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  • 特許-汚水処理装置及び汚水処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】汚水処理装置及び汚水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/34 20230101AFI20240514BHJP
   C02F 3/12 20230101ALI20240514BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20240514BHJP
【FI】
C02F3/34 101C
C02F3/34 101A
C02F3/34 101B
C02F3/12 B
C02F3/12 H
C02F3/12 S
C02F1/44 F
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020111271
(22)【出願日】2020-06-29
(65)【公開番号】P2022010607
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】390014074
【氏名又は名称】前澤工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三好 太郎
(72)【発明者】
【氏名】石田 進
(72)【発明者】
【氏名】張 亮
(72)【発明者】
【氏名】円谷 輝美
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-103129(JP,A)
【文献】特開2009-195831(JP,A)
【文献】特開平09-164399(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/12
C02F 3/28- 3/34
C02F 1/44
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚水の好気性処理および無酸素処理を行う反応槽の内部に、膜分離装置と、散気管と、前記反応槽の内部を複数の区画に仕切る仕切板とを備え、前記処理される汚水を反応槽に供給する手段と、反応槽内の水位を仕切板上端よりも高い状態と低い状態とに切り換えるための水位制御手段を備える汚水処理装置であって、前記複数の区画のうちの少なくとも一つの区画を膜分離装置および散気管が配置された好気区画とし、その他の区画で無酸素処理を行う汚水処理装置において、
前記反応槽内の水位が前記仕切板の上端よりも低い状態であるときに、前記処理される汚水とは異なる電子供与体含有液を反応槽内の前記その他の区画に供給する手段を設け
前記処理される汚水が嫌気処理を施した汚水であり、前記電子供与体含有液が嫌気処理を施さない汚水であることを特徴とする汚水処理装置。
【請求項2】
前記嫌気処理を施さない汚水のBODが500~15000mg/Lである、請求項記載の汚水処理装置。
【請求項3】
前記電子供与体含有液に含まれる電子供与体が、アルコール類、有機酸、硫黄及び水素からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1記載の汚水処理装置。
【請求項4】
前記電子供与体含有液が、前記汚水から予め除去されたスクリーン滓及び/又は沈殿汚泥を嫌気処理することにより得られた排液である、請求項1記載の汚水処理装置。
【請求項5】
前記膜分離装置による膜分離後に得られたろ過水中の硝酸性窒素濃度を測定する硝酸性窒素濃度計を設け、該濃度計により測定した硝酸性窒素濃度が予め設定した目標値となるよう、前記電子供与体含有液の供給量を制御する手段を設けた、請求項1~のいずれか1項に記載の汚水処理装置。
【請求項6】
汚水の好気性処理および無酸素処理を行う反応槽の内部に、膜分離装置と、散気管と、前記反応槽の内部を複数の区画に仕切る仕切板とを備え、前記処理される汚水を反応槽に供給する手段と、反応槽内の水位を仕切板上端よりも高い状態と低い状態とに切り換えるための水位制御手段を備える汚水処理装置であって、前記複数の区画のうちの少なくとも一つの区画を膜分離装置および散気管が配置された好気区画とし、その他の区画で無酸素処理を行う汚水処理装置において、
前記反応槽内の水位が前記仕切板の上端よりも低い状態であるときに、前記処理される汚水とは異なる電子供与体含有液を反応槽内の前記その他の区画に供給する手段を設け、
前記電子供与体含有液の供給量が、反応槽内の水位が仕切板の上端を越えない量であることを特徴とする汚水処理装置。
【請求項7】
膜分離装置と散気管とを配置した反応槽内で汚水の好気性処理および無酸素処理を行う汚水処理方法であって、膜分離装置の周囲を仕切板で区画し、膜分離装置の下方から散気管により曝気を行うとともに、反応槽内の水位を調節することにより、膜分離装置および散気管が配置された区画内を好気状態に維持しつつ、その他の区画で無酸素処理を行う汚水処理方法において、
前記反応槽内の水位が前記仕切板の上端よりも低い状態であるときに、前記処理される汚水とは異なる電子供与体含有液を反応槽内の前記その他の区画に供給し、
前記処理される汚水が嫌気処理を施した汚水であり、前記電子供与体含有液が嫌気処理を施さない汚水であることを特徴とする汚水処理方法。
【請求項8】
前記嫌気処理を施さない汚水のBODが500~15000mg/Lである、請求項記載の汚水処理方法。
【請求項9】
前記電子供与体含有液に含まれる電子供与体が、アルコール類、有機酸、硫黄及び水素からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項記載の汚水処理方法。
【請求項10】
前記電子供与体含有液が、前記汚水から予め除去されたスクリーン滓及び/又は沈殿汚泥を嫌気処理することにより得られた排液である、請求項記載の汚水処理方法。
【請求項11】
前記膜分離装置による膜分離後に得られたろ過水中の硝酸性窒素濃度を測定し、測定した硝酸性窒素濃度が予め設定した目標値となるよう、前記電子供与体含有液の供給量を制御する、請求項7~10のいずれか1項に記載の汚水処理方法。
【請求項12】
膜分離装置と散気管とを配置した反応槽内で汚水の好気性処理および無酸素処理を行う汚水処理方法であって、膜分離装置の周囲を仕切板で区画し、膜分離装置の下方から散気管により曝気を行うとともに、反応槽内の水位を調節することにより、膜分離装置および散気管が配置された区画内を好気状態に維持しつつ、その他の区画で無酸素処理を行う汚水処理方法において、
前記反応槽内の水位が前記仕切板の上端よりも低い状態であるときに、前記処理される汚水とは異なる電子供与体含有液を反応槽内の前記その他の区画に供給し、
前記電子供与体含有液の供給量が、反応槽内の水位が仕切板の上端を越えない量であることを特徴とする汚水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は汚水処理装置及び汚水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、汚水を生物処理するための反応槽と、反応槽に浸漬され且つ生物処理された汚水から固形物を除去するための膜分離装置と、膜分離装置の下部に設置され且つ膜分離装置に対して空気等の気体を供給する散気管とを備える汚水処理装置が知られ、反応槽における汚水の生物処理は、例えば、微生物を含む有機汚泥、すなわち、いわゆる活性汚泥によって汚水が処理される活性汚泥法に基づいて実行される。具体的に、活性汚泥法においては、酸素存在下(好気状態)でアンモニアを亜硝酸や硝酸に変換する硝化反応が行われ、無酸素状態で亜硝酸や硝酸を窒素に変換する脱窒反応が行われる。脱窒反応は硝化反応が行われる反応槽と異なる反応槽で行われてもよいが、汚水処理装置の省スペース化を実現するために、単一の反応槽内で硝化反応及び脱窒反応が行われる汚水処理装置が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
図3は従来の汚水処理装置を概略的に示す図である。図3の汚水処理装置は、好気状態での硝化反応及び無酸素状態での脱窒反応を行う反応槽1と、汚水を原水槽9から反応槽1に供給するための原水供給装置10とを備え、反応槽1は、反応槽1内を複数の区画に仕切るための仕切板7を有する。具体的に、反応槽1は、仕切板7で囲まれる汚水領域Aと、仕切板7及び反応槽1の内壁で囲まれる汚水領域Bとに仕切られ、汚水領域Aは膜分離装置2及び散気管4を有する。また、反応槽1は最低水位LWL(Low water level)と最高水位HWL(High water level)とを有し、仕切板7の上端部は最低水位LWLと最高水位HWLとの間に位置する。
【0004】
図3の汚水処理装置においては、反応槽1への汚水の供給と停止を制御することにより、反応槽1内の汚水の水位が変化するように構成されている。これにより、汚水の水位は仕切板7の上端部より高い位置(以下、「汚水越流位置」という。)と、仕切板7の上端部より低い位置(以下、「汚水非越流位置」という。)とを往来する。
【0005】
図4は、図3における反応槽1内の汚水の水位が汚水越流位置のときの汚水の流れを概略的に示す図である。
【0006】
汚水の水位が汚水越流位置にあるとき、散気管4から膜分離装置2に対して供給される空気により、汚水が仕切板7の上端を越流し、仕切板7の周囲を循環する循環流が形成される。この循環流により、汚水領域Aの硝酸等は汚水領域Bに移行し、汚水領域Aの空気の大半は汚水領域Bに移行することなく反応槽1の外部に放出される。すなわち、循環流が形成されると、汚水領域Aでは酸素存在下でアンモニアを亜硝酸や硝酸に変換する硝化反応が進行し、汚水領域Bでは循環流に乗って汚水領域Aから移動した亜硝酸や硝酸を無酸素状態下で窒素に変換する脱窒反応が進行する。
【0007】
一方、汚水の水位が汚水非越流位置にあるとき、汚水領域Aと汚水領域Bとの間で汚水の流通が分断されるため、散気管4が膜分離装置2に空気を供給しても、仕切板7の周囲を循環する循環流は形成されない。すなわち、汚水領域Aでは酸素存在下でアンモニアを亜硝酸や硝酸に変換する硝化反応が進行し、汚水領域Bでは汚水の流通が分断される前に汚水領域Aから移動した亜硝酸や硝酸を無酸素状態下で窒素に変換する脱窒反応が進行する。
【0008】
このような仕切板挿入型の汚水処理装置において、無酸素状態で進行する脱窒反応に必要な電子供与体を補う方法として、汚水の水位が汚水非越流位置であるときに、反応槽内の水位が仕切板の上端を越えない量の原水を仕切板の外部領域(無酸素領域)に供給する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2004-261711号公報
【文献】特開2018-103129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、汚水処理装置の反応槽に供給する原水中の有機物の量は原水の種類に応じて変動する。また、仕切板挿入型の汚水処理装置のように活性汚泥法と膜分離を組み合わせて汚水処理を行う場合には、膜分離の負荷を低減するため、予め有機物を低減した原水が反応槽に供給される場合が多い。そのため、無酸素状態が維持される領域に原水を供給した場合であっても、脱窒反応に必要な電子供与体を十分に供給することができず、窒素除去効率の高い汚水処理を安定して実行することができないという問題があった。
【0011】
本発明は、脱窒反応に必要な電子供与体を十分に供給することができ、窒素除去効率の高い汚水処理を安定して実行することができる汚水処理装置及び汚水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の汚水処理装置は、汚水の好気性処理および無酸素処理を行う反応槽の内部に、膜分離装置と、散気管と、前記反応槽の内部を複数の区画に仕切る仕切板とを備え、前記処理される汚水を反応槽に供給する手段と、反応槽内の水位を仕切板上端よりも高い状態と低い状態とに切り換えるための水位制御手段を備える汚水処理装置であって、前記複数の区画のうちの少なくとも一つの区画を膜分離装置および散気管が配置された好気区画とし、その他の区画で無酸素処理を行う汚水処理装置において、前記反応槽内の水位が前記仕切板の上端よりも低い状態であるときに、前記処理される汚水とは異なる電子供与体含有液を反応槽内の前記その他の区画に供給する手段を設け、前記処理される汚水が嫌気処理を施した汚水であり、前記電子供与体含有液が嫌気処理を施さない汚水であることを特徴とする。
また、上記目的を達成するために、本発明の汚水処理装置は、汚水の好気性処理および無酸素処理を行う反応槽の内部に、膜分離装置と、散気管と、前記反応槽の内部を複数の区画に仕切る仕切板とを備え、前記処理される汚水を反応槽に供給する手段と、反応槽内の水位を仕切板上端よりも高い状態と低い状態とに切り換えるための水位制御手段を備える汚水処理装置であって、前記複数の区画のうちの少なくとも一つの区画を膜分離装置および散気管が配置された好気区画とし、その他の区画で無酸素処理を行う汚水処理装置において、前記反応槽内の水位が前記仕切板の上端よりも低い状態であるときに、前記処理される汚水とは異なる電子供与体含有液を反応槽内の前記その他の区画に供給する手段を設け、前記電子供与体含有液の供給量が、反応槽内の水位が仕切板の上端を越えない量であることを特徴とする。
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の汚水処理方法は、膜分離装置と散気管とを配置した反応槽内で汚水の好気性処理および無酸素処理を行う汚水処理方法であって、膜分離装置の周囲を仕切板で区画し、膜分離装置の下方から散気管により曝気を行うとともに、反応槽内の水位を調節することにより、膜分離装置および散気管が配置された区画内を好気状態に維持しつつ、その他の区画で無酸素処理を行う汚水処理方法において、前記反応槽内の水位が前記仕切板の上端よりも低い状態であるときに、前記処理される汚水とは異なる電子供与体含有液を反応槽内の前記その他の区画に供給し、前記処理される汚水が嫌気処理を施した汚水であり、前記電子供与体含有液が嫌気処理を施さない汚水であることを特徴とする。
また、上記目的を達成するために、本発明の汚水処理方法は、膜分離装置と散気管とを配置した反応槽内で汚水の好気性処理および無酸素処理を行う汚水処理方法であって、膜分離装置の周囲を仕切板で区画し、膜分離装置の下方から散気管により曝気を行うとともに、反応槽内の水位を調節することにより、膜分離装置および散気管が配置された区画内を好気状態に維持しつつ、その他の区画で無酸素処理を行う汚水処理方法において、前記反応槽内の水位が前記仕切板の上端よりも低い状態であるときに、前記処理される汚水とは異なる電子供与体含有液を反応槽内の前記その他の区画に供給し、前記電子供与体含有液の供給量が、反応槽内の水位が仕切板の上端を越えない量であることを特徴とする
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、脱窒反応に必要な電子供与体を十分に供給することができ、窒素除去効率の高い汚水処理を安定して実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る汚水処理装置を概略的に示す図である。
図2】本発明の第2の実施の形態に係る汚水処理装置を概略的に示す図である。
図3】従来の汚水処理装置を概略的に示す図である。
図4図3における反応槽内の汚水の流れを概略的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0017】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る汚水処理装置を概略的に示す図である。
【0018】
図1の汚水処理装置は、汚水を収容する原水槽9と、汚水を処理するための単槽式の反応槽1と、反応槽1に供給する汚水を予め嫌気処理するための嫌気処理装置20と、嫌気処理されていない汚水を反応槽1に供給するためのバイパス管21とを備える。
本発明において「原水」とは、嫌気処理を含む汚水処理を行う前の水を意味し、代表的には下水又はし尿などの汚水である。
【0019】
反応槽1は、汚水に含まれる汚染物質を分離する膜分離装置2と、膜分離装置2に気泡状の空気を供給する散気管4と、反応槽1の内部を複数の領域に仕切る仕切板7とを有する。仕切板7は底部が反応槽1の底面から離間して設けられている。仕切板7は、膜分離装置2の横方向の全周囲を囲包しており、反応槽1の内部を、膜分離装置2及び散気管4が配置される内部領域11(好気区画)と、内部領域11以外の外部領域12とに仕切っている。膜分離装置2は反応槽1の外部の吸引ポンプ3に接続されている。吸引ポンプ3が駆動すると、生物処理された汚水は膜分離装置2によってろ過され、ろ過された水は反応槽1の槽外に取り出される。
【0020】
散気管4は、膜分離装置2の下部に設置されるとともに、反応槽1の外部のブロワ5に接続され、ブロワ5は散気管4に空気を供給している。膜分離装置2は汚水をろ過するため、膜分離装置2の膜面には汚水中の汚泥物質等が付着し、膜分離装置2の膜面に付着した汚水中の汚泥物質等を放置すると、膜分離装置2が目詰まりして適切に汚水をろ過することができなくなる。したがって、散気管4が空気を膜分離装置2の膜面に供給し、汚泥物質等が膜分離装置2の膜面に付着するのを防止している。
【0021】
反応槽1には、微生物を含む有機汚泥、すなわち、いわゆる活性汚泥が収容されており、この微生物が有機物を分解し生物処理を行う。この微生物には、汚水の処理を実行するために、内部領域11で硝化反応を行うための硝化菌と、外部領域12で脱窒反応を行うための脱窒菌とが含まれる。これらの微生物を含有する汚泥自体はこの分野において周知である。
【0022】
膜分離装置2には、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜などを用いることができ、膜の形状は平膜、中空糸膜などが用いられる。本発明で用いられる膜分離装置自体はこの分野において周知である。
【0023】
嫌気処理装置20は、反応槽1内の膜分離装置2の負荷を低減するため、原水槽9から供給された汚水の嫌気処理を行う。嫌気処理は、無酸素条件下において、汚水中の高分子状有機物を嫌気性微生物によりアンモニア、メタンガス及び二酸化炭素などに変換する処理である。具体的に、汚水中の高分子状有機物は嫌気性微生物により加水分解され、可溶性のアミノ酸、糖類、高級脂肪酸になる。次いで、微生物の細胞内に取り込まれたアミノ酸、糖類、高級脂肪酸は代謝分解され、酢酸、水素、二酸化炭素、アンモニア及び硫化水素に変換される。酢酸、水素、二酸化炭素は、最終的にバイオエネルギーとして利用可能なメタンガスに変換される。この嫌気処理において生成したアンモニアを含む汚水は、反応槽1に供給され好気性処理(硝化反応)及び無酸素処理(脱窒反応)に供される。
【0024】
本実施の態様において、嫌気処理には、汚水の性状に応じて様々な処理方法が適用できる。固形物を多く含む高濃度の汚水には、機械撹拌装置やガス撹拌装置を備えた完全混合型メタン発酵槽の適用が一般的である。また、固形物が少なく比較的低濃度の汚水では、ろ材を充填した嫌気性濾床法、担体を充填した嫌気性流動床法、上昇流嫌気性スラッジブランケット(Upflow Anaerobic Sludge Blanket)法(以下、UASB法という。)、嫌気性膜分離(Anaerobic membrane bioreactor)法(以下、AnMBR法という。)等を用いることができる。UASB法は、嫌気性微生物群の凝集及び集塊機能を利用して沈降性の優れたグラニュール状汚泥を形成させることにより、反応槽内に高濃度の微生物を保持し、高速処理を可能とする嫌気処理法である。UASB装置の反応器は、底部の原水導入部、反応部(スラッジベッド及びスラッジブランケット部)、及び上部の気液固分離部から構成される。具体的に、反応器底部の原水導入部から汚水が均一に流入し、流入した汚水が反応部を上昇流として通過するとともにグラニュール状汚泥と接触して嫌気処理され、反応器上部の気液固分離部においてガス-汚泥-液の三相が分離される。UASB法は、このようなシンプルな構成により建設コストや維持コストが安く、高速処理が可能なため発酵槽のコンパクト化が可能であり、他の嫌気性処理技術と比較して経済性に優れるという利点がある。
【0025】
AnMBR法は、嫌気性処理と膜分離技術(以下、MBR技術という。)を組み合わせた方法である。MBR技術は微生物より小さい孔径を有する精密ろ過膜などの分離膜を用いることにより、反応槽外への微生物の流出を防止することができる。すなわち、AnMBR法は、嫌気処理を行う反応槽内に膜分離装置を設置することにより、ろ過膜により汚水中の汚染物質を分離するとともに、反応槽内に保持した嫌気性微生物により有機物を分解することができる。このような構成により、AnMBR法は反応槽内に嫌気性微生物を高濃度に保持することができ、膜分離により清浄化された処理水を得ることができるという利点がある。
【0026】
嫌気処理装置20で嫌気処理された汚水は、例えば、BOD(生物化学的酸素要求量)が200~3000mg/L、好ましくは100~1000mg/Lであり、T-N(総窒素濃度)は100~2000mg/Lである。したがって、BOD/T-Nは1以下となることが少なくない。このため、嫌気処理された汚水のみを反応槽1に供給する場合には、反応槽1において脱窒に必要な電子供与体が不足する場合が多い。なお、BODは下水道試験法に記載されている手法に準拠して測定される。
【0027】
嫌気処理装置20で嫌気処理された汚水は、ポンプ15を介して反応槽1に供給される。図1において、嫌気処理された汚水は仕切板7の外部領域12に供給されているが、内部領域11に供給されていてもよい。
【0028】
本実施の形態では、反応槽1内の水位を調節し、反応槽内の水位を仕切板上端よりも高い状態と低い状態とに切り換えるための水位制御手段(不図示)を有する。水位制御手段としては、例えば、反応槽1内の水位、すなわち、液表面の位置を調べる液面センサーがある。液面センサーが汚水の水位を検出し、検出された水位に基づいてポンプ15が汚水の反応槽1への供給と停止を制御することにより、汚水の水位を汚水越流位置と汚水非越流位置とに切り換えることができる。
【0029】
汚水の水位が汚水越流位置にあるとき、散気管4から膜分離装置2に対して供給される空気により、汚水が仕切板7の上端を越流し、仕切板7の周囲を循環する循環流が形成される。この循環流により、内部領域11の硝酸等は外部領域12に移行し、内部領域11の空気の大半は外部領域12に移行することなく反応槽1の外部に放出される。すなわち、循環流が形成されると、内部領域11では硝化菌により酸素存在下でアンモニアを亜硝酸や硝酸に変換する硝化反応が進行し、外部領域12では循環流に乗って汚水領域から移動した亜硝酸や硝酸を脱窒菌により無酸素状態下で窒素に変換する脱窒反応が進行する。
【0030】
一方、汚水の水位が汚水非越流位置にあるとき、内部領域11と外部領域12との間で汚水の流通が分断されるため、散気管4が膜分離装置2に空気を供給しても、仕切板7の周囲を循環する循環流は形成されない。すなわち、内部領域11では酸素存在下でアンモニアを亜硝酸や硝酸に変換する硝化反応が進行し、外部領域12では汚水の流通が分断される前に内部領域11から移動した亜硝酸や硝酸を無酸素状態下で窒素に変換する脱窒反応が進行する。
【0031】
外部領域12で進行する脱窒反応は、亜硝酸や硝酸が無酸素状態下で窒素に還元される反応であり、電子受容体である亜硝酸や硝酸を還元するのに十分な電子供与体が必要である。しかし、上記のように嫌気処理を施した汚水は電子供与体の濃度が低いため、脱窒反応に必要な電子供与体が不足する場合がある。
【0032】
本実施の形態では、このような電子供与体の不足を補うため、原水槽9から供給される汚水の一部が、嫌気処理装置20を経由せずに迂回するバイパス管21を介して反応槽1の外部領域12に供給される。バイパス管21を経て反応槽1に供給される汚水は嫌気処理を施されていないため、原水槽9に収容されていた汚水そのものであり、嫌気処理装置20を経由して供給される汚水よりも高濃度の電子供与体を含んでいる。すなわち、バイパス管21を介して原水槽9の汚水を反応槽1に供給することにより、より高濃度の電子供与体を含む汚水を脱窒反応が進行する外部領域12に供給することができる。
【0033】
汚水の水位が汚水越流位置にあるときにバイパス管21を介した汚水を外部領域12に供給すると、仕切板7の周囲を循環する循環流により、汚水に含まれる電子供与体が仕切板7の下部を経て好気区画である汚水領域11に移行する。その結果、外部領域12において電子供与体を効率的に脱窒反応に利用することができない。また、内部領域11では、外部領域12から移行した電子供与体が酸素を消費するため、酸素供給を補うために散気管4からの曝気量が増大し、その結果、曝気に要する消費電力量が増大する。
【0034】
したがって、バイパス管21を介した汚水の供給は、汚水の水位が汚水非越流位置にあるとき、すなわち、反応槽1内の水位が仕切板7の上端よりも低い状態であるときに供給する必要がある。汚水の水位が汚水非越流位置にあるときには、仕切板7の周囲を循環する循環流が形成されない。そのため、外部領域12に供給された汚水に含まれる電子供与体は内部領域11にほとんど移行することなく脱窒反応に利用される。また、内部領域11における曝気量の増大を抑え、曝気に要する消費電力量の増大を抑えることができる。したがって、バイパス管21を経由する汚水の供給量は、反応槽1内の水位が仕切板の上端を越えず分断状態を維持できる量であるのが好ましい。
【0035】
バイパス管21により反応槽1に供給される汚水は、嫌気処理が施されていないため原水槽9に収容されていた汚水そのものであり、例えば、BODが500~15000mg/L、好ましくは500~5000mg/Lであり、T-N(総窒素濃度)が100~2000、好ましくは100~500であり、BOD/T-Nが1~50、好ましくは5~50である。
【0036】
嫌気処理された汚水は、好気性処理および無酸素処理されること、及び、反応槽1内の水位を制御して仕切板上端よりも高い状態と低い状態とに切り換えることを目的として反応槽1に供給される汚水である。また、バイパス管21を経由する汚水は、脱窒反応に必要な十分な電子供与体を汚水領域12に供給すことを目的として反応槽1に供給される汚水である。
【0037】
本実施の形態では、嫌気処理装置20を経由する汚水(嫌気処理された汚水)の流量とバイパス管21を経由する汚水(嫌気処理されていない汚水)の流量は、バイパスポンプの流量やバイパスラインに設けられたバルブの開度を調節することにより制御することができる。また、嫌気処理され反応槽1に供給される汚水の流量と、嫌気処理されずにバイパス管21を経由して反応槽1に供給される汚水の流量は、例えば、反応槽1に供給される混合液のBOD/T-Nが2~5、好ましくは3となるようにバイパス流量を設定して供給することができる。
【0038】
さらに、図1の装置は、膜分離装置2による膜分離後に得られたろ過水中の硝酸性窒素濃度を測定する硝酸性窒素濃度計17を備える。ろ過水中の硝酸性窒素濃度については、予め窒素除去効率とエネルギー効率を最適にするための目標値が設定される。硝酸性窒素濃度計17により測定された硝酸性窒素濃度が予め設定した目標値となるよう、バイパス管21から反応槽1に供給される汚水の供給量が制御される。
【0039】
具体的に、膜分離後のろ過水中の硝酸性窒素濃度が予め設定した目標値よりも高い場合には、外部領域12で進行する脱窒反応が不十分であるため、バイパス管21により供給される汚水の供給量を多くして、脱窒反応に必要な電子供与体の供給量を増やすよう制御することができる。また、ろ過水中の硝酸性窒素濃度が予め設定した目標値よりも低い場合には、脱窒反応は十分に進行しているが、過剰量の電子供与体が供給されている。過剰量の電子供与体が供給されると、汚水の水位が汚水非越流位置にある場合であっても、外部領域12から内部領域11に電子供与体が移行する。内部領域11に移行した電子供与体は酸素を消費するため、酸素供給を補うために散気管4からの曝気量が増加し、その結果、曝気に要する消費電力量が増大する。したがって、ろ過水中の硝酸性窒素濃度が予め設定した目標値よりも低い場合には、バイパス管21により供給される汚水の供給量を減らすよう制御することができる。
【0040】
なお、膜分離後のろ過水中の硝酸性窒素濃度を測定する硝酸性窒素濃度計17の代わりに、ろ過水中の硝酸性窒素残存量を評価できるpHセンサーを用いてもよい。この場合、pHセンサーにより測定されたろ過水のpHの目標値が最適な範囲となるよう、バイパス管21から汚水領域12に供給される汚水の供給量が制御される。
【0041】
具体的に、ろ過水のpHが予め設定した目標値よりも低い場合には、外部領域12で進行する脱窒反応が不十分であるため、バイパス管21により供給される汚水の供給量を多くして、脱窒反応に必要な電子供与体の供給量を増やすことができる。また、ろ過水のpHが予め設定した目標値よりも高い場合には、散気管4からの曝気量の増加を抑えるため、過剰量の電子供与体が供給されないようバイパス管21により供給される汚水の供給量を減らすことができる。
【0042】
以上説明した通り、本発明の第1の実施の形態に係る汚水処理装置(図1)は、好気性処理および無酸素処理するための汚水を嫌気処理装置20から反応槽1に供給する手段と、より高濃度の電子供与体を含み、前記好気性処理および無酸素処理される汚水とは異なる汚水をバイパス管21を介して供給する手段、の両方の手段を備える。このような構成により、汚水の種類により有機物の量が変動する場合でも、脱窒反応に必要な最適量の電子供与体含有液を外部領域12に供給することができる。
【0043】
また、本実施の形態において、仕切板7は膜分離装置2の全周囲を囲包しているが、膜分離装置2の周囲を実質的に取り囲むものであればよく、仕切板7と反応槽1の槽壁とによって膜分離装置2の周囲を取り囲んでいてもよい。具体的に、反応槽1の対向する2つの槽壁と2枚の矩形状の仕切板7によって膜分離装置2を囲包し、又は反応槽1の3つの槽壁と1枚の矩形状の仕切板7によって膜分離装置2を囲包してもよい。また、反応槽1が大型の場合には、単位時間当たりの処理量を大きくするために、散気管4を配置する内部領域11を複数設けてもよい。
【0044】
次に、第1の実施の形態に係る汚水処理装置(図1)によって実行される汚水処理方法について説明する。
【0045】
上述したように、本実施の形態の汚水処理装置(図1)は、原水槽9と、反応槽1と、嫌気処理装置20と、バイパス管21とを備える。また、反応槽1は、膜分離装置2と、散気管4と、仕切板7とを有し、好気性処理および無酸素処理される汚水と、微生物を含む有機汚泥が収容される。反応槽1の内部は仕切板7により複数の区画に仕切られている。散気管4は膜分離装置2の下方から曝気を行い、膜分離装置2および散気管4が配置された区画内が好気状態に維持される。
【0046】
原水槽9に収容された汚水は嫌気処理装置20に供給され、反応槽1内の膜分離装置2の負荷を低減するために嫌気処理に供される。この嫌気処理により、汚水中の高分子状有機物の一部がアンモニア、メタンガス、二酸化炭素などに変換される。嫌気処理され有機物の含有量が低下した汚水は、ポンプ15を介して反応槽1に供給され、反応槽1において好気性処理および無酸素処理に供される。また、水位制御手段(不図示)とポンプ15を用いて嫌気処理された汚水の反応槽1への供給と停止を制御することにより、反応槽内の水位を調節することができ、反応槽1内の水位を汚水越流位置と汚水非越流位置とに切り換えることができる。
【0047】
汚水の水位が汚水越流位置にあるとき、及び、汚水非越流位置にあるときのいずれの場合でも、内部領域11では酸素存在下でアンモニアを亜硝酸や硝酸に変換する硝化反応(好気性処理)が進行し、外部領域12では亜硝酸や硝酸を無酸素状態下で窒素に変換する脱窒反応(無酸素処理)が進行する。
【0048】
汚水領域12で進行する脱窒反応には亜硝酸や硝酸を還元するのに十分な電子供与体が必要である。しかし、上記のように嫌気処理を施した汚水は電子供与体の濃度が低いため、脱窒反応に必要な電子供与体が不足する場合がある。
【0049】
この電子供与体の不足を補うために、原水槽9に収容された汚水の一部が、バイパス管21を介して反応槽1の外部領域12に供給される。バイパス管21を介して供給される汚水は嫌気処理されておらず、より高濃度の電子供与体を含有する。したがって、バイパス管21を介して汚水を供給することにより、脱窒反応に必要な量の電子供与体を反応槽1の外部領域12に供給することができる。これにより、窒素除去効率の高い汚水処理を安定して実行することができる。
【0050】
また、吸引ポンプ3が駆動すると、生物処理された汚水は膜分離装置2によってろ過され、ろ過水が吸引ポンプ3により吸引されて反応槽1の外部に取り出される。
【0051】
膜分離装置2による膜分離後に得られたろ過水は、硝酸性窒素濃度計17により硝酸性窒素濃度が測定される。ろ過水中の硝酸性窒素濃度については予め目標値が設定される。
膜分離後のろ過水中の硝酸性窒素濃度が予め設定した目標値よりも高い場合には、外部領域12で進行する脱窒反応が不十分であるため、バイパス管21により供給される汚水の供給量を多くして、脱窒反応に必要な電子供与体の供給量を増やすよう制御することができる。また、ろ過水中の硝酸性窒素濃度が予め設定した目標値よりも低い場合には、散気管4からの曝気量の増加を抑えるために、バイパス管21により供給される汚水の供給量を少なくするよう制御することができる。
【0052】
このように、膜分離後のろ過水中の硝酸性窒素濃度が最適な範囲となるよう、バイパス管21により外部領域12に供給される汚水の供給量を制御することにより、脱窒反応に必要な電子供与体を供給して窒素除去効率を向上させつつ、散気管4からの曝気量の増加を抑え、曝気に要する消費電力量の増大を防ぐことができる。
【0053】
図2は、本発明の第2の実施の形態に係る汚水処理装置を概略的に示す図である。
【0054】
図2における反応槽1、膜分離装置2、散気管4、原水槽9は、その構成、作用が図1における反応槽1、膜分離装置2、散気管4、原水槽9と基本的に同じである。図2の汚水処理装置は、原水槽9に収容された汚水が反応槽1に直接供給されるとともに、嫌気処理装置20及びバイパス管21を用いることなく、電子供与体含有液槽22から電子供与体含有液が反応槽1の汚水領域12に供給される点で図1の汚水処理装置と異なる。以下、重複した構成、作用については説明を省略し、異なる構成、作用についての説明を行う。
【0055】
反応槽1は原水ポンプ8を介して原水槽9に接続され、原水ポンプ8が駆動すると原水槽9から汚水が反応槽1に供給される。反応槽1において汚水は好気性処理および無酸素処理される。また、反応槽1はポンプ16を介して電子供与体含有液を収容する電子供与体含有液槽22に接続され、ポンプ16が駆動すると、電子供与体含有液槽22から電子供与体含有液が反応槽1の外部領域12に供給される。
【0056】
図2において、原水槽9に収容された汚水はそのまま反応槽1に供給されるが、汚水の種類によっては含有する有機物の量が変動する。そのため、外部領域12において脱窒反応に必要な電子供与体が不足し、安定した脱窒反応を実行できない場合がある。このような電子供与体の不足を補うため、電子供与体含有液槽22から電子供与体含有液が反応槽1の外部領域12に供給される。
【0057】
電子供与体含有液が含有する電子供与体は、電子供与体として利用可能な有機物及び無機物であれば特に限定されない。電子供与体としては、具体的にメタノールやエタノール等のアルコール類、酢酸等の有機酸、硫黄及び水素からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。電子供与体含有液は電子供与体を水などの溶媒に溶解させるか、又は、固形物を粉末スラリー状にして添加するか、更には、ガス体で散気させることにより調製される。電子供与体は電子供与体含有液に高濃度で含まれるため、電子供与体含有液を供給することにより電子供与体を効率的に補うことができる。電子供与体含有液中の電子供与体の濃度は、安全性や経済性を考慮して定めることができる。通常は可能な限り高濃度が有利であり、原液をそのまま使用することが好ましい。
【0058】
下水や有機性固形物を含む食品工場などの排水の処理の場合には、原水槽9に導入される汚水に対し、予めスクリーンや沈殿池等による前処理を施すことができる。このような前処理により汚水から除去されたスクリーン滓や沈殿汚泥等の固形性有機物には、高濃度の有機物が含まれることから、嫌気処理(メタン発酵)を行ってエネルギーを回収することができる。このとき、余剰汚泥(反応槽1内で増殖し余剰となった活性汚泥)も合わせて嫌気処理を行うことができる。このような固形性有機物の嫌気処理においては、順次、加水分解工程(可溶化工程)、酸発酵工程及びメタン発酵工程を経て、固形性有機物が最終的にメタンガスに変換される。加水分解工程や酸発酵工程で得られる排液には脱窒に有用な電子供与体が多く含まれることから、この排液を電子供与体含有液槽22に導入して利用することができる。
【0059】
すなわち、図2の装置では、好気性処理および無酸素処理される汚水とは異なる電子供与体含有液が電子供与体含有液槽22から反応槽1の汚水領域12に供給される。そのため、汚水の種類によって脱窒反応に必要な電子供与体が不足する場合でも、不足する電子供与体を効率的に外部領域12に供給することができる。したがって、反応槽1内の外部領域12において、安定した脱窒反応を実行することができる。
【0060】
また、図2の装置は、膜分離装置2による膜分離後に得られたろ過水中の硝酸性窒素濃度を測定する硝酸性窒素濃度計17を備える。ろ過水中の硝酸性窒素濃度については、予め窒素除去効率とエネルギー効率を最適にするための目標値が設定される。硝酸性窒素濃度計17により測定された硝酸性窒素濃度が予め設定した目標値となるよう、電子供与体含有液槽22から反応槽1に供給される電子供与体含有液の供給量が制御される。
【0061】
具体的に、膜分離後のろ過水中の硝酸性窒素濃度が予め設定した目標値よりも高い場合には、外部領域12で進行する脱窒反応が不十分であるため、電子供与体含有液槽22から反応槽1に供給される電子供与体含有液の供給量を多くして、脱窒反応に必要な電子供与体の供給量を増やすよう制御することができる。また、ろ過水中の硝酸性窒素濃度が予め設定した目標値よりも低い場合には、散気管4からの曝気量の増加を抑えるために、電子供与体含有液槽22から反応槽1に供給される電子供与体含有液の供給量を少なくするよう制御することができる。
【0062】
なお、第1の実施の形態と同様に、膜分離後のろ過水中の硝酸性窒素濃度を測定する硝酸性窒素濃度計17の代わりに、ろ過水中の硝酸性窒素残存量を評価できるpHセンサーを用いてもよい。
【0063】
以上説明した通り、本発明の第2の実施の形態に係る汚水処理装置(図2)は、原水槽9から好気性処理および無酸素処理するための汚水を反応槽1に供給する手段と、より高濃度の電子供与体を含み、前記好気性処理および無酸素処理される汚水とは異なる電子供与体含有液を供給する手段、の両方の手段を備える。このような構成により、汚水の種類により有機物の量が変動する場合でも、脱窒反応に必要な最適量の電子供与体含有液を外部領域12に供給することができる。
【0064】
次に、第2の実施の形態に係る汚水処理装置(図2)によって実行される汚水処理方法について説明する。
【0065】
原水槽9に収容された汚水は原水ポンプ8を介して反応槽1に供給され、反応槽1において好気性処理および無酸素処理に供される。また、原水ポンプ8により汚水の反応槽1への供給と停止を制御することにより、反応槽内の水位を調節することができ、反応槽1内の水位を汚水越流位置と汚水非越流位置とに切り換えることができる。
【0066】
汚水の水位が汚水越流位置にあるとき、及び、汚水非越流位置にあるときのいずれの場合でも、汚水領域11では酸素存在下でアンモニアを亜硝酸や硝酸に変換する硝化反応(好気性処理)が進行し、汚水領域12では亜硝酸や硝酸を無酸素状態下で窒素に変換する脱窒反応(無酸素処理)が進行する。
【0067】
汚水領域12で進行する脱窒反応には亜硝酸や硝酸を還元するのに十分な電子供与体が必要である。しかし、原水槽9から原水ポンプ8を介して供給される汚水は、汚水の種類によって含有する有機物の量が変動し、脱窒反応に必要な電子供与体が不足する場合がある。
【0068】
本実施の形態では、電子供与体含有液槽22から電子供与体含有液が反応槽1の外部領域12に供給される。電子供与体含有液槽22から供給される電子供与体含有液は高濃度の電子供与体を含有する。したがって、電子供与体含有液を反応槽1に供給することにより、脱窒反応に必要な量の電子供与体を反応槽1の外部領域12に効率的に供給することができる。これにより、窒素除去効率の高い汚水処理を安定して実行することができる。
【0069】
また、吸引ポンプ3が駆動すると、生物処理された汚水は膜分離装置2によってろ過され、ろ過水が吸引ポンプ3により吸引されて反応槽1の外部に取り出される。
【0070】
膜分離装置2による膜分離後に得られたろ過水は、硝酸性窒素濃度計17により硝酸性窒素濃度が測定される。膜分離後のろ過水中の硝酸性窒素濃度が予め設定した目標値よりも高い場合には、外部領域12で進行する脱窒反応が不十分であるため、電子供与体含有液の供給量を多くするよう制御することができる。また、ろ過水中の硝酸性窒素濃度が予め設定した目標値よりも低い場合には、散気管4からの曝気量の増加を抑えるために、電子供与体含有液の供給量を少なくするよう制御することができる。
【0071】
このように、膜分離後のろ過水中の硝酸性窒素濃度が最適な範囲となるよう電子供与体含有液の供給量を制御することにより、脱窒反応に必要な電子供与体を供給して窒素除去効率を向上させつつ、散気管4からの曝気量の増加を抑え、曝気に要する消費電力量の増大を防ぐことができる。
【0072】
以上、本発明について、上述した実施の形態を用いて説明したが、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、汚水処理を安定して実行することができる汚水処理装置及び方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 反応槽
2 膜分離装置
4 散気管
7 仕切板
9 原水槽
10 原水供給装置
11 仕切板の外部領域
12 仕切板の内部領域
17 硝酸性窒素濃度計
20 嫌気処理装置
21 バイパス管
22 電子供与体含有液槽
図1
図2
図3
図4