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  • 特許-回転電機の回転子、回転子の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】回転電機の回転子、回転子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/26 20060101AFI20240514BHJP
   H02K 17/16 20060101ALI20240514BHJP
   H02K 1/04 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
H02K1/26 Z
H02K17/16 A
H02K1/04 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020152904
(22)【出願日】2020-09-11
(65)【公開番号】P2022047156
(43)【公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅一
【審査官】宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-254646(JP,A)
【文献】特開2004-364368(JP,A)
【文献】特開2015-023680(JP,A)
【文献】特開2004-104853(JP,A)
【文献】特開平11-025785(JP,A)
【文献】特開平04-112416(JP,A)
【文献】特開平08-317616(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/26
H02K 17/16
H02K 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1枚以上の鋼板が互いに絶縁することなく積層され、導体が収容される軸方向へ貫くスロットを有する鋼板群と、
前記スロットを形成する前記鋼板群の内壁に設けられ、前記鋼板群と前記導体との間を絶縁するとともに、積層された前記鋼板を一体の絶縁鋼板群とする絶縁皮膜と、
前記絶縁鋼板群とともに鉄心を構成し、前記絶縁鋼板群の少なくとも一方の端部側に設けられ、前記絶縁皮膜が施されていない1枚以上の未処理鋼板と、
を備える回転電機の回転子。
【請求項2】
前記絶縁鋼板群は、チラノワニスによって一体に前記絶縁皮膜が形成されている請求項1記載の回転電機の回転子。
【請求項3】
1枚以上の鋼板を互いに絶縁することなく積層して、予め設定された設定全長よりもわずかに小さくなるように、鋼板群を構成する工程と、
前記鋼板群を軸方向へ貫くスロットに対応する前記鋼板群の内壁に、絶縁皮膜を形成して一体の前記絶縁鋼板群に加工する工程と、
前記絶縁鋼板群の少なくとも一方の端部側に、前記絶縁皮膜が施されていない未処理鋼板を1枚以上追加して、前記設定全長に調整する工程と、
前記未処理鋼板が追加された前記絶縁鋼板群を鉄心として、ダイカスト加工によって前記スロットの内側に導体を形成する工程と、
を含む回転子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、回転電機の回転子、回転子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、いわゆるかご形誘導電動機のような回転電機の回転子は、鉄心となる鋼板を積層した鋼板群に、導電材料であるアルミニウムや銅などをダイカストまたは溶湯鍛造することにより形成されている。この場合、導電材料と鋼板群の鋼板とが短絡すると、漏れ電流が生じ、回転電機の効率の低下を招く。そこで、鋼板群は、例えば絶縁皮膜や絶縁層を形成するなど絶縁処理が施されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、絶縁処理が施された絶縁鋼板群は、後続するダイカスト工程において、電気的な効率の向上のために軸方向の全長の調整が必要となる場合がある。この場合、絶縁鋼板群は、絶縁処理が施されていることから、積層状態の鋼板の枚数の調整が困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-317616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、電気的な効率の低下を招くことなく、鋼板群の枚数の調整が容易な回転電機の回転子および回転子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態の回転電機の回転子は、1枚以上の鋼板が積層され、絶縁処理が施されている絶縁鋼板群と、前記絶縁鋼板群とともに鉄心を構成し、前記絶縁鋼板群の少なくとも一方の端部側に設けられ、絶縁処理が施されていない1枚以上の未処理鋼板と、を備える。
また、本実施形態の回転子の製造方法は、積層された1枚以上の鋼板に絶縁処理を施して一体の絶縁鋼板群に加工する工程と、前記絶縁鋼板群の少なくとも一方の端部側に、絶縁処理が施されていない未処理鋼板を1枚以上追加する工程と、前記未処理鋼板が追加された前記絶縁鋼板群を鉄心として、導体でダイカスト加工する工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】一実施形態による回転子の鉄心を示す模式図
図2】一実施形態による固定子の鉄心において、絶縁鋼板群を示す模式的な部分断面図
図3】一実施形態による固定子の鉄心の要部を、図2の矢印III方向から見た模式図
図4】一実施形態による固定子の鉄心を型に収容した状態を示す模式的な断面図
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、一実施形態について図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態の回転電機の回転子10は、絶縁鋼板群11および未処理鋼板12を備えている。これら絶縁鋼板群11および未処理鋼板12は、回転子10の鉄心13を構成している。絶縁鋼板群11は、図2に示すように例えば電磁鋼板などからなる1枚以上の鋼板14が積層されている。絶縁鋼板群11は、各鋼板14に形成されているスロット15を有している。スロット15は、回転子10の軸方向において、絶縁鋼板群11を軸方向へ貫いている。すなわち、絶縁鋼板群11を構成する鋼板14は、スロット15となる開口を有している。そして、鋼板14を積層して絶縁鋼板群11を構成することにより、積層された鋼板14を軸方向へ貫くスロット15が形成される。
【0008】
回転子10は、図2および図3に示すようにスロット15の内部に設けられている導体16を備えている。導体16は、絶縁鋼板群11を軸方向へ貫くスロット15の内側に充填されている。回転子10は、絶縁皮膜17を備えている。絶縁皮膜17は、スロット15を形成する鋼板14の内側となる面に設けられている。すなわち、導体16は、絶縁皮膜17を挟んでスロット15に収容されている。これにより、絶縁鋼板群11を構成する鋼板14と導体16との間は、絶縁皮膜17によって絶縁されている。導体16は、例えばアルミニウムや銅などの導電材料をダイカストによりスロット15へ鋳込むことによりスロット15の内側に設けられる。導体は、金属の単体に限らず、導電性の合金であってもよい。また、導体16は、ダイカストに限らず、例えば溶湯鍛造によって設けてもよい。さらに、鋼板14は、自己融着電磁鋼板であってもよい。
【0009】
絶縁鋼板群11は、例えばプレスなどによって所定の形状に打ち抜かれた鋼板14を積層することによって構成される。鋼板14は、スロット15や図示しない回転軸部材が設けられる穴部18などを有している。積層された鋼板14は、少なくともスロット15を形成する内壁に絶縁皮膜17が形成される。絶縁皮膜17は、例えばいわゆるチラノワニスなどで形成されている。絶縁皮膜17となるチラノワニスは、チタンセラミックス樹脂系塗料をシンナーなどで希釈したものである。この希釈された処理液は、積層された鋼板14のスロット15に対応する位置に充填される。そして、充填されたチラノワニスを焼き付けなどによって乾燥させることにより、スロット15を形成する鋼板14の内壁には絶縁皮膜17が形成される。この絶縁皮膜17は、概ね数μm程度の厚みでスロット15を形成する内壁面に概ね均一に形成される。
【0010】
未処理鋼板12は、回転子10の軸方向において、図1に示すように絶縁鋼板群11の少なくとも一方の端部側に設けられている。未処理鋼板12は、回転子10の軸方向における鉄心13の全長を調整するために設けられる。絶縁鋼板群11と未処理鋼板12とによって構成される回転子10の鉄心13は、後続するダイカストや溶湯鋳造の工程において、導体16が設けられる。この導体16を形成する工程では、鉄心13は導体16の注入のために、図4に示すように所定の形状の型20に収容される。このとき、型20に収容される鉄心13は、寸法の調整のために、回転子10の軸方向において予め設定された全長である設定全長に調整する必要がある。例えば、型20は、回転子10の軸方向の両端にそれぞれ取り付けられる上型21および下型22を有している。そして、この上型21と下型22との間の距離は、鉄心13の設定全長に規定される。上型21と下型22との間に収容された鉄心13は、スロット15に導体16が形成される。
【0011】
仮に絶縁鋼板群11の全長が鉄心13の設定全長よりも大きいとき、設定全長とするには絶縁鋼板群11から積層された鋼板14を除去する処理が必要となる。しかし、絶縁鋼板群11は、導体16を形成する前処理である絶縁処理の工程において、積層された複数の鋼板14のスロット15に一体的に絶縁皮膜17が形成されている。そのため、絶縁皮膜17が形成された絶縁鋼板群11からこれを構成する鋼板14を除去することは困難であるとともに、鋼板14を除去したとしても絶縁皮膜17の再形成など煩雑な工程を必要とする。そこで、本実施形態では、絶縁鋼板群11を構成する鋼板14の枚数を調整することにより、回転子10の軸方向における絶縁鋼板群11の全長を鉄心13の設定全長よりもやや小さく設定する。そして、絶縁鋼板群11の軸方向の端部に未処理鋼板12を追加することにより、この未処理鋼板12によって鉄心13の全長を設定全長に調整する。
【0012】
未処理鋼板12は、絶縁鋼板群11を構成する鋼板14と同一の形状または厚みであってもよいし、調整のために簡略化された形状または厚みであってもよい。このように、本実施形態では、回転子10の鉄心13は、積層された鋼板14のスロット15となる開口に絶縁皮膜17が形成されている絶縁鋼板群11と、絶縁皮膜17のない未処理鋼板12とによって構成されている。この場合、鉄心13は、数十枚~数百枚程度の鋼板14で構成される絶縁鋼板群11に、多くても数枚程度の未処理鋼板12が追加されるにすぎない。本実施形態の場合、絶縁鋼板群11を構成する鋼板14は、約100枚程度である。また、未処理鋼板12の厚みは、数mm程度である。そのため、追加された未処理鋼板12は、回転子10の電気的な特性にほとんど影響を及ぼさない。
【0013】
次に、上記の構成による回転子10の製造方法について説明する。
絶縁鋼板群11を構成する鋼板14は、軸方向の全長が予め設定された設定全長よりもわずかに小さくなるように所定の枚数が積層される。鋼板14は、スロット15に対応する開口および回転軸部材が貫く穴部18などが予め形成されている。積層された鋼板14は、絶縁処理として絶縁皮膜17が形成される。絶縁皮膜17は、例えばチラノワニスなどによって形成される。これにより、積層された鋼板14は、少なくともスロット15に対応する位置の内壁に絶縁皮膜17が一体に形成された絶縁鋼板群11となる。
【0014】
絶縁鋼板群11は、上述のようにその全長が設定全長よりもわずかに小さく設定されている。そこで、絶縁鋼板群11は、軸方向において少なくとも一方の端部側に未処理鋼板12が追加される。未処理鋼板12を追加することにより、絶縁鋼板群11および未処理鋼板12で構成される鉄心13は軸方向の全長が予め設定された設定全長に調整される。
【0015】
絶縁鋼板群11に未処理鋼板12が追加されることにより設定全長に調整された鉄心13は、図4に示すように所定の型20に収容される。そして、型20に収容された鉄心13は、絶縁鋼板群11と未処理鋼板12とが一体となってダイカスト加工によってスロット15に対応する位置に導体16が形成される。導体16は、例えば銅やアルミニウムなどの導電性の金属や導電性の合金によって形成される。
【0016】
以上説明した回転電機の回転子10は、絶縁鋼板群11および未処理鋼板12で鉄心13が構成されている。絶縁鋼板群11は、軸方向における全長が、ダイカストなどにより導体16を形成する工程において鉄心13に要求される設定全長よりもわずかに小さく設定されている。そのため、鉄心13は、絶縁鋼板群11の一方の端部に未処理鋼板12を追加することにより、設定全長に調整される。すなわち、鉄心13は、絶縁皮膜17が形成された絶縁鋼板群11に、未処理鋼板12を追加することにより、その軸方向の全長が設定全長に調整される。そのため、絶縁皮膜17の形成によって一体となった絶縁鋼板群11は、設定全長への調整のために、積層された鋼板14を除去したり、絶縁皮膜17を再形成したりする必要がない。したがって、鉄心13の全長の調整のために鋼板群の枚数の調整を容易にすることができる。
【0017】
また、一実施形態では、絶縁鋼板群11を構成する100枚以上の鋼板14に対して、追加される未処理鋼板12は多くても数枚である。そのため、未処理鋼板12に絶縁処理が施されていなくても、漏れ電流は無視できる程度に小さい。したがって、電気的な特性の変化や効率の低下を招くことなく、鉄心13の全長の調整を容易にすることができる。
【0018】
一実施形態による回転子10の製造方法では、鉄心13は、ダイカスト加工を実施する工程の前に、絶縁鋼板群11に未処理鋼板12を追加することによって、設定全長が調整される。すなわち、鉄心13の設定全長は、未処理鋼板12を追加するという工程によって調整される。したがって、導体16のダイカスト加工を実施する前の工程において、鉄心13の全長の調整のための処理を簡略化することができる。
【0019】
以上、本発明の複数の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0020】
図面中、10は回転子、11は絶縁鋼板群、12は未処理鋼板、13は鉄心、14は鋼板、16は導体を示す。
図1
図2
図3
図4