(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】ターゲットおよび成膜装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20240514BHJP
【FI】
C23C14/34 C
C23C14/34 B
(21)【出願番号】P 2020160577
(22)【出願日】2020-09-25
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】514140573
【氏名又は名称】JSWアフティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 博典
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-171328(JP,A)
【文献】特開2020-122178(JP,A)
【文献】特開平7-221021(JP,A)
【文献】特開2018-111886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜対象物を保持するワーク保持部と、
プラズマを生成するプラズマ生成部と、
前記ワーク保持部と前記プラズマ生成部との間に設けられたターゲットと、
前記ターゲットと前記プラズマ生成部との間に設けられたリング形状の第1シールド部材と、
前記ターゲットと前記ワーク保持部との間に設けられたリング形状の第2シールド部材と、
を備え、
前記ターゲットは、
円筒形状のターゲット部材と、
前記ターゲット部材の周囲に配置され、前記ターゲット部材を支持する支持部材と、
を有し、
前記第1シールド部材、前記第2シールド部材、および前記ターゲット部材のそれぞれは、第1方向に延びる第1軸を中心軸として第1方向に積層され、
前記第1方向において、前記第1シールド部材、前記ターゲット部材、および前記第2シールド部材のそれぞれは、互いに離間するように配置され、
前記第1シールド部材の内径は、ターゲット部材の内径より小さい、成膜装置。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜装置において、
前記第1シールド部材の内径は、前記第2シールド部材の内径より小さい、成膜装置。
【請求項3】
請求項1に記載の成膜装置において、
前記第1シールド部材は、前記第1方向において前記ターゲットの前記支持部材と重なる第1部分と、前記第1方向において前記ターゲットと重ならない第2部分と、を有し、
前記第2部分の厚さは、前記第1部分の厚さより薄く、
前記ターゲット部材のうち、前記第1シールド部材と対向する面を含む面を基準面とすると、前記第2部分から前記基準面までの最短距離は、前記第1部分から前記基準面までの最短距離より大きい、成膜装置。
【請求項4】
請求項3に記載の成膜装置において、
前記第1シールド部材は、前記第1部分と前記第2部分との間に段差部を有し、
前記段差部よりも外側の部分の厚さは、前記第1部分の厚さと等しく、
前記段差部よりも内側の部分の厚さは、前記第2部分の厚さと等しい、成膜装置。
【請求項5】
請求項4に記載の成膜装置において、
前記段差部は、前記第1方向において前記ターゲット部材と重なる、成膜装置。
【請求項6】
請求項3に記載の成膜装置において、
前記第2部分の前記ターゲット側の面は、前記第1方向に直交する第2方向に対して傾斜する傾斜面になっている、成膜装置。
【請求項7】
請求項1に記載の成膜装置において、
前記第1シールド部材の内径は、前記ターゲット部材の内径に対して90%以上である。
【請求項8】
請求項1に記載の成膜装置において、
前記第1シールド部材の内径は、前記ターゲット部材の内径に対して99%以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲットおよび成膜装置並びに成膜対象物の製造技術に関し、例えば、プラズマを利用して成膜対象物に膜を形成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特開昭59-47728号公報(特許文献1)には、電子サイクロトロン共鳴現象(Electron Cyclotron Resonance:ECR)を利用して発生させたプラズマに含まれるイオンをターゲット部材に衝突させることにより、ターゲット部材から飛び出してきたターゲット粒子を成膜対象物に被着させて、成膜対象物に膜を形成する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スパッタリング技術では、プラズマに含まれるイオンをターゲット部材に衝突させて、ターゲット部材から飛び出してきたターゲット粒子を成膜対象物に被着させることにより、成膜対象物に膜を形成する。ターゲット部材の上方および下方には、ターゲット部材を支持する支持部材にプラズマが照射されることを防止するためのシールド部材が配置される。シールド部材は、ターゲット部材とのショートを抑制するため、ターゲット部材から離間するように配置される。ところが、成膜工程を継続的に実施することにより、シールド部材に形成される堆積物が成長すると、堆積物に起因してスパッタリングが安定しないことが判った。
【0005】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施の形態における成膜装置は、成膜対象物を保持するワーク保持部と、プラズマを生成するプラズマ生成部と、前記ワーク保持部と前記プラズマ生成部との間に設けられたターゲットと、前記ターゲットと前記プラズマ生成部との間に設けられたリング形状の第1シールド部材と、前記ターゲットと前記ワーク保持部との間に設けられたリング形状の第2シールド部材と、を備える。前記ターゲットは、円筒形状のターゲット部材と、前記ターゲット部材の周囲に配置され、前記ターゲット部材を支持する支持部材と、を有する。前記第1シールド部材、前記第2シールド部材、および前記ターゲット部材のそれぞれは、第1方向に延びる第1軸を中心軸として第1方向に積層され、前記第1方向において、前記第1シールド部材、前記ターゲット部材、および前記第2シールド部材のそれぞれは、互いに離間するように配置され、前記第1シールド部材の内径は、ターゲット部材の内径より小さい。
【0007】
他の実施態様である成膜装置が備える前記第1シールド部材の内径は、前記第2シールド部材の内径より小さい。
【0008】
他の実施態様である成膜装置が備える前記第1シールド部材は、前記第1方向において前記ターゲットの前記支持部材と重なる第1部分と、前記第1方向において前記ターゲットと重ならない第2部分と、を有する。前記第2部分の厚さは、前記第1部分の厚さより薄い。前記ターゲット部材のうち、前記第1シールド部材と対向する面を含む面を基準面とすると、前記第2部分から前記基準面までの最短距離は、前記第1部分から前記基準面までの最短距離より大きい。
【0009】
他の実施態様である成膜装置は、前記第1シールド部材は、前記第1部分と前記第2部分との間に段差部を有する。前記段差部よりも外側の部分の厚さは、前記第1部分の厚さと等しい。前記段差部よりも内側の部分の厚さは、前記第2部分の厚さと等しい。
【0010】
他の実施態様である成膜装置が備える前記段差部は、前記第1方向において前記ターゲット部材と重なる。
【0011】
他の実施態様である成膜装置の前記第2部分の前記ターゲット側の面は、前記第1方向に直交する第2方向に対して傾斜する傾斜面になっている。前記第1シールド部材の内径は、前記ターゲット部材の内径に対して90%以上である。
【0012】
他の実施態様である成膜装置の前記第1シールド部材の内径は、前記ターゲット部材の内径に対して99%以下である。
【発明の効果】
【0013】
一実施の形態によれば、シールド部材上に堆積物が形成された場合でもスパッタリングを安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】
図1に示す成膜装置を用いて行う成膜方法の各工程を示すフローチャートである。
【
図3】
図1の成膜装置で使用されるターゲットの外観構成を示す斜視図である。
【
図4】
図1の成膜装置で使用されるシールド部材の外観構成を示す斜視図である。
【
図5】成膜装置内におけるシールド部材とターゲットとの位置関係を示す断面図である。
【
図6】
図5に対する検討例である成膜装置内におけるシールド部材とターゲットとの位置関係を示す断面図である。
【
図7】
図6に示すターゲットおよびシールド部材の一部分において、ターゲット部材がスパッタされた状態示す拡大断面図である。
【
図8】
図5に示すターゲットおよびシールド部材の一部分において、ターゲット部材がスパッタされた状態示す拡大断面図である。
【
図9】
図8に示す成膜装置に対する変形例を示す拡大断面図である。
【
図10】
図9に示す成膜装置に対する変形例を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0016】
<成膜装置の構成>
図1は、成膜装置の模式的な構成を示す図である。
図1において、成膜装置1は、成膜室であるチャンバ10を有する。このチャンバ10には、ワーク保持部11が配置されており、このワーク保持部11によって、例えば、基板に代表される成膜対象物SUBが保持されている。このチャンバ10には、ガス導入口10aとガス排気口10bとが設けられている。
【0017】
次に、チャンバ10には、ワーク保持部11に保持された成膜対象物SUBと対向する位置にプラズマ生成部13が設けられている。このプラズマ生成部13は、プラズマを生成するように構成されており、プラズマ生成部13の周囲には、例えば、コイルから構成される磁場発生部14が配置されている。また、プラズマ生成部13には、導波管15が接続されており、導波管15を伝搬するマイクロ波がプラズマ生成部13に導入されるようになっている。さらに、ワーク保持部11とプラズマ生成部13の間であって、プラズマ生成部13に近接する位置に、例えば、円筒形状からなるターゲットTAが配置されており、このターゲットTAは、高周波電源、直流電源、およびパルス電源を供給可能な電源16と電気的に接続されている。これにより、ターゲットTAは、電源16からの高周波電圧が印加されるように構成されている。このターゲットTAは、固定部17によって固定されている。
【0018】
また、成膜装置1は、リング形状のシールド部材(第1シールド部材)30と、リング形状のシールド部材(第2シールド部材)40と、を有する。プラズマ生成部13からワーク保持部11に向かう方向をZ方向とすると、シールド部材30はZ方向において、ターゲットTAとプラズマ生成部13との間に設けられている。また、シールド部材40は、ターゲットTAとワーク保持部11との間に設けられている。
【0019】
<成膜方法>
続いて、成膜装置1を用いた成膜方法について説明する。
図2は、
図1に示す成膜装置を用いて行う成膜方法の各工程を示すフローチャートである。
【0020】
まず、
図1において、プラズマ生成部13には、例えば、アルゴンガスに代表されるガスが導入されている。そして、プラズマ生成部13の周囲に配置されている磁場発生部14から磁場を発生させると、プラズマ生成部13に導入されているガスに含まれる電子がローレンツ力を受けることにより、円運動する。このとき、電子の円運動の周期(あるいは周波数)と同じ周期(あるいは周波数)を有するマイクロ波(電磁波)を導波管15からプラズマ生成部13に導入すると、円運動する電子とマイクロ波とが共鳴して、マイクロ波のエネルギーが円運動する電子に効率良く供給される(電子サイクロトロン共鳴現象)(
図2のステップS101)。この結果、ガスに含まれる電子の運動エネルギーが大きくなって、ガスが、正イオンと電子とに分離する。これにより、正イオンと電子とからなるプラズマが生成される(
図2のステップS102)。
【0021】
次に、
図1において、電源16からターゲットTAに対して高周波電圧を供給する。この場合、高周波電圧が供給されたターゲットTAには、正電位と負電位とが交互に印加されることになる。ここで、プラズマを構成する正イオンと電子のうち、ターゲットTAに印加される高周波電圧に追従することができるのは、質量の軽い電子である一方、質量の重い正イオンは、高周波電圧に追従することができない。この結果、追従する電子を引き付ける正電位が電子の有する負電荷によって相殺される一方、負電位が残存するため、高周波電力の平均値は、0Vから負電位にシフトする。このことは、ターゲットTAに対して高周波電圧が印加されているにも関わらず、あたかも、ターゲットTAに負電位が印加されているとみなすことができることを意味している。これにより、正イオンは、平均的に負電位が印加されているとみなされるターゲットTAに引き付けられて、ターゲットTAに衝突する(
図2のステップS103)。
【0022】
続いて、正イオンがターゲットTAに衝突すると、ターゲットTAを構成するターゲット粒子が、正イオンの運動エネルギーの一部を受けとって、ターゲットTAからチャンバ10の内部空間に飛び出す(
図2のステップS104)。その後、チャンバ10の内部空間に飛び出したターゲット粒子の一部は、ワーク保持部11で保持されている成膜対象物SUBの表面に付着する(
図2のステップS105)。そして、このような現象が繰り返されることによって、成膜対象物SUBの表面に多数のターゲット粒子が付着する結果、成膜対象物SUBの表面上に膜が形成される(
図2のステップS106)。
【0023】
例えば、ターゲットTAをアルミニウムから構成する場合、ターゲット粒子は、アルミニウム原子であり、成膜対象物SUBに形成される膜は、アルミニウム膜である。ただし、
図1に示す成膜装置1のチャンバ10に設けられているガス導入口10aから酸素ガスや窒素ガスを導入しながら、上述した成膜動作を実施すると、成膜対象物SUBの表面には、酸化アルミニウム膜や窒化アルミニウム膜を形成することができる。
【0024】
同様に、例えば、ターゲットTAをシリコンから構成する場合、ターゲット粒子は、シリコン原子であり、成膜対象物SUBに形成される膜は、シリコン膜である。ただし、
図1に示す成膜装置1のチャンバ10に設けられているガス導入口10aから酸素ガスや窒素ガスを導入しながら、上述した成膜動作を実施すると、成膜対象物SUBの表面には、酸化シリコン膜や窒化シリコン膜を形成することができる。
【0025】
<成膜装置の利点>
上述した成膜装置1は、電子サイクロトロン共鳴現象(ECR)と発散磁場を利用して作られたプラズマ流を成膜対象物SUBに照射し、同時に、ターゲットTAとグランドとの間に高周波電圧を加えることにより、プラズマ中のイオンをターゲットTAに衝突させて成膜対象物SUBに膜を形成する方法である。この成膜方法をECRスパッタリング法と呼ぶことにすると、このECRスパッタリング法には、以下に示す利点がある。
【0026】
例えば、マグネトロンスパッタリング法では、10-3Torr(10-3×133.32Pa)のオーダ以上でないと安定なプラズマを得ることができない。これに対し、ECRスパッタリング法では、安定なECRプラズマを10-4Torr(10-4×133.32Pa)のオーダの圧力で得ることができる。また、ECRスパッタリング法では、高周波電圧により、プラズマ中の粒子(正イオン)をターゲットTAに当ててスパッタリングを行なうため、低い圧力で成膜対象物SUBに膜を形成できる。
【0027】
ECRスパッタリング法では、成膜対象物SUBにECRプラズマ流とスパッタリングされた粒子が照射される。ECRプラズマ流のイオンは、10eV~数十eVのエネルギーを持っており、低い圧力のため、成膜対象物SUBに到達するイオンのイオン電流密度も大きくとれる。したがって、ECRプラズマ流のイオンは、スパッタリングされて成膜対象物SUB上に飛来した原料粒子にエネルギーを与えるとともに、原料粒子と酸素との結合反応を促進することになり、ECRスパッタリング法で成膜対象物SUBに堆積した膜の膜質が改善される。このようなECRスパッタリング法では、特に、低い基板温度(成膜対象物SUBの温度)で、成膜対象物上に高品質の膜を成膜できることが利点である。
【0028】
以上のことから、成膜装置1は、高品質な膜を形成できる点で優れている。特に、成膜装置1では、成膜対象物SUBに高温に曝すことなく、成膜対象物の表面に高品質な膜を形成することができる点で非常に優れていると言える。つまり、成膜装置1では、成膜対象物SUBに与えるダメージを低減しながら、成膜対象物SUBの表面に高品質な膜を形成できる点で非常に優れていると言える。
【0029】
<ターゲット>
図3は、
図1の成膜装置で使用されるターゲットの外観構成を示す斜視図である。
図3に示すように、ターゲットTAは、円筒形状から成る。ターゲットTAは、例えば、銅材からなる円筒形状のバッキングチューブ(支持部材)20を有し、このバッキングチューブ20の内壁に、図示しないボンディング材(接着材)によって、例えば、アルミニウムからなる円筒形状のターゲット部材21が接着されている。
【0030】
このように構成されている円筒形状のターゲットTAを利用した成膜方法の場合、一般的に使用されている円盤形状のターゲットを使用する場合に比べて、
図1に示す成膜対象物SUBに与えるダメージを低減することができる。円筒形状のターゲットTAを用いて成膜する場合、円盤形状のターゲットを用いて成膜する場合と比較して、ターゲット部材21に衝突した後に反跳したイオン(例えばアルゴンイオン)が成膜対象物SUBに衝突する確率が小さくなる。このため、円筒形状のターゲットTAを使用して成膜対象物SUBの表面上に膜を形成する構成の成膜装置では、反跳したアルゴンイオンが成膜対象物SUBに衝突する確率が小さくなる結果、反跳したアルゴンイオンが成膜対象物SUBに衝突することで、成膜対象物SUBにダメージを与えることを低減できる。
【0031】
<シールド部材>
図4は、
図1の成膜装置で使用されるシールド部材の外観構成を示す斜視図である。
図5は、成膜装置内におけるシールド部材とターゲットとの位置関係を示す断面図である。
図4に示すように、シールド部材30および40のそれぞれは、リング形状から成る。
【0032】
図4および
図5に示すように、シールド部材30、シールド部材40、およびターゲット部材21のそれぞれは、Z方向に延びる軸(仮想線)VL1を中心軸として、Z方向に積層される。詳しくは、プラズマ生成部13(
図1参照)側から順に、シールド部材30、ターゲット部材21、およびシールド部材40の順で、互いに離間して積層される。
【0033】
シールド部材30および40は、ターゲット部材21を保持するバッキングチューブ20へのプラズマの衝突を抑制するための保護部材である。Z方向において、ターゲット部材21と重なる位置にシールド部材30および40を配置することにより、ターゲット部材21の外側に配置されるバッキングチューブ20へのプラズマの衝突の発生頻度を低減させることができる。この結果、バッキングチューブ20へのプラズマによるスパッタリングを抑制することができる。
【0034】
また、シールド部材30および40は、Z方向において、ターゲット部材21を挟んで、互いに対向するように配置される。これにより、ターゲットTAに供給される高周波電圧がターゲット部材21の周辺に拡散することを抑制できる。言い換えれば、シールド部材30および40はターゲットTAに供給される高周波電圧の拡散を防止する拡散防止部材としての機能を備える。
【0035】
保護部材としての機能、および拡散防止部材としての機能を効果的に発揮させる観点から、シールド部材30および40のそれぞれは、金属材料から成ることが好ましい。シールド部材30および40を構成する金属材料としては、例えばステンレス鋼を例示できる。金属から成るシールド部材30および40と、ターゲット部材21との短絡を防止するため、シールド部材30および40のそれぞれは、ターゲット部材21と離間して配置される。言い換えれば、シールド部材30および40のそれぞれは、ターゲット部材21と電気的に分離されている。ただし、ターゲット部材21とシールド部材30および40のそれぞれとの離間距離が、極端に大きくなると、ターゲット部材21とシールド部材30および40のそれぞれとの隙間からプラズマが侵入する確率が上昇するので、上記離間距離は小さいことが好ましい。本願発明者の検討によれば、ターゲット部材21とシールド部材30との離間距離G1、およびターゲット部材21とシールド部材30との離間距離G2のそれぞれは、5mm以下であることが好ましく、3mm以下であることが特に好ましい。ただし、離間距離G1およびG2のそれぞれは、0mmより大きいことが必要である。
【0036】
プラズマ生成部13(
図1参照)で生成されたプラズマは、リング形状のシールド部材30の開口部30Hを通過してターゲット部材21に衝突する。このため、プラズマのイオンをターゲット部材21に効率的に衝突させるためには、シールド30の開口部30Hの内径D1が、円筒形状のターゲット部材21の内径D2と同じであることが好ましいと考えられていた。
【0037】
本願発明者の検討によれば、シールド30の開口部30Hの内径D1が、円筒形状のターゲット部材21の内径D2と同じである場合、他の課題が生じることが判った。以下、
図5に対応する検討例として
図6に示す成膜装置100を用いて説明する。
図6は、
図5に対する検討例である成膜装置内におけるシールド部材とターゲットとの位置関係を示す断面図である。
図7は、
図6に示すターゲットおよびシールド部材の一部分において、ターゲット部材がスパッタされた状態示す拡大断面図である。なお、本明細書で説明するターゲット部材21の内径D2とは、特に異なる意味であることを明示した場合を除き、プラズマの照射処理を行う前の新品状態におけるターゲット部材21の内径D2を意味する。ターゲット部材21にプラズマのイオンが衝突することにより、ターゲット部材21の厚さは徐々に薄くなるので、内径D2の値も変化する。そこで、本明細書では、原則として、新品のターゲット部材21の内径D2の値を指標として用いる。
【0038】
図6に示す成膜装置100は、ターゲット部材21の内径D2とシールド部材30の内径D1とが同じである点で、
図5に示す成膜装置100とは相違する。その他の点は
図5に示す成膜装置1と同様である。ターゲット部材21およびシールド部材30のそれぞれは軸VL1を中心軸として配置されている。このため、ターゲット部材21の内壁面21aおよびシールド部材30の内壁面30aのそれぞれはZ方向において面一(ツライチ)に配置されている(言い換えれば同一面内に配置されている)。このような構成の場合、離間距離G1の値を5mm以下とすることにより、プラズマのイオンがバッキングチューブ20に衝突することを抑制できる。また、Z方向において、ターゲット部材21の全体がシールド部材30と重畳するので、ターゲットTAに供給される高周波電圧がターゲット部材21の周辺に拡散することを抑制できる。
【0039】
ところが、本願発明者の検討によれば、成膜装置100の場合、シールド部材30上に堆積する堆積物50(
図7参照)に起因する以下の課題があることが判った。例えば、ターゲット部材21が金属などの導電性材料から成る場合、堆積物50は導電性を備える。堆積物50が成長し、ターゲット部材21あるいはバッキングチューブ20と、堆積物50との距離が近くなると、ターゲット部材21が放電時に生成されるバイアス電圧及び電源から供給する電力により、シールド部材30と堆積物50との間で異常放電が生じ、成膜が不安定になる場合がある。堆積物50が絶縁材料から成る場合、あるいは、半導電性材料から成る場合にも、成長した堆積物50に電荷が蓄積すれば、異常放電の原因になる。また、堆積物50がさらに成長し、ターゲット部材21あるいはバッキングチューブ20と、堆積物50とが接触すると、ターゲットTAとシールド部材30とがショートする場合がある。成膜の不安定化やシールド部材30の短絡を回避するためには、堆積物50がある程度成長した段階で成膜処理を中止し、シールド部材30を交換する必要がある。このため、成膜処理の効率が低下する原因となる。なお、
図7に示す堆積物50および51のそれぞれは、ターゲット粒子の一部がシールド部材30または40に付着することにより形成される物質である。このため、成膜処理を行えば、堆積物50および51は成長する。
【0040】
そこで、本願発明者は、成膜処理の効率を向上させるための方法として、堆積物50の成長速度を低減させる方法、および、堆積物が成長したとしても、成膜の不安定化やショートを防ぐ方法について検討した。
図8は、
図5に示すターゲットおよびシールド部材の一部分において、ターゲット部材がスパッタされた状態示す拡大断面図である。
【0041】
図5に示す成膜装置1の場合、シールド30の開口部30Hの内径D1が、円筒形状のターゲット部材21の内径D2(上記したように成膜処理を実施する前の新品状態のターゲット部材21の内径D2)よりも小さい。この構成により、ターゲットTAのシールド部材30側においてプラズマ密度が高くなることを抑制できる。
【0042】
詳しくは、
図1を用いて説明したように、円筒形状のターゲットTAは、プラズマ生成部13と成膜対象物SUBとの間に配置される。この場合、ターゲットTAのプラズマ生成部13側のプラズマ密度は、ターゲットTAの成膜対象物SUB側のプラズマ密度よりも高くなる。言い換えれば、ターゲットTAの成膜対象物SUB側のプラズマ密度は、ターゲットTAのプラズマ生成部13側のプラズマ密度よりも低くなる。このようにターゲットTAの近傍において、プラズマ密度の分布に差異が生じる場合、プラズマ密度が相対的に高い部分において、アルゴンイオンによるスパッタリング現象の頻度が高くなる。
【0043】
図7に示す成膜装置の例の場合、ターゲット部材21の近傍のZ方向におけるプラズマ密度の分布は、シールド部材30側の方がシールド部材40側よりも高いので、ターゲット部材21のシールド部材30側では、スパッタリング現象の頻度がシールド部材40側よりも高い。この結果、ターゲット部材21の消費の程度を比較すると、ターゲットTAのシールド部材30側では、ターゲットTAのシールド部材40側よりもターゲット部材21の消費が大きくなる。
【0044】
堆積物50および51は、ターゲット部材21がスパッタされることにより飛び出したターゲット粒子からなる堆積物なので、スパッタリング現象の頻度が相対的に高いシールド部材30に形成される堆積物50は、シールド部材40に形成される堆積物51よりも成長速度が速い。
【0045】
図8に示す成膜装置1の場合、
図7と比較して判るように、リング形状のシールド部材30の内径が小さいので、シールド部材30の内壁面30aは、ターゲット部材21の内壁面21aよりも内側に突出している。言い換えれば、Z方向において、ターゲット部材21は、シールド部材30の内側のヒサシ部分(バイザー部分)31に覆われている。プラズマのイオンは、シールド部材30の内側の開口部を経由してターゲット部材21に達するので、シールド部材30がヒサシ部分31を備えている場合、ターゲット部材21のうち、シールド部材30の近傍においてプラズマ密度が高くなることを抑制することができる。
【0046】
この結果、
図8に示すように、ターゲット部材21のシールド部材30側の部分が、他の部分と比較して早く消費されることを抑制できる。これにより、堆積物50の成長速度を遅くすることができるので、シールド部材30の交換頻度を低減させることができる。
【0047】
また、堆積物50は、シールド部材30の開口部30H(
図5参照)との境界付近に主に形成される。したがって、
図8に示すように、Z方向と直交するX方向において、ヒサシ部分31が突出する長さL31を長くとることにより、堆積物50が成長したとしても、ターゲット部材21と堆積物50との離間距離が小さくなり難い。このため、ターゲット部材21に印加される成膜の不安定化、あるいは、ターゲット部材21とシールド部材30との短絡の発生を防止することができる。言い換えれば、成膜の不安定化やシールド部材30の短絡を抑制しつつ、ターゲット部材21が消費されるまでの間、シールド部材30を交換することなく使用することができる。さらに言い換えれば、堆積物50が形成された場合でも、スパッタリングを安定化させることができる。
【0048】
なお、Z方向と直交するX方向において、ヒサシ部分31が突出する長さL31は以下のように定義する。すなわち、バッキングチューブ20のターゲット部材21との対向する面をターゲット保持面20aとする。この時、長さL31は、シールド部材30のうち、ターゲット保持面20aの延長面と重なる位置を基準位置として、この基準位置からシールド部材30の内壁面30aまでの距離を長さL31と定義する。この定義によれば、長さL31は、少なくとも、新品状態のターゲット部材21の厚さよりは大きい。
【0049】
ところで、本願発明者の検討によれば、
図5に示すシールド部材30の内径D2を調整すれば、堆積物50の成長速度を低減させ、かつ、スパッタリングの発生頻度の低下を抑制できることが判った。
図5に示すターゲット部材21の内径D1を基準にシールド部材30の内径D1の好ましい範囲を記載すると、内径D1は内径D2に対して90%以上であれば、スパッタリングの発生頻度の低下を抑制できる。一方、ヒサシ部分31の効果により、堆積物50の成長を抑制する観点からは、内径D1は、内径D2に対して、99%以下であることが好ましい。また、成長した堆積物50と、ターゲット部材21との接触を防止する観点からは、内径D1は、内径D2に対して、96%以下であることが好ましい。
【0050】
図8に示す例の場合、離間距離G1およびG2のそれぞれは、例えば3mmである。新品状態のターゲット部材21の厚さ(バッキングチューブ20との対向面である外壁面から内壁面20aまでの距離)は、例えば3mmである。ターゲット部材21の内径D2(
図5参照)は、例えば120mmである。シールド部材30の内径D1(
図5参照)は、114mmである。この場合、内径D1は、内径D2対して、96%である。X方向において、ヒサシ部分31が突出する長さL31は、3.0mmである。シールド部材30の厚さ(Z方向における長さ)は、例えば2mmである。
【0051】
また、
図5に示すシールド層40に形成される堆積物51は、堆積物50よりさらに小さい。このため、ターゲット部材21の内壁面21aおよびシールド部材40の内壁面40aのそれぞれはZ方向において面一(ツライチ)に配置されている(言い換えれば同一面内に配置されている)。このため、シールド部材30の内径D1とシールド部材40の内径D3とを比較すると、以下のように表現できる。すなわち、シールド部材30の内径D1は、シールド部材40の内径D3より小さい。
【0052】
なお、図示は省略するが、
図5に対する変形例としてシールド部材40の内径D3がターゲット部材21の内径D2より小さい実施態様がある。この変形例の場合、堆積物51の影響により高周波電圧が不安定化することを抑制できる。ただし、上記したように、堆積物51は堆積物50と比較して成長しにくいので、
図5に示す構造であっても、高周波電圧が不安定化する程度まで堆積物51が成長する可能性は低い。一方、ターゲット部材21から飛び出したターゲット粒子を効率的に成膜対象物SUB(
図1参照)に運ぶ観点からは、開口部40Hが大きい方が好ましい。
図8に示すように、シールド部材30の内径D1は、シールド部材40の内径D3より小さい場合、ターゲット粒子を効率的に成膜対象物SUBに到達させることができる点で好ましい。
【0053】
<変形例>
次に、
図5および
図8に示す成膜装置に対する変形例について説明する。
図9は、
図8に示す成膜装置に対する変形例を示す拡大断面図である。なお、
図9に示す成膜装置101は、以下で説明する相違点を除き、
図1に示す成膜装置1と同様である。以下では成膜装置1との相違点について説明し、重複する説明は原則として省略する。また、成膜装置101のシールド部材30Aは、
図4に示すシールド部材30と同様にリング形状を成す。リング状のシールド部材30Aは全周に亘って
図9に示す拡大断面と同様の構造を備える。また、
図9では、新品状態のターゲット部材21と部分34との位置関係を明示するため、
図8とは異なり、消費される前の新品状態のターゲット部材21を図示している。
【0054】
図9に示す成膜装置101は、以下の点で、
図8に示す成膜装置1と相違する。すなわち、成膜装置101のシールド部材30Aは、Z方向においてターゲットTAのバッキングチューブ20と重なる部分(第1部分)33と、Z方向においてターゲットTAと重ならない部分(第2部分)34と、を有する。なお、部分34は、ターゲット部材21が消費される前の、新品状態であってもターゲットTAと重ならない部分である。部分34の厚さT2は、部分33の厚さT1より薄い。また、ターゲット部材21のうち、シールド部材30Aと対向する面を基準面21bとすると、部分34から基準面21bまでの最短距離は、部分33から基準面21bまでの最短距離より大きい。言い換えれば、部分34は、ターゲットTAと重ならない部分34において、ターゲットTA側の面が削られ、薄肉化されている。
【0055】
部分34のターゲットTA側を削って薄肉化する場合、部分34とターゲット部材21との間のスペースを大きくすることができる。堆積物50は、部分34上に形成されるので、部分34の厚さを薄くする程、堆積物50とターゲット部材21との距離を遠ざけることができる。
【0056】
本変形例の場合、Z方向において、堆積物50とターゲット部材21との離間距離を確保することができる。このため、
図8を用いて説明した成膜装置1の場合と比較して、長さL31を短くした場合でも、高周波電圧が不安定化すること、あるいはシールド部材30Aとターゲット部材21との短絡を抑制することができる。
【0057】
部分34の厚さT2は、部分34が変形しない程度の厚さは必要であるが、可能な限り薄いことが好ましい。例えば、
図9に示す例では、厚さT1が2mmであり、厚さT2は1mmである。
【0058】
成膜装置101の場合、部分34が一様な厚さを有している。すなわち、シールド部材30Aは、部分33と部分34との間に段差部35を有する。段差部35よりも外側(シールド部材30Aの外周側)の部分の厚さは、部分33の厚さと等しく、段差部35よりも内側(シールド部材30Aの開口部側)の部分の厚さは、部分34の厚さと等しい。このように、部分34の厚さT2が一様になっている場合、部分34のどの位置に堆積物50が形成された場合でもターゲット部材21と堆積物50との離間距離を確保することができる。
【0059】
また、
図9に示すように、段差部35はZ方向において、ターゲット部材21と重なる。
図9に対する変形例として、段差部35の位置が、バッキングチューブ20と重なる位置、あるいは、固定部17と重なる位置である場合もある。ただし、シールド部材30Aが備える機能のうち、バッキングチューブ20へのイオンの衝突を防止する機能を考慮すると、バッキングチューブ20とシールド部材30Aとの離間距離が近い方が好ましい。段差部35がターゲット部材21と重なる位置に配置される場合、バッキングチューブ20とシールド部材30Aとの離間距離を低減し、かつ、部分34とターゲット部材21との離間距離を大きくすることができる。
【0060】
図10は、
図9に対する他の変形例を示す拡大断面図である。なお、
図10に示す成膜装置102は、以下で説明する相違点を除き、
図9を用いて説明した成膜装置101と同様である。以下では成膜装置101との相違点について説明し、重複する説明は原則として省略する。また、成膜装置102のシールド部材30Bは、
図4に示すシールド部材30と同様にリング形状を成す。リング状のシールド部材30Bは全周に亘って
図10に示す拡大断面と同様の構造を備える。また、
図10では、新品状態のターゲット部材21と部分34との位置関係を明示するため、
図8とは異なり、消費される前の新品状態のターゲット部材21を図示している。
【0061】
図10に示す成膜装置102は、部分34のターゲットTA側の面が、Z方向に直交するX方向に対して傾斜する傾斜面となっている点で、
図9に示す成膜装置101と相違する。成膜装置102のシールド部材30Bの場合、
図9に示す段差部35が存在しない。また、シールド部材30Bの場合、シールド部材30Bの内側の先端に近づく程、部分34の厚さT2が小さくなる。ただし、
図10に示すように、傾斜面の起点36は、ターゲット部材21と重なる位置にある。また、X方向に対する傾斜面の傾斜角度は一様である。このため、部分34の厚さT2が最も厚い場所でも、その厚さT2は、部分33の厚さT1より薄い。
【0062】
シールド部材30Bの場合、
図9に示すシールド部材30Aと比較して、部分34の強度を向上させることができるので、シールド部材30Aよりも先端部分(
図5に示す開口部30Hに近い部分)の厚さを薄くすることができる。シールド部材30Bの先端部分に堆積物50が特に厚く形成される場合には、
図10に示すシールド部材30Bの方が
図9に示すシールド部材30Aよりも有利である。
【0063】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0064】
1,100,101,102 成膜装置
10 チャンバ
10a ガス導入口
10b ガス排気口
11 ワーク保持部
13 プラズマ生成部
14 磁場発生部
15 導波管
16 電源
17 固定部
20 バッキングチューブ(支持部材)
20a 内壁面
20a ターゲット保持面
21 ターゲット部材
21a 内壁面
21b 基準面
30,30A,30B シールド部材(第1シールド部材)
30a 内壁面
30H,40H 開口部
31 ヒサシ部分(バイザー部分)
33 部分(第1部分)
34 部分(第2部分)
35 段差部
36 起点
40 シールド部材(第2シールド部材)
40a 内壁面
50,51 堆積物
D1,D2,D3 内径
G1,G2 離間距離
S101~S106 ステップ
SUB 成膜対象物
TA ターゲット
VL1 軸(仮想線)