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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】液状レオロジー改質剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20240514BHJP
   C04B 24/12 20060101ALI20240514BHJP
   C04B 24/20 20060101ALI20240514BHJP
   C04B 24/04 20060101ALI20240514BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20240514BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20240514BHJP
   C04B 103/44 20060101ALN20240514BHJP
   C04B 103/40 20060101ALN20240514BHJP
   C04B 111/74 20060101ALN20240514BHJP
【FI】
C09K3/00 103H
C04B24/12 A
C04B24/20
C04B24/04
C04B28/02
C04B24/26 E
C04B103:44
C04B103:40
C04B111:74
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020098206
(22)【出願日】2020-06-05
(65)【公開番号】P2021188022
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】岡田 康平
(72)【発明者】
【氏名】寺井 久登
(72)【発明者】
【氏名】長澤 浩司
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-280502(JP,A)
【文献】特開2015-113243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
C09K 3/20 - 3/32
C04B 2/00 - 32/02
C04B 40/00 - 40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1A)で示される化合物(以下、(A)成分という)、(B)アニオン性芳香族化合物(以下、(B)成分という)、及び(C)炭素数8以下の脂肪酸又はその塩(以下、(C)成分という)を配合してなる、液状レオロジー改質剤(但し、ジカルボン酸又はその塩を配合してなるものを除く。)
【化1】

(式中、R1aは炭素数10以上26以下のアルキル基又は炭素数10以上26以下のアルケニル基、R2aは炭素数1以上22以下のアルキル基、炭素数1以上22以下のアルケニル基、又は炭素数1以上22以下のヒドロキシアルキル基、R3a、R4aは、それぞれ、炭素数1以上3以下のアルキル基又は炭素数1以上3以下のヒドロキシアルキル基、Yはエチレン基又はプロピレン基、nは0又は1の数、Xはアニオン性芳香族化合物に由来するアニオン基を表す。)
【請求項2】
(A)成分の配合量と(B)成分の配合量との質量比(B)/(A)が、0.01以上0.5以下である、請求項1に記載の液状レオロジー改質剤。
【請求項3】
(A)成分の配合量と(C)成分の配合量との質量比(C)/(A)が、0.001以上0.1以下である、請求項1又は2に記載の液状レオロジー改質剤。
【請求項4】
水硬性組成物用である、請求項1~3の何れか1項に記載の液状レオロジー改質剤。
【請求項5】
(A)下記一般式(1A)で示される化合物(以下、(A)成分という)、(B)アニオン性芳香族化合物(以下、(B)成分という)、及び(C)炭素数8以下の脂肪酸又はその塩(以下、(C)成分という)を混合する、液状レオロジー改質剤の製造方法(但し、ジカルボン酸又はその塩を混合するもの除く。)
【化2】

(式中、R1aは炭素数10以上26以下のアルキル基又は炭素数10以上26以下のアルケニル基、R2aは炭素数1以上22以下のアルキル基、炭素数1以上22以下のアルケニル基、又は炭素数1以上22以下のヒドロキシアルキル基、R3a、R4aは、それぞれ、炭素数1以上3以下のアルキル基又は炭素数1以上3以下のヒドロキシアルキル基、Yはエチレン基又はプロピレン基、nは0又は1の数、Xはアニオン性芳香族化合物に由来するアニオン基を表す。)
【請求項6】
(A)下記一般式(1A)で示される化合物(以下、(A)成分という)、(B)アニオン性芳香族化合物(以下、(B)成分という)、(C)炭素数8以下の脂肪酸又はその塩(以下、(C)成分という)、水硬性粉体、骨材、及び水を配合してなる、水硬性組成物(但し、ジカルボン酸又はその塩を配合してなるものを除く。)
【化3】

(式中、R1aは炭素数10以上26以下のアルキル基又は炭素数10以上26以下のアルケニル基、R2aは炭素数1以上22以下のアルキル基、炭素数1以上22以下のアルケニル基、又は炭素数1以上22以下のヒドロキシアルキル基、R3a、R4aは、それぞれ、炭素数1以上3以下のアルキル基又は炭素数1以上3以下のヒドロキシアルキル基、Yはエチレン基又はプロピレン基、nは0又は1の数、Xはアニオン性芳香族化合物に由来するアニオン基を表す。)
【請求項7】
更に(F)分散剤を配合してなる、請求項6に記載の水硬性組成物。
【請求項8】
前記水硬性組成物中の水と水硬性粉体の質量百分率(水/水硬性粉体比)が、30質量%以上60質量%以下である、請求項6又は7に記載の水硬性組成物。
【請求項9】
JIS A 1101法によるスランプフロー値が40cm以上80cm以下である、請求項6~8の何れか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項10】
高流動コンクリート用、水中不分離コンクリート用、軽量高流動コンクリート用、透水性コンクリート用、場所打ちライニング工法(ECL工法)用、又はSENS工法用である、請求項6~9の何れか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項11】
(A)下記一般式(1A)で示される化合物(以下、(A)成分という)、(B)アニオン性芳香族化合物(以下、(B)成分という)、(C)炭素数8以下の脂肪酸又はその塩(以下、(C)成分という)、水硬性粉体、骨材、及び水を混合する、水硬性組成物の製造方法(但し、ジカルボン酸又はその塩を混合するものを除く。)
【化4】

(式中、R1aは炭素数10以上26以下のアルキル基又は炭素数10以上26以下のアルケニル基、R2aは炭素数1以上22以下のアルキル基、炭素数1以上22以下のアルケニル基、又は炭素数1以上22以下のヒドロキシアルキル基、R3a、R4aは、それぞれ、炭素数1以上3以下のアルキル基又は炭素数1以上3以下のヒドロキシアルキル基、Yはエチレン基又はプロピレン基、nは0又は1の数、Xはアニオン性芳香族化合物に由来するアニオン基を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状レオロジー改質剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、水と粉体からなるスラリーにおいて粘性等のレオロジー物性を制御するには、水と粉体の比率を調節したり、pH調整剤などにより粒子の分散状態を変えたり、あるいは、吸水性ポリマーを添加して余剰水量を制御したりする等の技術や、水溶性高分子化合物をスラリー系に添加して高分子の絡み合いによる増粘作用を利用する技術が使われてきた。
【0003】
特許文献1には、カチオン性界面活性剤から選ばれる化合物(A)、アニオン性芳香族化合物から選ばれる化合物(B)、ジカルボン酸(C)、及びモノカルボン酸(D)を含有する液状レオロジー改質剤であって、ジカルボン酸(C)として、炭素数4~6のジカルボン酸(C1)から選ばれる1種以上と、炭素数8~10のジカルボン酸(C2)から選ばれる1種以上とを含有し、(C1)/(C2)重量比及び(C)/(D)重量比が、それぞれ特定範囲にある液状レオロジー改質剤が開示されている。特許文献1のレオロジー改質剤は、液状で1剤の形態であり、それ自体は取り扱い性の良い粘度を有し、スラリー等に添加した場合に、低温から高温までの幅広い温度域での増粘効果等、改質効果を維持でき、特に高温での増粘効果に優れている。
特許文献2には、(1)カチオン性界面活性剤から選ばれる化合物(A)及びアニオン性芳香族化合物から選ばれる化合物(B)の組み合わせ、(2)カチオン性界面活性剤から選ばれる化合物(A)及び臭化化合物から選ばれる化合物(B)の組み合わせ、からなる群より選択される化合物(A)、化合物(B)と、ジカルボン酸(C)とを含有する液状レオロジー改質剤が開示されている。特許文献2のレオロジー改質剤は、液状で1剤の形態であり、それ自体は取り扱い性の良い粘度を有し、且つスラリー等に添加した場合の増粘効果等、改質効果を維持できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-74182号公報
【文献】特開2008-280502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、液状で1剤の形態であり、水硬性組成物に添加した場合に、水中分離抵抗性及び抑泡性に優れる、液状レオロジー改質剤、及びその製造方法、並びに水中分離抵抗性及び抑泡性に優れる、水硬性組成物、及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、(A)下記一般式(1A)で示される化合物(以下、(A)成分という)、(B)アニオン性芳香族化合物(以下、(B)成分という)、及び(C)炭素数8以下の脂肪酸又はその塩(以下、(C)成分という)を配合してなる、液状レオロジー改質剤に関する。
【0007】
【化1】
【0008】
(式中、R1aは炭素数10以上26以下のアルキル基又は炭素数10以上26以下のアルケニル基、R2aは炭素数1以上22以下のアルキル基、炭素数1以上22以下のアルケニル基、又は炭素数1以上22以下のヒドロキシアルキル基、R3a、R4aは、それぞれ、炭素数1以上3以下のアルキル基又は炭素数1以上3以下のヒドロキシアルキル基、Yはエチレン基又はプロピレン基、nは0又は1の数、Xはアニオン性芳香族化合物に由来するアニオン基を表す。)
【0009】
また本発明は、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を混合する、液状レオロジー改質剤の製造方法に関する。
【0010】
また本発明は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、水硬性粉体、骨材、及び水を配合してなる、水硬性組成物に関する。
【0011】
また本発明は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、水硬性粉体、骨材、及び水を混合する、水硬性組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、液状で1剤の形態であり、水硬性組成物に添加した場合に、水中分離抵抗性及び抑泡性に優れる、液状レオロジー改質剤、及びその製造方法、並びに水中分離抵抗性及び抑泡性に優れる、水硬性組成物、及びその製造方法が提供される。
本発明の液状レオロジー改質剤及び水硬性組成物は、抑泡性に優れ、水硬性組成物中の空気量を抑制できるため、水硬性組成物の硬化強度を高めることができる。
また本発明の液状レオロジー改質剤及び水硬性組成物は、水中分離抵抗性に優れるため、ポンプ圧送性と材料分離抵抗性を必要とする用途において効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[液状レオロジー改質剤]
<(A)成分>
本発明の(A)成分は一般式(1A)で示される化合物である。
本発明の(A)成分は、レオロジー改質対象物の組成物中で紐状ミセル等の会合対構造を形成し、その構造形成によりレオロジー改質効果を発現するものである。
【0014】
一般式(1A)中、R1aは、高いレオロジー改質効果を得る観点から、炭素数10以上、好ましくは12以上、より好ましくは14以上、更に好ましくは16以上、そして、26以下、好ましくは24以下、より好ましくは22以下、更に好ましくは20以下、より更に好ましくは18以下のアルキル基又アルケニル基、好ましくはアルキル基である。
一般式(1A)中、R2aは、水への溶解性の観点から、炭素数1以上、そして、22以下、好ましくは18以下、より好ましくは14以下、更に好ましくは10以下、より更に好ましくは6以下、より更に好ましくは2以下のアルキル基、アルケニル基、又ヒドロキシアルキル基、好ましくはヒドロキシアルキル基である。
一般式(1A)中、Yはエチレン基又はプロピレン基、nは0又は1、好ましくは0の数である。
【0015】
一般式(1A)中、Xはアニオン性芳香族化合物に由来するアニオン基である。アニオン性芳香族化合物に由来するアニオン基としては、芳香環を有するカルボン酸、芳香環を有するホスホン酸、及び芳香環を有するスルホン酸から選ばれる1種以上のアニオン性芳香族化合物に由来するアニオン基が挙げられる。Xは、具体的には、サリチル酸、p-トルエンスルホン酸、スルホサリチル酸、安息香酸、m-スルホ安息香酸、p-スルホ安息香酸、4-スルホフタル酸、5-スルホイソフタル酸、p-フェノールスルホン酸、m-キシレン-4-スルホン酸、クメンスルホン酸、メチルサリチル酸、スチレンスルホン酸、及びクロロ安息香酸から選ばれる1種以上のアニオン性芳香族化合物に由来するアニオン基が挙げられ、セメントの凝結への影響の観点から、p-トルエンスルホン酸、p-フェノールスルホン酸、m-キシレン-4-スルホン酸、クメンスルホン酸及びスチレンスルホン酸から選ばれる1種以上のアニオン性芳香族化合物に由来するアニオン基が好ましく、p-トルエンスルホン酸、及びm-キシレン-4-スルホン酸、クメンスルホン酸及びスチレンスルホン酸から選ばれる1種以上のアニオン性芳香族化合物に由来するアニオン基がより好ましく、p-トルエンスルホン酸に由来するアニオン基が更に好ましい。
【0016】
<(B)成分>
本発明の(B)成分は、アニオン性芳香族化合物である。
本発明の(B)成分は、水硬性組成物中の水中不分離抵抗性に寄与する成分である。
【0017】
(B)成分としては、芳香環を有するカルボン酸、芳香環を有するホスホン酸、芳香環を有するスルホン酸、及びこれらの塩から選ばれる1種以上のアニオン性芳香族化合物が挙げられる。(B)成分は、具体的には、サリチル酸、p-トルエンスルホン酸、スルホサリチル酸、安息香酸、m-スルホ安息香酸、p-スルホ安息香酸、4-スルホフタル酸、5-スルホイソフタル酸、p-フェノールスルホン酸、m-キシレン-4-スルホン酸、クメンスルホン酸、メチルサリチル酸、スチレンスルホン酸、クロロ安息香酸、及びこれらの塩から選ばれる1種以上のアニオン性芳香族化合物が挙げられ、セメントの凝結への影響の観点から、p-トルエンスルホン酸、m-キシレン-4-スルホン酸、p-フェノールスルホン酸、クメンスルホン酸、スチレンスルホン酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上のアニオン性芳香族化合物が好ましく、p-トルエンスルホン酸、m-キシレン-4-スルホン酸、クメンスルホン酸、スチレンスルホン酸及びこれらの塩もしくは水和物から選ばれる1種以上のアニオン性芳香族化合物がより好ましく、m-キシレン-4-スルホン酸又はその塩が更に好ましい。
【0018】
<(C)成分>
本発明の(C)成分は、炭素数8以下の脂肪酸である。
本発明の(C)成分は、水硬性組成物の抑泡性と水中不分離抵抗性向上の効果に寄与する成分である。
【0019】
(C)成分は、抑泡性と水中不分離抵抗性向上の観点から、炭素数8以下、そして、好ましくは4以上、より好ましくは6以上の脂肪酸又はその塩である。
(C)成分は、具体的には、カプリル酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、ペンタン酸、ブタン酸、及びこれらの塩から選ばれる1種以上が挙げられ、入手性や臭気性の観点から、カプリル酸、ヘキサン酸、及びこれらの塩から選ばれる1種以上が好ましい。
【0020】
<組成等>
本発明の液状レオロジー改質剤は、(A)成分を、製品安定性の観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは質量15%以上、より更に好ましくは20質量%以上、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、より更に好ましくは25質量%以下配合してなる。
【0021】
本発明の液状レオロジー改質剤は、(B)成分を、水硬性組成物の高い水中不分離抵抗性を得る観点から、好ましくは質量0.05質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、より更に好ましくは1.5質量%以上、より更に好ましくは2質量%以上、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7.5質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、より更に好ましくは4質量%以下、より更に好ましくは3質量%以下配合してなる。
【0022】
本発明の液状レオロジー改質剤は、(C)成分を、水硬性組成物の抑泡性の観点から、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、より更に好ましくは0.2質量%以上、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下、より更に好ましくは1質量%以下、より更に好ましくは0.5質量%以下、より更に好ましくは0.3質量%以下配合してなる。
【0023】
本発明の液状レオロジー改質剤において、(A)成分の配合量と(B)成分の配合量との質量比(B)/(A)は、高温下でも水硬性組成物の水中不分離性を維持する観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.03以上、更に好ましくは0.05以上、より更に好ましくは0.75以上、そして、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.2以下、より更に好ましくは0.15以下である。
【0024】
本発明の液状レオロジー改質剤において、(A)成分の配合量と(C)成分の配合量との質量比(C)/(A)は、水硬性組成物の抑泡性の観点から、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.003以上、更に好ましくは0.005以上、そして、好ましくは0.1以下、より好ましくは0.075以下、更に好ましくは0.05以下、より更に好ましくは0.03以下、より更に好ましくは0.02以下である。
【0025】
本発明の液状レオロジー改質剤は1液の形態でありながら粘度は低いものであって、水溶液中にレオロジー改質剤を添加した場合と同様に、例えば水やスラリーに加えた際でもレオロジー改質剤と水とを含む混合物の粘度が高くなるものである。
本発明の液状レオロジー改質剤に用いられる(A)成分は、レオロジー改質対象物の組成物中で紐状ミセル等の会合体構造を形成し、その構造形成によりレオロジー改質効果を発現するものである。
本発明の液状レオロジー改質剤は、希釈水中で(A)成分が会合体構造を形成することが好ましく、会合体構造は紐状ミセルであることが好ましい。
すなわち本発明の液状レオロジー改質剤は、希釈水中で、(A)成分から形成される紐状ミセルを含有することができる。
【0026】
本発明の(A)成分の紐状ミセルの確認、例えば水中で紐状ミセルが形成していることは電子顕微鏡写真により確認できる。
また本発明の(A)成分が、水中で紐状ミセルを形成していることは、(A)成分と水を含む組成物の動的粘弾性がMaxwell型に類似した挙動を示すことにより判断できる。この挙動は「界面活性剤水溶液の粘弾性特性」(四方俊幸、表面 vol.29、No5(1991)、p399-499)の記載から、有限の分子量を有する高分子状構造の絡み合いを示唆するものであり、無限の分子量を有する完全な紐状ミセル形状ではないが、実用上有用な粘弾性を発現するために十分な長さの紐状ミセルが形成していると推察することが出来る。
【0027】
本発明の液状レオロジー改質剤は、下記標準試験(I)において、攪拌停止時に溶液に巻き返しが観察されるものが好ましい。また、本発明の液状レオロジー改質剤は、下記標準試験(II)において、攪拌停止時に溶液に巻き返しが観察されるものが好ましい。更に、下記標準試験(I)及び(II)の両方において、攪拌停止時に溶液に巻き返しが観察されるものが好ましい。ここでいう巻き返しとは、溶液内の会合体が絡み合いを生じ、弾性的性質を有することを意味しており、溶液に巻き込まれた気泡が攪拌停止時に回転方向と逆向きに移動する状態のことを言う。巻き返しが生じることによって、水酸化カリウム水溶液と液状レオロジー改質剤の混合溶液中に、(A)成分により紐状ミセル等の会合体構造が形成されたと推定される。
標準試験(I):200mLビーカーに0.1N-水酸化カリウム水溶液90mL、液状レオロジー改質剤10mLを加え、直径6mmのガラス棒で4回転/秒で180秒間攪拌する。
標準試験(II):200mLビーカーに0.1N-水酸化カリウム水溶液95mL、液状レオロジー改質剤5mLを加え、直径6mmのガラス棒で4回転/秒で180秒間攪拌する。
【0028】
上記標準試験(I)、(II)の何れも、撹拌でのガラス棒は底まで入れ、回転は壁面に沿って行う。攪拌停止後に目視観察を行い、回転方向と逆向き方向に気泡の移動が観察された場合、気泡の巻き返し有りと判断する。
【0029】
本発明のレオロジー改質剤は液状であり、水を配合してなることが好ましい。本発明の液状レオロジー改質剤は、水を、引火点の観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは12.5質量%以上、更に好ましくは15質量%以上、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下配合してなる。
【0030】
本発明の液状レオロジー改質剤は、取り扱い性の良い粘度を有する一液型の形態とする観点から、(D)成分として、オクタノール/水分配係数が-1.6以上1.2以下である、ヒドロキシ基を有する化合物を配合してなることが好ましい。
【0031】
本発明において、(D)成分のオクタノール/水分配係数は、logP値で表される、有機化合物の水と1-オクタノールに対する親和性を示す係数である。1-オクタノール/水分配係数Pは、1-オクタノールと水の2液相の溶媒に微量の化合物が溶質として溶け込んだときの分配平衡で、それぞれの溶媒中における化合物の平衡濃度の比であり、底10に対するそれらの対数logPの形で示すのが一般的である。多くの化合物のlogP値が報告されており、Daylight Chemical Information Systems, Inc. (Daylight CIS)などから入手しうるデータベースには多くの値が掲載されているので参照できる。実測のlogP値がない場合には、Daylight CISから入手できるプログラム“CLOGP"等で計算することができる。このプログラムは、実測のlogP値がある場合にはそれと共に、Hansch, Leoのフラグメントアプローチにより算出される“計算logP(ClogP)”の値を出力する。
【0032】
フラグメントアプローチは化合物の化学構造に基づいており、原子の数及び化学結合のタイプを考慮している(cf. A. Leo, Comprehensive Medicinal Chemistry, Vol.4, C. Hansch,P.G.Sammens, J.B. Taylor and C.A. Ramsden, Eds., p.295, Pergamon Press, 1990)。このClogP値を、化合物の選択に際して実測のlogP値の代わりに用いることができる。本発明では、logPの実測値があればそれを、無い場合はプログラムCLOGP v4.01により計算したClogP値を用いる。以下、オクタノール/水分配係数を、Log Powと表記する場合もある。
【0033】
(D)成分は、炭素数1以上10以下の化合物が好ましい。
(D)成分は、ヒドロキシ基を、1つ以上3つ以下有する化合物が好ましい。
(D)成分は、ヒドロキシ基を1つ有する化合物及びヒドロキシ基を2つ有する化合物から選ばれる1種以上の化合物が好ましい。
(D)成分は、分子量が50以上200以下の化合物が好ましい。
【0034】
(D)成分は、好ましくはヒドロキシ基を有する有機化合物であり、より好ましくはヒドロキシ基を有する脂肪族化合物であり、更に好ましくはヒドロキシ基を1つ又は2つ有し、炭素-炭素の結合が飽和結合である脂肪族化合物であり、より更に好ましくは、ヒドロキシ基を2つ有し、炭素-炭素の結合が飽和結合である、炭素数が5以下の脂肪族化合物である。
【0035】
(D)成分は、高い粘弾性を得る観点から、溶解パラメータ(Fedors法)が9以上、更に10以上、そして、20以下、更に18以下の化合物が好ましい。以下、溶解パラメータ(Fedors法)を、SP値と表記する場合もある。
【0036】
(D)成分は、好ましくはヒドロキシ基を有する有機化合物である。ヒドロキシ基を有する有機化合物としては、下記の(D1)及び(D2)から選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。
(D1)ヒドロキシ基を有する芳香族化合物
具体的には、ベンジルアルコール(Log Pow 1.10/SP値 9.3)などが挙げられる。
(D2)ヒドロキシ基を有する脂肪族化合物
具体的には、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(Log Pow 0.56/SP値10.5)、2-ブトキシエタノール(Log Pow 0.83/SP値10.8)、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(Log Pow 0.05/SP値 11.1)、1-ブタノール(LogPow0.90/SP値 11.3)、2-メトキシエタノール(Log Pow -0.77/SP値12.0)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(Log Pow 0.02/SP値10.3)、プロピレングリコールモノブチルエーテル(Log Pow 1.15/SP値10.4)プロピルプロピレングリコール(Log Pow 0.62/SP値10.5)、2-ジメチルアミノエタノール(Log Pow -0.58/SP値11.3)、ジエタノールアミン(LogPow -1.43/SP値 15.4)、2-メチルペンタン-2,4-ジオール(Log Pow 0.58/SP値13.1)、ジプロピレングリコール(Log Pow -0.70/SP値13.3)、1,3-ブタンジオール(Log Pow -0.85/SP値14.8)、1,4-ブタンジオール(Log Pow -1.00/SP値15.0)、ジエチレングリコール(LogPow -1.30/SP値 15.0)、ネオペンチルグリコール(Log Pow 0.23/SP値13.8)、プロピレングリコール(Log Pow -0.92/SP値15.9)、エチレングリコール(Log Pow -1.36/SP値 17.8)などが挙げられる。
【0037】
(D)成分は、好ましくは(D2)ヒドロキシ基を有する脂肪族化合物であり、より好ましくはヒドロキシ基を1つ又は2つ有し、炭素-炭素の結合が飽和結合である脂肪族化合物であり、更に好ましくはヒドロキシ基を2つ有し、炭素-炭素の結合が飽和結合である、炭素数が5以下の脂肪族化合物である。
【0038】
(D)成分は、好ましくは、ジエタノールアミン(Log Pow -1.43/SP値15.4)、2-メチルペンタン-2,4-ジオール(Log Pow 0.58/SP値13.1)、ジプロピレングリコール(Log Pow -0.70/SP値13.3)、1,3-ブタンジオール(Log Pow -0.85/SP値 14.8)、1,4-ブタンジオール(Log Pow -1.00/SP値15.0)、ジエチレングリコール(Log Pow -1.30/SP値15.0)、ネオペンチルグリコール(Log Pow 0.23/SP値 13.8)、プロピレングリコール(Log Pow -0.92/SP値15.9)、及び、エチレングリコール(Log Pow -1.36/SP値17.8)から選ばれる1種以上の化合物である。
(D)成分は、より好ましくは、1,3-ブタンジオール(Log Pow -0.85/SP値14.8)、1,4-ブタンジオール(Log Pow -1.00/SP値15.0)、ジエチレングリコール(Log Pow -1.30/SP値15.0)、ネオペンチルグリコール(Log Pow 0.23/SP値 13.8)、プロピレングリコール(Log Pow -0.92/SP値15.9)、及びエチレングリコール(Log Pow -1.36/SP値17.8)から選ばれる1種以上の化合物である。
(D)成分は、臭気と入手性の観点から、ネオペンチルグリコール(Log Pow0.23/SP値13.8)、及びプロピレングリコール(Log Pow -0.92/SP値15.9)から選ばれる1種以上の化合物が好ましい。
【0039】
(D)成分の少ない添加量で低い粘度の液状レオロジー改質剤を得る観点から、(D)成分のオクタノール/水分配係数は、0.03以上が好ましく、0.7以上がより好ましく、そして、1.15以下が好ましく、0.85以下がより好ましい。この範囲のオクタノール/水分配係数を持つ化合物として、ベンジルアルコール、1-ブタノール、2-ブトキシエタノール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ネオペンチルグリコール、及びエチレングリコールモノイソプロピルエーテルから選ばれる1種以上が好ましく、2-ブトキシエタノールがより好ましい。
【0040】
(D)成分の少ない添加量で低い粘度の液状レオロジー改質剤を得る観点から、(D)成分のSP値は、9以上が好ましく、10.7以上がより好ましく、そして、11.5以下が好ましく、11.2以下がより好ましく、11以下が更に好ましい。この範囲のSP値を持つものとして、ベンジルアルコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、2-ブトキシエタノール、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、及び1-ブタノールから選ばれる1種以上が好ましく、ベンジルアルコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、2-ブトキシエタノール、及びエチレングリコールモノイソプロピルエーテルから選ばれる1種以上がより好ましく、ベンジルアルコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、及び2-ブトキシエタノールから選ばれる1種以上が更に好ましく、2-ブトキシエタノールがより更に好ましい。
【0041】
本発明の液状レオロジー改質剤は、(D)成分として、ベンジルアルコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール、2-ブトキシエタノール、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、1-ブタノール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、及びネオペンチルグリコールから選ばれる1種以上の化合物を含有することが好ましい。
【0042】
本発明の液状レオロジー改質剤に(D)成分を配合する場合、本発明の液状レオロジー改質剤は、(D)成分を、製品粘度を低下させる観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは7.5質量%以上、より更に好ましくは10質量%以上、より更に好ましくは12.5質量%以上、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、より更に好ましくは25質量%以下、より更に好ましくは20質量%以下、より更に好ましくは17.5質量%以下配合してなる。
【0043】
本発明の液状レオロジー改質剤は、水硬性組成物中の骨材に付着する粘土成分への抵抗性を付与する観点から、(E)成分として、カチオン性ポリマーを配合してなることが好ましい。
【0044】
カチオン性ポリマーとしては、カチオン性窒素を含むものが好ましく、更に当該カチオン性ポリマーのカチオン性窒素に、炭素数1以上22以下のアルキル基、炭素数2以上8以下のオキシアルキレン基を含んでなるポリオキシアルキレン基、水素原子及びアクリロイルオキシアルキル基から選ばれる基が結合しているものが好ましい。カチオン性ポリマーの具体例としては、ポリアリルトリメチルアンモニウム塩等のポリアリルトリアルキルアンモニウム塩、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム塩)、ポリ(メタクリロイルオキシエチルジメチルエチルアンモニウム塩)、ポリメタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム塩、カチオン化でん粉、カチオン化セルロース、カチオン化ヒドロキシエチルセルロース等が挙げられる。これらの中でも、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム塩)、ポリメタクリロイルオキシエチルジメチルエチルアンモニウム塩、ポリメタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム塩、メタクリロイルオキシエチルジメチルエチルアンモニウム塩-ビニルピロリドン共重合体、及びメタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム塩-ビニルピロリドン共重合体から選ばれるカチオン性ポリマーが好ましい。また、レオロジー改質効果の観点から、対イオンがアルキル硫酸イオンであるもの、中でもエチル硫酸塩、メチル硫酸塩がより好ましい。カチオン性ポリマーの分子量は、1000以上300万以下が好ましい。この分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより、以下の条件で測定された重量平均分子量である。
カラム:α-M〔東ソー(株)製〕 2本連結
溶離液:0.15mol/L硫酸Na、1%酢酸水溶液
流速 :1.0mL/min
温度 :40℃
検出器:RI
分子量標準はプルランを使用
【0045】
本発明の液状レオロジー改質剤に(E)成分を配合する場合、本発明の液状レオロジー改質剤は、(E)成分を、十分な粘土への耐性を付与する観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは3質量%以上、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは質量17.5%以下、更に好ましくは15質量%以下配合してなる。
【0046】
本発明の液状レオロジー改質剤の20℃におけるpHは、製品粘度を低減させる観点から、好ましくは1以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは2.0以上、そして、好ましくは7.0以下、より好ましくは6.0以下、更に好ましくは5.0以下である。本発明の液状レオロジー改質剤の20℃におけるpHは、必要に応じて、pH調整剤により調整してもよい。pH調整剤としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、乳酸、グリコール酸、シュウ酸、コハク酸、クエン酸、マレイン酸、フマル酸、プロピオン酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、リンゴ酸、クロトン酸、安息香酸、パラトルエンスルホン酸、クメンスルホン酸、メタキシレンスルホン酸、ポリアクリル酸等の有機酸や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエタノールアミン等の無機塩基、もしくは有機塩基が挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることができる。
【0047】
本発明の液状レオロジー改質剤に、本改質剤の性能に支障がなければ他の成分、例えば、AE剤、遅延剤、早強剤、促進剤、気泡剤、発泡剤、消泡剤、防錆剤、着色剤、防黴剤、ひび割れ低減剤、膨張剤、染料、顔料等((A)~(E)成分を除く)を配合してよい。
【0048】
本発明の液状レオロジー改質剤の20℃における粘度は、扱いやすさの観点から、好ましくは1mPa・s以上、より好ましくは10mPa・s以上、更に好ましくは100mPa・s以上、そして、好ましくは2000mPa・s以下、より好ましくは1500mPa・s以下、更に好ましくは1000mPa・s以下である。ここで、液状レオロジー改質剤の粘度は、東機産業株式会社製TVB-10(B形粘度計)を用いM1ローター、12rpmの条件で測定されたものである。
【0049】
本発明の液状レオロジー改質剤は水硬性組成物用として好適である。
【0050】
[液状レオロジー改質剤の製造方法]
本発明は、(A)成分、(B)成分、(C)成分を混合する、液状レオロジー改質剤の製造方法にかんする。
本発明の液状レオロジー改質剤の製造方法は更に水を混合してよい。
本発明の液状レオロジー改質剤の製造方法は更に(D)成分を混合してよい。
本発明の液状レオロジー改質剤の製造方法は更に(E)成分を混合してよい。
【0051】
本発明の液状レオロジー改質剤の製造方法は、本発明の液状レオロジー改質剤で記載した態様を適宜適用することができる。
本発明の液状レオロジー改質剤の製造方法における、(A)~(E)成分の好ましい態様などは、本発明の液状レオロジー改質剤で記載した態様と同じである。
本発明の液状レオロジー改質剤の製造方法における、(A)~(E)成分の混合量、及び質量比(B)/(A)、質量比(C)/(A)は、本発明の液状レオロジー改質剤に記載の各成分の配合量を混合量に置き換えて適用することができる。
【0052】
[水硬性組成物]
本発明は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、水硬性粉体、骨材、及び水を配合してなる、水硬性組成物に関する。
本発明の水硬性組成物は、本発明の液状レオロジー改質剤及び液状レオロジー改質剤の製造方法で記載した態様を適宜適用することができる。
本発明の水硬性組成物に、更に(D)成分を配合してよい。
本発明の水硬性組成物に、更に(E)成分を配合してよい。
本発明の水硬性組成物における、(A)~(E)成分の好ましい態様などは、本発明の液状レオロジー改質剤で記載した態様と同じである。
本発明の水硬性組成物は、本発明の液状レオロジー改質剤を用いてもよい。すなわち、本発明は、本発明の液状レオロジー改質剤、水硬性粉体、骨材、及び水を配合してなる水硬性組成物に関する。
【0053】
本発明の水硬性組成物に使用される水硬性粉体とは、水と混合することで硬化する粉体であり、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、エコセメント(例えばJIS R5214等)が挙げられる。これらの中でも、水硬性組成物の必要な強度に達するまでの時間を短縮する観点から、早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、耐硫酸性ポルトランドセメント及び白色ポルトランドセメントから選ばれるセメントが好ましく、早強ポルトランドセメント、及び普通ポルトランドセメントから選ばれるセメントがより好ましい。
【0054】
また、水硬性粉体には、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム、無水石膏等が含まれてよく、また、非水硬性の石灰石微粉末等が含まれていてもよい。水硬性粉体として、セメントと高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム等とが混合された高炉セメントやフライアッシュセメント、シリカヒュームセメントを用いてもよい。
また、水硬性粉体は、セメント又はセメントとベントナイトとの混合粉末が挙げられる。
【0055】
本発明の水硬性組成物は、水100質量部に対して、(A)成分を、レオロジー改質効果を得る観点から、好ましくは0.25質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは0.75質量部以上、より更に好ましくは0.9質量部以上、そして、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2.5質量部以下、更に好ましくは2質量部以下、より更に好ましくは1.5質量部以下、より更に好ましくは1.2質量部以下配合してなる。
【0056】
本発明の水硬性組成物は、水100質量部に対して、(B)成分を、高い水中不分離性を得る観点から、好ましくは0.0025質量部以上、より好ましくは0.015質量部以上、更に好ましくは0.0375質量部以上、より更に好ましくは0.05質量部以上、より更に好ましくは0.075質量部以上、そして、好ましくは1.5質量部以下、より好ましくは0.75質量部以下、更に好ましくは0.4質量部以下、より更に好ましくは0.3質量部以下、より更に好ましくは0.2質量部以下、より更に好ましくは0.15質量部以下配合してなる。
【0057】
本発明の水硬性組成物は、水硬性粉体100質量部に対して、(C)成分を、抑泡性の観点から、好ましくは0.00025質量部以上、より好ましくは0.0015質量部以上、更に好ましくは0.00375質量部以上、より更に好ましくは0.005質量部以上、より更に好ましくは0.007質量部以上、そして、好ましくは0.3質量部以下、より好ましくは0.1875質量部以下、更に好ましくは0.1質量部以下、より更に好ましくは0.05質量部以下、より更に好ましくは0.03質量部以下、より更に好ましくは0.02質量部以下、より更に好ましくは0.015質量部以下配合してなる。
【0058】
本発明の水硬性組成物において、(A)成分の配合量と(B)成分の配合量との質量比(B)/(A)は、高い水中不分離性を得る観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.03以上、更に好ましくは0.05以上、より更に好ましくは0.75以上、そして、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.2以下、より更に好ましくは0.15以下である。
【0059】
本発明の水硬性組成物において、(A)成分の配合量と(C)成分の配合量との質量比(C)/(A)は、抑泡性の観点から、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.003以上、更に好ましくは0.005以上、そして、好ましくは0.1以下、より好ましくは0.075以下、更に好ましくは0.05以下、より更に好ましくは0.03以下、より更に好ましくは0.02以下である。
【0060】
本発明の水硬性組成物に、(D)成分を配合する場合、本発明の水硬性組成物は、水100質量部に対して、(D)成分を、の観点から、好ましくは0.03質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.225質量部以上、そして、好ましくは4.8質量部以下、より好ましくは3.5質量部以下、更に好ましくは2.4質量部以下配合してなる。
【0061】
本発明の水硬性組成物に、(E)成分を配合する場合、本発明の水硬性組成物は、水100質量部に対して、(E)成分を、十分な粘土への耐性を付与する観点から、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.02質量部以上、更に好ましくは0.09質量部以上、そして、好ましくは2.4質量部以下、より好ましくは1.75質量部以下、更に好ましくは1.2質量部以下配合してなる。
【0062】
本発明の水硬性組成物は、セメントを分散させる観点から、(F)成分として、分散剤を配合してなることが好ましい。
分散剤は、リグニンスルホン酸系重合体、ポリカルボン酸系重合体、ナフタレンスルホン酸系重合体、メラミン系重合体、及びフェノール系重合体から選ばれる1種以上の分散剤が挙げられ、分散性の観点から、好ましくはポリカルボン酸系重合体、リグニンスルホン酸系重合体、及びナフタレンスルホン酸系重合体から選ばれる1種以上の分散剤であり、より好ましくはリグニンスルホン酸系重合体、及びポリカルボン酸系重合体から選ばれる1種以上の分散剤である。
【0063】
ナフタレンスルホン酸系重合体としては、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物(花王株式会社製マイテイ150等)、メラミン系重合体としてはメラミンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物(例えば花王株式会社製マイテイ150-V2)、フェノール系重合体としては、フェノールスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物(特開昭49-104919号公報に記載の化合物等)、リグニンスルホン酸系重合体としてはリグニンスルホン酸塩(BASF社製ポゾリスNo.70、ボレガード社製ウルトラジンNA、日本製紙ケミカル株式会社製サンエキス、バニレックス、パールレックス等)等を用いることができる。
【0064】
ポリカルボン酸系重合体としては、ポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのモノエステルと(メタ)アクリル酸等のカルボン酸との共重合体(例えば特開平8-12397号公報に記載の化合物等)、ポリアルキレングリコールを有する不飽和アルコールと(メタ)アクリル酸等のカルボン酸との共重合体、ポリアルキレングリコールを有する不飽和アルコールとマレイン酸等のジカルボン酸との共重合体等を用いることができる。ここで、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれるカルボン酸の意味である。
【0065】
本発明の水硬性組成物に、(F)成分を配合する場合、本発明の水硬性組成物は、水硬性粉体100質量部に対して、(F)成分を、流動性を得る観点から、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.15質量部以上、そして、好ましくは5.0質量部以下、より好ましくは3.5質量部以下、更に好ましくは3.0質量部以下配合してなる。
【0066】
本発明の水硬性組成物において、水/水硬性粉体比(W/C)が、強度発現性の観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは31質量%以上、更に好ましくは32質量%以上、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは45質量%以下である。
ここで、水/水硬性粉体比(W/C)は、水硬性組成物中の水と水硬性粉体の質量百分率(質量%)であり、水/粉体×100で算出される。
なお、水硬性粉体が、セメントなどの水和反応により硬化する物性を有する粉体の他、ポゾラン作用を有する粉体、潜在水硬性を有する粉体、及び石粉(炭酸カルシウム粉末)から選ばれる粉体を含む場合、本発明では、それらの量も水硬性粉体の量に算入する。また、水和反応により硬化する物性を有する粉体が、高強度混和材を含有する場合、高強度混和材の量も水硬性粉体の量に算入する。これは、水硬性粉体の質量が関係する他の質量部などにおいても同様である。
【0067】
本発明の水硬性組成物は、骨材を配合する。骨材としては、細骨材及び粗骨材から選ばれる骨材が挙げられる。細骨材として、JISA0203-2014中の番号2311で規定されるものが挙げられる。細骨材としては、川砂、陸砂、山砂、海砂、石灰砂、珪砂及びこれらの砕砂、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材、軽量細骨材(人工及び天然)及び再生細骨材等が挙げられる。また、粗骨材として、JIS A 0203-2014中の番号2312で規定されるものが挙げられる。例えば粗骨材としては、川砂利、陸砂利、山砂利、海砂利、石灰砂利、これらの砕石、高炉スラグ粗骨材、フェロニッケルスラグ粗骨材、軽量粗骨材(人工及び天然)及び再生粗骨材等が挙げられる。細骨材、粗骨材は種類の違うものを混合して使用しても良く、単一の種類のものを使用しても良い。
【0068】
本発明の水硬性組成物がコンクリートの場合、すなわち、(A)成分、(B)成分、(C)成分、水硬性粉体、粗骨材、細骨材及び水を配合する水硬性組成物の場合、粗骨材の使用量は、水硬性組成物の強度の発現とセメント等の水硬性粉体の使用量を低減し、型枠等への充填性を向上する観点から、嵩容積が、好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上、更に好ましくは60%以上であり、そして、好ましくは100%以下、より好ましくは90%以下、更に好ましくは80%以下である。嵩容積は、コンクリート1m中の粗骨材の容積(空隙を含む)の割合である。
また、水硬性組成物がコンクリートの場合、すなわち、(A)成分、(B)成分、(C)成分、水硬性粉体、粗骨材、細骨材及び水を配合する水硬性組成物の場合、細骨材の使用量は、型枠等への充填性を向上する観点から、好ましくは500kg/m以上、より好ましくは600kg/m以上、更に好ましくは700kg/m以上であり、そして、好ましくは1000kg/m以下、より好ましくは900kg/m以下である。
水硬性組成物がモルタルの場合、すなわち、(A)成分、(B)成分、(C)成分、水硬性粉体、細骨材及び水を配合する水硬性組成物の場合、細骨材の使用量は、好ましくは800kg/m以上、より好ましくは900kg/m以上、更に好ましくは1000kg/m以上であり、そして、好ましくは2000kg/m以下、より好ましくは1800kg/m以下、更に好ましくは1700kg/m以下である。
【0069】
本発明の水硬性組成物はコンクリートであってよい。すなわち、本発明の水
硬性組成物は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、水硬性粉体、粗骨材、細骨材及び水を配合する。
本発明の水硬性組成物は、該水硬性組成物をコンクリートとした場合、すなわち、(A)成分、(B)成分、(C)成分、水硬性粉体、粗骨材、細骨材及び水を配合してなる水硬性組成物とした場合のスランプフロー値が、充填性の観点から、好ましくは40cm以上、より好ましくは45cm以上、更に好ましくは50cm以上、そして、好ましくは80cm以下、より好ましくは75cm以下、更に好ましくは70cm以下である。スランプフローは、水硬性組成物のコンシステンシーやワーカビリティを定量的に評価する物性値の一つである。本発明では、水硬性組成物のスランプフローは「JIS A 1150」に記載された測定方法で測定されており、フローの流動停止は5分後とした。
【0070】
本発明の水硬性組成物は、抑泡性に優れ、水硬性組成物中の空気量を抑制できるため、水硬性組成物の硬化強度を高めることができる。
また本発明の水硬性組成物は、水中分離抵抗性に優れるため、ポンプ圧送性と材料分離抵抗性を必要とする用途において効果がある。
従って、本発明の水硬性組成物は、高流動コンクリート用、水中不分離コンクリート用、軽量高流動コンクリート用、透水性コンクリート用、場所打ちライニング工法(ECL工法)用、SENS工法用として好適である。
【0071】
[水硬性組成物の製造方法]
本発明は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、水硬性粉体、骨材、及び水を混合する、水硬性組成物の製造方法に関する。
本発明の水硬性組成物の製造方法は、本発明の液状レオロジー改質剤、液状レオロジー改質剤の製造方法、及び水硬性組成物で記載した態様を適宜適用することができる。
本発明の水硬性組成物の製造方法は更に(D)成分を混合してよい。
本発明の水硬性組成物の製造方法は更に(E)成分を混合してよい。
本発明の水硬性組成物の製造方法は更に(F)成分を混合してよい。
本発明の水硬性組成物における、(A)~(F)成分の好ましい態様などは、本発明の液状レオロジー改質剤及び水硬性組成物で記載した態様と同じである。
本発明の水硬性組成物の製造方法における、(A)~(F)成分の混合量、及び質量比(B)/(A)、質量比(C)/(A)は、本発明の水硬性組成物に記載の各成分の配合量を混合量に置き換えて適用することができる。
本発明の水硬性組成物は、本発明の液状レオロジー改質剤を用いてもよい。すなわち、本発明は、本発明の液状レオロジー改質剤、水硬性粉体、骨材、及び水を混合する水硬性組成物の製造方法に関する。
【実施例
【0072】
(A)成分、(B)成分、(C)成分、(C’)成分((C)成分の比較成分)、(D)成分は、以下のものを用いた。
【0073】
<(A)成分>
A-1:ジメチルヒドロキシエチルアルキル(C16~C18)アンモニウムp-トルエンスルホネート、花王(株)製
<(B)成分>
B-1:m-キシレンスルホン酸ナトリウム・1水和物、伊藤忠ケミカルフロンティア(株)製
<(C)成分>
C-1:カプリル酸、花王(株)製
C-2:ヘキサン酸、富士フイルム和光純薬(株)製
<(C’)成分>
C’-1:カプリン酸、花王(株)製
C’-2:ラウリン酸、花王(株)製
<(D)成分>
D-1:プロピレングリコール、富士フイルム和光純薬(株)製
【0074】
[液状レオロジー改質剤の調製]
(A)成分、(B)成分、(C)成分又は(C’)成分、(D)成分、及び水を、表1に示す配合量(有効分換算、合計100質量%)で配合し、pH調整剤を添加して、pHを2~5に調製し、液状レオロジー改質剤を調製した。調製した各液状レオロジー改質剤は、1液の形態であり、20℃における粘度は100~500mPa・sであった。20℃における粘度は、東機産業株式会社製TVB-10(B形粘度計)を用いM1ローター、12rpmの条件で測定した。
【0075】
【表1】
【0076】
[コンクリートの調製]
強制二軸ミキサー((株)IHI社製)に、表2に記載の配合で、水硬性粉体(HC)、細骨材(S1、S2、S3)、粗骨材(G)を加えて10秒間空練りを行った。次に、ポリカルボン酸系分散剤を含む水(W)を加えて、90秒間撹拌(撹拌速度:40rpm)した後、表3に記載の(A)成分の配合量(水100質量部に対する配合量)となるように、調製した各レオロジー改質剤を加えて、60秒撹拌を行うことで水硬性組成物を調製した。水の配合量は、表2に記載の使用量となるように調整した。また、ポリカルボン酸系分散剤は、水硬性粉体100質量部に対する配合量(有効分換算)が0.5質量部となるように混練する水(水道水)に添加して用いた。
【0077】
表2のコンクリート配合に用いた成分は以下のものである。
・水(W):上水道水(水温20℃)(液状レオロジー改質剤の添加量及びポリカルボン酸系分散剤の添加量を含む)
・セメント(HC):早強ポルトランドセメント、日鉄住金セメント製比重3.14
・細骨材(S):(S1)岐阜県揖斐川産 細砂、表乾密度2.61g/cm
(S2)岐阜県揖斐川産 粗砂、表乾密度2.61g/cm
(S3)兵庫県家島産 砕砂、表乾密度2.55g/cm
・粗骨材(G):高知県鳥形山産石灰砕石、表乾密度2.70g/cm、粗粒率7.03、最大寸法15mm
【0078】
【表2】
【0079】
表2中、W/Cは、水の配合量とセメントの配合量との質量比であり、〔水の配合量/セメントの配合量〕×100(質量%)で求められる。
またs/aは、〔(S)/(S+G)〕×100で求められる骨材中の細骨材率の体積百分率(体積%)である。
【0080】
[水中不分離性試験]
JSCE-D 104-2007に従って、1000mLのガラスビーカーにイオン交換水を800ml入れ、調製した各コンクリート500gを量りとり、10分割し、1分割ずつヘラを用いて水面から静かに自由落下させた。全試料の落下は30秒間の間に終了させ、3分間放置したのち、吸引装置を用いて上澄み液を約600mL採取し、そのうち300mLをメスシリンダーで分取した。
105℃で1時間乾燥させたろ紙を用いて、分取した300mLの被検水を注ぎ入れ、吸引ろ過した。残留物がその上に留まった状態にあるろ紙を受け皿に移し、105℃で2時間乾燥させ、懸濁物質量を算出し、水中不分離性を評価した。算出には下記の式を用いた。評価は、表3に示す各コンクリートについて行った。この評価では、懸濁物質量が500mg/L以下であることが好ましい。
S=(a-b)×1000/V
S:懸濁物質量(mg/L)
a:懸濁物質を含んだろ紙および受け皿の質量(mg)
b:ろ紙および受け皿の質量(mg)
V:メスシリンダーで量り取った被検水の量
【0081】
[抑泡性試験]
コンクリートミキサーに調製直後の各コンクリートを入れ、2rpmの回転数でコンクリートを回転させ続けた。その後、所定の時間におけるコンクリート中の空気量を測定した。空気量の測定には、JIS A1128に記載の方法でコンクリート中の空気量を測定した。結果を表3に示す。この評価では、空気量が6%未満であれば、コンクリート中の空気量を抑制し、抑泡性に優れることがいえるため好ましい。
【0082】
【表3】