(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】スチレン系樹脂押出発泡体
(51)【国際特許分類】
C08J 9/04 20060101AFI20240514BHJP
【FI】
C08J9/04 103
C08J9/04 CET
(21)【出願番号】P 2020060991
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】川口 嘉弘
(72)【発明者】
【氏名】金鹿 渉
(72)【発明者】
【氏名】栗原 俊二
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-194129(JP,A)
【文献】特開2016-188325(JP,A)
【文献】特開2013-221110(JP,A)
【文献】特開2005-213440(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
B29C 44/00-44/60
B29C 48/00-48/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂と、体積抵抗値が100Ω・cm以下である導電性酸化チタンとを有し、
前記導電性酸化チタンの含有量は、前記スチレン系樹脂100重量部に対して、0.1重量部~10.0重量部であり、
見かけ密度は40kg/m
3以下であ
り、
前記導電性酸化チタンは、アスペクト比が5以上であり、
ここで、前記アスペクト比は、前記導電性酸化チタンの長軸方向の長さ(L)と短軸方向の長さ(D)との比(L/D)である、スチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項2】
前記導電性酸化チタンは非球形の導電性酸化チタンを含む、請求項1に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項3】
前記導電性酸化チタンは、長軸方向の長さ(L)が1.00μm~10.00μmであり、短軸方向の長さ(D)が0.05μm~2.00μmである、請求項1
または2に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項4】
独立気泡率は90%以上である、請求項1~
3の何れか1項に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系樹脂押出発泡体に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂押出発泡体は、比較的良好な施工性および断熱性を有することから、例えば構造物の断熱材として用いられる。近年、住宅、建築物などの省エネルギー化の要求が高まり、それ故に、従来以上の高断熱性を有するスチレン系樹脂押出発泡体の技術開発が望まれている。
【0003】
スチレン系樹脂押出発泡体の断熱性を高めるための輻射低減方法として、各種技術が開発されている。輻射低減方法として、輻射伝熱抑制剤を使用することが一般的に行なわれている。輻射伝熱抑制剤の中でも、経済性および輻射抑制性効果に優れることから、グラファイトの使用が主流になっている。グラファイト以外の輻射伝熱抑制剤を使用する技術も知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、酸化チタンを含有するスチレン系樹脂発泡体が開示されている。
【0005】
また、市場から外観の白色化が望まれる型内発泡体において、特許文献2の技術が開示されている。特許文献2には、導電性金属酸化物を含有する粒子とスチレン系樹脂とを含有し、互いに融着した複数の発泡粒子から構成されている、スチレン系樹脂発泡成形体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-213440号
【文献】特開2016-188325号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のような従来技術は、独立気泡率、密度および断熱性の観点から、さらなる改善の余地があった。
【0008】
本発明の一実施形態は、前記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、独立気泡率が高く、低密度であり、かつ断熱性に優れる、新規のスチレン系樹脂押出発泡体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、導電性酸化チタンを含むスチレン系樹脂押出発泡体であれば、前記課題を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明の一実施形態は、以下の構成を含むものである。
〔1〕スチレン系樹脂と、体積抵抗値が100Ω・cm以下である導電性酸化チタンとを有し、前記導電性酸化チタンの含有量は、前記スチレン系樹脂100重量部に対して、0.1重量部~10.0重量部であり、見かけ密度は40kg/m3以下である、スチレン系樹脂押出発泡体。
〔2〕前記導電性酸化チタンは非球形の導電性酸化チタンを含む、〔1〕に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
〔3〕前記導電性酸化チタンは、アスペクト比が5以上であり、
ここで、前記アスペクト比は、前記導電性酸化チタンの長軸方向の長さ(L)と短軸方向の長さ(D)との比(L/D)である、〔1〕または〔2〕に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
〔4〕前記導電性酸化チタンは、長軸方向の長さ(L)が1.00μm~10.00μmであり、短軸方向の長さ(D)が0.05μm~2.00μmである、〔1〕~〔3〕の何れか1つに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
〔5〕独立気泡率は90%以上である、〔1〕~〔4〕の何れか1つに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、独立気泡率が高く、低密度であり、かつ断熱性に優れる、スチレン系樹脂押出発泡体を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせて得られる実施形態または実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0013】
また、本明細書において特記しない限り、構造単位として、X1単量体に由来する構造単位と、X2単量体に由来する構造単位と、・・・およびXn単量体(nは2以上の整数)とを含む共重合体を、「X1/X2/・・・/Xn共重合体」とも称する。X1/X2/・・・/Xn共重合体としては、明示されている場合を除き、重合様式は特に限定されず、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよく、グラフト共重合体であってもよい。
【0014】
〔1.本発明の一実施形態の技術的思想〕
本発明者は、上述した特許文献1に記載の技術には、以下に示すような改善の余地があることを見出した。すなわち、特許文献1で使用されている、導電性を有しない一般的な酸化チタンは、近年の高断熱性能の要求レベルに対して、断熱性の付与効果が十分ではない。
【0015】
また、押出発泡体において、一般的に、輻射伝熱抑制剤としてグラファイトが使用されている。グラファイトは輻射抑制性効果に優れるものの、押出発泡体の密度を高める傾向があり、高い独立気泡率を維持しながら低密度を達成することが容易ではない。かかる理由は以下のように推察される。押出発泡体にグラファイトを使用する場合、樹脂組成物の押出発泡時に核点が多量に生じ、セル数が増大する。その結果、セル1つあたりの発泡力が弱くなり、発泡倍率が小さくなるため、低密度である押出発泡体が得られ難いと考えられる。そのため、グラファイト使用する形態で低密度化を図るためには、製造条件や発泡剤など添加剤の組合せなどによって制御せざるをえない煩雑さがある。
【0016】
さらに、本発明者は、発泡粒子を型内発泡させて得られるビーズ発泡体と比較して、押出発泡体には以下のような課題が存在することも、独自に見出した:押出発泡体は、ビーズ発泡体のようなバッチ方式とは異なり、高圧域から低圧域に圧力を開放しながら連続して発泡させて製造される。そのために、独立気泡率の低い押出発泡体が得られやすい。さらに、押出発泡体の製造において、樹脂組成物に対して、輻射低減剤などの無機物および/または樹脂との相溶性の低い添加剤を多く含有させる場合、低密度であり、高い独立気泡率の押出発泡体が得られ難い。
【0017】
本発明者は、独立気泡率が高く、低密度であり、かつ断熱性に優れる、新規のスチレン系樹脂押出発泡体を提供することを目的として、鋭意検討を行った。その結果、輻射伝熱抑制剤として導電性酸化チタンを使用することにより、前記課題を容易に達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
〔2.スチレン系樹脂押出発泡体〕
本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体は、スチレン系樹脂と、体積抵抗値が100Ω・cm以下である導電性酸化チタンとを有し、前記導電性酸化チタンの含有量は、前記スチレン系樹脂100重量部に対して、0.1重量部~10.0重量部であり、見かけ密度は40kg/m3以下である。
【0019】
「スチレン系樹脂押出発泡体」を、以下「押出発泡体」と称する場合もある。「本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体」を、以下「本押出発泡体」と称する場合もある。
【0020】
本発泡体は、前記構成を有するため、独立気泡率が高く、低密度であり、かつ断熱性に優れる、という利点を有する。
【0021】
(2-1.スチレン系樹脂)
本発明の一実施形態において、スチレン系樹脂としては、スチレン系単量体に由来する構成単位を有する樹脂を含む限り、特に限定されない。スチレン系単量体としては、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレンなどが好適に挙げられる。スチレン系単量体に由来する構成単位を有する樹脂としては、(a)1種のスチレン系単量体を重合してなる、スチレン系単量体の単独重合体、または(b)2種以上のスチレン系単量体を重合してなる、スチレン系単量体の共重合体、が挙げられる。スチレン系単量体の単独重合体およびスチレン系単量体の共重合体、すなわちスチレン系単量体に由来する構成単位のみを有する樹脂を、ポリスチレン樹脂と称する場合もある。
【0022】
本明細書において、「スチレン系単量体と共重合可能なスチレン系単量体以外の単量体」を、以下「単量体A」と称する場合もある。単量体Aとしては、ジビニルベンゼン、ブタジエン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリロニトリル、無水マレイン酸、無水イタコン酸などが好適に挙げられる。スチレン系単量体に由来する構成単位を有する樹脂は、1種以上のスチレン系単量体と1種以上の単量体Aとを重合してなる、スチレン系単量体と単量体Aとの共重合体であってもよい。
【0023】
スチレン系樹脂は、スチレン系単量体に由来する構成単位を有する樹脂に加えて、スチレン系単量体に由来する構成単位を有する樹脂以外の樹脂を含んでいてもよく、スチレン系単量体に由来する構成単位を有する樹脂と他の樹脂とのブレンド物であってもよい。他の樹脂としては、(a)1種の単量体Aを重合してなる、単量体Aの単独重合体、(b)2種以上の単量体Aを重合してなる、単量体Aの共重合体、(c)ジエン系ゴム強化ポリスチレン、および(d)アクリル系ゴム強化ポリスチレンなどが好適に挙げられる。スチレン系樹脂は、(a)スチレン系単量体に由来する構成単位を有する樹脂と、(b)単量体Aの単独重合体、単量体Aの共重合体、ジエン系ゴム強化ポリスチレンおよび/またはアクリル系ゴム強化ポリスチレンと、のブレンド物であってもよい。
【0024】
スチレン系樹脂は、スチレン系樹脂100重量部中、スチレン系単量体に由来する構成単位を有する樹脂を、50重量部以上含むことが好ましく、60重量部以上含むことがより好ましく、70重量部以上含むことがより好ましく、80重量部以上含むことがより好ましく、90重量部以上含むことがさらに好ましく、95重量部以上含むことが特に好ましい。
【0025】
スチレン系樹脂は、メルトフローレート(以下、MFRとも称する。)、スチレン系樹脂を含む樹脂組成物を成形加工するときの溶融粘度および溶融張力などを調整する目的で、分岐構造を有するスチレン系樹脂であってもよい。換言すれば、上述した、スチレン系単量体に由来する構成単位を有する樹脂および/または他の樹脂は、分岐構造を有していてもよい。
【0026】
経済性および加工性に優れる観点から、スチレン系樹脂としてはポリスチレン樹脂が好ましい。耐熱性に優れる押出発泡体が得られる観点から、スチレン系樹脂としては、(a)スチレン/アクリロニトリル共重合体、(b)1種以上のスチレン系単量体と(メタ)アクリル酸との共重合体、および(c)無水マレイン酸変性ポリスチレン(1種以上のスチレン系単量体と無水マレイン酸との共重合体)が好適に挙げられる。耐衝撃性に優れる押出発泡体が得られる観点から、スチレン系樹脂としては、(a)スチレン系単量体に由来する構成単位を有する樹脂と、(b)ジエン系ゴム強化ポリスチレンおよび/またはアクリル系ゴム強化ポリスチレンなどのゴム強化ポリスチレンと、のブレンド物が好適に挙げられる。上述したスチレン系樹脂は、1種を単独で使用してもよい。共重合成分、分子量および分子量分布、分岐構造、MFRなどが異なる、2種以上の上述したスチレン系樹脂を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
スチレン系樹脂は、MFRが0.5g/10分~25.0g/10分であることが好ましい。当該構成によると、押出発泡体を製造するとき、(a)スチレン系樹脂を含む樹脂組成物(例えば、樹脂溶融物)の成形加工性が良好であり、(b)当該樹脂組成物の吐出量を所望の値に調整しやすく、かつ(c)当該樹脂組成物の発泡性が良好であるという利点を有する。その結果、スチレン系樹脂のMFRが0.5g/10分~25.0g/10分である場合、(a)外観などに優れ、かつ(b)圧縮強度、曲げ強度および曲げたわみ量などの機械的強度と、靱性などの特性と、のバランスに優れる押出発泡体を得ることができる。なお、本明細書において、樹脂組成物を用いた押出発泡体の製造における、得られる押出発泡体の厚さ、幅、密度、独立気泡率および/または表面品質などの所望の値への調整のし易さの程度を、「樹脂組成物の発泡性」とも称する。本明細書において、樹脂組成物を用いて押出発泡体を製造するとき、得られる押出発泡体の厚さ、幅、密度、独立気泡率および/または表面品質などを所望の値へ調整し易いほど、樹脂組成物の発泡性が良好である、といえる。
【0028】
スチレン系樹脂は、MFRが1.0g/10分~12.0g/10分であることがより好ましい。当該構成によると、押出発泡体を製造するとき、(a)スチレン系樹脂を含む樹脂組成物を押出機内で溶融混練するときに発生するせん断発熱量が小さく、(b)当該樹脂組成物の成形加工性に優れ、かつ(c)当該樹脂組成物の発泡性に対する、機械的強度および/または靱性などのバランスに優れる、という利点を有する。本明細書において、スチレン系樹脂のMFRは、JIS K7210(1999年)のA法、および試験条件Hに基づき、測定して得られる値である。
【0029】
(2-2.導電性酸化チタン)
本押出発泡体に含まれる導電性酸化チタンは、体積抵抗値が100Ω・cm以下である。導電性酸化チタンの体積抵抗値が小さい程、導電性酸化チタンの導電性が優れていることを意味する。導電性酸化チタンの体積抵抗値は、好ましくは80Ω・cm以下であり、より好ましくは60Ω・cm以下であり、さらに好ましくは40Ω・cm以下である。体積抵抗値が100Ω・cm以下である導電性酸化チタンは、押出発泡体に対して、輻射低減効果により高い断熱性を付与することができる。
【0030】
本明細書において、導電性酸化チタンの体積抵抗値は、導電性酸化チタン1gを円柱状に成形して試料とし、当該試料の直流抵抗を、デジタルマルチメーターを用いて測定し、体積抵抗値(Ω・cm)を算出したものである。
【0031】
本明細書において、「輻射低減効果」とは、常温付近におけるスチレン系樹脂の波長3~20μmにおける放射エネルギーを低下させる効果である。輻射低減効果は、スチレン系樹脂押出発泡体の輻射伝熱を抑制することにより、熱伝導率が低くかつ断熱性に優れた押出発泡体を得るために、必要とされる効果である。黒体の放射エネルギーの値は黒体輻射の式(プランクの式)から求めることができる。黒体の放射エネルギーの値に、輻射低減剤を含むスチレン系樹脂の放射率を乗じることにより、輻射低減剤を含むスチレン系樹脂の放射エネルギーの値を求めることができる。スチレン系樹脂の放射率の測定温度は常温付近が好ましく、45℃以下であれば特に問題とならない。
【0032】
導電性酸化チタンの結晶構造は特に限定されない。導電性酸化チタンとしては、アナターゼ型導電性酸化チタンおよびルチル型導電性酸化チタンなどのいずれの型の導電性酸化チタンも用いることができる。
【0033】
導電性酸化チタンは、例えば、酸化チタンに導電性を付与することにより得ることができる。酸化チタンに導電性を付与する方法は、体積抵抗値100Ω・cm以下の導電性酸化チタンが得られる限り、特に制限されない。酸化チタンに導電性を付与する方法としては、(a)アンチモンをドープした酸化スズ、リンをドープした酸化スズおよびニオブをドープした酸化スズからなる群から選択される少なくとも1つの酸化スズからなる導電層を酸化チタンに被覆する方法、並びに(b)通常の酸化チタン(TiO2)を水素還元雰囲気中でアニールすることにより、低次酸化チタン(Ti2O3、Ti4O7)として導電性を付与する方法、などが挙げられる。
【0034】
導電性酸化チタンの形状は特に限定されない。導電性酸化チタンの形状は、球形(球状)であってもよく、非球形であってもよい。球形の導電性酸化チタンと非球形の導電性酸化チタンとを組み合わせて使用してもよい。非球形としては、円柱状、針状、鱗状、鱗片状などが好適に挙げられる。断熱性の観点からは、導電性酸化チタンは非球形の導電性酸化チタンを含むことが好ましく、導電性酸化チタン100重量%において、非球形の導電性酸化チタンが20~100重量%であることが好ましく、30~100重量%であることがより好ましく、50~100重量%であることがさらに好ましい。導電性酸化チタンは、非球形の導電性酸化チタンの中でも、針状および/または円柱状の導電性酸化チタンを含むことがより好ましい。
【0035】
導電性酸化チタンが球状である場合、当該導電性酸化チタンの一次粒子径としては特に限定されない。球状である導電性酸化チタンの一次粒子径は、0.03μm~15.00μmの範囲であることが好ましく、0.03μm~7.00μmの範囲であることがより好ましい。一次粒子径が前記範囲内である導電性酸化チタンは、輻射低減効果が大きい。一次粒子径が前記範囲内である導電性酸化チタンを使用することにより、高い独立気泡率を有する押出発泡体を得ることができる。なお、本明細書における導電性酸化チタンの一次粒子径は、走査電子顕微鏡またはマイクロスコープを用いて導電性酸化チタンの拡大画像を得た後、当該拡大画像上の導電性酸化チタンを計測することにより、測定することができる。
【0036】
導電性酸化チタンは、アスペクト比が5以上であることが好ましく、7以上であることがより好ましく、10以上であることがより好ましく、12以上であることがより好ましく、15以上であることがさらに好ましく、17以上であることが特に好ましい。アスペクト比が前記範囲内である導電性酸化チタンは、輻射低減効果に優れるという利点を有する。アスペクト比が前記範囲内である導電性酸化チタンとしては、円柱状および針状など非球形の導電性酸化チタンが挙げられる。本明細書において、「アスペクト比」とは、導電性酸化チタンの長軸方向の長さ(L)と短軸方向の長さ(D)との比(L/D)である。導電性酸化チタンが円柱状または針状である場合、(a)導電性酸化チタンの長軸方向の長さ(L)とは、円柱の高さ(長さ)または針の長さともいえ、(b)導電性酸化チタンの短軸方向の長さ(D)とは、円柱の円もしくは針の直径、または円柱の円もしくは針の太さともいえる。導電性酸化チタンの長軸方向の長さ(L)および短軸方向の長さ(D)は、走査電子顕微鏡またはマイクロスコープを用いて導電性酸化チタンの拡大画像を得た後、当該拡大画像上の導電性酸化チタンを計測することにより、測定することができる。
【0037】
導電性酸化チタンは、(a)長軸方向の長さ(L)が1.00μm~10.00μmであり、かつ短軸方向の長さ(D)が0.05μm~2.00μmであることが好ましく、(b)長さ(L)が1.00μm~8.00μmであり、かつ長さ(D)が0.05μm~1.60μmであることがより好ましく、(c)長さ(L)が1.00μm~6.00μmであり、かつ長さ(D)が0.05μm~1.2μmであることがさらに好ましく、(d)長さ(L)が4.00μm~6.00μmであり、かつ長さ(D)が0.20μm~0.60μmであることが特に好ましい。長さ(L)および長さ(D)が前記範囲内である導電性酸化チタンは、輻射低減効果に優れるという利点を有する。長さ(L)および長さ(D)が前記範囲内である導電性酸化チタンとしては、円柱状および針状など非球形の導電性酸化チタンが挙げられる。
【0038】
本押出発泡体における、導電性酸化チタンの含有量は、スチレン系樹脂100重量部に対して、0.1重量部~10.0重量部であり、0.5重量部~8.0重量部が好ましく、1.0重量部~6.0重量部がより好ましく、1.2重量部~4.0重量部がさらに好ましく、1.5重量部~3.0重量部が特に好ましい。当該構成によると、輻射低減効果と独立気泡率を両立することができ、その結果、得られる押出発泡体は、独立気泡率が高く、かつ断熱性に優れる、という利点を有する。導電性酸化チタンの含有量が、スチレン系樹脂100重量部に対して、10.0重量部以下である場合、高い独立気泡率を有する押出発泡体を得ることができ、かつ、経済的メリットを得ることができる。
【0039】
(2-3.その他の輻射伝熱抑制剤)
本押出発泡体は、導電性酸化チタンに加えて、導電性酸化チタン以外のその他の輻射伝熱抑制剤を含んでいてもよい。その他の輻射伝熱抑制剤としては、(a)黒鉛およびカーボンブラックなどの炭素微粒子、(b)アルミニウムなどの金属粉、(c)酸化亜鉛および酸化アルミニウムなどの金属酸化物、並びに(d)硫酸バリウムなどの白色微粒子、が挙げられる。
【0040】
(2-4.臭素系難燃剤)
本押出発泡体は、さらに臭素系難燃剤を含むことが好ましい。当該構成によると、得られる押出発泡体は、難燃性に優れるという利点を有する。本押出発泡体は、JIS A9511に規定される燃焼性の測定方法Aに合格することが好ましい。
【0041】
臭素系難燃剤としては、臭素化スチレン/ブタジエンブロック共重合体のような臭素含有脂肪族重合体、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピル)エーテル、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピル)エーテルおよびトリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレートなどが好適に挙げられる。これら臭素系難燃剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0042】
臭素系難燃剤としては、上述した臭素系難燃剤のうち、(a)テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピル)エーテル、およびテトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピル)エーテルからなる混合臭素系難燃剤、(b)臭素化スチレン/ブタジエンブロック共重合体、および/または(c)ヘキサブロモシクロドデカンがより好ましい。当該構成によると、(a)押出発泡体を製造するときの樹脂組成物の押出運転が良好であり、および(b)耐熱性に優れる押出発泡体を得ることができる、など利点を有する。
【0043】
本押出発泡体における臭素系難燃剤の含有量は、スチレン系樹脂100重量部に対して、1.0重量部~6.0重量部であることが好ましい。当該構成によると、得られる押出発泡体は、(a)JIS A9511に規定される燃焼性の測定方法Aに合格し、かつ(b)押出発泡体を製造するとき、押出機内におけるスチレン系樹脂の熱安定性を維持できる、という利点を有する。
【0044】
また、押出発泡体における臭素系難燃剤の含有量が、スチレン系樹脂100重量部に対して、(a)1.0重量部以上である場合、得られる押出発泡体は、難燃性などの諸特性が良好となる、という利点を有し、(b)6.0重量部以下である場合、押出発泡体を製造するときの安定性が良好となり、表面品質に優れる押出発泡体を得ることができる、という利点を有する。
【0045】
(2-5.発泡剤)
本押出発泡体は、さらに発泡剤を含んでいてもよい。換言すれば、本押出発泡体は、当該押出発泡体の製造で使用された発泡剤が残存していてもよい。発泡剤は、押出発泡体の断熱性に寄与し得る。それゆえ、本押出発泡体がさらに発泡剤を含む場合、当該押出発泡体はより断熱性に優れる、という利点を有する。
【0046】
発泡剤としては特に限定されない。本押出発泡体は、発泡剤として、ハイドロフルオロオレフィン、ハイドロクロロオレフィンおよび/または炭素数が3~5である飽和炭化水素を含むことが好ましい。本押出発泡体は、発泡剤として、(a)炭素数が3~5である飽和炭化水素と、(b)水、二酸化炭素、窒素、炭素数が2~5のアルコール類、ジメチルエーテル、塩化メチル、塩化エチル、ハイドロフルオロオレフィンおよびハイドロクロロオレフィンよりなる群から選択される少なくとも一種以上と、を含むことがより好ましい。当該構成によると、炭素数3~5である飽和炭化水素を多く使用する必要が無く、その結果、燃焼性が低くなること、および/またはガスの分散不良が発生しにくいこと、という利点を有する。
【0047】
炭素数3~5の飽和炭化水素としては、例えば、プロパン、n-ブタン、i-ブタン(以下、「イソブタン」とも称する。)、n-ペンタン、i-ペンタン、ネオペンタンなどが挙げられる。これらの炭素数3~5の飽和炭化水素のなかでは、(a)発泡性に優れることから、プロパン、n-ブタンおよびi-ブタンからなる群から選択される少なくとも一種以上が好ましく、(b)断熱性に優れる押出発泡体が得られることから、n-ブタンおよび/またはi-ブタンが好ましく、i-ブタンが特に好ましい。
【0048】
本発明の一実施形態において、発泡剤の使用量は特に限定されない。
【0049】
本押出発泡体の製造において、炭素数が3~5である飽和炭化水素と共に、水、および/またはアルコール類を用いる場合について説明する。この場合、本押出発泡体の製造において、安定して押出発泡成形を行うために、吸水性物質を使用することが好ましく、換言すれば樹脂組成物は吸水性物質を含むことが好ましい。
【0050】
吸水性物質としては、(a)ポリアクリル酸塩系重合体、澱粉/アクリル酸グラフト共重合体、ポリビニルアルコール系重合体、ビニルアルコール/アクリル酸塩系共重合体、エチレン/ビニルアルコール系共重合体、アクリロニトリル/メタクリル酸メチル/ブタジエン系共重合体およびポリエチレンオキシド系共重合体、並びにこれらの誘導体などの吸水性高分子、(b)表面に水酸基を有する体積平均粒子径1000nm以下の微粉末、(c)スメクタイトおよび膨潤性フッ素雲母などの吸水性または水膨潤性の層状珪酸塩、並びにこれらの有機化処理品、(d)ゼオライト、活性炭、アルミナ、シリカ、シリカゲル、多孔質ガラス、活性白土、けい藻土、ベントナイトなどの多孔性物質、などが挙げられる。表面に水酸基を有する体積平均粒子径1000nm以下の微粉末としては、表面にシラノール基を有する無水シリカ(酸化ケイ素)などが挙げられ、例えば、日本アエロジル(株)製のAEROSILなどの市販を使用してもよい。
【0051】
本押出発泡体の製造において、吸水性物質の使用量は、水の使用量などによって、適宜調整され得る。本押出発泡体の製造において、吸水性物質の使用量は、スチレン系樹脂100重量部に対して、0.01重量部~5重量部が好ましく、0.1重量部~3重量部がより好ましい。
【0052】
(2-6.その他添加剤)
本押出発泡体は、本発明の一実施形態に係る効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、上述した成分以外のその他添加剤を含んでいてもよい。その他添加剤としては、顔料などの着色剤、加工助剤、上述した臭素系難燃剤以外の難燃剤、難燃助剤、ラジカル発生剤、安定剤、気泡径調整剤、可塑剤、酸化防止剤および帯電防止剤などが挙げられる。
【0053】
加工助剤としては特に限定されないが、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、流動パラフィン、オレフィン系ワックスなどが挙げられる。脂肪酸金属塩としては特に限定されないが、テアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウムなどが挙げられる。
【0054】
本押出発泡体が難燃助剤をさらに含む場合、当該押出発泡体は優れた難燃性を有する。難燃助剤としては特に限定されないが、リン酸エステルおよびホスフィンオキシドなどのリン系難燃剤などが挙げられる。リン酸エステルとしては、トリフェニルホスフェート、トリス(トリブチルブロモネオペンチル)ホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシリレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリス(2-エチルヘキシル)ホスフェート、トリス(ブトキシエチル)ホスフェート、および縮合リン酸エステルなどが挙げられる。リン酸エステルとしては、トリフェニルホフェートおよびトリス(トリブチルブロモネオペンチル)ホスフェートが好ましい。ホスフィンオキシドとしては、トリフェニルホスフィンオキシドが好適に挙げられる。これらのリン系難燃剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0055】
本押出発泡体がラジカル発生剤をさらに含む場合、当該押出発泡体は優れた難燃性を有する。ラジカル発生剤としては特に限定されないが、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン、ポリ-1,4-ジイソプロピルベンゼン、2,3-ジエチル-2,3-ジフェニルブタン、3,4-ジメチル-3,4-ジフェニルヘキサン、3,4-ジエチル-3,4-ジフェニルヘキサン、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、2,4-ジフェニル-4-エチル-1-ペンテンなどが挙げられる。ラジカル発生剤としては、ジクミルパーオキサイドの様な過酸化物も挙げられる。ラジカル発生剤としては、樹脂組成物の加工温度条件にて、安定である物質が好ましく、例えば、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタンおよびポリ-1,4-ジイソプロピルベンゼンが好ましい。
【0056】
安定剤は、難燃剤の分解を抑制することができる。本押出発泡体が安定剤をさらに含む場合、当該押出発泡体は難燃性および/または熱安定性に優れる押出発泡体が得られるという利点を有する。安定剤としては特に限定されないが、難燃性および熱安定性に優れる押出発泡体を得ることができることから、エポキシ化合物、多価アルコールエステル、フェノール系安定剤およびホスファイト系安定剤などが好適に挙げられる。エポキシ化合物としては、ビスフェノールA-グリシジルエーテル、クレゾールノボラック、フェノールノボラックなどが挙げられる。多価アルコールエステルは、(a)ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールおよびトリペンタエリスリトールなどの多価アルコールと、(b)(b-1)酢酸およびプロピオン酸などの一価のカルボン酸、または、(b-2)アジピン酸およびグルタミン酸などの二価のカルボン酸、との反応物(エステル)である。多価アルコールエステルは、分子中に一個以上の水酸基を持つエステルの混合物であり得、原料の多価アルコールを少量含有することもあり得る。多価アルコールエステルとして、具体的には、ジペンタエリスリトールとアジピン酸との反応混合物(ジペンタエリスリトール/アジピン酸反応混合物)が好適に挙げられる。フェノール系安定剤としては、トリエチレングリコール-ビス-3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、およびオクタデシル3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナートなどが挙げられる。ホスファイト系安定剤としては、3,9-ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、およびテトラキス(2,4-ジ-tert-ブチル-5-メチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイトなどが挙げられる。
【0057】
気泡径調整剤としては、タルクなどが挙げられる。
【0058】
(2-7.見かけ密度)
本押出発泡体の見かけ密度は、40kg/m3以下である限り特に限定されない。本押出発泡体の見かけ密度は、15kg/m3~40kg/m3が好ましく、25kg/m3~40kg/m3がより好ましく、30kg/m3~40kg/m3がさらに好ましい。当該構成を有する押出発泡体は、軽量であり、かつ優れた断熱性を有する。押出発泡体の見かけ密度の測定方法については、下記の実施例にて詳述する。
【0059】
(2-8.独立気泡率)
本押出発泡体の独立気泡率は特に限定されない。本押出発泡体の独立気泡率は、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましい。当該構成を有する押出発泡体は、発泡剤が当該押出発泡体から散逸し難いため、高い断熱性を長期間維持することができる。押出発泡体の独立気泡率の測定方法については、下記の実施例にて詳述する。
【0060】
(2-9.平均気泡径)
本押出発泡体の平均気泡径は特に限定されない。本押出発泡体の平均気泡径は、0.15mm~0.50mmが好ましく、0.15mm~0.40mmがより好ましく、0.15mm~0.30mmが特に好ましい。前記平均気泡径が、(a)0.15mm以上である場合、押出発泡体は高い独立気泡率を有する傾向があり、(b)0.50mm以下である場合、輻射低減効果が得られやすく、押出発泡体は優れた断熱性を有する、という利点を有する。押出発泡体の平均気泡径の測定方法については、下記の実施例にて詳述する。
【0061】
(2-10.熱伝導率)
本押出発泡体の熱伝導率は特に限定されない。本明細書において、押出発泡体の熱伝導率とは、製造してから7日間経過したスチレン系樹脂押出発泡体について、JIS A9511に準じて測定して得られた値である。押出発泡体の熱伝導率の測定方法については、下記の実施例にて詳述する。
【0062】
(2-11.製造方法)
本押出発泡体の製造方法としては特に限定されない。例えば、以下の(Ai)~(Av)を順に行うことにより、本押出発泡体を連続的に得ることができる:(Ai)スチレン系樹脂および導電性酸化チタン、並びに任意で、臭素系難燃剤および/または他の添加剤などを、押出機などの加熱溶融部に供給し、混合して樹脂組成物とする;(Aii)任意の段階で、高圧条件下にて発泡剤を樹脂組成物に添加する;(Aiii)樹脂組成物を加熱し、溶融混練して流動ゲル(換言すれば樹脂溶融物)とする;(Aiv)流動ゲルを押出発泡に適する温度まで冷却する;(Av)流動ゲルを、ダイを通して、押出機よりも低圧の領域下へ押出し、発泡させる。
【0063】
前記(Ai)~(Aiii)では、最終的に、スチレン系樹脂、導電性酸化チタンおよび発泡剤を含む流動ゲルが得られれば良く、具体的な態様は、(Ai)~(Aiii)に限定されない。例えば、以下のような態様であってもよい。
(態様1)スチレン系樹脂と、導電性酸化チタン、並びに任意で臭素系難燃剤および/または他の添加剤などとを混合(例えばドライブレンド)し、樹脂組成物を得る。その後、得られた樹脂組成物を加熱し、溶融混練し、流動ゲルを得る。その後、得られた流動ゲルに高圧条件下にて発泡剤を添加する。
(態様2)スチレン系樹脂を加熱し、溶融混練し、流動ゲルを得る。その後、得られた流動ゲルに、導電性酸化チタン、並びに任意で、臭素系難燃剤および/または他の添加剤などを添加する。さらに、高圧条件下にて流動ゲルに発泡剤を添加し、混合する。
(態様3)スチレン系樹脂と、導電性酸化チタン、並びに任意で臭素系難燃剤および/または他の添加剤などとを混合(例えばドライブレンド)し、樹脂組成物を得る。その後、得られた樹脂組成物を加熱し、溶融混練し、流動ゲルを得る。その後、得られた流動ゲルを押出機に供給した後、流動ゲルを再度加熱し、溶融混練するとともに、任意の段階で高圧条件下にて発泡剤を添加する。
【0064】
樹脂組成物または流動ゲルを加熱し溶融混練するときの加熱温度、溶融混練時間、加熱溶融部および溶融混練部については、特に限定されない。
【0065】
樹脂組成物または流動ゲルを加熱し溶融混練するときの加熱温度は、加熱溶融部における加熱温度ともいえる。加熱温度としては、使用するスチレン系樹脂が溶融する温度以上であればよい。加熱温度は、難燃剤などの影響も含め、スチレン系樹脂の分子劣化ができる限り抑制される温度が好ましく、例えば160℃~240℃が好ましく、160℃~230℃がより好ましい。
【0066】
溶融混練時間は、単位時間当たりの樹脂組成物(流動ゲル)の押出量、並びに/または、加熱溶融部および溶融混練部として用いられる押出機の種類により異なるため、一義的に規定することはできない。溶融混練時間は、スチレン系樹脂と導電性酸化チタンと発泡剤と任意で使用されるその他の添加剤とが均一に分散混合した流動ゲルを得るために必要な時間として、適宜設定され得る。
【0067】
加熱溶融部および溶融混練部は同じであってもよい。すなわち、一つの装置を用いて、樹脂組成物を加熱し、溶融混練してもよい。加熱溶融部および溶融混練部としては、例えばスクリュー型の押出機などが挙げられるが、通常の押出発泡に用いられる装置であれば特に制限されない。
【0068】
押出機(押出装置)から押出された樹脂組成物(流動ゲル)の発泡成形方法としては、例えば、次の(i)および(ii)の順で成形する方法が挙げられる:(i)押出成形用に使用される、開口部が直線のスリット形状を有するスリットダイを通じて、高圧領域(押出装置内)から低圧領域下へ樹脂組成物を押出すことにより、押出発泡体を得る;(2)得られた押出発泡体を、(a)スリットダイと密着または接して設置された成形金型、および(b)当該成形金型の下流側に隣接して設置された成形ロール、などを用いて、断面積の大きい板状発泡体に成形する。成形金型の流動面形状の調整および金型温度の調整によって、所望の断面形状、表面品質および品質を有する押出発泡体を得ることができる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明の一実施形態について、実施例および比較例を用いて詳細に説明する。なお、本発明が以下の実施例に限定されないことは勿論である。
【0070】
実施例および比較例にて使用した主な原料は、下記の通りである。
○スチレン系樹脂
・スチレン系樹脂[PSジャパン(株)製、G9401;MFR2.2g/10分]
○輻射低減剤
・導電性酸化チタンA[石原産業(株)製、ET-500W;一次粒子径0.2μm~0.3μm、球形、体積抵抗値4Ω・cm]。
・導電性酸化チタンB[石原産業(株)製、ET-300W;一次粒子径0.03μm~0.06μm、球形、体積抵抗値20Ω・cm]
・導電性酸化チタンC[石原産業(株)製、FT-3000;長軸径5.15μm、短軸径0.27μm、アスペクト比(L/D)=19、非球形(針状)、体積抵抗値30Ω・cm]
・導電性酸化チタンD[石原産業(株)製、FT-1000;長軸径1.63μm、短軸径0.13μm、アスペクト比(L/D)=13、非球形(針状)、体積抵抗値5Ω・cm]
・酸化チタンA[堺化学工業(株)製、R-62N;一次粒子径0.26μm、球形]
・酸化チタンB[テイカ(株)、JR-1000;一次粒子径1.0μm、球形]
・黒鉛(グラファイト)[(株)丸豊鋳材製作所製、M-885;非球形(鱗状(鱗片状))の黒鉛、一次粒子径5.5μm、固定炭素分89%]
○難燃剤
・テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピル)エーテルおよびテトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピル)エーテルからなる混合臭素系難燃剤[第一工業製薬(株)製、GR-125P]
○吸水性物質
・ベントナイト[(株)ホージュン製、ベンゲルブライトK11]
・シリカ[エボニックデグサジャパン(株)製、カープレックスBS-304F]
○その他添加剤
(難燃助剤)
・トリフェニルホスフィンオキシド[住友商事ケミカル]
(ラジカル発生剤)
・ポリ-1,4-ジイソプロピルベンゼン[UNITED INITIATORS製、CCPIB]
(安定剤)
・ビスフェノール-A-グリシジルエーテル[(株)ADEKA製、EP-13]。
・トリエチレングリコール-ビス-3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート[Songwon Japan(株)製、ソンノックス2450FF]
・ジペンタエリスリトール/アジピン酸反応混合物[味の素ファインテクノ(株)製、プレンライザーST210]
(加工助剤)
・ステアリン酸カルシウム[堺化学工業(株)製、SC-P]
(気泡径調整剤)
・タルク[林化成(株)製、タルカンパウダーPK-Z]
○発泡剤
・イソブタン [三井化学(株)製]
・ジメチルエーテル [岩谷産業(株)製]
・水 [水道水]
実施例および比較例にて実施した測定方法および評価方法は、次の通りである。
【0071】
(1)見かけ密度(kg/m3)
各実施例および比較例にて得られたスチレン系樹脂押出発泡体の重量および体積を測定した。以下の式に基づいてスチレン系樹脂押出発泡体の見かけ密度(g/cm3)を求め、単位をkg/m3に換算した。
見かけ密度(g/cm3)=発泡体重量(g)/発泡体体積(cm3)。
【0072】
(2)独立気泡率
各実施例および比較例にて得られたスチレン系樹脂押出発泡体について、押出装置から押出される方向を押出方向とし、押出方向に垂直な面の長手方向を幅方向とし、押出方向に垂直な面の短手方向を厚さ方向とした。また、押出発泡体の押出方向の長さを押出発泡体の長さとし、押出発泡体の幅方向の長さを押出発泡体の幅とし、押出発泡体の厚さ方向の長さを押出発泡体の厚さとした。スチレン系樹脂押出発泡体の幅方向中央部の場所の3箇所各々から、厚さ30mm×長さ(押出方向)25mm×幅25mmの試験片を切り出した。3つの試験片について、ASTM-D2856-70の手順Cに従って体積等を測定し、以下の計算式にて各試験片の独立気泡率を求めた。3つの試験片の平均値をスチレン系樹脂押出発泡体の独立気泡率とした。
独立気泡率(%)=(V1-W/ρ)×100/(V2-W/ρ)。
ここで、V1(cm3)は空気比較式比重計[東京サイエンス(株)製、空気比較式比重計、型式1000型]を用いて測定した、試験片の真の体積である。真の体積とは、独立気泡でない部分の容積が除かれた体積である。V2(cm3)は、ノギス[ミツトヨ(株)製、M型標準ノギスN30]を用いて測定した、試験片の寸法より算出した見掛けの体積である。W(g)は試験片の全重量である。また、ρ(g/cm3)はスチレン系樹脂押出発泡体の製造に使用したスチレン系樹脂の密度である。各実施例および比較例にて使用したスチレン系樹脂の密度ρは、1.05(g/cm3)とした。
【0073】
(3)平均気泡径
各実施例および比較例にて得られたスチレン系樹脂押出発泡体の幅方向断面(TD)、厚さ方向断面(HD)、押出方向断面(MD)のそれぞれについて、ASTM D-3576に準じて、マイクロスコープ[(株)KEYENCE製、DIGITAL MICROSCOPE VHX-900]を用いて、100倍に拡大した画像を撮影した。
【0074】
次に、得られた画像において、任意の位置で100mmの直線を描いた。各画像において、直線上にある気泡の個数を数え、次式により、スチレン系樹脂押出発泡体の気泡の平均弦長(t)を算出した。
平均弦長t(μm)=100/(気泡数×画像の拡大倍数)。
【0075】
次の式により、スチレン系樹脂押出発泡体の気泡の気泡径(D)を算出した。
気泡径D(μm)=t/0.616。
【0076】
スチレン系樹脂押出発泡体の平均気泡径は、各方向に垂直な断面の画像から算出された気泡径の積を3条根した値であり、具体的には以下の式より算出した。
平均気泡径=(HD画像の気泡径×TD画像の気泡径×MD画像の気泡径)1/3
(4)イソブタン残存量
各実施例および比較例にて得られたスチレン系樹脂押出発泡体をJIS K7100に規定された標準温度状態3級(23℃±5℃)、および標準湿度状態3級(50+20、-10%R.H.)の条件下に7日間静置した。7日間の静置後、すなわち押出発泡体を製造してから7日間経過後の押出発泡体について、イソブタン残存量を以下の設備および手順にて評価した。
【0077】
(a)使用機器;ガスクロマトグラフ GC-2014 [(株)島津製作所製]
(b)使用カラム;G-Column G-950 25UM [化学物質評価研究機構製]
(c)測定条件;
・注入口温度:65℃
・カラム温度:80℃
・検出器温度:100℃
・キャリーガス:高純度ヘリウム
・キャリーガス流量:30mL/分
・検出器:TCD
・電流:120mA
具体的な操作手順は以下の通りである。約130ccの容積を有する密閉可能なガラス容器(以下、「密閉容器」と言う)に、押出発泡体から重量が約1.2gとなるように切り出した試験片を入れた。次に、真空ポンプにより密閉容器内の空気を抜いた。その後、密閉容器を170℃で10分間加熱し、押出発泡体中の発泡剤を密閉容器内に取り出した。密閉容器が常温に戻った後、密閉容器内にヘリウムを導入して、密閉容器内の圧力を大気圧に戻した後、マイクロシリンジにより密閉容器の気体を40μL取り出し、上記(a)~(c)の使用機器、測定条件にて評価した。なお、密閉容器内の気体は、ヘリウム、イソブタン、ジメチルエーテルおよび空気の混合気体であった。
【0078】
(5)熱伝導率(W/mK)
各実施例および比較例にて得られたスチレン系樹脂押出発泡体について、製造してから7日間経過した当該スチレン系樹脂押出発泡体の熱伝導率を、JIS A9511に準じて測定した。熱伝導率の測定には、厚み25mm、幅100mm、長さ300mmのスチレン系樹脂押出発泡体3枚を幅方向に並べて得られる厚み25mm、幅300mm、長さ300mmの1枚の試験体を、測定用試料として使用した。
【0079】
(6)導電性酸化チタンの体積抵抗値(Ω・cm)
導電性酸化チタン1gを9.8MPaの圧力により円柱状(円柱の直径18mmφ、円柱の断面積2.5cm2)に成形し、測定用の試料を得た。得られた試料について、直流抵抗を、デジタルマルチメーター(Model3457A型:ヒューレットパッカード製)を用いて測定し、下式により体積抵抗値(Ω・cm)を算出した。
体積抵抗値(Ω・cm)=測定値(Ω)×円柱の断面積(cm2)/円柱の高さ(cm)
各実施例および比較例について説明する。
【0080】
(実施例1)
[樹脂組成物の作製]
(a)スチレン系樹脂100重量部、(b)輻射低減剤として導電性酸化チタンA(ET-500W)3.0重量部、(c)難燃剤として、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2、3-ジブロモ-2-メチルプロピル)エーテルおよびテトラブロモビスフェノールA-ビス(2、3-ジブロモプロピル)エーテルからなる混合臭素系難燃剤(GR-125P)3.0重量部、(d)難燃助剤としてトリフェニルホスフィンオキシド1.0重量部、(e)安定剤として、多価アルコールエステルであるジペンタエリスリトール/アジピン酸反応混合物(プレンライザーST210)0.1重量部、ビスフェノール-A-グリシジルエーテル(EP-13)0.2重量部およびトリエチレングリコール-ビス-3-(3-t-ブチルー4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート(ソンノックス2450FF)0.2重量部、(f)気泡径調整剤として、タルク(タルカンパウダーPK-Z)1.0重量部、(g)加工助剤としてステアリン酸カルシウム(SC-P)0.2重量部、並びに(h)吸水性物質として、ベントナイト(ベンゲルブライトK11)0.4重量部およびシリカ(カープレックスBS-304F)0.4重量部をドライブレンドし、樹脂組成物を作製した。
【0081】
[押出発泡体の作製]
口径65mmの単軸押出機(第一押出機)、口径90mmの単軸押出機(第二押出機)および冷却機をこの順に直列に連結した押出装置の第一押出機内へ、得られた樹脂組成物を、約50kg/時で供給した。
【0082】
第一押出機に供給した樹脂組成物を、樹脂温度230℃に加熱して可塑化および溶融混練し、流動ゲルとした。次に、発泡剤として、スチレン系樹脂100重量部に対して、イソブタン3.5重量部、ジメチルエーテル2.0重量部および水0.7重量部を、第一押出機の出口付近で流動ゲル中に圧入した。その後、第一押出機に連結された第二押出機及び冷却機中にて、流動ゲルの温度(樹脂温度)を約123℃まで冷却した。次に、冷却機の出口に設けられた厚さ2mm×幅40mmの長方形断面の口金(スリットダイ)を通して、流動ゲルを、押出装置の冷却機から大気圧下へ押出して発泡させた。その後、口金に密着させて設置した成形金型とその下流側に設置した成形ロールにより、厚さ40mm×幅150mmである断面形状を有する押出発泡体を得、当該押出発泡体をカッターにて厚み25mm×幅100mm×長さ1500mmにカットした。得られた押出発泡体について上述した各測定および評価を行った。得られた押出発泡体の測定および評価結果を表1に示す。
【0083】
(実施例2)
導電性酸化チタンA3.0重量部の代わりに、導電性酸化チタンB(ET-300W)3.0重量部を使用したほかは実施例1と同じ方法で押出発泡体を得た。得られた押出発泡体の測定および評価結果を表1に示す。
【0084】
(実施例3)
導電性酸化チタンA3.0重量部の代わりに、導電性酸化チタンC(FT-3000)を使用したほかは実施例1と同じ方法で押出発泡体を得た。得られた押出発泡体の測定および評価結果を表1に示す。
【0085】
(実施例4)
導電性酸化チタンA3.0重量部の代わりに、導電性酸化チタンD(FT-1000)を使用したほかは実施例1と同じ方法で押出発泡体を得た。得られた押出発泡体の測定および評価結果を表1に示す。
【0086】
(実施例5)
導電性酸化チタンA(ET-500W)3.0重量部の代わりに、導電性酸化チタンB(ET-500W)2重量部および導電性酸化チタンC(FT-3000)1重量部を使用したほかは実施例1と同じ方法で押出発泡体を得た。得られた押出発泡体の測定および評価結果を表1に示す。得られた発泡体の評価結果を表1に示す。
【0087】
(比較例1)
輻射低減剤を使用しないほかは実施例1と同じ方法で押出発泡体を得た。得られた発泡体の測定および評価結果を表2に示す。
【0088】
(比較例2)
導電性酸化チタンA3.0重量部の代わりに、酸化チタンA(R-62N)3.0重量部を使用したほかは、実施例1と同じ方法で押出発泡体を得た。得られた押出発泡体の測定および評価結果を表2に示す。
【0089】
(比較例3)
導電性酸化チタンA3.0重量部の代わりに、酸化チタンB(JR-1000)3.0重量部を使用したほかは、実施例1と同じ方法で押出発泡体を得た。得られた押出発泡体の測定および評価結果を表2に示す。
【0090】
(比較例4)
導電性酸化チタンA3.0重量部の代わりに、黒鉛(M-885)3.0重量部を使用したほかは、実施例1と同じ方法で押出発泡体を得た。得られた押出発泡体の測定および評価結果を表2に示す。
【0091】
【0092】
【0093】
実施例1~5の押出発泡体は、輻射低減剤を使用していない比較例1および導電性を有しない一般的な酸化チタンを使用した比較例2~3の押出発泡体と比較して、熱伝導率が低く、独立気泡率が95%以上と独立気泡率が高く、かつ断熱性に優れることがわかる。
【0094】
また、黒鉛単体を使用した比較例4の押出発泡体は、黒鉛の造核作用により平均気泡径が小さくなり、見かけ密度と平均気泡径のバランスを調整するのが難しく、その結果高密度であった。一方、導電性酸化チタンは、見かけ密度と平均気泡径のバランス調整が容易となり低密度化に有利である。実施例1~5の押出発泡体は、見かけ密度が小さく、本発明の一実施形態に係る導電性酸化チタンを使用して得られた押出発泡体の方が見かけ密度の軽量化に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の一実施形態によると、独立気泡率が高く、低密度であり、かつ断熱性に優れるスチレン系樹脂押出発泡体を提供できる。それ故、本発明の一実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡体は、構造物の断熱材として好適に利用できる。