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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】抗CD5L抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20240514BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240514BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240514BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20240514BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61P37/04
A61P35/00
C07K16/28
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020524126
(86)(22)【出願日】2018-10-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-14
(86)【国際出願番号】 EP2018079751
(87)【国際公開番号】W WO2019086480
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-10-29
(31)【優先権主張番号】17382725.4
(32)【優先日】2017-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519023754
【氏名又は名称】フンダシオ インスティテュート ディンベスティガシオ エン シエンシエス デ ラ サリュ ジャーマンス トライアス アイ プジョル
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サリアス フォルネス マリア ローザ
(72)【発明者】
【氏名】サンフルホ ボウザ ルシア
(72)【発明者】
【氏名】アラン カナルス ジェマ
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-517078(JP,A)
【文献】国際公開第2011/145723(WO,A1)
【文献】Sci Rep. (Jul 2017) vol.7, issue 1, 6450, p.1-14
【文献】Nephrol. Dial. Transplant. (2016) vol.31, suppl. 1, p.i503(MP485)
【文献】BMC Cancer (2015) vol.15, 577, p.1-14
【文献】Clin. Dev. Immunol. (2012) vol.2012, Article ID 948098, p.1-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
A61P 35/00
A61P 37/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マクロファージにおいて免疫抑制性M2表現型を阻害するための医薬組成物であって、治療有効量のCD5L結合剤を、1つ以上の薬学的に許容可能な担体又は添加剤と共に含み、
前記CD5L結合剤が、マクロファージにおける免疫抑制性M2表現型を阻害することができる抗CD5Lモノクローナル抗体であり、
前記抗CD5Lモノクローナル抗体が、
a.配列番号3からなる配列のCDR1、配列番号4からなる配列のCDR2、及び配列番号1からなる配列のCDR3を、前記順序で含むVH配列;及び、
b.配列番号5からなる配列のCDR1、配列番号6からなる配列のCDR2、及び配列番号2からなる配列のCDR3を、前記順序で含むVL配列
を含む、医薬組成物。
【請求項2】
マクロファージにおいて免疫抑制性M2表現型を阻害するための医薬組成物であって、治療有効量のCD5L結合剤を、1つ以上の薬学的に許容可能な担体又は添加剤と共に含み、
前記CD5L結合剤が、マクロファージにおける免疫抑制性M2表現型を阻害することができる抗CD5Lモノクローナル抗体であり、
前記抗CD5Lモノクローナル抗体が、
a.配列番号9からなる重鎖;及び、
b.配列番号10からなる軽鎖
を含む、医薬組成物。
【請求項3】
治療方法において炎症促進性応答の支持のために用いられる、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
癌免疫療法のために用いられる、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記癌が、乳頭腫、腺腫、脂肪腫、骨腫、筋腫、血管腫、母斑、成熟奇形腫、癌腫、肉腫、未熟奇形腫、黒色腫、骨髄腫、白血病、ホジキンリンパ腫、基底細胞腫、脊髄腫、乳癌、卵巣癌、子宮癌、肺癌、気管支癌、前立腺癌、結腸癌、膵臓癌、腎臓癌、食道癌、肝細胞癌(HCC)、及び頭頸部癌からなる一覧から選択される、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
a.(a)請求項1又は2で定義されるCD5L結合剤と、
b.(b)前記CD5L結合剤を被験体に投与して、該被験体において炎症促進性応答誘導し、M2活性化を阻害するための説明書と、
を備え
被験体において炎症促進性応答を誘導し、M2活性化を阻害する方法において使用するためのキット。
【請求項7】
前記使用が癌免疫療法のための使用である、請求項6に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2017年10月30日付けで出願された欧州特許出願第17382725.4号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、概して免疫療法の分野に関する。特に、本発明は、治療目的でマクロファージ活性化を調節するための抗CD5L抗体の使用に関する。本発明の抗体は、癌免疫療法において特に有用である。
【背景技術】
【0003】
腫瘍微小環境は、内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、並びにマクロファージ及び樹状細胞等の炎症細胞を含む多くの細胞型で構成される複雑なシステムである。マクロファージは腫瘍間質の主要な炎症成分であり、腫瘍関連マクロファージ(TAM:tumor-associated macrophage)と定義されている。TAMは、腫瘍及び間質細胞から生成される様々な微小環境シグナルに応答して、それらの機能的な表現型をシフトさせる能力を持っている。
【0004】
マクロファージが獲得できる機能的表現型は、一般に古典的なM1活性化又は代替M2活性化として分類される。M1マクロファージは、強力な炎症促進性及び細胞傷害性活性を特徴とするため、病原体(細菌、ウイルス、及び原生動物)及び腫瘍細胞を死滅させることができる。このため、M1マクロファージはしばしば抗腫瘍マクロファージと見なされる。M2マクロファージは、血管新生促進又は組織修復等の抗炎症機能又は解除(resolutive)機能を有することが知られている。さらに、M2マクロファージは腫瘍の成長及び進行を支持することが知られていることから、一般に腫瘍促進性マクロファージと考えられている。Mantovani A.及び同僚らによって報告されているように(非特許文献1を参照されたい)、TAMは通常、免疫抑制性M2表現型を示す。
【0005】
近年、TAMは、癌細胞生物学及び他の免疫細胞自体の応答を調節する能力、又は治療への応答により、癌免疫療法の潜在的な標的として浮上している。同様に、TAM(及びその活性化状態)は現在、癌の診断及び予後診断に関する潜在的なバイオマーカーとして認識されている。
【0006】
マクロファージの挙動を更に理解する試みで、John A. Gebe et al.は特許出願の特許文献1においてCD5Lの同定を報告した。この従来技術において、著者らは、マクロファージの接着及び遊走(trafficking)におけるCD5Lの可能性のある役割について推測しているものの、そのような結論を裏付ける実験データはない。
【0007】
これまでになされた努力にもかかわらず、ヒトにおいてマクロファージの種々の集団を識別するための信頼できる効率的なマーカーが欠けており、その一方で、マクロファージの活性化に関与する分子プレーヤー及びプロセスへのそれらの正確な貢献についての理解は不完全である。これらの欠点により、癌免疫療法の開発が大幅に制限されている。
【0008】
上記を考慮して、更なる抗癌アプローチを開発するニーズが依然として存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第9839443号
【非特許文献】
【0010】
【文献】Mantovani et al. in "Macrophages, innate immunity and cancer: balance, tolerance, and diversity", Curr Opin Immunol. 2010 Apr;22(2):231-7
【発明の概要】
【0011】
本発明者らは、M2マクロファージ活性化中のCD5Lの新たな予期しない役割を明らかにした。
【0012】
以下の実施例に示すように、本発明者らは、CD5L発現がM2活性化プロセス中に強く誘導されることを見出した(図1を参照されたい)。したがって、CD5L発現はM2マクロファージ集団を識別するための新規の分子マーカーを構成する。
【0013】
更に重要なことに、CD5LはM2ドライバーとして作用することにより、M2様分子の及び機能的な表現型の獲得に積極的に貢献していることがわかった。以下に示すように(図2を参照されたい)、ヒトマクロファージの初代細胞培養物に組み換えCD5Lを添加するだけで、M2表現型の獲得を誘導する。
【0014】
さらに、本発明者らは、CD5LがM2活性化プロセスを誘発することができるだけでなく、このプロセスを実行するのに必要であることも発見した。したがって、CD5LがM2マクロファージ分極化に必須の役割を果たすことが報告されたのは初めてである。
【0015】
驚くべきことに、本発明者らは、抗体等のCD5L結合剤とM2様マクロファージを接触させることによりM2様マクロファージにおいてCD5Lが枯渇すると、免疫抑制性M2表現型が阻害されることを見出した(図3Aを参照されたい)。さらに、LPSに対するM2マクロファージの炎症反応は、M2マクロファージが抗CD5L抗体等のCD5L結合剤で処理された場合に回復され得ることがわかった(図3Bを参照されたい)。
【0016】
本発明者らによって報告されたマクロファージの分極化におけるCD5Lの役割は、従来技術(特許文献1)に照らして予想外である。この従来技術では、CD5Lは炎症反応の正のエフェクターであることが示唆された。さらに、抗CD5L抗体によるCD5L活性の遮断は、マクロファージの炎症促進活性を妨げる可能性があることが示唆された。しかしながら、そのような結論を支持する最低限の実験データは提供されていない。したがって、かかる示唆は、炎症プロセスにほとんど関連していない試験から導き出された単なる仮説であった。
【0017】
したがって、本明細書で提供された結果は、抗CD5L抗体等のCD5L結合剤が、免疫応答に対して以前に考えられていたのとは逆の効果を有すること、つまり炎症促進反応の抑制ではなく、炎症促進反応を支持することを明らかにした。
【0018】
全体として、以下に提供される実施例において、本発明者らは、CD5Lに対する特定のモノクローナル抗体を開発することにより、M2活性化を防ぐためにCD5L活性を遮断する有用性を実証した。
【0019】
したがって、第1の態様では、本発明は、配列番号1の配列であるVH CDR3及び配列番号2の配列であるVL CDR3を含む抗CD5Lモノクローナル抗体又はそのCD5L結合フラグメントを提供する。好ましくは、かかる抗CD5Lモノクローナル抗体又はそのCD5L結合フラグメントは、次に指定される順序で、配列番号3の配列であるCDR1又はそのヒト化変異体、配列番号4の配列であるCDR2又はそのヒト化変異体、及び配列番号1の配列であるCDR3又はそのヒト化変異体を含むVH配列と、次に指定される順序で、配列番号5の配列であるCDR1又はそのヒト化変異体、配列番号6の配列であるCDR2又はそのヒト化変異体、及び配列番号2の配列であるCDR3又はそのヒト化変異体を含むVL配列とを含む。
【0020】
更なる態様では、本発明は、第1の態様の抗体又はそのCD5L結合フラグメントを含むコンジュゲートを提供する。
【0021】
第2の態様では、本発明は、(a)本発明の第1の態様で定義される抗体又はそのCD5L結合フラグメントと、(b)任意に、その使用説明書とを備えるパーツキットを提供する。
【0022】
第3の態様では、本発明は、治療法、診断又は予後診断のために用いられる、本発明の第1の態様による抗体若しくはそのCD5L結合フラグメント、又は、代替的には本発明の更なる態様によるコンジュゲートを提供する。
【0023】
第4の態様では、本発明は、治療有効量のCD5L結合剤を1つ以上の薬学的に許容可能な担体又は添加剤と共に含む医薬組成物を提供する。
【0024】
第5の態様では、本発明は、(a)本発明の第4の態様によるCD5L結合剤又は医薬組成物と、(b)薬物と、(c)任意に、その使用説明書とを備えるパーツキットを提供する。
【0025】
以下の実施例に示されるように、本発明者らは、CD5Lに対するモノクローナル抗体を使用することにより、M2活性化を防ぐためにCD5L活性を遮断する有用性を実証した。しかしながら、商業的に入手可能なCD5Lに結合することができる任意の抗体又は任意の他の作用物質(ペプチド、小分子等)が、M2マクロファージ活性化の防止にも有用であり得ることは、合理的な範囲である。
【0026】
したがって、第6の態様では、本発明は、M2マクロファージ活性化の阻害のために用いられる、又は、代替的にはTリンパ球活性化の促進のために用いられる、CD5L結合剤、又は第1の態様で定義される抗体若しくはそのフラグメント、又は更なる態様で定義されるコンジュゲート、又は第4の態様で定義される医薬組成物、又は本発明の第2若しくは第5の態様で定義されるキットを提供する。
【0027】
M2マクロファージが腫瘍の進行及び腫瘍の成長に有利であることは、当該技術分野で十分に確立されている(上記の非特許文献1)。したがって、M2活性化を阻害するために本明細書で提供される新たな戦略は、M2活性化を阻害することによる抗癌治療の分野における有望な手段である。
【0028】
さらに、本発明者らは、図6に見られるように、Tリンパ球におけるCD5L活性を調節することにより、それらのレベルの活性化を制御し得ることを見出した。当該技術分野では、Tリンパ球は腫瘍の制御において格別重要な適応免疫系の決定的な構成要素であることが知られている。したがって、本発明の抗体は、Tリンパ球活性化の促進を通じて腫瘍を治療するための有望な手段である。
【0029】
したがって、第7の態様では、本発明は、癌の治療及び/又は予防のために用いられる、CD5L結合剤、又は第1の態様で定義される抗体若しくはそのフラグメント、又は更なる態様で定義されるコンジュゲート、又は第4の態様で定義される医薬組成物、又は本発明の第2若しくは第5の態様で定義されるキットを提供する。この態様はまた、癌の治療及び/又は予防のための医薬の製造のための、CD5L結合剤、又は本発明の第1の態様で定義される抗体若しくはそのフラグメント、又は更なる態様で定義されるコンジュゲート、又は第4の態様で定義される医薬組成物の使用として述べられ得る。この態様はまた、癌を治療及び/又は予防するための方法として述べられ得て、該方法は、治療有効量のCD5L結合剤、又は第1の態様で定義される抗体若しくはそのフラグメント、又は更なる態様で定義されるコンジュゲート、又は第4の態様で定義される医薬組成物を、それを必要とする被験体に投与することを含む。この態様の妥当性に関して、また図5に示されるように、CD5Lを標的とすることによって肺癌の前臨床モデルで腫瘍の成長が減少したことは明らかなようである。さらに、M2表現型へのTAM分極化は、神経膠芽腫、神経膠腫、肺腺癌、肺扁平上皮癌、卵巣腺癌、肝細胞癌、頭頸部扁平上皮癌、膵腺癌、腎臓乳頭細胞癌、前立腺腺癌、甲状腺癌、HPV関連子宮頸癌、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、及び乳癌等の多様な癌において予後不良に関連付けられている。したがって、癌免疫療法のためCD5Lを標的とすることは、本明細書で提供される情報及び結果に照らして、合理的な治療選択肢となるはずである。
【0030】
第8の態様では、本発明は、癌の治療及び/又は予防における抗癌剤との併用療法のために用いられる、CD5L結合剤、又は第1の態様で定義される抗体若しくはそのフラグメント、又は更なる態様で定義されるコンジュゲート、又は第4の態様で定義される医薬組成物、又は本発明の第2若しくは第5の態様で定義されるキットを提供する。この態様はまた、患者の癌の治療及び/又は予防における抗癌剤との併用療法のために用いられる医薬の製造のための、CD5L結合剤、又は第1の態様で定義される抗体若しくはそのフラグメント、又は更なる態様で定義されるコンジュゲート、又は第4の態様で定義される医薬組成物の使用として述べられ得る。この態様はまた、癌を治療及び/又は予防する方法として述べられ得て、該方法は、抗癌剤と組み合わせて、治療有効量のCD5L結合剤、又は第1の態様で定義される抗体若しくはそのフラグメント、又は更なる態様で定義されるコンジュゲート、又は本発明の第4の態様で定義される医薬組成物を、それを必要とする被験体に投与することを含む。
【0031】
上に言及されるように、本発明者らは、CD5LがM2マクロファージ集団を識別するための新規分子マーカーを構成することを見出した。さらに、CD5Lは腫瘍関連マクロファージ(TAM)によって発現され、その発現レベルは癌の予後不良と正の相関があることがわかっている(図4を参照されたい)。
【0032】
本明細書で提供される実験データから、マクロファージ集団において識別された場合、CD5Lは癌の指標であり、マーカーのレベルの進展に応じて、予後診断に関する有用な情報を提供すると結論付けることができる。
【0033】
驚くべきことに、本発明者らは、CD5Lがマクロファージの表面に特異的に局在化され得ることを見出した。これは、CD5Lが細胞外培地にのみ存在する分泌型可溶性タンパク質であるという以前の仮定とは対照的である。
【0034】
したがって、第9の態様では、本発明は、癌を有する被験体の診断又は予後を決定するin vitro方法を提供し、該方法は、被験体の単離された生体サンプル中のマクロファージ内のCD5Lの量を決定する工程を含む。
【0035】
本発明はまた、診断/予後を決定し、癌に罹患している被験体を治療するin vitro方法を提供し、該方法は、被験体の単離された生体サンプル中のマクロファージ内のCD5Lの量を決定する工程と、工程(b)で決定されたレベルが基準対照レベルよりも高い場合、被験体に適した癌治療レジメンを開始する工程とを含む。
【0036】
第10の態様では、本発明は、単離されたマクロファージ含有生体サンプルにおける、癌の診断若しくは予後マーカーとして、又は癌をモニタリングするためのマーカーとしてのCD5Lの使用を提供する。
【0037】
第11の態様では、本発明は、本発明の第9の態様の方法における癌の診断又は予後診断のための、被験体の単離された生体サンプル中のマクロファージ内のCD5Lの量を決定する手段の使用を提供する。
【0038】
第12の態様では、本発明は、被験体において医療レジメンを開始することを決定又は推奨する方法を提供し、該方法は、(a)被験体の単離された生体サンプル中のマクロファージ内のCD5Lの量をin vitroで決定する工程を含む。
【0039】
第13の態様では、本発明は、既に癌と診断された患者における医療レジメンの有効性を判断する方法を提供し、該方法は、
(a)医療レジメンの適用前に、被験体の単離された生体サンプル中のマクロファージ内のCD5Lの量をin vitroで測定する工程と、
(b)医療レジメンの適用を開始した後に、被験体の単離された生体サンプル中のマクロファージ内のCD5Lの量をin vitroで測定する工程と、
(c)工程(b)で測定されたマクロファージ内のCD5Lの量が工程(a)で測定されたマクロファージ内のCD5Lの量よりも少ない場合、その医療レジメンが癌の治療に有効であることを示すような方法で、工程(a)及び工程(b)で測定されたレベルを比較する工程と、
を含むか、又は、代替的には、上記方法は、
(i)医療レジメンの適用を開始した後に、被験体の単離された生体サンプル中のマクロファージ内のCD5Lの量をin vitroで測定する工程と、
(ii)工程(i)で測定されたレベルをマクロファージ内のCD5Lの基準対照レベルと比較する工程と、
を含み、
ここで、工程(i)で測定されたマクロファージ内のCD5Lの量が基準対照レベルより高くない場合、その医療レジメンが癌の治療に有効であることを示す。
【0040】
第14の態様では、本発明は、被験体に由来する単離サンプル中のM2マクロファージの存在を決定するin vitro方法を提供し、該方法は、サンプルに由来するマクロファージ内のCD5Lの量を決定する工程を含む。
【0041】
第15の態様では、本発明は、M2マクロファージのマーカーとしてのCD5Lの使用を提供する。
【0042】
更なる態様では、本発明は、癌を有する患者の治療方法のために用いられる抗癌化合物を提供し、該方法は、(i)患者から単離された生体サンプルに由来するマクロファージ内のCD5Lの量を決定することと、(ii)試験サンプルのマクロファージ内のCD5Lの量が基準値よりも高い場合、患者に有効量の抗癌薬を投与することとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】様々な刺激で分極化した末梢血(PB)単球におけるCD5L及びCD163の発現を示す図である。(A)は、示される処理の適用後にPB単球においてリアルタイムPCRによって分析されたCD5L mRNAのレベルを表す棒グラフを示す。y軸は、対照細胞(M)と比較した、各処理後のCD5L mRNAレベルの倍率変化の増加を表す。***p<0.001、t検定対M。(B)は、示される刺激を適用した後にPB単球のフローサイトメトリーによって分析されたタンパク質CD5L及びCD163の表面レベルを示す。y軸は、各マーカーに対する陽性細胞のパーセンテージ(上のパネル)又は各マーカーの平均蛍光強度(MFI)(下のパネル)のいずれかを表す。***p<0.001、**p<0.01 ボンフェローニ事後検定を伴うANOVA検定、IL10対全て。
図2】(A)は、通常の培地(M)、ヒトアルブミン(hSA)、又は組換えCD5L(rCD5L)による処理後のM2マクロファージ表面マーカーCD163陽性のPB単球のパーセンテージを示す棒グラフである。(B)は、対照培地(M)、ヒトアルブミン(hSA)又は組換えCD5L(rCD5L)で処理した後の非刺激又はLPS刺激PBマクロファージによるTNFα又はIL6の産生を示す様々な棒グラフを示す。統計的有意差をt検定対Mで分析した。p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
図3】(A)示される処理に供した後のPBマクロファージにおける幾つかのマクロファージ活性化マーカーのmRNA発現レベルを表す様々な棒グラフを示す。これらの実験では、遺伝子発現値をグリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)の発現レベルに対して正規化した。棒グラフは未処理の細胞に対応する。破線の棒グラフは、処理されていない細胞に対応し、黒の棒グラフはIL10で処理した細胞に対応し、「アイソタイプ」という名前の白の棒グラフは、本発明の抗CD5L抗体と同じアイソタイプを有する対照抗体(すなわちIgG2a)と共にIL10による処理に対応し、「4D7」という名前の白の棒グラフは、本発明のモノクローナル抗CD5L抗体と共にIL10で処理された細胞に対応する。y軸は、IL 10処理細胞と比較した、各処理後のmRNAレベルの倍率変化の増加を表す。n=4。(B)は、示される処理に供した後のPBマクロファージによって産生され分泌されたTNFを表す棒グラフを示す。黒の棒グラフは未処理の細胞に対応し、破線の棒グラフは、本発明の抗CD5L抗体と同じアイソタイプを有する対照抗体(すなわち、IgG2a)で処理された細胞に対応し、白の棒グラフは、本発明のモノクローナル抗CD5L抗体(4D7)で処理された細胞に対応する。PB単球をIL10、LPS、又はその両方で更に処理した。n=4。統計的有意差をt検定、4D7対アイソタイプで分析した。p<0.05。
図4】腫瘍で見られたCD68+CD5L+マクロファージのパーセンテージによる、肝細胞癌(HCC)に罹患している患者の全生存期間(OS)を示すグラフである。y軸は生存している患者のパーセンテージを表し、x軸は月単位の時間を表す。(a)は、腫瘍組織におけるCD5L+CD68+マクロファージのパーセンテージが50%未満の患者を表し、(b)は、腫瘍組織におけるCD5L+CD68+マクロファージのパーセンテージが50%を超える患者を表す。統計的有意差をカプラン-マイヤー法で分析し、曲線間の差を比較するためにログランク検定を行った。n=48、p=0.0492。
図5】抗CD5L moAb治療は腫瘍の成長を阻害する。(A)LLC肺腫瘍モデル及びmoAb治療レジメンの概略図である。(B)対照(n=5)及び抗CD5L moAb治療マウス(n=4)で測定されたLLC腫瘍成長曲線(実験7日目に対して正規化)である。P値をマン-ホイットニー検定を使用して計算した(p≦0.05)。
図6】rhC5LはT細胞の増殖を阻害する。n=5~7の異なる健康なドナーについて、対照(培地)における、刺激された(CD2/3/28)、又はrhCD5L(1μg/ml)の存在下で刺激された、T細胞の%増殖率(A)及び%生存率(B)を示すグラフである。P値を、対応のあるt検定を使用して計算した(p≦0.05;**p≦0.01)
【発明を実施するための形態】
【0044】
本願の明細書で使用される全ての用語は、特に記載のない限り、当該技術分野で既知の通常の意味で理解されるものとする。本願で使用される或る特定の用語の他のより具体的な定義を下記に説明するが、本明細書及び特許請求の範囲の全体を通して一様に適用されることが意図され、特に明白に説明されない限り、定義はより広い定義を与えるものである。
【0045】
上記のように、本発明は、任意に、特定の配列のVH CDR及びVL CDR又はそのヒト化変異体を指定の順序で任意に含む、抗CD5Lモノクローナル抗体又はそのCD5L結合フラグメントを提供する。
【0046】
当業者は、「指定の順序で」はCDRの順序のみを指し、他の配列がこのCDRの間に配置されることを除外しないと理解するであろう。
【0047】
本発明の抗体は、モノクローナルであるという或る特定の利点、例えば、それらを臨床治療に適したものにする再現性及び大規模生産を有する。
【0048】
本明細書で使用される場合、「CD5L」という用語は、CD5抗原様、アポトーシス阻害剤6(Api-6)、可溶性タンパク質アルファ(Spアルファ)、マクロファージによって発現されるアポトーシス阻害剤(AIM)、CT-2、又はIgM関連ペプチドと名付けられた可溶性タンパク質を指し、スカベンジャー受容体システインリッチ(SRCR)スーパーファミリーに属する。幾つかの種のタンパク質配列は、Uniprot O43866_HUMAN Homo sapiens;Q9QWK4_MOUSE Mus musculus;A6QNW7_BOVIN Bos taurus;F7FUB7_MACMU Macaca mulatta、Q4KM75_RAT Rattus norvegicus;H2Q0B2_PANTR Pan troglodytes;F7HDX2_CALJA Callithrix jacchus;F1PAX5_CANLF Canis lupus familiaris;H0UZM6_CAVPO Cavia porcellus;G3R058_GORGO Gorilla gorilla gorilla;F1RN76_PIG Sus scrofa;A0A1E1GEV5_FELCA Felis catus;F7BXD8_HORSE Equus caballus等の幾つかのタンパク質データベースにおいて入手可能である。
【0049】
「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互接続された少なくとも2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖を含む糖タンパク質である。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVHと略記される)及び重鎖定常領域(CH)で構成される。重鎖定常領域は、3つのドメインCH1、CH2、及びCH3で構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略記される)及び軽鎖定常領域で構成される。軽鎖定常領域は、CLという1つのドメインで構成される。VH及びVLの領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域により分散させられた、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域に更に分割され得る。各VH及びVLは、3つのCDR及び4つのFRで構成され、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序でアミノ末端からカルボキシ末端に配置される。重鎖及び軽鎖の可変領域には、抗原と相互作用する結合ドメインが含まれている。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)及び古典的補体系の第1の成分(C1q)を含む宿主組織又は因子への免疫グロブリンの結合を媒介し得る。
【0050】
本明細書で使用されるCDRの「ヒト化変異体」とは、1つ以上の残基がヒトCDR(ドナーCDR)由来の残基で置換されたマウスCDR(レシピエントCDR)を指し、得られるCDRは、レシピエントCDRの結合能を維持する。CDRのヒト化変異体には、患者においてヒト抗マウス抗体反応を誘発するリスクを低下させるという利点がある。CDRのヒト化変異体を生成する方法は、技術水準においてよく知られており、例えば、SDRグラフト化(Kashmiri SV et al., "SDR grafting--a new approach to antibody humanization" Methods. 2005, vol. 36(1), pp. 25-34)である。CDRのヒト化変異体は、ヒト化抗体の一部を形成する可能性がある。
【0051】
本明細書で使用される場合、本発明の第1の態様で言及される「抗CD5L抗体」という用語は、CD5Lに結合し、好ましくはVH CDR1、VH CDR2、VH CDR3、VL CDR1、VL CDR2及びVL CDR3又はそのヒト化バージョンを指定の順序で含む抗体に関する。抗体は、二量体、三量体、多量体、二重特異性、キメラ、ヒト、ヒト化、マウス、サル、ラット、ハムスター、ウサギ、更にはカエル、ニワトリ、組み換え型又は遺伝子操作型であり得る。一実施形態では、本発明の第1の態様の抗体は、IgG又はIgMクラスのものである。別の実施形態では、本発明の第1の態様の抗体のサブクラスは、IgG1、IgG2a、IgG2b及びIgG3からなる群から選択される。別の実施形態では、抗体は、IgG2aサブクラスのものである。特定の実施形態では、抗体は、キメラ、ヒト化、又は二重特異性抗体である。
【0052】
本明細書で使用される場合「二重特異性」又は「二官能性」の抗体は、2つの異なる重鎖/軽鎖対及び2つの異なる結合部位を有する人工ハイブリッド抗体を指す。二重特異性抗体は、ハイブリドーマの融合を含む様々な方法により製造され得る。例えば、Kostelny SA. et al., "Formation of a bispecific antibody by the use of leucine zippers", J Immunol. 1992, vol. 148(5), pp. 1547-53を参照されたい。
【0053】
「キメラ」抗体という用語は、重鎖及び/又は軽鎖の一部が特定の起源又は種に由来し、重鎖及び/又は軽鎖の残部が異なる起源又は種、通常はマウス種に由来する抗体を指す。
【0054】
「ヒト化」抗体は、免疫グロブリンの分子、免疫グロブリン鎖又はそのフラグメント(Fv、Fab、Fab’、F(ab’)、又は抗体の他の抗原結合部分配列等)であり、ヒト免疫グロブリンに由来する配列(複数の場合もある)及び非ヒト免疫グロブリンに由来する配列(複数の場合もある)を含み、非ヒト免疫グロブリンと同じ又は著しく類似するエピトープ標的化能力を有する。幾つかの例では、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基は、対応する非ヒト残基によって置き換えられる。ヒト化抗体はまた、ヒト抗体にも非ヒトCDR又はフレームワーク配列にも見られない残基を含み得る。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、CDR領域の全て又は実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、FR領域の全て又は実質的に全てがヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のものである。ヒト化抗体はまた、最適には、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、典型的にはヒト免疫グロブリンのものも含む。ヒト化抗体は、CDRのヒト化変異体を含んでもよく、含まなくてもよい。非ヒト抗体をヒト化する方法は当該技術分野でよく知られている(Safdari Y. et al., "Antibody humanization methods - a review and update" Biotechnol Genet Eng Rev. 2013, vol. 29, pp. 175-86)(Presta LG et al., "Antibody engineering", Curr Opin Biotechnol. 1992, vol. 3(4), pp. 394-8)。
【0055】
当業者は、所与の抗体、例えば本発明の抗体のヒト化配列を自動的に得ることを可能にするコンピュータープログラム又はアルゴリズムを知っている。
【0056】
本発明の第1の態様で言及される「そのCD5L結合フラグメント」という用語はまた、CD5Lを結合し遮断するため、配列番号1及び配列番号2の配列を有する抗CD5L抗体の任意の部分を包含する。適切なフラグメントには、F(ab)、F(ab’)及びFvが含まれる。フラグメントがCD5Lを結合し遮断する能力を維持しているかどうかを試験する方法は、例えば、以下の実施例で説明するように、マクロファージのin vitro分極化試験によって行われ得る。簡潔に言えば、CD5L結合フラグメントを、(代わりに他のものも使用できるが)IL10等のM2誘導サイトカインと共に、PB単球、THP1細胞、U937細胞、又はK562細胞等のマクロファージ様細胞に添加し、次いで、マクロファージ活性化マーカーであるVEGF、CD163、及びMertkの1つ以上のmRNA発現レベルを測定する。当業者は、活性化マーカーの発現レベルを決定するため適切なプライマーを設計することができる。かかるプライマーの例示的で非限定的な例は、配列番号17~配列番号20及び配列番号25~配列番号26の配列である。抗CD5L抗体全体を用いて同じ工程を実施しなければならない。次いで、フラグメント及び抗体全体によって誘導されたmRNA発現レベルを比較し、発現レベルが各活性化マーカーで類似している場合、これは、フラグメントがCD5Lを結合し遮断する能力を維持していることを示す。
【0057】
本発明の第1の態様の一実施形態では、抗体又はそのCD5L結合フラグメントは、配列番号3の配列であるVH CDR1、配列番号4の配列であるVH CDR2、配列番号5の配列であるVL CDR1、及び配列番号6の配列であるVL CDR2を更に含む。好ましくは、本発明の第1の態様で言及される抗体又はそのCD5L結合フラグメントにおいて、VH配列は、次に指定される順序で、配列番号3と少なくとも85%の同一性を有するCDR1配列と、配列番号4と少なくとも85%の同一性を有するCDR2配列と、配列番号1と少なくとも85%の同一性を有するCDR3配列とを含み、VL配列は、次に指定される順序で、配列番号5と少なくとも85%の同一性を有するCDR1配列と、配列番号6の配列であるCDR2と、配列番号2と少なくとも85%の同一性を有するCDR3配列とを含む。本発明の第1の態様の別の実施形態では、上記抗体又はそのCD5L結合フラグメントにおいて、VH配列は、次に指定される順序で、配列番号3の配列であるCDR1と、配列番号4の配列であるCDR2と、配列番号1の配列であるCDR3とを含み、VL配列は、次に指定される順序で、配列番号5の配列であるCDR1と、配列番号6の配列であるCDR2と、配列番号2の配列であるCDR3とを含む。
【0058】
別の特定の実施形態では、任意に上記又は下記に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、第1の態様による抗体又はそのCD5L結合フラグメント:
VH配列は、配列番号7と85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有する、又は、代替的には、
VL配列は、配列番号8と85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有する、又は、代替的には、
VH配列は、配列番号7と85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有し、VLドメインは、配列番号8と85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有する配列からなる。
【0059】
本発明において、「同一性」という用語は、配列を最適にアラインメントした場合に2つの配列中で同一の残基のパーセンテージを指す。最適アラインメントにおいて、第1の配列中の位置が第2の配列中の対応する位置と同じアミノ酸残基によって占められる場合、配列はその位置に関して同一性を示す。2つの配列間の同一性のレベル(又は「パーセント配列同一性」)は、配列のサイズに対する配列に共通する同一位置の数の比率として測定される(すなわち、パーセント配列同一性=(同一位置の数/位置の総数)×100)。
【0060】
2つ以上の配列間で最適アラインメントを迅速に得て、同一性を算出するための多数の数学アルゴリズムが既知であり、多数の利用可能なソフトウェアプログラムに組み込まれている。かかるプログラムの例としては、特にアミノ酸配列分析のためのMATCH-BOX、MULTAIN、GCG、FASTA及びROBUSTプログラムが挙げられる。好ましいソフトウェア分析プログラムとしては、ALIGN、CLUSTAL W及びBLASTプログラム(例えば、BLAST 2.1、BL2SEQ及びそれ以降のバージョン)が挙げられる。
【0061】
アミノ酸配列分析については、ウェイトマトリックス(weight matrix)、例えばBLOSUMマトリックス(例えば、BLOSUM45、BLOSUM50、BLOSUM62及びBLOSUM80マトリックス)、Gonnetマトリックス又はPAMマトリックス(例えば、PAM30、PAM70、PAM120、PAM160、PAM250及びPAM350マトリックス)が同一性の決定に用いられる。
【0062】
BLASTプログラムは、選択配列をデータベース(例えば、GenSeq)中の複数の配列に対してアラインメントするか、又はBL2SEQを用いて2つの選択配列間でアラインメントすることによって少なくとも2つのアミノ酸配列の分析をもたらす。BLASTプログラムは、好ましくはBLASTプログラム動作に組み込まれる、DUST又はSEGプログラム等の低複雑性フィルタリング(low complexity filtering)プログラムによって修正するのが好ましい。ギャップ存在コスト(又はギャップスコア)を用いる場合、ギャップ存在コストは約-5~-15に設定するのが好ましい。同様のギャップパラメーターを必要に応じて他のプログラムと共に用いることができる。BLASTプログラム及びその基本原理は、例えばAltschul et al., "Basic local alignment search tool", 1990, J. Mol. Biol, v. 215, pages 403-410に更に記載されている。特定のパーセンテージの同一性は、1つ以上のアミノ酸の保存的変異に起因する配列の変化を包含し、依然として有効であって、したがってCD5Lエピトープに結合することができる抗体又はそのCD5L結合フラグメントをもたらす。タンパク質の変異はまた、1つ以上のアミノ酸の挿入又は欠失に起因する。
【0063】
本発明の第1の態様のより特定の実施形態では、抗体又はそのCD5L結合フラグメントは、以下:
配列番号7の配列であるVH、又は、代替的には、
配列番号8の配列であるVL、又は、代替的には、
配列番号7の配列であるVH、及び配列番号8の配列であるVL、
を含む。
【0064】
本発明の第2の態様の別の実施形態では、抗体は、配列番号9と少なくとも85%、少なくとも90%、又は少なくとも95%の配列同一性を有する配列からなる重鎖と、配列番号10と少なくとも85%、少なくとも90%、又は少なくとも95%の配列同一性を有する配列からなる軽鎖とを含む。より詳しくは、抗体は、配列番号9と85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する配列からなる重鎖を含む。更に詳しくは、重鎖は配列番号9の配列からなる。より詳しくは、軽鎖は、配列番号10と85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する配列からなる。更に詳しくは、軽鎖は配列番号10の配列からなる。
【0065】
本発明の第1の態様の特定の実施形態では、抗体は、配列番号9の配列からなる重鎖と、配列番号10の配列からなる軽鎖とを含む。
【0066】
配列番号1~配列番号10の配列を下記表1に要約する。
【0067】
【表1】
【0068】
上で言及したように、更なる態様では、本発明はまた、第1の態様で定義される抗体を含むコンジュゲートを提供する。
【0069】
第1の態様に関連する全ての実施形態は、本発明のコンジュゲートに適用することも意味する。
【0070】
本明細書で使用される場合、「コンジュゲート」という用語は、第1の態様の抗体又はそのCD5L結合フラグメントを、共有結合又は非共有結合のいずれかを介して1つ以上の化合物と結合することによって形成された化合物を指す。
【0071】
この更なる態様の特定の実施形態では、任意に上記又は下記に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、コンジュゲートは診断剤又は治療剤を更に含む。
【0072】
より特定の実施形態では、任意に上記又は下記に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、診断剤は標識である。
【0073】
本明細書で使用される場合、「標識」という単語は、「標識された」抗体を生成するように抗体に直接的又は間接的に複合化される検出可能な化合物又は組成物を指す。標識は、それ自体で検出可能であり得る(例えば、放射性同位元素標識又は蛍光標識)か、又は酵素標識の場合、検出可能な基質化合物又は組成物の化学変化を触媒し得る。
【0074】
標識は、直接付着されてもよく、リンカー(アジピン酸ジヒドラジド(ADH)等)を介して付着されてもよい。標識は、化学的な複合化によって付着されてもよい。標識を抗体に複合化する方法は、当該技術分野で知られている。例えば、カルボジイミド複合化は、標識を抗体に複合化するために使用され得る。標識を抗体に複合化させる他の方法を使用することもできる。例えば、グルタルアルデヒド架橋と同様に、過ヨウ素酸ナトリウム酸化とそれに続く適切な反応物の還元的アルキル化を使用することができる。
【0075】
更なる態様の特定の実施形態では、コンジュゲートの治療剤は細胞傷害性物質である。より特定の実施形態では、細胞傷害性物質は、毒素、薬物部分、及び核溶解酵素からなる群から選択される。代替の実施形態では、細胞傷害性物質は、化学療法剤、抗生物質、及び放射性同位元素からなる群から選択される。特定の実施形態では、コンジュゲートは、化学療法剤又は毒素を更に含む。
【0076】
かかるコンジュゲートの生成に有用な化学療法剤は、技術水準で説明されている。使用できる酵素活性毒素及びそのフラグメントとしては、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性フラグメント、外毒素A鎖(シュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、アルファ-サルシン、アレウライツ・フォルディイ(Aleurites fordii)タンパク質、ファイトラカ・アメリカーナタンパク質(PAPI、PAPn、及びPAP-S)、モモルディカ・カランティア(Momordica charantia)阻害剤、クルシン、クロチン、サポナリア・オフィキナリス阻害剤、ゲロニン、ミトジェリン(mitogellin)、レストリクトシン、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン、及びトリコテセンが挙げられる。放射性コンジュゲート抗体の製造には、様々な放射性核種を利用することができる。例として、212Bi、131I、131In、90Y、及び186Reが挙げられる。
【0077】
抗体及び細胞傷害性物質のコンジュゲートは、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオール)プロピオネート(SPDP)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(ジメチルアジピミデートHCL等)、活性エステル(ジスクシンイミジルスベレート等)、アルデヒド(グルタレルアルデヒド等)、ビスアジド化合物(ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン等)、ビス-ジアゾニウム誘導体(ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミン等)、ジイソシアネート(トリレン2,6-ジイソシアネート等)、及びビス活性フッ素化合物(1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン等)等の様々な二官能性タンパク質カップリング剤を使用して作製され得る。特定の実施形態では、本発明のコンジュゲートは、リンカーを介して1つ以上の薬物部分に複合化された抗体を含み得る。
【0078】
本発明の更なる態様の別の実施形態では、コンジュゲートは、細胞透過剤を更に含む。より特定の実施形態では、細胞透過剤は細胞透過ペプチドである。より特定の実施形態では、細胞透過剤は、生体適合性であり、抗体を分解から保護することが知られているナノ粒子送達システムである。一実施形態では、ナノ粒子送達システムは脂質ナノ粒子である。別の実施形態では、脂質ナノ粒子は、リポソーム及び固体脂質ナノ粒子からなる群から選択される。別の実施形態では、脂質ナノ粒子はリポソームである。
【0079】
細胞透過剤は、T細胞又はマクロファージ表面上の分子を認識して該分子に結合する能力を有する分子を複合化させることによって更に機能化され得る。
【0080】
本発明の第3の態様では、本発明の第1の態様で定義される抗体若しくはフラグメント、又は、代替的には更なる態様で定義されるコンジュゲートは、癌の治療、診断又は予後診断のために用いられるものである。
【0081】
第4の態様では、本発明は、治療有効量のCD5L結合剤を1つ以上の薬学的に許容可能な担体又は添加剤と共に含む医薬組成物を提供する。
【0082】
「CD5L結合剤」という用語は、CD5Lを結合し遮断する能力を有するタンパク質又は非タンパク質のいずれかの種類の任意の種類の分子を含む。すなわち、分子は、CD5Lを結合してその機能を阻害することができる。CD5L結合剤は、任意の抗CD5L抗体又はそのフラグメント(市販又は本発明の第1の態様の1つの目的のいずれか)、ペプチド又は小分子であり得る。薬剤がCD5Lを結合し遮断する能力は、マクロファージのin vitro分極化に基づいて、上に提供される試験に従って決定され得る。本発明の第4の態様の一実施形態では、CD5L結合剤は抗CD5L抗体又はそのフラグメントである。本発明の第4の態様の別の実施形態では、CD5L結合剤は、モノクローナル抗体又はそのフラグメントである。本発明の第4の態様の別の実施形態では、CD5L結合剤は、本発明の第1の態様で定義されるモノクローナル抗体又はそのフラグメントである。
【0083】
本明細書で使用される「治療有効量」という表現は、投与された場合に、対処される疾患の1つ以上の症状の発症を予防する又は或る程度軽減するのに十分であるCD5L結合剤の量を指す。本発明に従って投与される薬剤の特定の用量は、当然のことながら、投与されるCD5L結合剤、投与経路、治療されている特定の病状、及び同様の検討事項を含む、症例を取り巻く特定の状況によって決定される。
【0084】
「医薬組成物」という表現は、ヒトを意図した組成物と非ヒト動物を意図した組成物(すなわち獣医用組成物)との両方を包含する。
【0085】
「薬学的に許容可能な担体又は添加剤」という表現は、薬学的に許容可能な材料、組成物又はビヒクルを指す。各構成成分は、医薬組成物の他の成分に適合するという意味で薬学的に許容可能でなくてはならない。各構成成分はまた、過大な毒性、刺激、アレルギー応答、免疫原性又は他の問題若しくは合併症なしにヒト及び非ヒト動物の組織又は器官と接触させた使用に好適であり、適切なベネフィット/リスク比に見合う必要がある。
【0086】
好適な薬学的に許容可能な添加剤の例は溶媒、分散媒、希釈剤、又は他の液体ビヒクル、分散助剤若しくは懸濁助剤、界面活性剤、等張剤、増粘剤若しくは乳化剤、防腐剤、固体結合剤、滑沢剤等である。任意の従来の添加剤媒体が、例えば任意の望ましくない生物学的作用を生じるか、又は医薬組成物の任意の他の構成成分(複数の場合もある)と他の形で有害に相互作用することによって物質又はその誘導体と適合しない場合を除き、その使用は本発明の範囲内であることが企図される。
【0087】
本発明の医薬組成物中のCD5L結合剤、薬学的に許容可能な添加剤及び/又は任意の付加的な成分の相対量は、治療される被験体の個性、大きさ及び/又は状態に応じ、更には組成物を投与する経路に応じて異なる。
【0088】
医薬組成物の製造に使用される薬学的に許容可能な添加剤としては、不活性希釈剤、分散剤及び/又は造粒剤、界面活性剤及び/又は乳化剤、崩壊剤、結合剤、防腐剤、緩衝剤、滑剤、及び/又は油が挙げられるが、これらに限定されない。処方者の判断により、着色剤、コーティング剤、甘味料、及び香味料等の添加剤が組成物中に存在してもよい。
【0089】
本発明のCD5L結合剤を含む医薬組成物を、任意の剤形、例えば、固体又は液体で提示することができ、任意の適切な経路、例えば、経口、非経口、直腸、局所、鼻腔内又は舌下の経路により投与することができ、それらの経路に対して、所望の剤形、例えば局所製剤(軟膏、クリーム、リポゲル、ヒドロゲル等)、点眼剤、エアロゾルスプレー、注射液、浸透圧ポンプ等の製剤化に必要な薬学的に許容可能な添加剤を含む。
【0090】
例示的な希釈剤としては、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸二カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸ナトリウム、ラクトース、スクロース、セルロース、微結晶性セルロース、カオリン、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、塩化ナトリウム、乾燥デンプン、コーンスターチ、粉糖及びそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0091】
例示的な造粒剤及び/又は分散剤としては、ジャガイモデンプン、コーンスターチ、タピオカデンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、粘土、アルギン酸、グアーガム、柑橘類果肉(citrus pulp)、寒天、ベントナイト、セルロース及び木製品、天然海綿、陽イオン交換樹脂、炭酸カルシウム、シリケート、炭酸ナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン)(クロスポビドン)、ナトリウムカルボキシメチルデンプン(デンプングリコール酸ナトリウム)、カルボキシメチルセルロース、架橋ナトリウムカルボキシメチルセルロース(クロスカルメロース)、メチルセルロース、アルファ化デンプン(starch 1500)、微結晶性デンプン、水不溶性デンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム(Veegum)、ラウリル硫酸ナトリウム、第四級アンモニウム化合物、並びにそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0092】
例示的な結合添加剤としては、デンプン(例えば、コーンスターチ及びデンプン糊);ゼラチン;糖(例えば、スクロース、グルコース、デキストロース、デキストリン、モラセス、ラクトース、ラクチトール、マンニトール);天然及び合成ゴム(例えば、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、アイリッシュモスの抽出物、パンワールゴム(panwar gum)、ガッチゴム、イサポール(isapol)外皮の粘液、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、微結晶性セルロース、酢酸セルロース、ポリビニルピロリドン)、ケイ酸アルミニウムマグネシウム(Veegum)及びカラマツアラビノガラクタン;アルギネート;ポリエチレンオキシド;ポリエチレングリコール;無機カルシウム塩;ケイ酸;ポリメタクリレート;蝋;水;アルコール;並びにそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0093】
例示的な防腐剤としては、酸化防止剤、キレート剤、抗微生物性防腐剤、抗真菌性防腐剤、アルコール防腐剤、酸性防腐剤及び他の防腐剤を挙げることができる。例示的な酸化防止剤としては、αトコフェロール、アスコルビン酸、ステアリン酸アスコルビル、オレイン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、モノチオグリセロール、メタ重亜硫酸カリウム、プロピオン酸、没食子酸プロピル、アスコルビン酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム及び亜硫酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。例示的なキレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、クエン酸一水和物、エデト酸二ナトリウム、エデト酸二カリウム、エデト酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸、エデト酸ナトリウム、酒石酸及びエデト酸三ナトリウムが挙げられる。
【0094】
例示的な緩衝剤としては、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、塩化アンモニウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、グルビオン酸カルシウム、グルセプト酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、D-グルコン酸、グリセロリン酸カルシウム、乳酸カルシウム、プロパン酸、レブリン酸カルシウム、ペンタン酸、第二リン酸カルシウム、リン酸、第三リン酸カルシウム、リン酸水酸化カルシウム、酢酸カリウム、塩化カリウム、グルコン酸カリウム、カリウム混合物、第二リン酸カリウム、第一リン酸カリウム、リン酸カリウム混合物、酢酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、第二リン酸ナトリウム、第一リン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム混合物、トロメタミン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、アルギン酸、発熱性物質除去水、等張食塩水、リンガー液、エチルアルコール及びそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0095】
例示的な滑剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、シリカ、タルク、麦芽、ベヘン酸グリセリル、硬化植物油、ポリエチレングリコール、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、ロイシン、ラウリル硫酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム及びそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0096】
記載されるように、本発明はまた、第5の態様では、(a)本発明の第4の態様に定義されるCD5L結合剤又は医薬組成物と、(b)薬物と、(c)任意に、その使用説明書とを備えるパーツキットを提供する。
【0097】
本発明の第5の態様の特定の実施形態では、任意に上記又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせて、CD5L結合剤は、抗CD5L抗体若しくはそのCD5L結合フラグメント、又は代替的には抗CD5L抗体若しくはそのCD5L結合フラグメントを含むコンジュゲートである。本発明の第5の態様の別の実施形態では、CD5L結合剤は、本発明の第1の態様で定義される抗CD5L抗体若しくはそのCD5L結合フラグメント、又は代替的には本発明の更なる態様で定義されるコンジュゲートである。
【0098】
本発明の第5の態様の別の実施形態では、任意に上記又は下記に提供される実施形態のいずれかと組み合わせて、薬物は抗癌薬である。
【0099】
本発明の別の態様は、M2マクロファージ活性化の阻害のために用いられる、又は代替的には図6に示されるようにTリンパ球活性化の促進のために用いられる、CD5L結合剤、又は本発明の第1の態様で定義される抗体若しくはそのフラグメント、又は第4の態様で定義される医薬組成物、又は第2若しくは第5の態様で定義されるキットを提供する。
【0100】
「M2マクロファージ活性化」という用語は、マクロファージに抗炎症性、再生促進性及び寛容性の表現型を誘導する分子又は分子群に曝露された場合にマクロファージが受ける表現型の変化を指す。本明細書ではM2活性化マクロファージは、一般に、マクロファージをIL10又は癌細胞馴化培地(CM)のいずれかで処理することにより得られる。「M2マクロファージ活性化」及び「M2マクロファージ分極化」という用語は同じ意味であり、区別されない。本発明において、「M2マクロファージ」という用語は、「M2型マクロファージ」又は「M2型活性化マクロファージ」と区別なく使用される。
【0101】
M2マクロファージの活性化の阻害を決定するために、幾つかの試験、例えば、以下の実施例に記載されるマクロファージのin vitro分極化試験による試験を行うことができる。簡潔に言えば、試験される薬剤を、(代わりに任意の他のものを使用することもできるが)IL10等のM2誘導性サイトカインと共に、PB単球、THP1細胞、U937細胞又はK562細胞等のマクロファージ様細胞の培養物に添加し、次いで1つ以上のマクロファージ活性化マーカーであるVEGF、CD163、及びMertkのmRNA発現レベルを測定する。当業者は、発現レベルを決定するために適切なプライマーを設計することができる。かかるプライマーの例示的で非限定的な例は、配列番号17~配列番号20及び配列番号25~配列番号26の配列である。
【0102】
上で詳述したように、本発明の第7の態様は、癌の治療及び/又は予防のために用いられる、CD5L結合剤、又は第1の態様で定義される抗体若しくはそのフラグメント、又は更なる態様で定義されるコンジュゲート、又は第4の態様で定義される医薬組成物、又は第2若しくは第5の態様で定義されるキットを提供する。特定の実施形態では、癌の治療及び/又は予防は、M2マクロファージ活性化の阻害によるか、又は代替的にはTリンパ球活性化の促進による。
【0103】
上で検討したように、M2活性化の阻害及びTリンパ球活性化の促進は、癌の治療に直接適用される。従来技術では、M2マクロファージの活性化が、腫瘍に対する免疫寛容に結びつくことが報告されている(上記の非特許文献1)。CD5L結合剤がマクロファージの免疫抑制状態(すなわちM2の活性化)を阻害できるという事実は、腫瘍細胞を排除するために、CD5L結合剤を使用して免疫系を再プログラムできることを意味する。そして、その結果、これは癌の治療に有益な効果を有し得る。
【0104】
「癌」という用語は、概して、任意の腫瘍性疾患を指す。本発明のCD5L結合剤又は医薬組成物で治療され得る癌の例示的で非限定的な例としては、限定されないが、乳頭腫、腺腫、脂肪腫、骨腫、筋腫、血管腫、母斑、成熟奇形腫、癌腫、肉腫、未熟奇形腫、黒色腫、骨髄腫、白血病、ホジキンリンパ腫、基底細胞腫、脊髄腫、乳癌、卵巣癌、子宮癌、肺癌、気管支癌、前立腺癌、結腸癌、膵臓癌、腎臓癌、食道癌、肝細胞癌(HCC)、頭頸部癌等が挙げられる。
【0105】
上で詳述したように、本発明の別の態様は、癌の治療及び/又は予防における抗癌剤との併用療法のために用いられる、CD5L結合剤、又は第1の態様で定義される抗体若しくはそのフラグメント、又は更なる態様で定義されるコンジュゲート、又は第4の態様で定義される医薬組成物、又は第2若しくは第5の態様で定義されるキットを提供する。特に、CD5L結合剤、又は抗体若しくはそのフラグメント、又は医薬組成物は、抗癌剤又はその誘導体と同時に、連続して、又は別々に投与される。より詳しくは、それらは、治療上有効な間隔で、任意の順序で別々に投与される。
【0106】
第9の態様では、本発明は、マクロファージにおけるCD5Lの決定に基づく診断又は予後診断方法を提供する。
【0107】
本明細書で使用される「診断」は、被験体における特定の医学的状態、症候群、合併症若しくはリスクを認識するようになること、疾患若しくは病状の性質の決定、又は或る疾患若しくは病状を別の疾患若しくは病状から区別することと理解されなければならない。診断は、起こり得る疾患又は障害を決定又は識別しようとするプロセスと、このプロセスによって到達される見解の両方を指す。診断は、診断手順の意味で、個人の病状を、行われる治療及び予後診断に関する医学的判断を可能にする個別の異なるカテゴリーに分類する試みと見なすことができる。その後、診断的見解は、しばしば疾患又は他の病状に関して説明される。しかしながら、診断は様々な形式を取り得る。診断は、存在を検出し、疾患、病変、機能障害又は障害に名前を付けることである場合がある。診断は、管理又は予後診断に関してカテゴリーを属性化することである場合がある。診断は、連続体である異常の程度又は分類である異常性の種類のいずれかを示す場合がある。
【0108】
本明細書で使用される「予後診断」は、疾患の起こり得る進行及び転帰の予測を指す。予後診断には、新生物の等級付け(退形成の増加が新生物の攻撃性と相関することから、再現可能な用語で新生物における細胞分化のレベルを表現する試み)、新生物の病期分類(再現可能な用語で患者における新生物の程度を表現する試み)が含まれる。
【0109】
本明細書で使用される「マクロファージ内のCD5L」という表現は、それが細胞の内部にあるのか表面にあるのかに関わらず、マクロファージにあるCD5Lタンパク質を指す。
【0110】
本発明の第9の態様の一実施形態では、マクロファージ内のCD5Lの量が基準値よりも高い場合、予後不良の指標となる。
【0111】
本発明では、特に明記しない限り、「基準値」という用語は、本件の場合のマクロファージ内のCD5Lの所定の値として理解され、サンプル又はサンプル群における上記分子マーカーのレベルから導き出される。サンプルは、疾患の存在、不在、病期、又は経過が以前に適切に実施されている被験体又は被験体群から採取される。この値は、とりわけ、疾患の予後を判断するためのしきい値として使用される。この基準値は、被験体が医療レジメンを開始する必要があるかどうか、及び該レジメンがどれほど有効であるかを判断するためにも役立つ。「基準値」が導き出される被験体(複数の場合もある)は、病状が存在しない被験体(複数の場合もある)、病状が存在する被験体(複数の場合もある)、又はその両方を含み得る。当業者は、一般的な知識を利用して、本発明の方法のそれぞれについての基準値を得るためにより適切な被験体又は被験体群を選択することができる。
【0112】
選択された被験体群から基準値を取得する方法は、技術水準でよく知られている(Burtis C. A. et al., 2008, Chapter 14, section "Statistical Treatment of Reference Values")。特定の場合、「基準値」は、従来のROC分析(受信者動作特性分析:Receiver Operating Characteristic analysis)を用いて定義されるカットオフ値である。当業者が理解するように、最適なカットオフ値は、予後診断方法の特定の適用、目的、対象集団、特異度と感度とのバランス等に従って定義される。
【0113】
本発明の第9の態様の別の実施形態では、マクロファージ内のCD5Lの量は、イムノアッセイ手法によって決定される。本発明の第9の態様の別の実施形態では、イムノアッセイ手法は、免疫組織蛍光法、免疫組織化学、又はフローサイトメトリーである。
【0114】
本発明の第9の態様の別の実施形態では、予後不良は死亡のリスクである。
【0115】
本発明の第9の態様の別の実施形態では、死亡のリスクは、腫瘍マクロファージ上のCD5Lの量に比例して増加する。
【0116】
本発明の第9又は第10の態様の実施形態では、マクロファージはTAMである。
【0117】
上で言及されるように、第10の態様では、本発明は、単離マクロファージ含有生体サンプルにおける、癌の診断若しくは予後マーカーとして、又は癌をモニタリングするためのマーカーとしてのCD5Lの使用を提供する。
【0118】
「単離マクロファージ含有生体サンプル」という用語は、マクロファージ及び他のものを含むサンプル、並びにそれらの更なる分析のためにマクロファージが単離されたサンプルを包含する。
【0119】
第11の態様では、本発明は、マクロファージ内のCD5Lの量の決定に基づく診断又は予後診断の方法のための手段を提供する。一実施形態では、マクロファージはTAMである。
【0120】
「手段」という用語は、タンパク質量の決定に有用な任意の反応物又は機器を指す。例えば、手段は、とりわけ抗体又はELISAキットであり得る。
【0121】
本発明の第11の態様の一実施形態では、手段は、CD5Lに特異的に結合する抗体又はそのCD5L結合フラグメントである。一実施形態では、マクロファージはTAMである。本発明の第11の態様の別の実施形態では、抗体は、本発明の第1の態様で定義される通りである。本発明の第11の態様の別の実施形態では、抗体はキットの一部を形成する。
【0122】
第12の態様では、本発明は、医療レジメンの有効性を決定するためのコンパニオン診断方法を提供する。
【0123】
本明細書で使用される「コンパニオン診断方法」は、特定の処置による治療に対して感受性の被験体を識別するため、又は治療をモニターするため、及び/又は被験体若しくは被験体の下位群若しくは他の被験体群に対する有効量を特定するために使用されるアッセイである。コンパニオン診断は、患者の疾患、障害、又は病状の重症度レベルを階層化するのに役立ち、コストを削減し、臨床試験の期間を短縮し、安全性を高め、及び/又は有効性を高めるための治療レジメン及び用量の調整を可能にし得る。コンパニオン診断は、疾患、障害又は病状の発生を予測し、予防療法の処方を支援するために使用され得る。幾つかのコンパニオン診断を1つ以上の臨床試験に対する被験体を選択するために使用することができる。場合によっては、コンパニオン診断アッセイが特定の治療と連携して、治療の最適化を促進することがある。特定の実施形態では、コンパニオン診断方法の処置は抗癌治療である。より特定の実施形態では、コンパニオン診断方法の処置は、本発明の抗体、コンジュゲート、又は医薬組成物を用いて行われる。
【0124】
本発明では「医療レジメン」という表現は、とりわけ、いずれかの薬物治療(化学療法及び放射線療法等)と並んで、医師がとった他の臨床判断(疾患に侵された組織の一部を切除するための手術等)を包含すると理解される。
【0125】
本発明の第12の態様の一実施形態では、上記方法は、工程(a)で得られた量を基準値と比較する工程(b)を更に含み、工程(a)で検出されたマクロファージ内のCD5Lの量が基準値よりも高い場合、被験体が医療レジメンから利益を得るであろうことを示す。
【0126】
本発明の第12及び第13の態様の一態様では、上記手段は、CD5Lに特異的に結合する抗体又はそのCD5L結合フラグメントである。一実施形態では、マクロファージはTAMである。本発明の第12及び第13の態様の別の実施形態では、抗体は、本発明の第1の態様で定義される通りである。本発明の第12及び第13の態様の一実施形態では、抗体はキットの一部を形成する。
【0127】
本発明の第9、第11、第12、又は第13の態様の一実施形態では、任意に上記又は下記の任意の実施形態と組み合わせて、生体サンプルは組織及び末梢血からなる群から選択される。別の実施形態では、生体サンプルは腫瘍組織サンプルである。
【0128】
「生体サンプル」という用語は、被験体から直接得られたサンプルと、細胞培養物の形態のサンプルとの両方を包含する。
【0129】
第14の態様では、本発明は、被験体に由来する単離サンプル中のM2マクロファージの存在を決定するin vitro方法を提供し、該方法は、サンプルに由来するマクロファージ内のCD5Lの量を決定する工程を含む。
【0130】
本発明の第14の態様の一実施形態では、CD5Lはマクロファージの表面に局在化する。
【0131】
本発明の第14の態様の一実施形態では、CD5Lの量を決定する工程は、イムノアッセイ手法によって行われる。本発明の第14の態様の別の実施形態では、イムノアッセイ手法は、免疫蛍光、免疫化学、又はフローサイトメトリーである。本発明の第14の態様の別の実施形態では、イムノアッセイ手法は、抗CD5L抗体を使用して実施される。本発明の第14の態様の別の実施形態では、抗CD5L抗体は、本発明の第1の態様で定義される通りである。本発明の第14の態様の別の実施形態では、抗CD5L抗体はキットの一部を形成する。
【0132】
本発明の第14の態様の一実施形態では、方法は、CD5Lの量を決定する前の工程を含み、マクロファージ画分は、生体サンプルから単離される。
【0133】
マクロファージは、免疫学の分野における通例の手法に従って、生体サンプルから識別及び/又は単離することができる。当業者は、最適な結果のために手法のパラメータを調整することができる。説明の目的で、表面タンパク質CD14に対する抗体を使用して、フローサイトメトリー手法により生体サンプルのマクロファージ集団を識別及び分離することが可能である。或いは、表面タンパク質CD68に対する抗体を使用して、免疫化学又は免疫蛍光の手法により生体サンプルのマクロファージを識別することができる。
【0134】
本発明の第14の態様の一実施形態では、マクロファージ内のCD5Lの量が基準値よりも高い場合、M2の存在の指標となる。本発明の第14の態様のこの実施形態で言及される「基準値」という用語は、不活性化マクロファージにおける(すなわち、M0期における)CD5Lの所定の値として理解される。
【0135】
第15の態様では、本発明は、M2マクロファージのマーカーとしてのCD5Lの使用を提供する。
【0136】
本発明はまた、癌を有する患者の治療方法のために用いられる抗癌化合物を提供し、該方法は、(i)患者に由来する試験サンプルからのマクロファージ内のCD5Lの量を決定することと、(ii)試験サンプルのマクロファージ内のCD5Lの量が基準値よりも高い場合、有効量の抗癌薬を患者に投与することとを含む。特定の実施形態では、抗癌薬は既知の抗癌薬である。より特定の実施形態では、抗癌薬は、本発明の抗体、コンジュゲート又は医薬組成物である。
【0137】
本明細書で使用される「抗癌化合物」は、癌の発生又は進行を停止又は阻害する任意の化合物を指す。さらに、上記化合物は、細胞増殖の阻害若しくは停止、又は増殖している細胞の生存に作用し得るが、他の細胞活動にも影響を与える可能性がある。
【0138】
本発明はまた、被験体において癌を治療する方法を提供し、該方法は、(i)患者由来の試験サンプルからのマクロファージ内のCD5Lの量を決定することと、(ii)試験サンプルからのマクロファージ内のCD5Lの量が基準値よりも高い場合、有効量の抗癌薬を薬学的な添加剤又は担体と共に患者に投与することとを含む。特定の実施形態では、抗癌薬は既知の抗癌薬である。より特定の実施形態では、抗癌薬は、本発明の抗体、コンジュゲート又は医薬組成物である。
【0139】
本明細書及び特許請求の範囲全体を通して、「含む(comprise)」という単語及びこの単語の変化形は他の技術的特徴、添加物、構成成分又は工程を除外することを意図したものではない。さらに、「含む」という単語は、「からなる(consisting of)」という場合も包含する。本発明の付加的な目的、利点及び特徴が本明細書を検討することで当業者に明らかとなるか、又は本発明の実施によって理解され得る。以下の実施例及び図面は実例として提示され、本発明を限定することを意図したものではない。図面に関連し、特許請求の範囲の括弧内にある参照符号は、単に特許請求の範囲を理解しやすくしようとするものであり、特許請求の範囲を限定するものと解釈してはならない。さらに、本発明は本明細書に記載される特定の好ましい実施形態の考え得る全ての組合せを包含する。
【実施例
【0140】
実施例1
材料及び方法
組み換えヒトCD5L(rhCD5L)の生産
ヒトCD5LのcDNAは、NCBI参照配列NP_005885(バージョンNP_005885.1)に従って遺伝子合成(米国ニュージャージー州ピスカタウェイのGenScript)によって取得され、免疫グロブリンg鎖シグナルペプチドがhCD5Lのペプチドに置き換わった修飾を有する。cDNAをp.eviベクターにクローニングし、eviFectシステム(スイス国のEvitria AG)を使用してCHO K1細胞に一過性にトランスフェクトした。細胞を、化学的に定義された血清不含の動物性成分を含まない培地であるeviMake(商標)で成長させた。細胞培養上清をトランスフェクション後8日目に採取し、20mM NaHPO、pH7.4で透析し、MonoQクロマトグラフィーに供した。組み換えhCD5L(rhCD5L)を塩化ナトリウム勾配で溶出し、SDS-PAGEで精製をモニターした。精製されたタンパク質をPBSに透析し、Amicon ultra(Millipore、UFC901024)での遠心分離により濃縮し、可能性のあるエンドトキシン汚染をEndotrapカラム(Hyglos GmbH、321063)により、製造業者のプロトコルに従って除去した。精製したrhCD5Lを予備実験で試験したところ、マクロファージ(MФ)TNFα分泌に関するその活性と並んで、シクロヘキシミド処理によって誘導されるアポトーシスの阻害は、商業的に入手可能なrhCD5L(R&D Systems)のものに匹敵した(データは示していない)。
【0141】
動物
動物の維持管理は欧州連合に従い、動物実験及び治療プロトコルに関する国のガイドラインは、CNB/CSIC動物研究倫理委員会によって承認された。研究は、共同研究に関するCNB/CBMSO/CSIC倫理委員会、及びバルセロナサイエンスパーク(Parc Cientific de Barcelona)及びバルセロナ大学の倫理委員会によって承認された。
【0142】
本発明のモノクローナル抗CD5L抗体(4D7)の生成
ヒトCD5Lに対するマウスmAbを、25μgのKLH結合rCD5Lを用いたBALB/cマウスの皮下免疫によって産生させた。SIGMA(マレイミド活性化BSA、KLHコンジュゲーションキット、米国ミズーリ州)において推奨されている標準手順に従って、マレイミド活性化KLHを使用して、KLHへの結合を行って免疫原性を高めた。0.15mLの滅菌PBSに結合させた25μgのKLHを、同量のフロイント完全アジュバント(Difco)で乳化した。28日目及び56日目にフロイントの不完全アジュバントに含まれる同量のタンパク質でマウスを皮下追加免疫した。
【0143】
免疫したマウスに由来する血清を最後の追加免疫から10日後に収集し、rCD5Lに対する特異的抗体の存在を酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)で特定した。簡潔に言うと、500ngのrCD5LをELISAプレート(デンマーク国のNunc)のウェルにおいて4℃で一晩固定化した。5%BSA(SIGMA)を含むPBSでプレートを22℃で1時間ブロックした。次いで、血清をブロッキングバッファーで1:1、1:5、1:10に希釈して加え、22℃で1時間インキュベートした。各工程の間に、プレートをPBS 0.01%Tween-20で2回洗浄して、未結合のタンパク質を除去した。結合した抗体を検出するために、ペルオキシダーゼ(PO)で標識した抗マウスIgG抗体(SIGMA)の1:1000希釈液を最後の工程で添加し、22℃で30分間インキュベートした。非結合抗体をPBS 0.01%Tween-20で3回洗浄した。3,30,5,50-テトラメチルベンジジン液体基質(Sigma)を加えることにより発色させ、光学密度を405nmで読み取った。
【0144】
ポリエチレングリコール4000(Merck)を使用して脾臓リンパ球とP3X63Ag8.653マウス形質細胞腫(CRL1580、American Type Culture Collection)とを融合させる3日前に、滅菌PBS中の30μgのKLH複合化タンパク質を用いて、選択したマウスを静脈内追加免疫した。細胞融合を標準的な手順を使用して行った(Galfre G. et al., "Antibodies to major histocompatibility antigens produced by hybrid cell lines". Nature. 1977; 266:550-552.及びHarlow E. and Lane D.E., "Antibodies:A Laboratory Manual". Cold Spring Harbor, New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1988.を参照されたい)。融合の2週間後、陰性対照としてウシ血清アルブミンを使用して、CD5L特異的抗体の存在について培養上清を上記に示されるELISAでスクリーニングした。
【0145】
陽性ハイブリドーマを標準的な手順に従って限界希釈することによりクローン化した(上記Galfre G. et al.及びHarlow E. et al.を参照されたい)。mAbを組織培養上清中で合成し、Protein G-Sepharose(GE Healthcare)を使用するアフィニティークロマトグラフィーで精製した。製造業者の指示に従い、Rapid ELISAマウスmAbアイソタイピングキット(Thermo Fisher-Pierce)を使用して、マウス免疫グロブリン(IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3及びIgM)の重鎖に対する特定のペルオキシダーゼ複合化抗体を使用するELISAによって、免疫グロブリンサブクラスを決定した。
【0146】
本出願で使用されるmAbはサブクラスIgG2aのものであると結論付けられた。
【0147】
4D7抗CD5L抗体の配列決定及び配列分析
抗CD5Lモノクローナル抗体を、RNeasyミニキット(ドイツ国、Qiagen)を使用し、4D7産生ハイブリドーマ細胞株から抽出されたmRNAから製造業者の指示に従って配列決定した。次いで、製造業者の指示に従い、RNA to cDNAエコドライキット(日本国、タカラバイオ株式会社)を用いてmRNAをcDNAに逆転写した。該cDNAを使用して、表2に収載されているプライマーを使用してPCR増幅を行った。増幅されたcDNAをアガロースゲルで分解し、ゲルから切り出し、Qiaquick PCR精製キット(Qiagen)を使用して精製し、BigDye(商標)Terminator v3.1サイクルシーケンシングキット(米国ミシシッピ州のThermofisher)及びIGTP Genomicsプラットフォームサービスを使用して、SANGERシーケンシングにより同じプライマーで配列決定した。RT-PCR及び配列決定に使用したプライマーを表2に示す。
【0148】
【表2】
【0149】
配列の分析、並びに種々の領域及びドメインの識別は、NCBI Basic Local Alignment Search Tool(BLAST、NCBI;米国)、及びIMGT(商標)、フランス国CNRSのinternational ImMunoGeneTics information system(商標)(http://www.imgt.org)の使用により行われた。
【0150】
したがって、4D7抗体は、配列番号9の配列である重鎖及び配列番号10の配列である軽鎖を含むことがわかった。
【0151】
初代細胞及び細胞株
Blood and Tissue Bank(スペイン国バルセロナ)によって提供されるバフィーコートは、献血及び加工に関する機関の標準業務手続に従って、健康な献血者から入手した。
【0152】
単球の分離のため、CD3+細胞をRosetteSepヒトCD3枯渇カクテル(カナダ国ブリティッシュコロンビア州バンクーバーのStemCell Technologies、15621)で枯渇させた。末梢血単核細胞(PBMC)を以前に記載される通り(Sanjurjo L, et al., The human CD5L/AIM-CD36 axis:A novel autophagy inducer in macrophages that modulates inflammatory responses. Autophagy. Taylor and Francis Inc.; 2015;11(3):487-502)、400gで25分間のFicoll-Paque(米国ニュージャージー州ピスカタウェイのGE Healthcare、17-1440)密度勾配遠心分離によって単離した。CD3+T細胞を、製造業者の指示に従って、MagniSortヒトT細胞濃縮抗体カクテル及びMagniSort陰性選択ビーズ(Thermo Fisher ScientificによるInvitrogen)を使用して陰性選択によりPBMCから分離した。回収された細胞をPBSで2回洗浄し、Perfect-Countミクロスフェア(スペイン国サラマンカのCytognos、CYT-PCM)を使用して、製造業者の指示に従って計数した。細胞をPerfect-Countミクロスフェアを使用して計数した。1ウェル当たり2×10個又は2×10個のPBMCを、それぞれ6ウェルプレート(デンマーク国、Nunc)又はMillicell EZスライド(米国マサチューセッツ州ビレリカのMerck Millipore、PEZGS0816)に播種し、末梢血単球(PB単球)を5%COインキュベーターで37℃にて30分間の付着により単離した。非付着細胞を除去し、付着細胞をPBSで2回洗浄し、実験前24時間に亘りRPMI 10%FBS(スイス国バーゼルのLonza、DE14-840E)、100U/mLのペニシリン及び100μg/mLのストレプトマイシン(米国ミズーリ州セントルイスのSigma-Aldrich、P0781)中でインキュベートした。通例得られる付着細胞CD14+(PB単球)のパーセンテージは94.98%(+/-3.26%)であり、CD3+T細胞のパーセンテージは常に90%を超えていた。細胞生存率は通例で94%超であった。
【0153】
ルイス肺癌(LLC)細胞株3LLRは、ペニシリン(100U/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)及び10%FBSで補完したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、GIBCO、ニューヨーク州のInvitrogen)で培養した。
【0154】
肝癌細胞馴化培地
HepG2細胞、Huh7細胞及びSNU398細胞をATCC(The American Type Culture Collection)から購入し、2mMグルタミン(スイス国バーゼルのLonza)、100U/mLのペニシリン及びストレプトマイシン(Sigma-Aldrich)、並びに10%熱不活化ウシ胎児血清(FBS)(Lonza)で補完したEMEM(HepG2)、DMEM(Huh7)、又はRPMI(SNU398)で培養した。
【0155】
細胞を90%コンフルエンシーまで増殖させ、次いでPBSで洗浄し、2%FBSを含むRPMIで培地を置き換えた。24時間後、上清を収集し、10000rpmで4℃にて10分間遠心分離して、細胞残屑を除去した。
【0156】
マクロファージのin vitro分極化
培養培地にINF(インターフェロン)/LPS(リポ多糖)、IL4(インターロイキン4)、IL10(インターロイキン10)、DXM(デキサメタゾン)又は肝癌細胞CM(馴化培地)を次の通り添加することでPB単球を分極化させた:
INF/LPS:50ng/mLのIFNγ(米国ニュージャージー州ロッキーヒルのPreprotech、300-02-A)に加えて100ng/mLのE.コリO111:B4に由来するLPS(Sigma-Aldrich、l4391);
IL4、40ng/mlのIL-4(Preprotech;200-04-A);
IL10、50ng/mlのIL-10(Preprotech;200-10-A);
DXM、40ng/mlのデキサメタゾン(スペイン国テラサのKern pharma、672066.0);
CM、Huh7細胞、HepG2細胞、又はSNU-398細胞から収集した馴化培地のプール(上記を参照されたい)。
【0157】
分極化サイトカインなしで培養されたPB単球の対照集団をM又は培地と称する。
【0158】
PB単球に対する組換えヒトCD5L(rhCD5L、上記のように生成)の影響を評価するため、これらの細胞を、対照タンパク質(スペイン国バルセロナのGrifols、670612.1)として使用されるヒト血漿から精製した1μg/mlのアルブミン、又は1μg/mlのエンドトキシンフリーrhCD5Lを用いて上記の通り培養培地中で24時間インキュベートした。
【0159】
IL-10誘導分極化に対する4D7抗体の役割を評価するため、培養物へのIL-10の添加の45分前に、この抗体又はIgG2aアイソタイプ対照抗体(米国ミネソタ州ミネアポリスのR&D systems)を最終濃度5μg/mlで添加した(リアルタイムPCRの場合については以下に説明する)。
【0160】
LPSによるマクロファージ刺激
50.000不活性化又はIL10活性化されたPBマクロファージを10ng/mlのLPS(E.コリO111:B4、米国カリフォルニア州サンディエゴのInvivogen)で4時間刺激した。次いで、上清中のサイトカインを、製造業者の指示に従って、OptEIA ELISA(BD Biosciences)を用いるELISAによって測定した。3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン液体基質(Sigma-Aldrich、T8665)を添加することによって発色させ、光学密度をVarioskan Flashマイクロプレートリーダー(Thermo Fisher Scientific Inc.)により450nmで読み取った。
【0161】
マクロファージ分極化マーカーのフローサイトメトリー分析
分極化マクロファージをAccutase(Sigma-Aldrich)で剥離させ、PBSで2回洗浄し、10%ヒトAB血清、2%FBS、及び0.02%NaN(ブロッキングバッファー)を含むPBS 50μlと共に氷上で30分間インキュベートした。
【0162】
次いで、細胞を、蛍光複合化抗ヒトCD163モノクローナル抗体(BD Biosciences製563889)と組み合わせて、Brilliant染色バッファー(BD Biosciences、563794)中で20分間インキュベートした。次いで、それらを洗浄バッファー(2%FBS及び0.02%NaNを含むPBS)で濯ぎ、1%パラホルムアルデヒドで固定した。
【0163】
フローサイトメトリー分析をBD LSR Fortessa装置でFACSDivaソフトウェア(BD Biosciences)を使用して製造業者の指示に従って行い、各サンプルについて10000の事象を取得した。
【0164】
RNA抽出及び定量RT-PCR
PB単球(1×10細胞/ウェル)を、5%FCS及び上記の分極化刺激又はLXRアゴニストT1317(英国ブリストルのTocris Bioscience)に加えてCD5L mRNA誘導の陽性対照として使用される9-cis-レチノイン酸(9cRa)(Sigma-Aldrich)(T13+9CR)、1μMを含むRPMI培地中で24時間インキュベートした。
【0165】
次いで、細胞をPBSで洗浄し、QIAzol Lysis Reagent(ドイツ国ヒルデンのQiagen、79306)で破壊し、miRNeasy Mini Kit(Qiagen、217004)を使用して全RNAを抽出した。
【0166】
全RNA(1μg)をRNA to cDNA EcoDry(商標)プレミックス(米国カリフォルニア州マウンテンビューのClontech、639549)を使用して逆転写した。次いで、各RT-PCR反応物を、KAPA SYBR Fast Master Mix(米国マサチューセッツ州ウォーバンのKAPA Biosystems、51230-100)を使用してLightCycler(商標)480 PCRシステムで増幅した。サンプルを95℃で5分間初期変性のためインキュベートし、次いで、以下の条件:95℃で10秒間、60℃で20秒間、及び72℃で10秒間を使用して40のPCRサイクルを実施した。この研究で使用した全てのプライマー対を表3に収載する。
【0167】
【表3】
【0168】
遺伝子発現値をGAPDH(グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ)の発現レベルに対して正規化した。倍率誘導レベルを未処理の細胞(-)における各遺伝子の発現レベルを基準として使用して計算した。
【0169】
フローサイトメトリーによるCD5L細胞表面発現分析
上記の培養培地中の2×10個のPB単球、又は図面に示す刺激で72時間分極化したものをアキュターゼ(Sigma-Aldrich、A6964)で剥離させ、氷冷PBSで2回洗浄し、100μlのブロッキングバッファー、10%FCS(Lonza)及び10%ヒトAB血清(Sigma-Aldrich、H4522)を含むPBSと共に氷上で30分間インキュベートした。
【0170】
次いで、細胞をmAb抗CD5L(C18、Abnova、H00000922-M01、すなわち4D7)と共に、4℃にて60分間ブロッキングバッファー中でインキュベートした。細胞を、2%FCS及び0.02%NaN(洗浄バッファー)を含む3mlのPBSで1回洗浄し、フルオレセインイソチオシアネート複合化抗マウスIgG/IgM抗体(BD)又はヤギ抗ウサギIgGのAlexa Fluor(商標)647F(ab’)2フラグメント(Molecular Probes、Thermo Fisher Scientific、A-21246)と共に、4℃にて45分間ブロッキングバッファー中でインキュベートした。3mlの洗浄バッファーで細胞を洗浄した後、FACSCantoII装置(BD)でFACSDivaソフトウェア(BD)を使用し、製造業者の指示に従ってフローサイトメトリー分析を行った。
【0171】
HCC組織マイクロアレイの免疫蛍光(IF)分析
ヒトに関する研究はいずれも、ヘルシンキ宣言の原則及び個人データの機密性に関する現在の法律に従って行われ、Germans Trias i Pujol大学病院のヒト倫理委員会によって承認された。HCC患者からのレトロスペクティブサンプルを様々なスペインの病院:Josep Trueta、HuGTiP、Mar、Universitario Central de Asturias、及びParc Tauli Consortiumから得た。徹底的な病理検査の後、腫瘍又は隣接する組織の最も代表的な領域を、組織マイクロアレイ(TMA)を構築するために選択した。
【0172】
簡潔に言えば、これらの領域から直径0.6mmの組織円柱を、0.7mm~0.8mmに及ぶ領域でパラフィンブロックに含めた。次に、5μmの切片をシラン化ガラススライド(スペイン国バルセロナのDako)に、組織の不均質性に応じて2つ又は3つずつマウントした。
【0173】
さらに、扁桃体、結腸、及び胎児の肝臓を内部対照としてTMAに含めた。
【0174】
VENTANAベンチマークIHCプラットフォーム(米国アリゾナ州ツーソンのVentana Medical Systems)を使用してTMA切片に対して免疫蛍光(IF)を行った。
【0175】
1:100の使用希釈でhCD5Lに対する抗体(4D7)、及びCD68に対する抗体(Sigma)を使用した。一次抗体に応じて、Alexa-488又はAlexa-647(Invitrogen)と結合した抗マウス又はウサギIgGを二次抗体として使用した。
【0176】
最後に、800nM DAPI(Sigma-Aldrich)を含むPBSで室温にて10分間、核を染色した。
【0177】
二次抗体単独をバックグラウンド免疫蛍光分析に使用した。
【0178】
共焦点顕微鏡画像をFluoView(商標)FV1000スペクトル共焦点顕微鏡で撮影し、FluoView(商標)FV10-ASW 3.1ソフトウェア(日本国東京都新宿区のオリンパス株式会社)で分析した。
【0179】
免疫療法のin vivoアッセイ
野生型C57BL/6の脇腹に3×10個の3LLR細胞を皮下注射した。腫瘍を7日間成長させた後、PBS中150μgのCD5L moAb D7又は対照として同量のPBS(n=5マウス/群)を3日毎に7日間、腹腔内(i.p.)に与えた。腫瘍のサイズは、7日目から毎日カリパスを用いて手作業で測定し、腫瘍体積を(v=π×[w^2×l]/6)(幅、w、及び長さ、l)により計算した。15日目にマウスを屠殺し、更なる分析のため腫瘍及び脾臓を収集した。
【0180】
T細胞増殖アッセイ
CD3+T細胞をCellTrace Violet細胞増殖キット(Invitrogen)で製造業者の指示に従って染色した。細胞を一晩静置した後、1μg/mlのrhCD5Lの存在下/不在下で37℃、5%COにて5日間T細胞活性化/拡張キット(Miltenyi Biotech)を使用して、1:10の比率(ビーズ/T細胞)でCD2/3/28被覆ビーズにより刺激した。5日後にLSR Fortessa Analyzer(BD Biosciences)でT細胞の増殖を測定し、FlowJo V9.8.2の増殖モジュールを使用してFSC/SSCによってゲートされた生細胞のうちFSChighVioletlow細胞のパーセンテージとして表した。
【0181】
統計分析
統計分析をGraphPad Prism V.5ソフトウェア(米国カリフォルニア州ラホール)を使用して行った。特定の統計的検定は、各図の凡例に示されている。生存分析のために、カプラン-マイヤー法及びログランク検定を実施して、曲線間の違いを比較した。p≦0.05の値を有意であると見なした。
【0182】
結果
M2活性化マクロファージはCD5Lを発現する
本発明者らは、マクロファージのin viroでのM2分極化がCD5L発現に何らかの変化を誘導するかどうかを試験した。
【0183】
末梢血(PB)単球を、インターフェロン(IFN)、リポ多糖(LPS)、IFN/LPS、インターロイキン4(IL4)、及びインターロイキン10(IL10)、デキサメタゾン(Dexa)、又は肝癌細胞順化培地対照(CM ct)、Huh7細胞に由来する馴化培地(CM Huh7)、HepG2細胞に由来する馴化培地(CM HepG2)若しくはSNU細胞に由来する馴化培地(CM SNU)を用いて分極化した。陽性対照として、核内受容体リガンドT13+9cR又は組み換えCD5Lを使用した。陰性対照として、通常の培地(M)又はヒトアルブミン(hSA)を使用した。次いで、CD5L mRNA(図1A)及びタンパク質レベル(図1B)をリアルタイムPCR、IF、及びフローサイトメトリーで調べた。
【0184】
結果は、非常に低レベルのCD5L mRNA(図1A)及びCD5Lタンパク質(図1B)が非刺激(M)、IFN、LPS又はIL4で処理したマクロファージで検出されたことを示した。
【0185】
しかしながら、IFN/LPS、及びより大きな程度までIL10は、CD5L mRNAの強力な誘導因子であった(図1A)。CD5Lタンパク質レベルに関しては、IL10は有意な増加をもたらすことができた(図1B)。
【0186】
さらに、肝癌馴化培地(CM)はCD5L mRNAレベルを高め、Huh7細胞からのCMが最も強力な誘導因子であった。
【0187】
興味深いことに、CD5Lは分泌タンパク質であると説明されているが、本発明者らは2つの異なるモノクローナル抗体(4D7及び1C8、Novus biologicals)を用いたフローサイトメトリーによってマクロファージの表面でその存在を検出した(図1B)。
【0188】
細胞表面CD5Lレベルは、M2マクロファージ(すなわち、IL10及び肝癌細胞CMで分極化されたもの)で陽性であった。これらのアッセイでは、CD163がM2マクロファージのゴールドスタンダードマーカーであることを考慮して、このマーカーの発現を陽性対照として使用した。驚くべきことに、細胞表面CD5Lの検出は、未処理とIL10又は肝癌のCM分極化マクロファージとの区別において、陽性細胞(図1B、上のパネル)及びその蛍光強度(図1B、下のパネル)の両方のパーセンテージで、CD163の検出を改善した。
【0189】
したがって、これらの結果は、CD5LをM2分極化マクロファージの細胞表面マーカーとして使用できることを示し、これは現在使用されているマーカーであるCD163よりも更に特異的である。
【0190】
CD5LはM2マクロファージ分極化を誘導する
CD5Lの高発現がM2マクロファージで観察されたことを考慮して、本発明者らは次に、CD5L自体がこの細胞表現型を誘導することができたかどうかを試験した。図2で観察されるように、初代細胞培養物(すなわちPB単球)に組換えヒトCD5L(rhCD5L)を添加すると、未処理(M)又はアルブミン(hSA)で処理した細胞と比較して、これらの細胞でCD163の発現の増加を促進した。したがって、CD5LはM2様分子及び機能的表現型の獲得における活発な分子プレーヤーである。
【0191】
さらに、rhCD5LがLPS刺激マクロファージのTNFアルファ及びIL6分泌を阻害できることがわかった(図2B)。
【0192】
抗CD5L抗体はM2マクロファージの活性化を阻害する
CD5LがM2分極化を誘導し、IL-10と同様に肝癌CMの分極化マクロファージで過剰発現することを考慮して、本発明者らは次に、抗体によるCD5Lの阻害がIL10(M2)分極化に影響するかどうかを試験した。
【0193】
これらの実験では、PB単球を、抗CD5Lモノクローナル抗体(4D7)又は対照アイソタイプ抗体の存在下で、IL10を含む又は含まない培地中で培養した。
【0194】
次いで、マクロファージ分極化マーカーCD80、TNF、TGM2、CD163、MertK、VEGFのmRNAレベルを測定した(図3A)。
【0195】
結果は、抗CD5L抗体とのインキュベーションがM1マーカーCD80又はTGM2のmRNAレベルに影響を与えないことを示した。
【0196】
しかしながら、興味深いことに、抗CD5L抗体は、アイソタイプ対照抗体と比較して、IL10が媒介するM2マーカーCD163、Mertk、及びVEGFの増強を強力に阻害することができた(図3A)。この阻害は、CD163の場合は40%、Mertkの場合は48%、及びVEGFは53%であった。
【0197】
このデータから、4D7等の抗CD5Lモノクローナル抗体、及びCD5Lに結合する能力を持つ任意の他の薬剤をM2マクロファージ活性化の強力な阻害剤として使用可能であると結論付けることができる。
【0198】
抗CD5L抗体はマクロファージの炎症促進活性を回復する
抗CD5L抗体がM2活性化を阻害することができたことを考慮して、本発明者らは次に、上記抗体がM2活性化マクロファージの炎症反応を回復できるかどうかを試験した。
【0199】
その目的で、IL10活性化マクロファージの炎症反応を、既知の炎症性活性化因子であるリポ多糖(LPS)に対する腫瘍壊死因子アルファ(TNF)応答を測定することによって分析した。これらの実験では、IL10分極化はLPSに対してはるかに低いTNF応答を誘導した(図3B)。驚いたことに、抗CD5L抗体(4D7)を添加すると、LPSの分泌が正常レベルに回復し、CD5Lの遮断がM2(抗炎症)マクロファージの活性及び表現型を阻害するために使用可能であるという概念が確認された。
【0200】
CD5Lは腫瘍マクロファージで発現され、そのレベルの増加は肝細胞癌(HCC)の予後不良に関連している
HCCにおけるCD5Lの肝臓マクロファージ発現を評価するために、n=60のHCC腫瘍(T)/44の隣接する肝臓(NT)を含むTMAでIF染色を行った。
【0201】
これらの研究では、マクロファージをCD68に対する抗体(ウサギ抗ヒトCD68、SIGMA)及びCD5Lに対する抗体(4D7)で検出した。興味深いことに、腫瘍組織にCD5L+マクロファージが50%未満の患者は、CD5L+マクロファージのランクが50%を超える患者よりも全生存率(OS)が良好であった(図4)。これらの結果は、腫瘍マクロファージにおけるCD5Lの発現増加がより悪い予後に関連していることを示唆している。
【0202】
CD5Lを標的とする免疫療法は腫瘍の成長を停止する
本発明者らは次に、CD5Lを免疫療法の標的として使用できるかどうかを評価した。n=5マウスの野生型マウスの脇腹にルイス肺癌(LLC)細胞を皮下注射し、3日毎に腹腔内(i.p.)にCD5L特異的moAb D7を与え、続いて腫瘍の成長をモニタリングした。対照動物には同量のPBSを与えた。本発明者らは、抗CD5L moAb D7で処理したLLC担腫瘍マウスは、PBS注射マウスと比較して、腫瘍体積として測定された腫瘍がより小さいことを見出した(図5を参照されたい)。
【0203】
rhC5LはT細胞の増殖を阻害する
rhCD5LがT細胞生物学に影響を与えるかどうかを評価するため、本発明者らは、rhCD5Lの添加がポリクローナル刺激に応答してT細胞の増殖を変更し得るかどうかを判断した。このため、T細胞をrhCD5Lの存在下又は不在下でCD2/3/28ビーズを用いて刺激した。図6で観察されるように、rhCD5Lの存在は生存率(B)に影響を与えることなく、T細胞の増殖(A)を低下させた。
【0204】
引用一覧
WO9839443
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図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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