IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヤンマー株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-エンジン制御装置 図1
  • 特許-エンジン制御装置 図2
  • 特許-エンジン制御装置 図3
  • 特許-エンジン制御装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】エンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20240514BHJP
   F02D 21/08 20060101ALI20240514BHJP
   F02M 26/05 20160101ALI20240514BHJP
   F02M 26/49 20160101ALI20240514BHJP
【FI】
F02D45/00 345
F02D21/08 301Z
F02M26/05
F02M26/49
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019064340
(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2020165334
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-01-12
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】井谷 昌裕
(72)【発明者】
【氏名】塩見 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】國澤 圭二
【合議体】
【審判長】山本 信平
【審判官】青木 良憲
【審判官】倉橋 紀夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-61257(JP,A)
【文献】特開2005-207285(JP,A)
【文献】特開2018-119507(JP,A)
【文献】特開2008-75517(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
F02D 21/08
F02M 26/05
F02M 26/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガスの一部をEGRガスとして吸気側へ還流させるEGR装置を備えたエンジンを制御するエンジン制御装置において、
前記EGR装置に異常が発生しているか否かを判定する異常判定部と、
前記異常判定部が前記EGR装置に異常が発生していると判定した場合に、ンジン出力を制限した制限運転を行う制限運転部と、
前記制限運転の解除操作が行われた場合に、前記制限運転から、前記エンジン出力の制限を解除した制限解除運転に切り換えて、この制限解除運転を行う制限解除運転部と、
を備えることを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジン制御装置であって、
前記制限運転の解除操作が行われてからの経過時間を計測する計測部を備え、
前記制限運転の解除操作が行われた場合、前記計測部により計測された前記経過時間が所定時間に到達したとき、前記制限運転を再開することを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジン制御装置であって、
前記計測部は、前記経過時間を計測している前記制限解除運転中に前記エンジンが停止した場合に前記経過時間の計測を一時停止し、その後に前記エンジンが再始動した場合に前記経過時間の計測を再開することを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のエンジン制御装置であって、
前記計測部は、前記経過時間を計測している前記制限解除運転中において、前記エンジンの停止のために前記エンジンのキースイッチがOFF操作されたときに前記経過時間の計測を一時停止し、その後に前記エンジンの再始動のために前記キースイッチがON操作されたときから前記経過時間の計測を再開することを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載のエンジン制御装置であって、
前記制限解除運転の実行時間が制限されており、
前記制限解除運転が終了すると前記制限運転を再開し、
前記制限運転から前記制限解除運転への切換は、前記制限運転の実行中に所定回数可能であることを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載のエンジン制御装置であって、
前記制限運転に関する制限は、
前記制限運転の実行開始時点から所定の設定時間が経過するまでの期間でエンジン出力を制限する第1運転制限と、
前記所定の設定時間の経過後にエンジン出力を前記第1運転制限により制限されるエンジン出力よりも低く制限する第2運転制限と、
を含むことを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項7】
請求項1から6までの何れか一項に記載のエンジン制御装置であって、
前記制限運転の解除操作を行うための制限解除用操作部材を備えることを特徴とするエンジン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジンの排気ガスの処理に関して、エンジンの運転を処理状況に応じて制限することができるエンジン制御装置が知られている。特許文献1は、この種のエンジン制御装置を開示する。
【0003】
特許文献1が開示する尿素SCRシステムは、エンジンと、排気浄化装置と、制御装置と、運転制限解除装置と、を備える。そして、排気浄化装置の尿素水タンクの尿素水の残量レベルに基づいて、制御装置がエンジンの運転制限を行う。エンジンの運転制限は、エンジンの再始動の禁止である。制御装置は、エンジンの運転制限を行った後、運転制限解除装置の運転制限解除操作がなされた場合に、エンジンの運転制限を解除する。その後、所定時間が経過すると、制御装置は、エンジンの運転制限を再開する。エンジンの運転制限の再開後は、尿素水タンクへの尿素水の補充の有無にかかわらず、制御装置はエンジンの運転制限を継続する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-175265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の構成は、尿素SCRシステムに関して、尿素水の補充をせずにエンジンを運転した際に起こる排気エミッションの悪化を防ぐために運転制限を行い、また災害時等にその運転制限を一時的に解除することができるようになっている。
【0006】
排気ガスの一部をEGRガスとして吸気側へ還流させるEGR(Exhaust Gas Recirculation)装置がエンジンに適用されたEGRシステムに関しても、EGR装置に故障等の異常が発生した際には排気エミッションの悪化が起こることが考えられる。しかし、特許文献1は尿素SCRについて言及するだけで、EGRシステムに関しては、排気エミッションの悪化防止と災害時対策とがなされていない。
【0007】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、EGR装置を備えたエンジンを制御するエンジン制御装置において、EGR装置に異常が発生している場合に、エンジンの運転を制限するとともに、その制限を解除することができるエンジン制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0009】
本発明の観点によれば、以下の構成のエンジン制御装置が提供される。即ち、このエンジン制御装置は、EGR装置を備えたエンジンを制御する。EGR装置は、排気ガスの一部をEGRガスとして吸気側へ還流させる。前記エンジン制御装置は、異常判定部と、制限運転部と、制限解除運転部と、を備える。前記異常判定部は、前記EGR装置に異常が発生しているか否かを判定する。前記制限運転部は、前記異常判定部が前記EGR装置に異常が発生していると判定した場合に、ンジン出力を制限した制限運転を行う。前記制限解除運転部は、前記制限運転の解除操作が行われた場合に、前記制限運転から、前記エンジン出力の制限を解除した制限解除運転に切り換えて、この制限解除運転を行う。
【0010】
これにより、前記異常判定部が前記EGR装置に異常が発生していると判定した場合、即ちEGR装置の構成部材(制御のために使用されるセンサ類を含む)に故障が発生している場合には、排気エミッションが悪化するので、エンジンの制限運転を行って、このエンジンから排出される排気エミッション量を抑制することができる。また、エンジンの制限運転を制限解除運転に切り換えることができるので、災害時又は緊急時等には制限解除運転を行って、エンジンを通常通り運転することができる。
【0011】
前記のエンジン制御装置においては、以下のように構成することが好ましい。即ち、前記エンジン制御装置は、前記制限運転の解除操作が行われてからの経過時間を計測する計測部を備える。前記エンジン制御装置は、前記制限運転の解除操作が行われた場合、前記計測部により計測された前記経過時間が所定時間に到達したとき、前記制限運転再開する
【0012】
これにより、制限解除運転が実行される時間を所定時間に制限することができる。従って、EGR装置の故障により排気エミッションが悪化したまま、常時エンジンが前記の制限が行われずに通常通り運転されることを防止することができる。
【0013】
前記のエンジン制御装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち前記計測部は、前記経過時間を計測している前記制限解除運転中に前記エンジンが停止した場合に前記経過時間の計測を一時停止し、その後に前記エンジンが再始動した場合に前記経過時間の計測を再開する。
【0014】
これにより、オペレータが何らかの理由で制限解除運転中にエンジンを停止させた場合、計測部により計測された経過時間が初期値にリセットされたり、計測部による計測が終了したりすることがない。従って、エンジンの制限解除運転を所定時間だけ行うことができる。
【0015】
前記のエンジン制御装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記計測部は、前記経過時間を計測している前記制限解除運転中において、前記エンジンの停止のために前記エンジンのキースイッチがOFF操作されたときに前記経過時間の計測を一時停止し、その後に前記エンジンの再始動のために前記キースイッチがON操作されたときから前記経過時間の計測を再開する。
【0016】
これにより、エンジンのキースイッチの操作に応じて、計測部により経過時間を計測することができる。
【0017】
前記のエンジン制御装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記制限解除運転の実行時間が制限されている。前記エンジン制御装置は、前記制限解除運転が終了すると前記制限運転を再開する。前記制限運転から前記制限解除運転への切換は、前記制限運転の実行中に所定回数可能である
【0018】
これにより、制限運転から制限解除運転への切換可能な回数を前記所定回数に制限することができる。従って、EGR装置の故障により排気エミッションが悪化したまま、エンジンが長期間にわたって通常通り運転されることを防止することができる。
【0019】
前記のエンジン制御装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、このエンジン制御装置は、カウント部を備える。前記カウント部は、前記制限解除運転の実行回数をカウントする。前記カウント部は、前記制限解除運転中に前記エンジンが停止した後、このエンジンの再始動により前記制限解除運転が再開されるとき、前記制限解除運転の実行回数のカウントを行わない。
【0020】
これにより、オペレータが何らかの理由で制限運転中にエンジンを停止させた後、エンジンを再始動させたとき、制限解除運転が再開されるが、このとき制限解除運転の実行回数が増加することがない。従って、エンジンの制限運転中、制限解除運転を確実に所定回数行うことができる。
【0021】
前記のエンジン制御装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、このエンジン制御装置において、前記制限運転に関する制限は、第1運転制限と、第2運転制限と、を有する。前記第1運転制限は、前記制限運転の実行開始時点から所定の設定時間が経過するまでの期間でエンジン出力を制限する。前記第2運転制限は、前記所定の設定時間の経過後にエンジン出力を前記第1運転制限により制限されるエンジン出力よりも低く制限する。
【0022】
これにより、制限運転に関する制限を2段階で行うことができる。従って、第1運転制限での制限運転を行っている段階でEGR装置の故障の修理を促すことができる。そして、EGR装置の故障の修理が行われなければ、次の段階でエンジンを非常に使用しづらいものにして、EGR装置の故障の修理を強く促すことができる。
【0023】
前記のエンジン制御装置においては、前記制限運転の解除操作を行うための制限解除用操作部材を備えることが好ましい。
【0024】
これにより、制限解除用操作部材を、ボタンスイッチやタッチパネル等から構成して、エンジンが搭載される作業機の適宜の箇所に設置することができる。従って、エンジンが適用された機械のオペレータが、運転制限解除を状況に応じて適切に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係るエンジン制御装置が適用されたエンジンの全体的な構成を示す図。
図2】エンジンの主要な電気的構成を示すブロック図。
図3】制限運転から制限解除運転への切換時の制御を説明するタイミングチャート。
図4】制限運転及び制限解除運転を行うために行われる処理についてのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。初めに図1及び図2を参照して、本発明の一実施形態に係るエンジン制御装置50が適用されたエンジン1の基本的な構成について説明する。図1は、エンジン1の全体的な構成を示す図である。図2は、エンジン1の主要な電気的構成を示すブロック図である。
【0027】
図1に示すエンジン1は、図示しない適宜の機械に動力を供給する。エンジン1は、吸気部2と、動力発生部3と、排気部4と、を備える。また、エンジン1は、図2に示すエンジン制御装置50を備える。
【0028】
吸気部2は、外部から空気を吸入する。吸気部2は、吸気管11と、吸気マニホールド12と、スロットル弁13と、過給機14と、を備える。
【0029】
吸気管11は、吸気通路を構成する。吸気管11は、後述の燃焼室23に吸気マニホールド12を介して接続され、外部から吸入された空気を内部で流すことができる。
【0030】
吸気マニホールド12は、吸気通路で吸気が流れる方向において、吸気管11の下流側端部に接続されている。吸気マニホールド12は、吸気管11を介して供給された空気を、動力発生部3のシリンダの数に応じて分配する。分配後の空気は、それぞれのシリンダに形成された燃焼室23に供給される。
【0031】
スロットル弁13は、吸気通路の中途部に配置されている。スロットル弁13は、エンジン制御装置50からの制御指令に従ってその開度を変更することによって、吸気通路の断面積を変化させる。これにより、吸気マニホールド12へ供給する空気量を調整することができる。
【0032】
動力発生部3は、シリンダブロックと、シリンダヘッド21と、を備える。シリンダブロックの内部には、ピストン及びクランクシャフト等が配置されている。シリンダブロックの上部には、複数(本実施形態では4つ)のシリンダ22が形成されている。
【0033】
シリンダブロックの上側に、シリンダヘッド21が配置されている。シリンダヘッド21及びシリンダブロックには、それぞれのシリンダ22に対応して吸気マニホールド12が設けられている。シリンダヘッド21には、吸気マニホールド12へ燃料を噴射するインジェクタ25等が取り付けられている。
【0034】
シリンダ22の燃焼室23では、吸気マニホールド12からの空気が圧縮された後に、図略の燃料供給部から供給された燃料がインジェクタ25により噴射される。これにより、燃焼室23で燃料を燃焼させて、ピストンを上下往復運動させることができる。こうして得られた動力は、クランク軸等を介して、動力下流側の適宜の装置へ伝達される。
【0035】
過給機14は、タービン27と、シャフト28と、コンプレッサ29と、を備える。コンプレッサ29は、シャフト28を介してタービン27と連結されている。この構成で、燃焼室23から排出された排気ガスの流れによりタービン27が回転すると、コンプレッサ29が回転する。これにより、図略のエアクリーナによって浄化された空気が圧縮され強制的に吸入される。
【0036】
排気部4は、燃焼室23内で発生した排気ガスを外部に排出する。排気部4は、排気管31と、排気マニホールド32と、ATD33と、を備える。ATDは、After Treatment Deviceの略称である。
【0037】
排気管31は、排気ガス通路を構成する。排気管31は、燃焼室23に排気マニホールド32を介して接続され、燃焼室23から排出された排気ガスを内部に流すことができる。
【0038】
排気マニホールド32は、排気ガスが流れる方向において、排気管31の上流側端部に接続されている。排気マニホールド32は、各燃焼室23で発生した排気ガスをまとめて排気管31へ導く。
【0039】
ATD33は、排気ガスの後処理を行う装置である。ATD33は、排気ガス内に含まれるNOx(窒素酸化物)、CO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)等の有害成分及び粒子状物質(Particulate Matter、PM)を除去することによって、排気ガスを浄化する。ATD33は、排気管31に設けられている。
【0040】
ATD33は、DPF装置34と、SCR装置35と、を備える。DPFは、Diesel Particulate Filterの略称である。SCRは、Selective Catalytic Reductionの略称である。
【0041】
DPF装置34は、DPFケース37内に収容されている酸化触媒、フィルタを介して、排気ガスに含まれる一酸化炭素、一酸化窒素、粒子状物質等を除去する。酸化触媒は、白金等で構成され、排気ガスに含まれる未燃燃料、一酸化炭素、一酸化窒素等を酸化(燃焼)するための触媒である。フィルタは、酸化触媒より排気ガスの下流側に配置され、例えばフォールフロー型のフィルタとして構成される。フィルタは、酸化触媒で処理された排気ガスに含まれる粒子状物質を捕集する。
【0042】
DPF装置34を通過した排気ガスは、図略の尿素供給装置から供給された尿素と混合され、SCR装置35へ送られる。
【0043】
SCR装置35は、SCRケース38内に収容されているSCR触媒、スリップ触媒を介して、排気ガスに含まれるNOxを除去する。SCR触媒は、アンモニアを吸着するセラミック等の素材から構成されている。排気ガスに含まれるNOxは、アンモニアを吸着したSCR触媒に触れることで還元され、窒素と水に変化する。スリップ触媒は、アンモニアが外部へ放出されることを防止するために用いられる。スリップ触媒は、アンモニアを酸化させる白金等の触媒であり、アンモニアを酸化させて窒素と水に変化させる。
【0044】
SCR装置35を通過した排気ガスは、SCRケース38の排気ガスの出口に接続された排出管を介して外部へ排出される。
【0045】
エンジン1は、EGR装置40を備える。EGR装置40は、排気ガスの一部を、当該EGR装置40を介して吸気側へ還流させることができる。
【0046】
EGR装置40は、EGR管41と、EGRクーラ42と、EGRバルブ43と、を備える。
【0047】
EGR管41は、吸気側へ還流される排気ガスであるEGRガスを吸気管11へ案内するための通路を構成する。EGR管41は、排気管31と吸気管11とを接続するように設けられている。
【0048】
EGRクーラ42は、EGRガスを冷却することができるように構成されている。EGRクーラ42は、EGR管41の途中部に設けられている。
【0049】
EGRバルブ43は、EGRガスの還流量を調整ことができる。EGRバルブ43は、EGR管41の途中部であって、EGRガスの還流方向におけるEGRクーラ42の下流側に設けられている。このEGRバルブ43は、エンジン制御装置50からの制御信号に応じて、その開度を変化させる。これにより、EGRガスの還流通路の面積が変化するので、EGRガスの還流量を変更することができる。
【0050】
エンジン制御装置50は、CPU等から構成される演算部と、ROM及びRAM等から構成される記憶部と、を備えるコンピュータとして構成されている。演算部は、様々なセンサからなるセンサ群51からの情報に基づいて、様々なアクチュエータからなるアクチュエータ群52に制御指令を送り、エンジン1を動作させるための各種のパラメータ(例えば、燃料噴射量や、空気吸入量等)を制御する。記憶部は、各種プログラムを記憶するとともに、エンジン1の制御に関して予め設定された複数の制御情報を記憶している。エンジン制御装置50は、前記のハードウェアとソフトウェアの協働により、異常判定部55、制限運転部56、制限解除運転部57、計測部58、カウント部59として動作することができる。
【0051】
エンジン制御装置50には、センサ群51と、アクチュエータ群52と、が接続されている。また、エンジン制御装置50には、キースイッチ63と、制限解除スイッチ64と、が接続されている。
【0052】
キースイッチ63は、エンジン1を始動又は停止させることができる操作部材である。キースイッチ63は、ON操作又はOFF操作可能に構成されている。キースイッチ63がON操作されることで、エンジン1が始動する。キースイッチ63がOFF操作されることで、エンジン1が停止する。
【0053】
制限解除スイッチ64は、エンジン1の制限運転の解除操作を行うための操作部材(制限解除用操作部材)である。エンジン1の制限運転中に、制限解除スイッチ64が操作されることで、エンジン1の制限運転が一時的に解除される。なお、この操作部材は、制限解除スイッチ64に限定されない。エンジン1の制限運転については後述する。
【0054】
エンジン制御装置50において、異常判定部55は、EGR装置40に異常が発生しているか否を判定する。EGR装置40の異常は様々であり、例えば、EGRバルブ43の故障や、EGRバルブ43の開度を検出するEGRバルブ開度検出センサの故障を挙げることができる。異常判定部55は、例えば、EGRガスの還流量が過少又は過多であれば、EGR装置40に異常が発生していると判定する。なお、EGR装置40の異常及びその発生の判定方法については、これに限られない。
【0055】
制限運転部56は、異常判定部55がEGR装置40に異常が発生したと判定した場合、エンジン1の機能の一部を制限した制限運転が行われるようにエンジン1を制御する。このような制限運転部56により行われる制限運転制御は、具体的には、エンジン1の出力(以下、エンジン出力と呼ぶ)の制限を行う制御である。
【0056】
本実施形態では、エンジン出力の制限は、第1運転制限と、第2運転制限と、を含む。状況に応じて、第1運転制限及び第2運転制限のうち何れかが選択して適用される。第1運転制限は、制限運転の実行開始時点から所定の設定時間が経過するまでの期間でエンジン出力を制限する。第2運転制限は、所定の設定時間の経過後にエンジン回転数を制限し、かつエンジン出力を前記第1運転制限により制限されるエンジン出力よりも低く制限する。
【0057】
制限運転部56による制限運転制御は、異常判定部55によりEGR装置40に異常が発生していると判定されなくなった場合に解除される。この場合、エンジン1は、制限運転制御が行われない通常どおりの運転に自動的に戻る。なお、異常判定部55による判定は、制限運転の実行中に適宜行われる。
【0058】
制限解除運転部57は、制限運転を解除するための解除操作が行われた場合、この解除操作に応じて、制限運転から、エンジン1の機能の一部の制限を解除した制限解除運転に切り換えて、制限解除運転が行われるようにエンジン1を制御する。エンジン1の運転状態が制限運転から制限解除運転に切り換えられた場合、前述のエンジン出力の制限が解除される。
【0059】
ただし、エンジン1においてフェイルセーフ制御が実行されている場合、フェイルセーフ制御による制限は解除されない。具体的に説明すると、例えば、EGR装置40以外のエンジン1の構成部品の何れかに異常が発生していることをエンジン制御装置50が検出して、機器を保護しつつ最低限の稼動を維持する観点からエンジン1の出力を制限していた場合に、制限解除運転の指示がされても、当該制限は解除されない。また、制限運転を解除するための解除操作は、本実施形態では、制限運転部56によりエンジン1の制限運転制御が行われているときに制限解除スイッチ64が押される操作であるが、これに限定されない。
【0060】
エンジン1の制限運転は、EGR装置40に異常が発生していると判定されたことを契機にして行われる。EGR装置40の構成部材に異常が発生しているのであれば、排気エミッションの観点からは、前述の制限運転制御が行われることが好ましい。しかし、例えば、災害時や緊急時等で、エンジン出力を十分に確保したい等の事情が生じる場合がある。この場合には、オペレータが自らの判断で制限解除スイッチ64の操作を行うことにより、エンジン出力が制限されない制限解除運転制御を行うことができる。
【0061】
本実施形態では、本来の趣旨を外れて制限解除運転が乱用されないように、制限解除運転の実行時間が制限されている。制限運転中に制限解除運転への切換が行われたときに制限解除運転の実行開始時点から所定時間だけ実行されるようになっている。具体的には、制限解除スイッチ64が操作されると、その操作時点からの経過時間の計測が計測部58により開始され、経過時間が所定時間に到達すると、図3のタイミングチャートに示すように、制限解除運転を実行可能な時間の残り時間がゼロとなり、制限解除運転が終了する。制限解除運転が終了した場合、制限運転への切換が行われ、制限運転が再開される。なお、制限解除運転を実行可能な所定時間は任意に設定することができる。
【0062】
制限解除運転中にエンジン1が停止した場合には、計測部58による経過時間の計測が一時停止する。その後、エンジン1が再始動すると、計測部58は経過時間の計測を再開する。再開後の計測は、エンジン1が停止した時点での経過時間に新たな経過時間を加算するように行われる。
【0063】
詳しくは、制限解除運転中にキースイッチ63がOFF操作されることでエンジン1が停止し、このキースイッチ63のOFF操作に応じて計測部58による経過時間の計測が一時停止する。その後、キースイッチ63がON操作されることでエンジン1が再始動し、このキースイッチ63のON操作に応じて計測部58による経過時間の計測が再開する。
【0064】
つまり、制限解除運転中にキースイッチ63がOFF操作された時点で、計測部58による経過時間の計測が一時停止する。そして、計測部58による経過時間の計測が一時停止している場合に、キースイッチ63がON操作された時点で、計測部58による経過時間の計測が再開する。
【0065】
また、エンジン1の制限運転中における制限解除運転は、所定回数に限って行うことができる。言い換えれば、エンジン1の制限運転中における制限解除運転の実行回数が所定回数に制限されている。制限解除運転の実行回数は、カウント部59により、制限運転の実行中に制限解除運転が所定時間にわたって実行されるごとに1回カウントされる。制限解除運転の実行回数が所定回数に達すると、それ以後は制限解除運転の実行は禁止される。なお、この所定回数は任意に設定することができる。
【0066】
カウント部59は、制限解除運転中にエンジン1が停止した後、このエンジン1の再始動により制限解除運転が再開されるとき、制限解除運転の実行回数のカウントを行わない。また、制限運転中に異常判定部55による判定結果がEGR装置40に異常が発生していないとの判定結果に変わることによりエンジン1が通常運転に戻った後、再び制限運転が行われる場合、カウント部59は、先の制限運転時にカウントした制限解除運転の実行回数を初期値にリセットした後にカウントを行う。
【0067】
続いて、エンジン1の制限運転及び制限解除運転を行うために行われる具体的な処理について、図4のフローチャートを参照して説明する。
【0068】
処理がスタートすると、エンジン制御装置50は、エンジン1を通常通り運転する(ステップS101)。このようなエンジン1の通常運転中、エンジン制御装置50(異常判定部55)は、EGR装置40に異常が発生しているか否かを判定する(ステップS102)。
【0069】
ステップS102の判断で、EGR装置40に異常が発生しているとの判定(異常判定)が行われた場合、エンジン制御装置50(制限運転部56)は、エンジン1の制限運転を行う(ステップS103)。ステップS102で異常判定が行われなかった場合は、処理はステップS101に戻る。
【0070】
ステップS103の後、エンジン制御装置50は、オペレータによって制限解除スイッチ64による解除操作が行われたか否かを判定する(ステップS104)。
【0071】
ステップS104の判断で、制限解除スイッチ64による解除操作が行われていなかった場合、エンジン制御装置50は、異常判定部55による判定結果(異常判定)が変更されたか否かを判定する(ステップS105)。異常判定の変更とは、言い換えれば、異常判定がされなくなったことを意味する。ステップS105の判断で、異常判定が変更された場合、EGR装置40に異常が発生していないことを意味する。そこで、処理はS101に戻り、エンジン1は通常運転に戻される。ステップS105の判断で、異常判定が維持される場合は、処理はステップS103に戻って、エンジン1の制限運転が継続される。
【0072】
ステップS104の判断で、制限解除スイッチ64による解除操作が行われた場合、エンジン制御装置50(制限解除運転部57)は、エンジン1の制限解除運転を行う(ステップS106)。そして、エンジン制御装置50(計測部58)は、制限解除スイッチ64の解除操作が行われてからの経過時間の計測を開始する(ステップS107)。
【0073】
経過時間の計測の開始後、エンジン制御装置50は、計測した経過時間が所定時間に到達したか否かを判定する(ステップS108)。この所定時間は、前述のように、エンジン1の制限運転中に制限解除運転を実行することができる時間を定めたものである。
【0074】
ステップS108の判断で、経過時間が所定時間に到達していた場合、処理はステップS103に戻り、エンジン制御装置50はエンジン1の制限解除運転を制限運転に切り換える。即ち、エンジン1の制限解除運転が終了し、エンジン1の制限運転が再開される。
【0075】
ステップS108の判断で、経過時間が所定時間に到達していなかった場合、エンジン制御装置50は、キースイッチ63がOFF操作されたか否かを判定する(ステップS109)。即ち、エンジン1が停止したか否かの判定が行われる。
【0076】
キースイッチ63がOFF操作された場合、エンジン制御装置50(計測部58)は計測を一時停止する(ステップS110)。なお、上述の経過時間は不揮発性メモリに記憶されているので、エンジン制御装置50の電源がOFFになっても、再びONになったときに経過時間の計測を問題なく再開することができる。キースイッチ63がOFF操作されていなかった場合、処理はステップS108に戻り、エンジン1の制限解除運転及び経過時間の計測が継続される。
【0077】
経過時間の計測が一時停止している間、エンジン制御装置50は、キースイッチ63がON操作されたか否かを判定する(ステップS111)。即ち、エンジン1が再始動したか否かの判定が行われる。
【0078】
キースイッチ63がON操作されていた場合、エンジン制御装置50(計測部58)は、経過時間の計測を再開する(ステップS112)。そして、処理はステップS108に戻る。一方、キースイッチ63がON操作されていないとの判定が行われた場合、ステップS111の処理が繰り返される。
【0079】
図4のフローチャートでは、制限解除運転の回数制限を実現する処理が省略されている。しかし、ステップS104で、制限解除運転のカウント値が回数制限値に達していれば制限解除操作を無効とすることで、制限解除運転の回数制限を容易に実現することができる。制限解除運転のカウント値は、上述の経過時間と同様に、不揮発性メモリに記憶される。
【0080】
上記の処理を行うことで、EGR装置40の故障時には制限運転を行い、災害時等に通常必要な範囲で当該制限運転を例外的に解除することができる。この制御により、エミッションの悪化防止と緊急時のエンジン稼動の確保をバランス良く実現することができる。
【0081】
以上に説明したように、本実施形態のエンジン制御装置50は、EGR装置40を備えたエンジン1を制御する。EGR装置40は、排気ガスの一部をEGRガスとして吸気側へ還流させる。エンジン制御装置50は、異常判定部55と、制限運転部56と、制限解除運転部57と、を備える。異常判定部55は、EGR装置40に異常が発生しているか否かを判定する。制限運転部56は、異常判定部55がEGR装置40に異常が発生していると判定した場合に、エンジン1の機能の一部を制限した制限運転を行う。制限解除運転部57は、制限運転の解除操作が行われた場合に、制限運転から、エンジン1の機能の一部の制限を解除した制限解除運転に切り換えて、この制限解除運転を行う。
【0082】
これにより、異常判定部55がEGR装置40に異常が発生していると判定した場合には排気エミッションが悪化するので、エンジン1の制限運転を行って、このエンジン1から排出される排気エミッション量を抑制することができる。EGR装置40の異常としては、EGR装置40の構成部材(EGRバルブ43等)の異常、又は、制御のために使用されるセンサ等の異常が考えられる。また、エンジン1の制限運転を制限解除運転に切り換えることができるので、災害時又は緊急時等には制限解除運転を行って、エンジン1を通常通り運転することができる。
【0083】
また、本実施形態のエンジン制御装置50においては、制限運転の解除操作が行われた場合、前記制限解除運転の実行開始時点から所定時間が経過したとき、制限運転が再開される。
【0084】
これにより、制限解除運転が実行される時間を所定時間に制限することができる。従って、EGR装置40の故障により排気エミッションが悪化したまま、常時エンジン1が前記の制限が行われずに通常どおり運転されることを防止することができる。
【0085】
また、本実施形態のエンジン制御装置50は、計測部58を備える。計測部58は、制限運転の解除操作が行われてからの経過時間を計測する。計測部58は、制限解除運転中にエンジン1が停止した場合に前記経過時間の計測を一時停止し、その後に前記エンジンが再始動した場合に前記経過時間の計測を再開する。
【0086】
これにより、オペレータが何らかの理由で制限解除運転中にエンジン1を停止させた場合、計測部58により計測された経過時間が初期値にリセットされたり、計測部58による計測が終了したりすることがない。従って、エンジン1の制限解除運転を所定時間だけ行うことができる。
【0087】
また、本実施形態のエンジン制御装置50においては、計測部58は、エンジン1の停止のためにエンジン1のキースイッチ63がOFF操作されたときに計測を一時停止し、その後にエンジン1の再始動のためにキースイッチ63がON操作されたときから計測を再開する。
【0088】
これにより、エンジン1のキースイッチ63の操作に応じて、計測部58により経過時間を計測することができる。
【0089】
また、本実施形態のエンジン制御装置50においては、制限運転から制限解除運転への切換は、制限運転の実行中に所定回数可能である。
【0090】
これにより、制限運転から制限解除運転への切換可能な回数を所定回数に制限することができる。従って、EGR装置40の故障により排気エミッションが悪化したまま、エンジンが長期間にわたって通常通り運転されることを防止することができる。
【0091】
また、本実施形態のエンジン制御装置50は、カウント部59を備える。カウント部59は、制限解除運転の実行回数をカウントする。カウント部59は、制限解除運転中にエンジン1が停止した後、このエンジン1の再始動により制限解除運転が再開されるとき、制限解除運転の実行回数のカウントを行わない。
【0092】
これにより、オペレータが何らかの理由で制限解除運転中にエンジン1を停止させた後、エンジン1を再始動させたとき、制限解除運転が再開されるが、このときに制限解除運転の実行回数が増加することがない。従って、制限運転中、エンジン1の制限解除運転を確実に所定回数行うことができる。
【0093】
また、本実施形態のエンジン制御装置50において、制限運転に関する制限は、第1運転制限と、第2運転制限と、を含む。第1運転制限は、制限運転の実行開始時点から所定の設定時間が経過するまでの期間でエンジン出力を制限する。第2運転制限は、所定の設定時間の経過後にエンジン回転数を制限し、かつエンジン出力を前記第1運転制限により制限されるエンジン出力よりも低く制限する。
【0094】
これにより、制限運転に関する制限を2段階で行うことができる。従って、第1運転制限での制限運転を行っている段階でEGR装置40の故障の修理を促すことができる。そして、EGR装置40の故障の修理が行われなければ、次の段階でエンジン1を非常に使用しづらいものにして、EGR装置40の故障の修理を強く促すことができる。
【0095】
また、本実施形態のエンジン制御装置50は、制限運転の解除操作を行うための制限解除スイッチ(制限解除用操作部材)64を備える。
【0096】
こにより、制限解除スイッチ64を、エンジン1を使用する機械の適宜の箇所に設置することができる。従って、この機械のオペレータが運転制限解除を状況に応じて適切に実行することができる。
【0097】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0098】
上記実施形態では、制限運転に関する制限は、第1運転制限と、第2運転制限と、が順に行われる2段階の制限としているが、これに限定されず、例えば、前記制限運転の実行開始時点から行われるエンジン出力の制限のみであっても良いし、前記制限運転の実行開始時点から行われるエンジン回転数及びエンジン出力の各々の制限であっても良い。
【0099】
上記実施形態では、制限運転の解除操作を行うための操作部材は、制限解除スイッチ64とされているが、これに限定されず、例えば、タッチパネルから構成される操作部材としても良い。
【0100】
上記実施形態では、エンジン制御装置50は、オペレータによる制限解除スイッチ64の操作に応じてエンジン1の制限運転の解除を行う。しかしながら、オペレータの操作無しで、エンジン制御装置50が状況に応じて(例えばセンサ群51のうち任意のセンサの検出結果に応じて)制限運転の解除を自動的に行っても良い。
【0101】
上述の教示を考慮すれば、本発明が多くの変更形態及び変形形態をとり得ることは明らかである。従って、本発明が、添付の特許請求の範囲内において、本明細書に記載された以外の方法で実施され得ることを理解されたい。
【符号の説明】
【0102】
1 エンジン
40 EGR装置
50 エンジン制御装置
55 異常判定部
56 制限運転部
57 制限解除運転部
58 計測部
59 カウント部
64 制限解除スイッチ(制限解除用操作部材)
図1
図2
図3
図4