(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】コネクタ及び機械部品
(51)【国際特許分類】
C23C 28/00 20060101AFI20240514BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20240514BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20240514BHJP
C23F 13/02 20060101ALI20240514BHJP
H01R 13/03 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C23C28/00 Z
B32B9/00 A
B32B15/08 D
C23F13/02 B
H01R13/03 D
(21)【出願番号】P 2020010602
(22)【出願日】2020-01-27
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】関 和彦
(72)【発明者】
【氏名】久保 利隆
(72)【発明者】
【氏名】岡田 光博
(72)【発明者】
【氏名】畠山 一翔
(72)【発明者】
【氏名】古賀 健司
(72)【発明者】
【氏名】清水 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】葉 楠
【審査官】隅川 佳星
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-070081(JP,A)
【文献】特開2008-121087(JP,A)
【文献】特開2017-078200(JP,A)
【文献】特表2017-512747(JP,A)
【文献】特開2018-043193(JP,A)
【文献】特開2018-056119(JP,A)
【文献】特開2018-108734(JP,A)
【文献】特開2018-167584(JP,A)
【文献】国際公開第2018/225736(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105489313(CN,A)
【文献】大塚 俊明 Toshiaki Ohtsuka,導電性ポリピロール高分子被覆を用いた鉄鋼材の防食 Corrosion Prevention of Steel by Conducting Polypyrrole Coating,材料とプロセス Vol.22(2009)No.2[CD-ROM] ,第22巻,社団法人日本鉄鋼協会 小島 彰
【文献】Synthetic Metals,2015年02月,Vol. 200,p. 16-23
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 9/00
9/08
15/08
C23C 28/00
C23F 13/02
H01R 13/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材の表面に導電性被覆が形成された金属材料からなる電気接点材料と、前記電気接点材料に接触する電極端子と、を備えるコネクタであって、
前記導電性被覆が
前記金属基材に接して形成された導電性高分子層と
前記導電性高分子層の上に形成され、グラフェン
又は還元型酸化グラフェンのみからなるグラフェン層と
を備え、
前記グラフェン層に対して、該グラフェン層の面積よりも小さな面積で前記電極端子を接触させて、該電極端子と前記金属基材との間に電圧の印加又は通電を行い、
前記グラフェン層の厚みが、前記電極端子の接触面積の100分の1(1/100)以上であることを特徴とする、コネクタ。
【請求項2】
金属基材の表面に導電性被覆が形成された金属材料からなる構造材料と、前記構造材料に接触する電極端子と、を備える機械部品であって、
前記導電性被覆が
前記金属基材に接して形成された導電性高分子層と
前記導電性高分子層の上に形成され、グラフェン
又は還元型酸化グラフェンのみからなるグラフェン層と
を備え、
前記グラフェン層に対して、該グラフェン層の面積よりも小さな面積で前記電極端子を接触させて、該電極端子と前記金属基材との間に電圧の印加又は通電を行い、
前記グラフェン層の厚みが、前記電極端子の接触面積の100分の1(1/100)以上であることを特徴とする、機械部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性被覆が形成された金属材料に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料のほとんどは、その使用環境下で酸素と反応し、表面に酸化物の膜を生成する。金属酸化物には、もとの金属に比べて導電性に劣る(電気抵抗が高い)ものが多いため、酸化物膜の生成により、多くの金属材料は導電性が低下する。このため、金属材料を電気接点等の通電用途に利用する場合には、こうした導電性の低下を抑制するため、貴金属によるめっきや、炭素材料からなる層(特許文献1)等の導電性被覆を表面に形成することが多い。
【0003】
また、土木・建築構造物や機械部品等の構造材料として使用される金属材料においては、使用環境中に存在する酸やアルカリの作用、又はこれらと酸素との相互作用等により腐食が進行し、破壊に至る虞がある。こうした腐食を防止するため、金属材料へのめっき処理や、導電性高分子による表面被覆(特許文献2、非特許文献1)等が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-56119号公報
【文献】特許第4931127号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】大塚,“導電性高分子による鉄鋼材料の防食”,Electrochemistry,2012年3月30日,第79巻,第12号,p.959-963
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような金属材料の酸化ないし腐食を防止するための手段のうち、導電性高分子による表面被覆は、金属材料の不働態皮膜が破壊された場合に、自己修復(Self-healing)作用により不動態被膜を再製できることが報告されている(非特許文献1)。このため、導電性高分子被覆は、金属材料の導電性を保持しつつ、その酸化ないし腐食を防止するものとして、種々の用途への応用が期待されている。
【0007】
しかしながら、導電性高分子は、導電性は有するものの、多くの金属材料に比べれば、その導電率は小さい。このため、金属材料に導電性高分子を被覆した場合には、導電性が低下してしまうことが問題であった。
【0008】
そこで本発明は、高い導電性を保持したまま、耐酸化性及び耐食性を向上させた金属材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前述の目的を達成するための検討の過程で、金属材料の表面に形成された導電性高分子膜上に、さらにグラフェン膜を形成した場合に、膜厚方向の電気抵抗値が、グラフェン膜を有さないものよりも有意に低くなることを見出した。そして、この現象が起こるメカニズムを検証した結果、この現象が、金属材料に通電する際の電気抵抗値の低減に大きく寄与することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の一実施形態は、金属基材の表面に導電性被覆が形成された金属材料であって、前記導電性被覆が、前記金属基材に接して形成された導電性高分子層と、前記導電性高分子層の上に形成されたグラフェン層とを備えることを特徴とする、金属材料である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い導電性を保持したまま、耐酸化性及び耐食性を向上させた金属材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】金属基材上に導電性被覆を形成した場合の電気力線による説明図((a):従来型、(b):本発明)
【
図2】導電性被覆における電流の広がり効果の説明図
【
図3】導電性高分子膜上にグラフェン膜を形成した場合の、グラフェンの膜厚に対する接触抵抗の変化のシミュレーション結果を示すグラフ
【
図4】本発明の一実施形態に係る金属材料の積層構造を示す説明図
【
図5】実施例1に係る金属材料についての、グラフェン膜の膜厚測定結果を示すグラフ
【
図6】実施例1に係る金属材料についての、厚さ方向に流れる電流の測定方法を示す説明図
【
図7】実施例1に係る金属材料についての、厚さ方向に流れる電流の測定結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を、一実施形態に基づいて詳細に説明するが、本発明は該実施形態に限定されるものではない。
【0014】
[グラフェン膜形成による電気抵抗低下のメカニズム]
前述のとおり、本発明者は、金属材料の表面に形成された導電性高分子膜上に、さらにグラフェン膜を形成した場合に、膜厚方向の電気抵抗値が、グラフェン膜を有さないものよりも有意に低くなることを見出した。このメカニズムは以下のように考えられる。
【0015】
従来は、金属材料の表面に導電性高分子等の導電性の膜を形成した場合、導電性膜の厚みに応じた電気抵抗が直列に付加されるものと考えられていた。そして、この導電性の膜の表面と金属材料との間に電圧を印加して電流を流した場合には、
図1(a)の電気力線が示すように、導電性の膜に接触している端子の直下にのみ電流が流れるものと考えられていた。こうした考えによれば、導電性膜の厚みが増すほど、またこれを構成する層の数が増すほど、導電性被覆を含めた金属材料全体の電気抵抗は増加し、同じ電圧を印加した際に流れる電流量が低下することとなる。このことから、導電性高分子による被覆を形成した金属材料に対して、時間及びコストをかけてまで、電気抵抗の増加につながる更なる導電性膜を形成することは行われてこなかったと考えられる。
【0016】
ところが、金属材料を電気接点材料として使用する場合や、金属材料製の構造材料に電気防食を行う場合のように、導電性被覆の表面の一部分のみに電圧を印加する場合には、該被覆が厚さ方向のみならず面内方向にも電気抵抗を有することに起因して、面内方向にも電位差が生じて電流が流れる。このため、
図1(b)に示すように、実際に電流が流れる部分の面積a
effが、端子が導電性被覆に接触している面積aよりも大きくなる現象が起こり、これが金属材料の電気抵抗値(接触抵抗)を低減する方向に作用する。以下、本明細書では、この現象を「電流の広がり効果」と記載することがある。
【0017】
前述した電流の広がり効果は、導電性被覆の表面が、導電性高分子をはじめとする等方的な材料、すなわち面内方向の電気抵抗率ρ
hと厚み方向の電気抵抗率ρ
vとが同程度である材料、で形成されている場合には、
図2(a)に示すように、さほど顕著には表れない。しかし、ρ
hがρ
vよりもかなり小さいグラフェン等の非等方的な材料で導電性被覆の表面が形成されている場合には、
図2(b)に示すように、面内方向に流れる電流量が大きく増加するため、電流の広がり効果により、導電性被覆及びこれを形成した金属材料を流れる電流量が顕著に増加する。なお、
図2における符号(番号)は、後述する実施形態と同様に、10が金属基材を、11が金属酸化物による不動態皮膜を、20が導電性被覆を、21が導電性高分子層を、22がグラフェン層をそれぞれ示している。
【0018】
以上のようなメカニズムにより、導電性高分子膜上に、さらにグラフェン膜を形成した場合には、膜厚方向の電気抵抗値が低くなると考えられる。
【0019】
なお、グラフェン膜のρhがρvに比べて小さいことは、グラフェンの構造上の特徴、すなわち炭素原子とその結合による六角形で構成される平面構造を有し、炭素原子同士がsp2結合していること、に起因すると言われている。
【0020】
前述したメカニズムによる電気抵抗値の減少の程度は、以下のように見積もることができる。
【0021】
導電性高分子等の等方的な伝導体の接触抵抗Rbは、ホルムの式により、下記式(1)で表される。
【0022】
【0023】
ただし、式中のaは端子との接触半径を、σbは等方的な伝導体の導電率をそれぞれ意味する。
他方、グラフェン等の非等方伝導体の接触抵抗Rは、下記式(2)で表される。
【0024】
【0025】
ただし、σhは面内方向の導電率、σvは面に垂直な方向の導電率をそれぞれ意味する。
【0026】
接触抵抗は、接触面に垂直な方向の電流成分により定義されていることを考慮すると、前記式(2)は下記式(3)のように書き換えられる。ただし、式中のaeffは、下記式(4)で定義される、非等方性伝導体の伝導率の異方性を考慮した、該伝導体表面での実効的な接触面積である。
【0027】
【0028】
等方的な伝導体の上に非等方性伝導体を形成した場合の、非等方伝導体上面における接触抵抗は、等方的な伝導体の上面(非等方性伝導体の下面)の接触半径をaeffbとすると、下記式(5)で表される。
【0029】
【0030】
前記式(5)の値が前記式(1)の値よりも小さくなる場合、非等方性伝導体で覆った方が、等方性伝導体単独で用いるよりも接触抵抗が低くなるといえる。したがって、非等方性伝導体で覆うと接触抵抗が低くなる条件は、下記式(6)となる。
【0031】
【0032】
ここで、式中のaeffbは、等方的な伝導体と非等方伝導体との界面での有効な接触半径であるため、求めることはできない。しかし、非等方性伝導体の下面では、その上面よりも電気力線が広がるため、接触半径も大きくなり、aeffb>aeffが成立する。このため、下記式(7)が成立するならば、前記式(6)も成立する。下記式(7)を整理すると下記式(8)が得られる。
【0033】
【0034】
今考えている非等方性伝導体では、σv/σh≪1であるため、前記式(8)から下記式(9)が得られる。
【0035】
【0036】
非等方性伝導体としてグラフェンを、等方性伝導体としてポリアニリンをそれぞれ用いる場合、グラフェンのシート抵抗を500Ω、グラフェンの層間距離を0.3nm、グラフェンの面に垂直方向の抵抗率を3×10
4μΩcm、ポリアニリンの導電率σ
bを10S/cmとすると、前記式(9)の右辺は1.5×10
3S/cmとなる。したがって、前記式(9)は成立し、ポリアニリン膜上にグラフェン膜を形成して複合膜とした方が、接触抵抗は低くなる。この場合に、グラフェン膜の膜厚をhとして、接触半径aに対する膜厚hの比と、ポリアニリン単独の接触抵抗R
bに対する複合膜の接触抵抗Rの比との関係をシミュレーションした結果を
図3に示す。この結果から、グラフェン膜の膜厚hが接触半径aの1/100より大きければ、接触抵抗Rは、ポリアニリン単独の接触抵抗R
bに比べて1/100程度に低減することが判る。なお、グラフェン膜の膜厚が十分に厚い極限では、R/R
b≒0.0067となり、
図3でも、h/aの増加に伴い、この値に近づいている。
【0037】
[導電性被覆が形成された金属材料]
前述のメカニズムを利用した本発明の一実施形態(以下、単に「本実施形態」と記載する。)に係る金属材料は、その積層構造の一例を
図4に示すように、金属基材10の表面に導電性被覆20が形成された金属材料1であって、前記導電性被覆20が、前記金属基材10に接して形成された導電性高分子層21と、前記導電性高分子層21の上に形成されたグラフェン層22とを備えることを特徴とする。
【0038】
本実施形態で使用する金属基材10は特に限定されず、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、スズ若しくは鉄又はこれらを含む合金等が使用できる。また、鉄系の金属として、炭素鋼やステンレス鋼等の鋼材も使用できる。さらに、表面に金属酸化物による不動態皮膜11が形成されたものであってもよく(
図4参照)、メッキや蒸着等により、表面に他の金属の層が形成されたものであってもよい。
金属基材10の形状や寸法は、用途に応じて適宜決定すればよい。
【0039】
本実施形態に係る導電性被覆20は、金属基材10の表面の一部のみを覆うように形成されてもよく、該表面の全体を覆うように形成されてもよい。金属基材10の表面の一部のみに導電性被覆20を形成する態様としては、金属材料1を、他の部材と共に組み立てて構造物等を製造する際に、該構造物等の表面に露出する部分にのみ前記導電性被覆20を形成するものが例示される。
【0040】
本実施形態において、導電性被覆20を構成する導電性高分子層21は、導電性高分子で形成される。使用する導電性高分子は、導電性を有する高分子化合物であれば特に限定されず、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリフェニレンビニレン、ポリフェニレン、ポリアセチレン、ポリキノキサリン、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾチアジアゾールや、これらに含まれる導電性骨格を組み合わせたもの等が挙げられる。これらの中でも、金属基材10の自己修復(Self-healing)機能に優れる点で、ポリピロール、ポリチオフェン又はポリアニリンが好ましい。
【0041】
導電性高分子は、抵抗率が小さい(導電率が大きい)ものを使用することが好ましい。一例として、体積抵抗率が1×10-1Ω・cm以下のものを使用することができ、1×10-2Ω・cm以下のものがより好ましい。
【0042】
導電性高分子層21の厚みは特に限定されず、一例として1nm~100μmとすることができる。この厚みは、製膜の容易性の点からは10nm以上とすることが好ましく、電気抵抗の低減及び導電性高分子の使用量の低減(経済性)の点からは、50μm以下とすることが好ましい。
【0043】
金属基材10上に導電性高分子層21を形成する方法としては、基材上に高分子を被覆するために使用される種々の方法が適用できる。一例として、スクリーン印刷法、ディップコート法、ロールコート法、噴霧法、カーテンフローコート法、バーコート法、ドクターブレード法、及び刷毛塗布法等が挙げられる。
【0044】
本実施形態では、導電性高分子層21が金属基材10の表面に接して形成されることで、金属基材10の自己修復(Self-healing)機能を発現させることができる。
【0045】
本実施形態では、導電性被覆20が、前述の導電性高分子層21の上に、さらにグラフェン層22を備える。このグラフェン層22は、導電性高分子層21の一部のみを覆うように形成されてもよいが、前述した電流の広がり効果を十分に発揮させる点からは、導電性高分子層21の全面を覆うように形成されることが好ましい。
【0046】
グラフェン層22の厚みは限定されず、例えば0.335nm~1.0mmとすることができる。外来の劣化因子(酸素、水分等)から導電性高分子層21及び金属基材10を保護する点からは、グラフェン層22の厚みは1nm以上であることが好ましく、3nm以上であることがより好ましい。他方、電気抵抗の増加を抑制する点からは、グラフェン層22の厚みは100μm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
【0047】
導電性高分子層21上にグラフェン膜22を形成する方法は限定されず、例えば、CVD法等の気相法や、酸化グラフェンを含む液を塗布・乾燥後に還元処理を行う方法等が採用できる。中でも、大掛かりな装置を必要とせず、種々の膜厚のグラフェン膜が簡便に得られる点で、酸化グラフェンの還元処理による方法が好ましい。また、この方法は、導電性に優れる還元型酸化グラフェン(Reduced Graphene Oxide(rGO))が得られる点でも好ましいものである。
【0048】
本実施形態の導電性被覆20によれば、金属基材10の表面に接するように導電性高分子層21が設けられることで、金属基材10の自己修復機能を発現させつつ、グラフェン層22が奏する電流の広がり効果によって、電気抵抗を大幅に低減することができる。
【0049】
本実施形態に係る金属材料は、最表面に設けられたグラフェン層22に対して、該グラフェン層22の面積よりも小さな面積で電極端子を接触させて、該電極端子と金属基材10との間に電圧の印加又は通電を行う用途に好適に使用される。こうした用途としては、コネクタの電気接点材料、又は電気防食のために常時若しくは必要に応じて電圧の印加ないし通電が行われる、土木・建築構造物や機械部品等の構造材料が例示される。
【実施例】
【0050】
以下、実施例に基づいて本発明の各実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0051】
[実施例1]
まず、金属基材として銅合金(NB109)製の端子材(20×30×0.25mm)を準備した。次いで、導電性高分子としてポリアニリン(PA)(出光興産社製)をスピンコート法により被覆して、金属基材の片側の面全体に厚さ3μmの導電性高分子膜を形成した。次いで、次いで、得られた導電性高分子膜上に、電気泳動堆積(EPD)法にて酸化グラフェン(GO)を成膜した。成膜条件は表1のとおりである。次いで、生成したGO膜の約半分の上に粘着テープを貼り付けた後剥離して、GO膜の約半分を除去した。この操作は、最終的に形成されたグラフェン膜の膜厚の測定及びグラフェン膜の有無による電流値の比較を行うためのものである。最後に、導電性高分子膜及びGO膜を形成した銅基材を、Ar雰囲気下において、200℃で30分間熱処理して、GOを還元型酸化グラフェン(Reduced Graphene Oxide(rGO))に熱還元し、実施例1に係る金属材料を得た。
【0052】
【0053】
実施例1に係る電気接点材料について、グラフェン膜の膜厚を、原子間力顕微鏡(AFM)(Park Systems社製、NX10型)を用いて測定した。結果を
図5に示す。この結果から、銅基材上に約4nmの厚みのrGO膜が形成されたことが判る。
【0054】
実施例1に係る電気接点材料について、一定電圧の下で厚さ方向に流れる電流の大きさを、Conductive AFMを用いて測定した。測定は、
図6に示すように、rGOが成膜されていない銅基板部からrGO膜部分へと向かう線分に沿って、測定位置を変更しながら行った。印加電圧は1Vとした。測定結果を
図7に示す。この結果から、rGO膜部分の電流値は、ポリアニリン膜部分の電流値より大きくなることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、高い導電性を保持したまま、耐酸化性及び耐食性を向上させた金属材料を提供することができる。このため、本発明は、電気接点や電極等の通電用途、又は腐食環境下で使用され、常時若しくは必要に応じて電気防食のために電圧の印加ないし通電が行われる土木・建築構造物や機械部品等の構造材料用途に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0056】
1 金属材料
10 金属基材
11 (金属酸化物による)不動態皮膜
20 導電性被覆
21 導電性高分子層
22 グラフェン層