(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】冷却システム
(51)【国際特許分類】
F01P 7/16 20060101AFI20240514BHJP
F01P 3/20 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
F01P7/16 502M
F01P7/16 502H
F01P7/16 503
F01P7/16 504E
F01P7/16 504A
F01P3/20 H
(21)【出願番号】P 2020114351
(22)【出願日】2020-07-01
【審査請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000228741
【氏名又は名称】日本サーモスタット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】須田 浩
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】実開平06-001727(JP,U)
【文献】実開昭61-047425(JP,U)
【文献】特開平06-272557(JP,A)
【文献】特開2016-003578(JP,A)
【文献】実開昭61-132431(JP,U)
【文献】特開2006-200406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 7/14 - 7/16
F01P 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
前記内燃機関を冷却するための冷却液から熱を放出させるラジエータと、
前記ラジエータ以外の一以上の熱交換器と、
前記内燃機関と前記ラジエータとの間で冷却液を循環させる主通路と、
冷却液の温度を感知する温度感知部を含み、冷却液の温度に応じて前記主通路を開閉するサーモスタットと、
前記温度感知部が配置される部屋を介して、前記内燃機関と前記熱交換器との間で冷却液を循環させる副通路と、
前記サーモスタットを迂回して前記内燃機関と前記ラジエータとを連通するサーモスタットバイパス路と、
前記副通路と前記サーモスタットバイパス路を開閉する一つの
電動弁を備えることを特徴とする冷却システム。
【請求項2】
前記サーモスタットは、前記温度感知部を加熱するヒータを含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の冷却システム。
【請求項3】
前記内燃機関を始動するイグニッションスイッチがOFFの場合、前記電動弁は、前記サーモスタットバイパス路を開く、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の冷却システム。
【請求項4】
前記電動弁を開閉制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、
前記内燃機関が暖機運転していると判断した場合には、前記電動弁で前記副通路及び前記サーモスタットバイパス路を閉じ、
前記暖機運転が終了したと判断した場合には、前記電動弁で前記サーモスタットバイパス路を閉じるとともに前記副通路を開き、
ノッキング発生と判断した場合には、前記暖機運転が終了していると判断している場合であっても、前記電動弁で前記サーモスタットバイパス路を開く、
ことを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の冷却システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関の冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の内燃機関の冷却システムは、内燃機関を冷却する冷却液を、ラジエータ、暖房熱交換器、AT(自動変速機)/CVT(無段階変速機)、EGR(排出ガス再循環)等の各装置へ分配するために、電動弁を備えている。
この電動弁としては、フェール(fail)時(故障発生時)に、冷却液がラジエータへ循環しなくなり、オーバーヒートするのを防止するため、安全機能を備えたサーモバルブ(サーモスタットバルブ)付き電動弁が用いられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、このサーモバルブ付き電動弁を用いた冷却システムが示されている。この特許文献1に記載されたサーモバルブ付き電動弁を用いた冷却システムについて、
図4、
図5に基づいて説明する。
図4に示すように、自動車用冷却液の循環システム(冷却システム)50にあっては、サーモバルブ付き電動弁51が内燃機関ENGのシリンダヘッドCHの側部に配置される。
そして、このサーモバルブ付き電動弁51は、ウォータポンプWPによって加圧されシリンダヘッドCH内を通過した冷却液を、第1から第3配管L1~L3を介して、暖房熱交換器HT、オイルクーラOC及びラジエータRAD側へと夫々分配すると共に、その各流量を制御する。
【0004】
このサーモバルブ付き電動弁51は、
図5に示すように、減速機収容部52に収容された減速機と、弁体収容部53に収容された弁体と、モータ収容部54に収納された電動モータとを備えている。そして、前記電動モータの回転を減速機によって減速し、減速機に接続された回転軸によって、弁体が回転(動作)するように構成されている。前記電動モータは、車両に搭載された電子制御装置(ECU)によって制御され、車両状態に応じて、減速機を介して、弁体を回転制御する。
【0005】
図5に示す前記サーモバルブ付き電動弁51の第1連通口E1は、
図4に示す第1配管L1に接続され、暖房熱交換器HTと連通する。また第2連通口E2は第2配管L2に接続され、オイルクーラOCと連通する。第3連通口E3は第3配管L3に接続され、ラジエータRADと連通する。
【0006】
また、図示しないが、前記第3連通口E3には、故障などにより弁体を駆動できない場合や、所定の圧力あるいは所定の温度に達した場合に、弁体収容部53と第3連通口E3とを連通可能とする、フェールセーフ機構としてのサーモバルブが設けられている。
フェールセーフ機構としてのサーモバルブは、フェール(fail)時に、冷却液温度が高温になると開き、ラジエータRADに対する冷却液の供給路を確保し、内燃機関ENGのオーバーヒートを防止する。
【0007】
また、従来の内燃機関の冷却システムにおいて、冷却液の通路の開閉に、サーモスタットが用いられる場合がある。サーモスタットとしては、一般的には、特許文献2に記載される空気抜用のジグルバルブを備えたサーモスタットが用いられる。
この空気抜用のジグルバルブを備えたサーモスタットでは、冷却液の温度に応じて、冷却液の通路を開く、一方サーモスタットが閉じた状態であっても、空気抜用のジグルバルブから冷却液流路中の空気が抜ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-133622号公報
【文献】実開昭53-146827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、前記サーモバルブ付き電動弁の場合、電動弁は大きく分けて内燃機関を冷却する冷却する機能と、暖房熱交換器、AT(自動変速機)/CVT(無段階変速機)、EGR(排出ガス再循環)等の各装置へ分配する機能を有しており、更に、フェールセーフ機構としてのサーモバルブと電動弁の両方が一体化して設けられているため、大型化し、車両の搭載性が悪く、また高コストであるという課題があった。
この課題を解決する一つの方法として、サーモバルブ付き電動弁を三つの機能別に構成することが考えられる。この場合、内燃機関を冷却する機能と電動弁故障時のフェールセーフ機構としての機能については、従来のWAX式サーモスタットに集約し、電動弁の機能は各装置へ冷却液を分配することに絞ることにより、小型化でき、車両の搭載性を改善でき、コストの低減も図られる。
【0010】
従来の電動弁を用いた車両においては内燃機関の暖機時間を短縮して燃費を向上させるため、内燃機関を始動した直後の一定時間はラジエータを経由する冷却液の流量を絞っている。しかしながら、従来のサーモスタットを利用する場合には、冷却液流路中の空気を抜くために、空気抜用のジグルバルブを備えたサーモスタット(サーモバルブ)を用いる必要がある。
この空気抜用のジグルバルブは冷却液の圧力によって閉じる仕組みであり、この空気抜用のジグルバルブを備えたサーモスタットを用いた場合、サーモスタットが閉じた状態であっても、空気抜用のジグルバルブから冷却液が漏れるため、暖気時に冷却液温度を速やかに上昇させ、速やかに暖機することが困難になる。また、従来の電動弁は、瞬時に冷却液の温度を希望の温度に変更することができるものの、その機能を分離して従来のサーモスタットを利用した場合、電動弁よりも応答遅れが発生するため、ノッキング発生時に冷却液温度を速やかに下降させて、ノッキングを早期に抑制することが困難になるという、新たな課題が生ずる。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、搭載性を良好にできるとともに、冷却液流路中の空気を抜くことができ、暖気時に冷却液温度を速やかに上昇させ、速やかに暖気すること、またノッキング発生時に冷却液温度を速やかに下降させて、ノッキングを早期に抑制することができる冷却システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するためになされた本発明にかかる冷却システムは、内燃機関と、前記内燃機関を冷却するための冷却液から熱を放出させるラジエータと、前記ラジエータ以外の一以上の熱交換器と、前記内燃機関と前記ラジエータとの間で冷却液を循環させる主通路と、冷却液の温度を感知する温度感知部を含み、冷却液の温度に応じて前記主通路を開閉するサーモスタットと、前記温度感知部が配置される部屋を介して、前記内燃機関と前記熱交換器との間で冷却液を循環させる副通路と、前記サーモスタットを迂回して前記内燃機関と前記ラジエータとを連通するサーモスタットバイパス路と、前記副通路と前記サーモスタットバイパス路を開閉する一つの前記電動弁を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明の冷却システムにあっては、サーモスタットで主通路の開閉を行い、ラジエータを経由した冷却液を内燃機関に循環でき、またラジエータを経由した冷却液の内燃機関への循環を停止できる。また、前記電動弁で、内燃機関と熱交換器との間で冷却液を循環させる副通路とサーモスタットバイパス路(サーモスタット迂回路)の開閉を行い、これによって、ラジエータ経由の冷却液がサーモスタットを迂回したり、熱交換器へ供給される冷却液の配分が変わったりする。
尚、熱交換機は、例えば、暖房熱交換器、ATF(Automatic transmission fluid)ウォーマ(あるいはCVT(無段階変速機)オイルウォーマ)、EGR(Exhaust Gas Recirculation)、スロットルボディ(throttle body)等の冷却液が供給される装置をいう。また、サーモスタットを迂回するとは、サーモスタットの弁体で開閉される部分を迂回する(避ける)ことを意味する。
【0014】
上記構成によれば、冷却液の温度に応じてサーモスタットが主通路を開閉し、冷却液がラジエータを経由して内燃機関を循環でき、またラジエータを経由した冷却液の内燃機関への循環を停止できるので、電動弁にフェールセーフ機構としてのサーモバルブを設ける必要がない。即ち、電動弁のフェール(fail)時にも、前記サーモスタットが主通路を開閉が行われるため、内燃機関ENGのオーバーヒート等が防止される。
これにより、電動弁からサーモバルブを廃することができる。さらに、電動弁は、副通路、サーモスタットバイパス路のみを開閉できればよいため小型化できる。そして、電動弁が小型になると、搭載性が向上し、コストを低減できる。
【0015】
より詳しくは、小型化された電動弁は、エンジンのウォータポンプ周辺に配置する必要がなくなり、サーモスタットバイパス路及び副通路の途中であればどこでも配置可能である。
しかも、電動弁は、サーモスタットを迂回するサーモスタットバイパス路を開閉する。このため、サーモスタットからジグルピンを廃しても、電動弁でサーモスタットバイパス路を開くことにより、このサーモスタットバイパス路を通じて冷却液流路中の空気を抜ける。
つまり、上記構成によれば、サーモスタットからジグルピンを廃することができるので、このジグルピン部分からの冷却液の漏れを防止できる。これにより、暖気時に冷却液温度を速やかに上昇させ、速やかに暖気でき、またノッキング発生時に冷却液温度を速やかに下降させて、ノッキングを早期に抑制できる。
【0016】
また、本発明に係る冷却システムの前記サーモスタットが、前記温度感知部を加熱するヒータを含んでいても良い。
このようにすると、例えば、登坂走行等連続した高負荷が続く高負荷走行時において、ヒータで温度感知部(感温部)を加熱することにより、サーモスタットを開いた状態に安定的に維持できるので、高負荷走行時においても冷却液の温度を低温に維持できる。
【0017】
また、本発明に係る冷却システムにおいて、前記内燃機関を始動するイグニッションスイッチがOFFの場合に、前記電動弁が前記サーモスタットバイパス路を開いても良い。
このようにすると、イグニッションスイッチをOFFにし、内燃機関を停止した状態において、前記サーモスタットバイパス路を通じて冷却液流路内の空気を抜けるので、例えば、冷却液の温度がサーモスタットの開弁温度に達する前に内燃機関が停止したとしても、冷却液流路内の空気抜きが可能となる。
【0018】
また、本発明に係る冷却システムは、前記電動弁を開閉制御する制御装置を備え、前記制御装置は、前記内燃機関が暖機運転していると判断した場合に、前記電動弁で前記副通路及び前記サーモスタットバイパス路を閉じ、前記暖機運転が終了したと判断した場合に、前記電動弁で前記サーモスタットバイパス路を閉じるとともに前記副通路を開き、ノッキング発生と判断した場合に、前記暖機運転が終了していると判断している場合であっても、前記電動弁で前記サーモスタットバイパス路を開くように構成してもよい。
このようにすると、冷却液の温度の低い内燃機関の暖機運転時には、主通路がサーモスタットで閉じられるとともに、副通路及びサーモスタットバイパス路が電動弁で閉じられるので、冷却システムにおける冷却液流路の流れが止まり、冷却液温度を速やかに上昇させ、速やかに暖気できる。また、暖機運転が終了した場合には、副通路が開くので、サーモスタットが冷却液の温度を感知できるようになり、サーモスタットが開弁可能となる。また、ノッキング発生時は、サーモスタットバイパス路が開くので、冷却液温度を速やかに下降させて、ノッキングを早期に抑制できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、搭載性を良好にできるとともに、冷却液流路中の空気を抜くことができ、暖気時に冷却液温度を速やかに上昇させ、速やかに暖気すること、またノッキング発生時に冷却液温度を速やかに下降させて、ノッキングを早期に抑制することができる冷却システム及びその制御方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は本発明にかかる第一の実施形態の冷却システムの概略構成図である。
【
図2】
図2の冷却システムに用いられるサーモスタットの断面図である。
【
図3】
図3は本発明にかかる第二の実施形態の冷却システムの概略構成図である。
【
図4】
図4は従来の冷却システムの概略構成図である。
【
図5】
図4の冷却システムに用いられている電動弁を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の第一の実施形態にかかる冷却システム及びその制御方法について、
図1、
図2に基づいて説明する。
【0022】
(冷却システムの概要)
本発明にかかる冷却システム1は、例えば、
図1に示すように、内燃機関2を冷却すると共に、内燃機関2のウォータジャケット2aとラジエータ3の間で循環する冷却液を、暖房熱交換器4、ATF(Automatic transmission fluid)ウォーマ(あるいはCVT(無段階変速機)オイルウォーマ)5、EGR(Exhaust Gas Recirculation)6等の各装置(熱交換器)に循環させ、この冷却液を各装置において個別に利用するものである。
尚、前記各装置(熱交換器)は例示であり、スロットルボディ(throttle body)にも利用できる。
【0023】
この冷却システム1は、内燃機関2のウォータジャケット2aとラジエータ3の間で冷却液を循環させる主通路L1の開閉を行うサーモスタット7と、サーモスタット7の温度感知部7B8が収容される部屋(第二の室7b)に連通されるとともに、ウォータジャケット2aと暖房熱交換器4、ATF(Automatic transmission fluid)ウォーマ(あるいはCVT(無段階変速機)オイルウォーマ)5、EGR(Exhaust Gas Recirculation)6等のラジエータ3以外の熱交換器の間で冷却液を循環させる副通路L2と、副通路L2を開閉して各熱交換器へ供給される冷却液の配分を変える電動弁8とを備えている。
【0024】
また、前記電動弁8は、サーモスタット7を迂回するサーモスタットバイパス路(サーモスタット迂回路)L3を開閉し、電動弁8がサーモスタットバイパス路L3を開いている場合には、内燃機関2とラジエータ3とが連通される。これにより、内燃機関2を冷却する冷却液がサーモスタット7を経由せずに内燃機関2とラジエータ3との間を循環できる。
以下、この冷却システム1を詳細に説明する。
【0025】
(冷却システムの通路)
冷却システム1は、
図1に示すように、内燃機関2とラジエータ3との間で冷却液を循環させる主通路L1を備えている。本実施の形態において、主通路L1は、第一主通路L1a、第二主通路L1b、第三主通路L1cを備えている。
前記第一主通路L1aは、内燃機関2のウォータジャケット2aの冷却液出口とラジエータ3の冷却液入口とを結び、前記第二主通路L1bは、ラジエータ3の冷却液出口とサーモスタット7を結び、前記第三主通路L1cは、サーモスタット7とウォータポンプ9の吸込口とを結ぶ。
そして、第三主通路L1cから吸い込まれてウォータポンプ9から吐出された冷却液は、ウォータジャケット2aへと送られる。このように、冷却液は、主通路L1により、内燃機関2及びラジエータ3を経由して流れる。サーモスタット7は、その主通路L1における第二主通路L1bと第三主通路L1cの接続部を冷却液の温度に応じて開閉する。
【0026】
また、冷却システム1は、内燃機関2と、暖房熱交換器4、ATF(Automatic transmission fluid)ウォーマ(あるいはCVT(無段階変速機)オイルウォーマ)5、EGR(Exhaust Gas Recirculation)6との間で、冷却液を循環させる副通路L2を備えている。本実施の形態において、副通路L2は、第一副通路L2a、第二副通路L2b、第三副通路L2c、第四副通路L2dを備えている。
前記第一副通路L2aは、ウォータジャケット2aの冷却液出口と、暖房熱交換器4、ATF(Automatic transmission fluid)ウォーマ(あるいはCVT(無段階変速機)オイルウォーマ)5、EGR(Exhaust Gas Recirculation)6等の各熱交換器とを結ぶ。
前記第二副通路L2bは、前記各熱交換器と、電動弁8とを結び、前記第三副通路L2cは、電動弁8と、サーモスタット7の温度感知部7B8が配置される部屋(後述する第二の室7b)とを結ぶ。
前記第四副通路L2dは、第二の室7bとウォータポンプ9の吸込口とを結ぶ。
【0027】
この第4副通路L2dと、第三主通路L1cが管路を共有している。つまり、第三主通路L1cもサーモスタット7の温度感知部7B8が配置される第二の室7bに接続されている。サーモスタット7は、第二の室7bにおける温度感知部7B8の周辺の温度を感知して、第二主通路L1bと第三主通路L1cとの連通を許容したり、遮断したりする。
また、電動弁8によって、暖房熱交換器4、ATF(Automatic transmission fluid)ウォーマ(あるいはCVT(無段階変速機)オイルウォーマ)5、EGR(Exhaust Gas Recirculation)6等、それぞれの熱交換器に通じる第二副通路L2bの開閉が行われ、これにより、各熱交換器へ供給される冷却液の配分が変わる。
【0028】
また、冷却システム1は、前記サーモスタット7を迂回して、内燃機関2とラジエータ3との間で冷却液を循環させるサーモスタットバイパス路L3を備える。
本実施の形態において、サーモスタットバイパス路L3は、第二主通路L1bの途中と電動弁8とを結ぶ上流側通路L3aと、電動弁8と第三主通路L1cの途中を結ぶ下流側通路L3bとを備える。
前述のように、第二主通路L1bは、ラジエータ3に接続され、第三主通路L1cは、ウォータポンプ9に接続される。このため、サーモスタット7が主通路L1を閉じた状態であっても、電動弁8がサーモスタットバイパス路L3を開くと、ウォータジャケット2aから流出した冷却液は、第一主通路L1a、ラジエータ3、第二主通路L1b、サーモスタットバイパス路L3、及び第三主通路L1cを通ってウォータポンプ9へと向かう。
【0029】
(サーモスタット)
サーモスタット7は、
図1に示すように、ハウジング7Aに収容されている。
ハウジング7Aの内部は、後述するサーモスタット7の弁体7B1により、二つの室7a、7bに仕切られる。これら二室のうちの一方の室を第一の室7a、他方の室を第二の室7bとすると、第一の室7aには、第二主通路L1bが接続され、第二の室(部屋)7bには、第三主通路L1cが接続されている。
【0030】
サーモスタット7は、
図2に示すように、感温作動体としてのサーモエレメント7B2と、サーモエレメント7B2によって駆動されて弁座7B3に離着座し、主通路L1を開閉する弁体7B1と、この弁体7B1を常時閉弁する方向(弁座7B3に着座させる方向)に付勢する付勢部材としてのバネ7B4と、第三副通路L2cからの冷却液が流入する筒状のホルダ7B9とを備えている。
サーモエレメント7B2は、ピストンガイド7B5と、ピストンガイド7B5にガイドされながら進退すると共に、先端がピストン受け7B6に係合するピストン7B7と、冷却液の温度変化により膨脹または収縮してピストン7B7を進退移動させる熱膨張体としてのワックスを内蔵した温度感知部(感温部)7B8とを備えている。
前記ホルダ7B9は、温度感知部7B8の外周に配置され、第三副通路L2cから第四副通路L2dへ向かう冷却液がホルダ7B9の内側と、ホルダ7B9の孔7B10を通過する。
【0031】
そして、温度感知部7B8の周囲の冷却液が所定の温度以上に上昇し、温度感知部7B8内のワックスが膨張すると、ピストン7B7が押し出され、弁体7B1が弁座7B3から離座して、主通路L1を開く。
すなわち、サーモスタット7の弁体7B1が弁座7B3から離れると、これらの間にできる隙間を介して二つの室7a、7bが連通されて、第二主通路L1bと第三主通路L1cが連通する。これにより、ラジエータ3を経由した冷えた冷却液が主通路L1を通って内燃機関2へ供給される。
【0032】
また、温度感知部7B8の周囲の冷却液の温度が所定の温度より下がると、温度感知部7B8に内蔵されたワックスが収縮し、バネ7B4の付勢力により弁体7B1を介してピストン7B7が押し戻されて、弁体7B1が弁座7B3に着座して、主通路L1を閉じる。
このように、サーモスタット7が閉じると、二つの室7a、7bの連通が遮断され、これにより第二主通路L1bと第三主通路L1cの連通が遮断される。
【0033】
ここでは、サーモスタットの一例を説明したが、サーモスタットの構成は適宜変更できる。
例えば、前述のように、ホルダ7B9を温度感知部の外周に設けると、サーモスタット7を内燃機関2の冷却液入口側に設けた場合に、サーモスタット7の感温性を良好にできるが、ホルダ7B9を省略しても良い。また、サーモスタットが弁体7B1の他に、副通路L2を開閉する副弁体を備えていても良い。
また、本実施の形態では、弁座7B3が、サーモスタット7のピストン受け7B6を含むフレーム7Cに形成されているが、ハウジング7Aがフレーム7Cとしての機能をなし、ハウジング7Aに弁座7B3が形成されていても良い。さらに、ホルダ7B9がハウジング7Aに一体的に設けられていても良い。
【0034】
(電動弁8)
電動弁8は、一般に用いられているものを適用できる。例えば、前記した特許文献1に示された電動弁からフェールセーフ機構としてのサーモバルブを除いたものを利用しても良い。以下、電動弁8の一例について説明する。
電動弁8は、減速機収容部に収容された減速機と、弁体収容部に収容された弁体と、モータ収容部に収納された電動モータとを備えている。そして、前記電動モータの回転を減速機によって減速し、減速機に接続された回転軸によって、弁体が回転(動作)するように構成されている。前記電動モータは、車両に搭載された制御装置(ECU)によって制御され、車両状態に応じて、減速機を介して、弁体を回転制御する。
【0035】
弁体を回転駆動することにより、暖房熱交換器4、ATF(Automatic transmission fluid)ウォーマ(あるいはCVT(無段階変速機)オイルウォーマ)5、EGR(Exhaust Gas Recirculation)6等、それぞれの熱交換器に接続される第二副通路L2bを開閉し、熱交換器へ供給される冷却液の配分が変わる。
尚、電動弁8の弁体は、前記ロータリ型の弁体に限られず、直動運動するスプール型の弁体であっても良い。また、ソレノイドバルブを用いて直接バルブを開閉する事も可能である。
【0036】
(冷却システムの動作、作用)
第二副通路L2bの開閉は、運転者の選択により、また車両に設けられた各種センサからの情報に基づいて電子制御により、電動弁8を開閉することによってなされる。これにより、暖房熱交換器4、ATF(Automatic transmission fluid)ウォーマ(あるいはCVT(無段階変速機)オイルウォーマ)5、EGR(Exhaust Gas Recirculation)6に冷却液を供給、非供給の状態になされる。
【0037】
また、サーモスタットバイパス路L3の開閉は、内燃機関の状態、冷却液の温度によって、車両に設けられた各種センサからの情報に基づいて電子制御により、電動弁8によってなされる。
さらに、内燃機関2を始動するイグニッションがOFFとなり、内燃機関が停止した状態では、電動弁8は非通電状態にある。このような非通電状態において、電動弁8はサーモスタットバイパス路L3を開くように設定されている。このようにすると、冷却液の温度が低く、サーモスタット7が閉じた状態にあっても、冷却液流路中の空気を、サーモスタットバイパス路L3を通じて抜ける。
このため、サーモスタット7に空気抜き用のジグルピンを設ける必要がなく、サーモスタット7においてジグルピンは省略されている。即ち、空気抜用のジグルバルブが設けられていないサーモスタット7用いた場合であっても、冷却液流路中の空気を抜くことができる。
【0038】
続いて、電子制御の一例について説明する。
イグニッションがONになると、制御装置は電動弁8等の各種電気機器が正常であるか否かの判断後、内燃機関2が始動し、暖機運転が開始される。また、制御装置は、暖機運転中と判断した場合、電動弁8が副通路L2を閉じるとともに、サーモスタットバイパス路L3を閉じるよう指令を出力する。暖機運転か否かの判断は、温度センサにより検知した冷却液の温度によりなされても良いし、内燃機関2の始動からの時間によりなされても良い。
これにより、暖機運転中においては、電動弁8によって副通路L2及びサーモスタットバイパス路L3の連通が遮断される。
【0039】
また、暖機運転中においては、冷却液の温度が低く、サーモスタット7は閉じられて、主通路L1の連通も遮断されている。このとき、サーモバル7には、ジグルピンが設けられておらず、この部分からラジエータ3を経由した冷えた冷却液が漏れないため、冷却液の温度が速やかに上昇し、速やかに暖気される。
【0040】
次に、制御装置が、内燃機関2の暖機運転が終了したと判断した場合、電動弁8がサーモスタットバイパス路L3を閉じるよう指令を出力するとともに、冷却液の温度に応じて、暖房熱交換器4、ATF(Automatic transmission fluid)ウォーマ(あるいはCVT(無段階変速機)オイルウォーマ)5、EGR(Exhaust Gas Recirculation)6等、それぞれの熱交換器に接続される第二副通路L2bを選択的に開くよう指令を出力する。
これにより、内燃機関2によって暖められた冷却液が副通路L2を通じてサーモスタット7の温度感知部7B8に到達するようになり、サーモスタット7が暖められた冷却液の温度を感知できるようになる。
このとき、冷却液の温度がサーモスタット7の開弁温度に達していれば、サーモスタット7が主通路L1を開き、ラジエータ3を経由した冷えた冷却液が主通路L1を通じて内燃機関2へと供給される。
尚、暖機運転中であっても、例えば、制御装置が、暖房が必要と判断した場合に、電動弁が暖房熱交換器4に通じる第二副通路L2bを開くように指令を出力しても良い。
【0041】
次に、制御装置が、ノッキングが発生していると判断した場合、暖機運転終了後と判断している場合であっても、電動弁8がサーモスタットバイパス通路L3を開くよう指令を出力する。ノッキングが発生しているか否かの判断は、ノッキングセンサからの情報によりなされても良いし、他のセンサにより検知した情報に基づいてもよい。
ノッキングは、冷却液の温度が高温になると発生する。このため、サーモスタット7が主通路L1を開くが、更に電動弁8がサーモスタットバイパス路L3を開くことにより、冷却液温度を速やかに下降させて、ノッキングを早期に抑制できる。
さらに、制御装置が、ノッキングが発生していると判断した場合に、電動弁8がサーモスタットバイパス路L3を開くとともに、副通路L2を綴じるよう指令を出力しても良い。このようにすると、ラジエータ3へ流れる冷却液の流量が増えるので、ノッキングをより早期に抑制できる。
【0042】
(電子制御サーモバルブを用いた冷却システムの動作、作用)
サーモスタット7として、サーモエレメント7B2に温度感知部7B8を加熱するためのヒータを内蔵する電子制御サーモスタットを利用しても良い。
電子制御式でない、ヒータを内蔵しないタイプのサーモスタットを利用した場合、サーモスタットが開いて、冷えた冷却液が温度感知部7B8の配置される第二の室7bに流入すると、サーモスタット7の弁体7B1が閉じる方向へと動き、主通路L1を通過する冷却液の流量が減少してしまう。
これに対して、電子制御サーモスタットを利用した場合には、ヒータで温度感知部7B8を温めてサーモスタットを開弁した状態に維持できる。
これにより、登坂走行等の連続した高負荷が続く走行モードにおいても、冷却液の温度を低温に維持できる。
【0043】
(第二の実施形態)
第一の実施形態では、内燃機関の冷却液入口側にサーモスタット7を設けた場合について、説明したが、
図3に示すように、内燃機関2の出口側にサーモスタットを7設けても良い。尚、第一の実施形態と同一または相当する部材には、同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0044】
この第二の実施形態の冷却システム10は、
図3に示すように、内燃機関2とラジエータ3との間で冷却液を循環させる主通路L11は、第一主通路L11a、第二主通路L11b、第三主通路L11cを備えている。
前記第一主通路L11aは、内燃機関2のウォータジャケット2aの冷却液出口とサーモスタット7を結び、前記第二主通路L11bは、サーモスタット7とラジエータ3の冷却液入口とを結び、前記第三主通路L11cは、ラジエータ3の冷却液出口とウォータポンプ9の吸込み口とを結ぶ。
そして、第三主通路L11cから吸い込まれてウォータポンプ9から突出された冷却液は、ウォータジャケット2aへと送られる。このように、冷却液は、主通路L11により、内燃機関2及びラジエータ3を経由して流れる。サーモスタット7は、その主通路L11における第一主通路L11aと第二主通路L11bの接続部を冷却液の温度に応じて開閉する。
【0045】
また、冷却システム10は、内燃機関2と、暖房熱交換器4、ATF(Automatic transmission fluid)ウォーマ(あるいはCVT(無段階変速機)オイルウォーマ)5、EGR(Exhaust Gas Recirculation)6との間で、冷却液を循環させる副通路L12を備えている。本実施の形態において、副通路L12は、第一副通路L12a、第二副通路L12b、第三副通路L12c、第四副通路L12dを備えている。
前記第一副通路L12aは、ウォータジャケット2aの冷却液出口と、サーモスタット7の温度感知部7B8が配置される第二の室7bとを結ぶ。
前記第二副通路L12bは、サーモスタット7の温度感知部7B8が配置される第二の室7bと電動弁8とを結ぶ。
前記第三副通路L12cは、電動弁8と、暖房熱交換器4、ATF(Automatic transmission fluid)ウォーマ(あるいはCVT(無段階変速機)オイルウォーマ)5、EGR(Exhaust Gas Recirculation)6等の各熱交換器とを結ぶ。
前記第四副通路L12dは、前記各熱交換器とウォータポンプ9の吸込み口とを結ぶ。
前記第一副通路L12aは、第一主通路L11aと管路を共有している。つまり、第一主通路L11aも、サーモスタット7の温度感知部7B8が配置される第二の室7bに接続されている。サーモスタット7は、第二の室7bにおける温度感知部7B8の周辺の温度を感知して、第一主通路L11aと第二主通路L11bとの連通を許容したり、遮断したりする。
また、電動弁8によって、暖房熱交換器4、ATF(Automatic transmission fluid)ウォーマ(あるいはCVT(無段階変速機)オイルウォーマ)5、EGR(Exhaust Gas Recirculation)6等、それぞれの熱交換器に通じる第三副通路L12cの開閉が行われ、これにより、各熱交換器へ供給される冷却液の配分が変わる。
【0046】
また、冷却システム10は、前記サーモスタット7を迂回して、内燃機関2とラジエータ3との間で冷却液を循環させるサーモスタットバイパス路L13を備える。
本実施の形態において、サーモスタットバイパス路L13は、電動弁8と第二主通路L11bの途中を結ぶ。
そして、サーモスタット7が主通路L11を閉じた状態であっても、電動弁8がサーモスタットバイパス路L3を開くと、ウォータジャケット2aから流出した冷却液は、第一主通路L11a、第二副通路L12b、サーモスタットバイパス路L13、第二主通路L11b、ラジエータ3、第三主通路L11cを通ってウォータポンプ9へと向かう。
【0047】
このように構成された第二の実施形態では、第一の実施形態と同様なサーモスタット7、電動弁8を備えているため、内燃機関2を冷却する冷却液がサーモスタット7を経由する場合と迂回する場合の切替えが行われる。
その結果、この第二の実施形態においても、第一の実施形態と同様、冷却液中の空気を抜くことができ、暖気時に冷却液温度を速やかに上昇させ、速やかに暖気でき、またノッキング発生時に冷却液温度を速やかに下降させて、ノッキングを早期に抑制でき、第一の実施形態と同様な効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0048】
1,10 冷却システム
2 内燃機関
3 ラジエータ
4 暖房熱交換器(熱交換器)
5 ATFウォーマあるいはCVTオイルウォーマ(熱交換器)
6 EGR(熱交換器)
7 サーモスタット
7A ハウジング
7a 第一の室
7b 第二の室(部屋)
8 電動弁
9 ウォータポンプ
L1,L11 主通路
L2,L12 副通路
L3,L13 サーモスタットバイパス路