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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】鋼材接合構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20240514BHJP
   E04B 1/24 20060101ALI20240514BHJP
   F16B 11/00 20060101ALI20240514BHJP
   F16B 7/18 20060101ALI20240514BHJP
   F16B 35/04 20060101ALI20240514BHJP
   F16B 35/06 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
E04B1/58 503G
E04B1/58 508S
E04B1/24 N
F16B11/00 D
F16B7/18 A
F16B35/04 M
F16B35/06 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020134159
(22)【出願日】2020-08-06
(65)【公開番号】P2022030279
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2023-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】507011611
【氏名又は名称】株式会社進富
(73)【特許権者】
【識別番号】516152952
【氏名又は名称】構法開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 克則
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-053936(JP,A)
【文献】特公昭49-005099(JP,B1)
【文献】特開平08-144383(JP,A)
【文献】特開2000-160700(JP,A)
【文献】特開2022-031213(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/58
E04B 1/24
F16B 11/00
F16B 7/18
F16B 35/04,35/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
端面同士を対向させたH形鋼またはI形鋼からなる一対の鋼材を接合する鋼材接合構造であって、
前記鋼材のフランジのウェブ側の面に沿って前記ウェブを挟んで両側に配設された一対の連結プレートを備え、
一方の前記連結プレートは、一方の前記鋼材の前記フランジと前記ウェブに溶接されているとともに、他方の前記鋼材の前記フランジにボルト接合されており、
他方の前記連結プレートは、他方の前記鋼材の前記フランジと前記ウェブに溶接されているとともに、一方の前記鋼材の前記フランジにボルト接合されていることを特徴とする、鋼材接合構造。
【請求項2】
前記ウェブの一面側において、上側の前記フランジの下面および下側の前記フランジの上面に沿って一方の前記連結プレートがそれぞれ配設されており、
前記ウェブの他面側において、上側の前記フランジの下面および下側の前記フランジの上面に沿って他方の前記連結プレートがそれぞれ配設されていることを特徴とする、請求項1に記載の鋼材接合構造。
【請求項3】
前記連結プレートには、ボルトの軸部を螺合可能な雌ネジ部が形成されていて、
前記フランジの前記雌ネジ部に対応する位置には、前記ボルトの前記軸部を挿通し、当該ボルトの頭部を係止可能な貫通孔が形成されており、
前記頭部の外面には、前記軸部に近付くにしたがって縮径する傾斜が形成されており、
前記軸部には、前記雌ネジ部に螺合する雄ネジ部と、前記頭部と前記雄ネジ部との間に形成された剪断変形部とが形成されていて、
前記貫通孔の内面には、前記頭部の傾斜と同等の傾斜面が形成されており、
前記雌ネジ部の少なくとも前記剪断変形部に対応する部分の最小内径が前記剪断変形部の最大外径よりも大きいことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の鋼材接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、H形鋼またはI形鋼等の鋼材同士を接合するための鋼材接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
フランジとウェブを備える鋼材(例えば、H形鋼やI形鋼等)同士を軸方向に連結する場合には、鋼材の端面同士を突き合せた状態で、両鋼材にまたがって配設されたスプライスプレートを利用して摩擦接合を行うのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
鋼材同士の摩擦接合は、スプライスプレートによりフランジまたはウェブを両面から挟んだ状態で、高力ボルトで締め付けることにより鋼材とスプライスプレートとの当接面で生じる摩擦力によって応力を伝達する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-123527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
摩擦接合では、摩擦力により接合部におけるズレを抑制している。よって、ボルト孔径よりボルト径が小さくクリアランスがあっても性能上、問題ないので施工誤差を考慮した大きめのクリアランスで施工しているので施工上も問題はない。
一方、ボルト剪断接合では、複数のボルトを用いて鋼材同士を接合する場合、製造時の誤差を吸収可能なクリアランスを設けるのが一般的であるが、接合部に荷重が作用するとクリアランス分のズレが生じて建物に有害な変形が生じてしまうので重要な接合部に使用することは避けられている。
【0006】
また、高力ボルトおよびボルト接合以外の鋼材同士の接合方法としては、溶接を行う場合もあるが、鋼材の接合部全周にわたって溶接するには手間がかかるとともに、溶接によって鋼材同士を一体に接合するには高度な技術が必要となる。
【0007】
本発明は、フランジとウェブとを備える鋼材同士を、簡易に応力の伝達が可能な状態で一体に接合することを可能とした鋼材接合構造を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決する本発明は、端面同士を対向させたH形鋼またはI形鋼からなる一対の鋼材を接合する鋼材接合構造であって、前記鋼材のフランジのウェブ側の面に沿って前記ウェブを挟んで両側に配設された一対の連結プレートを備え、一方の前記連結プレートは一方の前記鋼材の前記フランジと前記ウェブに溶接されているとともに他方の前記鋼材の前記フランジにボルト接合されており、他方の前記連結プレートは他方の前記鋼材の前記フランジと前記ウェブに溶接されているとともに一方の前記鋼材の前記フランジにボルト接合されている。
【0009】
かかる鋼材接合構造によれば、連結プレートと一方の鋼材との間では、フランジとウェブに溶接しているため、鋼材(H形鋼等)の1/2程度の強度を連結プレートに伝達することができ、他方の鋼材(H形鋼等)と連結プレートとの間は、ボルトを介して力の伝達が可能となっている。ウェブを挟んで両側に配設された連結プレートは、互い違いに配設されているため、両鋼材に対してバランスよく応力が伝達される。
【0010】
前記ウェブの一面側において上側の前記フランジの下面および下側の前記フランジの上面に沿って一方の前記連結プレートがそれぞれ配設し、前記ウェブの他面側において上側の前記フランジの下面および下側の前記フランジの上面に沿って他方の前記連結プレートがそれぞれ配設するのが望ましい。
【0011】
ボルト剪断接合による前記鋼材接合構造は、前記連結プレートにボルトの軸部を螺合可能な雌ネジ部が形成されていて、前記フランジの前記雌ネジ部に対応する位置に前記ボルトの前記軸部を挿通して当該ボルトの頭部を係止可能な貫通孔が形成されており、前記頭部の外面には前記軸部に近付くにしたがって縮径する傾斜が形成されており、前記軸部には前記雌ネジ部に螺合する雄ネジ部と、前記頭部と前記雄ネジ部との間に形成された剪断変形部とが形成されていて、前記貫通孔の内面には前記頭部の傾斜と同等の傾斜面が形成されており、前記雌ネジ部の少なくとも前記剪断変形部に対応する部分の最小内径が前記剪断変形部の最大外径よりも大きいものであってもよい。
【0012】
かかる鋼材接合構造によれば、貫通孔の内面にボルトの頭部を係止可能なテーパー(傾斜面)が形成されていて、この貫通孔は雄ネジ部のネジ径に対して大きな内径を有しているため、貫通孔の中心軸と雌ネジ部の中心軸との位置にズレがあったとしても雄ネジ部を雌ネジ部に螺合しやすい。ボルトは、頭部にテーパー(傾斜面)を有しているため、雌ネジ部に螺合することで、貫通孔の内面に頭部が密着する。このとき、雌ネジ部と貫通孔との位置(中心軸)のズレは、剪断変形部が所要の剪断力により剪断変形することにより吸収する。そのため、接合部に所要の剪断力より小さい外力が作用したとしても、部材同士の間にズレが生じることがない。
【発明の効果】
【0013】
本発明の鋼材接合構造によれば、フランジとウェブとを備える鋼材同士を、簡易に応力の伝達が可能な状態で一体に接合することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る鋼材接合構造の一例を示す正面図である。
図2】鋼材接合構造を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は縦断面図、(d)は(a)の横断面図である。
図3】鋼材接合構造の分解斜視図である。
図4】(a)は鋼材接合構造の拡大断面図、(b)はボルトの頭部を上方から望む平面図である。
図5】接合構造の一部を示す断面図である。
図6】本実施形態の鋼材接合構造の施工手順を示す平面図であって、(a)は柱の配置状況、(b)は梁配設状況、(c)は梁接合状況である。
図7】他の形態に係る接合構造の一部を示す拡大断面図である。
図8】(a)は他の形態に係るボルトを示す側面図、(b)はボルトの頭部を上方から望む平面図である。
図9】(a)はその他の形態に係るボルトを示す側面図、(b)はボルトの頭部を上方から望む平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施形態では、図1に示すように、左右一対の柱2,2と、両柱2,2に横架された梁3とからなる梁柱架構における、柱2と梁3の接合部をズレが生じないボルト剪断接合で構成する鋼材接合構造1について説明する。
【0016】
柱2は、鋼管やH形鋼等の鋼材からなる。柱2の側面には、梁3の接合箇所(高さ位置)に応じて、接合部材21が一体に形成されている。接合部材21は、梁3と同一断面の鋼材を柱2の側面に溶接することにより形成されている。本実施形態の接合部材21は、図2(d)に示すように、上下一対のフランジ22,22とフランジ22同士を連結するウェブ23とからなるH形鋼により構成されている。
【0017】
梁3は、左右の柱2の接合部材21の間に架け渡されている。梁3は、図2(b)に示すように、上下一対のフランジ31,31とフランジ31同士を連結するウェブ32とを備えたH形鋼からなる。図2(a)および(b)に示すように、梁3は、柱2の接合部材21と、端面同士を対向させた(突き合せた)状態で接合されている(鋼材接合構造1)。鋼材接合構造1は、梁3のフランジ31のウェブ32側の面に沿って配設された一対の連結プレート4,4を備えている。一対の連結プレート4,4は、ウェブ32を挟んで両側に配設されている。
【0018】
ウェブ32を挟んで対向する一対の連結プレート4,4のうちの一方の連結プレート4(第一連結プレート4a)は、梁3の端部において、フランジ31とウェブ32に基部41が溶接されている。連結プレート4の基部41(梁3に溶接された部分)以外の部分(突出部42)は、図3に示すように、梁3の先端から接合部材21側に突出している。突出部42には、複数(本実施形態では三つ)の雌ネジ部43,43,43が形成されている。図2(c)に示すように、突出部42は、雌ネジ部43に螺合されたボルト5を介して、接合部材21のフランジ22にボルト接合されている。
【0019】
本実施形態では、図2(b)に示すように、ウェブ32(ウェブ23)の一面側には、上下のフランジ31,31(22,22)に沿って第一連結プレート4aが同じ向きに配設されている。すなわち、ウェブ32の一面側に配設された連結プレート4(第一連結プレート4a)は、梁3の上側のフランジ31の下面および梁3のウェブ32の板面、または、梁3の下側のフランジ31の上面および梁3のウェブ32の板面に基部41が溶接されている。
【0020】
ウェブ32を挟んで対向する一対の連結プレート4,4のうちの他方の連結プレート4(第二連結プレート4b)は、図3に示すように、接合部材21のフランジ22とウェブ23に基部41が溶接されていて、突出部42は接合部材21の先端から梁3側に突出している。突出部42には、複数(本実施形態では三つ)の雌ネジ部43,43,43が形成されている。突出部42は、雌ネジ部43に螺合されたボルト5を介して、梁3のフランジ31にボルト接合されている。
【0021】
本実施形態では、図2(a)に示すように、ウェブ32(ウェブ23)の他面側には、上下のフランジ31,31(フランジ22,22)に沿って第二連結プレート4bが同じ向きに配設されている。すなわち、ウェブ23の他面側に配設された連結プレート4は、接合部材21の上側のフランジ22の下面および接合部材21のウェブ23の板面、または、接合部材21の下側のフランジ22の上面および接合部材21のウェブ23の板面に溶接されている。
【0022】
図3および図4(a)に示すように、梁3のフランジ31には、連結プレート4(第二連結プレート4b)の雌ネジ部43に対応する位置に貫通孔6が形成されている。貫通孔6は、ボルト5の軸部52を挿通し、当該ボルト5の頭部51を収納した状態で係止可能な形状を有している。
【0023】
また、図2(c)、図3および図4(a)に示すように、接合部材21のフランジ22にも、連結プレート4(第一連結プレート4a)の雌ネジ部43に対応する位置に貫通孔6が形成されている。貫通孔6は、ボルト5の軸部52を挿通し、当該ボルト5の頭部51を収納した状態で係止可能な形状を有している。貫通孔6の最小内径は、ボルト5の軸部52の最大外径よりも大きい。
【0024】
図4(a)に示すように、貫通孔6の内面には、傾斜面(テーパー)が形成されている。本実施形態の貫通孔6のテーパーは、勾配の縦横比が5:1(貫通孔6の中心軸に対して11.3°)であるが、貫通孔6の勾配は、貫通孔6の中心軸に対して45°以下、好ましくは10°以上30°以下であれば限定されるものではない。
【0025】
ボルト5は、図4(a)に示すように、貫通孔6に係止される頭部51と、雌ネジ部43に螺合される軸部52とを備えている。
頭部51の外面には、軸部52に近付くにしたがって縮径する傾斜面(テーパー)が形成されている。頭部51の外面に形成されたテーパーの勾配は、貫通孔6のテーパー(内壁面)の勾配と同等(縦横比が5:1)とする。また、頭部51のテーパーの長さは、貫通孔6のテーパーの長さと同等する。すなわち、ボルト5の頭部51は、貫通孔6に挿入した状態で、略全体が、貫通孔6に収まる形状を有している。頭部51には、図4(b)に示すように、上面に開口する平面視六角形状の凹部(六角穴)53が形成されている。ボルト5は、凹部53を利用して、六角棒レンチなどの工具による締め付けが可能である。
【0026】
軸部52には、図4(a)に示すように、外面にネジ(雄ネジ)が形成された雄ネジ部54と、雄ネジ部54と頭部51との間に形成された剪断変形部55とが形成されている。
剪断変形部55の外面には雄ネジを有しておらず、剪断変形部55の外径は、雄ネジ部54の谷径よりも小さくする。そのため、剪断変形部55の外径は、雌ネジ部43の内径よりも小さい。すなわち、軸部52の軸心と、雌ネジ部43の軸心とが一致した状態でボルト5を雌ネジ部43に螺合すると、剪断変形部55の外面と雌ネジ部43との間に、剪断変形部55の外径を雄ネジ部54の谷径よりも小さくした寸法の隙間が形成される。剪断変形部55と雌ネジ部43との隙間の大きさは、隣り合う雌ネジ部43同士の孔間寸法P2と隣り合う貫通孔6同士の孔間寸法P1との差の1/2程度とするのが望ましい(図5参照)。
【0027】
本実施形態の梁3は、以下の手順により、柱2同士の間に横架する。
まず、図6(a)に示すように、接合部材21に連結プレート4(第二連結プレート4b)を溶接するとともに、梁3の端部に連結プレート4(第一連結プレート4aを溶接する。接合部材21への連結プレート4の固定は、柱2を建て込む前に行ってもよいし、柱2を所定の位置に建て込んでから行ってもよい。
【0028】
次に、図6(b)に示すように、連結プレート4が固定された梁3を、揚重機(図示せず)を利用して、柱2,2同士の間に配設する。このとき、梁3は、柱2同士を結ぶ直線に対して、交差する向きにした状態で、柱2同士の間に挿入してから、回転させることにより、柱2同士の間に配設する。
【0029】
図6(c)に示すように、梁3を所定の位置に配置したら、梁3の端面と接合部材21の端面とを対向させた状態(突き合せた状態)で、貫通孔6に軸部52を貫通させたボルト5を、連結プレート4の雌ネジ部43に締結する。
【0030】
図5に示すように、隣り合う貫通孔6同士の孔間寸法P1の大きさと、隣り合う雌ネジ部43同士の孔間寸法P2の大きさとに差がある場合であっても、剪断変形部55においてボルト5が変形することで、ボルト5の頭部51が貫通孔6の内面に密着した状態で、フランジ31,22と連結プレート4とを接合できる。すなわち、雌ネジ部43より小さく、雌ネジ部43の内径との間に隙間を有した剪断変形部55において変形することで、貫通孔6と雌ネジ部43との間の寸法差を吸収することができる。このとき、剪断変形部55では、貫通孔6同士の孔間寸法P1と雌ネジ部43同士の孔間寸法P2との差の1/2である調整寸法ΔT(=(P1-P2)/2)分の変位が生じることで、ズレを吸収する。
【0031】
本実施形態の鋼材接合構造1によれば、連結プレート4を梁3または接合部材21のいずれか一方のフランジ31,22とウェブ32,23に溶接しているため、鋼材(H形鋼)の1/2程度の強度を連結プレート4に伝達することができ、他方の鋼材(H形鋼)と連結プレート4との間ではボルト5を介して力の伝達が可能となっている。ウェブ32,23を挟んで両側に配設された連結プレート4,4は、互い違いに配設されているため、梁3と接合部材21とに対してバランスよく応力を伝達する。
【0032】
また、鋼材接合構造1では、摩擦力により応力を伝達するのではなく、溶接またはボルト5を介して梁3と接合部材21との間で応力を伝達するため、鋼材の形状により連結プレート4の板面と梁3のフランジ31の板面または接合部材21のフランジ22の板面との間にわずかな隙間が形成されている場合であっても、伝達性能が低下することはない。
【0033】
鋼材接合構造1は、貫通孔6の内面にボルト5の頭部51を係止可能なテーパー(傾斜面)が形成されていて、この貫通孔6は雌ネジ部43に対して大きな内径を有しているため、貫通孔6の中心軸と雌ネジ部43の中心軸との位置にズレがあったとしてもボルト5を雌ネジ部43に螺合しやすい。ボルト5は、頭部51にテーパー(傾斜面)を有しているため、雌ネジ部43に螺合することで、貫通孔6の内面に頭部51の外面が密着する。このとき、雌ネジ部436と貫通孔6との位置(中心軸)のズレは、剪断変形部55が剪断変形することにより吸収する。そのため、鋼材接合構造1に外力が作用したとしても、フランジ31,22と連結プレート4との間にズレが生じることがない。
【0034】
剪断変形部55の外径が雄ネジ部54の谷径よりも小さいため、剪断変形部55において剪断変形しやすくなる。貫通孔6と雌ネジ部43との間にズレが生じている場合であっても、剪断変形部55が先行して剪断変形(弾性変形~塑性変形)するとき、最大剪断強度に達することを想定して、ボルトの他部位や、貫通孔6または雌ネジ部43が損傷しないように設計しておく。また、フランジ31,22と連結プレート4との間でズレが生じる力に対して、剪断変形部55の弾性範囲の剪断力で設計しておくとよい。
【0035】
貫通孔6がボルト5の頭部51のほぼ全体が収まる形状を有しているため、ボルト5の頭部51は鋼材からほぼ突出しない。
また、貫通孔6のテーパーがボルト5挿入時のガイドとして機能する。
また、ボルト5の外面が貫通孔6の内面に密着しているため、緩み難い。
【0036】
また、テーパーの勾配を縦横比が5:1(貫通孔6の中心軸に対して45°以下、好ましくは10°以上30°以下)にすることで、ボルト5を締め込みつつ、テーパーに追って剪断変形部55を剪断変形させることができる。なお、テーパーの角度が大きすぎると、ボルト5の締め込み力に対して、水平力が小さくなるので剪断変形部55の剪断変形が難くなる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
前記実施形態では、梁3と柱2の接合部における鋼材接合構造1について説明したが、鋼材接合構造1は、H形鋼またはH形鋼等の鋼材同士を接合するものであれば、接合する部材の用途は限定されるものではない。
【0038】
また、前記実施形態では、ボルト5の剪断変形部55にネジが形成されていない場合について説明したが、図8に示すように、ボルト5の軸部52の全長にわたってネジが形成されていてもよい。このとき、雌ネジ部43には、剪断変形部55の位置に対応して、剪断変形部55の最大外径(ネジの山)よりも大きな内径の拡径部45を形成しておく。こうすることで、剪断変形部55と雌ネジ部43との間に隙間を形成し、剪断変形部55における変形を可能として、貫通孔6と雌ネジ部43とのズレを吸収可能とする。
【0039】
前記実施形態では、貫通孔6の内面と、ボルト5の頭部51の外面にそれぞれテーパーが形成されている場合について説明したが、ボルト5の形状は限定されるものではない。また、ボルト5の頭部51は、鋼材の板面から突出していてもよい。このとき、ボルト5の軸部52の一部または頭部51の一部が、貫通孔6の内面に密着しているのが望ましい。
【0040】
また、連結プレート4の雌ネジ部43に雌ネジを加工しない場合には、ボルト5を連結プレート4に添接されたナットに締結してもよい。このとき、ボルト5は、軸部52の外面が貫通孔6の内面および雌ネジ部43の内面に密着しているのが望ましい。
【0041】
前記実施形態では、ボルト5の頭部51に工具を挿入可能な凹部(六角穴)53が形成されているものとしたが、ボルト5の形状は限定されるものではない。例えば、図8(a)および(b)に示すように、頭部51の上面にレンチやスパナ等の締付工具を係止可能な平面視多角形状(図8では六角形)の係止部56が突設されていてもよい。
また、ボルト5の頭部51は、図9(a)および(b)に示すように、レンチやスパナ等の締付工具を係止可能な平面視多角形状(図9では六角形)の係止部56を構成していてもよい。このとき、頭部51は、図9(a)に示すように軸部52との境界部に軸部52に近付くにしたがって縮径する傾斜面(テーパー)が形成されている。
【符号の説明】
【0042】
1 鋼材接合構造
2 柱
21 接合部材
22 フランジ
23 ウェブ
3 梁
31 フランジ
32 ウェブ
4 連結プレート
41 基部
42 突出部
43 雌ネジ部(ボルト孔)
5 ボルト
51 頭部
52 軸部
53 凹部
54 雄ネジ部
55 剪断変形部
6 貫通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9