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特許7487865ホース、ホースの製造方法、および、油圧式ポンプ
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  • 特許-ホース、ホースの製造方法、および、油圧式ポンプ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】ホース、ホースの製造方法、および、油圧式ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F16L 11/08 20060101AFI20240514BHJP
【FI】
F16L11/08 B
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020031354
(22)【出願日】2020-02-27
(65)【公開番号】P2021134849
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】302027675
【氏名又は名称】カジレーネ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】仲井 朝美
(72)【発明者】
【氏名】梶 政隆
(72)【発明者】
【氏名】本近 俊裕
(72)【発明者】
【氏名】井出 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】松本 信彦
【審査官】伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-164291(JP,A)
【文献】実開昭52-098221(JP,U)
【文献】特開平07-144372(JP,A)
【文献】特表2012-531481(JP,A)
【文献】実開昭62-066083(JP,U)
【文献】特開2014-173196(JP,A)
【文献】実開昭48-047509(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2011/0155310(US,A1)
【文献】特開2010-144882(JP,A)
【文献】特開2016-156464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部が空洞である管と、前記管の外周に巻き付いている連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維と、前記管の外側にある熱硬化性樹脂を有し、
前記熱硬化性樹脂は、弾性率が0.5~10MPaであり、
前記熱硬化性樹脂の少なくとも一部が前記連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維に含浸しており、
さらに、前記連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維の外周に巻き付いている熱可塑性樹脂繊維を有する、ホース
前記熱硬化性樹脂の弾性率は、熱硬化性樹脂を該熱硬化性樹脂の硬化温度で2時間加熱後、23℃、55%の相対湿度の条件下で2週間調温した後、JIS K7161:2019に準じて測定して得られた数値である。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂が、示差走査熱量計で測定したとき、融点を有し、かつ、前記融点が180℃以上である、請求項に記載のホース。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂繊維のスナッグ試験による評価が2以上である、請求項またはに記載のホース;スナッグ試験による評価は、JIS L 1058:2019 D-1法に準じて、熱可塑性樹脂繊維の編物に対して測定して得られた数値であり、前記編物は、50デニール/36フィラメントの熱可塑性樹脂繊維束を3本合わせたものを、18ゲージの筒編み機で作製した試験布である。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂繊維が前記連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維の表面に巻き付いている、請求項のいずれか1項に記載のホース。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂繊維が、前記熱可塑性樹脂繊維と連続強化繊維を含む混繊糸として、前記連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維の外周に巻き付いている、請求項のいずれか1項に記載のホース。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂を含む、請求項のいずれか1項に記載のホース。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂が、ジアミンに由来する構成単位およびジカルボン酸に由来する構成単位から構成され、ジアミンに由来する構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来するポリアミド樹脂を含む、請求項のいずれか1項に記載のホース。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂の弾性率が、前記ホースの弾性率の15倍以上200倍以下である、請求項のいずれか1項に記載のホース;ホースの弾性率は、チャック間距離60mm、引張速度20mm/分の条件で、他はJIS K7113:2019に準拠して引張試験し、算出した値であり、前記熱可塑性樹脂の弾性率は、厚み4mmのISO試験片を120℃で1時間乾燥した後、JIS K7161:2019に準じて測定して得られた数値である。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂の弾性率が、前記熱硬化性樹脂の弾性率の5000倍以下である、請求項のいずれか1項に記載のホース;
前記熱可塑性樹脂の弾性率は、厚み4mmのISO試験片を120℃で1時間乾燥した後、JIS K7161:2019に準じて測定して得られた数値である。
【請求項10】
前記熱硬化性樹脂の硬化温度で1時間加熱後の、前記熱可塑性樹脂繊維の熱収縮率と、前記連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維の熱収縮率の差が2%以下である、請求項のいずれか1項に記載のホース。
【請求項11】
前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載のホース。
【請求項12】
前記管は、樹脂チューブである、請求項1~11のいずれか1項に記載のホース。
【請求項13】
内部が空洞である管と、前記管の外周に巻き付いている連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維と、前記管の外側にある熱硬化性樹脂を有し、
前記熱硬化性樹脂は、弾性率が0.5~10MPaであり、
前記熱硬化性樹脂の少なくとも一部が前記連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維に含浸しており、
前記連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維は、組紐の状態で、前記管の外周に巻き付いている、ホース
前記熱硬化性樹脂の弾性率は、熱硬化性樹脂を該熱硬化性樹脂の硬化温度で2時間加熱後、23℃、55%の相対湿度の条件下で2週間調温した後、JIS K7161:2019に準じて測定して得られた数値である。
【請求項14】
内部が空洞である管の外周に、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維を巻き付けること、
前記連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維よりも外側から、熱硬化性樹脂を適用し、該熱硬化性樹脂の少なくとも一部を前記連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維に含浸させることを含み、
前記熱硬化性樹脂は、弾性率が0.5~10MPaであり、
さらに、前記管の外であって、前記連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維の外に、熱可塑性樹脂繊維を含む糸状材料を巻き付けることを含み、前記熱可塑性樹脂繊維を巻き付けた後に、前記熱硬化性樹脂を適用して、前記熱硬化性樹脂の少なくとも一部を前記連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維に含浸させることを含む、ホースの製造方法;
前記熱硬化性樹脂の弾性率は、熱硬化性樹脂を該熱硬化性樹脂の硬化温度で2時間加熱後、23℃、55%の相対湿度の条件下で2週間調温した後、JIS K7161:2019に準じて測定して得られた数値である。
【請求項15】
前記熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂が、示差走査熱量計で測定したとき、融点を有し、前記熱硬化性樹脂の硬化温度が、前記熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂の融点より低い、請求項14に記載のホースの製造方法。
【請求項16】
前記熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂のJIS L 1096:2019に従って測定した含水率が6%以下である、請求項14または15に記載のホースの製造方法。
【請求項17】
請求項1~13のいずれか1項に記載のホースを有する油圧式ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホース、ホースの製造方法、および、油圧式ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
油圧機器や空圧機器はパスカルの原理を利用し、小さい力を大きな力に変換する機器である。これらの機器類は高圧流体を、ホースを介して使用するため、内圧によるホースの膨張、破裂といった問題がある。このような高圧流体を使用する機器類における問題に対応するため、樹脂製のチューブ(管)にステンレスメッシュが被覆された、ステンレスメッシュホース(フレキ)が知られている。
上記ステンレスメッシュホースは金属パイプ級の機械特性が要求されるホース、例えば、自動車用のブレーキホースの様な部位で使用されるが、ステンレスメッシュホースは、繰り返しの屈曲による疲労破壊の問題がある。例えば、図1に示すように、油圧式ポンプなどにおいて、ステンレスメッシュホース11と本体12の間のコネクタ13の部分で疲労破壊が起きやすい。また、ステンレスメッシュホースは、金属で構成されているため重く、ホース径の大径化に伴ってその傾向は顕著となる。
【0003】
そこで、ステンレスメッシュホースに代えて、ファイバーメッシュを用いることが検討されている。具体的には、特許文献1には、液体を運ぶためのチューブ、チューブを被うファイバーメッシュ層、該ファイバーメッシュ層で被覆された被覆チューブの一方の端にある第一取り付け具、被覆チューブの他方の端にある第二取り付け具、および被覆チューブの一方の端から他方の端までを被い、かつ、第一の取り付け具が被覆チューブと接する第一のポイントを被い、第二取り付け具が被覆チューブと接する第二ポイントを被い、更に被覆チューブと取り付け具を保護するコーティングとからなる油圧ブレーキホース・アセンブリーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-241570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示すように、液体を運ぶためのチューブに、チューブを被うファイバーとして炭素繊維やガラス繊維を用いると、金属繊維などを用いる場合に比べて、軽量化を図ることができ、また、フレキシブル性が向上する傾向にある。しかしながら、炭素繊維やガラス繊維は、金属繊維などに比べて、破断しやすい傾向にある。また、炭素繊維やガラス繊維を用いた場合でもフレキシブル性に劣る場合があることが分かった。特に、フレキシブル性に劣ると、コネクタの部分で疲労破壊が起こってしまう。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、軽量性に優れたホースであって、疲労破壊耐性に優れたホース、ホースの製造方法、および、油圧式ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、管の外周に連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維を巻き付けることに加え、熱硬化性樹脂をコートし、熱硬化性樹脂の弾性率を所定の範囲とすることにより、上記課題を解決しうることを見出した。具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>内部が空洞である管と、前記管の外周に巻き付いている連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維と、前記管の外側にある熱硬化性樹脂を有し、
前記熱硬化性樹脂は、弾性率が0.5~10MPaであり、
前記熱硬化性樹脂の少なくとも一部が前記連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維に含浸している、ホース;
前記熱硬化性樹脂の弾性率は、熱硬化性樹脂を該熱硬化性樹脂の硬化温度で2時間加熱後、23℃、55%の相対湿度の条件下で2週間調温した後、JIS K7161:2019に準じて測定して得られた数値である。
<2>さらに、前記連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維の外周に巻き付いている熱可塑性樹脂繊維を有する、<1>に記載のホース。
<3>前記熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂が、示差走査熱量計で測定したとき、融点を有し、かつ、前記融点が180℃以上である、<2>に記載のホース。
<4>前記熱可塑性樹脂繊維のスナッグ試験による評価が2以上である、<2>または<3>に記載のホース;スナッグ試験による評価は、JIS L 1058:2019 D-1法に準じて、熱可塑性樹脂繊維の編物に対して測定して得られた数値であり、前記編物は、50デニール/36フィラメントの熱可塑性樹脂繊維束を3本合わせたものを、18ゲージの筒編み機で作製した試験布である。
<5>前記熱可塑性樹脂繊維が前記連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維の表面に巻き付いている、<2>~<4>いずれか1つに記載のホース。
<6>前記熱可塑性樹脂繊維が、前記熱可塑性樹脂繊維と連続強化繊維を含む混繊糸として、前記連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維の外周に巻き付いている、<2>~<5>いずれか1つに記載のホース。
<7>前記熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂を含む、<2>~<6>のいずれか1つに記載のホース。
<8>前記熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂が、ジアミンに由来する構成単位およびジカルボン酸に由来する構成単位から構成され、ジアミンに由来する構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来するポリアミド樹脂を含む、<2>~<6>のいずれか1つに記載のホース。
<9>前記熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂の弾性率が、前記ホースの弾性率の15倍以上200倍以下である、<2>~<8>のいずれか1つに記載のホース;ホースの弾性率は、チャック間距離60mm、20mm/分の条件で、他はJIS K7113:2019に準拠して引張試験し、算出した値であり、前記熱可塑性樹脂の弾性率は、厚み4mmのISO試験片を120℃で1時間乾燥した後、JIS K7161:2019に準じて測定して得られた数値である。
<10>前記熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂の弾性率が、前記熱硬化性樹脂の弾性率の5000倍以下である、<2>~<9>のいずれか1つに記載のホース;
前記熱可塑性樹脂の弾性率は、厚み4mmのISO試験片を120℃で1時間乾燥した後、JIS K7161:2019に準じて測定して得られた数値である。
<11>前記熱硬化性樹脂の硬化温度で1時間加熱後の、前記熱可塑性樹脂繊維の熱収縮率と、前記連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維の熱収縮率の差が2%以下である、<2>~<10>のいずれか1つに記載のホース。
<12>前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂を含む、<1>~<11>のいずれか1つに記載のホース。
<13>前記管は、樹脂チューブである、<1>~<12>のいずれか1つに記載のホース。
<14>前記連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維は、組紐の状態で、前記管の外周に巻き付いている、<1>~<13>のいずれか1つに記載のホース。
<15>内部が空洞である管の外周に、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維を巻き付けること、
前記連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維よりも外側から、熱硬化性樹脂を適用し、該熱硬化性樹脂の少なくとも一部を前記連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維に含浸させることを含み、
前記熱硬化性樹脂は、弾性率が0.5~10MPaである、ホースの製造方法;
前記熱硬化性樹脂の弾性率は、熱硬化性樹脂を該熱硬化性樹脂の硬化温度で2時間加熱後、23℃、55%の相対湿度の条件下で2週間調温した後、JIS K7161:2019に準じて測定して得られた数値である。
<16>さらに、前記管の外であって、前記連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維の外に、熱可塑性樹脂繊維を含む糸状材料を巻き付けることを含み、前記熱可塑性樹脂繊維を巻き付けた後に、前記熱硬化性樹脂を適用して、前記熱硬化性樹脂の少なくとも一部を前記連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維に含浸させることを含む、<15>に記載のホースの製造方法。
<17>前記熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂が、示差走査熱量計で測定したとき、融点を有し、前記熱硬化性樹脂の硬化温度が、前記熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂の融点より低い、<16>に記載のホースの製造方法。
<18>前記熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂のJIS L 1096:2019に従って測定した含水率が6%以下である、<16>または<17>に記載のホースの製造方法。
<19><1>~<14>のいずれか1つに記載のホースを有する油圧式ポンプ。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、軽量性に優れたホースであって、疲労破壊耐性に優れたホース、ホースの製造方法、および、油圧式ポンプを提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は公知のステンレスメッシュホースを用いた油圧式ポンプを示す概略図である。
図2図2は本発明のホースの製造プロセスの一例を示す概略図である。
図3図3は管の外周に連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維を巻き付けた状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
【0010】
本実施形態のホースは、内部が空洞である管と、前記管の外周に巻き付いている連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維と、前記管の外側にある熱硬化性樹脂を有し、前記熱硬化性樹脂は、弾性率が0.5~10MPaであり、前記熱硬化性樹脂の少なくとも一部が連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維に含浸していることを特徴とする。前記熱硬化性樹脂の弾性率は、熱硬化性樹脂を該熱硬化性樹脂の硬化温度で2時間加熱後、23℃、55%の相対湿度の条件下で2週間調温した後、JIS K7161:2019に準じて測定して得られた数値である。
このような構成とすることにより、軽量性に優れ、かつ、疲労破壊耐性に優れたホースが得られる。すなわち、熱硬化性樹脂の弾性率を所定の範囲とすることにより、軽量でフレキシブル性に優れたホースが得られる。その結果、疲労破壊を効果的に抑制することが可能になる。さらに、耐水性および耐腐食性に優れたホースが得られる。
【0011】
以下、図2を参照しつつ、本実施形態のホースについて説明する。
図2は、本実施形態のホースの製造プロセスの一例を示す概略図である。20はホースを、21は管(チューブ)を、22は連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維を、23は熱可塑性樹脂繊維を、24は熱硬化性樹脂を示している。
【0012】
本実施形態のホースは、内部が空洞である管21を有する。管は、中空の細長い構造であり、チューブとも呼ばれる。管は、本実施形態のホースにおいて、通常、最内層を構成するものであり、内部の空洞を液体などが通過する。管21は、本実施形態の趣旨を逸脱しない限り、公知のものを採用することができる。本実施形態では、樹脂チューブであることが好ましい。樹脂チューブとは、チューブを構成する材料の主成分が樹脂であることをいい、80質量%以上が樹脂(好ましくは熱可塑性樹脂)であることが好ましく、90質量%以上が樹脂であることがより好ましい。樹脂チューブを構成する樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ペルフルオロアルコキシアルカン(PFA)、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン、ゴム、ポリアミド等を用いることができ、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ塩化ビニルが好ましい。樹脂チューブは、樹脂製のチューブの表面がコートされたものであってもよい。樹脂チューブは上記の異なる樹脂の混合物であってもよく、ポリアミド6とポリアミド12の混合物など、同類の樹脂の混合物であってもよい。
管21は、内径(直径)が4mm以上であることが好ましく、5mm以上であることがより好ましく、5.5mm以上であることがさらに好ましい。また、管の内径の上限値としては、20mm以下であることが好ましく、18mm以下であることがより好ましく、16mm以下であることがさらに好ましく、12mm以下、10mm以下であってもよい。
管21の厚さは、50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、400μm以上であることがさらに好ましく、また、25mm以下であることが好ましく、20mm以下であることがより好ましく、15mm以下であることがさらに好ましく、10mm以下、5mm以下、3mm以下、2mm以下であってもよい。
管の長さは、用途に応じて適宜定めることができるが、通常、50mm以上であり、また、50000mm以下である。
【0013】
再び図2に戻り、本実施形態に係るホースは、管21の外周に連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維22が巻き付いている。管21の外周に連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維を巻き付けることにより、金属メッシュなどを用いる場合と異なり、耐腐食性に優れたホースとすることができる。また、軽量性に優れたホースとすることができる。連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維は、連続炭素繊維のみであっても、連続ガラス繊維のみであっても、連続炭素繊維と連続ガラス繊維の混合糸であってもよい。この時、連続炭素繊維および連続ガラス繊維は無撚りであっても、撚糸であってもよい。さらに、連続炭素繊維を巻き付けた後、連続ガラス繊維を巻き付ける態様、また、連続ガラス繊維を巻き付けた後、連続炭素繊維を巻き付ける態様であってもよい。本実施形態のホースでは、連続炭素繊維であることが好ましい。
ここで、管21の外周とは、管21の外側であって、管の周りであることをいい、管21の表面であってもよいし、何かしらの層を介していてもよい。本実施形態では、管21の表面に連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維が巻き付いていることが好ましい。
【0014】
ここで、炭素繊維は、引張方向に対して、突出して強度が高いため、本実施形態における管21の補強材として有益である。この点を、図3を用いて説明する。図3は管21の外周に連続炭素繊維22を巻き付けた状態を示す概略図であり、管21と連続炭素繊維22の符号は図2と共通している。図3(a)は、管21の外周に連続炭素繊維22を巻き付けたものを示す図であって、管21の長手方向に垂直な断面を示している。そして、チューブ内を液体が通過して、管21の内部に内圧31がかかると、管21の外周に巻き付いている連続炭素繊維22は、前記内圧31に対応するように、引張力32が作用する。この状態を管21の外側から示すと、図3(b)に示すようになる。すなわち、図3(b)は、管21の外周に連続炭素繊維22を巻き付けたものの外観を示す図である。管21に内圧がかかると、それに対抗するように、連続炭素繊維22に引張力が作用し、管21が保護される。
【0015】
再び図2に戻り、管21の外周に連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維22が巻き付いているとは、例えば、管21の長手方向に対し、らせん状に巻き付いていることをいい、通常、S方向(S巻)またはZ方向(Z巻)に巻き付いている。また、S方向とZ方向の両方に巻き付いていてもよい。さらに、S方向またはZ方向にのみ重複して巻き付いていてもよい。連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維22を巻き付ける角度(らせん角度)は、管21の長手方向の中心軸に垂直な方向に対し、±20~80度であることが好ましい。また、本実施形態のホースでは、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維22がほぼ隙間なく、管21の外周に巻き付いていることが好ましい。ほぼ隙間なくとは、管21の外周の表面積の90%以上の領域を連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維22が覆っていることをいう。
連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維22は、単繊維の連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維、あるいは、束状の連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維がそのまま巻き付いていてもよいし、組紐、撚紐または折紐として巻き付いていてもよい。本実施形態では、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維22が組紐の状態で管21の外周に巻き付いていることが好ましい。本実施形態における組紐とは、単繊維の連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維、あるいは、束状の連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維を組合せてつくった紐であり、打ち紐とも称されるものである。組紐は、好ましくは束状の連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維(例えば、24~108本程度)を1単位とし、これを3単位以上そろえて、一定の規則性に従って斜めに交差させて得られた紐である。組紐を構成する単位の数は、4単位以上であることが好ましく、8単位以上であることがより好ましく、また、200単位以下であることが好ましく、100単位以下であることがより好ましく、50単位以下であることがより一層好ましい。20単位、10単位以下であっても良い。組紐を構成する連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維は1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。組紐は、伸縮性がある紐として、元来から知らており、強すぎず、弱すぎず、管21の内圧の変化に柔軟に対応できるため好ましい。
また、組紐の角度を調整することにより、剛性設計の自由度を高めることができる。すなわち、組紐の交差角度を鋭角にすることにより、ホースを柔らかくすることができ、また、組紐の交差角度を鈍角にすることにより、ホースを固くすることができる。
【0016】
本実施形態において、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維とは、数平均繊維長が20mm以上の炭素繊維またはガラス繊維をいい、10cm以上であることが好ましく、20cm以上であることがさらに好ましく、1m以上であることがより一層好ましい。上限は特に定めるものではないが、本実施形態におけるホースの長さの10倍以下が実際的であろう。
また、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維の数平均繊維径は、単繊維が1μm~50μmであることが好ましい。また、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維の繊維束として用いてもよく、この場合、繊維束を構成する集束本数は、100~24000本であることが例示される。
連続ガラス繊維としては、Eガラスが好ましいが、Dガラス、Rガラス、Sガラス等であってもよい。
【0017】
本実施形態で用いる連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維は、熱硬化性樹脂の硬化温度で1時間加熱したときの熱収縮率が±2%以下であることが好ましく、±1%以下であることがより好ましく、±0.5%以下であることがさらに好ましく、±0.2%以下であることが一層好ましく、±0.1%以下であることがより一層好ましく、±0.01%以下であることがさらに一層好ましい。前記熱収縮率の下限値は、0%であることが好ましい。
熱収縮率は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0018】
本実施形態で用いる連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維22は、処理剤で処理されたものを用いることが好ましい。このような処理剤としては、集束剤や表面処理剤が例示され、特許第4894982号公報の段落番号0093および0094に記載のものが好ましく採用され、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維の処理剤は、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合、エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0019】
本実施形態のホースにおいて、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維22のホース中の含有量は、総量で5質量%以上を占めることが好ましく、8質量%以上を占めることがより好ましく、10質量%以上であってもよい。50質量%以下を占めることが好ましく、40質量%以下を占めることがより好ましく、30質量%以下を占めることがさらに好ましく、25質量%以下を占めることが一層好ましく、20質量%以下を占めることがより一層好ましい。
本実施形態において、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維は、それぞれ、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0020】
再び、図2に戻り、本実施形態のホース20は、さらに、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維22の外周に巻き付いている熱可塑性樹脂繊維23を有することが好ましい。
連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維がホースの最表面にあると、ホース同士のこすれや、自動車用途では路面からの石はねなどで、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維が破断しやすい場合があった。そこで、従来は、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維をウレタンや別の樹脂ホースでコートする手法が取られていた。しかしながら、樹脂ホースでコートすると工程が追加され、高コストになる上、体積が増えることによる設計上のデメリットがある。本実施形態では、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維の外側に熱可塑性樹脂繊維を巻き付けることにより、上記点を効果的に解消することができる。さらに、ホースに摺動性が発現し、振動やホース間のこすれによる劣化が抑制されると同時に、操作性が向上する傾向にある。
【0021】
ここで連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維22の外周とは、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維22の外側であって、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維22の周りであることをいい、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維の外周の表面であってもよいし、何かしらのものを介していてもよい。本実施形態では、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維22の外周の表面に熱可塑性樹脂繊維23が巻き付いていることが好ましい。ここでの、連続強化繊維22の表面とは、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維が処理剤等のコート剤ないしコート層を有する場合、コート剤ないしコート層の表面とする。
熱可塑性樹脂繊維23が巻き付いているとは、例えば、管21の長手方向にらせん状に巻き付いていることをいい、通常、S方向(S巻)またはZ方向(Z巻)に巻き付いている。また、S方向とZ方向の両方に巻き付いていてもよい。S方向とZ方向の両方に巻き付けることで、鬼綾(上の層の繊維が下の層の繊維に食い込んで繊維を破断する現象)の可能性をより効果的に抑制できる。さらに、S方向またはZ方向にのみ重複して巻き付いていてもよい。好ましくは、S方向またはZ方向にのみ重複して巻き付ける態様である。
熱可塑性樹脂繊維23を巻き付ける角度(らせん角度)は、管21の長手方向の中心軸に垂直な方向に対し、±20~80度であることが好ましい。また、本実施形態のホースでは、熱可塑性樹脂繊維23がほぼ隙間なく、管21の外周に巻き付いていることが好ましい。ほぼ隙間なくとは、管21の外周の表面積の90%以上の領域を熱可塑性樹脂繊維23が覆っていることをいう。
【0022】
本実施形態では、連続熱可塑性樹脂繊維の束が連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維の外周に巻き付いていてもよいし、熱可塑性樹脂繊維を含む糸状材料が、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維の外周に巻き付いていてもよい。
連続熱可塑性樹脂繊維とは、数平均繊維長が、20mm以上の熱可塑性樹脂繊維をいい、10cm以上であることが好ましく、20cm以上であることがさらに好ましく、50cm以上、1m以上であってもよい。上限は特に定めるものではないが、本実施形態におけるホースの長さの10倍以下が実際的であろう。
【0023】
本実施形態で用いる熱可塑性樹脂繊維は、熱収縮率が3%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましく、1.5%以下であることがさらに好ましく、1.3%以下であることが一層好ましく、1.05%以下であることがより一層好ましい。前記熱収縮率の下限値は0%が理想であるが、0.1%以上であってもよい。
熱収縮率は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0024】
熱可塑性樹脂繊維を含む糸状材料が、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維の外周に巻き付いている態様としては、熱可塑性樹脂繊維を含む、組紐、撚紐、織紐、カバリング糸、混繊糸などが例示され、組紐が好ましい。組紐とすることにより、フレキシブル性により優れる傾向にある。組紐、撚紐、織紐等は、繊維成分が、熱可塑性樹脂繊維(好ましくは連続熱可塑性樹脂繊維)のみから構成されていてもよいし、熱可塑性樹脂繊維と連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維から構成される糸状材料から構成されていてもよい。また、前記糸状材料は、熱可塑性樹脂繊維と連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維と他の繊維状材料から構成される糸状材料であってもよい。さらに、前記糸状材料は、繊維を糸状にするための処理剤などを含んでいてもよい。
本実施形態のホースにおける熱可塑性樹脂繊維は、熱可塑性樹脂繊維の組紐および/または混繊糸の組紐の状態で存在していることが好ましく、熱可塑性樹脂繊維の組紐がより好ましい。
本実施形態における熱可塑性樹脂繊維の組紐または混繊糸の組紐とは、熱可塑性樹脂繊維の束および/または混繊糸を組合せてつくった紐であり、打ち紐とも称されるものである。組紐は、好ましくは熱可塑性樹脂繊維の束または混繊糸を1単位とし、これを3単位以上そろえて、一定の規則性に従って斜めに交差させて得られた紐である。組紐を構成する単位の数は、4単位以上であることが好ましく、8単位以上であることがより好ましく、また、500単位以下であることが好ましく、450単位以下であることがより好ましい。組紐を構成する熱可塑性樹脂繊維の組紐または混繊糸の組紐は1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。組紐は、伸縮性がある紐として、元来から知らており、強すぎず、弱すぎず、管21の形状の変化に柔軟に対応できるため好ましい。
【0025】
熱可塑性樹脂繊維を含む混繊糸の好ましい実施形態としては、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維と、熱可塑性樹脂繊維とから構成されるものが例示される。本実施形態における混繊糸とは、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維と、熱可塑性樹脂繊維(好ましくは、連続熱可塑性樹脂繊維)が繊維長方向に概ね平行に並んでおり、かつ、混繊糸の長手方向に垂直な断面方向において、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維と、熱可塑性樹脂繊維が分散していることをいう。ここでの概ね平行とは、幾何学的な意味での平行ではなく、本発明の技術分野において通常平行と言えるものを含む趣旨である。例えば、連続熱可塑性樹脂繊維の繊維束と、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維の繊維束を開繊しながら、一束としたようなものは、概ね平行であると言える。
本実施形態で用いる混繊糸は、また、混繊糸の95質量%以上が連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維、ならびに、熱可塑性樹脂繊維で構成されることが好ましく、97質量%以上がより好ましく、90質量%超がさらに好ましい。混繊糸の全量(100質量%)が連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維、ならびに、熱可塑性樹脂繊維で構成されていてもよい。混繊糸は、熱可塑性樹脂繊維の連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維への含浸率が0~20%であることが好ましい。上記下限値以上とすることにより、成形中に含浸がより効果的に進行する。
前記含浸率は、1%以上であることが好ましく、2%以上であってもよい。また、前記含浸率は、18%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。
本実施形態で用いる混繊糸は、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維の連続熱可塑性樹脂繊維に対する分散度が90%以上であることが好ましく、91%以上であることがより好ましく、92%以上であることがさらに好ましく、93%以上であることが一層好ましい。上限としては、100%であってもよく、99%以下であってもよい。分散度をこのように高くすることにより、ほつれやたるみ、切れを効果的に抑制することができる。本実施形態において分散度とは、連続強化繊維と連続熱可塑性樹脂繊維とが均一に混ざり合っているかの指標であり、この値が100%に近いほど均一に混ざり合っていることを意味する。
本実施形態において、分散度は、以下に従って測定された値である。
混繊糸を切り取り、エポキシ樹脂で包埋し、前記包埋した混繊糸の長手方向に垂直な断面を研磨し、断面を超深度カラー3D形状測定顕微鏡(例えば、超深度カラー3D形状測定顕微鏡VK-9500(コントローラー部)/VK-9510(測定部)(キーエンス社製))を使用して撮影する。断面の撮影画像において、放射状に補助線を等間隔に6本ひき、各補助線上にある連続強化繊維領域の長さをa1, a2, a3・・・ai(i=n)と測量する。同時に各補助線上にある連続熱可塑性樹脂繊維の領域の長さをb1, b2, b3・・・bi(i=m)と測量する。次式により分散度を算出する。
【数1】
【0026】
また、本実施形態における混繊糸の含浸率は、以下の方法に従って測定された値である。
混繊糸を切り取ってエポキシ樹脂で包埋し、前記包埋した混繊糸の長手方向に垂直な断面を研磨し、断面を超深度カラー3D形状測定顕微鏡(例えば、顕微鏡超深度カラー3D形状測定顕微鏡VK-9500(コントローラー部)/VK-9510(測定部)(キーエンス社製))を使用して撮影する。得られた断面写真に対し、連続強化繊維の連続熱可塑性樹脂繊維由来の成分が溶融し含浸した領域を、画像解析ソフト(例えば、ImageJ)を用いて選択し、その面積を測定する。含浸率は、連続熱可塑性樹脂繊維由来の成分が連続強化繊維に含浸した領域/撮影断面積(単位%)として算出される。含浸した領域とは、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維の間で、熱可塑性樹脂繊維が溶融し、繊維状の形態ではなくなり、前記連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維と接合している領域をいう。すなわち、含浸した領域は、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維とその間に存在する溶融した熱可塑性樹脂を意味する。また、通常はないが、溶融した熱可塑性樹脂の中に繊維状の熱可塑性樹脂が残っている場合、かかる部分も含めて含浸した領域とする。
【0027】
混繊糸に用いる連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維は、上述の管の外周に巻き付ける連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維と同様のものが好ましい。
【0028】
また、本実施形態のホースで用いる熱可塑性樹脂繊維は、耐スナッグ性が高いことが好ましい。具体的には、本実施形態において、熱可塑性樹脂繊維のスナッグ試験による評価が2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましく、3.5以上であることがさらに好ましい。スナッグ試験による評価を2以上とすることにより、連続強化繊維の破断をより効果的に抑制できる。ここで、スナッグ試験による評価は、JIS L 1058:2019 D-1法に準じて、熱可塑性樹脂繊維の編物に対して測定して得られた数値であり、前記編物は、50デニール/36フィラメントの熱可塑性樹脂繊維束を3本合わせたものを、18ゲージの筒編み機で作製した試験布である。詳細は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0029】
本実施形態で用いる熱可塑性樹脂繊維は、熱可塑性樹脂組成物から形成することができる。熱可塑性樹脂組成物は、1種または2種以上の熱可塑性樹脂のみからなってもよく、その他の成分を含んでいてもよい。
【0030】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオキシメチレン樹脂(ポリアセタール樹脂)、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン等のポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルサルファイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、熱可塑性ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリアミドイミド、全芳香族ポリイミド、半芳香族ポリイミド等の熱可塑性ポリイミド樹脂等を用いることができ、ポリアミド樹脂およびポリオレフィン樹脂から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、ポリアミド樹脂を含むことがより好ましい。
【0031】
本実施形態で用いるポリアミド樹脂としては、ポリアミド4、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリヘキサメチレンテレフタラミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンイソフタラミド(ポリアミド6I)、ポリアミド66/6T、ポリキシリレンアジパミド、ポリキシリレンセバカミド、ポリキシリレンドデカミド、ポリアミド9T、ポリアミド9MT、ポリアミド6I/6T等が挙げられる。
【0032】
特に、後述する熱硬化性樹脂の硬化温度で20分加熱したときに水分が発泡しにくい樹脂が望ましく、すなわち、低吸水性ポリアミド樹脂が望ましい。上述のようなポリアミド樹脂の中でも、成形性、耐熱性の観点から、ジアミンに由来する構成単位およびジカルボン酸に由来する構成単位から構成され、ジアミンに由来する構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来するポリアミド樹脂(以下、「XD系ポリアミド」ということがある)であることが好ましい。XD系ポリアミド樹脂を用いることにより、より耐水性に優れたホースとすることができる。
【0033】
また、本実施形態で用いる熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂の混合物である場合は、ポリアミド樹脂中のXD系ポリアミドの比率が50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、さらには90質量%以上、特には95質量%以上であってもよい。
【0034】
XD系ポリアミドは、ジアミン由来の構成単位の、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、一層好ましくは95モル%以上が、キシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上が、炭素原子数が4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する。
上記キシリレンジアミンは、少なくともメタキシリレンジアミンを含むことが好ましく、30~100モル%のメタキシリレンジアミンと、70~0モル%のパラキシリレンジアミンからなることがより好ましく、50~100モル%のメタキシリレンジアミンと、50~0モル%のパラキシリレンジアミンからなることがさらに好ましい。
【0035】
XD系ポリアミドの原料ジアミン成分として用いることができるメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミン以外のジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチル-ヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン、ビス(4-アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
ジアミン成分として、キシリレンジアミン以外のジアミンを用いる場合は、ジアミン由来の構成単位の50モル%未満であり、30モル%以下であることが好ましく、より好ましくは1~25モル%、特に好ましくは5~20モル%の割合で用いる。
【0036】
ポリアミド樹脂の原料ジカルボン酸成分として用いるのに好ましい炭素原子数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸としては、例えばコハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸が例示でき、1種または2種以上を混合して使用でき、アジピン酸および/またはセバシン酸が好ましく、セバシン酸がより好ましい。
【0037】
上記炭素原子数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0038】
ジカルボン酸成分として、炭素原子数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸を用いる場合は、成形加工性の観点から、テレフタル酸、イソフタル酸を用いることが挙げられる。これらを用いる場合、テレフタル酸、イソフタル酸の割合は、好ましくはジカルボン酸由来の構成単位の30モル%以下であり、より好ましくは1~30モル%、特に好ましくは5~20モル%の範囲である。
【0039】
本実施形態において、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位とから構成されるとは、これらの成分を主成分とすることを意味するが、これら以外の構成単位を完全に排除するものではなく、ε-カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類由来の構成単位を含んでいてもよい。本実施形態では、ポリアミド樹脂における、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位の合計は、全構成単位の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましく、99質量%以上を占めることがさらに好ましい。
【0040】
本実施形態で用いるポリアミド樹脂の第一の実施形態は、ジアミン由来の構成単位の80モル%以上がメタキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の80モル%以上がアジピン酸に由来する態様である。
本実施形態で用いるポリアミド樹脂の第二の実施形態は、ジアミン由来の構成単位の10~90モル%がメタキシリレンジアミンに由来し、90~10モル%がパラキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の80モル%以上がセバシン酸に由来する態様である。
【0041】
本実施形態で用いるポリアミド樹脂は、数平均分子量(Mn)が6,000~30,000であることが好ましく、より好ましくは8,000~28,000であり、さらに好ましくは9,000~26,000であり、一層好ましくは10,000~24,000であり、より一層好ましくは11,000~22,000である。このような範囲であると、得られるホースの耐熱性、寸法安定性、成形加工性がより良好となる。
【0042】
なお、ここでいう数平均分子量(Mn)とは、ポリアミド樹脂の末端アミノ基濃度[NH2](μ当量/g)と末端カルボキシル基濃度[COOH](μ当量/g)から、次式で算出される。
数平均分子量(Mn)=2,000,000/([COOH]+[NH2])
【0043】
ポリアミド樹脂の製造方法は、特開2014-173196号公報の段落0052~0053の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0044】
本実施形態で用いる熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂は、示差走査熱量計で測定したとき、融点を有することが好ましく、その融点は、180℃以上であることが好ましく、また、350℃以下であることが好ましい。前記下限値以上とすることにより、耐熱性により優れる傾向にある。また、上記上限値以下とすることにより、成形加工性により優れる傾向にある。
前記融点は、190℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、210℃以上であることがさらに好ましい。また、前記融点は、325℃以下であることが好ましく、320℃以下であることがより好ましく、315℃以下であることがさらに好ましく、さらには280℃以下、270℃以下、250℃以下であってもよい。前記温度範囲にすることで、成形中に発生するガスがより軽減する傾向にある。
融点は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0045】
さらに、本実施形態の目的・効果を損なわない範囲で、本実施形態で用いる熱可塑性樹脂繊維またはその原料となる熱可塑性樹脂組成物には、各種の含有成分を含めてもよい。例えば、カーボンナノチューブ等のフィラー、酸化防止剤、熱安定剤等の安定剤、耐加水分解性改良剤、耐候安定剤、艶消剤、紫外線吸収剤、核剤、可塑剤、分散剤、難燃剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤、着色剤、離型剤、滑剤等の添加剤等を加えることができる。これらの詳細は、特許第4894982号公報の段落番号0130~0155の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0046】
本実施形態では、熱可塑性樹脂繊維の80質量%以上(好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上)が、熱可塑性樹脂である形態が例示される。
【0047】
本実施形態における熱可塑性樹脂繊維は、熱可塑性樹脂繊維の処理剤を表面に有する熱可塑性樹脂繊維であることが好ましい。熱可塑性樹脂繊維が表面処理剤を有することにより、混繊糸の製造工程やその後の加工工程で、熱可塑性樹脂繊維の切れを抑制することができる。
処理剤としては、エステル系化合物、アルキレングリコール系化合物、ポリオレフィン系化合物、フェニルエーテル系化合物、ポリエーテル系化合物、シリコーン系化合物、ポリエチレングリコール系化合物、アミド系化合物、スルホネート系化合物、ホスフェート系化合物、カルボキシレート系化合物およびこれらを2種以上組み合わせたものが好ましい。
熱可塑性樹脂繊維の表面処理剤の量は、例えば、熱可塑性樹脂繊維の0.1~2.0質量%である。下限値は、0.5質量%以上が好ましく、0.8質量%以上がより好ましい。上限値としては、1.8質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましい。このような範囲とすることにより、熱可塑性樹脂繊維の分散が良好となる。
表面処理剤の詳細は、国際公開第2016/159340号の段落0064~0065の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0048】
本実施形態で用いる熱可塑性樹脂繊維は、JIS L 1096:2019に従って測定した含水率が、6%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、4%以下であることがさらに好ましく、3%以下であることが一層好ましく、2%以下であることがより一層好ましい。下限値は0%であってもよいが、0.001%以上が実際的である。熱可塑性樹脂繊維の含水率を6%以下とすることにより、熱硬化性樹脂の硬化時に発泡しにくくなり、摺動性がより向上する傾向にある。また、熱可塑性樹脂繊維がこすれにより強くなる傾向にある。
熱可塑性樹脂繊維の含水率は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0049】
本実施形態で用いる熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂は、弾性率が2000MPa以上であることが好ましく、2500MPa以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られるホースがより耐久性に優れる傾向にある。また、前記熱可塑性樹脂の弾性率は、5000MPa以下であってもよく、さらには、4000MPa以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、得られるホースがフレキシブル性により優れる傾向にある。
熱可塑性樹脂の弾性率は、厚み4mmのISO試験片を120℃で1時間乾燥した後、JIS K7161:2019に準じて測定して得られた数値である。詳細は、後述する実施例の記載に従う。
本実施形態のホースが2種以上の熱可塑性樹脂繊維を含む場合、弾性率は、それらの重量平均値とする。
【0050】
本実施形態のホースにおいて、熱可塑性樹脂繊維は、ホースの質量の0.5質量%以上を占めることが好ましく、1質量%以上を占めることがより好ましく、2質量%以上であってもよく、また、10質量%以下を占めることが好ましく、8質量%以下を占めることがより好ましく、5質量%以下であってもよい。
本実施形態において、熱可塑性樹脂繊維は、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0051】
再び図2に戻り、熱硬化性樹脂について説明する。
本実施形態のホースは、管21の外側にある熱硬化性樹脂24を有する。管21の外側にあるとは、管21の外周面よりも外側であって、管21の周りにあることをいう。従って、熱硬化性樹脂24は、管21の外周面の表面に存在していてもよいし、何らかのもの(例えば、後述する熱可塑性樹脂繊維)を介して存在していてもよい。熱硬化性樹脂24は、通常、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維22の外側から適用され、熱硬化してホースに固定される。
本実施形態では、前記熱硬化性樹脂24の少なくとも一部が前記連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維22に含浸している。含浸率は、90%以上であることが好ましく、95%超であることがより好ましい。このような構成とすることにより、よりフレキシブル性および耐疲労性に優れたホースが得られる。しかしながら、本実施形態のホースでは、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維22の一部にのみ熱硬化性樹脂24が含浸していても、その効果を十分に発揮できるであろう。
さらに、本実施形態のホース20が図2に示すように熱可塑性樹脂繊維23を有する場合、硬化性樹脂24は、通常、熱可塑性樹脂繊維23の外側から適用され、熱硬化して設けられる。すなわち、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維22から構成される層と熱可塑性樹脂繊維23から構成される層の外側から、熱硬化性樹脂24を適用することができる。この場合、硬化性樹脂24の一部は、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維22と熱可塑性樹脂繊維23中に含浸して硬化している。このような構成とすることにより、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維の破断をより効果的に抑制できると共に、摺動性に優れたホースが得られる。
【0052】
本実施形態で用いる熱硬化性樹脂は、弾性率が0.5~10MPaである。このような弾性率とすることにより、フレキシブル性に優れたホースが得られ、疲労破壊をより効果的に抑制できる。
前記熱硬化性樹脂の弾性率は、0.8MPa以上であることが好ましく、1.0MPa以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、疲労破壊により優れる傾向にある。また、前記熱硬化性樹脂の弾性率は、8MPa以下であってもよく、さらには、5MPa以下、3MPa以下、2MPa以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、フレキシブル性により優れる傾向にある。
熱硬化性樹脂の弾性率は、熱硬化性樹脂を該熱硬化性樹脂の硬化温度で2時間加熱後、23℃、55%の相対湿度の条件下で2週間調温した後、JIS K7161:2019に準じて測定して得られた数値である。詳細は、後述する実施例の記載に従う。
本実施形態のホースが2種以上の熱硬化性樹脂を含む場合、混合物の弾性率とする。
【0053】
本実施形態で用いる熱硬化性樹脂は、硬化温度が100℃以上であることが好ましく、110℃以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、加温による粘度調整の範囲が広く、より含浸しやすい傾向にある。また、前記熱硬化性樹脂の硬化温度は、180℃以下であることが好ましく、170℃以下であることがより好ましい。前記上限値以下とすることにより、生産性により優れる傾向にある。
硬化温度の測定方法は、後述する実施例の記載に従う。
本実施形態のホースが2種以上の熱硬化性樹脂を含む場合、硬化温度は、最も硬化温度の低い樹脂の硬化温度とする。
【0054】
本実施形態の熱硬化性樹脂としては、所定の弾性率を満たす限り特に定めるものではないが、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂およびこれらの混合物等が例示され、エポキシ樹脂が好ましい。
【0055】
本実施形態で用いうるエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂もしくはその水素化物、ビスフェノールF型エポキシ樹脂もしくはその水素化物、ビフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂(フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等)、臭素化エポキシ樹脂(臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂等)、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(例えばポリオールのアルキレンオキサイド付加体等の多価アルコールとエピハロヒドリンとから誘導される樹脂等)、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、フェノール型エポキシ樹脂(ハイドロキノン、カテコール等の多価フェノールとエピハロヒドリンとから誘導される樹脂等)等が挙げられる。また、特開2020-12092号公報の段落0069に記載のエポキシ樹脂も用いることもでき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0056】
エポキシ樹脂は、下記の式(1)で表されるエポキシ樹脂、式(2)で表されるエポキシ樹脂、式(3)で表されるエポキシ樹脂が好ましく、式(3)で表されるエポキシ樹脂がより好ましい。
【化1】
式中、m1およびm2は、それぞれ独立に、0以上の数であり、数平均として0.7以上であることが好ましく、1以上であることがよりこのましく、3以上であることがより好ましい。上限値としては、10以下が好ましく、5以下がより好ましく、4以下がさらに好ましい。
【化2】
【0057】
(式(3)中、mはそれぞれ独立に3以上の整数である。)
【0058】
また、エポキシ樹脂は、エポキシ硬化剤を含んでいてもよい。また、エポキシ硬化剤としては、特開2020-12092号公報の段落0071~0075に記載の硬化剤が例示され、この内容は本明細書に組み込まれる。本実施形態では、エポキシ硬化剤として、ジアミン化合物が好ましい。
【0059】
本実施形態においては、熱硬化性樹脂の構成成分の50モル%以上が、下記式(3)で表されるエポキシ樹脂と下記式(4)で表される硬化剤から形成されたものであることが好ましい。
【化3】
(式(3)中、mはそれぞれ独立に3以上の整数である。)
【化4】
(式(4)中、nは6以上の整数である。)
mは、それぞれ独立に3以上の整数であり、3~10の整数であることが好ましく、3~4の整数であることがより好ましい。
nは1以上の整数であり、6~10の整数であることが好ましい。
その他、本実施形態で用いる熱硬化性樹脂は、反応希釈剤や硬化促進剤、その他の成分を含んでいてもよく、その詳細は、特開2020-12092号公報の段落0069、0076および0077の記載、特表2016-527384号公報の段落0015~0018の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0060】
本実施形態のホースにおいて、熱硬化性樹脂(硬化剤を含む)は、ホースの質量の5質量%以上を占めることが好ましく、7質量%以上を占めることがより好ましく、また、30質量%以下を占めることが好ましく、25質量%以下を占めることがより好ましく、20質量%以下を占めることがさらに好ましく、17質量%以下を占めることが一層好ましい。このような範囲とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される傾向にある。
本実施形態において、熱硬化性樹脂(硬化剤を含む)は、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0061】
次に、本実施形態のホースを構成する各材料等の物性値について説明する。
本実施形態のホースにおいて、熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂は融点を有することが好ましく、かつ、前記融点が熱硬化性樹脂の硬化温度よりも高いことが好ましい。熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂の融点が熱硬化性樹脂の硬化温度よりも高いことにより、熱可塑性樹脂繊維から構成される層の外側に熱硬化性樹脂を適用し、加熱硬化しても、熱可塑性樹脂繊維が溶融せず、ホースの成形性がより向上する傾向にある。
ここで、熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂の融点と熱硬化性樹脂の硬化温度の差は、10℃以上であることが好ましく、15℃以上であることがより好ましく、20℃以上であることがさらに好ましく、50℃以上であってもよく、65℃以上であってもよく、75℃以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、熱可塑性樹脂繊維の物性がより高く維持される傾向にある。また、熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂の融点と熱硬化性樹脂の硬化温度の差は、250℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることがさらに好ましく、100℃以下であることが一層好ましく、90℃以下であることがより一層好ましく、85℃以下であることがさらに一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、得られるホースがより安定する傾向にある。
【0062】
本実施形態のホースの弾性率は、200MPa以下であることが好ましく、150MPa以下であることがより好ましく、100MPa以下であることがさらに好ましく、80MPa以下であることが一層好ましい。また、ホースの弾性率の下限値は、例えば、10MPa以上である。
また、本実施形態のホースにおいて、熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂の弾性率が、ホースの弾性率の200倍以下であることが好ましく、150倍以下であることがより好ましく、100倍以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、摺動性により優れる傾向にある。下限値としては、例えば、15倍以上であることが好ましく、20倍以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、フレキシブル性により優れる傾向にある。
ホースの弾性率は、チャック間距離60mm、20mm/分の条件で、他はJIS K7113:2019に準拠して引張試験し、算出した値である。詳細は、後述する実施例の記載に従う。
【0063】
さらに、本実施形態のホースは、熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂の弾性率が、熱硬化性樹脂の弾性率の5000倍以下であることが好ましく、4000倍以下であることがより好ましく、3000倍以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、摺動性により優れる傾向にある。下限値としては、例えば、2倍以上であることが好ましく、100倍以上であることがより好ましく、1000倍以上であることがさらに好ましく、1500倍以上であることが一層好ましく、2000倍以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、疲労特性により優れる傾向にある。
【0064】
本実施形態のホースにおいて、加熱すると、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維は縮み、樹脂チューブと熱可塑性樹脂繊維は膨張する傾向にある。従って、本実施形態のホースにおいては、これらの線膨張率の差が小さい方が好ましい。このような構成とすることにより、ホースの層間に隙間を生じにくくすることができる。
例えば、熱硬化性樹脂の硬化温度で1時間加熱後の、熱可塑性樹脂の熱収縮率と連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維の熱収縮率の差が、2%以下であることが好ましく、1.5%以下であることがより好ましい。下限値は0%が好ましい。熱収縮率差を上記範囲とすることにより、応答性により優れる傾向にある。本実施形態のホースが連続炭素繊維および連続ガラス繊維の両方を有する場合、あるいは、2種以上の炭素繊維および/または連続ガラス繊維を有する場合、これらの少なくとも1種が上記収縮率の差を満たしていることが好ましく、ホースに含まれるすべての炭素繊維および連続ガラス繊維が上記収縮率の差を満たしていることがより好ましい。
【0065】
本実施形態のホースは、上記の他、耐紫外線層、耐塩層、さらなる保護層、意匠性を高めるための意匠層等の各種機能層などを有していてもよい。機能層は、樹脂、塗料、金属箔、金属蒸着等によって形成することが好ましい。
【0066】
本実施形態のホースは、その長さが例えば、50mm以上であることが好ましく、100mm以上であることがより好ましく、150mm以上であることがさらに好ましい。また、ホースの長さは、10000mm以下であることが好ましく、900mm以下であることがより好ましく、800mm以下であることがさらに好ましい。
本実施形態のホースの内径は、通常、上述した管の内径と同じである。
本実施形態のホースの外径は、6mm以上であることが好ましく、また、30mm以下であることがさらに好ましい。
本実施形態のホースの厚さは、0.1mm以上であることが好ましく、0.2mm以上であることがより好ましく、0.3mm以上であることがさらに好ましい。また、ホースの厚さは、20mm以下であることが好ましく、15mm以下であることがより好ましく、10mm以下であることがさらに好ましい。
上記内径、外径、長さおよび厚さは、数平均値とする。
【0067】
本実施形態のホースは、高圧流体用のホース、高圧気体用のホース、圧力伝達用のホースとして好ましく用いることができる。特に、軽量性および耐疲労破壊性が要求される用途に広く用いられる。具体的には、ブレーキホース、油圧式ポンプ、空圧機器のホースなどに好ましく用いられ、油圧式ポンプが特に好ましい。
【0068】
次に、本実施形態の製造方法について説明する。
本実施形態に係るホースの製造方法は、内部が空洞である管の外周に、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維を巻き付けること、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維よりも外側から、熱硬化性樹脂を適用し、熱硬化性樹脂の少なくとも一部を連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維に含浸させることを含み、熱硬化性樹脂は、弾性率が0.5~10MPaであることを特徴とする。
さらに、本実施形態のホースの製造方法は、管の外であって、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維の外に、熱可塑性樹脂繊維(好ましくは連続熱可塑性樹脂繊維)を含む糸状材料を巻き付けることを含み、熱可塑性樹脂繊維を巻き付けた後に、熱硬化性樹脂を適用して、熱硬化性樹脂の少なくとも一部を連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維に含浸させることを含むことが好ましい。
従来、管の外側に、連続強化繊維で強化した後、さらに、ポリプロピレン樹脂製やポリアセタール樹脂製のホースやチューブで外装を覆っていた。本実施形態では、熱可塑性樹脂繊維を巻き付けることにより、工程数を減らすことができる。さらに、熱可塑性樹脂繊維を巻き付けることにより、摺動性に優れたホースとすることができる。
【0069】
本実施形態のホースの製造方法において、熱硬化性樹脂を連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維に含浸させる方法としては、例えば、管に連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維、ならびに、必要に応じ熱可塑性樹脂繊維を巻き付けたものを硬化前の熱硬化性樹脂に浸漬し、加熱して硬化させることができる。また、あらかじめ熱硬化性樹脂を連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維ならびに必要に応じ熱可塑性樹脂繊維に含浸させたものを、管に巻き付けた後に、加熱して硬化させることができる。また、硬化前の熱硬化性樹脂に浸漬した管に連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維、ならびに、必要に応じ熱可塑性樹脂繊維を巻き付けたものに対し、ローラー等で圧力を付与してもよい。このような手段を採用することにより、余分な熱硬化性樹脂を取り除くと共に、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維に含浸しやすくすることができる。
本実施形態のホースの製造方法は、熱硬化性樹脂の硬化温度が、熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂の融点より低いことが好ましい。このような構成とすることにより、熱可塑性樹脂繊維の表面に熱硬化性樹脂を適用して硬化させても、熱可塑性樹脂繊維が繊維の形状を保つことができる。
本実施形態のホースの製造方法は、また、熱可塑性樹脂繊維のJIS L 1096:2019に従って測定した含水率が6%以下であることが好ましい。このように含水率が低い熱可塑性樹脂繊維を巻き付けることにより、耐水性により優れたホースが得られると共に、硬化後のホースに気泡が入りにくくすることができる。含水率の詳細は、上記ホースの所で述べた含水率と同じである。
本実施形態のホースの製造方法に用いられる、管、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維、ならびに、熱可塑性樹脂繊維、ならびに、その他の詳細は、上述のホースの説明のところで述べた事項と同様である。
【0070】
本実施形態のホースおよびホースの製造方法に関し、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、特開2001-241570号公報、特開昭63-015734号公報、特開平01-195026号公報の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【実施例
【0071】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0072】
1.原料
<管>
樹脂チューブ1:デンカエレクトロン社製、TB-6.0B(PVC製、内径(直径)6mm、外径(直径)6.9mm、厚み0.45mm)
樹脂チューブ2:ニチアス社製、TOMBO No.9003-PTFE(PTFE製、内径(直径)7mm、外径(直径)9mm、厚み1mm)
<連続強化繊維>
連続炭素繊維:三菱ケミカル社製、Pyrofil-TR-50S-6000-AD、4000dtex、繊維数6000f、エポキシ樹脂で表面処理されている。
連続ガラス繊維:日本電気硝子社製、F-165、5750dtex、繊維数1600f
連続ステンレス繊維:ステンレス鋼線、マックステル社製、MS-K1420、直径1.4mmを2本ひき揃えたもの。
<熱硬化性樹脂>
エポキシ樹脂1:北村化学社製、ARE-ST-01
エポキシ樹脂2:サンユレック社製、EF-28
エポキシ樹脂3:三菱ケミカル社製、jER-828/jER YH-306
【0073】
<熱可塑性樹脂>
MP10:下記合成例に従って合成したポリアミド樹脂、融点213℃
PA6:ポリアミド樹脂6、宇部興産社製、1022B、融点220℃
ポリイミド1:下記合成例に従って合成した熱可塑性ポリイミド樹脂、融点323℃
【0074】
<<MP10の合成例>>
撹拌機、分縮器、全縮器、温度計、滴下ロートおよび窒素導入管、ストランドダイを備えた反応容器に、セバシン酸(伊藤製油(株)製TAグレード)10kg(49.4mol)および酢酸ナトリウム/次亜リン酸ナトリウム・一水和物(モル比=1/1.5)11.66gを仕込み、十分に窒素置換した後、さらに少量の窒素気流下で系内を撹搾しながら170℃まで加熱溶融した。
メタキシリレンジアミン(三菱ガス化学(株)製)とパラキシリレンジアミン(三菱ガス化学(株)製)のモル比が70/30である混合キシリレンジアミン6.647kg(メタキシリレンジアミン34.16mol、パラキシリレンジアミン14.64mol)を溶融したセバシン酸に撹拌下で滴下し、生成する縮合水を系外に排出しながら、内温を連続的に2.5時間かけて240℃まで昇温した。
滴下終了後、内温を上昇させ、250℃に達した時点で反応容器内を減圧にし、さらに内温を上昇させて255℃で20分間、溶融重縮合反応を継続した。その後、系内を窒素で加圧し、得られた重合物をストランドダイから取り出して、これをペレット化することにより、ポリアミド樹脂MP10を得た。
得られたMP10の融点は213℃、数平均分子量は15400であった。
【0075】
<<ポリイミド1の合成例>>
ディーンスターク装置、リービッヒ冷却管、熱電対、4枚パドル翼を設置した2Lセパラブルフラスコ中に2-(2-メトキシエトキシ)エタノール(日本乳化剤(株)製)600gとピロメリット酸二無水物(三菱ガス化学(株)製)218.58g(1.00mol)を導入し、窒素フローした後、均一な懸濁溶液になるように150rpmで撹拌した。一方で、500mLビーカーを用いて、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(三菱ガス化学(株)製)49.42g(0.347mol)、1,8-オクタメチレンジアミン(関東化学(株)製)93.16g(0.645mol)を2-(2-メトキシエトキシ)エタノール250gに溶解させ、混合ジアミン溶液を調製した。この混合ジアミン溶液を、プランジャーポンプを使用して徐々に加えた。混合ジアミン溶液の滴下中はすべて窒素フロー状態とし、撹拌翼回転数は250rpmとした。滴下が終わったのちに、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール130gと、末端封止剤であるn-オクチルアミン(関東化学(株)製)1.934g(0.0149mol)を加えさらに撹拌した。この段階で、淡黄色のポリアミド酸溶液が得られた。次に、撹拌速度を200rpmとした後に、2Lセパラブルフラスコ中のポリアミド酸溶液を190℃まで昇温した。昇温を行っていく過程において、液温度が120~140℃の間にポリイミド樹脂粉末の析出と、イミド化に伴う脱水が確認された。190℃で30分保持した後、室温まで放冷を行い、濾過を行った。得られたポリイミド樹脂粉末は2-(2-メトキシエトキシ)エタノール300gとメタノール300gにより洗浄、濾過を行った後、乾燥機で180℃、10時間乾燥を行い、316gのポリイミド1の粉末を得た。
【0076】
<連続熱可塑性樹脂繊維/混繊糸>
<<樹脂繊維1~3の製造方法>>
表1または表2に示す熱可塑性樹脂を、それぞれ、直径30mmのスクリューを有する単軸押出機にて溶融押出しし、60穴のダイからストランド状に押出し、ロールにて巻き取りながら延伸し、連続熱可塑性樹脂の繊維束を芯に800m巻き取り、巻取体を得た。溶融温度は、熱可塑性樹脂繊維を構成する熱可塑性樹脂の融点+15℃とした。300デニール(D)の繊維束を得た。得た繊維束を5本合燃した。
【0077】
<<混繊糸1の製造方法>>
油剤(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(花王製、エマノーン 1112))を深型のバットに満たし、表面をゴム処理したローラーをローラーの下部分が油剤に接するように設置してローラーを回転させることで、常に油剤がローラー表面に付着している状態にした。上記で得られた樹脂繊維1をこのローラーに接触させることで樹脂繊維1の表面に油剤を塗布し、芯に巻き取った。
【0078】
上記油剤を塗布した樹脂繊維1の巻取体、および、連続炭素繊維の巻取体からそれぞれの繊維を引き出し、複数のガイドを通しながらエアブローにより開繊を行った。開繊しながら、樹脂繊維1および連続炭素繊維を一束とし、さらに、複数のガイドを通しながらエアブローを与え、均一化を進め、混繊糸1を得た。
【0079】
2.物性値
<連続強化繊維の熱収縮率>
連続強化繊維を5cm程度切り取り、表1または表2に示す熱硬化性樹脂の硬化温度で1時間加熱し、以下の通り熱収縮率を求めた。
熱収縮率={[(加熱前の連続強化繊維の長さ)-(加熱後の連続強化繊維の長さ)]/(加熱前の連続強化繊維の長さ)}×100
単位は、%で示した。
【0080】
<熱硬化性樹脂の弾性率の測定方法>
熱硬化性樹脂の弾性率は、熱硬化性樹脂をその熱硬化性樹脂の硬化温度で2時間加熱後、23℃、55%の相対湿度の条件下で2週間調温した後、JIS K7161:2019に準じて測定した。
単位は、MPaで示した。
【0081】
<熱硬化性樹脂の硬化温度>
示差走査熱量計(DSC)で、昇温速度5℃/分で昇温した際の発熱ピークを硬化温度とした。
単位は、℃で示した。
【0082】
<熱可塑性樹脂繊維の含水率の測定方法>
上記表面処理された熱可塑性樹脂繊維を、JIS L 1096:2019に従って測定し、含水率を測定した。
単位は、%で示した。
【0083】
<熱可塑性樹脂繊維の耐スナッグ性>
スナッグ試験による評価は、JIS L 1058:2019 D-1法に準じて、熱可塑性樹脂繊維の編物に対して測定した。
ここで、編物は、50デニール/36フィラメントの熱可塑性樹脂繊維束を3本合わせたものを、18ゲージの筒編み機で作製した試験布を用いた。
【0084】
<熱可塑性樹脂の融点の測定方法>
熱可塑性樹脂の融点の測定には、示差走査熱量計(DSC)を用い、試料量は約1mgとし、雰囲気ガスとしては窒素を30mL/分で流し、昇温速度は10℃/分の条件で室温から予想される融点以上の温度まで加熱し溶融させた際に観測される吸熱ピークのピークトップの温度から融点を求めた。
単位は、℃で示した。
示差走査熱量計(DSC)は、島津製作所(SHIMADZU CORPORATION)製、DSC-60を用いた。
【0085】
<熱可塑性樹脂繊維の弾性率>
厚み4mmのISO試験片を120℃で1時間乾燥した後、JIS K7161:2019に準じて測定した。
具体的には、射出成形品の成形条件:ファナック社製、射出成形機100Tにて厚さ4mmのISO試験片に成形した。成形時の際の射出温度は、ポリアミド樹脂は280℃、ポリイミド樹脂は350℃とした。
上記で得られた試験片について、120℃で1時間乾燥した後、JIS K7161:2019に準じて測定した。
単位は、MPaで示した。
【0086】
<熱可塑性樹脂繊維の熱収縮率>
熱可塑性樹脂繊維を5cm程度切り取り、表1または表2に示す熱硬化性樹脂の硬化温度で1時間加熱し、以下の通り熱収縮率を求めた。
熱収縮率={[(加熱前の熱可塑性樹脂繊維の長さ)-(加熱後の熱可塑性樹脂繊維の長さ)]/(加熱前の熱可塑性樹脂繊維の長さ)}×100
単位は、%で示した。
【0087】
3.実施例および比較例
実施例1
<ホースの製造方法>
図2に示すように、表1に示す連続強化繊維(炭素繊維)を組機(フジモト社製)に組糸が48本となるように装填し、組紐を製紐しながら、前記組紐が管(樹脂チューブ1)の軸方向に対して±55度の角度となるように、かつ、S方向に管の周りに二重に巻き付けた。次いで、連続強化繊維の外周に、表1に示す連続熱可塑性樹脂繊維(樹脂繊維1)を、組紐を構成する単位の数が48単位となるように装填し、前記組紐が管の軸方向に対して±55度の角度となるようにS方向に一重に巻き付けた。
その後、SK-7型ユニサイザー(カジ製作所製)を用い、上記ホースを表1に示す熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂1)に浸漬し、余剰な熱硬化性樹脂を除去した後に、乾燥炉内で硬化温度にて2時間硬化させた。熱硬化性樹脂の硬化後、ホースを巻き取った。得られたホースの長さは、10mであった。
得られたホースについて、以下の評価を行った。
【0088】
<熱硬化性樹脂の含浸率>
熱硬化性樹脂が連続強化繊維に含浸していることは、以下の通り確認した。
ホースの長手方向に3cm長さのサンプルを切り出し、ゴムテープで周囲を巻いて繊維を固定した。前記固定したホースの長手方向に垂直な断面を研磨し、断面を超深度カラー3D形状測定顕微鏡を使用して撮影した。得られた断面写真に対し、含浸した領域を、画像解析ソフトImageJを用いて選択し、その面積を測定した。含浸率は、含浸した領域/組紐部分の断面積(単位%)として示した。
含浸した領域とは、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維、ならびに、熱可塑性樹脂繊維の間に、熱硬化性樹脂繊維が浸透し、繊維間の空気が除去された領域を言う。すなわち、含浸した領域は、連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維、ならびに、熱可塑性樹脂繊維のその間に硬化後の熱硬化性樹脂が存在する。
超深度カラー3D形状測定顕微鏡は、VK-9500(コントローラー部)/VK-9510(測定部)(キーエンス社製)を用いた。
【0089】
<ホースの弾性率の測定方法>
得られたホースの弾性率は、ホースから、200mmを切り出して、以下の通り行った。
切り出したホースを固定できる形状のチャックを用い、ホースの弾性率は、チャック間距離60mm、20mm/分の条件で、他はJIS K7113:2019に準拠して引張試験して求めた。
単位は、MPaで示した。
【0090】
<応答性の評価>
ランサーレボリューションX(三菱自動車工業社製)に装着し、ブレーキの踏み込みに対する応答の速度や効きを以下の通り評価した。評価は10人の専門家が行い多数決で判断した。
A:応答速度、効きともに極めて良好だった。
B:Aと比較してわずかに踏み込みに対する応答速度に時間差を感じた。
C:Aと比較して踏み込みに対する応答速度に時間差を感じ、効きも悪かった。
【0091】
<連続強化繊維の破断の有無>
ホースをスクレープ摩耗試験機(ユアサシステム機器社製、ET015-001)を用い、ニードル直径45mm、ニードル材料SUS316の針を用い、20サイクル/分、針の移動量20mm、温度23℃の条件で1分走査した。試験後のホースをX線CT-scan(ヤマト社製、TDM 1000H-II)を用いて連続強化繊維の破断の有無を確認し、以下の通り評価した。評価は10人の専門家が行い多数決で判断した。
A:連続強化繊維が破断しなかった。
B:連続強化繊維が破断した。
【0092】
<ホースの摺動性>
ホースから、50cmの長さのものを2本切り出し、それぞれの中心を45度の角度で交差する様に水平に重ね、下方のホースを固定した。上方のホースの末端を手に取り、を長手方向に10cm移動させたときの摺動性を以下の通り評価した。評価は10人の専門家が行い多数決で判断した。
A:引っ掛かりなく上方のホースが移動した。
B:上方のホースを移動させる際、1mm未満の引っ掛かりによる振動を伴なった。
C:上方のホースを移動させる際、1mm以上の引っ掛かりによる振動を伴なった。
【0093】
<フレキシブル性>
ホースが破壊する限界まで曲げた際の曲率半径r(外径、mm)からフレキシブル性を評価した。曲げにかける時間は5秒とした。評価は5人の専門家が行い、その数平均値を曲率半径とした。
A:40>r
B:40≦r<45
C:45≦r<50
D:50≦r
【0094】
<疲労試験>
ホースの疲労試験は、引張疲労破壊を測定することにより行った。具体的には、疲労試験機を用い、JIS K 7118:2019に従って、引張試験モード、周波数10Hz、繰り返し応力振幅10MPa、温度23℃で行った。
疲労試験機は、ElectroPlus-E1000(Instron社製)を用いた。評価は10人の専門家が行い多数決で判断した。
以下の通り評価した。
A:比較例1のホースよりも、格段に破断しにくい
B:比較例1のホースよりも、やや破断しにくい
C:比較例1のホース
D:比較例1のホースよりも、やや破断しやすい
E:比較例1のホースよりも、格段に破断しやすい
【0095】
<耐水性>
ホースを23℃の水中に1週間浸漬させ、寸法変化を以下の通り評価した。評価は10人の専門家が行い多数決で判断した。
A:寸法にほとんど変化が無かった、あるいは、全く変化が無かった。
B:上記A以外(顕著に寸法変化したなど)
【0096】
<軽量性>
ホースの10cmの質量を測定し、単位重量(g/cm)を算出した。最も軽量な熱可塑性樹脂繊維を用いない場合の実施例2を1とした場合の単位質量比から、以下の通り軽量性を評価した。
A:1.0以上1.1未満
B:1.1以上1.4未満
C:1.4以上1.7未満
D:1.7以上
【0097】
実施例2~8、比較例1、比較例2、参考例
実施例1において、表1または表2に示す通り、管の種類、連続強化繊維の有無および種類、熱硬化性樹脂の種類、ならびに、熱可塑性樹脂繊維の有無および種類を変更し、他は同様に行った。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
上記結果から明らかなとおり、本発明のホースは、弾性率が低く、フレキシブル性に優れており、疲労破壊を効果的に抑制できた。
さらに、本発明のホースは、連続強化繊維の破断が抑制された。また、本発明のホースは、耐水性および軽量性に優れていた。
また、連続炭素繊維の代わりに、連続ステンレス繊維を用いた場合と比較して、60%まで軽量化を図ることができた。
【符号の説明】
【0101】
11 ステンレスメッシュホース
12 本体
13 コネクタ
20 ホース
21 管(チューブ)
22 連続炭素繊維および/または連続ガラス繊維
23 連続熱可塑性樹脂繊維
24 熱硬化性樹脂
31 内圧
32 引張力
図1
図2
図3