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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】衛生害虫の殺傷評価方法
(51)【国際特許分類】
   A01M 1/00 20060101AFI20240514BHJP
   A01M 1/14 20060101ALI20240514BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
A01M1/00 Q
A01M1/14 E
G01N33/48 N
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023020943
(22)【出願日】2023-02-14
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】507161983
【氏名又は名称】ITEA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】阪口 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】大河 佳代
(72)【発明者】
【氏名】太田 智子
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-343382(JP,A)
【文献】中国実用新案第201192035(CN,Y)
【文献】米国特許出願公開第2011/0016770(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/00-1/14
A01K 67/033
G01N 33/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面に粘着材を配置した基板を用い、前記基板の粘着材上に被検体である衛生害虫を所定数粘着させて配置する衛生害虫固定工程と、
前記粘着材上に固定された前記衛生害虫に対してストレスを負荷する処置を行うストレス付与工程と、
前記粘着材上に固定され前記ストレス付与工程を経た前記衛生害虫の動きを観察して、生存または死亡している衛生害虫を計数する計数工程とを含むことを特徴とする衛生害虫の殺傷評価方法。
【請求項2】
前記衛生害虫は節足動物であり、前記衛生害虫固定工程にて前記衛生害虫の脚が宙に浮くように固定し、前記計数工程は、前記衛生害虫の脚の動きを観察して行う、請求項1記載の衛生害虫の殺傷評価方法。
【請求項3】
前記基板の前記粘着材の周囲に高さ規定部材を配置し、前記衛生害虫固定工程の後、前記粘着材の上方を前記衛生害虫に接しない高さで覆うように保護シート又は保護ネットを前記高さ規定部材を介して配置し、次いで前記ストレス付与工程を行う、請求項1記載の衛生害虫の殺傷評価方法。
【請求項4】
前記ストレスは、前記保護シート又は保護ネットの上から、加熱手段によって加熱する処理である、請求項3記載の衛生害虫の殺傷評価方法。
【請求項5】
前記衛生害虫はダニ亜綱もしくはダニ目に属する生物である、請求項1~4のいずれか1項に記載の衛生害虫の殺傷評価方法。
【請求項6】
前記基板はスライドガラスであり、前記計数工程は、前記粘着材上に固定された衛生害虫の動きを顕微鏡下で観察して行う、請求項1~4のいずれか1項に記載の衛生害虫の殺傷評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダニ等の有害な衛生害虫に対する殺傷評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
日常の暮らしの中で、蚊、ハエ、ゴキブリ、ムカデ、カメムシなどの昆虫や、人に不快感を与えたり、刺して炎症を生じさせたり、触れただけで皮膚炎などの害を与えたり、あるいは衣類を食害する虫などのいわゆる生活害虫や、人と動物の疾病に関係する衛生害虫等は、古くから種々の対策が講じられるべき有害な衛生害虫とみなされている。
【0003】
また、ダニは人を刺して直接的な被害を与えるだけでなく、アレルゲンとなって、じんましん・皮膚炎・喘息・発熱などを発症することが知られている。例えば、生活環境に普通に存在する布団等の寝具には、ダニ類が生息するが、生体のみならず、死骸片、排泄物もアレルゲンになることが知られている。従って、このようなアレルギー対策の面からもダニへの有効な対策が望まれていた。
【0004】
このような問題について、例えば、文献1には、アレルギーの発生と密接に関係するダニ個体数を確実かつ困難性なく、しかも安価に計測できるダニ計数用シートを提供することを目的として、支持体とその片面に粘着剤層を備えてなる捕獲シートと、当該粘着剤層上に剥離再貼着可能に備えられ当該粘着剤層と同一もしくはそれよりも大きな平面積を有するシート状の透明なカバー材とからなり、前記カバー材もしくは捕獲シートに、格子が設けられたことを特徴とする微小動物計数用シートが開示されている。
【0005】
また、文献2には、ハウス栽培において粘着剤によって害虫を捕獲しようとすると、受粉作業に使用する蜜蜂などの大きな益虫も同時に捕獲してしまうという課題を解決するために、内面に粘着剤層を形成した捕獲容器の開口を、小さな害虫は通過して粘着剤層で捕獲できるが大きな益虫は通過できず粘着剤層に近づけないように網体で覆った害虫捕獲器が開示されている。
【0006】
また、文献3には、アトピー性皮膚炎、喘息等の原因とされるダニを捕獲して死に至らしめる新規なダニ捕獲マットを提供することを目的として、連続気泡及び/又は連通空間を有する基材に感圧粘着性樹脂を、含浸、スプレー又はロールコーティングにより、気泡または空隙を存在させたまま、かつ表面にフィルム状の皮膜を作らないように付与した捕獲マットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-204575号公報
【文献】特開2006-000086号公報
【文献】特開平11-169050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来技術は、ダニ等の有害な衛生害虫に対にする殺傷評価方法を提供するものではなかった。
【0009】
本発明の目的は、生活に密接に関連したダニ等の有害な衛生害虫に対し、駆除または排除に有効なストレスを与えてその効果を確認する衛生害虫の殺傷評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意検討した結果、基板上に粘着材を設けその上に被検体である衛生害虫を所定数粘着させて配置し、これに評価したいストレスを負荷したうえ、衛生害虫の動きを観察して生死を計数する手法が有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の衛生害虫の殺傷評価方法は、上面に粘着材を配置した基板を用い、前記基板の粘着材上に被検体である衛生害虫を所定数粘着させて配置する衛生害虫固定工程と、前記粘着材上に固定された前記衛生害虫に対してストレスを負荷する処置を行うストレス付与工程と、前記粘着材上に固定され前記ストレス付与工程を経た前記衛生害虫の動きを観察して、生存または死亡している衛生害虫を計数する計数工程とを含むものである。
本発明の衛生害虫の殺傷評価方法においては、前記被検体である衛生害虫は節足動物であり、前記衛生害虫固定工程にて前記衛生害虫の脚が宙に浮くように固定し、前記計数工程は、前記衛生害虫の脚の動きを観察して行うことが好ましい。
また、前記基板の前記粘着材の周囲に高さ規定部材を配置し、前記衛生害虫固定工程の後、前記粘着材の上方を前記衛生害虫に接しない高さで覆うように保護シート又は保護ネットを前記高さ規定部材を介して配置し、次いで前記ストレス付与工程を行うことが好ましい。
また、前記ストレスの1つとしては、前記保護シート又は保護ネットの上から、加熱手段によって加熱する処理が挙げられる。
更に、前記衛生害虫の1つとしては、ダニ亜綱もしくはダニ目に属する生物が挙げられる。
更に、前記基板はスライドガラスであり、前記計数工程は、前記粘着材上に固定された衛生害虫の動きを顕微鏡下で観察して行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、生活に密接に関連したダニ等の有害な衛生害虫に対し、駆除または排除に有効なストレスを与えてその効果を確認する衛生害虫の殺傷評価方法を提供することができる。また、与えるストレスは種々の態様を選択できるので、様々なストレスに対する効果を確認できる。さらに、使用する用具は、少なくとも基板と粘着材があればよいので、簡単な構成で、手軽に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は本発明にかかる方法の試験に用いる試験片の構成を示した斜視図である。
図2図2は展開用部材から被検体である衛生害虫を取り出す様子を示した斜視図である。
図3図3は展開用部材取り出したから被検体である衛生害虫を粘着材上に固定する様子を示した斜視図である。
図4図4は被検体である衛生害虫が粘着材上に整列されて固定された様子を示した斜視図である。
図5図5は粘着材の上方をメッシュ部材で覆った様子を示した斜視図である。
図6図6はストレスとして熱をメッシュ部材上から与えている様子を示した斜視図である。
図7図7は衛生害虫であるダニが足を宙に浮かせて固定されている様子を示した図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の衛生害虫の殺傷評価方法は、上面に粘着材を配置した基板を用い、前記基板の粘着材上に衛生害虫を所定数粘着させて配置する衛生害虫固定工程と、前記粘着材上に固定された前記衛生害虫に対してストレスを負荷する処置を行うストレス付与工程と、前記粘着材上に固定され前記ストレス付与工程を経た前記衛生害虫の動きを観察して、生存または死亡している衛生害虫を計数する計数工程とを含むものである。
【0015】
このように基板上に設けた粘着材に衛生害虫(以下「被検体」とも称する)を付着させて、評価したいストレスを負荷した後、死亡または生存している被検体の数を計数することで、簡単な構成で容易に被検体に対するストレスの効果を数値化して評価することができる。
【0016】
本発明に用いる基板としては、被検体の固定作業や観察に際して安定した強度、剛性を有し、その上に粘着材、必要により高さ規定部材を配置することができるものであれば、その材質や構造は特に規制されるものではない。
【0017】
一般に基板に使用可能な材質としては、ガラス、樹脂、金属、木片、厚紙等が挙げられる。具体的には、ガラスとしてはスライドガラスに使用されているソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラスなどが挙げられ、樹脂としては、樹脂スライドガラスに使用されているポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などが挙げられるが、そのほか塩化ビニル、アクリル、ポリアセタールコポリマーなどを用いてもよい。また、金属材料としては、アルミニウム、ステンレス、鉄、黄銅、銅、ニッケル、コバルトなどが挙げられるが、使いがっての良さ、入手のし易さからアルミニウム、ステンレスが好ましいい。これらの中でも、透過型光学顕微鏡で観察する場合など透過光が必要な場合はガラスや透光性樹脂等が好ましい。
【0018】
また、基板に光透過性が要求される場合には、可視光(400nm~760nm)の範囲の光透過率が70%以上、好ましくは80%以上、より好ましく90%以上あるとよい。
【0019】
基板の大きさとしては特に限定されるものではなく、被検体の大きさとの兼ね合いで決めればよい。具体的には、縦10~100mm、横10~150mm、厚さ0.5~5mmの範囲で調整すればよく、特にスライドガラスのサイズに近い縦20~30mm、横50~100mm、厚さ0.8~1.5mmにするとよい。基盤が厚すぎると取り扱いが困難になり、透光性の材料の場合光透過率が悪化してくる。
【0020】
本発明に用いる粘着材としては、評価する被検体に対するダメージが少なく、確実に被検体を固定できる程度の粘着力を有す物質であれば特に限定されるものではない。具体的にはアクリル系粘着剤、シリコーン粘着剤、ウレタン粘着剤、ゴム系粘着剤の中から被検体との相性の良いものを選択して用いるとよい。また、基板に光透過性が求められる場合には、粘着材にも同様な光透過性があるとよい。
【0021】
基板上に粘着材を配置する方法としては、塗布法により基材上に直接粘着材からなる粘着層を形成する方法、あるいはフィルム状、シート状の粘着材を基板に貼り付ける方法などが挙げられ、後者はさらにフィルム状シート状の基体の両面に粘着層が形成されているものを用いてもよい。
【0022】
フィルム状シート状の基体の両面に粘着層が形成されているものとしては、通常市販の両面テープが用いられる。このような両面テープとしては、スコッチ 超強力両面テープ プレミアゴールド(スリーエムジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0023】
被検体となる衛生害虫としては、節足動物に属するものが好ましく、中でも生活害虫、衛生害虫と称される昆虫類やムカデ類、鋏角亜門のクモガタ類などが好ましい。生活害虫、衛生害虫としてはハエ、蚊、ゴキブリなどが挙げられる。また、クモガタ類の中でもダニ亜綱もしくはダニ目に属する動物が好ましく、特に人の生活環境に密着している屋内性ダニ類のチリダニ科ヒョウヒダニ属のコナヒョウヒダニDermatophagoides farinaeとヤケヒョウヒダニD. pteronyssinus、ツメダニ科CheyletusホソツメダニCheyletus eruditusに対して好適である。
【0024】
本発明にかかる方法により評価するストレスとしては、例えば加熱、放射線照射、圧迫、薬剤などが挙げられる。これらストレスが衛生害虫に負荷されることで、その衛生害虫が殺傷ないし弱体化されうる。
【0025】
加熱によりストレスを与える場合、タンパク質が変性するか、酵素が不活性化して生体活動が退化乃至停止に至る温度以上であることが好ましい。具体的には、一般的なたんぱく質変性温度である60℃以上、好ましくは65℃以上、より好ましくは70℃以上である。その上限としては特に限定されるものではないが、用いる器材に悪影響を与えない温度であればよく、具体的には200℃以下、好ましくは100℃以下である。なお、加熱時間は使用する機器により調整するとよい。
【0026】
加熱によりストレスを与える手段としては、赤外線、遠赤外線、熱風などが挙げられる。具体的な機器としてはアイロン、ドライヤー、布団乾燥機などを用いることができる。
【0027】
放射線照射によりストレスを与える手段としては、電子線やガンマ線なども考えられるが、使いやすさの点で紫外線が好ましいい。紫外線としては、波長が10~400nmの範囲の光であり、被検体近傍の平面換算での照射量としては波長により異なるが例えば260nmの光の場合1mJ/cm2~100mJ/cm2の範囲が好ましい。
【0028】
薬剤によりストレスを与える手段としては、通常使用されている殺虫剤・殺ダニ剤が好ましく参照され得る。具体的には神経系、細胞内呼吸阻害系、細胞内呼吸阻害系、代謝系阻害系、神経および筋肉作用系などが挙げられ、神経系としては有機リン系、カーバメート系、ピレスロイド系、ネライストキシン系、ネオニコチノイド系、スルホキシイミン系、ブテノライド系、メソイオン系、マクロライド系、フェニルピラゾール系、Naチャンネル阻害剤などが挙げられる。細胞内呼吸阻害系としては電子伝達系I阻害剤、電子伝達系II阻害剤、電子伝達系III阻害剤、脱共役剤などが挙げられる。代謝系阻害としては、テトロン酸系およびテトラミン酸誘導体、ジハロプロペン系が挙げられる。神経および筋肉作用系としてはジアミド系が挙げられる。
【0029】
また、ダニに対しては特にピレスロイド系のフェノトリン、オキサジアゾール系メトキサジアゾン、ヒョウヒダニ類、 ケナガコナダニTyrophagus putrescentiae、ツメダニ類に対して有効なアミドフルメトも、評価するストレスとして好ましく参照され得る、その他メントール、次亜塩素酸、オゾンなども、評価するストレスとして有効である。このような殺ダニ剤の市販品として、例えばアース製薬株式会社製のダニアース、大日本除虫菊株式会社製のダニキンチョール、株式会社ナチュラルネットワーク製のダニフリースプレーなどが挙げられる。
【0030】
薬剤の付与方法としては、被検体に対して液体や紛体状の薬剤を、液体状まま付与するか、気化させて水蒸気状またはエアロゾル状体として付与するのが良い。なお、被検体がダニなどの衛生害虫である場合には、なるべく水分が少ない状態にして付与することが望ましい。
【0031】
上記ストレス付与工程の後、衛生害虫の生死を確認する手段としては、作業者が直接肉眼で、または顕微鏡などの拡大装置を介して衛生害虫の動きを観察し、動作の有無から生死を判断するとよい。また、この時針体、アクチュエーターなどの針状・棒状体を用いて被検体表面に接触するなどの刺激を与えるか、光を照射するなどして、反応の有無を確認してもよい。
【0032】
さらに、ダニを含む小型の節足動物の生死判別方法として脚の動きの有無を確認することで、生死を判断するとよい。この場合、前記粘着材に固定されるのは衛生害虫の脚が宙に浮いて自由に動作可能なように、体側から背側にかけての体表の一部で固定されるようにするとよい。
【0033】
本発明にかかる方法では被検体の生死確認は作業者による直接確認が推奨される。しかしながら、被検体を撮像した画像をプロセッサで処理して動作の有無を判断させることで、生死の判断結果を出力させてもよいし、AIを活用して生死判断させてもよい。
【0034】
本発明において、ある態様では、前記基板の前記粘着材の周囲に高さ規定部材を配置し、前記衛生害虫固定工程の後、前記粘着材の上方を前記衛生害虫に接しない高さで覆うように保護シート又は保護ネットを前記高さ規定部材を介して配置し、次いで前記ストレス付与工程を行うようにしてもよい。
【0035】
本発明において必要により使用される高さ規定部材としては、基板上に配置可能で、必要とされる所定の高さに、後述するシートないしメッシュを固定・保持可能であって、上記加熱機器などのストレス付与に必要な機器を載置した場合に上記所定の高さを維持できる強度を有するものであれば特に規制されるものではない。
【0036】
具体的には上記基板と同様な材料を用いることができる。また、シートないしメッシュを固定する場合には、上部に粘着層、接着層が形成されていることが好ましい。このような高さ規定部材としては、例えば両面テープが挙げられる。
【0037】
高さ規定部材の高さとしては、シートないしメッシュを被せたときに被検体に接触するか圧迫しない十分な高さであればよく、被検体の体高または最大厚みに足の長さを加えた高さに0.5mm~5mm程度加えた高さが好ましい。具体的な高さとしては被検体の大きさにもよるが0.6mm~20mm、好ましくは0.6mm~10mm、被検体がダニなどの小型の生物では0.6mm以上5mm未満、好ましく0.6mm以上4mm以下である。
【0038】
本発明において必要により使用される保護シート又は保護ネットとしては、基板上の被検体の上を覆うことが可能な大きさと、被検体に与えるストレスを遮蔽するか大きく減衰・減少させることがなく、上記加熱機器などのストレス付与に必要な機器を載置した場合に変形しない程度の強度を有するものであれば特に限定されるものではない。
【0039】
具体的には、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、特にPET延伸フィルム、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリカーボネート(PC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、メラミン樹脂(MF)、エポキシ樹脂(EP)、不飽和ポリエステル樹脂(UP)などが挙げられる。これらを必要な強度が保てる厚さに調整して用いるとよい。
【0040】
また、本発明方法において保護シート又は保護ネットのいずれを使用するかは、付与するストレスにより選択すればよい。例えば、熱ストレスや、薬剤によるストレスを付与する場合にはメッシュ等の保護ネットが好ましい。メッシュの目合は、熱ストレスや、薬剤の透過を妨げない大きさにすればよい。
【0041】
次に本発明にかかる方法を実施する具体的な手順について説明する。
まず準備段階として、被検体である衛生害虫を培養して、試験に際し必要な数を容易に確保できるようにするとよい。例えば、ダニの場合では、一般に餌を含む培地で培養する。このような培地としては、例えば実験動物飼育用粉末飼料と乾燥酵母を混合したもの等がある。培養に際しては、温度と湿度をダニが好む一定範囲に調整するとよい。
【0042】
次に、試験用の試験片を用意する。例えば図1に示すように試験片1は、基板2上に粘着材3が配置され、必要により粘着剤の周囲、少なくとも2か所、好ましくは4か所に高さ規定部材4が配置されているものである。
【0043】
次に、培地に含まれている被検体を個々に採取可能な状態に展開する。例えば、紙やフイルムシート状の展開用部材に被検体を拡散させて展開することで、個々に採取可能となる。具体的には、ダニの場合では培地の入った容器または培地を直接前記展開用部材の近く、またはその上下に配置すると、被検体である衛生害虫が活動して自力で展開用部材の表面に拡散していく。展開用部材の色としては、衛生害虫を確認しやすいように、コントラストが際立つ色彩であるとよい。例えば、衛生害虫がダニである場合、黒色または紺や濃緑色、暗赤色などの暗色系の色彩が好ましいい。
【0044】
上記の準備が整った後、試験に取り掛かる。先ず、第1の工程として、図2に示すように、前記展開用部材11から器具21を用いて衛生害虫9を取り出し、図3に示すように粘着材3上に衛生害虫9を1個体ずつ等間隔に固定していく、固定に際しては衛生害虫9の脚が宙に浮いて自由に動けるように固定する。通常節足動物の場合、腹部側に脚を有するので、背から体側にかけての領域が粘着材に接するように固定するとよい。
【0045】
このような作業を繰り返すことで、図4に示すように所定数の被検体を粘着材上に整列させて固定させることができる。整列させて固定することで、後で行う被検体の生死判断と計数工程が容易になる。整列させる被検体の数や、行および列の数は、試験の確度や作業の効率性などの観点から適宜決めればよい。
【0046】
展開用部材11から衛生害虫9を取り出す器具21としては、ピンセットなどの把持部材も用いることが可能であるが、衛生害虫9を把持したときに損傷を与える恐れがあるので、機械的外力が加わるような器具はなるべく避けるべきである。また、吸引具などを応用することも可能であるが、粘着材に付着させる作業が煩雑である。本発明方法では衛生害虫9が自力で付着できる棒状、筆状の器具が推奨される。特に筆は、多くの場合衛生害虫9が器具21である筆の毛先21aに対して脚により付着するため、結果的に衛生害虫の背側が外側を向き、そのまま粘着材に押し当てると、脚が宙に浮いた状態で固定することが可能である。
【0047】
次に、第2の工程として、図5に示すように必要により粘着材3上をシートまたはメッシュ31により覆う。この時、高さ規定部材4により、前記シートまたはメッシュ31が粘着材3上の被検体に接触しない高さに調整する。シートまたはメッシュ31はストレス試験の際に被検体に対して機械的外力が加わらないように保護するものであるから必要ない場合は用いなくてよい。
【0048】
次いで、第3の工程として、図6に示すように粘着材上に配置された被検体に対して所定のストレスを付与する。図示例では加熱手段として加熱装置40を用いて、所定時間一定温度を加えることで、ストレスを与えている。
【0049】
その後、第4の工程として、ストレスを付与後の被検体の生死を確認して、生存、または死亡した被検体の数を数える。これにより、ストレス付与効果を数値化することができる。被検体の生死確認としては、被検体である衛生害虫9の動きの有無から確認するとよい。特に節足動物、好ましくダニの場合、図7に示すように脚が宙に浮いた状態で固定されているため、脚の動きの有無から生死を判断することができる。その際、被検体に対して棒状体、針状体などを用いて体表に対して機械的刺激を加えるか、光などの刺激を加えることで、より確実に動作の有無を確認することができる。
【0050】
上記のように、本発明方法によれば簡単な構成の試験片を用いて極めて容易に被検体に付与されたストレスの効果を数値化させて確認することができる。
【実施例1】
【0051】
次に実施例を示して本発明にかかる方法をより具体的に説明する。
まず、準備段階として衛生害虫9としてチリダニ科ヒョウヒダニ属のコナヒョウヒダニDermatophagoides farinaeを培養した。培地として験動物飼育用粉末飼料と乾燥酵母を混合したものを用い、温度と湿度を27℃、75%に管理した樹脂製容器の中で十分な数が確保できるまで培養した。
【0052】
次に、培養容器から取り分けたダニ入り培地を展開用部材近傍に配置して、30分放置し、ダニが自力で這い出して試験に必要な数の個体になるよう展開用部材上に拡散させた。このとき、展開用部材にダニの誘引物質を配置してもよい。
【0053】
試験片として、図1に示すような試験片1を用意した。基板2には大きさ:26×76×1.5 mm角のスライドガラス(商品名:松浪硝子 スライドガラス S1214、)を用い、粘着材3には半透明な両面テープ(商品名:スコッチ 超強力両面テープ プレミアゴールド、幅:12 mm:スリーエムジャパン株式会社製)を25mmの長さに切断して用いた。また、高さ規定部材4には半透明両面テープ(商品名:スコッチ 超強力両面テープ プレミアゴールド、幅:12 mm、厚さ 1.1 mm:スリーエムジャパン株式会社製)を切断し重ねて用い、粘着材の周囲4か所に配置した。
【0054】
次に、図2に示すように展開用部材11上に拡散している衛生害虫9であるダニを器具21として筆を用いて採取した。ダニは器具21の毛先21aを近づけると、脚からこれに掴まるようにして付着した。
【0055】
次に、図3に示すように、衛生害虫9であるダニの付着した器具21を試験片1の粘着材3上に移動させて、所定の位置に付着させた。ダニは脚で毛先21aに付着しているので背側が外部を向き、そのままダニを粘着材に接触させると、ダニの背面が粘着材に付着して脚が宙に浮いた状態で固定することができた。
【0056】
同様の作業を繰り返すことで、図4に示すように、約1mm間隔で10列5行のマス目状にダニ約50個体を配置することができた。この時、配置されたダニの生存を全数確認した。同様にしてサンプル1~3の試験片1を調整したが、サンプルへのダメージを極力少なくするために、各サンプル作製後は速やかに以下の評価試験を行った。また、同様の比較サンプル1~3の試験片1を対照試験用に調整し、上記同様速やかに以下に示す確認作業を行った。
【0057】
次に、図5に示すように粘着材の上にナイロン樹脂製の厚さ0.5mm目合のメッシュ31を配置し、高さ規定部材4に固定した。このメッシュ31は、被検体である衛生害虫9がストレスを与える機器に接触して損傷しないように保護する目的で配置するものであるから、必要ない場合は省略してもよい。
【0058】
次に被検体に加熱ストレスを与えるべく、試験片1の粘着材にむらなく蒸気が付与されるようにメッシュ上に直接衣類スチーマー(CSI-RX1:株式会社日立製作所)を載置し、10秒間スチーム処理を行った。
【0059】
ストレス処理終了後、試験片1を透過式光学顕微鏡(株式会社ニコン製、商品名:LABOPHOTO―2)にセットし、倍率4×10=40倍にて顕微鏡下において被検体を観察し、生存している個体と死亡している個体とを計数することで死ダニ率を求めた。生死の確認の際には、動作の有無および個体が破損しているなどの明らかな死骸の認定で行い、動きが見られないものは針体にて個体を刺激して動作の有無を確認した。また、対照試験用の試験片についても同様に確認した。確認された死ダニ数を総ダニ数で除した百分率を死ダニ率(%)とした。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1から明らかなように、本発明方法を用いることで、衛生害虫9に対するストレスの効果が数値で示され、客観的な評価が行えることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の方法は、ダニの駆除、または減少に役立つストレスを評価する上で有用である。また、ダニ以外にも、蚊、ハエ、ゴキブリ、ムカデ、カメムシなどの生活害虫や、人と動物の疾病に関係する衛生害虫などに対するストレス評価にも有効である。
【符号の説明】
【0063】
1 試験片
2 基板
3 粘着材
4 高さ規定部材
9 衛生害虫(被検体)
【要約】      (修正有)
【課題】生活に密接に関連したダニ等の有害な衛生害虫に対し、駆除または排除に有効なストレスを与えてその効果を確認する衛生害虫の殺傷評価方法を提供する。
【解決手段】上面に粘着材3を配置した基板2を用い、基板の粘着材上に被検体である衛生害虫9を所定数粘着させて配置する衛生害虫固定工程と、衛生害虫に対して殺傷または弱体化しうるストレスを加える処置を行うストレス付与工程と、粘着材上に固定された衛生害虫の動きを観察して、生存している衛生害虫を計数する計数工程とを含む構成の衛生害虫の殺傷評価方法とした。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7