(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】固着物の除去方法
(51)【国際特許分類】
B08B 3/08 20060101AFI20240514BHJP
B08B 3/02 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
B08B3/08 Z
B08B3/02 A
(21)【出願番号】P 2019201316
(22)【出願日】2019-11-06
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】508091649
【氏名又は名称】有限会社浦野技研
(74)【代理人】
【識別番号】100098246
【氏名又は名称】砂場 哲郎
(74)【代理人】
【氏名又は名称】山本 孝久
(72)【発明者】
【氏名】浦野 隆実
【審査官】宮部 愛子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-073832(JP,A)
【文献】特開2016-209807(JP,A)
【文献】特開平03-012989(JP,A)
【文献】国際公開第2010/071005(WO,A1)
【文献】特開2001-351893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B3/02
B08B3/08
B08B3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品の表面に固着した固着物の除去方法であって、
前記固着物及び
前記固着物が固着した物品の部分を、容器内で所望の温度に保持された液体に浸漬し、
前記固着物及び
前記固着物が固着した物品の部分を所望の温度に保持することで、
前記固着物の線膨張係数と
前記固着物が固着した物品の部分の線膨張係数との差異に起因したクラック部を、
前記固着物に生じさせる工程、
除去液供給系内で発生させた負に帯電した微細気泡を含む除去液の流れを、正に帯電した固着物に衝突させ、微細気泡を
前記固着物
の表面に付着させるとともに、
前記固着物に生じた
前記クラック部内に拡散浸透させる工程、
前記クラック部内で自己圧壊する微細気泡によって生じた衝撃を
前記固着物に作用させて
前記固着物を
前記クラック部から破壊し、
前記固着物を
前記物品の表面から剥離させる工程
とを備えたことを特徴とする固着物の除去方法。
【請求項2】
前記液体は、
前記除去液の主成分と同じ成分を有する請求項1に記載の固着物の除去方法。
【請求項3】
前記液体は、-14℃~-15℃に温度が保持されたエチルアルコールを含む請求項1または請求項2に記載の固着物の除去方法。
【請求項4】
前記微細気泡の直径は、50μm以下である請求項1に記載の固着物の除去方法。
【請求項5】
前記除去液を吸引するサクション部、
前記サクション部に取り付けられ
、気体を前記サクション部に取り込むための気体吸引部、及び、
前記除去液を排出するデリバリ部、
を有するポンプを使用し、
前記ポンプによって、前記気体吸引部を介して取り込まれた前記気体を前記除去液に混入させて前記除去液に前記微細気泡を含ませ、前記デリバリ部を介して前記除去液を送出し、前記微細気泡を含む前記除去液の流れを前記固着物に衝突させる請求項1に記載の固着物の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固着物の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物品の表面に固着した固着物を除去する固着物の除去方法として、例えば、物品を加熱することで固着物を燃焼させる方法が知られているが、このような方法では、屡々、物品に損傷が生じる。粒状のドライアイスの流れを物品の表面に固着した固着物に衝突させる方法も知られているが、このような方法は処理コストが高いといった問題があるし、やはり、物品に損傷が生じる虞がある。
【0003】
気泡を含む洗浄液によって被洗浄物を洗浄する洗浄装置が、特開2016-209807号公報から周知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許公開公報に開示された洗浄装置は極めて有効な装置である。しかしながら、物品に堅固に固着した固着物を除去することは困難な場合がある。例えば、射出成形装置に備えられた加熱シリンダーに内蔵されたスクリューの表面に溶着してしまったプラスチック材料や、混練機(ニーダー)の混練用羽根、混合機(ミキサー)の混合用羽根に固着してしまった固着物を除去するには、非常に長い時間と膨大な労力を要する。
【0006】
従って、本発明の目的は、物品の表面に固着した固着物を、確実に、短時間で、容易に除去することができる固着物の除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための本発明の固着物の除去方法は、物品の表面に固着した固着物の除去方法であって、
固着物にクラック部を生じさせた後、気泡を含む除去液の流れを固着物に衝突させ、物品の表面から固着物を剥離させる。
【0008】
上記の目的を達成するための本発明の固着物除去装置は、物品の表面に固着した固着物を除去する固着物除去装置であって、
(A)除去液を貯蔵する貯蔵タンク、
(B)ポンプ、
(C)除去ノズルが配置され、物品を収納する除去用容器、及び、
(D)ポンプと除去ノズルとを結ぶ除去液供給系、
を備えており、
ポンプは、
(B-1)貯蔵タンクに貯蔵された除去液を吸引するサクション部、
(B-2)サクション部に取り付けられ、気体をサクション部に取り込むための気体吸引部、及び、
(B-3)除去液を除去ノズルに送出するために、除去液供給系に接続されたデリバリ部、
を備えており、
ポンプは、気体吸引部を介して取り込まれた気体を貯蔵タンクからの除去液に混入させて除去液に気泡を含ませ、デリバリ部を介して除去液を除去ノズルに送出し、
除去ノズルは、気泡を含む除去液の流れを固着物に衝突させる。
【0009】
本発明の固着物の除去方法にあっては、固着物及び固着物が固着した物品の部分を所望の温度に保持することで、固着物の線膨張係数と、固着物が固着した物品の部分の線膨張係数との差異に起因したクラック部(低温度脆性クラック部)を、固着物に生じさせる形態とすることができる。そして、この場合、所望の温度は0度以下の温度であることが望ましく、更には、固着物及び固着物が固着した物品の部分を液体に浸漬することで所望の温度にする形態とすることができ、更には、場合によっては、液体は除去液の主成分と同じ成分を有する形態とすることができる。場合によっては、固着物及び固着物が固着した物品の部分にガス(気体)を吹き付けることで所望の温度にする形態とすることもできる。
【0010】
あるいは又、本発明の固着物の除去方法にあっては、固着物及び固着物が固着した物品の部分を薬品に浸漬することで固着物にクラック部を生じさせる形態とすることができ、この場合、薬品はオゾン又は過酸化水素を含む形態とすることができる。
【0011】
更には、以上に説明した好ましい形態を含む本発明の固着物の除去方法において、
除去液を吸引するサクション部、
サクション部に取り付けられ、気体をサクション部に取り込むための気体吸引部、及び、
除去液を排出するデリバリ部、
を有するポンプを使用し、
ポンプによって、気体吸引部を介して取り込まれた気体を除去液に混入させて除去液に気泡を含ませ、デリバリ部を介して除去液を送出し、気泡を含む除去液の流れを固着物に衝突させる形態とすることができる。
【0012】
除去液循環系は、貯蔵タンクとポンプのサクション部とを結び、且つ、ポンプのデリバリ部と貯蔵タンクとを結び、ポンプのサクション部の近傍に配設された気体吸引部を備えている。ポンプのサクション部近傍に配設された気体吸引部は、例えば、ポンプのサクション部近傍の除去液循環系に取り付けられた配管、及び、バルブ(具体的には、例えば、電磁バルブ)から構成することができる。バルブを開状態とし、配管から除去液循環系に気体(具体的には、例えば空気)を導入、注入することができる。除去液中での気泡の形成は、ポンプを駆動するだけで行うことができる。ポンプとして、故障が少なく、除去液中に気泡を容易に形成することができる渦巻きポンプを例示することができるが、これに限定するものではなく、例えば、サイクロン型ポンプを挙げることもでき、要は、除去液中に気泡を確実に形成することができるポンプであれば、如何なる形式のポンプを用いることもできる。
【0014】
あるいは又、液体を、固着物にクラック部を生じさせるための薬品とすることができ、この場合、薬品はオゾン又は過酸化水素を含む構成とすることができる。あるいは又、液体窒素を用いて物品を冷却し、低温度脆性に基づき固着物にクラック部を発生させてもよい。
【0015】
更には、以上に説明した好ましい形態を含む本発明の固着物の除去方法において、除去液は、水又はエチルアルコールを含む形態とすることができる。尚、エチルアルコールを30%含む水は-14゜C~-15゜Cとなり、エチルアルコールを99%含む水は大凡-50゜Cとなるので、どの程度のエチルアルコールを水と混合するかは、所望の温度に基づき決定すればよい。除去液には、例えば、オゾンや過酸化水素が含まれていてもよいし、除去液として、クエン酸、蓚酸、炭酸水素ナトリウム(重曹)、酢酸、水酸化ナトリウム、次亜塩素酸が含まれていてもよい。また、場合によっては、除去液に、例えば、亜硝酸・有機カルボン酸アゾール化合物を主成分とした防錆処理剤や所望の処理剤を添加してもよい。
【0016】
除去ノズルをエジェクターから構成することができる。エジェクターは、駆動口、吸込口及び吐出口を有し、駆動口及び吸込口は、ポンプのデリバリ部に接続されている。ポンプのデリバリ部からエジェクターの駆動口に圧送された気泡を含む除去液によってエジェクターにおいて発生した吸引力に基づき、ポンプのデリバリ部から気泡を含む除去液が、吸込口に吸い込まれ、エジェクターの駆動口に圧送された除去液と共にエジェクターの駆動口から吐出され、固着物に衝突する。
【0017】
以上に説明した各種好ましい形態、構成を含む本発明の固着物の除去方法において、気泡の直径は50μm以下であることが好ましい。ここで、気泡の直径は、平均直径であり、厳密に50μm以下である場合の他、実質的に50μm以下である場合を含み、種々の要因によって生じるバラツキの存在は許容される。気泡の直径は、ポンプのデリバリ部から吐出した除去液内における値である。直径が50μm以下の気泡は「マイクロバブル」とも呼ばれ、圧壊に至る過程で徐々に小さくなっていき、固着物に生成したクラック部内に浸透していくため、内部から固着物を破壊することができる。
【0019】
除去用容器には、除去用容器から除去液を排出するための除去液排出部が設けられている形態とすることができるし、除去用容器から液体・薬品を排出するための液体・薬品排出部が設けられている形態とすることができる。
【0020】
除去液回収系はフィルタ部を備えている形態とすることができる。除去用容器から排出された除去液を、フィルタ部で濾過した後、貯蔵タンクに戻せば、フィルタ部で固着物等を除去できるため、除去液を再使用することが可能となり、物品から固着物を除去するコスト(処理コスト)の低減を図ることができる。フィルタ部は、周知の構成、構造のフィルタとすることができる。
【0021】
液体・薬品供給系は、液体・薬品貯蔵タンク及び液体・薬品流入部を備えている。液体・薬品貯蔵タンクから供給される液体あるいは薬品を除去用容器に導入するための液体・薬品流入部は、除去液供給系の途中に接続されている。除去用容器から排出された液体や薬品を、フィルタ部で濾過した後、液体・薬品貯蔵タンクに戻せば、フィルタ部で固着物等を除去できるため、液体や薬品を再使用することが可能となり、物品から固着物を除去するコスト(処理コスト)の低減を図ることができる。フィルタ部は、周知の構成、構造のフィルタとすることができる。
【0022】
貯蔵タンクや、除去用容器、液体・薬品貯蔵タンクのそれぞれには、除去液や液体、薬品の温度を制御するための温度制御装置が配設されていることが好ましい。温度制御装置として、例えば、温調装置やチラー、冷却装置、冷凍装置、ボイラーを挙げることができる。
【0023】
貯蔵タンクや液体・薬品貯蔵タンクは、金属や合金、プラスチック材料から作製することができる。貯蔵タンクや液体・薬品貯蔵タンクは、大気開放形とすることができる。除去液供給系や、除去液回収系、除去液循環系、液体・薬品供給系、液体・薬品回収系の一部は、例えば、金属製、合金製、プラスチック製の配管(パイプ)から構成することができる。
【0024】
物品と固着物との組合せとして、(射出成形等に用いられる射出成形機の加熱シリンダーに内蔵されたスクリュー,熱可塑性樹脂)、(食品製造分野における容器や搬送装置、攪拌装置,澱粉)を例示することができる。また、本発明の固着物の除去方法、本発明の固着物除去装置を、各種分野において用いられる各種フィルタからの固着物の除去、各種分野において用いられる鏡面仕上げされた金属あるいは合金製の物品における鏡面仕上げ表面からの固着物の除去、各種分野において用いられる物品に開けられた細孔(例えば、直径0.3mm以下の細孔)内の固着物の除去等に適用することができる。また、物品として、混練機(ニーダー)の混練用羽根、混合機(ミキサー)の混合用羽根を挙げることもできる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の固着物の除去方法にあっては、固着物にクラック部を生じさせた後、気泡を含む除去液の流れを固着物に衝突させ、物品の表面から固着物をクラック部から剥離させるので、物品を傷めること無く、物品の表面に固着した固着物を、確実に、短時間で、容易に除去することができる。また、物品の表面に腐食を生じさせず、物品の表面に固着した固着物を除去するだけなので、物品表面に雑菌やバクテリアの発生床を作らない。尚、ここに記載された効果に必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。また、本明細書に記載された効果はあくまで例示であって、これに限定されるものではなく、また、付加的な効果があってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、実施例1の
固着物除去方法の発明に用いられる固着物除去装置の概念図である。
【
図2】
図2は、実施例1の
固着物除去方法の発明に用いられる固着物除去装置の変形例の概念図である。
【
図3】
図3Aは、ポンプの作用によって除去液が気泡となる過程を示す図であり、
図3Bは、エジェクターの原理図である。
【
図4】
図4は、微細な気泡の体積が小さくなるに従い気泡の内部圧力が徐々に高くなり、最終的に、圧力が最大となって圧壊して消滅する様子を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、減圧装置の概念図を含む実施例2のスラリー氷製造装置の概念図である。
【
図7】
図7は、実施例2のスラリー氷製造装置に備えられた気泡生成室の模式的な断面図である。
【
図8】
図8は、射出成形装置に備えられた加熱シリンダーに内蔵されたスクリュー(物品)の表面に固着(溶着)してしまったプラスチック材料(固着物)を状態を示す図、及び、実施例1の固着物除去方法によって、スクリュー(物品)の表面からプラスチック材料(固着物)を除去した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではなく、実施例における種々の数値や材料は例示である。また、以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【実施例1】
【0028】
実施例1は、本発明の固着物除去
方法に関する。実施例1において、物品は、射出成形等に用いられる射出成形機の加熱シリンダーに内蔵されたスクリューから構成されている。尚、固着物の除去に際して、スクリューは加熱シリンダーから取り外されている。スクリュー(一部を示す)の表面には、固着物として、射出成形に用いられた熱可塑性樹脂、例えば、ポリカーボネート樹脂が固着している(
図8の左手の部分を参照)。固着物除去装置は、物品に固着した固着物を除去する(
図8の右手の部分を参照)。尚、
図1においては、図面の簡素化のため、物品を平板状に示している。
【0029】
実施例1の固着物除去装置の概念図を
図1に示す。また、ポンプの作用によって除去液が気泡となる過程を
図3Aに示す。更には、微細な気泡の体積が小さくなるに従い気泡の内部圧力が徐々に高くなり、最終的に、圧力が最大となって圧壊して消滅する様子を模式的に
図4に示し、微細な気泡がクラック部に拡散浸透していき、固着物を物品の表面から剥離する様子を模式的に
図5A、
図5B、
図5C及び
図5Dに示す。
【0030】
実施例1の固着物除去方法に用いられる固着物除去装置10は、物品(物体)80の表面に固着した固着物(あるいは汚染物)81を除去する固着物除去装置であって、
(A)除去液12を貯蔵する貯蔵タンク11、
(B)ポンプ21、
(C)除去ノズル50が配置され、物品(物体)80を収納する除去用容器41、及び、
(D)ポンプ21と除去ノズル50とを結ぶ除去液供給系30、
を備えており、
ポンプ21は、
(B-1)貯蔵タンク11に貯蔵された除去液12を吸引するサクション部21A、
(B-2)サクション部21Aに取り付けられ、気体(具体的には、空気)をサクション部21Aに取り込むための気体吸引部22、及び、
(B-3)除去液12を除去ノズル50に送出するために、除去液供給系30に接続されたデリバリ部21B、
を備えている。
【0031】
除去液循環系20は、貯蔵タンク11とポンプ21のサクション部21Aとを結び、且つ、ポンプ21のデリバリ部21Bと貯蔵タンク11とを結び、ポンプ21のサクション部21Aの近傍に配設された気体吸引部22を備えている。そして、ポンプ21は、気体吸引部22を介して取り込まれた気体(具体的には、例えば、空気)を貯蔵タンク11からの除去液12に混入させて除去液12に気泡を含ませ、デリバリ部21Bを介して除去液12を除去ノズル50に送出する。即ち、ポンプ21において、除去液12中に気泡が形成される。周知の構成、構造を有する除去ノズル50は、気泡を含む除去液12の流れ(
図1においては、矢印で示す)を固着物81に衝突させる。このように、微細な気泡を含む除去液12で剥離作業を行うことにより、液体だけの除去液で剥離作業を行う場合よりも、大きな剥離効果を得ることができる。
【0032】
具体的には、ポンプ21は、貯蔵タンク11の除去液12に気体を混入させて気泡を形成し、加圧した状態で貯蔵タンク11に戻す循環処理を繰り返すことにより、貯蔵タンク11内の除去液12に微細な気泡(マイクロバブル)を含ませる働きを有する。循環処理を繰り返すことによって気泡が微細化(マイクロバブル化)する。
【0033】
即ち、渦巻きポンプから成るポンプ21は、貯蔵タンク11からの除去液12を吸引し、吸引した除去液12に対して、気体吸引部22を介して取り込まれた気体(空気)を混入(注入)する攪拌作用を有する。気体吸引部22は、貯蔵タンク11とポンプ21のサクション部21Aとを結ぶ除去液循環系20の前段部に配設されている。具体的には、気体吸引部22は、ポンプ21のサクション部21Aの近傍に配設されている。より具体的には、気体吸引部22は、ポンプ21のサクション部21Aの近傍の除去液循環系20に取り付けられた配管23A、及び、バルブ(具体的には、例えば、電磁バルブ23B)から構成されている。気体の混入量(注入量)は、電磁バルブ23Bの開閉度に基づき調整可能である。電磁バルブ23Bを適切な開状態とし、配管23Aから除去液循環系20に気体(具体的には、空気)を導入、注入し、ポンプ21を駆動することで、除去液12中に気泡を形成することができる。ポンプ21のデリバリ部21Bと貯蔵タンク11とを結ぶ除去液循環系20(除去液循環系20の後段部)の途中には遮断弁26が配設されており、所望に応じて、ポンプ21のデリバリ部21Bから貯蔵タンク11へと向かう除去液12の流れを遮断することができる。また、ポンプ21のデリバリ部21Bと除去液供給系30との間にはバイパス路24が設けられており、バイパス路24の途中には補助バルブ25が配設されている。デリバリ部21Bから吐出された気泡を含む除去液12は、一部が貯蔵タンク11の戻され、残部が除去ノズル50に送られる。
【0034】
ここで、気泡の直径は50μm以下であることが好ましい。除去ノズル50から吐出される除去液12の圧力として、ゲージ圧で0.2MPa乃至0.8MPaを例示することができる。また、除去液12の温度は、例えば、0度以下とすればよい。具体的には、除去ノズル50から吐出される除去液12の圧力を、ゲージ圧で0.5MPaとした。
【0035】
除去液12として、-14゜C~-15゜Cに冷却されたエチルアルコールを用いた。
【0036】
除去液供給系30は配管31から構成されており、配管には除去液12の流量を制御する流量制御弁33が配されている。
【0037】
実施例1の固着物除去方法に用いられる装置10は、固着物81にクラック部82を生じさせるために、除去用容器41に液体(あるいは薬品)72を供給する液体供給系70を更に備えている。液体・薬品供給系70は、液体・薬品貯蔵タンク71、液体・薬品流入部73及びバルブ74を備えている。液体・薬品貯蔵タンク71から図示しないポンプを介して供給される液体(あるいは薬品)を除去用容器41に導入するための液体・薬品流入部73は、除去液供給系30の途中に接続されている。そして、固着物81にクラック部82を生じさせるために、液体72は、除去用容器41内の固着物81及び固着物81が固着した物品80の部分の温度を所望の温度とする。ここで、所望の温度は、固着物81の線膨張係数と、固着物81が固着した物品80の部分の線膨張係数との差異に起因してクラック部82が固着物81に生じる温度である。所望の温度を0度以下の温度とすることができる。
【0038】
また、除去用容器41には、液体(あるいは薬品)72を除去用容器41から排出させる液体・薬品排出部75及びバルブ76が設けられており、液体(あるいは薬品)72は、液体・薬品貯蔵タンク71に戻される。液体・薬品貯蔵タンク71には、温度制御装置(図示せず)が配設されており、液体72の温度を所望の温度に制御することができる。温度制御用の液体72として、-14゜C~-15゜Cに冷却されたエチルアルコールを用いた。即ち、実施例1にあっては、液体や薬品を、除去液の主成分と同じ成分を有する構成とした。液体72の温度管理は、液体・薬品貯蔵タンク71内の液体72の温度を温度センサで測定し、設定した温度となるように図示しない冷凍機やチラー等で制御すればよい。
【0039】
除去液回収系60は、除去液排出部61、バルブ62及びフィルタ部63から構成されている。使用後の除去液12を除去用容器41から排出させる除去液排出部61が除去用容器41に取り付けられており、除去液排出部61にはバルブ62が取り付けられている。除去液12を濾過するフィルタ部63は使用後の除去液12に含まれた固着物等を除去する。除去用容器41から排出された除去液12を、フィルタ部63で濾過した後、貯蔵タンク11に戻せば、フィルタ部63で固着物81等を除去できるため、除去液12を再使用が可能となり、物品80から固着物81を除去するコスト(処理コスト)の低減を図ることができる。
【0040】
除去用容器41には、除去用容器41内の液体72を所望の温度(例えば、-14゜C~-15゜C)に保持するための温度制御装置42が取り付けられている。
【0041】
実施例1の固着物の除去方法は、物品(物体)80の表面に固着した固着物の除去方法であって、固着物81にクラック部82を生じさせた後、気泡を含む除去液12の流れを固着物81に衝突させ、物品(物体)80の表面から固着物81を剥離させる。
【0042】
具体的には、固着物81及び固着物81が固着した物品80の部分を所望の温度に保持することで、より具体的には、固着物81及び固着物81が固着した物品80の部分を冷却することで、固着物81の線膨張係数と、固着物81が固着した物品80の部分の線膨張係数との差異に起因したクラック部82を、固着物81に生じさせる。所望の温度は0度以下の温度である。固着物81及び固着物81が固着した物品80の部分を液体72に浸漬することで所望の温度にする。
【0043】
より具体的には、除去用容器41内に物品80を配置する(
図5A参照)。そして、液体・薬品貯蔵タンク71から図示しないポンプを介して液体・薬品流入部73、バルブ74、除去液供給系30を介して、液体72を除去用容器41内に導入する(
図5B参照)。液体72の温度は、前述したとおり、-14゜C~-15゜Cである。その結果、鉄製のスクリュー(線膨張係数11.7×10
-6/K)と、ポリカーボネート樹脂(線膨張係数70×10
-6/K)との差異に起因して、ポリカーボネート樹脂が収縮し、クラック部82が固着物81に生じる(
図5C参照)。
【0044】
その後、除去用容器41内の液体72を、液体・薬品排出部75及びバルブ76を介して液体・薬品貯蔵タンク71に戻す。そして、この状態において、気泡を含む除去液12の流れを固着物81に衝突させる。具体的には、ポンプ21を動作させて、貯蔵タンク11の除去液12に気体を混入させて気泡を形成し、加圧した状態で貯蔵タンク11に戻す循環処理を繰り返すことにより、貯蔵タンク11内の除去液12に微細な気泡(マイクロバブル)を含ませる。循環処理を繰り返すことによって気泡が微細化(マイクロバブル化)する。ここで、気泡の直径は50μm以下であることが好ましい。そして、気泡を含んだ除去液12を、デリバリ部21Bから、バイパス路24、補助バルブ25、除去液供給系30を介して除去ノズル50に送出し、気泡を含む除去液12の流れを固着物81に衝突させる(
図5D参照)。
【0045】
より具体的には、
図3Aに示すように、貯蔵タンク11から吸引した除去液12にポンプ21において空気を混入させることによって、除去液12は気泡を含んだ状態となる。その後、気泡を含んだ除去液12は貯蔵タンク11に戻される。このように、貯蔵タンク11からポンプ21によって吸引された除去液12に空気を混入させ、加圧した状態で貯蔵タンク11に戻す循環処理を繰り返すことにより、貯蔵タンク11内の除去液12は気泡(マイクロバブル)を含んだ状態に保持される。
【0046】
微細な気泡(マイクロバブル)の剥離効果について、以下、具体的に説明する。即ち、微細な気泡には、表面張力により体積が最小になるように変化する性質(自己加圧性)がある。気泡内の圧力は、気泡径が小さくなるに従い増加する。そして、
図4に示すように、微細な気泡の体積が小さくなるに従い内部圧力が徐々に高くなり、最終的には圧力が最大になって気泡は圧壊して消滅する。このとき発生する衝撃波のエネルギーを利用することにより、物品80に固着した固着物81に衝撃を加えながら、より具体的には、クラック部82を介して、物品80と固着物81との界面に衝撃を加えながら、固着物81を物品80から剥ぎ取ることができる。
【0047】
また、微細な気泡は、負コロイドとしての側面があり、負に帯電している。そして、微細な気泡は、正に帯電した有機物や無機物に引き寄せられる。そのため、固着物の表面に微細な気泡が結合(付着)し、その後、微細な気泡が固着物に生成したクラック部内に拡散浸透していくことにより、固着物81をクラック部82の部分から破壊する。そして、このような作用により、固着物81の固着表面(界面)からの剥離性が増すため、物品80に固着した固着した固着物81をより確実に剥ぎ取ることができる。また、微細な気泡は負に帯電しているので、除去液12が固着物81に固着することが無く、除去液12はスラリー状の滑らかな流動性を有するが故に、物品80、固着物81に馴染み易く、物品80からの固着物81の剥離効果を増大させることができる。更には、気泡の存在は、除去液12の温度の均一性をもたらすし、除去用容器内おける物品を浮遊させる効果もある。
【0048】
以上に説明したとおり、実施例1の固着物の除去方法にあっては、固着物にクラック部を生じさせた後、気泡を含む除去液の流れを固着物に衝突させ、物品の表面から固着物を剥離させるので、物品を傷めること無く、物品の表面に固着した固着物を、確実に、短時間で、容易に除去することができる。
【0049】
また、除去液12や液体72にエチルアルコールを用いれば、殺菌効果が期待でき、食品製造分野、医療分野、化粧品製造分野等における容器や搬送装置(例えば、スクリューコンベア)、攪拌装置(攪拌フィン)における固着物の除去に効果を発揮する。
【0050】
図8の左手に、射出成形装置に備えられた加熱シリンダーに内蔵されたスクリュー(物品)の表面に固着(溶着)してしまったプラスチック材料(固着物)の状態を示し、
図8の右手に、実施例1の固着物除去方法によって、スクリュー(物品)の表面からプラスチック材料(固着物)を除去した状態を示す。
図8から、物品の表面から固着物が除去されていることが判る。
【0051】
周知の構成、構造を有する除去ノズル50の代わりに、エジェクター51を用いることもできる。実施例1の固着物除去装置の概念図を
図2に示し、エジェクター51の原理図を
図3Bに示す。
【0052】
エジェクター51は、駆動口52、吸込口53及び吐出口54を有する。駆動口52は、ポンプ21のデリバリ部21Bに配管31,32Bを介して接続されており、吸込口53は、ポンプ21のデリバリ部21Bに配管31,32Aを介して接続されている。配管32Bの途中には遮断弁56が配設されている。
【0053】
駆動口52の内部は、その開口端52Aから終端52Bに向かうに従い内径が徐々に小さくなるノズル状になっており、終端52Bで最小径となる。縮径部55は、駆動口52の終端52Bと同じ内径となっている。吐出口54は、駆動口52と逆の形状、即ち、吐出口54の縮径部側の端部54Bから開口端54Aに向かうに従い内径が徐々に大きくなる形状となっている。
【0054】
エジェクター51の駆動口52には、ポンプ21のデリバリ部21Bから、配管31,32B、遮断弁56を介して、気泡を含む除去液12が圧送される。吸込口53は縮径部55に開口している。エジェクター51において、駆動口52から導入された除去液は縮径部55に向かう。縮径部55の内径が絞られているため、縮径部55における除去液の流速が増加する。そして、流速が増加することで、ベルヌーイの定理に基づき縮径部55の圧力が低下するため、縮径部55に開口した吸込口53における圧力が低下し、配管31,32Aを経た除去液が吸引される。この吸引された除去液は、駆動口52に供給された除去液と共に、吐出口54から吐出され、固着物に衝突する。固着物を物品から剥離する際に除去液12が固着物に与える衝撃力を大きくするためには、遮断弁56を動作させて、エジェクターによる吸引を断続的に行ってもよい。エジェクターによる負圧断続吸引を行うことにより、固着物に与える衝撃力を大きくすることができるので、固着物を物品から一層確実に剥離することができる。
【0055】
このようなエジェクター51を用いる場合、ポンプ21は次の2つの働きを行う。即ち、ポンプ21の第1の働きは、前述したとおり、貯蔵タンク11の除去液12に空気を混入させて気泡を形成し、加圧した状態で貯蔵タンク11に戻す循環処理を繰り返すことにより、貯蔵タンク11内の除去液に微細な気泡(マイクロバブル)を含ませる働きである。そして、微細な気泡を含む除去液12を用いることで、物品80からの固着物81の剥離を確実に行うことができる。ポンプ21の第2の働きは、貯蔵タンク11からの除去液を加圧した状態でエジェクター51の駆動口52に供給し、ベンチュリー効果に基づき、貯蔵タンク11内の除去液12を配管31,32Aを介して吸引させる働きである。
【0056】
可動部を有さないエジェクター51を使用するので損傷が生じることがなく、保守が容易である。更には、除去液の吸引に除去液を用いるので、除去液が希釈されることがなく、除去液の濃度を一定に保つことができる。
【0057】
場合によっては、エジェクターを、除去液循環系20と独立して配設してもよい。この場合、除去液12を貯蔵する貯蔵タンク11とエジェクター51の駆動口52とを結ぶ配管、及び、この配管の途中に配設され、エジェクター51の駆動口52に除去液12を圧送するためのポンプ(ポンプ21とは別のポンプ)から構成される。
【0058】
配管の内壁に固着した固着物の除去にあっては、配管内に入れられるような除去ノズル50やエジェクター51を用いればよい。
【実施例2】
【0059】
実施例2は、実施例1の変形である。実施例2にあっては、液体として、氷粒を含む水(スラリー氷)を用い、以下に説明するスラリー氷製造装置を用いてスラリー氷製造方法に基づき、スラリー氷を製造した。そして、実施例1の液体である-14゜C~-15゜Cのエチルアルコールの代わりに、スラリー氷を用いて、物品80を冷却する。具体的には、固着物81及び固着物81が固着した物品80の部分をスラリー氷で冷却することで、固着物81の線膨張係数と、固着物81が固着した物品80の部分の線膨張係数との差異に起因したクラック部82を、固着物81に生じさせる。
【0060】
概念図を
図6に示すように、実施例2のスラリー氷製造装置は、
塩水を蓄えるチャンバー110、
塩水を冷却する冷凍機120、
チャンバー110に塩水を供給し、チャンバー110から塩水を排出するための塩水循環用配管、
塩水循環用配管の途中に配設され、サクション部が塩水循環用配管を介してチャンバー110に接続された、塩水を循環させるポンプ130、及び、
ポンプ130のデリバリ部側の塩水循環用配管に取り付けられ、窒素ガスを主成分とする気泡を塩水に加える気泡供給装置140、
を備えている。
【0061】
尚、チャンバー110からポンプ130までの塩水循環用配管の部分(上流側塩水循環用配管)を塩水循環用配管161で示し、ポンプ130のサクション部側の塩水循環用配管の部分(下流側塩水循環用配管)を塩水循環用配管162で示す。塩水循環用配管162は、第1配管181、第3配管183及び第4配管184に分枝され、第1配管181は次に述べるように冷凍機120に接続され、第3配管183を介して塩水がチャンバー110内に供給され、第4配管184は、後述するエジェクター151の駆動口152に接続されている。
【0062】
更に、実施例2のスラリー氷製造装置は、
気泡供給装置140の下流側の塩水循環用配管162から分枝され、冷凍機120に塩水を供給する第1配管181、及び、
第1配管181を介して供給され、冷凍機120で冷却された塩水を、チャンバー110に供給する第2配管182、
を更に備えている。
【0063】
また、実施例2のスラリー氷製造装置は、チャンバー110内の塩水を攪拌する攪拌装置170を更に備えているし、チャンバー110の上部空間111を減圧する減圧装置150を更に備えている。
【0064】
ここで、概念図を
図6に示すように、減圧装置150は、駆動口(一次側)152、吸込口(二次側)153及び吐出口(吸引側)154を有するエジェクター(アスピレータ)151から構成されている。駆動口152は、前述したとおり、気泡供給装置140の下流側の塩水循環用配管162から分枝され、駆動口152に塩水を供給する第4配管184に接続されており、吸込口153は、チャンバー110の上部空間111に第5配管185(
図6では点線で示す)を介して接続されている。吐出口154は、第6配管186を介して、ポンプ130のサクション部側の塩水循環用配管161に接続されている。チャンバー110の上部空間111の圧力は、大気圧未満であればよく、出来るだけ大気圧よりも低いことが好ましい。また、ポンプ130から吐出された塩水の圧力は、0.2×10
6Pa乃至0.6×10
6Pa、具体的には、例えば、0.4×10
6Paである。
【0065】
実施例2のスラリー氷製造装置において、気泡供給装置140は、
空気から窒素ガスを分離する窒素ガス分離膜を備えた窒素ガス分離装置から構成された窒素ガス源141、及び、
窒素ガス源141からの窒素ガスと、ポンプ130から吐出された塩水とを混合し、塩水中で気泡を生成させる気泡生成室142、
を備えている。模式的な断面図を
図7に示すように、気泡生成室142は、
窒素ガス供給口143、
塩水供給口144、
窒素ガスと塩水を混合する第1室145、
複数の吸引側開口部147A及び複数の排出側開口部147Bを有し、吸引側開口部147Aを介して第1室145と連通した第2室146、並びに、
排出側開口部147Bを介して第2室146と連通し、吐出部149を有する第3室148、
から構成されている。
【0066】
窒素ガス供給口143及び塩水供給口144から第1室145に送り込まれた窒素ガス及び塩水は、第1室145において渦状となり、混合され、吸引側開口部147Aを介して第1室145と連通した第2室146に侵入する。そして、第2室146で窒素ガス及び塩水は、一層、均一に混合され、排出側開口部147Bを介して第2室146と連通した第3室148に侵入し、第3室148に侵入した瞬間、ガス圧の急激な変化に起因して第3室148で窒素ガスを主成分とする微細な気泡、例えば、直径2μmの気泡が生成する。そして、吐出部149から塩水循環用配管162へと送られる。
【0067】
密閉形のチャンバー110は、例えば、ステンレス鋼から作製されており、冷凍機120は、周知の冷凍機から構成されており、配管161,162,181,182,183,184,185,186は、例えば、ステンレス鋼のパイプから作製されており、ポンプ130は、例えば、渦巻きポンプから構成されており、減圧装置150や気泡生成室142もステンレス鋼から作製されている。
【0068】
実施例2のスラリー氷製造方法にあっては、循環状態にある塩水中に、窒素ガスを主成分とする気泡を加えながら、塩水を冷却する。
【0069】
即ち、実施例2のスラリー氷製造方法は、
[第1段階]
循環状態にある塩水中に、窒素ガスを主成分とする気泡を加える。
[第2段階]
[第1段階]の後、更に、塩水を循環し続け、且つ、窒素ガスを主成分とする気泡を加え続け、この状態を維持しながら、塩水を冷却する。
といった工程を有する。
【0070】
そして、実施例2のスラリー氷製造方法にあっては、循環状態にある塩水中に、雰囲気を減圧状態として、窒素ガスを主成分とする気泡を加えながら、塩水を冷却する。更には、窒素ガスを主成分とする気泡を加える以前から、雰囲気を減圧状態とする。また、循環状態にある塩水中に、窒素ガスを主成分とする気泡を加えながら、塩水を冷却する間、塩水を攪拌し続ける。
【0071】
具体的には、先ず、塩化ナトリウムを所定量、飲料水に溶解した塩水を準備し、チャンバー110内に投入する。また、バルブ191,192,193,194,195,196を閉状態としておく。そして、閉状態のバルブ191,192,193,194,195を開状態とし、ポンプ130を作動させて、塩水循環用配管162、第3配管183、チャンバー110及び塩水循環用配管161という循環経路において塩水の循環を開始する。併せて、塩水循環用配管162から、加圧された塩水を、第4配管184を介して減圧装置150を構成するエジェクター151の駆動口152に供給し、吐出口154から吐出させ、第6配管186を介して塩水循環用配管161へと送り返す。こうして、第5配管185を介して吸込口(二次側)153に接続されたチャンバー110の上部空間111を減圧する。
【0072】
上部空間111の減圧状態が所望の状態となったならば、上部空間111の減圧を継続しつつ、窒素ガスを主成分とする気泡を塩水に加える。即ち、気泡供給装置140を作動させて、気泡生成室142において窒素ガスを主成分とする微細な気泡を生成し、塩水循環用配管162へと送り出し、塩水循環用配管162、第3配管183を介してチャンバー110内の塩水に窒素ガスを主成分とする微細な気泡を加える。チャンバー110内の塩水の圧力は、0.2×106Pa乃至0.6×106Pa、具体的には、例えば、概ね0.4×106Paである。
【0073】
所望の時間、この動作を継続した後、即ち、[第1段階]が所望の時間、経過した後、[第2段階]を実行する。即ち、塩水を循環し続け、且つ、窒素ガスを主成分とする気泡を加え続け、この状態を維持しながら、閉状態にあったバルブ196を開状態とし、冷凍機120を作動させ、塩水循環用配管162、第1配管181、冷凍機120及び第2配管182を介して、塩水を冷却し、チャンバー110に供給し、チャンバー110内の塩水を冷却し、塩水をスラリー氷とする。尚、時間が経過すると、塩水中に氷粒子が生成し始める場合がある。このような場合でも、塩水を循環し続け、且つ、窒素ガスを主成分とする気泡を加え続け、この状態を維持することで、塩水中の氷粒子の生成を抑制することができる。
【0074】
ここで、気泡の大きさは、50μm以下であることが望ましい。また、スラリー氷中の窒素ガス溶存率は、窒素ガスを主成分とする気泡を加える以前の塩水の窒素ガス溶存率の2倍以上であることが好ましい。
【0075】
このように、実施例2のスラリー氷製造方法にあっては、循環状態にある塩水中に、窒素ガスを主成分とする気泡を加えながら、塩水を冷却する。従って、塩水の氷点は一層低下し、塩水は冷凍されず、塩水中の水は過冷却状態となる。その結果、氷粒子が形成されることが無く、最終的に得られるスラリー氷は、コンニャクのような状態(即ち、とろとろの状態、あるいは又、濃い粘液状態)にあり、氷粒子は含まれていない。それ故、冷却対象物である物品をより一層傷付け難いスラリー氷を提供することができる。また、実施例2のスラリー氷製造装置は、このようなスラリー氷を製造するのに極めて適した装置である。尚、気泡供給装置140を実施例1の固着物除去装置に適用することもできる。
【実施例3】
【0076】
実施例3も、実施例1の変形である。実施例3にあっては、液体を、固着物81にクラック部82を生じさせるために薬品を使用した。薬品は、オゾンを含む水、又は、過酸化水素水である。そして、実施例3の固着物の除去方法にあっては、固着物81及び固着物81が固着した物品80の部分を薬品に浸漬することで、固着物81にクラック部82を生じさせる。
【0077】
また、除去液は、クエン酸(C6H8O7)を主成分としている。即ち、除去液は、クエン酸等を水に溶解したものである。実施例3の固着物除去装置10において、除去液の主成分としてクエン酸を用いることで、循環処理によって除去液の温度が上昇し、その結果、除去液の密度が増加する。その結果、除去液が気泡を含んだ状態を長く保つことができると共に、気泡の発生量も多くなる。また、循環処理を繰り返すことによって気泡が微細化(マイクロバブル化)する。
【0078】
以上の点を除き、実施例3の固着物の除去方法は、実質的に実施例1の固着物の除去方法と同様とすることができるので、詳細な説明は省略する。
【0079】
以上、本発明を好ましい実施例に基づき説明したが、本発明はこれらの実施例に限定するものではない。実施例において説明した固着物除去装置の構成、構造は例示であるし、除去液、液体、薬品も例示であり、適宜、変更することができるし、物品、固着物も例示である。実施例1においては、専ら、物品及び固着物を冷却することでクラック部を固着物に生じさせたが、物品及び固着物を加熱することでクラック部を固着物に生じさせることも可能である。
【0080】
また、実施例においては、固着物が固着した物品を除去用容器に収納したが、除去用容器を、固着物が固着した物品を取り囲むチャンバー(物品から除去液や液体、薬品が漏れ出ないようなシール部を備えていることが好ましい)から構成し、チャンバー内に液体や薬品を送り込み、固着物にクラック部が生成した後、例えば、チャンバーに取り付けられたエジェクターを用いて、気泡を含む除去液の流れを固着物に衝突させ、物品の表面から固着物を剥離させることができる。チャンバーを、固着物が固着した物品に対して移動可能とすれば、小さなチャンバーを用いて大きな物品から固着物を除去することが可能となる。
【0081】
場合によっては、液体や薬品を、除去液の主成分と同じ成分を有する構成とすることもできる。具体的には、液体及び除去液を、例えば、クエン酸、重曹、酢酸、5%以下の水酸化ナトリウム水溶液、5%以下の過酸化水素水、次亜塩素酸から構成すればよい。
【符号の説明】
【0082】
10・・・固着物除去装置、11・・・貯蔵タンク、12・・・除去液、20・・・除去液循環系、21・・・ポンプ、21A・・・サクション部、21B・・・デリバリ部、22・・・気体吸引部、23A・・・配管、23B・・・バルブ(電磁バルブ)、24・・・バイパス路、25・・・補助バルブ、30・・・除去液供給系、31,32・・・配管、33・・・流量制御弁、41・・・除去用容器、42・・・温度制御装置、50・・・除去ノズル、51・・・エジェクター、52・・・駆動口、53・・・吸込口、54・・・吐出口、55・・・縮径部、56・・・遮断弁、60・・・除去液回収系、61・・・除去液排出部、62・・・バルブ、63・・・フィルタ部、70・・・液体供給系(液体・薬品供給装置)、71・・・液体・薬品貯蔵タンク、72・・・液体、73・・・液体・薬品流入部、74・・・バルブ、75・・・液体・薬品排出部、76・・・バルブ、80・・・物品(物体)、81・・・固着物、82・・・クラック部、110・・・チャンバー、111・・・チャンバーの上部空間、120・・・冷凍機、130・・・ポンプ、140・・・気泡供給装置、141・・・窒素ガス源、142・・・気泡生成室、143・・・窒素ガス供給口、144・・・塩水供給口、145・・・第1室、146・・・第2室146、147A・・・吸引側開口部、147B・・・排出側開口部、148・・・第3室、149・・・吐出部、150・・・減圧装置、151・・・エジェクター(アスピレータ)、152・・・駆動口(一次側)、153・・・吸込口(二次側)、154・・・吐出口(吸引側)、161・・・チャンバーからポンプまでの塩水循環用配管の部分、162・・・ポンプのサクション部側の塩水循環用配管の部分、170・・・攪拌装置、181・・・第1配管、182・・・第2配管、183・・・第3配管、184・・・第4配管、185・・・第5配管、186・・・第6配管、191,192,193,194,195,196・・・バルブ