IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立産機システムの特許一覧

<>
  • 特許-圧縮機 図1
  • 特許-圧縮機 図2
  • 特許-圧縮機 図3
  • 特許-圧縮機 図4
  • 特許-圧縮機 図5
  • 特許-圧縮機 図6
  • 特許-圧縮機 図7
  • 特許-圧縮機 図8
  • 特許-圧縮機 図9
  • 特許-圧縮機 図10
  • 特許-圧縮機 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 49/06 20060101AFI20240514BHJP
【FI】
F04B49/06 341E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020119441
(22)【出願日】2020-07-10
(65)【公開番号】P2022016137
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2023-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】大畠 瑛人
(72)【発明者】
【氏名】池田 英明
(72)【発明者】
【氏名】内田 光
(72)【発明者】
【氏名】須藤 浩介
【審査官】森 秀太
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-003692(JP,A)
【文献】実開昭56-171595(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 49/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁極位置センサを有する永久磁石同期型の電動機と、
前記電動機によって駆動されることにより気体を圧縮する複数の圧縮機構と、
前記電動機を制御する制御装置とを備えた圧縮機であって、
前記圧縮機構は、シリンダと、前記シリンダ内を往復動するピストンとを有し、
前記制御装置は、
前記磁極位置センサからの信号に基づいて、前記複数の圧縮機構のうちでピストン推力が最大となる圧縮機構の前記ピストンが上死点位置で停止するように、前記電動機を制御し、
記圧縮機の起動が成功したか否かを判定し、
前記圧縮機の起動が成功しなかったと判定された場合、前記ピストンが上死点を越えないように前記電動機の正回転と逆回転とを複数回繰り返すことにより前記ピストンを前記シリンダ内で抉るように動作させる抉り制御を実行し、
前記抉り制御によって前記シリンダ内の気体の一部を前記ピストンと前記シリンダとの間の隙間を通じて前記シリンダ外へ逃がした後、前記電動機を正回転させて前記圧縮機を起動させる、
圧縮機。
【請求項2】
請求項1に記載の圧縮機において、
前記制御装置は、
前記磁極位置センサからの信号に基づいて、前記電動機を停止させるための停止指令を前記電動機の駆動回路に出力し、
前記磁極位置センサからの信号に基づいて前記電動機の回転速度を演算し、
前記電動機の回転速度に基づいて前記停止指令の出力タイミングを決定する、
圧縮機。
【請求項3】
請求項1に記載の圧縮機において、
前記電動機の駆動回路へ電力を供給する電源の電圧を検出する電圧センサを有し、
前記制御装置は、
前記磁極位置センサからの信号に基づいて、前記電動機を停止させるための停止指令を前記電動機の駆動回路に出力し、
前記電圧センサで検出された電圧に基づいて前記停止指令の出力タイミングを決定する、
圧縮機。
【請求項4】
請求項に記載の圧縮機において、
前記ピストンは、前記シリンダ内を揺動しながら往復動する揺動型のピストンである、
圧縮機。
【請求項5】
請求項に記載の圧縮機において、
前記電動機の駆動回路へ電力を供給する電源の電圧を検出する電圧センサを有し、
前記制御装置は、
前記電圧センサで検出された電圧が予め定められた電圧よりも低い場合、高い場合に比べて前記抉り制御における正回転と逆回転の繰り返し回数を多くするとともに、前記抉り制御における初期段階での前記正回転及び逆回転時の下死点からの目標角度を低くする、
圧縮機。
【請求項6】
請求項に記載の圧縮機において、
前記電動機の電流を検出する電流センサを有し、
前記制御装置は、
前記電流センサで検出された電流が予め定められた電流制限値以下となるように、前記抉り制御を実行する、
圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
屋外の建設現場などの作業現場において、釘打ち用工具、塗装用工具等の空気供給源として軽可搬型の空気圧縮機が使用されている。空気圧縮機は、電動機を駆動させ、クランク機構により回転運動を往復運動へ変換することで空気圧縮を行う。作業現場では、空気圧縮機を含む種々の機械が使用される。このため、屋外の仮設電源に接続されるコードリールに、複数の機械の電源ケーブルが接続され、空気圧縮機への供給電圧が不安定になることがある。例えば、通常の電源電圧が100Vであるのに対し、作業環境によっては電源電圧が50Vよりも低くなることもある。
【0003】
空気圧縮機への供給電圧が低下すると、電動機の駆動トルクが不足し、起動不良を起こすことがある。特許文献1には、圧縮機の起動時に電動機を逆回転させ、圧縮機のシリンダ内の気体を予備圧縮した後、電動機を正回転させてから圧縮機を起動する気体圧縮装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-75185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の圧縮機では、起動時に電動機を逆回転させ、圧縮機のシリンダ内の気体を予備圧縮する予備動作が必要であり、起動に時間がかかるおそれがあるため、起動性向上の観点から改善の余地があった。
【0006】
本発明は、圧縮機の起動性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様による圧縮機は、磁極位置センサを有する永久磁石同期型の電動機と、前記電動機によって駆動されることにより気体を圧縮する複数の圧縮機構と、前記電動機を制御する制御装置とを備える。前記圧縮機構は、シリンダと、前記シリンダ内を往復動するピストンとを有する。前記制御装置は、前記磁極位置センサからの信号に基づいて、前記複数の圧縮機構のうちでピストン推力が最大となる圧縮機構の前記ピストンが上死点位置で停止するように、前記電動機を制御し、前記圧縮機の起動が成功したか否かを判定し、前記圧縮機の起動が成功しなかったと判定された場合、前記ピストンが上死点を越えないように前記電動機の正回転と逆回転とを複数回繰り返すことにより前記ピストンを前記シリンダ内で抉るように動作させる抉り制御を実行し、前記抉り制御によって前記シリンダ内の気体の一部を前記ピストンと前記シリンダとの間の隙間を通じて前記シリンダ外へ逃がした後、前記電動機を正回転させて前記圧縮機を起動させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、圧縮機の起動性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】空気圧縮機の断面を示す図。
図2】空気圧縮機の外観の一例を示す図。
図3図2のIII-III線断面図。
図4】空気圧縮機の構成について示す図。
図5】空気圧縮運転中の圧縮機構の動作について示す図。
図6】圧力制御運転における運転状態及び圧力の時間変化について示す図。
図7】コントローラの機能ブロック図。
図8】不揮発性メモリに記憶されている往復パターンに関するテーブルについて示す図。
図9】コントローラにより実行される停止制御について示すフローチャート。
図10】コントローラにより実行される再起動制御について示すフローチャート。
図11】抉り制御中のピストンの動作を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る圧縮機について説明する。
【0011】
図1図4を参照して、空気圧縮機100の構造を説明する。図1は空気圧縮機100の断面を示す図であり、図2は空気圧縮機100の外観の一例を示す図であり、図3図2のIII-III線断面図であり、図4は空気圧縮機100の構成について示す図である。
【0012】
図1図4に示すように、本実施形態に係る空気圧縮機100は、軽可搬型の空気圧縮機である。空気圧縮機100は、空気を圧縮する圧縮機本体1と、圧縮機本体1を駆動するモータ6と、冷却ファン10と、空気タンク25と、制御基板30と、操作部34とを備える。図1において、破線で描かれる大きな枠で囲んだ領域は空気を圧縮する圧縮機本体1であり、破線で描かれる小さな枠で囲んだ領域は圧縮機本体1を駆動するモータ6である。
【0013】
図1に示すように、圧縮機本体1は、モータ6が収容されるケース1Aと、モータ6によって駆動されることにより空気(気体)を圧縮する複数(複数段)の圧縮機構(低圧側圧縮機構18A及び高圧側圧縮機構18B)と、を備える。なお、低圧側圧縮機構18A及び高圧側圧縮機構18Bを総称して圧縮機構18と記す。ケース1A内には、モータ6のシャフト(回転軸)6Aが貫通している。ケース1Aの一端側にはステータ2が直接固定されている。ケース1Aには、シャフト6Aの一端側を軸支するベアリング3が装着されている。ケース1Aにおけるステータ2の取り付け側の反対側には、シャフト6Aの他端側を軸支するベアリング4が装着された軸受箱5が嵌合されている。
【0014】
低圧側圧縮機構18Aは、ケース1Aに取り付けられたシリンダ19Aと、モータ6により駆動されシリンダ19A内を往復動することによりシリンダ19A内の空気を圧縮するピストン20Aと、シャフト6Aに取り付けられモータ6の回転力を往復力に変換してピストン20Aに伝えるエキセントリック21Aと、を備える。同様に、高圧側圧縮機構18Bは、ケース1Aに取り付けられたシリンダ19Bと、モータ6により駆動されシリンダ19B内を往復動することによりシリンダ19A内の空気を圧縮するピストン20Bと、シャフト6Aに取り付けられモータ6の回転力を往復力に変換してピストン20Bに伝えるエキセントリック21Bと、を備える。
【0015】
シリンダ19Aは、円筒状のシリンダ本体191Aと、シリンダ本体191Aの開口端部を塞ぐように設けられる空気弁192Aと、シリンダ本体191Aとで空気弁192Aを挟持するシリンダヘッド193Aと、を備え、ケース1Aに固定される。空気弁192A及びシリンダヘッド193Aは、通しボルト22Aによってシリンダ本体191Aに固定される。同様に、シリンダ19Bは、円筒状のシリンダ本体191Bと、シリンダ本体191Bの開口端部を塞ぐように設けられる空気弁192Bと、シリンダ本体191Bとで空気弁192Bを挟持するシリンダヘッド193Bと、を備え、ケース1Aに固定される。空気弁192B及びシリンダヘッド193Bは、通しボルト22Bによってシリンダ本体191Bに固定される。なお、シリンダ19A,19Bは、シリンダ本体191A,191Bの中心軸Cc上にシャフト6Aの中心軸Csが位置するように配置される(図5参照)。
【0016】
低圧側のシリンダ19A及び高圧側のシリンダ19Bは、ケース1Aを挟んで互いに対向するように、ケース1Aに取り付けられている。低圧側のシリンダ19Aは、ケース1Aから図示上方に突出するように設けられ、高圧側のシリンダ19Bは、ケース1Aから図示下方に突出するように設けられている。
【0017】
ピストン20Aは、基端部がエキセントリック21Aを介してシャフト6Aに取り付けられる連接棒121Aと、連接棒121Aの先端部に取り付けられるリング保持部材122Aと、連接棒121Aの先端部とリング保持部材122Aとの間の溝に装着されるリップリング123Aと、を備える。連接棒121Aの基端部は、ベアリング15Aを介してエキセントリック21Aに回転可能に連結される。
【0018】
連接棒121Aの先端部、リップリング123A及びリング保持部材122Aの積層構造体によってピストン本体129Aが形成される。ピストン本体129Aはシリンダ本体191A内に往復動可能に配置され、ピストン本体129Aとシリンダ本体191Aと空気弁192Aとで低圧側圧縮室23Aが形成される。
【0019】
ピストン20Bは、基端部がエキセントリック21Bを介してシャフト6Aに取り付けられる連接棒121Bと、連接棒121Bの先端部に取り付けられる円板状のリング保持部材122Bと、リング保持部材122Bに嵌合される円板状のリング保持板124Bと、連接棒121Bの先端部とリング保持部材122Bとの間の溝に装着されるリップリング123Bと、リング保持部材122Bとリング保持板124Bとの間の溝に装着されるピストンリング125Bと、を備える。連接棒121Bの基端部は、ベアリング15Bを介してエキセントリック21Bに回転可能に連結される。
【0020】
連接棒121Bの先端部、リップリング123B、リング保持部材122B、ピストンリング125B及びリング保持板124Bの積層構造体によってピストン本体129Bが形成される。ピストン本体129Bはシリンダ本体191B内に往復動可能に配置され、ピストン本体129Bとシリンダ本体191Bと空気弁192Bとで高圧側圧縮室23Bが形成される。
【0021】
空気弁192A,192Bは、シリンダ本体191A,191Bとシリンダヘッド193A,193Bとの間に介装される弁座板と、圧縮室23A,23Bからの空気の流出を禁止し圧縮室23A,23Bへの空気の流入を許容する吸込弁と、圧縮室23A,23Bへの空気の流入を禁止し圧縮室23A,23Bからの空気の流出を許可する吐出弁と、を有する。吸気弁及び吐出弁は、リード弁等のワンウェイバルブである。
【0022】
ケース1A内を貫通するシャフト6Aの中央部にはキー12が埋め込まれている。このキー12が埋め込まれたシャフト6Aの中央部には、ベアリング15Aと偏心したエキセントリック21Aを介してピストン20Aが取り付けられている。また、シャフト6Aの中央部には、ベアリング15Bと偏心したエキセントリック21Bを介して、ピストン20Bが、バランス17と共に取り付けられている。
【0023】
ピストン20A,20B及びバランス17は、ケース1A及び軸受箱5に装着された2個のベアリング3,4によって両側から支持されている。この構造により、ピストン20A,20Bは、ベアリング15A,15Bを介してエキセントリック21A,21Bに対して回転自在に接続されている。
【0024】
モータ6は、永久磁石同期型の電動機である。モータ6は、ステータ2と、ステータ2に対して回転運動するロータ8とを有している。ステータ2は、円筒形状のステータコア2aと、U相、V相及びW相の電機子巻線を構成するステータコイル2bとを備えている。ロータ8は、ステータコア2aの内側において、回転可能に配設されている。ロータ8は、円筒形状のロータコア8aと、複数の永久磁石8bとを備えている。ロータコア8aの中空部にはキー7を介してシャフト6Aが装着され、ロータコア8aがシャフト6Aに固定されている。ロータコア8aの外周近傍には、磁極部を形成する永久磁石8bが周方向に沿って等間隔に配設されている。三相交流電流が、ステータコイル2bに流されると、回転磁界がステータ2に発生し、この回転磁界がロータ8の永久磁石(磁極部)8bに作用してトルクが生じ、ロータ8が回転する。
【0025】
シャフト6Aの端部には、冷却ファン10が取り付けられている。ロータ8は、ワッシャ9と冷却ファン10を取り付けるためのファンシャフト11によって、軸方向に固定されている。冷却ファン10は、冷却カバー26(図2及び図3参照)の内部に冷却風を供給し、圧縮機本体1、モータ6、空気タンク25などの空気圧縮機100の各構成要素を冷却する。冷却ファン10はファンシャフト11によってシャフト6Aの端部に取り付けられ、モータ6によって駆動されるシャフト6Aの回転に伴い回転する。
【0026】
図2及び図3に示すように、空気タンク25は、圧縮機構18で圧縮された空気を蓄積する。空気タンク25は、冷却カバー26によって覆われている圧縮機本体1の下部に配置されている。
【0027】
冷却カバー26の正面側には、操作部34が取り付けられている。操作部34は、作業者によって操作される複数のスイッチ34aを有している。複数のスイッチ34aには、運転開始と運転停止を指示するための運転・停止スイッチ34a1、運転モードの変更を指示するためのモード切替スイッチ34a2、及び、低電圧異常、高温異常等のエラー発生により空気圧縮機100の運転が停止した後、空気圧縮機100の運転の再開を指示するため復帰スイッチ34a3が含まれる。図3に示すように、2つの空気タンク25の間には、制御基板30が設けられている。
【0028】
図4に示すように、制御基板30は、モータ6を制御する制御装置としてのコントローラ30aを有する。コントローラ30aは、動作回路としてのCPU(Central Processing Unit)181、記憶装置としての所謂RAM(Random Access Memory)と呼ばれる揮発性メモリ182、記憶装置としてのEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリ183、入出力インタフェース、及び、その他の周辺回路を備えたマイクロコンピュータで構成される。なお、コントローラ30aは、1つのマイクロコンピュータで構成してもよいし、複数のマイクロコンピュータで構成してもよい。
【0029】
コントローラ30aは、電源部(交流電源)41から供給される電力によってモータ6を駆動する。制御基板30は、コンバータ30b、コンデンサ30c、インバータ回路30d、電圧センサ30e、及び、電流センサ30hを有する。インバータ回路30dは、モータ6の駆動回路であって、複数のスイッチング素子を有する。コンバータ30bは、電源部41から供給される交流電圧を直流電圧に変換する。インバータ回路30dは、コンデンサ30cで平滑された直流電圧をスイッチング素子によって交流電圧に変換する。電圧センサ30eは、コンバータ30bとインバータ回路30dとを接続する一対の電力線(直流母線)30g間の直流電圧、すなわちインバータ回路30dへ電力を供給する電源部41の電圧を検出し、その検出結果を表す信号をコントローラ30aに出力する。
【0030】
電流センサ30hは、モータ6に供給される電流を検出し、その検出結果を表す信号をコントローラ30aに出力する。電流センサ30hは、インバータ回路30dとモータ6との間に位置して、3本の電機子巻線(U相、V相及びW相の電機子巻線)のうちU相及びW相の電機子巻線に接続される。なお、電流センサ30hは、3本全ての電機子巻線にそれぞれ接続してもよいし、3本の電機子巻線のうち1本の電機子巻線のみに接続してもよい。
【0031】
コントローラ30aは、操作部34からの操作信号、圧力センサ31及びホールセンサ32からの信号に基づいて、モータ6の制御を行う。操作部34は、スイッチ34aに対する操作に応じた操作信号をコントローラ30aに出力する。圧力センサ31は、空気タンク25内の圧力を検出し、その検出結果を表す信号をコントローラ30aに出力する。ホールセンサ32は、モータ6の磁極位置を検出する磁極位置センサであり、検出結果を表す信号をコントローラ30aに出力する。
【0032】
コントローラ30aは、ホールセンサ32の信号に基づいて、モータ6の磁極位置に応じた位相で三相交流電力を出力するように、インバータ回路30dを制御する。モータ6は、インバータ回路30dが出力する三相交流電力によって可変速駆動される。なお、モータ6の回転速度の制御範囲は、後述する運転モードに応じて設定される。運転モードは、操作部34からの操作信号に応じて設定される。
【0033】
本実施形態では、圧力制御運転方式によって空気圧縮機100の運転が制御される。圧力制御運転方式とは、空気タンク25内の圧力に応じて、モータ6の回転を制御する方式である。
【0034】
コントローラ30aは、スタンバイ状態であるときに、操作部34の運転・停止スイッチ34a1が操作されると、圧力制御運転を開始する。スタンバイ状態とは、空気圧縮機100の電源プラグが電源部41に接続され、空気圧縮機100が通電された状態であって、圧力制御運転が行われていない状態のことを指す。本実施形態では、正常に圧力制御運転が行われている状態のことを圧力制御運転状態と記す。コントローラ30aは、圧力制御運転状態のときに、操作部34の運転・停止スイッチ34a1が操作されると、圧力制御運転を終了する。これにより、空気圧縮機100は、スタンバイ状態に戻る。
【0035】
圧力制御運転が開始されると、コントローラ30aは、モータ6を正回転させることにより、空気を圧縮して空気タンク25に蓄積させる空気圧縮運転を行う。図5は、空気圧縮運転中の圧縮機構18の動作について示す図である。なお、本実施形態では、低圧側圧縮機構18Aと高圧側圧縮機構18Bを備えているが、動作原理は同じであり、図5では、代表して、高圧側圧縮機構18Bの動作について示している。また、以下では、ピストン20A,20Bを総称してピストン20と記し、シリンダ19A,19Bを総称してシリンダ19と記し、エキセントリック21A,21Bを総称してエキセントリック21と記し、シリンダヘッド193A,193Bを総称してシリンダヘッド193と記し、空気弁192A,192Bを総称して空気弁192と記し、低圧側圧縮室23A及び高圧側圧縮室23Bを総称して圧縮室23と記す。
【0036】
図5(a)~図5(d)に示すように、圧縮機構18は、モータ6のロータ8がシャフト6Aとともに正方向(矢印D1参照)に回転すると(すなわち正回転すると)、エキセントリック21によってピストン20がシリンダ19内を往復運動する。図5(d)に示すように、ピストン20が上死点(図5(c)参照)から下死点(図5(a)参照)へ向かう吸気工程(吸い込み工程)では、シリンダヘッド193、空気弁192を通じて圧縮室23内に空気が吸い込まれる。図5(b)に示すように、ピストン20が下死点(図5(a)参照)から上死点(図5(c)参照)へ向かう圧縮工程(吐き出し工程)では、圧縮室23内に吸い込まれた空気が圧縮され、空気弁192、シリンダヘッド193から吐き出される。
【0037】
本実施形態に係る空気圧縮機100は、低圧側圧縮機構18Aの圧縮室23Aに外気を取り入れ、低圧側圧縮機構18Aで圧縮した空気を配管(不図示)を通じて高圧側圧縮機構18Bの圧縮室23Bに送り、圧縮室23B内の空気を高圧側圧縮機構18Bで更に圧縮して空気タンク25に蓄積する、2段圧縮を行う。2段圧縮は、1段圧縮の場合よりも低圧側と高圧側の圧力比(吐き出し圧力/吸い込み圧力)が各々小さくなるため、効率がよくなり、圧縮機構18に発生する熱を少なくすることができる。
【0038】
図6は、圧力制御運転における運転状態及び圧力の時間変化について示す図である。図6に示すように、圧力センサ31で検出された空気タンク25内の圧力Ptが所定値以上になると、コントローラ30aは、モータ6の回転を停止させ空気圧縮運転を停止させる。圧力センサ31で検出された空気タンク25内の圧力Ptが所定値以下になると、コントローラ30aは、モータ6を回転させることにより、空気を圧縮して空気タンク25に蓄積させる空気圧縮運転を再び行う。空気圧縮運転が行われている状態を圧縮運転動作状態と記し、空気圧縮運転が行われていない状態を圧縮運転停止状態と記す。したがって、圧力制御運転状態では、圧縮運転動作状態と圧縮運転停止状態とが交互に繰り返し行われる。
【0039】
次に、空気圧縮機100の運転モードの一例について説明する。
【0040】
空気圧縮機では、作業内容、環境等に応じて、何パターンかの運転モードを備えることが一般的であり、設定される運転モードに応じて、空気タンク25内の圧力Ptの制御範囲、モータ6の回転速度の制御範囲が決定される。本実施形態に係る空気圧縮機100は、ノーマルモード、パワフルモード、低速モード及び低電圧モードの4つの運転モードを備えている。
【0041】
コントローラ30aは、モード切替スイッチ34a2(図2参照)が操作されるたびに、ノーマルモード、パワフルモード、低速モードの順に運転モードを切り替える。なお、低電圧モードは、モード切替スイッチ34a2の操作に応じて設定される運転モードとは異なっており、電圧センサ30eで検出された電圧が予め定められた閾値以下である場合にコントローラ30aにより設定される運転モードである。
【0042】
ノーマルモードは、空気タンク25内の圧力の制御範囲が3.2(下限値)~4.2MPa(上限値)に設定され、モータ6の回転速度の制御範囲が1800~2850min-1に設定されるモードである。パワフルモードは、モータ6の回転速度がノーマルモードと同じ範囲で可変制御され、圧力制御範囲が3.8MPa(下限値)~4.2MPa(上限値)とされた運転モードである。低速モードは、圧力制御範囲がノーマルモードと同じであるが、モータ6の回転速度が1500min-1で維持される運転モードである。
【0043】
低電圧運転モードは、モータ6の回転速度がノーマルモードと同じ範囲で可変制御され、圧力制御範囲が2.5MPa(下限値)~3.2MPa(上限値)とされた運転モードである。
【0044】
上述したように、圧力制御運転では、空気タンク25内の圧力Ptが上昇して所定値に達するとモータ6を停止させ、空気タンク25内の圧力Ptが低下して所定値に達するとモータ6を起動させる。ここで、従来の空気圧縮機では、モータ6を停止させた後、圧縮機構18のピストン20が圧縮室23内の圧縮空気の反力によって下死点付近まで押し戻されていた。なお、複数段の圧縮機構を有する空気圧縮機では、ピストン推力(すなわち、圧縮室内の空気の圧力×ピストンの受圧面積)が最大となる圧縮機構におけるピストンが下死点付近まで押し戻されることになる。つまり、本実施形態と同様の構成の空気圧縮機では、高圧側圧縮機構18Bのピストン20Bが圧縮室23B内の圧縮空気の反力によって下死点付近まで押し戻される。
【0045】
また、空気圧縮機の起動の際、モータ6を正回転させたときに、圧縮室23Bの残圧により大きな負荷トルクがピストン20Bに作用する。特に、作業員が作業場所の移動等の際、容易に持ち運びができる小型、軽量の軽可搬型の空気圧縮機では、一般的に、空気圧縮機を起動させるときの設定圧力(起動圧力)が固定型の空気圧縮機に比べて高く設定される。このため、モータ6を起動させる際に、電圧が不足していると、モータ6の駆動トルクが不足し、シリンダ19B内の残圧を押し切って、ピストン20Bを上死点まで変位させることができず、起動不良となることがある。
【0046】
そこで、本実施形態では、圧縮運転動作状態から圧縮運転停止状態に移行する際、コントローラ30aが、ホールセンサ32からの信号に基づいて、高圧側圧縮機構18Bのピストン20B、すなわち複数段の圧縮機構18のうちでピストン推力が最大となる圧縮機構18のピストン20Bが上死点位置で停止するようにモータ6を制御する。ピストン20Bを上死点位置、すなわちピストン20Bの上死点及びその近傍の位置(例えば、上死点から±5°の範囲内の位置)で停止させることにより、高圧側圧縮室23B内の圧縮空気の反力によるモーメントを低く抑えることができるので、ピストン20Bが圧縮空気の反力によって下死点付近まで押し戻されることを防止することができる。
【0047】
圧縮運転停止状態において、ピストン20Bが上死点位置で停止しているため、空気圧縮機100を起動させる際、ピストン20Bを下死点に向かうように大きく動作させた後、上死点に向かうように動作させることになり、慣性力を利用してスムーズに圧縮運転動作状態に移行することができる。
【0048】
また、本実施形態では、一時的に電圧が著しく低下するなどして、圧縮運転停止状態から圧縮運転動作状態へ移行することができなかった場合に、ピストン20Bをシリンダ19B内で抉るように動作させることで高圧側圧縮室23B内の空気を意図的に高圧側圧縮室23B外へ逃がし、高圧側圧縮室23B内の圧力を低下させた上で再起動を行う再起動制御がコントローラ30aにより実行される。以下、ピストン20Bを上死点位置で停止するようにモータ6の運転を制御する停止制御、及び、再起動制御の内容について詳しく説明する。
【0049】
図7は、コントローラ30aの機能ブロック図である。図7では、コントローラ30aによる停止制御及び再起動制御に関する機能について示している。図7に示すように、コントローラ30aは、不揮発性メモリ183に記憶されているプログラムを実行することにより、位置演算部132、速度演算部133、運転制御部134、停止指令位置決定部135、往復パターン決定部136及びモード設定部137として機能する。
【0050】
変換部131は、圧力センサ31、電圧センサ30e、ホールセンサ32及び操作部34から入力された信号をCPU181で演算可能なように変換する。位置演算部132は、ホールセンサ32からの信号に基づいて、ロータ8の磁極位置(すなわち、ロータ8の回転角度θ)を演算する。速度演算部133は、ホールセンサ32からの信号に基づいて、ロータ8の回転速度ω[min-1]を演算する。
【0051】
モード設定部137は、操作部34からの信号に基づいて運転モードを設定する。モード設定部137は、ノーマルモードが設定されているときにモード切替スイッチ34a2が操作されると、運転モードをパワフルモードに設定する。モード設定部137は、パワフルモードが設定されているときにモード切替スイッチ34a2が操作されると、運転モードを低速モードに設定する。モード設定部137は、低速モードが設定されているときにモード切替スイッチ34a2が操作されると、運転モードをノーマルモードに設定する。モード設定部137は、再起動制御において、電圧センサ30eで検出された電圧Vが予め定められた電圧(第2電圧閾値V2)以下である場合に、運転モードを低電圧モードに設定する。
【0052】
運転制御部134は、圧力センサ31で検出された圧力Pt、及び、モード設定部137で設定された運転モードに基づいて、上述した圧力制御運転を実行する。
【0053】
本実施形態に係るコントローラ30aは、ホールセンサ32からの信号に基づいて、モータ6を停止させるための停止指令をインバータ回路30dに出力する。また、コントローラ30aは、モータ6の回転速度ωに基づいて停止指令の出力タイミングを決定する。以下、詳しく説明する。なお、モータ6の回転速度ωは、供給電圧Vが低くなるほど、低くなる。
【0054】
停止指令位置決定部135は、速度演算部133で演算されたロータ8の回転速度ωに基づいて補正角θcを決定し、目標停止角θs(正の値)に補正角θc(負の値)を加算することにより停止指令角(停止指令位置)θtcを決定する。停止指令角θtcは、ピストン20Bが上死点から正回転方向手前(つまり逆回転方向)に所定距離だけ離れた位置である。運転制御部134が、位置演算部132で演算された回転位置(回転角度)θに基づいて、ピストン20Aが停止指令角θtcに位置したか否かを判定し、ピストン20Aが停止指令角θtcに位置したと判定されると、停止指令をインバータ回路30dに出力し、モータ6を停止させる。補正角θcは、圧縮室23B内の圧力、ピストン20Bを停止させる際のピストン20Bの慣性の影響、及び、停止指令角θtcを検出してからインバータ回路30dの電流が遮断されるまでの通信時間(通信ラグ)等の影響を考慮して決定する。
【0055】
目標停止角θsは、ピストン20Bの下死点(図5(a)参照)を0°としたときの正回転方向の角度であり、例えば、175°~185°の範囲で設定される。補正角θcは、目標停止角θsから正回転方向の手前(すなわち逆回転方向)に角度を補正する値であり、負の値が設定される(θc<0)。補正角θcは、回転速度ωが大きいほど、その絶対値が大きくなるように設定される。
【0056】
不揮発性メモリ183には、予め、目標停止角θs、第1補正角θca、第2補正角θcb及び第3補正角θcc、並びに、第1速度閾値ω1及び第2速度閾値ω2が記憶されている。補正角θca,θcb,θcc及び速度閾値ω1,ω2は、予め、実験等によって定められる。なお、速度閾値ω1,ω2の大小関係はω1>ω2である。また、補正角θca,θcb,θccの大小関係はθca<θcb<θccである。本実施形態では、第1速度閾値ω1は1800min-1であり、第2速度閾値ω2は1700min-1である。また、補正角θcaは-20°程度であり、補正角θcbは-10°程度であり、補正角θccは-5°程度である。
【0057】
停止指令位置決定部135は、ロータ8の回転速度ωが第1速度閾値ω1以上である場合には、第1補正角θcaを補正角θcとして選択する(θc=θca)。停止指令位置決定部135は、ロータ8の回転速度ωが第1速度閾値ω1よりも小さく第2速度閾値ω2よりも大きい場合には、第2補正角θcbを補正角θcとして選択する(θc=θcb)。停止指令位置決定部135は、ロータ8の回転速度ωが第2速度閾値ω2以下である場合には、第3補正角θccを補正角θcとして選択する(θc=θcc)。
【0058】
運転制御部134は、圧縮運転停止状態から圧縮運転動作状態への移行、すなわち空気圧縮機100の起動が成功したか否かを判定する。運転制御部134は、モータ6を正回転方向に動作させるための駆動制御信号をインバータ回路30dに出力している正回転制御が実行されている場合において、ロータ8の回転速度ωが起動判定閾値ω0以上であるか否かを判定する。正回転制御が実行されており、かつ、ロータ8の回転速度ωが起動判定閾値ω0以上になった場合、運転制御部134は、起動は成功したと判定する。一方、正回転制御が実行されており、かつ、ロータ8の回転速度ωが起動判定閾値ω0未満の状態が所定時間t0以上継続された場合、運転制御部134は、起動が成功しなかったと判定し、再起動制御フラグをオンに設定する。
【0059】
運転制御部134は、再起動制御フラグがオンに設定されると、往復パターン決定部136で決定される往復パターンに基づいて、抉り制御を実行する。抉り制御とは、シリンダ19B内に挿入されているピストン20Bを抉るように動作させることにより、ピストン本体129Aとシリンダ19Bの隙間を通じて高圧側圧縮室23B内の空気を抜くための制御である。運転制御部134は、ピストン20Bが上死点を越えないようにモータ6の正回転と逆回転とを複数回繰り返すことにより、ピストン20Bをシリンダ19B内で抉るように動作させる抉り制御を実行する。
【0060】
往復パターン決定部136は、電圧センサ30eで検出された電圧Vに基づいて往復パターンを決定する。不揮発性メモリ183には、予め、第1往復パターンに関する第1パターンテーブルTa1及び第2往復パターンに関する第2パターンテーブルTa2、並びに、第1電圧閾値V1及び第2電圧閾値V2が記憶されている。パターンテーブルTa1,Ta2及び電圧閾値V1,V2は、予め、実験等によって定められる。なお、電圧閾値V1,V2の大小関係はV1>V2である。本実施形態では、第1電圧閾値V1は91[V]であり、第2電圧閾値V2は80[V]である。
【0061】
往復パターン決定部136は、電圧Vが第1電圧閾値V1以上である場合には、第1往復パターンを往復パターンとして選択する。往復パターン決定部136は、電圧Vが第1電圧閾値V1よりも小さく第2電圧閾値V2よりも大きい場合には、第2往復パターンを往復パターンとして選択する。電圧Vが第2電圧閾値V2以下である場合、往復パターン決定部136は往復パターンを選択せず、上述したようにモード設定部137が運転モードを低電圧モードに設定する。
【0062】
図8は、不揮発性メモリ183に記憶されている往復パターンに関するテーブルについて示す図である。往復パターンに関するテーブルは、正回転時のピストン20Bの目標角度(下死点後角度とも記す)と、逆回転時のピストン20Bの目標角度(下死点前角度とも記す)と、を有するテーブルである。なお、ピストン20が下死点にあるときの回転角度θを0°とし、下死点から上死点に向かってピストン20が正回転したときの回転角度θを正(+)の値で表し、下死点から上死点に向かってピストン20が逆回転したときの回転角度θを負(-)の値で表す。
【0063】
第1パターンテーブルTa1は、1回目の正回転時の目標角度θtf1が「30°」、1回目の逆回転時の目標角度θtr1が「-30°」、2回目の正回転時の目標角度θtf2が「40°」、2回目の逆回転時の目標角度θtr2が「-40°」、3回目の正回転時の目標角度θtf3が「45°」、3回目の逆回転時の目標角度θtr3が「-45°」となる往復パターンを表すデータテーブルである。第2パターンテーブルTa2は、1回目の正回転時の目標角度θtf1が「15°」、1回目の逆回転時の目標角度θtr1が「-15°」、2回目の正回転時の目標角度θtf2が「20°」、2回目の逆回転時の目標角度θtr2が「-20°」、3回目の正回転時の目標角度θtf3が「30°」、3回目の逆回転時の目標角度θtr3が「-30°」、4回目の正回転時の目標角度θtf4が「40°」、4回目の逆回転時の目標角度θtr4が「-40°」、5回目の正回転時の目標角度θtf5が「45°」、5回目の逆回転時の目標角度θtr1が「-45°」となる第2往復パターンを表すデータテーブルである。
【0064】
図9は、コントローラ30a(運転制御部134、停止指令位置決定部135及び往復パターン決定部136)により実行される停止制御について示すフローチャートである。図9に示すフローチャートの処理は、スタンバイ状態であるときに運転・停止スイッチ34a1が操作されることにより開始される。
【0065】
図9に示すように、ステップS110において、運転制御部134は、圧力センサ31で検出された圧力Ptを取得し、ステップS113へ進む。ステップS113において、運転制御部134は、ステップS110で取得した圧力Ptが第1圧力閾値Pt1以上であるか否かを判定する。第1圧力閾値Pt1は、上限値(例えば、4.2MPa)よりも低い値(例えば、4.1MPa)であり、予め不揮発性メモリ183に記憶されている。圧力Ptが第1圧力閾値Pt1以上であると判定されるとステップS116へ進み、圧力Ptが第1圧力閾値Pt1未満であると判定されるとステップS110へ戻る。
【0066】
ステップS116において、運転制御部134は、停止準備フラグをオンに設定する。ステップS116において、停止準備フラグがオンに設定されると、ステップS119へ進む。
【0067】
ステップS119において、停止指令位置決定部135は、速度演算部133で演算された回転速度ωを取得し、ステップS122へ進む。ステップS122において、停止指令位置決定部135は、ステップS119で取得した回転速度ωが第1速度閾値ω1以上であるか否かを判定する。回転速度ωが第1速度閾値ω1以上であると判定されるとステップS128へ進み、回転速度ωが第1速度閾値ω1よりも小さいと判定されるとステップS125へ進む。
【0068】
ステップS125において、停止指令位置決定部135は、ステップS119で取得した回転速度ωが第2速度閾値ω2以下であるか否かを判定する。回転速度ωが第2速度閾値ω2以下であると判定されるとステップS134へ進み、回転速度ωが第2速度閾値ω2よりも大きいと判定されるとステップS131へ進む。
【0069】
回転速度ωが第1速度閾値ω1以上である場合、ステップS128において、停止指令位置決定部135は、補正角θcを第1補正角θcaに設定し、ステップS137へ進む。回転速度ωが第1速度閾値ω1よりも小さく第2速度閾値ω2よりも大きい場合、ステップS131において、停止指令位置決定部135は、補正角θcを第2補正角θcbに設定し、ステップS137へ進む。回転速度ωが第2速度閾値ω2以下である場合、ステップS134において、停止指令位置決定部135は、補正角θcを第3補正角θccに設定し、ステップS137へ進む。
【0070】
ステップS137において、停止指令位置決定部135は、目標停止角θsに補正角θcを加算することにより停止指令角θtcを算出して(θtc=θs+θc)、ステップS140へ進む。
【0071】
ステップS140において、運転制御部134は、圧力センサ31で検出された圧力Ptを取得し、ステップS143へ進む。
【0072】
ステップS143において、運転制御部134は、圧力センサ31で検出された圧力Ptが第2圧力閾値Pt2以上であるか否かを判定する。圧力Ptが第2圧力閾値Pt2以上であると判定されるとステップS146へ進み、圧力Ptが第2圧力閾値Pt2未満であると判定されるとステップS119へ戻る。第2圧力閾値Pt2は、第1圧力閾値Pt1(例えば、4.1MPa)よりも高く、上限値(例えば、4.2MPa)よりも低い値(例えば、4.15MPa)であり、予め不揮発性メモリ183に記憶されている。
【0073】
ステップS146において、運転制御部134は、位置演算部132で演算される回転角度θが、ステップS137で演算した停止指令角θtcに達したか否かを判定する。ステップS146において、運転制御部134は、回転角度θが停止指令角θtcに達したと判定されるまで、回転角度θを監視する。回転角度θが停止指令角θtcに達したと判定されると、運転制御部134は、停止指令をインバータ回路30dに出力し、ステップS149へ進む。
【0074】
ステップS149において、運転制御部134は、圧力センサ31で検出された圧力Ptを取得し、ステップS152へ進む。ステップS152において、運転制御部134は、ステップS149で取得した圧力Ptが予め定められた下限値PL(ノーマルモードでは3.2MPa)以下であるか否かを判定する。圧力Ptが下限値PL以下であると判定されるとステップS155へ進み、圧力Ptが下限値PLよりも大きいと判定されるとステップS149へ戻る。下限値PLは、予め不揮発性メモリ183に記憶されている。
【0075】
ステップS155において、運転制御部134は、モータ6を正回転させるための駆動制御信号をインバータ回路30dに出力する起動制御を実行し、ステップS158へ進む。
【0076】
ステップS158において、運転制御部134は、速度演算部133で演算された回転速度ωを取得し、回転速度ωに基づいて空気圧縮機100の起動が成功したか否かを判定する。空気圧縮機100の起動が成功したと判定されるとステップS159へ進み、空気圧縮機100の起動が成功しなかったと判定されるとステップS160へ進む。
【0077】
ステップS159において、運転制御部134は、後述する起動不良フラグFfを0(ゼロ)に設定し、ステップS110へ進む。
【0078】
ステップS160において、コントローラ30aは、再起動制御を実行し、ステップS190へ進む。ステップS190において、運転制御部134は、ステップS158と同様の起動判定処理を実行する。空気圧縮機100の起動が成功したと判定されるとステップS159へ進み、空気圧縮機100の起動が成功しなかったと判定されるとステップS193へ進む。
【0079】
ステップS193において、起動不良フラグFfに1を加算し、ステップS195へ進む。ステップS195において、起動不良フラグFfが異常判定閾値Ff0以上であるか否かを判定する。異常判定閾値Ff0は、予め不揮発性メモリ183に記憶されている。異常判定閾値Ff0には2以上の値が設定される。起動不良フラグFfが異常判定閾値Ff0以上であると判定されるとステップS198へ進み、起動不良フラグFfが異常判定閾値Ff0未満であると判定されるとステップS160へ戻る。
【0080】
ステップS198において、運転制御部134は、モータ6を停止させるとともにエラー報知を行う。エラー報知は、例えば、スピーカ等の音出力装置により、起動不良によりモータ6が停止状態にあることを知らせるための音声を出力したり、LED等の警告灯を点灯させたりすることにより行う。
【0081】
図10を参照して、ステップS160において実行される再起動制御について説明する。図10は、コントローラ30a(運転制御部134及び往復パターン決定部136)により実行される再起動制御について示すフローチャートである。再起動制御は、起動判定処理(図9のステップS158,S190)において、空気圧縮機100の起動が成功しなかったと判定されてから所定時間(例えば、5秒程度)が経過した後に実行される。
【0082】
図10に示すように、再起動制御(ステップS160)では、まず、ステップS163において、往復パターン決定部136は、電圧センサ30eで検出される電圧Vを取得し、ステップS166へ進む。ステップS166において、ステップS163で取得した電圧Vが第1電圧閾値V1以上であるか否かを判定する。電圧Vが第1電圧閾値V1以上であると判定されるとステップS172へ進み、電圧Vが第1電圧閾値V1未満であると判定されるとステップS169へ進む。
【0083】
ステップS169において、往復パターン決定部136は、ステップS163で取得した電圧Vが第2電圧閾値V2以下であるか否かを判定する。電圧Vが第2電圧閾値V2よりも大きいと判定されるとステップS175へ進み、電圧Vが第2電圧閾値V2以上であると判定されるとステップS178へ進む。
【0084】
ステップS172において、往復パターン決定部136は、第1パターンテーブルTa1で定められる第1往復パターンを選択し、運転制御部134が、往復パターン決定部136で選択された第1往復パターンに基づいて、インバータ回路30dに駆動制御信号を出力する抉り制御(第1抉り制御)を実行する。第1抉り制御において、運転制御部134は、モータ6を目標角度θtf1に達するまで正回転させ、その後、モータ6を目標角度θtr1に達するまで逆回転させる。その後、運転制御部134は、モータ6を目標角度θtf2に達するまで正回転させ、その後、モータ6を目標角度θtr2に達するまで逆回転させる。その後、運転制御部134は、モータ6を目標角度θtf3に達するまで正回転させ、その後、モータ6を目標角度θtr3に達するまで逆回転させる。ステップS172において、第1抉り制御が完了すると、ステップS182へ進む。
【0085】
ステップS175において、往復パターン決定部136は、第2パターンテーブルTa2で定められる第2往復パターンを選択し、運転制御部134が、往復パターン決定部136で選択された第2往復パターンに基づいて、抉り制御(第2抉り制御)を実行する。第2抉り制御において、運転制御部134は、モータ6を目標角度θtf1に達するまで正回転させ、その後、モータ6を目標角度θtr1に達するまで逆回転させる。その後、運転制御部134は、モータ6を目標角度θtf2に達するまで正回転させ、その後、モータ6を目標角度θtr2に達するまで逆回転させる。その後、運転制御部134は、モータ6を目標角度θtf3に達するまで正回転させ、その後、モータ6を目標角度θtr3に達するまで逆回転させる。その後、運転制御部134は、モータ6を目標角度θtf4に達するまで正回転させ、その後、モータ6を目標角度θtr4に達するまで逆回転させる。その後、運転制御部134は、モータ6を目標角度θtf5に達するまで正回転させ、その後、モータ6を目標角度θtr5に達するまで逆回転させる。ステップS175において、第2抉り制御が完了すると、ステップS182へ進む。
【0086】
ステップS178において、電圧Vが第2電圧閾値V2以下であると判定された場合、モード設定部137は、運転モードを低電圧モードに設定し、図9のステップS149へ進む。
【0087】
ステップS182において、運転制御部134は、モータ6を正回転させるための駆動制御信号をインバータ回路30dに出力する起動制御を実行し、ステップS190(図9参照)へ進む。
【0088】
本実施形態の主な動作について説明する。建設現場等において、作業者が空気圧縮機100の電源プラグを電源部41に接続し、運転・停止スイッチ34a1を操作すると、空気圧縮機100は、圧力制御運転を開始する。
【0089】
空気タンク25内の圧力Ptが上昇し、第1圧力閾値Pt1に達すると、停止準備状態となり、モータ6の回転速度ωに基づいて停止指令角θtcが決定される(図9のステップS110~S137)。空気タンク25内の圧力Ptがさらに上昇し、第2圧力閾値Pt2に達した後、モータ6の回転速度ωが停止指令角θtcになると、コントローラ30aはインバータ回路30dに停止指令を出力する(図9のステップS140~S146)。これにより、モータ6への電流の供給が遮断されるので、モータ6は、圧縮室23内の圧力がブレーキ力としてピストン20に作用することによって減速し、停止する。モータ6が停止したとき、ピストン20Bは上死点位置(例えば、上死点から±5°の範囲内の位置)に配置されている。ピストン20Bが上死点位置に配置されている状態では、圧縮室23B内の空気残量が小さく、また、ベアリング15Bの中心とシャフト6Aの中心軸Csとを結ぶ仮想直線(エキセントリック21の重心とシャフト6Aの中心軸Csとを結ぶ仮想直線)が、シリンダ19の中心軸(ピストン20の中心軸)に略一致した状態となるため、高圧側圧縮室23B内の圧縮空気の反力によるモーメントを低く抑えることができる。その結果、圧縮運転停止状態において、ピストン20Bを上死点位置で保持することができる。
【0090】
作業者が、釘打ち作業等により空気を使用し、空気タンク25内の圧力Ptが下限値PL以下まで低下すると、空気圧縮機100が起動され、圧縮運転動作状態となる(図9のステップS149~S159)。ここで、本実施形態では、圧縮運転停止状態において、ピストン20Bが上死点位置で停止しているため、電源電圧が不安定な状態であっても、空気圧縮機100を起動させる際、ピストン20Bを下死点に向かうように大きく動作させた後、上死点に向かうように動作させることができるので、慣性力を利用してスムーズに圧縮運転動作状態に移行することができる。
【0091】
なお、電源電圧が著しく不安定な状態になるなどに起因して、万一、起動不良が生じてしまった場合には、抉り制御が実行される(図10)。図11は、抉り制御中のピストン20Bの動作を示す図である。図11に示すように、抉り制御では、ピストン20Bをシリンダ19B内で抉るように動作させ、ピストン20Bをシリンダ19Bに対して傾け、ピストン20Bのピストン本体129Bの外周とシリンダ19Bのシリンダ本体191Bの内周との間に隙間を形成することにより、高圧側圧縮室23B内の空気の一部をピストン本体129Bの外周とシリンダ本体191Bの内周との間の隙間を通じて高圧側圧縮室23B外へ逃がし(図示破線の矢印参照)、高圧側圧縮室23B内の圧力を速やかに低下させることができる。
【0092】
高圧側圧縮室23Bの圧力が低下することにより、起動時の負荷トルクが低減される。したがって、抉り制御が完了した後、モータ6を正回転させることにより、スムーズに空気圧縮機100を起動させることができる。
【0093】
上述した実施形態によれば、次の作用効果を奏する。
【0094】
(1)空気圧縮機(圧縮機)100は、ホールセンサ(磁極位置センサ)32を有する永久磁石同期型のモータ(電動機)6と、モータ6によって駆動されることにより空気(気体)を圧縮する複数の圧縮機構18と、モータ6を制御するコントローラ(制御装置)30aとを備える。圧縮機構18は、シリンダ19と、シリンダ19内を往復動するピストン20とを有する。コントローラ30aは、ホールセンサ32からの信号に基づいて、複数の圧縮機構18のうちでピストン推力が最大となる高圧側圧縮機構18Bのピストン20Bが上死点位置で停止するように、モータ6を制御する。
【0095】
この構成では、コントローラ30aがホールセンサ32からの信号に基づいて、モータ6の位置を読み取り、停止制御を実行することにより、ピストン20Bを上死点位置で停止させ、その状態を保持することができる。これにより、空気圧縮機100を起動させるときに、上死点位置から下死点位置に向かってピストン20Bを大きく動作させた後、下死点位置から上死点位置に向かってピストン20Bを動作させることができる。その結果、慣性力を利用してスムーズに空気圧縮機100を起動することができる。このように、本実施形態によれば、モータ6への供給電圧が低い場合であっても、予備動作を必要とすることなく、短時間で空気圧縮機100を起動させることができる。つまり、本実施形態によれば、供給電圧が低い場合における空気圧縮機100の起動性を向上することができるので、作業者にとって使い勝手のよい空気圧縮機100を提供することができる。
【0096】
また、本実施形態によれば、起動圧力を高めに設定することができるので、作業効率の向上(例えば、単位時間当たりの釘打ち本数の増加)を図ることもできる。さらに、本実施形態によれば、ピストン20の大ボア化、小ストローク化を図ることができ、空気圧縮機100の振動低減を図ることもできる。
【0097】
(2)コントローラ30aは、ホールセンサ32からの信号に基づいて、モータ6を停止させるための停止指令をモータ6の駆動回路であるインバータ回路30dに出力する。コントローラ30aは、ホールセンサ32からの信号に基づいてモータ6の回転速度を演算し、モータ6の回転速度に基づいて停止指令の出力タイミングを決定する。モータ6の回転速度が大きいほど、早めに停止指令を出力することにより、ピストン20Bを上死点位置に精度よく停止させることができる。つまり、本実施形態によれば、モータ6の回転速度の大きさにかかわらず、ピストン20Bを上死点位置に精度よく停止させることができる。なお、モータ6の回転速度は電圧の大きさに比例する。したがって、本実施形態によれば、電圧の状態にかかわらず、ピストン20Bを上死点位置に精度よく停止させることができる。
【0098】
(3)コントローラ30aは、空気圧縮機100の起動が成功したか否かを判定する。コントローラ30aは、空気圧縮機100の起動が成功しなかったと判定された場合、ピストン20Bが上死点を越えないようにモータ6の正回転と逆回転とを複数回繰り返すことによりピストン20Bをシリンダ19B内で抉るように動作させる抉り制御を実行する。コントローラ30aは、抉り制御によってシリンダ19B内の空気の一部をピストン20Bとシリンダ19Bとの間の隙間を通じてシリンダ19B外へ逃がした後、モータ6を正回転させて空気圧縮機100を起動させる。
【0099】
このように、本実施形態では、万一、起動不良が生じてしまった場合には、バックアップ起動制御としての抉り制御が実行される。抉り制御では、ピストン20Bとシリンダ19Bとの間に隙間が形成され、シリンダ19B内の空気をシリンダ19B外へ逃がし、シリンダ19内の圧力を速やかに低下させることができる。これにより、起動時の負荷トルクを低減することができるので、抉り制御が完了した後、モータ6を正回転させることにより、スムーズに空気圧縮機100を起動させることができる。
【0100】
(4)本実施形態に係る圧縮機構18のピストン20Bは、ピストン本体129Bがシリンダ19B内を揺動しながら往復動する揺動型ピストン(ロッキングピストン)である。このため、抉り制御により、容易にピストン20Bとシリンダ19Bとの間に隙間を形成することができるので、速やかにシリンダ19B内の圧力を低下させることができる。
【0101】
空気圧縮機100は、インバータ回路30dへ電力を供給する交流電源(電源)41の電圧を検出する電圧センサ30eを有する。コントローラ30aは、電圧センサ30eで検出された電圧Vに基づいて、予め定められている複数の往復パターンの中から一の往復パターンを選択する。
【0102】
(5)コントローラ30aは、選択した往復パターンに基づいて、モータ6の正回転と逆回転とを複数回繰り返す。往復パターンは、第1電圧閾値V1以上では往復回数が3回であり、第1電圧閾値V1未満では5回である。このように、コントローラ30aは、電圧センサ30eで検出された電圧Vが予め定められた電圧(第1電圧閾値V1)よりも低い場合、第1電圧閾値V1よりも高い場合に比べて抉り制御における正回転と逆回転の繰り返し回数を多くする。
【0103】
また、第1電圧閾値V1以上では、目標角度が30°,-30°,40°,-40°,45°,-45°の順に設定されるのに対し、第1電圧閾値V1未満では、目標角度が15°,-15°,20°,-20°,30°,-30°,40°,-40°,45°,-45°の順に設定される。このように、コントローラ30aは、電圧センサ30eで検出された電圧Vが第1電圧閾値V1よりも低い場合、第1電圧閾値V1よりも高い場合に比べて抉り制御における初期段階(少なくとも1往復目)での正回転及び逆回転時の下死点からの目標角度を低く設定する。これにより、電圧Vに応じて、適切に空気圧縮機100の起動性を向上することができる。
【0104】
次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。
【0105】
<変形例1>
上記実施形態では、コントローラ30aが、電圧Vに応じて、第1往復パターン及び第2往復パターンのいずれかを選択し、抉り制御を実行する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。3つ以上の往復パターンを予め定めておき、電圧Vに応じて、往復パターンを選択するようにしてもよい。
【0106】
<変形例2>
上記実施形態では、コントローラ30aが、抉り制御において、電圧センサ30eで検出された電圧Vに基づいて、正回転及び逆回転時の目標角度及びピストン20の往復回数を決定する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。コントローラ30aは、電流センサ30hで検出された電流が予め定められた電流制限値以下となるように、抉り制御を実行してもよい。
【0107】
電流は、負荷トルクが大きくなるほど増加するため、このように電流に制限をかけることにより、正回転及び逆回転時におけるピストン20の目標角度(下死点後角度及び下死点前角度)を制御することができる。ピストン20の往復回数が、予め定められた回数閾値を超えた場合に抉り制御が完了したものとして、電流の制限を解除し、モータ6を正回転させることにより空気圧縮機100を起動させる。
【0108】
このような変形例によれば、電流に制限をかけつつ抉り制御が実行されるため、正回転の際の目標角度(下死点後角度)及び逆回転の際の目標角度(下死点前角度)が自動で調整され、シリンダ19内の空気をシリンダ19外に逃がすことができる。これにより、電流増加に起因する発熱量の増加及び損失を抑えつつ、空気圧縮機100の起動性を向上することができる。
【0109】
<変形例3>
上記実施形態では、コントローラ30aがモータ6の回転速度ωに基づいて停止指令の出力タイミングを決定する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。上述したように、本実施形態に係る空気圧縮機100では、電圧Vが低くなるほどモータ6の回転速度ωが低下する。このため、コントローラ30aは、電圧センサ30eで検出された電圧Vに基づいて停止指令の出力タイミングを決定してもよい。このような変形例によれば、上記実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0110】
本変形例に係るコントローラ30aでは、図9のステップS119において、回転速度ωを取得することに代えて電圧センサ30eで検出された電圧Vを取得する。また、コントローラ30aは、ステップS122において、第1の回転速度判定処理に代えて第1の電圧判定処理を実行する。ステップS122において、コントローラ30aは電圧Vが第1電圧閾値V1a以上であるか否かを判定し、電圧Vが第1電圧閾値V1a以上であると判定されるとステップS128へ進み、電圧Vが第1電圧閾値V1a未満であると判定されるとステップS125へ進む。
【0111】
さらに、コントローラ30aは、ステップS125において、第2の回転速度判定処理に代えて第2の電圧判定処理を実行する。ステップS125において、コントローラ30aは電圧Vが第2電圧閾値V2a以下であるか否かを判定し、電圧Vが第2電圧閾値V2a以下であると判定されるとステップS134へ進み、電圧Vが第2電圧閾値V2aよりも高いと判定されるとステップS131へ進む。なお、第1電圧閾値V1aは、第2電圧閾値V2aよりも高い。第1電圧閾値V1a及び第2電圧閾値V2aは、予め定められ、不揮発性メモリ183に記憶されている。
【0112】
<変形例4>
上記実施形態では、抉り制御における正回転及び逆回転の際の目標角度(下死点後角度及び下死点前角度)を徐々に増加させる例について説明したが、本発明はこれに限定されない。抉り制御における正回転及び逆回転の際の目標角度は一定であってもよい。
【0113】
<変形例5>
上記実施形態では、コントローラ30aは、空気圧縮機100の起動が成功しなかった場合、同様の再起動制御を実行する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、コントローラ30aは、第1抉り制御を実行した後、空気圧縮機100の起動が成功しなかった場合、電圧Vが第1電圧閾値V1以上であっても第2抉り制御を実行するようにしてもよい。
【0114】
<変形例6>
上記実施形態では、磁極位置センサとしては、ホールセンサ32を用いる例について説明したが、本発明はこれに限定されない。磁極位置センサとして、レゾルバ、エンコーダ等を採用してもよい。なお、ホールセンサ32からの信号に基づいて、モータ6の停止制御を実行する構成では、物理的な位置制御に比べて、安価で実施でき、角度精度も良い。
【0115】
<変形例7>
上記実施形態では、圧縮機が軽可搬型の空気圧縮機100である例について説明したが、本発明はこれに限定されない。固定型の空気圧縮機に本発明を適用してもよい。また、圧縮機は、空気を圧縮する空気圧縮機に限定されることもなく、空気以外の気体を圧縮する圧縮機としてもよい。
【0116】
<変形例8>
上記実施形態では、圧縮機構18が、揺動型のピストン(ロッキングピストン)を備える揺動ピストン方式の圧縮機構である例について説明したが、本発明はこれに限定されない。圧縮機構18には、連接棒の圧縮室側端部に軸受が設けられ、その軸受を支点として首振り可能に支持され、シリンダ19内に沿って直線状に摺動する円筒型のピストンを有する通常ピストン方式の圧縮機構を採用してもよい。通常ピストン方式の圧縮機構においても、上死点位置で停止するようにモータ6を制御することにより、揺動ピストン方式と同様、空気圧縮機100の起動性を向上させることができる。
【0117】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0118】
1…圧縮機本体、6…モータ(電動機)、8b…永久磁石、18…圧縮機構、18A…低圧側圧縮機構、18B…高圧側圧縮機構、19(19A,19B)…シリンダ、20(20A,20B)…ピストン、23…圧縮室、23A…低圧側圧縮室、23B…高圧側圧縮室、30a…コントローラ(制御装置)、30d…インバータ回路(駆動回路)、30e…電圧センサ、30h…電流センサ、31…圧力センサ、32…ホールセンサ(磁極位置センサ)、41…電源部(電源)100…空気圧縮機(圧縮機)、129A…ピストン本体、129B…ピストン本体、θ…回転位置(回転角度)、θc…補正角、θca…第1補正角、θcb…第2補正角、θcc…第3補正角、θs…目標停止角、θtc…停止指令角(停止指令位置)、θtf1,θtf2,θtf3,θtf4,θtf5…正転時の目標角度(下死点後角度)、θtr1,θtr2,θtr3,θtr4,θtr5…逆回転時の目標角度(下死点前角度)、ω1…第1速度閾値、ω2…第2速度閾値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11