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特許7488167蓄電デバイス用非水電解液およびそれを用いた蓄電デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用非水電解液およびそれを用いた蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20240514BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20240514BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240514BHJP
   H01G 11/64 20130101ALI20240514BHJP
   H01G 11/62 20130101ALI20240514BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M10/052
H01G11/64
H01G11/62
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020161420
(22)【出願日】2020-09-25
(65)【公開番号】P2022054303
(43)【公開日】2022-04-06
【審査請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】320011605
【氏名又は名称】MUアイオニックソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸口 宏行
(72)【発明者】
【氏名】島本 圭
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-124039(JP,A)
【文献】特開2015-133255(JP,A)
【文献】国際公開第2016/031316(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/093091(WO,A1)
【文献】特開2002-280061(JP,A)
【文献】特開2012-248311(JP,A)
【文献】国際公開第2012/029420(WO,A1)
【文献】特開2019-114391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 10/0568
H01M 10/052
H01G 11/64
H01G 11/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、一般式(I)で表されるビスホスホン酸エステルを含有する蓄電デバイス用非水電解液。
【化1】
(式中、Rはメチレン基またはエチレン基を示し、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数3~6のアルキニル基を示す。)
【請求項2】
前記一般式(I)におけるRおよびRが、2-プロピニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、1-メチル-2-プロピニル基、1,1-ジメチル-2-プロピニル基または1-エチル-1-メチル-2-プロピニル基である請求項1に記載の蓄電デバイス用非水電解液。
【請求項3】
非水電解液が、電解質塩以外にリン酸骨格を有するリチウム塩およびS(=O)基を有するリチウム塩の中からなる群より選ばれる1種以上のリチウム塩を含有する請求項1または2に記載の蓄電デバイス用非水電解液。
【請求項4】
正極、負極および非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液を備えた蓄電デバイスであって、該非水電解液が請求項1から3のいずれか1項に記載の非水電解液であることを特徴とする蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温保存時の抵抗上昇抑制効果とガス抑制効果を向上できる蓄電デバイス用非水電解液およびそれを用いた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、蓄電デバイス、特にリチウム二次電池は、携帯電話やノート型パソコン等の小型電子機器、電気自動車や電力貯蔵用として広く使用されている。これらの電子機器や自動車は、真夏の高温下や極寒の低温下等広い温度範囲で使用される可能性があるため、広い温度範囲でバランス良く電気化学特性を向上させることが求められている。
特に地球温暖化防止のため、CO排出量を削減することが急務となっており、リチウム二次電池やキャパシタ等の蓄電デバイスからなる蓄電装置を搭載した環境対応車の中でも、ハイブリッド電気自動車(HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)、バッテリー電気自動車(BEV)の早期普及が求められている。自動車は移動距離が長いため、熱帯の非常に暑い地域から極寒の地域まで幅広い温度範囲の地域で使用される可能性がある。従って、特にこれらの車載用の蓄電デバイスは、高温から低温まで幅広い温度範囲で使用しても電気化学特性が低下しないことが要求されている。
尚、本明細書において、リチウム二次電池という用語は、いわゆるリチウムイオン二次電池も含む概念として用いる。
【0003】
リチウム二次電池は、主にリチウムを吸蔵および放出可能な材料を含む正極および負極、ならびに、リチウム塩と非水溶媒からなる非水電解液から構成され、非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)等のカーボネートが使用されている。
また、負極としては、金属リチウム、リチウムを吸蔵および放出可能な金属化合物(金属単体、酸化物、リチウムとの合金等)や炭素材料が知られており、特にリチウムを吸蔵および放出することが可能なコークス、人造黒鉛、天然黒鉛等の炭素材料を用いたリチウム二次電池が広く実用化されている。
【0004】
例えば、天然黒鉛や人造黒鉛等の高結晶化した炭素材料を負極材料として用いたリチウム二次電池は、非水電解液中の溶媒が充電時に負極表面で還元分解することにより発生した分解物やガスが電池の望ましい電気化学的反応を阻害するため、サイクル特性の低下を生じることが分かっている。また、非水溶媒の分解物が蓄積すると、負極へのリチウムの吸蔵および放出がスムーズにできなくなり、広い温度範囲で使用した場合における電気化学特性が低下しやすくなる。
更に、リチウム金属やその合金、スズまたはケイ素等の金属単体や酸化物を負極材料として用いたリチウム二次電池は、初期の容量は高いもののサイクル中に微粉化が進むため、炭素材料の負極に比べて非水溶媒の還元分解が加速的に起こり、電池容量やサイクル特性のような電池性能が大きく低下することが知られている。また、これらの負極材料の微粉化や非水溶媒の分解物が蓄積すると、負極へのリチウムの吸蔵および放出がスムーズにできなくなり、広い温度範囲で使用した場合における電気化学特性が低下しやすくなる。
【0005】
一方、正極として、例えばLiCoO、LiMn、LiNiO、LiFePO等を用いたリチウム二次電池は、非水電解液中の非水溶媒が充電状態で正極材料と非水電解液との界面において、局部的に一部酸化分解することにより発生した分解物やガスが電池の望ましい電気化学的反応を阻害するため、やはり広い温度範囲で使用した場合における電気化学特性の低下を生じることが分かっている。
【0006】
以上のように、正極上や負極上で非水電解液が分解するときの分解物やガスにより、リチウムイオンの移動が阻害されたり、電池が膨れたりすることで電池性能が低下していた。そのような状況にも関わらず、リチウム二次電池が搭載されている電子機器の多機能化はますます進み、電力消費量が増大する流れにある。そのため、リチウム二次電池の高容量化はますます進んでおり、電極の密度を高めたり、電池内の無駄な空間容積を減らす等、電池内の非水電解液の占める体積が小さくなっている。従って、少しの非水電解液の分解で、広い温度範囲で使用した場合における電気化学特性が低下しやすい状況にある。特許文献1には、リン酸エステル、ビスホスホン酸エステルおよびホストン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種のリン化合物を非水電解液に含有させることで、難燃性(自己消火性)が付与され、かつ充放電特性を向上できることが記載されている。特許文献2には、リン酸エステル及びビスホスホン酸エステルを非水電解液に含有させることで、難燃性及び電気伝導度に優れた非水電解液を得ることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-280061号公報
【文献】特開2012-248311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高温保存時の抵抗上昇抑制効果とガス抑制効果を向上できる、蓄電デバイス用非水電解液およびそれを用いた蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、三重結合を有するビスホスホン酸エステル化合物を含有させることで、リチウムイオン二次電池の高温保存時の抵抗上昇抑制効果とガス抑制効果が特異的に向上することを見出し、本発明を完成した。このような効果は、前記特許文献1、2にはまったく示唆されていない。
【0010】
すなわち、本発明は、下記の(1)~(4)を提供するものである。
【0011】
(1)非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、一般式(I)で表されるビスホスホン酸エステルを含有する蓄電デバイス用非水電解液。
【0012】
【化1】
(式中、Rはメチレン基またはエチレン基を示し、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数3~6のアルキニル基を示す。)
【0013】
(2)前記一般式(I)におけるRおよびRが、2-プロピニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、1-メチル-2-プロピニル基、1,1-ジメチル-2-プロピニル基または1-エチル-1-メチル-2-プロピニル基である(1)に記載の蓄電デバイス用非水電解液。
【0014】
(3)非水電解液が、電解質塩以外にリン酸骨格を有するリチウム塩およびS(=O)基を有するリチウム塩の中から選ばれる1種以上のリチウム塩を含有する(1)または(2)に記載の蓄電デバイス用非水電解液。
【0015】
(4)正極、負極および非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液を備えた蓄電デバイスであって、該非水電解液が(1)から(3)のいずれか1つに記載の非水電解液であることを特徴とする蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高温保存時の抵抗上昇抑制効果とガス抑制効果を向上できる、蓄電デバイス用非水電解液およびそれを用いた蓄電デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、蓄電デバイス用非水電解液およびそれを用いた蓄電デバイスに関する。
【0018】
〔非水電解液〕
本発明の非水電解液は、非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、非水電解液中に前記一般式(I)で表される化合物を含有することを特徴とする蓄電デバイス用非水電解液である。
【0019】
本発明の非水電解液が、高温保存時の抵抗上昇抑制効果とガス抑制効果を向上できる理由は必ずしも明らかではないが、以下のように考える。本発明で使用される一般式(I)で表される化合物は、複数の三重結合を有するビスホスホン酸エステルであるため還元分解が促進される。さらに、一般式(I)で表される化合物は、この構造により、重合反応がより促進され、耐熱性の高い強固な被膜が形成される。加えて2つのホスホニル基が正極の活性な箇所に作用することで正極の抵抗上昇およびガス発生を抑制する。このため、高温環境下においても溶媒の分解を抑制でき、高温保存時の抵抗上昇抑制効果とガス抑制効果を同時に改善できると考えられる。
【0020】
本発明の非水電解液に含まれる化合物は、下記一般式(I)で表される。
【0021】
【化2】
(式中、Rはメチレン基またはエチレン基を示し、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数3~6のアルキニル基を示す。)
【0022】
前記一般式(I)において、Rはメチレン基またはエチレン基を示し、メチレン基がより好ましい。
【0023】
前記一般式(I)において、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数3~6のアルキニル基を示し、具体例としては、2-プロピニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基もしくは4-ヘプチニル基等の直鎖のアルキニル基または1-メチル-2-プロピニル基、1,1-ジメチル-2-プロピニル基、1-メチル-3-ブチニル基もしくは1-メチル-4-ペンチニル基等の分岐のアルキニル基が好適に挙げられ、中でも、2-プロピニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、1-メチル-2-プロピニル基、1,1-ジメチル-2-プロピニル基または1-エチル-1-メチル-2-プロピニル基がより好ましい。
【0024】
前記一般式(I)で表される化合物としては、具体的に以下の化合物が好適に挙げられる。
【0025】
【化3】
【0026】
上記好適例の中でも、テトラ(プロピ-2-イン-1-イル)メチレンビス(ホスホネート)(化合物1)、テトラ(ブチ-3-イン-1-イル)メチレンビス(ホスホネート)(化合物4)、テトラ(プロピ-2-イン-1-イル)エタン-1,2-ジイルビス(ホスホネート)(化合物13)、またはテトラ(ブチ-3-イン-1-イル)エタン-1,2-ジイルビス(ホスホネート)(化合物15)が好ましく、化合物1、または化合物13がより好ましい。
【0027】
本発明の非水電解液において、非水電解液に含有される前記一般式(I)で表される化合物の含有量は、非水電解液中に、非水電解液全量に対して、0.001~2質量%であることが好ましい。該含有量が2質量%以下であれば、電極上に過度に被膜が形成され高温特性が低下するおそれが少なく、また0.001質量%以上であれば被膜の形成が十分であり、高温保存時の抵抗上昇を抑制できるので上記範囲であることが好ましい。該含有量は、非水電解液中に0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましい。また、1.5質量%以下がより好ましく、1.2質量%以下が更に好ましい。
【0028】
本発明の非水電解液において、非水電解液中にさらに、リン酸骨格を有するリチウム塩およびS=O基を有するリチウム塩の中から選ばれる1種以上のリチウム塩を含むことで、高温保存時の抵抗上昇抑制効果とガス抑制効果を向上できるため好ましい。
前記リチウム塩の具体例としては、LiPO、LiPOF、リチウム エチル メトキシカルボニルホスホネート、リチウム エチル エトキシカルボニルホスホネートおよびリチウム エチル iso-ブトキシカルボニルホスホネートからなる群より選ばれる1種以上のリン酸骨格を有するリチウム塩またはリチウム トリフルオロ((メタンスルホニル)オキシ)ボレート〔LiTFMSB〕、リチウム ペンタフルオロ((メタンスルホニル)オキシ)ホスフェート〔LiPFMSP〕、リチウム メチルサルフェート〔LMS〕、リチウムエチルサルフェート〔LES〕、リチウム 2,2,2-トリフルオロエチルサルフェート〔LFES〕およびFSOLiから選ばれる1種以上のS=O基を有するリチウム塩が好適に挙げられ、LiPO、LiTFMSB、LMS、LES、LFESおよびFSOLiからなる群より選ばれる1種以上のリチウム塩を含むことがより好ましい。
【0029】
前記リチウム塩が非水電解液中に占めるそれぞれの割合は、非水電解液全量に対して0.01質量%以上8質量%以下である場合が好ましい。この範囲にあると一段と高温保存時の抵抗上昇抑制効果とガス抑制効果を向上できる。好ましくは非水電解液全量に対して0.1質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上、特に好ましくは0.4質量%以上である。更に好ましくは非水電解液全量に対して6質量%以下、特に好ましくは3質量%以下である。
【0030】
〔電解質塩〕
本発明に使用される電解質塩としては、下記のリチウム塩が好適に挙げられる。
前記リチウム塩の具体例としては、LiPF、LiBFもしくはLiClO等の無機リチウム塩、LiN(SOF)〔LiFSI〕、LiN(SOCF、LiN(SO、LiCFSO、LiC(SOCF、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(CF、LiPF(iso-C7もしくはLiPF(iso-C)等の鎖状のフッ化アルキル基を含有するリチウム塩または(CF(SONLiもしくは(CF(SONLi等の環状のフッ化アルキレン鎖を有するリチウム塩等が好適に挙げられ、これらの中から選ばれる少なくとも1種のリチウム塩が好適に挙げられ、これらの1種または2種以上を混合して使用することができる。
これらの中でも、LiPF、LiBF、LiN(SOCF、LiN(SOおよびLiN(SOF)〔LiFSI〕から選ばれる1種または2種以上が好ましく、LiPFを用いることがもっとも好ましい。電解質塩のそれぞれの濃度は、前記の非水電解液全量に対して、通常4質量%以上であることが好ましく、9質量%以上がより好ましく、13質量%以上が更に好ましい。またその上限は、非水電解液全量に対して28質量%以下であることが好ましく、23質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。
また、これらの電解質塩の好適な組合せとしては、LiPFを含み、更にLiBF、LiN(SOCFおよびLiN(SOF)〔LiFSI〕から選ばれる少なくとも1種のリチウム塩が非水電解液中に含まれている場合が好ましく、LiPFを含み更にLiFSIを含む組合せがより好ましく、LiPF以外のリチウム塩が非水電解液全量に占めるそれぞれの割合は、0.01質量%以上であると、高温充電保存特性を向上させると共に、ガス発生の抑制効果も高まる。非水電解液全量に対して10質量%以下であると高温充電保存特性が低下する懸念が少ないので好ましい。好ましくは0.1質量%以上、特に好ましくは非水電解液全量に対して0.3質量%以上、最も好ましくは0.6質量%以上である。また、好ましくは11質量%以下、さらに好ましくは9質量%以下、特に好ましくは6質量%以下である。
【0031】
〔非水溶媒〕
本発明の非水電解液に使用される非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状エステル、ラクトン、エーテル、およびアミドから選ばれる1種または2種以上が好適に挙げられる。広い温度範囲で電気化学特性が相乗的に向上するため、鎖状エステルが含まれることが好ましく、鎖状カーボネートが含まれることが更に好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートの両方が含まれることが最も好ましい。
【0032】
なお、「鎖状エステル」なる用語は、鎖状カーボネートおよび鎖状カルボン酸エステルを含む概念として用いる。
【0033】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、1,2-ブチレンカーボネート、2,3-ブチレンカーボネート、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(FEC)、トランスもしくはシス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(以下、両者を総称して「DFEC」という)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)および4-エチニル-1,3-ジオキソラン-2-オン(EEC)から選ばれる一種または二種以上が挙げられ、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、ビニレンカーボネートおよび4-エチニル-1,3-ジオキソラン-2-オンから選ばれる一種または二種以上がより好適である。
【0034】
前記環状カーボネートの含有量は、非水電解液全量に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、また、好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは50質量%以下、最も好ましくは40質量%以下であると、Liイオン透過性を損なうことなく一段と高温保存時の抵抗上昇抑制効果とガス抑制効果が高まるので好ましい。
【0035】
また、前記炭素-炭素二重結合もしくは炭素-炭素三重結合の不飽和結合またはフッ素原子を有する環状カーボネートのうち少なくとも1種を使用すると高温保存時の抵抗上昇抑制効果とガス抑制効果が高まるので好ましく、炭素-炭素二重結合もしくは炭素-炭素三重結合等の不飽和結合を含む環状カーボネートとフッ素原子を有する環状カーボネートを両方含むことがより好ましい。炭素-炭素二重結合もしくは炭素-炭素三重結合等の不飽和結合を有する環状カーボネートとしては、VC、VECまたはEECが更に好ましく、フッ素原子を有する環状カーボネートとしては、FECまたはDFECが更に好ましい。
【0036】
炭素-炭素二重結合もしくは炭素-炭素三重結合の不飽和結合を有する環状カーボネートの含有量は、非水電解液全量に対して、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、また、好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下であると、Liイオン透過性を損なうことなく一段と高温保存時の抵抗上昇抑制効果とガス抑制効果が高まるので好ましい。
【0037】
フッ素原子を有する環状カーボネートの含有量は、非水電解液全量に対して好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、また、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に20質量%以下であり、最も好ましくは15質量%以下であると、Liイオン透過性を損なうことなく一段と高温保存時の抵抗上昇抑制効果とガス抑制効果が高まるので好ましい。
【0038】
これらの溶媒は一種類で使用してもよく、また二種類以上を組合せて使用した場合は、広い温度範囲での電気化学特性の改善効果が更に向上するので好ましく、3種類以上を組合せて使用することが特に好ましい。これらの環状カーボネートの好適な組合せとしては、ECとPC、ECとVC、PCとVC、VCとFEC、ECとFEC、PCとFEC、FECとDFEC、ECとDFEC、PCとDFEC、VCとDFEC、VECとDFEC、VCとEEC、ECとEEC、ECとPCとVC、ECとPCとFEC、ECとVCとFEC、ECとVCとVEC、ECとVCとEEC、ECとEECとFEC、PCとVCとFEC、ECとVCとDFEC、PCとVCとDFEC、ECとPCとVCとFECまたはECとPCとVCとDFEC等が好ましい。前記の組合せのうち、ECとVC、ECとFEC、PCとFEC、ECとPCとVC、ECとPCとFEC、ECとVCとFEC、ECとVCとEEC、ECとEECとFEC、PCとVCとFECまたはECとPCとVCとFEC等の組合せがより好ましい。
【0039】
鎖状エステルとしては、メチルエチルカーボネート(MEC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、メチルイソプロピルカーボネート(MIPC)、メチルブチルカーボネートおよびエチルプロピルカーボネートから選ばれる1種または2種以上の非対称鎖状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネートおよびジブチルカーボネートからなる群より選ばれる1種または2種以上の対称鎖状カーボネート、ピバリン酸メチル、ピバリン酸エチル、ピバリン酸プロピル等のピバリン酸エステルまたはプロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酢酸メチルおよび酢酸エチルから選ばれる1種または2種以上の鎖状カルボン酸エステルが好適に挙げられる。
【0040】
前記鎖状エステルの中でも、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、プロピオン酸メチル、酢酸メチルおよび酢酸エチルからなる群より選ばれるメチル基を有する鎖状エステルが好ましく、メチル基を有する鎖状カーボネートが特に好ましい。
【0041】
また、鎖状カーボネートを用いる場合には、2種以上を用いることが好ましい。さらに対称鎖状カーボネートと非対称鎖状カーボネートの両方が含まれるとより好ましく、対称鎖状カーボネートの含有量が非対称鎖状カーボネートより多く含まれると更に好ましい。
【0042】
本発明の非水電解液に用いる非水溶媒における鎖状エステルの含有量は、特に制限されないが、非水電解液全量に対して、5~90質量%の範囲で用いるのが好ましい。該含有量が5質量%以上であれば非水電解液の粘度が高くなりすぎず、より好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは30質量%以上であり、特に好ましくは50質量%以上である。また、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下であれば非水電解液の電気伝導度が低下してサイクル特性が低下するおそれが少ないので上記範囲であることが好ましい。
【0043】
環状カーボネートと鎖状エステルの割合は、高温下での電気化学特性向上の観点から、環状カーボネート:鎖状エステル(質量比)が10:90~50:50が好ましく、30:70~40:60が特に好ましい。
【0044】
その他の非水溶媒としては、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランまたは1,4-ジオキサン等の環状エーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタンまたは1,2-ジブトキシエタン等の鎖状エーテル、ジメチルホルムアミド等のアミド、スルホラン等のスルホンおよびγ-ブチロラクトン〔GBL〕、γ-バレロラクトンまたはα-アンゲリカラクトン等のラクトンからなる群より選ばれる1種または2種以上が好適に挙げられる。
【0045】
上記その他の非水溶媒は通常、適切な物性を達成するために、混合して使用される。その組合せは、例えば、環状カーボネートと鎖状エステルとラクトンとの組合せまたは環状カーボネートと鎖状エステルとエーテルとの組合せ等が好適に挙げられ、環状カーボネートと鎖状エステルとラクトンとの組合せがより好ましく、ラクトンの中でもGBLを用いると更に好ましい。
【0046】
その他の非水溶媒の含有量は、非水電解液全量に対して、通常1質量%以上が好ましく、より好ましくは2質量%以上であり、また通常40質量%以下が好ましく、より好ましくは30質量%以下、特に好ましくは20質量%以下である。当該濃度範囲中であれば電気伝導度が低下することや、溶媒の分解による高温充電保存特性が低下するおそれが少ない。
【0047】
一段と高温充電保存特性を向上させ、ガス発生を抑制する目的で、非水電解液中にさらにその他の添加剤を加えることが好ましい。
その他の添加剤の具体例としては、以下の(A)~(J)の化合物が挙げられる。
【0048】
(A)アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、スベロニトリルおよびセバコニトリルからなる群より選ばれる1種または2種以上のニトリル。
【0049】
(B)シクロヘキシルベンゼン、tert-ブチルベンゼン、tert-アミルベンゼンもしくは1-フルオロ-4-tert-ブチルベンゼン等の分枝アルキル基を有する芳香族化合物またはビフェニル、ターフェニル(o-、m-、p-体)、フルオロベンゼン、メチルフェニルカーボネート、エチルフェニルカーボネートもしくはジフェニルカーボネート等の芳香族化合物。
【0050】
芳香族化合物の中では、ビフェニル、ターフェニル(o-、m-、p-体)、フルオロベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、tert-ブチルベンゼンおよびtert-アミルベンゼンから選ばれる1種または2種以上がより好ましく、ビフェニル、o-ターフェニル、フルオロベンゼン、シクロヘキシルベンゼンおよびtert-アミルベンゼンからなる群より選ばれる1種または2種以上が特に好ましい。
【0051】
(C)メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、ブチルイソシアネート、フェニルイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2-イソシアナトエチル アクリレートおよび2-イソシアナトエチル メタクリレートからなる群より選ばれる1種または2種以上のイソシアネート化合物。
【0052】
イソシアネート化合物の中では、ヘキサメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、2-イソシアナトエチル アクリレートおよび2-イソシアナトエチル メタクリレートからなる群より選ばれる1種または2種以上がより好ましい。
【0053】
(D)2-プロピニル メチル カーボネート、酢酸 2-プロピニル、ギ酸 2-プロピニル、メタクリル酸 2-プロピニル、メタンスルホン酸 2-プロピニル、ビニルスルホン酸 2-プロピニル、2-(メタンスルホニルオキシ)プロピオン酸2-プロピニル、ジ(2-プロピニル)オギザレート、2-ブチン-1,4-ジイル ジメタンスルホネートおよび2-ブチン-1,4-ジイル ジホルメートからなる群より選ばれる1種または2種以上の三重結合含有化合物。
【0054】
三重結合含有化合物としては、2-プロピニル メチル カーボネート、メタクリル酸 2-プロピニル、メタンスルホン酸 2-プロピニル、ビニルスルホン酸 2-プロピニル、ジ(2-プロピニル)オギザレートおよび2-ブチン-1,4-ジイル ジメタンスルホネートから選ばれる1種または2種以上が好ましく、メタンスルホン酸 2-プロピニル、ビニルスルホン酸 2-プロピニル、ジ(2-プロピニル)オギザレートおよび2-ブチン-1,4-ジイル ジメタンスルホネートからなる群より選ばれる1種または2種以上がより好ましい。
【0055】
(E)1,3-プロパンスルトン(PS)、1,3-ブタンスルトン、2,4-ブタンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,3-プロペンスルトンもしくは2,2-ジオキシド-1,2-オキサチオラン-4-イル アセテート等のスルトン、エチレンサルファイト等の環状サルファイト、1,1-ジオキシドテトラヒドロチオフェン-3-イル メタンスルホネート、1,1-ジオキシド-2,3-ジヒドロチオフェン-3-イル メタンスルホネート等の環状スルホン、ブタン-2,3-ジイル ジメタンスルホネート、ブタン-1,4-ジイル ジメタンスルホネートもしくはメチレン メタンジスルホネート等のスルホン酸エステルおよびジビニルスルホン、1,2-ビス(ビニルスルホニル)エタンもしくはビス(2-ビニルスルホニルエチル)エーテル等のビニルスルホン化合物からなる群より選ばれる1種または2種以上のS=O基含有化合物。
【0056】
前記S=O基含有化合物としては、環状S=O基含有化合物と鎖状のS=O基含有化合物に分類することができ、環状S=O基含有化合物の中では、1,3-プロパンスルトン、1,3-ブタンスルトン、1,4-ブタンスルトン、2,4-ブタンスルトン、1,3-プロペンスルトン、2,2-ジオキシド-1,2-オキサチオラン-4-イル アセテート、メチレン メタンジスルホネート、エチレンサルファイト、1,1-ジオキシドテトラヒドロチオフェン-3-イル メタンスルホネート、および1,1-ジオキシド-2,3-ジヒドロチオフェン-3-イル メタンスルホネートからなる群より選ばれる1種または2種以上が好適に挙げられる。また、鎖状のS=O基含有化合物の中では、ブタン-2,3-ジイル ジメタンスルホネート、ブタン-1,4-ジイル ジメタンスルホネート、ジメチル メタンジスルホネート、ペンタフルオロフェニル メタンスルホネート、ジビニルスルホンおよびビス(2-ビニルスルホニルエチル)エーテルからなる群より選ばれる1種または2種以上が好適に挙げられる。前記環状または鎖状のS=O基含有化合物の中でも、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、2,4-ブタンスルトン、2,2-ジオキシド-1,2-オキサチオラン-4-イル アセテート、1,1-ジオキシドテトラヒドロチオフェン-3-イル メタンスルホネート、および1,1-ジオキシド-2,3-ジヒドロチオフェン-3-イル メタンスルホネート、ペンタフルオロフェニル メタンスルホネートおよびジビニルスルホンからなる群より選ばれる1種または2種以上が更に好ましい。
【0057】
(F)分子内に「アセタール基」を有する環状アセタール化合物。分子内に「アセタール基」を含有していればその種類は特に限定されない。その具体例としては、1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキサンまたは1,3,5-トリオキサン等の環状アセタール化合物。
【0058】
環状アセタール化合物としては、1,3-ジオキソランまたは1,3-ジオキサンが好ましく、1,3-ジオキサンが更に好ましい。
【0059】
(G)リン酸トリメチル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)、エチル 2-(ジエトキシホスホリル)アセテートおよび2-プロピニル 2-(ジエトキシホスホリル)アセテートからなる群より選ばれる1種または2種以上のリン含有化合物。
【0060】
リン含有化合物としては、エチル 2-(ジエトキシホスホリル)アセテートまたは2-プロピニル 2-(ジエトキシホスホリル)アセテートが好ましく、2-プロピニル 2-(ジエトキシホスホリル)アセテートが更に好ましい。
【0061】
(H)分子内に「C(=O)-O-C(=O)基」、「C(=O)-O-S(=O)基」または「S(=O)-O-S(=O)基」を有する酸無水物。その具体例としては、無水酢酸もしくは無水プロピオン酸等の鎖状のカルボン酸無水物または無水コハク酸、無水マレイン酸、3-アリル無水コハク酸、無水グルタル酸、無水イタコン酸、1,2-オキサチオラン-5-オン 2,2-ジオキシドおよび1,2,6-オキサジチアン 2,2,6,6-テトラオキシドからなる群より選ばれる1種または2種以上の環状酸無水物。
【0062】
環状酸無水物としては、無水コハク酸、無水マレイン酸または3-アリル無水コハク酸が好ましく、無水コハク酸または3-アリル無水コハク酸が更に好ましい。
【0063】
(J)分子内に「N=P-N基」を有するホスファゼン化合物。分子内に「N=P-N基」を含有していれば特にその種類は限定されない。その具体例としては、メトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、エトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、フェノキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンまたはエトキシヘプタフルオロシクロテトラホスファゼン等の環状ホスファゼン化合物。
【0064】
環状ホスファゼン化合物としては、メトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、エトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンまたはフェノキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン等の環状ホスファゼン化合物が好ましく、メトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンまたはエトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンが更に好ましい。
【0065】
上記の中でも、(A)ニトリル、(B)芳香族化合物および(C)イソシアネート化合物から選ばれる少なくとも1種以上を含むと一段と高温での電気化学特性が向上するので好ましい。
【0066】
前記(A)~(C)の化合物の含有量は、非水電解液全量に対して0.01~7質量%であることが好ましい。この範囲では、被膜が厚くなり過ぎずに十分に形成され、高温充電保存特性を向上させることができ、ガス発生を抑制できる。該含有量は、非水電解液全量に対して0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上が特に好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下が特に好ましい。
【0067】
また、(D)三重結合含有化合物、(E)S=O基含有化合物、(F)環状アセタール化合物、(G)リン含有化合物、(H)酸無水物および(J)環状ホスファゼン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種以上を含むと高温充電保存特性を向上させることができ、ガス発生を抑制できるので好ましい。
【0068】
前記(D)~(J)の化合物のそれぞれの含有量は、非水電解液全量に対して0.001~5質量%であることが好ましい。この範囲では、被膜が厚くなり過ぎずに十分に形成され、一段と高温充電保存特性を向上させることができ、ガス発生を抑制できる。該含有量は、非水電解液全量に対して0.01質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上が特に好ましく、非水電解液全量に対して3質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下が特に好ましい。
【0069】
また、一段と高温での電気化学特性を向上させる目的で、非水電解液中にさらに、シュウ酸骨格を有するリチウム塩を含むことが好ましい。
前記リチウム塩の具体例としては、リチウム ビス(オキサラト)ボレート〔LiBOB〕、リチウム ジフルオロ(オキサラト)ボレート〔LiDFOB〕、リチウム テトラフルオロ(オキサラト)ホスフェート〔LiTFOP〕およびリチウム ジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート〔LiDFOP〕が好適に挙げられる。
【0070】
前記リチウム塩が非水電解液中に占めるそれぞれの割合は、非水電解液全量に対して0.01質量%以上8質量%以下である場合が好ましい。この範囲にあると一段と高温充電保存特性を向上させることができ、ガス発生を抑制できる。好ましくは非水電解液全量に対して0.1質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上、特に好ましくは0.4質量%以上である。また、更に好ましくは非水電解液全量に対して6質量%以下、特に好ましくは3質量%以下である。
【0071】
〔非水電解液の製造〕
本発明の非水電解液は、例えば、前記の非水溶媒を混合し、これに前記の電解質塩および該非水電解液に対して前記一般式(I)で表される化合物を添加することにより得ることができる。
この際、用いる非水溶媒および非水電解液に加える化合物は、生産性を著しく低下させない範囲内で、予め精製して、不純物が極力少ないものを用いることが好ましい。
【0072】
本発明の非水電解液は、下記の蓄電デバイスに使用することができ、非水電解質として、液体状のものだけでなくゲル化されているものも使用し得る。更に本発明の非水電解液は固体高分子電解質用としても使用できる。中でも電解質塩にリチウム塩を使用する蓄電デバイス用(即ち、リチウム電池用)として用いることが好ましく、リチウム二次電池用として用いることが最も適している。
【0073】
リチウム二次電池用正極活物質としては、コバルト、マンガンおよびニッケルからなる群より選ばれる1種または2種以上を含有するリチウムとの複合金属酸化物が使用される。これらの正極活物質は、1種単独で用いるかまたは2種以上を組合せて用いることができる。
このようなリチウム複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO、LiCo1-x(但し、MはSn、Mg、Fe、Ti、Al、Zr、Cr、V、Ga、ZnおよびCuから選ばれる1種または2種以上の元素、0.001≦x≦0.05)、LiMn、LiNiO、LiCo1-xNi(0.01<x<1)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiNi0.5Mn0.3Co0.2、LiNi0.8Mn0.1Co0.1、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiMnOとLiMO(Mは、Co、Ni、Mn、Fe等の遷移金属)との固溶体およびLiNi1/2Mn3/2からなる群より選ばれる1種以上が好適に挙げられ、2種以上がより好適である。また、LiCoOとLiMn、LiCoOとLiNiO、LiMnとLiNiOのように併用してもよい。
【0074】
また、Niを含む正極活物質は、理論的なLi吸蔵量が多いため、蓄電デバイスの正極活物質として使用することが好ましい。しかしながら、Niを含む正極活物質は、Niの触媒作用により正極表面での非水溶媒の分解が起き、電池の抵抗が増加しやすい傾向にある。特に高温環境下での電池特性が低下しやすい傾向にあるが、本発明に係るリチウム二次電池ではこれらの電池特性の低下を抑制することができる。蓄電デバイスの容量を向上させるという観点では、正極活物質中の全遷移金属元素の原子濃度に対するNiの原子濃度の割合が、30atomic%を超える正極活物質を用いた場合に上記効果が顕著になるので好ましく、50atomic%以上が更に好ましく、75%以上が特に好ましい。具体的には、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiNi0.5Mn0.3Co0.2、LiNi0.8Mn0.1Co0.1、LiNi0.8Co0.15Al0.05等が好適に挙げられる。
【0075】
正極活物質として、リチウム含有オリビン型リン酸塩を用いることもできる。特に鉄、コバルト、ニッケルおよびマンガンからなる群より選ばれる少なくとも1種以上含むリチウム含有オリビン型リン酸塩が好ましい。その具体例としては、LiFePO、LiCoPO、LiNiPO、LiMnPO等が挙げられる。
これらのリチウム含有オリビン型リン酸塩の一部は他元素で置換してもよく、鉄、コバルト、ニッケル、マンガンの一部をCo、Mn、Ni、Mg、Al、B、Ti、V、Nb、Cu、Zn、Mo、Ca、Sr、WおよびZr等からなる群より選ばれる1種以上の元素で置換することや、これらの他元素を含有する化合物や炭素材料で被覆することもできる。これらの中では、LiFePOまたはLiMnPOが好ましい。
また、リチウム含有オリビン型リン酸塩は、例えば前記の正極活物質と混合して用いることもできる。
【0076】
正極の導電剤は、化学変化を起こさない電子伝導材料であれば特に制限はない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック等が挙げられる。また、グラファイトとカーボンブラックを適宜混合して用いてもよい。導電剤の正極合剤への添加量は、1~10質量%が好ましく、特に2~5質量%が好ましい。
【0077】
正極は、前記の正極活物質をアセチレンブラック、カーボンブラック等の導電剤およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチレンプロピレンジエンターポリマー等の結着剤と混合し、これに1-メチル-2-ピロリドン等の高沸点溶剤を加えて混練して正極合剤とした後、この正極合剤を集電体のアルミニウム箔やステンレス製のラス板等に塗布して、乾燥、加圧成型した後、50℃~250℃程度の温度で、2時間程度真空下で加熱処理することにより作製することができる。
【0078】
リチウム二次電池用負極活物質としては、リチウム金属やリチウム合金、およびリチウムを吸蔵および放出することが可能な炭素材料〔易黒鉛化炭素や、(002)面の面間隔が0.37nm(ナノメータ)以上の難黒鉛化炭素や、(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛など〕、スズ(単体)、スズ化合物、ケイ素(単体)、ケイ素化合物、LiTi12などのチタン酸リチウム化合物等を1種単独または2種以上を組合せて用いることができる。
これらの中では、リチウムイオンの吸蔵および放出能力において、人造黒鉛や天然黒鉛等の高結晶性の炭素材料を使用することが更に好ましく、格子面(002)の面間隔(d002)が0.340nm以下、特に0.335~0.337nmである黒鉛型結晶構造を有する炭素材料を使用することが特に好ましい。
複数の扁平状の黒鉛質微粒子が互いに非平行に集合或いは結合した塊状構造を有する人造黒鉛粒子や、例えば鱗片状天然黒鉛粒子に圧縮力、摩擦力、剪断力等の機械的作用を繰り返し与え、球形化処理を施した黒鉛粒子を用いることにより、負極の集電体を除く部分の密度を1.5g/cm以上の密度に加圧成形したときの負極シートのX線回折測定から得られる黒鉛結晶の(110)面のピーク強度I(110)と(004)面のピーク強度I(004)の比I(110)/I(004)が0.01以上となると一段と正極活物質からの金属溶出量の改善と、充電保存特性が向上するので好ましく、0.05以上となることがより好ましく、0.1以上となることが更に好ましい。また、過度に処理し過ぎて結晶性が低下し電池の放電容量が低下する場合があるので、上限は0.5以下が好ましく、0.3以下がより好ましい。
また、高結晶性の炭素材料(コア材)はコア材よりも低結晶性の炭素材料によって被膜されていると、高温充電保存特性が一段と良好となるので好ましい。被覆の炭素材料の結晶性は、TEMにより確認することができる。
高結晶性の炭素材料を使用すると、充電時において非水電解液と反応し、界面抵抗の増加によって高温充電保存特性を低下させる傾向があるが、本発明に係るリチウム二次電池では高温充電保存特性が良好となる。
【0079】
また、負極活物質としてのリチウムを吸蔵および放出可能な金属化合物としては、Si、Ge、Sn、Pb、P、Sb、Bi、Al、Ga、In、Ti、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ag、Mg、Sr、Ba等の金属元素を少なくとも1種含有する化合物が挙げられる。これらの金属化合物は単体、合金、酸化物、窒化物、硫化物、硼化物、リチウムとの合金等、何れの形態で用いてもよいが、単体、合金、酸化物、リチウムとの合金の何れかが高容量化できるので好ましい。中でも、Si、GeおよびSnから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するものが好ましく、SiおよびSnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含むものが電池を高容量化できるので特に好ましい。
【0080】
負極は、上記の正極の作製と同様な導電剤、結着剤、高沸点溶剤を用いて混練して負極合剤とした後、この負極合剤を集電体の銅箔等に塗布して、乾燥、加圧成型した後、50℃~250℃程度の温度で2時間程度真空下加熱処理することにより作製することができる。
負極の集電体を除く部分の密度は、通常は1.1g/cm以上であり、電池の容量をさらに高めるため、好ましくは1.4g/cm以上であり、特に好ましくは1.7g/cm以上である。また、2g/cm以下が好ましい。
【0081】
また、リチウム一次電池用の負極活物質としては、リチウム金属またはリチウム合金が挙げられる。
【0082】
リチウム電池の構造には特に限定はなく、単層または複層のセパレータを有するコイン型電池、円筒型電池、角型電池、ラミネート電池等を適用できる。
電池用セパレータとしては、特に制限はされないが、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンの単層または積層の微多孔性フィルム、織布、不織布等を使用できる。
【0083】
本発明におけるリチウム二次電池は、充電終止電圧が4.2V以上、特に4.3V以上の場合にもサイクル特性に優れ、更に、4.4V以上においても特性は良好である。放電終止電圧は、通常2.8V以上、更には2.5V以上とすることができるが、本願発明におけるリチウム二次電池は、2.0V以上とすることができる。電流値については特に限定されないが、通常0.1~30Cの範囲で使用される。また、本発明におけるリチウム電池は、-40~100℃、好ましくは-10~80℃で充放電することができる。
【0084】
本発明においては、リチウム電池の内圧上昇の対策として、電池蓋に安全弁を設けたり、電池缶やガスケット等の部材に切り込みを入れる方法も採用することができる。また、過充電防止の安全対策として、電池の内圧を感知して電流を遮断する電流遮断機構を電池蓋に設けることができる。
【実施例
【0085】
以下、本発明の化合物の合成例および本発明の非水電解液を用いたリチウムイオン二次電池の実施例を示すが、本発明はこれらの合成例、実施例に限定されるものではない。
【0086】
合成例〔テトラ(プロピ-2-イン-1-イル)メチレンビス(ホスホネート)(化合物1)〕
メチレンビス(ホスホニック ジクロリド)5.19g(20.8mmol)、2-プロピン-1-オール4.90g(87.4mmol)を塩化メチレン150mlに溶解し、氷冷下でトリエチルアミン8.42g(83.2mmol)を滴下し、10℃で2時間攪拌した。反応終了後、室温まで上昇した後、水100mlを加えて分液し、有機層を飽和食塩水20mlで洗浄し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、テトラ(プロピ-2-イン-1-イル)メチレンビス(ホスホネート)を4.5g(収率:66%)得た。
得られたテトラ(プロピ-2-イン-1-イル)メチレンビス(ホスホネート)(化合物1)について、H-NMR測定結果を以下に示す。
H-NMR(400MHz,CDCl):δ= 4.85-4.70(m,8H)、2.69(t,2H,J=21.5Hz )、2.61(s,2H,J=2.5Hz).
【0087】
実施例1、2、比較例1
〔リチウムイオン二次電池の作製〕
正極活物質(LiNi0.8Mn0.1Co0.1);90質量%、アセチレンブラック(導電剤);3質量%、KS-4(登録商標)(導電剤);3質量%を混合し、予めポリフッ化ビニリデン(結着剤);4質量%を1-メチル-2-ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、正極合剤ペーストを調製した。この正極合剤ペーストをアルミニウム箔(集電体)上の両面に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに裁断し、矩形の正極シートを作製した。正極の集電体を除く部分の密度は2.5g/cmであった。また、黒鉛(負極活物質);98質量%と、カルボキシメチルセルロース(増粘剤);1質量%と、ブタジエンの共重合体(結着剤);1質量%を水に加えて混合し、負極合剤ペーストを調製した。この負極合剤ペーストを銅箔(集電体)上の両面に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに裁断し、負極シートを作製した。負極の集電体を除く部分の密度は1.4g/cmであった。そして、正極シート、ポリオレフィンの積層の微多孔性フィルム製セパレータ、負極シートの順に積層し、表1および2に記載の組成の非水電解液をそれぞれ加えて、ラミネート型電池を作製した。
【0088】
〔高温充電保存後特性の評価〕
<初期の直流抵抗>
上記の方法で作製したラミネート型電池を用いて、25℃の恒温槽中、0.2Cの定電流および定電圧で、終止電圧4.2Vまで7時間充電し、0.2Cの定電流下終止電圧2.75Vまで放電した。その電池を、電池容量の50%(SOC=50%)に調整し、0℃の温度環境下において0.3C、0.5C、0.7C、1.0C、1.5Cの電流を10秒間流したときの電圧の変化をI-V線図で表し、求めた近似直線の傾きから直流抵抗を求めた。
<高温充電保存試験>
次に、このラミネート型電池を60℃の恒温槽中、1Cの定電流および定電圧で終止電圧4.2Vまで7時間充電し、60℃に恒温槽の温度を上げ、4.2Vに保持した状態で20日間保存を行った。その後、25℃の恒温槽に入れ、一旦0.2Cの定電流下終止電圧2.75Vまで放電した。
<高温充電保存後の直流抵抗>
更にその後、初期の直流抵抗の測定と同様にして、高温充電保存後の0℃の直流抵抗を求めた。
<高温充電保存時の抵抗変化率>
高温充電保存の抵抗変化率を初期の0℃直流抵抗および高温充電保存後の0℃の直流抵抗より求めた。
高温充電保存時の0℃抵抗変化率(%)=(高温充電保存後の0℃の直流抵抗/初期の0℃の直流抵抗)×100
<高温充電保存後のガス発生量の評価>
高温保存後のガス発生量はアルキメデス法により測定した。ガス発生量は一般式(I)の化合物を含有していない非水電解液を備えたラミネート型電池で測定したガス発生量を100%としたときの相対値である。
電池特性を表1に示す。
【0089】
【表1】
なお、表1に示す各実施例、比較例においては、非水電解液全体に対する、ビスホスホン酸エステル化合物の含有量が、表1に示す量となるように、ビスホスホン酸エステル化合物を、表1の「電解質塩の組成 非水溶媒の組成 (溶媒の体積比)」の欄に記載された配合からなる電解液に対し、混合することで、各実施例、比較例に係る非水電解液を調製した。
【0090】
上記表1において、本発明の非水電解液を用いた実施例1、2では、一般式(I)の化合物を含有していない比較例1、特許文献1および2に記載のメチレンビスホスホン酸テトラエチルを含有する比較例2と比べ高温保存後の抵抗上昇を抑制し、発生ガス量を大幅に抑制することができている。この結果から本発明の非水電解液は高温保存時の抵抗上昇の抑制と、ガス発生の抑制をバランス良く達成できているといえる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の非水電解液を使用すれば、広い温度範囲における電気化学特性に優れた蓄電デバイスを得ることができる。特にハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、バッテリー電気自動車等に搭載されるリチウム二次電池等の蓄電デバイス用の非水電解液として使用すると、広い温度範囲で電気化学特性が低下しにくい蓄電デバイスを得ることができる。