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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/13 20060101AFI20240514BHJP
   C08G 63/00 20060101ALI20240514BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
C08G63/13
C08G63/00
G02B1/04
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020055430
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021155516
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】金田 将平
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-542506(JP,A)
【文献】特開2009-198711(JP,A)
【文献】特開平07-233249(JP,A)
【文献】特表平07-508772(JP,A)
【文献】特開平02-298514(JP,A)
【文献】特開昭49-072348(JP,A)
【文献】特開2013-064117(JP,A)
【文献】特開2016-069643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/13
C08G 63/00
G02B 1/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるビスアリールエチレンジカルボン酸成分を含むジカルボン酸成分を重合成分とする熱可塑性樹脂。
【化1】
(式中、
環Z1aおよび環Z1bは、ベンゼン環を示し、
m1およびm2は、いずれか一方が2で他方が0であり
1aおよびR1bは、互いに同一でまたは異なって、置換基を示し、n1およびn2は、互いに同一でまたは異なって、0以上の整数を示し、
2aおよびR2bは、互いに同一でまたは異なって、水素原子またはアルキル基を示す)
【請求項2】
前記式(1)において、R 2a およびR2bが水素原子である請求項1記載の熱可塑性樹脂。
【請求項3】
前記ジカルボン酸成分が、フルオレン骨格を有するフルオレンジカルボン酸成分をさらに含む請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項4】
前記フルオレンジカルボン酸成分が、下記式(2)で表されるジカルボン酸成分である請求項3記載の熱可塑性樹脂。
【化2】
(式中、
1aおよびA1bは、互いに同一でまたは異なって、置換基を有していてもよい2価の炭化水素基を示し、
は置換基を示し、kは0~8の整数を示す)
【請求項5】
前記ビスアリールエチレンジカルボン酸成分と、前記フルオレンジカルボン酸成分とのモル比が、前者/後者=90/10~50/50である請求項3または4記載の熱可塑性樹脂。
【請求項6】
前記ジカルボン酸成分とジオール成分とを重合成分とするポリエステル系樹脂である請求項1~5のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項7】
前記ジオール成分が、フルオレン骨格を有するフルオレンジオールを含む請求項6記載の熱可塑性樹脂。
【請求項8】
前記フルオレンジオール成分が、下記式(3)で表されるフルオレンジオールである請求項7記載の熱可塑性樹脂。
【化3】
(式中、
環Z2aおよび環Z2bは、互いに同一でまたは異なって、アレーン環を示し、
2aおよびA2bは、互いに同一でまたは異なって、直鎖状または分岐鎖状アルキレン基を示し、s1およびs2は、互いに同一でまたは異なって、0以上の整数を示し、
4aはおよびR4bは、互いに同一でまたは異なって、置換基を示し、t1およびt2は、互いに同一でまたは異なって、0以上の整数を示し、
は置換基を示し、uは0~8の整数を示す)
【請求項9】
前記式(3)において、環Z2aおよび環Z2bがベンゼン環であり、かつs1およびs2が1以上の整数である請求項8記載の熱可塑性樹脂。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂を含む成形体。
【請求項11】
光学レンズである請求項10記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率を上げ過ぎず、かつアッベ数が低減された熱可塑性樹脂およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオレン骨格を有するポリエステル樹脂は、高屈折率、低アッベ数、高耐熱性、低複屈折といった特徴を有するため、スマートフォンなどの携帯型通信機器に含まれる撮像レンズ(光学レンズ)などに利用されている。
【0003】
近年、前記通信機器の薄型化や、多機能化に伴って、部品や素子を搭載するためのスペース確保のために、撮像装置に搭載される撮像レンズのさらなる小型化が求められている。また、電荷結合素子を用いたセンサー(CCDセンサー)、相補型金属酸化物半導体を用いたセンサー(CMOSセンサー)などの撮像素子の高画素化に伴い、撮像レンズのさらなる高解像度化も要求されている。しかも、撮像レンズは製造コスト等の制約も大きい。このような状況の下、小型化、結像性能の向上、および色収差等の諸収差の補正に対応するため、光学設計を駆使して、レンズの構成、形状および材料の選択に種々の工夫がなされている。
【0004】
しかし、撮像レンズに使用できる樹脂材料は限られているため、有効性の高い設計や多様な設計には限界がある。また、撮像レンズは、屈折率やアッベ数の異なる複数のレンズで構成されたユニットであることから、様々な組み合わせを提供するためにも、屈折率やアッベ数のバリエーションに富んだ樹脂材料が求められている。
【0005】
特開2013-64117号公報(特許文献1)には、光学フィルム、光学レンズなどの光学用成形体に利用できるポリエステル樹脂として、フルオレン骨格を有するジカルボン酸を用いたポリエステル樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-64117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載のポリエステル樹脂は複屈折の程度が低いものの、アッベ数を低く調整しようとすると樹脂中への芳香環の導入が不可欠となり、それに伴って複屈折が大きくなるおそれがある。そのため、屈折率を適切な範囲に設定しながら、アッベ数と複屈折とをいずれも低く抑えることについて、検討の余地がある。
【0008】
また、撮像レンズ等のレンズの設計において、屈折率は必ずしも高いほど好ましいわけではなく、レンズの組合せにおいて適度に調整されていることが好ましい場合がある。これに対し、特許文献1~3のポリエステル樹脂では、屈折率を上げ過ぎることなく、低アッベ数を実現するのは困難であった。
【0009】
従って、本発明の目的は、屈折率を上げ過ぎず、アッベ数が低減された熱可塑性樹脂およびその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、1,2-ジアリールエチレン骨格を有するジカルボン酸を重合成分とすることにより、熱可塑性樹脂の屈折率を上げ過ぎず、アッベ数を低減できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の熱可塑性樹脂は、下記式(1)で表されるビスアリールエチレンジカルボン酸成分を含むジカルボン酸成分を重合成分とする。
【0012】
【化1】
【0013】
(式中、
環Z1aおよび環Z1bは、互いに同一でまたは異なって、アレーン環を示し、
m1およびm2は、いずれか一方が2で他方が0であるか、またはいずれも1であり、
1aおよびR1bは、互いに同一でまたは異なって、置換基を示し、n1およびn2は、互いに同一でまたは異なって、0以上の整数を示し、
2aおよびR2bは、互いに同一でまたは異なって、水素原子またはアルキル基を示す)。
【0014】
前記式(1)において、環Z1aおよび環Z1bはベンゼン環であってもよい。R2aおよびR2bは水素原子であってもよい。
【0015】
前記ジカルボン酸成分は、フルオレン骨格を有するフルオレンジカルボン酸成分をさらに含んでいてもよい。前記フルオレンジカルボン酸成分は、下記式(2)で表されるジカルボン酸成分であってもよい。
【0016】
【化2】
【0017】
(式中、
1aおよびA1bは、互いに同一でまたは異なって、置換基を有していてもよい2価の炭化水素基を示し、
は置換基を示し、kは0~8の整数を示す)。
【0018】
前記ビスアリールエチレンジカルボン酸成分と、前記フルオレンジカルボン酸成分とのモル比は、前者/後者=90/10~50/50であってもよい。前記熱可塑性樹脂は、前記ジカルボン酸成分とジオール成分とを重合成分とするポリエステル系樹脂であってもよい。前記ジオール成分は、フルオレン骨格を有するフルオレンジオールを含んでいてもよい。前記フルオレンジオール成分は、下記式(3)で表されるフルオレンジオールであってもよい。
【0019】
【化3】
【0020】
(式中、
環Z2aおよび環Z2bは、互いに同一でまたは異なって、アレーン環を示し、
2aおよびA2bは、互いに同一でまたは異なって、直鎖状または分岐鎖状アルキレン基を示し、s1およびs2は、互いに同一でまたは異なって、0以上の整数を示し、
4aおよびR4bは、互いに同一でまたは異なって、置換基を示し、t1およびt2は、互いに同一でまたは異なって、0以上の整数を示し、
は置換基を示し、uは0~8の整数を示す)。
【0021】
前記式(3)において、環Z2aおよび環Z2bがベンゼン環であり、かつs1およびs2が1以上の整数であってもよい。
【0022】
本発明には、前記熱可塑性樹脂を含む成形体も含まれる。この成形体は、光学レンズであってもよい。
【0023】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、置換基の炭素原子の数をC、C、C10などで示すことがある。例えば、「Cアルキル基」は炭素数が1のアルキル基を意味し、「C6-10アリール基」は炭素数が6~10のアリール基を意味する。
【0024】
また、本明細書および特許請求の範囲では、いずれのジカルボン酸成分においても、ジカルボン酸成分は、ジカルボン酸およびその誘導体を意味する。すなわち、例えば、前記式(1)で表されるビスアリールエチレンジカルボン酸成分では、前記式(1)で表されるジカルボン酸に加えて、その誘導体を含む。この誘導体は、重合可能な誘導体であればよく、熱可塑性樹脂がポリエステル系樹脂である場合は、エステル形成性誘導体である。前記エステル形成性誘導体としては、アルキルエステルなどのエステル、酸クロライドなどの酸ハライド、酸無水物などが挙げられる。アルキルエステルとしては、メチルエステル、エチルエステルなどの低級アルキルエステルが好ましく、C1-4アルキルエステルがさらに好ましく、C1-2アルキルエステルが特に好ましい。エステル形成性誘導体は、モノエステル(ハーフエステル)またはジエステルであってもよい。ジカルボン酸成分は、ポリエステル系樹脂の製造方法に応じて選択できるが、ポリエステル系樹脂の場合、溶融重合法では、ジカルボン酸エステルを使用する場合が多い。
【0025】
さらに、本明細書および特許請求の範囲において、熱可塑性樹脂中の構成単位の割合や構成単位同士の比率は、重合前の仕込み比(原料比)ではなく、熱可塑性樹脂中に導入された後の構成単位における割合や比率を意味する。
【発明の効果】
【0026】
本発明では、1,2-ジアリールエチレン骨格を有するジカルボン酸を重合成分とするため、熱可塑性樹脂の屈折率を上げ過ぎず、アッベ数を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の熱可塑性樹脂は、前記式(1)で表されるビスアリールエチレンジカルボン酸成分を含んでいればよい。熱可塑性樹脂としては、縮合系熱可塑性樹脂、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、透明性や取り扱い性などに優れる点から、ポリエステル系樹脂が好ましい。
【0028】
ポリエステル系樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、ポリエステルアミド樹脂、ポリエステルエーテル樹脂、ポリエステル型ウレタン系樹脂などが挙げられる。これらのポリエステル系樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、ポリエステル樹脂が好ましい。
【0029】
[ビスアリールエチレンジカルボン酸成分]
ビスアリールエチレンジカルボン酸成分は、前記式(1)で表される。前記式(1)において、環Z1aおよび環Z1bで表される芳香族炭化水素環(またはアレーン環)としては、ベンゼン環などの単環式芳香族炭化水素環(単環式アレーン環)、多環式芳香族炭化水素環(多環式アレーン環)に大別される。多環式芳香族炭化水素環としては、縮合多環式芳香族炭化水素環(縮合多環式アレーン環)、環集合芳香族炭化水素環(環集合アレーン環)などが挙げられる。
【0030】
縮合多環式アレーン環としては、縮合二環式アレーン環、縮合三環式アレーン環などの縮合二ないし四環式アレーン環などが挙げられる。縮合二環式アレーン環としては、ナフタレン環などの縮合二環式C10-16アレーン環などが挙げられる。縮合三環式アレーン環としては、アントラセン環、フェナントレン環などが挙げられる。
【0031】
環集合アレーン環としては、ビC6-12アレーン環などのビアレーン環、テルC6-12アレーン環などのテルアレーン環などが挙げられる。ビC6-12アレーン環としては、ビフェニル環;ビナフチル環;1-フェニルナフタレン環、2-フェニルナフタレン環などのフェニルナフタレン環などが挙げられる。テルC6-12アレーン環としては、テルフェニレン環などが挙げられる。
【0032】
これらの芳香族炭化水素環のうち、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環などのC6-12アレーン環が好ましく、低屈折率と低アッベ数とを両立できる点から、C6-10アレーン環がさらに好ましく、ベンゼン環が最も好ましい。環Z1aおよび環Z1bで表される芳香族炭化水素環がベンゼン環であることは、熱可塑性樹脂の着色を抑える点からも好ましい。環Z1aと環Z1bとは、異なる環であってもよいが、通常、同一の環である。
【0033】
前記式(1)において、カルボキシル基の置換数m1およびm2は、合計が2であり、m1およびm2がいずれも1であってもよく(環Z1aおよび環Z1bのそれぞれにカルボキシル基が置換)、m1およびm2のいずれかが2であってもよい(環Z1aおよび環Z1bのいずれかの環のみにカルボキシル基が置換)。アッベ数の低減効果が大きい点から、m1およびm2がいずれも1である場合であってもよいが、複屈折を低減できる点から、m1またはm2が2である場合(m1およびm2のいずれか一方が2で他方が0ある場合)が好ましい。
【0034】
なお、本明細書および特許請求の範囲では、前述のように、ジカルボン酸成分がジカルボン酸の誘導体である場合、式中のカルボキシル基はアルキルエステル基などの誘導体基を形成する。
【0035】
カルボキシル基の置換位置は、特に制限されないが、複屈折を低減させる観点から、前述のように、環Z1aおよび環Z1bのいずれかの環のみに置換するのが好ましい。環Z1aおよび環Z1bがベンゼン環であり、かつm1およびm2が1である場合、カルボキシル基の置換位置は、エチレン骨格の置換位置である1位および1’位に対して4位および4’位が好ましく、環Z1aおよび環Z1bがベンゼン環であり、かつm1またはm2が2である場合、カルボキシル基の置換位置は、エチレン骨格の置換位置である1位に対して3,5位が好ましい。これらのうち、複屈折を低減できる点から、環Z1aおよび環Z1bがベンゼン環であり、m1またはm2が2であり、カルボキシル基の置換位置は、ビスアリールエチレンジカルボン酸成分の重合性(ジオール成分との反応性など)を良好なものにするという観点から、ベンゼン環の1位に対して3,5位であるジカルボン酸成分(3,5体)が特に好ましい。
【0036】
m1またはm2が2であるジカルボン酸成分の割合は、ビスアリールエチレンジカルボン酸成分中50モル%以上であってもよく、複屈折を低減できる点から、好ましくは70モル%、さらに好ましくは80モル%、より好ましくは90モル%以上、最も好ましくは100モル%である。この割合は、ビスアリールエチレンジカルボン酸成分中における前記3,5体の割合であってもよい。
【0037】
前記式(1)において、R1aおよびR1bで表される置換基としては、重合に関与しない非反応性の置換基であれば特に限定されないが、ハロゲン原子、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アシル基、ニトロ基、シアノ基などが挙げられる。
【0038】
前記ハロゲン原子には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が含まれる。炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などが挙げられる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-10アルキル基、好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基、さらに好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基などが挙げられる。シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC5-10シクロアルキル基などが挙げられる。アリール基としては、フェニル基、アルキルフェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基などのC6-12アリール基などが挙げられる。アルキルフェニル基としては、メチルフェニル基(トリル基)、ジメチルフェニル基(キシリル基)などが挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基などが挙げられる。
【0039】
アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、t-ブトキシ基などの直鎖状または分岐鎖状C1-10アルコキシ基などが挙げられる。シクロアルキルオキシ基としては、シクロヘキシルオキシ基などのC5-10シクロアルキルオキシ基などが挙げられる。アリールオキシ基としては、フェノキシ基などのC6-10アリールオキシ基などが挙げられる。アラルキルオキシ基としては、ベンジルオキシ基などのC6-10アリール-C1-4アルキルオキシ基などが挙げられる。アルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、n-ブチルチオ基、t-ブチルチオ基などのC1-10アルキルチオ基などが挙げられる。シクロアルキルチオ基としては、シクロヘキシルチオ基などのC5-10シクロアルキルチオ基などが挙げられる。アリールチオ基としては、チオフェノキシ基などのC6-10アリールチオ基などが挙げられる。アラルキルチオ基としては、ベンジルチオ基などのC6-10アリール-C1-4アルキルチオ基などが例示できる。アシル基としては、アセチル基などのC1-6アシル基などが挙げられる。
【0040】
これらの置換基のうち、代表的には、ハロゲン原子;アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基などの炭化水素基;アルコキシ基;アシル基;ニトロ基;シアノ基;置換アミノ基などが挙げられる。好ましいR1aおよびR1bとしては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基などが挙げられ、アルキル基としては、メチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基などが挙げられ、シクロアルキル基としては、シクロヘキシル基などのC5-8シクロアルキル基などが挙げられ、アリール基としては、フェニル基などのC6-14アリール基などが挙げられ、アルコキシ基としては、メトキシ基などの直鎖状または分岐鎖状C1-4アルコキシ基などが挙げられる。特に、アルキル基として、メチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基が挙げられる。置換基R1aと置換基R1bとは、異なる置換基であってもよいが、通常、同一の置換基である。
【0041】
1aおよびR1bの置換数n1およびn2は、0以上の整数であればよく、環Z1aおよび環Z1bの種類に応じて適宜選択でき、それぞれ、例えば0~8の整数であってもよく、好ましい置換数n1およびn2は、以下段階的に、0~4の整数、0~3の整数、0~2の整数、0または1であり、0が最も好ましい。置換数n1とn2とは、異なる置換数であってもよいが、通常、同一の置換数である。また、置換数n1およびn2が2以上である場合、2以上のR1aまたはR1bの種類は、同一または異なっていてもよい。特に、n1およびn2が1である場合、環Z1aおよび環Z1bがベンゼン環、ナフタレン環またはビフェニル環、R1aおよびR1bがメチル基であるのが好ましい。また、R1aおよびR1bの置換位置は特に制限されず、環Z1aおよび環Z1bと、カルボキシル基およびエチレン骨格との結合位置以外の位置に置換していればよい。
【0042】
前記式(1)において、R2aおよびR2bで表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-10アルキル基などが挙げられる。アルキル基としては、直鎖状C1-4アルキル基が好ましく、C1-2アルキル基がさらに好ましく、メチル基が最も好ましい。
【0043】
2aとR2bとは、異なる置換基であってもよいが、同一の置換基であってもよい。異なる置換基は、水素原子とアルキル基との組み合わせであってもよく、異なるアルキル基同士の組み合わせであってもよい。R2aおよびR2bとしては、水素原子、メチル基が好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0044】
前記式(1)で表されるビスアリールエチレンジカルボン酸成分の幾何異性は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂の光学特性の点から、トランス体が好ましい。ビスアリールエチレンジカルボン酸成分中のトランス体の割合は、50モル%以上であってもよく、好ましくは70モル%、さらに好ましくは80モル%、より好ましくは90モル%以上、最も好ましくは100モル%である。なお、トランス体の割合は、モノマーにおける割合ではなく、熱可塑性樹脂中の構成単位における割合である。
【0045】
前記式(1)で表されるビスアリールエチレンジカルボン酸成分の割合は、全ジカルボン酸成分中1モル%以上であってもよく、例えば1~99モル%、好ましくは5~95モル%、さらに好ましくは10~90モル%、最も好ましくは20~90モル%である。ビスアリールエチレンジカルボン酸成分の割合が少なすぎると、アッベ数が大きくなる虞がある。
【0046】
前記式(1)で表される代表的なビスアリールエチレンジカルボン酸成分としては、環Z1aおよび環Z1bがベンゼン環であり、m1またはm2が2である化合物、例えば、3,5-スチルベンジカルボン酸;環Z1aおよび環Z1bがベンゼン環であり、m1およびm2が1である化合物、例えば、4,4’-スチルベンジカルボン酸などが挙げられる。
【0047】
前記式(1)で表されるビスアリールエチレンジカルボン酸成分は、市販品を利用してもよく、慣用の方法で合成してもよい。前記3,5体の場合、例えば、イソフタル酸をハロゲン化した後、スチレンと反応させることにより合成してもよい。また、ビスアリールエチレンジカルボン酸成分は、その合成後における触媒の除去を丁寧に行うことで、重合後の樹脂の着色を抑えることができる。
【0048】
[フルオレンジカルボン酸成分]
ジカルボン酸成分は、前記ビスアリールエチレンジカルボン酸成分に加えて、フルオレン骨格を有するフルオレンジカルボン酸成分をさらに含んでいてもよい。前記ビスアリールエチレンジカルボン酸成分とフルオレンジカルボン酸成分とを組み合わせることにより、耐熱性を向上できるとともに、屈折率を上げ過ぎず、アッベ数および複屈折を低減できる。
【0049】
フルオレンジカルボン酸成分は、フルオレン骨格を有していればよく、フルオレン骨格を構成する2つのベンゼン環に2つのカルボキシル基含有基が置換した化合物、例えば、2,7-ジカルボキシフルオレン、9-(1,2-ジカルボキシエチル)フルオレン、9-(2,3-ジカルボキシプロピル)フルオレンなどのフルオレンジカルボン酸などであってもよいが、屈折率を上げ過ぎず、複屈折も低減し易い点から、フルオレンの9-位にカルボキシル基含有基が置換した化合物、例えば、前記式(2)で表されるジカルボン酸成分が好ましい。
【0050】
前記式(2)において、A1a、A1bで表される2価の炭化水素基としては、直鎖状または分岐鎖状アルキレン基、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、1,2-ブタンジイル基、2-メチルプロパン-1,3-ジイル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-8アルキレン基が挙げられる。これらのうち、直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキレン基が好ましく、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、2-メチルプロパン-1,3-ジイル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキレン基が好ましく、エチレン基などの直鎖状または分岐鎖状C1-3アルキレン基が最も好ましい。
【0051】
炭化水素基の置換基としては、フェニル基などのアリール基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基などが挙げられる。置換基を有する炭化水素基A1a、A1bとしては、1-フェニルエチレン基、1-フェニルプロパン-1,2-ジイル基などが挙げられる。
【0052】
基A1aおよび基A1bは、直鎖状または分岐鎖状C2-4アルキレン基である場合が多く、エチレン基、プロピレン基などの直鎖状また分岐鎖状C2-3アルキレン基が好ましく、エチレン基が最も好ましい。なお、基A1aと基A1bとは、互いに異なっていてもよいが、通常、同一である。
【0053】
前記式(2)において、Rで表される置換基としては、アルキル基やアリール基などの炭化水素基、シアノ基、ハロゲン原子などが挙げられる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基などが挙げられる。アリール基としては、フェニル基などのC6-10アリール基などが挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などが挙げられる。これらの置換基は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0054】
これらの置換基のうち、アルキル基、シアノ基、ハロゲン原子が好ましく、直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基が特に好ましい。さらに、直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基の中でも、直鎖状または分岐鎖状C1-3アルキル基が好ましく、メチル基などのC1-2アルキル基が特に好ましい。
【0055】
の置換数kは、0~8の整数であり、好ましい範囲としては、以下段階的に、0~6の整数、0~4の整数、0~2の整数であり、0が最も好ましい。なお、kが2以上の場合、それぞれのRの種類は、互いに同一または異なっていてもよい。また、kが2以上である場合、同一のまたは異なるベンゼン環に置換する2以上のRの種類は、互いに同一または異なっていてもよい。また、Rの置換位置は特に制限されず、例えば、フルオレン環の2位ないし7位のいずれであってもよく、通常、2位、3位および7位のいずれかである。
【0056】
前記式(2)で表される代表的なジカルボン酸成分としては、A1aおよびA1bがC2-6アルキレン基である化合物、例えば、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)フルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC2-6アルキル)フルオレンおよびそのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0057】
これらのフルオレンジカルボン酸成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらフルオレンジカルボン酸成分のうち、9,9-ビス(カルボキシC1-4アルキル)フルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシアルキル)フルオレンおよびそのエステル形成性誘導体が好ましい。
【0058】
ビスアリールエチレンジカルボン酸成分とフルオレンジカルボン酸成分とを組み合わせる場合、両者のモル比は、熱可塑性樹脂の種類に応じて、前者/後者=99/1~1/99程度の範囲から選択でき、例えば95/5~5/95、好ましくは90/10~10/90、さらに好ましくは80/20~20/80である。ビスアリールエチレンジカルボン酸成分の割合が少なすぎると、アッベ数が大きくなる虞があり、逆に多すぎると、複屈折が大きくなる虞がある。
【0059】
熱可塑性樹脂がポリエステル系樹脂であり、ジオール成分が前記式(3)において、環Z1aおよび環Z1bがベンゼン環のジオール成分である場合、ビスアリールエチレンジカルボン酸成分とフルオレンジカルボン酸成分とのモル比は、前者/後者=99/1~10/90程度の範囲から選択でき、例えば95/5~30/70、好ましくは90/10~50/50、さらに好ましくは80/20~60/40、最も好ましくは75/25~65/35である。
【0060】
ビスアリールエチレンジカルボン酸成分および前記フルオレンジカルボン酸成分の合計割合は、全ジカルボン酸成分中50モル%以上であってもよく、好ましくは70モル%、さらに好ましくは80モル%、より好ましくは90モル%以上、最も好ましくは100モル%である。両ジカルボン酸成分の合計割合が少なすぎると、光学特性および耐熱性が低下する虞がある。
【0061】
[他のジカルボン酸成分]
ジカルボン酸成分は、前記ビスアリールエチレンジカルボン酸成分および前記フルオレンジカルボン酸成分に加えて、他のジカルボン酸成分をさらに含んでいてもよい。他のジカルボン酸成分には、脂肪族ジカルボン酸成分、脂環族ジカルボン酸成分、芳香族ジカルボン酸が含まれる。
【0062】
脂肪族ジカルボン酸成分としては、アルカンジカルボン酸、不飽和脂肪族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体などが挙げられる。アルカンジカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、アジピン酸などのC1-20アルカン-ジカルボン酸などが挙げられる。不飽和脂肪族ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸などのC2-10アルケン-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0063】
脂環族ジカルボン酸成分としては、シクロアルカンジカルボン酸、架橋環式シクロアルカンジカルボン酸、シクロアルケンジカルボン酸、架橋環式シクロアルケンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体などが挙げられる。シクロアルカンジカルボン酸としては、シクロヘキサンジカルボン酸などのC4-12シクロアルカン-ジカルボン酸などが挙げられる。架橋環式シクロアルカンジカルボン酸としては、ノルボルナンジカルボン酸などの(ビまたはトリ)シクロC7-10アルカン-ジカルボン酸などが挙げられる。シクロアルケンジカルボン酸としては、シクロペンテンジカルボン酸などのC5-10シクロアルケン-ジカルボン酸などが挙げられる。架橋環式シクロアルケンジカルボン酸としては、ノルボルネンジカルボン酸などの(ビまたはトリ)シクロC7-10アルケン-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0064】
芳香族ジカルボン酸成分は、前記ビスアリールエチレンジカルボン酸成分および前記フルオレンジカルボン酸成分以外の芳香族ジカルボン酸成分である。芳香族ジカルボン酸成分としては、単環式芳香族ジカルボン酸、多環式芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体などが挙げられる。単環式芳香族ジカルボン酸成分としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などのベンゼンジカルボン酸;5-メチルイソフタル酸などのC1-4アルキル-ベンゼンジカルボン酸などが挙げられる。多環式アレーンジカルボン酸類としては、縮合多環式アレーンジカルボン酸、環集合アレーンジカルボン酸などが挙げられる。縮合多環式アレーンジカルボン酸としては、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などのナフタレンジカルボン酸;アントラセンジカルボン酸;フェナントレンジカルボン酸などの縮合多環式C10-24アレーン-ジカルボン酸などが挙げられる。環集合アレーンジカルボン酸としては、2,2’-ビフェニルジカルボン酸、3,3’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸などのビC6-10アレーン-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0065】
これら他のジカルボン酸成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。他のジカルボン酸成分の割合は、ジカルボン酸成分中30モル%以下、好ましくは10モル%以下、さらに好ましくは5モル%以下である。他のジカルボン酸成分を含む場合、他のジカルボン酸成分の割合は、例えば、ジカルボン酸成分(B)中0.1~5モル%である。
【0066】
[ポリエステル系樹脂]
本発明の好適な態様の一つであるポリエステル系樹脂は、前記ジカルボン酸成分と、ジオール成分とを重合成分とする。このポリエステル樹脂は、線状ポリエステル樹脂であってもよい。
【0067】
ジカルボン酸成分は、好ましい態様も含め、前記熱可塑性樹脂のジカルボン酸成分と同様である。
【0068】
(フルオレンジオール)
ジオール成分は、光学特性および耐熱性を向上できる点から、フルオレン骨格を有するフルオレンジオールを含むのが好ましく、前記式(3)で表されるフルオレンジオールが特に好ましい。
【0069】
前記式(3)において、環Z2aおよび環Z2bのアレーン環としては、前記式(1)で表されるビスアリールエチレンジカルボン酸成分の環Z1aおよび環Z1bとして例示されたアレーン環などが挙げられる。前記アレーン環は、高い耐熱性および光学的特性(低アッベ数および低複屈折)をバランスよく充足できる点から、ベンゼン環などの単環式C6-10アレーン環、ビフェニル環などのビC6-12アレーン環が好ましく、特に複屈折をより有効に低減でき、耐熱性も大きく向上できる点から、ベンゼン環が特に好ましい。
【0070】
前記式(3)において、アルキレン基A2aおよびA2bとしては、エチレン基、プロピレン基(1,2-プロパンジイル基)、トリメチレン基、1,2-ブタンジイル基、テトラメチレン基などの直鎖状または分岐鎖状C2-6アルキレン基などが挙げられる。これらのうち、直鎖状または分岐鎖状C2-4アルキレン基が好ましく、直鎖状または分岐鎖状C2-3アルキレン基がさらに好ましく、エチレン基が最も好ましい。
【0071】
オキシアルキレン基(OA2a)およびオキシアルキレン基(OA2b)の繰り返し数(付加モル数)s1およびs2は、それぞれ0または1以上の整数であればよく、例えば0~15、好ましくは0~8、さらに好ましくは0~4の整数である。さらに、nは、1以上がより好ましく、例えば1~10、好ましくは1~6、さらに好ましくは1~2の整数、最も好ましくは1である。また、s1とs2とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。さらに、s1またはs2が2以上の場合、2以上のオキシアルキレン基(OA2a)またはオキシアルキレン基(OA2b)は、それぞれ同一または異なっていてもよい。また、オキシアルキレン基(OA2a)とオキシアルキレン基(OA2b)とは、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0072】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、「繰り返し数(付加モル数)」は、平均値(算術平均値、相加平均値)または平均付加モル数であってもよく、好ましい態様は、好ましい整数の範囲と同様である。
【0073】
基[-O-(A2aO)s1-H]および基[-O-(A2bO)s2-H](OH含有基)の置換位置は特に制限されず、環Z2aおよび環Z2bの適当な位置に置換できる。例えば、環Z2aおよび環Z2bがベンゼン環であるとき、OH含有基の置換位置は、2~6位のいずれであってもよく、2位、3位、4位などが挙げられ、好ましくは3位、4位、最も好ましくは4位である。また、環Z2aおよび環Z2bがナフタレン環である場合には、OH含有基の置換位置は、フルオレン環の9位に対して1位または2位で結合するナフタレン環の5~8位のいずれかの位置に置換している場合が多く、フルオレン環の9位に対して、ナフタレン環の1位または2位が置換し(1-ナフチルまたは2-ナフチルの関係で置換し)、この置換位置に対して、1,5位、2,6位の関係で置換しているのが好ましく、2,6位の関係で置換しているのが特に好ましい。環Z2aおよび環Z2bがビフェニル環である場合、ビフェニル環の2~6位および2’~6’位のいずれかの位置に置換していればよいが、例えば、ビフェニル環の3位または4位がフルオレンの9位に結合していてもよく、ビフェニル環の3位がフルオレンの9位に結合する場合、OH含有基の置換位置は、ビフェニル環の2位、4位、5位、6位、2’位、3’位、4’位のいずれの位置であってもよく、6位、4’位のいずれかの位置で置換しているのが好ましく、6位に置換しているのが特に好ましい。ビフェニル環の4位がフルオレンの9位に結合している場合、OH含有基の置換位置は、ビフェニル環の2位、3位、2’位、3’位、4’位のいずれの位置であってもよく、2位、4’位のいずれかの位置に置換しているのが好ましく、2位に置換しているのが特に好ましい。
【0074】
前記式(3)において、置換基R4aはおよびR4bは、好ましい態様も含め、前記式(1)で表されるビスアリールエチレンジカルボン酸成分における置換基R1aおよびR1bと同様である。置換基R4aはおよびR4bの置換数t1およびt2も、好ましい態様も含め、前記式(1)で表されるビスアリールエチレンジカルボン酸成分における置換数n1およびn2と同様である。
【0075】
前記式(3)において、置換基Rおよびその置換数uは、好ましい態様も含め、前記式(2)で表されるジカルボン酸成分における置換基Rおよびその置換数kと同様である。
【0076】
前記式(3)で表される代表的なジオールとしては、環Z2aおよびZ2bがベンゼン環である化合物、例えば、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9-ビス[ヒドロキシ(モノないしデカ)C2-4アルコキシフェニル]フルオレン;環Z2aおよびZ2bがビフェニル環である化合物、例えば、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンなどの9,9-ビス[ヒドロキシ(モノないしデカ)C2-4アルコキシ-フェニルフェニル]フルオレン;環Z2aおよびZ2bがナフタレン環である化合物、例えば、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレン、9,9-ビス[5-(2-ヒドロキシエトキシ)-1-ナフチル]フルオレンなどの9,9-ビス[ヒドロキシ(モノないしデカ)C2-4アルコキシ-ナフチル]フルオレンなどが挙げられる。
【0077】
前記式(3)で表されるジオールの割合は、全フルオレンジオール中50モル%以上であってもよく、好ましくは70モル%、さらに好ましくは80モル%、より好ましくは90モル%以上、最も好ましくは100モル%である。9,9-ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレンの割合が少なすぎると、光学特性および耐熱性が低下する虞がある。
【0078】
フルオレンジオール(全フルオレンジオール)の割合は、全ジオール成分中10モル%以上であってもよく、例えば30~99モル%、好ましくは50~95モル%、さらに好ましくは70~93モル%、最も好ましくは80~90モル%である。フルオレンジオールの割合が少なすぎると、光学特性および耐熱性が低下する虞がある。
【0079】
(脂肪族ジオール)
ジオール成分は、重合性および成形性を向上できる点から、フルオレンジオールに加えて、脂肪族ジオールをさらに含んでいてもよい。脂肪族ジオールには、鎖状脂肪族ジオール、脂環族ジオールが含まれる。
【0080】
鎖状脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコールなどのC2-10アルカンジオール;ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコールなどのジまたはトリC2-4アルカンジオールなどが挙げられる。
【0081】
脂環族ジオールとしては、シクロヘキサンジオールなどのC5-8シクロアルカンジオール;シクロヘキサンジメタノールなどのジ(ヒドロキシC1-4アルキル)C5-8シクロアルカンなどが挙げられる。
【0082】
これらの脂肪族ジオール成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの脂肪族ジオールのうち、耐熱性や屈折率の点から、アルカンジオールなどの低分子量の脂肪族ジオール(鎖状脂肪族ジオール)が好ましく、エチレングリコールなどのC2-4アルカンジオールがさらに好ましい。
【0083】
前記フルオレンジオールと脂肪族ジオールとのモル比は、前者/後者=100/0~50/50程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、99/1~60/40、98/2~65/35、97/3~70/30、95/5~75/25であり、最も好ましくは90/10~80/20ある。脂肪族ジオールの割合が少なすぎると、重合性や成形性などの向上効果が発現しない虞があり、逆に多すぎると、光学特性や耐熱性が低下する虞がある。
【0084】
(他のジオール)
ジオール成分は、フルオレンジオールおよび脂肪族ジオールに加えて、他のジオールをさらに含んでいてもよい。他のジオールとしては、ヒドロキノン、レゾルシノールなどのジヒドロキシアレーン;ベンゼンジメタノールなどの芳香脂肪族ジオール;ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールG、ビスフェノールSなどのビスフェノール類;p,p’-ビフェノールなどのビフェノール類;およびこれらのジオール成分のC2-4アルキレンオキシド(またはアルキレンカーボネート、ハロアルカノール)付加体などが挙げられる。前記ジオール成分のアルキレンオキシド付加体としては、1モルのビスフェノールAに対して、2~10モル程度のエチレンオキシドが付加した付加体などが挙げられる。
【0085】
他のジオールの割合は、ジオール成分中30モル%以下、好ましくは10モル%以下、さらに好ましくは5モル%以下である。
【0086】
(他のモノマー)
ポリエステル系樹脂は、ジカルボン酸成分およびジオール成分に加えて、ポリカルボン酸成分およびポリオール成分をさらに含んでいてもよい。ポリカルボン酸成分としては、トリメリット酸、ピロメリット酸などの芳香族ポリカルボン酸などまたはそのエステル形成性誘導体などが挙げられる。ポリオール成分としては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどのアルカンポリオールなどが挙げられる。ポリカルボン酸成分およびポリオール成分の合計割合は、ジカルボン酸成分およびジカルボン酸成分の総量に対して10モル%以下、好ましくは0.1~8モル%、さらに好ましくは0.2~5モル%である。
【0087】
(ポリエステル系樹脂の特性および製造方法)
本発明の好適な態様の一つであるポリエステル系樹脂は、前記ジカルボン酸成分と前記ジオール成分とを重合成分とする樹脂であり、光学的特性、機械的特性、熱的特性など、特に光学的特性、機械的特性などの種々の特性において優れている。特に、前記ポリエステル系樹脂は、特定のジカルボン酸成分(由来の骨格)と特定のジオール成分(由来の骨格)とを組み合わせて有し、屈折率を上げ過ぎることなく、アッベ数を低減できる。さらに、前記ポリエステル系樹脂は、複屈折も低減できる上に、成形性と耐熱性とを両立できる。
【0088】
前記ポリエステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば100~200℃程度の範囲から選択でき、例えば130~180℃、好ましくは135~170℃、さらに好ましくは140~160℃、最も好ましくは145~155℃である。ガラス転移温度Tgが高すぎると、成形性が低下して、溶融製膜が困難になる虞があり、低すぎると耐熱性が低下する虞がある。なお、本明細書および特許請求の範囲において、ガラス転移温度は、示差走査熱量計を用いて測定でき、詳しくは、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0089】
前記ポリエステル系樹脂の重量平均分子量は、例えば15000~100000程度の範囲から選択でき、例えば20000~80000程度、好ましくは30000~70000程度、さらに好ましくは40000~60000程度、最も好ましくは45000~55000である。なお、本明細書および特許請求の範囲において、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定でき、詳しくは、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0090】
前記ポリエステル系樹脂の屈折率は、高屈折材料を用いているにも拘わらず、上げ過ぎることなく、比較的低く調整できる。具体的に、20℃、波長589nmでの屈折率は、1.7以下であってもよく、例えば1.6~1.7、好ましくは1.62~1.69、さらに好ましくは1.63~1.68、より好ましくは1.64~1.67、最も好ましくは1.65~1.66ある。なお、本明細書および特許請求の範囲において、屈折率は、多波長アッベ屈折計を用いて測定でき、詳しくは、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0091】
前記ポリエステル系樹脂は、前述のように、屈折率を上げ過ぎることなく、アッベ数を低く調整できる。具体的に、20℃でのアッベ数は、樹脂材料のバリエーションを増やすという観点から特に限定されるものではないが、一般的には低い値であること、具体的には20以下であることが好ましい。なお、本明細書および特許請求の範囲において、アッベ数は、多波長アッベ屈折計を用いて測定でき、詳しくは、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0092】
前記ポリエステル系樹脂の20℃、波長600nmでの3倍複屈折の絶対値は、できる限り小さい値であることが好ましいが、用途に応じて、例えば60×10-4以下の範囲から選択できる。前記ポリエステル系樹脂は、特定のジカルボン酸成分と特定のジオール成分とを組み合わせることにより、複屈折を低減することもでき、前記3倍複屈折の絶対値は、前記範囲の中でも特に、45×10-4以下であることが好ましく、30×10-4以下であることがより好ましく、15×10-4以下であることが特に好ましい。本明細書および特許請求の範囲において、3倍複屈折は、回転検光子法を用いて測定でき、詳しくは、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0093】
前記ポリエステル系樹脂は、前記ジカルボン酸成分と前記ジオール成分とを反応(重合または縮合)させることにより製造できる。重合方法(製造方法)としては、慣用の方法、例えば、エステル交換法、直接重合法などの溶融重合法、溶液重合法、界面重合法などが例示できる。好ましい方法は、ジカルボン酸成分とジオール成分とを溶融混合下で重合させる方法である溶融重合法である。
【0094】
また、反応において、ジカルボン酸成分およびジオール成分の使用量(使用割合)は、前記構成単位と同様の範囲から選択できるが、必要に応じて各成分などを過剰に用いて反応させてもよい。例えば、反応系から留出可能なエチレングリコールなどの脂肪族ジオール成分は、ポリエステル系樹脂中に導入される単位の割合よりも過剰に使用してもよい。また、反応は、重合方法に応じて、溶媒の存在下または非存在下で行ってもよい。
【0095】
反応は、触媒の存在下で行ってもよい。触媒としては、慣用のエステル化触媒(またはエステル交換触媒)、例えば、金属触媒が利用できる。金属触媒は、ナトリウムなどのアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属;マンガン、亜鉛、カドミウム、鉛、コバルト、チタンなど遷移金属;アルミニウムなどの周期表第13族金属;ゲルマニウムなどの周期表第14族金属;アンチモンなどの周期表第15族金属などを含む金属化合物が用いられる。金属化合物としては、アルコキシド;酢酸塩、プロピオン酸塩などの有機酸塩;ホウ酸塩、炭酸塩などの無機酸塩;金属酸化物などであってもよく、これらの水和物であってもよい。代表的な金属化合物としては、二酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、シュウ酸ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウム-n-ブトキシドなどのゲルマニウム化合物;三酸化アンチモン、酢酸アンチモン、アンチモンエチレンリコレートなどのアンチモン化合物;テトラ-n-プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネート、シュウ酸チタン、シュウ酸チタンカリウムなどのチタン化合物;酢酸マンガン・4水和物などのマンガン化合物;酢酸カルシウム・1水和物などのカルシウム化合物などが挙げられる。
【0096】
これらの触媒は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。複数の触媒を用いる場合、反応の進行に応じて、各触媒を添加することもできる。これらの触媒のうち、酢酸マンガン・4水和物、酢酸カルシウム・1水和物、二酸化ゲルマニウムなどが好ましい。触媒の使用量は、ジカルボン酸成分1モルに対して、例えば0.01×10-4~100×10-4モル、好ましくは0.1×10-4~40×10-4モルである。また、触媒の使用量は、ジカルボン酸成分100質量部に対して、例えば0.001~10質量部、好ましくは0.01~1質量部である。
【0097】
また、反応は、必要に応じて、熱安定剤や酸化防止剤などの安定剤(または着色防止剤)の存在下で行ってもよい。前記熱安定剤としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、亜リン酸、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイトなどのリン化合物などが挙げられる。前記安定剤の使用量は、ジカルボン酸成分1モルに対して、例えば0.01×10-4~100×10-4モル、好ましくは0.1×10-4~40×10-4モルである。また、安定剤の使用量は、ジカルボン酸成分100質量部に対して、例えば0.001~10質量部、好ましくは0.01~1質量部である。
【0098】
反応は、通常、不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。前記不活性ガスとしては、窒素;ヘリウム、アルゴンなどの希ガスなどが挙げられる。また、反応は、1×10~1×10Pa程度の減圧下で行うこともできる。反応温度は、重合方法に応じて選択でき、例えば、溶融重合法における反応温度は、例えば150~300℃、好ましくは180~290℃、さらに好ましくは200~280℃である。
【0099】
[成形体]
本発明の熱可塑性樹脂、特に、好適な態様の一つであるポリエステル系樹脂は、前記のように、高過ぎない屈折率、低アッベ数などの優れた光学的特性、機械的特性、高耐熱性を有している。前記熱可塑性樹脂で構成された成形体は、光学フィルム、光学レンズ、光学シートなどの光学用部材に適している。成形体の形状は、特に限定されず、フィルム状、シート状、板状などの二次元的構造、棒状、管状またはチューブ状、中空状などの三次元的構造などが挙げられる。
【0100】
このような成形体は、前記熱可塑性樹脂、特に、ポリエステル系樹脂で構成されていればよく、前記熱可塑性樹脂、特に、ポリエステル系樹脂を含む樹脂組成物で構成してもよい。このような樹脂組成物は、各種添加剤を含んでいてもよい。
【0101】
前記添加剤としては、充填剤または補強剤、染顔料などの着色剤、導電剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、安定剤、離型剤、帯電防止剤、分散剤、流動調整剤、レベリング剤、消泡剤、表面改質剤、低応力化剤、炭素材などが挙げられる。前記安定剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤など挙げられる。前記低応力化剤としては、シリコーンオイル、シリコーンゴム、各種プラスチック粉末、各種エンジニアリングプラスチック粉末などが挙げられる。
【0102】
これらの添加剤は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用してもよい。これらの添加剤の割合は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、例えば30質量部以下、好ましくは0.1~20質量部、さらに好ましくは1~10質量部である。
【0103】
成形体は、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、トランスファー成形法、ブロー成形法、加圧成形法、キャスティング成形法などを利用して製造することができる。
【0104】
本発明の熱可塑性樹脂、特に、ポリエステル系樹脂は、種々の光学的特性に優れているため、フィルム(特に、光学フィルム)を形成するのにも有用である。
【0105】
このようなフィルムの厚みは、1~1000μm程度の範囲から用途に応じて選択でき、例えば1~200μm、好ましくは5~150μm、さらに好ましくは10~120μmである。
【0106】
このようなフィルム(光学フィルム)は、前記熱可塑性樹脂を、慣用の成膜方法、キャスティング法(溶剤キャスト法)、溶融押出法、カレンダー法などを用いて成膜(または成形)することにより製造できる。
【0107】
フィルムは、延伸フィルムであってもよい。前記成形体は、延伸フィルムであっても、低複屈折を維持できる。なお、このような延伸フィルムは、一軸延伸フィルムまたは二軸延伸フィルムのいずれであってもよい。
【0108】
延伸倍率は、一軸延伸または二軸延伸において各方向にそれぞれ1.1~10倍、好ましくは1.2~8倍、さらに好ましくは1.5~6倍であってもよく、通常1.1~2.5倍、好ましくは1.2~2.3倍、さらに好ましくは1.5~2.2倍であってもよい。
【0109】
なお、二軸延伸の場合、等延伸であっても、偏延伸であってもよい。等延伸は、例えば、縦横両方向に1.5~5倍延伸であってもよい。偏延伸は、例えば、縦方向に1.1~4倍、横方向に2~6倍延伸であってもよい。
【0110】
また、一軸延伸の場合、縦延伸であっても横延伸であってもよい。縦延伸は、例えば、縦方向に2.5~8倍延伸であってもよい。横延伸は、例えば、横方向に1.2~5倍延伸であってもよい。
【0111】
延伸フィルムの厚みは、例えば1~150μm、好ましくは3~120μm、さらに好ましくは5~100μmである。
【0112】
なお、このような延伸フィルムは、成膜後のフィルム(または未延伸フィルム)に、延伸処理を施すことにより得ることができる。延伸方法は、特に制限が無く、一軸延伸の場合、湿式延伸法または乾式延伸法のいずれであってもよく、二軸延伸の場合、テンター法(フラット法ともいわれる)であってもチューブ法であってもよいが、延伸厚みの均一性に優れるテンター法が好ましい。
【実施例
【0113】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、用いた原料の略号および詳細ならびに得られた樹脂またはフィルムの評価方法を以下に示す。
【0114】
[原料]
DMIBr:5-ブロモイソフタル酸ジメチル
BPEF:9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、大阪ガスケミカル(株)製
BOPPEF:9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)3-フェニルフェニル]フルオレン、大阪ガスケミカル(株)製
BNEF:9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレン、大阪ガスケミカル(株)製
EG:エチレングリコール
FDP-m:9,9-ジ(2-メトキシカルボニルエチル)フルオレン[フルオレン-9,9-ジプロピオン酸のジメチルエステル。特開2005-89422号公報の実施例1のアクリル酸t-ブチルをアクリル酸メチル37.9g(0.44モル)に変更したこと以外は同様にして合成した。]
3,5-SDC-m:3,5-スチルベンジカルボン酸ジメチル(後述する合成例によって合成)
4,4’-SDC-m:4,4’-スチルベンジカルボン酸ジメチル、Matrix Scientific社製。
【0115】
2,3-DMN:2,3-ナフタレンジカルボン酸ジメチル
2,6-DMN:2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル
BNAC-E:2,2’-ビス(エトキシカルボニルメトキシ)-1,1’-ビナフチル
【0116】
H-NMR]
内部標準物質としてテトラメチルシランを含む重クロロホルムに、試料を溶解し、核磁気共鳴装置(BRUKER社製「AVANCE III HD」)を用いて、H-NMRスペクトルを測定した。なお、樹脂試料については、得られたスペクトルに基づいて、重合に用いた各々のモノマーに由来するピークの積分値を求め、ポリマー中に導入された各モノマー成分(構成単位)の割合(ポリマー組成比)を算出した。
【0117】
[ガラス転移温度(Tg)]
示差走査熱量計(エスアイアイナノテクノロジー(株)製「EXSTAR6000 DSC6220 ASD-2」)を用いて、窒素雰囲気下、10℃/分の昇温速度で測定した。
【0118】
[分子量(Mw)]
試料をクロロホルムに溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(東ソー(株)製「HLC-8320GPC」)を用いて、ポリスチレン換算の重量平均分子量Mwを求めた。
【0119】
[屈折率(nD)]
試料を180~240℃で熱プレスすることによって、厚みが200~300μmのフィルムを成形した。このフィルムを縦20~30mm×横10mmの短冊状に切り出し、試験片を得た。得られた試験片について、多波長アッベ屈折計((株)アタゴ製「DR-M4(循環式恒温水槽60-C3)」)を用いて、測定温度20℃で、接触液にジヨードメタンを使用して、589nm(D線)の屈折率nDを測定した。
【0120】
[アッベ数]
589nm(D線)の屈折率nDを測定した試験片を用いて、測定波長を486nm(F線)、656nm(C線)に変更する以外は屈折率nDと同様にして、屈折率nF、nCをそれぞれ測定した。得られた各波長における屈折率nF、nDおよびnCから、アッベ数を以下の式によって算出した。
【0121】
(アッベ数)=(nD-1)/(nF-nC)。
【0122】
[複屈折(3倍複屈折)]
試料を180~240℃で熱プレスすることによって、厚みが200~600μmのフィルムを成形した。このフィルムを10mm×50mmの短冊状に切り出し、ガラス転移温度Tg+10℃の温度条件下、25mm/分で延伸倍率が3倍となるように一軸延伸して試験片を得た。得られた試験片を、位相差フィルム・光学材料検査装置(大塚電子(株)製「RETS-100」)を用いて、測定温度20℃、測定波長600nmの条件下、平行ニコル回転法にてリタデーションを測定し、その値を測定部位の厚みで除して複屈折(または3倍複屈折)を算出した。
【0123】
[合成例(3,5-SDC-mの合成)]
反応器に5-ブロモイソフタル酸ジメチル(DMIBr)54.6g、トリフェニルホスフィン(PPh)0.42g、KCO 30.5g、およびPd(OAc) 1.80gを仕込み脱気した後、窒素雰囲気下でジメチルホルムアミド(DMF)219gおよびスチレン22.9gを加えた。110℃で反応液を3時間攪拌し、下記式の反応を進行させた。
【0124】
【化4】
【0125】
反応液からDMFを留去した後、トルエンを加えて60℃で再度溶解させた。次に、不溶物をセライト濾過で除去した後、再結晶したところ、無色結晶として3,5-SDC-m 40.0gを得た。得られた結晶について、H-NMRの測定結果を以下に示す。
【0126】
H-NMR(CDCl):δ 3.97(s,6H,CH),7.00-7.56(m,7H),8.35(d,J=1.8Hz,2H,ArH),8.55(t,J=1.8Hz,1H,ArH).
【0127】
[実施例1]
反応器に、ジカルボン酸成分として3,5-SDC-m(17.8g(60mmol))、ジオール成分としてBPEF(22.36g(51mmol))、EG(8.03g(129mmol))、エステル交換反応および重縮合反応の触媒として、チタニウムテトラブトキシド(1.0mg(8.6μmol))を仕込み、窒素雰囲気下、200℃に加熱して溶解させた。完全溶解後、250℃まで徐々に加熱、撹拌し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応により生成するアルコール成分を除去した後、徐々に285℃、150Paまで昇温、減圧し、EGを除去しながら、所定の撹拌トルクに達するまで重縮合反応を行った。反応終了後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂を得た。
【0128】
[実施例2]
ジカルボン酸成分として、3,5-SDC-mに加えてFDP-mを用い、かつ、3,5-SDC-m、FDP-m、BPEF、EG、およびチタニウムテトラブトキシドの仕込量を調整したこと以外は実施例1と同様にして、ポリエステル樹脂を得た。
【0129】
[実施例3]
反応器に、ジカルボン酸成分として3,5-SDC-m(18.6g(63mmol))、FDP-m9.13(27mmol)、ジオール成分としてBPEF(33.5g(77mmol))、EG(14.2g(230mmol))、エステル交換反応および重縮合反応の触媒として、チタニウムテトラブトキシド(2.1mg(6.3μmol))、熱安定剤としてリン酸ジブチル5.3mg(25μmol)を仕込み、窒素雰囲気下、200℃に加熱して溶解させた。完全溶解後、250℃まで徐々に加熱、撹拌し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応により生成するアルコール成分を除去した後、徐々に285℃、150Paまで昇温、減圧し、EGを除去しながら、所定の撹拌トルクに達するまで重縮合反応を行った。反応終了後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂を得た。
【0130】
[実施例4~5]
3,5-SDC-m、FDP-m、BPEF、EG、およびチタニウムテトラブトキシドの仕込量を調整したこと以外は実施例2と同様にして、ポリエステル樹脂を得た。
【0131】
[実施例6]
3,5-SDC-mに代えて4,4’-SDC-mを用い、かつ、FDP-m、4,4’-SDC-m、BPEF、EG、およびチタニウムテトラブトキシドの仕込み量を調整したこと以外は実施例1と同様にして、ポリエステル樹脂を得た。
【0132】
[実施例7~8]
BPEFに代えてBNEFを用い、かつ、3,5-SDC-m、FDP-m、BNEF、EG、およびチタニウムテトラブトキシドの仕込み量を調整したこと以外は実施例2と同様にして、ポリエステル樹脂を得た。
【0133】
[比較例1]
反応器に、ジカルボン酸成分として、2,3-DMN(24.44g(0.100mol))、グリコール成分として、BNEF(40.42g(0.075mol))、EG(13.99g(0.225mol))、エステル交換反応、及び、重縮合反応の触媒として、チタニウムテトラブトキシド(6.8mg(20μmol))を仕込み、240℃まで徐々に加熱、撹拌し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応により生成するアルコール成分を除去した後、徐々に310℃、200Paまで昇温、減圧し、エチレングリコールを除去しながら、所定の撹拌トルクに達するまで重縮合反応を行った。反応終了後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂を得た。
【0134】
[比較例2]
反応器に、ジカルボン酸成分として、BNAC-E(48.15g(0.105mol))、FDP-m(11.85g(0.035mol))、グリコール成分として、BNEF(56.54g(0.105mol))、EG(19.64g(0.317mol))、エステル交換反応、及び、重縮合反応の触媒として、チタニウムテトラブトキシド(4.1mg(12μmol))、熱安定剤として、リン酸ジブチル(37.8mg(180μmol))を仕込み、240℃まで徐々に加熱、撹拌し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応により生成するアルコール成分を除去した後、徐々に275℃、200Paまで昇温、減圧し、エチレングリコールを除去しながら、所定の撹拌トルクに達するまで重縮合反応を行った。反応終了後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂を得た。
【0135】
[比較例3]
反応器に、ジカルボン酸成分として、BNAC-E(27.50g(0.06mol))、FDP-m(20.31g(0.06mol))、グリコール成分として、BNEF(38.79g(0.072mol))、EG(17.92g(0.289mol))、エステル交換反応の触媒として、酢酸マンガン・四水和物(22.1mg(90μmol))を仕込み、240℃まで徐々に加熱、撹拌し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応により生成するアルコール成分を除去した後、熱安定剤として、リン酸トリメチル(47.3mg(225μmol))、重縮合反応の触媒として、酸化ゲルマニウム(37.7mg(360μmol))を加え、徐々に280℃、200Paまで昇温、減圧し、エチレングリコールを除去しながら、所定の撹拌トルクに達するまで重縮合反応を行った。反応終了後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂を得た。
【0136】
[比較例4]
反応器に、ジカルボン酸成分として、BNAC-E(68.75g(0.15mol))、グリコール成分として、BOPPEF(35.44g(0.06mol))、EG(24.25g(0.39mol))、エステル交換反応の触媒として、酢酸マンガン・四水和物(24.5mg(100μmol))を仕込み、240℃まで徐々に加熱、撹拌し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応により生成するアルコール成分を除去した後、熱安定剤として、リン酸トリメチル(31.5mg(150μmol))、重縮合反応の触媒として、酸化ゲルマニウム(41.8mg(400μmol))を加え、徐々に280℃、200Paまで昇温、減圧し、エチレングリコールを除去しながら、所定の撹拌トルクに達するまで重縮合反応を行った。反応終了後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂を得た。
【0137】
[比較例5]
3,5-SDC-mに代えて2,6-DMNを用い、かつ、FDP-m、BPEF、EG、およびチタニウムテトラブトキシドの仕込み量を調整したこと以外は実施例1と同様にして、ポリエステル樹脂を得た。
【0138】
[比較例6]
反応器に、ジカルボン酸成分として、BNAC-E(27.50g(0.06mol))、FDP-m(20.31g(0.06mol))、グリコール成分として、BNEF(38.79g(0.072mol))、EG(17.92g(0.289mol))、エステル交換反応の触媒として、酢酸マンガン・四水和物(22.1mg(90μmol))を仕込み、240℃まで徐々に加熱、撹拌し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応により生成するアルコール成分を除去した後、熱安定剤として、リン酸トリメチル(47.3mg(225μmol))、重縮合反応の触媒として、酸化ゲルマニウム(37.7mg(360μmol))を加え、徐々に280℃、200Paまで昇温、減圧し、エチレングリコールを除去しながら、所定の撹拌トルクに達するまで重縮合反応を行った。反応終了後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂を得た。
【0139】
[比較例7]
反応器に、ジカルボン酸成分として、BNAC-E(45.88g(0.10mol))、グリコール成分として、BNEF(40.4g(0.075mol))、EG(13.92g(0.225mol))、エステル交換反応、及び、重縮合反応の触媒として、チタニウムテトラブトキシド(8.5mg(25μmol))、熱安定剤として、リン酸ジブチル(31.5mg(150μmol))を仕込み、240℃まで徐々に加熱、撹拌し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応により生成するアルコール成分を除去した後、徐々に275℃、200Paまで昇温、減圧し、エチレングリコールを除去しながら、所定の撹拌トルクに達するまで重縮合反応を行った。反応終了後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂を得た。
【0140】
[比較例8]
反応器に、ジカルボン酸成分として、2,3-DMN(17.11g(0.070mol))、FDP-m(23.69g(0.070mol))、グリコール成分として、BNEF(56.57g(0.105mol))、EG(19.58g(0.315mol))、エステル交換反応、及び、重縮合反応の触媒として、チタニウムテトラブトキシド(10.2mg(30μmol))を仕込み、240℃まで徐々に加熱、撹拌し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応により生成するアルコール成分を除去した後、徐々に295℃、200Paまで昇温、減圧し、エチレングリコールを除去しながら、所定の撹拌トルクに達するまで重縮合反応を行った。反応終了後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂を得た。
【0141】
実施例および比較例で得られたポリエステル樹脂の特性を評価した結果を表1に示す。
【0142】
【表1】
【0143】
表1の結果から明らかなように、実施例で得られたポリエステル樹脂は、屈折率を上げ過ぎることなく、アッベ数が低減されている。さらに、ビスアリールエチレンジカルボン酸として3,5-SDC-mを用いることにより複屈折も概ね低い値に調整することができ、特に、実施例3では0に近い複屈折を実現できた。
【0144】
これに対して、ジカルボン酸成分としてビスアリールエチレンジカルボン酸を含まない比較例1~8では、アッベ数が同等の実施例に比べて屈折率が高い値を示した。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明の熱可塑性樹脂は、高い耐熱性および優れた光学的特性を有しており、さらに機械的特性などの各種特性にも優れている。そのため、本発明の熱可塑性樹脂は、光学フィルム、光学シート、光学レンズなどの光学部材に利用でき、成形性に優れ、モノマーの組み合わせを選択することにより、複屈折を発現させて位相差フィルムなどの光学フィルムとしても利用できるが、複屈折を低減することもできるため、屈折率を上げ過ぎることなく、低アッベ数である特性が要求される光学レンズに特に好ましく利用できる。
【0146】
光学レンズとしては、例えば、カメラ用レンズなどの低アッベ数が要求されるレンズなどが例示でき、特に、カメラ機能を有する小型機器(またはモバイル機器)、例えば、携帯電話、デジタルカメラなどに搭載されるレンズが挙げられる。