(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】車両の旋回制御装置、及び、車両の旋回制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B60W 30/09 20120101AFI20240514BHJP
B62D 7/14 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
B60W30/09
B62D7/14 A
(21)【出願番号】P 2020158530
(22)【出願日】2020-09-23
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】519373914
【氏名又は名称】株式会社J-QuAD DYNAMICS
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大森 陽介
【審査官】小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-081232(JP,A)
【文献】特開2009-280102(JP,A)
【文献】特開2017-088164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30、30/00-60/00
B62D 7/00- 7/22
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車輪と、複数の前記車輪のうちの前輪の転舵角を調整する前輪用転舵装置と、複数の前記車輪のうちの後輪の転舵角を調整する後輪用転舵装置と、を備える車両に適用され、
前記車両が障害物に接近している場合、前記障害物に前記車両が衝突するまでに要する時間の予測値である衝突予測時間を取得する時間取得部と、
前記車両と前記障害物との衝突を回避するために必要な当該車両の横方向への移動量である目標横移動量が横移動量判定値以上であるか否かを判定する横移動量判定部と、
前記衝突予測時間が判定予測時間以下である場合、前記車両と前記障害物との衝突回避を目的として前記前輪を転舵させる指令を前記前輪用転舵装置に出力し、且つ、前記後輪を転舵させる指令を前記後輪用転舵装置に出力する自動旋回制御を実施する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記目標横移動量が前記横移動量判定値以上であるとの判定がなされている場合、前記自動旋回制御において、前記前輪の転舵方向の逆方向に前記後輪を転舵させる指令を前記後輪用転舵装置に出力する逆相処理を実行する
車両の旋回制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記目標横移動量が前記横移動量判定値以上であるとの判定がなされていない場合、前記自動旋回制御において、前記前輪の転舵方向と同じ方向に前記後輪を転舵させる指令を前記後輪用転舵装置に出力する同相処理を実行する
請求項1に記載の車両の旋回制御装置。
【請求項3】
前記制御部が前記同相処理を実行した場合における、横方向への前記車両の移動量である車両横移動量と、前記衝突予測時間との関係である同相時関係と、前記制御部が前記逆相処理を実行した場合における、前記車両横移動量と前記衝突予測時間との関係である逆相時関係と、に基づいて前記判定予測時間を設定する判定時間設定部と、
前記車両と前記障害物との衝突を回避するために必要な前記車両の横方向の移動量である目標横移動量を取得する目標横移動量取得部と、を備え、
前記車両横移動量が小さい場合には、前記同相時関係に基づいた前記目標横移動量に応じた前記衝突予測時間が前記逆相時関係に基づいた前記目標横移動量に応じた前記衝突予測時間よりも短いものの、前記車両横移動量が大きくなると、前記同相時関係に基づいた前記目標横移動量に応じた前記衝突予測時間が前記逆相時関係に基づいた前記目標横移動量に応じた前記衝突予測時間よりも長くなるようになっており、
前記判定時間設定部は、前記同相時関係に基づいた前記目標横移動量に応じた前記衝突予測時間と、前記逆相時関係に基づいた前記目標横移動量に応じた前記衝突予測時間と、のうちの短い方を基に、前記判定予測時間を設定する
請求項2に記載の車両の旋回制御装置。
【請求項4】
複数の前記車輪の中に、車輪の横力が限界値以上となる車輪があるか否かを判定する横力限界判定部を備え、
前記制御部は、前記自動旋回制御として、
複数の前記車輪の中に、車輪の横力が前記限界値以上となる車輪があるとの判定がなされていない場合では、複数の前記車輪に対する制動力及び駆動力のうちの少なくとも一方の力を調整することによって前記車両のヨーモーメントを大きくする制駆動力調整処理を実行する
請求項1~請求項3のうち何れか一項に記載の車両の旋回制御装置。
【請求項5】
複数の車輪と、複数の前記車輪のうちの前輪の転舵角を調整する前輪用転舵装置と、複数の前記車輪のうちの後輪の転舵角を調整する後輪用転舵装置と、を備える車両の制御装置が実行する車両の旋回制御プログラムであって、
前記制御装置に、
前記車両が障害物に接近している場合、前記障害物に前記車両が衝突するまでに要する時間の予測値である衝突予測時間を取得する時間取得処理と、
前記車両と前記障害物との衝突を回避するために必要な当該車両の横方向への移動量である目標横移動量が横移動量判定値以上であるか否かを判定する判定処理と、
前記衝突予測時間が判定予測時間以下になったときに前記目標横移動量が前記横移動量判定値以上であるとの判定がなされている場合、前記車両と前記障害物との衝突回避を目的として前記前輪を転舵させる指令を前記前輪用転舵装置に出力し、且つ、前記前輪の転舵方向の逆方向に前記後輪を転舵させる指令を前記後輪用転舵装置に出力する逆相自動旋回処理と、を実行させる
車両の旋回制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の旋回制御装置、及び、車両の旋回制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、自車両の進路上に障害物が存在することが検出されている状況下で運転者が操舵を行う場合に、車両の旋回を支援する旋回支援装置の一例が記載されている。この旋回支援装置では、運転者の操舵に伴って転舵する前輪の向きと同じ方向に後輪を転舵させる同相制御が実施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、車両の進路上に障害物が存在している場合において、運転者の操舵によらず、自動で車両を旋回させることによって車両と障害物との衝突を回避する自動旋回制御の開発が進められている。こうした自動旋回制御は、車両と障害物との衝突を緊急回避するための制御である。そのため、自動旋回制御を実施しなくても車両と障害物との衝突を回避できるのであれば、当該自動旋回制御を実施しない方が好ましい。自動旋回制御の実施機会の増大を抑えるためには、自動旋回制御の実施に伴う車両の横方向への移動量を早期に大きくする必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための車両の旋回制御装置は、複数の車輪と、複数の前記車輪のうちの前輪の転舵角を調整する前輪用転舵装置と、複数の前記車輪のうちの後輪の転舵角を調整する後輪用転舵装置と、を備える車両に適用される装置である。この旋回制御装置は、前記車両が障害物に接近している場合、前記障害物に前記車両が衝突するまでに要する時間の予測値である衝突予測時間を取得する時間取得部と、前記車両と前記障害物との衝突を回避するために必要な当該車両の横方向への移動量である目標横移動量が横移動量判定値以上であるか否かを判定する横移動量判定部と、前記衝突予測時間が判定予測時間以下である場合、前記車両と前記障害物との衝突回避を目的として前記前輪を転舵させる指令を前記前輪用転舵装置に出力し、且つ、前記後輪を転舵させる指令を前記後輪用転舵装置に出力する自動旋回制御を実施する制御部と、を備えている。前記制御部は、前記目標横移動量が前記横移動量判定値以上であるとの判定がなされている場合、前記自動旋回制御において、前記前輪の転舵方向の逆方向に前記後輪を転舵させる指令を前記後輪用転舵装置に出力する逆相処理を実行する。
【0006】
上記構成によれば、車両の前方に存在する障害物に車両が接近している況下において、衝突予測時間が判定予測時間以下になった場合に、車両と障害物との衝突を回避すべく自動旋回制御が実施される。目標横移動量が大きい場合とは、車両に障害物との衝突を回避させるためには横方向に大幅に車両を移動させる必要がある場合である。そのため、目標横移動量が横移動量判定値以上であるとの判定がなされている場合には、逆相処理によって、前輪の転舵方向とは逆方向に後輪が転舵される。これにより、自動旋回制御の実施に伴う車両の横方向への移動量を大きくできる。
【0007】
上記課題を解決するための車両の旋回制御プログラムは、複数の車輪と、複数の前記車輪のうちの前輪の転舵角を調整する前輪用転舵装置と、複数の前記車輪のうちの後輪の転舵角を調整する後輪用転舵装置と、を備える車両の制御装置が実行するプログラムである。この旋回制御プログラムにおいて、前記制御装置に、前記車両が障害物に接近している場合、前記障害物に前記車両が衝突するまでに要する時間の予測値である衝突予測時間を取得する時間取得処理と、前記車両と前記障害物との衝突を回避するために必要な当該車両の横方向への移動量である目標横移動量が横移動量判定値以上であるか否かを判定する判定処理と、前記衝突予測時間が判定予測時間以下になったときに前記目標横移動量が前記横移動量判定値以上であるとの判定がなされている場合、前記車両と前記障害物との衝突回避を目的として前記前輪を転舵させる指令を前記前輪用転舵装置に出力し、且つ、前記前輪の転舵方向の逆方向に前記後輪を転舵させる指令を前記後輪用転舵装置に出力する逆相自動旋回処理と、を実行させる。
【0008】
上記旋回制御プログラムを制御装置に実行させることにより、上記旋回制御装置と同等の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】車両の旋回制御装置の一実施形態である統合制御装置の機能構成と、同統合制御装置を備える車両の概略構成とを示す図。
【
図2】同統合制御装置が実行する一連の処理の流れを説明するフローチャート。
【
図3】車両の進路上に障害物が存在する場合の模式図。
【
図4】車両が障害物との衝突を回避すべく旋回する様子を示す模式図。
【
図5】目標横移動量を基に判定予測時間を設定するためのマップ。
【
図6】車両が旋回する際における、車両の前後方向への移動量と横方向への移動量との関係を示すグラフ。
【
図7】(a)~(c)は自動旋回制御が実施される場合のタイミングチャート。
【
図8】(a)~(c)は自動旋回制御が実施される場合のタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、車両の旋回制御装置、及び、旋回制御プログラムの一実施形態を
図1~
図8に従って説明する。
図1には、旋回制御装置の一例である統合制御装置80を備える車両が示されている。当該車両は、複数の車輪10F,10Rと、前輪用転舵装置20と、後輪用転舵装置30とを備えている。本実施形態において、車両は、前輪10Fとして右前輪及び左前輪を備えているとともに、後輪10Rとして右後輪及び左後輪を備えている。
【0011】
前輪用転舵装置20は、前輪転舵制御部21と、前輪転舵アクチュエータ22とを有している。前輪転舵制御部21が前輪転舵アクチュエータ22の作動を制御することにより、各前輪10Fの転舵角が調整される。
【0012】
後輪用転舵装置30は、後輪転舵制御部31と、後輪転舵アクチュエータ32とを有している。後輪転舵制御部31が後輪転舵アクチュエータ32の作動を制御することにより、各後輪10Rの転舵角を調整できる。
【0013】
前輪転舵制御部21及び後輪転舵制御部31は、以下(a)~(c)の何れかの構成であればよい。
(a)コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備えている。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含んでいる。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含んでいる。
(b)各種処理を実行する一つ以上の専用のハードウェア回路を備えている。専用のハードウェア回路としては、例えば、特定用途向け集積回路、すなわちASIC又はFPGAを挙げることができる。なお、ASICは、「Application Specific Integrated Circuit」の略記であり、FPGAは、「Field Programmable Gate Array」の略記である。
(c)各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうちの残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備えている。
【0014】
車両は、制動装置40と駆動装置50とをさらに備えている。
制動装置40は、制動制御部41と、制動アクチュエータ42とを有している。制動制御部41が制動アクチュエータ42の作動を制御することにより、各車輪10F,10Rに対する制動力を調整できる。
【0015】
駆動装置50は、駆動制御部51と、駆動アクチュエータ52とを有している。駆動アクチュエータ52は、エンジンや電気モータなどの車両の動力源と、動力源から出力された駆動力を車輪に伝達する動力伝達装置とを含んでいる。例えば車両が前輪駆動車である場合、動力源から出力された駆動力は、動力伝達装置を介して各前輪10Fに分配される。駆動アクチュエータ52の作動は、駆動制御部51によって制御される。
【0016】
制動制御部41及び駆動制御部51は、上記(a)~(c)の何れかの構成であればよい。
車両は、車両の周辺を監視する周辺監視系60を備えている。周辺監視系60は、カメラなどの撮像手段、及び、レーダーなどを有している。周辺監視系60は、例えば、車両の周辺に存在する他の車両の数及び位置、及び、車両の進路上に障害物が存在しているか否かを監視する。ここでいう障害物とは、車両との衝突の回避を必要とするような大きさのものである。障害物としては、例えば、他の車両、ガードレール、歩行者を挙げることができる。
【0017】
車両は、複数種類のセンサを備えている。センサとしては、例えば、車速センサ61、前後加速度センサ62、横加速度センサ63及びヨーレートセンサ64を挙げることができる。車速センサ61は、車両の前後方向における移動速度である車速Vxeを検出し、その検出結果に応じた検出信号を統合制御装置80に出力する。前後加速度センサ62は、車両の前後方向の加速度である前後加速度Axeを検出し、その検出結果に応じた検出信号を統合制御装置80に出力する。横加速度センサ63は、車両の横方向の加速度である横加速度Ayeを検出し、その検出結果に応じた検出信号を統合制御装置80に出力する。ヨーレートセンサ64は、車両のヨーレートγを検出し、その検出結果に応じた検出信号を統合制御装置80に出力する。
【0018】
統合制御装置80は、周辺監視系60によって得られた情報、及び、各種のセンサ61~64からの検出信号を基に、車両を自動走行させるための指令を、前輪転舵制御部21、後輪転舵制御部31、制動制御部41及び駆動制御部51に出力する。
【0019】
統合制御装置80は、CPU、ROM及び記憶装置を備えている。ROMには、CPUが実行する制御プログラムが記憶されている。記憶装置には、CPUが制御プログラムを実行する際に算出された値が記憶される。すなわち、ROMには、車両と障害物との衝突を回避するためのプログラムである旋回制御プログラムが記憶されている。したがって、統合制御装置80が、当該旋回制御プログラムを実行する「制御装置」に対応する。
【0020】
本実施形態において、統合制御装置80は、機能部として、時間取得部81、判定時間設定部82、目標横移動量取得部83、横移動量判定部84、横力限界判定部85及び制御部86を有している。
【0021】
時間取得部81は、
図3に示すように車両100の前方に存在する障害物110に車両100が接近している場合、障害物110に車両100が衝突するまでに要する時間の予測値である衝突予測時間TMxを取得する。衝突予測時間TMxの取得手法については後述する。
【0022】
判定時間設定部82は、判定予測時間TMxThを設定する。判定予測時間TMxThは、衝突予測時間TMxを基に、車両100と障害物110との衝突を回避するための自動旋回制御の開始タイミングを決めるための判定値である。判定予測時間TMxThの設定手法については後述する。
【0023】
目標横移動量取得部83は、車両100と障害物110との衝突を回避するために必要な車両100の横方向の移動量である目標横移動量YmTrを取得する。目標横移動量YmTrの取得手法については後述する。
【0024】
横移動量判定部84は、目標横移動量YmTrが横移動量判定値YmTh以上であるか否かを判定する。詳しくは後述するが、上記の自動旋回制御では、同相処理又は逆相処理が実行される。横移動量判定値YmThは、同相処理を実行するのか逆相処理を実行するのかを選択するための基準として設定されている。横移動量判定値YmThとして、車両100と障害物110との衝突を回避するために必要な車両100の横移動量が大きいか否かを判断できる値が設定されている。
【0025】
なお、同相処理とは、各前輪10Fの転舵方向と同じ方向に各後輪10Rを転舵させるために制御部86が実行する処理である。逆相処理とは、各前輪10Fの転舵方向の逆方向に各後輪10Rを転舵させるために制御部86が実行する処理である。
【0026】
横力限界判定部85は、複数の車輪10F,10Rの中に、車輪の横力が限界値以上となる車輪があるか否かを判定する。限界値とは、車両旋回時に車輪が横滑りすると判断できる車輪の横力である。当該判定の具体的な内容については後述する。
【0027】
制御部86は、衝突予測時間TMxが判定予測時間TMxTh以下である場合、自動旋回制御を実施する。制御部86は、自動旋回制御において、車両100と障害物110との衝突回避を目的として各前輪10Fを転舵させる指令を前輪用転舵装置20の前輪転舵制御部21に出力し、且つ、各後輪10Rを転舵させる指令を後輪用転舵装置30の後輪転舵制御部31に出力する。
【0028】
次に、
図2を参照し、本実施形態の統合制御装置80が実行する一連の処理の流れについて説明する。なお、一連の処理は、車両100の進路上に障害物110が存在しているときに実行される。走行している車両100の進路上に障害物110が存在している場合、統合制御装置80は、一連の処理を繰り返し実行する。
【0029】
まずはじめに、ステップS11において、統合制御装置80の時間取得部81は、衝突予測時間TMxを取得する。
衝突予測時間TMxの取得処理の一例について説明する。
図3に示す前後移動距離Xrは、車両100から障害物110までの前後方向における間隔の長さである。時間取得部81は、障害物110への車両100の接近速度Vxrを導出する。
図3に示すように障害物110が先行車である場合、時間取得部81は、車両100の車速Vxeから先行車(障害物110)の車速Vxtを引いた値を接近速度Vxrとして導出する。そのため、車両100が障害物110に接近している場合、接近速度Vxrとして正の値が導出される。そして、時間取得部81は、前後移動距離Xrを接近速度Vxrで割ることにより、衝突予測時間TMxを取得する。なお、前後移動距離Xr及び先行車(障害物110)の車速Vxtは、例えば周辺監視系60による監視結果を基に導出される。
【0030】
図2に戻り、衝突予測時間TMxの取得が完了すると、統合制御装置80は、処理をステップS12に移行する。ステップS12において、統合制御装置80の目標横移動量取得部83は、目標横移動量YmTrを取得する。
【0031】
目標横移動量YmTrの取得処理の一例について説明する。障害物110が横方向に移動していない場合、目標横移動量取得部83は、障害物110の横方向の幅が広いほど大きい値を目標横移動量YmTrとして取得する。なお、障害物110の横方向の幅は、周辺監視系60の監視結果を基に取得できる。
【0032】
例えば
図4に示すように障害物110の一例である自転車が横方向に移動している場合、目標横移動量取得部83は、車両100の横方向における位置を基準位置とし、現時点における基準位置を基準とする障害物110の横方向における位置である相対現在位置と、車両100が現時点の障害物110に到達するまでの障害物110の横方向への移動量の予測値である横移動量予測値とを基に、目標横移動量YmTrを取得する。例えば、目標横移動量取得部83は、相対現在位置と基準位置との乖離が大きいほど大きい値を目標横移動量YmTrとして取得する。また例えば、目標横移動量取得部83は、横移動量予測値が大きいほど大きい値を目標横移動量YmTrとして取得する。なお、相対現在位置は、周辺監視系60の監視結果を基に取得できる。横移動量予測値は、接近速度Vxrと、車両100の横方向への移動速度Vyeと、障害物110の横方向への移動速度Vytとを基に取得できる。
【0033】
図2に戻り、目標横移動量YmTrの取得が完了すると、統合制御装置80は、処理をステップS13に移行する。ステップS13において、統合制御装置80の制御部86は、車両100と障害物110との衝突を回避するための車両100の走行経路である回避経路RTを作成する。制御部86は、車両100の前後方向における位置が障害物110の前後方向における位置と同じとなるまでの間に車両100の横方向への移動量を目標横移動量YmTrとするような経路を回避経路RTとして作成する。
【0034】
続いて、ステップS14において、統合制御装置80の判定時間設定部82は、判定予測時間TMxThを設定する。
図5及び
図6を参照し、判定予測時間TMxThの設定処理の一例について説明する。
【0035】
判定時間設定部82は、
図5に破線で示す同相時関係R1と、
図5に一点鎖線で示す逆相時関係R2とを基に、判定予測時間TMxThを設定する。同相時関係R1とは、制御部86が同相処理を実行した場合における、横方向への車両100の移動量である横移動量Ymと、衝突予測時間TMxとの関係である。逆相時関係R2は、制御部86が逆相処理を実行した場合における、横移動量Ymと衝突予測時間TMxとの関係である。
【0036】
判定時間設定部82は、同相時関係R1に基づいた目標横移動量YmTrに応じた衝突予測時間TMxと、逆相時関係R2に基づいた目標横移動量YmTrに応じた衝突予測時間TMxとのうちの小さい方を基に、判定予測時間TMxThを設定する。本実施形態では、判定時間設定部82は、同相時関係R1に基づいた目標横移動量YmTrに応じた衝突予測時間TMxと、逆相時関係R2に基づいた目標横移動量YmTrに応じた衝突予測時間TMxとのうちの小さい方の値を判定予測時間TMxThとして設定する。
【0037】
図5に示すように、横移動量Ymが小さい場合、同相時関係R1を基に導出される衝突予測時間TMxのほうが、逆相時関係R2を基に導出される衝突予測時間TMxよりも短い。しかし、横移動量Ymが大きくなると、同相時関係R1を基に導出される衝突予測時間TMxのほうが、逆相時関係R2を基に導出される衝突予測時間TMxよりも長くなる。
【0038】
そのため、目標横移動量YmTrが比較的小さいときには、同相時関係R1を基に導出される衝突予測時間TMxが判定予測時間TMxThとして設定される。一方、目標横移動量YmTrが比較的大きいときには、逆相時関係R2を基に導出される衝突予測時間TMxが判定予測時間TMxThとして設定される。
【0039】
ちなみに、
図5に細い実線で示す関係R3は、旋回時に各後輪10Rを転舵させない場合における、横移動量Ymと衝突予測時間TMxとの関係である。すなわち、本実施形態によれば、関係R3を基に導出できる衝突予測時間TMxよりも、判定予測時間TMxThとして短い時間を設定できる。
【0040】
図6には、運転者の操舵によって車両100が旋回する場合における、車両100の前後方向への移動量である前後移動量MVxeと、車両100の横方向への移動量である横移動量MVyeとの関係が示されている。細い実線LN1は、各前輪10Fを転舵させることによって車両100を自動旋回させる第1パターンにおける前後移動量MVxeと横移動量MVyeとの関係を示す線である。第1パターンでは、各後輪10Rは転舵されない。破線LN2は、各前輪10Fの転舵に加えて同相処理で各後輪10Rを転舵させることによって車両100を自動旋回させる第2パターンにおける前後移動量MVxeと横移動量MVyeとの関係を示す線である。一点鎖線LN3は、各前輪10Fの転舵に加えて逆相処理で各後輪10Rを転舵させることによって車両100を自動旋回させる第3パターンにおける前後移動量MVxeと横移動量MVyeとの関係を示す線である。
【0041】
前後移動量MVxeが比較的小さい場合、第2パターンにおける横移動量MVyeは、第1パターンにおける横移動量MVye及び第3パターンにおける横移動量MVyeよりも大きい。しかし、前後移動量MVxeが大きくなると、第2パターンにおける横移動量MVyeは、第1パターンにおける横移動量MVye及び第3パターンにおける横移動量MVyeの何れよりも小さくなる。
【0042】
前後移動量MVxeが比較的小さい場合、第3パターンにおける横移動量MVyeは、第1パターンにおける横移動量MVye及び第2パターンにおける横移動量MVyeの何れよりも小さい。しかし、前後移動量MVxeが大きくなると、第3パターンにおける横移動量MVyeは、第1パターンにおける横移動量MVye及び第2パターンにおける横移動量MVyeの何れよりも大きくなる。
【0043】
本実施形態では、こうした特性を考慮し、
図5に示す同相時関係R1及び逆相時関係R2が設定される。
図2に戻り、ステップS14において判定予測時間TMxThの設定が完了すると、統合制御装置80は、処理をステップS15に移行する。ステップS15において、統合制御装置80の制御部86は、ステップS11で取得された衝突予測時間TMxがステップS14で設定された判定予測時間TMxTh以下であるか否かを判定する。衝突予測時間TMxが判定予測時間TMxThよりも長い場合(S15:NO)、統合制御装置80は、一連の処理を一旦終了する。すなわち、統合制御装置80は、自動旋回制御を未だ実施しない。
【0044】
一方、衝突予測時間TMxが判定予測時間TMxTh以下である場合(S15:YES)、統合制御装置80は、自動旋回制御を開始する。すなわち、ステップS16において、横移動量判定部84は、目標横移動量YmTrの大きさが横移動量判定値YmTh以上であるか否かを判定する。この判定で用いられる目標横移動量YmTrは、衝突予測時間TMxが判定予測時間TMxTh以下になった時点の目標横移動量YmTrである。目標横移動量YmTrの大きさが横移動量判定値YmTh以上である場合(S16:YES)、統合制御装置80は、処理をステップS17に移行する。
【0045】
ステップS17において、統合制御装置80の制御部86は、車両100と障害物110との衝突回避を目的として各前輪10Fを転舵させる指令を前輪転舵制御部21に出力する前輪転舵処理を実行する。
【0046】
当該指令が統合制御装置80から前輪転舵制御部21に入力されると、前輪転舵制御部21は、前輪転舵アクチュエータ22を制御することにより、各前輪10Fを転舵させる。
【0047】
続いて、ステップS18において、制御部86は、各前輪10Fの転舵方向の逆方向に各後輪10Rを転舵させる指令を後輪用転舵装置30の後輪転舵制御部31に出力する逆相処理を実行する。
【0048】
当該指令が統合制御装置80から後輪転舵制御部31に入力されると、後輪転舵制御部31は、後輪転舵アクチュエータ32を制御することにより、各前輪10Fの転舵方向の逆方向に各後輪10Rを転舵させる。
【0049】
逆相処理を実行すると、統合制御装置80は、処理をステップS21に移行する。
その一方で、ステップS16において、目標横移動量YmTrの大きさが横移動量判定値YmThよりも小さい場合(NO)、統合制御装置80は、処理をステップS19に移行する。
【0050】
ステップS19において、制御部86は、ステップS17と同様に、前輪転舵処理を実行する。
当該指令が統合制御装置80から前輪転舵制御部21に入力されると、前輪転舵制御部21は、前輪転舵アクチュエータ22を制御することにより、各前輪10Fを転舵させる。
【0051】
続いて、ステップS20において、制御部86は、各前輪10Fの転舵方向と同じ方向に各後輪10Rを転舵させる指令を後輪用転舵装置30の後輪転舵制御部31に出力する同相処理を実行する。
【0052】
当該指令が統合制御装置80から後輪転舵制御部31に入力されると、後輪転舵制御部31は、後輪転舵アクチュエータ32を制御することにより、各前輪10Fの転舵方向と同じ方向に各後輪10Rを転舵させる。
【0053】
同相処理を実行すると、統合制御装置80は、処理をステップS21に移行する。
ステップS21において、統合制御装置80の横力限界判定部85は、制駆動力調整処理を実行するための条件が成立しているか否かを判定する。本実施形態では、横力限界判定部85は、複数の車輪10F,10Rの中に、車輪の横力が限界値以上となる車輪があるとの判定をなしていないときに、条件が成立しているとみなす。例えば、横力限界判定部85は、以下の関係式(式1)を満たしているときに、車輪の横力が限界値以上となるとの判定をなす。関係式(式1)において、「μ」は、車両100の走行する路面の摩擦係数である。「W」は、車輪に入力される垂直荷重である。「Fy」は、車輪の横力である。なお、垂直荷重Wは、路面の垂直方向で車輪に車体から入力される荷重である。例えば、各車輪10F,10Rの垂直荷重は、車両100の重量、前後加速度Axe及び横加速度Ayeを基に導出される。
【0054】
【数1】
また、車輪の横力Fyは、以下の関係式(式2)及び(式3)を基に導出できる。関係式(式2)は、前輪10Fの横力Fyfを導出するための関係式である。関係式(式3)は、後輪10Rの横力Fyrを導出するための関係式である。関係式(式2)及び(式3)において、「Kf」は前輪10Fのコーナーリングパワーであり、「Kr」は後輪10Rのコーナーリングパワーである。「β」は、車両100の重心位置の車体スリップ角である。「Lf」は車両100の重心と前軸との距離であり、「Lr」は車両100の重心と後軸との距離である。「Lf」と「Lr」との和が車両100のホイールベース長Lと等しい。「δf」は前輪10Fの転舵角であり、「δr」は後輪10Rの転舵角である。前輪10Fの転舵角δfを「前輪舵角δf」といい、後輪10Rの転舵角δrを「後輪舵角δr」ということもある。
【0055】
【数2】
路面の摩擦係数μと垂直荷重Wとの積の二乗よりも横力Fyの二乗のほうが大きいということは、車輪が横滑りする可能性がある。車輪が横滑りする可能性があるときに当該車輪に対する制動力又は駆動力を増大させることは、車両挙動の安定性を確保する上では好ましくない。そこで、横力限界判定部85は、複数の車輪10F,10Rの中に、上記の関係式(式1)を満たす車輪があるか否かを判定する。
【0056】
複数の車輪10F,10Rの中に、車輪の横力が限界値以上となる車輪があるとの判定をなしている場合(S21:NO)、条件が成立していないため、統合制御装置80は、処理をステップS23に移行する。この場合、制御部86は、制駆動力調整処理を実行しない。一方、複数の車輪10F,10Rの中に、車輪の横力が限界値以上となる車輪があるとの判定をなしていない場合(S21:YES)、条件が成立しているため、統合制御装置80は、処理をステップS22に移行する。
【0057】
ステップS22において、制御部86は、制駆動力調整処理を実行する。本実施形態では、制御部86は、制駆動力調整処理において、各前輪10Fのうち、旋回時内側に位置する前輪10Fに対する制動力を旋回時外側に位置する前輪10Fに対する制動力よりも大きくする指令、及び、各後輪10Rのうち、旋回時内側に位置する後輪10Rに対する制動力を旋回時外側に位置する後輪10Rに対する制動力よりも大きくする指令を制動装置40の制動制御部41に出力する。なお、制駆動力調整処理の具体的な内容の一例については後述する。
【0058】
当該指令が入力されると、制動制御部41は、制動アクチュエータ42を制御することにより、旋回時内側に位置する前輪10Fに対する制動力を旋回時外側に位置する前輪10Fに対する制動力よりも大きくする。また、制動制御部41は、制動アクチュエータ42を制御することにより、旋回時内側に位置する後輪10Rに対する制動力を旋回時外側に位置する後輪10Rに対する制動力よりも大きくする。これにより、車両100のヨーモーメントを大きくできる。
【0059】
続いて、ステップS23において、制御部86は、自動旋回制御の終了条件が成立しているか否かを判定する。例えば、制御部86は、車両100の横移動量Ymが目標横移動量YmTrに達した場合に終了条件が成立したとの判定をなす。この場合、制御部86は、車両100の横移動量Ymが目標横移動量YmTrに未だ達していない場合には終了条件が成立したとの判定をなさない。終了条件が成立していない場合(S23:NO)、統合制御装置80は、処理をステップS16に移行する。すなわち、自動旋回制御の実施が継続される。一方、終了条件が成立している場合(S23:YES)、統合制御装置80は、一連の処理を一旦終了する。すなわち、自動旋回制御が終了される。
【0060】
本実施形態では、ステップS11が、車両100が障害物110に接近している場合、衝突予測時間をTMx取得する「時間取得処理」に対応する。ステップS16が、目標横移動量YmTrの大きさが横移動量判定値YmTh以上であるか否かを判定する「判定処理」に対応する。ステップS17、S18が、車両100と障害物110との衝突回避を目的として各前輪10Fを転舵させる指令を前輪用転舵装置20に出力し、且つ、各前輪10Fの転舵方向の逆方向に各後輪10Rを転舵させる指令を後輪用転舵装置30に出力する「逆相自動旋回処理」に対応する。なお、ステップS19、S20を、車両100と障害物110との衝突回避を目的として各前輪10Fを転舵させる指令を前輪用転舵装置20に出力し、且つ、各前輪10Fの転舵方向と同じ方向に各後輪10Rを転舵させる指令を後輪用転舵装置30に出力する「同相自動旋回処理」としてもよい。
【0061】
次に、同相処理の一例について説明する。
制御部86は、同相処理において、後輪10Rの転舵角の指令値である後輪舵角指令値δrtgtを導出する。そして、制御部86は、各前輪10Fの転舵方向と同じ方向に各後輪10Rを転舵させる指令として後輪舵角指令値δrtgtを後輪転舵制御部31に出力する。
【0062】
制御部86は、例えば、以下の関係式(式4)及び(式5)を基に後輪舵角指令値δrtgtを導出できる。すなわち、制御部86は、車速Vxe、ヨーレートγ、車体スリップ角β、前輪舵角δf及び後輪舵角δrを基に、後輪舵角指令値δrtgtを導出できる。
【0063】
【0064】
制御部86は、逆相処理において、後輪舵角指令値δrtgtを導出する。そして、制御部86は、各前輪10Fの転舵方向の逆方向に各後輪10Rを転舵させる指令として後輪舵角指令値δrtgtを後輪転舵制御部31に出力する。
【0065】
制御部86は、例えば、以下の関係式(式6)、(式7)及び(式8)を基に後輪舵角指令値δrtgtを導出できる。関係式(式6)~(式8)において、「Gin1」は、車両100の諸元から設定されるゲインである。「γtgt」は、逆相処理を実行するに際しての車両100のヨーレートγの目標値、すなわちヨーレート目標値である。すなわち、制御部86は、車速Vxe、車体スリップ角β、前輪舵角δf及び後輪舵角δrを基に、後輪舵角指令値δrtgtを導出できる。
【0066】
【数4】
次に、制駆動力調整処理の一例について説明する。
【0067】
制御部86は、制駆動力調整処理において、制動力指令値Fxf*,Fxr*を導出する。そして、制御部86は、旋回時内側に位置する前輪10Fに対する制動力を旋回時外側に位置する前輪10Fに対する制動力よりも大きくする指令として、各制動力指令値Fxf*を制動制御部41に出力する。また、制御部86は、旋回時内側に位置する後輪10Rに対する制動力を旋回時外側に位置する後輪10Rに対する制動力よりも大きくする指令として、各制動力指令値Fxr*を制動制御部41に出力する。
【0068】
なお、制動力指令値Fxf*における「*」を「l」とした場合、制動力指令値Fxflは、左前輪10Fに対する制動力の指令値である。制動力指令値Fxf*における「*」を「r」とした場合、制動力指令値Fxfrは、右前輪10Fに対する制動力の指令値である。制動力指令値Fxr*における「*」を「l」とした場合、制動力指令値Fxrlは、左後輪10Rに対する制動力の指令値である。制動力指令値Fxr*における「*」を「r」とした場合、制動力指令値Fxrrは、右後輪10Rに対する制動力の指令値である。
【0069】
制御部86は、例えば、以下の関係式(式9)、(式10)、(式11)、(式12)、(式13)、(式14)及び(式15)を基に、制動力指令値Fxf*,Fxr*を導出できる。関係式(式9)~(式15)において、「γtgt」は、制駆動力調整処理を実行する際におけるヨーレート目標値である。「Tdf*」及び「Tdr*」はトレッドベースである。すなわち、「Tdfl」は左前輪10F用のトレッドベースであり、「Tdfr」は右前輪10F用のトレッドベースである。「Tdrl」は左後輪10R用のトレッドベースであり、「Tdrr」は右後輪10R用のトレッドベースである。
【0070】
【数5】
ここで、
図6には、運転者の操舵によって車両100が旋回する場合における、前後移動量MVxeと横移動量MVyeとの関係が示されている。太い実線LN21は、各前輪10Fの転舵に加えて同相処理によって各後輪10Rを転舵させるとともに、制駆動力調整処理を実行する第4パターンにおける前後移動量MVxeと横移動量MVyeとの関係を示す線である。太い実線LN31は、各前輪10Fの転舵に加えて逆相処理によって各後輪10Rを転舵させるとともに、制駆動力調整処理を実行する第5パターンにおける前後移動量MVxeと横移動量MVyeとの関係を示す線である。
【0071】
第2パターンと第4パターンとを比較した場合、第4パターンでは、制駆動力調整処理を実行する分、第2パターンと比較して横移動量MVyeを大きくできる。同様に、第3パターンと第5パターンとを比較した場合、第5パターンでは、制駆動力調整処理を実行する分、第3パターンと比較して横移動量MVyeを大きくできる。
【0072】
次に、本実施形態の作用について説明する。
まずはじめに、
図7を参照し、逆相処理を実行する場合の作用について説明する。
車両100が障害物110に接近しており、衝突予測時間TMxが判定予測時間TMxTh以下になると、自動旋回制御が開始される。すると、
図7(a),(b),(c)に示すように、タイミングt11から前輪転舵処理が実行される。これにより、車両100と障害物110との衝突の回避を目的として各前輪10Fが転舵される。例えば
図4に示す回避経路RTに沿って車両100を旋回させるとする。この場合、車両100を左方向に旋回させるように各前輪10Fが転舵される。すると、途中のタイミングt13で車両100の旋回方向が左方向から右方向に変わる。すなわち、タイミングt13を前後して、各前輪10Fの転舵方向が変わる。その後のタイミングt15で、車両100と障害物110との衝突を回避できたため、自動旋回制御が終了される。
【0073】
図7に示す例にあっては、目標横移動量YmTrの大きさが横移動量判定値YmTh以上であるため、逆相処理が実行される。逆相処理が実行されると、各前輪10Fの転舵方向の逆方向に各後輪10Rが転舵される。これにより、各後輪10Rの転舵が制御されない場合、及び、同相処理によって各後輪10Rの転舵が制御される場合と比較し、車両100の横移動量Ymを大きくできる。
【0074】
このように自動旋回制御の実施に伴う車両100の横移動量Ymを大きくできる分、判定予測時間TMxThとして短い時間を設定することができる。これにより、自動旋回制御の実施機会の増大を抑制できる。
【0075】
図7に示す例では、タイミングt13の前後で各前輪10Fの転舵方向が変わる。そのため、各後輪10Rについても、タイミングt13の前後で転舵方向が変更される。
本実施形態では、自動旋回制御において、制駆動力調整処理が実行される。すなわち、タイミングt11からタイミングt12までの期間では、各車輪10F,10Rの中に、車輪の横力が限界値以上となる車輪があるとの判定がなされないため、制駆動力調整処理の実行によって、左輪と右輪との制動力差が調整される。これにより、制駆動力調整処理を実行しない場合と比較し、車両100の横移動量Ymを大きくできる。
【0076】
ただし、タイミングt12で、各車輪10F,10Rの中に、車輪の横力が限界値以上となる車輪があるとの判定がなされるようになる。そのため、制駆動力調整処理が終了される。このように横滑りする可能性のある車輪がある場合に制駆動力調整処理を実施しないようにすることにより、自動旋回中における車両挙動の安定性を確保できる。
【0077】
図7に示す例にあっては、各前輪10Fの転舵方向が切り替わるタイミングt13では、各車輪10F,10Rの中に、車輪の横力が限界値以上となる車輪があるとの判定がなされなくなる。そのため、制駆動力調整処理が再び実行される。この場合であっても、タイミングt14で、各車輪10F,10Rの中に、車輪の横力が限界値以上となる車輪があるとの判定がなされるようになるため、制駆動力調整処理が終了される。
【0078】
次に、
図8を参照し、同相処理を実行する場合の作用について説明する。
車両100が障害物110に接近しており、衝突予測時間TMxが判定予測時間TMxTh以下になると、自動旋回制御が開始される。すると、
図8(a),(b),(c)に示すように、タイミングt21から前輪転舵処理が実行される。これにより、車両100と障害物110との衝突の回避を目的として各前輪10Fが転舵される。例えば
図4に示す回避経路RTに沿って車両100を旋回させるとする。この場合、車両100を左方向に旋回させるように各前輪10Fが転舵される。すると、途中のタイミングt23で車両100の旋回方向が左方向から右方向に変わる。すなわち、タイミングt23を前後して、各前輪10Fの転舵方向が変わる。その後のタイミングt25で、車両100と障害物110との衝突を回避できたため、自動旋回制御が終了される。
【0079】
図8に示す例にあっては、目標横移動量YmTrの大きさが横移動量判定値YmTh未満であるため、同相処理が実行される。同相処理が実行されると、各前輪10Fの転舵方向と同じ方向に各後輪10Rが転舵される。ここで、各後輪10Rの転舵方向が各前輪10Fの転舵方向と同じ方向である場合では、各後輪10Rの転舵方向が各前輪10Fの転舵方向と逆方向である場合と比較し、旋回時の車両100の挙動の安定性を高くできることが知られている。そのため、自動旋回制御中における車両100の横移動量がそれほど大きくならない場合には、逆相処理ではなく同相処理が実行される。そのため、車両100の挙動の安定性を確保しつつ、車両100と障害物110との衝突を回避させることができる。
【0080】
図8に示す例では、タイミングt23の前後で各前輪10Fの転舵方向が変わる。そのため、各後輪10Rについても、タイミングt23の前後で転舵方向が変更される。
本実施形態では、自動旋回制御において、制駆動力調整処理が実行される。すなわち、タイミングt21からタイミングt22までの期間では、各車輪10F,10Rの中に、車輪の横力が限界値以上となる車輪があるとの判定がなされないため、制駆動力調整処理の実行によって、左輪と右輪との制動力差が調整される。これにより、制駆動力調整処理を実行しない場合と比較し、車両100の横移動量Ymを大きくできる。
【0081】
ただし、タイミングt22で、各車輪10F,10Rの中に、車輪の横力が限界値以上となる車輪があるとの判定がなされるようになる。そのため、制駆動力調整処理が終了される。このように横滑りする可能性のある車輪がある場合に制駆動力調整処理を実施しないようにすることにより、自動旋回中における車両挙動の安定性を確保できる。
【0082】
図8に示す例にあっては、各前輪10Fの転舵方向が切り替わるタイミングt23では、各車輪10F,10Rの中に、車輪の横力が限界値以上となる車輪があるとの判定がなされなくなる。そのため、制駆動力調整処理が再び実行される。この場合であっても、タイミングt24で、各車輪10F,10Rの中に、車輪の横力が限界値以上となる車輪があるとの判定がなされるようになるため、制駆動力調整処理が終了される。
【0083】
本実施形態では、以下に示す効果をさらに得ることができる。
図5に示した同相時関係R1に基づいた目標横移動量YmTrに応じた衝突予測時間TMxを判定予測時間TMxThとして設定したとする。この場合、目標横移動量YmTrが比較的大きい場合、
図5に示した逆相時関係R2に基づいた目標横移動量YmTrに応じた衝突予測時間TMxを判定予測時間TMxThとして設定する場合と比較し、判定予測時間TMxThが大きくなる。この場合、目標横移動量YmTrが比較的大きい場合、自動旋回制御が介入しやすくなってしまう。
【0084】
反対に、逆相時関係R2に基づいた目標横移動量YmTrに応じた衝突予測時間TMxを判定予測時間TMxThとして設定したとする。この場合、目標横移動量YmTrが比較的小さい場合、同相時関係R1に基づいた目標横移動量YmTrに応じた衝突予測時間TMxを判定予測時間TMxThとして設定する場合と比較し、判定予測時間TMxThが大きくなる。この場合、目標横移動量YmTrが比較的小さい場合、自動旋回制御が介入しやすくなってしまう。
【0085】
そこで、本実施形態では、同相時関係R1に基づいた目標横移動量YmTrに応じた衝突予測時間TMxと、逆相時関係R2に基づいた目標横移動量YmTrに応じた衝突予測時間TMxとのうちの小さい方を基に、判定予測時間TMxThが設定される。これにより、目標横移動量YmTrの大小に拘わらず、自動旋回制御の実施機会の増大を抑制できる。
【0086】
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、上記関係式(式1)を満たす車輪がある場合、当該車輪の横力が限界値以上になったとの判定をなすようにしているが、これに限らない。例えば、横加速度Ayeを基に導出できるヨーレートをヨーレート目標値とし、ヨーレート目標値とヨーレートγとの差分が閾値以上になったときには、車両100が横滑りする可能性がある。そのため、ヨーレート目標値とヨーレートγとの差分が閾値以上になったときに、車両100の各車輪10F,10Rの中に、車輪の横力が限界値以上になった車輪があるとの判定をなすようにしてもよい。
【0087】
・制駆動力調整処理では、右前輪10Fと左前輪10Fとの制動力差を調整するのであれば、右後輪10Rと左後輪10Rとの制動力差を調整しなくてもよい。
・制駆動力調整処理では、右後輪10Rと左後輪10Rとの制動力差を調整するのであれば、右前輪10Fと左前輪10Fとの制動力差を調整しなくてもよい。
【0088】
・制駆動力調整処理によって各車輪10F,10Rに対する制動力を調整する場合、車両全体として制動力が大きくなり、車両100が減速してしまうことがある。そのため、制駆動力調整処理の実行中にあっては、制駆動力調整処理の実行に伴う車両100の減速を補うことを目的として車両100の駆動力が大きくなるように駆動装置50を作動させてもよい。この場合、制駆動力調整処理に伴う車両100の減速を抑制できる。
【0089】
・駆動装置50が、右輪に対する駆動力と、左輪に対する駆動力との差分を調整する機能を有している場合、制駆動力調整処理では、右輪に対する駆動力と、左輪に対する駆動力との差分を調整することによって、車両100のヨーモーメントを大きくしてもよい。
【0090】
・自動旋回制御中に、制駆動力調整処理を実行しなくてもよい。
・同相時関係R1に基づいた目標横移動量YmTrに応じた衝突予測時間TMxと、逆相時関係R2に基づいた目標横移動量YmTrに応じた衝突予測時間TMxとのうちの小さい方を基に判定予測時間TMxThを設定するのであれば、上記実施形態で説明した手法とは異なる手法で判定予測時間TMxThを設定してもよい。例えば、同相時関係R1に基づいた目標横移動量YmTrに応じた衝突予測時間TMxと、逆相時関係R2に基づいた目標横移動量YmTrに応じた衝突予測時間TMxとのうちの小さい方の値を基準値とし、当該基準値と所定のゲインとの積を判定予測時間TMxThとして設定してもよい。
【0091】
・同相時関係R1に基づいた目標横移動量YmTrに応じた衝突予測時間TMxを基に、判定予測時間TMxThを設定してもよい。
・逆相時関係R2に基づいた目標横移動量YmTrに応じた衝突予測時間TMxを基に、判定予測時間TMxThを設定してもよい。
【0092】
・自動旋回制御では、目標横移動量が前記横移動量判定値以上であるか否かに拘わらず、逆相処理を実行するようにしてもよい。
・旋回制御装置は、統合制御装置80及び後輪転舵制御部31を備えたものであってもよい。旋回制御装置は、制動制御部41及び駆動制御部51をさらに備えたものであってもよい。
【0093】
・上記車両が備える前輪10Fは、1つのみであってもよい。
・上記車両が備える後輪10Rは、1つのみであってもよい。
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
【0094】
(イ)複数の車輪と、複数の前記車輪のうちの前輪の転舵角を調整する前輪用転舵装置と、複数の前記車輪のうちの後輪の転舵角を調整する後輪用転舵装置と、を備える車両の旋回制御方法であって、
制御装置に、
前記車両が障害物に接近している場合、前記障害物に前記車両が衝突するまでに要する時間の予測値である衝突予測時間を取得する時間取得処理と、
前記車両と前記障害物との衝突を回避するために必要な当該車両の横方向への移動量である目標横移動量が横移動量判定値以上であるか否かを判定する判定処理と、
前記衝突予測時間が判定予測時間以下になったときに前記目標横移動量が前記横移動量判定値以上であるとの判定がなされている場合、前記車両と前記障害物との衝突回避を目的として前記前輪を転舵させる指令を前記前輪用転舵装置に出力し、且つ、前記前輪の転舵方向の逆方向に前記後輪を転舵させる指令を前記後輪用転舵装置に出力する逆相自動旋回処理と、を実行させる、車両の旋回制御方法。
【0095】
上記の各処理を制御装置に実行させることにより、上記旋回制御装置と同等の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0096】
10F…前輪
10R…後輪
20…前輪用転舵装置
30…後輪用転舵装置
80…旋回制御装置の一例である統合制御装置
81…時間取得部
82…判定時間設定部
83…目標横移動量取得部
84…横移動量判定部
85…横力限界判定部
86…制御部
100…車両
110…障害物