(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】診断システム
(51)【国際特許分類】
H01M 10/42 20060101AFI20240514BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240514BHJP
B60L 58/12 20190101ALI20240514BHJP
B60L 58/16 20190101ALI20240514BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
H01M10/42 P
H01M10/48 P
H01M10/48 301
B60L58/12
B60L58/16
H02J7/00 X
(21)【出願番号】P 2020101614
(22)【出願日】2020-06-11
【審査請求日】2023-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100183438
【氏名又は名称】内藤 泰史
(72)【発明者】
【氏名】鴨宮 宗近
(72)【発明者】
【氏名】児玉 良治
(72)【発明者】
【氏名】矢口 優
【審査官】田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-252381(JP,A)
【文献】特開2019-070621(JP,A)
【文献】特開2012-181976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42
H01M 10/48
B60L 58/12
B60L 58/16
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電時又は放電時において検出される電流及び電圧の値を取得する第1取得部と、
前記第1取得部によって取得された電流及び電圧の値に応じてSOCの値を推定すると共に、充放電曲線の微分曲線を導出するSOC推定部と、
温度、劣化状態、及びCレートの組み合わせ毎の二次電池の充放電曲線の微分曲線を記憶する記憶部と、
二次電池の充放電制御に係る充放電条件として、温度、劣化状態、及びCレートの情報を取得する第2取得部と、
前記記憶部に記憶された各微分曲線の中から、前記第2取得部によって取得された充放電条件に合致する前記微分曲線である条件合致微分曲線を特定する特定部と、
前記特定部によって特定された前記条件合致微分曲線のピークと、前記SOC推定部によって導出された前記微分曲線のピークとの誤差を導出し、該誤差に基づき、前記SOC推定部によって推定されたSOCの値を補正して、補正後SOCの値を導出する補正部と、を備える二次電池の診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池を駆動用バッテリとする車両においては、二次電池の残存容量を表すSOC(StateOf Charge)に基づいた制御が行われる。従来、様々な手法により二次電池のSOCの推定が行われている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
SOCを推定する方法としては、電流及び電圧を用いた方法が一般的であり、例えば電流積算を用いて満充電容量に対する容量推移(つまりSOC推移)を推定する電流積算法や、電池の開放電圧(OCV:Open Circuit Voltage)とSOCとの相関関係を利用して測定したOCVからSOCを推定するOCV法等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、SOC推定においては様々な誤差、例えば、電流センシング誤差による電流積算誤差、電池個体差、劣化による特性変化(満充電容量、SOCーOCV相関関係の変化)等の影響を受ける。このような誤差によって、従来、SOCを高精度に推定することができない。このため、通常、SOCの推定誤差分のマージンが考慮されて車両が制御される。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、SOCの推定精度を向上させることにより、車両制御の精度(すなわち、車両性能)を向上させ、車両の商品性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る二次電池の診断システムは、充電時又は放電時において検出される電流及び電圧の値を取得する第1取得部と、第1取得部によって取得された電流及び電圧の値に応じてSOCの値を推定すると共に、充放電曲線の微分曲線を導出するSOC推定部と、温度、劣化状態、及びCレートの組み合わせ毎の二次電池の充放電曲線の微分曲線を記憶する記憶部と、二次電池の充放電制御に係る充放電条件として、温度、劣化状態、及びCレートの情報を取得する第2取得部と、記憶部に記憶された各微分曲線の中から、第2取得部によって取得された充放電条件に合致する微分曲線である条件合致微分曲線を特定する特定部と、特定部によって特定された条件合致微分曲線のピークと、SOC推定部によって導出された微分曲線のピークとの誤差を導出し、該誤差に基づき、SOC推定部によって推定されたSOCの値を補正して、補正後SOCの値を導出する補正部と、を備える。
【0008】
本発明の一態様に係る二次電池の診断システムによれば、電流及び電圧の値に応じてSOCの値が推定されると共に、微分曲線が導出され、該微分曲線のピークと、充放電条件に応じて特定される条件合致微分曲線(台上データの微分曲線)のピークとの誤差に基づき、SOCの値が補正される。電流及び電圧の値に応じて推定されるSOCの値は、例えば、電流センシング誤差による電流積算誤差、電池個体差、劣化による特性変化(満充電容量、SOCーOCV相関関係の変化)等の影響を受けて、正確な値とならない場合がある。この点、本発明の診断システムでは、充放電条件に応じて予め記憶されている台上データの微分曲線の情報、すなわち上述したようなSOCの値の推定に影響を与える情報を含まない情報を考慮して、推定したSOCの値が補正されている。具体的には、本発明の診断システムでは、条件合致微分曲線(充放電条件に応じた台上データの微分曲線)のピークと導出された微分曲線のピークとの誤差が導出され、該誤差に基づきSOCの値が補正されている。これにより、推定されたSOCの値について、推定精度を下げる様々な影響を排除した値に近づくように補正することができ、SOCの推定精度を向上させることができる。以上のように、本発明の一態様に係る二次電池の診断システムによれば、SOCの推定精度を向上させることにより車両制御の精度(すなわち、車両性能)を向上させ、車両の商品性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、SOCの推定精度を向上させることにより車両制御の精度(すなわち、車両性能)を向上させ、車両の商品性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】二次電池の診断システムの機能ブロック図である。
【
図3】リチウムイオン電池の充放電曲線の一例を示す図である。
【
図4】リチウムイオン電池の充放電曲線の微分特性の一例を示す図である。
【
図6】リチウムイオン電池の診断処理(診断方法)を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して種々の実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を付すこととし、同一又は相当の部分に対する重複した説明は省略する。
【0012】
図1は、二次電池の診断システム10の機能ブロック図である。本実施形態における二次電池とは、例えば車載用のリチウムイオン電池であるが、その他の二次電池であってもよい。本実施形態における二次電池は、例えば車両の駆動用バッテリとして機能する。本実施形態では、二次電池が車両の駆動用バッテリとして機能するリチウムイオン電池であるとして説明する。より詳細には、二次電池は、グラファイト系負極を用いたリチウムイオン電池である。
【0013】
最初に、
図2~
図5も参照しながら、本実施形態に係るリチウムイオン電池の診断システム10の概要について説明する。診断システム10は、例えば、駆動用バッテリとして機能するリチウムイオン電池の状態推定・監視を行うBMS(Battery Management System)の機能である。診断システム10は、リチウムイオン電池の内部状態を非破壊で推定するシステムであり、具体的にはリチウムイオン電池の残存容量を表すSOC(State Of Charge)の値を推定する。診断システム10は、リチウムイオン電池の電流、電圧、及び表面温度に基づいて、周知の技術によりSOCの値を推定する。
【0014】
診断システム10は、充放電時において測定されるリチウムイオン電池の電流及び電圧に基づいて、リチウムイオン電池の充放電曲線(
図3参照)を求め、更に、該充放電曲線の微分特性(微分曲線,
図4参照)を求めている。
【0015】
図3は、リチウムイオン電池の充放電曲線の一例を示す図である。
図3に示されるように、充放電曲線は、横軸が容量(mAh)、縦軸が電圧(V)とされて、充電時及び放電時におけるリチウムイオン電池の電流及び電圧に基づき導出される。
図4は、リチウムイオン電池の充放電曲線の微分特性(微分曲線)の一例を示す図である。
図4に示されるように、微分曲線は、横軸が容量(SOC(%))、縦軸がdV/dQ(Vは電圧、Qは容量)とされて、充放電曲線に基づき導出される。
【0016】
図4に示されるように、微分曲線においては、充電及び放電共に、ピーク(曲線において局所的に凸形状となった部分)が生じている。すなわち、
図4の例では、充電曲線において2つのピークP1,P2、放電曲線において2つのピークP3,P4が生じている。このようなピークの情報(ピークの形状及び位置)は、後述するSOCの値の補正処理において用いられる。
【0017】
ここで、診断システム10は、リチウムイオン電池の温度(詳細には内部温度)、劣化状態、及びCレートの組み合わせ毎に充放電曲線の微分曲線を記録した台上データ(
図2参照)を予め記憶している。Cレートとは、電池に対して充放電する時の電流の大きさであり、電流に基づき導出されるものである。Cレートは、充放電のスピードを示すものである。そして、診断システム10は、取得された電流及び電圧等に応じて導出される微分曲線と、充放電条件に応じた微分曲線(台上データから特定される条件合致微分曲線)とを比較し、比較結果に基づいて、推定しているSOCの値を補正する。具体的には、診断システム10は、条件合致微分曲線のピークと導出した微分曲線のピークとの誤差を導出し、該誤差に基づき、推定しているSOCの値を補正して、補正後のSOCの値を導出する。
【0018】
図5は、SOC推定誤差を説明する図である。
図5(a)は電流及び電圧等に基づいて導出された微分曲線を示しており、
図5(b)は
図5(a)の微分曲線を導出した条件と同様の充放電条件に応じた微分曲線(台上データから特定される条件合致微分曲線)を示している。いま、
図5(a)に示されるように、導出された充電の微分曲線において例えば1つ目のピークがSOC:40%程度に現れていたとする。そして、
図5(b)に示されるように、充放電条件に応じて特定された条件合致微分曲線では、充電の微分曲線において1つ目のピークがSOC:60%程度に現れていたとする。条件合致微分曲線は、充放電条件に応じて予め取得されている、正解データであると言える。このため、ピーク同士の位置に基づき、その差分(60%-40%=20%)をSOC推定誤差として導出し、該SOC推定誤差を、推定しているSOCの値に足し合わせて補正後のSOCの値を導出することにより、SOCの推定精度を向上させることができる。
【0019】
以下では、
図1を参照し、リチウムイオン電池の診断システム10の機能の詳細について説明する。
図1に示されるように、診断システム10は、記憶部11と、取得部12(第1取得部,第2取得部)と、SOC推定部13と、特定部14と、補正部15と、を備えている。
【0020】
記憶部11は、リチウムイオン電池の温度、劣化状態、及びCレートの組み合わせ毎のリチウムイオン電池の充放電曲線の微分曲線が記録された台上データ(
図2参照)を記憶するデータベースである。このような台上データは、例えば電池の種類毎の予め準備されている。
【0021】
取得部12は、充電時又は放電時において検出される電流及び電圧の値を取得する。取得部12は、複数のリチウムイオン電池22から構成されている電池モジュール2の電流センサ21から、リチウムイオン電池22に流れる電流値を取得する。また、取得部12は、電池モジュール2を構成するリチウムイオン電池22の端子間の電圧を測定する電圧センサから、リチウムイオン電池22に印可される電圧値を取得する。
【0022】
取得部12は、リチウムイオン電池の充放電制御に係る充放電条件として、温度、劣化状態、及びCレートの情報を取得する。温度は、リチウムイオン電池の内部温度であり、例えばリチウムイオン電池の表面温度及び電池モジュール2の電流センサ21により検出される電流等に応じて導出される。劣化状態は、例えば車両の走行履歴から推定されるリチウムイオン電池の劣化状態である。Cレートは、予め定められた値であってもよいし、電流センサ21により検出される電流に応じて導出されてもよい。
【0023】
SOC推定部13は、取得部12によって取得された電流及び電圧の値に応じてSOCの値を推定する。SOC推定部13は、従来より周知の技術を利用して、電流、電圧、及びリチウムイオン電池の表面温度等に基づいてSOCの値を推定する。また、SOC推定部13は、取得部12によって取得された電流及び電圧の値に応じて、充放電曲線の微分曲線を導出する。SOC推定部13は、少なくとも充放電曲線における1つのピークが特定できるまで、微分曲線を導出する。
【0024】
特定部14は、記憶部11に記憶されている各微分曲線の中から、取得部12によって取得された充放電条件に合致する微分曲線である条件合致微分曲線を特定する。すなわち、特定部14は、取得部12によって取得された充放電条件と、温度、劣化状態、及びCレートの全てが一致する(或いは、最も近似する)台上データの微分曲線を、条件合致微分曲線として特定する。
【0025】
補正部15は、特定部14によって特定された条件合致微分曲線のピークと、SOC推定部13によって導出された微分曲線のピークとの誤差を導出し、該誤差に基づき、SOC推定部13によって推定されたSOCの値を補正して、補正後のSOCの値を導出する。
図5に示されるように、補正部15は、条件合致微分曲線及び導出された微分曲線について、互いに対応するピークのSOCの値を比較し、その差分を誤差として導出する。そして、補正部15は、当該誤差を、SOC推定部13が推定しているSOCの値に足し合わせた値を、補正後のSOCの値として導出する。例えば
図5に示される例では、充電の微分曲線において誤差が約20%あるので、補正部15は、SOC推定部13が推定したSOCに+20%とした値を、補正後のSOCの値とする。
【0026】
次に、本実施形態に係るリチウムイオン電池の診断処理(診断方法)について、
図6を参照して説明する。
図6は、リチウムイオン電池の診断処理(診断方法)を示すフローチャートであり、より詳細には、リチウムイオン電池の充電時のSOC推定処理を示すフローチャートである。
【0027】
図6に示されるように、診断システム10では、最初に、リチウムイオン電池の充電時の電流及び電圧の値が取得される(ステップS1)。つづいて、診断システム10は、取得した電流及び電圧の値に基づきSOCの値を推定すると共に、充放電曲線の微分曲線を導出する(ステップS2)。
【0028】
つづいて、診断システム10は、充電条件を取得する(ステップS3)。充電条件とは、リチウムイオン電池の温度、劣化状態、及びCレートの情報である。つづいて、診断システム10は、記憶する台上データの各微分曲線の中から、取得した充電条件に合致する微分曲線である条件合致微分曲線を特定する(ステップS4)。
【0029】
つづいて、診断システム10は、条件合致微分曲線のピークと、導出した微分曲線のピークとの誤差(差分)を導出する(ステップS5)。そして、診断システム10は、導出した誤差(差分)に基づき、推定したSOCの値を補正して、補正後SOCの値を導出する(ステップS6)。
【0030】
最後に、本実施形態に係るリチウムイオン電池の診断システム10の作用効果について説明する。
【0031】
診断システム10は、充電時又は放電時において検出される電流及び電圧の値を取得する取得部12と、取得部12によって取得された電流及び電圧の値に応じてSOCの値を推定すると共に、充放電曲線の微分曲線を導出するSOC推定部13と、温度、劣化状態、及びCレートの組み合わせ毎の二次電池の充放電曲線の微分曲線を記憶する記憶部11と、二次電池の充放電制御に係る充放電条件として、温度、劣化状態、及びCレートの情報を取得する取得部12と、記憶部11に記憶された各微分曲線の中から、取得部12によって取得された充放電条件に合致する微分曲線である条件合致微分曲線を特定する特定部14と、特定部14によって特定された条件合致微分曲線のピークと、SOC推定部13によって導出された微分曲線のピークとの誤差を導出し、該誤差に基づき、SOC推定部13によって推定されたSOCの値を補正して、補正後SOCの値を導出する補正部15と、を備える。
【0032】
このような診断システム10によれば、電流及び電圧の値に応じてSOCの値が推定されると共に、微分曲線が導出され、該微分曲線のピークと、充放電条件に応じて特定される条件合致微分曲線(台上データの微分曲線)のピークとの誤差に基づき、SOCの値が補正される。電流及び電圧の値に応じて推定されるSOCの値は、例えば、電流センシング誤差による電流積算誤差、電池個体差、劣化による特性変化(満充電容量、SOCーOCV相関関係の変化)等の影響を受けて、正確な値とならない場合がある。この点、診断システム10では、充放電条件に応じて予め記憶されている台上データの微分曲線の情報、すなわち上述したようなSOCの値の推定に影響を与える情報を含まない情報を考慮して、推定したSOCの値が補正されている。具体的には、診断システム10では、条件合致微分曲線(充放電条件に応じた台上データの微分曲線)のピークと導出された微分曲線のピークとの誤差が導出され、該誤差に基づきSOCの値が補正されている。これにより、推定されたSOCの値について、推定精度を下げる様々な影響を排除した値に近づくように補正することができ、SOCの推定精度を向上させることができる。以上のように、診断システム10によれば、SOCの推定精度を向上させることにより車両制御の精度(すなわち、車両性能)を向上させ、車両の商品性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0033】
10…診断システム、11…記憶部、12…取得部(第1取得部,第2取得部)13…SOC推定部、14…特定部、15…補正部。