(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】ポンプ装置
(51)【国際特許分類】
F04D 29/28 20060101AFI20240514BHJP
【FI】
F04D29/28 J
F04D29/28 N
(21)【出願番号】P 2020123379
(22)【出願日】2020-07-20
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】ニデックインスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142619
【氏名又は名称】河合 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100125690
【氏名又は名称】小平 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100153316
【氏名又は名称】河口 伸子
(72)【発明者】
【氏名】矢澤 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 岳
【審査官】森 秀太
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-194190(JP,A)
【文献】国際公開第2018/190239(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0292521(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/28
F04D 29/70
F04D 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、前記モータに対して回転中心軸線の一方側に設けられたポンプ室に配置されたインペラと、を備え、
前記モータは、コイルが巻回されたステータコアを備えた円筒状のステータと、
前記ステータの前記一方側に配置されて前記ポンプ室を区画するとともに前記インペラを収容するケースと、前記ステータに径方向内側で対向する位置から前記回転中心軸線に沿って前記ポンプ室に向けて延在する円筒部を備え、前記円筒部に前記インペラが接続されたロータと、前記ステータに径方向内側で対向するように前記円筒部に保持された磁石と、前記ステータを覆う樹脂製の隔壁部材と、を有し、
前記隔壁部材は、前記ポンプ室の底壁を構成する第1隔壁部と、前記ステータと前記磁石との間に介在する第2隔壁部と、を有し、
前記ケースは、前記第1隔壁部と対向する壁面と、前記インペラの径方向外側の位置で周方向に延在する側壁と、を有し、
前記円筒部は、前記磁石を保持する部分から前記インペラまでの間に貫通穴が設けられ、
前記底壁は、前記貫通穴の径方向外側で径方向内側より径方向外側が前記ポンプ室の側に位置するように傾いた円錐面を有
し、
前記貫通穴は、前記回転中心軸線と直交する方向から見た場合に、前記円錐面と重なる範囲に設けられ、
前記インペラが回転することによって、前記ポンプ室の流体は、前記側壁に連通した吐出管から吐出されることを特徴とするポンプ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のポンプ装置において、
前記底壁は、前記円錐面の外周側に前記回転中心軸線に対して直交する環状外周領域を備えていることを特徴とするポンプ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポンプ装置において、
前記隔壁部材は、前記ステータを径方向の両側、および前記回転中心軸線方向の両側から覆う樹脂封止部材であることを特徴とするポンプ装置。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載のポンプ装置において、
前記ステータでは、前記ステータコアに被せられたインシュレータを介して前記コイルが前記ステータコアに巻回され、
前記インシュレータの径方向内側の第1鍔部の前記ポンプ室側の端部と前記インシュレータの径方向外側の第2鍔部の前記ポンプ室側の端部とを直線的に結ぶ仮想線は、前記回転中心軸線に対して前記円錐面に沿うように傾いていることを特徴とするポンプ装置。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載のポンプ装置において、
前記ポンプ室に連通する吸入口は、前記ポンプ室に対して前記円筒部の内径より大きい内径で前記回転中心軸線に対して同心状に設けられていることを特徴とするポンプ装置。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載のポンプ装置において、
前記円錐面と前記回転中心軸線とが成す角度は、45度以上であることを特徴とするポンプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インペラをモータによって回転させるポンプ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポンプ装置では、ポンプ室に配置されたインペラをポンプで回転させる。ポンプにおいて、ステータは、環状部と、環状部から径方向を内側に突出する複数の突極部とを備えており、突極部には、インシュレータを介してコイルが巻回されている。ステータは、インサート成形によってコイル等を覆うように形成された樹脂封止部材を有している。樹脂封止部材は、ポンプ室においてインペラに対してモータの側に位置する底壁を構成する第1隔壁部と、ステータの径方向内側にロータが配置される第2隔壁部とを有しており、第1隔壁部は、ロータの回転中心軸線に対して直交している。ロータは、ステータに第2隔壁部を介して径方向内側で対向するように磁石を保持する円筒部を備えており、円筒部の先端部は、ポンプ室においてインペラの下半部を構成するフランジ部を有している。円筒部には、磁石を保持する部分とフランジ部との間に空気抜き用の貫通穴が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のポンプ装置では、インペラが回転した際、流体の一部がポンプ室からロータの円筒部に流れ込んだ後、円筒部の貫通穴を通って底壁に沿って再びポンプ室に流れる。このため、流体に混入した空気がポンプ室に戻され、ポンプ室から吐出される。ここで、第1隔壁部は、ロータの回転中心軸線に対して直交しているため、貫通穴から底壁に沿ってポンプ室に向かう流体の圧力が低い。このため、流体に異物が混入していた場合、異物がポンプ室に流出せずにロータに保持された磁石と第2隔壁部との間に入り込むことがある。かかる事態が発生すると、異物が磁石と第2隔壁部との間に挟まってロータの回転を阻害するおそれがあるため、好ましくない。
【0005】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、ロータに保持された磁石と隔壁部材との間への異物の侵入を抑制することができるポンプ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るポンプ装置は、モータと、前記モータに対して回転中心軸線の一方側に設けられたポンプ室に配置されたインペラと、を備え、前記モータは、コイルが巻回されたステータコアを備えた円筒状のステータと、前記ステータの前記一方側に配置されて前記ポンプ室を区画するとともに前記インペラを収容するケース
と、前記ステータに径方向内側で対向する位置から前記回転中心軸線に沿って前記ポンプ室に向けて延在する円筒部を備え、前記円筒部に前記インペラが接続されたロータと、前記ステータに径方向内側で対向するように前記円筒部に保持された磁石と、前記ステータを覆う樹脂製の隔壁部材と、を有し、前記隔壁部材は、前記ポンプ室の底壁を構成する第1隔壁部と、前記ステータと前記磁石との間に介在する第2隔壁部と、を有し、前記ケースは、前記第1隔壁部と対向する壁面と、前記インペラの径方向外側の位置で周方向に延在する側壁と、を有し、前記円筒部は、前記磁石を保持する部分から前記インペラまでの間に貫通穴が設けられ、前記底壁は、前記貫通穴の径方向外側で径方向内側より径方向外側が前記ポンプ室の側に位置するように傾いた円錐面を有し、前記貫通穴は、前記回転中心軸線と直交する方向から見た場合に、前記円錐面と重なる範囲に設けられ、前記インペラが回転することによって、前記ポンプ室の流体は、前記側壁に連通した吐出管から吐出されることを特徴とする。
【0007】
本発明に係るポンプ装置において、ロータの円筒部には、磁石を保持する部分からイン
ペラまでの間に貫通穴が設けられているため、インペラが回転した際、流体の一部がポンプ室からロータの円筒部に流れ込んだ後、円筒部の貫通穴を通って底壁に沿って再びポンプ室に流れる。従って、流体に気泡が混入した場合でも、気泡をポンプ室に戻すことができる。また、ポンプ室の底壁は、貫通穴の径方向外側で径方向内側より径方向外側がポンプ室の側に位置するように傾いた円錐面を有するため、底壁に沿ってポンプ室に向かう流体の圧力が高い。このため、流体に異物が混入した場合でも、異物は、ポンプ室に流れ込むため、ロータに保持された磁石と第2隔壁部との間に入り込みにくい。従って、異物が磁石と第2隔壁部との間に挟まってロータの回転が阻害されるという事態が発生しにくい。
【0008】
本発明において、前記底壁は、前記円錐面の外周側に前記回転中心軸線に対して直交する環状外周領域を備えている態様を採用することができる。かかる態様によれば、底壁の外周側において、流体をインペラの外周側を通ってポンプ室にスムーズに流出させることができる。
【0009】
本発明において、前記隔壁部材は、前記ステータを径方向の両側、および前記回転中心軸線方向の両側から覆う樹脂封止部材である態様を採用することができる。
【0010】
本発明において、前記ステータでは、前記ステータコアに被せられたインシュレータを介して前記コイルが前記ステータコアに巻回され、前記インシュレータの径方向内側の第1鍔部の前記ポンプ室側の端部と前記インシュレータの径方向外側の第2鍔部の前記ポンプ室側の端部とを直線的に結ぶ仮想線は、前記回転中心軸線に対して前記円錐面に沿うように傾いている態様を採用することができる。かかる態様によれば、インシュレータの構造と底壁の形状とが対応しているため、底壁を構成する第1隔壁部の厚さを適正な厚さとすることができる。
【0011】
本発明において、前記ポンプ室に連通する吸入口は、前記ポンプ室に対して前記円筒部の内径より大きい内径で前記回転中心軸線に対して同心状に設けられている態様を採用することができる。かかる態様によれば、ポンプ室の側壁での流体の速度を低減することができるので、異物がロータの円筒部の内側に入り込みにくい。従って、異物は、ポンプ室に滞留しやすいので、異物がポンプ室からロータに保持された磁石と第2隔壁部との間に移動することを抑制することができる。
【0012】
本発明において、前記円錐面と前記回転中心軸線とが成す角度は、45度以上である態様を採用することができる。例えば、前記円錐面と前記回転中心軸線とが成す角度は、45度以上、かつ60度以下である態様を採用することができる。かかる態様によれば、貫通穴から底壁に沿ってポンプ室に向かう流体の圧力を適正に高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るポンプ装置において、ロータの円筒部には、磁石を保持する部分からインペラまでの間に貫通穴が設けられているため、インペラが回転した際、流体の一部がポンプ室からロータの円筒部に流れ込んだ後、円筒部の貫通穴を通って底壁に沿って再びポンプ室に流れる。従って、流体に気泡が混入した場合でも、気泡をポンプ室に戻すことができる。また、ポンプ室の底壁は、貫通穴の径方向外側で径方向内側より径方向外側がポンプ室の側に位置するように傾いた円錐面を有するため、底壁に沿ってポンプ室に向かう流体の圧力が高い。このため、流体に異物が混入した場合でも、異物は、ポンプ室に流れ込むため、ロータに保持された磁石と第2隔壁部との間に入り込みにくい。従って、異物が磁石と第2隔壁部との間に挟まってロータの回転が阻害されるという事態が発生しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明を適用したポンプ装置の一態様を示す斜視図。
【
図4】
図3に示すケース等を回転中心軸線方向の他方側からみた斜視図。
【
図5】
図2に示すモータを回転中心軸線方向の一方側からみた分解斜視図。
【
図6】
図2に示すモータを回転中心軸線L方向の他方側からみた分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態として、本発明に係るモータ装置をポンプ装置として構成した例を説明する。
【0016】
(全体構成)
図1は、本発明を適用したポンプ装置1の一態様を示す斜視図である。
図2は、
図1に示すポンプ装置1の縦断面図である。
図3は、
図1に示すポンプ装置1の分解斜視図である。
図4は、
図3に示すケース2等を回転中心軸線L方向の他方側L2からみた斜視図である。
図5は、
図2に示すモータ10を回転中心軸線L方向の一方側L1からみた分解斜視図である。
図6は、
図2に示すモータ10を回転中心軸線L方向の他方側L2からみた分解斜視図である。
【0017】
図1、
図2および
図3において、ポンプ装置1は、吸入口21aおよび吐出口22aを備えたケース2と、ステータ3およびロータ4を備えたモータ10と、モータ10に対して回転中心軸線L方向の一方側L1に設けられたポンプ室20に配置されたインペラ25とを備えている。ステータ3は円筒状である。モータ10は、ステータ3を覆う樹脂製の隔壁部材6と、ロータ4を回転可能に支持する丸棒状の支軸7とを備えている。支軸7は、金属製あるいはセラミック製である。本形態のポンプ装置1において、流体は液体であり、ポンプ装置1は、環境温度や流体温度が変化しやすい条件で使用される。
【0018】
ケース2は、ポンプ室20の回転中心軸線L方向の一方側L1の壁面23、および周方向に延在する側壁29を構成している。ケース2は、回転中心軸線Lに沿って延在する吸入管21と、回転中心軸線Lに対して直交する方向に延在する吐出管22とを備えており、吸入管21および吐出管22は各々、端部に吸入口21aおよび吐出口22aを備える。吸入管21および吸入口21aは、回転中心軸線Lに対して同心状に設けられている。
【0019】
モータ10において、ステータ3は、ステータコア31と、ステータコア31にインシュレータ32を介して巻回されたコイル33とを有している。詳細な説明を省略するが、ステータコア31は、円環状に延在する円環部と、円環部から径方向の内側へ突出する複数の突極とを備えている。コイル33は、突極を覆うインシュレータ32の径方向内側の第1鍔部321と径方向外側の第2鍔部322との間に巻回される。本形態において、モータ10は3相モータであり、コイル33には、U相コイル、V相コイル、およびW相コイルが含まれている。
【0020】
ロータ4は、ステータ3に径方向内側で対向する位置から回転中心軸線Lに沿ってポンプ室20に向けて延在する円筒部40を備えており、円筒部40は、ポンプ室20で開口している。円筒部40は、吸入管21および吸入口21aに対して同心状である。本形態において、ポンプ室20に連通する吸入口21aの内径φaは、ロータ4の円筒部40の内径φbより大きい。
【0021】
円筒部40の外周面には、ステータ3に径方向内側で対向するように円筒状の磁石5が保持されている。本形態において、ロータ4には、磁石5に回転中心軸線L方向の一方側
L1から重なる円環部41と、円環部41の外縁から回転中心軸線L方向の他方側L2に突出した環状の凸部42とが形成されており、凸部42は、磁石5の回転中心軸線L方向の一方側L1の端部を径方向外側から覆う。かかる構成に対応して、磁石5の回転中心軸線L方向の一方側L1の端部は、凸部42の内側で円環部41と重なる円環部51と、円環部51の径方向外側で回転中心軸線L方向の他方側L2に凹んだ円環状の凹部52とが形成されており、凹部52に凸部42が重なる。その際、磁石5とロータ4との間に接着剤を塗布し、磁石5とロータ4とを接着する。
【0022】
ここで、磁石5の円環部51には、周方向の複数個所に凹部53(
図5参照)が形成され、ロータ4の円環部41には、凹部53に嵌る凸部43(
図6参照)が形成されている。従って、凸部43は、凹部53に嵌ることによって、磁石5がロータ4に対して回転することを防止する。本形態において、凸部43は、周方向の両側に位置する端部が傾斜面になった断面台形形状になっており、凹部53は、周方向の両側に位置する壁部が傾斜面になった断面台形形状あるいは断面長方形形状になっている。また、凸部43が凹部53に嵌った際、凸部43は、凹部53の壁部に当接するようになっている。従って、凸部43の高さ寸法および凹部53の深さ寸法がばらついても、磁石5を回転中心軸線L方向に適正に位置決めすることができるとともに、ロータ4に対して磁石5ががたつくことを防止することができる。
【0023】
本形態において、磁石5は、ネオジムボンド磁石である。かかる磁石では、全体が樹脂のスキン層で覆われる。但し、磁石5を成形する際にゲートが位置していた箇所では、スキン層で覆われず、金属が露出しているため、錆が発生しやすい。そこで、本形態では、磁石5の回転中心軸線L方向の一方側L1の端面のうち、凹部52の底部、あるいは凹部53の底部にゲートを配置して磁石5を成形する。このため、磁石5を成形する際にゲートが位置していた箇所は、磁石5とロータ4とを接着した後、接着剤で覆われることになる。それ故、ゲートが位置していた箇所での錆の発生を抑制することができる。なお、
図5および
図6に示すように、磁石5のポンプ室20とは反対側の面には、磁石5の割れ等を防止するリング15が装着されている。
【0024】
図2、
図3および
図4に示すように、本形態のロータ4において、円筒部40の回転中心軸線L方向の一方側L1の端部には、円板状のフランジ部45が形成されており、フランジ部45には、回転中心軸線L方向の一方側L1から円板26が連結されている。円板26の中央には中央穴260が形成されており、円板26のフランジ部45と対向する面には、中央穴260の周囲から円弧状に湾曲しながら径方向の外側に延在する複数の羽根部261が等角度間隔に形成されている。複数の羽根部261の各々には、フランジ部45に向けて突出した凸部262が形成されている。
【0025】
フランジ部45には、羽根部261のフランジ部45側の端部が嵌る溝451が形成され、溝451の底部には、凸部262が嵌る穴452が形成されている。従って、凸部262を穴452に嵌めるように、円板26をフランジ部45に重ねて固定すると、フランジ部45と円板26とによって、ロータ4の円筒部40に接続されたインペラ25が構成される。本形態において、円板26は、径方向内側より径方向外側がフランジ部45の側に位置するように傾いている。従って、円板26とフランジ部45との間隔は、径方向内側より径方向外側で狭い。
【0026】
図2、
図5および
図6に示すように、ロータ4には、円筒部40の径方向内側に円筒状のラジアル軸受11がカシメ等の方法で保持されており、ロータ4は、ラジアル軸受11を介して支軸7に回転可能に支持されている。支軸7は、後述するように、隔壁部材6に保持されている。
【0027】
隔壁部材6は、ポンプ室20の壁面23に対向する底壁24を構成する第1隔壁部61と、ステータ3と磁石5との間に介在する第2隔壁部62とを有している。本形態において、隔壁部材6は、ステータ3を径方向の両側、および回転中心軸線L方向の両側から覆う樹脂封止部材60であり、BMC(Bulk Molding Compound)等によってステータ3をインサート成形した際の樹脂部分である。本形態において、樹脂封止部材60の材質は、ポリフェニレンサルファイド(PPS:Poly Phenylene Sulfide)である。
【0028】
本形態において、樹脂封止部材60には、回転中心軸線L方向の他方側L2からカバー18が固定され、カバー18と樹脂封止部材60との間には、コイル33に対する給電を制御する回路等が設けられた基板19が配置されている。また、隔壁部材6には、コネクタハウジング69が形成されている。従って、コネクタハウジング69にコネクタを連結して電源供給等を行うと、ロータ4が回転中心軸線L周りに回転する。これにより、ポンプ室20内でインペラ25が回転すると、ポンプ室20の内部が負圧となるため、流体は吸入管21からポンプ室20に吸い込まれて、吐出管22から吐出される。
【0029】
(ロータ4の円筒部40等の詳細構成)
本形態のモータ10において、ロータ4の円筒部40は、磁石5を保持する部分からインペラ25までの間に貫通穴44が設けられている。本形態において、貫通穴44は、円筒部40において角度位置で互いに180度ずれた2か所に設けられている。
【0030】
ポンプ室20において、隔壁部材6の第1隔壁部61によって構成された底壁24は、貫通穴44の径方向外側で径方向内側より径方向外側がポンプ室20の側に位置するように傾いた円錐面66を有している。かかる構成に対応して、インシュレータ32の径方向内側の第1鍔部321のポンプ室20側の端部とインシュレータ32の径方向外側の第2鍔部322のポンプ室20側の端部とを直線的に結ぶ仮想線Pは、回転中心軸線Lに対して円錐面66に沿うように傾いている。本形態において、円錐面66と回転中心軸線Lとが成す角度θは、45度以上である。
【0031】
また、底壁24は、円錐面66の外周側に回転中心軸線Lに対して直交する環状外周領域67を備えている。本形態において、円錐面66は、インペラ25の径方向の途中位置から外縁よりわずかに内側の位置までと重なり、環状外周領域67は、インペラ25の外縁より径方向外側に張り出すように形成されている。従って、環状外周領域67の外周部分は、インペラ25と対向せずに、ポンプ室20に直接、重なっている。
【0032】
このように本形態のポンプ装置1において、ロータ4の円筒部40には、磁石5を保持する部分からインペラ25までの間に貫通穴44が設けられている。このため、インペラ25が回転した際、流体の一部がポンプ室20からロータ4の円筒部40に流れ込んだ後、円筒部40の貫通穴44を通って底壁24に沿って再びポンプ室20に流れる。このため、流体に混入した空気がポンプ室20に戻される。
【0033】
ここで、ポンプ室20の底壁24は、貫通穴44の径方向外側で径方向内側より径方向外側がポンプ室20の側に位置するように傾いた円錐面66を有する。従って、貫通穴44から底壁24に沿ってポンプ室20に向かう流体の圧力が高いため、流体に異物が混入した場合でも、異物は、ポンプ室20に流れ込みやすい。従って、異物がポンプ室20からロータ4に保持された磁石5と第2隔壁部62との間に移動することを抑制することができる。それ故、異物が磁石5と第2隔壁部62との間に挟まってロータ4の回転が阻害されるという事態が発生しにくい。
【0034】
また、円錐面66と回転中心軸線Lとが成す角度は、45度以上である。例えば、円錐
面66と回転中心軸線Lとが成す角度は、45度以上、かつ65度以下である。従って、貫通穴44から底壁24に沿ってポンプ室20に向かう流体の圧力を適正に高めることができる。
【0035】
また、底壁24は、円錐面66の外周側に回転中心軸線Lに対して直交する環状外周領域67を備えているため、底壁24の外周側において、流体をインペラ25の外周側を通ってポンプ室20にスムーズに流出させることができる。
【0036】
また、インシュレータ32の径方向内側の第1鍔部321のポンプ室20側の端部とインシュレータ32の径方向外側の第2鍔部322のポンプ室20側の端部とを直線的に結ぶ仮想線Pは、回転中心軸線Lに対して円錐面66に沿うように傾いており、インシュレータ32の構造と底壁24の形状とが対応している。このため、底壁24を構成する第1隔壁部61の厚さを適正な厚さとすることができる。
【0037】
また、ポンプ室20に連通する吸入口21aは、円筒部40の内径φbより大きい内径φaをもって回転中心軸線Lに対して同心状に設けられているため、ポンプ室20の側壁29での流体の速度を低減することができる。従って、異物は、ポンプ室20の側壁29に沿う領域で滞留し、円筒部40の内側に流れ込みにくい。従って、異物が円筒部40から貫通穴44を通って磁石5と第2隔壁部62との間に移動するという事態が発生しにくい。
【0038】
(支軸7の固定構造)
図2に示すように、隔壁部材6には、支軸7のポンプ室20とは反対側の第1端部71が嵌った軸穴65が形成されている。これに対して、ケース2には、支軸7のポンプ室20側の第2端部72にポンプ室20の側で対向して支軸7のポンプ室20側への可動範囲を制限する受け部280が形成されている。
【0039】
軸穴65は、第1端部71が固定される第1穴部651と、第1穴部651にポンプ室20と反対側で連通する第2穴部652とを備えており、第2穴部652は、第1端部71と係合して支軸7の回転を防止する。本形態において、支軸7は、第1穴部651への圧入により隔壁部材6に固定されている。
【0040】
本形態において、第2穴部652では、第2穴部652の内周面に形成された平面部と支軸7の外周面に形成された平面部と重なりによって支軸7の回転が防止される。例えば、第1端部71および第2穴部652はいずれも、断面D字形状に形成されている。従って、第2穴部652の平面部652aと第1端部71の平面部71aとが重なっているため、第2穴部652は、第1端部71と係合して支軸7の回転を防止する。
【0041】
本形態において、軸穴65は、隔壁部材6の底板部63に形成されている。また、第1穴部651は、底板部63からポンプ室20の側に突出した第1筒部631の内側部分を含み、第2穴部652は、底板部63でポンプ室20とは反対側に向けて突出した有底の第2筒部632の内側部分に設けられている。本形態において、底板部63には、第2筒部632の外周面と繋がった三角形状の複数のリブ635が設けられている。
【0042】
ここで、軸穴65のポンプ室20側の開口縁は傾斜面になっている。また、第1筒部631の肉厚は、第2筒部632の肉厚より薄い。
【0043】
本形態において、ケース2は、吸入管21の内周面からモータ10の側に延在する3本の支持部27を備えている。支持部27の端部には、支軸7が内側に位置する筒部28が形成されており、筒部28の回転中心軸線L方向の一方側L1の底部によって受け部28
0が構成されている。支軸7の外周面と筒部28の内周面との間には隙間が設けられており、受け部280は、支軸7の第2端部72の側の端面に隙間G2を介して対向している。ここで、第2端部72の端面と受け部280との隙間G2は、第2穴部652の内部に位置する第1端部71の回転中心軸線L方向における寸法G1より狭い。
【0044】
なお、支軸7の第2端部72には円環状のスラスト軸受12が装着されており、スラスト軸受12は、ラジアル軸受11と筒部28の間に配置されている。ここで、支軸7の第2端部72およびスラスト軸受12の穴121は断面D字形状に形成されており、スラスト軸受12と支軸7との回転が阻止されている。
【0045】
このように本形態のポンプ装置1において、支軸7の第1端部71は、隔壁部材6の軸穴65の第1穴部651に固定されている。このため、複雑な構成の金型を必要とするインサート成形を利用しなくても、支軸7を隔壁部材6に保持させることができる。また、軸穴65の第2穴部652によって支軸7の回転を防止するため、支軸7を隔壁部材6に安定した状態に保持させることができる。また、第2端部72の端面と受け部280との隙間G2は、第2穴部652の内部に位置する第1端部71の回転中心軸線L方向における寸法G1より狭いため、温度が上昇して第1穴部651での支軸7の固定が緩み、支軸7が受け部280側に移動したときでも、第1端部71は第2穴部652から抜けない。従って、支軸7の回転を防止することができる。なお、温度が上昇して第1穴部651での支軸7の固定が緩んだときでも、温度が低下すれば、第1穴部651での支軸7の固定が締まる。
【0046】
また、第1穴部651は、底板部63からポンプ室20の側に突出した第1筒部631の内側部分を含み、第2穴部652は、底板部63でポンプ室20とは反対側に向けて突出した有底の第2筒部632の内側部分に設けられている。このため、第1穴部651および第2穴部652の各々において、回転中心軸線L方向で適正な寸法を確保することができる。また、底板部63には、第2筒部632の外周面と繋がった複数のリブ635が設けられているため、支軸7に大きな負荷が加わった場合でも、かかる負荷に第2筒部632が耐えることができる。
【0047】
また、軸穴65のポンプ室20側の開口縁が傾斜面になっているため、支軸7を軸穴65に容易に嵌めることができる。
【0048】
(ケース2と隔壁部材6との固定構造)
本形態のポンプ装置1において、ケース2および隔壁部材6は樹脂製である。また、支軸7は、隔壁部材6の軸穴65に保持されているため、支軸7とケース2の受け部280との間には隙間G2が確保され、支軸7の外周面と筒部28の内周面との間にも隙間が確保されている。従って、支軸7とケース2との間には、ケース2と隔壁部材6とを相対移動させる遊びが確保されていることから、ポンプ装置1の製造工程では、ケース2と隔壁部材6とを振動溶着によって固定することができる。
【0049】
振動溶着では、ケース2と隔壁部材6とを相対的に振動させて溶着を行う。本形態では、隔壁部材6においてステータ3を径方向外側から囲む円筒状の胴部64の回転中心軸線L方向の一方側L1の端部、およびケース2の側壁29の回転中心軸線L方向の他方側L2の端部のうちの一方に環状の凸部を設け、他方に環状の凹部を設け、凸部を凹部内で振動溶着する。本形態では、側壁29の回転中心軸線L方向の他方側L2の端部に円環状の凸部290を設け、胴部64の回転中心軸線L方向の一方側L1の端部に円環状の凹部640を設け、凸部290を凹部640内で振動溶着する。
【0050】
[他の実施の形態]
上記実施形態では、隔壁部材6がステータ3を径方向の両側、および回転中心軸線L方向の両側から覆う樹脂封止部材60であったが、隔壁部材6がステータ3を径方向の内側、および回転中心軸線L方向の一方側L1のみを覆う部材である場合に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0051】
1…ポンプ装置、2…ケース、3…ステータ、4…ロータ、5…磁石、6…隔壁部材、7…支軸、10…モータ、11…ラジアル軸受、12…スラスト軸受、20…ポンプ室、21…吸入管、21a…吸入口、22…吐出管、22a…吐出口、23…壁面、24…底壁、25…インペラ、26…円板、27…支持部、28…筒部、29…側壁、31…ステータコア、32…インシュレータ、33…コイル、40…円筒部、44…貫通穴、45…フランジ部、60…樹脂封止部材、61…第1隔壁部、62…第2隔壁部、63…底板部、64…胴部、65…軸穴、66…円錐面、67…環状外周領域、71…第1端部、72…第2端部、280…受け部、321…第1鍔部、322…第2鍔部、631…第1筒部、632…第2筒部、635…リブ、651…第1穴部、652…第2穴部