(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】細菌による組換えGLP-1ペプチドの連続生産方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/70 20060101AFI20240514BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240514BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240514BHJP
【FI】
C12N15/70 Z
C12P21/02 Z ZNA
C12N15/12
(21)【出願番号】P 2021549208
(86)(22)【出願日】2020-02-24
(86)【国際出願番号】 IB2020051550
(87)【国際公開番号】W WO2020170228
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】201941007166
(32)【優先日】2019-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】521315766
【氏名又は名称】オンコシミス バイオテック プライベート リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ONCOSIMIS BIOTECH PRIVATE LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100109793
【氏名又は名称】神谷 惠理子
(72)【発明者】
【氏名】ロキレディ,サダーサナレディ
(72)【発明者】
【氏名】コナ,ベンカタ スリ クリシュナ
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-252367(JP,A)
【文献】特表2005-515167(JP,A)
【文献】特表2009-510173(JP,A)
【文献】特表2006-512907(JP,A)
【文献】特表2010-517532(JP,A)
【文献】特表2008-509682(JP,A)
【文献】特表2014-512814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 21/02
C12N 15/70
C12N 15/12
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大腸菌による組換えGLP-1ペプチドの連続生産および分泌のための方法であって、
a)組換えGLP-1ペプチドをコードする発現ベクターで大腸菌を形質転換して組換え大腸菌を調製する工程;
b)スターター培養の増殖培地37℃、225rpmで12時間培養して、培養物のOD
600が5.0-6.0に達するようにした、組換え大腸菌のスターター培養物を調製する工程;
c)10g/Lの濃度のグルコース/デキストロースを含み、pHを6.9に維持する発酵槽に開始バッチ培地を添加することにより、潅流型発酵システムを調製する工程;
d)前記スターター培養物を前記発酵槽に加え、最初の1時間は3NのNaOHを使用し、この1時間後には、4Mの液体アンモニアを使用してpHを6.9に維持する工程;
e)前記開始バッチ培地の残留グルコース/デキストロース濃度が約5g/Lに減少したときに、ラクトースまたはラクトース類似体
であるlacオペロン誘導剤を前記発酵槽に添加して、前記組換え大腸菌から組換えGLP-1ペプチドの産生および分泌を誘導する工程;及び
f)前記誘導から30~40分後に、前記潅流型発酵システムを開始して、分泌された組換えGLP-1ペプチドを含む使用済み培地を透過液として、組換え大腸菌を保持液(retantate)として分離し、
前記透過液から組換えGLP-1ペプチドを採集し、
前記発酵槽に新鮮な灌流培地および前記組換え大腸菌保持液(retantate)を再供給して、組換えGLP-1ペプチドを連続的に産生および分泌する工程;
を含み、
前記組換えGLP-1をコードするDNA配列は配列ID1であり、
遺伝子ompfのシグナルペプチド及びキャリアペプチドとしての切断型yebfペプチド(配列ID5)をコードするDNA配列(配列ID3)の組み合わせを含む分泌シグナル配列は、前記配列ID1に連結していて、
前記組換え発現ベクターは、前記分泌シグナルに連結した配列ID1を含んだ、配列ID6で表され、
配列ID6の組換え発現ベクターを用いた前記潅流型発酵システムにより、1~1.2g/L/hrの範囲で組換えGLP-1ペプチドを分泌する、
組換えGLP―1ペプチドを連続生産及び分泌する方法。
【請求項2】
前記開始バッチ培地は、
139mMグルコース/デキストロース;
30.2mM窒素
源;
安定化剤として54.29mMグリセロール;
8.84mMクエン酸;
必須アミノ酸として1mMグリシン;
正に帯電したアミノ酸としての1mMアルギニン;
0.06mMチアミン;
5mM硫酸マグネシウム七水和物;
97.73mMリン酸二水素カリウム;
2.13mM塩化ナトリウム;
0.09mM塩化カルシウム;及び
微量元素の塩として、1~5g/Lのクエン酸鉄(III)、0.1~2g/LのCoCl
2-6H
2O、0.5~5g/LのMnCl
2-4H
2O、0.01~1g/LのCuCl
2-2H
2O、0.1~1g/LのH
3BO
3、0.01~1g/LのNa
2MoO
4-2H
2O、0.5~5g/Lの酢酸亜鉛-2H
2O;及び
キレート剤として0.01-5g/LのEDTA
を含む化学的に規定された培地である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記灌流培地は、
13.9mMのグルコース/デキストロース;
30.2mM窒素
源;
安定化剤として54.29mMグリセロール;
8.84mMクエン酸;
必須アミノ酸として1mMグリシン;
正に帯電したアミノ酸としての1mMアルギニン;
0.06mMチアミン;
1mM硫酸マグネシウム七水和物;
97.73mMリン酸二水素カリウム;
2.13mM塩化ナトリウム;
0.09mM塩化カルシウム;及び
微量元素の塩として、1~5g/Lのクエン酸鉄(III)、0.1~2g/LのCoCl
2-6H
2O、0.5~5g/LのMnCl
2-4H
2O、0.01~1g/LのCuCl
2-2H
2O、0.1~1g/LのH
3BO
3、0.01~1g/LのNa
2MoO
4-2H
2O、0.5~5g/Lの酢酸亜鉛-2H
2O;及び
キレート剤として0.01-5g/LのEDTA
を含む化学的に規定された培地である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記潅流型発酵システムは、
供給タンク、フィードポンプ、レベルセンサー、モーター、発酵槽、磁気浮上ポンプ、分離モジュール、収穫用ポンプ、および収穫用タンクを含み、
前記分離モジュールは、培養培地から分泌された組換えタンパク質の分離に適した中空糸膜のフィルターモジュールを含み、
前記フィルターモジュールは、0.4μmから0.1μmの間の多孔
度を有する、ポリスルホン製中空糸膜、及びメチルエステルまたはセルロースエステル製中空糸膜のフィルターモジュールであり、
前記中空糸膜のカットオフポアサイズは500kDaであり、
前記潅流型発酵システムは、組換え大腸菌を含む培養培地(組換え大腸菌培養培地)を、交互のタンジェント流で分離系内を循環し、
前記分離系は、前記組換え大腸菌培養培地から、組換えGLP―1ペプチドを含む使用済み培地を含む濾液を分離し、前記組換え大腸菌培養培地に前記組換え大腸菌を保持するものである請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌、より具体的には大腸菌による組換えグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の連続生産および分泌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)は、回腸遠位部及び結腸のL細胞で産生される31アミノ酸の強力な内分泌ホルモンである。L細胞では、GLP-1はプログルカゴン遺伝子の組織特異的な翻訳後プロセシングによって生成される。ブドウ糖、脂肪酸、食物繊維などの栄養素は、いずれも、GLP-1をコードする遺伝子の転写をアップレギュレートすることが知られており、このホルモンの放出を刺激することができる。
【0003】
初期生成物としてのGLP-1(1-37)は、アミド化とタンパク質分解による切断を受けやすく、生物活性が等しい2つの切断型のGLP-1(7-36)アミドとGLP-1(7-37)を生じる。
【0004】
GLP-1はインクレチンであり、インスリン分泌促進効果を示す。つまり、インスリンの分泌を促進することにより、グルコース依存的に血糖値を低下させる効能がある。インシュリントロピック効果に加えて、GLP-1は多様なレギュレーション、効用効能に関係している。GLP-1が2型糖尿病の患者にも有用であることが知られていることから、GLP-1をベースとする治療法の開発として、実質的な製薬研究が行われるようになってきた。GLP-1は、肥満などの代謝障害の管理関連の治療薬候補にも関係している。
【0005】
したがって、GLP-1の生産は重要であり、組換え細菌、より具体的には産生効率が高い大腸菌を使用して組換えGLP-1ペプチドを生産する方法が必要であり、かかる技術的課題が存在する。
【発明の目的】
【0006】
本発明の主な目的は、細菌、より具体的には大腸菌による組換えGLP-1ペプチドの連続的な生産および分泌方法を提供することである。ここで、組換えGLP-1は、新規の細菌発現ベクターを使用することによって細菌により産生され、潅流型発酵システムを用いて化学的に規定された培地で細菌を培養することにより、GLP-1ペプチドを細胞外に分泌する。
【0007】
本発明の別の目的は、GLP-1ペプチドをコードするDNA配列(配列ID1)を含む新規の細菌発現ベクターを使用することによって、組換えGLP-1の分泌を増強する方法を提供することである。少なくとも1つの分泌シグナル配列(DNA配列)、並びにGLP-1ペプチドの精製を可能にする少なくとも1つのアフィニティータグ配列も提供する。
【0008】
本発明のさらに別の目的は、化学的に規定された培地を用いて容易に精製される組換えGLP-1を製造する方法を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに別の目的は、培養懸濁液から分泌された組換えGLP-1を継続的に分離するためのタンジェント濾過流が交互に流通するようにカスタマイズされた分離系を用いて、細菌における組換えGLP-1の生産および分泌を増強するためのシステムおよび方法を提供することである。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、細菌を使用して組換えGLP-1を生産する方法に関する。より具体的には、本発明は、大腸菌(E.coli)による組換えGLP-1の生産および分泌に関する。
【0011】
主な実施形態において、本発明は、細菌、より具体的には、大腸菌(E.coli)においてGLP-1を生産する方法を提供する。当該方法は、少なくとも1つの分泌シグナル配列と結合したGLP-1をコードするDNA配列(配列ID1)を有する細菌発現ベクター(配列ID6)で大腸菌を形質転換する工程;
スターター培養用増殖培地にて37℃で225rpmで12時間培養して、培養物のOD600が5.0-6.0に達するまで増殖させる、組換え大腸菌のスターター培養物を調製する工程;
10g/Lの濃度のグルコース/デキストロースを含む発酵槽に開始バッチ培地を添加し、pHを6.9に維持することにより、潅流型発酵槽システムを調製する工程;
前記スターター培養物を発酵槽に加え、最初の1時間は3NのNaOHを使用し、その1時間後に4M液体アンモニアを使用してpHを6.9に維持する工程;
前記開始バッチ培地の残留グルコース/デキストロース濃度が約5g/Lに減少したときに、ラクトースまたはラクトース類似体などのlacオペロン誘導剤を前記発酵槽に添加し、組換え大腸菌から組換えGLP-1ペプチドの産生および分泌を誘導する工程;
誘導後、30~40分経過後に、前記潅流型発酵システムを開始して、分泌された組換えGLP-1ペプチドを含む使用済み培地を透過液として、組換え大腸菌を保持液(retantate)として分離し、前記透過液から組換えGLP-1ペプチドを回収し、前記発酵槽に新鮮な灌流培地および前記組換え大腸菌の保持液を再供給して、組換えGLP-1ペプチドの継続的な産生および分泌する工程を含む。
【0012】
さらに別の実施形態では、配列ID6の組換え発現ベクターを、前記潅流型発酵システムにて使用することで、1~1.2g/L/hrの範囲で組換えGLP-1ペプチドを分泌する。
【0013】
別の実施形態では、本発明は、表2に記載の組成を有する化学的に規定された培地であるスターター培養用培地、開始バッチ培地、および灌流培地を提供する。
【0014】
さらに別の実施形態では、本発明は、組換え大腸菌を含む培養培地が交互のタンジェント流で分離系内での循環を可能にする潅流型発酵システムを提供する。この分離系は、培地から、組換えGLP-1ペプチドを含む使用済み培地を含む濾液を分離除去し、連続生産用の培養培地に組換え大腸菌を保持する。
【0015】
さらに別の実施形態では、本発明は、新規な細菌発現ベクターを提供する。当該発現ベクターは、以下のDNA配列を含む。
1)GLP-1ペプチドをコードするID1のDNA配列;
2)a)pelB、ompA、yebF、およびompFからなる群から選択される遺伝子のシグナル配列をコードする少なくとも1つのDNA配列、および、b)キャリアペプチドをコードする少なくとも1つのDNA配列(好ましくは、配列ID4またはID5の切断型yebFをコードするDNA配列ID2またはID3)の組み合わせである少なくとも1つの分泌シグナル配列;
3)少なくとも1つの遺伝子発現カセットであって、少なくとも1つの誘導性プロモーター、RBS、組換えGLP-1ペプチドをコードするDNA配列、アフィニティータグをコードするDNA配列、および少なくとも1つの遺伝子ターミネーターを含み、前記アフィニティータグのDNA配列は、前記分泌シグナル配列とともに、前記組換えGLP-1ペプチドのDNA配列に作動可能に連結されている遺伝子発現カセット;
4)宿主細菌細胞におけるベクターの複製のための少なくとも1つの細菌ori遺伝子配列;
5)選択可能なマーカーをコードするための少なくとも1つのDNA配列であって、当該選択可能なマーカーのDNA配列に隣接する遺伝子ターミネーター配列と適切なプロモーターを伴っているDNA配列。
【0016】
本発明はさらに、組換えGLP-1をコードするDNA配列(配列ID1)を提供する。
【0017】
本発明はまた、大腸菌における組換えGLP-1ペプチドの産生および分泌のための発現ベクターのDNA配列(配列ID6)を提供する。
【0018】
本発明はまた、潅流型発酵システムに関する。この潅流型発酵システムは、供給タンク、フィードポンプ、レベルセンサー、モーター、発酵槽、磁気浮上ポンプ、分離モジュール、収穫ポンプ、および収穫タンクを備えている。前記分離モジュールの中空糸カラムはフィルターモジュールを備えていて、該フィルターモジュールは、培養培地から分泌された組換えタンパク質を分離するのに適した中空糸膜のフィルターモジュールである。前記分離モジュールは、中空糸(例えば、多孔度が0.4μmから0.1μm、例えば0.2μmの気孔率のポリスルホン製中空糸、メチルエステルまたはセルロースエステル製中空糸)フィルターのモジュールを含む。前記分離モジュールは、500kDaの分子量カットオフ細孔サイズの中空糸膜を含むフィルターモジュールをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本発明のシステムおよび方法は、以下の図を参照することによって理解できる。
【0020】
【
図1】大腸菌から組換えGLP-1ペプチドをコードおよび分泌するための細菌発現ベクターの概略図である。
【
図3a】発現ベクター(配列ID6)で形質転換された組換え大腸菌及び組換えGLP-1ペプチド分泌の、バッチ発酵プロセスにおける経時的な増殖動態のグラフである。
【
図3b】発現ベクター(配列ID6)で形質転換された組換え大腸菌細胞のライセートと、培養培地とを比較した、0.25mM IPTGによる誘導後の経過時間に対する組換えGLP-1ペプチドを検出するSDS-PAGEの代表的な画像である。
【
図4】バッチ発酵プロセスにおける発現ベクター(配列ID6)で形質転換された組換え大腸菌の増殖動態および経時的なグルコース消費を表すグラフである。
【
図5】発現ベクター(配列ID6)で形質転換された組換え大腸菌、バッチ発酵プロセスの培地、Hisを用いて精製した精製物、及びエンテロキナーゼで消化された消化物における組換えGLP-1ペプチドのSDS-PAGEの代表的な画像である。
【
図6a】潅流型発酵プロセスにおける、発現ベクター(配列ID6)で形質転換された組換え大腸菌の増殖動態および経時的なグルコースの消費を表すグラフである。
【
図6b】10kDa GLP-1ペプチド分泌のSDS-PAGE分析の代表的な画像である。0.25mM IPTGによる誘導後、0時間、2時間、4時間、および6時間後に培地サンプルを採取して分析した。
【
図6c】潅流型発酵システム(10時間)の1時間ごとの組換えGLP-1ペプチドの生産速度を表すグラフである。
【発明の詳細な説明】
【0021】
使用した略号は以下のとおり。
pelB:pectatelyase BのN末端アミノ酸残基をコードするリーダーDNA配列。
ompA:外膜タンパク質Aのアミノ酸残基をコードするリーダーDNA配列。
ompF:外膜タンパク質Fのアミノ酸残基をコードするリーダーDNA配列。
yebF:タンパク質yebFのアミノ酸残基をコードするリーダーDNA配列。
AmpR:アンピシリン耐性遺伝子をコードするDNA配列。
F1 Ori:複製起点。
IPTG:イソプロピルβ-d-1-チオガラクトピラノシド。
LacまたはLac1:lacリプレッサーをコードするDNA配列。
RBS:リボソーム結合部位。
【0022】
以下、本発明を詳細な説明を参照して説明する。詳細な説明には、本発明のいくつかの実施形態が示されているが、全ての実施形態は示されていない。実際、本発明は、多くの異なる形態で実施することができ、本明細書に記載された実施形態に限定されるように解釈されるべきではなく、むしろ、これらの実施形態は、本開示が適用可能な法的要件を満たすように提供される。同じ番号は、全体を通して同じ要素を指す。本発明は、非限定的な実施形態および例示的な実験を用いて本明細書に完全に記載される。
【0023】
本発明は、大腸菌による組換えGLP-1ペプチドの産生および分泌に関する。より具体的には、本発明は、大腸菌(E.coli)によるGLP-1の産生および分泌、その後の潅流型発酵システムを使用した、組み換えGLP-1ペプチドの分離に関する。
【0024】
主な実施形態において、
図1に記載されるように、本発明は、組換えGLP-1ペプチドを産生および分泌するための、特に大腸菌のための細菌発現ベクター100を提供する。発現ベクターは、GLP-1ペプチド103をコードするDNA配列、並びに下記a)とb)との組み合わせである少なくとも1つの分泌シグナル配列とを含む。
a)pelB、ompA、yebF、およびompFからなる群から選択される遺伝子101のシグナル配列をコードする少なくとも1つのDNA配列、
b)キャリアペプチド102をコードする少なくとも1つのDNA配列で、好ましくは、配列ID4の切断型yebFをコードするDNA配列ID2、または配列ID5の切断型yebFをコードするDNA配列ID3。
前記発現ベクターは、GLP-1ペプチド103をコードするDNA配列が作動可能であるように連結された少なくとも1つの遺伝子発現カセットを、さらに含む。この遺伝子発現カセットは、誘導性プロモーター104、RBS105、アフィニティータグのDNA配列および少なくとも1つの遺伝子ターミネーター106を含む。前記分泌シグナル配列101および102、ならびにアフィニティータグのDNA配列は、組換えGLP-1ペプチド103のDNA配列に作動可能に連結されている。さらに、前記発現ベクターは、宿主細胞中での前記ベクターの複製のための少なくとも1つの細菌ori遺伝子配列110;少なくとも1つの抗生物質抵抗性遺伝子109(遺伝子プロモーター108により制御されている),及び少なくとも1つの追加的選択マーカー112(遺伝子プロモーター113により制御されている)を含む。当該発現ベクターは、追加的に、F1バクテリアファージシステム内に組換えGLP-1ペプチドのパッケージングを可能にするための少なくとも1つのf1 ori配列111を含む。
【0025】
アフィニティータグ配列は、組換えGLP-1ペプチドの精製を可能にするためのものである。
【0026】
さらに、組換えGLP-1ペプチドをコードするDNA配列は、エンテロキナーゼ認識配列(DDDDK)によって分泌シグナル配列から分離され、組換えGLP-1ペプチドの採取後に、分泌シグナル配列から組換えGLP-1ペプチドを分離することを可能にする。
【0027】
GLP-1ペプチドは、配列ID1によってコードされるヒトGLP-1タンパク質の7~37アミノ酸ストレッチ(NCBI参照番号AAP35459)で構成されている。表1は、細菌発現ベクターで使用されるDNA配列およびペプチド配列を示している。
【0028】
表1はDNA配列およびペプチド配列を提供する。
【表1】
【0029】
配列ID2は、配列ID4で表される33アミノ酸キャリアペプチドである切断型yebfペプチドのコードDNA配列である。配列ID3は、配列ID5で表されるペプチドのコードDNA配列である。配列ID3は、配列ID2の40位置のGCGコドンをTGCに変異させることによって合成される。これにより、配列ID4の14位置のCysが配列ID5の14位置ではAlaに変異している。
【0030】
別の実施形態において、本発明は、遺伝子ompfのシグナルペプチドと配列ID5の切断型yebfペプチドをコードする配列ID3のキャリアペプチドDNA配列との組み合わせを含む分泌シグナル配列と結合して、組換えGLP-1ペプチドのコードDNA(配列ID1)を含む発現ベクターのDNA配列を表す配列ID6を提供する。
【0031】
さらに別の実施形態では、表2に記載されるように、本発明は、組換えGLP-1ペプチドをコードするDNA配列を有する細菌発現ベクターで形質転換された細菌を増殖および培養するための化学的に規定された培地を提供する。当該培地は、分泌された組換えタンパク質の培地への溶解度を低下させ、精製された組換えタンパク質の最終量を減少させる傾向がある複雑な不明の材料は含んでいない。培地は、少なくとも1つの炭素源(より具体的には、グルコース/デキストロース)、及び安定化剤としてのグリセロールを含む。グルコース/デキストロースとグリセロールとの比は、1:0.25から1:1の間であり、好ましくは1:0.5である。培地中にグリセロールが存在すると、剪断力が過大になることを防止し、細菌を損傷から保護し、組換えタンパク質の変性を低減することができる。培地は、少なくとも1つの窒素源(アンモニウム塩)をさらに含む。さらに、培地は5~25mMのクエン酸を含む。上記のように化学的に規定された培地におけるクエン酸の作用により、バクテリオファージにより大腸菌が感染することを防止することができる。バクテリオファージが大腸菌に感染すると、培養中の生細胞の数が減少するという、細菌培養における一般的な問題は、組換えタンパク質の産生に悪影響を及ぼし、組み換えタンパク質の産生を減少させることになる。メカニズム上、バクテリオファージはクエン酸に非常に敏感であり、クエン酸の存在下では、細菌に感染できない。組換えタンパク質の生産に一般に使用されるLBブロスはクエン酸を含んでおらず、大腸菌のバクテリオファージ感染を防ぐのに効果的ではない。培地はまた、マグネシウム、カリウム、リン、およびナトリウムの塩を含み、限定しないけれども、鉄、コバルト、マンガン、銅、ホウ素、モリブデン、および亜鉛の群から選択される微量元素の塩も含む。さらに、培地はグリシンを含む。グリシンは、細菌細胞の膜電位の維持に重要な役割を果たし、タンパク質分泌を増強する。さらに培地は、アルギニンを含む。アルギニンは、シャペロン分子として作用し、細胞内での組換えタンパク質の折り畳みを増強する。これにより、封入体または凝集体の形成を減少させ、折り畳まれた組換えタンパク質を細胞外に分泌することを促進する。グリシンは分泌を促進し、アルギニンは分泌前のタンパク質の折り畳みを助ける。グリシンとアルギニンとが共同して、組換えタンパク質の分泌を助ける。さらに、培地は、少なくとも1つのキレート剤、例えば限定しないがエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含でもよい。また、少なくとも1種のビタミン、より具体的にはチアミンを含んでもよい。
【0032】
表2:スターター培養培地、開始バッチ培地、および灌流培地の化学的に規定された組成。
【表2】
【0033】
別の実施形態において、本発明は、分泌された組換えGLP-1ペプチドの連続的産生および分離のための潅流型発酵システムを用いた、大腸菌(E.coli)による組換えGLP-1の産生および分泌のための方法を提供する。 この方法は、以下の工程を含む。
a)組換えGLP-1ペプチドをコードする発現ベクターで大腸菌を形質転換して、組換え大腸菌を生産する工程;
b)スターター培養の増殖培地37℃で225rpmで12時間、培養して、培養物のOD600を5.0-6.0に達するまで増殖させる、組換え大腸菌のスターター培養物を調製する工程;
c)グルコース/デキストロースを10g/Lの濃度で含み、pHを6.9に維持している発酵槽に、開始バッチ培地を添加して、潅流型発酵システムを調製する工程;
d)前記スターター培養物を前記発酵槽に加え、最初の1時間は3NのNaOHでpHを6.9に維持し、その後は、4M液体アンモニアを用いてpHを6.9に維持する工程;
e)前記開始バッチ培地の残留グルコース/デキストロース濃度が約5g/Lに減少したときに、ラクトースまたはラクトース類似体などのlacオペロン誘導剤を前記発酵槽に添加して、大腸菌から組換えGLP-1ペプチドの産生および分泌を誘導する工程;
f)誘導から30~40分後に前記潅流型発酵システムを開始し、分泌された組換えGLP-1ペプチドを含む使用済み培地を透過液として、組換え大腸菌を保持液(retantate)として分離し、前記透過液から組換えGLP-1ペプチドを収穫し、前記発酵槽に新鮮な灌流培地と前記組換え大腸菌保持液(retantate)を再供給して、組換えGLP-1ペプチドを連続的に産生及び分泌する工程。
【0034】
灌流システムは、灌流懸濁培養で組換え大腸菌を増殖させることを含み、細菌を含む培養培地は、交互のタンジェント流で分離系内を循環し、当該分離系は、組換えGLP-1ペプチドを含む使用済み培地を含む濾液を分離除去し、培養培地に細菌を保持することで、組換えGLP-1ペプチドを連続生産できる。
【0035】
図2は、潅流型発酵および分離系の概略図を説明している。このシステムは、供給タンク(201)、フィードポンプ(202)、レベルセンサー(203)、モーター(204)、発酵槽(205)、磁気浮上ポンプ(206)、分離モジュール(207)、収穫用ポンプ(208)、および収穫用タンク(209)を備えている。ここで、分離モジュール(207)の中空糸カラムは、培養培地から分泌された組換えGLP-1ペプチドの分離に適した中空糸膜のフィルターモジュールを含む。
【0036】
供給タンク(201)は培地を貯蔵していて、当該培地は、供給ポンプ(202)により発酵槽(205)に送られる。発酵槽(205)には大腸菌スターター培養物と培地とからなる培養懸濁液が保持されていて、モーター(204)で攪拌されている。発酵槽(205)内の培養懸濁液は、磁気浮上ポンプ(206)により連続的または断続的に排出される。培地濃度は、レベルセンサー(203)により維持される。排出された液体は、中空糸膜を含むフィルターモジュールをさらに通過する。発酵槽(205)内の培養懸濁液は、交互のタンジェント方向濾過流で分離系内を循環する。分離モジュール(207)は、組換え大腸菌を保持液(retantate)として、組換えGLP-1ペプチドを含む使用済み培地を透過液として分離される。中空糸膜を含むフィルターモジュールにより濾過された懸濁液は、使用済み培養培地から組換えGLP-1を適切に分離する。分離後の大腸菌保持液(retantate)は、発酵槽に再供給される。使用済み培地は、収穫用ポンプ(208)により収穫用タンク(209)に送られる。
【0037】
好ましい発明の一実施形態では、分離系は、中空糸(例えば、多孔度が0.4μmから0.1μmのポリスルホン製中空糸、メチルエステルまたはセルロースエステル製中空糸)フィルターのモジュールを含む。例えば、分泌された組換えGLP-1ペプチドを、使用済み培地から分離するための0.2μmの多孔度の中空糸が挙げられる。
【0038】
さらに別の実施形態では、分離系は、500kDaの分子量カットオフ細孔サイズを有する膜を含むフィルターモジュールを含む。
【0039】
〔実施例1〕
大腸菌の培養と形質転換
以下のすべての実施例において、DNA配列(配列ID6)の発現ベクターを使用した。この発現ベクターは、組換えGLP-1ペプチドのコードDNA配列(配列ID1)を含む。前記配列ID1は、切断型yebfペプチド(配列ID5)をコードするキャリアペプチド(配列ID3)のDNA配列とシグナルペプチドの遺伝子ompfとの組み合わせを有する分泌シグナル配列と結合している。
【0040】
E.coli BL21(DE3)株を発現系として選択した。この発現系は、100ngの組換え用ベクター(配列ID6)を用いて化学的形質転換法(すなわちCaCl2)により形質転換される。-80℃の冷凍庫から取り出して解凍した後、化学コンピテントセル(すなわちB21(DE3))を4℃でインキュベートした。解凍後、4℃に維持されている細胞にベクターを加え、4℃を維持しながら15分間インキュベートした。その後、細胞を42℃に約1分間さらすことにより、細胞にインキュベーションヒートショックを与えた。ヒートショックを与えた後、形質転換した大腸菌(E.coli)細胞を4℃で約15分間維持した。そこで、Luriaブロス(LB)培地を、40分間かけて添加することにより細胞を増殖させた。その後増殖した細胞を、適切な抗生物質選択基準を用いたLB寒天培地に広げた。
【0041】
〔実施例2〕
バッチ発酵および潅流型発酵
a)スターター培養物の調製
表3に記載の組成のオートクレーブ処理したスターター培養培地を使用して流加発酵を実施するために、適切な量のプレ培養物を調製した。通常、300mlの増殖培地を2リットルのフラスコに取り、形質転換プレートから無菌的に単一コロニー形成単位を接種し、37℃に維持された回転式インキュベーター内で、225rpmで12時間インキュベートする。チアミンなどのフィルター滅菌済み培地成分、微量元素はスターター培養のセットアップ中に再構成され、12時間のインキュベーション終了時には、OD600は約5.0に達した。
【0042】
b)バッチ発酵プロセス
表3に記載されている開始バッチ培地の組成を有する増殖培地を備えたバイオリアクターは、45分の保持時間で、121℃でオートクレーブ処理され、その後、組み立てられたバイオリアクター全体が、SCADAソフトウェアを備えたコントロールタワーによる制御により、37℃に下げられる。バイオリアクターのパッキングでは、必要なすべてのもの、すなわち吸気口および排気ユニット用の投与チューブ0.2ミクロン疎水性フィルター、溶存酸素プローブ、pHプローブ、バッフル、L/D比が1:1のインペラーブレードが取り付けられる。
【0043】
発酵プロセスは、pH6.90、温度37℃などの必要な物理的条件を維持することによって開始された。 曝気などの増殖プロファイル変数パラメータに基づいて、攪拌はコントロールユニットによって自動的に制御された。 無菌的にスターター培養物をバイオリアクターに移す。チアミン、微量元素などのフィルター滅菌された培地成分が注入ポートからバイオリアクターに無菌的に供給されて培地成分が再構成された。発酵の開始時に、デキストロースを添加して、最終濃度が10g/Lになるようにした。MgSO4原液は、培地の沈殿を防ぐために補足的な形式で供給される。pHは、発酵プロセスが終了するまで、最初の1時間は3NのNaOHにより、次いで4Nアンモニアにより維持された。細胞は最大増殖速度約0.6/時間で増殖した。
【0044】
1時間ごとに、バイオリアクターからサンプルを無菌的に採取し、細胞密度を、ブランク培地に対して600nmに設定された分光光度計を用いて測定した。同サンプルの残留グルコースは、デジタル血糖計を用いて測定された。3時間の発酵後、指数関数的に栄養摂取が行われる。OD600が約40に達した後、残留グルコースが約5g/Lであることを確認して、IPTG約0.25mMで培養物を誘導した。
【0045】
誘導後は、4Nアンモニアのみにより、pH6.90に維持された。発酵プロセス全体を通じて、酸は使用されない。グリシン、アルギニン、グルタミン酸を含む培養液に補助的成分を加え、それぞれ最終濃度が2mMになるようにした。1時間ごとにサンプルを採取して遠心分離し、細胞と培地とを分離し、その後、PAGEを使用して分析し、細胞内の組換えタンパク質発現の存在と培地中の分泌量を検出した。6時間の誘導培養が終了した後、遠心分離して、細胞と培地とを分離した。
【0046】
c)潅流型発酵プロトコル
適切なプラスミドを有するBL21(DE3)の形質転換細胞を調製する。当該調製は、ヒートショックを与え、選択用抗生物質を含有したLB寒天プレートに広げ、37℃のインキュベーターで12時間インキュベートすることにより行われる。培地成分を取り、脱イオン水に溶解し、5NのNaOHを使用してpH6.90に調整することにより、増殖培地を調製した。スターター培養物の培地は、オートクレーブで45分間保持しながら121℃で滅菌する。熱に弱い他のすべての培地成分は、フィルター滅菌された。すなわち、チアミン、カナマイシン、微量元素、デキストロース、MgS04・7H2Oは別々にオートクレーブ処理された。スターター培養物は、LB寒天プレートから振とうフラスコにコロニーを接種することによって調製される。フィルター滅菌培地成分、すなわちチアミン、カナマイシン50mg/リットル、微量元素1000xを、1%デキストロース、MgSO4・7H2O(5mM)、酵母エキス(0.2%)とともに添加した。フラスコを振盪型インキュベーター内で37℃、225rpmで一晩インキュベートした。
【0047】
バイオリアクター容器には、予め較正されたpHプローブ、およびオキシライト(Oxylyte)を補充した後の溶存酸素(DO)プローブにフィットさせた新しいメンブレンに沿って取り付けられた消泡センサー、スパージャーパイプおよび排気パイプ(各々、0.2μの疎水性ベントフィルター、バッフルを具備)が取り付けられている。表3に記載されている開始バッチ培地は、再構成可能な培地成分に対応する容量を除いて、発酵槽に注がれる。発酵槽は121℃、保持時間45分、15psiでオートクレーブ処理され、その後室温まで冷却され、コントロールユニットに取り付けられる。発酵槽は、DOプローブの分極のために、0.1標準リットル/分(SLPM)の空気で一晩パージされ、DOは、スターター培養物を追加する直前に較正された。培地の再構成は、スターター培養物を追加する前に行われた。投与ボトルが取り付けられ、チューブに注入された。すべてのパラメータはコントロールユニットで設定された。つまり、pHは0.1%デッドバンドで6.90に設定され、DOはカスケードモードで30%に設定され、酸/塩基は自動モードで、消泡センサーは0.1%Sigma Antifoam 204で、37℃の温度に設定された。DOは、攪拌、1分あたりのガス流量、純酸素パージの%に基づき、カスケードモードで制御された。初期RPMは200に設定された。プレ培養物は、発酵させていないバイオリアクターに移された。最初の1時間のpHは、3NのNaOHを投与ボトルに取り付けることによって維持された。その後のバッチのpHは、4M液体アンモニアによって維持された。MgSO4・7H2Oは、発酵の0時間目から3回の投与で発酵せずに再構成される。毎時サンプリングを行い、UV/Vis分光光度計で細胞密度をチェックし、血糖値計で残留グルコースをチェックした。0.2mM IPTGで培養を誘導する理想的な時点は、5時間後すなわち残留グルコースが約5g/Lのバッチである。滅菌した500kDa中空糸が灌流装置に接続され、滅菌した開始バッチ培地で平衡化され、その後、チューブをバイオリアクターに接続した。誘導後30分経過後に、灌流が開始された。ここで中空糸を透過する培養物はポンプによって自動的にバイオリアクターから引き出され、組換え大腸菌細胞を含む中空糸の保持液は、バイオリアクターに送り返される。収穫物は、ポンプ速度を約16.6ml/分に設定することによって中空糸の透過端から収集され、同時に同じ流量の灌流媒体が発酵槽に追加される。灌流培地が完了するまでの間、ずっと発酵は実行される。灌流培地の供給が完了した後、透過液の1/3を吸引することにより培養物をバッチ量の2/3に濃縮し、バッチを終了した。誘導後1時間ごとにサンプルを採取して、組換えGLP-1ペプチドの発現と分泌をチェックした。中空糸は0.5NのNaOHで消毒され、0.1NのNaOH中に保存される。
【0048】
【0049】
〔実施例3〕
組換え細菌の増殖効率および組換えGLP-1ペプチドの分泌効率
培養培地における増殖動態、グルコース消費、および組換えタンパク質の産生と分泌を、バッチ発酵プロセス法にて別々の時間で測定した。
【0050】
図3aは、分泌シグナル配列とアフィニティータグに連結した10kDaの組換えGLP-1ペプチドの産生及び組換え大腸菌の増殖を、時間毎に表した線グラフである。当該グラフは、細菌が安定的に増殖していること、及び培地中への組換えタンパク質の分泌が増加していることを示している。しかしながら、バッチ法では、4時間のバッチ発酵プロセスでの生成量は、2.5g/L未満であった。
【0051】
さらに、IPTGを用いて誘導した後、所定時間経過毎に、発酵中の培養上清5μリットル及び組換え大腸菌細胞溶解物(ライセート)を採取し、還元SDS-PAGEによって分析して比較した。
図3bに示すように、誘導から1時間以内に、組換えGLP-1ペプチドが細菌によって産生および分泌され始めた。産生分泌量は時間とともに明らかに増加していた。さらに、細胞溶解物中には組換えGLP-1ペプチドはほとんど存在せず、組換え細菌で効率的に分泌されたことを示している。このことは、化学的に規定されたバッチ培地組成物によって可能になる組換えGLP-1ペプチドの分泌に関してベクター(配列ID6)が有効であることを示唆した。
【0052】
発酵プロセス中のグルコース消費量も分析した。
図4に示すように、潅流型発酵プロセスへのスターター培養物の接種1時間後すぐに、グルコース消費が、最適速度で始まった。増殖段階を開始する前に、最大増殖速度を達成するために必要なグルコース添加量の標準化を確立した。これにより、まもなく適切な細胞密度が達成された。従来の細胞増殖技術と比較して、グルコース1グラム当たりの収量を最適に保つことが、この方法を経済的かつ信頼できるものにする。開始バッチ培地は10g/Lのグルコース/デキストロース濃度であり、残留グルコース/デキストロース濃度が約5g/Lに達したときに誘導が行われる。したがって、化学的に規定されたバッチ培地とともに配列ID6のベクターを使用することは、組換えGLP-1ペプチドの増殖および分泌に最適である。
【0053】
〔実施例4〕
組換えGLP-1ペプチドのエンテロキナーゼ消化
組換えGLP-1ペプチドをコードするDNA配列は、エンテロキナーゼ認識配列(DDDDK)によって分泌シグナル配列から分離され、組換えGLP-1ペプチドを収穫した後、分泌シグナル配列から組換えGLP-1ペプチドを分離することを可能にする。GLP-1ペプチドは、精製プロセス用のHisタグと連結している。
【0054】
図5に示すように、組換えGLP-1ペプチドは培地に分泌され、Hisアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製した後、1回エンテロキナーゼで消化すると、分泌シグナル配列の分離を示唆する小さなバンドが生成された。
【0055】
〔実施例5〕
潅流型発酵による組換えGLP-1ペプチド生産
潅流型発酵プロセスは、実施例2cで説明したように、配列ID6で形質転換された組換え大腸菌を用いて実施された。発酵槽は常時、発酵用の培地1リットルを保持し、培地は、組換え細菌と分泌された組換えGLP-1ペプチドを含む使用済み培地とを回収するためにろ過された。分泌された組換えタンパク質は、使用済み培地を分離することにより、1L/時間の速度で連続的に収穫された。この使用済み培地を分離した後、発酵槽に等量の新鮮な灌流培地を再供給し、大腸菌を保持液(retantate)とする連続発酵を行った。定量化と分析のために、1時間ごとに少量のサンプルを収集した。1つの連続バッチの灌流発酵では、合計10Lの培地が10時間発酵される。
【0056】
図6aは、潅流型発酵システムで発酵させた細菌細胞の増殖曲線を示している。5時間後、または残留グルコースが約5g/Lのバッチについて、IPTGを用いて誘導を開始した。誘導から1時間後、細胞増殖を最小限の速度に保ち、規定している栄養素を補うために灌流を開始した。
図6aに示すように、E.coliのOD
600は8~10の間に維持された。また、ほとんどの時間は、細菌数の増加ではなく、組換えタンパク質の生産に費やされた。
【0057】
培地サンプルを収集し、灌流法で0.25mM IPTGを用いて誘導した後、0時間、2時間、4時間および6時間経過後に分析し、SDS-PAGE分析のために組換えタンパク質を含む合計9リットルの培地を収集した。
図6bに示すように、IPTGによる誘導後の2時間で10kDaの組換えGLP-1ペプチド分泌が見られ、組換えGLP-1ペプチドの分泌量は、6時間後でもほぼ同じである。これは、潅流型発酵法では、組換えGLP-1ペプチドの連続生産が長時間にわたって一貫して見られることを明確に示している。
【0058】
図6cに示すように、1時間以内に組換えGLP-1ペプチドの生産は1g/Lに達し、10時間後でも生産速度は約1g/Lであった。このことは、化学的に規定された培地で配列ID6を用いて潅流型発酵法を行うことにより、1g/L/hrの速度で組換えGLP-1ペプチドを安定して生産できることを示唆している。
【0059】
特定の例示的な実施形態が添付の図面に記載および示されているが、そのような実施形態は単なる例示であり、広範な発明を限定するものではない。以上に記載された態様に、他の様々な変更、組み合わせ、省略、修正および置換が可能であるから、本発明は、示される特定の構造および配置に限定されないことを理解されたい。当業者は、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、今説明した実施形態の様々な適合および修正を構成できることを理解するであろう。
【配列表】