(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】付着物除去方法及び付着物除去装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/36 20140101AFI20240514BHJP
B23K 26/082 20140101ALI20240514BHJP
B23K 26/16 20060101ALI20240514BHJP
B08B 7/00 20060101ALI20240514BHJP
B08B 5/00 20060101ALI20240514BHJP
B05D 3/10 20060101ALI20240514BHJP
G21F 9/28 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
B23K26/36
B23K26/082
B23K26/16
B08B7/00
B08B5/00 A
B05D3/10 N
G21F9/28 511Z
G21F9/28 511A
(21)【出願番号】P 2022116135
(22)【出願日】2022-07-21
(62)【分割の表示】P 2020190813の分割
【原出願日】2013-03-08
【審査請求日】2022-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2012053675
(32)【優先日】2012-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506430026
【氏名又は名称】株式会社トヨコー
(74)【代理人】
【識別番号】100113930
【氏名又は名称】鮫島 正洋
(72)【発明者】
【氏名】豊澤 弘康
(72)【発明者】
【氏名】豊澤 一晃
(72)【発明者】
【氏名】藤田 和久
(72)【発明者】
【氏名】沖原 伸一郎
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06747243(US,B1)
【文献】特開平08-241111(JP,A)
【文献】特開平07-108440(JP,A)
【文献】国際公開第2011/096562(WO,A1)
【文献】特開平07-047482(JP,A)
【文献】特開平03-291181(JP,A)
【文献】特開2006-324557(JP,A)
【文献】特開平01-162584(JP,A)
【文献】特開2003-112275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/36
B23K 26/082
B23K 26/16
B08B 7/00
B08B 5/00
B05D 3/10
G21F 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の表面の状態を検知する表面状態検知センサを備えたレーザーヘッドと、ネットワークに接続可能な通信機能と、を含み、該表面状態検知センサが少なくとも構造物の表面に付着した付着物の状態を検知するものであって、
移動させつつレーザー照射することができ、構造物の表面にレーザー照射することにより構造物の表面に付着した付着物を除去するレーザー照射装置と、
前記ネットワークに接続可能なサーバと、を備え、
前記サーバは、前記レーザー照射装置から、前記表面状態検知センサによって検知した前記構造物の表面に付着した付着物の状態に関する情報を前記通信機能によって前記ネットワークを通じて取得し、前記構造物の表面に付着した付着物の状態に関する情報に基づいてレーザー照射条件を選択し、
前記レーザー照射装置は、前記選択されたレーザー照射条件を取得し、前記選択されたレーザー照射条件に基づいて構造物の表面にレーザー照射可能であることを特徴とするレーザー照射システム。
【請求項2】
前記レーザー照射装置は移動可能に構成されたビークルに搭載されることを特徴とする請求項1に記載のレーザー照射システム。
【請求項3】
前記レーザー照射装置は、前記サーバからの照射許可信号を取得するまではレーザー光の照射を制限する制御部を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザー照射システム。
【請求項4】
前記レーザーヘッドに設けられたセンサ群によって、レーザー光が所望の位置から外れていると判定された場合、前記サーバは前記レーザーヘッドのレーザー光の照射を停止することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のレーザー照射システム。
【請求項5】
前記サーバは、前記レーザー照射装置から、前記表面状態検知センサによって検知したレーザー照射後の構造物の表面の状態に関する情報を前記通信機能によって前記ネットワークを通じて取得し、前記選択したレーザー照射条件と関連付けてデータベース化することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のレーザー照射システム。
【請求項6】
前記サーバは、前記レーザー照射装置の使用状況を含むレーザー照射装置の保守管理に関する情報を取得し、レーザー照射装置を保守管理することを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のレーザー照射システム。
【請求項7】
構造物の表面の状態を検知する表面状態検知センサを備えたレーザーヘッドと、ネットワークに接続可能な通信機能と、を含み、該表面状態検知センサが少なくとも構造物の表面に付着した付着物の状態を検知するものであって、
移動させつつレーザー照射することができ、構造物の表面にレーザー照射することにより構造物の表面に付着した付着物を除去するレーザー照射装置から、前記ネットワークを通じて取得した前記表面状態検知センサによって取得した前記構造物の表面に付着した付着物の状態に関する情報に基づいてレーザー照射条件を選択し、
前記選択したレーザー照射条件を、前記選択したレーザー照射条件に基づいてレーザー照射装置が構造物の表面にレーザー照射可能であるように前記レーザー照射装置に送信することを特徴とするサーバ。
【請求項8】
前記レーザー照射装置に対してレーザー光の照射を許可する照射許可信号を送信することを特徴とする請求項7に記載のサーバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー照射により構造物の表面の塗膜を除去し、その除去物を吸引回収する技術に関し、特に、構造物として、橋梁、建築物、船舶、配管等の固定されたもの又は大型のものに対して、可搬性のあるレーザーヘッドを用いてレーザー光を照射して塗膜又は付着物を除去するレーザー照射装置、レーザー照射システム及びかかる装置、システムを使用する塗膜又は付着物除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁、高速道路、鉄道の高架線路、建築物、タンク、機械設備などの動かすことが困難な構造物を長期に渡って安全に使用するためには、腐食を防ぐために母材(鋼材)の表面に施された塗装の塗膜を定期的に剥離、除去し、塗り替える必要がある。従来、塗膜を除去する方法としては、砂を吹き付けて塗膜を除去するサンドブラスト等のブラスト処理による方法、塗膜剥離剤を使用する方法、機械工具を使用する方法があった。ブラスト処理による方法では、二次廃棄物が大量に発生する。この二次廃棄物は、鉛、六価クロム、PCBなどの有害物質を含む塗膜の粉塵と、珪砂、ガーネットなどの研削材とが混ざったものであり、環境へ与える負荷が大きく、処理費用も大きい。また、研削材を圧縮空気で吹き付けるので、塗膜層の下の母材までも傷めるおそれがある。また、研削材が衝突する際に大きな騒音が生じるなどの問題もある。塗膜剥離剤及び機械工具を使用する方法では、何れも時間当たりの処理面積が低く効率的でないという問題があり、また、各々には、薬剤の廃棄物が発生する、騒音が大きいという問題もある。
【0003】
特許文献1には、従来、航空機等の機体外板の塗装除去として、塗装表面に毒性の強い薬品を吹き付け、手作業で塗装膜をかき落としていたのに対し、作業効率を上げ、危険性を回避するために、レーザー処理装置により塗膜を除去する方法が開示されている。特許文献1に記載されたレーザー処理装置は、レーザー光を処理対象物の表面に照射するレンズ、レンズを支持し処理対象物表面からレンズまでの高さを調整可能なレンズ支持機構、レーザー照射部分にガスを吹き付けるガス噴出手段を備える。また、箱型容器内に配置されたガス吸引口が、箱型容器内のガスを排気するとともに、レーザー照射部分から飛散した除去物を排出することが記載されている。また、レンズに入射するレーザー光の光路内に配置され、レーザー光の進行方向を変化させることにより、処理対象物の表面内の第1の方向にレーザー光の照射位置を移動させる第1の偏向器と、レンズに入射するレーザー光の光路内に配置され、レーザー光の進行方向を変化させることにより、処理対象物の表面内の第1の方向と交わる第2の方向にレーザー光の照射位置を移動させる第2の偏向器とを用いて、レーザー光の照射位置を第1の方向に掃引する掃引工程を、該第1の方向と交差する第2の方向にずらしながら複数回実施することが記載されている。かかるレーザー処理装置において、レーザー照射ヘッドは、マニピュレータアームの先端に取り付けられ、マニピュレータアームは、マニピュレータ本体により制御され、レーザー照射ヘッドを処理対象物の表面の所望の位置に移動させ支持することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された技術によれば、レーザーアブレーションにより、化学薬品を使用することなく、処理対象物の表面の塗装膜を除去することができ、また、ガスの吸引手段を用いて処理対象物の表面から飛散した除去物を回収、排出することができる。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のレーザー照射ヘッドは、マニュピュレータアームによって支持され、所望の位置に移動されるものであるので、十分な作業空間が確保できない環境や、複雑な形状の構造物に対して使用することが難しい。また、作業者が携行しながら取り回すことも難しい。そもそも、特許文献1に記載のレーザー処理装置は、工場内に格納された航空機等の塗膜除去に適用するためのレーザー処理装置であり、かかるレーザー処理装置自体を移動させることについては考慮されていない。すなわち、特許文献1に記載の塗膜除去方法は、動かすことが困難な構造物(例えば、橋梁、高速道路、鉄道の高架線路、建築物など)の塗膜除去に適用することができない。
【0007】
また、特許文献1では、走査光学系に、ガルバノミラーやポリゴンミラー等の第1の偏向器を使用し、レーザー光の照射位置を直線状に走査する(以下、直線走査という。)。かかる直線走査を繰り返していく方法では、効率的に広い範囲を短時間で処理することが難しく、橋梁などの構造物の広範囲の表面を低コストで処理することができない。さらに、レーザー光を直線走査する際、その光路長が変わり、レーザー光の焦点と実際の照射点との相対距離が変化するため、均一に塗膜除去することができなかった。なお、レーザー光の直線走査による光路長の変化に合わせてレーザー光の焦点を制御するためには複雑な機構を必要とする。また、塗膜表面に照射したレーザー光が反射した戻り光がレーザー機構内部に入射すると、ファイバなどを損傷する可能性がある。通常、戻り光による損傷を防止するためには複雑な機構を必要とするが、携帯式の小型のレーザーヘッドにおいて、このような機構を設けることは難しい。さらに、特許文献1では、処理対象物の表面から飛散した除去物を吸引手段によって回収しているが、レーザー照射点から生じた除去物の一部が走査光学系に付着する虞があり、この場合、レーザー光のエネルギーが減衰するだけではなく、付着箇所がレーザー光によって高温となり光学系が破損することがある。
【0008】
本発明は、前述した問題の少なくとも一部を解決することができる小型軽量のレーザーヘッドを含むレーザー照射装置及びレーザー照射システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した課題を解決するため、本発明のレーザー照射装置は、レーザー発振器と、前記レーザー発振器から出力されるレーザー光を伝送するファイバと、前記ファイバを介して伝送されるレーザー光を集束させて構造物の表面に照射するための可搬性のあるレーザーヘッドとを含むレーザー照射装置であって、前記レーザーヘッドは、前記レーザー光を照射する光学系と、前記レーザー光の照射点から生じる除去物から前記光学系を防護する遮蔽部材と、を備え、前記光学系は、前記レーザー光の光軸に対して略垂直な表面において、前記光軸を中心とする半径rの円の軌跡を描くように、前記レーザー光の照射点を走査することを特徴とする。
【0010】
レーザー照射装置において、前記光学系は、前記レーザー光を前記光軸から外側に向かう方向に偏向させる第1ウェッジプリズムと、前記第1ウェッジプリズムによって偏向されたレーザー光を前記光軸の方向に偏向させる第2ウェッジプリズムと、前記第1ウェッジプリズム及び前記第2ウェッジプリズムを光軸回りにともに回転させる駆動手段とを有し、前記遮蔽部材は、前記レーザーヘッドの先端に取り付けられ、前記レーザー光を通過させる射出口を前記光軸上に有することが好ましい。また、吸引源と、前記レーザー光の照射点から生じる除去物を吸引する吸引手段と、を備えてもよい。前記レーザーヘッドが前記構造物の表面に当接可能に構成されたアタッチメントを備えてよい。
【0011】
本発明のレーザー照射装置は、レーザー発振器と、前記レーザー発振器から出力されるレーザー光を伝送するファイバと、吸引源と、前記ファイバを介して伝送されるレーザー光を集束させて構造物の表面に照射するための可搬性のあるレーザーヘッドとを含むレーザー照射装置であって、前記レーザーヘッドは、前記レーザー光を照射する光学系と、前記レーザー光の照射点から生じる除去物を吸引する吸引手段と、前記構造物の表面に当接可能に構成されたアタッチメントと、を備え、前記光学系は、前記レーザー光の光軸に対して略垂直な表面において、前記光軸を中心とする半径r1の第1の円の軌跡を描くように前記レーザー光の照射点を走査させるように構成されていることを特徴とする。
【0012】
上記レーザー照射装置において、前記アタッチメントは、前記構造物の表面に当接時には前記構造物の表面が前記レーザー光の焦点距離と同じ、又はそれよりも近く配置されるように構成されることが好ましい。また、前記光学系は可変焦点機構を有し、前記レーザーヘッドは光学系の主点から構造物の表面までの表面間距離を測定する距離センサを有し、前記距離センサによって測定した表面間距離と同じ、又はそれよりも長くなるように、前記光学系の可変焦点機構によって前記レーザー光の焦点距離を変更する制御部を備えることが好ましい。さらに、前記構造物の表面が前記レーザー光の焦点よりも前記レーザーヘッド側に-5~-25mmの範囲内に配置されることが好ましい。
【0013】
上記レーザー照射装置において、前記レーザーヘッドは前記アタッチメントが前記表面に当接又は近接していることを検知するセンサを有し、前記アタッチメントが前記表面に当接又は近接していることが前記センサによって検知されない場合はレーザー光の照射を制限する制御部を備えることが好ましい。また、前記レーザーヘッドは振動を検知する振動センサと、振動手段と、を有し、前記振動センサによって検知した振動が所定のしきい値より小さい場合、前記振動手段によって前記レーザーヘッドを振動させる制御部を備えることが好ましい。
【0014】
上記レーザー照射装置において、前記光学系は、前記レーザー光を前記光軸に対して偏向させる第1ウェッジプリズムと、前記第1ウェッジプリズム及び前記第1ウェッジプリズムから構造物の表面までの間に配置された遮蔽部材を光軸回りに回転させる駆動手段と、を有することが好ましい。また、前記光学系は、前記第1ウェッジプリズムによって偏向されたレーザー光をその光路に対してさらに偏向させる偏向手段を有し、光軸に対して略垂直な表面において、前記第1の円の円周上の動点を中心とする半径r2の第2の円の軌跡を描くように前記レーザー光の照射点を走査することが好ましい。前記第1ウェッジプリズムの偏向角に比べて、前記偏向手段の偏光角の方が小さいことが好ましい。
【0015】
前記偏向手段は第2ウェッジプリズムであり、前記第1ウェッジプリズムは第1の回転速度で回転し、前記第2ウェッジプリズムは前記第1の回転速度より速い第2の回転速度で回転することが好ましい。また、前記アタッチメントは、照射されたレーザー光を前記構造物の表面に形成された突起物の側面に反射させるミラーを有することが好ましい。
【0016】
さらに、前記光学系の主点から前記構造物の表面までの表面間距離を測定する距離センサと、前記距離センサによって測定した表面間距離と同じ、又はそれよりも長くなるように、前記光学系の可変焦点機構によって前記レーザー光の焦点距離を変更する制御部とを備えることが好ましい。前記アタッチメントは、前記光学系の主点から前記構造物の表面までの表面間距離を変更可能な伸縮機構を有することが好ましい。前記レーザーヘッドはアタッチメントが前記表面に当接又は近接していることを検知するセンサを有し、前記アタッチメントが前記表面に当接又は近接していることが前記センサによって検知されない場合はレーザー光の照射を制限する制御部を備えることが好ましい。
【0017】
上記レーザー照射装置において、前記レーザーヘッドは、配管の内部を走行する移動手段を有し、前記光学系が、前記配管の内径の1/2に対応する半径rの円の軌跡を描くように前記レーザー光の照射点を走査させるように構成されてもよい。前記光学系は、前記レーザー光を所定の角度で反射させる反射ミラーと、前記反射ミラーを光軸回りに回転させる駆動手段と、を有し、前記レーザー光の照射点を前記レーザーヘッドの先端よりも後方において走査してもよい。前記光学系は、前記レーザー光を集束又は偏向する光学部材を含む交換式光学ユニットと、前記交換式光学ユニットを回転させる駆動手段を含む本体部分とを有し、前記交換式光学ユニットが前記本体部分に脱着可能に構成されることが好ましい。前記レーザーヘッドは、赤色レーザー光を照射する少なくとも2個の照射手段を有し、前記各照射手段は、前記赤色レーザー光が前記光学系の光軸に対して斜めに照射され、前記少なくとも2個の照射手段から照射された前記赤色レーザー光が所定の位置で交差するように配置されていることが好ましい。
【0018】
上記いずれかのレーザー照射装置において、前記レーザーヘッドは、レーザー光の照射点近傍に、ガス供給源から供給されるガスを吹付けるガス吹付手段を有することが好ましい。前記ガス吹付手段は、前記筺体内部をガス流で満たすことが好ましい。前記レーザーヘッドは、前記レーザー光の照射点付近にエネルギーを与える補助照射手段を有することが好ましい。また、前記レーザーヘッドは、前記光学系の少なくとも一部を冷却する冷却手段を有することが好ましい。前記光学系において、前記ファイバの先端に接続されるファイバ接続部は、レーザー光を集束させるレンズを有することが好ましい。前記レーザー光の焦点での単位時間当たりのエネルギー密度が1.25×10-4~5×10-4J/μm2の範囲であり、照射点のスポット径が直径20~200μmの範囲であることが好ましい。前記レーザーヘッドに設けられたセンサ群によって、前記レーザー光が所望の位置から外れていると判定された場合、前記レーザーヘッドのレーザー光の照射を停止する制御部を備えることが好ましい。前記レーザーヘッドは前記表面の状態を検知する表面状態検知センサ又は前記表面の状態を観察するためのカメラを有し、前記表面状態検知センサ又は前記カメラの少なくとも一方によって取得された前記表面の状態に関する情報を表示する表示装置を備えることが好ましい。前記表面の状態に関する情報に基づいて、レーザー照射条件を設定する制御部を備えることが好ましい。
【0019】
また、ネットワークに接続可能な通信機能と、前記通信機能によってネットワークを介してサーバに情報を送信し、前記サーバにおいて選択されたレーザー照射条件を取得し、レーザーの照射条件を設定する制御部と、を備えたことが好ましい。前記レーザー発振器は、連続発振型であることが好ましい。前記レーザー発振器は、出力が200~500W、波長が1060~1100nmの範囲のレーザー光を生成することが好ましい。
【0020】
上記いずれかのレーザー照射装置は、移動可能に構成されたビークルに搭載されることが好ましい。
【0021】
本発明のレーザー照射システムは、構造物の表面の状態を検知する表面状態検知センサを備えたレーザーヘッドと、ネットワークに接続可能な通信機能と、を含むレーザー照射装置と、前記ネットワークに接続可能なサーバと、を備え、前記サーバは、前記レーザー照射装置から、前記表面状態検知センサによって検知した前記表面の状態に関する情報を前記通信機能によって前記ネットワークを通じて取得し、前記構造物の表面の状態に関する情報に基づいてレーザー照射条件を選択し、前記レーザー照射装置は、前記選択されたレーザー照射条件を取得し、前記選択されたレーザー照射条件に基づいてレーザー照射可能であることを特徴とする。
【0022】
上記レーザー照射システムにおいて、前記レーザー照射装置は移動可能に構成されたビークルに搭載されることが好ましい。前記レーザー照射装置は、前記サーバからの照射許可信号を取得するまではレーザー光の照射を制限する制御部を有することが好ましい。前記レーザーヘッドに設けられたセンサ群によって、前記レーザー光が所望の位置から外れていると判定された場合、前記サーバは前記レーザーヘッドのレーザー光の照射を停止することが好ましい。前記サーバは、前記レーザー照射装置から、前記表面状態検知センサによって検知したレーザー照射後の構造物の表面の状態に関する情報を前記通信機能によって前記ネットワークを通じて取得し、前記選択したレーザー照射条件と関連付けてデータベース化することが好ましい。また、前記サーバは、前記レーザー照射装置の使用状況を含むレーザー照射装置の保守管理に関する情報を取得し、レーザー照射装置を保守管理することが好ましい。
【0023】
本発明の一態様は、上記いずれかのレーザー照射装置を搭載したことを特徴とするビークルを含む。
【0024】
本発明のサーバは、構造物の表面の状態を検知する表面状態検知センサを備えたレーザーヘッドと、ネットワークに接続可能な通信機能と、を含むレーザー照射装置から、前記ネットワークを通じて取得した前記表面状態検知センサによって取得した前記表面の状態に関する情報基づいてレーザー照射条件を選択し、前記選択したレーザー照射条件を前記レーザー照射装置に送信することを特徴とする。
【0025】
上記サーバにおいて、前記レーザー照射装置に対してレーザー光の照射を許可する照射許可信号を送信することが好ましい。
【0026】
本発明の塗膜除去方法は、レーザー照射によって構造物の表面の塗膜を除去する塗膜除去方法であって、前記構造物の設置場所に、レーザー発振器と、前記レーザー発振器から出力されるレーザー光を伝送するファイバと、吸引源と、前記ファイバを介して伝送されるレーザー光を集束させて構造物の表面に照射するための可搬性のあるレーザーヘッドとを含むレーザー照射装置を移動し、前記レーザーヘッドによって、前記ファイバを介して伝送されたレーザー光を前記レーザー光の光軸に対して略垂直な表面において、前記光軸を中心とする半径r1の第1の円の軌跡を描くように前記表面に照射しつつ、前記レーザー光の照射点から生じる除去物を吸引することを特徴とする。
【0027】
本発明の塗膜除去方法は、レーザー照射によって構造物の表面の塗膜を除去する塗膜除去方法であって、前記構造物の設置場所に、レーザー発振器と、前記レーザー発振器から出力されるレーザー光を伝送するファイバと、吸引源と、前記ファイバを介して伝送されるレーザー光を集束させて構造物の表面に照射するための可搬性のあるレーザーヘッドとを含むレーザー照射装置を移動し、前記レーザーヘッドによって、前記光学系の主点から前記構造物の表面までの表面間距離が、前記レーザー光の焦点距離と同じ、又はそれよりも短くなるように、前記ファイバを介して伝送されたレーザー光を前記表面に照射しつつ、前記レーザー光の照射点から生じる除去物を吸引することを特徴とする。
【0028】
上記塗膜除去方法において、前記構造物の表面が前記レーザー光の焦点よりもレーザーヘッド側に-5~-25mmの範囲であることが好ましい。
【0029】
本発明の付着物除去方法は、レーザー照射によって配管の内部の付着物を除去する付着物除去方法であって、前記配管の設置場所に、レーザー発振器と、前記レーザー発振器から出力されるレーザー光を伝送するファイバと、吸引源と、前記配管の内部を走行可能な移動手段に載置され、前記ファイバを介して伝送されるレーザー光を照射するレーザーヘッドとを含むレーザー照射装置を移動し、前記配管の内部において前記レーザーヘッドを走行させつつ、前記配管の内径の1/2に対応する半径rの円の軌跡を描くように前記レーザー光の照射点を走査し、前記レーザー光の照射点から生じる除去物を吸引することを特徴とする。上記いずれかの方法では、前記レーザーヘッドにおいて、前記レーザー光を集束又は偏向する光学部材を含む交換式光学ユニットを本体部分から取外し、他の交換式光学ユニットを前記本体部分に取り付けることにより、前記レーザー光の照射条件を変更してもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、小型軽量のレーザーヘッドを含む運搬、移動可能なレーザー照射装置を使用して、動かすことが困難な構造物の現場において、表面の塗膜などを除去することができ、除去物を吸引、回収することもできる。また、円状の走査が可能な光学系を備えるレーザーヘッドによって、広い範囲の表面を効率的に処理することができ、塗膜除去のコストを低減することができる。その他の効果については、発明を実施するための形態において述べる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】第1の実施形態のレーザー照射装置の概略構成図
【
図2B】レーザー光を偏向させた場合の焦点と照射点との位置関係を概略的に説明する図
【
図3】第2の実施形態のレーザーヘッドの概略構成図
【
図4】第2の実施形態のレーザー照射点の軌跡の例を示す説明図
【
図5】第3の実施形態のレーザーヘッドの概略構成図
【
図6】第3の実施形態のレーザー照射点の軌跡の例を示す説明図
【
図7】第3の実施形態のレーザー照射点の軌跡の別の例を示す説明図
【
図8】第4の実施形態のレーザーヘッドのアタッチメントの例を示す説明図
【
図9】第4の実施形態のレーザーヘッドのアタッチメントの別の例を示す説明図
【
図10】第4の実施形態のレーザーヘッドのアタッチメントのさらに別の例を示す説明図
【
図11】第5の実施形態のレーザーヘッドの概略構成図
【
図12】第5の実施形態のレーザーヘッドの距離計測手段の例
【
図13】第5の実施形態のレーザーヘッドの距離計測手段による焦点の指示の例
【
図14】第6の実施形態のレーザー照射システムの概略構成図
【
図15】第7の実施形態のレーザーヘッドの例を示す概略構成図
【
図16】第7の実施形態のレーザーヘッドの他の例を示す概略構成図
【
図17】第8の実施形態のレーザーヘッドの例を示す概略構成図
【
図18】第8の実施形態のレーザーヘッドの他の例を示す概略構成図
【
図19】第9の実施形態の交換式ユニットを含む走査光学系の例を示す概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、構造物の表面に形成された塗膜を短時間で効率良く除去する小型軽量のレーザーヘッドを含み、作業場所まで運搬、移動可能に構成されたレーザー照射装置、及びレーザー照射システムである。また、かかるレーザー照射装置及びレーザー照射システムを使用する塗膜除去方法を含む。ここで、構造物とは、橋梁、高速道路、鉄道の高架線路、大型タンク、大型設備などの設置場所に固定されていて動かすことが困難なものを含み、航空機、船舶、鉄道車両などの整備場所に移動可能なものも含む。さらに、構造物は、各種施設に設置された配管を含む。
【0033】
本発明は、主に、これら構造物の表面の塗膜を除去することを目的としているが、ほかに、大型タンクの開放検査時の下地処理、大型機械設備等の溶接前処理などの表面改質の処理、港湾部設備などの汚れ又は錆の除去にも適用可能である。また、コンクリート表面に付着した汚れ、落書きなども除去することができる。さらに、配管の内部の表面に付着した付着物、堆積物、汚れ、錆など(以下、まとめて付着物という)も除去することができる。特に、放射能に汚染された塗料、付着物などを除去するために使用することも好ましい。
【0034】
本発明のレーザー照射装置は、少なくともレーザーヘッドと、レーザー発振器と、レーザー発振器から出力されるレーザー光を伝送するファイバを含む。レーザーヘッドは、ファイバを介してレーザー発振器と接続され、レーザー光の照射点を走査するための光学系を有する。なお、場合にもよるが、レーザー照射点から生じる除去物が飛散し、レーザーヘッド内部に侵入して光学系(レンズ)に付着すると、付着した箇所が高温となって光学系が破損する虞がある。このため、レーザーヘッドには、レーザー照射点から生じた除去物から光学系を防護するための遮蔽部材を設けることが好ましい。
【0035】
遮蔽部材は、除去物がレーザーヘッド内部の光学系に付着することを防止できればよく、レーザー光の照射の態様、レーザーヘッドの構成などに応じて、形状及び配置を適宜設定することができる。遮蔽部材は、光学系の出射端面と被処理表面との間に配置されることが好ましい。遮蔽部材は、レーザー光の光路を覆うような円筒形であってもよいし(
図3参照)、ドーム型であってもよい(
図16参照)。また、筐体32の射出口を覆うような板状であってもよい(
図10参照)。後述するように光学系を光軸の周りに回転可能に構成する場合、遮蔽部材は、光学系とともに回転するように設けられてもよいし、光学系の回転とは独立に設けられてもよい。本発明のレーザー照射装置は、先の拡がった円錐状のレーザー光を使用することもできるが、この場合、回転するレーザー光を通過させることができるように射出口を広くしてもよいし、遮蔽部材をレーザー光の回転速度に合わせて回転させてもよい(
図3参照)。遮蔽部材の射出口を光軸上に一つ設け、先の拡がった円錐状のレーザー光を遮蔽部材の射出口に向けて偏向させる構成とすれば、遮蔽部材を回転させずに、小さい射出口から先の拡がった円錐状のレーザー光を照射することができ、特に好ましい(
図15参照)。なお、遮蔽部材においてレーザー光を通過させるための射出口は、物理的な開口で構成される場合もあるし、物理的な開口ではなく、レーザー光を透過可能な透光性を有する部材で構成される場合もある。遮蔽部材全体が透光性の部材で構成されてもよく、この場合、レーザー光の射出口は適宜の位置となる。また、遮蔽部材は、汚れた時に交換できるように着脱可能に設けられていることが好ましい。
【0036】
そして、環境保全の観点からレーザー照射点から生じる除去物を周囲に飛散させたくない場合、本発明のレーザー照射装置は、必要に応じて吸引源を備えてもよく、レーザーヘッドに除去物を吸引するための吸引手段を備えてもよい。レーザーヘッドにおいて吸引手段を併設した場合、レーザー照射点で生じた除去物の大部分は吸引手段によって回収されるが、除去物を光学系の出射端に引き寄せてしまう場合もあり、レーザー照射点で生じた除去物の一部が光学系に付着する虞もある。このため、レーザーヘッドに吸引手段を併設する場合は、必要に応じて、レーザー照射点で生じた除去物から光学系を防護するための遮蔽部材を設けることが好ましい。
【0037】
さらに、レーザーヘッドは、その先端部にアタッチメントが取り付けられてもよく、構造物の表面と当接しながら移動することができる。アタッチメントは脱着可能に構成されることが好ましい。
【0038】
レーザーヘッドは、作業者が手作業で作業できるように携帯式であることが好ましい。あるいは、レーザーヘッドは、移動手段(搬送手段)に載置されてもよい。移動手段は、レーザーヘッドを被処理表面に対して相対的に移動できればよく、特に限定されない。例えば、移動手段として、マニピュレータを用い、レーザーヘッドを構造物の表面に沿って適宜移動させる構成としてもよい。さらに、移動手段として自走又は手動により移動可能な台車などを用いてもよい。この場合、レーザーヘッドは、例えば、配管の内部を走行することができる。自走式の移動手段は、レーザーヘッドを載置する台車のほか、駆動手段(モータ、エンジン、アクチュエータなど)、駆動手段からの駆動力を配管の内部壁などに伝達する駆動力伝達手段(ローラー、タイヤ、キャタピラなど)、遠隔制御手段(無線又は有線通信部、駆動手段の制御部などを含む)などを含む。手動式の移動手段を構成する場合、レーザーヘッドを載置する台車に、ワイヤ又はロッドなどを接続し、作業者の操作により、レーザーヘッドを移動する構成としてもよい。配管の内部においてレーザーヘッドを自走又は手動により走行させる場合、レーザーヘッドを載置する台車は、配管の内径に合わせて円筒形とすることが好ましい(
図17、
図18参照)。
【0039】
本レーザー照射装置を用いた塗膜除去方法では、被処理表面がレーザー光の焦点距離と同じ又は焦点距離よりも手前に配置されることが好ましく、特に、焦点を基準(0)として、レーザーヘッド側(近距離)をマイナス、奥側(遠距離)をプラスとすると、被処理表面が、好ましくは0~-30mmの範囲となるように、より好ましくは-5~-25mmの範囲となるように配置する。
【0040】
レーザー光の焦点ではエネルギーが最も集中するが、反対に、処理領域(スポット径)が狭くなるので、塗膜除去の処理能力は低下することとなる。また、場合によってはエネルギーが強すぎるため、下地にダメージを与えたり、発火したりすることがある。このため、レーザー光の焦点を構造物の表面から光軸方向にずらした状態とすること(デフォーカス)によって、処理領域(スポット径)を広くし、適切なエネルギー密度で処理することができる。
【0041】
さらに、実際にレーザー光をデフォーカスする際は、プラス側にデフォーカスするよりも、マイナス側にデフォーカスする方が、明らかに塗膜除去の性能が向上することが確かめられた。例えば、20mmプラス側(遠距離)に被処理表面を配置すると、塗膜表面から煙が発生し、塗膜除去にムラがあり不十分であったのに対し、同じく20mmマイナス側(近距離)に被処理表面を配置すると、塗膜表面においてレーザーアブレーションが強く生じ、効率的な塗膜の除去が可能となる。これは、塗膜表面から剥離されて飛来する除去物にレーザー光が照射される場合に、焦点位置付近ではレーザービームの大きさが除去物の大きさに近くなるため、レーザーパワーの多くが遮られる瞬間が発生するためであると推測される。以下、照射表面を焦点よりも手前に配置することを「マイナスフォーカス」という。
【0042】
レーザーヘッドを手作業で移動させる場合、被処理表面との距離を一定に保つことが難しい。このため、本レーザー照射装置は、レーザーヘッドのアタッチメントの長さによって、被処理表面までの距離を一定(好ましくはマイナスフォーカス)とするよう構成することが好ましい。さらに、アタッチメントの長さを調整可能にして、マイナスフォーカス量を調整してもよい。また、アタッチメントに加えて、若しくはアタッチメントなしでレーザー光の焦点距離を適宜設定できるようにして、レーザー光の焦点距離を被処理物(塗膜)の状態に合わせてマイナスフォーカス量を調整することもできる。また、アタッチメントに替えて、又はアタッチメントに加えて、被処理表面との距離を所定の範囲とするために表面距離測定手段を設けてもよい。
【0043】
本レーザーヘッドの光学系には、光軸回りに回転可能なウェッジプリズムとそれを回転させる回転駆動手段を採用することが好ましく、これによって、レーザー光を先の拡がった円錐状になるように照射することができる。対象とする表面の領域が概ね平らであり、この表面に対して光軸が略垂直となる場合、表面においてレーザー光の照射点の連続する軌跡は、光軸と表面との交点を中心とし、そのウェッジプリズムの偏向量を半径とする円状になる。ここで、レーザー光の照射点を円状に走査することを、従来の直線走査に対して、「円状走査」という。作業者がこのレーザーヘッドを一定の時間保持したり、必要に応じて上下又は左右などに往復移動させたりすることによって、特定の範囲又は広い範囲の塗膜をレーザーアブレーションによって効率的に短時間で除去することができる。
【0044】
さらに、本レーザーヘッドの光学系には、光軸回りに回転可能なウェッジプリズムと偏向手段を採用することもでき、レーザー光を先の拡がった円錐体状(一部中空としてもよい)のように照射することもできる。偏向手段には、ウェッジプリズムを用いることが好ましく、これによって、表面上のレーザー光の照射点の連続する軌跡は、一つ目のウェッジプリズム(第1ウェッジプリズム)の偏向量を半径とする第1の円の円周上の動点を中心として、二つ目のウェッジプリズム(第2ウェッジプリズム)の偏向量を半径とする第2の円が連続して転がる形状となる。光軸を表面に対して固定したまま、一定の時間、レーザー光の照射点を走査し続けると、その連続する軌跡は、実質的に円環又は円の面とみなすことができ、ほぼ均一なレーザー照射が可能となる。
【0045】
レーザー光を円状走査する場合の円形の半径や、レーザー光の走査方法を変更する場合、走査光学系の配置を変更したり、構成を変更したりする必要があるが、本発明では、レーザーヘッドの走査光学系において、各種の光学部材を含む交換式光学ユニットと、少なくとも駆動手段を含む本体部分とを構成し、交換式光学ユニットが、レーザーヘッドの本体部分から簡易な操作で脱着可能に構成したので、レーザー光の照射条件を簡単に変更することもできる。
【0046】
本発明においてレーザーヘッドにアタッチメントを付加する場合、レーザーヘッドの筺体と表面との間に閉鎖的な空間を形成し、環境や人体に有害な物質を含む塗膜の除去物が飛散することを防ぐことができる。アタッチメントに加えて、吸引手段を設ければ、除去物を閉鎖的な空間において吸引することができる。本アタッチメントは、伸縮機構を備え、設定に応じて伸縮可能であることが好ましい。これによって、作業中において筺体から表面までの距離を一定に保持できる。また、入り組んだ構造物においても塗膜除去が可能なように、アタッチメントの少なくとも一部は、変形可能な継手によって構成され、適宜の反射手段を設ける。これによって、表面の法線に対して任意の角度でレーザーヘッドの筺体を表面に当接させることができる。また、アタッチメントは、平らな表面だけでなく、表面上の突起物に対しても塗膜除去が可能なように、突起物の側面にレーザー光を照射するためのミラーを有する構成としてもよい。
【0047】
また、レーザー照射装置がネットワークを介してサーバに接続可能な構成としてもよい。かかるシステムにおいて、サーバは、レーザーヘッドに搭載されたセンサによって検知された表面の状態に関する情報を取得し、表面の状態に応じて塗膜除去に適したレーザー照射条件を選択し、レーザー照射装置に送信することができる。
【0048】
以下、本発明の各実施形態について図面を参照して説明する。ただし、本発明は、以下の例に限定されるものではない。
【0049】
[実施形態1]
第1の実施形態のレーザー照射装置は、構造物の表面20上の塗膜を除去し、その除去物を飛散させることなく回収する小型軽量の携帯式のレーザーヘッドを含むレーザー照射装置である。
【0050】
図1は、第1の実施形態のレーザー照射装置の概略構成図である。本レーザー照射装置は、レーザー発振器1、ファイバ2、レーザーヘッド3、吸引ホース8、吸引源9を備え、ガス供給源11及びガスホース12を備えてもよい。レーザーヘッド3は、小型軽量の携帯式のものであり、ファイバ2を介してレーザー発振器1に接続され、作業場所において取り回すことが可能である。
【0051】
また、レーザー発振器1、吸引源9及びガス供給源11も、運搬、移動可能に構成された装置であり、各種ビークル100(台車、車両、台船、モノラック(モノレール、コンベアを含む)など)に搭載されてもよい。本レーザー照射装置は、レーザーの出力、焦点位置、ビーム幅、走査速度等の照射条件を、表面の種類、性質等に応じて適宜設定可能である。
【0052】
レーザー発振器1は、励起源、レーザー媒質、光共振器(ミラー)などで構成される。励起源は、連続発振(CW)型及びパルス発振型の何れでもよく、アークランプ、フラッシュランプ等を使用することができる。また、使用する光源に応じて励起電流等を加えて駆動するための駆動手段を備えてもよい。レーザー媒質は、固体レーザー(ルビーレーザー、YAGレーザーなど)や半導体レーザー(レーザーダイオード)を採用することが好ましい。特に、固体レーザーとしてファイバレーザーを使用することが好ましい。なお、レーザー媒質は、特に限定されるものではなく、そのほか、気体レーザー(CO2レーザー、エキシマレーザーなど)、液体レーザー(色素レーザー)などを採用してもよい。レーザー発振器1から出力されたレーザーは、伝送用のファイバ2を介してレーザーヘッド3に伝送される。
【0053】
レーザー発振器1をファイバレーザーによって構成すると、様々な利点が得られる。ファイバレーザーは、レーザー媒質として主に希土類イオンを添加したファイバが用いられ、YAG結晶などを用いる固体レーザーに比べて広帯域な光増幅が可能である。ファイバレーザーによれば、発振器中にファイバを巻いて設けることができるため、レーザー発振器を小型軽量に構成でき、移動、運搬が容易であるとともに、単位長さあたりの利得が小さくても十分な増幅が得られる。
【0054】
また、ファイバレーザーは、ファイバの表面積/体積比がバルク型固体レーザーに比べ大きく放熱性に優れているため、冷却方式として空冷を採用して簡易な構成とすることができる。開口数NAが小さいため、集光径を小さくすることが容易である。また、ファイバレーザーは、CO2レーザーと比較して、発振波長が短くビーム品質が優れているため、焦点深度を大きく設定することができる。また、ファイバレーザーから出射されたレーザーは伝送用ファイバとの結合率が高いので、レーザー発振器本体から表面まで距離が離れている場合でも、レーザーを少ない損失で伝送することができる。
【0055】
このようにファイバレーザーによれば、レーザー発振器1自体を構造物の表面(作業場所)付近まで運搬し、適宜移動させながら、塗膜除去作業を実施することができる。ただし、表面に対してレーザー照射するのは、取り回し可能なレーザーヘッド3であるので、レーザー発振器1自体はファイバ2の届く範囲内に配置すればよい。
【0056】
本発明は、被加工物の穴開け、切断の処理ではなく、表面の塗膜を除去することを目的としているので、1回のレーザー照射で大きなエネルギー密度を得る必要がなく、複数回のレーザー照射で塗膜を除去するだけのエネルギー密度を得られれば足る。よって、本実施形態では、高出力のレーザー発振器を使用しなくてもよい。
【0057】
また、対象とする構造物や塗膜の種類、装置の全体構成などに応じて、CW型レーザー及びパルス型レーザーの何れを選択してもよい。特に、CW型レーザーは、所望の照射エネルギーを得るのに、パルス型レーザーに比べて大きな電力を必要とするが、低コストであるので好ましい。そして、本発明者らによれば、単位時間、単位面積当たりのレーザー照射において、パルス型レーザーよりCW型レーザーの方が、下地や母材に与える熱的損傷が少なく、塗膜除去後の表面が滑らかであることが確かめられた。
【0058】
このように、CW型レーザーを採用すると、塗膜除去後の塗装処理が容易となる可能性があるので好ましい。ただし、本実施形態はCW型レーザーに限定されるものではなく、対象とする構造物や塗膜の種類、装置の全体構成などに応じて、CW型レーザー及びパルス型レーザーのいずれを選択してもよい。
【0059】
レーザーヘッド3は、レーザー発振器1によって出力され、ファイバ2を介して伝送されたレーザーを構造物の表面20に照射し、表面20上の塗膜を除去し、その除去物を吸引する装置であり、作業場所において取り回すことが可能に構成される。レーザーヘッド3は、光学系4、除去物60を吸引する吸引手段31、これらを格納する筺体32、及び筺体32の先端部に取り付けられるアタッチメント5を有する。また、レーザーヘッド3は、レーザー照射点から生じる除去物から光学系4を防護するための遮蔽部材(図示省略)を有してもよい。
【0060】
また、このほか、表面20の照射点近傍にガス70を吹き付けるガス吹付手段34、光学系などを制御する制御部35、作業者からの操作が入力される操作部36、レーザー光の照射によるアブレーションを促進するめの補助照射手段37、接触近接センサ、塗膜可視化センサ、振動検知センサなどを含むセンサ群7、電源部(図示省略)を含んでもよい。センサ群7の具体的な構成については
図11を用いて後述する。
【0061】
レーザーヘッド3は、レーザー発振器1の出力を変更することによって、レーザー照射の強さ等を適宜設定可能できる。また、レーザーヘッド3は、光学系4によって、焦点位置、ビーム幅、走査形状などの照射条件を構造物や表面の状態、性質に応じて適宜設定可能に構成される。
【0062】
レーザーヘッド3から照射されるレーザー光30は、出力が100~2000W、波長が500nm以上であることが好ましく、特に好ましくは、出力200~500W、波長1060~1100nmの範囲とする。また、焦点での単位時間あたりのエネルギー密度は、表面の材料、状態及び照射時間に応じて適宜設計することができるが、1.25×10-4~5×10-4J/μm2の範囲とすることが好ましい。なお、レーザー光のスポット径についても、エネルギー密度及び被加工物の寸法との関係で適宜設定すればよいが、好ましくは直径20~200μmの範囲とする。
【0063】
光学系4は、例えば、集光素子、反射素子、屈折素子、駆動手段などの組み合わせから構成され、ファイバ2の出射端から出射されたレーザー光を集束させて表面20にレーザー光30を照射するほか、表面20におけるレーザー光30の照射点を直線的又は曲線的に走査することもできる。光学系4には適宜の構成を採用することができるが、レーザーヘッドを小型かつ簡易にするため、透過性の屈折素子を使用してレーザー光を偏向させる構成とすることが好ましい。光学系4の具体的な構成については、
図3及び
図5を用いて後述する。
【0064】
筺体32は、作業者が把持しやすいように小型でグリップ性の優れた形状に構成することが好ましい。
【0065】
表面20にレーザー光30が照射されると、照射点は高温、高圧の状態となってアブレーション(溶融・蒸散)が起こり、このアブレーションの作用によって塗膜が除去される。レーザー光を照射する際、照射点付近から除去物が生じる。本実施形態ではレーザーヘッド3に吸引手段31を設けたので、除去物60は基本的には吸引手段31の吸引口33を介して回収されるが、除去物60の一部は光学系4の方向に引きつけられ、光学系4のレンズに付着する虞がある。このため、レーザーヘッド3は、レーザー照射点から生じる除去物から光学系4を防護するための遮蔽部材(図示省略)を設けることが好ましい。遮蔽部材は、光学系4の出射端面から被処理面までの間に配置された遮蔽部材を設けることが好ましい。遮蔽部材は、光軸部分だけ開口が設けられた板状部材であってもよいし、開口を持たないレーザー光に対して透光性を有する板状部材(保護ガラスなど)であってもよい。
【0066】
アタッチメント5は、レーザーヘッドの筺体32の先端に脱着可能に取付けられ、表面20に密着して、閉鎖的な空間を形成することが好ましい。ここで、閉鎖的な空間とは、完全に閉鎖、密閉された空間であることが好ましいが、若干の隙間が空いていてもよい。アタッチメント5は、レーザーヘッド3を表面20に当接させながら移動可能な構成であればよいが、曲面を有する表面にも当接できるように構成されることが好ましい。例えば、アタッチメント5は、柔軟で変形する樹脂で形成されてもよいし、アタッチメント先端部の表面に当接する側に摺動補助手段を設けてもよい。摺動補助手段としては、タイヤやローラーであってもよいし、可撓性の部材によって形成された刷毛状又はカーテン状の部材を設けてもよい。
【0067】
また、アタッチメント5は、伸縮機構を有し、走査光学系4の主点から表面20までの距離d(
図2A参照)を適宜設定できることが好ましい。アタッチメント5の伸縮機構は、例えば、一般的なカメラのズーム機構、オートフォーカス機構などを利用してもよい。アタッチメント5は、表面20の法線に対して、レーザーヘッド3の光軸Lの向きを変更できるように、その少なくとも一部に変形可能な継手部(フレキシブルチューブ)が形成されてもよい。
【0068】
本レーザーヘッド3では、レーザーヘッド先端に取付けられたアタッチメント5の伸縮機構によってレーザーヘッド3と表面20との間隔を適宜設定することができる。また、光学系4によって、レーザー光30の焦点距離を適宜設定することもできる。
【0069】
図2Aは、焦点Fと照射点との位置関係を示す説明図である。本発明者は、鋭意研究の結果、レーザー光30の焦点Fに表面20を配置するのではなく、表面20の位置を焦点Fから光軸Lの方向のマイナス側に移動させて(マイナスフォーカス)、被処理表面20を焦点より手前に配置する方が塗膜をより効率的に除去できることを見出した。
【0070】
焦点Fを基準として、表面20上のレーザー光30の照射点(照射スポット)Pまでの距離をΔf(デフォーカス量)とすると、デフォーカス量(マイナスの場合)は、光学系4の主点から焦点Fまでの焦点距離fとかかる主点から表面20までの距離d(以下、「表面間距離」という。)との関係により特定される。なお、同図では、説明のため、表面間距離d及び焦点距離fは、筺体32内の光学系4の出射側端部を起点としているが、実際は光学系の主点を起点とする。デフォーカス量Δfは、距離d-焦点距離fで求められ、0~-30mmの範囲に設定することが好ましく、-5~-25mmの範囲に設定することがさらに好ましい。なお、レーザー光を偏向させた場合は、偏向させたレーザー光の光路にそって、焦点に対して0~-30mmの範囲に被処理表面を配置することが好ましく、-5~-25mmの範囲に設定することがさらに好ましい。
【0071】
本実施形態において、デフォーカス量Δf(言い換えると被処理表面に対する焦点の位置)は、表面間距離dを変更することによって適宜設定可能であり、レーザーヘッドの当接時において表面間距離dは、例えば、伸縮機構を備えたアタッチメント5によって適宜変更できる。また、光学系4によって焦点距離fを適宜変更可能な構成(可変焦点機構)とすれば、アタッチメントを当接したまま、その伸縮機能を用いなくても焦点の位置を変更することができる。さらに、アタッチメントの伸縮機能及び光学系の可変焦点機構の両方を用いてデフォーカス量を適宜変更してもよい。
【0072】
再び
図1を参照すると、吸引手段31は、吸引源9によって付与された負圧によって、レーザー30の照射点から生じる除去物60(塗膜の粉塵、微小断片)を吸引口33から吸引する。吸引源9は、例えば、吸引力を付与するポンプであり、吸引された除去物60を処理する処理室、排気フィルタなどを備えてもよい。吸引手段31から吸い込まれた除去物60は、吸引ホース8を介して吸引源9によって回収され、その余の無害な空気などは排気フィルタを介して排出されてもよい。吸引手段31は、アタッチメント5によって形成された閉鎖的な空間において、吸引口33から、レーザー光の照射点から生じる除去物60を吸引する。
【0073】
ガス吹付手段34は、ガスホース12を介してガス供給源11から供給されるガスをレーザー光30の照射点付近に吹付けるものであり、アブレーションにより照射点付近から生じる除去物60(塗膜の粉塵、微小断片、煙なども含む)がレーザー照射における阻害物とならないように、除去物60を吸引手段31の吸引口33の方へ誘導し、レーザー光30をより確実に表面に照射させる作用を有する。また、必要に応じて除去物による筺体32内部、光学系4の出射端表面(レンズ)の汚染等を防止又は低減するために利用してもよい。
【0074】
ガス供給源11は、例えば、タンク、ボンベ及び圧縮機などから構成される。ガスは、作業環境や表面の状態、材料、性質などに応じて、適宜選択することができる。例えば、乾燥空気、窒素、二酸化炭素、不活性ガス(例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴンなど)、静電気対策のための電荷を帯びたガスを採用してもよい。表面から有毒な反応ガスを生じるおそれがある場合、これらの発生を低減するため、窒素又は不活性ガスを供給したり、反応ガスを中和する活性ガスを供給したりすることが好ましい。また、気体に限定されず、液体(霧状(スチーム)を含む)を吹き付けてもよい。液体としては、表面を加熱するための水、アブレーションを促進するための処理剤、塗膜除去後の下地保護剤などの薬液を含む。
【0075】
なお、レーザー発振器1、吸引源9及びガス供給源11とレーザーヘッド3とを接続するファイバ2、吸引ホース8、ガスホース12及び電力ケーブル(図示省略)は、作業場所において、作業者がレーザーヘッド3を容易に取り回せるようするために、統合ケーブル25として1本に束ねられてもよい。
【0076】
また、レーザー光を照射する際、照射点付近から生じる除去物は静電気を帯びていることがある。このような除去物は光学系のレンズに付着しやすいため、レンズの寿命を縮めてしまうおそれがある。このため、レーザーヘッドには、静電気対策手段を設けることが好ましい。静電気対策手段としては、例えば、ガス吹付け手段を利用し、かかるガス吹付け手段から、除去物の帯電量に応じて、イオンを含むガスを供給することによって、静電気を除去してもよい。また、前述したとおり、光学系への除去物の付着を遮蔽する遮蔽部材を利用し、遮蔽部材の少なくとも一部に導電性の部材を設け、静電気を帯びた除去物を取り除くようにしてもよい。また、遮蔽部材とは別にレーザーヘッド内の適宜の位置に静電気を除去する部材を設けてもよい。また、静電気対策手段は、磁気を供給することによって、光学系の周囲に飛来する除去物から静電気を除去してもよい。
【0077】
補助照射手段37は、必要に応じて(例えば、表面20の塗膜が厚く除去に長時間のレーザー照射を必要とする場合)、アブレーションを補助するため照射点付近に種々のエネルギーを与える。補助照射手段37は、例えば、光、熱、超音波、マイクロ波、レーザーを照射可能に構成されてもよい。具体的には、光照射による加熱が可能なハロゲンランプ又はメタルハライドランプ、超音波加熱器、マグネトロン式マイクロ波発振機、表面加熱用炭酸ガスレーザーなどを採用することができる。また、補助照射手段37は、表面の状態をCCDカメラ(
図11の符号73)で撮影するための照明とすることもできる。
【0078】
制御部35は、光学系4の走査機構、可変焦点機構、アタッチメント5の伸縮機構、吸引手段31、ガス吹付手段34、操作部36、補助照射手段37などを制御する機能を有する。制御部35は、ハードウェアとプログラムとを協働させて各種の処理を実現するように構成されてもよいし、専用の処理回路によって構成されてもよい。同図では、制御部35はレーザーヘッド本体に設けられているが、レーザーヘッド本体とは別に設けてもよく、例えば、無線又は有線によって接続された端末(
図14の符号82参照)を制御部として、これがレーザーヘッド3を制御する構成としてもよい。
【0079】
操作部36は、作業者の操作を受けて制御部35へ出力する機能を有する。また、操作結果、塗膜除去の状況、レーザーのパラメータなどを表示する機能を有してもよい。操作部36は、例えば、各種スイッチ、つまみ、ソフトウェアキーボード、表示装置などによって構成される。
【0080】
このように、第1の実施形態のレーザー照射装置によれば、運搬、移動可能なレーザー照射装置を使用して、作業場所においてその表面の塗膜を除去し、除去物を回収することができる。ファイバを介してレーザー発振器に接続された取り回し可能な携帯式のレーザーヘッドを使用するので作業者にとって塗膜除去作業が容易となる。また、レーザー出力、波長を表面の状態に応じて適宜設定可能であり、塗膜除去に適したレーザー照射が可能である。
【0081】
また、本レーザーヘッドの光学系によれば、焦点の位置、ビーム幅、走査速度等の照射条件を適宜設定可能であり、塗膜除去に適したレーザー照射が可能である。また、かかるレーザーヘッドに設けられた吸引手段及びアタッチメントによって、塗膜を除去しながら、その除去物を飛散させることなく効率的に吸引することができる。アタッチメントの伸縮機構によって表面間距離を適宜設定すれば、表面の状態に応じて、デフォーカス量を調整することができ、塗膜除去に適したアブレーションが可能となる。
【0082】
また、本レーザーヘッドのアタッチメントによれば、除去物の吸引のための適度な空間を確保でき、除去物が集中して吸引口を塞ぐ虞が少ない。さらに、レーザー光の漏れ、散乱を防ぎ、作業者の安全を確保することができる。作業者が本アタッチメントを表面に当接させながらレーザーヘッドを移動させるので表面間距離dを一定に保つことができ、除去作業を効率的に進めることができる。
【0083】
以下、本レーザーヘッド内部の光学系の他の実施形態について説明する。はじめに、第2の実施形態として、走査機構に一つのウェッジプリズムを用いたレーザーヘッドの構成について説明し(
図3及び
図4)、次いで、第3の実施形態として、走査機構にウェッジプリズムと偏向手段とを用いたレーザーヘッドの構成について説明する(
図5乃至
図7)。ただし、本発明は、以下の例に限定されるものではない。
【0084】
[実施形態2]
第2の実施形態では、光学系に、光軸回りに回転可能なウェッジプリズムとそれを回転させる駆動手段を使用し、レーザー光を先の拡がった円錐状(側面表面)に照射する。表面においてレーザー光の照射点の連続する軌跡は、光軸と表面との交点を中心とし、そのウェッジプリズムの偏向量を半径r1とする円C1となる。以下、照射点を駆動機構になどにより走査可能な光学系を走査光学系ともいう。
【0085】
また、作業者がこのレーザーヘッドを一定の時間保持したり、必要に応じて上下又は左右などに往復移動させたりすることによって、特定の範囲又は広い範囲の塗膜をレーザーアブレーションによって効率的に短時間で除去することができる。
【0086】
図3は、第2の実施形態のレーザーヘッドの走査光学系の概略構成図である。本レーザーヘッド3Aは、ファイバ2を介してレーザー発振器1に接続され、作業場所で取り回すことが可能である。本実施形態では、走査光学系4は、ファイバ接続部41、集光手段42、第1ウェッジプリズム43、支持部材44、及び駆動手段49を含む。
【0087】
ファイバ接続部41は、ファイバ2の出射端に取付けられた光学素子(レーザー射出コリメータ(例えば、石英レンズ))であり、ファイバ2を介して伝送されたレーザー光を集光手段42に向けて平行光として出射する。
【0088】
集光手段42は、一枚又は複数枚のレンズから構成される集光光学系であり、ファイバ接続部41から出力されたレーザー光を高エネルギー密度に集光し、レーザー光30として表面20に照射する。集光手段42は、レーザー光30の焦点距離、焦点深度、ビームスポット径を適宜設定することができる。
【0089】
第1ウェッジプリズム43は、光軸Lに対して偏向角θで、入射したレーザー光を偏向させる光学素子である。第1ウェッジプリズム43(及び集光手段42)は支持部材44によって支持される。本実施形態では、レーザー光の光路を偏向させるための光学部材として、ウェッジプリズムを採用する。これによって、ガルバノミラーなどの光学部材を使用する場合に比べて、レーザー光の光路が反射を繰り返さず簡単なものとなるので、レーザーヘッドの構成を小型かつ簡易なものとすることができる。
【0090】
駆動手段49は、光軸Lの回りに所定の回転速度ωで支持部材44を回転させることによって第1ウェッジプリズム43を回転させる。駆動手段49は、モータ、回転アクチュエータなどの適宜の構成を採用することができるが、レーザーヘッドを小型かつ簡易な構成とするため、光軸の周囲に配置可能な中空モータを採用することが好ましい。
【0091】
かかる走査光学系4によれば、レーザー光30の照射点P(照射スポットも含む)は、表面20において光軸交点Oから距離rの位置に現れる。距離rは、第1ウェッジプリズム43の偏向角θ及び第1ウェッジプリズム43から表面20までの距離などに基づく偏向量である。
【0092】
また、レーザー光の照射点付近から生じる除去物を遮蔽するために第1ウェッジプリズム43を保護する遮蔽部材48を採用することができる。遮蔽部材48は、第1ウェッジプリズム43ないし支持部材44に固定され、それとともに回転可能に構成され、適宜の位置に、ウェッジプリズムの偏向角に応じて偏向されるレーザー光30を通過させる開口を有する。本実施形態では、吸引手段(例えば、
図1の符号31)及びアタッチメント(例えば、
図1の符号5)が設けられておらず、レーザー照射点Pから生じた除去物は、周囲に飛散することとなるが、遮蔽部材に48を設けたので、表面20から剥離され飛来する除去物からウェッジプリズムを保護することができる。さらに、遮蔽部材48の少なくとも一部に導電性の部材を設け、静電気を帯びた除去物を積極的に取り除くように構成されてもよい。また、静電気対策手段として、ガス吹付け手段(
図1又は
図11の符号34参照)を利用し、かかるガス吹付け手段から、除去物の帯電量に応じて、イオンを含むガスを供給することによって、静電気を除去してもよい。
【0093】
本実施形態では、塗膜を除去するに際して、複数回の円状走査で塗膜を除去するだけのエネルギー密度を与えることができればよいので、金属の穴開け、切断、スポット溶接などを目的とした従来のレーザー加工装置とは異なり、焦点をレーザー光の実際の照射点と一致させる必要はない。そして、円状走査の際、略円状の軌跡の各点でレーザー30の光路長がほぼ同じとなるので、直線走査の場合とは異なり、焦点と実際の照射点との距離が回転走査時において変化せず、一定の照射エネルギーを照射することができる。また、レーザーのエネルギーを効果的に利用するためには、焦点の位置は、表面よりも奥に設定すること(マイナス側へのデフォーカス)が好ましい。また、焦点深度をある程度深く設定してもよい。これによって、突起物や段差、奥行きのある構造物の表面についても塗膜除去の処理が可能となる。
【0094】
図2Bは、レーザー光を偏向させた場合の焦点と照射点との位置関係を概略的に説明する図である。ウェッジプリズムを有する光学系4によって、レーザー光を光軸L1に対して偏向角θをもって偏向させると、偏向なしの場合の光路L1上の焦点F1及び照射点P1は、偏向角θをもつ新しい光路L2上のF2及びP2に対応する位置に移動する。よって、F2を基準としてデフォーカス量Δfを設定する場合、対象の被処理表面は焦点F2に対して0~-30mmの範囲であるP2の位置に配置することが好ましく、より好ましくは-5~-25mmの範囲に配置する。なお、
図2Bは、レーザー光が偏向した場合の焦点距離fが偏向したレーザー光の光路にそっていることを説明するため、便宜上、主点Sを偏向の基準としたが、実際の光学系では主点と異なる場合もある。
【0095】
また、レーザーヘッドはアタッチメント5によって表面に密着され、走査光学系から表面までの距離が常に一定である。かかる観点からも光路長が変化しない円状走査を採用することは好ましいのである。さらに、本実施形態では、レーザー光の照射点を、光軸交点を中心として円状に回転走査させるので、表面からレーザー光が反射されても、戻り光がレーザーヘッド内に入射してファイバ2を損傷するおそれがない。加えて、本実施形態では、レーザーヘッドに静電気対策手段を設けたので、静電気を帯びた除去物を光学系に付着させないか、あるいは、除去物から静電気を取り除くことができる。
【0096】
図4は、第2の実施形態のレーザーヘッドによるレーザー照射点の軌跡を示す説明図である。光軸Lと表面20とが略垂直であり、表面20が湾曲や凹凸のない概ね平面であった場合、第1ウェッジプリズム43が光軸Lの回りに回転速度ωで回転するので、レーザー光の照射点Pは、表面20において光軸交点Oを中心とする半径rの円の円周上を回転速度ωで移動する動点となる。
【0097】
言い換えると、照射点Pは、光軸交点Oを中心とする半径rの円C(略円状を含む)の軌跡を描く。したがって、第2の実施形態のレーザーヘッド3Aを使用して、構造物の表面20にレーザー光30を照射すると、表面20において円Cの円周に沿って塗膜がレーザーアブレーションにより除去される。なお、説明を簡単にするため、同図では円Cの円周が幅を持たない線として表わされているが、実際は、レーザー光30はスポット径の幅有するものである。また、半径rは5~200mmとなるように設定することが好ましい。
【0098】
円Cの形状のような円状走査をしながら、自動又は作業者の操作によって、レーザーヘッド3を表面20に対して平行に上下又は左右の方向に一定の速さで移動させると、照射点Pの軌跡は実質的に帯状となる。このように、照射点Pを表面20に対してほぼ均一に走査することができるので、表面20上の広範囲の塗膜を短時間で効率的に除去することができる。同図では、レーザーヘッド3Aを特定の方向へ直線的に移動させているが、構造物の種類、表面の状態などに応じて、例えば、乙字状、ジグザグ状、円弧状、渦巻き状に移動させてもよい。
【0099】
なお、同図では、説明を簡単にするため、円Cがレーザーヘッドの移動方向に連続する形状を模式的に示している。しかし、実際には、レーザーヘッド(すなわち、光軸交点)を移動させつつ照射点を円状に走査するので、照射点Pの軌跡は、閉曲線である円Cが連続するのではなく、開曲線であるコイルのような形状となる。より厳密には、照射点Pの軌跡は、回転速度ωで回転する動径ベクトルrの終点の軌跡となる。
【0100】
具体的には、例えば、時刻t=0のとき、照射点PがY軸上にあり、角速度ωで回転を開始する場合(円状走査のみ)、時刻tにおける照射点の軌跡(Px,Py)は、以下の式で表わされる。
【0101】
Px=rsinωt
Py=rcosωt
さらに、例えば、作業者がレーザーヘッドを、X軸に対して角度φを有するベクトルの方向へ一定の速さVで移動させると、時刻tにおける照射点の軌跡(Px,Py)は、以下の式で表わされる。
【0102】
Px=rsinωt+Vtcosφ
Py=rcosωt+Vtsinφ
特に、レーザーヘッドを水平方向(X軸方向)に動かす場合、以下のとおりとなる。
【0103】
Px=rsinωt+Vt
Py=rcosωt
また、同図は、光軸Lと表面20とが略垂直であって、表面20が平坦であり、照射点Pの軌跡が略円状となる場合である。レーザーヘッドを表面の法線に対して傾けて保持した場合(すなわち、光軸Lと表面20とが略垂直でない場合)は、照射点Pの軌跡は楕円(略楕円状の形状を含む)となる。
【0104】
また、表面20に凹凸が形成されていたり、湾曲を有したりする場合は、照射点Pの軌跡は歪んだ円、楕円となる。これらの場合、厳密には、軌跡上の各照射点でのレーザー光の光路長は各々異なるものとなるので、実際の照射点があらかじめ設定された焦点からやや外れることがある。この場合、焦点深度をある程度大きく(光路長の変化量の範囲)に設定しておくことが好ましい。これによって、複数回の回転の走査によって塗膜除去のための所望のエネルギー密度を累積で与えることができる。
【0105】
照射点Pの軌跡が楕円状となる場合、厳密には、軌跡上の各照射点でのレーザー光の光路長は各々異なるものとなるので、あらかじめ設定された焦点が所望の位置から外れることがある。この場合、あらかじめ焦点深度をある程度大きく(光路長の変化量の範囲)に設定しておくことが好ましい。複数回の回転走査によれば、塗膜除去のための所望のエネルギー密度を累積で与えることができるので、光路長がある程度変化しても問題ない。
【0106】
このように、第2の実施形態のレーザーヘッドによれば、レーザー光の照射点を光軸交点を中心として円状に回転走査させるので、このレーザーヘッドを適宜移動させれば実質的に面状の走査となり、広い範囲の塗膜を短時間で効率的に除去することができる。
【0107】
また、レーザー光の光路を偏向させるための走査素子としてウェッジプリズムを使用するので、ガルバノミラーなどの光学素子を使用する場合に比べて、レーザー光の光路が反射を繰り返さず簡単なものとなり、走査機構を小型かつ簡易なものとすることができる。これによって、作業場所において取り回し可能な小型のレーザーヘッドを低コストで実現できる。また、かかる円状走査では、光路長が変化しないので、レーザーヘッドの構成を簡単にすることができる。
【0108】
また、焦点深度をある程度大きく設定してもよく、これによって、突起物や段差、奥行きのある構造物の表面、構造物の隅角部についても塗膜除去の処理が可能となる。また、複数回の円状の走査によって、レーザーアブレーションのための所要のエネルギー密度を与えることができ、塗膜を効率的に除去することができる。さらに、かかる円状走査によれば、表面からレーザー光が反射されても、戻り光がレーザーヘッド内に入射してファイバ2を損傷するおそれがない。
【0109】
[実施形態3]
前述した第2の実施形態では、走査光学系に一つのウェッジプリズムを用いた。これに対し、第3の実施形態では、走査光学系に、光軸回りに回転可能なウェッジプリズムと、偏向手段とを用いて、レーザー光を先の拡がった円錐体状(一部中空としてもよい)のように照射する。偏向手段は、ミラーなどの反射性光学素子でもよいが、ウェッジプリズムなどの透過性光学素子を採用することが好ましい。以下、偏向手段としてウェッジプリズムを用いる場合について説明する。表面上のレーザー光の照射点の連続する軌跡は、一つ目のウェッジプリズム(第1ウェッジプリズム)の偏向量を半径とする第1の円の円周上の動点を中心として、二つ目のウェッジプリズム(第2ウェッジプリズム)の偏向量を半径とする第2の円が連続して転がる形状となる。光軸を表面に対して固定したまま、一定の時間、レーザー光の照射点を走査し続けると、その連続する軌跡は、実質的に円環又は円の面とみなすことができ、ほぼ均一なレーザー照射が可能となる。
【0110】
図5は、第3の実施形態のレーザーヘッドの走査光学系の概略構成図である。本レーザーヘッド3Bは、第2の実施形態のレーザーヘッド3Aの構成のほか、走査光学系の追加構成として、第2ウェッジプリズム45、支持部材46、及び伝達手段47を有する。また、必要に応じて、レーザーヘッド3は、レーザー照射点から生じる除去物から走査光学系を防護するための遮蔽部材(図示省略)を有してもよい。第3の実施形態のレーザーヘッド3Bにおいて、第2の実施形態のレーザーヘッド3Aと同様の構成には、同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0111】
第2ウェッジプリズム45は、第1ウェッジプリズム43によって光軸Lに対して偏向角θ1をもって偏向されたレーザー光の光路M(以下、回転基準軸Mともいう。)に対して、レーザー光の光路をさらに偏向角θ2をもって偏向させる。第2ウェッジプリズム45は支持部材46によって支持される。
【0112】
伝達手段47は、第1ウェッジプリズム43を含む支持部材44と、第2ウェッジプリズム45を含む支持部材46とを連接し、駆動手段49からの駆動力を伝達する。駆動手段49は、例えば、適宜の回転比を設定可能な歯車機構を使用することができる。
【0113】
本実施形態では、駆動手段49によって支持部材44を光軸Lの回りに回転させることによって、第1ウェッジプリズム45を回転速度ω1で回転させ、さらに、支持部材46に連接された伝達手段47を介して支持部材46を光軸Lの回りに回転させることによって、第2ウェッジプリズム45を回転速度ω2で回転させる。
【0114】
また、光軸Lに対して略垂直な表面20を考えた場合、二つのウェッジプリズムを光軸Lの回りに回転させると、表面20と回転基準軸Mとの交点Qが、光軸交点Oから表面上の距離r1の位置に現れる。そして、照射点R(照射スポットを含む)が、交点Qから表面上の距離r2の位置に現れる。
【0115】
なお、距離r1は、第1ウェッジプリズム43の偏向角θ1及び第1ウェッジプリズム43から表面20までの距離などに基づく偏向量であり、距離r2は、第2ウェッジプリズム45の偏向角θ2及び第2ウェッジプリズム45から表面20までの距離などに基づく偏向量である。
【0116】
同図では、駆動手段49が直接、第1ウェッジプリズム43に回転駆動力を与え、伝達手段47が間接的に、駆動手段49による回転駆動力を第2ウェッジプリズム45に与える構成を説明したが、これに限定されない。二つの駆動手段によって、異なる回転駆動力を各ウェッジプリズムに別々に与えてもよいし、駆動手段から伝達手段に直接与えられる回転駆動力を各ウェッジプリズムに与えてもよい。第1ウェッジプリズム43と第2ウェッジプリズム45とが異なる回転速度で回転できる構成であればよい。
【0117】
図6は、第3の実施形態によるレーザー照射点の処理平面上での軌跡の例を示す説明図である。同図は、光軸Lと表面20とが略垂直であり、表面20が湾曲や凹凸のない概ね平面である場合を示している。回転基準軸Mは光軸Lの回りを回転速度ω1で回転する動径であるので、回転基準軸Mと表面20との交点Qは、光軸交点Oを中心とする半径r1の円C1の円周上を回転速度ω1で移動する動点となる(以下、動点Qともいう。)。そして、レーザー光の照射点Rは、動点Qを中心とする半径r2の円C2の円周上を回転速度ω2で移動する動点となる。
【0118】
なお、同図では、説明のため、回転基準軸Mが一周する際の、すなわち、円C1上の動点Qが一周する際の円C2の軌跡を模式的に示しており、見かけ上、円C2が円C1上の各点を中心として連続する形状となっている。しかし、実際には、動点Qが円C1上を移動しながら、それを中心として照射点Rが移動するので、照射点Rの軌跡は、閉曲線である個々の円C2が連続するのではなく、開曲線であるコイルの環のような形状となる。より厳密には、照射点Rの軌跡は、回転速度ω1で光軸交点Oを中心として回転する動径ベクトルr1の終点を中心としてさらに回転速度ω2で回転する動径ベクトルr2の終点の軌跡(すなわち、ベクトルr(r1+r2)の終点の軌跡)となる。
【0119】
なお、回転速度ω2は、回転速度ω1より十分に大きく設定することが好ましく、回転速度ω1と回転速度ω2との比(回転比ω2/ω1)は少なくとも9/2より大きくすることが好ましい。
【0120】
さらに、照射点Rの初期位置と回転基準軸Mが1周又は数周した時の照射点Rの位置とが一致することがないように回転比(ω2/ω1)を設定することが好ましい。そうすると、回転基準軸Mが何周か回転しても、照射点Rの軌跡であるC2が表面20上で重なることがないのでほぼ均一な走査が可能となる。
【0121】
また、円C2の形状の走査をしながら、自動又は作業者の操作によって、レーザーヘッド3Bを表面20に対して平行に上下又は左右の方向に一定の速さで移動させると、照射点Rを表面20の特定の範囲に対してほぼ均一に走査することができ、表面20上の特定の範囲の塗膜を短時間で効率的に除去することができる。
【0122】
図7は、第3の実施形態のレーザーヘッドによるレーザー照射点の軌跡の別の例を示す説明図である。一定の時間、光軸交点Oを移動させずに円C2の形状の走査をすると、同図に示すように、円C1を中心曲線とする円環C3の領域の塗膜を除去することもできる。
【0123】
このように、第3の実施形態のレーザーヘッドによれば、第2の実施形態の効果に加え、円環状又は円の面でレーザー光の照射点を走査するので、構造物の表面における特定の範囲の塗膜を短時間で効率よく除去することができる。この形態は、例えば、ボルト等の突起物の周囲の塗膜を除去する場合に適している。
【0124】
また、中心曲線C1の半径及び円環C3の幅は、各ウェッジプリズムによる偏向量に対応するr1及びr2に依存する量であるので、r1及びr2、すなわち、第1ウェッジプリズムの偏向角θ1及び第2ウェッジプリズムの偏向角θ2を適宜設定することによって、各種の大きさ、形状の円環の照射領域を設定することもできるし、中心部に被照射領域のない円の形状を設定することもできる。
【0125】
例えば、処理平面上にある円形の突起物の周囲の塗膜を除去する場合、|r2-r1|がその円形の突起物の半径となるように偏向角θ1及び偏向角θ2を設定して被照射領域を設ければ、その円形の突起物の周囲のみを走査することができる。また、r2≧r1となるように設定すれば、円環状ではなく、中心部に被照射領域のない円全面の形状で走査することもできる。
【0126】
[実施形態4]
以下、第4の実施形態として、レーザーヘッドの先端部に取付けられる交換式のアタッチメントの例について説明する。本アタッチメントは、変形可能な継手部を有し、角度が変更可能なミラーを有する。これによって、表面の法線に対して任意の角度で、レーザーヘッドの筺体を表面に当接することが可能となる。このため、十分な作業空間が確保できない入り組んだ作業場所や、ボルトなどの突起物の周り及び突起物自体の側面の塗膜を除去する用途に適している。
【0127】
図8は、第4の実施形態のレーザーヘッドの概略構成図である。本アタッチメントは、レーザーヘッドの筺体32の先端部に脱着可能なものであり、第1乃至第3の実施形態のレーザーヘッドに取付けることができる。同図は、第3の実施形態のレーザーヘッド(
図5)の筺体先端部に取付けた例である。
【0128】
本アタッチメント5Bは、変形可能な継手部(フレキシブルチューブ)53を有し、自己の形状を表面20Bの法線に対する角度に応じて変形可能に構成される。同図では、アタッチメント5Bは、レーザーヘッド3Cが表面20Bの法線に対して略垂直となるように構成されている。アタッチメント5Bは、第1ミラー51、第2ミラー52(
図9参照)を有する。ただし、第2ミラー52は、用途に応じて(例えば、突起物の側面にはレーザー光を照射したくない場合)外してもよい。また、レーザーヘッド3Cは、レーザー照射点から生じる除去物から走査光学系を防護するための遮蔽部材(図示省略)を有してもよい。
【0129】
第1ミラー51は、光軸Lに対して第1ミラー自体の法線の角度を適宜変更できるように構成される。これによって、図示のとおり、レーザー光の照射方向を光軸Laから入射軸Lbの方向に変えることがきる。光軸Laと入射軸Lbとの角度は任意に設定することができ、特に限定されないが、例えば、90°に設定することが好ましい。この場合、表面20B上のレーザー光の照射点の軌跡は、
図6に示した光軸Lに対して垂直な表面20上の軌跡と同様である。
【0130】
図9は、第4の実施形態のアタッチメントの一部の概略構成図であり、レーザーヘッド3Cのレーザー光の光路を合わせて示している。同図に示したとおり、表面20B上には突起物20C(例えば、ボルト)があり、レーザー光30は、第1ミラー51によって偏向させられた入射軸Lbの回りを回転する回転基準軸Mbの回りを回転しながら入射する。入射軸Lbに近い方のレーザー光30は、ボルト20Cの上面に照射され、入射軸Lbから遠い方のレーザー光30はアタッチメント5Bに設けられた第2ミラー52によって反射され、ボルト20Cの側面に照射される。このように、本アタッチメントを使用すれば、従来では難しかった突起物周りの塗膜除去が容易に実施できる。
【0131】
このように、本実施形態のアタッチメントによれば、レーザーヘッドを任意の向きで表面に当接することができるので、取り回しが制限される、入り組んだ狭い構造物においても作業者が無理な姿勢をとることなく、除去作業を容易に行うことができる。また、本アタッチメントを第3の実施形態のレーザーヘッドに取付ければ、表面上の突起物の周囲の塗膜及び突起物自体の側面を効率的に処理することができる。
【0132】
図10は、第4の実施形態のレーザーヘッドのアタッチメントのさらに別の例を示す説明図である。本例は、
図3に示す走査光学系を備えるレーザーヘッドの先端に、反射ミラーを含むアタッチメントを取付けた態様である。本例は、より簡易的な構造であり、例えば、構造物の狭隘部において使用することができ、従来のブラスト工法では実現できなかった入り組んだ箇所の表面の塗膜、付着物などを除去することができる。
【0133】
アタッチメント5Cは、レーザーヘッド筺体32の先端に連結され、先端に所定角度の反射ミラー51が設けられている。レーザーヘッドの走査光学系から円錐状に照射されるレーザー光30は、反射ミラー51によって反射され、レーザー照射点は構造物の狭隘部の内側表面において、略円形に走査される。走査光学系の出射端には、レーザー照射点から生じる除去物から出射端側に配置される光学部材(プリズム、レンズ、ミラーなど)を防護するための遮蔽部材48が設けられることが好ましい。遮蔽部材48は、例えば、平板状であり、レーザー光の射出口50を有し、走査光学系の回転とともに回転するように構成されている。
【0134】
また、アタッチメント5Cは、レーザー照射点から生じる除去物から反射ミラー51を防護するため、反射ミラー51にガス流を供給するガス吹付手段34を設けてもよい。ガス吹付手段34は、ガスホース12を介して図示しないガス供給源から圧送されるガスを反射ミラー51の表面付近に吹付け、飛散した除去物が反射ミラー51に付着することを防止する。
【0135】
[実施形態5]
以下、第1乃至第4の実施形態のレーザーヘッドにおいて、センサ群ほかを設けた例について説明する。
【0136】
図11は、第5の実施形態のレーザーヘッドの概略構成図である。本レーザーヘッドは、センサ群7として、各種センサを備え、例えば、接触近接センサ71、表面状態センサ72、監視センサ73、振動検知センサ74、表面間距離測定センサ75などを備える。なお、センサ群7の全てを具備する必要はなく、センサ群7は、目的に応じて選択して採用してもよいし、一つのセンサによって複数の機能を兼用させてもよい。
【0137】
接触近接センサ71は、アタッチメント5が表面20に接触又は近接したことを検知するセンサである。かかるセンサは、例えば、アタッチメントの先端における被処理表面との当接部に取付けられた圧力センサ、発射した電波の反射強度を測定するセンサ等を利用することができ、アタッチメントの当接又は近接を検知するように構成してもよい。制御部35(レーザーヘッドとは別体の管理端末(
図14の符号82参照)でもよい。以下同様)は、かかるセンサによる検知がない限り、レーザー光の照射を許可しないように制御することもできる。これによって、レーザー光が誤って塗膜除去の対象となる表面以外へ発射されることを防止し、作業者の安全を確保することができる。また、発射した電波の反射強度を測定するセンサの場合は、反射強度が所定の値を超えた場合のみレーザー光の照射を許可するように構成してもよい。これによって、人体などに誤ってレーザー光が照射されることを防止できる。
【0138】
表面状態センサ72は、表面20の下地の材質(鋼板、アルミなど)、塗膜の状態(浮き上がり、厚み)、錆の状態(面積、程度)、腐蝕物質、汚れ、油脂の付着状態などを検知する。また、塗膜の除去量などを検知してもよい。具体的には、放射温度センサ、可視域分光イメージセンサ、近赤外線カメラなどを採用することができる。監視センサ73は、例えば、CCDカメラ、CMOSカメラなどである。これによって、作業者又は作業場所から離れた場所に位置する管理者などが表面の状態やレーザーヘッド内部の状態を観察することができ、必要な塗膜除去の程度やメンテナンスの必要性を決定するための判断材料を得ることができる。制御部35は、かかるセンサによって検知された表面の状態に関する情報(以下、「表面状態情報」という。)を収集することもできる。また、制御部35は、操作部36の表示装置にこの表面状態情報を表示するよう制御してもよい。あるいは、無線又は有線を介してレーザーヘッド3D本体に接続された表示装置(
図14の符号82)にこの表面状態情報を通知してもよい。また、本レーザー照射装置に無線又は有線を介して接続されたサーバに表面状態情報を送信してもよい。制御部35は、検知された表面状態情報に基づいて、レーザー照射条件を変更してもよいし、表面状態情報に基づいて作業者が入力する指示に基づいて、レーザー照射条件を再設定してもよい。また、取得した表面状態情報に基づいて、当該現場での塗膜除去に適したレーザー照射条件を選択し、選択したレーザー照射条件に基づいてレーザーヘッドを含むレーザー照射装置の各設定を変更してもよい。
【0139】
また、アタッチメント内部に、有毒な反応ガスを検知可能なセンサを設けてもよい(図示省略)。制御部35は、有毒ガスの発生を検知した場合、作業者及び管理者に対して警告を通知するように構成してもよい。
【0140】
表面間距離測定センサ75は、表面までの距離を赤外線などにより測定するセンサである。制御部35は、かかるセンサによって検知された表面間距離に基づいて、焦点を塗膜除去に適した位置に設定することができる。具体的には、アタッチメント5の当接時において、被処理表面20がレーザー光の焦点距離と同じか又はそれより近く配置されるようにアタッチメント5の伸縮機構を制御する。また、レーザー光の焦点距離が測定された表面間距離と同じか又はそれより長くなるように光学系の可変焦点機構を制御する。
【0141】
さらに、表面距離測定手段として、赤色レーザーを用いた照射手段(レーザーポインタなど)を利用してもよい。
図12は、レーザーヘッドにおけるレーザーポインタの配置の例であり、
図13は、レーザーポインタによる焦点の指示の例である。
図12及び
図13では、表面距離測定手段として、2個のレーザーポインタ77がレーザーヘッドに設けられる(
図12中では手前の1個のみ表示)。各レーザーポインタ77は、その赤色レーザー光80が走査光学系4の光軸に対して斜めに照射され、他方のレーザーポインタ77からの赤色レーザー光と所定の距離(位置)sで交差するように配置されている。
図12においては、走査光学系4の光軸L上の位置Sで交差するように配置されており、表面間距離の目安となるとともにレーザー光の照射点の中心を把握できるように構成されている。このように、距離sを所望の表面間距離に設定することにより、レーザーヘッドの照射位置を把握することができる。なお、レーザーポインタ77からの赤色レーザー光は、走査光学系4の光軸上で交差する必要はなく、他の位置(例えば、レーザーポインタ77の正面前方の所定の位置)において交差するように配置してもよい。また、3個以上のレーザーポインタを設けてもよい。
【0142】
図13では、2個のレーザーポインタからの赤色レーザー光80が、レーザーヘッド3の先端部キャップに設けられた2個の射出口78から照射され、位置Sで重なる様子が図示されている。かかる2個のレーザーポインタによって、赤色レーザー光を被処理表面に照射すれば、作業者は、レーザーヘッドを被処理表面に対して前後に移動する際、光学系の主点から表面までの表面間距離の目安を、各レーザーポインタによる2個の光点の間の距離によって知ることができ、例えば、2個の光点が一致したとき、レーザーヘッドが適切な表面間距離にあることを確認できる。
【0143】
図11を参照すると、振動検知センサ74は、作業者によって保持されたレーザーヘッド3Dの振動を検知するものであり、例えば加速度センサであってもよい。さらに、本レーザーヘッド3Dは、レーザーヘッド本体を振動させる振動手段76を備えてもよい。振動手段は、振動モータ、一般のカメラなどに搭載される手ぶれ防止機構などを利用することができる。塗膜除去の作業時において、特定の部位にレーザー光30が連続して照射されると、その部位のみが深く掘削されてしまうおそれがある。制御部35は、振動検知センサ74の検出する振動の大きさが所定の基準より小さくなった場合は、振動手段76を用いて、レーザーヘッド本体3D又は走査光学系4を振動させることによって、レーザー光の照射点Pを細かく振り動かし、特定の部位を削り過ぎないようにすることが好ましい。
【0144】
さらに、制御部35は、表面間距離測定センサ75の表面間距離の測定に基づいて、所望の焦点の位置が得られていると判定した場合は、振動手段76又は操作部の表示装置によって、作業者に焦点が適切な位置にあることを知らせることもできる。さらに、制御部35は、測定された表面間距離に基づいて、焦点が所望の位置にないと判断された場合、レーザー光の照射を停止してもよい。アタッチメントが取付けられている場合、通常、作業者からはレーザー光の照射点が確認できない。作業者は、振動や表示によって最適位置を確認できるので好ましい。
【0145】
また、本実施形態では、ファイバ接続部41(レーザー射出コリメータ)が集光機能を有するように構成してもよい。一般に、コリメータは入射する光を平行光にする機能を有するものであるが、このコリメータに集光レンズを組込み、集束するレーザー光30を出射可能に構成することもできる。これによって、レーザーヘッドの小型化、低コスト化を実現することができる。また、ファイバ接続部41(レーザー射出コリメータ)は、ファイバの最終照射部材であるので、熱が蓄積されやすい。そこで、ファイバ接続部41の過熱を防止するため、周囲に冷却手段38を配してもよい。冷却手段38は、空冷でもよいし、水冷でもよい。冷却手段38として、筺体32内部に配設されたガス吹付手段34を利用し、このガス吹付手段34が、ガスホース12を介してガス供給源から圧送されるガスをファイバ接続部41に吹付けるように構成してもよい。さらに、ガス吹付手段34は、筺体内部をガス流(パージガス)で満たすことによって、照射点Pから生じる除去物が筺体内部に流入し、筺体内部及び走査光学系4の光学部材を汚染することを防ぐようにしてもよい。ガス吹付手段34は、前述したとおり、静電気対策手段としても利用することができ、静電気を除去可能なパージガス(例えば、イオンを含む)をレーザーヘッド内部に供給し、静電気を帯びた除去物から電荷を取り除くことができる。また、本実施形態では、ガス吹付手段34に代えて、又はガス吹付手段34に加えて、レーザー照射点から生じる除去物から走査光学系を防護するための遮蔽部材(図示省略)を設けてもよい。
【0146】
本実施形態の各種センサを有するレーザーヘッドを含むレーザー照射装置は、ネットワークを介して外部のサーバに接続してもよい。サーバは、各種センサによって取得された各種情報を格納し、各種情報に基づいてレーザー照射の諸条件を選択し、遠隔地にあるレーザー照射装置に最適の条件を指示することができる。以下、レーザー照射装置を備えるシステムについて説明する。
【0147】
[実施形態6]
図14は、第6の実施形態のレーザー照射システムの全体構成を示す概略図である。レーザー照射システムは、ネットワークを通じて、作業場所に配置されたレーザー照射装置と遠隔地に置かれたサーバとを相互に接続し、レーザー照射装置によって取得された塗膜状態の情報などに基づいて、レーザー照射条件を設定し、構造物表面の状態に応じた効率的な塗膜作業を実現するものである。
【0148】
本システムは、作業場所において使用される小型軽量のレーザーヘッド3を含むレーザー照射装置と、サーバとを備え、両者はネットワークを介して相互に接続される。レーザー照射装置において、作業場所において使用されるレーザーヘッド3は、統合ケーブル25(ファイバ2、吸引ホース8、ガスホース12、電力ケーブルを含む)を介して、作業場所の付近に配置されるビークル100に搭載される各種装置に接続される。ビークル100は、走行可能な車両であることが好ましいが、ほかに船舶、台船、レール又はケーブルを介して移動可能に構成された台車、遠隔操作により自律走行可能なプラットフォームを使用してもよい。ビークル100には、
図1と同様にレーザー発振器1、吸引源9及びガス供給源11が搭載されるほか、管理端末82、電源装置83などが搭載される。
【0149】
管理端末82は、レーザー照射装置を管理する端末であり、レーザーヘッド3に搭載された各種センサから情報を取得して表面の状態に関する情報(表面状態情報)を作成する機能、レーザー照射装置の保守管理に関する情報(以下、「装置管理情報」という)を作成する機能、レーザー照射条件を管理する機能、各種情報を表示する機能、ネットワークを介してサーバ84と通信する機能などを有する。管理端末82には、例えば、レーザーヘッド3の制御部、パーソナルコンピュータ等を採用することができる。電源装置83は、ビークル内の各装置及びレーザーヘッド3に電力を供給する。
【0150】
サーバ84は、複数のレーザー照射装置を管理するサーバであり、管理端末82からネットワーク90を介して取得した各種情報を格納する機能、表面状態情報等に基づいて作業場所や対象の表面に応じた効率的な塗膜除去のためのレーザー照射条件を設定する機能、かかる照射条件をネットワーク90を介して各レーザー照射装置に送信する機能、装置管理情報に基づいて各レーザー装置の保守管理する機能などを有する。
【0151】
また、本システムは、管理端末85を備えてもよい。管理端末85は、サーバ84を管理する端末であり、例えば、パーソナルコンピュータなどを採用することができる。管理端末85は、サーバ84に直接接続してもよいし、ネットワークを介してサーバ84及び管理端末82に接続してもよい。管理者らは、管理端末85を介してサーバ84及びレーザー照射装置の管理端末82にアクセスすることができる。
【0152】
ネットワーク90は、レーザー照射装置の管理端末82(又は図示しない通信装置)とサーバ84とを相互に通信可能な状態とするものであればよい。例えば、公衆電話網、ISDN(Integrated Service Digital Networkの略。デジタル総合サービス網とも呼ばれる。)、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)、CATV(Community Antenna TeleVision)網、光ファイバ網、無線LAN(Local Area Network)、CS(Communication Satellite)放送、移動電話網等を利用することができる。
【0153】
装置管理情報とは、例えば、レーザーヘッド3ほかの識別情報、形式、使用状況(使用日時、累積使用時間、使用頻度、使用条件、部品交換履歴)などを含む。表面状態情報とは、塗膜の状態に関する情報(塗膜の厚み、活膜の面積、錆、汚れの状態、密着度(水分))、母材(下地)の材質、対象表面の形状(平面、隅部、突起)、構造物の種別(橋梁、タンクなど)を含む。また、かかる表面状態情報には、当該表面を実際に塗膜除去した際のレーザー照射条件(レーザー出力、レーザー波長、焦点距離、デフォーカス量、スポット径、走査の態様(回転速度、走査速度)、エネルギー密度、除去量など)、レーザー照射後の構造物の表面に関する情報及び気象条件(気温、湿度など)を関連付けてもよい。
【0154】
本システムのサーバ84は、取得した表面状態情報及び/または過去のレーザー照射の実績に基づいて、作業場所毎の表面の状態に応じた適切なレーザー照射条件を選択し、選択されたレーザー照射条件を各レーザー照射装置に送信することができる。また、サーバ84は、表面状態情報をレーザー照射条件と関連付けてデータベースを作成する機能を有してもよい。また、サーバ84は、センサ群からの情報(アタッチメントの当接、表面間距離、表面状態など)に基づいて、レーザー照射装置に、レーザー光の照射を許可又は禁止する信号を送信する構成としてもよい。さらに、サーバ84は、各レーザー装置から取得した装置管理情報に基づいて、メンテナンスのタイミング、内容を通知したり、管理したりしてもよい。
【0155】
レーザー照射装置がサーバ84からレーザー照射条件を取得する方法としては、レーザー照射装置側の動作を契機とする構成であってもよいし、レーザー照射装置側の動作とは独立してサーバ84からレーザー照射条件をレーザー照射装置に提供してもよい。具体的には、表面状態情報の送信、作業者から入力された条件配布要求、レーザーヘッドの電源投入などのレーザー照射装置側の動作があった場合、サーバ84は、表面状態情報を取得し、かかる表面状態情報に基づいて適切なレーザー照射条件を選択し、選択した条件を作業場所のレーザー照射装置に送信する。また、サーバ84は、あらかじめ登録された識別情報などに基づいて、レーザー照射装置側の動作とは独立して、レーザー照射装置の管理端末82に格納された各種情報を取得し、それらに基づいて適切なレーザー照射条件を選択し、選択した条件をレーザー照射装置の管理端末82に格納してもよい。なお、上記説明においてはサーバ84がレーザー照射条件を送信する場合の説明をしたが、レーザー照射装置の管理端末82がサーバ84に格納されているレーザー照射条件を取得する構成を採用してもよい。
【0156】
管理端末82(又は制御部35)は、取得したレーザー照射条件に基づいて、照射装置の設定を自動的に行ってもよい。また、取得したレーザー照射条件を、例えば、管理端末82の表示部又はレーザーヘッド3の操作部36に表示してもよい。さらに、作業者が手動で各種設定を調整可能な構成にし、現場の状況の変化に応じてレーザー照射条件を適宜変更可能にしてもよい。なお、安全性の管理の面から、調整可能な範囲(出力の最大値等)を制限することが好ましい。
【0157】
また、管理者は、必要に応じて、表面状態情報やカメラによる目視観察の結果に基づいて、塗膜除去の等級を決定し、かかる等級を作業場所の作業者に通知してもよい。構造物の塗り替えに際しては、必要な塗膜除去の等級は、1種ケレン~4種ケレンとして分類される。例えば、1種ケレンでは、表面の塗膜、錆などを完全に除去し、金属光沢の鉄の地肌を完全に露出させる。2種ケレンでは、強固に付着した塗膜を除いて、他の塗膜、腐食物質、油脂、汚れ、その他異物質を取り除く。3種ケレンでは、錆や浮き塗膜を除去し、活膜は残す。構造物の塗り替えでは、2種ケレン、3種ケレンが一般的であるが、近年では、鋼材の塗膜劣化が著しい構造物に対して1種ケレンが採用されることも多い。
【0158】
このように、本実施形態によれば、サーバは、レーザーヘッドに搭載された各種センサによって検知された情報に基づいて、レーザー照射装置に塗膜除去に適したレーザー照射条件を選択指示することができる。
【0159】
[実施形態7]
本実施形態では、レーザー光の円状走査の他の一例を説明するものであり、集束するレーザー光を円形の軌跡となるように偏向した後に、光軸方向に再度偏向させることで、レーザー光の光路が光軸で交差するように照射する態様である。
【0160】
図15は、第7の実施形態のレーザーヘッドの例を示す概略構成図である。本レーザーヘッド3Eは、
図5に示した第3の実施形態のレーザーヘッド3Bとは、第1ウェッジプリズム43と第2ウェッジプリズム45とを支持部材44において固定して各プリズムに回転差が生じないように設けた点、及びレーザーの射出口50を光軸上に有するドーム型の遮蔽部材48を備える点で相違する。第7の実施形態のレーザーヘッド3Eにおいて、第3の実施形態のレーザーヘッド3Bと同様の構成には、同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0161】
本例では、第1ウェッジプリズム43と第2ウェッジプリズム45とは支持部材44によって支持され、駆動手段49からの駆動力によって、第1ウェッジプリズム43と第2ウェッジプリズム45とがともに(同一の回転速度で)光軸の周りを回転する。
【0162】
第1ウェッジプリズム43は、光軸Lに対して、レーザー光の光路を、回転中心(光軸L)から外側に向かう方向に偏向角θ1をもって偏向させる。次いで、第2ウェッジプリズム45は、偏向された光路Mに対して、レーザー光の光路を、回転中心(光軸L)に向かう方向に偏向角θ2をもって偏向させる(θ2>θ1)。本例では、光軸Lに対して一度外側に偏向させたレーザー光を再び内側へ偏向させるので、レーザー光は、一体となって回転する二つのプリズムの運動に従って、見かけ上、交差点Xで交差するものとなる。さらに換言すれば、本例は、光軸Lから角度(θ2-θ1)をもって交差点Xからレーザー光30を照射する構成である。
【0163】
このように本例によれば、レーザー光の交差点Xの位置に対応させて遮蔽部材48の射出口50を配置するので、遮蔽部材48における射出口を光軸上に小さく設定することができ、レーザー光を円形に照射しつつも、処理平面におけるレーザー光の照射点から生じる除去物がレーザーヘッド内部に侵入することを防ぐことができる。なお、本例において、プラス側(図において被処理表面の側)に第3のウェッジプリズムを備え、第3のウェッジプリズムを、第1及び第2のウェッジプリズムとは異なる回転速度で回転させてもよい。この場合、
図5に示すような円状走査の態様を実現することができる。なお、本実施形態は、レーザー照射点Pから生じる除去物を回収するように構成されていないが、除去物を周囲に飛散させたくない場合は、アタッチメント及び吸引手段をさらに設けてもよい。
【0164】
図16は、第7の実施形態のレーザーヘッドの他の例を示す概略構成図である。本例のレーザーヘッド3Fは、
図15に示したレーザーヘッド3Eに対する追加構成として、アタッチメント5及び吸引口33を有する吸引手段31を備えたものである。本例のレーザーヘッドによれば、レーザー光の照射点から生じる除去物からレーザーヘッドの光学系を防護するとともに、除去物を周囲に飛散させることなく回収することができる。
【0165】
[実施形態8]
本発明の一態様では、配管内部の付着物を除去する場合の変形例を説明する。本例では、平面の被処理表面に対してレーザー光を円状に照射するのではなく、配管内部の内径に合わせてレーザー光を円状に照射するものである。本例は特に原子炉の二次冷却用配管内の放射性物質を含む付着物を除去する用途に適する。
【0166】
図17は、第8の実施形態のレーザーヘッドの例を示す概略構成図である。本例のレーザーヘッド3Gは、ウェッジプリズム43、支持部材44、駆動手段49、ファイバ接続部41、吸引口33を有する吸引手段31、移動手段110を含む。本レーザーヘッド3Gは、径の小さい配管内に挿入して使用するため、できるだけ小型にすることが好ましく、ファイバ接続部41は、集光手段を用いずに出射端からそのまま高エネルギーのレーザー光を供給できることが好ましい。
【0167】
レーザーヘッド3Gの本体(41、43、44、49)は、配管20の内部を自動又は手動で走行可能な移動手段110Aに載置され、吸引手段31は、レーザーヘッド本体の進行方向に配置された移動手段110Bに載置される。移動手段110A及び110Bは、例えば、走行用のローラー112及び適当な駆動手段(図示省略)を有し、配管内部に沿って移動することができる。移動手段110A及び110Bは、遠隔操作により移動可能に構成されることが好ましい。
【0168】
また、移動手段110A及び110Bには、配管内部の表面に密着可能な封止手段114が設けられることが好ましい。封止手段は、ゴム又は樹脂のパッキン、ブラシなどによって構成される。これにより、移動手段110Aと移動手段110Bとの間の空間が閉鎖されるので、レーザー照射によって除去された有害な除去物などが飛散することを防ぐことができる。
【0169】
レーザーヘッド3Gは、移動手段110Aによって配管内を走行しつつ、配管20の内径に合わせてレーザー光30を円形に照射する。すなわち、そのレーザー光の照射点Pが配管の内径の1/2に対応する半径rの円の軌跡を描くように走査されるので、配管内部の付着物22を効率良く除去することができる。吸引手段31を載置する移動手段110Bは、レーザーヘッド本体を載置する移動手段110Aに合わせて走行し、レーザー光30の照射点から生じる除去物60は、吸引手段31によって回収される。
【0170】
図18は、第8の実施形態のレーザーヘッドの他の例を示す概略構成図である。本例のレーザーヘッド3Hは、ウェッジプリズムの代わりに反射ミラー43Bを用い、吸引手段31をレーザーヘッドの本体側に備える点で
図17に示した例とは相違する。反射ミラー43Bは、レーザーヘッドの先端部に設けられ、駆動手段49によって回転する。本レーザーヘッド3Hでは、ファイバ接続部(レーザー射出コリメータ)41から出射したレーザー光30は、回転する反射ミラー43Bによって所定の角度θで反射される。反射したレーザー光30は、レーザーヘッドの先端よりも後方に向かう。そのレーザー光の照射点Pは配管の内径の1/2に対応する半径rの円の軌跡を描くように走査されるので、配管内部の付着物22を効率良く除去することができる。レーザー光30の照射点から生じる除去物60は、移動手段110に載置された吸引手段31によって回収される。
【0171】
本例によれば、レーザーヘッドが配管内を走行可能であり、配管の内径に合わせてレーザー光の照射点を円形に走査可能であるので、従来は困難であった配管内の付着物の除去を効率良く安全に実施することができる。
【0172】
なお、
図17では、走査光学系として1個のウェッジプリズムを、
図18では、走査光学系として1個の反射ミラーを用いた構成を例示しているが、第8の実施形態のレーザーヘッドはかかる構成に限定されるものではない。
図17又は
図18のレーザーヘッドにおいて、他の実施形態の構成(例えば、
図1、
図3、
図5、
図8、
図15、
図16など)を組み合わせてもよい。
【0173】
[実施形態9]
本実施形態では、交換式光学ユニットを含むレーザーヘッドについて説明する。
図19(A)は、第9の実施形態のレーザーヘッドにおける交換式光学ユニットを含む走査光学系(連結時)の概略構成図であり、
図19(B)は交換式光学ユニットを取外したとき(分離時)の概略構成図である。本実施形態のレーザーヘッドの走査光学系は、少なくとも集束又は偏向する光学部材を含む交換式光学ユニット190と、少なくとも駆動手段49を含む本体部分191とを連結して構成されて(
図19(A)参照)、交換式光学ユニット190は、レーザーヘッドの本体部分191から簡易な操作で脱着可能に構成され(
図19(B)参照)、レーザー光の照射条件を簡単に変更することができる。
【0174】
交換式光学ユニット190は、各種の光学部材(例えば、ウェッジプリズム、集光レンズ、反射ミラーなどの一つ又は複数)を内部に含むユニットであり、交換式光学ユニット190の少なくとも一部又は全部が、駆動手段49から付与される駆動力によって回転可能とされている。
図19においては、レンズホルダ本体44A、レンズキャップ44B、ジョイントキャップ44Cなどを回転可能に保持する支持部材44から構成される。レンズホルダ本体44A内には各種の光学部材が格納されており、レンズキャップ44Bで前方を閉じられており、ジョイントキャップ44Cによって後方を閉じている。条件の変更が必要な光学部材について交換式光学ユニットに配置すればよく、その他の光学部材については本体部分191に配置してもよい。レンズキャップ44Bにはレーザー光が通過するための開口が設けられている。ジョイントキャップ44Cには、レーザー光が通過するための開口が設けられるとともに、本体部分191の連結部材49Bと係合し、駆動手段の回転力を伝達可能な構造となっている。このため、交換式光学ユニット190の少なくとも一部は、駆動手段49から付与される駆動力によって回転可能であるが、簡易な操作によって駆動手段49を含む本体部分191から切り離すことができ、レーザーヘッドから取外すことができる。
【0175】
また、交換式光学ユニット190の先端には、レーザー光を射出するレーザー射出口50が設けられる。交換式光学ユニット190から射出されるレーザー光は、レンズホルダ本体44Aに格納された各種光学部材によって例えば円状走査され、レーザー射出口50から被処理表面に向けて照射される。また、除去物が光学ユニット190内に侵入するのを防止するために、レーザー射出口50からガス供給源(図示省略)から供給されたガスを噴出してもよい。なお、レーザー射出口50ではなく、又はレーザー射出口50に加えてレーザー射出口50の周囲にガスの噴き出し口34Bを設け、ガス供給源(図示省略)から供給されたガスを噴出してもよい。さらに、交換式光学ユニット190には、レーザーポインタ(
図12に示す符号77)を配置し、レーザーポインタの孔(
図12に示す符号78)を設けてもよい。本体部分191は、駆動手段49である中空モータ49A、連結部材49Bなどから構成される。
【0176】
交換式光学ユニット190と本体部分191とを連結する方法としては、例えば、交換式光学ユニット190のジョイントキャップ44Cと、本体部分191の連結部材49Bとをフックなど介して固定し、駆動手段49による駆動力が、連結部材49B及びジョイントキャップ44Cを介して交換式光学ユニット190に伝達されるようにしてもよい。
【0177】
また、ジョイントキャップ44Cと、連結部材49Bとを回転運動を伝達可能に係合させた状態で支持部材44を本体部分191の筺体32に固定することで、交換式光学ユニット190を本体部分191に連結してもよい。この場合、支持部材44は本体部分191の筺体32に固定された状態で、レンズホルダ本体44Aがベアリングなどの摺動手段を介して支持部材44の内部で回転運動する構成とすることができる。なお、交換式光学ユニット190を本体部分191に連結する前に、追加の構成(レーザーポインタなど)を交換式光学ユニット190にあらかじめ取り付けることが好ましい。
【0178】
このように、本実施形態では、交換式光学ユニットを採用したので、目的(被処理物の種類、状態、大きさなど)に合わせた適宜のユニットを選択し、装着することによって、各種のレーザー光の照射態様を実現することができる。具体的には、1枚のウェッジプリズムを含むユニットを選択すれば、
図4に示すような円状走査を実現できる。2枚のウェッジプリズム(回転速度差あり)を含むユニットを選択すれば、
図6若しくは
図7に示す円環状走査を実現できる。2枚のウェッジプリズム(回転速度差なし)を含むユニットを選択すれば、
図15に示す円状走査を実現できる。
【0179】
さらに、偏向角度が段階的に異なるウェッジプリズムを含む複数のユニットのうちの適宜のユニットを選択することで、目的に応じた所望の半径rの円状走査を実現できる。また、走査光学系に焦点距離や偏向角度を変更可能に設けることにより、各種照射条件を変更してもよい。例えば、交換式光学ユニットを適宜変更して、偏向角度を変えることでほぼ同じ表面間距離で円状走査の大きさ(例えば、直径10cm、5cm、3cmなど)を変更することができ、焦点距離を変えることで所望の表面間距離が変わり、その結果、円状走査の大きさ(例えば、直径10cm、5cm、3cmなど)を変更することもできる。円状走査の大きさ(例えば、直径10cm、5cm、3cmなど)は、被処理表面の面積に応じて、広い面積の場合は大きな円状走査を利用し、狭隘部のような狭い面積に対しては小さな円状走査を利用してもよい。
【0180】
また、同じエネルギーのレーザー光を照射する場合、円状走査の大きさを変えると照射位置におけるエネルギー密度も変化する。このため、被処理表面に付与すべき所望のエネルギー密度に応じて、交換式光学ユニットを選択して円状走査の大きさを変更してもよい。また、使用するレーザー発振器の規定出力に応じて、円状走査の大きさを変更し、被処理表面に与えられるレーザー照射のエネルギー密度を加減することもでき、過剰なエネルギーを付与する虞が少ない。さらに、被処理表面の状態に応じて交換式光学ユニットを選択してもよく、例えば、表層の錆や浮き塗膜などを除去する3種ケレンを実施したい場合などは、レーザー照射のエネルギー密度が小さくなるように、大きな円状走査が可能な交換式光学ユニットを選択することができる。このように交換式光学ユニットとすることにより、光学部材の保守整備が容易となる。なお、本実施形態の交換式光学ユニットを含むレーザーヘッドにも、各種のアタッチメント(
図1又は
図11に示す符号5、
図8に示す符号5B、
図10に示す符号5Cなど)を取付けることができる。
【0181】
[実施例1]
本発明の一実施例として、以下のとおりレーザーヘッドを設計した。レーザーヘッドは、長さ43cmであり、直径7cmであり、重さ1400gである。第1及び第2のウェッジプリズムを有するレーザーヘッドにおいて、焦点距離を150mm、焦点でのビームスポット径を0.04mm(40μm)に設定した。レーザーヘッドに入力されるレーザー光は、連続発振型であり、平均出力は200W、波長は1070nmである。厚さ30~50μmの塗膜が形成された平面状の鋼板にアタッチメントを取付けたレーザーヘッドを当接し、当該鋼板の表面にレーザー光を略垂直に照射した。かかるレーザーヘッドを使用して、1時間当たり、8m2の作業効率で塗膜除去の処理が可能であった。
【0182】
[実施例2]
また、本発明の他の実施例として、交換式光学ユニットを採用したレーザーヘッドを設計した。
図20は、交換式光学ユニットを採用したレーザーヘッドの実施例の外観図である。
図20(A)(B)(C)(D)は、各々、かかるレーザーヘッドの側面図、上面図、先端側から観た斜視図、後端側から観た斜視図である。本レーザーヘッドは、長さ35cm、高さ8.5cm、幅6cmであり、重さ1.6kgである。交換式光学ユニット190は、集光レンズ、ウェッジプレート、保護ガラス(遮蔽部材の一部)を含んでおり、本体部分191に対して脱着可能であり、本体部分191の駆動手段と連結部材を介して駆動力を伝達可能なように接続される。
【0183】
図19を併せて参照して、交換式光学ユニット190のジョイントキャップ44Cは、本体部分191の連結部材49Bと回転運動を伝達可能に連結し、交換式光学ユニット190の外側の筺体44自体は本体部分191の筺体32に固定した。交換式光学ユニット190内の光学部材を格納したレンズホルダ本体44Aは、ベアリングを介して交換式光学ユニット190の筺体44の内側に沿って回転するように構成した。交換式光学ユニット190を本体部分191に取付ける際は、ジョイントキャップ44Cを連結部材49Bに係合させて交換式光学ユニット190を一方向に回しながら差し込む。交換式光学ユニット190を本体部分191から取り外す際は、交換式光学ユニット190を取付け時とは反対方向に回しながら引き出す。
交換式光学ユニット190は、長さ4cm、高さ8.5cm、幅6cmであり、1個のウェッジプリズムを含む場合、重さは200~300gである。
【0184】
以上説明したとおり、本発明の各実施形態によれば、構造物の表面においてレーザーの照射点を走査することによって、塗膜を短時間で効率的に除去することができる。また、アタッチメントの伸縮機構などにより、焦点の位置を適宜設定できるので、表面の状態に応じた照射エネルギー、スポット径などを選択できる。本発明によれば、従来のブラスト処理とは異なり、表面への物理的接触を伴わず、静粛なレーザーを使用するので、周辺環境への騒音の影響が少ない。また、本発明の一態様によれば、各種のアタッチメントを採用したことにより、従来の工法では処理することが困難であった入り組んだ箇所、突起物の周囲、狭隘部、配管内部などの塗膜、付着物を除去することができる。
【0185】
なお、第1の実施形態から第9の実施形態について説明したが、本発明の適用範囲は、それぞれの実施形態に限定されるものではない。例えば、複数の実施形態を組み合せることもできるし、各実施形態の一部構成(アタッチメント、遮蔽部材、吸引手段、走査光学系、レーザーポインタ及びその照射孔、ガス供給手段の供給口の構成など)を相互に組み合わせることもできる。
【符号の説明】
【0186】
1 レーザー発振器
2 ファイバ
3 レーザーヘッド
4 走査光学系
5 アタッチメント
7 センサ群
9 吸引源
11 ガス供給源
20 表面
30 レーザー光
31 吸引手段
32 筺体
33 吸引口
34 ガス吹付手段
35 制御部
36 操作部
38 遮蔽部材
100 ビークル