(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】DCDC変換回路、ならびにその制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20240514BHJP
【FI】
H02M3/28 H
(21)【出願番号】P 2020135279
(22)【出願日】2020-08-07
【審査請求日】2023-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 英明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 紘基
(72)【発明者】
【氏名】千葉 雄斗
【審査官】栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-041435(JP,A)
【文献】特表2019-503160(JP,A)
【文献】特開2022-029404(JP,A)
【文献】特開2012-010574(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0170738(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのアーム素子が直列接続された第1レグと、2つのアーム素子が直列接続された第2レグとを有する第1ブリッジ回路と、
2つのアーム素子が直列接続された第3レグと、2つのアーム素子が直列接続された第4レグとを有する第2ブリッジ回路と、
前記第1ブリッジ回路に接続された第1巻線と、
前記第1巻線と磁気結合し、前記第2ブリッジ回路に接続された第2巻線と、
を備えるDCDC変換回路の制御装置であって、
第1ブリッジ回路の端子間電圧および前記第2ブリッジ回路の端子間電圧の電圧値を計測する電圧計測部と、
計測された前記電圧値に基づいて、前記第1巻線に流れる電流のゼロクロスタイミングを基準とする前記第1レグ、前記第2レグ、前記第3レグ、および前記第4レグの位相シフト量を決定する決定部と、
前記決定した位相シフト量に基づいて、前記第1レグ、前記第2レグ、前記第3レグ、および前記第4レグをスイッチングするスイッチング制御部と
を備えるDCDC変換回路の制御装置。
【請求項2】
前記決定部は、
前記第1レグと前記第2レグとが同時にスイッチングするように前記位相シフト量を決定し、
請求項1に記載のDCDC変換回路の制御装置。
【請求項3】
前記決定部は、
前記第2レグと前記第4レグとが同時にスイッチングするように前記位相シフト量を決定する
請求項1または請求項2に記載のDCDC変換回路の制御装置。
【請求項4】
前記決定部は、
前記第1ブリッジ回路への入力電流の電流値が閾値以上である場合に、前記第1レグと前記第2レグとが同時にスイッチングするように前記位相シフト量を決定し、
前記電流値が前記閾値未満である場合に、前記第2レグと前記第4レグとが同時にスイッチングするように前記位相シフト量を決定する
請求項1から請求項3の何れか1項に記載のDCDC変換回路の制御装置。
【請求項5】
2つのアーム素子が直列接続された第1レグと、2つのアーム素子が直列接続された第2レグとを有する第1ブリッジ回路と、
2つのアーム素子が直列接続された第3レグと、2つのアーム素子が直列接続された第4レグとを有する第2ブリッジ回路と、
前記第1ブリッジ回路に接続された第1巻線と、
前記第1巻線と磁気結合し、前記第2ブリッジ回路に接続された第2巻線と、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載のDCDC変換回路の制御装置と、
を備えるDCDC変換回路。
【請求項6】
2つのアーム素子が直列接続された第1レグと、2つのアーム素子が直列接続された第2レグとを有する第1ブリッジ回路と、
2つのアーム素子が直列接続された第3レグと、2つのアーム素子が直列接続された第4レグとを有する第2ブリッジ回路と、
前記第1ブリッジ回路に接続された第1巻線と、
前記第1巻線と磁気結合し、前記第2ブリッジ回路に接続された第2巻線と、
を備えるDCDC変換回路の制御方法であって、
第1ブリッジ回路の端子間電圧および前記第2ブリッジ回路の端子間電圧の電圧値を取得するステップと、
計測された前記電圧値に基づいて、前記第1巻線に流れる電流のゼロクロスタイミングを基準とする前記第1レグ、前記第2レグ、前記第3レグ、および前記第4レグの位相シフト量を決定するステップと、
前記決定した位相シフト量に基づいて、前記第1レグ、前記第2レグ、前記第3レグ、および前記第4レグをスイッチングするステップと
を備えるDCDC変換回路の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、DCDC変換回路、ならびにその制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、三相交流電力を直流電力に変換する電力変換装置が開示されている。特許文献1に示されるように、三相交流電源から直流電力を取り出すためには、通常、整流回路とDCDC変換回路とを備える電力変換装置(ACDCコンバータ)が用いられる。DCDC変換回路の構成として、DAB(Dual Active Bridge)回路が知られている。DAB回路は、トランスを構成する2つの巻線のそれぞれにブリッジ回路を接続したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
DAB回路において効率を高め、またノイズを低減するためには、ハードスイッチングの発生を抑えることが重要である。ハードスイッチングとは、電圧と電流とが重なる期間にスイッチング素子を切り替えることである。ハードスイッチングを行うことで、電圧や電流にサージが発生し、これに起因する高周波ノイズが生じる。
【0005】
電流または電圧がゼロのときにスイッチングを行うソフトスイッチング(ゼロ電流スイッチング、またはゼロ電圧スイッチング)を行うことで、効率の向上およびノイズの低減が期待できることが知られている。DAB回路の制御方法として、一次側(入力側)のブリッジからトランスに印加される電圧を正負それぞれ50%のデューティ比、二次側(出力側)のブリッジからトランスに印加される電圧を正負それぞれ50%のデューティ比とし、それぞれのブリッジからトランスに印加される電圧の正負切り替えタイミングをずらす(位相差を持たせる)手法が知られている。しかしながら、このスイッチング手法では、トランスの巻数比によって一次側に換算された二次側電圧と一次側電圧との差が大きく、出力する電流が小さいとゼロ電圧スイッチングができないという課題がある。
【0006】
本開示の目的は、一次側に換算された二次側電圧と一次側電圧との差が大きく、出力する電流が小さい場合にもゼロ電圧スイッチングを実現可能なDCDC変換回路、ならびにその制御装置および制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、DCDC変換回路の制御装置は、2つのアーム素子が直列接続された第1レグと、2つのアーム素子が直列接続された第2レグとを有する第1ブリッジ回路と、2つのアーム素子が直列接続された第3レグと、2つのアーム素子が直列接続された第4レグとを有する第2ブリッジ回路と、前記第1ブリッジ回路に接続された第1巻線と、前記第1巻線と磁気結合し、前記第2ブリッジ回路に接続された第2巻線と、を備えるDCDC変換回路の制御装置であって、前記第1ブリッジ回路の端子間電圧および前記第2ブリッジ回路の端子間電圧の電圧値を取得する取得部と、前記電圧値に基づいて、前記第1巻線に流れる電流のゼロクロスタイミングを基準とする前記第1レグ、前記第2レグ、前記第3レグ、および前記第4レグの位相シフト量を決定する決定部と、前記決定した位相シフト量とに基づいて、前記第1レグ、前記第2レグ、前記第3レグ、および前記第4レグをスイッチングするスイッチング制御部とを備える。
【発明の効果】
【0008】
上記態様によれば、DCDC変換回路の制御装置は、ゼロクロスタイミングを基準として位相シフト量を決定することで、各レグに対応する4つの自由度を以て制御装置を制御することができる。これにより、DCDC変換回路の制御装置は、一次側に換算された二次側電圧と一次側電圧との差が大きく、出力する電流が小さい場合にもゼロ電圧スイッチングを実現可能なスイッチングタイミングを決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態に係るDCDC変換回路である。
【
図2】制御装置のソフトウェア構成を示す概略ブロック図である。
【
図3】各アームのスイッチングタイミングと、ブリッジ回路の瞬時電圧およびトランス回路の瞬時電流の変化を示すタイムチャートである。
【
図4】第1の実施形態に係る第1モードにおけるゼロ電圧スイッチングが可能な動作範囲を示す図である。
【
図5】第1の実施形態に係る第2モードにおけるゼロ電圧スイッチングが可能な動作範囲を示す図である。
【
図6】第1の実施形態に係る制御装置の動作を示すフローチャートである。
【
図7】少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〈第1の実施形態〉
《DCDC変換回路の構成》
以下、図面を参照しながら実施形態について詳しく説明する。
図1は、第1の実施形態に係るDCDC変換回路である。
第1の実施形態に係るDCDC変換回路1は、入力側端子対と出力側端子対を備えるDAB(Dual Active Bridge)回路である。DCDC変換回路1は、制御装置20による制御により、ブリッジ回路を構成する各レグのスイッチングを制御する。
【0011】
DCDC変換回路1は、一次ブリッジ回路11と、トランス回路12と、二次ブリッジ回路13と制御装置20とを備える。トランス回路12は、電磁結合された一次巻線W1および二次巻線W2を有する。
【0012】
一次ブリッジ回路11は、2つのレグすなわち第1レグL1および第2レグL2により構成されるブリッジ回路である。第1レグL1は、直列に接続したアーム素子A11およびアーム素子A12からなる。第2レグL2は、直列に接続したアーム素子A21およびアーム素子A22からなる。
アーム素子Aは、ダイオードとスイッチとを並列に接続した素子である。スイッチがオフ(OFF、開)のときは、アーム素子Aは、ダイオードの向きにのみ電流を通す。一方、スイッチがオン(ON、閉)のときは、アーム素子Aは、何れの向きにも電流を通す。以下、アーム素子Aの一対の端子のうちダイオードのアノード側の端子をアノードとよび、ダイオードのカソード側の端子をカソードとよぶ。
【0013】
アーム素子A11のアノードは、一次巻線W1の第1端子(
図1において紙面上側に図示される端子)と、アーム素子A12のカソードとに接続される。
アーム素子A11のカソードは、DCDC変換回路1の入力側の正極端子と、アーム素子A21のカソードとに接続される。
アーム素子A12のアノードは、DCDC変換回路1の入力側の負極端子と、アーム素子A22のアノードとに接続される。
アーム素子A12のカソードは、一次巻線W1の第1端子と、アーム素子A11のアノードとに接続される。
【0014】
アーム素子A21のアノードは、一次巻線W1の第2端子(
図1において紙面下側に図示される端子)と、アーム素子A22のカソードとに接続される。
アーム素子A21のカソードは、DCDC変換回路1の入力側の正極端子と、アーム素子A11のカソードとに接続される。
アーム素子A22のアノードは、DCDC変換回路1の入力側の負極端子と、アーム素子A12のアノードとに接続される。
アーム素子A22のカソードは、一次巻線W1の第2端子と、アーム素子A21のアノードとに接続される。
【0015】
二次ブリッジ回路13は、2つのレグすなわち第3レグL3および第4レグL4により構成されるブリッジ回路である。第3レグL3は、直列に接続したアーム素子A31およびアーム素子A32からなる。第4レグL4は、直列に接続したアーム素子A41およびアーム素子A42からなる。
【0016】
アーム素子A31のアノードは、二次巻線W2の第1端子(
図1において紙面上側に図示される端子)と、アーム素子A32のカソードとに接続される。
アーム素子A31のカソードは、DCDC変換回路1の出力側の正極端子と、アーム素子A41のカソードとに接続される。
アーム素子A32のアノードは、DCDC変換回路1の出力側の負極端子と、アーム素子A42のアノードとに接続される。
アーム素子A32のカソードは、二次巻線W2の第1端子と、アーム素子A31のアノードとに接続される。
【0017】
アーム素子A41のアノードは、二次巻線W2の第2端子(
図1において紙面下側に図示される端子)と、アーム素子A42のカソードとに接続される。
アーム素子A41のカソードは、DCDC変換回路1の出力側の正極端子と、アーム素子A31のカソードとに接続される。
アーム素子A42のアノードは、DCDC変換回路1の出力側の負極端子と、アーム素子A32のアノードとに接続される。
アーム素子A42のカソードは、二次巻線W2の第2端子と、アーム素子A41のアノードとに接続される。
【0018】
《制御装置の構成》
第1の実施形態に係る制御装置20は、DCDC変換回路1がソフトスイッチングするように、DCDC変換回路1の各アーム素子Aのスイッチングを制御する。制御装置20は、例えばマイクロコンピュータによって実現される。制御装置20は、一次ブリッジ回路11の端子間電圧を計測する第1電圧計21と、二次ブリッジ回路13の端子間電圧を計測する第2電圧計22とを備える。
【0019】
図2は、制御装置20のソフトウェア構成を示す概略ブロック図である。
制御装置20は、取得部201、モード決定部202、第1演算部203、第2演算部204、タイマー205、スイッチング制御部206を備える。
【0020】
取得部201は、第1電圧計21および第2電圧計22の計測信号を取得する。
【0021】
モード決定部202は、一次ブリッジ回路11の入力電流値に基づいて、スイッチングモードを決定する。スイッチングモードは、一次ブリッジ回路11の入力電流値が閾値以上のときに実行する第1モードと、一次ブリッジ回路11の入力電流値が閾値未満のときに実行する第2モードとを有する。一次ブリッジ回路の入力電流値は、出力電圧の計測値と出力電流の設定値の積を、入力電圧の計測値で除算することで得られる。
【0022】
第1演算部203は、取得部201が取得した第1電圧計21の計測信号および第2電圧計22の計測信号に基づいて、第1モードに係るスイッチングタイミングを演算する。第1モードは、伝送電力を大きくするために、一次巻線W1に印加される電圧のパルスを最大にするスイッチングモードである。そのため、第1レグL1がONからOFFにスイッチングするときに、第2レグL2はOFFからONにスイッチングする。また、第1レグL1がOFFからONにスイッチングするときに、第2レグL2はONからOFFにスイッチングする。すなわち、第1モードにおいては、第1レグL1と第2レグL2のスイッチングタイミングが一致する。第1モードにおいては第1レグL1のスイッチングタイミングと第2レグL2のスイッチングタイミングが180度ずれているともいえる。第1モードに係るスイッチングタイミングの演算方法については、後述する。
【0023】
第2演算部204は、取得部201が取得した第1電圧計21の計測信号および第2電圧計22の計測信号に基づいて、第2モードに係るスイッチングタイミングを演算する。第2モードは、無効電力を小さくするために、第2レグL2のスイッチングタイミングからゼロクロスタイミングまでの時間、およびゼロクロスタイミングから第3レグL3のスイッチングタイミングまでの時間を、ソフトスイッチングを保ちつつ最小にするスイッチングモードである。第2モードに係るスイッチングタイミングの演算方法については、後述する。
【0024】
タイマー205は、予め定められたスイッチング周期Tswに係るタイミングからの経過時間を計測する。スイッチング制御部206が、タイマー205が計測する経過時間を基準に後述のスイッチングタイミングにてスイッチングを行うことで、タイマー205が計測する時間は、一次巻線W1の電流値が負から正に切り替わるゼロクロスタイミングからの経過時間と一致する。
【0025】
スイッチング制御部206は、タイマー205が計測するゼロクロスタイミングからの経過時間に基づいて、第1演算部203または第2演算部204が決定したスイッチングタイミングに従って、第1レグL1、第2レグL2、第3レグL3および第4レグL4をスイッチング制御する。なお、各レグを構成する2つのアーム素子Aは、互いにデューティ比50%で駆動するように制御される。
【0026】
《DCDC変換回路1の挙動》
図3は、各アームAのスイッチングタイミングと、ブリッジ回路の瞬時電圧およびトランス回路の瞬時電流の変化を示すタイムチャートである。以下、
図3を参照しながら各タイミングにおけるDCDC変換回路1の状態を説明する。
第1の実施形態に係る制御装置20は、一次巻線W1のゼロクロスタイミングに基づいて各レグLのスイッチングタイミングを制御する。以下、
図3に示すように、第1レグL1のスイッチングタイミングから一次巻線W1のゼロクロスタイミングまでの時間を位相シフト量T
1とよぶ。また、第2レグL2のスイッチングタイミングから一次巻線W1のゼロクロスタイミングまでの時間を位相シフト量T
2とよぶ。一次巻線W1のゼロクロスタイミングから第3レグL3のスイッチングタイミングまでの時間を位相シフト量T
3とよぶ。一次巻線W1のゼロクロスタイミングから第4レグL4のスイッチングタイミングまでの時間を位相シフト量T
4とよぶ。なお、制御装置20は、予め定められたスイッチング周期T
swの二分の一が経過するたびに、各レグLのON/OFFをスイッチングする。そのため、一次巻線W1を流れる電流のゼロクロスタイミング間の時間もスイッチング周期T
swの二分の一となる。
【0027】
時刻t0において、アームA11はON、アームA12はOFF、アームA21はOFF、アームA22はON、アームA31はOFF、アームA32はON、アームA41はON、アームA42はOFFとなっている。また、時刻t0における一次巻線W1の瞬時I0はゼロである。すなわち時刻t0はゼロクロスタイミングである。
このとき、DCDC変換回路1の一次側は、アームA11、一次巻線W1、およびアームA22を通る回路を構成する。また、DCDC変換回路1の二次側は、アームA41、二次巻線W2およびアームA32を通る回路を構成する。これにより、一次巻線W1の第1端子から第2端子へ向かって電流が流れ、一次巻線W1の瞬時電圧はE1となる。DCDC変換回路1の二次側は、アーム素子A32、二次巻線W2、およびアーム素子A41を通る回路を構成する。そのため、二次巻線W2には、DCDC出力端子に接続されている外部蓄電装置の電圧E2が印加されることで、二次巻線W2の瞬時電圧は-E2となる。
【0028】
時刻t1において、アームA31がOFFからONに切り替わり、アームA32がONからOFFに切り替わる。すなわち、時刻t1は第3レグL3のスイッチングタイミングである。つまり、ゼロクロスタイミングである時刻t0から第3レグL3のスイッチングタイミングt1までの時間は第3レグL3の位相シフト量T3と等しい。
第3レグL3のスイッチングにより、DCDC変換回路1の二次側は短絡状態となり、二次巻線W2の瞬時電圧はゼロとなる。
時刻t0から時刻t1までの期間に一次側に換算した漏れインダクタンスに印加される電圧はE1+E2´であるため、時刻t1において一次巻線W1に流れる電流I1は、以下の式(1)で示される。なお、E2´は、二次巻線W2の瞬時電圧をトランス巻数比で一次側換算した値を表す。なお、式(1)においてLはインダクタンスを示す。
【0029】
【0030】
時刻t2において、アームA41がONからOFFに切り替わり、アームA42がOFFからONに切り替わる。すなわち、時刻t2は第4レグL4のスイッチングタイミングである。つまり、ゼロクロスタイミングである時刻t0から第4レグL4のスイッチングタイミングt2までの時間は第4レグL4の位相シフト量T4と等しい。
第4レグL4のスイッチングにより、DCDC変換回路1の二次側は、アームA31、二次巻線W2およびアームA42を通る回路を構成する。これにより、二次ブリッジ回路13の出力電圧はE2となる。
時刻t1から時刻t2までの期間に一次側に換算した漏れインダクタンスに印加される電圧はE1であるため、時刻t2において一次巻線W1に流れる電流I2は、以下の式(2)で示される。
【0031】
【0032】
時刻t3において、アームA11がONからOFFに切り替わり、アームA12がOFFからONに切り替わる。すなわち、時刻t3は第1レグL1のスイッチングタイミングである。次のゼロクロスタイミングは、時刻t0からTsw/2が経過した時刻であるため、時刻t0から第1レグL1のスイッチングタイミングt3までの時間は、スイッチング周期Tswの二分の一から第1レグL1の位相シフト量T1を減算した時間と等しい。
第1レグL1のスイッチングにより、DCDC変換回路1の一次側は短絡状態となり、一次巻線W1の瞬時電圧はゼロとなる。
時刻t2から時刻t3までの期間に一次側に換算した漏れインダクタンスに印加される電圧はE1-E2´であるため、時刻t3において一次巻線W1に流れる電流I3は、以下の式(3)で示される。
【0033】
【0034】
時刻t4において、アームA21がOFFからONに切り替わり、アームA22がONからOFFに切り替わる。すなわち、時刻t4は第2レグL2のスイッチングタイミングである。したがって、時刻t0から第2レグL2のスイッチングタイミングt4までの時間はスイッチング周期Tswの二分の一から第2レグL2の位相シフト量T2を減算した時間と等しい。
第2レグL2のスイッチングにより、DCDC変換回路1の一次側は、アームA21、二次巻線W2およびアームA12を通る回路を構成する。これにより、一次ブリッジ回路11の入力電圧は-E1となる。
時刻t3から時刻t4までの期間に一次側に換算した漏れインダクタンスに印加される電圧は-E2´であるため、時刻t3において一次巻線W1に流れる電流I4は、以下の式(4)で示される。
【0035】
【0036】
一次巻線W1の電流が、スイッチング周期Tswで正負対象に繰り返す周期定常状態となるためには、時刻t0からスイッチング周期の二分の一が経過した時刻t5において、一次巻線W1の瞬時電流がゼロとなる必要がある。
時刻t4から時刻t5までの期間に一次側に換算した漏れインダクタンスに印加される電圧は-(E1+E2´)であるため、時刻t5において一次巻線W1に流れる電流I5は、以下の式(5)で示される。
【0037】
【0038】
位相シフト量T1-T4がすべて正数となる場合に、一次ブリッジ回路11の電圧が立ち上がる際のインダクタ電流が負となり、二次ブリッジ回路13の電圧が立ち上がる際のインダクタ電流が正となるため、ゼロ電圧スイッチングが可能となる。電流I5がゼロであることから逆算すると、電流I4および電流I3は、以下の式(6)、式(7)のように表すことができる。
【0039】
【0040】
ここで、DCDC変換回路1の一次側に接続される電源から取り込まれる電荷について計算する。
時刻t0から時刻t1までの期間に電源から取り込まれる電荷Q1は、式(8)で示される。時刻t1から時刻t2までの期間に電源から取り込まれる電荷Q2は、式(9)で示される。時刻t2から時刻t3までの期間に電源から取り込まれる電荷Q3は、式(10)で示される。時刻t3から時刻t4までの期間に電源から取り込まれる電荷Q4は、式(11)で示される。時刻t4から時刻t5までの期間に電源から取り込まれる電荷Q5は、式(12)で示される。
【0041】
【数8】
【数9】
【数10】
【数11】
【数12】
【0042】
ここで、半周期の間にDCDC変換回路1の一次側に接続される電源から取り込まれるエネルギーW1は、式(13)で示され、DCDC変換回路1の二次側に接続される負荷に供給するエネルギーW2は、式(14)で示される。これらの関係から、式(15)が求められる。
【0043】
【0044】
《第1モードの計算》
上記の関係式を踏まえ、制御装置20の第1演算部203による第1モードに係るDCDC変換回路1によるスイッチングタイミングについて説明する。
第1モードでは、一次側からトランス回路12に印加する電圧のデューティ比を正負それぞれ50%に維持しつつ、二次側のデューティ比によって、ゼロ電圧スイッチングが可能となるように一次巻線W1を通る電流のゼロクロスタイミングを調整する。すなわち、第1モードにおいて第1レグL1の位相シフト量T1と第2レグL2の位相シフト量T2とは等しい。第1モードにおいて、第1レグL1の位相シフト量T1および第2レグL2の位相シフト量T2は、以下の式(16)によって決定される。
【0045】
【0046】
なお、式(16)におけるTδ1は、式(17)に示すものである。
【0047】
【0048】
また、第3レグL3の位相シフト量T3および第4レグL4の位相シフト量T4は、それぞれ以下の式(18)および式(19)によって決定される。
【0049】
【0050】
第1モードによる伝送電力P1は、式(20)によって示される。
【0051】
【0052】
なお、式(20)におけるTδ0は、式(21)に示すものである。
【0053】
【0054】
式(20)から、第1モードにおいてDCDC変換回路1の入力電流の平均値は、式(22)によって表される。
【0055】
【0056】
図4は、第1の実施形態に係る第1モードにおけるゼロ電圧スイッチングが可能な動作範囲を示す図である。
式(22)から、第1モードにおけるゼロ電圧スイッチングが可能な動作範囲における入力電流の最大値I
1(max)および最小値I
1(min)は、それぞれ式(23)および式(24)によって表される。
【0057】
【0058】
すなわち、第1モードにおけるゼロ電圧スイッチングが可能な動作範囲の入力電流の最小値I1(min)は、一次側の電圧E1が二次側の電圧を一時側に換算した値E2´の二分の一のときに最大となる。このときの入力電流の最小値I1(min)は、入力電流の最大値I1(max)の二分の一に等しい。
【0059】
《第2モードの計算》
次に、制御装置20の第2演算部204による第2モードに係るDCDC変換回路1によるスイッチングタイミングについて説明する。
第2モードでは、小電流の領域においてゼロ電流スイッチングを実現するために、一次巻線W1を流れる電流の循環期間が長くなるよう一次側および二次側のデューティ比を制御する。第2モードにおいて、第1レグL1の位相シフト量T1、第2レグL2の位相シフト量T2、第3レグL3の位相シフト量T3および第4レグL4の位相シフト量T4は、それぞれ以下の式(25)から式(28)によって決定される。
【0060】
【0061】
ここで、位相シフト量T2と位相シフト量T4との和は、スイッチング周期Tswの二分の一に等しい。そのため、第2モードにおいて、第2レグL2と第4レグL4とは同時にスイッチングすることとなる。
なお、式(25)から式(28)におけるTδ2は、式(29)に示すものである。
【0062】
【0063】
なお、式(29)におけるTminは、無負荷時の最小パルス幅を決めるパラメータであって、式(30)に示す関係を有する。
【0064】
【0065】
なお、式(30)に示すT3(min)は、T3の最小値である。T3は、式(31)に示す関係を有し、ゲート回路やMOSFETのターンオフ遅れ時間のばらつき等を考慮して設定される。
【0066】
【0067】
第2モードによる伝送電力P2は、式(32)によって示される。
【0068】
【0069】
式(32)から、第2モードにおいてDCDC変換回路1の入力電流の平均値I2は、式(33)によって表される。
【0070】
【0071】
図5は、第1の実施形態に係る第2モードにおけるゼロ電圧スイッチングが可能な動作範囲を示す図である。
式(33)から、第2モードにおけるゼロ電圧スイッチングが可能な動作範囲の入力電流の最大値I
2(max)は、式(34)によって表される。
【0072】
【0073】
なお、
図4に示すように、第1モードにおけるゼロ電圧スイッチングが可能な動作範囲の入力電流の下限値の最大値I
1(min)は、式(34)に示す第2モードにおけるゼロ電圧スイッチングが可能な動作範囲の入力電流の上限値I
2(max)と等しくなる。つまり、制御装置20は、例えば式(34)に示す電流値I
2(max)を閾値として第1モードと第2モードとを切り替えることで、以下の式(35)に示す動作範囲において、もれなくゼロ電圧スイッチングを実現することができる。
【0074】
【0075】
《制御装置20の制御方法》
図6は、第1の実施形態に係る制御装置20の動作を示すフローチャートである。
制御装置20がDCDC変換回路1の制御を開始すると、制御装置20は、予め定められたスイッチング周期T
swごとに、
図6に示す処理を開始する。制御装置20は、例えばスイッチング周期T
swで駆動するクロック信号に基づいて、処理タイミングを特定する。なお、処理タイミングごとに
図6に示す処理が実行されることで、処理タイミングとゼロクロスタイミングとが一致することとなる。
【0076】
取得部201は、第1電圧計21および第2電圧計22から計測信号を取得する(ステップS1)。また、タイマー205は、スイッチング周期Tswに係るタイミングからの経過時間の計測を開始する(ステップS2)。モード決定部202は、ステップS1で取得した第1電圧計21および第2電圧計22の計測信号から計算される一次側の入力電流値に基づいて、一次巻線W1に流れる電流の電流値が式(33)に示す閾値I2(max)以上か否かを判定する(ステップS3)。
【0077】
一次側の入力電流値が閾値I2(max)以上である場合(ステップS3:YES)、第1演算部203は、取得部201が取得した第1電圧計21および第2電圧計22の計測信号に基づいて、上述の式(16)から式(19)により、第1モードに係る各レグの位相シフト量T1-T4を算出する(ステップS4)。
他方、一次側の入力電流値が閾値I2(max)未満である場合(ステップS3:NO)、第2演算部204は、取得部201が取得した第1電圧計21および第2電圧計22の計測信号に基づいて、上述の式(25)から式(28)により、第2モードに係る各レグの位相シフト量T1-T4を算出する(ステップS5)。
なお、スイッチング周期Tswおよび出力電流の設定値は、予め制御装置20に設定されているものとする。
【0078】
スイッチング制御部206は、タイマー205が計測する経過時間がステップS4またはS5で算出した位相シフト量T3になったときに、第3レグL3をスイッチングする(ステップS6)。
次に、スイッチング制御部206は、タイマー205が計測する経過時間がステップS4またはS5で算出した位相シフト量T4になったときに、第4レグL4をスイッチングする(ステップS7)。
【0079】
次に、スイッチング制御部206は、タイマー205が計測する経過時間が、スイッチング周期Tswの二分の一とステップS4またはS5で算出した位相シフト量T1の差の時間になったときに、第1レグL1をスイッチングする(ステップS8)。
次に、スイッチング制御部206は、タイマー205が計測する経過時間が、スイッチング周期Tswの二分の一とステップS4またはS5で算出した位相シフト量T2の差の時間になったときに、第2レグL2をスイッチングする(ステップS9)。
【0080】
そして、制御装置20は、処理を終了し、次回の処理タイミングを待機する。
【0081】
《作用・効果》
このように、第1の実施形態に係る制御装置20は、一次巻線W1に流れる電流のゼロクロスタイミングを基準として、第1レグL1、第2レグL2、第3レグL3および第4レグL4の位相シフト量T1-T4をそれぞれ決定し、スイッチング周期Tswと、決定した位相シフト量とに基づいて、各レグをスイッチングする。このように、ゼロクロスタイミングを基準として4つの位相シフト量を変数とすることで、波形の周期性と出力電流の調整を満足させたうえで、2つの自由度を残すことができる。これにより、制御装置20は、残った2つの自由度を用いることでゼロ電圧スイッチングを実現可能なスイッチングタイミングを容易に特定することができる。
【0082】
また、第1の実施形態に係る制御装置20は、第1モードにおいて第1レグL1と第2レグL2とが同時にスイッチングするように位相シフト量を決定する。これにより、制御装置20は、一次側の電圧の実効値を最大にし、入力電圧が低い領域および入力電流が大きい領域について、ゼロ電圧スイッチングが可能な動作範囲を広げることができる。
【0083】
また、第1の実施形態に係る制御装置20は、第2モードにおいて第2レグL2と第4レグL4とが同時にスイッチングするように位相シフト量を決定する。これにより、制御装置20は、一次巻線W1に流れる電流の循環期間を長くし、入力電流が小さい領域について、ゼロ電圧スイッチングが可能な動作範囲を広げることができる。
【0084】
また、第1の実施形態に係る制御装置20は、一次巻線W1に流れる電流の電流値が閾値I2(max)以上である場合に第1モードで位相シフト量を算出し、電流値が閾値I2(max)未満である場合に第2モードで位相シフト量を算出する。これにより、制御装置20は、第1モードおよび第2モードでカバーされるすべての範囲においてゼロ電圧スイッチングを実現することができる。
【0085】
〈他の実施形態〉
以上、図面を参照して一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、様々な設計変更等をすることが可能である。すなわち、他の実施形態においては、上述の処理の順序が適宜変更されてもよい。また、一部の処理が並列に実行されてもよい。
【0086】
また、他の実施形態に係る制御装置20は、上述の第1モードおよび第2モードと異なる他の計算方法で、位相シフト量T1-T4を算出してもよい。この場合にも、一次巻線W1に流れる電流のゼロクロスタイミングを基準として、第1レグL1、第2レグL2、第3レグL3および第4レグL4の位相シフト量を算出することで、ゼロ電圧スイッチングを実現可能なスイッチングタイミングを決定するために十分な自由度を確保することができる。
【0087】
また、上述の実施形態では、制御装置20が、一次巻線W1に流れる電流の電流値に基づいて位相シフト量の算出方法を切り替えるが、これに限られない。例えば、他の実施形態に係るDCDC変換回路1が、第1モードのゼロ電圧スイッチングが可能な動作範囲を超えて使用されない場合、制御装置20は、一次巻線W1に流れる電流の電流値によらず、常に第1モードで位相シフト量を算出してもよい。同様に、例えば、他の実施形態に係るDCDC変換回路1が、第2モードのゼロ電圧スイッチングが可能な動作範囲を超えて使用されない場合、制御装置20は、一次巻線W1に流れる電流の電流値によらず、常に第2モードで位相シフト量を算出してもよい。
【0088】
〈コンピュータ構成〉
図7は、少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
コンピュータ90は、プロセッサ91、メインメモリ92、ストレージ93、インタフェース94を備える。
上述の制御装置20は、コンピュータ90に実装される。そして、上述した各処理部の動作は、プログラムの形式でストレージ93に記憶されている。プロセッサ91は、プログラムをストレージ93から読み出してメインメモリ92に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、プロセッサ91は、プログラムに従って、上述した各記憶部に対応する記憶領域をメインメモリ92に確保する。プロセッサ91の例としては、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphic Processing Unit)、マイクロプロセッサなどが挙げられる。
【0089】
プログラムは、コンピュータ90に発揮させる機能の一部を実現するためのものであってもよい。例えば、プログラムは、ストレージに既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせ、または他の装置に実装された他のプログラムとの組み合わせによって機能を発揮させるものであってもよい。なお、他の実施形態においては、コンピュータ90は、上記構成に加えて、または上記構成に代えてPLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を備えてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。この場合、プロセッサ91によって実現される機能の一部または全部が当該集積回路によって実現されてよい。このような集積回路も、プロセッサの一例に含まれる。
【0090】
ストレージ93の例としては、光ディスク、磁気ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリ等が挙げられる。ストレージ93は、コンピュータ90のバスに直接接続された内部メディアであってもよいし、インタフェース94または通信回線を介してコンピュータ90に接続される外部メディアであってもよい。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ90に配信される場合、配信を受けたコンピュータ90が当該プログラムをメインメモリ92に展開し、上記処理を実行してもよい。少なくとも1つの実施形態において、ストレージ93は、一時的でない有形の記憶媒体である。
【0091】
また、当該プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、当該プログラムは、前述した機能をストレージ93に既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせで実現するもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【符号の説明】
【0092】
1…DCDC変換回路 11…一次ブリッジ回路 L1…第1レグ L2…第2レグ 12…トランス回路 W1…一次巻線 W2…二次巻線 13…二次ブリッジ回路 L3…第3レグ L4…第4レグ 20…制御装置 21…電圧計 22…電圧計 201…取得部 202…モード決定部 203…第1演算部 204…第2演算部 205…タイマー 206…スイッチング制御部