による変形を起こし難く、ハイレトルト処理によるカールを生じ難い積層体を提供することを目的とする。本開示の他の一側面は、上記積層体を製袋してなる包装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のいくつかの側面は、下記[1]~[15]を提供する。
【0009】
[1]
全量の90質量%以上がポリプロピレンである、包装用の積層体であって、
第一のポリプロピレンフィルムを含む基材層と、
第二のポリプロピレンフィルムを含むシーラント層と、を少なくとも備え、
前記第一のポリプロピレンフィルムが延伸ポリプロピレンフィルムであり、
前記第一のポリプロピレンフィルムと前記第二のポリプロピレンフィルムとは、それらのMD方向が略一致するように配置されており、
フィルムの所定方向における熱収縮率を下記式(1)で定義したとき、
前記第一のポリプロピレンフィルムのMD方向の熱収縮率RMD1が10.0%以下であり、
前記第一のポリプロピレンフィルムのTD方向の熱収縮率RTD1が12.0%以下であり、
前記第二のポリプロピレンフィルムのTD方向の熱収縮率RTD2が、前記熱収縮率RTD1より小さく、0.5%以上である、積層体。
所定方向における熱収縮率(%)=([加熱前の所定方向の長さ]-[150℃で15分間加熱した後の所定方向の長さ])/[加熱前の所定方向の長さ]×100 …(1)
【0010】
[2]
斜入射X線回折法により測定される前記第一のポリプロピレンフィルムの結晶化度が、MD方向及びTD方向の両方において80%以上である、[1]に記載の積層体。
【0011】
[3]
斜入射X線回折法により測定される前記第一のポリプロピレンフィルムの結晶化度が、MD方向及びTD方向の一方で86%以上であり、他方で80%以上である、[2]に記載の積層体。
【0012】
[4]
前記第一のポリプロピレンフィルムについて、下記(i)の条件で熱処理を行った後に下記(ii)の条件で示差走査熱量測定を行った場合に、163℃未満に少なくとも1つの融解ピークが観測される、[1]~[3]のいずれかに記載の積層体。
(i)25℃から230℃まで昇温速度10℃/分で昇温し、230℃で2分間保持した後、230℃から25℃まで降温速度10℃/分で降温し、25℃で5分間保持。
(ii)25℃から230℃まで昇温速度10℃/分で昇温し、230℃で5分間保持。
【0013】
[5]
前記第一のポリプロピレンフィルムについて、下記(iii)の条件で示差走査熱量測定を行った場合に、167℃以上に少なくとも1つの融解ピークが観測される、[1]~[4]のいずれかに記載の積層体。
(iii)25℃から230℃まで昇温速度10℃/分で昇温し、230℃で2分間保持。
【0014】
[6]
前記第一のポリプロピレンフィルムの前記熱収縮率RMD1及び前記熱収縮率RTD1が、いずれも7.0%以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の積層体。
【0015】
[7]
前記基材層と前記シーラント層との間に、第三のポリプロピレンフィルムを含む中間層を備え、
前記第一のポリプロピレンフィルムと前記第二のポリプロピレンフィルムと前記第三のポリプロピレンフィルムとは、それらのMD方向が略一致するように配置されており、
フィルムの所定方向における熱収縮率を前記式(1)で定義したとき、
前記第三のポリプロピレンフィルムのTD方向の熱収縮率RTD3が、前記熱収縮率RTD2より大きく、12.0%以下である、[1]~[6]のいずれかに記載の積層体。
【0016】
[8]
前記基材層及び前記中間層の少なくとも一方が、無機酸化物層と該無機酸化物層を被覆するガスバリア性被覆層とを含む、[7]に記載の積層体。
【0017】
[9]
前記第一のポリプロピレンフィルム及び前記第三のポリプロピレンフィルムの厚さが、それぞれ18~30μmであり、
前記第二のポリプロピレンフィルムの厚さが50~100μmである、[7]又は[8]に記載の積層体。
【0018】
[10]
前記基材層と前記中間層とが、厚さ0.5~4μmの接着剤層によって貼合されている、[7]~[9]のいずれかに記載の積層体。
【0019】
[11]
前記中間層と前記シーラント層とが、厚さ0.5~4μmの接着剤層によって貼合されている、[7]~[10]のいずれかに記載の積層体。
【0020】
[12]
前記第一のポリプロピレンフィルムが二軸延伸ポリプロピレンフィルムである、[1]~[11]のいずれかに記載の積層体。
【0021】
[13]
前記第二のポリプロピレンフィルムが無延伸ポリプロピレンフィルムである、[1]~[12]のいずれかに記載の積層体。
【0022】
[14]
レトルトパウチ用である、[1]~[13]のいずれかに記載の積層体。
【0023】
[15]
[1]~[14]のいずれかに記載の積層体を製袋してなる包装袋。
【発明の効果】
【0024】
本開示によれば、ポリプロピレンを主構成としながら、製袋時の熱による変形を起こし難く、ハイレトルト処理によるカールを生じ難い積層体を提供することができる。また、本開示の他の一側面によれば、上記積層体を製袋してなる包装体を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、一実施形態に係る積層体を示す模式断面図である。
図2図2は、他の一実施形態に係る積層体を示す模式断面図である。
図3図3は、オーブン加熱時の熱収縮率の測定方法を示す模式図である。
図4図4は、図2の積層体の部分拡大図である。
図5図5の(a)~(c)は、パウチのシール部の断面図であって、ヒートシール後のパウチの歪みの状態を示す模式図である。
図6図6は、ハイレトルト処理時のカール量の測定方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書中、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。また、具体的に明示する場合を除き、「~」の前後に記載される数値の単位は同じである。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。また、個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。
【0027】
以下、場合により図面を参照しつつ本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0028】
<積層体>
図1に示す積層体100Aは、基材層11及びシーラント層12を備える。基材層11及びシーラント層12は、それぞれ接着剤層Sで接着されている。
【0029】
基材層11及びシーラント層12は、ポリプロピレンフィルム(ポリプロピレンフィルム)を含む。本明細書において「ポリプロピレンフィルム」とは、ポリプロピレン樹脂を主要成分として構成されるフィルムであり、例えば、ポリプロピレン樹脂をフィルムの全量の90質量%以上含む。以下、基材層11に含まれるポリプロピレンフィルムを「第一のポリプロピレンフィルム」といい、シーラント層12に含まれるポリプロピレンフィルムを「第二のポリプロピレンフィルム」という。
【0030】
積層体100Aにおいて、第一のポリプロピレンフィルムと第二のポリプロピレンフィルムとは、それらのMD方向(Machine Direction)が略一致するように(すなわち、その角度差が±15°以内となるように)配置されている。換言すれば、積層体100Aにおいて、第一のポリプロピレンフィルムのMD方向と第二のポリプロピレンフィルムのMD方向とは略一致しており、第一のポリプロピレンフィルムのTD方向(Transverse Direction)と第二のポリプロピレンフィルムのTD方向とは略一致している。
【0031】
フィルムのMD方向は、例えば、位相差測定装置(商品名:KOBRA、王子計測機器(株)製)を用いて配向角を測定し、配向角からMD方向及びTD方向を見分けることができる。フィルムが延伸ポリプロピレンフィルムである場合、分子鎖が配向している方向がTD方向であると考えらえる。
【0032】
図2に示す積層体100Bは、基材層11、中間層13及びシーラント層12をこの順に備える。基材層11及び中間層13、並びに、中間層13及びシーラント層12は、それぞれ接着剤層Sで接着されている。
【0033】
中間層13はポリプロピレンフィルムを含む。以下、中間層13に含まれるポリプロピレンフィルムを「第三のポリプロピレンフィルム」という。なお、基材層11及びシーラント層12の詳細は積層体100Aと同じであり、第一のポリプロピレンフィルム及び第二のポリプロピレンフィルムをそれぞれ含む。
【0034】
積層体100Bにおいて、第一のポリプロピレンフィルムと第二のポリプロピレンフィルムと第三のポリプロピレンフィルムとは、それらのMD方向が略一致するように(すなわち、その角度差が±15°以内となるように)配置されている。換言すれば、第一のポリプロピレンフィルムのMD方向と第二のポリプロピレンフィルムのMD方向と第三のポリプロピレンフィルムのMD方向とは略一致しており、第一のポリプロピレンフィルムのTD方向と第二のポリプロピレンフィルムのTD方向と第三のポリプロピレンフィルムのTD方向とは略一致している。
【0035】
上記積層体(100A,100B)の厚さは、90~150μmであってよく、95~140μm又は100~130μmであってもよい。
【0036】
上記積層体(100A,100B)は、包装袋の材料として用いられる積層体(包装用の積層体)であり、全量の90%以上がポリプロピレンである。ここで、「全量の90%がポリプロピレンである」とは、積層体(100A,100B)におけるポリプロピレンの含有量が、積層体全量を基準として、90質量%以上であることと同義である。したがって、上記積層体は、リサイクル性に優れており、実質的に単一素材からなる(モノマテリアルの)包装材として好適に用いられる。リサイクル性をより向上させる観点から、上記積層体におけるポリプロピレンの含有量は、積層体全量を基準として95質量%以上であってもよい。ポリプロピレンの含有量の上限値は100質量%である。
【0037】
本明細書中、「ポリプロピレンの含有量」とは、積層体に含まれるポリプロピレン樹脂の含有量を意味する。ただし、上記樹脂がプロピレン以外の共重合モノマーをモノマー単位として含むコポリマーである場合には、該共重合モノマー由来のモノマー単位の量はポリプロピレンの含有量に含めないものとし、プロピレンモノマー由来のモノマー単位の量をポリプロピレン含有量とする。ポリプロピレンの含有量は、ラマン分光法に従い測定することができる。
【0038】
フィルムの所定方向(MD方向又はTD方向)における熱収縮率を下記式(1)で定義したとき、図1に示す積層体100Aでは、第一のポリプロピレンフィルムのMD方向の熱収縮率RMD1、第一のポリプロピレンフィルムのTD方向の熱収縮率RTD1、及び、第二のポリプロピレンフィルムのTD方向の熱収縮率RTD2が下記条件(I)を満たし、図2に示す積層体100Bでは、上記RMD1、RTD1、及び、RTD2が下記条件(I)を満たすことに加えて、第三のポリプロピレンフィルムのTD方向の熱収縮率RTD3が下記条件(II)を満たす。
所定方向における熱収縮率(%)=([加熱前の所定方向の長さ]-[150℃で15分間加熱した後の所定方向の長さ])/[加熱前の所定方向の長さ]×100 …(1)
[条件(I)]
10.0%≧RMD1
12.0%≧RTD1>RTD2≧0.5%
[条件(II)]
12.0%≧RTD3>RTD2
【0039】
上記熱収縮率の測定は、具体的には以下の手順に従って行う。
(a)図3に示すように、測定対象のフィルムを200mm×200mmに切り出して測定サンプル200を得る。
(b)図3に示すように、測定サンプル200のTD方向に平行な120mm以上の長さの2本の直線L1及びL2を、100mmの間隔を空けて測定サンプル200の表面に書き込む。
(c)図3に示すように、測定サンプル200のMD方向に平行な120mm以上の長さの2本の直線L3及びL4を、100mmの間隔を空けて測定サンプル200の表面に書き込む。
(d)図3に示すように、直線L1~L4のそれぞれに20mm間隔で7箇所に目盛りN1~N7を書き込む。このとき、直線L1の目盛りN1~N7のそれぞれと、直線L2の目盛りN1~N7のそれぞれとを直線で結んだ場合に、当該直線がMD方向と平行となるように、直線L1,L2の目盛りの位置を合わせる。また、直線L3の目盛りN1~N7のそれぞれと、直線L4の目盛りN1~N7のそれぞれとを直線で結んだ場合に、当該直線がTD方向と平行となるように、直線L3,L4の目盛りの位置を合わせる。
(e)150℃に加熱したオーブン内のガラス板上に、テフロン(登録商標)シートに載せた測定サンプル200を置き、15分間加熱する。加熱後、測定サンプル200をオーブンから取り出し、室温(25℃)で30分間放置する。
(f)直線L1の目盛りN1(L1とN1との交点)と直線L2の目盛りN1(L2とN1との交点)との直線距離をMD方向長さとして加熱前後で測定し、上記式(1)にしたがってMD方向の熱収縮率を求める。同様にして目盛りN2~N7のそれぞれの位置でのMD方向の熱収縮率を求め、N1~N7のそれぞれの位置で求めたMD方向の熱収縮率の平均値を測定サンプル200のMD方向の熱収縮率RMDとする。
(g)直線L3の目盛りN1(L3とN1との交点)と直線L4の目盛りN1(L4とN1との交点)との直線距離をTD方向長さとして加熱前後で測定し、上記式(1)にしたがってTD方向の熱収縮率を求める。同様にして目盛りN2~N7のそれぞれの位置でのTD方向の熱収縮率を求め、N1~N7のそれぞれの位置で求めたTD方向の熱収縮率の平均値を測定サンプル200のTD方向の熱収縮率RTDとする。
【0040】
通常、積層体の製造過程でフィルムの熱収縮率は略変化しないため、単独で熱収縮率を測定したときに上記熱収縮率を示すフィルムを用いることで、上記積層体100A及び100Bを得ることができる。
【0041】
基材層は製袋時(ヒートシール時)にヒートシールバーに直接接する又は近接する部分であり、積層体の各層の中でも特に熱がかかる部分であるため、従来のPPモノマテリアル積層体では、上記基材層が熱収縮することで製袋時(すなわちヒートシール時)に、カールや波打ち等の変形(歪み)が生じていたと考えられる。特に、レトルトパウチ用途の包装材では、レトルト条件で開封しない程度に高い融点を有するシーラント層が使用されることから、ヒートシール時により高い温度が加えられる傾向があり、上記変形がより生じ易くなっていたと考えられる。一方、上記積層体(100A,100B)では、上記のとおり、熱収縮率RMD1及びRTD1(第一のポリプロピレンフィルムのMD方向の熱収縮率及びTD方向の熱収縮率)が十分に小さいため、製袋時の熱による変形を起こし難い。また、上記理由から、上記積層体(100A,100B)では製袋時のシワも生じ難い。そのため、上記積層体(100A,100B)によれば、変形(歪み)及びシワが少なく、良好な外観を有し、搬送性及び内容物封入時の作業性に優れる包装体を容易に得ることができる。
【0042】
また、従来のPPモノマテリアル積層体のシーラント層には、通常、熱収縮性をほとんど有しない材料(シーラントフィルム)が使用されるが、上記積層体(100A,100B)では、上記のとおり、熱収縮率RTD2(第二のポリプロピレンフィルムのTD方向の熱収縮率)が0.5%以上であることから、125℃以上の高温でのレトルト処理(ハイレトルト処理)によるカールを生じ難い。したがって、上記積層体は、レトルトパウチ用途に好適に用いることができる。
【0043】
以下、図1及び図2に示す積層体(100A,100B)を構成する各層について詳細に説明する。
【0044】
(基材層)
基材層11は支持体の一つとなる層であり、第一のポリプロピレンフィルムを含む。基材層11は、積層体(100A,100B)の最も外側を構成する層(最外層)である。
【0045】
第一のポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂は、プロピレンの単独重合体(ホモポリマー)あってよく、プロピレンと他の共重合モノマーとの共重合体(コポリマー)であってもよい。コポリマーとしては、例えば、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-αオレフィン共重合体等が挙げられる。ポリプロピレン樹脂は、ポリプロピレンを、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の酸無水物、不飽和カルボン酸のエステル等を用いてグラフト変性して得られる酸変性ポリプロピレン等であってもよい。第一のポリプロピレンフィルムは、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤、静電防止剤等の各種添加材を更に含んでいてよい。
【0046】
第一のポリプロピレンフィルムは、延伸ポリプロピレンフィルムである。延伸ポリプロピレンフィルムは耐熱性に優れることから、第一のポリプロピレンフィルムが延伸ポリプロピレンフィルムであることで、基材層がヒートシールバーへ熱融着することを防ぐことができる。延伸ポリプロピレンフィルムは、インフレーションによる延伸、一軸延伸、二軸延伸等の公知の方法で延伸されてなるフィルムであってよい。延伸ポリプロピレンフィルムは、上記熱収縮率(RMD1及びRTD1)が得られ易い点では、二軸延伸ポリプロピレンフィルムであってよい。
【0047】
第一のポリプロピレンフィルムの表面には、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理などの各種前処理が施されていてもよい。
【0048】
第一のポリプロピレンフィルムの厚さは、特に限定されない。用途に応じ、当該厚さを6~200μmとすることができるが、環境負荷低減のための材料削減の観点、及び、優れた耐熱性、耐衝撃性と優れたガスバリア性とを得る観点から、9~60μmであってよく、18~60μm又は9~50μmであってもよい。基材層の厚さが薄くなるほど、ヒートシール時に積層体が収縮し易くなるが、本実施形態に係る積層体においては、特定の条件を満たす基材層を用いているため、基材層の厚さが薄くても積層体の収縮を抑制することができる。そのため、第一のポリプロピレンフィルムの厚さは、25μm未満であってもよく、20μm以下であってもよい。
【0049】
積層体100Aにおける第一のポリプロピレンフィルムの厚さは、環境負荷低減のための材料削減の観点、及び、優れた耐熱性と優れた耐衝撃性と優れたガスバリア性とを得る観点から、36~60μmであってよく、38~55μm又は40~50μmであってもよい。積層体100Bにおける第一のポリプロピレンフィルムの厚さは、環境負荷低減のための材料削減の観点、及び、優れた耐熱性と優れた耐衝撃性と優れたガスバリア性とを得る観点から、12~38μmであってよく、18~30μm又は20~25μmであってもよい。
【0050】
第一のポリプロピレンフィルムの厚さは、積層体の総厚の10~50%であってよい。積層体100Aにおける第一のポリプロピレンフィルムの厚さは、環境負荷低減のための材料削減の観点、及び、優れた耐熱性と優れた耐衝撃性と優れたガスバリア性とを得る観点から、積層体の総厚の20~60%であってよく、23~50%又は25~40%であってもよい。積層体100Bにおける第一のポリプロピレンフィルムの厚さは、環境負荷低減のための材料削減の観点、及び、優れた耐熱性と優れた耐衝撃性と優れたガスバリア性とを得る観点から、積層体の総厚の10~50%であってよく、13~45%又は15~40%であってもよい。
【0051】
第一のポリプロピレンフィルムの厚さは基材層11の厚さの90%以上であってよく、基材層11が第一のポリプロピレンフィルムのみからなっていてもよい。
【0052】
第一のポリプロピレンフィルムのMD方向の熱収縮率RMD1は10.0%以下であり、製袋時の熱による変形及びハイレトルト処理によるカールをより一層抑制する観点では、8.0%以下、7.0%以下又は5.0%以下であってもよい。熱収縮率RMD1は、第二のポリプロピレンフィルムのMD方向の熱収縮率RMD2より大きくてよい。第一のポリプロピレンフィルムは製袋後の最外層になるため、力学特性(腰、引張強度、印刷適性)や光学特性(透明性、光沢性)も求められる。これらの特性の向上には、絡み合う高分子鎖を引き延ばし、結晶を揃えること、すなわち分子配向を生じさせることが効果的であり、その手段として延伸(特に二軸延伸)が有用である。延伸を施す以上熱収縮は避け難く、第一のポリプロピレンフィルムの熱収縮率RMD1は、例えば1.0%以上であってよく、3.0%以上であってもよい。すなわち、熱収縮率RMD1は、1.0~10.0%であってよく、3.0~10.0%であってもよい。
【0053】
第一のポリプロピレンフィルムのTD方向の熱収縮率RTD1は12.0%以下であり、製袋時の熱による変形及びハイレトルト処理によるカールをより一層抑制する観点では、10.0%以下、8.0%以下又は7.0%以下であってよい。熱収縮率RTD1は、例えば1.0%以上であってよく、3.0%以上であってもよい。すなわち、熱収縮率RTD1は、1.0~12.0%であってよく、3.0~12.0%であってもよい。
【0054】
製袋時の熱による変形及びハイレトルト処理によるカールをより一層抑制する観点では、熱収縮率RMD1及び熱収縮率RTD1が、いずれも7.0%以下であってよい。
【0055】
上記範囲の熱収縮率RMD1及びRTD1を有する第一のポリプロピレンフィルムは、延伸(特に二軸延伸)により成形することのほか、フィルムの構成材料であるポリプロピレン樹脂の種類として高融点の樹脂を用いること等により得ることができる。
【0056】
第一のポリプロピレンフィルムの、斜入射X線回折法により測定される結晶化度は、MD方向及びTD方向の両方において80%以上であってよい。上記結晶化度は、MD方向及びTD方向の一方で86%以上、他方で80%以上であってもよい。第一のポリプロピレンフィルムのMD方向及びTD方向の結晶化度は、斜入射X線回折法により以下の条件で測定することができる。ここで、MD方向の結晶化度を測定する場合は、X線の照射装置と検出器とがMD方向に垂直な方向に並ぶように配置し、TD方向の結晶化度を測定する場合は、X線の照射装置と検出器とがTD方向に垂直な方向に並ぶように配置して、測定を行う。
(測定条件)
測定装置:X線回折装置(株式会社リガク製、商品名:RINT TTR III)
光学系:平行法(検出器:シンチレーションカウンタ、用途:小角用、対象:試料表面)
走査軸:2θ/θ
測定方法:連続
計数単位:cps
開始角度:3°(目安)
終了角度:35°
サンプリング幅:0.02°
スキャンスピード:4°/min
電圧:50kV
電流:300mA
発散縦スリット:10mm
散乱スリット:解放
受光スリット:解放
結晶化度の算出方法:ピーク分離法
解析ソフト:MDI JADE PRO/バージョン8.6
X線回析で得られた回折パターンにおいて、プロファイル・フィッティング手法を用いてバックグラウンド、非晶成分、結晶成分を分離する。全散乱曲線から分離した非晶成分及び結晶成分の回折曲線の曲線下の面積(積分強度)を用いて、次式から結晶化度を算出する。
Xc=Ic/(Ic+Ia)×100
Xc:結晶化度
Ic:結晶性散乱強度
Ia:非晶性散乱強度
【0057】
第一のポリプロピレンフィルムにおけるMD方向及びTD方向の結晶化度が80%以上であることで、積層体を製袋する際のヒートシール工程において、積層体の収縮をより一層抑制することができる。その結果、包装袋の変形及びシワ、並びに、包装袋の絵柄ズレやラミネート強度等の物性低下をより一層抑制され易くなる。さらに、第一のポリプロピレンフィルムにおけるMD方向及びTD方向の結晶化度の一方が86%以上であり、かつ、他方が80%以上であることで、積層体を製袋する際のヒートシール工程において白化が発生することを抑制することができる。そのため、得られる包装袋の外観不良、性能不良を防ぐことができるとともに、搬送時や内容物封入時のトラブルを防ぐことができる。上記効果をより高水準で得る観点から、第一のポリプロピレンフィルムのMD方向及びTD方向の結晶化度の一方が90%以上であり、かつ、他方が84%以上であってもよい。また、第一のポリプロピレンフィルムのMD方向の結晶化度が80%以上、84%以上又は86%以上であり、TD方向の結晶化度が80%以上又は84%以上であってもよい。結晶化度の上限値は、MD方向及びTD方向のいずれも特に限定されないが、例えば95%以下であってもよい。第一のポリプロピレンフィルムのMD方向及びTD方向の結晶化度は、例えば、延伸条件、分子量、冷却温度、結晶核剤の配合等により調整することができる。
【0058】
また、MD方向及びTD方向の結晶化度が80%以上である第一のポリプロピレンフィルムを用いることで、積層体製造工程において以下の効果を奏することができる。積層体製造工程(貼り合わせ工程)には、コロナ処理やオーブン工程など熱がかかる工程が多いため、加工途中で基材層が収縮し、絵柄等の位置ずれやラミネート強度のバラつきが生じるおそれがある。これに対し、MD方向及びTD方向の結晶化度が80%以上である第一のポリプロピレンフィルムを用いた場合、結晶化度が高いことで基材層の収縮が抑えられ、絵柄等の位置ずれやラミネート強度のバラつきの発生を抑制することができる。また、MD方向及びTD方向の結晶化度が80%以上である第一のポリプロピレンフィルムを用いた場合、例えば、印刷や接着剤塗工後のオーブン温度を高く設定することができるため、残留溶剤を低減したり、作業の高速化が可能となり、積層体の生産性を向上することが可能となる。
【0059】
第一のポリプロピレンフィルムにおいて、斜入射X線回折法により測定されるMD方向の結晶化度とTD方向の結晶化度との差は、4%以上であってもよく、10%以下であってもよい。MD方向の結晶化度とTD方向の結晶化度の差が小さいほど、基材層の結晶にばらつきがなく配向していることとなり、耐久性が向上する。そのため、MD方向の結晶化度とTD方向の結晶化度の差が10%以下である第一のポリプロピレンフィルムを用いることで、包装袋に変形、白化及びシワが発生すること、並びに、包装袋の絵柄ズレやラミネート強度等の物性低下、包装袋の変形が発生することを抑制することができる。上記効果をより高水準で得る観点から、MD方向の結晶化度とTD方向の結晶化度の差は8%以下であってもよい。
【0060】
基材層が第一のポリプロピレンフィルム以外の層を含む場合、上記「第一のポリプロピレンフィルムにおけるMD方向及びTD方向の結晶化度」は「基材層におけるMD方向及びTD方向の結晶化度」と読み替えてもよい。基材層におけるMD方向及びTD方向の結晶化度が上記範囲であると、上記効果がより顕著に奏される傾向がある。
【0061】
第一のポリプロピレンフィルムは、下記(i)の条件で熱処理を行った後に下記(ii)の条件で示差走査熱量測定を行った場合に、163℃未満に少なくとも1つの融解ピークが観測されるものであってよい。上記融解ピークが複数観測される場合、そのうちの少なくとも1つの融解ピークが163℃未満に観測されればよく、他の融解ピークは163℃以上に観測されてもよいが、全ての融解ピークが163℃未満に観測されてもよい。上記融解ピークが複数観測される場合、第一のポリプロピレンフィルム全体の30%以上が融解する温度が163℃未満であることが好ましい。第一のポリプロピレンフィルム全体の30%以上が融解しているかどうかは、融解ピーク面積の比較により判断することができる。また、観測される融解ピークは1つであってよく、163℃以上に融解ピークが観測されなくてもよい。
(i)25℃から230℃まで昇温速度10℃/分で昇温し、230℃で2分間保持した後、230℃から25℃まで降温速度10℃/分で降温し、25℃で5分間保持。
(ii)25℃から230℃まで昇温速度10℃/分で昇温し、230℃で5分間保持。
【0062】
上記条件で測定される融解ピーク温度は、熱処理により延伸等の影響が取り除かれた第一のポリプロピレンフィルムの素材自体の融点(以下、「熱処理後の融点」とも言う)を示す。本開示においては、第一のポリプロピレンフィルムの素材自体の融点を高くすることなく、第一のポリプロピレンフィルムの結晶化度を高めることで、積層体の製袋時に歪み、白化及びシワが発生することを抑制することもできる。かかる効果がより一層得られ易い観点では、基材層が上記条件で測定される熱処理後の融点を163℃未満に有していてよい。
【0063】
第一のポリプロピレンフィルムは、下記(iii)の条件で示差走査熱量測定を行った場合に、167℃以上に少なくとも1つの融解ピークが観測されるものであってよい。第一のポリプロピレンフィルムは、上記融解ピークが複数観測され、そのうちの少なくとも1つの融解ピークが167℃以上に観測され、他の少なくとも1つの融解ピークが167℃未満に観測されてもよい。
(iii)25℃から230℃まで昇温速度10℃/分で昇温し、230℃で2分間保持。
【0064】
上記条件で測定される融解ピーク温度は、延伸等の影響が残った第一のポリプロピレンフィルムの融点(以下、「熱処理前の融点」とも言う)を示す。第一のポリプロピレンフィルムの熱処理前の融点が167℃以上に存在することで、熱処理前の状態における第一のポリプロピレンフィルムの耐熱性が向上し、積層体の製袋時に歪み、白化及びシワが発生することをより一層抑制することができる。かかる効果がより一層得られ易い観点では、基材層が上記条件で測定される熱処理前の融点を163℃未満に有していてよい。
【0065】
上記熱処理後の融点は、例えば、分子量、立体規則性(アイソタクチックメソペンタッド分率)、結晶核剤の配合等により調整することができる。また、熱処理前の融点は、例えば、延伸条件、冷却温度、結晶核剤の配合等により調整することができる。
【0066】
基材層11の厚さは、上記第一のポリプロピレンフィルムの厚さとして例示した範囲であってよい。
【0067】
(シーラント層)
シーラント層12は、積層体にヒートシールによる封止性を付与する層であり、第二のポリプロピレンフィルムを含む。第二のポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂は、プロピレンの単独重合体(ホモポリマー)あってよく、プロピレンと他の共重合モノマーとの共重合体(コポリマー)であってもよい。コポリマーとしては、例えば、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-αオレフィン共重合体等が挙げられる。ポリプロピレン樹脂は、ポリプロピレンを、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の酸無水物、不飽和カルボン酸のエステル等を用いてグラフト変性して得られる酸変性ポリプロピレン等であってもよい。第二のポリプロピレンフィルムは、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤、静電防止剤等の各種添加材を更に含んでいてよい。
【0068】
第二のポリプロピレンフィルムは、延伸ポリプロピレンフィルムであってもよいが、ヒートシールによる封止性を高める観点から、好ましくは無延伸ポリプロピレンフィルムである。
【0069】
第二のポリプロピレンフィルムの厚さは、内容物の質量や、包装袋の形状などにより定められる。第二のポリプロピレンフィルムの厚さは、ヒートシール性及び耐衝撃性をバランスよく向上させる観点から、30~150μmであってよく、40~100μm、50~100μm、40~90μm、30~80μm又は50~80μmであってもよい。
【0070】
第二のポリプロピレンフィルムの厚さは、ヒートシール性及び耐衝撃性をバランスよく向上させる観点から、積層体の総厚の35~75%であってよく、40~70%又は45~65%であってもよい。
【0071】
第二のポリプロピレンフィルムの厚さはシーラント層12の厚さの90%以上であってよく、シーラント層12が第二のポリプロピレンフィルムのみからなっていてもよい。
【0072】
第二のポリプロピレンフィルムのMD方向の熱収縮率RMD2は、ハイレトルト処理によるカールをより一層抑制する観点から、好ましくは0.5%以上である。熱収縮率RMD2は、第一のポリプロピレンフィルムのMD方向の熱収縮率RMD1より小さくてよく、例えば5.0%以下であってよい。
【0073】
第二のポリプロピレンフィルムのTD方向の熱収縮率RTD2は0.5%以上である。熱収縮率RTD2は、第一のポリプロピレンフィルムのTD方向の熱収縮率RTD1より小さく、例えば5.0%以下であってよい。
【0074】
上記範囲の熱収縮率RMD2及びRTD2を有する第二のポリプロピレンフィルムは、無延伸により成形すること等により得ることができる。
【0075】
ハイレトルト処理によるカールをより一層抑制する観点では、熱収縮率RMD1と熱収縮率RMD2との差(RMD1-RMD2)は小さいほど好ましく、熱収縮率RTD1と熱収縮率RTD2との差(RTD1-RTD2)は小さいほど好ましい。このような観点から、差(RMD1-RMD2)は、好ましくは8%以下(例えば、1%~8%)であり、差(RTD1-RTD2)は、好ましくは8%以下(例えば、1%~8%)である。
【0076】
シーラント層12の厚さは、上記第二のポリプロピレンフィルムの厚さとして例示した範囲であってよい。
【0077】
上記シーラント層12は、例えば、上記第二のポリプロピレンフィルムを接着剤(例えば、1液硬化型若しくは2液硬化型等のウレタン系接着剤)で他の層に貼りあわせるドライラミネート法、上記第二のポリプロピレンフィルムを無溶剤接着剤で他の層に貼りあわせるノンソルベントドライラミネート法、上記第二のポリプロピレンフィルムの構成材料を加熱溶融させ、カーテン状に押し出し、貼りあわせるエクストルージョンラミネート法等、いずれも公知の積層方法により他の層上に積層することができる。上記形成方法の中でも、ハイレトルト処理に対する耐性が高く好ましいのは、ドライラミネート法である。一方、包装袋を85℃以下の温度で処理する用途に用いるのであれば、ラミネート方式は特に制限されない。
【0078】
(中間層)
中間層13は、基材層11とシーラント層12との間に位置する。積層体100Bは、中間層13を備えない積層体100Aと比較して、製袋時の変形をより起こし難い。
【0079】
中間層13は第三のポリプロピレンフィルムを含む。第三のポリプロピレンフィルムは、無延伸ポリプロピレンフィルムであっても延伸ポリプロピレンフィルムであってもよい。延伸ポリプロピレンフィルム及び無延伸ポリプロピレンフィルムとしては、上記第一のポリプロピレンフィルム及び第二のポリプロピレンフィルムにおいて例示したポリプロピレンフィルムが挙げられる。耐衝撃性、耐熱性、耐水性、寸法安定性等の観点から、第三のポリプロピレンフィルムは延伸フィルムであることが好ましい。
【0080】
第三のポリプロピレンフィルムの厚さは、環境負荷低減のための材料削減の観点、及び、優れた耐熱性と優れた耐衝撃性と優れたガスバリア性とを得る観点から、18~30μmであってよい。
【0081】
第三のポリプロピレンフィルムの厚さは、環境負荷低減のための材料削減の観点、及び、優れた耐熱性と優れた耐衝撃性と優れたガスバリア性とを得る観点から、積層体の総厚の5~30%であってよい。
【0082】
第三のポリプロピレンフィルムの厚さは中間層13の厚さの90%以上であってよく、中間層13が第三のポリプロピレンフィルムのみからなっていてもよい。
【0083】
第三のポリプロピレンフィルムの厚さと第一のポリプロピレンフィルムの厚さの合計は、36~60μmであってよい。基材層11の厚さと中間層13の厚さの合計が上記範囲であってもよい。
【0084】
第三のポリプロピレンフィルムの厚さと第一のポリプロピレンフィルムの厚さの比(第一のポリプロピレンフィルムの厚さ/第三のポリプロピレンフィルムの厚さ)は、1.00以上であってよく、1.00超、1.25以上又は1.50以上であってもよい。中間層にある第三のポリプロピレンフィルムよりも基材層にある第一のポリプロピレンフィルムを厚くすることで、製袋時(ヒートシール時)の基材層の熱収縮及びこれによる積層体の変形をより一層抑制することができる。上記比は、例えば4.0以下であってよい。同様の観点から、中間層の厚さと基材層の厚さの比も上記範囲であってよい。
【0085】
第三のポリプロピレンフィルムのMD方向の熱収縮率RMD3は、製袋時の熱による変形及びハイレトルト処理によるカールをより一層抑制する観点から、好ましくは10.0%以下であり、8.0%以下、7.0%以下又は5.0%以下であってもよい。第三のポリプロピレンフィルムのMD方向の熱収縮率RMD3は、12.0%以下又は14.0%以下であってもよい。熱収縮率RMD3は、第二のポリプロピレンフィルムのMD方向の熱収縮率RMD2より大きくてよく、例えば1.0%以上であってよい。すなわち、第三のポリプロピレンフィルムの熱収縮率RMD3は、例えば、1.0~10.0%であってよい。熱収縮率RMD3は、3.0%以上であってもよい。
い。
【0086】
第三のポリプロピレンフィルムのTD方向の熱収縮率RTD3は12.0%以下であり、製袋時の熱による変形及びハイレトルト処理によるカールをより一層抑制する観点では、10.0%以下、8.0%以下又は7.0%以下であってよい。熱収縮率RTD3は、第二のポリプロピレンフィルムのTD方向の熱収縮率RTD2より大きく、例えば1.0%以上であってよく、3.0%以上であってもよい。すなわち、熱収縮率RTD3は、1.0~12.0%であってよく、3.0~12.0%であってもよい。
【0087】
ハイレトルト処理によるカールをより一層抑制する観点では、熱収縮率RMD3と熱収縮率RMD2との差(RMD3-RMD2)は小さいほど好ましく、熱収縮率RTD3と熱収縮率RTD2との差(RTD3-RTD2)は小さいほど好ましい。このような観点から、差(RMD3-RMD2)は、好ましくは8.0%以下(例えば、1.0%~8.0%)であり、差(RTD3-RTD2)は、好ましくは8.0%以下(例えば、1.0%~8.0%)である。
【0088】
中間層13の厚さは、上記第三のポリプロピレンフィルムの厚さとして例示した範囲であってよい。
【0089】
(接着剤層)
接着剤層Sを構成する接着剤の材料としては、例えば、ポリエステル-イソシアネート系樹脂、ウレタン樹脂、ポリエーテル系樹脂などが挙げられる。積層体をレトルトパウチ用途に使用するには、レトルト耐性のある2液硬化型のウレタン系接着剤を用いることが好ましい。すなわち、接着剤層Sは、2液硬化型のウレタン系接着剤の硬化物からなる層であることが好ましい。環境配慮の点からは、接着剤は3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)を含まなくてもよい。
【0090】
接着剤層Sの厚さは特に限定されないが、例えば、0.5~5μmであってよく、2~3μmであってよい。接着剤層Sの厚さが0.5μm以上であると、基材層と中間層との密着性を向上させ易く、5μm以下であると、積層体のバリア性及びリサイクル性を向上させ易い。接着剤層Sの厚さは、積層体中のポリプロピレンの含有量を90質量%以上としつつ十分な接着性を確保する観点から、0.5~4μmであってもよい。
【0091】
以上、基材層、シーラント層、中間層及び接着剤層について説明したが、各層の構成は上記に限定されるものではなく、基材層、シーラント層及び中間層が、ポリプロピレンフィルム(第一のポリプロピレンフィルム、第二のポリプロピレンフィルム、第三のポリプロピレンフィルム)からなる層以外の層を含んでいてもよい。ポリプロピレンフィルムからなる層以外の層としては、例えば、易接着層等のコート層、無機酸化物層、ガスバリア性被覆層、印刷層等が挙げられる。一例として、積層体100Bの部分拡大図を図4に示す。積層体100Bでは、第三のポリプロピレンフィルム15の上に、コート層16、無機酸化物層17及びガスバリア性被覆層18がこの順に積層されており、第三のポリプロピレンフィルム15、コート層16、無機酸化物層17及びガスバリア性被覆層18からなる中間層13と第一のポリプロピレンフィルム14からなる基材層11とが接着剤層Sを介して積層されている。上記ポリプロピレンフィルムからなる層以外の層は、第一のポリプロピレンフィルムの少なくとも一方の表面上、及び/又は、第三のポリプロピレンフィルムの少なくとも一方の表面上に設けられてよいが、ヒートシール時の熱による影響を受けにくくする観点では、図4に示すように、第一のポリプロピレンフィルムと第三のポリプロピレンフィルムとの間に位置するように設けられることが好ましい。
【0092】
以下、基材層11及び/又は中間層13に含まれ得る、コート層、無機酸化物層、ガスバリア性被覆層及び印刷層について説明する。
【0093】
[コート層]
コート層は、ポリプロピレンフィルムと無機酸化物層との密着性を向上させるためにポリプロピレンフィルムと無機酸化物層との間に設けられるアンカーコート層(「密着層」ともいう。)であってもよい。アンカーコート層がポリプロピレンフィルムと無機酸化物層との間に設けられることで、ポリプロピレンフィルムと無機酸化物層との密着性能の向上と、ポリプロピレンフィルム表面の平滑性の向上との二つの効果を得ることができる。なお、平滑性が向上することで無機酸化物層を欠陥なく均一に成膜し易くなり、高いバリア性を発現し易い。アンカーコート層は、アンカーコート剤を用いて形成することができる。
【0094】
アンカーコート剤としては、例えば、アクリル系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、酸基含有ポリウレタン及びポリアミンから形成されるポリウレタン樹脂等が挙げられる。アンカーコート剤としては、耐熱性及び層間接着強度の観点から、アクリル系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0095】
コート層の厚さは特に限定されないが、0.01~5μmの範囲であることが好ましく、0.03~3μmの範囲であることがより好ましく、0.05~2μmの範囲であることが特に好ましい。コート層の厚さが上記下限値以上であると、より十分な層間接着強度が得られる傾向にあり、他方、上記上限値以下であると所望のガスバリア性が発現し易い傾向にある。
【0096】
コート層をポリプロピレンフィルム上に塗工する方法としては、公知の塗工方法を特に制限なく使用可能であり、浸漬法(ディッピング法);スプレー、コーター、印刷機、刷毛等を用いる方法が挙げられる。また、これらの方法に用いられるコーター及び印刷機の種類並びにそれらの塗工方式としては、ダイレクトグラビア方式、リバースグラビア方式、キスリバースグラビア方式、オフセットグラビア方式等のグラビアコーター、リバースロールコーター、マイクログラビアコーター、チャンバードクター併用コーター、エアナイフコーター、ディップコーター、バーコーター、コンマコーター、ダイコーター等を挙げることができる。
【0097】
コート層の塗布量としては、アンカーコート剤を塗工して乾燥した後の1mあたりの質量が0.01~5g/mであることが好ましく、0.03~3g/mであることがより好ましい。アンカーコート剤を塗工して乾燥した後の1mあたりの質量が上記下限以上であると、成膜が十分となる傾向にあり、他方、上記上限以下であると十分に乾燥し易く溶剤が残留し難い傾向にある。
【0098】
コート層を乾燥させる方法としては、特に限定されないが、自然乾燥による方法や、所定の温度に設定したオーブン中で乾燥させる方法、上記コーター付属の乾燥機、例えばアーチドライヤー、フローティングドライヤー、ドラムドライヤー、赤外線ドライヤー等を用いる方法を挙げることができる。さらに、乾燥の条件としては、乾燥させる方法により適宜選択することができ、例えばオーブン中で乾燥させる方法においては、温度60~100℃にて、1秒間~2分間程度乾燥することが好ましい。
【0099】
コート層として、上記ポリウレタン樹脂に代えて、ポリビニルアルコール系樹脂を用いることもできる。ポリビニルアルコール系樹脂としては、ビニルエステル単位がケン化されてなるビニルアルコール単位を有するものであればよく、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)が挙げられる。コート層としてポリビニルアルコール系樹脂を用いる場合、コート層の形成方法としては、ポリビニルアルコール系樹脂溶液を用いた塗布や、多層押出等が挙げられる。
【0100】
[無機酸化物層]
無機酸化物層は、ガスバリア性の向上に寄与する。無機酸化物層に含まれる無機酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化錫等が挙げられる。透明性及びバリア性の観点から、無機酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、及び酸化マグネシウムからなる群より選択されてよい。また、加工時に引張り延伸性に優れる観点から、無機酸化物層を酸化ケイ素を用いた層とすることが好ましい。無機酸化物層を用いることにより、積層体のリサイクル性に影響を与えない範囲のごく薄い層で、高いバリア性を得ることができる。
【0101】
無機酸化物層のO/Si比は1.7以上であることが望ましい。O/Si比が1.7以上であると金属Siの含有割合が抑制されて良好な透明性が得られ易い。また、O/Si比は2.0以下であることが好ましい。O/Si比が2.0以下であるとSiOの結晶性が高くなって無機酸化物層が硬くなり過ぎることを防ぐことができ、良好な引張り耐性が得られる。これにより、ガスバリア性被覆層を積層する際に無機酸化物層にクラックが発生することを抑制することができる。また、包装袋に成形後もボイルやレトルト処理時の熱により基材層又は中間層が収縮することがあるが、O/Si比が2.0以下であることで無機酸化物層が上記収縮に追従し易く、バリア性の低下を抑制することができる。これらの効果をより十分に得る観点から、無機酸化物層のO/Si比は1.75以上1.9以下であることが好ましく、1.8以上1.85以下であることがより好ましい。
【0102】
無機酸化物層のO/Si比は、X線光電子分光法(XPS)により求めることができる。例えば、測定装置はX線光電子分光分析装置(日本電子株式会社製、商品名:JPS-90MXV)にて、X線源は非単色化MgKα(1253.6eV)を使用し、100W(10kV-10mA)のX線出力で測定することができる。O/Si比を求めるための定量分析には、それぞれO1sで2.28、Si2pで0.9の相対感度因子を用いることができる。
【0103】
無機酸化物層の膜厚は、10nm以上50nm以下であることが好ましい。膜厚が10nm以上であると、十分な水蒸気バリア性を得ることができる。また、膜厚が50nm以下であると、薄膜の内部応力による変形によりクラックが発生することを抑制し、水蒸気バリア性の低下を抑制することができる。なお、膜厚が50nmを超えると、材料使用量の増加、及び膜形成時間の長時間化等に起因してコストが増加し易いため、経済的観点からも好ましくない。上記と同様の観点から、無機酸化物層の膜厚は、20nm以上40nm以下であることがより好ましい。
【0104】
無機酸化物層は、例えば真空成膜で形成することができる。真空成膜では、物理気相成長法あるいは化学気相成長法を用いることができる。物理気相成長法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。化学気相成長法としては、熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0105】
上記真空成膜では、抵抗加熱式真空蒸着法、EB(Electron Beam)加熱式真空蒸着法、誘導加熱式真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、デュアルマグネトロンスパッタリング法、プラズマ化学気相堆積法(PECVD法)等が特に好ましく用いられる。但し、生産性を考慮すれば、現時点では真空蒸着法が最も優れている。真空蒸着法の加熱手段としては電子線加熱方式や抵抗加熱方式、誘導加熱方式のいずれかの方式を用いることが好ましい。
【0106】
[ガスバリア性被覆層]
ガスバリア性被覆層は、無機酸化物層を保護するとともに、ガスバリア性の向上に寄与し、無機酸化物層との相乗効果による高いガスバリア性を発現させるためのものである。ガスバリア性被覆層は、例えば、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、シランカップリング剤、及び、それらの加水分解物からなる群より選択される少なくとも1種を含有するガスバリア性被覆層形成用組成物を用いて形成された層であってよい。
【0107】
ガスバリア性被覆層は、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、シランカップリング剤、及び、それらの加水分解物からなる群より選択される少なくとも1種を含む水溶液或いは水/アルコール混合溶液を主剤とするガスバリア性被覆層形成用組成物(以下、コーティング剤ともいう)を用いて形成することができる。コーティング剤は、レトルト処理等の熱水処理後のガスバリア性をより十分に維持する観点から、少なくともシランカップリング剤又はその加水分解物を含有することが好ましく、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド及びそれらの加水分解物からなる群より選択される少なくとも1種と、シランカップリング剤又はその加水分解物とを含有することがより好ましく、水酸基含有高分子化合物又はその加水分解物と、金属アルコキシド又はその加水分解物と、シランカップリング剤又はその加水分解物とを含有することが更に好ましい。コーティング剤は、例えば、水溶性高分子である水酸基含有高分子化合物を水系(水或いは水/アルコール混合)溶媒で溶解させた溶液に、金属アルコキシドとシランカップリング剤とを直接、或いは予め加水分解させるなどの処理を行ったものを混合して調製することができる。
【0108】
コーティング剤に用いられる水酸基含有高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。これらの中でもポリビニルアルコール(PVA)をガスバリア性被覆層のコーティング剤に用いた場合、ガスバリア性が特に優れるので好ましい。
【0109】
金属アルコキシドとしては、テトラエトキシシラン〔Si(OC〕、トリイソプロポキシアルミニウム〔Al(O-2’-C〕などが挙げられる。テトラエトキシシラン及びトリイソプロポキシアルミニウムは、加水分解後、水系の溶媒中において比較的安定であるので好ましい。
【0110】
シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。シランカップリング剤は、これらの多量体であってもよい。
【0111】
コーティング剤には、ガスバリア性を損なわない範囲で、イソシアネート化合物、あるいは、分散剤、安定化剤、粘度調整剤、着色剤などの公知の添加剤を必要に応じて加えることも可能である。コーティング剤には、必要に応じて酸触媒、アルカリ触媒、光重開始剤等を加えてよい。
【0112】
ガスバリア性被覆層の厚さは、積層体中のポリプロピレンの含有量を90質量%以上としつつ優れたガスバリア性を得る観点から、0.5~4μmが好ましく、0.5~3μmがより好ましく、1μm以上3μm以下が更に好ましい。ガスバリア性被覆層の厚さは、50~1000nm又は100~500nmであってもよい。ガスバリア性被覆層の厚さが50nm以上であると、より十分なガスバリア性を得ることができる傾向があり、ガスバリア性被覆層の厚さが1000nm以下であると、十分な柔軟性を保持できる傾向がある。
【0113】
ガスバリア性被覆層を形成するためのコーティング剤は、例えば、ディッピング法、ロールコート法、グラビアコート法、リバースグラビアコート法、エアナイフコート法、コンマコート法、ダイコート法、スクリーン印刷法、スプレーコート法、グラビアオフセット法等により塗布することができる。このコーティング剤を塗布してなる塗膜は、例えば、熱風乾燥法、熱ロール乾燥法、高周波照射法、赤外線照射法、UV照射法、またはそれらの組み合わせにより乾燥させることができる。
【0114】
上記塗膜を乾燥させる際の温度は、例えば、温度50~150℃とすることができ、温度70~100℃とすることが好ましい。乾燥時の温度を上記範囲内とすることで、無機酸化物層やガスバリア性被覆層にクラックが発生することをより一層抑制でき、優れたバリア性を発現することができる。
【0115】
[印刷層]
印刷層は、内容物に関する情報の表示、内容物の識別、隠蔽性の向上、あるいは包装袋の意匠性向上を目的として、積層体の外側から見える位置に設けられてよい。印刷方法及び印刷インキは特に制限されず、既知の印刷方法及び印刷インキの中からフィルムへの印刷適性、色調などの意匠性、密着性、食品容器としての安全性などを考慮して適宜選択される。印刷方法としては、例えば、グラビア印刷法、オフセット印刷法、グラビアオフセット印刷法、フレキソ印刷法、インクジェット印刷法などを用いることができる。中でもグラビア印刷法は生産性や絵柄の高精細度の観点から、好ましく用いることができる。
【0116】
印刷層の密着性を高めるため、印刷層を設ける層の表面には、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理などの各種前処理を施してよく、易接着層などのコート層を設けても構わない。印刷層を設ける層の表面は、ポリプロピレンフィルム(第一のポリプロピレンフィルム又は第三のポリプロピレンフィルム)の表面であってよく、ガスバリア性被覆層の表面であってもよい。印刷層の厚さは、0.1~5μmであってよい。
【0117】
以上、本開示の好適な実施形態に係る積層体(100A,100B)について説明したが、本開示の積層体は上記実施形態に限定されない。例えば、上記積層体(100A,100B)では、各層が接着剤層Sで接着されているが、積層体は接着剤層Sを備えなくてもよい。例えば、積層体100Aの基材層11及びシーラント層12が互いに直接接着されていてもよく、積層体100Bの基材層11及び中間層13、並びに/又は、中間層13及びシーラント層12が互いに直接接着されていてもよい。ただし、高接着力の観点では、基材層と中間層とが、厚さ0.5~4μmの接着剤層によって貼合されていることが好ましい。また、同様の観点から、中間層とシーラント層とが、厚さ0.5~4μmの接着剤層によって貼合されていることが好ましい。
【0118】
<包装体>
包装袋は、上述した積層体を製袋してなる。包装体の形状に特に制限はないが、包装体は、例えば、1枚の積層体をシーラント層が対向するように二つ折りにした後、3方をヒートシールすることによって袋形状としたものであってよく、2枚の積層体をシーラント層が対向するように重ねた後、4方をヒートシールすることによって袋形状としたものであってもよく、2枚の積層体をシーラント層が対向するように重ねるとともに、底材も挟んでシールする自立可能なスタンディングパウチであってもよい。包装袋は、内容物として食品、医薬品等の内容物を収容し、レトルト処理やボイル処理などの加熱殺菌処理を施すことができる。
【0119】
レトルト処理は、一般に食品、医薬品等を保存するために、カビ、酵母、細菌などの微生物を加圧殺菌する方法である。通常は、食品等を包装した包装袋を、105~140℃、0.15~0.30MPaで10~120分の条件で加圧殺菌処理をする。レトルト装置は、加熱蒸気を利用する蒸気式と加圧加熱水を利用する熱水式があり、内容物となる食品等の殺菌条件に応じて適宜使い分ける。
【0120】
ボイル処理は、食品、医薬品等を保存するため湿熱殺菌する方法である。ボイル処理は、通常、熱水槽を用いて100℃以下で処理を行う。より具体的には、内容物にもよるが、食品等を包装した包装袋を、60~100℃、大気圧下で、10~120分の条件で湿熱殺菌処理を行う。方法としては、一定温度の熱水槽の中に浸漬し一定時間処理した後に取り出すバッチ式と、熱水槽の中をトンネル式に通して処理する連続式がある。
【0121】
上記包装袋は、125℃以上の高温でのレトルト処理(ハイレトルト処理)によるカールを生じ難いことから、特に、ハイレトルト処理を施す用途に好適に用いることができる。また、上記包装袋は、製袋時の熱による変形(歪み)及びシワが少ないため、良好な外観を有しており、搬送性及び内容物封入時の作業性にも優れる。
【実施例
【0122】
本開示を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本開示はこれらの例に限定されるものではない。
【0123】
<基材層、中間層及びシーラント層の準備>
基材層及び中間層の材料として、下記表1に示す熱収縮率を有する、厚さ20μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP-1~OPP-8)を準備した。また、シーラント層として、下記表2に示す熱収縮率及び厚さを有する無延伸ポリプロピレンフィルム(CPP-1~CPP-3)を準備した。なお、表中のRMDはフィルムのMD方向における熱収縮率を示し、RTDはフィルムのTD方向における熱収縮率を示す。RMD及びRTDは、上記実施形態で説明した(a)~(g)の手順にしたがって測定した。
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】
【0126】
<実施例1>
OPP-1の上に、OPP-2を、2液型の接着剤(三井化学株式会社製、商品名:主剤A525/硬化剤A52)を介してドライラミネート法によってラミネートした後、同様にして、OPP-2の上にCPP-1をラミネートした。この際、OPP-1のMD方向とOPP-2のMD方向とCPP-1のMD方向とを一致させた。これにより、OPP-1(基材層)/S(接着剤層)/OPP-2(中間層)/S(接着剤層)/CPP-1(シーラント層)の積層構造を有する積層体を製造した。得られた積層体におけるポリプロピレンの含有量は90質量%以上であり、接着剤層(S)の厚さはいずれも3.1μmであった。
【0127】
<実施例2>
(コート層形成用組成物の調製)
アクリルポリオールとトリレンジイソシアネートとを、アクリルポリオールのOH基の数に対してトリレンジイソシアネートのNCO基の数が等量となるように混合し、全固形分(アクリルポリオール及びトリレンジイソシアネートの合計量)が5質量%になるよう酢酸エチルで希釈した。希釈後の混合液に、さらにβ-(3,4エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシランを、アクリルポリオール及びトリレンジイソシアネートの合計量100質量部に対して5質量部となるように添加し、これらを混合することでコート層形成用組成物(アンカーコート剤)を調製した。
【0128】
(ガスバリア性被覆層形成用組成物の調製)
下記のA液、B液及びC液を、それぞれ65/25/10の質量比で混合することで、ガスバリア性被覆層形成用組成物を調製した。
A液:テトラエトキシシラン(Si(OC)17.9gとメタノール10gに0.1N塩酸72.1gを加えて30分間攪拌して加水分解させた固形分5質量%(SiO換算)の加水分解溶液。
B液:ポリビニルアルコールの5質量%水/メタノール溶液(水:メタノールの質量比は95:5)。
C液:1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルプロピル)イソシアヌレートを水/イソプロピルアルコールの混合液(水:イソプロピルアルコールの質量比は1:1)で固形分5質量%に希釈した加水分解溶液。
【0129】
(ガスバリアフィルムの作製)
片面にコロナ処理が施されたOPP-2の該コロナ処理面に、上記コート層形成用組成物をグラビアロールコート法にて塗工し、60℃で乾燥及び硬化させ、塗布量が0.1g/mであるアクリル系ポリウレタン樹脂からなるコート層(C1)を形成した。次に、電子線加熱方式による真空蒸着装置により、厚さ30nmの酸化ケイ素からなる透明な無機酸化物層(G1)を形成した。無機酸化物層(G1)としては、蒸着材料種を調整し、O/Si比が1.8であるシリカ蒸着層を形成した。O/Si比は、X線光電子分光分析装置(日本電子株式会社製、商品名:JPS-90MXV)にて、X線源は非単色化MgKα(1253.6eV)を使用し、100W(10kV-10mA)のX線出力で測定した。O/Si比を求めるための定量分析には、それぞれO1sで2.28、Si2pで0.9の相対感度因子を用いて行った。
【0130】
次に、無機酸化物層(G1)上に、上記ガスバリア性被覆層形成用組成物をグラビアロールコート法にて塗工し、オーブン中、張力20N/m、乾燥温度120℃の条件で加熱乾燥させ、厚さ0.5μmのガスバリア性被覆層(G2)を形成した。これにより、中間層となるガスバリアフィルムを得た。
【0131】
(積層体の作製)
上記ガスバリアフィルムのガスバリア性被覆層(G2)の上に、基材層となるOPP-1を、2液型の接着剤(三井化学株式会社製、商品名:主剤A525/硬化剤A52)を介してドライラミネート法によってラミネートした後、同様にして、上記ガスバリアフィルムのOPP-2の上にシーラント層となるCPP-1をラミネートした。この際、OPP-1のMD方向とOPP-2のMD方向とCPP-1のMD方向とを一致させた。これにより、OPP-1(基材層)/S(接着剤層)/G2(ガスバリア性被覆層)/G1(無機酸化物層)/C1(コート層)/OPP-2/S(接着剤層)/CPP-1(シーラント層)の積層構造を有する積層体を製造した。得られた積層体におけるポリプロピレンの含有量は90質量%以上であり、接着剤層(S)の厚さはいずれも3.1μmであった。
【0132】
<実施例3>
OPP-1の上に、CPP-1を、2液型の接着剤(三井化学株式会社製、商品名:主剤A525/硬化剤A52)を介してドライラミネート法によってラミネートした。この際、OPP-1のMD方向とCPP-1のMD方向とを一致させた。これにより、実施例3の積層体(表3に示す積層構造の積層体)を製造した。得られた積層体におけるポリプロピレンの含有量は90質量%以上であり、接着剤層(S)の厚さは3.1μmであった。
【0133】
<実施例4>
CPP-1に代えてCPP-3を用いたこと以外は実施例3と同様にして、実施例4の積層体(表3に示す積層構造の積層体)を製造した。
【0134】
<実施例5>
(コート層形成用組成物の調製)
タケラックWPB-341(三井化学株式会社製)と、イソシアネートシランKBE-403(信越化学工業株式会社製)とを、固形分比で9:1となるように混合することで、コート層形成用組成物を調製した。
【0135】
(ガスバリアフィルムの作製)
OPP-2の表面に、上記コート層形成用組成物をグラビアロールコート法にて塗工し、60℃で乾燥及び硬化させ、塗布量が1.0g/mである酸基含有ポリウレタン及びポリアミンから形成されるポリウレタン樹脂からなるコート層(C2)を形成した。次に、実施例2と同様にして、コート層(C2)上に厚さ30nmの酸化ケイ素からなる透明な無機酸化物層(G1)を形成した。これにより、中間層となるガスバリアフィルムを得た。
【0136】
(積層体の作製)
上記で作成したガスバリアフィルムを用いたこと、及び、CPP-1に代えてCPP-3を用いたこと以外は、実施例2の「積層体の作製」と同様にして、実施例5の積層体(表3に示す積層構造の積層体)を製造した。
【0137】
<実施例6>
OPP-2に代えてOPP-1を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例6の積層体(表3に示す積層構造の積層体)を製造した。
【0138】
<比較例1>
OPP-1に代えてOPP-3を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の積層体(表3に示す積層構造の積層体)を製造した。
【0139】
<比較例2>
CPP-1に代えてCPP-2を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の積層体(表3に示す積層構造の積層体)を製造した。
【0140】
<実施例7~10及び比較例3~4>
OPP-1に代えて表3に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP-3~OPP-8)を用いたこと、及び、ガスバリア性被覆層形成用組成物の塗布量を変更することで、厚さ0.5μmのガスバリア性被覆層(G2)に代えて厚さ0.3μmのガスバリア性被覆層(G3)を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例7~10及び比較例3~4の積層体(表3に示す積層構造の積層体)を製造した。
【0141】
<分析1:結晶化度の測定>
実施例及び比較例で得られた積層体を測定試料とし、斜入射X線回折法により以下の条件で基材層を構成する二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP1、OPP-3~OPP-7)のMD方向及びTD方向の結晶化度を測定した。MD方向の結晶化度を測定する場合は、X線の照射装置と検出器とがMD方向に垂直な方向に並ぶように配置し、TD方向の結晶化度を測定する場合は、X線の照射装置と検出器とがTD方向に垂直な方向に並ぶように配置して、測定を行った。結果を表3に示す。
(測定条件)
測定装置:X線回折装置(株式会社リガク製、商品名:RINT TTR III)
光学系:平行法(検出器:シンチレーションカウンタ、用途:小角用、対象:試料表面)
走査軸:2θ/θ
測定方法:連続
計数単位:cps
開始角度:3°(目安)
終了角度:35°
サンプリング幅:0.02°
スキャンスピード:4°/min
電圧:50kV
電流:300mA
発散縦スリット:10mm
散乱スリット:解放
受光スリット:解放
【0142】
<分析2:融点の測定>
基材層を構成する二軸延伸ポリプロピレンフィルムの融点(融解ピーク温度)を、示差走査熱量測定(DSC)により、以下に示す方法で測定した。
まず、実施例及び比較例で作製した積層体から基材層である二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP-1、OPP-3~OPP-7)を剥離し、測定試料とした。この測定試料を用いて、下記(i)の条件で熱処理を行った後に下記(ii)の条件で示差走査熱量測定を行い、熱処理後の融点(融解ピーク温度)を測定した。また、上記測定試料を用いて、下記(iii)の条件で示差走査熱量測定を行い、熱処理前の融点(融解ピーク温度)を測定した。各測定において融解ピークが複数観測された場合、それら全ての温度を表3に示した。示差走査熱量計としては、日立ハイテクサイエンス社製のDSC7000X(商品名)を用いた。
(i)25℃から230℃まで昇温速度10℃/分で昇温し、230℃で2分間保持した後、230℃から25℃まで降温速度10℃/分で降温し、25℃で5分間保持。
(ii)25℃から230℃まで昇温速度10℃/分で昇温し、230℃で5分間保持。
(iii)25℃から230℃まで昇温速度10℃/分で昇温し、230℃で2分間保持。
【0143】
【表3】
【0144】
<評価1:製袋時の変形量(定量的評価)>
実施例及び比較例で得られた積層体の製袋時(ヒートシール時)の変形量を、以下の手順にしたがって評価した。
(a1)積層体を150mm×150mmの正方形状に切り出して評価試験用のサンプルとした。このサンプルを2枚用意した。
(b1)シーラント層側を合わせるように2枚のサンプルを重ねた後、4辺上を温度160℃に設定したヒートシールバーにより、面圧1.0MPaで0.3秒間加熱してヒートシールした。この際、シール幅(正方形の一辺に垂直な方向の幅)は10mmとした。ヒートシールバーは上側が金属製であり、下側がシリコン製であるバーを用いた。
(c1)ヒートシール後、得られた積層サンプル(評価用パウチ)を室温(25℃)で30分間放置してから定盤上に置き、金尺を用いて、評価用パウチの4辺の定盤からの浮き上がり高さを計測した。4辺の浮き上がり高さのうちの最大値を評価用パウチの浮き上がり高さ(X)として記録し、以下の基準で変形量を評価した。結果を表4に示す。
[基準]
A:高さ(X)が10mm以下
B:高さ(X)が10mmより大きい
【0145】
<評価2:製袋時の変形度(定性的評価)>
実施例及び比較例で得られた積層体の製袋時(ヒートシール時)の変形度を、以下の手順にしたがって評価した。
(a2)積層体を60mm×60mmの正方形状に切り出して評価試験用のサンプルとした。このサンプルを2枚用意した。
(b2)シーラント層側を合わせるように2枚のサンプルを重ねた後、3方パウチ用製袋機を用いて、3辺を面圧1.0MPa、温度190℃、時間0.3秒でヒートシールした。この際、シール幅(正方形の一辺に垂直な方向の幅)は10mmとした。
(c2)ヒートシール後、得られた積層サンプル(評価用のパウチ)のシール部の歪みを目視にて観察し、図5の(a)~(c)を指標として、以下の基準に基づき製袋時の変形度を評価した。結果を表4に示す。
A:歪みが確認されない。
B:小さな歪みが確認される。
C:大きな歪みが確認される。
なお、図5の(a)~(c)は、パウチのシール部の断面図であって、ヒートシール後のパウチの歪みの状態を示す模式図である。図5の(a)に示すパウチは、歪みがほぼないと評価され、上記「A」と評価される。図5の(b)に示すパウチは、小さな歪みがあると評価され、上記「B」と評価される。図5の(c)に示すパウチは、大きな歪みがあると評価され、上記「C」と評価される。評価の際、パウチ700は、机800に置かれている。
【0146】
<評価3:製袋時の白化>
上記評価2で作製したパウチのシール部が白化しているかどうかを目視にて観察し、以下の基準に基づいて評価した。結果を表4に示す。
A:白化が確認されない。
B:透かすと分かる薄い白化が確認される。
C:明らかな白化が確認される。
【0147】
<評価4:製袋時のシワ>
上記評価2で作製したパウチのシール部にシワが発生しているかどうかを目視にて観察し、以下の基準に基づいて評価した。結果を表4に示す。
A:シワが確認されない。
B:浅いシワが確認される。
C:深いシワが確認される。
【0148】
<評価5:ハイレトルト処理時のカール量>
実施例及び比較例で得られた積層体のハイレトルト処理時のカール量を、以下の手順にしたがって評価した。
(a)積層体を250mm×250mmの正方形状に切り出して評価試験用のサンプルとした。
(b)基材層が上面になるようにサンプルをレトルト窯内に配置し、0.3barsの圧力下で、128℃16分間のシャワーレトルト処理を行った。
(c)シャワーレトルト処理後のサンプルを、室温で30分間静置してから、該サンプルをその中央部分から200mm×200mmの正方形状に切り出し、評価サンプルとした。
(d)上記(c)で得られたサンプルを定盤上に置き、図6の(a)に示すように、サンプル(図6中の300)が円弧状である場合には、サンプルの定盤からの浮き上がり高さ(H)と、弧の幅(W’)とを計測し、図6の(b)に示すように、サンプル(図6中の300)が円筒状である場合には、円筒の内直径(W”)を計測した。計測には金尺を用いた。
(e)サンプルが円弧状である場合には、下記式(a)に基づき、曲率半径(R)を算出し、以下の基準でカール量を評価した。サンプル円筒状である場合には、円筒の内半径(W”/2)を曲率半径Rとして以下の基準でカール量を評価した。結果を表4に示す。
R=([W’/2]+[H])/(2×[H]) …(a)
[基準]
A…曲率半径Rが50以上
B…曲率半径Rが50未満
【0149】
【表4】
【符号の説明】
【0150】
11…基材層、12…シーラント層、13…中間層、14…第一のポリプロピレンフィルム、15…第三のポリプロピレンフィルム、16…コート層、17…無機酸化物層、18…ガスバリア性被覆層、100A,100B…積層体、S…接着剤層。


図1
図2
図3
図4
図5
図6