(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】抗メソテリンscFvを含むキメリック抗原受容体及びその用途
(51)【国際特許分類】
C07K 16/30 20060101AFI20240514BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240514BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240514BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240514BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240514BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240514BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240514BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240514BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240514BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240514BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240514BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C07K16/30 ZNA
C07K19/00
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12P21/08
A61K35/17
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2023534124
(86)(22)【出願日】2022-05-25
(86)【国際出願番号】 KR2022007425
(87)【国際公開番号】W WO2022250450
(87)【国際公開日】2022-12-01
【審査請求日】2023-06-05
(31)【優先権主張番号】10-2021-0067904
(32)【優先日】2021-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521443531
【氏名又は名称】セレンジーン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】アン, ジェ ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ハン, ナ ギョン
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/153605(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/043152(WO,A1)
【文献】特表2018-529327(JP,A)
【文献】特表2017-500869(JP,A)
【文献】特表2020-519295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1によってなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号2によってなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号3によってなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域と、
配列番号4によってなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号5によってなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号6によってなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む、抗メソテリン抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
配列番号7によってなるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む、請求項1に記載の抗メソテリン抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
配列番号8によってなるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、請求項1に記載の抗メソテリン抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
配列番号7によってなるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号8によってなるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、請求項1に記載の抗メソテリン抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片をコーディングする、分離された核酸。
【請求項6】
請求項5に記載の分離された核酸を含む、ベクター。
【請求項7】
請求項6に記載のベクターによって形質転換された、分離された宿主細胞。
【請求項8】
請求項7に記載の宿主細胞を培養し、抗体を発現させる段階を含む、抗メソテリン抗体を製造する方法。
【請求項9】
抗原結合ドメイン、ヒンジ(hinge)ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内信号伝逹ドメインを含むキメリック抗原受容体であって、
前記抗原結合ドメインは、配列番号1によってなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号2によってなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号3によってなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3を含む重鎖可変領域と、
配列番号4によってなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号5によってなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号6によってなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む、抗メソテリン抗体またはその抗原結合断片である、キメリック抗原受容体。
【請求項10】
前記抗原結合ドメインは、配列番号7によってなるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号8によってなるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む抗メソテリン抗体またはその抗原結合断片である、請求項9に記載のキメリック抗原受容体。
【請求項11】
前記抗原結合断片は、scFv(single chain variable fragment)である、請求項9に記載のキメリック抗原受容体。
【請求項12】
請求項9に記載のキメリック抗原受容体をコーディングする、ポリヌクレオチド。
【請求項13】
請求項12に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項14】
請求項13に記載のベクターによって形質転換された、分離された細胞。
【請求項15】
前記細胞は、T細胞、NK細胞、NKT細胞またはγδT細胞(gamma delta T細胞)である、請求項14に記載の分離された細胞。
【請求項16】
請求項15に記載の分離された細胞を含む癌の予防用または治療用の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メソテリンに特異的に結合する抗メソテリンキメリック抗原受容体及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、免疫チェックポイント抑制剤、CAR-T細胞治療剤のような免疫抗癌剤が、多様な癌において効果を立証しているが、固形癌は、そのような新たな形態の免疫抗癌剤にも、治療効率に大きく反応が示されていないと報告されている。それは、腫瘍を取り囲んだ線維組織が免疫治療反応を妨害し、薬物伝達が困難であるためであると推定される。従って、特異的であり、さらに効果的なCAR-T癌治療方法として、固形癌細胞表面に特異的に過発現されるタンパク質を、癌抗原として標的とする抗体を開発し、それを利用し、効果的に固形癌を治療することができる方法に係わる研究の必要性が注目されてきている。
【0003】
一方、メソテリンは、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)ドメインにより、細胞表面に、アンカリングされた糖タンパク質であり、人体の腔(cavity)と内部器官とを取り囲む中皮(mesothelium)に制限的に低く発現するということが正常であるが、膵臓癌、中皮腫、卵巣癌、非小細胞性肺癌のような癌において、多くの量で発現されると知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一態様は、抗メソテリン抗体またはその抗原結合断片を提供するものである。
【0005】
他の態様は、前記抗メソテリン抗体またはその抗原結合断片をコーディングする分離された核酸を提供するものである。
【0006】
さらに他の態様は、前記分離された核酸を含むベクターを提供するものである。
【0007】
さらに他の態様は、前記ベクターによって形質転換された分離された宿主細胞を提供するものである。
【0008】
さらに他の態様は、前記分離された宿主細胞を培養し、抗体を発現させる段階を含む抗メソテリン抗体を製造する方法を提供するものである。
【0009】
さらに他の態様は、抗原結合ドメイン、ヒンジ(hinge)ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内信号伝逹ドメインを含むキメリック抗原受容体を提供するものである。
【0010】
さらに他の態様は、前記キメリック抗原受容体をコーディングするポリヌクレオチドを提供するものである。
【0011】
さらに他の態様は、前記ポリヌクレオチドを含むベクターを提供するものである。
【0012】
さらに他の態様は、前記ベクターによって形質転換された分離された細胞を提供するものである。
【0013】
さらに他の態様は、前記分離された細胞を含む薬学的組成物、前記細胞の医薬的用途、及び治療学的有効量の前記細胞を個体に投与する段階を含む、癌を予防または治療する方法を提供するものである。
【0014】
本出願の他の目的及び利点は、添付された特許請求の範囲及び図面と共に、下記の詳細な説明により、さらに明確になるであろう。本明細書に記載されていない内容は、本出願の技術分野内、または類似した技術分野内の当業者であるならば、十分に認識して類推することができるものであるので、その説明を省略する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本出願で開示されたそれぞれの説明及び実施例は、それぞれの他の説明及び実施例にも適用される。すなわち、本出願で開示された多様な要素の全ての組み合わせが、本出願の範疇に属する。また、下記のところで記述された具体的な敍述により、本出願の範疇が制限されるとすることはできない。
【0016】
一態様は、抗メソテリン抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0017】
前記「メソテリン(MSTL:mesothelin)」は、総アミノ酸長が630aaである細胞表面糖タンパク質であり(NCBI Gene ID:10232)、一部細胞、特に、特定腫瘍細胞において選択的に発現され、下記に、メソテリンタンパク質のアミノ酸配列を示した。
MALPTARPLLGSCGTPALGSLLFLLFSLGWVQPSRTLAGETGQEAAPLDGVLANPPNISSLSPRQLLGFPCAEVSGLSTERVRELAVALAQKNVKLSTEQLRCLAHRLSEPPEDLDALPLDLLLFLNPDAFSGPQACTRFFSRITKANVDLLPRGAPERQRLLPAALACWGVRGSLLSEADVRALGGLACDLPGRFVAESAEVLLPRLVSCPGPLDQDQQEAARAALQGGGPPYGPPSTWSVSTMDALRGLLPVLGQPIIRSIPQGIVAAWRQRSSRDPSWRQPERTILRPRFRREVEKTACPSGKKAREIDESLIFYKKWELEACVDAALLATQMDRVNAIPFTYEQLDVLKHKLDELYPQGYPESVIQHLGYLFLKMSPEDIRKWNVTSLETLKALLEVNKGHEMSPQAPRRPLPQVATLIDRFVKGRGQLDKDTLDTLTAFYPGYLCSLSPEELSSVPPSSIWAVRPQDLDTCDPRQLDVLYPKARLAFQNMNGSEYFVKIQSFLGGAPTEDLKALSQQNVSMDLATFMKLRTDAVLPLTVAEVQKLLGPHVEGLKAEERHRPVRDWILRQRQDDLDTLGLGLQGGIPNGYLVLDLSMQEALSGTPCLLGPGPVLTVLALLLASTLA(配列番号9)
【0018】
メソテリンは、正常中皮細胞(mesothelial cells)においては、低い発現を示すが、固形癌(固形腫瘍)において高く発現され、食道癌(esophageal cancer)、乳癌(breast cancer)、三重音声乳癌(TNBC:triple-negative breast cancer)、胃癌(gastric cancer)、胆管癌(cholangiocarcinoma)、膵臓癌(pancreatic cancer)、大腸癌(colon cancer)、肺癌(lung cancer)、胸腺癌(thymic carcinoma)、中皮腫(mesothelioma)、卵巣癌(ovarian cancer)、子宮内膜癌(endometrial cancer)、子宮頸部癌(cervical cancer)、子宮漿液性癌腫(USC:uterine serous carcinoma)及び小児急性骨髄性白血病(AML:acute myeloid leukemia)などにおいて、過発現が確認された(Cancer Discov. 2016 Feb; 6 (2): 133-46.; J Reprod Immunol. 2020; 139: 103115.; Gynecol Oncol. 2007; 105 (3): 563-570; Eur J Haematol. 2007; 79 (4): 281-286)。
【0019】
一実施例においては、ファージディスプレイ抗体ライブラリーパンニングを介し、標的抗原であるメソテリンに特異的に結合する抗体として、MSLN3を発掘した。
【0020】
本明細書において用語「抗体」とは、抗原に選択的に作用し、生体免疫に関与するタンパク質の総称を言うものであり、その種類は、特別に制限されるものではない。抗体の重鎖と軽鎖は、可変領域を含むエピトープを認識する抗原結合部位を有しており、該可変領域の配列変化により、抗原特異性が示されることになる。該抗原結合部位の可変領域は、可変性が少ない構造領域(FR:framework region)と、可変性が大きい相補性決定領域(CDR:complementarity determining region)とに分けられ、重鎖と軽鎖とのいずれも、CDR1,2,3に分けられる3個のCDR部位と、4個のFR部位とを有する。それぞれの鎖のCDRは、典型的に、N末端から始マリ、順次に、CDR1、CDR2、CDR3と命名され、また特定CDRが位置している鎖によって識別される。
【0021】
本明細書において用語「相補性決定領域」とは、抗体の可変領域において、抗原との結合特異性を付与する部位を意味する。
【0022】
本明細書において用語「エピトープ」とは、抗体が特異的に結合することができる抗原分子内の特定立体分子構造を意味する。
【0023】
前記抗体は、単一クローン抗体、多特異的抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメリック抗体(例えば、ヒト化ミューリン抗体)をいずれも含む。また、前記抗体は、ディアボディ、トリアボディ及びテトラボディを含むことができる。
【0024】
本明細書で抗体とは、抗原結合能を保有した抗体の「抗原結合断片」または「抗体断片」を含む。前記抗原結合断片は、相補性決定領域を1以上含む抗体断片、例えば、scFv、(scFv)2、scFv-Fc、Fab、Fab’及びF(ab’)2によってなる群のうちから選択されるものでもある。抗体断片においてFabは、軽鎖及び重鎖の可変領域、軽鎖の不変領域、並びに重鎖の最初不変領域(CH1)を有する構造であり、1個の抗原結合部位を有する。Fab’は、重鎖CH1ドメインのC末端に、1以上のシステイン残基を含むヒンジ領域(hinge region)を有するという点において、Fabと違いがある。F(ab’)2抗体は、Fab’のヒンジ領域のシステイン残基が、ジスルフィド結合をなしながら生成される。Fvは、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のみを有している最小の抗体断片である。二本鎖Fv(two-chain Fv)は、非共有結合でもって、重鎖可変領域と軽鎖可変領域とが連結されている。一本鎖Fv(scFv:single-chain Fv)は、一般的に、ペプチドリンカを介し、重鎖の可変領域と軽鎖の可変領域とが共有結合で連結されるか、あるいはC末端において、直に連結されており、二本鎖Fvと共にダイマーのような構造をなすことができる。
【0025】
一態様の抗メソテリン抗体またはその抗原結合断片は、配列番号1によってなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号2によってなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号3によってなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、及び配列番号4によってなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号5によってなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、配列番号6によってなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含むことを特徴とするものでもある。
【0026】
前記抗メソテリン抗体またはその抗原結合断片は、配列番号7によってなるアミノ酸配列と、80%以上の配列相同性(sequence homology)、望ましくは、90%以上の配列相同性、さらに望ましくは、95%以上の配列相同性、さらに一層望ましくは、100%の相同性を有する配列を含む重鎖可変領域を含むことを特徴とするものでもある。
【0027】
前記抗メソテリン抗体またはその抗原結合断片は、配列番号8によってなるアミノ酸配列と、80%以上の配列相同性(sequence homology)、望ましくは、90%以上の配列相同性、さらに望ましくは、95%以上の配列相同性、さらに一層望ましくは、100%の相同性を有する配列を含む軽鎖可変領域を含むことを特徴とするものでもある。
【0028】
前記抗メソテリン抗体またはその抗原結合断片は、配列番号7によってなるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号8によってなるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含むことを特徴とするものでもある。
【0029】
一具体例において、前記抗メソテリン抗体またはその抗原結合断片は、配列番号7によってなるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号8によってなるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む抗メソテリンscFvでもある(抗MSLN3 scFv)。
【0030】
前記一態様による抗体またはその抗原結合断片は、メソテリンを特異的に認識することができる範囲内において、本明細書に記載された抗メソテリン特異的結合抗体の配列だけではなく、その生物学的均等物も含むものでもある。例えば、抗体の結合親和度及び/またはその他生物学的特性をさらに一層改善させるために、抗体のアミノ酸配列にさらなる変化を与えることができる。
【0031】
例えば、前記抗体は、保存的置換を介し、抗体のアミノ酸配列が置換されうる。ここで、「保存的置換」とは、1個以上のアミノ酸を、当該ポリペプチドの生物学的または生化学的な機能の損失を引き起こさない類似した生化学的特性を有するアミノ酸で置換することを含むポリペプチドの変形を称する。該「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基を、類似した側鎖を有するアミノ酸残基で代替させる置換である。類似した側鎖を有するアミノ酸残基部類は、当業界に規定されている。それら部類は、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、帯電されていない極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β-分枝された側鎖を有するアミノ酸(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含む。一態様による抗体が、保存的アミノ酸置換を介し、抗体の一部アミノ酸配列が置換されても、依然として本来の活性を保有することができると予想することができる。
【0032】
前述の生物学的均等活性を有する変異を考慮するならば、一態様の抗体、またはそれをコーディングする核酸分子は、配列番号に記載された配列と実質的な同一性(substantial identity)を示す配列も含むと解釈される。前述の実質的な同一性は、前記配列と、任意の他の配列とを、できる限り対応させるようにアライン(align)し、当業界において一般的に利用されるアルゴリズムを利用してアラインされた配列を分析した場合、最小61%の相同性、さらに望ましくは、70%の相同性、さらに一層望ましくは、80%の相同性、さらに一層望ましくは、90%の相同性、さらに一層望ましくは、95%の相同性、最も望ましくは、98%の相同性を示す配列を意味する。配列比較のためのアラインメント方法は、当業界に公知されている。
【0033】
他の態様は、前記抗体またはその抗原結合断片をコーディングする分離された核酸を提供する。
【0034】
本明細書において用語「核酸」は、DNA分子及びRNA分子を包括的に含む意味であり、核酸において基本構成単位であるヌクレオチドは、自然のヌクレオチドだけではなく、糖部位または塩基部位が変形された類似体(analogue)も含む。一態様の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域をコーディングする核酸の配列は、変形されうる。前記変形は、ヌクレオチドの追加、欠失、あるいは非保存的置換または保存的置換を含む。
【0035】
前記核酸は、前記核酸のヌクレオチド配列に対し、て実質的な同一性を示すヌクレオチド配列も含むと解釈される。該実質的な同一性は、一態様のヌクレオチド配列と、任意の他の配列とを、できる限り対応させるようにアライン(align)し、当業界において一般的に利用されるアルゴリズムを利用してアラインされた配列を分析した場合、最小80%の相同性、さらに望ましくは、最小90%の相同性、最も望ましくは、最小95%の相同性を示すヌクレオチド配列を意味する。
【0036】
さらに他の態様は、前記分離された核酸を含むベクターを提供する。
【0037】
前記ベクターは、適切な宿主細胞(host cell)における抗体またはその抗体断片の発現のために、部分的であるか、あるいは全長である軽鎖及び重鎖をコーディングするDNAを、標準分子生物学技術(例えば、PCR増幅、または目的抗体を発現するハイブリドーマを使用したcDNAクローニング)によって得ることができ、DNA(遺伝子)挿入物が発現されうるように、作動自在に連結された必須な調節要素を含むものでもある。「作動自在に連結された(operably linked)」とは、一般的機能を遂行するように、核酸発現調節配列と、目的とするタンパク質またはRNAをコーディングする核酸配列とが機能的に連結(functional linkage)されていることであり、発現調節配列により、遺伝子が発現されうるように連結されたことを意味する。
【0038】
前記「発現調節配列(expression control sequence)」とは、特定の宿主細胞における作動自在に連結されたDNA配列の発現を調節するDNA配列を意味する。そのような調節配列は、転写を実施するためのプローモーター、転写を調節するための任意のオペレーター配列、適切なmRNAリボソーム結合部位をコーディングする配列、転写及び解読の終結を調節する配列、開始コドン、終結コドン、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサなどを含む。当業者であるならば、形質転換させる宿主細胞の選択、タンパク質の発現レベルのような因子により、調節配列を異ならせて選択し、発現ベクターのデザインが異なりうることを認識することができる。
【0039】
前記ベクターは、クローニングと抗体製造との分野において、一般的に使用されるベクターであるならば、その種類が特別に制限されるものではなく、その例としては、プラスミドベクター、コスミドベクター、バクテリオファージベクター及びウイルスベクターなどを含むが、それらに制限されるものではない。前記プラスミドには、大腸菌由来プラスミド(pBR322、pBR325、pUC118及びpUC119、pET-21b(+))、バチルス・サブチルス由来プラスミド(pUB110及びpTP5)、並びに酵母由来プラスミド(YEp13、YEp24及びYCp50)などがあり、前記ウイルスは、レトロウイルス、アデノウイルスまたはワクシニアウイルスのような動物ウイルス;バキュロウイルスのような昆虫ウイルスなどが使用されうる。ファージディスプレイなどに一般的に使用されるpComb3系のベクターを使用することもでき、抗体を哺乳類細胞で発現させるために、哺乳類細胞でタンパク質を発現するために、一般的に使用されるベクター、例えば、pcDNAやpVITROのようなベクターを使用することができる。
【0040】
さらに他の態様は、前記ベクターによって形質転換された分離された宿主細胞を提供する。
【0041】
本明細書において用語「形質転換(transformation)」は、本来の細胞が有していたものと異なる種類の外来遺伝子が、あるDNA鎖断片またはあるプラスミドが細胞間に浸透され、本来細胞に存在したDNAと結合することにより、細胞の遺伝形質を変化させる分子生物学的技術を意味する。前記ベクターは、宿主細胞に、形質注入またはトランスフェクション(transfection)される。形質注入またはトランスフェクションを行わせるために、原核宿主細胞内または真核宿主細胞内に、外因性核酸(DNAまたはRNA)を導入させるのに、通常使用されるさまざまな種類の多様な技術、例えば、電気泳動法、リン酸カルシウム沈澱法、DEAE・デキストラントランスフェクションまたはリポフェクション(lipofection)などを使用することができる。
【0042】
一態様による抗体またはその抗原結合断片は、バクテリア(E.coli)や酵母(yeast)のような微生物、または哺乳類細胞への適用可能性を考慮し、真核細胞、望ましくは、哺乳類宿主細胞で発現されうる。前記哺乳類宿主細胞は、例えば、中国ハムスター卵巣(CHO:Chinese hamster ovary)細胞、NSO骨髄腫細胞、COS細胞、SP2細胞、F2N細胞、HEK293細胞及び抗体生産ハイブリドーマ細胞によってなる群のうちから選択されたいずれか一つでもあるが、それらに制限されるのではない。
【0043】
さらに他の態様は、前記分離された宿主細胞を培養し、抗体を発現させる段階を含む抗メソテリン抗体を製造する方法を提供する。
【0044】
前記方法は、一態様の抗体またはその抗原結合断片を生産するための宿主細胞を、前記抗体またはその抗原結合断片を暗号化するDNAが作動自在に連結されたベクターによって形質転換する段階を含むものでもある。選択された宿主細胞と組み換え発現ベクターの種類は、前述のようであり、適切な形質転換方法を選択し、本段階を実施することができる。前記抗体遺伝子をコーディングする組み換え発現ベクターが、哺乳類宿主細胞内に導入される場合、抗体は、宿主細胞で抗体が発現されるようにするに十分な期間の間、またはさらに望ましくは、宿主細胞が培養される培養培地内に抗体が分泌されるようにするに十分な期間の間、宿主細胞を培養することによっても製造されえる。
【0045】
また、前記方法は、さらには、前記形質転換された分離された宿主細胞を培養し、宿主細胞に導入された組み換え発現ベクターから、一態様による抗体またはその抗原結合断片のポリペプチドが生産されるようにする段階を含むものでもある。選択された宿主細胞を培養するための培地組成、培養条件や培養時間などを適切に選択することができ、宿主細胞で生産される抗体分子は、細胞の細胞質内に蓄積されるか、あるいは適切な信号配列により、細胞外部または培養培地に分泌されるか、あるいはペリプラズムなどに標的化されるようにさせるのである。また、一態様による抗体が、メソテリンに対する結合特異性を維持するように、当業界に公知されている方法を利用し、タンパク質リフォールディングさせ、機能性構造を有するようにさせるのである。また、IgG形態の抗体を生産する場合、重鎖と軽鎖は、別個の細胞で発現させ、別途の段階において、該重鎖と該軽鎖とを接触させ、完全な抗体を構成するように製造することもでき、該重鎖と該軽鎖とを同一細胞で発現されるようにし、細胞内部において、完全な抗体を形成するようにすることもできる。
【0046】
また、前記方法は、分離された宿主細胞で生産された抗体またはその抗原結合断片を得る段階を追加して含むものでもある。該宿主細胞で生産された抗体またはその抗原結合断片のポリペプチドの特性、宿主細胞の特性、発現方式、またはポリペプチドの標的化いかんなどを考慮し、得る方法を適切に選択及び調節することができる。例えば、培養培地に分泌された抗体またはその抗原結合断片は、宿主細胞を培養した培地を得て、遠心分離して不純物を除去するというような方法でもって、抗体を回収することができ、必要によっては、細胞内特定小器官や細胞質に存在する抗体を細胞外部に放出させて回収するために、抗体またはその抗原結合断片の機能的構造に影響を及ぼさない範囲において、細胞を溶解させることもできる。
【0047】
得られた抗体は、クロマトグラフィ、フィルタなどによる濾過、透析のような方法を介し、不純物をさらに除去して濃縮する過程を追加して経るのである。得られた抗体の分離または精製は、通常のタンパク質で使用されている分離方法、精製方法、例えば、クロマトグラフィによっても行われる。前記クロマトグラフィは、例えば、タンパク質Aカラム・タンパク質Gカラム・タンパク質Lカラムを含む親和性クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィまたは疎水性クロマトグラフィを含むものでもある。前記クロマトグラフィ以外に、さらには、濾過、超濾過、塩析、透析などを組み合わせることにより、抗体を分離、精製することができる。
【0048】
さらに他の態様は、抗原結合ドメイン、ヒンジ(hinge)ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内信号伝逹ドメインを含むキメリック抗原受容体を提供する。
【0049】
前記キメリック抗原受容体は、メソテリンに特異的に結合することを特徴にするので、メソテリンに特異的に結合する抗原結合ドメインを含む。
【0050】
前記抗原結合ドメインは、配列番号1によってなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号2によってなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、配列番号3によってなるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、及び配列番号4によってなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号5によってなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、配列番号6によってなるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含むものでもあるが、それらは、一態様による抗メソテリン抗体またはその抗原結合断片と同一であるので、重複説明は、省略する。
【0051】
本明細書において用語「キメリック抗原受容体(CAR:chimeric antigen receptor)」は、抗原結合(認識)ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内信号伝逹ドメインが含まれ、キメリック抗原受容体の構造をなしているものを意味する。
【0052】
一具体例において、前記抗原結合断片は、scFv(single chain variable fragment)でもある。
【0053】
前記キメリック抗原受容体に含まれるヒンジ(hinge)ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内信号伝逹ドメインは、当該技術分野に周知されている。
【0054】
前記ヒンジドメインは、抗メソテリン抗体またはその抗原結合断片と、膜貫通ドメインとを連結するドメインであり、スペーサ(spacer)とも命名され、T細胞膜から、抗原結合ドメインを拡張させるための目的を有する。前記ヒンジドメインは、CD8ヒンジドメイン、IgG1ヒンジドメイン、IgG4ヒンジドメイン、CD28細胞外領域、KIR(killer immunoglobulin-like receptor)細胞外領域、及びその組み合わせでもあるが、それらに制限されるものではなく、本技術分野で一般的に使用されるヒンジドメインを使用することができる。
【0055】
前記膜貫通ドメインは、キメリック抗原受容体分子の支持台の役割を行うと共に、ヒンジドメインと細胞内信号伝逹ドメインとを連結することができる。該膜貫通ドメインは、キメリック抗原受容体の抗メソテリン抗体またはその抗原結合断片が、細胞表面に位置し、細胞内信号伝逹ドメインが細胞内に位置するように、細胞の細胞膜を貫通することができる。前記膜貫通ドメインは、CD3zeta(CD3z)、CD4、CD8、CD28またはKIRタンパク質の膜貫通領域でもあり、望ましくは、CD8またはCD28の膜貫通ドメインを使用することができるが、該キメリック抗原受容体の製造に使用される一般的な膜貫通ドメインであるならば、制限なしに使用することができる。
【0056】
前記細胞内信号伝逹ドメインは、抗メソテリン抗体またはその抗原結合断片によって伝達された信号を受け、キメリック抗原受容体が結合された細胞内にそれを伝達する役割を行う。前記細胞内信号伝逹ドメインは、細胞外に存在する抗原結合部位に抗体が結合すれば、T細胞活性化をもたらしうる信号を伝達する部分であるならば、特別にその種類に制限されるものではなく、多様な種類の細胞内信号伝逹ドメインが使用されうる。前記細胞内信号伝逹ドメインは、例えば、免疫受容体チロシン基礎の活性化モチーフ(tyrosine-based activation motif)またはITAMでもあり、前記ITAMは、CD3zeta、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CDS、CD22、CD79a、CD79b、CD66dまたはFcεRIγに由来するものを含むが、それらに制限されるのではない。
【0057】
また、一態様によるキメリック抗原受容体は、細胞内信号伝逹ドメインと共に、共同刺激ドメイン(costimulatory domain)を追加して含むものでもある。
【0058】
前記共同刺激ドメインは、細胞内信号伝逹ドメインによる信号に加え、T細胞に信号を伝達する役割を行う部分であり、共同刺激分子の細胞内ドメインを含む、キメリック抗原受容体の細胞内部分を意味する。
【0059】
前記共同刺激分子は、細胞表面分子であり、抗原に対するリンパ球の十分な反応をもたらすのに必要な分子を意味し、その例として、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、LFA-1(lymphocyte function-associated antigen-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2CまたはB7-H3でもあるが、それらに制限されるものではない。前記共同刺激ドメインは、そのような共同刺激分子、及びその組み合わせによってなる群のうちから選択された分子の細胞内部分でもある。
【0060】
前記膜貫通ドメイン、細胞内信号伝逹ドメインを含むキメリック抗原受容体の各ドメインは、選択的に、短いオリゴペプチドリンカまたはポリペプチドリンカによって連結されうる。前記リンカは、細胞外に位置した抗体に抗原が結合したとき、細胞内ドメインを通じるT細胞活性化を誘導することができるものであるならば、特別にその長さに制限されるものではなく、当業界に知られたリンカを使用することができる。
【0061】
また、前記キメリック抗原受容体は、前述のような抗体及びドメインの変形された形態を含むものでもある。このとき、前記変形は、前記抗体及び前記ドメインの機能を変形させず、野生型の抗体及びドメインのアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸を置換、欠失または追加しても行われる。一般的に、前記置換は、アラニンや、全体タンパク質の電荷、極性または疎水性に影響を与えない保存的アミノ酸置換(conservative amino acid substitution)によっても行われる。
【0062】
さらに他の態様は、前記キメリック抗原受容体をコーディングするポリヌクレオチドを提供する。
【0063】
前記ポリヌクレオチドは、コドンの縮退性(degeneracy)によるか、あるいは前記抗原受容体を発現させようとする生物で好まれるコドンを考慮し、コーディング領域から発現される抗原受容体のアミノ酸配列を変化させない範囲内において、コーディング領域に多様な変形がなされ、該コーディング領域を除いた部分においても、遺伝子の発現に影響を及ぼさない範囲内において、多様な変形または修飾がなされ、そのような変形遺伝子も、本発明の範囲に含まれることを、当業者であるならば、十分に理解することができるであろう。すなわち、一態様によるポリヌクレオチドは、それと同等な活性を有するタンパク質をコーディングする限り、1以上の核酸塩基が、置換、欠失、挿入、またはそれらの組み合わせによって変異されるが、それらも、本発明の範囲に含まれる。
【0064】
さらに他の態様は、前記ポリヌクレオチドを含むベクター、及び前記ベクターによって形質転換された分離された細胞を提供する。
【0065】
前記ベクターは、当分野に公知されたベクターを多様に使用することができ、前記抗原受容体を生産しようとする宿主細胞の種類により、プローモーター(promoter)、終結子(terminator)、エンハンサ(enhancer)のような発現調節配列、膜標的化または分泌のための配列などを適切に選択し、目的により、多様に組み合わせることができる。本発明のベクターは、プラスミドベクター、コスミドベクター、バクテリオファージベクター及びウイルスベクターなどを含むが、それらに制限されるものではない。適切なベクターは、プローモーター、オペレーター、開始コドン、終結コドン、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサのような発現調節エレメント以外にも、膜標的化または分泌のためのシグナル配列またはリーダー配列を含三、目的によって多様に製造されうる。
【0066】
また、前記ベクターを細胞に導入し、細胞を形質転換させることができ、前記分離された細胞は、これらに制限されるのではないが、T細胞、NK細胞、NKT細胞またはγδT細胞(ガンマデルタ(gamma delta)T cells)でもある。前記分離された細胞は、骨髄、末梢血液、末梢血液単核細胞または臍帯血から得られるか、あるいは製造されうる。
【0067】
さらに他の態様は、前記分離された細胞を含む薬学的組成物、前記分離された細胞の医薬的用途、及び治療学的有効量の前記分離された細胞を個体に投与する段階を含む、癌を予防または治療する方法を提供する。
【0068】
前記薬学的組成物は、前述の分離された細胞を利用するために、これら二者間に共通する内容は、本明細書の過度な複雑性を避けるために、その記載を省略する。
【0069】
前記薬学的組成物または医薬的用途は、癌の予防または治療のためのものでもある。
【0070】
本明細書において用語「予防」とは、本発明による薬学的組成物の投与により、癌(腫瘍)を抑制させるか、あるいは発病を遅延させる全ての行為を意味する。
【0071】
本明細書において用語「治療」とは、本発明による薬学的組成物の投与により、癌(腫瘍)に対する症状が好転するか、あるいは望ましく変更される全ての行為を意味する。
【0072】
本明細書において用語「個体」とは、疾病の治療を必要とする対象を意味し、さらに具体的には、ヒト、または非ヒトである霊長類、齧歯類(ラット、マウス、モルモットなど)、マウス(mouse)、犬、猫、馬、牛、羊、豚、山羊、らくだ、羚羊のような哺乳類を意味する。
【0073】
本明細書において用語「癌」は、細胞が、正常な成長限界を無視して分裂及び成長する攻撃的(aggressive)特性、周囲組織に侵透する浸透的(invasive)特性、及び体内外の他の部位に広がる転移的(metastatic)特性を有する細胞による疾病を総称する。本明細書において、前記癌は、悪性腫瘍(malignant tumor)と同一意味で使用され、望ましくは、メソテリン陽性、またはメソテリン過発現の癌でもある。
【0074】
前記癌は、望ましくは、固形癌でもあり、例えば、さらに望ましくは、メソテリン陽性またはメソテリン過発現の固形癌でもある。例えば、前記固形癌は、食道癌(esophageal cancer)、乳癌(breast cancer)、三重音声乳癌(TNBC:triple-negative breast cancer)、胃癌(gastric cancer)、胆管癌(cholangiocarcinoma)、膵臓癌(pancreatic cancer)、大腸癌(colon cancer)、肺癌(lung cancer)、胸腺癌(thymic carcinoma)、中皮腫(mesothelioma)、卵巣癌(ovarian cancer)、子宮内膜癌(endometrial cancer)、子宮頸部癌(cervical cancer)、子宮漿液性癌腫(USC:uterine serous carcinoma)、非小細胞性肺癌(non-small cell lung cancer)及び小児急性骨髄性白血病(AML:acute myeloid leukemia)によってなる群のうちから選択されるいずれか一つでもあるが、それらに制限されるのではない。
【0075】
前記薬学的組成物は、薬学的組成物全体重量につき、有効成分である一態様の細胞を、10ないし95重量%で含むものでもある。また、本発明の薬学的組成物は、前記有効成分以外に追加し、同一であるか、あるいは類似した機能を示す有効成分を、1種以上追加して含むものでもある。
【0076】
前記細胞の投与量は、疾患の種類、疾患の重症度、薬学的組成物に含有された有効成分及び他成分の種類及び含量、剤形の種類、患者の年齢・体重・一般健康状態・性別、食餌、投与時間、投与経路、治療期間、並びに同時に使用される薬物を含めた多様な因子によっても調節される。しかし、望ましい効果のために、本発明による薬学的組成物に含まれる細胞の有効量は、1x105ないし1x1011細胞/kgでもある。このとき、投与は、1日に1回投与することができ、数回に分けて投与することもできる。本願に提示された細胞または薬学的組成物の有効量は、過度な実験なしにも、経験的に決定されうる。
【0077】
前記薬学的組成物は、薬学的分野において通常の方法により、目的に適する剤形を有する製剤でもある。また、前記組成物は、薬学的分野において、通常の方法により、患者の身体内投与に適する単位投与型の製剤に剤形化させて投与することができる。前記薬学的製剤には、前記有効成分以外に、1またはそれ以上の薬学的に許容可能な通常の不活性担体、一例として、注射剤の場合には、保存剤、無痛化剤、可溶化剤または安定化剤などを含み、局所投与製剤の場合には、基剤(base)、賦形剤、潤滑剤または保存剤などを追加して含むものでもある。
【0078】
また、前記細胞、またはそれを含む薬学的組成物は、当業界に公知された多様な方法で個体に投与され、例えば、腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、局所投与、鼻内投与、肺内投与、直腸内投与などによっても投与されるが、それらに制限されるのではない。
【発明の効果】
【0079】
一態様による抗メソテリンキメリック抗原受容体は、メソテリンに対する特異的結合能を示し、メソテリンが過発現される癌の予防または治療に有用に使用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【
図1】ファージディスプレイ抗体ライブラリーパンニングを介する抗体スクリーニング過程を模式化した図である。
【
図2A】固相パンニング(solid phase panning)による結果であり、パンニング回数によるファージ算出力価(output titer)を示した図である。
【
図2B】固相パンニング(solid phase panning)による結果であり、溶離力価の比率(elution titer ratio)(B)を示した図である。
【
図3】ファージELISAを介して得られたクローンの抗原MSLNに対する特異的結合を比較分析した結果を示した図である。
【
図4】メソテリン過発現細胞株を利用して選別されたクローンが、実際の細胞膜に存在するメソテリンに結合するか否かということを流細胞分析(flow cytometry)を介して確認した結果を示した図である。
【
図5】メソテリン過発現細胞株を利用して選別されたクローンのメソテリンに対する結合特異性を、相対的ピーク移動(peak shift)値で示した図である。
【
図6】精製された抗MSLN-scFv抗体を、SDS-PAGEによって分析した結果を示した図である(各タンパク質当たり2μgずつローディング)(NR:non-reducing condition、R:reducing condition(100℃、10分))。
【
図7】ELISAを介し、抗MSLN-scFv抗体の抗原MSLNに対する親和度を分析した結果を示した図である。
【
図8】MSLN特異的抗原結合ドメインを含む一態様による抗MSLN-CAR発現システムの模式図である。
【
図9A】抗MSLN-CARが導入されたT細胞において、CAR発現を確認した結果である。
【
図9B】CD3陽性T細胞において、CD4+T細胞及びCD8+T細胞の比率を測定した結果を示した図である。
【
図10】HBSS(G1)、Mock(G2)、CD19-CAR-T(G3)、及び抗MSLN3-CARが導入されたCAR-T細胞(G4)を投与した卵巣癌(OVCAR-3)マウスモデルの日付別の体重変化を確認した図である。
【
図11】HBSS(G1)、Mock(G2)、CD19-CAR-T(G3)、及び抗MSLN3-CARが導入されたCAR-T細胞(G4)を投与した卵巣癌(OVCAR-3)マウスモデルの日付別の腫瘍の体積変化を確認した図である(*p<0.05 vs. the vehicle control treated group(G1))。
【
図12】HBSS(G1)、Mock(G2)、CD19-CAR-T(G3)、及び抗MSLN3-CARが導入されたCAR-T細胞(G4)を投与した卵巣癌(OVCAR-3)マウスモデルの27日目の腫瘍サイズを確認した図である。
【
図13】HBSS(G1)、Mock(G2)、CD19-CAR-T(G3)、及び抗MSLN3-CARが導入されたCAR-T細胞(G4)を投与した卵巣癌(OVCAR-3)マウスモデルの27日目の腫瘍重量を確認した図である。
【
図14】HBSS(G1)、Mock(G2)、CD19-CAR-T(G3)、及び抗MSLN3-CARが導入されたCAR-T細胞(G4)を投与した卵巣癌(OVCAR-3)マウスモデルの免疫組織化学染色の結果を、5xの倍率で確認した結果を示した図である。
【
図15】HBSS(G1)、Mock(G2)、CD19-CAR-T(G3)、及び抗MSLN3-CARが導入されたCAR-T細胞(G4)を投与した卵巣癌(OVCAR-3)マウスモデルの免疫組織化学染色の結果を、20xの倍率で確認した結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0081】
以下において、一態様について、実施例を介し、さらに詳細に説明する。しかしながら、それら実施例は、一態様について例示的に説明するためのものであり、一態様の範囲がそれら実施例に限定されるものではなく、一態様の実施例は、当業界において、平均的な知識を有する者に、一態様についてさらに完全に説明するために提供されるものである。
【実施例】
【0082】
実施例1:ファージディスプレイ抗体ライブラリーパンニング
標的抗原であるメソテリン(MSLN:mesothelin)に結合する抗体を選別するために、KBIOヒト合成scFvファージディスプレイライブラリーKscFv-Iを利用し、五松先端医療産業振興財団新薬開発支援センターで構築したファージパンニングプロトコルにより、MSLN(Acro Biosystems)に係わるファージパンニングを4回目まで行った。該ファージディスプレイ抗体ライブラリーパンニング過程を、
図1に模式化して示した。
【0083】
パンニングは、抗原を固定する方式により、2つの方法(solid,bead)で行った。固相パンニング(solid phase panning)の場合、ヒトメソテリンタンパク質(PBSにおいて、最初:10μg/mL、2回目:5μg/mL、3回目:2.5μg/mL、4回目:1.25μg/mL1mLを、免疫チューブ(immuunotube)に固定させ、前記免疫チューブに、5%脱脂粉乳(skim milk)が含まれたPBS(MPBS)5mLでブロッキングされたファージライブラリー1.3x10
13c.f.u.を混ぜた後、37℃で1.5時間結合させた。その後、PBS-Tween(登録商標) 20(0.05%)(PBS-T)5mLで洗浄し、結合されていないファージを除去した(最初:3回洗浄、2~4回目:5回洗浄)。そこに、100mMトリエチルアミン(TEA:triethylamine)1mLをチューブに添加し、常温で10分間反応させて結合されたファージを溶出させ、溶出されたファージは、50mLファルコンチューブ(Falcon tube)にで移し、1M Tris-HCl(pH7.4)0.5mLと十分に混ぜて中和させた。前記溶出されたファージを、中間ログ段階のE.coli TG1(OD600=0.5~0.8)8.5mLに感染させた。形質感染されたE.coli TG1の一部は、配列確認のために、プラスミドDNAを抽出し、一部は、ファージELISAを介し、抗体スクリーニングを進めた。その結果を
図2に示した。
【0084】
その結果、
図2に示されているように、固相パンニング3回目から濃縮が始まり、抗原MSLNに係わる算出力価は、PBS対照群対比で、約53.4倍(3回目)、1,061.6倍(4回目)の大差を示した。
【0085】
実施例2:ファージELISA(phage-specific ELISA)を介する陽性クローンの選別
前記実施例1のファージパンニングによって得たファージのうちから、抗原MSLNに特異的に結合するクローン(clone)を選別するために、免疫チューブを利用したパンニング3回目で得た470(94コロニーx5プレート)個クローンに対し、単一クローンファージELISAを遂行した。具体的には、96-ハーフ(half)ウェルELISAプレートに、1μg/mLのヒトMSLNタンパク質(抗原)を、ウェル当たり30μLずつ入れ、4℃で一晩培養してコーティングした。陰性対照群として、他のプレートには、PBSを、ウェル当たり30μLずつ入れ、4℃で一晩培養した。翌日、プレート内容物を除去し、5% MPBS 150μLを使用し、プレートを室温で1時間ブロッキングさせた。その後、プレート内容物を除去し、ファージ(~1,011c.f.u.)30μLを添加し、常温で1.5時間培養した。陰性対照群の場合、ファージの代わりに、PBS 30μLを添加した。PBS-T(PBS-0.05% Tween 20)溶液でプレートを4回洗浄し、抗M13-HRP(PBSでもって、1:5,000に希釈)を添加し、37℃で1時間培養した。PBS-T溶液でプレートを4回洗浄し、各ウェル当たりTMB基質試薬(TMB substrate)を30μLずつ添加し、室温で8分間培養し、発色反応を誘導した。ウェル当たり2N H2SO4 30μLを添加し、発色反応を停止させた後、450nmにおける吸光度 (O.D.)を測定した。
【0086】
その結果、抗原MSLNにつき、吸光度カット-オフ(cut-off)を、それぞれ0.7以上または0.5以上に定めて選別したとき、3回目で、総105個の陽性クローンを確保した。さらには、免疫チューブを利用したパンニング4回目で得たクローンについても、同一方法でもって、単一クローンファージELISAを遂行した。パンニング4回目で得られた282(94コロニーx3プレート)個クローンに対し、ファージELISAを遂行し、吸光度カット-オフを、それぞれ0.7以上に定めて選別した結果、総15個の陽性クローンを確保した(表1ないし表3)。
【表1】
【表2】
【表3】
【0087】
実施例3:抗MSLN抗体断片候補選別のための配列分析及びELISA
前記実施例2で選別された総120種の陽性クローンからファージを回収した後、DNA配列分析を進め、カバット(Kabat)ナンバリングシステムによって配列を整列し、グルーピングした。その結果、CDR配列が異なる抗原MSLNに係わる22種の特異クローン(unique clone)を選別した。前記22種クローンの抗原MSLNに対する特異的結合を確認するために、各ファージを精製し、ファージ力価(phage titer)を同一に合わせた後(3.3E+11pfu/ウェル)、ELISAを介して比較した。陰性対照群としては、MSLNと同一に、ヒスチジンタッグ(His tag)に接合されたTLR4抗原を使用した。その結果を
図3に示した。
【0088】
図3に示されているように、22種クローンのうち、MSLN1、MSLN18及びMSLN19を除いた19種クローンが、抗原MSLNに特異的に結合することを確認した。
【0089】
実施例4:メソテリン過発現細胞株を利用した結合能の確認
前記実施例3で選別された19種のファージクローンが、実際の細胞膜に存在するメソテリンに結合するか否かということを調べるために、メソテリン過発現細胞株である膵臓癌細胞株AsPC-1、及び対照群としてのヒト慢性骨髄白血病細胞株K562を使用し、流細胞分析(flow cytometry analysis)を行った。
【0090】
具体的には、K562細胞及びAsPC-1細胞を、10
6細胞/ウェルになるように準備し、PBS 300μLで洗浄した。4%M PBS 300μLでもって、4℃で30分間細胞をブロッキングさせ、同時にファージクローン(10
12/ウェル)を常温で1時間、同一にブロッキングさせた後、ファージと細胞とを、4℃で2時間共に培養した。PBSで細胞を洗浄した後、抗M13-FITC 1μg/mLで処理し、4℃で1時間培養した。PBSで細胞を洗浄した後、PBSに細胞を再懸濁させ、流細胞分析器(BD Biosciences)を利用して結果を分析した。その結果を
図4及び
図5に示した。
【0091】
図4に示されているように、MSLN3、MSLN6及びMSLN10が、膵臓癌細胞株AsPC-1において、3.0%以上の相対的ピーク移動(peak shift)値を示すということを確認した。対照群であるK562細胞株においては、有意レベルのピーク移動が示されていない。前記結果を介し、19種のクローンのうち、MSLN3、MSLN6及びMSLN10が、実際の細胞膜に存在するメソテリンに対し、高い結合親和性を示すということが分かった。
【0092】
また、
図5に示されているように、流細胞分析結果を定量化した結果、MSLN3、MSLN6及びMSLN10は、対照群であるK562細胞に比べ、それぞれ23.8%、7.2%及び4.8%の相対的ピーク移動値を示すということ確認した。前記結果を介し、3個クローンいずれも、メソテリンが過発現された細胞株に特異的に結合することを確認し、抗MSLN抗体断片生産のためのクローンとして最終選別した。
【0093】
実施例5:抗MSLN抗体断片の生産及び精製
前記実施例4で選別された3種クローンを使用し、抗体断片発現菌株であるTop10F’ competent E.coliを形質転換(transformation)した。その後、3種クローンに形質転換されたE.coli菌株を、それぞれTB培地200mLで培養しながら、IPTG(最終濃度0.5mM)でタンパク質発現を誘導した後、30℃で一晩培養した。前記培養液を遠心分離して細胞を獲得し、細胞形質抽出(periplasmic extraction)を介し、水溶性タンパク質を確保した後、タンパク質Lレジン(protein L resin)を利用した親和度クロマトグラフィ(affinity chromatography)を介し、抗MSLN-scFv抗体を精製した。前記精製された抗体タンパク質をSDS-PAGEによって分析し、その結果を
図6に示した。
【0094】
実施例6:抗MSLN抗体の抗原に係わる親和度分析、及び最終抗MSLNキメリック抗原受容体で活用するクローンの選別
前記実施例5で製造された3種の抗MSLN抗体タンパク質を利用したELISAを介し、各抗体の抗原MSLNに係わる親和度を比較分析した。具体的には、MaxiSorb ELISAプレート(Nunc)に、ヒトメソテリンタンパク質30μLを、ウェル当たり1μg/mLの濃度でコーティングし、4℃で一晩培養した。プレート内容物を除去し、5% MPBS 300μLを使用し、プレートを室温で1時間ブロッキングさせた。精製された抗体を、PBSで連続して希釈し、各ウェルに30μLずつ添加し、室温で2時間培養した。陰性対照群としては、精製された抗体の代わりに、PBS 60μLを添加し、37℃で2時間培養した。
【0095】
PBS-T(PBS-0.05% Tween 20)溶液でプレートを4回洗浄し、抗StrepMAB HRP(PBSでもって、1:5,000で希釈)30μLを添加し、室温で1時間培養した。PBS-T溶液でプレートを4回洗浄し、各ウェル当たり、TMB基質試薬を30μLずつ添加し、室温で8分間培養し、発色反応を誘導した。ウェル当たり2N H
2SO
4 30μLを添加し、発色反応を停止させた後m450nmにおける吸光度(O.D.)を測定した。その結果を
図7に示した。
【0096】
図7に示されているように、3種抗体のEC
50値は、MSLN3、MSLN6及びMSLN10がそれぞれ145nM、67nM及び91nMと、3種抗体において、MSLN3が最も高い結合親和度を示すことを確認した(下記表4参照)。
【表4】
【0097】
それにより、前記MSLN3を抗MSLN抗体断片生産のためのクローンとして最終選別し、MSLN3のアミノ酸配列を確認し、下記表5に示した。具体的には、MSLN3の重鎖CDR1-3アミノ酸配列を、それぞれ配列番号1ないし3に示し、軽鎖CDR1-3アミノ酸配列をそれぞれ配列番号4ないし6に示し、重鎖アミノ酸配列及び軽鎖アミノ酸配列をそれぞれ配列番号7及び8に示した。
【表5】
【0098】
実施例7:抗MSLNキメリック抗原受容体の構築
前記実施例6で製造された抗MSLN抗体タンパク質において、メソテリンが過発現された細胞株と高い結合特異性を示したMSLN3を基に、抗MSLNキメリック抗原受容体を構築した(抗MSLN-CAR)。
【0099】
7-1:抗MSLN-CARレンチウイルスベクタークローニング
ベクターとしては、新薬開発支援センターで保有した2世代CARレンチウイルス用ベクター(pLV lentiviral vector)システムに属することであり、前記システムは、gag/polをコーディングするpMDLg/pRRE(Addgene)、Revタンパク質をコーディングする外被(envelope)プラスミドpRSV-Rev(Addgene)、及びVSV-Gタンパク質をコーディングする外被プラスミドpMD2.G(Addgene)をいずれも含む。
【0100】
まず、実施例6で製造された抗MSLN scFv(抗原結合ドメイン)に対し、遺伝子クローニングを実施した。MSLN3それぞれの抗MSLN scFvと、レンチウイルスベクターとをXhoI(R0146S(NEB))とEcoRI(R0101(NEB))とでもって、37℃で2時間切断(digestion)し、アガロースゲルで電気泳動した後、確認された産物を、FavorPrep Gel/PCR purification Mini kit (Favorgen)を使用して精製した。精製されたそれぞれの抗MSLN scFv(100ng)とベクター(50ng)とを、2:1の比率で、16℃で16時間反応させ、ライゲイション(ligation)進めた後、Stbl3sコンピテントセルに形質転換させ、コロニーを得た。前記コロニーを取り、LB培地(アンピシリン)5mLで、キーウイDNAプラスミドミニプレプ(mini-prep)法を利用し、プラスミドDNAを得た。前記プラスミドDNAを、XhoI、EcoRIで切断して挿入させたそれぞれの抗MSLN scFvが、ベクター内に良好にクローニングされているいるか否かということを確認した。その後、シーケンシングを行い、最終的にDNA配列を確認した。
【0101】
前記抗MSLN scFvに、CD8ヒンジ(hinge)及びCD8TM(transmembrane)を膜貫通領域として、4-1BBの細胞質領域を信号伝逹ドメインに、CD3zeta(CD3z)の細胞内ドメインをT細胞活性化ドメインに順次に連結し、抗MSLN-CARを構成した。具体的には、CD8信号配列(SP:signal peptide)(配列番号10)、抗MSLN3 scFv(配列番号11)、CD8ヒンジ領域(配列番号12)、CD8膜貫通領域(配列番号13)、4-1BB信号伝逹ドメイン(配列番号14)及びCD3zeta信号伝逹ドメイン(配列番号15)で構成される。前記各ドメインを、それぞれの制限酵素を利用し、順次に連結し、各ドメインに対応する具体的な塩基配列情報を下記表6に整理した。
【表6】
【0102】
7-2:抗MSLN-CARが搭載されたレンチウイルス生産
前記実施例7-1で作製された組み換えベクターを、HEK293T細胞に導入し、抗MSLN-CARレンチウイルスを生産した。MSLN特異的抗原結合ドメインを含む一態様による抗MSLN-CAR発現システムの模式図を
図8に示した。まず、DNA形質転換1日前、100mm組織培養ディッシュに、HEK293T細胞を、6x10
6細胞/ディッシュでシーディングした。翌日、細胞密度が70~80%に逹したとき、試薬マニュアルにより、リポフェクタミン3000(Lipofectamine 3000(ThermoFisher))で、MSLN-CAR-pLV、pMDLg/pRRE(Addgene)、pRSV-Rev(Addgene)、pMD2.G(Addgene)(5.5μg:3.5μg:1.5μg:2μg)の形質転換を進めた。対照群としては、CD19(FMC63)を使用した。形質転換遂行4時間後、3% FBS(Gibco)が含まれたDMEM培地に替え、48時間後、ウイルス培養液を収穫した。遠心分離用チューブに、20%スクロース溶液10mLを入れ、その上に、収穫されたウイルス培養液20mLを用心深く込めた後、SW32Tロータに装着させ、25,000rpmで、4℃で90分間超高速遠心分離を実施した。遠心分離が終わった後、チューブ底にあるウイルスペレットが落ちないように注意し、上澄み液を捨て、RPMI1640培地(Gibco)400μLを入れ、冷蔵庫で16時間培養した後、再浮遊させ、100μLずつ分注し、-80℃で保管した。
【0103】
実施例8:抗MSLN-CARが導入された細胞の作製
8-1:レンチウイルスの形質導入(transduction)
DPBS 5mLに、抗CD3(1μg/mL)抗体、抗CD28(3μg/mL)抗体を、それぞれ指定された濃度になるように製造し、ボルテックシングさせた後、24-ウェルプレートに、500μl/ウェルでコーティングし、4℃冷蔵庫で一晩保管した。翌日、T細胞培養液(10% FBS+RPMI1640+200IU IL-2)9mLに、PBMC(ヒト一次PBMC)を溶かし、1,500rpmで5分間遠心分離した。その後、上澄み液を除去し、培養液1mLに再浮遊させてセルカウンティングし、1x106細胞/mLに希釈し、抗体がコーティングされた24-ウェルプレートにシーディングした後、37℃,CO2培養基に入れて培養した。3日後、PBMC細胞をいずれも収穫し、レンチウイルス感染のために、5x105細胞/500μLに、レンチウイルスをMOI(multiple of infection)5になるように合わせ、プロタミン硫酸塩(protamine sulfate)10μg/mLを添加し、新たな24-ウェルプレートにシーディングした(a)。前記24-ウェルプレートを、300g、32℃で90分間遠心分離した後、37℃,CO2培養基に入れて培養した(b)。翌日、T細胞をいずれも収穫し、前述の(a),(b)段階をさらに1回遂行した。その後、T細胞をいずれも収穫し、1,500rpmで5分間遠心分離して上澄み液を除去し、T細胞を培養液に再浮遊させ、さらに培養した。
【0104】
8-2:抗MSLN-CAR発現の確認
前述の実施例8-1で製造された抗MSLN-CARが導入されたT細胞におけるCARの発現有無を確認した。T細胞のレンチウイルス形質導入完了5日後、一部抗MSLN-CAR-T細胞を収穫し、ビオチン・MSLN(AcroBiosystemsまたはBioLegend)を入れ、20分間、氷上で培養した後、細胞を洗浄し、PE・抗ビオチン1μLを添加し、20分間、氷上で培養した。細胞洗浄後、FACS Canto II(BD)を利用し、CAR発現率を確認し、それを
図9A及び表7に示した。また、抗MSLN-CAR-Tを14日間培養しながら、最終的に分化されたT細胞(CD3)の発現を、FACSを介して分析し、CD3陽性T細胞における、CD4+T細胞及びCD8+T細胞の比率を測定し、結果を
図9Bに示した。
【表7】
【0105】
表7及び
図9から確認されるように、作製されたCAR-TのCAR発現率を確認した結果、対照群であるCD19(FMC63)-CAR-Tは、50.8%と示されることを確認し、MSLN3-CAR-Tは、30.6%の発現率が示されることを確認した。
図9に示されているように、形質導入の最初結果、CD4+:CD8+のの比率は、平均して10%:80%と測定された。
【0106】
実施例9:腫瘍動物モデル基盤の抗MSLN-CAR-T細胞の癌細胞死滅効果の確認
9-1:腫瘍動物基盤抗MSLN-CAR-T細胞の投与
卵巣癌(OVCAR 3)動物モデルにおいて、MSLN3-CART細胞治療剤の有効性を確認する実験を行った。具体的には、前記実施例9で確認された抗MSLN3-CAR-T細胞の癌細胞に対する細胞死滅効果を基に、腫瘍卵巣癌動物モデルを構築し、腫瘍殺傷能を確認した。
【0107】
本試験に、6週齢の雌NOG(NOD/Shi-scid/IL-2Rγnull)系統の特定病源菌不在(SPF)マウスを使用し、動物入手時、供給先から提供された試験系のヘルスモニタリング成績書を参照にし、入手動物の検収検疫を実施し、1週間の順化後、実験を進めた。飼育環境は、本試験は、温度22±2℃、相対湿度50±10%、換気回数10~20回/hr、照明時間12時間(午前8時点灯~午後8時消灯)、及び照度150~300Luxであり、チップタイブ寝藁を高圧蒸気滅菌(121℃、滅菌時間20分、乾燥時間5分)した後、適量の寝藁をポリカーボネート飼育箱(W278(mm)xL420(mm)xH230(mm))に入れて飼育した。実験に供給された飼料は、放射線照射によって滅菌した実験動物用固形飼料(+40 RMM-SP-10, U8239G10R, SAFE-DIETS(フランス))を利用し、水は、RO水を水ボトルに入れ、高圧滅菌器で滅菌した後、自由に摂取することができるようにした。
【0108】
卵巣癌動物モデルに使用された細胞は、肺炎マイコプラズマ(mycoplasma pneumoniae)検査、マウスコロナウイルス(murine coronavirus(マウス肝炎ウイルス(MHV:mouse hepatitis virus))検査、マウスレスピロウイルス(murine respirovirus(SeV:Sendai virus))検査を進目、陰性そ確認された後で使用した。RPMI1640,20% FBS,1% P/S(ペニシリン/ストレプトマイシン)組成の培地を使用し、CO
2培養基で、37℃、5% CO
2の条件で培養した。RPMI1640(LM01 51(Welgene))培地を使用した。移植された癌細胞及びCAR-T細胞と試験群との構成を下記表8に示した。
【表8】
【0109】
各細胞は、PBSを利用して細胞濃度を調節し、マウスに200μLずつ皮下移植し、腫瘍サイズでもって、ランダム配分法により、群分離を実施し、個体識別は、試験期間の間、イヤーパンチ(ear-punch)法を使用し、飼育箱には、各群別識別カードを付着させた。
【0110】
9-2:腫瘍動物基盤の抗MSLN-CAR-T細胞の抗癌効果の確認
前述の実験群分離後、抗MSLN-CAR-T細胞を、尾静脈に単回投与し、試験群の体重、腫瘍サイズ、腫瘍体積及び腫瘍重量は、投与開始日から週2回測定した。
【0111】
投与開始日の体重を基準にし、試験終了日まで体重変化を観察した。体重増減(%)は、以下の公式を使用して算出した。
【数1】
【0112】
腫瘍体積(mm
3)は、ノギス(calipers)を利用し、腫瘍の短軸(A)、長軸(B)を測定し、以下の公式を利用して算出した。
【数2】
【0113】
体重及び腫瘍体積は、最後の測定後、卵巣癌腫瘍モデルにおいて、それぞれのHBSS投与群と抗MSLN-CAR-T投与群とを比較し、一元配置分散分析(one-way ANOVA:one-way analysis of variance)のダネットの事後検定(post-hoc Dunnett’s test)を利用して統計分析を進めた。
【0114】
その後、前述の体重変化を、投与進行後、日付によって確認した結果を
図10に示し、腫瘍体積の変化を、投与進行後、日付によって確認した結果を
図11に示し、CAR-T投与後27日目の腫瘍サイズを、各群ごとに確認した結果を
図12に示し、CAR-T投与後27日目のマウスモデルにおける腫瘍重量を確認した結果を
図13に示した。
【0115】
図10において確認されるように、卵巣癌腫瘍モデルにおいて、賦形剤投与(HBSS投与)対照群G1群と比較し、抗MSLN3-CAR-T細胞投与群は、統計的に有意性ある体重変化が確認されていない。ただし、G3-4個体は、投与後26日目、体重減少が観察され、初期体重の80%以下になり、当該個体は、剖検時の間、線維化が確認されることを認めた。
【0116】
図11において確認されるように、腫瘍体積を測定した結果、G1,G2及びG3群対比で、G4群である抗MSLN3-CAR-T投与群は、腫瘍体積が、投与された日からほとんど増加せず、投与後8日目から、腫瘍が低減される傾向が示されることを確認した。
【0117】
また、
図12は、CAR-T細胞投与後27日目の各試験群及び対照群の腫瘍サイズを肉眼で確認したものであり、
図12において確認されるように、G1対照群対比でG4群は、確実に腫瘍サイズが小さいことを認めることができた。
【0118】
図13において確認されるように、腫瘍重量は、賦形剤投与対照群であるG1と比較し、G4群は、腫瘍重量が顕著に低減される傾向が示されることを認めた。
【0119】
まとめれば、卵巣癌モデルにおいて、抗MSLN3-CAR-T細胞の腫瘍殺傷能の有効性を評価した結果、HBSS投与群であるG1と比較し、CAR-T投与後から腫瘍重量が増加せず、腫瘍の体積、腫瘍サイズ及び腫瘍重量も顕著に低減されることを確認し、メソテリンを発現する卵巣癌動物モデルにおいて、抗MSLN3-CAR-Tの癌細胞殺傷効能を認めることができた。
【0120】
9-3:腫瘍動物基盤の抗MSLN-CAR-T細胞の免疫組織化学染色を介する腫瘍内浸潤の確認
実験群分離後、抗MSLN-CAR-T細胞を尾静脈に単回投与し、50mg/kgのゾレチル(Zoletil)
TMと10mg/kgのキシラジン(xylazine)とを腹腔注射し、麻酔を誘導させ、腹腔を開腹し、腹帯静脈から採血後に放血し、安楽死を進めた。その後、群当たり3匹を任意に選別し、分離された腫瘍の一部を、10%中性ホルマリンに固定させた後、スライドを作製し、hCD3ε(細胞信号伝逹(Cat.No58061))につき、免疫組織化学染色(IHC:immunohistochemistry)を施した。その後、該スライドは、PANNORAMIC SCAN II(3DHISTECH(ハンガリー))を利用して撮影し、3DHISTECHソフトウェアを利用して分析し、各群の前記免疫染色を5xの倍率で確認した結果、及び20xの倍率で確認した結果をそれぞれ
図14及び
図15に示した。
【0121】
図14及び
図15において確認されるように、G2群、G3群、G4群において、腫瘍内T細胞浸潤(infiltration)が確認され、製造されたMSLN-CAR-T細胞は、効果的に腫瘍内T細胞が浸潤されることが確認された。特に、G4-4個体は、剖検時、腫瘍が非常に小さい状態であることを確認し、腫瘍が完全寛解(CR:complete response)されていることを確認することができた。それ以外のG1群、G3群においては、腫瘍内に懐死(necrosis)が確認された。従って、まとめれば、MSLN-CAR-Tを投与したG4群の多数の個体において、腫瘍内T細胞浸潤が相対的に高く観察されることを認めることができた。
【0122】
前述の説明は、例示のためのものであり、本発明が属する技術分野の当業者であるならば、本発明の技術的思想や、必須な特徴を変更せずとも、他の具体的な形態に容易に変形が可能であるということを理解することができるであろう。従って、以上で記述された実施例は、全ての面において、例示的なものであり、限定的ではないと理解されなければならない。
【配列表】