(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20240514BHJP
【FI】
H01M10/0585
(21)【出願番号】P 2018106984
(22)【出願日】2018-06-04
【審査請求日】2021-04-05
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】石溪 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】畑中 幸
(72)【発明者】
【氏名】草地 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】久保田 浩
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一
(72)【発明者】
【氏名】赤間 弘
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英明
【合議体】
【審判長】篠原 功一
【審判官】山田 正文
【審判官】畑中 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-199792(JP,A)
【文献】特開2004-111362(JP,A)
【文献】特開2007-173063(JP,A)
【文献】国際公開第2018/097213(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/016166(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/00-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質層
Aと前記電極活物質層
Aの対極となる電極活物質層
Bとがセパレータを介して積層された積層単位、電解液、及び、前記積層単位と前記電解液とを収容する外装体を備えたリチウムイオン電池の製造方法であって、
前記電極活物質層
A、前記セパレータ及び前記電極活物質層
Bが積層されてなる積層単位を得る積層工程
と、
前記積層単位が前記外装体に収容された収容体を得る収容工程と、
前記収容体を減圧環境下に置くことで前記収容体内の気体を排出する排気工程とを備え、
前記積層単位を形成する前において、
前記電極活物質層Bには前記電解液が含有されており、前記電極活物質層
A及び前記電極活物質層
Bは、下記
(2)の条件を満たすこと
により、前記積層単位を形成した後に、前記積層単位の積層方向に沿って前記電解液を移動させて、前記電極活物質層Bから前記電極活物質層Aに対して前記電解液を供給する、ことを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法
。
(2
)前記電極活物質層
Bが前記電解液を含み、電解液を含んでいない状態において前記電極活物質層
Bが有する細孔の総体積に対する前記電極活物質層
Bに含まれる前記電解液の体積の割合
を前記電極活物質層Bの電解液割合と定義し、電解液を含んでいない状態において前記電極活物質層
Aが有する細孔の総体積に対する前記電極活物質層
Aに含まれる前記電解液の体積の割合
を前記電極活物質層Aの電解液割合と定義したときに、
前記電極活物質層Bの電解液割合が、前記電極活物質層Aの電解液割合よりも大きい。
【請求項2】
前記積層工程の前に、
前記電極活物質層
Bに前記電解液を含有させる吸液工程をさらに備える請求項1に記載のリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項3】
前記電極活物質層
A及び/又は前記電極活物質層
Bは、粘着性樹脂を含む請求項
1又は2に記載のリチウムイオン電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護のため二酸化炭素排出量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が鋭意行われている。二次電池としては、高エネルギー密度、高出力密度が達成できるリチウムイオン電池(リチウムイオン二次電池ともいう)に注目が集まっている。
【0003】
リチウムイオン電池は、正極、負極及びセパレータを積層、または巻回して発電要素を構成し、そこに電解液を注液して製造される。ところで、電気自動車(EV)等に用いられる高容量の電池とする場合には電極が大きくなり、そこに含まれる活物質の量が増えるために電極内に均一に電解液を含浸させて電解液の含浸ムラを防止または抑制することが必要となる。
電解液の含浸ムラを防止または抑制する注液方法としては、例えば、発電要素を収容した収容部と電解液を溜めた空間とをもったラミネート容器の内部を負圧にして上記空間内の電解液を発電要素に徐々に浸透させる方法(特許文献1参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、積層体の横方向から電解液が注入され、横方向に徐々に広がることで電解液が活物質層に含浸されるため、電極面積が大きくなった場合や電解液を注入してから短時間しか経過していない場合には電解液を均一に含浸させることが困難であり、含浸ムラを充分に防止または抑制できないという課題があった。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、面積の大きな電極に対して電解液を含浸させる場合や、電解液を注入してから短時間しか経過していない場合であっても、電解液を均一に含浸することができるリチウムイオン電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、電極活物質層(A)と上記電極活物質層(A)の対極となる電極活物質層(B)とがセパレータを介して積層された積層単位、電解液、及び、上記積層単位と上記電解液とを収容する外装体を備えたリチウムイオン電池の製造方法であって、上記電極活物質層(A)、上記セパレータ及び上記電極活物質層(B)が積層されてなる積層単位を得る積層工程を備え、上記積層単位を形成する前において、上記セパレータ及び上記電極活物質層(B)の少なくとも1つには上記電解液が含有されており、上記電極活物質層(A)、上記セパレータ及び上記負極活物質層(B)は、下記(1)~(2)の少なくとも1つの条件を満たすことを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法に関する。
(1)上記セパレータが有する細孔のすべてが上記電解液で満たされており、かつ電解液を含んでいない状態において上記電極活物質層(A)が有する細孔の総体積が上記電極活物質層(A)が有する上記電解液の体積よりも大きい。
(2)少なくとも上記電極活物質層(B)が上記電解液を含み、電解液を含んでいない状態において上記電極活物質層(B)が有する細孔の総体積に対する上記電極活物質層(B)に含まれる上記電解液の体積の割合が、電解液を含んでいない状態において上記電極活物質層(A)が有する細孔の総体積に対する上記電極活物質層(A)に含まれる上記電解液の体積の割合よりも大きい。
【発明の効果】
【0008】
本発明のリチウムイオン電池の製造方法は、面積の大きな電極に対して電解液を含浸させる場合や、電解液を注入してから短時間しか経過していない場合であっても、電解液を面方向に均一に含浸することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、積層工程の例を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、積層単位を形成した直後の電解液の動きの一例を模式的に示す説明図である。
【
図3】
図3は、積層単位を形成した直後の電解液の動きの別の一例を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書において、リチウムイオン電池と記載する場合、リチウムイオン二次電池も含む概念とする。
【0011】
本発明のリチウムイオン電池の製造方法は、電極活物質層(A)と上記電極活物質層(A)の対極となる電極活物質層(B)とがセパレータを介して積層された積層単位、電解液、及び、上記積層単位と上記電解液とを収容する外装体を備えたリチウムイオン電池の製造方法であって、上記電極活物質層(A)、上記セパレータ及び上記電極活物質層(B)が積層されてなる積層単位を得る積層工程を備え、上記積層単位を形成する前において、上記セパレータ及び上記電極活物質層(B)の少なくとも1つには上記電解液が含有されており、上記電極活物質層(A)、上記セパレータ及び上記負極活物質層(B)は、下記(1)~(2)の少なくとも1つの条件を満たすことを特徴とする。
(1)上記セパレータが有する細孔のすべてが上記電解液で満たされており、かつ電解液を含んでいない状態において上記電極活物質層(A)が有する細孔の総体積が上記電極活物質層(A)が有する上記電解液の体積よりも大きい。
(2)少なくとも上記電極活物質層(B)が上記電解液を含み、電解液を含んでいない状態において上記電極活物質層(B)が有する細孔の総体積に対する上記電極活物質層(B)に含まれる上記電解液の体積の割合が、電解液を含んでいない状態において上記電極活物質層(A)が有する細孔の総体積に対する上記電極活物質層(A)に含まれる上記電解液の体積の割合よりも大きい。
【0012】
本発明のリチウムイオン電池の製造方法では、積層単位を形成する前において、セパレータ及び電極活物質層(B)の少なくとも1つには電解液が含有されており、下記(1)~(2)の少なくとも1つの条件を満たす。
(1)上記セパレータが有する細孔のすべてが上記電解液で満たされており、かつ電解液を含んでいない状態において上記電極活物質層(A)が有する細孔の総体積が上記電極活物質層(A)が有する上記電解液の体積よりも大きい。
(2)少なくとも上記電極活物質層(B)が上記電解液を含み、電解液を含んでいない状態において上記電極活物質層(B)が有する細孔の総体積に対する上記電極活物質層(B)に含まれる上記電解液の体積の割合が、電解液を含んでいない状態において上記電極活物質層(A)が有する細孔の総体積に対する上記電極活物質層(A)に含まれる上記電解液の体積の割合よりも大きい。
【0013】
(1)の場合、セパレータが有する細孔のすべてが電解液で満たされている一方で、電解液を含んでいない状態において電極活物質層(A)が有する細孔の総体積が電極活物質層(A)が有する電解液の体積よりも大きいので、電極活物質層(A)が電解液を含んでいない細孔を有しているといえる。従って、セパレータに含まれる電解液の一部が電極活物質層(A)に供給される。
このとき、電極活物質層(A)とセパレータは面同士で接触しているため、セパレータから電極活物質層(A)に電解液が供給される速度は、通常の方法(外装体内に電解液を注液する方法)と比較して速い。
【0014】
(2)の場合、電解液を含んでいない状態において電極活物質層(B)が有する細孔の総体積に対する電極活物質層(B)に含まれる電解液の体積の割合が、電解液を含んでいない状態において電極活物質層(A)が有する細孔の総体積に対する電極活物質層(A)に含まれる電解液の体積の割合よりも大きい。
そのため、電解液を含んでいない状態での細孔の総体積に占める電解液量が相対的に多い電極活物質層(B)に含まれる電解液の一部が、電解液を含んでいない状態での細孔の総体積に占める電解液量が相対的に少ない電極活物質層(A)に供給されることとなる。このとき、電極活物質層(B)に含まれる電解液の一部は、電極活物質層(B)と面同士で接触するセパレータを介して電極活物質層(A)へと供給されるため、セパレータを介して電極活物質層(B)から電極活物質層(A)へ電解液が供給される速度は、通常の方法(外装体内に電解液を注液する方法)と比較して速い。
なお、(2)の場合、電極活物質層(A)は電解液を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。電極活物質層(A)が電解液を含まない場合、電解液を含んでいない状態において電極活物質層(A)が有する細孔の総体積に対する電極活物質層(A)に含まれる電解液の体積の割合は、0%である。
【0015】
上記(1)及び(2)の場合、電極活物質層(A)とセパレータの間での電解液の移動及びセパレータと電極活物質層(B)の間での電解液の移動は、セパレータと電極活物質層(A)又は電極活物質層(B)との接触面で行われ、厚さ方向に拡散するため、電解液の拡散距離が短く、電解液の濃度にばらつきが発生しにくい。
そのため、リチウムイオン電池用電極に対して、電解液を均一に含浸することができる。この効果は、電極の面積が大きい程顕著である。
【0016】
本発明のリチウムイオン電池の製造方法において、上記(2)の場合、電解液を含んでいない状態において電極活物質層(B)が有する細孔の総体積に対する電極活物質層(B)に含まれる電解液の体積の割合(以下、電極活物質層(B)の電解液割合ともいう)と、電解液を含んでいない状態において電極活物質層(A)が有する細孔の総体積に対する電極活物質層(A)に含まれる電解液の体積の割合(以下、電極活物質層(A)の電解液割合ともいう)の差は特に限定されないが、45%以上であることが好ましい。
上記電解液割合の差が45%以上であると、電極活物質層(B)から電極活物質層(A)に対して迅速に電解液を供給することができる。
【0017】
本発明のリチウムイオン電池の製造方法では、積層単位を形成する前に上記(1)~(2)の少なくとも1つの条件を満たすが、(1)及び(2)の両方の条件を満たすことが好ましい。
上記(1)及び(2)の両方の条件を満たすと、電極活物質層(A)に充分な量の電解液を、迅速かつ均一に含浸させることができる。
【0018】
積層単位を形成する前に上記(1)を満たす方法としては、例えば、積層単位を形成する前に、電極活物質層(A)に電解液を含浸させずに、セパレータに電解液を含浸させる方法等が挙げられる。
セパレータに電解液を含浸させる方法としては、所定量の電解液を入れた容器の中にセパレータを投入(浸漬)する方法や、セパレータの表面にスポイト等により電解液を滴下する方法等が挙げられる。
セパレータが有する細孔のすべてが上記電解液で満たされたか否かは、セパレータ表面の外観が白色から半透明に変化することで確認することができる。
なお、セパレータには、細孔の総体積よりも大きい体積の電解液を添加してもよい。この場合、セパレータの表面に、細孔に入らなかった電解液が保持される。
【0019】
積層単位を形成する前に上記(2)を満たす方法としては、例えば、所定量の電解液を入れた容器の中に電極活物質層(B)を投入(浸漬)する方法や、電極活物質層(B)の表面にスポイト等により電解液を滴下する方法等が挙げられる。
さらには、電極活物質層(B)を作製する際に、電極活物質層を構成する各成分に加えて、電解液を添加しておき、これを混合、成形することによって電解液を含んだ電極活物質層(B)を作製する方法も挙げられる。
【0020】
本発明のリチウムイオン電池の製造方法を構成する積層工程について、
図1を参照して具体的に説明する。
図1は、積層工程の例を模式的に示す図である。
図1に示すように、積層工程では、電極活物質層(A)10と、対極となる電極活物質層(B)30とを、セパレータ20を介して積層し、積層単位100を得る。
電極活物質層(A)10及び電極活物質層(B)30はいずれも、電解液を含有することのできる細孔を有する多孔質体である。セパレータ20も、その内部に電解液を含有することができる細孔を有する多孔質体である。
電極活物質層(B)30及びセパレータ20の少なくとも1つには電解液が含有されている。
【0021】
積層単位を形成した後の電解液の移動について説明する。
図2は、積層単位を形成した直後の電解液の動きの一例を模式的に示す説明図である。
図2は、積層単位を形成する前にセパレータのみに電解液を含有させた場合の例を示している。
図2に示す場合、最初、電解液はセパレータ20のみに含有されている。積層単位100が形成されることによってセパレータ20と、電極活物質層(A)10及び電極活物質層(B)30とが接触すると、その接触面から電極活物質層(A)10及び電極活物質層(B)30に向かって電解液が移動する(
図2中に示す矢印は、電解液が拡散する方向を示している。)。
【0022】
図3は、積層単位を形成した直後の電解液の動きの別の一例を模式的に示す説明図である。
図3は、積層単位を形成する前に電極活物質層(B)のみに電解液を含有させた場合の例を示している。
図3に示す場合、最初、電解液は電極活物質層(B)30のみに含有されている。積層単位100が形成されることによってセパレータ20、電極活物質層(A)10及び電極活物質層(B)30が接触すると、電極活物質層(B)30とセパレータ20との接触面からセパレータ20に対してまず電解液が移動する。その後、セパレータ20と電極活物質層(A)10との接触面から電極活物質層(A)10に対して電解液が移動する(
図3中に示す矢印は、電解液が拡散する方向を示している。)。
なお、積層単位を形成する前において、セパレータと電極活物質層(B)の両方に電解液を含有させた場合でも、セパレータから電極活物質層(A)へ電解液が移動する。
【0023】
電極活物質層は、電極活物質を含み、電解液を含有することのできる細孔を有する多孔質体である。電極活物質層には、電極活物質の他に、導電助剤や粘着性樹脂、電極用バインダが含まれていてもよい。
【0024】
本発明のリチウムイオン電池の製造方法において、電極活物質層(A)及び電極活物質層(B)にはそれぞれ種類の異なる電極活物質が用いられる。
すなわち、電極活物質は正極活物質及び負極活物質のいずれかであり、電極活物質層(A)が電極活物質として正極活物質を用いた正極活物質層であった場合、電極活物質層(B)は電極活物質として負極活物質を用いた負極活物質層である。
【0025】
正極活物質層は、正極活物質を含み、電解液を含有することのできる細孔を有する多孔質体である。
【0026】
正極活物質としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物{遷移金属が1種である複合酸化物(LiCoO2、LiNiO2、LiAlMnO4、LiMnO2及びLiMn2O4等)、遷移金属元素が2種である複合酸化物(例えばLiFeMnO4、LiNi1-xCoxO2、LiMn1-yCoyO2、LiNi1/3Co1/3Al1/3O2及びLiNi0.8Co0.15Al0.05O2)及び遷移金属元素が3種類以上である複合酸化物[例えばLiMaM’bM’’cO2(M、M’及びM’’はそれぞれ異なる遷移金属元素であり、a+b+c=1を満たす。例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2)等]等}、リチウム含有遷移金属リン酸塩(例えばLiFePO4、LiCoPO4、LiMnPO4及びLiNiPO4)、遷移金属酸化物(例えばMnO2及びV2O5)、遷移金属硫化物(例えばMoS2及びTiS2)及び導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン及びポリ-p-フェニレン及びポリビニルカルバゾール)等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
なお、リチウム含有遷移金属リン酸塩は、遷移金属サイトの一部を他の遷移金属で置換したものであってもよい。
【0027】
正極活物質の体積平均粒子径は、リチウムイオン電池の電気特性の観点から、0.01~100μmであることが好ましく、0.1~35μmであることがより好ましく、1~30μmであることがさらに好ましい。
【0028】
負極活物質層は負極活物質を含み、電解液を含有することのできる細孔を有する多孔質体である。
【0029】
負極活物質としては、炭素系材料[例えばハードカーボン、難黒鉛化性炭素、アモルファス炭素、樹脂焼成体(例えばフェノール樹脂及びフラン樹脂等を焼成し炭素化したもの等)、コークス類(例えばピッチコークス、ニードルコークス及び石油コークス等)、炭化ケイ素及び炭素繊維等]、導電性高分子(例えばポリアセチレン及びポリピロール等)、金属(スズ、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム及びチタン等)、金属酸化物(チタン酸化物、リチウム・チタン酸化物及びケイ素酸化物等)及び金属合金(例えばリチウム-スズ合金、リチウム-シリコン合金、リチウム-アルミニウム合金及びリチウム-アルミニウム-マンガン合金等)等及びこれらと炭素系材料との混合物等が挙げられる。
上記負極活物質のうち、内部にリチウム又はリチウムイオンを含まないものについては、予め負極活物質の一部又は全部にリチウム又はリチウムイオンを含ませるプレドープ処理を施してもよい。
【0030】
負極活物質の体積平均粒子径は、リチウムイオン電池の電気特性の観点から、0.01~100μmが好ましく、0.1~40μmであることがより好ましく、2~35μmであることがさらに好ましい。
【0031】
本明細書において、電極活物質の体積平均粒子径は、マイクロトラック法(レーザー回折・散乱法)によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(Dv50)を意味する。マイクロトラック法とは、レーザー光を粒子に照射することによって得られる散乱光を利用して粒度分布を求める方法である。なお、体積平均粒子径の測定には、日機装(株)製のマイクロトラック等を用いることができる。
【0032】
導電助剤は導電性を有する材料から選択される。
具体的には、金属[ニッケル、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、銅及びチタン等]、カーボン[グラファイト及びカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等]、及びこれらの混合物等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
これらの導電助剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金又は金属酸化物を用いてもよい。電気的安定性の観点から、好ましくはアルミニウム、ステンレス、カーボン、銀、銅、チタン及びこれらの混合物であり、より好ましくは銀、アルミニウム、ステンレス及びカーボンであり、さらに好ましくはカーボンである。またこれらの導電助剤としては、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに導電性の材料(上記した導電助剤のうち金属のもの)をめっき等でコーティングしたものでもよい。
【0033】
導電助剤の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、リチウムイオン電池の電気特性の観点から、0.01~10μmであることが好ましく、0.02~5μmであることがより好ましく、0.03~1μmであることがさらに好ましい。
なお、「粒子径」とは、粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0034】
導電助剤の形状(形態)は、粒子形態に限られず、粒子形態以外の形態であってもよく、カーボンナノチューブ等、いわゆるフィラー系導電性材料として実用化されている形態であってもよい。
【0035】
導電助剤は、その形状が繊維状である導電性繊維であってもよい。
導電性繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維、合成繊維の中に導電性のよい金属や黒鉛を均一に分散させてなる導電性繊維、ステンレス鋼のような金属を繊維化した金属繊維、有機物繊維の表面を金属で被覆した導電性繊維、有機物繊維の表面を導電性物質を含む樹脂で被覆した導電性繊維等が挙げられる。これらの導電性繊維の中では炭素繊維が好ましい。また、グラフェンを練りこんだポリプロピレン樹脂も好ましい。
導電助剤が導電性繊維である場合、その平均繊維径は0.1~20μmであることが好ましい。
【0036】
電極活物質は、その表面の少なくとも一部が被覆用樹脂を含む被覆剤で被覆された被覆電極活物質であってもよい。被覆電極活物質は、電解液を含んだ被覆剤が膨潤して粘着性を示すため、成形がより簡便な条件で行える。
従って、最初から電解液を含んだ電極活物質層を作製しやすくなる。
なお、電極活物質が正極活物質である場合の被覆電極活物質を、被覆正極活物質ともいい、電極活物質が負極活物質である場合の被覆電極活物質を、被覆負極活物質ともいう。
【0037】
被覆剤は、被覆用樹脂を含んでなり、必要に応じてさらに導電材料を含んでいてもよい。
上記被覆用樹脂としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などが挙げられ、例えば、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アニリン樹脂、アイオノマー樹脂、ポリカーボネート、ポリサッカロイド(アルギン酸ナトリウム等)及びこれらの混合物等が挙げられる。これらの中ではアクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂又はポリアミド樹脂が好ましく、アクリル樹脂がより好ましい。
これらの中では、電解液に浸漬した際の吸液率が10%以上であり、飽和吸液状態での引張破断伸び率が10%以上である被覆用樹脂がより好ましい。
上述した被覆用樹脂のなかでも、国際公開第2015/005117号公報に被覆用樹脂として記載されているものは、本発明のリチウムイオン電池用電極組成物成形体の製造方法において、被覆剤を構成する被覆用樹脂として特に好適に用いることができる。
【0038】
なお、被覆活物質は、国際公開第2015/041184号公報等に記載の公知の方法で得ることができる。
【0039】
電極活物質層は、電極活物質と電極用バインダ及び/又は粘着性樹脂とを含む混合物を形成してなる多孔質体であってもよい。電極活物質層としては、電極用バインダを含むことなく電極活物質と粘着性樹脂とを含む混合物を成形してなる多孔質体であることが好ましい。
電極用バインダとしては、電極活物質同士及び電極活物質と集電体とを結着固定するために用いられる公知の溶剤乾燥型のリチウムイオン電池用結着剤(デンプン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、スチレン-ブタジエンゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン及びスチレン-ブタジエン共重合体等の材料であって、溶剤に溶解又は分散して用いられ、溶剤を揮発、留去して固体として析出させることで結着する材料)が挙げられる。
電極用バインダは、溶媒成分を揮発させることで乾燥した場合にその表面が粘着性を示すことなく固体化して、電極活物質同士及び電極活物質と集電体とを強固に固定するものである。一方、粘着性樹脂は、溶媒成分を揮発させて乾燥させても固体化せずに粘着性を有する樹脂を意味する。ここで粘着とは、JIS Z0109:2015 粘着テープ・粘着シート用語に定義された、「高粘度液体に見られる現象であって、僅かな圧力を加えるだけで被着体に接着する現象」を意味し、粘着性樹脂は僅かな圧力を加えるだけで被着体に接着することができる樹脂である。そして、僅かな圧力を加えるだけでは被着体に接着できない固体状の上記電極用バインダと接着性樹脂とは異なる材料であり、区別される。電極用バインダは、単に結着剤、バインダ等とも呼ばれる。
【0040】
粘着性樹脂とは、常温で短時間、わずかな圧力で被着体への可逆的な接着が可能な樹脂であり、酢酸ビニル、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ブチルアクリレート及びブチルメタクリレートからなる群から選択された少なくとも1種の低Tgモノマーを必須構成単量体として含むことが好ましい。上記低Tgモノマーの合計重量割合は、構成単量体の合計重量に基づいて45重量%以上であることが好ましい。
また、上記被覆用樹脂がその一部を溶解する溶剤を使用しなければ粘着性を発現しないのに対し、上記粘着性樹脂は、その一部を溶解する溶剤を用いることなく電極活物質組成物中で粘着性を発現する点で、上記被覆用樹脂と上記粘着性樹脂とは区別される。
【0041】
上記粘着性樹脂としては、上記必須構成単量体の他に、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、アクリル酸等を含む重合体であってもよい。
【0042】
粘着性樹脂を用いる場合、電極活物質及び導電助剤の合計重量に対して0.01~10重量%の粘着性樹脂を用いることが好ましい。
【0043】
導電材料としては、上述した導電助剤と同様のものを好適に用いることができる。
ただし、導電材料が被覆電極活物質の一部を構成する被覆剤に含まれるのに対して、導電助剤は該被覆剤中に含まれない点で明確に区別できる。
【0044】
電極活物質層は、電極活物質と必要による用いる電極用バインダ及び粘着性樹脂等とを、プラネタリミキサー、万能混合機及びタンブラーミキサー等の公知の粉体撹拌混合装置を用いて混合して混合物を得て、この混合物を公知の方法で成型することによって得ることができる。成形方法としては、例えば、圧縮成形、押出成形及びカレンダー成形等が挙げられる。
なお、電極活物質層が電極活物質と粘着性樹脂とを含む混合物を成形してなる多孔質体である場合、電極活物質の表面に粘着性樹脂を付着させた後に、必要に応じて用いる導電助剤等と混合して成形してもよく、電極活物質と粘着性樹脂と必要に応じて用いる導電助剤とを一括に混合して成形してもよい。
【0045】
混合物は乾燥体であってもよく、湿潤体であってもよいが、湿潤体であることが好ましい。湿潤体とは、乾燥した上記混合物に少量の液体(電解液又は電解液を構成する溶媒)を添加したものである。混合物が湿潤体の場合、ペンデュラー状態又はファニキュラー状態であることが好ましい。
【0046】
湿潤体である場合における電解液の割合は、特に限定されないが、ペンデュラー状態又はファニキュラー状態とするためには、正極の場合には電解液の割合を湿潤体全体の0.5~15重量%、負極の場合には電解液の割合を湿潤体全体の0.5~25重量%とすることが好ましい。
【0047】
圧縮成形によって電極活物質層を得る方法としては、任意の形状の型に上記混合物を入れて公知の圧縮装置を用いて圧縮する方法が挙げられる。
型の形状は、底面及び側面を有していればよく、その他の形状は特に限定されない。また、側面を構成する型と底面を構成する型とが分離可能に構成されていてもよい。
【0048】
型を構成する材料としては、金型等に使用される金属等の一般的な材料が挙げられる。
また、型と電極組成物成形体との間で発生する摩擦を低減するため、型の表面にはフッ素コート等が施されていてもよい。
型内に形成された空間(以下、単に空間ともいう)の形状は、得たい電極活物質層の形状に応じて調整すればよく、圧縮方向における形状変化がないものであることが好ましく、例えば、円柱形、角柱形等であることが好ましい。
空間の形状が円柱形の型を用いた場合には平面視略円形の、空間の形状が角柱状の型を用いた場合には平面視矩形の電極組成物成形体が得られる。
【0049】
押出成形によって電極活物質層を得る方法としては、公知の押出成形機を用いる方法が挙げられる。
押出成形機としては、例えば、原料(上記混合物)が供給される原料筒と、原料筒の原料吐出側に取り付けられたダイス(モールドともいう)と、原料筒内に配置された原料をダイスの方へ押し出すための回転軸状のスクリュとを有するものが挙げられる。
原料筒に混合物を投入し、スクリュの回転により原料筒を移動した混合物をダイスから押し出すことにより、筒状の成形体を得る事ができる。成形体の形状は、ダイスの形状、及び、スクリュの回転速度を調整することによって適宜調整することができる。
【0050】
ダイスから吐出される筒状の成形体の形状は特に限定されないが、円柱形又は四角柱形であることが好ましい。ダイスから吐出される筒状の成形体を所定の長さで切断することにより、電極活物質層が得られる。
【0051】
カレンダー成形によって電極活物質層を得る方法としては、公知のロールプレス装置を用いる方法が挙げられる。
ニーダー等の連続混合機から上記混合物を投入し、ドクターブレード等によってフィルム等の平滑な面上に一定の厚みに広げた混合物をロールプレス処理することでシート状の成形体を得る事ができる。シート状の成形体を所定の長さで切断することにより、電極活物質層が得られる。
【0052】
電極活物質層の見かけの体積に対する電極活物質層が有する細孔体積の割合(以下、電極活物質層の細孔率という)は特に限定されないが、正極電極活物質層の場合は35~50%であることが好ましく、負極電極活物質層の場合は30~45%であることが好ましい。
上述した成形方法における圧力を調整することによって電極活物質層の細孔率を調整することができる。
なお、電極活物質層の細孔率は、電解液を含んでいない状態における電極活物質層の見掛け体積に対する電極活物質層中に含まれる細孔の総体積の割合であり、本発明において、電極活物質層中に含まれる細孔の合計体積は、電解液を含んでいない状態における電極活物質層の見掛け体積から電極活物質層の形成に用いた電極活物質の体積の合計を引き算することにより計算される値である。電極活物質層の形成に用いた電極活物質の体積は、電極活物質の質量と真密度とを掛け算することにより得られる。
なお、電極活物質の真密度は、OECD Test No.109,OECD GUIDLINE FOR THE TESTING OF CHEN|MICALS,Density of Liquids and Soliddsに記載の方法で得ることができる。
【0053】
電極活物質層のうち、少なくとも電極活物質層(A)は、電極活物質同士が電極用バインダによって互いに結着していない非結着体であることが好ましい。
非結着体である電極活物質層(A)は、電極用バインダを使用せずに混合物を準備し、成形することで得ることができる。
電極活物質層(A)を構成する電極活物質が被覆電極活物質である場合には、電極活物質層中に被覆用樹脂が存在していることとなる。ただし、被覆用樹脂は電極活物質粒子の表面を被覆するものであって、電極活物質粒子同士を不可逆的に接着するものではなく、接着は一時的(可逆的)なもので、容易に手でほぐすことができる。従って、被覆電極活物質を含む混合物を成形した場合であっても、電極用バインダを添加しないことで、電極活物質同士が電極用バインダによって互いに結着していない非結着体を得ることができる。
【0054】
また、電極活物質層を得るための混合物に粘着性樹脂を含む場合には、電極活物質の表面が粘着性樹脂により可逆的に固定されることとなる。この場合、電極活物質同士であれば容易に分離することができ、電極活物質が、被覆電極活物質であったとしても、被覆用樹脂を破壊することなく被覆電極活物質同士を分離することができる。
従って、電極活物質(又は被覆電極活物質)と粘着性樹脂を用い、電極用バインダを用いずに準備された混合物を用いて成形する場合であっても、電極活物質同士が電極用バインダによって互いに結着していない非結着体を得ることができる。
【0055】
本発明のリチウムイオン電池の製造方法において用いられるセパレータとしては、公知のリチウムイオン電池用セパレータを用いることができる。公知のリチウムイオン電池用セパレータとしては、多孔質ポリオレフィンからなるセパレータ[旭化成(株)製ハイポア、旭化成(株)製セルガード及び宇部興産(株)製ユーポア等]等が挙げられ、これらの表面に更にアルミナ等の絶縁性粒子からなる多孔膜を設けたものを用いてもよい。
セパレータの見掛け体積に対する細孔の合計体積の割合(以下、セパレータの細孔率という)は40~60%であることが好ましく、細孔率がこの範囲となるものであれば、市販のセパレータをそのまま用いることができる。
なお、セパレータの細孔率は市販のセパレータについてはその仕様書等に記載された値で確認できる他、水銀等の液体を細孔に圧入して細孔分布を定量するポロシメーターを用い、得られた細孔分布から細孔の合計体積を計算し、セパレータの外寸から計算される見掛け体積に対する細孔の合計体積の割合を計算することによって確認することができる。
【0056】
セパレータの厚さは特に限定されないが、5~200μmであることが好ましい。
セパレータの厚さが上記範囲であると、セパレータの厚さが充分薄く、セパレータを介して電極活物質層(B)から電極活物質層(A)に対して電解液を供給する速度が良好である。
さらに、セパレータの厚さが上記範囲であると、セパレータが含有することのできる電解液量が、電極活物質層(A)及び電極活物質層(B)が含有することのできる電解液量と比較して小さくなるため、電極活物質層(B)の電解液割合が、電極活物質層(A)の電解液割合よりも大きい場合(すなわち(2)の条件)においてセパレータが電解液を含有していない場合であっても、電極活物質層(B)に含まれる電解液がセパレータだけでなく、電極活物質層(A)にも供給される。
【0057】
電解液としては、リチウムイオン電池の製造に用いられる、電解質及び非水溶媒を含有する電解液を使用することができる。
【0058】
電解質としては、通常の電解液に用いられているもの等が使用でき、好ましいものとしては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiClO4、及びLiN(SO2F)2等の無機アニオンのリチウム塩、LiN(SO2CF3)2及びLiN(SO2C2F5)2等の有機アニオンのリチウム塩等が挙げられる。これらの内、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましいのはLiPF6及びLiN(SO2F)2である。
【0059】
非水溶媒としては、非プロトン性溶媒を好ましく使用することができる。
非プロトン性溶媒とは、水素イオン供与性の基(解離性の水素原子を有する基、例えば、アミノ基、水酸基、及びチオ基。)を有さない溶媒であり、好ましく用いることができる溶媒としては、ラクトン化合物、環状又は鎖状炭酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、環状又は鎖状エーテル、リン酸エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン等及びこれらの混合物であり、より好ましくは環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、及び環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルとの混合溶媒である。
【0060】
ラクトン化合物としては、5員環(γ-ブチロラクトン及びγ-バレロラクトン等)及び6員環のラクトン化合物(δ-バレロラクトン等)等を挙げることができる。
【0061】
環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート及びビニレンカーボネート等が挙げられる。
鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネート、エチル-n-プロピルカーボネート及びジ-n-プロピルカーボネート等が挙げられる。
【0062】
鎖状カルボン酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル及びプロピオン酸メチル等が挙げられる。
環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソラン及び1,4-ジオキサン等が挙げられる。
鎖状エーテルとしては、ジメトキシメタン及び1,2-ジメトキシエタン等が挙げられる。
【0063】
リン酸エステルとしては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリブチル、リン酸トリ(トリフルオロメチル)、リン酸トリ(トリクロロメチル)、リン酸トリ(トリフルオロエチル)、リン酸トリ(トリパーフルオロエチル)、2-エトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン、2-トリフルオロエトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン及び2-メトキシエトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン等が挙げられる。
ニトリル化合物としては、アセトニトリル等が挙げられる。アミド化合物としては、N,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFともいう)等が挙げられる。スルホンとしては、ジメチルスルホン及びジエチルスルホン等の鎖状スルホン及びスルホラン等の環状スルホン等が挙げられる。
非プロトン性溶媒は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0064】
電解液に含まれる上記の電解質の濃度は、低温での電池特性等の観点から、0.3~3mol/Lであることが好ましい。
【0065】
本発明のリチウムイオン電池の製造方法において、上記(2)の条件である場合、電解液を含んでいない状態において電極活物質層(B)が有する細孔の総体積に対する電極活物質層(B)に含まれる電解液の体積の割合が、電解液を含んでいない状態において電極活物質層(A)が有する細孔の総体積に対する電極活物質層(A)に含まれる電解液の体積の割合よりも大きければ、積層工程において用いられる電極活物質層(A)、セパレータ及び電極活物質層(B)が含有する電解液の量は、特に限定されない。
なかでも電解液を均一に含浸させる観点からは、電解液を含んでいない状態において電極活物質層(A)が有する細孔の総体積に対する電極活物質層(A)に含まれる電解液の体積の割合が0~90%であることが好ましく、0~50%であることがより好ましい。
【0066】
電解液を含んでいない状態において電極活物質層(B)が有する細孔の総体積に対する電極活物質層(B)に含まれる電解液の体積の割合は100%を超えていてもよい。上記割合が100%を超える場合、電極活物質層(B)は流動性を持つ活物質層となる。
【0067】
本発明のリチウムイオン電池の製造方法は、上記積層工程の前に、上記セパレータ及び上記電極活物質層(B)の少なくとも1つに上記電解液を含有させる吸液工程をさらに備えることが好ましい。
【0068】
上記吸液工程は、所定量の電解液を入れた容器の中に電極活物質層(B)を投入(浸漬)する方法、電極活物質層(B)の表面にスポイト等により電解液を滴下する方法、及び電極活物質層(B)を作製する際に、電極活物質層を構成する各成分に加えて、電解液を添加しておき、これを混合、成形することによって電解液を含んだ電極活物質層(B)を作製する方法等により行うことができる。
【0069】
なお、電解液割合が100%を超える電極活物質層(B)を得る方法としては、例えば、電極活物質を含む混合物を成形して得られた電極活物質層(B)に対して細孔が含むことのできる量よりも多い量の電解液を添加する方法や、電極活物質を含む混合物に対して、成形後の電極活物質(B)の細孔が含むことのできる量よりも多い量の電解液をあらかじめ添加してから成形する方法等が挙げられる。
【0070】
吸液工程において、セパレータに電解液を含有させる方法としては、所定量の電解液を入れた容器の中にセパレータを投入(浸漬)する方法や、セパレータの表面にスポイト等により電解液を滴下する方法等が挙げられる。
【0071】
本発明のリチウムイオン電池の製造方法は、上記積層単位が外装体に収容された収容体を得る収容工程をさらに備えることが好ましい。
収容工程は、上記の積層工程の後に、上記積層単位を外装体に収容することで行ってもよく、外装体の内部で直接、電極活物質層(A)、セパレータ及び電極活物質層(B)を積層して積層単位を形成すること(すなわち、積層工程と収容工程を同時に行うこと)で行ってもよい。
【0072】
なお、収容体を封止してしまう前に、正極側の電極活物質層に正極集電体を、負極側の電極集電体に負極集電体を接続する。
正極集電体は、正極となる電極活物質層のセパレータとは反対側の主面に設けられることが好ましい。また負極集電体は、負極となる電極活物質層のセパレータとは反対側の主面に設けられることが好ましい。
【0073】
外装体としては、公知の金属缶ケース及びアルミニウムを含むラミネートフィルム等を用いることができる。ラミネートフィルムとしては、ポリプロピレン、アルミニウム及びナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができる。なかでも、収容後の積層単位に対して圧力を加えて電解液の含浸を促進することが行いやすい点から、ラミネートフィルムが好ましい。
【0074】
正極集電体及び負極集電体としては、金属集電体や樹脂集電体を用いることができる。金属集電体としては、公知の金属集電体を用いることができる。たとえば、金属集電体は、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、タンタル、ニオブ、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス、アンチモン、およびこれらの一種以上を含む合金、ならびにステンレス合金からなる群から選択される一種以上からなると好ましい。金属集電体は薄板または金属箔から形成されてもよいし、基材の表面にスパッタリング、電着および塗布等の手法により金属層を形成してもよい。
【0075】
樹脂集電体は導電性を有する高分子組成物からなる集電体であり、好ましくは非導電性の高分子材料と導電性フィラーとの混合物からなり、日本国特許公開第2012-150905号公報及び国際公開第WO2015/005116号等に記載のもの等を用いることができる。
高分子材料としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリシクロオレフィン(PCO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂およびこれらの混合物等が挙げられる。
電気的安定性の観点から、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)およびポリシクロオレフィン(PCO)が好ましく、さらに好ましくはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)およびポリメチルペンテン(PMP)である。
【0076】
導電性フィラーは、導電性を有する材料から選択され、集電体内のイオン透過を抑制する観点から、電荷移動媒体として用いられるイオンに関して伝導性を有さない材料を用いるのが好ましい。具体的には、カーボン材料、アルミニウム、金、銀、銅、鉄、白金、クロム、スズ、インジウム、アンチモン、チタン、ニッケルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの導電性フィラーは1種単独で用いられてもよいし、2種以上併用してもよい。また、ステンレス(SUS)等のこれらの合金材が用いられてもよい。耐食性の観点から、好ましくはアルミニウム、ステンレス、カーボン材料、ニッケル、より好ましくはカーボン材料である。また、これらの導電性フィラーは、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに、上記で示される金属をメッキ等でコーティングしたものであってもよい。
【0077】
樹脂集電体は、日本国特許公開第2012-150905号公報及び国際公開第WO2015/005116号等に記載の公知の方法で得ることができ、ポリプロピレンに導電性フィラーとしてアセチレンブラックを5~20部分散させた後、熱プレス機で圧延したものが挙げられる。また、その厚みも特に制限されず、公知のものと同様、あるいは適宜変更して適用することができる。
【0078】
積層単位を外装体に収容した後に、さらに電解液を外装体内に注液する工程を行ってもよい。電解液を外装体内にさらに注液することでリチウムイオン電池内の電解液量を調節することができる。
【0079】
本発明のリチウムイオン電池の製造方法では、収容体内の気体を排出する排気工程を行ってもよい。
排気行程を行うと、電極活物質層(A)、セパレータ及び電極活物質層(B)の細孔からの気体の排出が促進され、細孔への電解液の移動が迅速に行われ、電解液をさらに均一に含浸し易くなる。
収容体内の気体の排気は、外装体の開口部に公知の減圧装置(回転式真空ポンプ、アスピレーター等)を接続して収容体内を減圧して気体を排気する方法、該減圧装置に接続して内部が減圧されたドライチャンバー等の中に収容体を入れて収容体を減圧環境下に置くことで収容体内の気体を排出する方法、及び、収容体の外側から加圧して積層単位を圧縮して収容体内の気体を排気する方法等で行うことができ、なかでも収容体を減圧環境下に置くことで収容体内の気体を排出する方法が好ましい。
また、収容体内の気体を排出する排気工程では、過剰の電解液を気体と同時に、収容体の外部に排出してもよい。
【0080】
上記の収容体に対しては、排気行程を行った後、収容体の開口部をヒートシール等により封止することでリチウムイオン電池を得ることができる。収容体の封止は、収容体内の気体が排出された状態で行うことが好ましい。
減圧されたドライチャンバー等の密閉容器中に収容体を入れる方法によって排気行程を行った場合、密閉容器内が減圧された状態のまま(すなわち減圧環境下に収容体をおいたまま)収容体の開口部を封止することが好ましい。
収容体を減圧環境下においたまま封止すると、収容体を常圧環境下に戻した場合に、収容体の外側から均一に大気圧がかかり、積層単位を構成する電極活物質層(A)、電極活物質層(B)及びセパレータの密着性及び積層単位と集電体との密着性が向上し、電池の電気抵抗値を低くすることができる。
【実施例】
【0081】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り部は重量部、%は重量%を意味する。
【0082】
<製造例1:粘着性樹脂の製造>
攪拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロートおよび窒素ガス導入管を付した4つ口コルベンに、酢酸ビニル5.0部、2-エチルヘキシルアクリレート23.7部および酢酸エチル185.5部を仕込み75℃に昇温した。酢酸ビニル11.1部、2-エチルヘキシルアクリレート21.0部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート28.1部、アクリル酸11.1部および2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.200部および2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.200部を混合した。得られた単量体混合液をコルベン内に窒素を吹き込みながら、滴下ロートで4時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.800部を酢酸エチル12.4部に溶解した溶液を滴下ロートを用いて、重合を開始してから8時間目にかけて連続的に追加した。さらに、沸点で重合を2時間継続し、酢酸エチルを702.4部加えて樹脂濃度10重量%の粘着性樹脂溶液を得た。その後、100℃の減圧乾燥機内に3時間入れることで酢酸エチルを除去して粘着性樹脂を得た。得られた粘着性樹脂の重量平均分子量(以下、Mwと略記する)は420,000であった。
Mwは、以下の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により求めた。
装置:「HLC-8120GPC」[東ソー(株)製]
カラム:「TSKgel GMHXL」(2本)、「TSKgel Multipore HXL-Mを各1本連結したもの」[いずれも東ソー(株)製]
試料溶液:0.25重量%のテトラヒドロフラン溶液
溶液注入量:10μL
流量:0.6mL/分
測定温度:40℃
検出装置:屈折率検出器
基準物質:標準ポリスチレン[東ソー(株)製]
【0083】
<製造例2:電解液の調製>
エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(体積比率でEC:PC=1:1)にLiN(FSO2)2を2mol/Lの割合で溶解させ、リチウムイオン電池用電解液を調製した。JIS B 7525-3:2013にある浮ひょう型比重計で測定した電解液の比重(20℃)は1.4であった。
【0084】
[粘着性樹脂と負極活物質との混合物(負極用造粒混合物)の作製]
<製造例3>
ハードカーボン粉末[(株)クレハ製、真密度1.5g/cm3]235部を万能混合機に入れ、室温、150rpmで撹拌した状態で、製造例1で得られた粘着性樹脂溶液(樹脂固形分濃度10重量%)50部を60分かけて滴下混合し、さらに30分撹拌した。
次いで、撹拌した状態でカーボンナノファイバー[帝人(株)製、真密度2.2g/cm3]10部とアセチレンブラック[電気化学工業(株)製デンカブラック、真密度1.8g/cm3]10部とを混合し、30分撹拌したままで70℃に昇温し、0.01MPaまで減圧し30分保持して粘着性樹脂溶液に含まれる酢酸エチルを留去した。本操作により負極用造粒混合物(NM-1)260部を得た。
【0085】
<製造例4>
ハードカーボン粉末595部を万能混合機に入れ、室温、150rpmで撹拌した状態で、製造例1で得られた粘着性樹脂溶液(樹脂固形分濃度10重量%)130部を60分かけて滴下混合し、さらに30分撹拌した。
次いで、撹拌した状態でカーボンナノファイバー26部とアセチレンブラック26部とを混合し、30分撹拌したままで70℃に昇温し、0.01MPaまで減圧し30分保持して粘着性樹脂溶液に含まれる酢酸エチルを留去した。本操作により負極用造粒混合物(NM-2)660部を得た。
【0086】
<製造例5>
ハードカーボン粉末926部を万能混合機に入れ、室温、150rpmで撹拌した状態で、製造例1で得られた粘着性樹脂溶液(樹脂固形分濃度10重量%)200部を60分かけて滴下混合し、さらに30分撹拌した。
次いで、撹拌した状態でカーボンナノファイバー37部とアセチレンブラック37部とを混合し、30分撹拌したままで70℃に昇温し、0.01MPaまで減圧し30分保持して粘着性樹脂溶液に含まれる酢酸エチルを留去した。本操作により負極用造粒混合物(NM-3)1000部を得た。
【0087】
<製造例6>
ハードカーボン粉末926部を万能混合機に入れ、室温、150rpmで撹拌した状態で、製造例1で得られた粘着性樹脂溶液(樹脂固形分濃度10重量%)200部を60分かけて滴下混合し、さらに30分撹拌した。
次いで、撹拌した状態でアセチレンブラック74部を混合し、30分撹拌したままで70℃に昇温し、0.01MPaまで減圧し30分保持して粘着性樹脂溶液に含まれる酢酸エチルを留去した。本操作により負極用造粒混合物(NM-4)1000部を得た。
【0088】
[粘着性樹脂と正極活物質との混合物(正極用造粒混合物)の作製]
<製造例7>
ニッケル系正極材粉末[戸田工業(株)製、真密度4.8g/cm3]950部を万能混合機に入れ、室温、150rpmで撹拌した状態で、製造例1で得られた粘着性樹脂溶液(樹脂固形分濃度10重量%)200部、カーボンナノファイバー30部を投入混合し、30分撹拌し、さらに撹拌したままで70℃に昇温し、0.01MPaまで減圧し30分保持して粘着性樹脂溶液に含まれる酢酸エチルを留去した。本操作により正極用造粒混合物(PM-1)1000部を得た。
【0089】
<製造例8>
ニッケル系正極材粉末855部を万能混合機に入れ、室温、150rpmで撹拌した状態で、製造例1で得られた粘着性樹脂溶液(樹脂固形分濃度10重量%)180部、カーボンナノファイバー27部を投入混合し、30分撹拌し、さらに撹拌したままで70℃に昇温し、0.01MPaまで減圧し30分保持して粘着性樹脂溶液に含まれる酢酸エチルを留去した。本操作により正極用造粒混合物(PM-2)900部を得た。
【0090】
[負極活物質層の作製]
<製造例9>
製造例3で作製した負極用造粒混合物(NM-1)260部と、製造例2で得た電解液740部とを遊星撹拌型混合混練装置{あわとり練太郎[(株)シンキー製]}に入れ、2000rpmで5分間混合して、負極活物質組成物を作製した。電流取り出し用端子を取り付けた10cm×10cmの銅箔上全面に膜厚調整機能付きフィルムアプリケーターを用いて銅箔1cm2あたりの塗布量が163.4mgとなるように上記負極活物質組成物を塗布し、厚みが1143μmの負極活物質層(N-1)を銅箔上に形成した。銅箔上に面積1cm2あたりに乗せられたハードカーボン粉末の重量は38.4mgである。負極活物質層の体積から負極活物質層に含まれる負極活物質粒子であるハードカーボンの合計体積を除いた値(電解液を含んでいない状態における負極活物質層が有する細孔の総体積)に対する負極活物質層に含まれる電解液の体積の割合(すなわち、負極活物質層の電解液割合)は97%である。
【0091】
<製造例10>
製造例4で作製した負極用造粒混合物(NM-2)660部と、製造例2で得た電解液340部とを遊星撹拌型混合混練装置{あわとり練太郎[(株)シンキー製]}に入れ、2000rpmで5分間混合して、負極活物質組成物を作製し、製造例9と同様の銅箔上の全面に膜厚調整機能付きフィルムアプリケーターを用いて銅箔1cm2あたりの塗布量が104.6mgとなるように塗布し、厚みが715μmの負極活物質層(N-2)を銅箔上に形成した。銅箔上に面積1cm2あたりに乗せられたハードカーボン粉末の重量は62.2mgである。負極活物質層の体積から負極活物質層に含まれる負極活物質粒子であるハードカーボンの合計体積を除いた値(電解液を含んでいない状態における負極活物質層が有する細孔の総体積)に対する負極活物質層に含まれる電解液の体積(すなわち、負極活物質層の電解液割合)の割合は86%である。
【0092】
<製造例11>
製造例5で作製した負極用造粒混合物(NM-3)を製造例9と同様の銅箔の上に銅箔1cm2あたり53.8mgの重量でのせ、打錠機を用いて3400kgf/cm2の圧力で圧縮成形し、厚さが511μmの負極活物質層(N-3)を銅箔上の全面に形成した。銅箔上に面積1cm2あたりに乗せられたハードカーボン粉末の重量は38.4mgである。負極活物質層の体積から負極活物質層に含まれる負極活物質粒子であるハードカーボンの合計体積を除いた値(電解液を含んでいない状態における負極活物質層が有する細孔の総体積)に対する負極活物質層に含まれる電解液の体積の割合(すなわち、負極活物質層の電解液割合)は0%である。
【0093】
<製造例12>
製造例6で作製した負極用造粒混合物(NM-4)を製造例9と同様の銅箔の上に銅箔1cm2あたり53.8mgの重量でのせ、打錠機を用いて3400kgf/cm2の圧力で圧縮成形し、厚さが521μmの負極活物質層(N-4)を銅箔上の全面に形成した。銅箔上に面積1cm2あたりに乗せられたハードカーボン粉末の重量は38.4mgである。負極活物質層の体積から負極活物質層に含まれる負極活物質粒子であるハードカーボンの合計体積を除いた値(電解液を含んでいない状態における負極活物質層が有する細孔の総体積)に対する負極活物質層に含まれる電解液の体積の割合(すなわち、負極活物質層の電解液割合)は0%である。
【0094】
[正極活物質層の作製]
<製造例13>
製造例7で作製した正極用造粒混合物(PM-1)を電流取り出し用端子を取り付けた10cm×10cmのカーボンコートアルミ箔の上にカーボンコートアルミ箔1cm2あたり84.2mgの重量でのせ、打錠機を用いて3400kgf/cm2の圧力で圧縮成形し、厚さが352μmの正極活物質層(P-1)をカーボンコートアルミ箔上の全面に形成した。カーボンコートアルミ箔の上に面積1cm2あたりに乗せられたニッケル系正極材の重量は80.0mgである。正極活物質層の体積から正極活物質層に含まれる正極活物質粒子の合計体積を除いた値(電解液を含んでいない状態における正極活物質層が有する細孔の総体積)に対する正極活物質層(P-1)に含まれる電解液の体積の割合(すなわち、正極活物質層の電解液割合)は0%である。
【0095】
<製造例14>
製造例8で作製した正極用造粒混合物(PM-2)900部と、製造例2で得られた電解液100部とを遊星撹拌型混合混練装置{あわとり練太郎[(株)シンキー製]}に入れ、2000rpmで5分間混合して、正極活物質組成物を製造し、製造例13と同様のカーボンコートアルミ箔の上にカーボンコートアルミ箔1cm2あたり92.2mgの重量でのせ、打錠機を用いて3400kgf/cm2の圧力で圧縮成形し、厚さが347μmの正極活物質層(P-2)をカーボンコートアルミ箔上の全面に形成した。カーボンコートアルミ箔の上に面積1cm2あたりに乗せられたニッケル系正極材の重量は80.0mgである。正極活物質層の体積から正極活物質層に含まれる正極活物質粒子の合計体積を除いた値(電解液を含んでいない状態における正極活物質層が有する細孔の総体積)に対する正極活物質層(P-2)に含まれる電解液の体積の割合(すなわち、正極活物質層の電解液割合)は37%である。
【0096】
<製造例15>
[電解液を含浸させたセパレータの作製>
セパレータ(セルガード社製 セルガード(登録商標)3501、厚さ25μm、細孔率55%)(S-0)100部に製造例2で得た電解液5500部を滴下して電解液を含浸させたセパレータ(S-1)を作製した。電解液を約85部滴下したところでセパレータの細孔が全て電解液で埋まり電解液がセパレータに浸透しなくなった。その後、残りの電解液もセパレータ表面からこぼれないようにゆっくりと滴下して全量をセパレータの表面にのせた。なお、電解液の表面張力によってセパレータ表面からこぼれることなく表面にのせることができた。セパレータ(S-1)では、細孔に入らなかった過剰の電解液がセパレータ表面に載った状態であった。
【0097】
<製造例16>
電解液を450部に変更したこと以外は製造例15と同様にして細孔内に電解液を含浸させたセパレータ(S-2)を作製した。細孔に入らなかった過剰の電解液がセパレータ表面に載った状態であった。
【0098】
<実施例1>
ドライチャンバー内で、2枚の角型のラミネートフィルムの3辺をヒートシールして作製した外装体の中にカーボンコートアルミ箔、正極活物質層(P-1)、電解液を含浸させていないセパレータ(S-0)、負極活物質層(N-1)及び銅箔をこの順に積層した。次いで、ドライチャンバー内を-1気圧に減圧し、ドライチャンバー内で外装体の上にテフロン板(テフロンは登録商標)を乗せ、その上から加重をかけて圧縮し、外装体から過剰の電解液6.4gを排出するまで圧縮を継続した。続いて開口部から電流取り出し用端子を出した状態で封止し、その後ドライチャンバー内を乾燥空気で常圧に戻して評価用電池を作製した。その後下記のサイクル特性評価を行った。
【0099】
[サイクル特性の評価]
評価用電池の電流取り出し用端子を充放電測定装置「バッテリーアナライザー1470型」[東陽テクニカ(株)製]に接続した。
続いて、上記充放電測定装置を用いて、積層単位に対して、0.05Cの電流で正極の電位が2.5V(vs.Li+/Li)となるまで放電して10分休止した後、正極の電位が4.2V(vs.Li+/Li)となるまで充電して予備充電を行った。
続いて、予備充電工程後の評価用電池に対して、さらに、0.05Cの電流で正極の電位が2.5V(vs.Li+/Li)となるまで放電、10分休止、0.05Cの電流で正極の電位が4.2V(vs.Li+/Li)となるまで充電、10分休止、のサイクルを3回繰り返して行った。
1回目充電容量を100%とし、1回目充電容量に対する3回目充電容量の割合(3サイクル目容量維持率)を求め、結果を表1に示した。
電極活物質層中に電解液が不均一に含まれていると電解液が含浸していない部分の電極活物質がリチウムイオンの移動に関与できないために1回目の充電容量が設計値よりも小さくなり、充放電サイクルを繰り返す中で時間の経過とともに電解液が全体に行き渡ることで1回目よりも充電容量が大きくなる。すなわち、3サイクル目容量維持率が100%を超える。
一方、1サイクル目から電解液が均一に含まれている場合には、3サイクル目では設計値に近い充電容量を示す。そして設計値は1サイクル目容量から不可逆容量を引いた値となるため、電解液が均一に含まれる場合の3サイクル目容量維持率は100%よりも小さくなる。
【0100】
<実施例2>
ドライチャンバー内で、実施例1と同様の外装体の中にカーボンコートアルミ箔、正極活物質層(P-2)、電解液を含浸させていないセパレータ(S-0)、負極活物質層(N-2)及び銅箔をこの順に積層した。次いで、ドライチャンバー内を-1気圧に減圧した。その後、開口部から電流取り出し用端子を出した状態で封止し、その後ドライチャンバー内を乾燥空気で常圧に戻して評価用電池を作製した。評価用電池を作製した。
実施例1と同様にサイクル特性を評価し、結果を表1に記載した。
【0101】
<実施例3>
ドライチャンバー内で、実施例1と同様の外装体の中にカーボンコートアルミ箔、正極活物質層(P-1)、電解液を含浸させたセパレータ(S-1)、負極活物質層(N-3)及び銅箔をこの順に積層した。次いで、ドライチャンバー内を-1気圧に減圧した。その後、開口部から電流取り出し用端子を出した状態で封止し、ドライチャンバー内を乾燥空気で常圧に戻して評価用電池を作製した。
実施例1と同様にサイクル特性を評価し、結果を表1に記載した。
【0102】
<実施例4>
ドライチャンバー内で、実施例1と同様の外装体の中にカーボンコートアルミ箔、正極活物質層(P-1)、電解液を含浸させたセパレータ(S-2)、負極活物質層(N-4)及び銅箔をこの順に積層した。次いで、開口部から電解液5.6gを入れた。次いで、ドラフトチャンバー内は常圧のまま、外装体の開口部から真空ポンプを用いて外装体の中を排気し、続いて電流取り出し用端子を出した状態で封止して評価用電池を作製した。
実施例1と同様にサイクル特性を評価し、結果を表1に記載した。
【0103】
<比較例1>
ドライチャンバー内で、実施例1と同様の外装体の中にカーボンコートアルミ箔、正極活物質層(P-1)、電解液を含浸させていないセパレータ(S-0)、負極活物質層(N-4)及び銅箔をこの順に積層した。次いで、開口部から電解液6.2gを入れた。次いで、ドライチャンバー内を-1気圧に減圧した。その後、開口部から電流取り出し用端子を出した状態で封止し、ドライチャンバー内を乾燥空気で常圧に戻して評価用電池を作製した。
実施例1と同様にサイクル特性を評価し、結果を表1に記載した。
【0104】
【0105】
表1に記載の評価用電池の電極は全て10cm×10cmの正方形である。
また、表1において、電解液を含浸していないセパレータを「S-0」と、正極活物質層の体積から正極活物質層に含まれる正極活物質の合計体積を除いた値に対する正極活物質層に含まれる電解液の体積の割合を「正極活物質層の電解液割合[%]」と、負極活物質層の体積から負極活物質層に含まれる負極活物質の合計体積を除いた値に対する負極活物質層に含まれる電解液の体積の割合を「負極活物質層の電解液割合[%]」と記載した。
セパレータ(S-1)と(S-2)とはともに細孔は全て電解液で満たされ、細孔に入らなかった余剰の電解液がセパレータ表面に載っており、セパレータ(S-1)の方がより多く電解液が載っている。
【0106】
電極活物質層中に電解液が不均一に含まれていると、電解液の無い部分の電極活物質がリチウムイオンの移動に関与できないために充放電容量が小さくなり、時間が経過するとともに電解液が全体に含まれていくことで充放電容量が大きくなる。
表1の結果より、本発明のリチウムイオン電池の製造方法により作製された実施例に係る評価用電池は、比較例に係る評価用電池に比べて、3サイクル目容量維持率が100%より小さくなっており、電解液を均一に含浸させることができたことがわかる。
【符号の説明】
【0107】
10 電極活物質層(A)
20 セパレータ
30 電極活物質層(B)
100 積層単位