(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】発酵ビールテイスト飲料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12C 3/00 20060101AFI20240514BHJP
C12G 3/04 20190101ALI20240514BHJP
【FI】
C12C3/00
C12G3/04
(21)【出願番号】P 2018156285
(22)【出願日】2018-08-23
【審査請求日】2021-08-16
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【氏名又は名称】坂西 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100223424
【氏名又は名称】和田 雄二
(74)【代理人】
【識別番号】100215957
【氏名又は名称】田村 明照
(72)【発明者】
【氏名】飯牟礼 隆
(72)【発明者】
【氏名】鯉江 弘一朗
【合議体】
【審判長】淺野 美奈
【審判官】植前 充司
【審判官】天野 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-139671(JP,A)
【文献】特開2012-105592(JP,A)
【文献】2018 Beer Style Guidelines, 2018.02.28 [検索日 2022.06.08], インターネット:<URL:https://cdn.brewersassociation.org/wp-content/uploads/2018/03/2018_BA_Beer_Style_Guidelines_Final.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C 3/00
C12G 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
S-フラクション/苦味価の値が0.30以上
0.50以下である、発酵ビールテイスト飲料。
【請求項2】
非凍結粉砕ホップを原料液に添加する工程を含み、
前記非凍結粉砕ホップは、生ホップを乾燥及び凍結していない状態で粉砕したものである、
請求項1に記載の発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項3】
前記非凍結粉砕ホップは、生ホップを乾燥及び凍結していない状態で加圧粉砕したものである、請求項
2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵ビールテイスト飲料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホップは、ビール及び発泡酒等のビールテイスト飲料に苦味及び香りを付与するための原料として用いられている。通常、ホップは、収穫後乾燥させて圧縮又は粉砕によりペレット状に加工されたものが用いられている。一方、乾燥等の加工を経ることによって、生ホップに含まれる香気成分等が劣化又は消失してしまうことが避けられない。
【0003】
これに対して、例えば、特許文献1には、新鮮な生ホップによる香味を付与したビール又は発泡酒等の芳香性の高い発酵麦芽飲料及びその製造方法の提供を目的として、発酵麦芽飲料の製造に際して、収穫後乾燥することなく凍結した生ホップの粉砕物を、ホップ原料として又は生ホップフレーバーとして用いることを特徴とする発酵麦芽飲料の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、特許文献1に記載されるように収穫後乾燥することなく凍結した生ホップの粉砕物をホップ原料又は生ホップフレーバーとして用いた発酵ビールテイスト飲料は、トゲトゲしい香り、人工的な香りがするといった課題があることを見出した。また、本発明者らは、生ホップを乾燥及び凍結していない状態で粉砕した粉砕物(非凍結粉砕ホップ)をホップ原料として用いた発酵ビールテイスト飲料は、フレッシュ(グリーンさがある)でマイルドかつトゲトゲしさのない香りを有することを見出した。
【0006】
本発明は、この新規な知見に基づくものであり、フレッシュでマイルドかつトゲトゲしさのない香りを有する発酵ビールテイスト飲料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、S-フラクション/苦味価の値が0.30以上である、発酵ビールテイスト飲料に関する。
【0008】
本発明に係る発酵ビールテイスト飲料は、上記構成を備えるものであるため、フレッシュ(グリーンさがある)でマイルドかつトゲトゲしさのない香りを有し、飲用したときのトゲトゲしい苦味が低減されている。
【0009】
上記発酵ビールテイスト飲料において、S-フラクション/苦味価の値は0.50以下であってよい。
【0010】
本発明はまた、非凍結粉砕ホップを原料液に添加する工程を含み、上記非凍結粉砕ホップは、生ホップを乾燥及び凍結していない状態で粉砕したものである、発酵ビールテイスト飲料の製造方法にも関する。
【0011】
本発明に係る製造方法は、非凍結粉砕ホップを使用していることにより、フレッシュでマイルドかつトゲトゲしさのない香りを有し、飲用したときのトゲトゲしい苦味が低減されている発酵ビールテイスト飲料の製造が可能となる。本発明に係る製造方法は、上述したS-フラクション/苦味価の値が所定の範囲内となる発酵ビールテイスト飲料の製造に好適に使用することができる。
【0012】
本発明に係る製造方法において、非凍結粉砕ホップは、生ホップを乾燥及び凍結していない状態で加圧粉砕したものであるのが好ましい。これにより、上述した効果がより一層顕著に奏される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、フレッシュでマイルドかつトゲトゲしさのない香りを有する発酵ビールテイスト飲料及びその製造方法の提供が可能となる。本発明に係る発酵ビールテイスト飲料はまた、飲用したときのトゲトゲしい苦味が低減されている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
〔発酵ビールテイスト飲料〕
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料は、S-フラクション/苦味価の値が0.30以上である。
【0016】
本明細書において、ビールテイスト飲料とは、ビール様の香味を有する飲料を意味する。ビールテイスト飲料としては、例えば、酒税法(平成二九年三月三一日法律第四号)上のビール、発泡酒、その他の醸造酒、リキュールに分類されるものが挙げられる。発酵ビールテイスト飲料とは、酵母による発酵を経て製造されるビールテイスト飲料である。
【0017】
本明細書において「S-フラクション」とは、逆相クロマトグラフィーにおいてイソα酸のピークより前に検出される全てのピークそれぞれの面積の総和を、イソα酸100ppmのピーク面積を100とした時の相対値として定量した値である。なお、イソα酸のピーク面積は、同属体成分全てのピークそれぞれの面積の総和である。
【0018】
逆相クロマトグラフィーは、例えば、逆相カラムを使用した高速液体クロマトグラフィーであってよい。具体的には、例えば、発酵ビールテイスト飲料を固相抽出したものを分析用試料とし、波長275nmでの吸光度により検出を行うものであってよい。逆相カラムとしては、例えば、X Bridge C18(Waters社製,内径2.1mm,長さ150mm,粒子径3.5μm)を使用することができる。逆相クロマトグラフィーによる分析は、例えば、後述の実施例に記載の方法に従って実施することができる。
【0019】
苦味価は、改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集、2013年増補改訂)の「8.15 苦味価」に記載されている方法により測定することができる。
【0020】
S-フラクション/苦味価の値は、S-フラクションを苦味価で除した値である。本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料において、S-フラクション/苦味価の値は、0.30以上であればよい。これにより、発酵ビールテイスト飲料が、フレッシュでマイルドかつトゲトゲしさのない香りを有するものとなる。S-フラクション/苦味価の値は、0.30超であってよく、0.31以上であってよく、0.35以上であってよい。S-フラクション/苦味価の値の上限は、特に制限はないが、通常0.50以下である。
【0021】
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料は、リナロール含量が60μg/L以上であってよく、62.5μg/L以上であってよく、65μg/L以上であってよく、67.5μg/L以上であってよく、70μg/L以上であってよい。リナロール含量が上記範囲であると、本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0022】
発酵ビールテイスト飲料のリナロール含量は、例えば、SPME-GC-MS法で測定することができる。当該方法では、標準添加法を用いることが好ましい。
【0023】
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料は、アルコール度数(濃度)が1.0v/v%以上であるビールテイストアルコール飲料であってもよく、アルコール度数が1.0v/v%未満であるノンアルコールビールテイスト飲料であってもよい。なお、本明細書においてアルコールとは、特に言及しない限りエタノールを意味する。
【0024】
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料のアルコール度数は、例えば、1.0v/v%以上であるのが好ましく、2.0v/v%以上であるのがより好ましく、3.0v/v%以上であるのが更に好ましく、4.0%以上であるのが更により好ましい。アルコール度数の上限は、例えば、20.0v/v%未満であってよく、10.0v/v%以下であってよく、9.0v/v%以下であってよく、8.0v/v%以下であってよく、7.0v/v%以下であってよく、6.0v/v%以下であってよい。
【0025】
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料は、非発泡性であってもよく、発泡性であってもよい。ここで、非発泡性とは、20℃におけるガス圧が0.049MPa(0.5kg/cm2)未満であることをいい、発泡性とは、20℃におけるガス圧が0.049MPa(0.5kg/cm2)以上であることをいう。発泡性とする場合、ガス圧の上限は0.294MPa(3.0kg/cm2)程度としてもよい。
【0026】
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料は、原料として、麦芽を含んでいてよい。ここで、原料とは、発酵ビールテイスト飲料の製造に用いられる全原料のうち、水及びホップ以外のものを意味する。麦芽は、麦を発芽させることにより得ることができる。麦としては、例えば、大麦、小麦、ライ麦、カラス麦、オート麦及びハト麦等であってよく、大麦であることが好ましい。麦芽にはモルトエキスが含まれる。モルトエキスは、麦芽から糖分及び窒素分を含むエキス分を抽出することにより得られる。
【0027】
原料中の麦芽の比率は、特に限定されず、例えば、10重量%以上であってよく、25重量%以上であってよく、50重量%以上であってよく、66重量%以上であってよく、100重量%であってもよい。
【0028】
原料は、麦芽以外の麦原料を含んでいてもよい。麦芽以外の麦原料としては、例えば、大麦、小麦、ライ麦、カラス麦、オート麦及びハト麦等の麦、並びに麦エキス等の麦加工物が挙げられる。麦エキスは、麦から糖分及び窒素分を含む麦エキス分を抽出することにより得られる。麦芽以外の麦原料は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
発酵ビールテイスト飲料の原料としては、その他に副原料を用いてもよい。副原料としては、コーン、コーンスターチ、コーングリッツ、米、こうりゃん等の澱粉原料、液糖、砂糖等の糖質原料が挙げられる。更に、発酵ビールテイスト飲料の原料として、酒税法の第三条第十二項ロに記載の政令で定める果実及び香味料を含んでいてもよい。これらの原料を含有する場合、上記果実及び香味料の含有量は、麦芽100重量部に対して、5重量部未満であることが好ましい。発酵ビールテイスト飲料の原料には、更に、例えば、酸化防止剤、着色料等を含んでいてもよい。
【0030】
〔発酵ビールテイスト飲料の製造方法〕
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料の製造方法は、非凍結粉砕ホップを原料液に添加する工程を含む。本明細書において、原料液とは、発酵ビールテイスト飲料のもととなる液を意味する。原料液には、各工程で使用又は製造される液(例えば、後述する、糖含有液、煮沸後液、精製液、発酵前液、発酵後液)が含まれる。
【0031】
非凍結粉砕ホップは、生ホップを乾燥及び凍結していない状態で粉砕したもの(粉砕物)である。非凍結粉砕ホップの調製に使用する生ホップとしては、収穫後乾燥させていないホップ(毬花)であればよく、収穫後保存及び/又は輸送等のために凍結させたホップ(毬花)であってもよい。収穫後凍結させたホップを使用する場合は、粉砕前に充分に解凍すればよい(例えば、室温で30~60分間置く)。
【0032】
生ホップの粉砕方法に特に制限はなく、ホップ(毬花)に含まれるルプリンが充分に破壊される方法を採用すればよい。生ホップの粉砕方法の具体例として、例えば、生ホップを摩砕する方法、生ホップを(必要に応じて押し出しながら)せん断する方法を挙げることができる。生ホップの粉砕方法としては、生ホップを摩砕する方法、生ホップを押し出しながらせん断する方法等の生ホップを加圧粉砕する方法が好ましい。
【0033】
生ホップの摩砕は、例えば、摩砕機(例えば、増幸産業株式会社製,スーパーマスコロイダー)を使用して、生ホップに圧をかけながらすり潰すことにより行うことができる。
【0034】
生ホップのせん断は、例えば、ミンチ機(例えば、電動ミンサー SG-30,福農産業株式会社)を使用して、生ホップを押し出しながら回転刃等によるせん断力で粉砕することにより行うことができる。
【0035】
調製した非凍結粉砕ホップは、そのまま使用してもよく、また使用するまで、密封した状態で保存してもよい。保存する場合は、凍結保存が好ましい。
【0036】
本実施形態に係る製造方法は、原料液を酵母で発酵させる発酵工程を備えていてもよい。本実施形態に係る製造方法はまた、発酵工程前に、原料液を煮沸する煮沸工程を備えていてもよい。
【0037】
煮沸工程では、糖含有液を煮沸して煮沸後液(煮沸後の糖含有液)を得る。糖含有液とは、酵母によるアルコール発酵が可能な成分を含有するものである。糖含有液としては、例えば、麦汁、シロップが挙げられる。麦汁とは、上述の麦原料の糖化を経て得られる液体であり、未発酵のものである。麦汁は、例えば、上述の麦原料等の原料と水とを混合する工程、原料と水とを含む液を常法により糖化して糖化液を得る工程、及び糖化液をろ過する工程を経て得ることができる。
【0038】
煮沸工程では、原料液にホップを添加してもよい。煮沸工程で添加するホップに特に制限はなく、例えば、従来用いられている乾燥ホップ、ホップペレット、ホップエキスを用いることができる。ホップは、ローホップ、ヘキサホップ、テトラホップ、イソ化ホップエキス等のホップ加工品であってもよい。
【0039】
本実施形態に係る製造方法は、煮沸工程後発酵工程前に、発酵前液を得る工程を備えていてよい。具体的には、本実施形態に係る製造方法は、発酵前液を得る工程として、例えば、原料液中の固形分を除去する除去工程、及び原料液を冷却する冷却工程を備えていてよい。
【0040】
除去工程では、煮沸後液中の固形分を除去して精製液を得る。除去工程は、例えば、煮沸後液に含まれる不溶性の固形分を沈殿させることにより行うことができる。固形分としては、煮沸工程により生じた熱凝固物、煮沸工程でホップを添加した場合には、ホップのかす等が挙げられる。除去工程は、ワールプール中で実施してよい。除去工程における原料液の温度は、例えば、99℃以下、95℃以下、92℃以下、90℃以下、又は89℃以下であってよく、80℃以上、85℃以上、又は90℃以上であってよい。
【0041】
冷却工程では、酵母による発酵が可能な温度まで精製液を冷却して発酵前液を得る。冷却工程では、例えば、発酵前液の温度が5℃以上25℃以下、6℃以上20℃以下、又は7℃以上15℃以下となるように冷却してよい。
【0042】
発酵工程では、発酵前液を酵母により発酵させて発酵後液を得る。発酵工程では、酵母を添加してアルコール発酵が行われる。より具体的には、発酵前液に酵母を接種して発酵させ、酵母により生成するアルコールを含む発酵後液を得る。発酵工程における原料液の温度(発酵温度)は、例えば、5℃以上25℃以下、6℃以上20℃以下、又は7℃以上15℃以下であってよい。
【0043】
本実施形態に係る製造方法では、発酵工程後の発酵後工程として、発酵後液をろ過する工程を備えていてもよい。ろ過工程を実施することにより、発酵後液から不溶性の固形分、酵母等を除去することができる。
【0044】
本実施形態に係る製造方法では、他の発酵後工程として、後発酵工程(熟成工程)を備えていてもよい。後発酵工程は、例えば、発酵後液を貯酒タンクにて数週間後発酵させるものであってよい。
【0045】
本実施形態に係る製造方法では、他の発酵後工程として、発酵後液(又はろ過工程後の発酵後液)に対して加熱(殺菌)、各種添加剤(例えば、着色料、酸化防止剤、酸味料、苦味料、香料)の添加、アルコールの添加、カーボネーション等を行ってもよい。発酵後工程で添加するアルコールとしては、例えば、スピリッツを用いることができる。
【0046】
発酵ビールテイスト飲料がノンアルコールである場合は、通常のビール等のビールテイスト飲料と同様に発酵を行ってアルコールを生成させた後に、アルコールを除去又は低減させることによって製造してもよく、また、発酵期間を短くしてアルコールの生成を抑えることによって製造してもよい。
【0047】
本実施形態に係る製造方法は、非凍結粉砕ホップを原料液に添加するタイミングに特に制限はないが、フレッシュでマイルドかつトゲトゲしさのない香りを有し、飲用したときのトゲトゲしい苦味が低減されている発酵ビールテイスト飲料が得られるという本発明による効果をより顕著に奏する観点からは、煮沸工程後半(原料液温を低下させている段階)以降に添加することが好ましく、煮沸工程後半以降発酵後液をろ過する工程前に添加することがより好ましい。
【0048】
また、非凍結粉砕ホップの原料液への添加は、いわゆるレートホッピング(例えば、煮沸工程後半の原料液温を低下させている間に非凍結粉砕ホップを原料液(糖含有液又は煮沸後液)に添加する)、ドライホッピング(例えば、発酵工程前、発酵工程中、発酵工程後の原料液(発酵前液、発酵液又は発酵後液)に非凍結粉砕ホップを添加する)により行ってもよい。
【0049】
非凍結粉砕ホップを原料液に添加した後、非凍結粉砕ホップと原料液とを接触させている時間に特に制限はないが、例えば、原料液の液温に応じて、5分~4週間の間で適宜設定することができる。
【0050】
本実施形態に係る発酵ビールテイスト飲料は、容器に入れて提供することができる。容器は密閉できるものであればよく、金属製(アルミニウム製又はスチール製など)のいわゆる缶容器・樽容器を適用することができる。また、容器は、ガラス容器、ペットボトル容器、紙容器、パウチ容器等を適用することもできる。容器の容量は特に限定されるものではなく、現在流通しているどのようなものも適用することができる。なお、気体、水分及び光線を完全に遮断し、長期間常温で安定した品質を保つことが可能な点から、金属製の容器を適用することが好ましい。
【0051】
本実施形態に係る製造方法によれば、フレッシュでマイルドかつトゲトゲしさのない香りを有し、飲用したときのトゲトゲしい苦味が低減されている発酵ビールテイスト飲料を得ることができる。また、後述の実施例で示しているとおり、このような香味を有する発酵ビールテイスト飲料は、S-フラクション/苦味価の値が0.30以上となっている。
【0052】
本発明の一実施形態として、発酵ビールテイスト飲料にフレッシュでマイルドかつトゲトゲしさのない香りを付与する方法であって、非凍結粉砕ホップを原料液に添加する工程を含む方法が提供される。本発明の他の実施形態として、発酵ビールテイスト飲料のトゲトゲしい苦味を低減する方法であって、非凍結粉砕ホップを原料液に添加する工程を含む方法が提供される。
【実施例】
【0053】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
〔ホップの調製〕
ホップとして2017年北海道産カスケードを使用した。ホップは収穫後直ちに-20℃で凍結させて保管した。
【0055】
(非凍結粉砕ホップの調製)
乾燥せずに凍結保管していたホップ(毬花)を室温で30~60分間かけて解凍した。解凍した生ホップを、ミンサー(電動ミンサー SG-30,福農産業株式会社)にて、カットプレート(5mm)を使用して粉砕した。粉砕後直ちに密封して-20℃で凍結し、使用するまで-20℃で保管したものを「非凍結粉砕ホップ(直後)」とし、粉砕後室温で3時間放置した後密封して-20℃で凍結し、使用するまで-20℃で保管したものを「非凍結粉砕ホップ(3時間)」とした。
【0056】
(凍結粉砕ホップの調製)
比較のために、凍結粉砕ホップを以下のように調製した。乾燥せずに凍結保管していたホップ(毬花)を乳鉢に入れ、液体窒素を適量注いだ後、乳棒を用いて粉砕した。粉砕後直ちに密封して-20℃で凍結し、使用するまで-20℃で保管した。
【0057】
〔発酵ビールテイスト飲料の製造〕
(レートホッピング)
麦芽と水とを混合した後、常法により糖化して、糖化液を得た。得られた糖化液を濾過した後、ホップ(ホップペレット及びホップエキス)を添加し、煮沸釜中で煮沸した。煮沸後、熱麦汁をワールプールに移し、熱麦汁中の固形分を沈殿させて除去した。得られた精製液を冷却して麦汁を得た。
【0058】
得られた麦汁に、麦汁に対して22.3重量/体積%の割合で、上記で調製したホップ(非凍結粉砕ホップ又は凍結粉砕ホップ)を添加した後、105℃で5分間処理した。これを冷却したものをホップ液とした。
【0059】
麦汁にホップ液を3.09体積/体積%となるように添加した後、ビール酵母を添加して発酵タンク中で発酵させた。得られた発酵後液をろ過前タンクに貯蔵した後、発酵ビールテイスト飲料(レートホッピング)を得た。
【0060】
(ドライホッピング)
麦芽と水とを混合した後、常法により糖化して、糖化液を得た。得られた糖化液を濾過した後、ホップ(ホップペレット及びホップエキス)を添加し、煮沸釜中で煮沸した。煮沸後、熱麦汁をワールプールに移し、熱麦汁中の固形分を沈殿させて除去した。得られた精製液を冷却して麦汁(発酵前液)を得た。
【0061】
麦汁に、麦汁に対して0.668重量/体積%の割合で、上記で調製したホップ(非凍結粉砕ホップ又は凍結粉砕ホップ)を添加し、ビール酵母を添加して発酵タンク内で発酵させた。得られた発酵後液をろ過前タンクで貯蔵した後、発酵ビールテイスト飲料(ドライホッピング)を得た。
【0062】
〔発酵ビールテイスト飲料の分析及び評価〕
(苦味価の測定)
発酵ビールテイスト飲料の苦味価は、改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集、2013年増補改訂)の「8.15 苦味価」に記載されている方法によって測定した。
【0063】
(S-フラクションの測定)
発酵ビールテイスト飲料のS-フラクションは、発酵液サンプル(発酵ビールテイスト飲料)の固相抽出を行った後、逆相クロマトグラフィー(逆相カラムを使用した高速液体クロマトグラフィー(HPLC))で測定した。
【0064】
固相抽出は、次のようにして行った。メタノール-1.7%リン酸溶液でカラム(Bond Elut C8,50mg,1mL,ジーエルサイエンス社製)のコンディショニングを行った後、0.186g/L EDTA・2Na水溶液でカラムを平衡化した。発酵液サンプル3mLをカラムにアプライし、カラムを洗浄した後、90%メタノール、1.5%リン酸、0.0019g/L EDTA・2Na溶液で溶出した。この溶出液を分析用試料とし、逆相クロマトグラフィーでの測定に供した。
【0065】
逆相クロマトグラフィー(逆相カラムを使用したHPLC)での測定は次のようにして行った。
<HPLC条件>
・カラム:X Bridge C18(Waters社製,内径2.1mm,長さ150mm,粒子径3.5μm)
・移動相A:0.043%リン酸、0.2g/L EDTA・2Na水溶液
・移動相B:アセトニトリル
・流速:320μL/分
・サンプル注入量:8μL
・移動相のグラジエント:
移動相A 移動相B
0分 62% 38%
32分 45% 55%
45分 25% 75%
53分 25% 75%
54分 62% 38%
70分 62% 38%
・検出波長:275nm
測定結果から、イソα酸より前に検出される全てのピークそれぞれの面積の総和を求めた(S-フラクションピーク面積)。S-フラクションは、S-フラクションピーク面積をイソα酸100ppmのピーク面積を100とした時の相対値に換算して定量した。
【0066】
(リナロールの測定)
発酵ビールテイスト飲料に含まれるリナロール含量は、固相マイクロ抽出-質量分析計付きガスクロマトグラフィー(Solid Phase MicroExtraction-Gas Chromatography-Mass Spectrometry:SPME-GC-MS)法により測定した。具体的には、3gの塩化ナトリウムを入れたSPME用バイアルに発酵液サンプル8mLを入れ密栓した。検量線は標準添加法にて作成した。各バイアルを40℃で15分間振盪した後、SPME用ファイバー(Polydimethylsiloxane/Divinylbenzene65μm:スペルコ社製)をバイアル中のヘッドスペースに露出させた。40℃で15分間、揮発性成分をファイバーに吸着させた後、注入口で3分間脱着させ、GC/MSにより分析を行った。GC/MSの分析条件は次のとおりであった。
・分析機器:Agilent GC-MS 5973N
・カラム:HP-1MS 30m×0.25mm、膜厚1.0μm
・注入法:スプリットレス注入
・コンスタントフロー:1.1mL/min
・キャリアガス:He
・注入口温度:260℃
・トランスファーライン:320℃
・オーブン温度:40℃(3min)→5℃/min→200℃(0min)→10℃/min→ 320℃(0min)
【0067】
(官能評価)
官能評価では、発酵ビールテイスト飲料の香りについては「マイルド」、「グリーン」及び「トゲトゲしい」の項目を評価し、発酵ビールテイスト飲料の味については「トゲトゲしい(苦味の)」の項目を評価した。香りの「マイルド」、「グリーン」及び「トゲトゲしい」については選抜された識別能力のある5名のパネルにより、味の「トゲトゲしい(苦味の)」については4名のパネルにより評価した。
【0068】
凍結粉砕ホップを使用し、ドライホッピングにより製造した発酵ビールテイスト飲料の評点を2点とし(基準)、各項目0~5点(0.5点刻み)で点数を付け、全パネルの平均値を評価スコアとした。「マイルド」の項目は、マイルドさがある場合を5点とし、マイルドさがない場合を0点とした。「グリーン」の項目は、グリーンさがある場合を5点とし、グリーンさがない場合を0点とした。「トゲトゲしい」の項目は、トゲトゲしさがない場合を5点とし、トゲトゲしさがある場合を0点とした。「トゲトゲしい(苦味の)」の項目は、トゲトゲしさがない場合を5点とし、トゲトゲしさがある場合を0点とした。いずれの項目も、評点が高いほど飲料として好ましい。
【0069】
各種分析結果及び官能評価の結果を併せて表1に示す。
【表1】
【0070】
表1に示すとおり、生ホップを乾燥及び凍結していない状態で粉砕した非凍結粉砕ホップを添加して製造した発酵ビールテイスト飲料は、生ホップを凍結した状態で粉砕した凍結粉砕ホップを添加して製造した発酵ビールテイスト飲料と比べて、いずれの官能評価項目も高い評点であった。この傾向は、ホップの添加タイミング(レートホッピング、ドライホッピング)を変えても同様であった。