IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太陽誘電株式会社の特許一覧

特許7488045積層セラミック電子部品及びその製造方法
<>
  • 特許-積層セラミック電子部品及びその製造方法 図1
  • 特許-積層セラミック電子部品及びその製造方法 図2
  • 特許-積層セラミック電子部品及びその製造方法 図3
  • 特許-積層セラミック電子部品及びその製造方法 図4
  • 特許-積層セラミック電子部品及びその製造方法 図5
  • 特許-積層セラミック電子部品及びその製造方法 図6
  • 特許-積層セラミック電子部品及びその製造方法 図7
  • 特許-積層セラミック電子部品及びその製造方法 図8
  • 特許-積層セラミック電子部品及びその製造方法 図9
  • 特許-積層セラミック電子部品及びその製造方法 図10
  • 特許-積層セラミック電子部品及びその製造方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】積層セラミック電子部品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20240514BHJP
【FI】
H01G4/30 201N
H01G4/30 512
H01G4/30 517
H01G4/30 311F
H01G4/30 311A
H01G4/30 311Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019213979
(22)【出願日】2019-11-27
(65)【公開番号】P2021086893
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】加藤 洋一
【審査官】多田 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-220478(JP,A)
【文献】特開2013-187239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸方向に積層された複数のセラミック層と、前記複数のセラミック層の間に位置する複数の内部電極と、前記複数の内部電極の前記第1軸と直交する第2軸方向の端部が位置する第1及び第2側面と、を有する積層体と、
前記第1及び第2側面を覆う第1及び第2サイドマージン部と、
を具備し、
前記第1及び第2サイドマージン部を前記第1軸方向に沿って二等分する平面に沿って第1及び第2領域に分けたときに、前記第1サイドマージン部では前記第1領域において前記第2領域よりも平均厚みが大きく、前記第2サイドマージン部では前記第2領域において前記第1領域よりも平均厚みが大きく、
前記第1及び第2サイドマージン部の密度は、前記積層体の密度よりも低い、
積層セラミック電子部品。
【請求項2】
請求項1に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記第1及び第2サイドマージン部は、前記第2軸と直交する平面に沿って延びる外面を有する
積層セラミック電子部品。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記第1サイドマージン部の前記第1領域の平均厚みが、前記第2サイドマージン部の前記第1領域の平均厚みよりも大きく、
前記第2サイドマージン部の前記第2領域の平均厚みが、前記第1サイドマージン部の前記第2領域の平均厚みよりも大きい
積層セラミック電子部品。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記第1サイドマージン部の前記第1領域の平均厚みが、前記第2サイドマージン部の前記第2領域の平均厚みと同等であり、
前記第1サイドマージン部の前記第2領域の平均厚みが、前記第2サイドマージン部の前記第1領域の平均厚みと同等である
積層セラミック電子部品。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記積層体の前記第1及び第2側面は傾斜面である
積層セラミック電子部品。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記積層体と第1及び第2サイドマージン部とを備えるセラミック素体は、直方体状の形状を備えた
積層セラミック電子部品。
【請求項7】
第1軸方向に積層された複数のセラミックシートと、前記複数のセラミックシートの間に位置する複数の内部電極と、を有する積層シートを作製し、
前記積層シートを切断して個片化することで、前記複数の内部電極の前記第1軸と直交する第2軸方向の端部が露出する切断面であり、前記第2軸と直交する平面に対して共通の向きに傾斜した第1及び第2側面を有する積層体を作製し、
前記第1及び第2側面に、前記第2軸と直交する平面に沿って延びる外面を有する第1及び第2サイドマージン部を形成する
積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の積層セラミック電子部品の製造方法であって、
前記積層シートを、前記第2軸方向に振動させた押し切り刃によって切断する
積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の積層セラミック電子部品の製造方法であって、
前記第1及び第2サイドマージン部の形成にサイドマージンシートを用い、
前記サイドマージンシートを、第1及び第2側面の形状に沿って変形させながら、前記第1及び第2側面に貼り付ける
積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の積層セラミック電子部品の製造方法であって、
前記サイドマージンシートを、前記第2軸と直交する平面に沿って延びる高剛性の押圧面で押圧する
積層セラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドマージン部が後付けされる積層セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサの製造過程においてサイドマージン部を後付けする技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。この技術は、薄いサイドマージン部によっても内部電極が露出した積層体の側面を確実に保護することができるため、積層セラミックコンデンサの小型化及び大容量化に有利である。
【0003】
一例として、特許文献1に記載の積層セラミックコンデンサの製造方法では、内部電極が印刷されたセラミックシートを積層した積層シートを切断し、内部電極が露出した切断面を側面とする複数の積層体を作製する。そして、積層体の側面でセラミックシートを打ち抜くことにより、積層体の側面にサイドマージン部を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-209539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようなサイドマージン部を後付けする技術では、焼成時に積層体とサイドマージン部とが異なる収縮挙動を示し、つまり低密度のサイドマージン部が高密度の積層体よりも大きく収縮しようとする。これにより、積層体の内部に応力が加わることで、積層セラミックコンデンサの性能が低下することがある。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、焼成時に加わる応力による性能低下を抑制可能な積層セラミック電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る積層セラミック電子部品は、積層体と、サイドマージン部と、を具備する。
上記積層体は、第1軸方向に積層された複数のセラミック層と、上記複数のセラミック層の間に位置する複数の内部電極と、上記複数の内部電極の上記第1軸と直交する第2軸方向の端部が位置する第1及び第2側面と、を有する。
上記サイドマージン部は、上記第1及び第2側面を覆う。
上記第1及び第2サイドマージン部を上記第1軸方向に垂直な平面に沿って二等分して第1及び第2領域に分けたときに、上記第1サイドマージン部では上記第1領域において上記第2領域よりも平均厚みが大きく、上記第2サイドマージン部では上記第2領域において上記第1領域よりも平均厚み大きい。
【0008】
積層セラミック電子部品の製造過程における焼成時には、積層体の第1及び第2側面に第1及び第2サイドマージン部の収縮による力が加わることで、積層体の内部に引張応力が加わる。これにより、積層体では、内部に加わる引張応力の方向に沿って第1及び第2内部電極を構成する結晶が粒成長しやすくなる。積層体では、第1及び第2内部電極の粒成長が厚み方向(第1軸方向)に進行しすぎると、第1及び第2内部電極が面内方向に不連続になりやすくなる。
これに対し、上記の構成の積層体の第1側面には、第1サイドマージン部が厚い第1領域において第2領域よりも大きい力が加わる。この一方で、積層体の第2側面には、第2サイドマージン部が厚い第2領域において第1領域よりも大きい力が加わる。これにより、焼成時の積層体では、内部に加わる引張応力の方向が第1軸方向に対して傾いた方向となるため、第1及び第2内部電極の厚み方向への粒成長が抑制される。このため、この構成の積層セラミック電子部品では、第1及び第2内部電極の面内方向の連続性を確保することができる。
【0009】
上記第1及び第2サイドマージン部は、上記第2軸と直交する平面に沿って延びる外面を有してもよい。
この構成では、セラミック素体を直方体状の一般的な形状に維持したまま、上記のような厚み分布を有する第1及び第2サイドマージン部の構成を実現することができる。
【0010】
上記第1サイドマージン部の上記第1領域の平均厚みが上記第2サイドマージン部の上記第1領域の平均厚みよりも大きく、上記第2サイドマージン部の上記第2領域の平均厚みが上記第1サイドマージン部の上記第2領域の平均厚みよりも大きくてもよい。
上記第1サイドマージン部の上記第1領域の平均厚みが上記第2サイドマージン部の上記第2領域の平均厚みと同等であり、上記第1サイドマージン部の上記第2領域の平均厚みが上記第2サイドマージン部の上記第1領域の平均厚みと同等であってもよい。
【0011】
本発明の一形態に係る積層セラミック電子部品の製造方法では、第1軸方向に積層された複数のセラミックシートと、上記複数のセラミック層の間に位置する複数の内部電極と、を有する積層シートが作製される
上記積層シートを切断して個片化することで、上記複数の内部電極の上記第1軸と直交する第2軸方向の端部が露出する切断面であり、上記第2軸と直交する平面に対して共通の向きに傾斜した第1及び第2側面を有する積層体が作製される。
上記第1及び第2側面に、上記第2軸と直交する平面に沿って延びる外面を有する第1及び第2サイドマージン部が形成される。
【0012】
上記積層シートを、上記第2方向に振動させた押し切り刃によって切断してもよい。
上記第1及び第2サイドマージン部の形成にサイドマージンシートを用いてもよい。この場合、上記サイドマージンシートを、第1及び第2側面の形状に沿って変形させながら、上記第1及び第2側面に貼り付けてもよい。また、上記サイドマージンシートを、上記第2軸と直交する平面に沿って延びる高剛性の押圧面で押圧してもよい。
【発明の効果】
【0013】
以上述べたように、本発明によれば、焼成時に加わる応力による性能低下を抑制可能な積層セラミック電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの斜視図である。
図2】上記積層セラミックコンデンサの図1のA-A'線に沿った断面図である。
図3】上記積層セラミックコンデンサの図1のB-B'線に沿った断面図である。
図4】上記積層セラミックコンデンサの製造方法を示すフローチャートである。
図5】上記製造方法のセラミックシート準備工程で準備されるセラミックシートの平面図である。
図6】上記製造方法の積層工程を示す斜視図である。
図7】上記製造方法の切断工程を示す平面図である。
図8】上記製造方法の切断工程を示す部分断面図である。
図9】上記製造方法のサイドマージン部形成工程で得られる未焼成のセラミック素体の斜視図である。
図10】上記製造方法の焼成工程の比較例を示す断面図である。
図11】上記製造方法の焼成工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10について説明する。なお、図1~11には、適宜、相互に直交するX軸、Y軸、及びZ軸が示されている。X軸、Y軸、及びZ軸は、積層セラミックコンデンサ10に対して固定された固定座標系を規定する。
【0016】
[積層セラミックコンデンサ10の構成]
図1~3は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10を示す図である。図1は、積層セラミックコンデンサ10の斜視図である。図2は、積層セラミックコンデンサ10の図1のA-A'線に沿った断面図である。図3は、積層セラミックコンデンサ10の図1のB-B'線に沿った断面図である。
【0017】
積層セラミックコンデンサ10は、セラミック素体11と、第1外部電極14と、第2外部電極15と、を備える。セラミック素体11は、X軸と直交する第1及び第2端面と、Y軸と直交する第1及び第2側面s1,s2と、Z軸と直交する第1及び第2主面と、を有する直方体状に形成されている。
【0018】
セラミック素体11の端面、側面s1,s2、及び主面はいずれも、平坦面として構成される。本実施形態に係る平坦面とは、全体的に見たときに平坦と認識される面であれば厳密に平面でなくてもよく、例えば、表面の微小な凹凸形状や、所定の範囲に存在する緩やかな湾曲形状などを有する面も含まれる。
【0019】
各外部電極14,15は、セラミック素体11の両端面を覆い、セラミック素体11を挟んでX軸方向に対向している。外部電極14,15は、セラミック素体11の各端面から主面及び側面s1,s2に延出している。これにより、外部電極14,15では、X-Z平面に平行な断面、及びX-Y平面に平行な断面がいずれもU字状となっている。
【0020】
なお、外部電極14,15の形状は、図1に示すものに限定されない。例えば、外部電極14,15は、セラミック素体11の両端面から一方の主面のみに延び、X-Z平面に平行な断面がL字状となっていてもよい。また、外部電極14,15は、いずれの主面及び側面s1,s2にも延出していなくてもよい。
【0021】
外部電極14,15は、電気の良導体により形成されている。外部電極14,15を形成する電気の良導体としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、錫(Sn)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)などを主成分とする金属又は合金が挙げられる。
【0022】
セラミック素体11は、誘電体セラミックスで形成され、積層体16と、第1及び第2サイドマージン部17a,17bと、を有する。積層体16は、X軸と直交する第1及び第2端面と、Z軸と直交する第1及び第2主面と、を有する。また、積層体16は、Y軸方向に対向する第1及び第2側面S1,S2を有する。
【0023】
積層体16では、第1及び第2側面S1,S2がいずれも、共通の向き(Z軸方向下側から上側に向けてY軸方向左向き)に傾斜した傾斜面として構成される。これにより、積層体16では、第1側面S1がZ軸方向上側においてY軸方向左方に向けて突出し、第2側面S2がZ軸方向上側においてY軸方向左方に向けて凹んでいる。
【0024】
積層体16は、X-Y平面に沿って延びる平板状の複数のセラミック層がZ軸方向に積層された構成を有する。積層体16は、容量形成部18と、カバー部19と、を有する。カバー部19は、容量形成部18をZ軸方向上下から被覆し、積層体16の第1及び第2主面を構成している。
【0025】
容量形成部18は、複数のセラミック層の間に配置され、X-Y平面に沿って延びるシート状の複数の第1及び第2内部電極12,13を有する。内部電極12,13は、Z軸方向に沿って交互に配置されている。つまり、内部電極12,13は、セラミック層を挟んでZ軸方向に対向している。
【0026】
第1内部電極12は、第1外部電極14に覆われた端面に引き出されている。一方、第2内部電極13は第2外部電極15に覆われた端面に引き出されている。これにより、第1内部電極12は第1外部電極14のみに接続され、第2内部電極13は第2外部電極15のみに接続されている。
【0027】
このような構成により、積層セラミックコンデンサ10では、第1外部電極14と第2外部電極15との間に電圧が印加されると、第1内部電極12と第2内部電極13との間の複数のセラミック層に電圧が加わる。これにより、積層セラミックコンデンサ10では、第1外部電極14と第2外部電極15との間の電圧に応じた電荷が蓄えられる。
【0028】
セラミック素体11では、内部電極12,13間の各セラミック層の容量を大きくするため、高誘電率の誘電体セラミックスが用いられる。高誘電率の誘電体セラミックスとしては、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO)に代表される、バリウム(Ba)及びチタン(Ti)を含むペロブスカイト構造の材料が挙げられる。
【0029】
なお、セラミック層は、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、チタン酸カルシウム(CaTiO)、チタン酸マグネシウム(MgTiO)、ジルコン酸カルシウム(CaZrO)、チタン酸ジルコン酸カルシウム(Ca(Zr,Ti)O)、ジルコン酸バリウム(BaZrO)、酸化チタン(TiO)などの組成系で構成してもよい。
【0030】
内部電極12,13は、電気の良導体により形成されている。内部電極12,13を形成する電気の良導体としては、典型的にはニッケル(Ni)が挙げられ、この他にも銅(Cu)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)などを主成分とする金属又は合金が挙げられる。
【0031】
内部電極12,13は、容量形成部18のY軸方向の全幅にわたって形成され、そのY軸方向の端部が積層体16の側面S1,S2に位置している。サイドマージン部17a,17bは、積層体16の側面S1,S2を覆っている。これにより、積層体16の両側面S1,S2における内部電極12,13間の絶縁性を確保することができる。
【0032】
具体的に、第1サイドマージン部17aが積層体16の第1側面S1を覆い、第2サイドマージン部17bが積層体16の第2側面S2を覆っている。つまり、第1サイドマージン部17aの外面がセラミック素体11の第1側面s1を構成し、第2サイドマージン部17bの外面がセラミック素体11の第2側面s2を構成している。
【0033】
サイドマージン部17a,17bでは、図3に示すY-Z平面に沿った断面が、セラミック素体11のY軸方向の中心を通りZ軸方向に平行な中心軸に対して非対称となっている。つまり、サイドマージン部17a,17bでは、Y軸方向の寸法である厚みのZ軸方向に沿った分布が相互に異なる。
【0034】
図3には、サイドマージン部17a,17bをZ軸方向上下に二等分して第1及び第2領域R1,R2に分けるZ軸に垂直な平面である二等分面Dが示されている。つまり、本実施形態に係るサイドマージン部17a,17bでは、Z軸方向下側の半分の領域を第1領域R1とし、Z軸方向上側の半分の領域を第2領域R2とする。
【0035】
サイドマージン部17a,17bでは、第1領域R1と第2領域R2とで平均厚みが異なる。具体的に、第1サイドマージン部17aでは、第1領域R1において第2領域R2よりも平均厚みが大きい。第2サイドマージン部17bでは、第2領域R2において第1領域R1よりも平均厚みが大きい。
【0036】
換言すると、Z軸方向下側の第1領域R1では、第1サイドマージン部17aの平均厚みが大きく、第2サイドマージン部17bの平均厚みが小さい。この一方で、Z軸方向上側の第2領域R2では、第1サイドマージン部17aの平均厚みが小さく、第2サイドマージン部17bの平均厚みが大きい。
【0037】
積層セラミックコンデンサ10では、積層体16の側面S1,S2の形状を傾斜面とすることで、セラミック素体11を直方体状の一般的な形状に維持したまま、サイドマージン部17a,17bに上記のような厚みの分布を持たせることができる。これにより、積層セラミックコンデンサ10は、既存の製品に代替容易となる。
【0038】
なお、積層セラミックコンデンサ10では、領域R1,R2におけるサイドマージン部17a,17bの平均厚みが上記の関係を満たしていればよく、積層体16の側面S1,S2の形状は様々に変更可能である。積層体16の側面S1,S2では、例えば、断面形状が直線状や波線状などであってもよい。
【0039】
積層セラミックコンデンサ10では、上記のように領域R1,R2における平均厚みの大小関係をサイドマージン部17a,17bで異ならせることにより、製造過程における焼成時に積層体16の内部に加わる引張応力の方向を制御することができる。これにより、積層セラミックコンデンサ10の性能低下を抑制可能である。
【0040】
[積層セラミックコンデンサ10の製造方法]
図4は、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10の製造方法を示すフローチャートである。図5~11は積層セラミックコンデンサ10の製造過程を示す図である。以下、積層セラミックコンデンサ10の製造方法について、図4に沿って、図5~11を適宜参照しながら説明する。
【0041】
(ステップS01:セラミックシート準備)
ステップS01では、容量形成部18を形成するための第1セラミックシート101及び第2セラミックシート102と、カバー部19を形成するための第3セラミックシート103と、を準備する。セラミックシート101,102,103は、誘電体セラミックスを主成分とする未焼成の誘電体グリーンシートとして構成される。
【0042】
セラミックシート101,102,103は、例えば、ロールコーターやドクターブレードなどを用いてシート状に成形される。セラミックシート101,102の厚みは、焼成後の容量形成部18におけるセラミック層の厚みに応じて調整される。第3セラミックシート103の厚みは適宜調整可能である。
【0043】
図5は、セラミックシート101,102,103の平面図である。この段階では、セラミックシート101,102,103が、個片化されていない大判のシートとして構成される。図5には、各積層セラミックコンデンサ10ごとに個片化する際の切断線Lx,Lyが示されている。切断線LxはX軸に平行であり、切断線LyはY軸に平行である。
【0044】
図5に示すように、第1セラミックシート101には第1内部電極12に対応する未焼成の第1内部電極112が形成され、第2セラミックシート102には第2内部電極13に対応する未焼成の第2内部電極113が形成されている。なお、カバー部19に対応する第3セラミックシート103には内部電極が形成されていない。
【0045】
内部電極112,113は、任意の導電性ペーストをセラミックシート101,102に塗布することによって形成することができる。導電性ペーストの塗布方法は、公知の技術から任意に選択可能である。例えば、導電性ペーストの塗布には、スクリーン印刷法やグラビア印刷法を用いることができる。
【0046】
内部電極112,113には、切断線Lyに沿ったX軸方向の隙間が、切断線Ly1本置きに形成されている。第1内部電極112の隙間と第2内部電極113の隙間とはX軸方向に互い違いに配置されている。つまり、第1内部電極112の隙間を通る切断線Lyと第2内部電極113の隙間を通る切断線Lyとが交互に並んでいる。
【0047】
(ステップS02:積層)
ステップS02では、ステップS01で準備したセラミックシート101,102,103を、図6に示すように積層することにより積層シート104を作製する。積層シート104では、容量形成部18に対応する第1セラミックシート101及び第2セラミックシート102がZ軸方向に交互に積層されている。
【0048】
また、積層シート104では、交互に積層されたセラミックシート101,102のZ軸方向上下面にカバー部19に対応する第3セラミックシート103が積層される。なお、図6に示す例では、第3セラミックシート103がそれぞれ3枚ずつ積層されているが、第3セラミックシート103の枚数は適宜変更可能である。
【0049】
積層シート104は、セラミックシート101,102,103を圧着することにより一体化される。セラミックシート101,102,103の圧着には、例えば、静水圧加圧や一軸加圧などを用いることが好ましい。これにより、積層シート104を高密度化することが可能である。
【0050】
(ステップS03:切断)
ステップS03では、ステップS02で得られた積層シート104を、切断線Lx,Lyに沿って切断することにより、未焼成の積層体116を作製する。積層体116は、焼成後の積層体16に対応する。積層シート104の切断には、例えば、押し切り刃や回転刃などを用いることができる。
【0051】
図7,8は、ステップS03の一例を説明するための模式図である。図7は、積層シート104の平面図である。図8は、積層シート104のY-Z平面に沿った断面図である。積層シート104は、例えば発泡剥離シートなどの粘着性のカットシートCによって保持された状態で、切断線Lx,Lyに沿って押し切り刃BLで切断される。
【0052】
まず、図8(A)に示すように、押し切り刃BLを積層シート104のZ軸方向上方に、先端をZ軸方向下方の積層シート104に向けて配置する。次に、図8(A)に示す状態から、押し切り刃BLをZ軸方向下方に、カットシートCに到達するまで移動させ、積層シート104を貫通させる。
【0053】
そして、図8(B)に示すように、押し切り刃BLをZ軸方向上方に向けて移動させることにより、積層シート104から引き抜く。これにより、積層シート104がX軸及びY軸方向に切り分けられ、Y軸方向に内部電極112,113が露出する第1及び第2側面S1,S2を有する積層体116が形成される。
【0054】
図8に示す例では、積層シート104の切断の過程において、押し切り刃BLを所定の振動数及び振幅でY軸方向左右に振動させている。これにより、押し切り刃BLによる積層シート104の切断面を湾曲した形状とすることで、図8(B)に示すように積層体116の側面S1,S2を傾斜面とすることができる。
【0055】
(ステップS04:サイドマージン部形成)
ステップS04では、ステップS03で得られた積層体116に対し、第1側面S1に未焼成の第1サイドマージン部117aを設け、第2側面S2に未焼成の第2サイドマージン部117bを設ける。これにより、図9に示すように、Y軸と直交する平面に沿って延びる側面s1,s2を有する未焼成のセラミック素体111を作製する。
【0056】
サイドマージン部117a,117bは、例えば、セラミックシート(サイドマージンシート)やセラミックスラリーを用いて形成することができる。サイドマージンシートを用いる場合、サイドマージンシートをX-Z平面に沿って延びる高剛性の押圧面で積層体116の側面S1,S2に押し付けることで、サイドマージンシートを、積層体116の側面S1,S2の形状に沿って変形させながら、積層体116の側面S1,S2に貼り付けることができる。
【0057】
サイドマージン部117a,117bは、積層体116におけるデラミネーションを防止するために、積層体116の側面S1,S2に対して高い圧力による圧着を行うことができない。このため、セラミック素体111では、サイドマージン部117a,117bが、積層体116よりも低密度となる。
【0058】
(ステップS05:焼成)
ステップS05では、ステップS04で得られた図9に示すセラミック素体111を焼成することにより、図1~3に示す積層セラミックコンデンサ10のセラミック素体11を作製する。つまり、ステップS05によって、積層体116が積層体16になり、サイドマージン部117a,117bがサイドマージン部17a,17bになる。
【0059】
ステップS05における焼成温度は、セラミック素体111の焼結温度に基づいて決定することができる。例えば、チタン酸バリウム(BaTiO)系材料を用いる場合には、焼成温度は1000~1300℃程度とすることができる。また、焼成は、例えば、還元雰囲気下、又は低酸素分圧雰囲気下において行うことができる。
【0060】
図10は、本実施形態の変形例に係るセラミック素体211の焼成時の状態を示している。変形例に係るセラミック素体211は、本実施形態に係るセラミック素体111とは異なり、Y軸と直交する積層体216の側面S1,S2に、均一な厚みのサイドマージン部217a,217bが設けられている。
【0061】
焼成時のセラミック素体211では、低密度のサイドマージン部217a,217bの収縮によって、積層体216の側面S1,S2に対して面内方向に沿ったZ軸方向の圧縮力が加わる。これに伴って、積層体216では、容量形成部218における主にY軸方向の中央領域に、側面S1,S2に加わる圧縮力とは反対の引張応力が加わる。
【0062】
比較例に係るセラミック素体211では、サイドマージン部217a,217bの厚みが均一であるため、積層体116の側面S1,S2に加わる圧縮力が第1領域R1と第2領域R2とで等しくなる。このため、セラミック素体211では、容量形成部218に加わる引張応力の方向がZ軸方向となる。
【0063】
このため、焼成時のセラミック素体211では、容量形成部218に加わるZ軸方向の引張応力によって、内部電極212,213を構成する結晶が厚み方向に沿って粒成長しやすくなる。これにより、内部電極212,213は、厚み方向に粒成長した結晶の周囲が薄くなることで、面内方向に不連続となりやすくなる。
【0064】
図11は、本実施形態に係るセラミック素体111の焼成時の状態を示している。セラミック素体111では、上記のとおり、第1サイドマージン部117aの平均厚みが第1領域R1において第2領域R2よりも大きく、第2サイドマージン部117bの平均厚みが第2領域R2において第1領域R1よりも大きい。
【0065】
このため、焼成時のセラミック素体111では、第1サイドマージン部117aの収縮力が、平均厚みが大きい第1領域R1において平均厚みが小さい第2領域R2よりも大きくなる。この一方で、第2サイドマージン部117bの収縮力は、平均厚みが大きい第2領域R2において平均厚みが小さい第1領域R1よりも大きくなる。
【0066】
したがって、積層体116では、第1側面S1に加わる圧縮力が第2領域R2よりも第1領域R1の方が大きく、第2側面S2に加わる圧縮力が第1領域R1よりも第2領域R2の方が大きい。このため、セラミック素体111では、容量形成部118に加わる引張応力の方向がZ軸方向に対してY軸方向に傾いた方向となる。
【0067】
したがって、焼成時のセラミック素体111では、容量形成部118に加わる圧力に起因する内部電極112,113を構成する結晶の粒成長の方向が、厚み方向の成分のみならず面内方向の成分を持っている。このため、内部電極112,113では、結晶が粒成長しても、面内方向の連続性が保たれやすい。
【0068】
これにより、積層セラミックコンデンサ10では、セラミック素体111の焼成時において容量形成部118における内部電極112,113が面内方向に不連続になることによる容量の低下が生じにくい。したがって、積層セラミックコンデンサ10では、焼成時に加わる応力による性能低下を抑制可能である。
【0069】
なお、積層セラミックコンデンサ10では、焼成時の引張応力が容量形成部118の中央領域から大きくずれないことが好ましい。このため、焼成時において、サイドマージン部17a,17bから積層体116に加わる圧縮力が、第1領域R1と第2領域R2とで大きく異ならないことが好ましい。
【0070】
このため、積層セラミックコンデンサ10では、第1サイドマージン部17aの第1領域R1の平均厚みが第2サイドマージン部17bの第1領域R1の平均厚みよりも大きく、かつ第2サイドマージン部17bの第2領域R2の平均厚みが第1サイドマージン部17aの第2領域R2の平均厚みよりも大きいことが好ましい。
【0071】
更に、積層セラミックコンデンサ10では、第1サイドマージン部17aの第1領域R1の平均厚みが、第2サイドマージン部17bの第2領域R2の平均厚みと同等であり、かつ第1サイドマージン部17aの第2領域R2の平均厚みが、第2サイドマージン部17bの第1領域R1の平均厚みと同等であることが好ましい。
【0072】
なお、サイドマージン部17a,17bの平均厚みの比較における「同等」とは、第1サイドマージン部17aの平均厚みに対し、第2サイドマージン部17bの平均厚みが±5%以内である場合を示すものとする。
【0073】
(ステップS06:外部電極形成)
ステップS06では、ステップS05で得られたセラミック素体11のX軸方向両端部に外部電極14,15を形成することにより、図1~3に示す積層セラミックコンデンサ10が完成する。ステップS06における外部電極14,15の形成方法は、公知の方法から任意に選択可能である。
【0074】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0075】
例えば、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10では、サイドマージン部117a,117bの平均厚みが上記の構成となっていれよい。このため、積層セラミックコンデンサ10では、積層体16の側面S1,S2及びセラミック素体11の側面s1,s2の形状が上記の構成と異なっていてもよい。
【0076】
また、上記実施形態では積層セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサ10について説明したが、本発明は積層セラミック電子部品全般に適用可能である。このような積層セラミック電子部品としては、例えば、チップバリスタ、チップサーミスタ、積層インダクタなどが挙げられる。
【符号の説明】
【0077】
10…積層セラミックコンデンサ
11…セラミック素体
12,13…内部電極
14,15…外部電極
16…積層体
17a,17b…サイドマージン部
18…容量形成部
19…カバー部
S1,S2…積層体の側面
s1,s2…セラミック素体の側面
R1,R2…領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11