(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】移送装置、及びこれを有する入浴介助システム
(51)【国際特許分類】
A61H 33/00 20060101AFI20240514BHJP
A61G 5/12 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
A61H33/00 310N
A61H33/00 310K
A61G5/12 701
(21)【出願番号】P 2020058342
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】501362906
【氏名又は名称】積水ホームテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】小田 眞弘
(72)【発明者】
【氏名】杉 茂人
【審査官】黒田 正法
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-065801(JP,A)
【文献】実開昭62-128529(JP,U)
【文献】特開2019-180585(JP,A)
【文献】特開平09-206352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 33/00
A61G 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
椅子と、
前記椅子を上下方向に移動可能に支持する筐体と、
前記椅子を昇降させる昇降機構と、
を備え、
前記昇降機構は、
前記筐体に回転可能に設けられた昇降ギアと、
前記筐体に設けられ、前記昇降ギアを回転駆動するモータと、
前記椅子に上下方向に延びるように取り付けられ、前記昇降ギアと噛み合うとともに、前記昇降ギアが第1方向に回転したときに上昇し、前記昇降ギアが第2方向に回転したときに下降する、昇降ラックと、
前記昇降ギアの内部に収容され、前記モータの前記第1方向への回転駆動力を前記昇降ギアに伝達する一方、前記モータの前記第2方向への回転駆動力を前記昇降ギアに伝達しないように構成された、ワンウェイクラッチと、
を備え、
前記モータが前記第1方向の回転駆動力を伝達したときには、前記昇降ラックが上昇し、
前記モータが前記第2方向の回転駆動力を伝達したときには、前記椅子の自重によって前記昇降ラックが下降するが、前記ワンウェイクラッチの作用で前記昇降ギアの回転が規制されつつ、前記昇降ギアが前記モータの回転に追従するように回転することで、前記昇降ラックが下降し、
前記モータが前記第2方向の回転駆動力を伝達中に、前記
椅子に上向きの荷重が作用したときには、前記モータの前記第2方向の回転駆動力が前記昇降ギアに伝達されず、前記昇降ギアの回転が停止するように構成されている、移送装置。
【請求項2】
前記ワンウェイクラッチは、
前記モータにより回転する回転部材と、
前記昇降ギアの内部に設けられる内歯車と、
前記回転部材に設けられる爪部材と、
を備え、
前記回転部材が前記第1方向に回転するときには、前記爪部材が前記内歯車に噛み合って、回転駆動力を付与し、
前記回転部材が前記第2方向に回転するときには、前記爪部材が前記内歯車に回転駆動力を付与しないように構成されている、請求項1に記載の移送装置。
【請求項3】
対向する第1框部及び第2框部を有する浴槽に取り付けられ、前記第1框部及び第2框部の間で延びるレールユニットと、
請求項1または2に記載の移送装置と、
を備え、
前記移送装置は、前記筐体を水平方向にスライドさせるレール部材を備え、
前記移送装置の筐体が、前記レール部材から前記レールユニットに乗り移ることで、前記
椅子を前記浴槽へ移動させるように構成されている、入浴介助システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移送装置、及びこれを有する入浴介助システムに関する。
【背景技術】
【0002】
介助者が、自力で歩行ができない老人や身体障害者などの被介助者を椅子部に着座させた状態で容易に入浴させることができる種々の方法が提案されている。例えば、特許文献1には、次のような入浴介助システムが開示されている。
【0003】
この入浴介助システムでは、浴槽の框のうち、対向する框部(以下、第1框部及び第2框部と称する)に跨がるようにレールユニットを設置し、このレールユニットに、車椅子から椅子ユニットをスライドさせて固定する。これにより、椅子ユニットが浴槽の上方に配置される。この状態から、椅子のみを下降させると、被介助者は、椅子に座ったまま浴槽の湯に浸かることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のように椅子を昇降させるには、一般的には、モータによって回転する昇降ギアと、椅子に取り付けられる昇降ラックとが用いられる。そして、椅子を浴槽に向かって下降させるときには、椅子が浴槽の底面までなど、所定の高さに下降するまでモータを駆動させる。しかしながら、例えば、椅子の下降中に椅子と浴槽の底面との間に障害物が存在すると、椅子が下降できなくなる。しかしながら、椅子は所定の高さにまで下降していないため、モータは回転を続けることになり、モータに過度な負荷が作用するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、椅子の下降を阻害する障害物があったとしても、椅子の下降を駆動するモータに過度な負荷が作用するのを抑制することができる、移送装置、及びこれを備えた入浴介助システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発に係る移送装置は、椅子と、前記椅子を上下方向に移動可能に支持する筐体と、前記椅子を昇降させる昇降機構と、を備え、前記昇降機構は、前記支持本体に回転可能に設けられた昇降ギアと、前記筐体に設けられ、前記昇降ギアを回転駆動するモータと、前記椅子に上下方向に延びるように取り付けられ、前記昇降ギアと噛み合うとともに、前記昇降ギアが第1方向に回転したときに上昇し、前記昇降ギアが第2方向に回転したときに下降する、昇降ラックと、前記昇降ギアの内部に収容され、前記モータの前記第1方向への回転駆動力を前記昇降ギアに伝達する一方、前記モータの前記第2方向への回転駆動力を前記昇降ギアに伝達しないように構成された、ワンウェイクラッチと、を備え、前記モータが前記第1方向の回転駆動力を伝達したときには、前記昇降ラックが上昇し、前記モータが前記第2方向の回転駆動力を伝達したときには、前記椅子の自重によって、前記昇降ギアが前記モータの回転に追従するように回転することで、前記昇降ラックが下降し、前記モータが前記第2方向の回転駆動力を伝達中に、前記椅子ユニットに上向きの荷重が作用したときには、前記モータの前記第2方向の回転駆動力が前記昇降ギアに伝達されず、前記昇降ギアの回転が停止するように構成されている。
【0008】
上記移送装置において、前記ワンウェイクラッチは、前記モータにより回転する回転部材と、前記昇降ギアの内部に設けられる内歯車と、前記回転部材に設けられる爪部材と、を備えることができ、前記回転部材が前記第1方向に回転するときには、前記爪部材が前記内歯車に噛み合って、回転駆動力を付与し、前記回転部材が前記第2方向に回転するときには、前記爪部材が前記内歯車に回転駆動力を付与しないように構成することができる。
【0009】
本発明に係る入浴介助システムは、対向する第1框部及び第2框部を有する浴槽に取り付けられ、前記第1框部及び第2框部の間で延びるレールユニットと、上述したいずれかの移送装置と、を備え、前記移送装置は、前記筐体を水平方向にスライドさせるレール部材を備え、前記移送装置の筐体が、前記レール部材から前記レールユニットに乗り移ることで、前記椅子ユニットを前記浴槽へ移動させるように構成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、椅子の下降を阻害する障害物があったとしても、椅子の下降を駆動するモータに過度な負荷が作用するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る入浴介助システムの側面図である。
【
図4】昇降ラック及び昇降ギアを示す断面図である。
【
図5】レールユニットが収容された状態を示す支持装置の斜視図である。
【
図6】レールユニットを框(図示省略)上に配置した状態を示す斜視図である。
【
図7】使用状態にあるレールユニットの斜視図である。
【
図8】
図7のレールユニットを下側から見た図である。
【
図9】框上で使用状態にあるレールユニット及び収容ユニットの平面図である。
【
図10】入浴介助システムの使用方法を説明する側面図である。
【
図11】入浴介助システムの使用方法を説明する側面図である。
【
図12】入浴介助システムの使用方法を説明する平面図である。
【
図13】入浴介助システムの使用方法を説明する側面図である。
【
図14】入浴介助システムの使用方法を説明する側面図である。
【
図15】昇降ギア及び昇降ラックの動作を示す断面図である。
【
図16】昇降ギア及び昇降ラックの動作を示す断面図である。
【
図17】昇降ギア及び昇降ラックの動作を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係る入浴介助システムの一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は本実施形態に係る入浴介助システムの側面図、
図2は
図1の平面図である。
【0013】
<1.入浴介助システムの概要>
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係る入浴介助システムは、浴室に設けられた浴槽3へ被介助者を入浴させるためのシステムであり、被介助者を浴槽3まで運ぶための移送装置10と、浴槽3に配置されるレールユニット5を有する支持装置20と、を備えている。なお、以下の説明では、
図1及び
図2に示す方向にしたがって説明を行うが、本発明はこの方向に限定されるものではない。
【0014】
図2に示すように、浴槽3は、平面視矩形状に形成されており、湯水が張られる湯溜め空間の周りには框が形成されている。框は、長手方向に平行に延びる第1框部31及び第2框部32と、短手方向に平行に延びる第3框部33及び第4框部34と、を備え、全体として矩形の枠状に形成されている。そして、浴槽3は、第2框部32が浴室の壁面に接し、第1框部31側に洗い場が設けられている。そのため、移送装置10は、洗い場のある第1框部31側から浴槽3に隣接するようになっている。また、浴槽3の後方には空間が形成されており、この空間に支持装置20が配置されている。
【0015】
<2.移送装置の概要>
図1及び
図2に示すように、移送装置10は、被介助者が座る椅子ユニット1と、この椅子ユニット1を移動させるための台車(基台部)2と、を備えている。椅子ユニット1は、被介助者が座る椅子11と、この椅子11を昇降可能に支持する昇降機構部12と、を備えている。台車2は、車輪21が設けられた基台部22と、この基台部22から上方に延びる柱部材23と、この柱部材23上において、水平方向(左右方向)に延びるレール部材24と、を備えており、レール部材24に、昇降機構部12が水平方向にスライド可能に支持されている。
【0016】
椅子11は、上下方向に延びる支柱111と、この支柱111の下端部から水平方向に延びる座板支持フレーム112と、を備えている。そして、支柱111の両側には、一対の背板支持フレーム113が設けられ、この背板支持フレーム113によって、支柱111に前側に背板114が取り付けられている。また、支柱111の上端には、ヘッドレスト115が高さ調整可能に取り付けられている。さらに、支柱111には、背板114を挟むように、左右一対のアームレスト116が設けられている。各アームレスト116は、支柱111に対して上下方向に回動可能に連結されており、回動によって被介助者の腕や体をサポートする使用位置と、座板117への乗り移りの邪魔にならない跳ね上げ位置と、を選択できるようになっている。
【0017】
座板支持フレーム112上には、被介助者が座る座板117が配置されている。さらに、座板支持フレーム112には、被介助者の足を置くためのフットサポート118が設けられている。このフットサポート118は、座板117から前方へ進退するスライド部118aと、このスライド部118aの先端に設けられた足置き部118bと、を備えており、被介助者の体型に合わせて、スライド部118aをスライドすることで、足置き部118bの位置を変えることができるようになっている。また、このフットサポート118は、座板支持フレーム112に対して回動可能となっており、座板117に対して、フットサポート118の角度を変えることができるようになっている。
【0018】
また、上述した支柱111は、昇降機構部12によって昇降するようになっている。そのため、支柱111は、リップ溝形鋼材(Cチャンネル)で形成されており、溝の開口部を昇降機構部12側に向けるように設けられている。そして、支柱111の溝内部には、上下方向に延びるラック(図示省略)が設けられている。
【0019】
次に、昇降機構部12について、
図3及び
図4も参照しつつ説明する。
図3は椅子ユニットの側面図、
図4は昇降ラック及び昇降ギアを示す断面図である。昇降機構部12は、台車2のレール部材24上に配置される筐体121を備えており、この筐体121の前面には、支柱111の溝の両側に嵌まるローラ(図示省略)が設けられている。これによって、支柱111は、筐体121に対して昇降可能となっている。また、
図3に示すように、筐体121の内部には、モータ(図示省略)が設けられており、このモータ125によって回転駆動する昇降ギア126が筐体121の前面から露出するように設けられている。そして、この昇降ギア126は支柱111に設けられた昇降ラック110に噛み合っており、モータが駆動することで、昇降ギア126が回転し、これに噛み合う昇降ラック110とともに支柱111が筐体121に対して昇降するようになっている。
【0020】
図4に示すように、この昇降ギア126の内部には、昇降ギア126と同軸の内歯車127が設けられている。また、内歯車127の内側には、内歯車127と同軸で回転する回転部材128が設けられており、モータによって回転するようになっている。また、回転部材128の外周面には、爪部材129が揺動可能に連結されており、爪部材129の先端が内歯車127に噛み合っている。この爪部材129は、回転部材128が第1方向、つまり
図4において反時計回りに回転するときには、内歯車127に噛み合い、回転部材128の回転駆動力が内歯車127に伝達される。これにより、昇降ギア126が第1方向に回転するようになっている。
【0021】
一方、回転部材128が第2方向、つまり
図4において時計回りに回転するときには、回転部材128の回転駆動力は内歯車127には伝達されないようになっている。例えば、昇降ギア126が固定されている場合に、回転部材128が第2方向に回転すると、爪部材129は内歯車127に噛み合わず、回転部材128は昇降ギア126に対して空転するようになっている。このような挙動となるように内歯車127及び爪部材129の形状が規定されている。
【0022】
また、筐体121の下部には、複数の昇降機支持ローラ(図示省略)が設けられており、これら昇降機支持ローラ(図示省略)は、レール部材24に嵌め込まれている。これにより、筐体121は、レール部材24の長手方向、つまり水平方向に移動可能となっている。なお、レール部材24には、筐体121がレール部材24上で動かないようにロックするロック機構(図示省略)が設けられており、ロック機構を解除したときに、筐体121がレール部材24上をスライドできるようになっている。また、このレール部材24の高さは、後述するレールユニット5のレール本体51の高さと同じになっており、レール部材24とレール本体51とを隣接させることで、筐体121がレール部材24からレール本体51へと乗り移ってスライドできるようになっている。
【0023】
次に、台車2について説明する。台車2の基台部22は、前後方向に長い平面視矩形状のフレーム221を備えており、このフレーム221に4つの車輪21が設けられている。そして、基台部22の後端側には、上述した柱部材23が設けられ、この柱部材23の上端部に、上述したレール部材24が水平方向に延びるように設けられている。
【0024】
<3.支持装置の概要>
次に、支持装置20について、
図5及び
図6を参照しつつ説明する。
図5はレールユニットが収容された状態を示す支持装置の斜視図、
図6はレールユニットを框(図示省略)上に配置した状態を示す斜視図である。
【0025】
図5及び
図6に示すように、支持装置20は、浴槽3の第3框部33側の後方の空間に配置される収容ユニット4と、この収容ユニット4に収容されるレールユニット5と、を備えている。そして、レールユニット5は、左右方向に延びる軸部材6を介して収容ユニットに連結されており、これによって、収容ユニット4に収容された収容状態(
図5)と、収容ユニット4から取り出され、框上に設置される設置状態(
図6)とを、選択的に取り得るように構成されている。以下、各ユニットについて、詳細に説明する。
【0026】
<3-1.収容ユニット>
図5及び
図6に示すように、収容ユニット4は、4つの脚部411~414と、これら脚部411~414の上下方向の中間付近を支持する支持フレーム42と、を有している。ここでは、右前にある脚部を第1脚部411、左前にある脚部を第2脚部412、右後にある脚部を第3脚部413、左後にある脚部を第4脚部414と称することとする。さらに、この収容ユニット4は、第1脚部411と第2脚部412の上端付近を連結し左右方向に延びる第1連結材43、第3脚部413と第4脚部414の上端付近を連結し左右方向に延びる第2連結材44と、を備えている。そして、第1連結材43には、上述した軸部材6が取り付けられ、第2連結材44には、収容ユニット4の上部を開閉自在に塞ぐ、矩形状の蓋部材46が旋回可能に取り付けられている。
【0027】
<3-2.レールユニット>
次に、レールユニット5について、
図7~
図9を参照しつつ説明する。
図7は、使用状態にあるレールユニットの斜視図、
図8は
図7のレールユニットを下側から見た図、
図9は框上で使用状態にあるレールユニット及び収容ユニットの平面図である。
【0028】
図7~
図9に示すように、レールユニット5は、第3框部33に沿って延びるレール本体51と、このレール本体51の両端部にそれぞれ設けられた板状の連結具521,522と、を備えている。ここでは、第1框部31側(右側)に配置された連結具を第1連結具521と称し、第2框部32側(左側)に配置された連結具を第2連結具522と称することとする。レール本体51は、リップ溝形鋼材(Cチャンネル)で形成されたレールを有している。各連結具521,522は、L字状に形成され、一端部がレール本体51の下面に固定されるとともに、他端部が、軸部材6に取り付けられている。そして、このレール本体51には、上述したように、椅子ユニット1の筐体121がスライド可能となっている。また、レール本体51上に筐体121が配置されたときには、筐体121をレール本体51上で固定するためのロック機構(図示省略)が設けられている。一方、レールユニット5が収容ユニット4に収容されるときには、
図5に示すように、レールの開口が下方を向いた状態で収容される。
【0029】
<3-2-1.アーム機構>
レール本体51の下面には、レール本体51を框上に配置するためのアーム機構が設けられている。このアーム機構は、第1アーム部材53、第2アーム部材54、及び連結部材55を備えている。両アーム部材53,54は、
図5に示すようにレール本体51の下方に収容される初期状態と、
図7~
図9に示すようにレール本体51から前方へ突出する使用状態と、を取り得るようになっている。以下、これらの部材について詳細に説明する。
【0030】
第1アーム部材53は、長尺状に形成された板状の部材であり、後端側の端部が、レール本体51に対して旋回可能に連結されている。より詳細には、レール本体51の後方に設けられた第1軸部材56に、第1アーム部材53が旋回可能に連結されている。
図8に示すように、第1アーム部材53の先端部及び中間部の下面には、パッド531,532がそれぞれ設けられており、これらパッド531、532が第1框部31の上面に当接する。また、第1アーム部材53の先端付近には、浴槽3の内側に位置する規制板533が設けられている。この規制板533は、使用状態において、第1アーム部材53が第1框部31上に配置されたときには、第1框部31の内面に接するようになっている。また、第1アーム部材の中間付近には、ハンドル534が設けられており、第1アーム部材53が初期状態にあるときに、このハンドル534を引くと、第1アーム部材53を使用状態に遷移させることができる。
【0031】
第2アーム部材54も長尺状の板材によって形成されているが、第1アーム部材53よりも長く形成されている。そして、第2アーム部材54の後端側の端部は、レール本体51に対して旋回可能に連結されている。より詳細には、レール本体51の後方に設けられた第2軸部材57に、第2アーム部材54が旋回可能に連結されている。第2アーム部材54の先端部の下面及び中間部付近には、第1アーム部材53と同様に、パッド541,542が設けられており、これらパッド541,542が第2框部32の上面に当接する。また、初期状態においては、第2アーム部材54は、第1アーム部材53とレール本体51との間に配置され、下側から見たときには、第1及び第2アーム部材53,54の一部が重なるように配置される。
【0032】
次に、連結部材55について説明する。連結部材55は、長尺状の棒状の部材であり、両端に第1端部551及び第2端部552を有している。
図7における使用状態では、連結部材55の第1端部551は、第1アーム部材53において第1軸部材56よりもやや前方に、回転可能に連結されている。一方、連結部材55の第2端部552は、第2アーム部材54において第2軸部材57よりもやや後方に、回転可能に連結されている。
【0033】
<3-2-2.アーム機構の動作>
次に、上記のように、構成されたアーム機構の動作について説明する。初期状態から第1アーム部材53のハンドル534を引っ張ると、第1アーム部材53が、第1軸部材56を中心に旋回する。これにより、連結部材55の第1端部551が第1框部31側に引っ張られ、これに伴って連結部材55の第2端部552は、第2軸部材57を挟んで、第2框部32側から第1框部31側に移動する。その結果、第2端部552が第2アーム部材54を引っ張るため、第2アーム部材54は、第2框部32側に旋回する。したがって、第1アーム部材53が旋回するのに伴って第2アーム部材54も旋回し、使用状態では、
図9に示すように、第1アーム部材53は第1框部31上に、第2アーム部材7は第2框部32上に配置される。このとき、第1アーム部材53の両パッド531、532は第1框部31上に配置され、第2アーム部材54のパッド541,542も第2框部32上に配置されるため、両アーム部材53,54は、安定的に框上に設置される。
【0034】
なお、連結部材55は、その長さを調整可能となっており、連結部材55の長さを長くすることで、第1アーム部材53または第2アーム部材54の旋回角度を大きくすることができる。これにより、第1框部31及び第2框部32の間の距離が長くても、両アーム部材53,54を各框部31,32に設置することができる。
【0035】
<4.入浴介助システムの使用方法>
次に、上記のように構成された入浴介助システムの使用方法について、
図10~
図14も参照しつつ説明する。
図10、
図11,
図13,及び
図14は、入浴介助システムの使用方法を説明する側面図であり、
図12は、入浴介助システムの使用方法を説明する平面図である。また、
図15~
図17は、昇降ギア及び昇降ラックの動作を示す断面図である。まず、
図10に示す収容状態から、レールユニット5を旋回し、
図11に示すように、框上に配置する。次に、
図9に示すように、第1アーム部材53のハンドル534を引っ張り、両アーム部材53,54を旋回させて、それぞれ、第1框部31及び第2框部32上に配置する。
【0036】
次に、
図12に示すように、台車2を移動させ、移送装置10のレール部材24の端部を、レール本体51の端部に隣接させ、ロック機構(図示省略)により、両者を連結する。続いて、
図13に示すように、椅子11と第1框部31とが干渉しないように、椅子11を上昇させる。より詳細に説明すると、
図4に示すように、モータにより回転部材128を第1方向に回転させる。これにより、爪部材129が内歯車127に噛み合い、回転部材128の回転駆動力が昇降ギア126に伝達される。これにより、昇降ギア126が第1方向に回転し、これに伴って昇降ラック110が椅子11とともに上昇する。また、フットサポート118が、第1框部31と干渉しないように、角度を調整することができる。例えば、スライド部118aをスライドし、足置き部118bを前方に移動させることができる。これにより、被介助者は足を伸ばして足置き部118bに置くことができる。
【0037】
次に、レール部材24のロックを解除して、筐体121をスライドさせ、レール本体51へと移動させる。こうして、筐体121は、椅子11とともに浴槽3へと移動する。そして、椅子11が浴槽3の内部空間の上方に位置したとき、筐体121の移動を停止し、ロック機構により筐体121をレール本体51上に固定する。
【0038】
続いて、
図14に示すように、筐体121内のモータを駆動し、椅子11を下降させる。この点について詳細に説明すると、次の通りである。
図16に示すように、モータにより回転部材128を第2方向に回転させる。このとき、爪部材129は内歯車127に接触しているものの、回転部材128の回転駆動力は内歯車127には伝達されず、昇降ギア126は昇降ラック110及び椅子11の自重による降下に伴って回転する。但し、昇降ギア126が回転部材128以上の速度で回転しようとすると、爪部材129によって内歯車127の回転にブレーキがかかる。したがって、昇降ギア126は回転部材128の回転に追従して回転し、これと伴って昇降ラック110が椅子11ともに下降する。
【0039】
ところで、椅子11の下降中に椅子11に対して上向きの荷重が作用したときには、昇降機構部12は、次のように動作する。椅子11に作用する上向きの荷重とは、例えば、
図14に示すように、椅子11の下面と浴槽3の底面との間に、何らかの障害物Bが挟まったときに生じる。
【0040】
この場合には、昇降ラック110の下降が阻害され、停止することで、昇降ギア126の回転も停止する。このとき、
図17に示すように、爪部材129は内歯車127に噛み合わず、第2方向に回転を続けている回転部材128は昇降ギア126に対して空転する。したがって、回転部材128が第2方向への回転を続けても昇降ギア126は回転しないため、昇降ラック110及び椅子11がそれ以上下降するのが防止される。
【0041】
以上のようにして、椅子11が下降すると、椅子11に座った被介助者が浴槽3の湯に浸かり、入浴をすることができる。このとき、台車2は、浴槽3から離しておき、入浴介助をしやすいようにする。その後、入浴が終了したときには、モータを駆動し、椅子11を上昇させる。そして、椅子11が框よりも上方に位置したときに電動モータを停止する。これに続いて、台車2を移動して、レール部材24をレール本体51と隣接させた上で、筐体121をスライドさせ、レール部材24へ移動させる。こうして、筐体121がレール部材24上に配置されると、ロック機構により筐体121をレール部材24上に固定する。その後、レール部材24とレール本体51との固定を解除すれば、移送装置10を浴槽3から移動させることができる。
【0042】
<5.特徴>
以上のように、本実施形態によれば、椅子11の下面と浴槽3の底面との間に、何らかの障害物Bが存在するなど、昇降ラック110に上向きの荷重が作用した場合には、回転部材128が空転し、昇降機構部12により昇降ラック110の下降が停止されるため、モータに負荷が作用するのを防止することができる。
【0043】
<6.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。以下、変形例について説明する。但し、以下の変形例は適宜組合せ可能である。
【0044】
<6-1>
上記実施形態では、昇降ギア126の内部に、回転部材128及び爪部材129を設け、回転部材128が第1方向に回転したときのみ、爪部材129を介して昇降ギア126にモータの回転駆動力が伝達されるようになっている。すなわち、昇降ギア126には、いわゆるワンウェイクラッチが設けている。ワンウェイクラッチの構成は、特には限定されず、上記実施形態のほか、公知のワンウェイクラッチを適宜の利用することができる。
【0045】
<6-2>
アーム機構の構成は特には限定されず、例えば、2つのアーム部材53,54を個々に旋回させて、框部31,32に設置するように構成されていてもよい。すなわち、各アーム部材53,54が、框部に設置されればよい。
【0046】
<6-3>
移送装置10の構成も特には限定されず、上述したようなワンウェイクラッチを有する昇降機構部12と、椅子ユニット1をレール本体51に沿って移動できるようなレール部材と、レール部材を支持する台車(基台部)とが設けられていればよい。但し、台車の構成は特には限定されず、車輪に限られず、移動できるようになっていればよい。
【0047】
<6-4>
収容ユニット4の構成も特には限定されず、少なくともレールユニット5を収容できればよい。但し、収容ユニット4は必ずしも必要ではなく、少なくともレールユニット5が浴槽3に固定できればよい。
【0048】
<6-5>
本発明に係る移送装置は、少なくとも椅子11と、筐体21と、椅子11を昇降させる昇降機構(昇降ギア、昇降ラック、モータ、ワンウェイクラッチ)と、が設けられていればよく、レール部材や台車は必ずしも必要ではない。
【符号の説明】
【0049】
1 椅子ユニット
11 椅子
110 昇降ラック
121 筐体
126 昇降ギア
127 内歯車
128 回転部材
129 爪部材
24 レール部材
3 浴槽
31 第1框部
32 第2框部